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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】投与デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/46 20060101AFI20220602BHJP
   A61M 5/24 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
A61M5/46
A61M5/24 520
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022500947
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2021028652
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2020132916
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503467089
【氏名又は名称】株式会社ライトニックス
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】福田 萠
(72)【発明者】
【氏名】小林 範行
【審査官】伊藤 孝佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/013594(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/016889(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/122395(WO,A1)
【文献】特表2005-538773(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0276320(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/46
A61M 5/20- 5/28
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に穿刺される針と、
前記針を介して生体内に投与される薬液を収容可能なカートリッジと、
皮膚に押し付けられる第1端部が開口又は開口可能であると共に、前記針及び前記カートリッジが前記第1端部側に移動可能に格納されており、前記針が前記第1端部側に移動されることで前記第1端部の外部に前記針が進出可能なケースと、
前記カートリッジと前記ケースとの間に反力を発生させるように介在し、前記針が前記第1端部側に移動する際に、皮膚への前記ケースの押付け力を制御する押付け力制御部材と、
初期状態において前記カートリッジから離れている位置に前記針を支持していると共に、前記ケースに対する固定がなされており、前記固定が解除されることで前記針と一体に前記第1端部側に移動可能になる針ベースと、
前記第1端部側に移動した前記カートリッジが前記針と一体となった後に前記固定を解除する固定解除機構と、を備え、
前記ケースの前記第1端部を皮膚に押し付けた状態で、前記第1端部の開口を通じて前記針を前記第1端部側に移動させることで前記第1端部の外部に前記針を進出させて、前記針を生体内に穿刺する投与デバイスであって、
前記投与デバイスは、前記第1端部の開口を通じて前記針を前記第1端部側に移動させることで前記第1端部の外部に前記針を進出させて前記針を生体内に穿刺する過程において、前記押付け力制御部材による前記反力の発生を継続させ、且つ、皮膚への前記ケースの前記押付け力を略一定に制御することにより、生体内への前記針の穿刺が完了した状態において、前記針の穿刺深さを略一定にするように構成され、且つ、前記カートリッジに収容されている前記薬液を前記針から排出して生体内に投与する過程において、前記押付け力制御部材による前記反力の発生を継続させ、前記針の穿刺深さを略一定にするように構成される、投与デバイス。
【請求項2】
前記押付け力制御部材は、前記カートリッジに対して前記第1端部側へ付与されていた力が解除されることで、前記針と一体に前記カートリッジを、前記ケースに対して相対的に、前記第1端部とは反対側に移動させる、請求項1に記載の投与デバイス。
【請求項3】
前記針と一体になっている前記カートリッジの移動が前記薬液の投与の完了後に規制された状態において、前記押付け力制御部材は、前記針と一体に前記カートリッジを、前記ケースに対して相対的に、前記第1端部側とは反対側に移動させる、請求項2に記載の投与デバイス。
【請求項4】
前記薬液の投与の完了時に噛み合うことで操作者に伝達される音又は力を発生させて、前記薬液の投与の完了を操作者に報知する報知機構を備えている、請求項3に記載の投与デバイス。
【請求項5】
操作者に押されて前記第1端部側に移動することで前記カートリッジに前記第1端部側への力を付与する押し部材を備え、
前記カートリッジは、
前記薬液が収容されているカートリッジ本体と、
前記押し部材に押されて前記カートリッジ本体に対して前記第1端部側に移動することで、前記針を介して前記薬液を押し出すピストンと、を有している、請求項1~のいずれかに記載の投与デバイス。
【請求項6】
