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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】頭皮保護用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20220602BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20220602BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20220602BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220602BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/31
A61Q17/00
A61Q19/00
A61Q5/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021567044
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2021022235
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2021076176
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517177785
【氏名又は名称】Caetus Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤木 健
【審査官】寺▲崎▼ 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-206521(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033757(WO,A1)
【文献】特開2001-139825(JP,A)
【文献】特開昭60-199833(JP,A)
【文献】特開平10-066855(JP,A)
【文献】特開平01-210029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーと、
疎水性炭化水素化合物と、
を含み、
水は配合されず、
前記セルロースナノファイバーは、皮膚保護用組成物の全量に対し、0.01質量%以上30質量%以下であり、平均繊維長が0.01μm以上0.8μm以下である、頭皮保護用組成物。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーは、カルボキシメチルセルロース、TEMPO酸化型セルロース、スルホン化セルロースのグループから選択される1以上のセルロースナノファイバーであり、親水性を有する、請求項1に記載の頭皮保護用組成物。
【請求項3】
前記疎水性炭化水素化合物は、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、スクワランのグループから選択される1以上の疎水性炭化水素化合物である、請求項1又は2に記載の頭皮保護用組成物。
【請求項4】
さらに親水性多糖類を含み、該親水性多糖類はセルロース、セルロース誘導体、グルコマンナン、カラギーナンのいずれか1以上からなる、請求項1~いずれか一項に記載の頭皮保護用組成物。
【請求項5】
前記親水性多糖類は、皮膚保護用組成物の全量に対し、0.1質量%以上10質量%以下である、請求項に記載の頭皮保護用組成物。
【請求項6】
さらに酸化防止剤を含む、請求項1~いずれか一項に記載の頭皮保護用組成物。
【請求項7】
染毛前に頭皮に対し塗布又はスプレーし、染毛時の頭皮を保護する、請求項1~いずれか一項に記載の頭皮保護用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含む皮膚保護用組成物、及び、該皮膚保護用組成物を用いた頭皮保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪処理において、染毛剤やパーマ剤による施術前に、皮膚への一次刺激防止や染毛剤・パーマ剤からの頭皮のヒリヒリ感やピリピリとした刺激の緩和の為の頭皮保護のために、頭皮保護剤等の皮膚保護用組成物を予め皮膚に塗布することが従前より広く行われている。
【0003】
