(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】ヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20220602BHJP
C21D 9/32 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
H05B6/36 F
C21D9/32 B
(21)【出願番号】P 2017217086
(22)【出願日】2017-11-10
【審査請求日】2020-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】中井 靖文
(72)【発明者】
【氏名】花木 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 哲正
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-134080(JP,A)
【文献】特開2011-014307(JP,A)
【文献】国際公開第2014/108124(WO,A1)
【文献】特開昭62-073592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/36
C21D 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリカルギヤの歯面を高周波誘導加熱するためのヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルであって、
円弧状の円弧部と、螺旋状にのびる
第一螺旋部及び第二螺旋部を有し、
前記円弧部の両端には、
前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とが繋がっており、
前記円弧部に繋がっている
前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とは、前記円弧部の一部又は全部が含まれる平面の両側にあり、
前記円弧部
と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とをヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差
しており、
前記第一螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第一螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも下方に傾斜して螺旋状にのびる部位であり、
前記第二螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第二螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも上方に傾斜して螺旋状にのびる部位であることを特徴とするヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル。
【請求項2】
前記円弧部がヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの角度範囲は、前記
第一螺旋部及び前記第二螺旋部がヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの個々の角度範囲よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記
第一螺旋部及び前記第二螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯幅方向の端部に至っていることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記円弧部
と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とを構成する導体のヘリカルギヤの歯面と対向する幅寸法が、ヘリカルギヤの歯幅の半分以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル。
【請求項5】
前記
第一螺旋部及び前記第二螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と直交することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル。
【請求項6】
前記円弧部
と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とに通電される高周波電流によって高周波誘導電流が励起される二次誘導加熱コイルを有し、
前記二次誘導加熱コイルは、二次誘導加熱部を有し、
前記二次誘導加熱部は、前記円弧部
と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とがヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの角度範囲と相違する角度範囲の歯面に近接対向し、
前記二次誘導加熱部のヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル。
【請求項7】
ヘリカルギヤの歯面を高周波誘導加熱するためのヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルであって、
一次誘導加熱コイルと二次誘導加熱コイルとを有し、
前記一次誘導加熱コイルは誘導加熱部を有し、
前記二次誘導加熱コイルは二次誘導加熱部を有し、
誘導加熱時には、前記誘導加熱部と二次誘導加熱部は、ヘリカルギヤの歯面の全周囲のうちの異なる角度範囲部分にそれぞれ近接対向し、
一次誘導加熱コイルに高周波電流が供給されると、二次誘導加熱コイルには高周波誘導電流が励起され、
誘導加熱部は、円弧状の円弧部
と、螺旋状にのびる
第一螺旋部及び第二螺旋部を有しており、
前記円弧部の両端には、前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とが繋がっており、
前記円弧部に繋がっている前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とは、前記円弧部の一部又は全部が含まれる平面の両側にあり、
前記円弧部
と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とをヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差
しており、
前記第一螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第一螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも下方に傾斜して螺旋状にのびる部位であり、
前記第二螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第二螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも上方に傾斜して螺旋状にのびる部位であることを特徴とするヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル。
【請求項8】
前記
第一螺旋部及び前記第二螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯幅方向の端部に至ることを特徴とする請求項7に記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル。
【請求項9】
ヘリカルギヤの歯面を高周波誘導加熱するためのヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルであって、
一次誘導加熱コイルと二次誘導加熱コイルとを有し、
前記一次誘導加熱コイルは、ヘリカルギヤの歯幅方向の一方の端部側から他方の端部側へ螺旋状にのびる
第一螺旋部及び第二螺旋部を有し、
前記円弧部の両端には、前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とが繋がっており、
前記円弧部に繋がっている前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とは、前記円弧部の一部又は全部が含まれる平面の両側にあり、
前記
第一螺旋部及び前記第二螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差しており、
前記第一螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第一螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも下方に傾斜して螺旋状にのびる部位であり、
