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特許7082871鉄還元触媒および水処理装置、ならびに水処理方法
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  • 特許-鉄還元触媒および水処理装置、ならびに水処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】鉄還元触媒および水処理装置、ならびに水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20060101AFI20220602BHJP
   B01D 61/08 20060101ALI20220602BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220602BHJP
   B01J 27/053 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C02F1/72 Z
B01D61/08
C02F1/44 A
C02F1/44 D
B01J27/053 M
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2017239871
(22)【出願日】2017-12-14
(65)【公開番号】P2018140384
(43)【公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2017005118
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017040387
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】皆川 正和
(72)【発明者】
【氏名】安保 貴永
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-229415(JP,A)
【文献】特開昭56-048290(JP,A)
【文献】特開2004-243162(JP,A)
【文献】特開2012-115803(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102358651(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/70-1/78
C02F1/44
B01D61/00-71/82
B01J21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被酸化性の汚染物質を含む排水を用いてフェントン反応を行い、前記被酸化性の汚染物質を酸化する酸化工程に用いる鉄還元触媒であって、
下記条件(A)を満たし、活性炭である鉄還元触媒。
(A):前記鉄還元触媒のX線光電子分光測定により検出された元素のピーク面積の総和に対するO1sのピーク面積の割合として算出される酸素原子濃度が、0.01モル%以上9.0モル%以下である。
【請求項2】
下記条件(B)を満たす請求項1に記載の鉄還元触媒。
(B):前記鉄還元触媒をレーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が、0.33以上0.60以下である。
【請求項3】
下記工程(i)~(iv)を有する水処理方法。
(i)被酸化性の汚染物質を含む排水のpHを1.0以上4.0以下に調整するとともに、フェントン反応を行って、前記被酸化性の汚染物質を酸化する酸化工程。
(ii)前記酸化工程で得られた反応液のpHを6.0以上10.0以下に調整し、第一鉄イオン、および前記フェントン反応により生成した第二鉄イオンを不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させる不溶化工程。
(iii)前記第一鉄化合物および前記第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、前記第二鉄化合物を含む汚泥と処理水とに分離して、前記汚泥が濃縮された前記懸濁液を得る濃縮工程。
(iv)前記第二鉄イオンを、請求項1または2に記載の鉄還元触媒を用いて前記第一鉄イオンに還元する還元工程。
【請求項4】
前記汚泥の少なくとも一部を前記工程(i)に返送する汚泥返送工程を有する請求項3に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記工程(iv)において、ゼオライトを併用する請求項3又は4に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記工程(i)において、前記被酸化性の汚染物質を含む前記排水のpHを1.0以上4.0以下に調整する際に硫酸または塩酸を用いる、請求項3~のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記フェントン反応に、第一鉄塩または第一鉄酸化物を使用する請求項3~のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記工程(iii)で得られた前記処理水を、さらにナノ濾過膜または逆浸透膜を用いて、前記処理水に含まれる前記被酸化性の汚染物質と透過水とに分離する分離工程を有する請求項3~のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記分離工程により前記被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を、前記工程(i)に返送する濃縮水返送工程を有する請求項に記載の水処理方法。
【請求項10】
下記(1)~(3)を備える、水処理装置。
(1)排水に含まれる被酸化性の汚染物質をフェントン反応により酸化するとともに、前記フェントン反応により生成した第二鉄イオンを請求項1または2に記載の鉄還元触媒により第一鉄イオンに還元する反応槽。
(2)前記反応槽から供給される反応液に含まれる前記第一鉄イオンおよび第二鉄イオンを不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させる不溶化槽。
(3)精密濾過膜または限外濾過膜を有し、前記精密濾過膜または前記限外濾過膜を用いて、前記第一鉄化合物および前記第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、前記第一鉄化合物と前記第二鉄化合物とのいずれか一方または両方を含む汚泥と処理水とに分離する第一分離装置。
【請求項11】
前記第一分離装置で分離した前記汚泥の少なくとも一部を前記反応槽に返送する汚泥返送手段を有する請求項10に記載の水処理装置。
【請求項12】
前記反応槽に、前記鉄還元触媒を添加する活性炭添加手段を備える請求項10または11に記載の水処理装置。
【請求項13】
前記反応槽に酸を供給して前記排水のpHを調整する第一pH調整装置と、
前記不溶化槽にアルカリを供給して前記反応液のpHを調整する第二pH調整装置と、を備える請求項1012のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項14】
前記酸は、硫酸または塩酸である請求項13に記載の水処理装置。
【請求項15】
前記第一分離装置は、前記不溶化槽内に設けられている請求項1014のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項16】
ナノ濾過膜または逆浸透膜を有し、前記ナノ濾過膜または前記逆浸透膜を用いて、前記処理水を、前記処理水に含まれる前記被酸化性の汚染物質と透過水とに分離する第二分離装置を有する請求項1015のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項17】
前記第二分離装置により前記被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を、前記反応槽に返送する濃縮水返送手段を有する請求項16に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄還元触媒および水処理装置、ならびに水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェントン反応は、第一鉄イオンに対し過酸化水素を反応させ、ヒドロキシラジカルを発生させる反応である。ヒドロキシラジカルは強力な酸化力を持ち、その強力な酸化力を利用して、殺菌、有害物質や難分解性の汚染物質の分解など、様々な分野に応用が期待されている。