たとえば施術中に用いられる2剤の過酸化水素水のアルカリ刺激は、頭皮に接触性皮膚炎(I型アレルギー)を引き起こしやすい。また、染毛剤中の発色重合剤として用いられるp-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、パラアミノフェノール、硫酸トルエン-2、5-ジアミン等の化合物(ジアミン類)は、アレルギー性接触性皮膚炎(IV型アレルギー)の原因物質として知られている。これらのアレルギー反応を低減させるために、施術中に頭皮にできる限り染毛剤を接触させない染毛技術と頭皮保護剤による皮膚の保護が重要であるが、頭皮等の皮膚は毛髪の根本に近接して位置するため、染毛剤の成分を毛髪と効率的に反応させつつ皮膚との接触を低減させ頭皮への拡散を防止するにはさまざまな課題があった。
【0004】
また、スプレータイプ用の頭皮保護剤は、粘度が小さくさらさらとして簡便に使用できるが、液だれが生じやすいという課題があった。一方、オイルタイプ用の頭皮保護剤は粘度が温度に依存して変化するものが多いため、低温環境で固化しやすく、高温環境で液だれが生じやすくなり、使用テクニックを要求されるという課題があった。
【0005】
特許文献1には、疎水性シリカ粒子をオイル基剤中に分散させることにより、オイルの保護力を強化する頭皮保護用組成物が開示されている。しかしながら、シリカ粒子を含む剤形は疎水性が高く皮膜形成性が高いため、水で洗い流しにくく、染毛剤の成分とともに頭皮に残留しやすいという課題があった。
【0006】
特許文献2には、大豆レシチンの成分に水を含む頭皮保護組成物が開示されている。しかしながら、ジアミン類は主として水溶性であるため、頭皮保護組成物に含まれる水によりジアミン類は分散され、頭皮保護が十分でないという課題があった。
【0007】
特許文献3には、炭化水素を主成分とする常温(25℃)での粘度が15~60cStである頭皮保護剤が開示されている。かかる頭皮保護剤は、頭皮への成膜性は高い。しかしながら、頭皮上に形成された炭化水素のみの形成膜に水を含む染毛剤が接すると、染毛剤は形成した皮膜上を滑るように移動するため、頭皮保護剤を塗布又はスプレーしていない首や顔等の辺縁部や皮膜が十分でない箇所に染毛剤が移動して皮膚や衣服を着色してしまいやすいという課題があった。
【0008】
特許文献4には、流動パラフィン及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する頭皮保護剤組成物が開示されている。かかる頭皮保護剤は、特許文献3と同様に頭皮への成膜性は高い。しかしながら、頭皮上に形成された形成膜に水を含む染毛剤が接すると、染毛剤は形成した皮膜上を滑るように移動するため、頭皮保護剤を塗布又はスプレーしていない首や顔等の辺縁部や皮膜が十分でない箇所に染毛剤が移動して皮膚や衣服を着色してしまいやすいという課題があった。
【0009】
また、特許文献5には、ホホバオイル等の植物油と、トリグリセリド等の脂肪酸カルボン酸エステルと、流動パラフィン等の天然の液状油を含む頭皮保護剤が開示されている。しかしながら、ホホバオイル等の植物油やトリグリセリド等の脂肪酸カルボン酸エステルはジアミン類を溶解しやすいため、頭皮保護剤に染毛剤が接すると、頭皮保護剤に染毛剤が分散し頭皮に染毛剤が到達して、頭皮をジアミン類から保護できないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-43583号公報
【文献】特開2012-158556号公報
【文献】特開2004-99516号公報
【文献】特開2011-26258号公報
【文献】特開2001-316236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、頭皮等の皮膚に保護膜が形成されやすく、該保護膜により染毛剤等に含まれるジアミン類が皮膚に到達しにくく、染毛に使われない染毛剤が保護剤表面付近に留まりやすく、洗い流しやすく、かつ、皮膚を保護しつつも染毛剤により毛髪を効果的に染色可能な、皮膚保護用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の皮膚保護用組成物は、セルロースナノファイバーと、疎水性炭化水素化合物と、を含むことを特徴とする。
【0013】
前記セルロースナノファイバーは、皮膚保護用組成物の全量に対し、0.01質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0014】
前記セルロースナノファイバーは、平均繊維長が0.01μm以上0.8μm以下であることが好ましい。
【0015】
前記セルロースナノファイバーは、カルボキシメチルセルロース、TEMPO酸化型セルロース、スルホン化セルロースのグループから選択される1以上のセルロースナノファイバーであってもよい。また、前記セルロースナノファイバーは親水性を有することが望ましい。
【0016】
前記疎水性炭化水素化合物は、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、スクワランのグループから選択される1以上の疎水性炭化水素化合物であってもよい。