皮内投与に用いられる、請求項1~5のいずれかに記載の投与デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液の投与デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮内への投与デバイスについて、薬液の投与量を削減する目的から開発が行われている。当該開発は、充足すべき設計事項が多く、容易なことではない。充足すべき設計事項としては、例えば、薬液を正確に投与するために皮内に刺す針の穿刺深さを制御すること、使用後の針刺し事故の防止、繰り返しの使用ができないようにすることなどがある。
【0003】
具体的に、特許文献1、2には、針先側に円筒形状やドーム形状の構造を別途設け、当該構造が皮膚に接した際に皮膚を押し広げることで皮膚の厚みを一定にするデバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/046867号公報
【文献】国際公開第2013/046868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、針先側に円筒形状やドーム形状の構造を設けたデバイスでは、皮膚の厚みを一定に安定させることができるものの、看護師などの操作者による押付け力の違いによって針の穿刺深さが安定しない。そのため、皮内に刺す針の穿刺深さを一定にすることは容易ではない。
【0006】
このような問題は、皮内への投与デバイスの場合に限定されず、皮下組織や筋肉内、あるいはその他の生体内への投与デバイスの場合に共通して存在し得る。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、針の穿刺深さを容易に略一定にすることができる投与デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、生体内に穿刺される針と、前記針を介して生体内に投与される薬液を収容可能なカートリッジと、皮膚に押し付けられる第1端部が開口又は開口可能であると共に、前記針及び前記カートリッジが前記第1端部側に移動可能に格納されており、前記針が前記第1端部側に移動されることで前記第1端部の外部に前記針が進出可能なケースと、前記カートリッジと前記ケースとの間に反力を発生させるように介在し、前記針が前記第1端部側に移動する際に、皮膚への前記ケースの押付け力を制御する押付け力制御部材と、を備え、前記カートリッジに収容されている前記薬液を前記針から排出して生体内に投与する過程において、前記押付け力制御部材は、前記反力の発生を継続可能である、投与デバイスである。
【0009】
また、本発明は、生体内に穿刺される針と、前記針を介して生体内に投与される薬液を収容可能なカートリッジと、皮膚に押し付けられる第1端部が開口又は開口可能であると共に、前記針及び前記カートリッジが前記第1端部側に移動可能に格納されており、前記針が前記第1端部側に移動されることで前記第1端部の外部に前記針が進出可能なケースと、前記カートリッジと前記ケースとの間に反力を発生させるように介在し、前記針が前記第1端部側に移動する際に、皮膚への前記ケースの押付け力を制御する押付け力制御部材と、を備え、前記ケースの前記第1端部を皮膚に押し付けた状態で、前記第1端部の開口を通じて前記針を前記第1端部側に移動させることで前記第1端部の外部に前記針を進出させて、前記針を生体内に穿刺する投与デバイスであって、前記投与デバイスは、前記第1端部の開口を通じて前記針を前記第1端部側に移動させることで前記第1端部の外部に前記針を進出させて前記針を生体内に穿刺する過程において、前記押付け力制御部材による前記反力の発生を継続させ、且つ、皮膚への前記ケースの前記押付け力を略一定に制御することにより、生体内への前記針の穿刺が完了した状態において、前記針の穿刺深さを略一定にするように構成され、且つ、前記カートリッジに収容されている前記薬液を前記針から排出して生体内に投与する過程において、前記押付け力制御部材による前記反力の発生を継続させ、前記針の穿刺深さを略一定にするように構成される、投与デバイスである。
【0010】
(2)前記押付け力制御部材は、前記カートリッジに対して前記第1端部側へ付与されていた力が解除されることで、前記針と一体に前記カートリッジを、前記ケースに対して相対的に、前記第1端部とは反対側に移動させてもよい。
【0011】
(3)前記針と一体になっている前記カートリッジの移動が前記薬液の投与の完了後に規制された状態において、前記押付け力制御部材は、前記針と一体に前記カートリッジを、前記ケースに対して相対的に、前記第1端部側とは反対側に移動させてもよい。
【0012】
(4)前記薬液の投与の完了時に噛み合うことで操作者に伝達される音又は力を発生させて、前記薬液の投与の完了を操作者に報知する報知機構を備えていてもよい。
【0013】
(5)初期状態において前記カートリッジから離れている位置に前記針を支持していると共に、前記ケースに対する固定がなされており、前記固定が解除されることで前記針と一体に前記第1端部側に移動可能になる針ベースと、
前記第1端部側に移動した前記カートリッジが前記針と一体となった後に前記固定を解除する固定解除機構と、を備えていてもよい。
【0014】
(6)操作者に押されて前記第1端部側に移動することで前記カートリッジに前記第1端部側への力を付与する押し部材を備え、前記カートリッジは、前記薬液が収容されているカートリッジ本体と、前記押し部材に押されて前記カートリッジ本体に対して前記第1端部側に移動することで、前記針を介して前記薬液を押し出すピストンと、を有していてもよい。
【0015】
(7)本発明は、皮内投与に用いられる前記投与デバイスである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、針の穿刺深さを容易に略一定にすることができる投与デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る投与デバイスの外観斜視図である。
