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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】熱処理システム
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/10 20060101AFI20220602BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20220602BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20220602BHJP
   H05B 6/38 20060101ALI20220602BHJP
   H05B 6/06 20060101ALI20220602BHJP
   C21D 9/30 20060101ALN20220602BHJP
   C21D 9/40 20060101ALN20220602BHJP
   C21D 9/28 20060101ALN20220602BHJP
【FI】
C21D1/10 D
C21D1/42 F
H05B6/10 331
H05B6/38
C21D1/10 S
C21D1/10 H
H05B6/06
C21D9/30 B
C21D9/40 B
C21D9/28 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018029761
(22)【出願日】2018-02-22
(65)【公開番号】P2019143216
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 哲正
(72)【発明者】
【氏名】井上 昌大
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-034717(JP,A)
【文献】特開2015-172218(JP,A)
【文献】特開2010-065306(JP,A)
【文献】特開2011-001575(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194248(WO,A1)
【文献】特開平05-059455(JP,A)
【文献】国際公開第2008/126639(WO,A1)
【文献】特開昭61-207507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/10-11/00
H05B 6/00- 6/10
H05B 6/14- 6/44
G06N 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱部と制御部を有し、
前記誘導加熱部は、加熱コイルを取り付け可能であって、当該加熱コイルにより、ワークに対して誘導加熱を行うものであり、
前記制御部は、入力部と、記憶部と、機械学習部を有するものであって、前記誘導加熱部での誘導加熱に使用する加熱パラメータを設定可能であり、
前記記憶部は、過去の加熱パラメータと、前記過去の加熱パラメータに基づいて実施した誘導加熱における過去の加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報を紐づけて記憶するものであり、
前記機械学習部は、教師あり学習を行うものであって、過去の加熱パラメータと、当該過去の加熱パラメータで行った過去の加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報の関係を教師データとして学習するものであり、
前記入力部に加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報が入力されたときに、前記機械学習部が前記学習に基づいて、入力された加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報から記憶部で記憶された過去の加熱パラメータと、当該過去の加熱パラメータで行った過去の加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報の関係により、加熱パラメータを決定し、当該加熱パラメータに基づいて前記誘導加熱部がワークに誘導加熱を行うことを特徴とする熱処理システム。
【請求項2】
前記入力部に入力する加熱前のワークの情報は、ワークの形状、ワークの熱処理範囲、ワークの熱容量、及びワークの素材のうち、少なくとも一つの情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱処理システム。
【請求項3】
前記加熱コイルは、コアを取り付け可能であり、