【0017】
皮膚保護用組成物は、さらに親水性多糖類を含み、該親水性多糖類はセルロース、セルロース誘導体、グルコマンナン、カラギーナンのいずれか1以上からなることが好ましい。
【0018】
前記親水性多糖類は、皮膚保護用組成物の全量に対し、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0019】
皮膚保護用組成物は、さらに酸化防止剤を含んでもよい。
【0020】
染毛前に頭皮に対し塗布又はスプレーし、染毛時の頭皮を保護するものであってもよい。
【0021】
本発明の頭皮保護剤は、上記皮膚保護用組成物を用いる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の皮膚保護用組成物は、さまざまな効果を奏する。
まず、疎水性炭化水素を含む皮膚保護用組成物は、皮脂を含む皮膚に馴染みやすく皮膚上に保護膜を形成しやすくなる。
また、該皮膚保護用組成物は疎水性炭化水素を含有することにより、水溶性の染毛剤と接したときに、染毛剤の成分、特にジアミン類を剤形中に分散しにくく、透過しにくい。このため、染毛剤等に含まれるジアミン類は皮膚に到達しにくくなり、毛髪施術時のアレルギー反応の低減を期待できる。
同時に、水溶性の染毛剤は、皮膚保護用組成物により保護膜が形成された頭皮ではなく、毛髪に効率的に移行するため、染毛効果を高めることができる。
さらに、皮膚保護用組成物はセルロースナノファイバーを含むため、皮膚保護用組成物の表面に水溶性の染毛剤が付着したときに、セルロースナノファイバーが染毛剤の付着した保護膜の表面に滲み出すように集積し、染毛剤を取り込みつつ3次元の網目構造のミクロフィブリルを形成し、急速にゲル化する。このため、染毛に使われない染毛剤が保護剤表面付近に留まりやすく、ゲル化した染毛剤は洗い流しやすくなる。
また、皮膚保護用組成物に含まれるセルロースナノファイバーは、攪拌や摩擦、振動等により急速に粘度が低下するチキソトロピー性を有するため、コームと毛髪との摩擦領域では粘度が下がり、染毛が可能となる。逆に、頭皮のような摩擦がほぼ加えられない領域では粘度が下がらず、染色されにくい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来のカラー剤で施術した場合のアンケート結果を示す。
図2】本発明の実施例で施術した場合のアンケート結果を示す。
図3】染毛阻害の調査対象の髪質のアンケート結果を示す。
図4】染毛阻害の調査結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の皮膚保護用組成物、及び、頭皮保護剤について説明する。
【0025】
本発明の皮膚保護用組成物は、セルロースナノファイバーと、疎水性炭化水素化合物とを含むものである。
【0026】
(セルロースナノファイバー)
まず、セルロースとは、多糖類であり、β-グルコースが直鎖上に重合した高分子である。そして、セルロースナノファイバーは、セルロースをナノレベルまで解繊したものである。セルロースナノファイバーの直径は、概ねナノメートルのサイズであり、数百nm以下の物を指すことが多い。また、セルロースナノファイバーのアスペクト比(繊維長/繊維幅)は、100以上となる。
【0027】
本発明に用いられるセルロースナノファイバーの含有量は、皮膚保護用組成物の全量に対し、0.01質量%以上30質量%以下が好ましく、0.05質量%以上20質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
セルロースナノファイバーが0.01質量%未満になると、皮膚保護用組成物の表面に水溶性の染毛剤が付着したときに、セルロースナノファイバーが有効成分として染毛剤の付着した保護膜の表面に滲み出すように集積し、染毛剤を取り込みつつ3次元の網目構造のミクロフィブリルを形成し、急速にゲル化するという特性が得にくくなる。さらに、セルロースナノファイバーが有するチキソトロピー性により、摩擦の有無で粘度を調整することが難しくなる。一方、セルロースナノファイバーが30質量%を超えると、沈殿しやすくなる。
【0028】
剤形中に分散されたセルロースナノファイバーの平均繊維長は、0.01μm以上0.8μm以下であることが好ましく、0.05μm以上0.6μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上0.4μm以下であることがさらに好ましい。
セルロースナノファイバーの平均繊維長が0.8μmを超えると、3次元網目構造は荒くなり、ミクロフィブリルが形成されにくくなり、保護膜に付着した染毛剤を取り込みにくくなり、急速なゲル化も進みにくくなる。一方、セルロースナノファイバーの平均繊維長が0.01μmを下回ると、ナノ材料としての人体への安全性に懸念が生じることとなる。