前記第二螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第二螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも上方に傾斜して螺旋状にのびる部位であり、
前記二次誘導加熱コイルは、前記一次誘導加熱コイルに通電される高周波電流によって高周波誘導電流が励起され、
前記二次誘導加熱コイルは、二次誘導加熱部を有し、
前記二次誘導加熱部は、ヘリカルギヤの歯幅方向の熱容量の大きい部位に近接対向し、
前記二次誘導加熱部のヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差していることを特徴とするヘリカルギヤ用の誘導加熱コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリカルギヤの歯面を高周波誘導加熱するためのヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯車の歯面を高周波焼入(高周波誘導加熱)する場合、高周波電流が通電された誘導加熱コイルを歯面に近接させる。このとき歯先は誘導加熱コイルに近接するが、歯底は誘導加熱コイルから離れている。そのため、誘導加熱コイルに近接する歯先部分には高周波誘導電流が励起され易く、誘導加熱コイルから離れた歯底部分には高周波誘導電流が励起されにくい。すなわち高周波誘導電流は、歯先部分に沿って流れ易く、歯底部分には流れにくい。
一方、熱処理対象物の表面に沿った薄い硬化層を形成する輪郭焼入を、歯車に対して実施する場合には、励起された高周波誘導電流が歯先から歯底を経て隣接する別の歯先へ流れる様にする必要がある。
この場合には、歯面と近接対向する誘導加熱コイルの歯面への投影線が、歯筋に対して所定の角度範囲(45度~135度の範囲)で交差していれば、励起された高周波誘導電流は歯筋と交差する様に流れる。すなわち高周波誘導電流は、歯先から歯底を経て隣接する別の歯先へ流れる。
図14(a),
図14(b)に示す例では、誘導加熱コイル100のヘリカルギヤWへの投影線が、ヘリカルギヤWの歯筋15と45度~135度の範囲内の角度で交差している。そのため、歯先のみならず歯底にも高周波誘導電流が流れる。
ところで、
図14(a)に示す環形状の誘導加熱コイル100でヘリカルギヤWの歯面を高周波焼入すると、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部の誘導加熱量が適正であっても、歯幅方向の端部は加熱不足になる。すなわち、
図14(b)に示す様に、ヘリカルギヤWの歯幅方向の端部の歯底の鈍角側に焼き逃げと称する焼入されない部位E(焼き逃げE)が生じてしまう。換言すると、誘導加熱コイル100でヘリカルギヤWの歯面を高周波誘導加熱すると、部位Eは焼入に必要な温度まで昇温しない。
そこで、誘導加熱時間を長くすると、歯幅方向の端部に焼き逃げEが生じない様にすることはできるが、この場合には、逆に歯幅方向の中央部の加熱量が過多となる。そのため、熱が歯面(表面)のみならず内部まで浸透してしまい、表面のみに薄い硬化層を形成する(輪郭焼入する)ことができない。
【0003】
そこで本件出願人は、特許文献1に示す様な高周波焼入装置を発明した。
図15(a),
図15(b)は、特許文献1の高周波焼入装置に設けられた誘導加熱コイルを示している。
図15(a),
図15(b)に示す誘導加熱コイル90を有する特許文献1の高周波焼入装置では、
図14(b)に示す様な焼き逃げEが生じず、さらに歯幅方向の中央部の加熱量が過多とならない様にヘリカルギヤWの歯面を誘導加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本件出願人は、特許文献1に開示した構成を採用することによって、歯幅方向の端部の加熱量を適正化し、焼き逃げEを解消することができるようになったが、実際にヘリカルギヤWを高周波誘導加熱してみると、今度は歯幅方向の中央部が加熱不足になるという新たな問題が生じた。
【0006】
そこで本発明は、ヘリカルギヤの歯面を一様に昇温させることができるヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するにあたり、本発明者は、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部が加熱不足になる原因について以下の様な仮説を立てた。
ヘリカルギヤWでは、歯幅方向の端部の熱容量は比較的小さく、歯幅方向の中央部分の熱容量は比較的大きい。すなわち、歯幅方向の端部と中央部に同じ熱量が付与された場合、端部は昇温し易く、中央部は昇温しにくい。
そのため、中央部と端部に対して誘導加熱コイルを一様に近接させて高周波誘導加熱する際に、熱容量の小さい端部の加熱量が適度になった時点で加熱を停止すると、熱容量の大きい中央部の加熱量が不足するのではないかと本発明者は考えた。
換言すると、
図15(b)に示す様に、誘導加熱コイル90の誘導加熱部90aは、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部から端部に至るまで、一定の傾斜角を成して近接配置されており、歯幅方向の中央部が加熱不足になるのは、これが原因ではないかと本発明者は考えた。
この仮説の元、創意工夫を重ね、本発明者は以下の様な本発明を創作するに至った。
【0008】
すなわち、上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、ヘリカルギヤの歯面を高周波誘導加熱するためのヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルであって、円弧状の円弧部と、螺旋状にのびる第一螺旋部及び第二螺旋部を有し、前記円弧部の両端には、前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とが繋がっており、前記円弧部に繋がっている前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とは、前記円弧部の一部又は全部が含まれる平面の両側にあり、前記円弧部と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とをヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差しており、前記第一螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第一螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも下方に傾斜して螺旋状にのびる部位であり、前記第二螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第二螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも上方に傾斜して螺旋状にのびる部位であることを特徴とするヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルである。
【0009】
請求項1に記載の発明では、円弧状の円弧部と、螺旋状にのびる少なくとも二つの螺旋部を有し、これらがヘリカルギヤの歯面に近接対向する。
ここで「螺旋状」とは、周方向成分と軸方向成分とを有する3次元の曲線形状であり、「螺旋部」は、螺旋の軸方向から見た際における中心角が180度に満たない形状の部位である。
円弧部及び各螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差するので、円弧部及び各螺旋部に通電された高周波電流によって、ヘリカルギヤの歯面には、歯筋と交差するように高周波誘導電流が流れる。
「円弧部及び各螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線」とは、ヘリカルギヤの表面上における円弧部及び各螺旋部から最短の部位である。すなわち、円弧部及び各螺旋部は長さを有するので、円弧部及び各螺旋部をヘリカルギヤ上に投影すると投影部分は線状になり、これを投影線と称している。
この投影線が、歯筋と交差しているので、高周波誘導電流は、投影線に沿って励起され、歯先に沿って流れず、歯先から歯底を経て隣接する別の歯先に流れる。そのため、ヘリカルギヤの歯面の表層部分が、歯先から歯底に至るまで一様に高周波誘導加熱される。歯面の表層部分とは、歯面(表面)から深さ数ミリ程度(例えば、2~3mm)の部分を指している。
円弧部の両端には、それぞれいずれかの螺旋部が繋がっており、各螺旋部は、円弧部の一部又は全部が含まれる平面の両側にあるので、円弧部と各螺旋部は、ヘリカルギヤの歯面の歯幅方向の相違する領域にそれぞれ対向する。そして、円弧部及び各螺旋部に高周波電流が通電されると、ヘリカルギヤの歯面における円弧部と各螺旋部が対向する箇所が高周波誘導加熱される。すなわち、ヘリカルギヤの歯面は、歯幅方向の特定の部位のみならず、円弧部と各螺旋部が対向する範囲が高周波誘導加熱されて昇温する。