図2図1に示す投与デバイスの分解斜視図である。
図3図1に示す投与デバイスの分解断面斜視図である。
図4A図1の矢印X-X方向に視た投与デバイスの断面斜視図であり、初期状態を示す。
図4B図1の矢印X-X方向に視た投与デバイスの断面斜視図であり、カートリッジが針と一体となったエンゲージ状態を示す。
図5A図1の矢印X-X方向に視た投与デバイスの断面図であり、初期状態を示す(図4A対応図)。
図5B図1の矢印X-X方向に視た投与デバイスの断面図であり、カートリッジが針と一体となったエンゲージ状態を示す(図4B対応図)。
図5C図1の矢印X-X方向に視た投与デバイスの断面図であり、薬液の投与の開始時の状態を示す。
図5D図1の矢印X-X方向に視た投与デバイスの断面図であり、薬液の投与の完了時の状態を示す。
図5E図1の矢印X-X方向に視た投与デバイスの断面図であり、薬液の投与の完了後、針が下ケースに格納された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、矢印Fは前方向を示し、矢印Bは後方向を示し、矢印Lは左方向を示し、矢印Rは右方向を示し、矢印Uは上方向を示し、矢印Dは下方向を示す。ただし、本明細書において、便宜上、各方向を用いて説明するが、投与デバイス1を使用する際の姿勢が特定の姿勢に限定されるものではない。すなわち、投与デバイス1は、下方向Dに向けて使用するものとして説明されるが、例えば、上方向Uに向けて使用することもできる。下方向Dは、請求項1における「第1端部側」へ向かう方向に該当する。
【0019】
まず、図1図4Bを用いて、投与デバイス1の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る投与デバイスの外観斜視図である。図2は、図1に示す投与デバイスの分解斜視図である。図3は、図1に示す投与デバイスの分解断面斜視図である。図4Aは、図1の矢印X-X方向に視た投与デバイスの断面斜視図であり、初期状態を示す。図4Bは、図1の矢印X-X方向に視た投与デバイスの断面斜視図であり、カートリッジが針と一体となったエンゲージ状態を示す。
【0020】
図1図4Bに示す投与デバイス1は、表皮と真皮の間、すなわち皮内IN(図5Dなど参照)に薬液LMを投与する皮内注射器である。具体的に、投与デバイス1は、針2と、カートリッジ3と、下ケース4(ケース)と、中ケース5と、スプリング6(押付け力制御部材)と、針ベース7と、固定解除機構8と、上ケース9と、ヘッドカバー10と、報知機構20と、等を備えている。
【0021】
針2は、上方向U及び下方向D(上下方向)に沿って延びるように配置されている。針2の上方向Uの側がカートリッジ3のシール32に突き刺さることでシール32を破った後に、針2の下方向Dの側は、皮内IN(図5Dなど参照)に穿刺される。これにより、針2は、カートリッジ3に収容されている薬液LMが皮内INに投与される際に、薬液LMの流路になる。針2は、穿刺時以外のときには、下ケース4に格納されており、初期状態において、針ベース7に支持されていることでカートリッジ3から離れている位置に固定されている。その固定が解除されることで、針2は、針ベース7と一体に下方向Dに移動可能になる。
【0022】
針2の材質は、金属材料でもよく、金属材料に比べて剛性が低く柔軟性が高い樹脂でもよい。
【0023】
カートリッジ3は、針2を介して皮内INに投与される薬液LMが収容されているプレフィルド式のものである。カートリッジ3は、薬液LMを密閉保存して劣化を防いでいる。カートリッジ3は、カートリッジ本体31と、シール32と、ピストン33と、を有している。使用時にシール32に針2が突き刺さることで、薬液LMの使用が可能になる。カートリッジ3は、中ケース5に格納されている。カートリッジ3と中ケース5とは、一体になっている。カートリッジ3は、下ケース4と中ケース5との間に介在するコイル状のスプリング6によって所定の位置に維持されるように、中ケース5と一体に下ケース4に格納されている。カートリッジ3は、ヘッドカバー10の押し部材11に下方向Dへの力が付与されることで、スプリング6の反力に抗して中ケース5と一体に下方向Dに移動する。カートリッジ3は、当該力の付与が解除されることで、スプリング6の伸長に伴って(つまり、スプリング6の反力により)、中ケース5と一体に上方向Uに移動する。
【0024】
カートリッジ本体31は、上方向U及び下方向Dの両端が開口しているシリンダーであり、特に限定されないが、透明の素材で構成されていてもよい。この「透明」は、透明又は半透明であってよく、具体的には透明度が高いものであってもよく、プラスチック素材などのような、ガラスよりも透明度の低いもの(透明のポリプロピレンなど)であってもよい。カートリッジ本体31は、収容されている薬液LMの劣化防止のために、有色の(着色された)透明の容器(例えば、色付きバイアル瓶)でもよい。カートリッジ本体31は、薬液LMを収容している。カートリッジ本体31の下方向Dの端部はシール32で塞がれている。カートリッジ本体31の上方向Uの端部に、ピストン33が嵌め込まれている。シール32は、針2が突き刺さることで破られる。ピストン33は、シール32が破られた後に、下方向Dに所定以上の力が付与された場合に、カートリッジ本体31に対して下方向Dに移動し、これによって、針2を介して薬液LMを押し出す。すなわち、ピストン33は、シール32が破られた後に、下方向Dに力が付与されている場合であっても、スプリング6の反力に抗してカートリッジ本体31が下方向Dに移動可能であるならば、カートリッジ本体31に対して下方向Dに相対移動せずに、カートリッジ本体31と一体に下方向Dに移動する。
