(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】糊引き用基材フィルムおよびそれを用いた塗装鋼板用表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20220602BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220602BHJP
C09J 7/29 20180101ALI20220602BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220602BHJP
C09J 7/24 20180101ALI20220602BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/00 M
C09J7/29
C09J7/38
C09J7/24
(21)【出願番号】P 2018043804
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 雅
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-052163(JP,A)
【文献】特開平06-328640(JP,A)
【文献】特開平04-325244(JP,A)
【文献】国際公開第2009/087797(WO,A1)
【文献】特開2016-176026(JP,A)
【文献】特開2009-220402(JP,A)
【文献】国際公開第01/005589(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0177151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 7/00- 7/50
B29C 49/00-49/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層A、中間層B、表面層Cの3層を有し、
表面層Aおよび表面層Cは主としてポリプロピレンからなり、
表面層Aおよび表面層Cにヒンダードアミン系光安定化剤または紫外線吸収剤を含有し、
中間層Bはメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを30~
79重量%、高密度ポリエチレンを15~
64重量%含み、
中間層Bに表面被覆処理された酸化チタンを5~30重量%と、ヒンダードアミン系光安定化剤または紫外線吸収剤を1~5重量%含有し、
フィルムの流れ方向の引裂強度が35N/mm以上、フィルムの流れ方向の引張弾性率が400MPa以上であることを特徴とする糊引き用基材フィルム。
【請求項2】
サンシャインカーボンアークでの300時間耐候性試験後のフィルムの流れ方向の引裂強度が35N/mm以上、フィルムの流れ方向の引張弾性率が400MPa以上である請求項1
に記載の糊引き用基材フィルム。
【請求項3】
表面層Cの濡れ張力が36mN/m以上である請求項1
または2に記載の糊引き用基材フィルム。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかの糊引き用基材フィルムの表面層C上に粘着剤が積層された塗装鋼板用表面保護フィルム。
【請求項5】
サンシャインカーボンアークでの300時間耐候性試験後のフィルムの流れ方向の引裂強度が35N/mm以上、フィルムの流れ方向の引張弾性率が400MPa以上である請求項
4に記載の塗装鋼板用表面保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤を塗布して表面保護フィルムとする糊引き用基材フィルムおよびそれを用いた塗装鋼板用表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体や建材用塗装鋼板などの被着体の表面保護フィルムには強い粘着力が求められている。こういった強い粘着力を有する表面保護フィルムは、製品ロールからの繰り出し時や被着体に貼合された後の剥離時に、強い粘着力に負けて表面保護フィルムが変形したり伸長したりしないように基材フィルムに高い剛性を持たせるような設計がされている。
【0003】
しかし、例えば特許文献1~3に示すような、基材フィルムに一般的なオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン系樹脂を用い、かつ粘着層にスチレン系ゴムを使用するような粘着力の強い設計の表面保護フィルムでは、基材フィルムの背面と粘着面との固着(ブロッキング)が発生しやすく、製品ロールから表面保護フィルムを繰り出す際に相応の引張力を要するため表面保護フィルムが伸長して変形するという問題があった。
【0004】