具体的には、円弧部は、ヘリカルギヤの歯幅方向における比較的熱容量が大きい中央部に対向し、円弧部に高周波電流が供給されると、ヘリカルギヤの中央部に高周波誘導電流が励起される。
各螺旋部は、ヘリカルギヤの歯幅方向における比較的熱容量が小さい一方側及び他方側の端部に対向し、各螺旋部に高周波電流が供給されると、ヘリカルギヤの両端部に高周波誘導電流が励起される。
ヘリカルギヤが回転すると、ヘリカルギヤの中央部は、円弧部と対向している間、高周波誘導加熱され続ける。すなわち、ヘリカルギヤの中央部が、円弧部に近接対向する時間は比較的長い。そのため、ヘリカルギヤが一回転する間のヘリカルギヤの中央部の誘導加熱量は多い。
一方、ヘリカルギヤの端部には螺旋部が近接対向しており、ヘリカルギヤの端部は、螺旋部に対向したときだけ高周波誘導加熱される。
螺旋部のヘリカルギヤへの投影線は、ヘリカルギヤの中央側から端部側へ傾斜しており、ヘリカルギヤにおける螺旋部が近接対向する部位は、ヘリカルギヤの中央側から端部側へ傾斜している。そのため、ヘリカルギヤが一回転する間に、ヘリカルギヤの端部が螺旋部に近接対向する時間は、ヘリカルギヤの中央部が円弧部に近接対向する時間よりも短い。すなわち、ヘリカルギヤの中央部よりも端部の方が、誘導加熱量が少ない。
ヘリカルギヤに着目すると、ヘリカルギヤの歯幅方向の中央部の熱容量は大きく、端部の熱容量は小さい。
すなわち、本発明では、熱容量が大きい中央部の加熱量が多く、熱容量が小さい端部の加熱量は少ない。
そのため、本発明のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルは、ヘリカルギヤの歯面の歯幅方向の中央部から端部に至る全領域を一様又は略一様に昇温させる様にヘリカルギヤの歯面を高周波誘導加熱することができる。
その結果、本発明を実施することにより、ヘリカルギヤの歯面を歯幅方向の中央部から端部に至るまで一様に輪郭焼入することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記円弧部がヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの角度範囲は、前記第一螺旋部及び前記第二螺旋部がヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの個々の角度範囲よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルである。
【0011】
請求項2に記載の発明では、円弧部がヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの角度範囲は、各螺旋部がヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの個々の角度範囲よりも大きいので、ヘリカルギヤの歯面は、中央部の加熱量が多くなり、端部の加熱量が少なくなる。
ここで、ヘリカルギヤの中央部は熱容量が大きく、端部の熱容量は小さい。
すなわち、本発明では、熱容量が大きい中央部の加熱量が多くなり、熱容量が小さい端部の加熱量は少なくなる。
そのため、本発明の誘導加熱コイルは、ヘリカルギヤの歯面を歯幅方向の中央部から端部に至るまで一様又は略一様に昇温させることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記第一螺旋部及び前記第二螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯幅方向の端部に至っていることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルである。
【0013】
請求項3に記載の発明では、螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯幅方向の端部に至っているので、螺旋部に高周波電流を通電すると、ヘリカルギヤの歯幅方向の端部に高周波誘導電流が確実に励起され、端部を良好に昇温させることができる。
【0014】
円弧部と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とを構成する導体のヘリカルギヤの歯面と対向する幅寸法が、ヘリカルギヤの歯幅の半分以下であるのが好ましい(請求項4)。
【0015】
第一螺旋部及び前記第二螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と直交するのが好ましい(請求項5)。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記円弧部と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とに通電される高周波電流によって高周波誘導電流が励起される二次誘導加熱コイルを有し、前記二次誘導加熱コイルは、二次誘導加熱部を有し、前記二次誘導加熱部は、前記円弧部と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とがヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの角度範囲と相違する角度範囲の歯面に近接対向し、前記二次誘導加熱部のヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルである。
【0017】
請求項6に記載の発明では、円弧部及び各螺旋部に通電される高周波電流によって高周波誘導電流が励起される二次誘導加熱コイルを有し、二次誘導加熱コイルは二次誘導加熱部を有し、二次誘導加熱部のヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差しているので、ヘリカルギヤの歯面には、二次誘導加熱部によって高周波誘導電流が励起される。
二次誘導加熱部は、円弧部及び各螺旋部がヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの角度範囲と相違する角度範囲の歯面に近接対向するので、ヘリカルギヤの歯面には、誘導加熱コイルと二次誘導加熱コイルによって高周波誘導電流が良好に励起される。すなわち、高周波電流の供給源の出力を変更することなく、ヘリカルギヤの加熱量を増大させることができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、ヘリカルギヤの歯面を高周波誘導加熱するためのヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルであって、一次誘導加熱コイルと二次誘導加熱コイルとを有し、
前記一次誘導加熱コイルは誘導加熱部を有し、前記二次誘導加熱コイルは二次誘導加熱部を有し、誘導加熱時には、前記誘導加熱部と二次誘導加熱部は、ヘリカルギヤの歯面の全周囲のうちの異なる角度範囲部分にそれぞれ近接対向し、一次誘導加熱コイルに高周波電流が供給されると、二次誘導加熱コイルには高周波誘導電流が励起され、誘導加熱部は、円弧状の円弧部と、螺旋状にのびる第一螺旋部及び第二螺旋部を有しており、前記円弧部の両端には、前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とが繋がっており、前記円弧部に繋がっている前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とは、前記円弧部の一部又は全部が含まれる平面の両側にあり、前記円弧部と、前記第一螺旋部と、前記第二螺旋部とをヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差しており、前記第一螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第一螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも下方に傾斜して螺旋状にのびる部位であり、前記第二螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第二螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも上方に傾斜して螺旋状にのびる部位であることを特徴とするヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルである。
【0019】
請求項7に記載の発明では、誘導加熱時には、誘導加熱部と二次誘導加熱部は、ヘリカルギヤの歯面の全周囲のうちの異なる角度範囲部分にそれぞれ近接対向する。そのため、誘導加熱部と二次誘導加熱部は、互いに干渉することなく、回転するヘリカルギヤの歯面の同一箇所に異なるタイミングで近接対向することができる。
一次誘導加熱コイルに高周波電流が供給されると、二次誘導加熱コイルには高周波誘導電流が励起されるので、誘導加熱部と二次誘導加熱部によって、ヘリカルギヤの歯面は、同時に誘導加熱される。すなわち、一次誘導加熱コイルに供給される高周波電流の出力を変更することなく、ヘリカルギヤの加熱量を増大させることができる。