【0025】
下ケース4は、左右一対の部材4A,4Bが互いに連結されていることで、投与デバイス1における下方の筐体として略筒状に構成されている。なお、本実施形態では、左右一対の部材4A,4Bが互いに連結されて、下ケース4が構成されているが、これに制限されない。下ケース4は、一体成形などにより、一体的に構成されていてもよい。下ケース4の下端部45(第1端部)は開口している。下ケース4には、針2及びカートリッジ3等が下方向D及び上方向Uに移動可能に格納されている。下方向Dへの力が付与されたカートリッジ3が針2と一体に下方向Dに移動されることで、下ケース4の下端部45から針2が進出し、針2が皮内INに穿刺可能となる。詳細には、カートリッジ3を保持している中ケース5と、針2とが一体化することにより、カートリッジ3と針2とが一体化する。
【0026】
下ケース4の内面には、スプリング6を支持するフランジ41が形成されている。下ケース4の内面には、フランジ41の下方向Dで且つ左方向L及び右方向Rの双方の側に一つずつ、固定解除機構8を構成する対の凹部42が形成されている。下ケース4の下端部45には、内面の側に、下方向Dに移動した針ベース7が突き当たるフランジ43が、環状に形成されている。環状のフランジ43の内側は、上下方向に貫通する開口46を形成している。開口46を通じて針2を移動させることができれば、開口46の大きさや形状は制限されない。下ケース4の外面には、前方向F及び後方向Bの双方の側に一つずつ、上ケース9からの脱落を防止すると共に上ケース9に対する下方向D及び上方向Uへの移動を可能にする突条部44が形成されている。突条部44は、上下方向に沿って延びており、上ケース9の溝94の内側に配置される。
【0027】
中ケース5は、略筒状に構成されている。中ケース5には、カートリッジ3が格納されていると共に、カートリッジ3と一体に下ケース4に格納されている。中ケース5の側面には、左方向L及び右方向Rの双方の側に一つずつ、カートリッジ3に収容されている薬液LMを視認するための対の窓51が形成されている。中ケース5の外面には、対の窓51の上方向Uに、スプリング6を支持するフランジ52が形成されている。中ケース5の外面には、対の窓51の下方向Dで且つ左方向L及び右方向Rの双方の側に一つずつ、固定解除機構8を構成する対の孔53が形成されている。それぞれの孔53の下方向Dの側には、凹み56がそれぞれ設けられている。孔53と凹み56とは上下方向に隣接している。
【0028】
中ケース5のフランジ52には、前方向F及び後方向Bの双方の側に一つずつ、報知機構20を構成する対の鳴り板54が、上方向Uに延びるように形成されている。前方向Fの側の鳴り板54には、その前方向Fの側に、報知機構20を構成する爪55が形成されている。後方向Bの側の鳴り板54には、その後方向Bの側に、報知機構20を構成する爪55が形成されている。
【0029】
スプリング6は、カートリッジ3と下ケース4との間に反力を発生させるように介在し、カートリッジ3が針2と一体に下方向Dに移動する際に、下ケース4の皮膚SK(図5Dなど参照)への押付け力を制御する。スプリング6は、カートリッジ3に対して下方向Dに付与されていた力が解除されることで、針2と一体にカートリッジ3を上方向Uに移動させる。具体的に、スプリング6は、カートリッジ3を格納している中ケース5のフランジ52と、下ケース4のフランジ41との間に介在している。スプリング6は、カートリッジ3を格納している中ケース5が下ケース4に対して移動することに伴って、伸縮する。
【0030】
本発明においては、押付け力制御部材(スプリング6)は、カートリッジ3(カートリッジ)と下ケース4(ケース)との間に、直接的に又は間接的に(他の部材を介して)、反力を発生させるように介在していればよい。本実施形態においては、スプリング6は、カートリッジ3と下ケース4との間に、中ケース5を介して間接的に、反力を発生させるように介在している。
【0031】
なお、実施形態について、中ケース5とカートリッジ3とは別の構成要素である、すなわち、中ケース5はカートリッジ3の構成の一部ではないと説明されている。しかし、カートリッジ3と中ケース5とは一体になっているため、別の見方をすると、中ケース5はカートリッジ3の構成の一部であると捉えることができる。具体的には、カートリッジ3は、カートリッジ本体31と、シール32と、ピストン33と、中ケース5と、を有している、と捉えることができる。このように捉える場合、押付け力制御部材(スプリング6)は、カートリッジ3(カートリッジ)と下ケース4(ケース)との間に、直接的に、反力を発生させるように介在していることになる。
【0032】
針ベース7は、下ケース4に格納されており、初期状態においてカートリッジ3から離れている位置に針2を支持している。針ベース7は、下ケース4に対する固定がなされており、固定解除機構8によって固定が解除されることで、針2と一体に下方向D及び上方向Uに移動可能になる。具体的に、針ベース7は、ベース本体71と、対のガイド片72と、対の爪73と、を有している。ベース本体71は、針2と直交する方向に延びるプレートであり、針2を貫通させていると共に支持している。対のガイド片72は、それぞれ、ベース本体71における前方向F及び後方向Bの双方の側の端縁から上方向Uに延びているプレートであり、下ケース4に対する針ベース7の移動をガイドする。
【0033】