【0029】
セルロースナノファイバーの原料は、木材等の植物由来、バクテリア由来であってもよく、その構造は、β-グルコースが直鎖上に重合したものや化学修飾したものであってもよい。セルロースナノファイバーは、親水性を有することが望ましく、なかでも、カルボキシメチルセルロース、TEMPO酸化型セルロース、スルホン化セルロースがより望ましい。また、セルロースナノファイバーは、1種を用いてもよいし、原料、化学修飾、平均繊維長、アスペクト比等が異なる2種以上を併用してもよい。
【0030】
(疎水性炭化水素化合物)
本発明に用いられる疎水性炭化水素化合物は、疎水性を有する炭化水素化合物から適宜選択されるが、特に、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、スクワラン等が好ましい。なお、水溶性の染毛剤を溶解・分散させない性質であることが要求されるため、エステル基やヒドロキシル基、エーテル基等を有する植物油やアルコール等の疎水性の低い炭化水素化合物は好ましくない。
【0031】
疎水性炭化水素化合物は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
(親水性多糖類)
本発明の皮膚保護用組成物は、親水性多糖類をさらに含んでもよい。
【0033】
該親水性多糖類は、セルロースナノファイバーにより保護膜表面に形成された3次元網目構造のミクロフィブリルを、さらに凝固させることができるため、保護膜に付着した染毛剤をより確実にゲル化させることができる。親水性多糖類の凝固作用により、時間経過とともにゲル表面から硬くて脆い細かいゼリー状あるいはスライム状のゲルとなる。この凝固したゲルは、水溶性の染毛剤の保護膜内への分散をさらに抑えることができる。なお、かかる凝固作用は保護膜で起きるため、毛髪への染毛剤の染毛効果は損なわれない。凝固したゲルは、容易に洗い流すことができる。
【0034】
親水性多糖類は、親水性の多糖類から適宜選択されるが、特に、セルロース、セルロース誘導体(カルボキメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等)、グルコマンナン、カラギーナンが好ましい。
【0035】
親水性多糖類の含有量は、皮膚保護用組成物の全量に対し、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
親水性多糖類が0.01質量%未満になると、皮膚保護用組成物の表面に水溶性の染毛剤が付着したときに、セルロースナノファイバーにより形成されたミクロフィブリルをさらに凝固させることが難しくなる。一方、親水性多糖類が10質量%を超えると、セルロースナノファイバーのミクロフィブリル形成を阻害したり、逆に凝固が遅くなったり沈殿しやすくなる。よって、親水性多糖類を配合する場合は、セルロースナノファイバーの性質を損なわないように配合することが望ましい。親水性多糖類の含有量は、セルロースナノファイバーの含有量に対し、等量以下であることがより好ましい。
【0036】
(酸化防止剤等の添加剤)
本発明の皮膚保護用組成物は、酸化防止剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
酸化防止剤は、腐敗防止する成分が適宜選択されるが、特にトコフェロールが好ましい。酸化防止剤の含有量は、0.001質量%以上0.3質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0037】
(皮膚保護用組成物)
本発明の皮膚保護用組成物は、上述したセルロースナノファイバーと、疎水性炭化水素化合物、及び、任意の親水性多糖類、任意の酸化防止剤を含む。
疎水性炭化水素化合物の粘度は温度依存的に増減するが、セルロースナノファイバーの温度非依存的チキソトロピー性より、皮膚保護用組成物は周囲の温度環境に影響されず染毛剤のゲル化を促進することができる。すなわち、一度ゲル化した染毛剤はコーム等の摩擦が与えられなければ粘度は下がらず、頭頂部等からの皮膚保護用組成物の流れ落ちを抑えることができる。
また、疎水性炭化水素化合物は疎水性であるため、水溶性の染毛剤の成分、特にジアミン類を溶解・分散しにくい。このため、染毛剤等に含まれるジアミン類は皮膚に到達しにくくなり、毛髪施術時のアレルギー反応を低減することができる。
【0038】
本発明の皮膚保護用組成物は、水溶性の染毛剤の成分を分散させないことが要求されるため、水や乳化剤は配合されない。
【0039】