螺旋部は少なくとも二つあり、円弧部の一部又は全部が含まれる平面の両側に各螺旋部がある。すなわち、円弧部の両側に螺旋部がある。換言すると、円弧部の一部又は全部が含まれる平面の両側に各螺旋部が分散配置されている。そのため、ヘリカルギヤの中央部には円弧部が対向し、端部には各螺旋部が対向する。
そして、円弧部及び各螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差するので、ヘリカルギヤの歯面には、歯先から歯底にかけて高周波誘導電流が流れる。また、高周波誘導電流は、歯先から歯底にかけてヘリカルギヤの表面に近い表層部分に励起される。そのため、ヘリカルギヤの歯面は、歯先から歯底にかけて一様に良好に高周波誘導加熱されて昇温する。
その結果、本発明によるとヘリカルギヤの歯面を良好に輪郭焼入することができる。
ここで「螺旋状」とは、周方向成分と軸方向成分とを有する3次元の曲線形状であり、「螺旋部」は、螺旋の軸方向から見た際における中心角が180度に満たない形状の部位である。
【0020】
請求項8に記載の発明は、前記第一螺旋部及び前記第二螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯幅方向の端部に至ることを特徴とする請求項7に記載のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルである。
【0021】
請求項8に記載の発明では、螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯幅方向の端部に至っているので、螺旋部に高周波電流を通電すると、ヘリカルギヤの歯面の歯幅方向の端部に高周波誘導電流が励起され、歯面の端部を良好に昇温させることができる。
【0022】
請求項9に記載の発明は、ヘリカルギヤの歯面を高周波誘導加熱するためのヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルであって、一次誘導加熱コイルと二次誘導加熱コイルとを有し、前記一次誘導加熱コイルは、ヘリカルギヤの歯幅方向の一方の端部側から他方の端部側へ螺旋状にのびる第一螺旋部及び第二螺旋部を有し、前記円弧部の両端には、前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とが繋がっており、前記円弧部に繋がっている前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とは、前記円弧部の一部又は全部が含まれる平面の両側にあり、前記第一螺旋部及び前記第二螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差しており、前記第一螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第一螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも下方に傾斜して螺旋状にのびる部位であり、前記第二螺旋部の投影線とヘリカルギヤの歯筋との交差角が45度乃至135度の範囲となるように、前記第二螺旋部は、前記円弧部を含む平面よりも上方に傾斜して螺旋状にのびる部位であり、前記二次誘導加熱コイルは、前記一次誘導加熱コイルに通電される高周波電流によって高周波誘導電流が励起され、前記二次誘導加熱コイルは、二次誘導加熱部を有し、前記二次誘導加熱部は、ヘリカルギヤの歯幅方向の熱容量の大きい部位に近接対向し、前記二次誘導加熱部のヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差していることを特徴とするヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルである。
【0023】
請求項9に記載の発明は、一次誘導加熱コイルの螺旋部が、ヘリカルギヤの歯幅方向の一方の端部側から他方の端部側へ螺旋状にのびているので、螺旋部をヘリカルギヤへ投影した投影線は、ヘリカルギヤの歯幅方向の一方の端部側から他方の端部側に至る。
ここで「螺旋状」とは、周方向成分と軸方向成分とを有する3次元の曲線形状であり、「螺旋部」は、螺旋の軸方向から見た際における中心角が180度に満たない形状の部位である。
また、この投影線はヘリカルギヤの歯筋と交差しているので、螺旋部に高周波電流が通電されると、ヘリカルギヤにおける投影線部分には高周波誘導電流が励起される。すなわち、高周波誘導電流は、歯筋と交差する様に流れる。換言すると、高周波誘導電流は、歯先から歯底を介して隣接する別の歯先へと流れる。また、高周波誘導電流は、ヘリカルギヤの表面に近い表層部分に励起される。
そのため、ヘリカルギヤの歯面の歯幅方向の中央部から端部に至る表層部分が高周波誘導加熱される。すなわち、熱容量が比較的小さい歯幅方向の端部は良好に昇温する。
また、一次誘導加熱コイルに通電される高周波電流によって高周波誘導電流が励起される二次誘導加熱コイルの二次誘導加熱部が、ヘリカルギヤの歯幅方向の熱容量の大きい部位に近接対向している。
そのため、ヘリカルギヤの歯幅方向の熱容量の大きい部位には、高周波二次誘導電流が励起される。
二次誘導加熱部のヘリカルギヤへ投影した投影線が、ヘリカルギヤの歯筋と交差しているので、ヘリカルギヤの歯幅方向の熱容量の大きい部位には、歯筋を横切る様に高周波二次誘導電流が流れる。
すなわち、高周波二次誘導電流は、ヘリカルギヤの歯幅方向の熱容量の大きい部位の歯先から歯底を経て隣接する別の歯先に流れる。また、高周波二次誘導電流によってヘリカルギヤに励起される高周波誘導電流は、ヘリカルギヤの表面に近い表層部分を流れる。
そのため、ヘリカルギヤの歯幅方向の熱容量の大きい部位の表層部分の誘導加熱が促進され、熱容量の大きい部位が良好に昇温する。
よって、本発明では、加熱不足や加熱過多となる部位を生じさせることなく、ヘリカルギアの歯面全体を、良好に輪郭焼入することができる。
ここで「熱容量の大きい部位」とは、ヘリカルギヤの歯幅方向における他の部位と比較して相対的に熱容量が大きい部位を指している。具体的には、熱容量の大きい部位は、ヘリカルギヤの歯幅方向の中央部である場合が多い。
【発明の効果】
【0024】
本発明のヘリカルギヤ用の誘導加熱コイルは、ヘリカルギヤの歯面の歯幅方向の中央部から端部に至るまで一様に昇温させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る誘導加熱コイルの斜視図である。
【
図2】
図1の誘導加熱コイルに高周波電流を供給する回路図である。
【
図3】
図1の誘導加熱コイルをヘリカルギヤに近接させた状態を示す斜視図である。
【
図4】
図3の誘導加熱コイル及びヘリカルギヤの正面図である。
【
図5】
図3の誘導加熱コイル及びヘリカルギヤの平面図である。
【
図6】
図3の誘導加熱コイル及びヘリカルギヤの側面図である。
【
図7】
図1とは別の実施形態に係る誘導加熱コイルの斜視図である。
【
図8】(a)は、
図7の二次誘導加熱コイルの誘導部材を取り外した状態の斜視図であり、(b)は、(a)の二次誘導加熱コイルの別の角度から見た斜視図である。
【
図9】
図7の二次誘導加熱コイルを別の角度から見た斜視図である。
【
図10】
図7の誘導加熱コイルをヘリカルギヤに近接させた状態を示す平面図である。
【
図11】
図7とは別の二次誘導加熱コイルを並設した誘導加熱コイルの概念図である。
【
図12】
図11とはさらに別の二次誘導加熱コイルを並設した誘導加熱コイルの概念図である。
【
図13】
図1,
図11,12とは別の誘導加熱コイルに、二次誘導加熱コイルを並設した状態を示す概念図である。
【
図14】(a)は、ヘリカルギヤを環状の誘導加熱コイルで誘導加熱している状態を示す平面図であり、(b)は、(a)のA-A断面の誘導加熱コイルをヘリカルギヤの正面図に重ねて描写した図である。
【
図15】(a)は、従来の誘導加熱コイルをヘリカルギヤに近接させた状態を示す平面図であり、(b)は、(a)のB-B矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(誘導加熱コイル1の構造)
図1に示す誘導加熱コイル1は、ヘリカルギヤWの外周面(歯面)を高周波誘導加熱するための加熱コイルであり、銅又は銅合金等の良導体であって、横断面が四角形の中空構造を有する線状部材で構成されている。中空の線状部材からなる誘導加熱コイル1の内部には、誘導加熱時に自身の昇温を抑制する冷却液を通すことができる。
図1に示す様に、誘導加熱コイル1は、円弧部2,第一螺旋部3,第二螺旋部4,退避部5,6が繋がった構造を有している。
【0027】
円弧部2は、同一平面内で円弧状に湾曲した構造を有する部位である。すなわち、円弧部2は、
図5に示す様に、中心角r1が70度乃至120度程度の円弧状を呈する部位である。円弧部2の一端には第一螺旋部3が繋がっており、円弧部2の他端には第二螺旋部4が繋がっている。
【0028】
第一螺旋部3は、円弧部2と同様に湾曲しながら円弧部2を含む平面hよりも