前記加熱コイルの情報は、前記加熱コイルの形状、取り付けたコアの重量、取り付けたコアの材質、及び取り付けたコアの取付位置のうち、少なくとも一つの情報を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理システム。
【請求項4】
前記入力部に入力する加熱後のワークの情報は、加熱後のワークの硬度、加熱後のワークの熱処理深さ、加熱後のワークの熱処理範囲、加熱後のワークの組織、加熱後のワークの変形量、及び加熱後のワークの結晶粒径のうち、少なくとも一つの情報を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の熱処理システム。
【請求項5】
高周波電源と、冷却装置を有し、
前記加熱コイルは、コアを取り付け可能であり、
前記高周波電源は、高周波発振器と、一次側コイルと二次側コイルを備えた変圧器と、コンデンサを備えており、
前記冷却装置は、前記誘導加熱部が前記ワークに誘導加熱を行った後に前記ワークにワーク冷却水を噴射して冷却するものであり、
前記決定する加熱パラメータは、下記の(1)~(11)の加熱パラメータのうち少なくとも一つの加熱パラメータを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理システム。
(1)前記加熱コイルに印加する電圧
(2)前記加熱コイルによる加熱時間
(3)加熱後に前記ワークに前記ワーク冷却水をかけるまでの遅延時間
(4)前記冷却装置による前記ワークの冷却時間
(5)前記ワークの回転数
(6)前記コンデンサの電気容量
(7)前記ワーク冷却水の流量
(8)前記変圧器の一次側コイルと二次側コイルの巻き数比率
(9)前記コアの量
(10)前記コアの前記加熱コイルへの取付位置
(11)前記高周波発振器の出力電圧
【請求項6】
前記機械学習部は、4層以上のニューラルネットワークに則して学習するディープラーニング部であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の熱処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに対して誘導加熱処理を行う熱処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼材等のワークに対して強度(耐摩耗性や耐疲労性)等の物性を付与する方策として、高周波焼入れがある(例えば、特許文献1)。
この高周波焼入れは、加熱工程と冷却工程があり、加熱工程において高周波加熱によりワークを加熱するので、短時間で加熱処理が可能であるとともに、ワークの表面付近のみを加熱でき、ワークの表面付近のみの物性を変化させることが可能である。
例えば、一般的な誘導加熱装置で円柱状のワークの外周面に高周波焼入れを行う場合、まず、ワークの外周面に加熱コイルを近接させ、当該加熱コイルに一定の周波数の電流を供給することによって、ワークの外周面で誘導電流を生じさせてワークの外周面を誘導加熱する。そして、加熱されたワークの外周面に向けて冷却液を噴射することにより急冷する。こうすることにより、ワークの表面付近のみ物性を変化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-147041号公報
【文献】特開2015-067838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、ワークに誘導加熱装置で誘導加熱処理を行う際には、調整用のワークを用いて熱処理し、熱処理の状況に合わせて熟練者が加熱時に使用する電圧等の加熱パラメータを調整する。そして、調整により最適な加熱パラメータが決まると、最適な加熱パラメータで実際の製品となるワークに熱処理を行っていく。
【0005】
しかしながら、加熱時に使用する加熱パラメータの調整は、熟練者の経験により蓄積された知識に大きく依存し、ワークの形状等によっては熟練者であっても困難な場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、熟練者でなくても、ワークの形状等に合わせて誘導加熱処理が可能な熱処理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、誘導加熱部と制御部を有し、前記誘導加熱部は、加熱コイルを取り付け可能であって、当該加熱コイルにより、ワークに対して誘導加熱を行うものであり、前記制御部は、入力部と、記憶部と、機械学習部を有するものであって、前記誘導加熱部での誘導加熱に使用する加熱パラメータを設定可能であり、前記記憶部は、過去の加熱パラメータと、前記過去の加熱パラメータに基づいて実施した誘導加熱における過去の加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