また、表面保護フィルムを被着体に貼合し、所定の目的を果たした後に剥離する際、粘着力が強すぎるために相応の剥離力を要するため、表面保護フィルムの剛性が負けてしまい剥離中に伸張したり、引き裂けたりしてしまうおそれがある。またこれらの塗装鋼板は、表面保護フィルムが貼合された状態で屋外暴露されることが多く、屋外暴露後に表面保護フィルムを剥離する際にも上記の不具合が発生しないことが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-189909号公報
【文献】特開2016-23252号公報
【文献】国際公開第2014/054700号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記問題を解決し、表面保護フィルムを製品ロールから繰り出すときの伸長変形がなく、表面保護フィルムの剥離時にフィルムの破断を抑えることができる糊引き用基材フィルムと、それを用いた塗装鋼板用表面保護フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究開発を重ねた結果、次のような構成とすることで目的が達成できることを見いだした。
(1)表面層A、中間層B、表面層Cの3層を有し、表面層Aおよび表面層Cは主としてポリプロピレンからなり、中間層Bはメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを30~85重量%、高密度ポリエチレンを15~70重量%含み、フィルムの流れ方向の引裂強度が35N/mm以上、フィルムの流れ方向の引張弾性率が400MPa以上であることを特徴とする糊引き用基材フィルム。
(2)表面層Aおよび表面層Cにヒンダードアミン光安定剤または紫外線吸収剤を含有し、中間層Bに表面被覆処理された酸化チタンと、ヒンダードアミン光安定剤または紫外線吸収剤を含有する上記(1)に記載の糊引き用基材フィルム。
(3)サンシャインカーボンアークでの300時間耐候試験後のフィルムの流れ方向における引裂強度が35N/mm以上、フィルムの流れ方向の引張弾性率が400MPa以上である上記(1)または(2)に記載の糊引き用基材フィルム。
(4)表面層Cの濡れ張力が36mN/m以上である上記(1)~(3)のいずれかに記載の糊引き用基材フィルム。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の糊引き用基材フィルムの表面層C上に粘着剤が積層された塗装鋼板用表面保護フィルム。
(6)サンシャインカーボンアークでの300時間耐候性試験後のフィルムの流れ方向の引裂強度が35N/mm以上、フィルムの流れ方向の引張弾性率が400MPa以上である上記(5)に記載の塗装鋼板用表面保護フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の糊引き用基材フィルムは、引張弾性率が高く、表面保護フィルムとして製品ロールとしたときに、フィルム繰り出し時にフィルムが伸長することなく、作業性良く被着体に貼合することができ、また表面保護フィルム剥離時にフィルムの破断で残滓を残すことなく剥離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の糊引き用基材フィルムは、表面層A、中間層B、および表面層Cの3層を有する。これらのうち、表面層Aおよび表面層Cは、主としてポリプロピレンで構成され、中間層Bはメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンが30~80重量%と、高密度ポリエチレンが15~70重量%とからなる混合樹脂からなる。これら各層の厚さの比率は特に制限はないが、フィルムの縁断端や余剰フィルムのリサイクル使用および機械特性と粘着特性のバランスを鑑みると中間層Bの厚さが全体に対し65~85%、より好ましくは70~80%である。
【0010】
本発明の糊引き用基材フィルムの表面層Aおよび表面層Cに主として用いられるポリプロピレン樹脂に特に制限はないが、表面層Cに粘着剤を塗布するとき、または粘着剤を塗布しロール状に巻き取った後に、表面層Aおよび表面層Cの表面粗さが粘着剤層表面に転写され、フィルムを貼り込んだ後の外観を損ねることもあるため、特に面が平滑になるホモポリプロピレンが好適に用いられる。ここで、主としてとは70重量%以上含有することを意味する。なお、表面層Aおよび表面層Cの厚さは、基材フィルム全体の厚さに対し、それぞれ5~30%、より好ましくは5~25%である。
【0011】
本発明における粘着剤が塗布される表面層Cの濡れ張力は、粘着剤との接着力を高めるために、コロナ放電処理などの表面処理を施し、36mN/m以上であることが好ましい。
【0012】
この時のコロナ放電処理の条件は、フィルム幅や巻取速度等の条件に応じて決めればよく、表面層Cの濡れ張力は36mN/m以上、好ましくは38~45mN/mの範囲、特に好ましくは41~45mN/mの範囲となるように、電流、電圧値などの処理条件を決めればよい。ただし、必要以上に処理強度を強めると、放電ムラを生じ、フィルム外観不良を招くばかりではなく、粘着層との接着力も低下することがある。さらに濡れ張力が大きすぎると、本発明における基材を巻き取り、ロール状とした際に、フィルム同士でブロッキングと呼ばれる固着が生じるおそれがある。