図4で見て下方に一様に傾斜して螺旋状にのびる部位である。すなわち、第一螺旋部3は、円弧部2と接続された一端が最も高い位置となり、他端が最も低い位置となる螺旋形を呈している。誘導加熱コイル1を上方から見た際の第一螺旋部3の湾曲の中心は、
図5に示す様に、円弧部2の中心と一致している。また、第一螺旋部3の中心角r2は、円弧部2の中心角r1よりも小さい。
すなわち第一螺旋部3は、周方向成分と軸方向成分とを有する3次元曲線(螺旋)に沿っており、螺旋の軸方向から見た際における中心角は180度に満たない。
【0029】
第二螺旋部4は、円弧部2と同様に湾曲しながら円弧部2を含む平面hよりも
図4で見て上方に一様に傾斜して螺旋状にのびる部位である。すなわち、第二螺旋部4は、円弧部2と接続された一端が最も低い位置となり、他端が最も高い位置となる螺旋形を呈している。
第二螺旋部4も第一螺旋部3と同様に、周方向成分と軸方向成分とを有する3次元曲線(螺旋)に沿っており、螺旋の軸方向から見た際における中心角は180度に満たない。
【0030】
換言すると、第一螺旋部3は、円弧部2の一部又は全部が含まれる平面hの高さ位置から下方にのびており、第二螺旋部4は平面hの高さ位置から上方にのびており、各螺旋部3、4は、平面hの両側にある。
また、第一螺旋部3と第二螺旋部4は、同方向に傾斜した螺旋形を呈する部位であり、一方の螺旋(第一螺旋部3)の上端の高さと、他方の螺旋(第二螺旋部4)の下端の高さが一致しており、両者は水平面内にある円弧部2で接続されている。
第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4からなる誘導加熱部30は、あたかも螺旋の一部に傾斜していない平坦な踊り場(円弧部2)を設けた様な構造を呈している。
そして、一方の螺旋(第一螺旋部3)の下端の高さと、他方の螺旋(第二螺旋部4)の上端の高さの差は、後述の熱処理対象のヘリカルギヤWの歯幅dよりも大きい。
【0031】
図1において誘導加熱コイル1を上方から見た際の第二螺旋部4の湾曲の中心は、
図5に示す様に、円弧部2の中心と一致している。また、第二螺旋部4の中心角r3は、第一螺旋部3の中心角r2と同等であり、円弧部2の中心角r1より小さい。
【0032】
上述の様に、円弧部2の一端には第一螺旋部3が接続されており、他端には第二螺旋部4が接続されている。第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4を上方から見ると、半円形状を呈している(
図5)。すなわち、第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4のそれぞれの中心角の和(r1+r2+r3)は180度程度である。
第一螺旋部3,第二螺旋部4の中心角r2,r3は同程度であり、それぞれ50度乃至30度程度である。円弧部2の中心角r1は、前述の様に70度乃至120度程度であり、第一螺旋部3及び第二螺旋部4の中心角r2,r3よりも大きい。
【0033】
また、第一螺旋部3及び第二螺旋部4の螺旋の高低差は、誘導加熱対象物であるヘリカルギヤWの歯幅dに応じて設定されている。すなわち、両螺旋部3,4の螺旋の高低差は、ヘリカルギヤWの歯幅dと同程度か、又は大きくなる様に設定されている。
これら第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4によって、誘導加熱部10が構成されている。
【0034】
退避部5は、平面視するとL字形を呈しており、一端が第一螺旋部3の他端と接続されており、他端が後述のリード7と接続されている。
退避部6は、平面視するとL字形を呈しており、一端が第二螺旋部4の他端と接続されており、他端が後述のリード8と接続されている。
すなわち、退避部5,6には離間していて互いに平行な部位と、互いに接近してリード7,8と接続される部位とを有している。
【0035】
円弧部2と第一螺旋部3及び第二螺旋部4は、ろう付けによって一体化されている。また、第一螺旋部3と退避部5や、第二螺旋部4と退避部6もろう付けによって一体化されている。
【0036】
誘導加熱部10、退避部5,6によって、誘導加熱コイル1には空間11が形成されている。
【0037】
(リード7,8)
リード7,8は、互いに近接した良導体であり、間に絶縁部材9が設けられている。
リード7,8は、
図2に示す様に、誘導加熱コイル1と後述の高周波電源51を接続している。
【0038】
(高周波電源の構成)
図2に示す様に、高周波電源51は、高周波発振器53,トランス54を有している。
高周波発振器53は、商用電源52と接続されている。
トランス54の一次側は、高周波発振器53と接続されている。
また、トランス54の二次側は、リード7,8を介して誘導加熱コイル1と接続されている。
すなわち、誘導加熱コイル1には、高周波電源51側から高周波電流が供給される。
また、誘導加熱コイル1には、図示しない冷却液供給源から冷却液が循環供給される。
【0039】
(ヘリカルギヤWと誘導加熱コイル1の関係)
以上の様に構成された誘導加熱コイル1は、
図3乃至
図6に示す様にヘリカルギヤWに近接配置される。すなわち、ヘリカルギヤWは、誘導加熱コイル1の空間11内に配置される。
【0040】
図5に示す様に、誘導加熱コイル1の誘導加熱部10(第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4)が、ヘリカルギヤWの歯面に近接している。
誘導加熱部10は、ヘリカルギヤWの歯面の半分の領域に渡って近接対向している。
誘導加熱部10の円弧部2が、ヘリカルギヤWの歯面と対向するヘリカルギヤ周り(回転軸芯周り)の角度範囲は、前記各螺旋部がヘリカルギヤの歯面と対向するヘリカルギヤ周りの個々の角度範囲よりも大きい。すなわち、
図5に示す様に、誘導加熱部10を平面視した際の第一螺旋部3の中心角r2と第二螺旋部4の中心角r3は、それぞれ円弧部2の中心角r1よりも小さい。
【0041】
図6に示す様に、誘導加熱コイル1の誘導加熱部10の高さ寸法は、ヘリカルギヤの歯幅dよりも大きいが、少なくとも同程度であればよい。
また、誘導加熱部10を構成する導体の幅寸法は、ヘリカルギヤWの歯幅dの半分以下であるのが好ましい。
【0042】
また、第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4をヘリカルギヤWに投影した投影線は、それぞれヘリカルギヤWの歯筋15(歯先又は歯底ののびる方向)と交差している。
「第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4をヘリカルギヤWに投影した投影線」とは、ヘリカルギヤWの表面(歯面)上における第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4から最短の部位である。すなわち、第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4は長さを有するので、第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4をヘリカルギヤW上に投影すると、投影部分は線状になり、これを投影線と称している。
【0043】
ヘリカルギヤW及び誘導加熱コイル1を正面視した
図4では、円弧部2と歯筋15とが重なって見えており、ヘリカルギヤW及び誘導加熱コイル1を側面視した
図6では、第二螺旋部4と歯筋15とが重なって見えている。換言すると、
図4に示す円弧部2と
図6に示す第二螺旋部4は、それぞれのヘリカルギヤWへの投影線と一致している。同様に、第一螺旋部3の投影線と歯筋15も交差している。
この交差角は、45度乃至135度の範囲であり、直角であるのが好ましい。
【0044】
さらに、円弧部2が含まれる平面h(
図4)の法線と、ヘリカルギヤWの回転軸心P(
図4)の傾斜は、プラスマイナス5度以内である。
すなわち、平面hの、水平面に対する傾斜角はプラスマイナス5度以内であり、第一螺旋部3,第二螺旋部4の水平面に対する傾斜角(10度~30度)よりも小さい。
ここで、円弧部2が含まれる平面hの、水平面に対する傾斜角は、ゼロであるのが好ましい。すなわち、平面hの法線とヘリカルギヤWの回転軸心Pは、平行であるのが好ましい。本実施形態では、平面hの水平面に対する傾斜角は、ゼロである。
【0045】
また、円弧部2の一端(
図4で見て左端)に接続された第一螺旋部3は、平面hよりも下方にあり、円弧部2の他端(
図4で見て右端)に接続された第二螺旋部4は、平面hよりも上方にある。すなわち、第一螺旋部3と第二螺旋部4は、互いに平面hの反対側にある。
【0046】
(高周波誘導加熱の実施)
ヘリカルギヤWを高周波誘導加熱する際、ヘリカルギヤWは、図示しない駆動機構によって鉛直軸(回転軸心P)周りに回転駆動される。
図5に示す様に、誘導加熱部10は、ヘリカルギヤWの略半周部分にしか同時に近接対向していないが、ヘリカルギヤWが1回転する間に、誘導加熱部10のいずれかの部位がヘリカルギヤWの歯面の全領域に近接対向する。
【0047】
ここで、
図4,