【0003】
フェントン反応で使用した第一鉄イオンは反応の進行に伴い酸化され、第二鉄イオンとなる。例えば、フェントン反応を利用して被酸化性の汚濁物質を含む排水を処理した場合、第二鉄化合物を含む汚泥が廃棄物となり、その処理コストが高いことが問題となっている。
【0004】
フェントン反応で生成した第二鉄イオンの一部は、過酸化水素の存在下で、一部が第一鉄イオンに還元されることが知られている。しかしながら、この還元反応はフェントン反応と比較して非常に遅いことが知られている。これに対し、上記還元反応を促進させる鉄還元触媒を添加し、フェントン反応と上記還元反応を同時に行う手法が知られている。このような例として、鉄還元触媒として活性炭を添加する例が挙げられる(特許文献1および特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭56-48290号公報
【文献】特許第5215578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に記載の方法では、処理効率が低下することがあった。
【0007】
そこで、本発明の一態様は、第二鉄イオンの還元反応を伴うフェントン反応を利用した水処理において、効率的な水処理方法を提供することを目的とする。本発明の一態様は、効率的な水処理方法に用いられる鉄還元触媒および水処置装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らの検討により、鉄還元触媒の失活が処理効率を低下させる要因の一つであることが分かった。そこで、発明者らは、特定の鉄還元触媒を用いることで、鉄還元触媒の失活を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記態様を有する。
[1]被酸化性の汚染物質を含む排水を用いてフェントン反応を行い、前記被酸化性の汚染物質を酸化する酸化工程に用いる鉄還元触媒であって、下記条件(A)を満たす鉄還元触媒。
(A):前記鉄還元触媒のX線光電子分光測定により検出された元素のピーク面積の総和に対するO1sのピーク面積の割合として算出される酸素原子濃度が、0.01モル%以上9.0モル%以下である。
[2]下記条件(B)を満たす[1]に記載の鉄還元触媒。
(B):前記鉄還元触媒をレーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が、0.33以上0.60以下である。
[3]下記工程(i)~(v)を有する水処理方法。
(i)被酸化性の汚染物質を含む排水のpHを1.0以上4.0以下に調整するとともに、フェントン反応を行って、前記被酸化性の汚染物質を酸化する酸化工程。
(ii)前記酸化工程で得られた反応液のpHを6.0以上10.0以下に調整し、第一鉄イオン、および前記フェントン反応により生成した第二鉄イオンを不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させる不溶化工程。
(iii)前記第一鉄化合物および前記第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、前記第二鉄化合物を含む汚泥と処理水とに分離して、前記汚泥が濃縮された前記懸濁液を得る濃縮工程。
(iv)前記第二鉄イオンを、[1]または[2]に記載の鉄還元触媒を用いて前記第一鉄イオンに還元する還元工程。
[4]前記汚泥の少なくとも一部を前記工程(i)に返送する汚泥返送工程を有する[3]に記載の水処理方法。
[5]前記鉄還元触媒として活性炭を用いる[3]または[4]に記載の水処理方法。
[6]前記工程(iv)において、ゼオライトを併用する請求項[3]~[5]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[7]前記工程(i)において、前記被酸化性の汚染物質を含む前記排水のpHを1.0以上4.0以下に調整する際に硫酸または塩酸を用いる、[3]~[6]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[8]前記フェントン反応に、第一鉄塩または第一鉄酸化物を使用する[3]~[7]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[9]前記工程(iii)で得られた前記処理水を、さらにナノ濾過膜または逆浸透膜を用いて、前記処理水に含まれる前記被酸化性の汚染物質と透過水とに分離する分離工程を有する[3]~[8]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[10]前記分離工程により前記被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を、前記工程(i)に返送する濃縮水返送工程を有する[3]~[9]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[11]下記(1)~(3)を備える、水処理装置。
(1)排水に含まれる被酸化性の汚染物質をフェントン反応により酸化するとともに、前記フェントン反応により生成した第二鉄イオンを[1]または[2]に記載の鉄還元触媒により第一鉄イオンに還元する反応槽。
(2)前記反応槽から供給される反応液に含まれる前記第一鉄イオンおよび第二鉄イオンを不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させる不溶化槽。
(3)精密濾過膜または限外濾過膜を有し、前記精密濾過膜または前記限外濾過膜を用いて、前記第一鉄化合物および前記第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、前記第一鉄化合物と前記第二鉄化合物とのいずれか一方または両方を含む汚泥と処理水とに分離する第一分離装置。
[12]前記第一分離装置で分離した前記汚泥の少なくとも一部を前記反応槽に返送する汚泥返送手段を有する[11]に記載の水処理装置。
[13]前記反応槽に、前記鉄還元触媒として活性炭を添加する活性炭添加手段を備える[11]または[12]に記載の水処理装置。
[14]前記反応槽に酸を供給して前記排水のpHを調整する第一pH調整装置と、
前記不溶化槽にアルカリを供給して前記反応液のpHを調整する第二pH調整装置と、を備える[11]~[13]のいずれか1項に記載の水処理装置。
[15]前記酸は、硫酸または塩酸である[14]に記載の水処理装置。
[16]前記第一分離装置は、前記不溶化槽内に設けられている[11]~[15]のいずれか1項に記載の水処理装置。
[17]ナノ濾過膜または逆浸透膜を有し、前記ナノ濾過膜または前記逆浸透膜を用いて、前記処理水を、前記処理水に含まれる前記被酸化性の汚染物質と透過水とに分離する第二分離装置を有する[11]~[16]のいずれか1項に記載の水処理装置。
[18]前記第二分離装置により前記被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を、前記反応槽に返送する濃縮水返送手段を有する[11]~[17]のいずれか1項に記載の水処理装置。
【0010】
[1]下記工程(i)~(v)を有する水処理方法。
(i)被酸化性の汚染物質を含む排水のpHを1.0以上4.0以下に調整するとともに、フェントン反応を行って、前記被酸化性の汚染物質を酸化する酸化工程。
(ii)前記酸化工程で得られた反応液のpHを6.0以上10.0以下に調整し、第一鉄イオン、および前記フェントン反応により生成した第二鉄イオンを不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させる不溶化工程。
(iii)前記第一鉄化合物および前記第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、精密濾過膜または限外濾過膜を用いて、前記第一鉄化合物と前記第二鉄化合物とのいずれか一方または両方を含む汚泥と処理水とに分離する第一分離工程。
(iv)前記処理水を、ナノ濾過膜または逆浸透膜を用いて、前記処理水に含まれる前記被酸化性の汚染物質と透過水とに分離する第二分離工程。
(v)前記工程(i)において、前記フェントン反応により生成した前記第二鉄イオンを、鉄還元触媒により前記第一鉄イオンに還元する還元工程。
[2]前記汚泥の少なくとも一部を前記酸化工程に返送する汚泥返送工程を有する[1]に記載の水処理方法。
[3]前記鉄還元触媒は、活性炭およびゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも一つである[2]に記載の水処理方法。