【0013】
また、コロナ放電処理の代わりに、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理を行う場合には、通常工業的に採用されている方法によって表面処理を施す。かかる表面処理は、フィルムの製膜加工中に行ってもよく、一旦フィルムを巻き上げた後、後処理加工として表面処理を施しても構わない。
【0014】
本発明の糊引き用基材フィルムの表面層Aには、必要に応じて例えばシリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系などの離型剤を添加したり塗布したりする離型処理が施されていてもよい。かかる離型処理を施すことにより、表面保護フィルムとして、ロール状に巻回したものの巻き戻しを容易にすることができる。また、表面層Aにも印刷などの加工を容易にするための表面処理、例えば前述のコロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理などを施しても良い。
【0015】
本発明の糊引き用基材フィルムの中間層Bは、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンが30~85重量%と、高密度ポリエチレンが15~70重量%からなり、フィルムの流れ方向の引裂強度が35N/mm以上、より好ましくは40N/mmであり、フィルムの流れ方向の引張弾性率が400MPa以上、より好ましくは500MPa以上であることが特徴である。
【0016】
ここで言うメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンとは、二塩化ジルコノセンとメチルアルミノキサンを組み合わせたメタロセン触媒(カミンスキー触媒)を用い、エチレンモノマーとブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1などをコモノマーとして少量共重合させ、側鎖に短分子鎖を多く持つように設計したポリエチレンである。従来のチーグラー系触媒による直鎖状低密度ポリエチレンと比較してポリエチレン主鎖に対する側鎖の分布が均一であり、ポリエチレン主鎖の分子量分布がよりシャープとなる。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンではなく、チーグラー系直鎖状低密度ポリエチレンを使用した場合、または過酸化水素触媒を用いた高圧法低密度ポリエチレンを使用した場合は、分子量分布が不均一でポリエチレン主鎖・側鎖の数や長さにバラツキがあるため、フィルムの場所によっては引裂強度が35N/mm未満の場所があり、その場所を起点としてフィルムが破断してしまう。
【0017】
メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンの含有量が30重量%未満の場合、該樹脂による粘性が減少することで引裂強度が小さくなり、表面保護フィルムを剥離する際に引裂強度が粘着力に負けてフィルムが破れ、フィルム残滓が被着体に貼着されたままとなってしまう。またメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンの含有量が85重量%を超える場合は、引張弾性率が小さくなりフィルムが伸びやすい。
【0018】
メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンについては特に限定されるものではないが、その密度は好ましくは0.90~0.93g/cm3である。これより密度が低いと引裂強度は大きく上がるが、引張弾性率が小さくフィルムの剛性が下がり、表面保護フィルムを製品ロールから繰り出す際に、繰り出し力に負けてフィルムが伸長変形し、被着体に貼合する際寸法が合致しなかったり、フィルムの変形によってシワが入ったりして、被着体に適切に貼合できなくなることがある。
【0019】
本発明の糊引き用基材フィルムは、中間層Bに高密度ポリエチレンが15~70重量%含有される。高密度ポリエチレンの含有量が15重量%未満の場合、該樹脂による剛性が小さくなり引張弾性率が小さく、製品ロールから繰り出す際にフィルムが伸長変形し、被着体に貼合する際寸法が合致しなかったりして被着体に適切に貼合できなくなる。70重量%を超える場合は、引裂強度が小さくなる。
【0020】
本発明の糊引き用基材フィルムは、フィルムの流れ方向の引裂強度が35N/mm以上、フィルムの流れ方向の引張弾性率が400MPa以上であることが必要である。フィルムの流れ方向の引裂強度を35N/mm以上とすることで表面保護フィルム剥離時にフィルムの破断で残滓を残すことなく剥離することができ、フィルムの流れ方向の引張弾性率を400MPa以上とすることで、表面保護フィルムとして製品ロールとしたときに、フィルム繰り出し時にフィルムが伸長することなく、作業性良く被着体に貼合することができる。
【0021】