報を紐づけて記憶するものであり、前記機械学習部は、教師あり学習を行うものであって、過去の加熱パラメータと、当該過去の加熱パラメータで行った過去の加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報の関係を教師データとして学習するものであり、前記入力部に加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報が入力されたときに、前記機械学習部が前記学習に基づいて、入力された加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報から記憶部で記憶された過去の加熱パラメータと、当該過去の加熱パラメータで行った過去の加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報の関係により、加熱パラメータを決定し、当該加熱パラメータに基づいて前記誘導加熱部がワークに誘導加熱を行うことを特徴とする熱処理システムである。
すなわち、本発明は、誘導加熱部と制御部を有し、前記誘導加熱部は、加熱コイルを取り付け可能であって、当該加熱コイルにより、ワークに対して誘導加熱を行うものであり、前記制御部は、入力部と、記憶部と、機械学習部を有するものであって、前記誘導加熱部での誘導加熱に使用する加熱パラメータを設定可能であり、前記記憶部は、過去の加熱パラメータと、前記過去の加熱パラメータに基づいて実施した誘導加熱における過去の加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報を紐づけて記憶するものであり、前記入力部に加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報が入力されたときに、入力された加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報から記憶部で記憶された過去の加熱パラメータと、当該過去の加熱パラメータで行った過去の加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報の関係により、加熱パラメータを決定し、当該加熱パラメータに基づいて前記誘導加熱部がワークに誘導加熱を行う。
【0008】
本発明の構成によれば、機械学習部が作業者により入力部に入力された加熱前のワークの情報、加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報から加熱パラメータを決定し、ワークに誘導加熱を行うため、作業者が加熱パラメータの調整を行う必要がなく、作業者が熟練者でなくても、ワークに合わせた誘導加熱を行うことができる。
【0009】
請求項1に記載の熱処理システムにおいて、前記入力部に入力する加熱前のワークの情報は、ワークの形状、ワークの熱処理範囲、ワークの熱容量、及びワークの素材のうち、少なくとも一つの情報を含むことが好ましい(請求項2)。
【0010】
請求項1又は2に記載の熱処理システムにおいて、前記加熱コイルは、コアを取り付け可能であり、前記加熱コイルの情報は、前記加熱コイルの形状、取り付けたコアの重量、取り付けたコアの材質、及び取り付けたコアの取付位置のうち、少なくとも一つの情報を含むことが好ましい(請求項3)。
【0011】
請求項1乃至3のいずれかに記載の熱処理システムにおいて、前記入力部に入力する加熱後のワークの情報は、加熱後のワークの硬度、加熱後のワークの熱処理深さ、加熱後のワークの熱処理範囲、加熱後のワークの組織、加熱後のワークの変形量、及び加熱後のワークの結晶粒径のうち、少なくとも一つの情報を含むことが好ましい(請求項4)。
【0012】
請求項1又は2に記載の熱処理システムにおいて、高周波電源と、冷却装置を有し、前記加熱コイルは、コアを取り付け可能であり、前記高周波電源は、高周波発振器と、一次側コイルと二次側コイルを備えた変圧器と、コンデンサを備えており、前記冷却装置は、前記誘導加熱部が前記ワークに誘導加熱を行った後に前記ワークにワーク冷却水を噴射して冷却するものであり、前記決定する加熱パラメータは、下記の(1)~(11)の加熱パラメータのうち少なくとも一つの加熱パラメータを含むことが好ましい(請求項5)。
(1)前記加熱コイルに印加する電圧
(2)前記加熱コイルによる加熱時間
(3)加熱後に前記ワークに前記ワーク冷却水をかけるまでの遅延時間
(4)前記冷却装置による前記ワークの冷却時間
(5)前記ワークの回転数
(6)前記コンデンサの電気容量
(7)前記ワーク冷却水の流量
(8)前記変圧器の一次側コイルと二次側コイルの巻き数比率
(9)前記コアの量
(10)前記コアの前記加熱コイルへの取付位置