[4]前記酸化工程において、硫酸または塩酸を用いて前記排水のpHを1.0以上4.0以下に調整する[1]~[3]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[5]前記フェントン反応に、第一鉄塩または第一鉄酸化物を使用する[1]~[4]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[6]前記第二分離工程により前記被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を、前記酸化工程に返送する濃縮水返送工程を有する[1]~[5]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[7]下記(1)~(4)を備える、水処理装置。
(1)排水に含まれる被酸化性の汚染物質をフェントン反応により酸化するとともに、前記フェントン反応により生成した第二鉄イオンを鉄還元触媒により第一鉄イオンに還元する反応槽。
(2)前記反応槽から供給される反応液に含まれる前記第一鉄イオンおよび第二鉄イオンを不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させる不溶化槽。
(3)精密濾過膜または限外濾過膜を有し、前記精密濾過膜または前記限外濾過膜を用いて、前記第一鉄化合物および前記第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、前記第一鉄化合物と前記第二鉄化合物とのいずれか一方または両方を含む汚泥と処理水とに分離する第一分離装置。
(4)ナノ濾過膜または逆浸透膜を有し、前記ナノ濾過膜または前記逆浸透膜を用いて、前記処理水を、前記処理水に含まれる前記被酸化性の汚染物質と透過水とに分離する第二分離装置。
[8]前記第一分離装置で生じる前記汚泥の少なくとも一部を前記反応槽に返送する汚泥返送手段を有する[7]に記載の水処理装置。
[9]前記反応槽に、鉄還元触媒を添加する触媒添加手段を備える[7]または[8]に記載の水処理装置。
[10]前記反応槽に酸を供給して前記排水のpHを調整する第一pH調整装置と、前記不溶化槽にアルカリを供給して前記反応液のpHを調整する第二pH調整装置と、を備える[7]~[9]のいずれか1項に記載の水処理装置。
[11]前記酸は、硫酸または塩酸である[10]に記載の水処理装置。
[12]前記第二分離装置により前記被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を、前記反応槽に返送する濃縮水返送手段を有する[7]~[11]のいずれか1項に記載の水処理装置。
[13]前記第一分離装置は、前記不溶化槽内に設けられている[7]~[12]のいずれか1項に記載の水処理装置。
【0011】
[1]下記工程(i)~(v)を有する水処理方法。
(i)被酸化性の汚染物質を含む排水のpHを1.0以上4.0以下に調整するとともに、フェントン反応を行って、前記被酸化性の汚染物質を酸化する酸化工程。
(ii)前記酸化工程で得られた反応液のpHを6.0以上10.0以下に調整し、第一鉄イオン、および前記フェントン反応により生成した第二鉄イオンを不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させる不溶化工程。
(iii)前記第一鉄化合物および前記第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、前記第二鉄化合物を含む汚泥と処理水とに分離して、前記汚泥が濃縮された前記懸濁液を得る濃縮工程。
(iv)前記懸濁液の少なくとも一部を前記酸化工程に返送する懸濁液返送工程。
(v)前記第二鉄イオンを、下記(A)および下記(B)を満たす活性炭を用いて前記第一鉄イオンに還元する還元工程。
(A)前記活性炭をレーザーラマン分光法により測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が、0.33以上0.60以下である。
(B)前記活性炭をX線光電子分光法により測定することで得られるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた酸素原子濃度が、0.1質量%以上12.0質量%以下である。
[2]前記酸化工程において、酸を用いて前記排水のpHを1.0以上4.0以下に調整する[1]に記載の水処理方法。
[3]前記フェントン反応に、第一鉄塩または第一鉄酸化物を使用する[1]または[2]に記載の水処理方法。
[4]前記濃縮工程において、濾過膜を用いて前記懸濁液を得る[1]~[3]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[5]ナノ濾過膜または逆浸透膜を用いて、前記処理水を、前記処理水に含まれる前記被酸化性の汚染物質と透過水とに分離する分離工程を有する[1]~[4]のいずれか1項に記載の水処理方法。
[6]フェントン反応によって生じた第二鉄イオンを第一鉄イオンへ還元する活性炭であって、下記(A)及び(B)を満たす活性炭。
(A)前記活性炭をレーザーラマン分光法により測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が、0.33以上0.60以下
(B)前記活性炭をX線光電子分光法により測定することで得られるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた酸素原子濃度が、0.1質量%以上12.0質量%以下
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、第二鉄イオンの還元反応を伴うフェントン反応を利用した水処理において、効率的な水処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の水処理装置1の概略構成を示す図。
図2】第1実施形態の水処理方法で用いる活性炭のラマンスペクトルの一例。
図3】第2実施形態の水処理装置3の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。なお、本実施形態では、第一鉄化合物と第二鉄化合物とをまとめて「鉄化合物」ということがある。また、第一鉄イオンと第二鉄イオンとをまとめて「鉄イオン」ということがある。
【0015】
<第1実施形態>
本実施形態の水処理方法は、下記工程(i)~(v)を有する。
(i)被酸化性の汚染物質を含む排水のpHを1.0以上4.0以下に調整するとともに、フェントン反応を行って、被酸化性の汚染物質を酸化する酸化工程。
(ii)酸化工程で得られた反応液のpHを6.0以上10.0以下に調整し、第一鉄イオン、およびフェントン反応により生成した第二鉄イオンを不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させる不溶化工程。
(iii)第一鉄化合物および第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、第二鉄化合物を含む汚泥と処理水とに分離して、汚泥が濃縮された懸濁液を得る濃縮工程。
(iv)懸濁液の少なくとも一部を酸化工程に返送する懸濁液返送工程。
(v)第二鉄イオンを、鉄還元触媒を用いて第一鉄イオンに還元する還元工程。
【0016】
一つの側面として、懸濁液返送工程は、汚泥の少なくとも一部を酸化工程に返送する点において、特許請求の範囲における汚泥返送工程に相当する。
【0017】
[水処理装置]
以下、本実施形態の水処理方法に用いる水処理装置の構成について説明する。図1は、第1実施形態の水処理装置1の概略構成を示す図である。図1に示すように、水処理装置1は、反応槽11と、第一pH調整装置14と、鉄試薬添加手段15と、過酸化水素添加手段16と、触媒添加手段17と、不溶化槽21と、濃縮装置22と、第二pH調整装置24と、懸濁液返送手段32と、調整槽41と、分離装置42と、貯留槽61と、第一の流路12と、第二の流路13と、第三の流路31と、第四の流路51と、第五の流路33と、第七の流路55と、を備える。
【0018】
触媒添加手段17は、後述するように鉄還元触媒として活性炭を添加する場合、特許請求の範囲における活性炭添加手段に相当する。
濃縮装置22は、特許請求の範囲における第一分離装置に相当する。
分離装置42は、特許請求の範囲における第二分離装置に相当する。
【0019】
不溶化槽21内には、濃縮装置22が設けられている。
【0020】
懸濁液返送手段32は、不溶化槽21と反応槽11との間に設けられている。
【0021】
分離装置42は、調整槽41と貯留槽61との間に設けられている。
【0022】