本発明の糊引き用基材フィルムは、強い粘着力を持つ表面保護フィルムに加工され、自動車の車体や建材用塗装鋼板の保護といった屋外で長期間曝露する用途に用いられる。その耐候性を持たせるために、表面被覆処理をし、耐候性を持たせた酸化チタンやヒンダードアミン光安定剤、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。かかる耐候性を保持する添加剤を配合することにより、屋外曝露を経過しても引裂強度は35N/mm、引張弾性率は400MPa以上を保持することができ、フィルムの劣化やクラッキングがなく、表面保護フィルムの剥離時にフィルム破断を起こすことなく好適に使用することが可能となる。
【0022】
本発明において、表面層Aおよび表面層Cにヒンダードアミン光安定剤または紫外線吸収剤が添加され、中間層Bに表面被覆処理された酸化チタンおよびヒンダードアミン光安定剤または紫外線吸収剤が添加されていることが好ましい。
【0023】
本発明で用いられるヒンダードアミン光安定剤または紫外線吸収剤の添加量は、1~5重量%の範囲であることが好ましい。添加量を1~5重量%とすることで、適切な価格帯にて紫外線遮断効果が得られる。添加量が1重量%未満である場合は添加量が少量すぎて紫外線遮蔽効果は薄く、フィルムを屋外暴露すると紫外線により劣化しフィルムとしての体をなさなくなる。逆に5重量%を超えて添加しても紫外線遮断性は向上せず、安定した製膜性を確保することができなくなる。
【0024】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、サリチル酸エステル系など各種タイプのものを挙げることができる。
【0025】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクタデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-5-クロロベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンなどを挙げることができる。
【0026】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、ヒドロキシフェニル置換ベンゾトリアゾール化合物であって、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-メチル-5-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、などを挙げることができる。
【0027】
またトリアジン系紫外線吸収剤としては、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシルオキシ)フェノールなどを挙げることができる。サリチル酸エステル系としては、フェニルサリチレート、p-オクチルフェニルサリチレートなどを挙げることができる。
【0028】
ヒンダードアミン光安定剤は通称HALS(Hindered Amine Light Stabilizer)と呼ばれ、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン構造を基本骨格とする化合物である。
【0029】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル) セバケート、ビス((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル) スクシネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル) セバケート、ビス(N-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル) セバケート、ビス(N-ベンジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(N-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-ブチルマロネート、ビス(1-アクロイル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル) 2,2-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルデカンジオエート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル メタクリレート、4-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-1-[2-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2-メチル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールおよび1-トリデカノールとの混合エステル化物が挙げられる。
【0030】
