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特許7082855住宅融資の期限前償還率を推定するプログラム、装置及び方法
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  • 特許-住宅融資の期限前償還率を推定するプログラム、装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】住宅融資の期限前償還率を推定するプログラム、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/02 20120101AFI20220602BHJP
【FI】
G06Q40/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019156167
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021033883
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓也
(72)【発明者】
【氏名】木村 塁
【審査官】塩田 徳彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-026322(JP,A)
【文献】国際公開第2011/033952(WO,A1)
【文献】特開2013-097471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅融資の期限前償還率(プリペイメント率)を推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
ユーザ毎に、当該ユーザに所持された携帯端末における時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
世帯転出率(引っ越し率)と期限前償還率との間の相関モデルを構築した相関学習エンジンと、
ユーザ位置データベースを用いて、地域毎に、各所定期間について、住所圏として滞在するであろう1ユーザ以上からなるユーザ世帯を抽出するユーザ世帯抽出手段と
地域毎に、前の所定期間に住所圏とするユーザ世帯数に対する、後の所定期間に不在となったユーザ世帯数の世帯転出率を算出する世帯転出率算出手段と
して機能させ、
相関学習エンジンは、世帯転出率算出手段によって算出された世帯転出率を入力し、期限前償還率を推定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
相関学習エンジンは、世帯転出率が上昇した際に期限前償還率も上昇し、世帯転出率が下落した際に期限前償還率も下落する回帰モデルを構築したものである
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
相関学習エンジンは、説明変数となる世帯転出率と、目的変数となる期限前償還率とを対応付けた教師データによって、学習モデルを構築したものである
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項4】
地域及び/又は期間帯に応じて、融資の重みが予め規定されており、
世帯転出率算出手段は、算出した世帯転出率に、融資の重みを乗算する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項5】
期限前償還率が高いほど、金利スワップに基づく金利固定期間を短くし、期限前償還率が低いほど、金利固定期間を長くするように制御する金利固定期間制御手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項6】
ユーザ位置データベースについて、時系列の位置は、ユーザに所持された携帯端末によって測位された端末測位位置、及び/又は、基地局に接続した携帯端末の滞在範囲に基づく基地局測位位置である
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項7】
住宅融資の期限前償還率を推定する装置であって、
ユーザ毎に、当該ユーザに所持された携帯端末における時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
世帯転出率と期限前償還率との間の相関モデルを構築した相関学習エンジンと、
ユーザ位置データベースを用いて、地域毎に、各所定期間について、住所圏として滞在するであろう1ユーザ以上からなるユーザ世帯を抽出するユーザ世帯抽出手段と
地域毎に、前の所定期間に住所圏とするユーザ世帯数に対する、後の所定期間に不在となったユーザ世帯数の世帯転出率を算出する世帯転出率算出手段と
を有し、
相関学習エンジンは、世帯転出率算出手段によって算出された世帯転出率を入力し、期限前償還率を推定する
ことを特徴とする装置。
【請求項8】