図6に示す様に、誘導加熱コイル1(誘導加熱部10)の高さ寸法は、ヘリカルギヤWの歯幅dより大きい。よって、誘導加熱部10は、ヘリカルギヤWの歯面の両端部に至るまで近接対向している。
【0048】
また、本実施形態では、円弧部2は歯幅方向(
図4で見て上下方向)と直交する符号hで示す平面(
図4で見て水平面)内に配置されている。すなわち、円弧部2が含まれる平面hは水平面と一致している。
そのため、ヘリカルギヤWにおける円弧部2と同じ高さ位置の部位(平面hの部位)は、ヘリカルギヤWが鉛直軸周り(回転軸心P周り)に回転すると、円弧部2の円弧の中心角r1の範囲にある間、円弧部2と近接対向し続ける。また、ヘリカルギヤWの周面における平面hと同じ高さ位置の部位は、円弧部2を構成する導体の幅寸法(
図4,
図6で見て高さ方向の寸法)の範囲で円弧部2と近接対向する。
【0049】
ちなみに、円弧部2が含まれる平面hの、水平面に対する傾斜角が小さいほど、ヘリカルギヤWにおける円弧部2の近接対向する部位の範囲(ヘリカルギヤWの歯幅方向の範囲)が狭くなる。そのため、誘導加熱される範囲が狭くなり、ヘリカルギヤWにおける当該部位は昇温し易い。
【0050】
また、
図2に示す高周波電源51から誘導加熱コイル1に高周波電流が供給されると、誘導加熱部10に高周波電流が流れる。そのため、ヘリカルギヤWにおける誘導加熱部10と近接対向する部位には高周波誘導電流が励起され、当該部位は高周波誘導加熱される。
【0051】
前述の様に、第一螺旋部3,円弧部2,第二螺旋部4をヘリカルギヤWに投影した投影線が、歯筋15と交差しているので、高周波誘導電流は、投影線に沿って励起され、歯先に沿って流れず、歯先から歯底を経て隣接する別の歯先に流れる。そのため、ヘリカルギヤWの歯面の表層部分が、歯先から歯底に至るまで一様に高周波誘導加熱される。歯面の表層部分とは、歯面(表面)から深さ数ミリ程度(例えば、2~3mm)の部分を指している。
【0052】
ヘリカルギヤWの中央部は熱容量が大きく、この熱容量が大きい中央部には誘導加熱部10の円弧部2が近接対向している。ヘリカルギヤWが鉛直軸(回転軸心P)周りに回転し、円弧部2が鉛直軸と直交する平面h内に配置されているので、ヘリカルギヤWの中央部は比較的長い時間、誘導加熱部10(円弧部2)と近接対向し続ける。そのため、ヘリカルギヤWの中央部の加熱量は多い。
【0053】
一方、ヘリカルギヤWの端部の熱容量は小さく、この熱容量が小さい端部には誘導加熱部10の第一螺旋部3又は第二螺旋部4が近接対向している。ヘリカルギヤWが鉛直軸(回転軸心P)周りに回転すると、ヘリカルギヤWにおける中央部から外れた端部が、誘導加熱部10の第一螺旋部3又は第二螺旋部4のいずれかの部位と近接対向する。
【0054】
ヘリカルギヤWの回転軸心Pと第一螺旋部3又は第二螺旋部4は傾斜しており、ヘリカルギヤWが1回転する間に、ヘリカルギヤWの歯幅方向の端部の周面は、第一螺旋部3又は第二螺旋部4と1回のタイミングで近接対向する。
すなわち、ヘリカルギヤWの端部が、第一螺旋部3又は第二螺旋部4と近接対向する時間は短く、高周波誘導加熱量は少ない。
【0055】
整理すると、ヘリカルギヤWを誘導加熱コイル1で誘導加熱すると、ヘリカルギヤWの熱容量の大きい中央部の誘導加熱量は多くなり、熱容量が小さい端部の誘導加熱量は少なくなり、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部から端部に至るまで一様又は略一様に昇温する。
そのため、ヘリカルギヤWの中央部が必要十分に加熱される。また、端部も必要十分に加熱されるので、冷却工程を加えて高周波焼入した際に、ヘリカルギヤWの端部に焼き逃げ(
図14)が生じない。
よって、誘導加熱コイル1を使用すると、ヘリカルギヤWの歯面の全領域を一様に誘導加熱(高周波焼入)することができる。すなわち、ヘリカルギヤWの表層部分に、歯形に沿った薄い硬化層を形成することができる。ここで表層部分とは、歯面(表面)から深さ数ミリ程度(例えば、2~3mm)の部分を指している。
【0056】
ここで、ヘリカルギヤWの中央部とは、歯幅方向の中央部であって、
図4で見て、円弧部2が近接対向する高さ位置にある部位を指す。また、ヘリカルギヤWの端部とは、
図4で見て、中央部とは異なる高さ位置であって、中央部以外の高さ位置にある部位を指している。
【0057】
上述の例では、円弧部2の一端側には一つの第一螺旋部3が接続されており、他端側には一つの第二螺旋部4が接続されている。すなわち、誘導加熱コイル1には二つの螺旋部が設けられているが、本発明の誘導加熱コイルでは、円弧部2の一端側及び他端側にそれぞれ複数の螺旋部が設けられていてもよい。例えば、円弧部2の一端側又は他端側に、二以上の螺旋部が接続されていてもよい。
【0058】
すなわち、ヘリカルギヤWの中央部から端部に至るまで、熱容量が急激に変化する場合には、第一螺旋部3,第二螺旋部4を複数の分割片に分割し、各分割片の螺旋の傾斜角度を相違させるのが好ましい。
具体的には、熱容量が比較的大きい部位に近接対向する分割片の傾斜角度は小さくし、熱容量が比較的小さい部位に近接対向する分割片の傾斜角度は大きくする。
例えば、中央側から端側へいくほど熱容量が急激に減少する場合には、第一螺旋部3,第二螺旋部4におけるヘリカルギヤWの中央側にある分割片ほど傾斜角度を小さくし、端側にある分割片ほど傾斜角度を大きくする。
【0059】
ここで、傾斜角度とは、螺旋を平面視したときの湾曲の中心周りの単位角度に対する螺旋の高低差(歯幅d方向の長さ)であり、単位角度当たりの高低差が大きいほど傾斜角度は大きい。
【0060】
また、円弧部2の長さ(円弧部2を平面視したときの中心周りの角度範囲)は、ヘリカルギヤWの中央部の熱容量と中央部以外の部位の熱容量の差が大きいほど長くなるように設定するのが好ましい。
さらに、第一螺旋部3,第二螺旋部4の螺旋の傾斜を途中の部位で変化させることにより、ヘリカルギヤWの歯幅d方向の熱容量の大きさの違いに対応させることができる。具体的には、熱容量が比較的大きい部位に近接対向する部位の螺旋の傾斜は小さく(緩やかに)する。逆に、熱容量が比較的小さい部位に近接対向する部位の螺旋の傾斜は大きく(急に)する。
これにより、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部から端部に至る各部位の熱容量に応じて高周波誘導加熱することができ、各部位を一様に昇温させることができる。
【0061】
ヘリカルギヤWの歯幅dが、誘導加熱コイル1を構成する導体の幅の2倍以上である場合に本発明を実施するのが好ましい。
【0062】
(別の実施形態)
次に、
図7乃至
図10を参照しながら、本発明の別の実施形態について説明する。
図7,
図10に示す誘導加熱コイル21(一次誘導加熱コイル)は、
図1の誘導加熱コイル1と同様の構造を有している。すなわち、誘導加熱コイル21は、
図1の誘導加熱コイル1の円弧部2,第一螺旋部3,第二螺旋部4と同様の円弧部22,第一螺旋部23,第二螺旋部24を有しており、円弧部22,第一螺旋部23,第二螺旋部24で誘導加熱部30が構成されている。
【0063】
また、誘導加熱コイル21は、退避部25,26を有している。
退避部25は第一螺旋部23と接続されており、退避部26は第二螺旋部24と接続されている。退避部25,26は、
図1の誘導加熱コイル1の退避部5,6よりもL字の長辺側の部位が長く、この長辺側の部位によって誘導部25a,26aが構成されている。
【0064】
誘導加熱コイル21は、誘導加熱部30,退避部25,26によって囲まれた空間31を有している。
【0065】
空間31には、
図7,
図10に示す様に、二次誘導加熱コイル35が配置されている。
二次誘導加熱コイル35は、環状構造を呈しており、外部電源と接続されていない。
二次誘導加熱コイル35は、
図8(a)、
図8(b)に示す様に、二次誘導加熱部36,二次誘導部37,38,接続部39a,39bを有している。二次誘導加熱コイル35は、銅又は銅合金等の良導体からなる中空の部材である。図示していないが、二次誘導加熱コイル35には、図示しない冷却液供給源が接続されており、自身の昇温を抑制させる冷却液を循環供給することができるようになっている。
【0066】
二次誘導加熱部36は、直線状の導体が湾曲した様な構造を有しており、一端が上側にあり他端が下側にあって上下に傾斜している。すなわち二次誘導加熱部36は螺旋構造を呈しており、
図10に示す様に平面視した際における曲率は、誘導加熱コイル21の誘導加熱部30(円弧部22,第一螺旋部23,第二螺旋部24)の曲率と同程度である。
【0067】
二次誘導部37の一端は、二次誘導加熱部36の上側の一端と接続されている。
また、二次誘導部37の他端は、接続部39aの一端と接続されている。
二次誘導部38の一端は、二次誘導加熱部36の下側の他端と接続されている。
また、二次誘導部38の他端は、接続部39bの一端と接続されている。
接続部39a,39bは、二つの別個の導体であり、互いに通電可能に固定されている。接続部39a,39bの各々の他端側には、冷却液供給源に通じる配管が接続されている。
すなわち、二次誘導部37,38の各々の他端側同士は、接続部39a,39bを介して通電可能である。