また、本発明における中間層Bには表面被覆処理された酸化チタン粒子を添加することが好ましい。酸化チタンとしては結晶型として、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型などが知られており、中でも優れた白色度と耐候性および光反射性などの特性からルチル型酸化チタンが好ましい。酸化チタンは、光触媒作用によって樹脂を劣化させる可能性があることから、光触媒作用を抑制する目的で、表面被覆処理されており、その組成は限定されないが、酸化ケイ素やアルミナ、または酸化亜鉛などの無機酸化物であることが好ましい。表面被覆剤の被覆方法についても特に限定されたものではなく、公知の方法で得られた酸化チタン粒子を使用することができる。
【0031】
本発明で用いられる酸化チタン粒子の平均粒子径は0.2~0.7μmのものが好ましく、紫外線を遮断する目的においては、0.25~0.35μmのものがより好ましい。
【0032】
また、本発明で用いられる中間層Bへの表面被覆処理された酸化チタンの添加量は、その比重によって左右されるものの、5~30重量%の範囲であることが好ましい。添加量を5重量%以上とすることで十分な紫外線遮断効果が得られ、一方30重量%を上限とすることは、これ以上添加しても紫外線遮断性は向上せず、安定した製膜性を確保することができなくなる虞がある。
【0033】
本発明の糊引き用基材フィルムは、引裂強度や引張弾性率を阻害しない範囲で、表面保護フィルムを剥離する際に発生する静電気を防止するための帯電防止剤や、経時での劣化を防ぐ為の酸化防止剤なども添加することが可能である。
【0034】
本発明の糊引き用基材フィルムは、片面に糊剤(粘着剤)を塗布し粘着性を発現させて表面保護フィルムとすることができる。
【0035】
本発明の糊引き用基材フィルムを使用した表面保護フィルムは、強い粘着力で被着体の表面に貼合されることが多いため、表面保護フィルムの役割を果たしフィルムを剥離する際に粘着力に負けてフィルムが破れてしまうことのないことや、製品ロールから表面保護フィルムを繰り出す際に粘着力に負けてフィルムが伸長・変形することがない性能を持つ。
【0036】
本発明の糊引き用基材フィルムを用いて作成された表面保護フィルムの粘着剤層の主成分については、フィルム片面に粘着剤として塗布される一般的に用いられているものについて種類は問わない。粘着剤として塗布されるものとしては、例えば、アクリル系、スチレン系、ウレタン系、シリコーン系などの糊剤(粘着剤)が塗布する物として挙げられる。また、要求される粘着力の強弱に応じ、ロジン系、テルペン系などの粘着付与剤や、粘着性を損なわない範囲にて帯電防止剤、酸化防止剤などの各種添加剤を添加しても良い。
【0037】
本発明の糊引き用基材フィルムの厚さは20~90μmが取り扱いの点から好ましく、更に好ましくは30~70μmである
【実施例】
【0038】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明の糊引き用基材フィルムを詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下に示す方法で測定、評価した。
【0039】
(1)引裂強度
糊引き用基材フィルムを、作成後3日以上、室温23℃、湿度50RH%雰囲気下で保管し、しかる後にJIS B7753:2007サンシャインカーボンアーク灯式の耐光性試験機および耐候性試験機に準拠しているスガ試験機株式会社製、型番S80を用い、サンシャインカーボンアークでの耐候性試験(300時間連続照射、水噴霧12分/60分、黒板温度63℃)を実施し作製した試料について、耐候性試験前後でJIS K7128-1:1998 トラウザー法引裂強さ試験方法に記載される方法に準拠して引裂強度を測定した。
【0040】
(2)引裂外観
上記(1)の引裂評価後、試験片の切れ端を観察し、引裂部に伸びが発生しているものを○、引裂部に伸びが発生せず直線状に引裂けたものを×として目視評価を行った。
【0041】
(3)引張弾性率
糊引き用基材フィルムを、作成後3日以上、室温23℃、湿度50RH%雰囲気下で保管し、しかる後に、上記記載のサンシャインカーボンアークでの耐候性試験(300時間連続照射、水噴霧12分/60分、黒板温度63℃)を実施し作製した試料について、耐候性試験前後でJIS K7161-1:2014 プラスチック-引張特性の求め方に準拠し弾性率を測定した。
【0042】
(4)濡れ張力
和光純薬工業(株)製のぬれ張力試験用混合液を用い、JIS K6768に準じ測定した。
【0043】
<実施例1>
