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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】注入器具セット
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/32 20060101AFI20220602BHJP
【FI】
A61M5/32 530
A61M5/32 540
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020530174
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2019026979
(87)【国際公開番号】W WO2020013125
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018129914
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】516182203
【氏名又は名称】Heartseed株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】金澤 英明
(72)【発明者】
【氏名】福田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 淳
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-139358(JP,A)
【文献】特表2014-521443(JP,A)
【文献】特開2016-005543(JP,A)
【文献】特表2006-527631(JP,A)
【文献】特表2011-518607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に注入液を収容する管状の注入器具と、
前記注入液の注入対象の表面に配置されるガイド部材と、
を備え、
前記注入器具は、前記注入対象に刺入されて前記注入液を前記注入対象に注入する注入針を有し、
前記注入器具は、前記注入針と、前記注入針が取り付けられている取付部と、前記取付部に接続部を介して接続されており前記注入液を前記接続部および前記取付部を介して前記注入針に送る注入器具本体とを備え、
前記接続部は、前記注入対象の表面に対して上方に屈曲するように配置され、
前記注入針は、前記注入針における前記注入対象の浅部に配置する部分の周面に、前記注入針の長さ方向に螺旋状に配置された複数の放出孔を有し、
前記ガイド部材は、前記ガイド部材の前記注入対象に当接する表面に対して所定の角度をもって配設され、前記注入針による前記注入液の注入位置を前記注入対象の浅部に配置する位置決め部を有するガイド通路と、前記注入対象の表面に当接する部分に配置された滑り止め部と、を有する
ことを特徴とする注入器具セット。
【請求項2】
前記ガイド部材は、透明な材料からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の注入器具セット。
【請求項3】
前記注入器具は、複数の前記注入針を有しており、
前記ガイド部材は、複数の前記注入針に対応して複数の前記ガイド通路を有している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の注入器具セット。
【請求項4】
前記ガイド通路は、前記ガイド部材の所定の第一方向の両側からそれぞれ前記注入針が挿入可能でかつ前記第一方向に延在し、
前記両側の前記ガイド通路の一方のガイド通路と他方のガイド通路は、前記第一方向と交差する第二方向に交互に配置されている
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の注入器具セット。
【請求項5】
前記注入針の先端は閉塞しており、
前記注入針における前記注入対象の浅部に配置する部分の周面に、前記注入針の長さ方向に螺旋状に配置された複数の放出孔を有する
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の注入器具セット。
【請求項6】
前記ガイド通路の前記注入針の挿入側端部は、前記挿入側端部の軸方向の内部側から外部側へ向けて拡径される
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の注入器具セット。
【請求項7】
前記ガイド部材は、前記注入対象の表面に固定されて前記注入対象の振動を抑制する振動抑制装置と前記注入対象の表面との間に配置可能な状態で取り付けられる
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の注入器具セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入器具セットに関する。