(排水)
水処理装置1による水処理では、被酸化性の汚染物質を含む排水を、フェントン反応を利用して酸化処理する。被酸化性の汚染物質としては、生物処理による分解が困難な有機物、または、亜リン酸や次亜リン酸などの無機物が挙げられる。
【0023】
上記有機物としては、例えば1,4-ジオキサンなどの有機溶剤、フミン物質などが挙げられる。フミン物質とは、土壌を水酸化ナトリウムなどのアルカリで抽出した分画、あるいは土壌を天然水で抽出した抽出液をXAD樹脂(スチレンまたはアクリルとジビニルベンゼンの共重合体)に吸着させ、さらにその吸着したものから希アルカリ水溶液で溶出される分画のことをいう。
【0024】
亜リン酸や次亜リン酸は、めっき工場の工場排水などに含まれている。
【0025】
(反応槽)
反応槽11では、排水に含まれる被酸化性の汚染物質をフェントン反応により酸化するとともに、フェントン反応により生成した第二鉄イオンを鉄還元触媒により第一鉄イオンに還元する。反応槽11は、少なくとも第一鉄イオン(Fe2+)を発生させる鉄試薬、過酸化水素および鉄還元触媒を充填するものである。
【0026】
反応槽11には、第一の流路12および第二の流路13が接続されている。第一の流路12は、被酸化性の汚染物質を含む排水を反応槽11に流入(供給)させるものである。第二の流路13は、反応槽11から排出された反応液を不溶化槽21に流入(供給)させるものである。
【0027】
図1に示す水処理装置1において、反応槽11から不溶化槽21に反応液を供給する方法は特に限定されず、ポンプを用いて反応液を供給してもよいし、オーバーフローを利用して反応液を供給してもよい。
【0028】
なお、図1に示す水処理装置1において、反応槽11が1つ設けられている例を示したが、複数の反応槽11が直列に配置されていてもよい。その場合、フェントン反応にかかる時間を長くすることができるので、過酸化水素をフェントン反応で十分消費させることができる。
【0029】
また、反応槽11が複数配置されている場合、第一反応槽から第二反応槽に送液する方法は特に限定されず、ポンプを用いて送液してもよいし、オーバーフローを利用して送液してもよい。なお、本明細書において、第一反応槽および第二反応槽は、特許請求の範囲における反応槽を構成している。
【0030】
(鉄試薬添加手段)
鉄試薬添加手段15は、反応槽11内に鉄試薬を添加するものである。
【0031】
鉄試薬としては、水に溶解して第一鉄イオンを発生させるものであれば特に限定されないが、第一鉄塩または第一鉄酸化物が好ましい。なかでも、排水基準で管理する必要がなく、溶解性に優れることから、硫酸鉄または塩化鉄が好ましい。また汎用性が高く、腐
食性が少ないことから、硫酸鉄がより好ましい。
【0032】
また、本実施形態では、鉄還元触媒により第二鉄イオンが還元されて第一鉄イオンが再生するため、鉄試薬として第二鉄化合物を用いることもできる。
【0033】
鉄試薬としては、固体状態のものを反応槽11内に添加してもよいし、鉄試薬の水溶液のように液体状態にしたものを反応槽11内に添加してもよい。
【0034】
(過酸化水素添加手段)
過酸化水素添加手段16は、反応槽11内に過酸化水素を添加するものである。
【0035】
反応槽11内では、過酸化水素に第一鉄イオンが反応して、ヒドロキシラジカルが発生する。排水中に含まれる被酸化性の汚染物質が有機物である場合、発生したヒドロキシラジカルにより有機物が酸化分解される。また、亜リン酸や次亜リン酸等の無機物の場合、ヒドロキシラジカルによりそれぞれ酸化され、亜リン酸はオルトリン酸に、次亜リン酸は亜リン酸やオルトリン酸となる。
【0036】
一方、反応槽11内では、第一鉄イオンが過酸化水素の作用により酸化されて第二鉄イオンとなる。
【0037】
本実施形態においては、過酸化水素はフェントン反応のほかに、フェントン反応により生成した第二鉄イオンの還元反応にも使われる。そのため、過酸化水素添加手段16から添加する過酸化水素の量をフォントン反応で使用する理論値よりも多くすることが好ましい。
【0038】
反応槽11が複数配置されている場合、過酸化水素添加手段16から過酸化水素を添加する反応槽11は、最下流の反応槽11以外の槽とすることが好ましい。過酸化水素を添加する反応槽11が上流であるほど、フェントン反応にかかる時間をより長くすることができるので、過酸化水素をフェントン反応で十分消費させることができる。したがって、反応槽11の下流の不溶化槽21および調整槽41に未反応の過酸化水素の漏出を抑制することができる。また、未反応の過酸化水素による処理水中の化学的酸素要求量の上昇を抑制することができる。
【0039】
(第一pH調整装置)
第一pH調整装置14は、槽内のpHに応じて、反応槽11内に酸またはアルカリを添加し、反応槽11内のpHを調整するものである。
【0040】
反応槽11内は、鉄試薬を水に溶解させて第一鉄イオンを発生させ、かつ、ヒドロキシラジカルを発生させることが可能なpHの範囲に調整される。本実施形態において、反応槽11内は、酸性であり、具体的には1.0以上4.0以下の範囲に調整される。反応槽11内のpHが1.0以上4.0以下であると、水に対する鉄試薬の溶解性を良好に保ちつつ、第二鉄イオンと鉄還元触媒との接触効率を高めることができる。反応槽11内のpHは、2.0以上3.0以下が好ましく、2.5以上3.0以下がより好ましい。
【0041】
また、反応槽11には、槽内のpHを測定する測定機器(図示略)を設置することが好ましい。
【0042】
酸の種類としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、シュウ酸、クエン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。なかでも、硫酸または塩酸が好ましく、フェントン反応で生成するヒドロキシラジカルを捕捉しにくいことから硫酸がより好ましい。
これらの酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
アルカリの種類としては、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。なかでも、汎用性が高く、フェントン反応で生成する物質と反応しないことから水酸化ナトリウムが好ましい。
これらのアルカリは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
(触媒添加手段)
触媒添加手段17は、反応槽11内に鉄還元触媒を添加するものである。鉄還元触媒としては、活性炭および活性炭以外の黒鉛構造を有する炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。また、助触媒としてゼオライトを併用してもよい。
【0045】
従来、鉄還元触媒の共存下で第二鉄イオンを還元しながら、フェントン反応により排水中の汚染物質を処理する方法においては、処理効率が低下することがあった。本明細書において、処理効率は、全有機炭素(以下、TOC)の除去率により表される。TOCとは、水中の酸化されうる有機物の全量を炭素の量で示したものである。TOC除去率は、排水(原水)中のTOC濃度、および、水処理後に得られた処理水中のTOC濃度から式(S1)に基づいて算出される。
【0046】
【数1】
【0047】
発明者らの検討により、鉄還元触媒の失活が処理効率を低下させる要因の一つであることが分かった。そこで、発明者らは、特定の鉄還元触媒を用いることで鉄還元触媒の失活を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0048】
本実施形態の水処理方法で用いる鉄還元触媒は、下記(A)を満たす。
【0049】
(A):上記鉄還元触媒をX線光電子分光法(以下、XPS)により測定することで得られるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた酸素原子濃度が、0.01モル%以上12.0モル%以下である。
【0050】
本実施形態において、鉄還元触媒のXPS測定は、走査型X線光電子分光装置Quantum 2000(PHI社製)を用い、以下の条件により行われる。ワイドスペクトルで検出された元素、C1s、O1s、N1s、Na1s、Al2p、Si2p、P2p、S2p、Cl2p、Ca2p、Fe2p3/2についてナロースペクトルを測定する。
【0051】
X線源 :単色化Al-Kα
出力 :16kV-34W(X線発生面積170μmφ)
帯電中和 :電子銃5μA、イオン銃2V
分光系 :パスエネルギー
187.85eV(ワイドスペクトル)
93.90eV(ナロースペクトル、N1s、Na1s、Al2p、Si2p、P2p、S2p、Cl2p、Ca2p、Fe2p3/2)