換言すると、二次誘導加熱コイル35は、二次誘導加熱部36、二次誘導部37,38、接続部39a,39bが電気的に環状に接続された閉回路構造を有している。また、二次誘導加熱コイル35の内部には、冷却液を循環供給可能である。
【0068】
二次誘導加熱コイル35の周囲の二次誘導加熱部36側を除く三方には、
図9に示す様な誘導部材40が設けられている。誘導部材40は、板状の部材が二箇所で折り曲げられたような形状を呈しており、二次誘導部37,38及び接続部39a,39bと一体化されている。すなわち、誘導部材40は、二次誘導部37,38及び接続部39a,39bと導通している。
【0069】
以上説明した様な構造を有する二次誘導加熱コイル35は、
図7,
図10に示す様に、誘導加熱コイル21の空間31内に配置されている。二次誘導部37,38及び接続部39a,39bと一体化された誘導部材40の一部が、誘導加熱コイル21の誘導部25a,26aと近接している。
また、
図10に示す様に、平面視した際における円弧状の二次誘導加熱部36の中心と、誘導加熱コイル21の誘導加熱部30の中心は一致しているのが好ましい。
そして、ヘリカルギヤWを誘導加熱する際には、
図10に示す様に、誘導加熱部30と二次誘導加熱部36は、ヘリカルギヤWの歯面の全周囲のうちの異なる角度範囲部分にそれぞれ近接対向する。
【0070】
高周波電源51から誘導加熱コイル21に高周波電流が供給されると、退避部25,26の誘導部25a,26aに高周波電流が流れ、誘導部材40には高周波誘導電流が励起される。誘導部材40に励起された高周波誘導電流は、二次誘導加熱コイル35の二次誘導部37,38を介して二次誘導加熱部36にも流れる。
【0071】
二次誘導加熱部36は螺旋構造としたが、ヘリカルギヤWの回転軸心Pと直交する平面内に配置された円弧部としてもよく、ヘリカルギヤWにおける加熱量が不足していると思われる部位の加熱を促進するように適宜変更が可能である。
すなわち、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部の加熱量が不足する場合には、二次誘導加熱部36を、円弧部2と同様の円弧形に構成して当該中央部に近接させる。また、ヘリカルギヤWの歯幅方向の端部の加熱量が不足する場合には、二次誘導加熱部36を、円弧部2と同様の円弧形に構成して当該端部に近接する様に構成する。具体例を
図11,
図12に示す。
【0072】
図11に示す誘導加熱コイル21及び二次誘導加熱コイル45は、銅又は銅合金等からなる横断面が四角形の中空の線状部材で構成されている。
図11では、描写の都合上、誘導加熱コイル21及び二次誘導加熱コイル45を一本の線で表している。また、図示していないが、二次誘導加熱コイル45には
図7,
図10に示す誘導部材40と同様の誘導部材が設けられている。
図11に示す様に、二次誘導加熱コイル45は、
図7と同様の誘導加熱コイル21の空間31内に配置されている。
【0073】
二次誘導加熱コイル45は、二次誘導加熱部46と、二次誘導部47,48と、接続部49を有し、これらが接続されて電気的な閉回路を構成している。また、二次誘導加熱コイル45は、図示しない冷却液供給源から冷却液が循環供給される。すなわち、図示していないが、接続部49に冷却液を導く一対(往路側と復路側)のリード部が設けられており、このリード部を介して図示しない冷却液供給源から二次誘導加熱コイル45に冷却液が循環供給される。
【0074】
二次誘導加熱部46は、円弧状に湾曲した部位であり、
図11で見てヘリカルギヤWの歯面の高さ方向(歯幅方向)の中央部に近接対向する部位である。
二次誘導部47,48は直線状を呈する部位であり、二次誘導加熱部46の一端及び他端にそれぞれ接続されている。また、二次誘導部47,48は、誘導加熱コイル21の直線状の退避部25,26(誘導部25a,25b)と平行である。
接続部49は、二次誘導部47,48を電気的に接続している。すなわち、二次誘導部47,48は接続部49を介して通電可能である。
以上の様に、二次誘導加熱部46,二次誘導部47,接続部49,二次誘導部48は、この順に電気的に環状に接続されている。
二次誘導加熱コイル45がヘリカルギヤWに近接すると、二次誘導加熱部46のヘリカルギヤWへの投影線は、ヘリカルギヤWの歯筋15と交差する。交差角は45度~135度の範囲内である。
図11に示す様に、二次誘導加熱コイル45では、二次誘導加熱部46がヘリカルギヤWに近接対向し、ヘリカルギヤWの歯面の歯幅方向の中央部分の誘導加熱に寄与する。
【0075】
誘導加熱コイル21に高周波電流が供給されると、誘導加熱コイル21の誘導加熱部30(円弧部22,第一螺旋部23,第二螺旋部24)に矢印I1で示す高周波電流が流れ、ヘリカルギヤWにおける誘導加熱部30と近接対向する部位に高周波誘導電流が励起され、当該部位が加熱される。また、ヘリカルギヤWは、
図4,
図6に示す回転軸心P周りに図示しない駆動機構によって回転駆動されており、ヘリカルギヤWの周面(歯面)全体が誘導加熱されて昇温する。
【0076】
誘導加熱部30(円弧部22,第一螺旋部23,第二螺旋部24)のヘリカルギヤWへの投影線は、歯筋15と45度~135度の角度で交差しているので、高周波誘導電流は、歯筋15に沿って流れず、歯先から歯底を経て隣接する別の歯先へと流れる。そのため、ヘリカルギヤWの歯面(表面部分)が良好に誘導加熱される。
【0077】
誘導加熱部30のヘリカルギヤWへの投影線と歯筋15の交差角度は、直角であるのが好ましい。交差角度が直角であると、励起された高周波誘導電流が、ヘリカルギヤWの歯筋15と交差する様に最も流れ易い。
【0078】
また、誘導加熱コイル21に高周波電流I1が供給されると、退避部25,26の誘導部25a,26aに高周波電流I1が流れる。誘導部25a,26aに高周波電流I1が流れると、二次誘導加熱コイル45の二次誘導部47,48には高周波誘導電流I2が励起される。そして、この高周波誘導電流I2は、二次誘導加熱コイル45に沿って流れる。すなわち高周波誘導電流I2は、二次誘導加熱部46にも流れる。
二次誘導加熱部46は、ヘリカルギヤWの周面(歯面)の歯幅方向の中央部に近接対向しており、ヘリカルギヤWの当該中央部には、高周波誘導電流I2によって、高周波誘導電流が励起され、当該中央部は誘導加熱されて昇温する。
矢印I1,I2は高周波の電流であって流れ方向は変動するが、
図11では便宜的にある一瞬における流れ方向を固定して描写している。
【0079】
ここで、二次誘導加熱部46のヘリカルギヤWへの投影線が、歯筋15と45度~135度の角度で交差しているので、歯面に励起された高周波誘導電流は、歯筋15に沿って流れず、歯先から歯底を経て隣接する別の歯先へと流れる。すなわち、二次誘導加熱部46を流れる高周波誘導電流によって励起された高周波誘導電流は、ヘリカルギヤWの歯先から歯底を経て隣接する別の歯先に歯面の表層部分に沿って流れ、ヘリカルギヤWの中央部は誘導加熱されて昇温する。
【0080】
ヘリカルギヤWの歯面の中央部は、誘導加熱コイル21の誘導加熱部30の円弧部22と、二次誘導加熱コイル45の二次誘導加熱部46によって同時に誘導加熱される。よって、中央部は良好に昇温する。
【0081】
また、誘導加熱コイル21の円弧部22と二次誘導加熱コイル45の二次誘導加熱部46は、
図11に示す様に、ヘリカルギヤWの周囲の互いに反対側に配置されており、ヘリカルギヤWの周面における異なる角度範囲に近接対向している。そのため、ヘリカルギヤWが回転すると、ヘリカルギヤWの中央部の周面は、円弧部22及び二次誘導加熱部46のいずれにも近接対向することができる。
【0082】
すなわち、ヘリカルギヤWが回転して、円弧部22に近接対向する角度範囲から外れたヘリカルギヤWの歯面(周面)の部位は、次に円弧部22に対向するまでの間に、二次誘導加熱部46と近接対向する。そのため、ヘリカルギヤWの歯面(周面)は、円弧部22及び二次誘導加熱部46と近接対向している間、誘導加熱される。
【0083】
換言すると、二次誘導加熱コイル45を設けたことによって、ヘリカルギヤWが一回転する間における、ヘリカルギヤWの中央部の加熱される正味の時間が増え、加熱量が増えて、熱容量が大きい中央部は良好に昇温する。
【0084】
円弧状の二次誘導加熱部46の長さは、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部と端部の熱容量の差に応じて任意に設定することができる。すなわち、熱容量の差が大きい程、二次誘導加熱部46の長さを長くし、ヘリカルギヤWに対向する角度範囲を大きくする。これにより、ヘリカルギヤWの中央部の加熱量が増加し、ヘリカルギヤWの周面が中央部から端部に至るまで略一様に昇温する。
【0085】
図11では、ヘリカルギヤWの中央部の熱容量が特に大きい場合について説明したが、次に、ヘリカルギヤWの歯幅方向の両端部の加熱量を増加させたい場合について
図12を参照しながら説明する。
【0086】
図12に示す二次誘導加熱コイル55は、
図11の二次誘導加熱コイル45と同様に、誘導加熱コイル21の空間31内に配置されて使用される。
【0087】