本願は、2018年7月9日に出願された日本国特願2018-129914号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、iPS細胞などの幹細胞を分化誘導して得られた細胞またはその凝集体を患部組織に移植する、再生医療が注目されている。
従来、再生医療においては、注入器具を用いて細胞や薬剤等を患部組織に注入することが行われている。注入器具としては、注入針を有する注入器具が知られている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。注入針は、管状に形成されており、例えば患部組織等の注入対象に刺入される。これにより、注入器具は、細胞や薬剤等を含む注入液を注入対象に注入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2013-514114号公報
【文献】特表2013-544600号公報
【文献】特開2016-5543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の注入器具にあっては、浅部に注入針を垂直に刺入する構成である。このため、注入針は、注入対象の浅部に注入液を注入する際に浅部を通過してしまい、浅部に注入液を注入できない場合がある。
そこで、浅部に対して注入針を斜めにした状態で刺入することが考えられる。しかしながら注入針を斜めに刺入する操作は不安定である。したがって、従来の注入器具では、浅部に注入液を注入することが困難であった。また、特許文献3に記載の注入針及び注入器具セットは、シリンジが斜め方向に配置されるため斜め方向から注入する必要があり、支持ブロックの傾斜面は一定角度であるため、組織(注入対象)の厚さによっては、注入針を浅部に対応させることの困難性があった。
【0005】
本発明に係る態様は、上記事情に鑑みたものであって、注入対象の浅部に注入液を注入する際にシリンジが斜め方向でないことから手元が見えやすく、また、組織の厚みにしたがって注入角度の変更を容易にし、組織を貫通することなく薬剤または細胞を広く浅く注入することができる注入器具セットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決して係る目的を達成するため、本発明は以下の態様を採用した。
(1)本発明に係る一態様の注入器具セットは、内部に注入液を収容する管状の注入器具と、前記注入液の注入対象の表面に配置されるガイド部材と、を備え、前記注入器具は、前記注入対象に刺入されて前記注入液を前記注入対象に注入する注入針を有し、前記ガイド部材は、前記ガイド部材の前記注入対象に当接する表面に対して所定の角度をもって配設され、前記注入針を挿入させて前記注入対象の前記表面に案内するためのガイド通路と、前記注入対象の表面に当接する部分に配置された滑り止め部と、を有する。
【0007】
上記態様(1)によれば、注入針を有する注入器具と、注入対象の表面に対して斜めに配置されるガイド通路を有するガイド部材とを備え、注入対象の浅部に注入液を注入する際には、ガイド通路の傾斜角を小さくし、注入針をガイド通路に挿入して浅部に斜めに刺入する。さらに、ガイド部材を注入対象の表面(組織表面)上に設置することによって、注入針は、ガイド通路に案内されて浅部に斜めに刺入される。このため、注入針の刺入操作を安定して行うことが可能になる。また、接続部によってシリンジを斜め方向でなく直立に近い状態で保持することができ、手元の視野が広くなる。したがって、浅部に注入針を容易に配置することが可能になる。よって、上記態様(1)は、注入対象の浅部に注入液を容易に注入することができる。
【0008】
(2)上記態様(1)において、前記ガイド部材は、透明な材料からなってもよい。
【0009】
上記態様(2)によれば、注入対象の状態を目視することが可能になるため、注入対象の状態を容易に把握しながら注入液の注入作業を行うことが可能になる。よって、上記態様(2)は、注入液の注入作業を効率よく行うことができる。
【0010】
(3)上記態様(1)または(2)において、前記ガイド部材は、前記注入針の刺入時に前記注入器具に当接して前記注入針による前記注入液の注入位置を前記注入対象の浅部に配置する位置決め部を有してもよい。
【0011】
上記態様(3)によれば、注入針の刺入時には、注入位置が注入対象の浅部に確実に配置される。よって、上記態様(3)は、注入対象の浅部に注入液をさらに容易に注入することができる。
【0012】
(4)上記態様(1)から(3)のいずれか一つにおいて、前記注入器具は、複数の前記注入針を有しており、前記ガイド部材は、複数の前記注入針に対応して複数の前記ガイド通路を有してもよい。
【0013】