29.35eV(ナロースペクトル、C1s、O1s)
測定領域 :170μmφ
取り出し角:45°(表面より)
【0052】
得られた各元素の光電子ピークを用い、シャーリー法によりバックグラウンドを除去する。その後、ピーク干渉がみられたAl2pとBr3dのピークを、カーブフィッティングにより分離する。Ca2p3/2と1/2の面積比を1:0.5として、MgKLLの干渉が見られたCaをカーブフィッティングし、MgKLL寄与分を除外する。
【0053】
バックグラウンド除去およびカーブフィッティング後のラマンスペクトルにおいて、各元素の光電子ピークの面積を求める。求めた各元素のピーク面積に、装置メーカーから提供される相対感度補正係数を掛ける。相対感度補正係数を掛けた後の各元素のピーク面積の総和と、相対感度補正係数を掛けた後のO1sのピーク面積とを用い、下式に基づいてO1sの濃度を算出する。下式に基づいて算出した値を本実施形態の酸素原子濃度とする。
【数2】
【0054】
本実施形態において、O1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた酸素原子濃度が0.01モル%以上であると、排水中での鉄還元触媒の分散性が良好となる傾向がある。本実施形態での鉄還元触媒の酸素原子濃度は、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.2モル%以上である。
【0055】
本実施形態において、O1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた酸素原子濃度が12.0モル%以下であると、処理中に鉄還元触媒の構造が壊れにくい。そのため、鉄還元触媒が、長期間触媒活性を維持できる傾向がある。鉄還元触媒の酸素原子濃度は、好ましくは10.0モル%以下、より好ましくは9.0モル%以下、さらに好ましくは5.0モル%以下である。本実施形態において、鉄還元触媒の酸素原子濃度の上限値および下限値の組み合わせは任意に選択できる。
【0056】
一つの側面として、上述の方法で求められる鉄還元触媒の酸素原子濃度は、0.01モル%以上9.0モル%以下である。別の側面として、上述の方法で求められる鉄還元触媒の酸素原子濃度は、0.1モル%以上9.0モル%以下であることが好ましく、0.2モル%以上5.0モル%以下であることがより好ましい。
【0057】
本実施形態の水処理方法で用いる鉄還元触媒は、下記(B)を満たすことが好ましい。
【0058】
(B):上記鉄還元触媒を、レーザーラマン分光法により測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が、0.33以上0.60以下である。
【0059】
本実施形態において、鉄還元触媒のレーザーラマン分光法測定は、顕微レーザーラマン分光装置AlmegaXR(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、以下の条件により行われる。
【0060】
アルゴンイオンレーザー光の波長:532nm
レーザー出力(試料位置) :0.1mW以下
対物レンズ :500倍(長焦点型)、ピンホール径:100μm
露光時間 :30秒
積算回数 :6回
【0061】
上記条件によるレーザーラマン分光法測定を、試料(鉄還元触媒)を変えて7回以上行い、得られたラマンスペクトルを解析ソフトにより平均化する。次に、平均化したラマンスペクトルにおける1900cm-1に対応するピーク強度と900cm-1に対応するピーク強度との平均値を求める。そして、平均化したラマンスペクトルにおける1500cm-1のピーク強度から求めた平均値を引いた値を、本実施形態における1500cm-1のピーク強度(I)とする。同様に、平均化したラマンスペクトルにおける1580cm-1のピーク強度から上記平均値を引いた値を、本実施形態における1580cm-1のピーク強度(I)とする。
【0062】
図2は、第1実施形態の水処理方法で用いることが可能な活性炭のラマンスペクトルの一例である。図2に示すラマンスペクトルにおいて、1500cm-1に対応するピークは、Aバンドとも呼ばれ、アモルファスカーボンのような非晶性の構造に由来する吸収である。また、1580cm-1に対応するピークは、Gバンドとも呼ばれ、グラファイトのような結晶性の構造に由来する吸収である。1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が大きいほど、活性炭の結晶構造が乱れていることを意味する。
【0063】
本実施形態において、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が0.33以上であると、鉄還元触媒の触媒活性が良好となる傾向がある。このピーク強度比(I/I)は、好ましくは0.34以上、より好ましくは0.37以上である。
【0064】
本実施形態において、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が0.60以下であると、処理中に鉄還元触媒の構造が壊れにくい。そのため、鉄還元触媒が長期間触媒活性を維持できる傾向がある。このピーク強度比(I/I)は、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.43以下、さらに好ましくは0.41以下である。本実施形態において、ピーク強度比(I/I)の上限値および下限値の組み合わせは任意に選択できる。
【0065】
一つの側面として、ピーク強度比(I/I)は、0.34以上0.45以下であることが好ましく、0.37以上0.43以下であることがより好ましく、0.37以上0.41以下であることがさらに好ましい。
【0066】
鉄還元触媒として活性炭を用いる場合、反応液全量に対する活性炭の原子濃度は、50000mg/L以下であることが好ましい。活性炭の原子濃度が50000mg/L以下であることにより、活性炭による過酸化水素の分解反応が抑制される。また、後述する濃縮装置を用いて鉄イオンを不溶化させた鉄化合物を含む汚泥を濃縮するのが容易になる。さらに、この条件で反応槽11に懸濁液を返送すると、反応槽11内のpH調整に酸を用いる場合、その酸の使用量が抑えられる。
【0067】
鉄還元触媒として活性炭を用いる場合、活性炭の形状としては、触媒効率の観点から粉体状であることが好ましい。また、活性炭の粒径としては、触媒を回収しやすいことから0.05μm以上100μm以下が好ましい。
【0068】
一つの側面として、本実施形態の鉄還元触媒は、効率的な水処理が可能である水処理方法に適用することができる。
【0069】
(不溶化槽)
不溶化槽21は、第一鉄イオン、およびフェントン反応により生成した第二鉄イオンを含む鉄を反応液から除去するために不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させるものである。
【0070】
本実施形態において、第一鉄イオンおよび第二鉄イオンは、酸化鉄、水酸化鉄または塩化鉄などの鉄化合物となって不溶化する。
【0071】
(第二pH調整装置)
第二pH調整装置24は、槽内のpHに応じて、不溶化槽21内にアルカリを添加し、不溶化槽21内のpHを調整するものである。不溶化槽21内は、第一鉄イオンおよび第二鉄イオンを不溶化させることが可能なpHの範囲に調整される。不溶化槽21内のpHは、6.0以上10.0以下の範囲に調整される。不溶化槽21内のpHは、7.0以上9.0以下となることが好ましく、7.5以上8.5以下がより好ましく、7.8以上8.3以下がさらに好ましい。
【0072】
また、不溶化槽21には、槽内のpHを測定する測定機器(図示略)を設置することが好ましい。
【0073】
添加するアルカリの種類としては、第一pH調整装置14で添加することができるアルカリと同様のものが挙げられる。
【0074】
排水中に含まれる被酸化性の汚染物質が亜リン酸や次亜リン酸等の無機物である場合、アルカリとして水酸化カルシウムを添加すると、反応液中の亜リン酸と水酸化カルシウムが反応して沈殿物を形成する。そのため、後述する濃縮装置22において、亜リン酸を含む沈殿物と、処理水とに沈殿分離することができる。また、反応液中のオルトリン酸は、第二鉄イオンと反応して沈殿物を形成する。そのため、後述する濃縮装置22において、オルトリン酸を含む沈殿物と、処理水とに沈殿分離することができる。
【0075】
(濃縮装置)