住宅融資の期限前償還率を推定する装置の期限前償還率推定方法であって、
装置は、
ユーザ毎に、当該ユーザに所持された携帯端末における時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
世帯転出率と期限前償還率との間の相関モデルを構築した相関推定エンジンと
を有し、
装置は、
ユーザ位置データベースを用いて、地域毎に、各所定期間について、住所圏として滞在するであろう1ユーザ以上からなるユーザ世帯を抽出する第1のステップと、
地域毎に、前の所定期間に住所圏とするユーザ世帯数に対する、後の所定期間に不在となったユーザ世帯数の世帯転出率を算出する第2のステップと、
第2のステップによって算出された世帯転出率を、相関推定エンジンへ入力し、期限前償還率を推定する第3のステップと
を実行することを特徴とする期限前償還率推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行における住宅融資の期限前償還率(プリペイメント率)を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅融資のプリペイメント率とは、住宅を購入した融資債務者のユーザが、当初の返済期限よりも前に完済する割合をいう。
長期返済を前提とする住宅融資には、プリペイメントリスクが存在する。プリペイメントリスクとは、期限前償還による将来利息収入の機会損失リスクをいう。融資先ユーザの信用リスクと比較して、金融機関におけるプリペイメントリスクに対する分析は十分ではない。固定期間選択型の住宅融資におけるプリペイメントリスクは、繰り上げ完済のピークとなる経験則から分析しているに過ぎない。
プリペイメントリスク分析には、借り換え時の金利差、年収、融資額、本人/子供年齢等の影響因子も比例的に影響し、一般的に「Cox比例ハザードモデル」が用いられている。
【0003】
金融機関は、要求払預金や定期預金(期間1~3年)を主な原資として、住宅融資を貸し出している。この「短期原資で長期貸出」という構造に起因して、流動性リスクや金利リスクが発生する。これは、金融機関にとっては根源的なリスクであるが、バブル崩壊後の20年余り、「金利の低下局面」や「超低金利の継続局面」であるために、流動性リスクや金利リスクが顕在化していない。
【0004】
一方で、住宅融資の場合、返済期間は25~35年に及ぶものの、実際の返済期間は平均15年前後となっている。即ち、融資債務者は、まとまった余裕資金ができる毎に、残債務の一部又は全部を返済してしまう。現在では、多くの銀行が、融資獲得競争の一環として無料で繰り上げ返済をすることができるようにしているために、金利低下時の借り換え競争と相俟って、期限前償還が顕著となっている。
【0005】
しかしながら、繰り上げ完済の発生は、住宅融資の商品性にも左右されている。固定期間3年や5年の固定期間選択型の住宅融資商品では経験則として、固定期間終了時に金利リセット又は変動金利への移行が行われるのを嫌って、その前後に繰り上げ完済のピークが顕著に現れる。
【0006】
プリペイメントは、貸出金額が確実に回収されるという点では問題ない。しかしながら、住宅融資収益性への影響という点では、プリペイメントが可能な顧客層は、デフォルトの心配がない優良顧客であるために、将来利息収入の機会損失となる。結果的に、住宅融資債権プール全体としては、収益性の悪化要因となってしまう。
【0007】
図1は、ユーザにおける住宅融資の借り換えを表す説明図である。
【0008】
図1によれば、例えば2008年当時、ユーザは、銀行Aから、35年の住宅融資1000万円を、金利3%で借り入れたとする。
10年経過後の2018年、金利の低下の影響下、銀行Bが、金利0.5%で貸し出し始めたとする。これを知ったユーザは、銀行Aに対する残金800万円の債務について、金利3%の銀行Aから、金利0.5%の銀行Bへ借り換えをしたいと考える。
このとき、ユーザは、銀行Bから、25年の住宅融資800万円を、金利0.5%で借り入れる。
そして、ユーザは、銀行Bから借り入れた800万円を、銀行Aへ、期限前償還として返済する。
【0009】
従来、住宅融資のプリペイメント率は、単に、借入時点からの経過年数(ローンエイジ)によって統計的に推定されていた。例えば2004年頃、低金利下でのローンエイジと、プリペイメント率との関係が調査されており、銀行は、住宅融資の債務者は、借り入れから5年で完済(借り換え)されることを念頭に、金利を制御すべきと判断していた。
【0010】
図2は、銀行における住宅融資の金利スワップを表す説明図である。
【0011】
図2によれば、銀行Aは、2008年当時、ユーザへ、35年の住宅融資1000万円を、固定金利3%で貸し出している。一方で、銀行Aは、住宅融資の原資となっている預金者には、変動金利2%を支払っている。固定金利3%受け取り、変動金利2%を支払うことによって、1%の金利差(さや)を設けている。