対の爪73は、固定解除機構8を構成している。これら対の爪73は、それぞれ、ベース本体71における左方向L及び右方向Rの双方の側の端縁から互いにわずかに近付くように上方向Uに延びており、上方向Uの端部に第1爪頭73a及び第2爪頭73bを有している。対の第1爪頭73aは、それぞれ、左右方向の外側に凸となる形状を有している。対の第2爪頭73bは、それぞれ、左右方向の内側に凸となる形状を有している。
【0034】
固定解除機構8は、下方向Dに移動したカートリッジ3が針2と一体となった後に、下ケース4に対する針ベース7の固定を解除する。具体的に、固定解除機構8は、下ケース4の対の凹部42と、中ケース5の対の孔53と、針ベース7の対の爪73と、から構成されている。針ベース7の対の爪73は、それぞれ、初期状態において、対の第2爪頭73bが中ケース5の凹み56に外側に押されることで、外側に撓んでいる。また、対の第1爪頭73aの各々は、下ケース4の対の凹部42に嵌まり込んでいる。これにより、下ケース4に対する針ベース7の固定が行われている。針ベース7の対の爪73は、それぞれ、中ケース5が下方向Dに移動して中ケース5の対の孔53が対の第2爪頭73bに対向する位置に到達することで、外側への撓みが解除される。そして、対の第2爪頭73bが中ケース5の対の孔53に嵌まり込むと共に、対の第1爪頭73aは、下ケース4の対の凹部42から脱出する。これにより、下ケース4に対する針ベース7の固定が解除される。
【0035】
上ケース9は、前後一対の部材9A,9Bが互いに連結されていることで、投与デバイス1における上方の筐体として略筒状に構成されている。なお、本実施形態では、前後一対の部材9A,9Bが互いに連結されて、上ケース9が構成されているが、これに制限されない。上ケース9は、一体成形などにより、一体的に構成されていてもよい。上ケース9の側面には、左方向L及び右方向Rの双方の側に一つずつ、カートリッジ3に収容されている薬液LMを視認するための対の窓91が形成されている。上ケース9の側面には、前方向F及び後方向Bの双方の側に一つずつ、報知機構20を構成する対の孔92が形成されている。
【0036】
上ケース9の上端部には、天面93が形成されている。天面93には、ヘッドカバー10の押し部材11が挿通される貫通孔93aが形成されている。上ケース9の内面には、前方向F及び後方向Bの双方の側に一つずつ、溝94が形成されている。溝94は、下ケース4の突条部44と連係することで、下ケース4からの脱落を防止すると共に下ケース4に対する下方向D及び上方向Uの移動を可能にする。
【0037】
ヘッドカバー10は、上ケース9の上端部を覆うカバーであり、上ケース9に固定されている。ヘッドカバー10の内側には、押し部材11が設けられている。押し部材11は、上ケース9の貫通孔93aに挿通されており、また、カートリッジ3のピストン33に到達する長さを有する棒状の部材である。押し部材11は、操作者に押されて下方向Dに移動することでカートリッジ3に下方向Dの力を付与する。
【0038】
報知機構20は、薬液LMの投与の完了時に噛み合うことで操作者に伝達される音及び力を発生させて、薬液LMの投与の完了を操作者に報知する。具体的に、報知機構20は、中ケース5の対の鳴り板54と、中ケース5の対の爪55と、上ケース9の対の孔92と、から構成されている。中ケース5の対の鳴り板54は、それぞれ、初期状態において、対の爪55が上ケース9の内面に触れていることで、内側に撓んでいる。中ケース5の対の鳴り板54は、それぞれ、中ケース5が上方向Uに移動して中ケース5の対の爪55が上ケース9の対の孔92に対応する位置に到達することで、内側への撓みが解除され、外側へ一気に変形する。そして、対の爪55が上ケース9の対の孔92に入り込むと共に、鳴り板54は上ケース9の内面をパチンと叩く。これにより、操作者に伝達される音及び力が発生する。
【0039】
本実施形態の投与デバイス1は、下ケース4の下端部45を皮膚SKに押し付けた状態で、下端部45の開口46を通じて針2を下端部45側に移動させることで下端部45の外部に針2を進出させて、針2を生体内に穿刺することができる。
【0040】
投与デバイス1は、下ケース4の下端部45の開口46を通じて針2を下端部45側に移動させることで下端部45の外部に針2を進出させて針2を生体内に穿刺する過程において、スプリング6による反力の発生を継続させ、且つ、皮膚SKへの下ケース4の押付け力を略一定に制御することにより、生体内への針2の穿刺が完了した状態において、針2の穿刺深さを略一定にするように構成されている。なお、押付け力は、押付けストロークによって変化するので、「押付け力を略一定」とは、穿刺する工程を通じて略一定ということではなく、操作者に依らず略一定ということである。また、投与デバイス1は、カートリッジ3に収容されている薬液LMを針2から排出して生体内に投与する過程において、スプリング6による反力の発生を継続させ、針2の穿刺深さを略一定にするように構成されている。
【0041】
次に、図4A図4B図5A図5Eを用いて、操作者による投与デバイス1の操作について説明する。図5Aは、図1の矢印X-X方向に視た投与デバイス1の断面図であり、初期状態を示す。図5Bは、図1の矢印X-X方向に視た投与デバイス1の断面図であり、カートリッジ3が針2と一体となったエンゲージ状態を示す。図5Cは、図1の矢印X-X方向に視た投与デバイス1の断面図であり、薬液LMの投与の開始時の状態を示す。図5Dは、図1の矢印X-X方向に視た投与デバイス1の断面図であり、薬液LMの投与の完了時の状態を示す。図5Eは、図1の矢印X-X方向に視た投与デバイス1の断面図であり、薬液LMの投与の完了後、針2が下ケース4に格納された状態を示す。
【0042】