(11)前記高周波発振器の出力電圧
【0013】
上記の熱処理システムにおいて、前記機械学習部は、教師あり学習を行うものであって、過去の加熱パラメータと、当該過去の加熱パラメータで行った過去の加熱前のワークの情報、前記加熱コイルの情報、及び加熱後のワークの情報の関係を教師データとして学習する。
【0014】
請求項に記載の発明は、前記機械学習部は、4層以上のニューラルネットワークに則して学習するディープラーニング部であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の熱処理システムである。
【0015】
本発明の構成によれば、より精度良く最適な加熱パラメータを決定できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱処理システムによれば、熟練者でなくても、ワークの形状等に合わせて誘導加熱処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態の熱処理システムのブロック図である。
図2図1の誘導加熱部の斜視図である。
図3図1の加熱コイル周囲の電気回路図である。
図4図1のディープラーニング部の説明図であり、(a)はニューロンのモデルを示す模式図であり、(b)ニューラルネットワークモデルを示す模式図である。
図5】本発明の第2実施形態の誘導加熱部の斜視図である。
図6図5の誘導加熱部における焼入れ時の側面図であり、(a)は焼入れ開始時を表し、(b)は焼入れ途中を表し、(c)は焼入れ終了時を表す。
図7】本発明の他の実施形態の誘導加熱部の斜視図である。
図8】本発明の他の実施形態の誘導加熱部の斜視図である。
図9】本発明の他の実施形態の誘導加熱部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施形態の熱処理システム1について説明する。
【0019】
本発明の第1実施形態の熱処理システム1は、主にワーク100に対して高周波焼き入れを行うものである。熱処理システム1は、ワーク100に対する加熱機能と冷却機能を備えた高周波焼き入れ装置であるともいえる。
熱処理システム1は、図1のように、誘導加熱部2と、制御部3を備えている。
【0020】
誘導加熱部2は、図2のように、ワーク100に対していわゆる固定焼きを行う部位であり、主要構成部材として、図1のように、高周波電源10と、加熱コイル11と、コイル移動装置12と、コイル冷却装置13と、ワーク冷却装置14と、ワーク移動装置15を備えている。
【0021】
高周波電源10は、加熱コイル11に給電する電源装置であり、図3のように、電源側回路20と、誘導側回路21を備えている。
電源側回路20は、商用電源101に電気的に接続される回路であって、電源接続部30,31と、高周波発振器32と、コンデンサ33と、一次側コイル34が接続された回路である。
電源接続部30,31は、外部の商用電源101と接続可能な接続部である。
高周波発振器32は、電源接続部30,31に商用電源101を接続した状態において、商用電源101から供給される商用電力を所定の周波数の電力に調整するものである。
コンデンサ33は、力率を改善させるものである。
誘導側回路21は、二次側コイル35と、加熱コイル11が接続された回路である。
二次側コイル35は、一次側コイル34とともに変圧器36を構成している。
【0022】
加熱コイル11は、図2のように、銅又は銅合金等の良導体で構成され、その内部が中空の管状部材であり、一本の管状部材が湾曲され、ワーク100の外周面に沿った形状となっている。
加熱コイル11は、その内部に自己の昇温を抑制するコイル冷却液を流通可能となっている。本実施形態の加熱コイル11は、いわゆる半開放コイルであり、円弧部分41と直線部分42を備えている。
円弧部分41は、ワーク100の外周面に沿って湾曲した部分であり、直線部分42は、円弧部分41から直立し、ワーク100の軸方向に延びた部分である。
加熱コイル11は、必要に応じてコア40を所望の位置に取り付け可能となっており、コア40をワーク100の熱処置対象部位以外の部分に取り付けることによって、ワーク100の熱処理対象部位を集中的に加熱することができる。
【0023】
コイル移動装置12は、加熱コイル11をワーク100に対して近接・離反させる移動装置である。
【0024】
コイル冷却装置13は、供給源と、循環ポンプを備え、加熱コイル11の内部にコイル冷却水を供給し、コイル冷却水を循環させて通電中の加熱コイル11の温度上昇を抑制する装置である。
【0025】
ワーク冷却装置14は、ワーク100を加熱コイル11で誘導加熱した後にワーク冷却水(いわゆる、焼入れ水)を噴射し、昇温したワーク100を冷却する装置である。