これに対して、銀行Aは、変動金利が上昇したときのリスクを考えて、他の銀行Bとの間で、金利スワップ契約を締結する。この契約の内容は、銀行Aは、銀行Bへ固定金利(例えば3%)を支払い、銀行Bから変動金利(例えば2%)を受け取るというものである。
【0012】
銀行Aは、住宅融資のユーザが5年で期限前償還(借り換え)すると予測すれば、35年の長期の金利変動リスクを考慮する必要はない。銀行Aは、その5年間だけ、金利変動から被り得る損害を回避すべく、他の銀行Bとの間で金利スワップ契約を締結する。
ここで、金利スワップ契約がない場合、例えば変動金利が10%に上昇すると、銀行Aは、ユーザから3%の固定金利を受け取る一方で、10%の変動金利を支払わなければならず、逆ザヤ(損失)となる。
これに対し、図2の場合、金利スワップ契約があるために、預金者に支払う変動金利10%の利息は、銀行Bから受け取ることができ、銀行Aとしては損害を被ることがない。
但し、5年の金利スワップの契約期間よりも、ユーザが早く完済(期限前償還)した場合、銀行Aは、リスクを余分にカバーしていたことによって、損害が生じる。一方で、ユーザが5年よりも遅く完済する場合、銀行Aは、金利スワップ契約によって金利リスクがカバーされる期間が足りないことになる。
【0013】
図2によれば、銀行Aは、住宅融資の債務者から受け取った固定金利3%をそのまま、他の銀行Bへ渡している。一方で、銀行Aは、銀行Bから受け取った変動金利2%そのまま、預金者へ渡している。
変動金利が高騰して10%になると、銀行Aは、預金者に10%を支払う必要があるが、金利スワップの契約先の銀行Bから受け取るために、銀行Aは何ら金利変動リスクを負わない。この例では、金利差がないために、銀行Aとして利益が残らないことになるが、現実には、債務者に対する住宅融資の固定金利と、他の銀行Bに対する金利スワップの固定金利との間に金利差を設けて、利益を確保している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】「金利低下時における住宅融資期限前返済率の変動特性について」、ニッセイ基礎研所報 Vol.32 April 2004 Page48-77、[online]、[令和1年8月6日検索]、インターネット<URL:https://www.nli-research.co.jp/files/topics/36323_ext_18_0.pdf>
【文献】「プリペイメントモデルの構築」、りそな銀行リスク統括部、2009年6月30日、[online]、[令和1年8月6日検索]、インターネット<URL:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2009/data/fsc0907a4.pdf>
【文献】「S&L破綻の起源と原因:改革の青写真」、[online]、[令和1年8月6日検索]、インターネット<URL: http://www.seijo.ac.jp/pdf/faeco/kenkyu/126/126-muramoto.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
近年の経済状況としては、現実的に「超低金利の継続局面」となっている。
住宅融資の実質金利は、10年国債の利回りと連動性が高い。現在の超低金利とは、10年国債の利回りがマイナスとなり、長期固定ローンの金利が0.5%という異常状態にある。15年前の10年国債の利回りは、1.5%程度であったが、現在は-0.1%程度となっている。常識的に考えて、住宅融資が、銀行からの借り入れによって利子を受け取るような「マイナス金利」となることは考えられない。
【0016】
しかしながら、前述した従来技術によれば、例えば過去10年間の統計データに基づく「金利の低下局面」から、住宅融資のプリペイメント率を予測しようする。即ち、「超低金利の継続局面」で予測されたものではない。具体的には、現在の「超低金利の継続局面」では、35年の住宅融資1000万円を借り入れたユーザが、わずか5年で完済(借り換え)するようなことにはならない。
【0017】
また、これまでの「金利の低下局面」及び「超低金利の継続局面」と、今後10年も同じ局面ということはない。今までの過去の統計データに基づくプリペイメント率の予測によれば、単純には、2008年が金利3%であり2018年が金利0.5%(金利変化-2.5%)であるとすると、更に10年後に金利-2%(=現在金利0.5%-金利変化2.5%)として、プリペイメント率が予測される。そのようなことは、常識的に考えて起こらない。金利の変動は、このまま低位安定するか上昇するので、今後10年では期限前償還は発生しにくくなる。
【0018】
前述した図1のケースで、銀行Bは、融資債務者から金利0.5%を受け取っているが、預金者に対して例えば0.3%程度の金利を支払っている。一方で、銀行Bも、他の銀行Cとの間で5年間の金利スワップを締結したとする。しかしながら、その後、融資債務者の期限前償還の傾向が変化して、ユーザが銀行Bから20年間借り入れ続けたとする。ここで、金利スワップ終了後の15年間について、「逆ざや」の問題が発生する可能性がある。逆ざやとは、銀行Bにとって利益よりも支払いが大きくなることをいう。