上記態様(4)によれば、注入針およびガイド通路が一つの場合に比べて注入液を広い範囲に多く注入することが可能になる。よって、上記態様(4)は、注入対象の浅部に注入液を効率よく注入することができる。
【0014】
(5)上記態様(1)から(4)のいずれか一つにおいて、前記ガイド通路は、前記ガイド部材の所定の第一方向の両側からそれぞれ前記注入針が挿入可能でかつ前記第一方向に延在し、前記両側の前記ガイド通路の一方のガイド通路と他方のガイド通路は、前記第一方向と交差する第二方向に交互に配置されてもよい。
【0015】
上記態様(5)によれば、両側のガイド通路が対向して配置される場合に比べて、ガイド部材の第一方向の長さを短くすることが可能になる。よって、上記態様(5)は、ガイド部材の小型化を図ることができる。
【0016】
(6)上記態様(1)から(5)のいずれか一つにおいて、前記注入針の先端は閉塞しており、前記注入針における前記注入対象の浅部に配置する部分の周面に、前記注入針の長さ方向に螺旋状に配置された複数の放出孔を有してもよい。
【0017】
上記態様(6)によれば、注入液の注入時には、注入液が複数の放出孔から浅部に螺旋状に放出されるため、注入液を浅部の広い範囲に注入することが可能になる。よって、上記態様(6)は、注入対象の浅部に注入液を効率よく注入することができる。
【0018】
(7)上記態様(1)から(6)のいずれか一つにおいて、前記ガイド通路の前記注入針の挿入側端部は、前記挿入側端部の軸方向の内部側から外部側へ向けて拡径されてもよい。
【0019】
上記態様(7)によれば、ガイド通路の注入針の挿入範囲が広がる。よって、上記態様(7)は、ガイド通路に注入針を容易に挿入することができる。
【0020】
(8)上記態様(1)から(7)のいずれか一つにおいて、前記ガイド部材は、前記注入対象の表面に固定されて前記注入対象の振動を抑制する振動抑制装置と前記注入対象の表面との間に配置可能な状態で取り付けられてもよい。
【0021】
上記態様(8)によれば、振動抑制装置を注入対象の表面に固定して配置したときに、ガイド部材は注入対象の表面に固定された状態で配置される。したがって、注入針の刺入時および注入液の注入時にガイド部材が動かないようにガイド部材を押さえる必要がない。よって、上記態様(8)は、注入針の刺入作業および注入液の注入作業を効率よく行うことができる。
【0022】
(9)上記態様(1)から(8)のいずれか一つにおいて、前記注入器具は、前記注入針と、前記注入針が取り付けられている取付部と、前記取付部に接続部を介して接続されており前記注入液を前記接続部および前記取付部を介して前記注入針に送る注入器具本体とを備え、前記接続部は、屈曲していてもよい。
【0023】
上記態様(9)によれば、注入針の刺入作業時には、接続部を注入対象の表面に対して上方に屈曲するように配置し、注入器具本体を持って刺入作業を行うことができる。このときに注入器具本体は、接続部が屈曲していない場合よりも起立しているので、手元が目視可能であり、注入対象およびその周囲から十分に離れた状態になる。このため、注入器具本体を持つ手が注入対象およびその周囲に接触するのが抑えられ、手術時の使用に際しても安全性が確保され、注入針の刺入作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る態様によれば、簡便な操作で、注入対象の浅部に注入液を容易に注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態における注入器具セットの使用時の状況を示す図である。
図2図1の取付部のA-A断面図である。
図3図1の注入針の側面図である。
図4図3のB-B断面図である。
図5図1のガイド部材の平面図である。
図6図5のC-C断面図である。
図7図6のD部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態における注入器具セットの使用時の状況を示す図である。
本実施形態の注入器具セット1は、心臓(注入対象)11の心筋(浅部)12に再生心筋細胞を移植するために使用される。再生心筋細胞は、例えばiPS細胞由来のものである。心筋12は、心臓11の表面側に形成されている部分である。
【0027】
注入器具セット1は、心筋12に再生心筋細胞を含む液(注入液)を注入することにより心筋12に再生心筋細胞を移植する。注入器具セット1は、注入器具2と、ガイド部材7と、補助部材8とを備える。
注入器具2は、心筋12に注入液を注入するための器具である。注入器具2は、注入器具本体3と、接続部4と、取付部5と、複数(三本)の注入針6とを備える。
【0028】
注入器具本体3は、シリンジ31と、プランジャ32とを備える。