ワーク冷却装置14は、図2のように、焼入れ水を噴射する噴射部45と、ワーク冷却水を噴射部45に供給する供給源(図示せず)を備えている。
噴射部45は、冷却時にワーク100を挟んで加熱コイル11と対向する位置に配され、供給源から供給されたワーク冷却水をワーク100に向かって噴射可能となっている。
【0026】
ワーク移動装置15は、ワーク100を加熱コイル11に対して近接・離反させる移動装置である。
【0027】
制御部3は、図1のように、誘導加熱部2の各構成装置10~15を制御する部位であり、無線又は有線を介して誘導加熱部2に接続されている。
制御部3は、加熱処理時に誘導加熱部2での各構成装置10~15で用いるパラメータである加熱パラメータを設定可能であり、各構成装置10~15を加熱パラメータで制御可能となっている。
制御部3は、誘導加熱部2と異なる建屋に設けられていてもよい。この場合、制御部3は、誘導加熱部2とイントラネットやインターネット等のネットワークを介して通信可能に相互接続されていることが好ましい。こうすることで、建屋の異なる複数拠点で誘導加熱部2を一括管理することもできる。
【0028】
制御部3は、図1のように、主要構成要素として、ディープラーニング部50(機械学習部)と、データ蓄積部51(記憶部)と、出力制御部52と、入力部53と、表示部54を備えている。
ディープラーニング部50は、データ蓄積部51に蓄積された過去の加熱パラメータ、過去の加熱前のワーク100の情報、加熱コイル11の情報、及び加熱後のワーク100の情報を使用して自ら機械学習をする機能をもち、当該学習に基づいて入力部53に入力された過去の加熱前のワーク100の情報、加熱コイル11の情報、及び加熱後のワーク100の情報から最適な加熱パラメータを特定し、データ蓄積部51に記憶可能となっている。
【0029】
本実施形態のディープラーニング部50は、いわゆる教師あり学習で学習する機能があり、後述するニューラルネットワーク等のアルゴリズムに則して教師あり学習を行うことが可能となっている。
ここで、「教師あり学習」とは、教師データ、すなわち、ある入力と結果のデータの組を大量にディープラーニング部50に与えることで、それらのデータセットにある特徴を学習し、入力から結果を推定するモデル(誤差モデル)、すなわち、入力と結果の関係性を帰納的に獲得するものである。
すなわち、ディープラーニング部50は、過去の加熱パラメータと、過去の加熱パラメータに基づいて実施した誘導加熱における過去の加熱前のワーク100の情報、加熱コイル11の情報、及び加熱後のワーク100の情報を紐づけし、加熱パラメータと、過去の加熱前のワーク100の情報、加熱コイル11の情報、及び加熱後のワーク100の情報との相関関係を学習する。そして、入力部53に過去の加熱前のワーク100の情報、加熱コイル11の情報、及び加熱後のワーク100の情報が入力されると、加熱パラメータとの相関関係に基づいて、最適な加熱パラメータを決定する。
本実施形態のディープラーニング部50の詳細については、後述する。
【0030】
データ蓄積部51は、メモリやハードディスク等の記憶装置を備え、過去及び現在の誘導加熱部2での加熱パラメータ、過去及び現在において入力部53に入力された過去の加熱前のワーク100の情報、加熱コイル11の情報、及び加熱後のワーク100の情報を記憶し、蓄積する部位である。
【0031】
出力制御部52は、誘導加熱部2での各構成装置10~15をディープラーニング部50で抽出した加熱パラメータで制御し、使用した加熱前の加熱パラメータ及び計測した加熱後の加熱パラメータをデータ蓄積部51に送信する部位である。
【0032】
入力部53は、作業者が加熱前のワーク100の情報、加熱コイル11の情報、及び加熱後のワーク100の情報を入力する部位である。
【0033】
表示部54は、作業者にコア40の要否等の構造的な加熱パラメータを表示するものである。
なお、入力部53と表示部54は、例えば、タッチパネル等を採用とすることによって一体とすることもできる。
【0034】
コア40は、磁性体であって、図2のように加熱コイル11の表面に取り付けられ、加熱コイル11から発生する磁界を集めて特定部位の誘導電流量を増やす部材であり、例えば、フェライトコアである。
【0035】
ワーク100は、円柱状の被加熱部位を持つ鋼材であり、本実施形態では、炭素鋼材を採用している。
【0036】
続いて、本発明の第1実施形態の熱処理システム1を使用してワーク100に高周波焼入れを行う場合の一例について説明する。
【0037】
まず、作業者が入力部53に今回の加熱対象のワーク100の情報を入力する。具体的には、入力部53にワーク100の素材、ワーク100の形状(例えば、ワーク100の直径、ワーク100の外周面積、ワーク100の体積)、ワーク100の熱処理範囲、ワーク100の熱容量を入力する。