この状況が、残り15年間も続けば、銀行Bの経営状況は大変厳しい状況に置かれることとなる。実際1980年代に、米国の多くのS&Lが金利の逆ザヤにより破綻した(例えば非特許文献3参照)。
【0019】
銀行としては、住宅融資の収益性のために、融資債務者の信用リスクについては十分に予測してきた。これに対して、近年の経済状況から、住宅融資のプリペイメントに基づく収益性に対するリスクコントロールが問題となってきている。現実的に、住宅融資のプリペイメント率の予測は、銀行のリスク管理として極めて重要となってきている。一方で、銀行として、過去のプリペイメント率の予測モデルでは、十分なリスクコントロールができない潜在性が高い。
【0020】
そこで、本発明は、住宅融資の期限前償還率を推定するプログラム、装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によれば、住宅融資の期限前償還率(プリペイメント率)を推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
ユーザ毎に、当該ユーザに所持された携帯端末における時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
世帯転出率(引っ越し率)と期限前償還率との間の相関モデルを構築した相関学習エンジンと、
ユーザ位置データベースを用いて、地域毎に、各所定期間について、住所圏として滞在するであろう1ユーザ以上からなるユーザ世帯を抽出するユーザ世帯抽出手段と
地域毎に、前の所定期間に住所圏とするユーザ世帯数に対する、後の所定期間に不在となったユーザ世帯数の世帯転出率を算出する世帯転出率算出手段と
して機能させ、
相関学習エンジンは、世帯転出率算出手段によって算出された世帯転出率を入力し、期限前償還率を推定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0022】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
相関学習エンジンは、世帯転出率が上昇した際に期限前償還率も上昇し、世帯転出率が下落した際に期限前償還率も下落する回帰モデルを構築したものである
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0023】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
相関学習エンジンは、説明変数となる世帯転出率と、目的変数となる期限前償還率とを対応付けた教師データによって、学習モデルを構築したものである
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0024】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
地域及び/又は期間帯に応じて、融資の重みが予め規定されており、
世帯転出率算出手段は、算出した世帯転出率に、融資の重みを乗算する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0025】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
期限前償還率が高いほど、金利スワップに基づく金利固定期間を短くし、期限前償還率が低いほど、金利固定期間を長くするように制御する金利固定期間制御手段と
してコンピュータを機能させることも好ましい。
【0026】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
ユーザ位置データベースについて、時系列の位置は、ユーザに所持された携帯端末によって測位された端末測位位置、及び/又は、基地局に接続した携帯端末の滞在範囲に基づく基地局測位位置である
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0028】
本発明によれば、住宅融資の期限前償還率を推定する装置であって、
ユーザ毎に、当該ユーザに所持された携帯端末における時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
世帯転出率と期限前償還率との間の相関モデルを構築した相関学習エンジンと、
ユーザ位置データベースを用いて、地域毎に、各所定期間について、住所圏として滞在するであろう1ユーザ以上からなるユーザ世帯を抽出するユーザ世帯抽出手段と
地域毎に、前の所定期間に住所圏とするユーザ世帯数に対する、後の所定期間に不在となったユーザ世帯数の世帯転出率を算出する世帯転出率算出手段と
を有し、
相関学習エンジンは、世帯転出率算出手段によって算出された世帯転出率を入力し、期限前償還率を推定する
ことを特徴とする。
【0030】