二次誘導加熱コイル55も二次誘導加熱コイル45と同様の銅又は銅合金等の良導体からなる線状部材で構成されている。二次誘導加熱コイル55を構成する線状部材は、横断面が四角形の中空構造を有している。
【0088】
図12に示す様に二次誘導加熱コイル55は、二次誘導加熱部56,二次誘導部57,58,接続部59を有している。
二次誘導部57,58と接続部59は、
図11の二次誘導加熱コイル45の二次誘導部47,48及び接続部49と同様の構造を呈している。
二次誘導加熱部56は、第一円弧部56a,第二円弧部56b,螺旋部56cを有している。
また、図示していないが、二次誘導加熱コイル55には
図7,
図10に示す誘導部材40と同様の誘導部材が設けられている。
【0089】
二次誘導加熱部56の第一円弧部56aは、ヘリカルギヤWの誘導加熱時に、
図12で見てヘリカルギヤWの上端付近に近接対向する円弧状の部位であり、第二円弧部56bは、
図12で見てヘリカルギヤWの下端付近に近接対向する円弧状の部位である。第一円弧部56a,第二円弧部56bのヘリカルギヤWへの投影線は、ヘリカルギヤWの歯筋15と45度~135度の範囲内の角度で交差している。
【0090】
また、螺旋部56cは、第一円弧部56aの一端と第二円弧部56bの一端とを接続する螺旋状の部位である。螺旋部56cは、ヘリカルギヤWの上端側から下端側に至る様に螺旋を描いてヘリカルギヤWの歯面と対向しており、螺旋部56cにおけるヘリカルギヤWへの投影線は、ヘリカルギヤWの歯筋15と45度~135度の範囲内の角度で交差している。
【0091】
二次誘導加熱コイル55では、二次誘導加熱部56(第一円弧部56a,第二円弧部56b,螺旋部56c)がヘリカルギヤWに近接し、ヘリカルギヤWの誘導加熱に寄与する。
【0092】
二次誘導加熱部56,二次誘導部57,58,接続部59は、電気的に環状に接続されて閉回路を構成している。すなわち、二次誘導加熱コイル35は環状構造を呈しており、外部電源には接続されていない。
【0093】
また、二次誘導加熱コイル55の内部には、図示しない冷却液供給源から冷却液が循環供給され、誘導時における自身の昇温が抑制される。
【0094】
誘導加熱コイル21に高周波電流が供給されると、誘導加熱コイル21の誘導加熱部30(円弧部22,第一螺旋部23,第二螺旋部24)に高周波電流が流れ、ヘリカルギヤWにおける誘導加熱部30と近接対向する部位には、高周波誘導電流が励起される。また、ヘリカルギヤWは、
図4,
図6に示す回転軸心P周りに図示しない駆動機構によって回転駆動されており、ヘリカルギヤWの全周面(歯面)が誘導加熱部30と順に近接対向し、ヘリカルギヤWの周面(歯面)全体が誘導加熱されて昇温する。
【0095】
また、誘導加熱コイル21に高周波電流I1が供給されると、退避部25,26の誘導部25a,26aに高周波電流I1が流れる。誘導部25a,26aに高周波電流I1が流れると、二次誘導加熱コイル55の二次誘導部57,58には高周波誘導電流I2が励起される。そして、この高周波誘導電流I2は、二次誘導加熱コイル55に沿って流れる。すなわち高周波誘導電流I2は、二次誘導加熱部56にも流れる。
【0096】
二次誘導加熱コイル55の二次誘導加熱部56の螺旋部56c,第一円弧部56a,第二円弧部56bは、それぞれヘリカルギヤWの幅方向の中央部及び両端部に近接対向しており、ヘリカルギヤWの中央部及び両端部は二次誘導加熱コイル55を流れる高周波誘導電流I2(二次誘導電流)によって誘導加熱される。
【0097】
すなわち、ヘリカルギヤWの歯面は、誘導加熱コイル21の誘導加熱部30と、二次誘導加熱コイル55の二次誘導加熱部56によって同時に誘導加熱される。
矢印I1,I2は高周波の電流であって流れ方向は変動するが、
図12では便宜的にある一瞬における流れ方向を固定して描写している。
【0098】
また、誘導加熱コイル21の誘導加熱部30と二次誘導加熱コイル55の二次誘導加熱部56は、
図12に示す様に、ヘリカルギヤWの周囲の互いに反対側に配置されており、ヘリカルギヤWの周面における異なる角度範囲に近接対向している。そのため、ヘリカルギヤWが回転すると、ヘリカルギヤWの歯面は、誘導加熱部30及び二次誘導加熱部46と近接対向している間、誘導加熱される。
【0099】
すなわち、二次誘導加熱コイル55を設けたことによって、ヘリカルギヤWが一回転する間における、ヘリカルギヤWの歯面の加熱される正味の時間が増え、加熱量が増える。その結果、ヘリカルギヤWの各部位は、熱容量の大きさに応じて加熱量が設定され、一様に昇温する。
【0100】
上述の実施例では、螺旋部56cが、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部に近接対向しているが、ヘリカルギヤWの中央部の加熱量が過多になる場合には、螺旋部56cをヘリカルギヤWの表面から遠ざかる様に湾曲させ、螺旋部56cが誘導加熱に寄与しない様にすることもできる。
【0101】
(さらに別の実施形態)
図13に示す誘導加熱コイル61(一次誘導加熱コイル),二次誘導加熱コイル70は、銅又は銅合金等からなる横断面が四角形の中空の線状部材で構成されている。
図13では、描写の都合上、誘導加熱コイル61及び二次誘導加熱コイル70を一本の線で表している。
【0102】
誘導加熱コイル61は、螺旋状の誘導加熱部62、退避部65,66を有する。
平面視すると、誘導加熱部62は、ヘリカルギヤWの全周面のうちの半分の領域に近接対向している。また、誘導加熱部62は、ヘリカルギヤWの歯幅方向の一方の端部側から他方の端部側へ傾斜してのびている。
図13では、誘導加熱部62は、ヘリカルギヤWの下端側から上端側へ(又はその逆に)一様な傾斜角の螺旋を描いている。
誘導加熱部62のヘリカルギヤWへの投影線は、ヘリカルギヤWの歯筋15と45度~135度の範囲内の角度で交差している。
誘導加熱部62の両端には、それぞれL字形の退避部65,66が接続されている。そして、誘導加熱部62,退避部65,66によって誘導加熱コイル61内には空間63が形成されている。
【0103】
図13に示す様に、二次誘導加熱コイル70は、誘導加熱コイル61の空間63に配置されている。
【0104】
二次誘導加熱コイル70は、二次誘導加熱部71と、二次誘導部72,73と、接続部74を有し、これらが接続されて電気的な閉回路を構成している。また、二次誘導加熱コイル70には、図示しない冷却液供給源から冷却液が循環供給されている。すなわち、図示していないが、接続部74に冷却液を導く一対(往路側と復路側)のリード部が設けられており、このリード部を介して図示しない冷却液供給源から二次誘導加熱コイル70に冷却液が循環供給される。
【0105】
二次誘導加熱部71は、円弧状に湾曲した部位であり、
図13で見てヘリカルギヤWの歯面の高さ方向(歯幅方向)の中央部に近接対向する部位である。
二次誘導部72,73は直線状を呈する部位であり、二次誘導加熱部71の一端及び他端にそれぞれ接続されている。また、二次誘導部72,73は、誘導加熱コイル61の直線状の退避部65,66と平行である。
接続部74は、二次誘導部72,73を電気的に接続している。すなわち、二次誘導部72,73は接続部74を介して通電可能である。
以上の様に、二次誘導加熱部71,二次誘導部72,接続部74,二次誘導部73は、この順に電気的に環状に接続されている。
また、図示していないが、二次誘導加熱コイル70には
図7,
図10に示す誘導部材40と同様の誘導部材が設けられている。
【0106】
二次誘導加熱コイル70がヘリカルギヤWに近接すると、二次誘導加熱部71のヘリカルギヤWへの投影線は、ヘリカルギヤWの歯筋15と45度~135度の範囲内の角度で交差する。
また、高周波電流I1が流れる退避部65,66によって二次誘導部72,73には高周波誘導電流I2が励起される。この高周波誘導電流I2が二次誘導加熱部71に流れる。
図13に示す様に、二次誘導加熱部71がヘリカルギヤWに近接対向しており、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部の誘導加熱に寄与する。
【0107】
以上説明した
図13に示す誘導加熱コイル61と二次誘導加熱コイル70によって、ヘリカルギヤWの歯幅方向の中央部から端部に至るまで良好に誘導加熱される。
【0108】
また、誘導加熱後、冷却工程を経てヘリカルギヤWを高周波焼入すると、ヘリカルギヤWの歯面は、歯幅方向の中央部から端部に至るまで良好に焼入され、歯先から歯底にかけて歯面の表層部分に一様な硬化層が形成される。すなわち、ヘリカルギヤWは、良好に輪郭焼入される。
【符号の説明】
【0109】
1 誘導加熱コイル
2,22 円弧部
3,23 第一螺旋部
4,24 第二螺旋部
10,30 誘導加熱部
15 歯筋
21,61 一次誘導加熱コイル
35,45,55,70 二次誘導加熱コイル
36,46,56,71 二次誘導加熱部
62 螺旋部
d ヘリカルギヤの歯幅
W ヘリカルギヤ
h 誘導加熱コイルの円弧部が含まれる平面
I1 一次誘導加熱コイルに供給された高周波電流
I2 二次誘導加熱コイルに励起された高周波誘導電流
r1 円弧部の中心角
r2,r3 第一,第二螺旋部の中心角