濃縮装置22は、第一鉄化合物および第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、鉄化合物および鉄還元触媒を含む汚泥と処理水とに固液分離して、汚泥が濃縮された懸濁液を得るものである。濃縮装置22は、第一膜モジュール23を用いた全量濾過方式を採用している。第一膜モジュール23を用いることにより、懸濁液に汚泥が高濃度で含まれる場合においても、高い分離能で分離することができる。
【0076】
第一膜モジュール23は、濾過膜を備える。この濾過膜としては、例えば精密濾過膜または限外濾過膜などが挙げられる。精密濾過膜としては、モノリス型膜が挙げられる。限外濾過膜としては、中空糸膜、平膜、チューブラ膜が挙げられる。なかでも、容積充填率が高いことから、中空糸膜が好ましく用いられる。
【0077】
第一膜モジュール23に中空糸膜を用いる場合、その材質としては、セルロース、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデンジフロライド(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)などが挙げられる。なかでも、中空糸膜の材質としては、耐薬品性やpH変化に強い点から、ポリフッ化ビニリデンジフロライド(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)が好ましい。
【0078】
第一膜モジュール23にモノリス型膜を用いる場合、セラミック製の膜を用いることが好ましい。
【0079】
濾過膜に形成される微細孔の平均孔径は、0.01μm以上1.0μm以下が好ましく、0.05μm以上0.45μm以下がより好ましい。前記微細孔の平均孔径が下限値以上であれば、固液分離に要する圧力を十分小さく抑えられる。一方、前記微細孔の平均孔径が上限値以下であれば、鉄化合物および鉄還元触媒を含む汚泥が処理水中に漏出するのを抑えることができる。
【0080】
本実施形態において、反応槽11内の反応液全量に対する鉄還元触媒の原子濃度を基準としたときの懸濁液全量に対する鉄還元触媒の原子濃度の倍率(以下、これを「濃縮倍率」と称することがある。)が4倍以上20倍以下程度となるように濃縮することが好ましい。濃縮倍率が4倍以上の条件で反応槽11に懸濁液を返送すると、反応槽11内のpH調整に酸を用いる場合、その酸の使用量が抑えられる。また、濃縮倍率が20倍以下であれば、濃縮装置22を用いた汚泥の濃縮および懸濁液返送手段32を用いた懸濁液の返送が容易になる。
【0081】
第一膜モジュール23には、第三の流路31が接続されている。第三の流路31は、第一膜モジュール23の濾過膜を透過した処理水を濃縮装置22から排出し、調整槽41に流入させるものである。第三の流路31には、ポンプ31aが設置されている。これにより、上記処理水を不溶化槽21から排出できるようになっている。
【0082】
また、第三の流路31には、処理水中の全鉄濃度を測定する測定装置が設けられていることが好ましい。当該測定装置により、処理水中の全鉄濃度が0.04ppmを超えていると判断される場合には、不溶化槽21内のpH、もしくは第一膜モジュール23での固液分離またはその両方が適切になるように適宜対応する。
【0083】
また、濃縮装置22には、第一膜モジュール23の下方に配置された膜面洗浄用の曝気手段を備えてもよい。前記曝気手段としては、公知のものを採用できる。
【0084】
さらに、濃縮装置22は、第一膜モジュール23のほかに別の分離手段を併用してもよい。別の分離手段としては、例えば、砂濾過、加圧浮上分離、遠心分離、ベルトプレス、沈殿池による沈殿などが挙げられる。
【0085】
(懸濁液返送手段)
懸濁液返送手段32は、不溶化槽21から反応槽11に汚泥が濃縮された懸濁液の少なくとも一部を返送するものである。懸濁液返送手段32は、第五の流路33を備える。第五の流路33は、懸濁液の少なくとも一部を不溶化槽21から排出し、反応槽11に流入(供給)させるものである。
第五の流路33には、ポンプ33aが設置されている。これにより、不溶化槽21内の懸濁液の少なくとも一部を不溶化槽21から反応槽11に返送することができる。
【0086】
反応槽11が複数配置されている場合、不溶化槽21から懸濁液の少なくとも一部を返送する反応槽11は、最下流の反応槽11以外の槽とすることが好ましい。懸濁液の少なくとも一部を返送する反応槽11が上流であるほど、懸濁液中の第二鉄化合物が溶解して第二鉄イオンとなり、さらに第一鉄イオンに還元されてからフェントン反応に使用されるまでの時間をより長くすることができる。したがって、返送した懸濁液中の第二鉄化合物をフェントン反応に効果的に再利用することができる。
【0087】
本実施形態では、フェントン反応を利用した水処理では廃棄されていた第二鉄化合物を再利用することができる。そのため、第二鉄化合物の処理にかかる費用を削減できるほか、鉄試薬添加手段15から添加する鉄試薬の量を少なくすることができる。
【0088】
(調整槽)
調整槽41は、不溶化槽21から第三の流路31を介して供給される処理水を貯留するものである。
【0089】
調整槽41には、第七の流路55が接続されている。第七の流路55は、調整槽41に貯留した処理水を排出し、分離装置42に流入させるものである。第七の流路55には、ポンプ55aおよび調整バルブ55bが設置されている。これにより、上記処理水を調整槽41から排出できるようになっている。なお、調整バルブ55bはなくてもよい。
【0090】
分離装置42は、濃縮工程で分離した処理水を、処理水に含まれる被酸化性の汚染物質と、透過水とに膜分離するものである。分離装置42は、第二膜モジュール43を用いたクロスフロー濾過方式を採用している。クロスフロー濾過方式を採用することにより、膜表面への被酸化性の汚染物質の堆積を抑制することができ、濾過流束を維持することができる。
【0091】
第二膜モジュール43には、ナノ濾過膜または逆浸透膜を備える。第二膜モジュール43にナノ濾過膜を用いる場合、その材質としては、ポリエチレン系、芳香族ポリアミド系や架橋ポリアミド系を含むポリアミド系、脂肪族アミン縮合系ポリマー、複素環ポリマー系、ポリビニルアルコール系、酢酸セルロース系ポリマーなどが挙げられる。
【0092】
第二膜モジュール43に逆浸透膜を用いる場合、その材質としては、ポリアミド、ポリスルホン、セルロースアセテートなどが挙げられ、芳香族ポリアミドまたは架橋芳香族ポリアミドを含むポリアミドが好ましい。
【0093】
第二膜モジュール43には、第四の流路51が接続されている。第四の流路51は、第二膜モジュール43のナノ濾過膜または逆浸透膜を透過した透過水を分離装置42から排出し、貯留槽61に流入させるものである。上述したポンプ55aにて第二膜モジュール43の濾過面側(上流側)に圧力をかけることにより、上記透過水を調整槽41から排出し、分離装置42にて膜分離できるようになっている。流量の調整は、ポンプ55aの出力調整により行うことができる。
【0094】
(貯留槽)
貯留槽61は、分離装置42から第四の流路51を介して供給される透過水を貯留するものである。貯留槽61に貯留された透過水は、例えば、排水を放出した工場等に返送され、再利用されるか、場合によっては工業用水などで希釈され、河川などに放流されてもよい。
【0095】
以上のことから、本実施形態の水処理装置1は、効率的な水処理が可能である。
【0096】
[水処理方法]
図1に示す水処理装置1を用いる水処理方法について説明する。本実施形態の水処理方法では、最初に、反応槽11において、排水のpHを1.0以上4.0以下に調整するとともに、排水に含まれる被酸化性の汚染物質をフェントン反応により酸化する(酸化工程)。
【0097】
次いで、不溶化槽21において、酸化工程で得られた反応液のpHを6.0以上10.0以下に調整し、第一鉄イオン、およびフェントン反応により生成した第二鉄イオンを不溶化させ、第一鉄化合物および第二鉄化合物を生成させる(不溶化工程)。
【0098】
さらに、第一鉄化合物および第二鉄化合物が懸濁した懸濁液を、濃縮装置22により鉄化合物および鉄還元触媒を含む汚泥と処理水とに固液分離して、汚泥が濃縮された懸濁液を得る(濃縮工程)。
【0099】
次いで、濃縮工程で分離した処理水を調整槽41に貯留する。そして、処理水を調整槽41から分離装置42に流出させ、分離装置42により膜分離する(分離工程)。分離工程において、処理水を、処理水に含まれる被酸化性の汚染物質と、透過水とに分離する。
さらに、貯留槽61において、分離工程で分離した透過水を貯留する。
【0100】
また、懸濁液返送手段32において、濃縮工程で濃縮した懸濁液を、不溶化槽21から反応槽11に返送する(懸濁液返送工程)。
【0101】
反応槽11に返送された懸濁液中の第二鉄化合物は、反応槽11内で溶解して第二鉄イオンとなり、過酸化水素および鉄還元触媒により第一鉄イオンに還元される(還元工程)。本実施形態の還元工程では、下記(A)を満たす鉄還元触媒を用いる。本実施形態の還元工程では、助触媒としてゼオライトを併用することが好ましい。