また、作業者が入力部53に今回の焼入れに使用する加熱コイル11の情報を入力する。具体的には、入力部53に加熱コイル11の種類(本実施形態では半開放コイル)、加熱コイル11の形状(例えば、円弧部分41の中心角の角度、円弧部分41の数、円弧部分41の半径、直線部分42の長さ)を入力する。
さらに、作業者が入力部53に今回の加熱により製造するワーク100の情報を入力する。具体的には、入力部53にワーク100の硬度、ワーク100の熱処理範囲、ワーク100の熱処理深さ、ワーク100の組織、ワーク100の変形量、ワーク100の結晶粒径を入力する。
上記の作業者による入力部53への加熱対象のワーク100の情報、使用する加熱コイル11の情報、及び加熱により製造するワーク100の情報の入力順は、特に限定されない。
【0038】
作業者の入力部53への上記の各種情報の入力が完了すると、ディープラーニング部50が過去の加熱パラメータと、過去の加熱パラメータで行った過去の加熱前のワーク100の情報、加熱コイル11の情報、及び加熱後に得られるワーク100の情報の関係から、目的に合った加熱パラメータを決定し、加熱パラメータを表示部54に表示する。
具体的には、ディープラーニング部50は、下記の(1)~(11)の加熱パラメータのうち、少なくとも一つの加熱パラメータを決定し、表示部54に表示する。本実施形態のディープラーニング部50は、下記の(1)~(11)の加熱パラメータを全て決定し、表示部54に表示する。
(1)加熱コイル11に印加する電圧
(2)加熱コイル11による加熱時間
(3)加熱後にワーク100にワーク冷却水をかけるまでの遅延時間
(4)ワーク冷却装置14によるワーク100の冷却時間
(5)ワーク100の回転数
(6)コンデンサ33の電気容量
(7)ワーク冷却水の流量
(8)変圧器36の一次側コイル34と二次側コイル35の巻き数比率
(9)コア40の量(コア40の厚みや重量)
(10)コア40の加熱コイル11への取付位置
(11)高周波発振器32の出力電圧
【0039】
作業者は、表示部54を見て、各加熱パラメータを確認し、必要に応じてコア40の設置等を行い、コア40の設置等が完成すると、焼入れ開始命令を入力部53に入力する。
入力部53に焼入れ開始命令が入力されると、ディープラーニング部50で決定された加熱パラメータに従い、コイル移動装置12及びワーク移動装置15により所定の距離になるようにワーク100と加熱コイル11を近接させ、その状態で加熱コイル11に通電し、ワーク100を誘導加熱し、ワーク冷却装置14から噴射されるワーク冷却水によって冷却し、焼入れが完了する。
このとき、加熱コイル11でワーク100を加熱する際に、ディープラーニング部50で変圧器36の一次側コイル34と二次側コイル35の巻き数比率の変更が必要とされた場合には、作業者は、加熱途中で変圧器36の一次側コイル34と二次側コイル35の巻き数比率を変更する。
【0040】
続いて、本実施形態のディープラーニング部50について説明する。
【0041】
本実施形態のディープラーニング部50は、価値関数の近似アルゴリズムとして、図4(a)のようなニューロンモデルを組み込んだニューラルネットワークを実現する演算装置及びメモリ等で構成されている。
すなわち、ニューロンは、図4(a)のように、m個の入力xi(iは正の整数)に対する出力yを出力するものであり、各xiには、この入力xiに対応する重みwiが掛けられ、下記式(1)により表現される出力yを出力する。なお、入力xi、出力y、及び重みwiは全てベクトルである。
【0042】
【数1】
【0043】
ここで、bはバイアスであり、fは活性化関数である。
【0044】
本実施形態のディープラーニング部50のニューラルネットワークは、入力層60と、中間層61と、出力層62を備え、中間層61として上記のニューロン(ニューロンN1~Np)が組み合わせられ、p層(pは4以上の正の整数)の厚みを有する深層ニューラルネットワークである。すなわち、中間層61は、p層の中間層D1~Dpを有している。
本実施形態のニューラルネットワークは、入力層60からS個の入力X(X1~XS:Sは、正の整数)が入力され、中間層61を経て、出力層62からT個の結果Y(Y1~YT:Tは、正の整数)が出力される。
【0045】
具体的には、入力層60の入力X(X1~XS)に対して対応する重みW1が掛けられて中間層61の第1中間層D1の各ニューロンN1に入力される。第1中間層D1のニューロンN1は、それぞれ特徴ベクトルZ1を出力し、特徴ベクトルZ1は、中間層61の第2中間層D2の各ニューロンN2に対して、対応する重みW2がかけられて入力される。
【0046】
特徴ベクトルZ1は、重みW1と重みW2との間の特徴ベクトルであり、入力ベクトルの特徴量を抽出したベクトルとみなすことができる。