シリンジ31は、管状に形成されている。プランジャ32は、シリンジ31の基端側からシリンジ31の内部に嵌合されている。プランジャ32は、シリンジ31の内部でシリンジ31の軸方向に移動可能に形成されている。シリンジ31の内部には、プランジャ32との間に注入液が収容されている。注入液は、プランジャ32が手動により押圧されてシリンジ31の内部の先端側に移動することによりシリンジ31の先端から吐出される。
【0029】
接続部4は、シリンジ31と取付部5とを接続している。接続部4は、管状に形成されている。接続部4は、屈曲して形成されている。接続部4の基端は、シリンジ31の先端にルアーテーパ方式で接続されている。接続部4の内部は、シリンジ31の内部と連通している。接続部4の内部は、シリンジ31から吐出される注入液を通過可能に形成されている。
【0030】
取付部5は、複数の注入針6が取り付けられる部分である。取付部5は、基部51と、取付部本体52とを備える。
基部51は、管状に形成されている。基部51の基端は、接続部4の先端に結合されている。基部51の基端は、不図示のOリングを介して、接続部4の先端に螺合されている。基部51の内部は、接続部4から送られる注入液が通過可能である。
取付部本体52は、基部51の先端側から突出して形成されている。取付部本体52は、基部51の径方向を長手方向とする直方体形状に形成されている。取付部本体52には、複数の注入針6の基端側が取り付けられている。各注入針6の内部は、基部51の内部と連通している。これにより基部51の内部を通過する注入液を各注入針6の内部に送ることが可能である。
【0031】
複数の注入針6は、取付部本体52に並列して取り付けられている。複数の注入針6は、互いに略等間隔に離間して配置されている。各注入針6の基端側は、取付部本体52に取り付けられている。各注入針6は、管状に形成されている。各注入針6の内部は、取付部5から送られる注入液が通過可能に形成されている。各注入針6は、心臓11(心臓11の内部)に刺入可能に形成されている。各注入針6は、心臓11に刺入した状態で、注入針6の内部にある注入液を心臓11に注入可能に形成されている。
【0032】
ガイド部材7は、注入器具2による注入液の注入作業を補助するための部材である。ガイド部材7は、心臓11(心筋12)の表面13に配置されている。ガイド部材7は、心臓11の表面13に当接する部分に滑り止め処理がほどこされている。ガイド部材7は、スタビライザー(振動抑制装置)15に着脱可能に取り付けられている。
スタビライザー15は、心臓11の表面13に固定して配置されている。スタビライザー15は、U字型の吸着部16を備える。吸着部16は、心筋12の表面13に吸着して固定されている。これによりスタビライザー15は、心臓11の振動を抑制する。
【0033】
ガイド部材7は、例えばアクリル樹脂等の透明な材料により板状に形成されている。ガイド部材7の大部分は、スタビライザー15の吸着部16のU字型の両側部161,161の間に着脱可能に配置されている。ガイド部材7の外周近傍の一部は、スタビライザー15の吸着部16の根元部分162の上に配置されている。なお、「透明」とは、材料を介して、例えば心臓11の血管などを目視できる程度の光透過性があればよい。
【0034】
補助部材8は、板状に形成されている。補助部材8は、スタビライザー15の吸着部16の根元部分162の下に配置されている。補助部材8は、ガイド部材7の一端に結合されている。この状態でガイド部材7と補助部材8は、吸着部16の根元部分162を着脱可能に挟持している。これによりガイド部材7は、補助部材8を利用してスタビライザー15に着脱可能に取り付けられている。
【0035】
図2は、図1の取付部のA-A断面図である。
図2に示すように、取付部5の内部には、複数(三本)の取付穴53が設けられている。複数の取付穴53は、取付部5の基端側から先端側に向けて、取付部5の内部(基部51及び取付部本体52の内部)を直線状に貫通して形成されている。複数の取付穴53は、取付部本体52の径方向に並列して配置されている。各取付穴53には、注入針6の先端側が嵌合されている。これにより複数の注入針6は、取付部本体52に取り付けられている。
【0036】
図3は、図1の注入針の側面図である。なお、図3では、注入針6の先端側の一部を断面図で示している。
図3に示すように、注入針6は、注入針本体61と、先端部62とを備える。注入針本体61は、管状に形成されている。注入針本体61の周面63には、複数の放出孔64が設けられている。注入針本体61における放出孔64が形成された部分は、注入針6の刺入時に心筋12に配置する部分である。複数の放出孔64は、周面63において注入針6の長さ方向6A(軸方向)に螺旋状に設けられている。複数の放出孔64は、注入針本体61の内部69にある注入液を心筋12に放出するように形成されている。
【0037】