まず、図4A及び図5Aに示すように、針ベース7の爪73の第1爪頭73aが下ケース4の凹部42に嵌まり込んでおり、下ケース4に対する針ベース7(及び針2)の固定が行われている状態において、操作者が下ケース4の下端部45を皮膚SKに突き当てる。その後、操作者がヘッドカバー10を下方向Dに押す。これにより、押し部材11を介して、カートリッジ3に下方向Dの力が付与され、延いては、中ケース5にも下方向Dの力が付与され、中ケース5が下方向Dへ移動する。その結果、中ケース5のフランジ52と下ケース4のフランジ41との間に介在しているスプリング6が収縮する(これにより、スプリング6の反力が増加する)。そのため、下ケース4は、スプリング6の反力に抗して下方向Dに移動する。下ケース4の開口した下端部45に押されて、皮膚SKは膨らむ(膨らんだ状態は、図5Bに示される)。
【0043】
そして、図4B及び図5Bに示すように、針2がカートリッジ3のシール32に突き刺さる。シール32に針2が突き刺さるタイミングは、本実施形態の投与デバイス1では、ヘッドカバー10の押し部材11の押し込みストローク(押し込み量、押し込み深さ)で制御されているため、操作者に依らず一定のタイミングとなる。また、固定解除機構8は、下ケース4に対する針ベース7の固定を解除する。固定解除機構8による固定解除の動作は、本実施形態の投与デバイス1では、ヘッドカバー10の押し部材11の押し込みストローク(押し込み量、押し込み深さ)で制御されている。詳細には、ヘッドカバー10の押し部材11の押し込みに伴って中ケース5が下方向Dに移動し、そのため、爪73の第2爪頭73bの位置は、中ケース5の凹み56に対向する位置から、中ケース5の孔53に対向する位置に移動する。そして、第2爪頭73bは孔53に入り込む。これにより、爪73は内側に向けて変形し、爪73の第1爪頭73aは、下ケース4の凹部42から脱出する。このようにして、下ケース4に対する針ベース7の固定は解除される。そして、針2及びカートリッジ3が一体に下方向Dに移動可能になる。
【0044】
下ケース4の下端部45の開口46を通じて、針2は下端部45側に移動し、下端部45の外部に針2は進出して、針2は生体内に穿刺される。このような穿刺過程において、スプリング6による反力の発生は継続し、且つ、皮膚SKへの下ケース4の押付け力は略一定に制御される。これにより、生体内への針2の穿刺が完了した状態において、針2の穿刺深さは略一定になる。また、カートリッジ3に収容されている薬液LMは、針2から排出されて生体内に投与される。このような投与過程において、スプリング6による反力の発生は継続し、針2の穿刺深さは略一定になる。
【0045】
また、薬液LMの投与後に、針2、カートリッジ3、中ケース5及び上ケース9が一体に、上方向Uに移動する(後退する)ことが可能となる。なお、仮に、固定解除機構8による固定解除の動作がヘッドカバー10の押し部材11の押し込み力で制御されている場合、押し込み(操作)スピードや部材の寸法などのバラツキによって、固定解除機構8による固定解除のタイミングが変動し、結果的に皮膚SKへの押し付け力も変動してしまう可能性がある。
【0046】
図5Cに示すように、操作者がヘッドカバー10を更に下方向Dに押した時点で、針2は、下端部45の外部に(下方向Dへ)進出し、皮内INに穿刺されると共に、針ベース7が下ケース4のフランジ43に突き当たる。これにより、薬液LMが投与可能になる。ここで、カートリッジ3と下ケース4との摩擦力は、カートリッジ3に収容(充填)されている薬液LMに抗してピストン33を下方向Dに動かすのに必要な力よりも、小さい。そのため、針2及びカートリッジ3の一体移動中には、薬液LMは、針2の針先から漏れ出さない。その後、操作者がヘッドカバー10を更に下方向Dに押すことで、ピストン33がカートリッジ本体31に対して下方向Dに移動し、針2を介して薬液LMが押し出される。
【0047】
図5Dに示すように、操作者がヘッドカバー10を更に下方向Dに押した時点で、薬液LMの投与が完了する。ここで、カートリッジ3に収容されている薬液LMを針2から排出して皮内IN内に投与する過程(薬液LMの投与が完了するまで)において、中ケース5のフランジ52と下ケース4のフランジ41との間に介在しているスプリング6が縮み切る(コイル線状部材が突き当たり、変形できなくなる)ことは無いため、スプリング6は、反力の発生を継続している。また、報知機構20が薬液LMの投与の完了を操作者に報知する。詳細には、中ケース5の爪55が上ケース9の孔92に対応する位置に到達することで、爪55が上ケース9の孔92に入り込む(針2と一体になっているカートリッジ3及び中ケース5の移動が規制された状態となり、更には、上ケース9の移動も規制された状態となる)。
【0048】
このような移動の規制により、薬液LMの投与後に、針2、カートリッジ3、中ケース5及び上ケース9が一体に、上方向Uに移動する(後退する)ことを可能としている。また、鳴り板54は上ケース9の内面をパチンと叩き、操作者に伝達される音及び力は発生する。これにより、操作者は、薬液LMの投与の完了を確認できる。その後、操作者がヘッドカバー10を押す動作を止める。
【0049】
操作者がヘッドカバー10を押す動作を止めたことで、スプリング6は、伸長し、図5Eに示すように、下ケース4を第1端部45側に移動させる。これにより、下ケース4に対して相対的に、針2、カートリッジ3、中ケース5、針ベース7、上ケース9及びヘッドカバー10が一体に上方向Uに移動する(後退する)。これにより、針2が下ケース4に格納される。
【0050】
本実施形態に係る投与デバイス1によれば、例えば以下の効果が奏される。