さらに、皮膚保護用組成物はセルロースナノファイバーを含むため、皮膚保護用組成物の表面に水溶性の染毛剤が付着したときに、セルロースナノファイバーが染毛剤の付着した保護膜の表面に滲み出すように集積し、染毛剤を取り込みつつ3次元の網目構造のミクロフィブリルを形成し、急速にゲル化する。このため、染毛に使われない染毛剤は、水溶性にも関わらず保護膜にキャッチされやすい。一方で、セルロースナノファイバーを含まない場合、水溶性の染毛剤は疎水性の保護膜上を滑るように移動して、他の皮膚の部分や衣類に付着するおそれが生じる。
【0040】
本発明の皮膚保護用組成物は、上述したセルロースナノファイバーと、疎水性炭化水素化合物のみからなってもよいし、上述したセルロースナノファイバーと、疎水性炭化水素化合物と、親水性多糖類のみからなってもよい。また、上述したセルロースナノファイバーと、疎水性炭化水素化合物と、酸化防止剤のみからなってもよいし、上述したセルロースナノファイバーと、疎水性炭化水素化合物、親水性多糖類、酸化防止剤のみからなってもよい。
【0041】
皮膚保護用組成物は、セルロースナノファイバーを疎水性炭化水素化合物に投入して攪拌することにより製造される。温度は60℃~85℃の加温下で、攪拌速度は10rpm~200rpm程度が例示される。なお、セルロースナノファイバーは投入前に0.1mm~0.5mm程度の篩にかけることが望ましい。
【0042】
皮膚保護用組成物は、染毛前に頭皮に対して塗布又はスプレーし、染毛時の頭皮を保護することができる。
【実施例
【0043】
以下の実施例や評価により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0044】
(頭皮保護剤と染毛剤の混和評価)
染毛剤(カラー剤)に含まれるジアミン類が、頭皮に到達してアレルギー反応の原因となりやすいか否かは、カラー剤やジアミン類が頭皮保護剤に混和するか相分離するか、あるいは、頭皮保護剤にカラー剤やジアミン類がどの程度分散しているかを評価する必要がある。
ただ、頭皮保護剤は、光が十分に透過しないものや粘度が高いものが多く、分光分析による定量が難しい。しかしながら、ジアミン類4種は紫外線を照射すると重合を開始し、十分な時間経過により定常状態になることに着目し、次のように評価を行った。
【0045】
頭皮保護剤(50g)にカラー剤(10g)又はジアミン類(1%水溶液10g)をそれぞれ滴下し、voltexで5分間混合し、紫外線を60分間照射した。各試料につき、頭皮保護剤とカラー剤又はジアミン類が混和しているか、相分離をしているかを目視確認した。
実施例1~3は流動パラフィン(ハイコールK-350、カネダ株式会社製)中のセルロースナノファイバー(Cellenpia、日本製紙株式会社製)の濃度を0.1質量%、1質量%、10質量%に変えたものであり、比較例1~10は市販品の頭皮保護剤を用いたものである。
また、カラー剤は、色剤(1剤)と過酸化水素化合物(2剤)の混合物であり、各カラー剤は以下の1剤及び2剤を1:1で混合したものである。
・カラー剤A
ILLUMINA(Deepsea、WELLA製)+2剤(過酸化水素6%)
・カラー剤B
THROW(P/08株式会社b-ex製)+2剤(過酸化水素6%)
・カラー剤C
PROMASTER(R9/8、株式会社ホーユー製)+2剤(過酸化水素6%)
評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】


【0047】
表1より、実施例1~3、比較例1~3、5、7~9の頭皮保護剤において、頭皮保護剤とジアミン類は相分離が見られた。
一方で、比較例4、6、10の頭皮保護剤はジアミン類と混和しており、ジアミン類が頭皮に到達してしまい、頭皮をアレルギー物質から保護できない可能性がある。また、比較例1、6、10の頭皮保護剤はカラー剤と混和した。カラー剤にはさまざまな成分が配合されているため、ジアミン類等のアレルギー物質が頭皮保護剤に分散しているとは言い切れないが、少なくとも比較例6、10についてはジアミン類等のアレルギー物質が頭皮保護剤に分散している可能性が高いと考えられる。
【0048】
表1で評価した試料(voltexで5分間混合し、紫外線を60分間照射したもの)をさらに6か月間静置し、以下の評価を行った。
各試料につき、頭皮保護剤とカラー剤又はジアミン類が混和しているか、相分離をしているかを目視確認した。
各試料につき、頭皮保護剤の色調がどのようになっているかを目視確認した。
以上の結果を、表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2により、6か月静置すると、実施例1~3、比較例2~5、8、9については、頭皮保護剤とカラー剤又はジアミン類の相分離が確認できた。
【0051】
さらに、色調がクリアもしくは薄色を維持していた、比較例2~5、8、9及び実施例4の分光分析を行った。