先端部62は、注入針本体61の先端側に設けられている。先端部62は、注入針6の先端部分を形成している。先端部62は、先端部62の基端から先端に向けて細くなるように形成されている。注入針6の先端65は、閉塞された盲端となっている。
【0038】
図4は、図3のB-B断面図である。
図4に示すように、複数の放出孔64は、注入針6の長さ方向6Aの側から視たときに注入針6の周方向6Bに等間隔で配置されている。具体的に放出孔64は、注入針6の周方向6Bに120°の間隔となるように配置されている。
【0039】
図5は、図1のガイド部材の平面図である。なお、図1及び図5のガイド部材7は、複数の取付穴53が配置されるガイド部材7の上部の一部を描いたものである。ガイド部材7の平面形状は、例えば、円形や矩形などである。
図5に示すようにガイド部材7の所定の第一方向7A(図5中の左右方向)の両側部分には、それぞれ凹部71が設けられている。双方の凹部71,71は、両側部分の上面側の部分が切り欠かれて形成されている。ガイド部材7の第一方向7Aの両側には、それぞれガイド通路群10が設けられている。両側のガイド通路群10,10は、ガイド部材7の凹部71,71間の部分(中間部72)であって、中間部72の第一方向7Aにおける両側に設けられている。
【0040】
各ガイド通路群10は、複数(三本)のガイド通路9から構成されている。複数のガイド通路9の各々は、複数(三本)の注入針6の各々に対応している。両側の複数のガイド通路9の各々は、注入針6が挿入可能に設けられている。両側の複数のガイド通路9は、第一方向7Aに延在して設けられている。複数のガイド通路9は、第一方向7Aと交差する第二方向7B(図5中の上下方向)に交互に配置されている。
【0041】
図6は、図5のC-C断面図である。なお、図6では、心臓11および注入器具2を仮想線(二点鎖線)で図示している。
図6に示すように、各ガイド通路9は、心筋12の表面13に対して斜めに配置されている。各ガイド通路9は、ガイド部材7の中間部72における第一方向7Aの側面73(凹部71の第一方向7Aの内側面)からガイド部材7の底面75に向けて、中間部72の内部を直線状に貫通して設けられている。ガイド部材7の底面75は、ガイド部材7を心筋12の表面13に配置したときに心筋12の表面13と接触する面である。各ガイド通路9は、注入針6を中間部72の側面73側から挿入させて心筋12の表面13に案内可能に形成されている。なお、ガイド通路9の傾斜角度は、心筋12の厚さに応じて変更してもよい。
ガイド部材7の底面75の外周縁部には、ガイド部材7が表面13上の位置ずれを防止する滑り止め処理(滑り止め部)として、複数の溝77が設けられている。複数の溝77は、底面75の縁部全体に形成されており、並んで配置されている。複数の溝77は直線状であってもよく、波線状であってもよい。また、滑り止め部としては、溝以外にも、複数のポイント状の突起であってもよい。
【0042】
注入器具2の取付部本体52は、注入針6の刺入時に凹部71内に配置されるように形成されている。取付部本体52の先端面55は、注入針6の注入位置が心筋12の所定部分に配置されたときに、ガイド部材7の中間部72の側面73に当接するように形成されている。取付部本体52の先端面55と、中間部72の側面73とは、本実施形態の位置決め部に相当する。注入針6による注入液の注入位置とは、注入針本体61の先端側の部分であって、注入針6において複数の放出孔64が設けられている部分である。心筋12の所定部分は、例えば心筋12の厚さ方向の中間部分である。なお、注入針6の長さは、斜めに刺入したときに心筋12の厚さ方向の中間部分に到達する長さに設定されている。
【0043】
図7は、図6のD部の拡大図である。
図7に示すように、ガイド通路9の注入針6の挿入側端部91は、挿入側端部91の軸方向9A(ガイド通路9の軸方向)の内部側から外部側へ向けて拡径して形成されている。言い換えると挿入側端部91の径9Bは、挿入側端部91の軸方向9Aの内部側から外部側へ向けて大きくなるように形成されている。なお、挿入側端部91とは、ガイド通路9の両端部(両側の開口端部)において注入針6が挿入される側の端部である。
【0044】
次に、注入器具セット1を使用した注入液の注入方法について説明する。注入器具本体3のシリンジ31の内部には、注入液が収容されている。
【0045】
まず、使用者は、心臓11の表面13(すなわち心筋12の表面13)にスタビライザー15を配置する。これにより、ガイド部材7は、スタビライザー15とともに心臓11の表面13に配置される。
次いで、使用者は、接続部4を心臓11の表面13に対して上方に屈曲するように配置し、注入器具本体3を持つ。次いで、使用者は、複数の注入針6をガイド部材7の複数のガイド通路9に挿入し、心筋12の内部に斜めに刺入する。
次いで、使用者は、注入器具2の取付部本体52の先端面55を、ガイド部材7の中間部72の側面73に当接させる。これにより、注入針6による注入液の注入位置が心筋12の所定部分に配置される。