本実施形態に係る投与デバイス1は、生体(皮内IN)内に穿刺される針2と、針2を介して生体内に投与される薬液LMを収容可能なカートリッジ3と、皮膚SKに押し付けられる第1端部(下端部45)が又は開口可能であると共に、針2及びカートリッジ3が下端部45側に移動可能に格納されており、針2が第1端部45側に移動されることで第1端部45の外部に針2が進出可能なケース(下ケース4)と、カートリッジ3とケース4との間に反力を発生させるように介在し、針2が第1端部45側に移動する際に、皮膚SKへのケース4の押付け力を制御する押付け力制御部材(スプリング6)と、を備えている。カートリッジ3に収容されている薬液LMを針2から排出して生体(皮内IN)内に投与する過程において、スプリング6は、前記反力の発生を継続可能である。
【0051】
そのため、本実施形態に係る投与デバイス1によれば、押付け力制御部材であるスプリング6は、カートリッジ3と下ケース4との間に反力を発生させるように介在し、皮膚SKへの下ケース4の押付け力を制御しており、しかも、カートリッジ3に収容されている薬液LMを針2から排出して生体内(皮内IN内)に投与する過程において、スプリング6は、反力の発生を継続可能である。そのため、皮膚SKへの下ケース4の押付け力を略一定に制御することができ、その結果、針2の穿刺深さを容易に略一定にすることができる。
【0052】
そして、薬液LMを投与する過程においても、スプリング6による反力の発生を継続させているので、例えば患者の皮膚SKが投与デバイス1から離れる方向に動いた場合であっても、スプリング6の収縮が少し緩和されることで、針2の針先が患者の皮膚SKを自動的に追尾することができる。本実施形態においては、針ベース7と下ケース4とが突き当たった(当接した)状態で薬液LMが投与される。そのため、スプリング6による反力が継続することにより穿刺深さが略一定になるのは、患者の皮膚SKが投与デバイス1から離れる方向に動いた場合に、スプリング6の収縮が緩和されることで、下ケース4、針ベース7及び針2が患者の皮膚SKを追尾(追従)するためである。
【0053】
仮に、針を単純に皮膚SKに押し付けた場合、針が生体内(皮内IN内)に穿刺される前に皮膚SKが凹むので、針2の穿刺深さが浅くなる。一方、本実施形態に係る投与デバイス1によれば、皮膚SKに押し付けられる下ケース4の下端部45が開口しているので、下ケース4が皮膚SKに押し付けられることで、皮膚SKをドーム状に盛り上げてから、針2を皮膚SKに押し付けることができる。これにより、皮膚の表面から1mm~2mm程度の深さの位置に針2を容易に穿刺することができる。すなわち、投与デバイス1によれば、マントー法のような複雑な操作がないので、特別な訓練を受けていない者であっても、生体内への針2の穿刺が完了した状態において、針2の穿刺深さを容易に略一定にすることができる。
【0054】
従来の投与デバイスでは、看護師などの操作者がバイアルから薬液を吸い上げてから、薬液を投与する形式のものが主流であるが、その作業は煩雑である。そこで、薬液が予め収容されているプレフィルド式のものを採用することが考えられる。しかし、プレフィルド式のものでは、薬液を密閉保存して劣化を防ぐことが重要となる。一方、本実施形態に係る投与デバイス1によれば、薬液LMが予め収容されているプレフィルド式のカートリッジ3を採用しているので、薬液LMを酸化や汚染等から保護し、清潔状態を保つことができる。
【0055】
本実施形態においては、薬液LMの投与後に、針2、カートリッジ3、中ケース5及び上ケース9が一体に、上方向Uに移動する(後退する)ことが可能である。スプリング6は、カートリッジ3に対して下端部45側へ付与されていた力が解除されることで、針2と一体にカートリッジ3を、下端部45とは反対側に移動させる。
【0056】
これによれば、薬液LMの投与の完了後、カートリッジ3に対して下端部45側(下方向D)へ付与されていた力が解除されることで、スプリング6が針2を下端部45側とは反対側(上方向U)に移動させ、針2が下ケース4に格納される。そのため、使用後の針刺し事故を防止できる。
【0057】
本実施形態においては、針2と一体になっているカートリッジ3の移動が薬液LMの投与の完了後に規制された状態において、スプリング6は、下ケース4を第1端部45側に移動させる。
【0058】
仮に、針2と一体になっているカートリッジ3の移動が薬液LMの投与の完了後に規制されないと、スプリング6が伸長しようとする力が十分に大きくないと、針2が下ケース4内へと移動せず、針2の針先は下ケース4に隠れない。本実施形態においては、針2と一体になっているカートリッジ3の移動が薬液LMの投与の完了後に規制された状態において、スプリング6は、下ケース4を第1端部45側に移動させる。そのため、スプリング6の伸長力が小さくても、針2は下ケース4内へ移動でき、針2の針先をより確実に下ケース4内に隠すことができる。
【0059】
本実施形態に係る投与デバイス1は、薬液LMの投与の完了時に噛み合うことで操作者に伝達される音又は力を発生させて、薬液LMの投与の完了を操作者に報知する報知機構20を備えている。
【0060】
そのため、操作者は、目視ではなく、音又は触感によって薬液の投与の完了を確認することができ、作業性が高い。特に、ワクチンが全量投与されるかどうかは薬液の効果を十分に発揮させるために重要であり、これにより操作者が全量投与しないまま投与を中断してしまうことを抑止できる。
【0061】
本実施形態に係る投与デバイス1は、初期状態においてカートリッジ3から離れている位置に針2を支持していると共に、ケース4に対する固定がなされており、前記固定が解除されることで針2と一体に下端部45側に移動可能になる針ベース7と、下端部45側に移動したカートリッジ3が針2と一体となった後に前記固定を解除する固定解除機構8と、を備えている。