実施例4は本発明の一例であり、セルロースナノファイバー(Cellenpia、日本製紙株式会社製)0.5質量%、流動パラフィン(ハイコールK-350、カネダ株式会社製)、グルコマンナン0.5質量%を配合したものである。
ジアミン類のうち、重合したo-フェニレンジアミンの吸収波長416nmを指標として用い、ピーク強度を比較した。分光分析機器には、UV-Visダブルビーム分光光度計UV-2600i(島津製作所製)を用いた。
評価結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3より、実施例4は、比較例に対し、416nmのピーク強度が最も小さく、頭皮保護剤へのo-フェニレンジアミンの分散は最も抑えられていることが確認できた。
なお、表1~3での評価は、頭皮保護剤を試料管に入れて液体として振動混合した場合の染毛剤との関係を確認したものであり、頭皮への塗布又はスプレーをした後に染毛剤でコーム等を用いて染毛する場合とは状況が異なる。特に、セルロースナノファイバーの3次元網目構造のミクロフィブリルの形成や、チキソトロピー性、さらに、親水性多糖類を配合するときは該親水性多糖類の凝固プロセスも合わせて総合的に処方を検討しなければならないことは言うまでもない。
【0054】
なお、親水性多糖類の例として、グルコマンナン又はセルロースを、流動パラフィンに添加した場合の、相分離や6か月静置後の色調も確認したところ、いずれも相分離が見られ、頭皮保護剤とカラー剤又はジアミン類の混和は確認されなかった。
【0055】
(使用感の評価)
実施例4の頭皮保護剤にて頭皮を保護したあと、染毛剤にて染毛した場合の使用感を調査し、施術中のヒリヒリ感、シャンプー後の痒み等の官能評価を行った。
【0056】
本発明のカラー剤の実施例を用いた施術について、調査に協力することに同意した129名に対し、今までの従来のカラー剤では、どの程度ヒリヒリ感や熱さ、痒みを感じていたかを回答してもらった。
アンケート結果を、表4及び図1に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
表4及び図1より、今までの従来のカラー剤ではヒリヒリ感や熱さ、痒みを感じない/どちらかと言えば感じない人は、44%にとどまっていることが分かった。
【0059】
次に、上記129名に対し、本発明のカラー剤の実施例で施術したときに、ヒリヒリ感等を感じたかを回答してもらった。
アンケート結果を、表5及び図2に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
表5及び図2より、本発明のカラー剤の実施例で施術したときには、89%がヒリヒリ感や熱さ、痒みを感じなかったことが分かった。また、ヒリヒリ感や熱さ、痒みを感じた11名のうち、64%(7名)はヒリヒリ感等がいつもよりとても穏やか/いつもより穏やかであったことが分かった。
【0062】
(染毛阻害の評価)
本発明のカラー剤の実施例の染毛阻害に関し、さまざまな髪質を有する14名に対して調査を行った。
14名の髪質のアンケート結果を、表6及び図3に示す。
【0063】
【表6】
【0064】
次に、上記14名に対し、本発明のカラー剤の実施例で施術したときに、染毛阻害が見られたかを、施術した美容師に回答してもらった。染毛阻害の有無は、髪にカラー剤の色が染まったか否かを目視にて確認した。一部染まらなかったり、発色が薄い・普段より異なっていた場合、染毛阻害ありとして報告してもらい、特に違いが見られなかった場合のみ、染毛阻害なしとして報告してもらった。染毛阻害の有無の結果を、表7及び図4に示す。
【0065】
【表7】
【0066】
表7及び図4より、評価した範囲においては、さまざまな髪質に対して染毛阻害が見られないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の皮膚保護用組成物は、セルロースナノファイバーの特性、特にチキソトロピー性を利用した今までにない技術的思想に基づくものであり、かつ、形成された保護膜への染毛剤の分散性や、保護膜と染毛剤との界面でのゲル化現象、保護膜部分の粘度と毛髪部分の粘度を緻密に検討し設計したものである。
若者にとっても、高齢者にとっても、染毛は最早お洒落なファッションの一部であり、アレルギー原因物質の頭皮への到達を低減させる皮膚保護用組成物を提供することは、社会的にも大きな意義があり、今後のさらなる応用及び開発が大いに期待される。
【要約】
頭皮等の皮膚に保護膜が形成されやすく、該保護膜により染毛剤等に含まれるジアミン類が皮膚に到達しにくく、染毛に使われない染毛剤が保護剤表面付近に留まりやすく、洗い流しやすく、かつ、皮膚を保護しつつも染毛剤により毛髪を効果的に染色可能な、皮膚保護用組成物を提供することを課題とする。
皮膚保護用組成物は、セルロースナノファイバーと、疎水性炭化水素化合物と、を含むことを特徴とする。
図1
図2
図3
図4