本発明によれば、住宅融資の期限前償還率を推定する装置の期限前償還率推定方法であって、
装置は、
ユーザ毎に、当該ユーザに所持された携帯端末における時系列の位置を蓄積したユーザ位置データベースと、
世帯転出率と期限前償還率との間の相関モデルを構築した相関推定エンジンと
を有し、
装置は、
ユーザ位置データベースを用いて、地域毎に、各所定期間について、住所圏として滞在するであろう1ユーザ以上からなるユーザ世帯を抽出する第1のステップと、
地域毎に、前の所定期間に住所圏とするユーザ世帯数に対する、後の所定期間に不在となったユーザ世帯数の世帯転出率を算出する第2のステップと、
第2のステップによって算出された世帯転出率を、相関推定エンジンへ入力し、期限前償還率を推定する第3のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明のプログラム、装置及び方法によれば、住宅融資の期限前償還率を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】ユーザにおける住宅融資の借り換えを表す説明図である。
図2】銀行における住宅融資の金利スワップを表す説明図である。
図3】世帯転出における住宅融資の借り換えを表すシステム概要図である。
図4】本発明における相関推定エンジンを表す説明図である。
図5】本発明における推定装置の機能構成図である。
図6】銀行の商圏に応じた融資重みを表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0035】
図3は、世帯転出における住宅融資の借り換えを表すシステム概要図である。
【0036】
本願の発明者らは、現在のような「低金利の継続局面」であっても、ユーザが期限前償還をしようとする事情は、住宅を「引っ越し」の場合だけではないか、と考えた。住宅融資を受けていたユーザ世帯が引っ越す場合には、期限前償還によって住宅融資を完済しなければならなくなる。一方で、ユーザ世帯が引っ越さない限り、低金利の恩恵を受けようとするはずである。
そこで、本願の発明者らは、所定地域範囲から見て、「世帯転出率」と「期限前償還率」との間に何らかの相関性がある、と考えた。
【0037】
銀行としては、「低金利の継続局面」であっても、過去のデータから住宅融資の「期限前償還率」を算出することはできる。
「世帯転出数」は、一般的には県市町村役所で計数されるものであって、例えば月単位で公表されている。そのために、地域iは、例えば県・市・町・村の単位に区分される。
「世帯転出率」は、ユーザ世帯数に対する世帯転出数の率である。
【0038】
図4は、本発明における相関推定エンジンを表す説明図である。
【0039】
[相関推定エンジン10]
相関推定エンジン10は、世帯転出率(引っ越し率)と期限前償還率との間の相関モデルを構築したものである。
【0040】
相関学習エンジン10は、説明変数となる世帯転出率と、目的変数となる期限前償還率とを対応付けた教師データによって、学習モデルを構築したものである。相関学習エンジン10は、世帯転出率TR(t,i)を、期限前償還率PR(t,i)へ変換することができる、線形回帰の関数Fを構築するものである。
PR(t,i)=α+β×TR(t,i)
【0041】
「低金利の継続局面」の場合、以下のように考えられる。
相関学習エンジン10は、世帯転出率が上昇した際に期限前償還率も上昇し、世帯転出率が下落した際に期限前償還率も下落する回帰モデルを構築したものとなる。
世帯転出率TR(t,i)が上昇する場合、引っ越し世帯が増加しており、住宅融資のプリペイメント率も高くなる。
世帯転出率TR(t,i)が下降する場合、引っ越し世帯が減少しており、住宅融資のプリペイメント率は低くなる。
【0042】
図4(a)によれば、月毎の世帯転出率が表されている。
図4(b)によれば、月毎の期限前償還率(プリペイメント率)が表されている。
図4(c)によれば、図4(b)の期限前償還率に応じて金利固定期間が制御されている。
【0043】
相関推定エンジン10は、世帯転出率算出手段によって算出された世帯転出率を、相関学習エンジンへ入力し、期限前償還率を推定する。
【0044】
図5は、本発明における推定装置の機能構成図である。
【0045】
図5によれば、住宅融資の期限前償還率(プリペイメント率)の推定装置1が表されている。推定装置1は、相関推定エンジン10と、ユーザ位置データベース11と、ユーザ世帯抽出部12と、世帯転出率算出部13と、金利固定期間制御部14とを有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムとして実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、住宅融資の期限前償還率の推定方法としても理解できる。
【0046】
[ユーザ位置データベース11]
ユーザ位置データベース11は、位置を取得可能な携帯端末を所持したユーザ毎に、時系列の位置を蓄積したものである。