密度が0.903g/cm3であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン66重量部と、密度が0.961g/cm3である高密度ポリエチレン15重量部、ヒンダードアミン光安定剤(DIC製「WSE-3033」)が12重量%添加された添加剤マスター(ベース樹脂:高圧法低密度ポリエチレン)3重量部および表面被覆処理された耐候性を持つ酸化チタン(東洋インキ製「TET 1KP529 WHT」)が70重量%添加された酸化チタンマスター(ベース樹脂:高圧法低密度ポリエチレン)16重量部からなる組成物を中間層Bとし、両表面に密度が0.900g/cm3であるホモポリプロピレン97重量部と前記ヒンダードアミン光安定剤の添加剤マスター3重量部からなる表面層A、表面層CをTダイ型複合製膜機を用い、中間層Bの厚さが32μm、両表面の厚さが4μmずつ、総厚さが40μmとなるよう共押出し、その後、表面層Cの表面にE値15W・min/m2でコロナ放電処理を施した後、ロール状に巻き上げ、糊引き用基材フィルムを作成した。
【0044】
<実施例2~8>
実施例1において、中間層の樹脂組成物のうち、ヒンダードアミン光安定剤マスターと酸化チタンマスターの配合量はそのままに、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンの密度、配合量、高密度ポリエチレンの密度、配合量を表1のように変更した以外は実施例1と同様とし、糊引き用基材フィルムを作成した。
【0045】
なお、実施例7、8については、表面層C上に厚さが5μmとなるようアクリル系粘着剤を塗布して塗装鋼板用表面保護フィルムを作成し、表面保護フィルムの形態で評価を行った。
【0046】
<比較例1~7>
実施例1において、中間層の樹脂組成物のうち、ヒンダードアミン光安定剤マスターと酸化チタンマスターの配合量はそのままに、その他の樹脂を表2に示すように変更して糊引き用基材フィルムを作成し、表面層Cの表面にE値10W・min/m2でコロナ放電処理を施した。
【0047】
<比較例8>
比較例1にて作成した糊引き用基材フィルムの表面層C上にアクリル系粘着剤を厚さが5μmとなるよう塗布し、塗装鋼板用表面保護フィルムを作成した。
【0048】
<比較例9>
比較例6にて作成した糊引き用基材フィルムの表面層C上にアクリル系粘着剤を厚さが5μmとなるよう塗布し、塗装鋼板用表面保護フィルムを作成した。
【0049】
<比較例10>
実施例1において、中間層Bの樹脂組成物のうち、ヒンダードアミン光安定剤マスターと酸化チタンマスターの配合量はそのままに、密度が0.903g/cm3であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン15重量部と、密度が0.961g/cm3である高密度ポリエチレン66重量部とした以外は実施例1と同様に糊引き用基材フィルムを作成し、E値10W・min/m2でコロナ放電処理を施した表面層C上にアクリル系粘着剤を厚さが5μmとなるよう塗布し、塗装鋼板用表面保護フィルムを作成した。
【0050】
比較例8、9、10については、表面保護フィルムの形態で評価を行った。
【0051】
実施例1から8の評価結果を表1に、比較例1から10の評価結果を表2示す。なお、表中のH-PPとはホモポリプロピレンを、m-LLとはメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを、HDとは高密度ポリエチレンを、HSBRとは水添スチレン・ブタジエンラバーを、ZN-LLとはチーグラー系直鎖状低密度ポリエチレンを、VLとは超低密度ポリエチレンを指す。
【0052】
実施例1~6の糊引き用基材フィルムおよび実施例7、8の表面保護フィルムは、いずれも耐候性試験前後の引裂強度が35N/mm以上、引張弾性率が400MPa以上であり、引裂後の外観も伸びが発生しており、強い粘着力に負けて剥離中にフィルムが破断する心配がなく、フィルムの伸長変形のために表面保護フィルムの貼合不良や貼合後の外観を損ねることはない。そのため表面保護フィルムの糊引き用基材フィルム、とりわけ強い粘着力が必要な表面保護フィルムに好適に用いられる。
【0053】
比較例2、4、6、7の糊引き用基材フィルムおよび比較例9の表面保護フィルムは、引裂強度が35N/mm以上であり、引裂後のフィルム外観も伸びが発生しており、フィルムの引裂き難さでは問題ないものの、引張弾性率がいずれも400MPa未満であり、フィルムの伸長変形が発生しやすく、表面保護フィルムとして貼合する際の作業性を悪化させ、貼合後の外観を損ねる。
【0054】
比較例3の糊引き用基材フィルムおよび比較例10の表面保護フィルムは、引張弾性率が400MPaを越えており貼合の作業性や貼合後の外観という面では問題がないものの、引裂強度が35N/mm未満でありかつ引裂形状も直線的であり、表面保護フィルムとして貼合された後剥離する際に破断が発生しやすくフィルム残滓が被着体に貼着されたままとなってしまう。
【0055】
比較例1、5の糊引き用基材フィルムおよび比較例8の表面保護フィルムは、引張弾性率も引裂強度も要求を満たしておらず、表面保護フィルムとして問題が発生してしまう。
【0056】
また比較例8、9、10については、表面層Cへのアクリル系粘着剤の塗布は問題なく行われたが、コロナ処理の強度が弱く、表面層Cとアクリル系粘着剤との接着強度が弱く、金属板に貼合しフィルムを剥離したところ金属板表面にアクリル系粘着剤が転写し、糊残りを発生させた。
【0057】
【0058】