特徴ベクトルZ1は、中間層61の第2中間層D2の各ニューロンN2に対して、対応する重みW2がかけられて入力される。
第2中間層D2のニューロンN2は、それぞれ特徴ベクトルZ2を出力し、特徴ベクトルZ2は、中間層61の第3中間層D3の各ニューロンN3に対して、対応する重みW3がかけられて入力される。
中間層61の各中間層で上記の処理が繰り返されていき、末端の第P中間層DpのニューロンNpは、それぞれ特徴ベクトルZpを出力し、特徴ベクトルZpは、出力層62に出力される。その結果、ニューラルネットワークは、結果Y(Y1~YT)を出力する。
重みW1~Wpは、誤差逆伝搬法により学習可能なものである。誤差逆伝搬法は、各ニューロンについて、入力xが入力されたときの出力yと真の出力y(教師)との差分を小さくするように、それぞれの重みWを調整(学習)する手法である。
【0047】
第1実施形態の熱処理システム1によれば、ディープラーニング部50がワーク100に合った加熱パラメータを決定するので、たとえ熟練者でなくてもワーク100を最適条件で焼入れできる。
【0048】
続いて、本発明の第2実施形態の熱処理システム200について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同様の付番を用い、説明を省略する。
【0049】
第2実施形態の熱処理システム200は、図5のように、誘導加熱部201と、制御部3(図1)を備えている。
誘導加熱部201は、ワーク100に対していわゆる移動焼きを行う部位であり、主要構成部材として、高周波電源10と、加熱コイル202と、コイル移動装置12と、ワーク冷却装置203と、ワーク移動装置15を備えている。
加熱コイル202は、加熱コイル11と同様、一本の管状部材が屈曲、湾曲され、ワーク100の外周面に沿った形状をしている。
加熱コイル202は、円コイルであり、円環部分を備えており、その内側にワーク100を挿入可能となっている。
【0050】
コイル移動装置12は、加熱コイル202に加えてワーク冷却装置203も所望の速度で移動可能となっている。
【0051】
ワーク冷却装置203は、図5のように、加熱コイル202とともに移動し、ワーク100を加熱コイル202で誘導加熱した後にワーク冷却水を噴射し、昇温したワーク100を冷却する装置である。ワーク冷却装置203は、ワーク冷却水を噴射する噴射部205と、ワーク冷却水を噴射部205に供給する供給源206を備えている。
ワーク冷却装置203は、加熱コイル202と所定の間隔を空けて離間している。
【0052】
加熱コイル202及びワーク冷却装置203は、ともにコイル移動装置12によって、ワーク100に対する位置合わせのための移動と、移動焼きのための移動が可能となっている。
【0053】
続いて、本発明の第2実施形態の熱処理システム200を使用してワーク100に高周波焼入れを行う場合の一例について説明する。
【0054】
まず、作業者が入力部53に今回の加熱対象のワーク100の情報を入力する。具体的には、入力部53にワーク100の素材、ワーク100の形状(例えば、ワーク100の直径、ワーク100の外周面積、ワーク100の体積)、ワーク100の熱容量を入力する。
また、作業者が入力部53に今回の焼入れに使用する加熱コイル202の情報を入力する。具体的には、入力部53に加熱コイル202の種類(本実施形態では円コイル)、加熱コイル202の形状(例えば、直径やワーク100との対向面の面積、断面積など)を入力する。
さらに、作業者が入力部53に今回の加熱により製造するワーク100の情報を入力する。具体的には、入力部53に加熱後のワーク100の硬度、図6に示されるワーク100の熱処理範囲C(熱処理を施す範囲)、ワーク100の熱処理深さ、変態後のワーク100の組織、ワーク100の変形量、ワーク100の結晶粒径を入力する。
【0055】
作業者の入力部53への各種情報の入力が完了すると、ディープラーニング部50が過去の加熱パラメータと、過去の加熱パラメータで行った過去の加熱前のワーク100の情報、加熱コイル202の情報、及び加熱後に得られるワーク100の情報の関係から、目的に合った加熱パラメータを決定し、加熱パラメータを表示部54に表示する。
具体的には、ディープラーニング部50は、下記の(1)~(17)の加熱パラメータのうち、少なくとも一つの加熱パラメータを決定し、表示部54に表示する。本実施形態のディープラーニング部50は、少なくとも下記の(1)~(11)の加熱パラメータを全て決定し、表示部54に表示する。ディープラーニング部50は、下記の(1)~(17)の加熱パラメータを全て決定し、表示部54に表示することが好ましい。
(1)加熱コイル202に印加する電圧
(2)加熱コイル202による加熱時間
(3)加熱後にワーク100にワーク冷却水をかけるまでの遅延時間