図5によれば、ユーザ位置データベース11は、特定の通信事業者によって運用管理されており、加入者ID(ユーザID)毎に、時刻と位置情報とを対応付けて蓄積している。
ここで、重要な点として、ユーザ位置データベース11は、特定の通信事業者の通信事業設備による捕捉ユーザであって、現実のユーザ全てではない。即ち、特定の通信事業者と契約した携帯端末2を保持するユーザについてのみ、位置情報が収集されたものである。
【0047】
ユーザ位置データベース11に蓄積された位置とは、例えば以下のようなものである。
(1)ユーザに所持された携帯端末2によって測位された端末測位位置
携帯端末2が自ら、GPS(Global Positioning System)によって測位した緯度経度情報である。
(2)通信事業者の基地局やアクセスポイントに接続した携帯端末の基地局測位位置
携帯端末2を配下とする基地局やアクセスポイントの位置情報から、携帯端末2の位置を推定したものであってもよい。但し、この位置情報は、空間的粒度が粗いものとなる。
これら位置情報は、緯度経度又は地図座標によって表記されるものであってもよいし、住所名や地図メッシュ番号に変換されたものであってもよい。
【0048】
[ユーザ世帯抽出部12]
ユーザ世帯抽出部12は、ユーザ位置データベースを用いて、地域毎に、各所定期間について、住所圏として滞在するであろう1ユーザ以上からなるユーザ世帯を抽出する。
【0049】
特定の通信事業者であっても、正確な世帯転出数を計数することはできない。しかしながら、自らの加入者について、夜間の「住所圏」におけるユーザの位置を取得することはできる。「住所圏」とは、ユーザ各人の生活の本拠をいい、例えば夜間の滞在位置を意味する。勿論、夜間労働者は、住所圏が昼間の滞在位置になる場合もある。そのために、住所圏に限らず、特定の通信事業者は、ユーザの位置の移動から有意圏(住所圏及び居所圏)を推定するものであってもよい。
また、複数のユーザであっても、夜間に同じ位置に滞在する場合、同一世帯と判定することができる。これによって、特定の通信事業者は、例えば自らの加入者群における月単位で、地域iにおけるユーザ世帯数を計数することができる。
【0050】
[世帯転出率算出部13]
世帯転出率算出部13は、地域毎iに、前の所定期間に住所圏とするユーザ世帯数に対する、後の所定期間に不在となったユーザ世帯数の「世帯転出率」を算出する。
TR(t,i)={N(t-1,i)-M(t,i)}/N(t-1,i)
N(t,i):期間tにおける地域iのユーザ世帯数
(ユーザ世帯とは、1人以上のユーザの集合単位)
M(t,i):期間t-1の地域iのユーザ世帯数であって、
且つ、期間tでも地域iに滞在するユーザ世帯数
N(t-1,i)-M(t,i):世帯転出数(世帯転入数を排除している)
TR(t,i):期間t-1から期間tにまでの世帯転出率
世帯転出率の算出根拠となるユーザ世帯数は、その地域で引っ越した世帯数であって、融資債務者か否かを問わない。勿論、期限前償還したか否かなど、全く問わない。
【0051】
[金利固定期間制御部14]
金利固定期間制御部14は、期限前償還率が高いほど、金利スワップに基づく金利固定期間を短くし、期限前償還率が低いほど、金利固定期間を長くするように制御する。
【0052】
「低金利の継続局面」の場合、以下のように考えられる
世帯転出率TR(t,i)が上昇する場合、住宅融資のプリペイメント率も高くなり、金利スワップに基づく金利固定期間を短くする必要がある。
世帯転出率R(t,i)が下降する場合、住宅融資のプリペイメント率も低くなり、金利スワップに基づく金利固定期間を長くする必要がある。
【0053】
世帯転出率の基準値TRbaseから、その乖離の変化率ΔTRdiff(t)を以下のように表す。
ΔTRdiff(t)=TR(t)-TRbase
G(ΔTRdiff(t)):乖離の変化率ΔTRdiff(t)から金利固定期間を出力する関数
【0054】
図6は、銀行の商圏に応じた融資重みを表す説明図である。
【0055】
特定の銀行から見て、地域及び/又は期間帯に応じて、融資の重みω(ウエイト)が予め規定されている。この重みωは、その銀行における住宅融資の地域i毎の残高割合に応じたものであってもよい。
世帯転出率算出部13は、算出した世帯転出率に、融資の重みωを乗算する。
TR(t,i)×ω(t,i)
そして、相関学習エンジン10は、地域i毎に、各所定期間について、重み付けられた世帯転出率を入力し、期限前償還率を推定する。
【0056】
以上、詳細に説明したように、本発明のプログラム、装置及び方法によれば、住宅融資の期限前償還率を推定することができる。
【0057】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0058】
1 推定装置
10 相関推定エンジン
11 ユーザ位置データベース
12 ユーザ世帯抽出部
13 世帯転出率算出部
14 金利固定期間制御部
2 携帯端末

図1
図2
図3
図4
図5
図6