【0062】
ところで、薬液が予め収容されているプレフィルド式のものとして、例えば、薬室と針を一体にしたものや、使用時に薬室に針を取り付けるものが挙げられる。薬室と針を一体にしたものでは、針先にキャップを装着しておく必要があるため、針先の劣化に伴う穿刺時の痛みの増大が問題となる。使用時に薬室に針を取り付けるものでは、針を取り付ける手間や、針の取付け作業時の操作者による失敗(ヒューマンエラー)が問題となる。一方、本発明に係る投与デバイスによれば、自動的に針2とカートリッジ3とが一体となり、薬液LMの投与が可能となるので、針2を取り付ける手間は生じず、操作者による失敗は発生しない。
【0063】
本実施形態に係る投与デバイス1は、操作者に押されて下端部45側に移動することでカートリッジ3に下端部45側への力を付与する押し部材11を備える。カートリッジ3は、薬液LMが収容されているカートリッジ本体31と、押し部材11に押されてカートリッジ本体31に対して下端部45側に移動することで、針2を介して薬液LMを押し出すピストン33と、を有している。
【0064】
そのため、操作者は、針2とカートリッジ3との一体化、生体内(皮内IN内)への針2の穿刺、薬液LMの投与等の一連の動作を、押し部材11を下端部45側に押すというワンアクションで行うことが可能であり、操作が容易である。
【0065】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0066】
上記実施形態では、投与デバイス1が皮内注射器である場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、皮下組織又は筋肉内への投与デバイスであってもよい。皮下組織への投与デバイスの場合、針は皮下組織に穿刺され、針を介して皮下組織に薬液が投与される。筋肉内への投与デバイスの場合、針は筋肉内に穿刺され、針を介して筋肉内に薬液が投与される。薬液の投与先は、皮内、皮下組織及び筋肉以外の生体であってもよい。
【0067】
第1端部(下端部45)は、常時開口している構成であってもよく、又は、使用時のみ開口可能な構成(不使用時には開口していない構成)であってもよい。
【0068】
前記実施形態は、カートリッジ3のピストン33を直接押す押し部材11を備えているため、生体内(皮内IN内)への針2の穿刺、薬液LMの投与等の一連の動作を、(ヘッドカバー10を介して)押し部材11を下端部45側に押すというワンアクションで行うことが可能であるが、これに制限されない。例えば、ヘッドカバー10がカートリッジ3のカートリッジ本体31を押し、ヘッドカバー10とは一体的ではない別の押し部材(図示せず)がカートリッジ3のピストン33を押す構成を採ることができる。この構成においては、前述の一連の動作をワンアクションで行うことはできないが、複数のアクションで行うことができる。
【0069】
押付け力制御部材は、コイル状のスプリング6に制限されず、各種弾性部材、弾性構造であってもよい。押付け力制御部材は、反力を発生するものであれば、完全な弾性体に制限されず、ダンパー性を有していてもよい。
【0070】
あるいは、上記実施形態では、報知機構20が操作者に伝達される音及び力の双方を発生させるものである場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、報知機構20は、操作者に伝達される音又は力の一方を発生させるものであってもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 投与デバイス
2 針
3 カートリッジ
31 カートリッジ本体
32 シール
33 ピストン
4 下ケース(ケース)
4A,4B 部材
41 フランジ
42 凹部
43 フランジ
44 突条部
45 下端部(第1端部)
46 開口
5 中ケース
51 窓
52 フランジ
53 孔
54 鳴り板
55 爪
56 凹み
6 スプリング(押付け力制御部材)
7 針ベース
71 ベース本体
72 ガイド片
73 爪
73a 第1爪頭
73b 第2爪頭
8 固定解除機構
9 上ケース
9A,9B 部材
91 窓
92 孔
93 天面
93a 貫通孔
94 溝
10 ヘッドカバー
11 押し部材
20 報知機構
IN 皮内
SK 皮膚
F 前方向
B 後方向
L 左方向
R 右方向
D 下方向(第1端部側)
U 上方向(第1端部とは反対側)
【要約】
本発明は、針2と、針2を介して生体IN内に投与される薬液LMを収容可能なカートリッジ3と、皮膚SKに押し付けられる第1端部45が開口又は開口可能で、針2及びカートリッジ3が第1端部45側に移動可能に格納され、針2が第1端部45側に移動されることで第1端部45の外部に針2が進出可能なケース4と、カートリッジ3とケース4との間に反力を発生させるように介在し、針2が第1端部45側に移動する際に皮膚SKへのケース4の押付け力を制御する押付け力制御部材6と、を備え、針2を穿刺する過程において、押付け力制御部材6による反力の発生を継続させ、且つ、皮膚SKへのケース4の押付け力を略一定に制御することにより、針2の穿刺が完了した状態において針2の穿刺深さを略一定にするように構成され、且つ、カートリッジ3に収容されている薬液LMを針2から排出して投与する過程において、押付け力制御部材6による反力の発生を継続させ、針2の穿刺深さを略一定にするように構成される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E