【0102】
(A):上記鉄還元触媒をX線光電子分光法により測定することで得られるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた酸素原子濃度が、0.01モル%以上12.0モル%以下である。
【0103】
本実施形態において、O1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた酸素原子濃度が0.1モル%以上であると、排水中での分散性が良好となる傾向がある。したがって、本実施形態の還元工程において、フェントン反応により生成した第二鉄イオンを第一鉄イオンに長期間還元することが可能である。本実施形態では、生成した第一鉄イオンを再び酸化工程に用いることができる。そのため、本実施形態の水処理方法は、運転当初の処理効率を維持することができる。
【0104】
本実施形態において、O1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた酸素原子濃度が12.0モル%以下であると、処理中に鉄還元触媒の構造が壊れにくい。そのため、鉄還元触媒が長期間触媒活性を維持できる傾向がある。したがって、本実施形態の還元工程において、フェントン反応により生成した第二鉄イオンを第一鉄イオンに長期間還元することが可能である。本実施形態では、生成した第一鉄イオンを再び酸化工程に用いることができる。そのため、本実施形態の水処理方法は、運転当初の処理効率を維持することができる。
【0105】
一つの側面として、本実施形態の水処理方法に用いられる鉄還元触媒について、上述の方法で求められる酸素原子濃度は、0.01モル%以上9.0モル%以下である。
【0106】
本実施形態の水処理方法では、下記(B)を満たす鉄還元触媒を用いる。
【0107】
(B):上記鉄還元触媒をレーザーラマン分光法により測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が、0.33以上0.60以下である。
【0108】
本実施形態において、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が上記範囲内であると、鉄還元触媒の触媒活性が良好となる傾向がある。したがって、本実施形態の還元工程において、フェントン反応により生成した第二鉄イオンを第一鉄イオンに効率的に還元できる。本実施形態では、生成した第一鉄イオンを再び酸化工程に用いることができる。そのため、本実施形態の水処理方法は、処理効率に優れる。
【0109】
本実施形態において、1500cm-1に対応するピーク強度(I)と、1580cm-1に対応するピーク強度(I)との比(I/I)が0.60以下であると、処理中に鉄還元触媒の構造が壊れにくい。そのため、鉄還元触媒が長期間触媒活性を維持できる傾向がある。したがって、本実施形態の還元工程において、フェントン反応により生成した第二鉄イオンを第一鉄イオンに長期間還元することが可能である。本実施形態では、生成した第一鉄イオンを再び酸化工程に用いることができる。そのため、本実施形態の水処理方法は、運転当初の処理効率を維持することができる。
【0110】
以上のことから、本実施形態の水処理方法は、効率的な水処理が可能である。
【0111】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態の水処理装置3について説明する。図3は、第2実施形態の水処理装置3の概略構成を示す図である。
図3に示すように、第2実施形態の水処理装置3は、第2実施形態と異なり、分離装置42から反応槽11に、分離装置42により被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を返送する濃縮水返送手段52を有する。
したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0112】
図3に示す水処理装置3による水処理方法では、濃縮水返送工程を有する。
濃縮水返送手段52により、分離装置42から反応槽11に、分離装置42により被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を返送する(濃縮水返送工程)。
【0113】
(濃縮水返送手段)
濃縮水返送手段52は、分離装置42から反応槽11に、分離装置42の第二膜モジュール43により被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を返送するものである。濃縮水返送手段52は、第六の流路53を備える。第六の流路53は、分離装置42により被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を、分離装置42から排出し、反応槽11に流入(供給)させるものである。第六の流路53には、ポンプ53aと、調整バルブ53bとが設置されている。これにより、分離装置42により被酸化性の汚染物質が濃縮された濃縮水の少なくとも一部を、分離装置42から反応槽11に返送することができる。
【0114】
反応槽11が複数配置されている場合、分離装置42から濃縮水の少なくとも一部を返送する反応槽11は、最下流の反応槽11以外の槽とすることが好ましい。濃縮水の少なくとも一部を返送する反応槽11が上流であるほど、濃縮水中の被酸化性の汚染物質がフェントン反応により酸化処理されるまでの時間をより長くすることができる。したがって、返送した濃縮水中の被酸化性の汚染物質をフェントン反応により効果的に酸化処理することができる。
【0115】
以上のことから、本実施形態の水処理装置3および水処理装置3を用いる水処理方法は、第1実施形態と同様に、効率的な水処理が可能である。
【0116】
なお、本発明の一態様の水処理方法は、上述した実施形態に限定されない。例えば、水処理装置1において、調整槽41および分離装置42を省略して分離工程を行わなくてもよい。その場合、濃縮装置22を通過した処理水を直接貯留槽61に貯留してもよい。
【0117】
また例えば、上記実施形態において、濃縮装置22を用いた汚泥の濃縮方法は、必ずしも第一膜モジュール23を利用した方法でなくてよい。例えば、上述した砂濾過、加圧浮上分離、遠心分離、ベルトプレス、沈殿池による沈殿などを利用してもよい。
【0118】
さらに、濃縮装置22を不溶化槽21内に設ける例を示したが、濃縮装置22を不溶化槽21内に設けなくてもよい。その場合、不溶化槽21と調整槽41との間に別の槽を配置し、この槽内に濃縮装置22を設けてもよい。
【0119】
濃縮装置22を不溶化槽21内に設けない場合、第一膜モジュール23の構成として以下に示す構成であってもよい。例えば、ハウジング内に濾過膜(精密濾過または限外濾過)の一次側と二次側が隔離されるように濾過膜が固定される。そして、ハウジング内における濾過膜の一次側が、鉄化合物および鉄還元触媒を含む汚泥および処理水を含有する懸濁液が貯留された貯留タンクと循環流路により連通し、濾過膜の二次側が吸引ポンプと接続されてもよい。
【0120】
水処理装置1は、懸濁液返送手段32を省略することもできる。本発明の一態様の水処理装置は、懸濁液返送手段の代わりに、汚泥の少なくとも一部を不溶化槽から反応槽に返送する汚泥返送手段を備えていてもよい。
【実施例
【0121】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。なお、以下では、鉄還元触媒として活性炭を用いた。用いる活性炭の物性評価は以下のようにして行った。
【0122】
[レーザーラマン分光法測定]
活性炭のレーザーラマン分光法測定は、顕微レーザーラマン分光装置AlmegaXR(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、以下の条件により行った。
【0123】
アルゴンイオンレーザー光の波長:532nm
レーザー出力(試料位置) :0.1mW以下
対物レンズ :500倍(長焦点型)、ピンホール径:100μm
露光時間 :30秒
積算回数 :6回
【0124】
上記条件によるレーザーラマン分光法測定を、活性炭を変えて7回以上行い、得られたラマンスペクトルを解析ソフトにより平均化した。次に、平均化したラマンスペクトルにおける1900cm-1に対応するピーク強度と900cm-1に対応するピーク強度との平均値を求めた。そして、平均化したラマンスペクトルにおける1500cm-1のピーク強度から上記平均値を引いた値を、本実施形態における1500cm-1のピーク強度(I)とした。同様に、平均化したラマンスペクトルにおける1580cm-1のピーク強度から上記平均値を引いた値を、本実施形態における1580cm-1のピーク強度(I)とした。