次いで、使用者は、注入器具本体3のプランジャ32を押圧し、シリンジ31の内部の先端側に移動させる。これにより、シリンジ31の先端からは、注入液が吐出する。シリンジ31の先端から吐出した注入液は、接続部4および取付部5の内部を通って、各注入針6の内部69に送られる。各注入針6の内部69に送られた注入液は、複数の放出孔64から心筋12に放出される。これにより注入液は、心筋12に注入される。
【0046】
次に、本実施形態の注入器具セット1の作用効果を説明する。
本実施形態の注入器具セット1は、管状に形成されており、注入対象である心臓11に刺入して注入液を注入する注入針6を有する注入器具2と、心臓11の表面13に配置されるガイド部材7と、を備える。ガイド部材7には、心臓11の表面13に対して斜めに配置されるガイド通路9が設けられている。ガイド通路9は、注入針6を挿入させて心臓11の表面13に案内するように形成されている。
【0047】
これにより、心臓11の浅部である心筋12に注入液を注入する際には、注入針6をガイド通路9に挿入して心筋12に斜めに刺入する。さらに、ガイド部材7を心臓11の表面13上に設置することによって注入針6は、ガイド通路9に案内されて心筋12に斜めに刺入される。このため、注入針6の刺入操作を安定して行うことが可能になる。したがって、心筋12に注入針6を容易に配置することが可能になる。よって、本実施形態の注入器具セット1は、心筋12に注入液を容易に注入することができる。また、心筋12に注入針6を容易に配置することが可能になることにより、心筋12の内側に注入針6が刺入するのを防ぐことができる。
【0048】
本実施形態の注入器具セット1では、ガイド部材7は、透明な材料で形成されている。
これにより心臓11の状態を目視することが可能になるため、心臓11の状態を容易に把握しながら注入液の注入作業を行うことが可能になる。具体的には、透明なガイド部材7を通じて、例えば心臓11の血管を目視することが可能になるため、血管を避けて注入液の注入作業を行うことが可能になる。よって、本実施形態の注入器具セット1は、注入液の注入作業を効率よく行うことができる。また、注入作業中に出血等のトラブルが発生した場合には、すぐに認識することが可能になるため迅速に対応することができる。
【0049】
本実施形態の注入器具セット1では、注入器具2およびガイド部材7には、注入針6の刺入時に互いに当接して注入針6の注入位置を心筋12に配置する位置決め部(注入器具2の取付部本体52の先端面55、およびガイド部材7の中間部72の側面73)が設けられている。これにより注入針6の刺入時には、注入位置が心筋12に確実に配置される。よって、本実施形態の注入器具セット1は、心筋12に注入液をさらに容易に注入することができる。
【0050】
本実施形態の注入器具セット1では、注入器具2は、注入針6を複数有しており、ガイド部材7は、ガイド通路9を複数の注入針6に対応して複数有している。
これにより注入針6およびガイド通路9が一つの場合に比べて、注入液を広い範囲に多く注入することが可能になる。よって、本実施形態の注入器具セット1は、心筋12に注入液を効率よく注入することができる。
【0051】
本実施形態の注入器具セット1では、ガイド通路9は、ガイド部材7の所定の第一方向7Aの両側からそれぞれ注入針6が挿入可能でかつ第一方向7Aに延在して設けられている。両側のガイド通路9は、第一方向7Aと交差する第二方向7Bに交互に配置されている。これにより両側のガイド通路9が対向して配置される場合に比べて、ガイド部材7の第一方向7Aの長さを短くすることが可能になる。よって、本実施形態の注入器具セット1は、ガイド部材7の小型化を図ることができる。
【0052】
さらに本実施形態の注入器具セット1では、ガイド部材7の第一方向7Aの両側にそれぞれガイド通路9が設けられていることにより、心臓11の状態等に応じて注入針6の挿入位置を第一方向7Aの一方側あるいは他方側に決めることが可能になる。よって、本実施形態の注入器具セット1は、使い勝手を高めることができる。
【0053】
本実施形態の注入器具セット1では、注入針6の先端65は閉塞して形成されている。
注入針6には、注入針6の刺入時に心筋12に配置する部分の周面63に、複数の放出孔64が注入針6の長さ方向6Aに螺旋状に設けられている。これにより注入液の注入時には、注入液が複数の放出孔64から心筋12に放出されるため、注入液を心筋12の広い範囲に注入することが可能になる。よって、本実施形態の注入器具セット1は、心筋12に注入液を効率よく注入することができる。
【0054】
本実施形態の注入器具セット1では、ガイド通路9の注入針6の挿入側端部91は、挿入側端部91の軸方向9Aの内部側から外部側へ向けて拡径して形成されている。これによりガイド通路9の注入針6の挿入範囲が広がる。よって、本実施形態の注入器具セット1は、ガイド通路9に注入針6を容易に挿入することができる。