(4)ワーク冷却装置203によるワーク100の冷却時間
(5)ワーク100の回転数
(6)コンデンサ33の電気容量
(7)ワーク冷却水の流量
(8)変圧器36の一次側コイル34と二次側コイル35の巻き数比率
(9)コア40の量(コア40の厚みや重さ)
(10)コア40の加熱コイル202への取付位置
(11)高周波発振器32の出力電圧
(12)図6に示される加熱コイル202によるワーク100の加熱開始位置A1
(13)加熱コイル202によるワーク100の加熱終了位置A2
(14)ワーク冷却装置203によるワーク100の冷却開始位置B1
(15)ワーク冷却装置203によるワーク100の冷却終了位置B2
(16)ワーク100に対する加熱コイル202の相対的な移動速度
(17)ワーク100に対するワーク冷却装置203の相対的な移動速度
【0056】
作業者は、表示部54を見て、各加熱パラメータを確認し、必要に応じてコア40の設置等を行い、コア40の設置等が完成すると、焼入れ開始命令を入力部53に入力する。
入力部53に焼入れ開始命令が入力されると、ディープラーニング部50で決定された加熱パラメータに従い、コイル移動装置12及びワーク移動装置15により所定の距離になるようにワーク100と加熱コイル202を近接させ、その状態で加熱コイル202に通電し、ワーク100を誘導加熱し、コイル移動装置12により加熱コイル202及びワーク冷却装置203を移動させながら、ワーク冷却装置203から噴射されるワーク冷却水によって冷却し、焼入れが完了する。
【0057】
第2実施形態の熱処理システム200によれば、長尺状のワーク100であっても最適条件で容易に焼入れできる。
【0058】
上記した第1実施形態では、加熱コイル11は半開放コイルであったが、本発明はこれに限定されるものではない。加熱コイル11は図7のような円形コイルなどの他の形状のコイルであってもよい。同様、上記した第2実施形態では、加熱コイル202は円形コイルであったが、本発明はこれに限定されるものではない。加熱コイル202は半開放コイルなどの他の形状のコイルであってもよい。また、図8のようにエッジのあるワーク100の場合には、エッジに沿う形状の加熱コイル202を使用してもよい。
【0059】
上記した第2実施形態では、加熱コイル202及びワーク冷却装置203がワーク100に対して移動して熱処理するものであったが、本発明はこれに限定されるものではない。ワーク100が加熱コイル202及びワーク冷却装置203に対して移動して熱処理を行うものでもよい。
【0060】
上記した実施形態では、円柱状のワーク100の外周面に加熱コイル11(202)を対向させて焼入れする場合について説明したが、本発明はワーク100の外周面に焼入れする場合に限定されるものではない。ワーク100が中空状であって、その内周面を焼入れする場合には、図9のようにワーク100の内部に加熱コイル11(202)を挿入して焼入れしてもよい。
【0061】
上記した実施形態では、円柱状のワーク100を焼入れする場合に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。ワーク100の形状は特に限定されない。円筒状や多角柱状であってもよいし、クランクシャフト等の円柱状の部位をもつ複雑な構造のものであってもよい。
【0062】
上記した実施形態では、誘導加熱部2は、高周波誘導加熱を行うものであったが、本発明は高周波に限定されるものではない。誘導加熱が可能であれば、高周波よりも低い周波数で誘導加熱を行ってもよい。
【0063】
上記した実施形態では、ディープラーニング部50は、教師あり学習を行うものであったが、本発明はこれに限定されるものではない。一部のみ入力と出力のデータの組が存在し、それ以外は入力のみのデータで機械学習を行う半教師あり学習を行うものであってもよい。また、教師あり学習に加えて、教師なし学習や強化学習を行うものであってもよい。
【0064】
上記した実施形態では、機械学習部として4層以上の深層ニューラルネットワークのアルゴリズムに則して学習するディープラーニング部50の場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。3層以下のニューラルネットワークのアルゴリズムに則して学習するものであってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1,200 熱処理システム
2,201 誘導加熱部
3 制御部
11,202 加熱コイル
40 コア
50 ディープラーニング部(機械学習部)
51 データ蓄積部(記憶部)
52 出力制御部
53 入力部
100 ワーク
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9