【0055】
本実施形態の注入器具セット1では、ガイド部材7は、心臓11の表面13に固定して配置され、心臓11の振動を抑制するスタビライザー15(振動抑制装置)に、心臓11の表面13に配置可能な状態で取り付けられている。これにより、ガイド部材7は、スタビライザー15を心臓11の表面13に配置したときに、スタビライザー15とともに心臓11の表面13に配置される。したがって、使用者は、注入針6の刺入時および注入液の注入時に、ガイド部材7が動かないようにガイド部材7を押さえる必要がない。よって、本実施形態の注入器具セット1は、注入針6の刺入作業および注入液の注入作業を効率よく行うことができる。
【0056】
さらに本実施形態の注入器具セット1では、ガイド部材7がスタビライザー15に着脱可能に取り付けられている。これによりガイド部材7およびスタビライザー15のメンテナンスの際には、ガイド部材7をスタビライザー15から外すことにより双方を分離した状態でメンテンナンスを行うことが可能になる。よって、本実施形態の注入器具セット1は、ガイド部材7およびスタビライザー15のメンテナンス作業の作業性を向上させることができる。
【0057】
本実施形態の注入器具セット1では、注入器具2は、注入針6と、注入針6が取り付けられている取付部5とを備える。さらに注入器具2は、取付部5に接続部4を介して接続されており、接続部4および取付部5を介して注入針6に注入液を送る注入器具本体3を備える。接続部4は、屈曲して形成されている。これにより、注入針6の刺入作業時には、接続部4を心臓11の表面13に対して上方に屈曲するように配置し、注入器具本体を持って刺入作業を行う。このときに注入器具本体3は、接続部4が屈曲していない場合よりも起立しているので、手元が目視可能であり、心臓11およびその周囲から十分に離れた状態になる。このため、注入器具本体3を持つ手が心臓11およびその周囲に接触するのが抑えられ、手術時の使用に際しても安全性が確保され、注入針6の刺入作業を容易に行うことができる。
【0058】
本実施形態の注入器具セット1では、ガイド部材7の底面75に溝77を設けた。これによりガイド部材7を心筋12の表面13に配置したときにガイド部材7が心筋12の表面13で滑るのを抑制できる。したがってガイド部材7は、心筋12の表面13に安定して配置されるので、注入針6の刺入作業および注入液の注入作業を安定して行うことが可能になる。よって、本実施形態の注入器具セット1は、注入針6の刺入作業および注入液の注入作業を効率よく行うことができる。
【0059】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0060】
本実施形態の注入器具セット1では、ガイド通路9の挿入側端部91を拡径して形成したが、挿入側端部91に別部材を用いて拡径して形成してもよい。
具体的には、別部材は、例えば、ガイド通路9に管状の嵌合部を備えるものが挙げられる。嵌合部は、ガイド通路9の挿入側端部91に着脱可能に嵌合されかつ注入針6が挿入可能に形成されている。嵌合部の注入針6の挿入側端部は拡径して形成されている。これにより嵌合部に注入針6を容易に挿入することが可能になる。したがって注入針6を嵌合部を介してガイド通路9に挿入することにより、注入針6をガイド通路9に容易に挿入することができる。
【0061】
本実施形態の注入器具セット1では、スタビライザー15にガイド部材7を取り付けたが、必ずしもスタビライザー15にガイド部材7を取り付けなくてもよい。
その他に例えば、ガイド部材7の上面に使用者が把持可能な把持部を設けてもよい。この場合には、ガイド部材7を心臓11の表面13に配置し、この状態で把持部を把持することによりガイド部材7を押さえる。これによりガイド部材7が動いてしまうのを抑えることが可能になるので、注入針6の刺入作業および注入液の注入作業を効率よく行うことができる。
【0062】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態および各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 注入器具セット
2 注入器具
3 注入器具本体
4 接続部
5 取付部
6 注入針
6A 長さ方向
7 ガイド部材
7A 第一方向
7B 第二方向
9 ガイド通路
9A 軸方向
11 心臓(注入対象)
12 心筋(浅部)
13 心臓の表面(注入対象の表面)
15 スタビライザー(振動抑制装置)
55 注入器具の取付部本体の先端面(位置決め部)
63 周面
64 放出孔
65 先端
73 ガイド部材の中間部の側面(位置決め部)
91 挿入側端部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7