【0125】
[XPS測定]
活性炭のXPS測定は、走査型X線光電子分光装置Quantum 2000(PHI社製)を用い、以下の条件により行った。ワイドスペクトルで検出された元素、C1s、O1s、N1s、Na1s、Al2p、Si2p、P2p、S2p、Cl2p、Ca2p、Fe2p3/2についてナロースペクトルを測定した。なお、1eVは、1.602×10-19Jである。
X線源 :単色化Al-Kα
出力 :16kV-34W(X線発生面積170μmφ)
帯電中和 :電子銃5μA、イオン銃2V
分光系 :パスエネルギー
187.85eV(ワイドスペクトル)
93.90eV(ナロースペクトル、N1s、Na1s、Al2p、Si2p、P2p、S2p、Cl2p、Ca2p、Fe2p3/2)
29.35eV(ナロースペクトル、C1s、O1s)
測定領域 :170μmφ
取り出し角:45°(表面より)
【0126】
得られた各元素の光電子ピークを用い、シャーリー法によりバックグラウンドを除去した。その後、ピーク干渉がみられたAl2pとBr3dのピークを、カーブフィッティングにより分離した。MgKLLの干渉が見られたCaを、Ca2p3/2と1/2の面積比を1:0.5としてカーブフィッティングし、MgKLL寄与分を除外した。
【0127】
バックグラウンド除去およびカーブフィッティング後のラマンスペクトルにおいて、各元素の光電子ピークの面積を求めた。求めた各元素のピーク面積に、装置メーカーから提供される相対感度補正係数を掛けた。相対感度補正係数を掛けた後の各元素のピーク面積の総和と、相対感度補正係数を掛けた後のO1sのピーク面積とを用い、下式に基づいてO1sの濃度を算出した。下式に基づいて算出した値を本実施形態の酸素原子濃度とした。
【数3】
【0128】
<モデル排水の水処理試験>
第一反応槽と、第一反応槽に直列接続された第二反応槽と、濃縮装置を有する不溶化槽とからなる水処理装置を作製した。また、純水に、ジメチルスルホキシド(DMSO)を200mg/L(全有機炭素量として65mg/L)添加し、溶解させたものをモデル排水とした。このモデル排水を、作製した水処理装置により水処理した。なお、第一反応槽および第二反応槽は、特許請求の範囲における反応槽を構成している。
【0129】
第一膜モジュールに備えられた膜として限外濾過膜(三菱レイヨンアクア・ソリューションズ株式会社製、公称孔径0.05μm)を使用した。また、DMSOは、活性炭によってほとんど吸着除去されないことを予め確認した。
【0130】
各試薬として以下の材料を用いた。
(鉄試薬)
硫酸鉄(II)七水和物(FeSO・7HO)
【0131】
(鉄還元触媒)
活性炭A:粉末活性炭(LINLONGHUANBAOKEJI社製)
活性炭B:DiaFellow CT(三菱ケミカルアクアソリューション株式会社製)
活性炭C:エバダイヤ(商標登録)(水ing株式会社製)
活性炭D:LP14-014(大阪ガスケミカル株式会社製)
活性炭E:粉末活性炭(Fujian Xinsen Carbon Co.,Ltd.製)
活性炭F:ダイヤホープPXS(カルゴンケミカル社製)
活性炭H:LP14-016(大阪ガスケミカル株式会社製)
活性炭I:DM-SC(三菱ケミカルアクアソリューション株式会社製)
【0132】
各活性炭におけるピーク強度比(I/I)および酸素原子濃度を表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
以下の試験では、TOC除去率を求めることにより、処理効率を評価した。
【0135】
[TOC除去率の算出]
TOC除去率は、原水(モデル排水)中のTOC濃度および処理水中のTOC濃度を用い、式(S1)に基づいて算出した。
【数4】
【0136】
なお、処理水中のTOC濃度の測定は、JIS K0102「22.有機体炭素(TOC)」に従い、燃焼式全有機炭素分析装置(株式会社三菱化学アナリテック製、型番「TOC-300V」)により測定した。
【0137】
[実施例1]
まず、原水を第一反応槽に流入(供給)させ、オーバーフローさせることにより、第二反応槽および不溶化槽に順次供給した。懸濁液返送手段により不溶化槽から返送される懸濁液の流量を考慮しない滞留時間は、第一反応槽では4時間、第二反応槽では1時間、不溶化槽では1時間に設定した。さらに、第一反応槽内のpHを硫酸により調整し、2.9とした。一方、不溶化槽内のpHを水酸化ナトリウムにより調整し、8.0とした。
【0138】
次に、原水全量に対する過酸化水素の原子濃度が1200mg/Lとなるように、第一反応槽に過酸化水素を添加した。
【0139】
また、第一反応槽および第二反応槽の槽内の反応液全量に対するFeSO・7HOの原子濃度が1200mg/L(第一鉄イオン換算で240mg/L)となるように、第一反応槽および第二反応槽にFeSO・7HOを添加した。
【0140】
また、第一反応槽および第二反応槽の槽内の反応液全量に対する活性炭Aの原子濃度が2000mg/Lとなるように、第一反応槽と第二反応槽とのいずれか一方または両方に活性炭Aを添加した。
【0141】
また、不溶化槽内の懸濁液全量に対するFeSO・7HOの原子濃度が12000mg/L(第一鉄イオン換算で2400mg/L)となるように、不溶化槽にFeSO・7HOを添加した。また、不溶化槽内の懸濁液全量に対する活性炭Aの質量濃度が20000mg/Lとなるように、不溶化槽に活性炭Aを添加した。そして、第一反応槽および第二反応槽の槽内の反応液全量に対する活性炭Aの質量濃度が2000mg/Lに維持されるように、不溶化槽から第一反応槽に第二鉄化合物および活性炭Aを含む汚泥を返送した。
【0142】
このようにしてモデル排水の水処理を実施した結果、1日後のTOC除去率は80.4%であった。また、10日後のTOC除去率は67.8%であった。
【0143】
[実施例2]
活性炭Aの代わりに、活性炭Bを用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0144】
このようにしてモデル排水の水処理を実施した結果、1日後のTOC除去率は77.5%であった。また、10日後のTOC除去率は56.8%であった。
【0145】
[実施例3]
活性炭Aの代わりに、活性炭Cを用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0146】
このようにしてモデル排水の水処理を実施した結果、1日後のTOC除去率は69.0%であった。また、10日後のTOC除去率は38.7%であった。
【0147】
[実施例4]
活性炭Aの代わりに、活性炭Fを用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0148】
このようにしてモデル排水の水処理を実施した結果、1日後のTOC除去率は65.3%であった。また、10日後のTOC除去率は56.7%であった。
【0149】
[実施例5]
活性炭Aの代わりに、活性炭Hを用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0150】
このようにしてモデル排水の水処理を実施した結果、1日後のTOC除去率は63.4%であった。また、10日後のTOC除去率は46.1%であった。
【0151】
[比較例1]
活性炭Aの代わりに、活性炭Dを用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0152】
このようにしてモデル排水の水処理を実施した結果、1日後のTOC除去率は36.9%であった。また、10日後のTOC除去率は10%未満であった。
【0153】
[比較例2]
活性炭Aの代わりに、それぞれ活性炭Eを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。
【0154】
このようにしてモデル排水の水処理を実施した結果、1日後のTOC除去率は63.4%であった。また、10日後のTOC除去率は10%未満であった。
【0155】
[比較例3]
活性炭Aの代わりに、それぞれ活性炭Iを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。
【0156】
このようにしてモデル排水の水処理を実施した結果、1日後のTOC除去率は57.2%であった。また、10日後のTOC除去率は10%以下であった。
【0157】
[処理効率]
以上の試験において、1日後のTOC除去率が50%以上、かつ、10日後のTOC除去率が30%以上のものを「○」とし、1日後のTOC除去率が50%未満、または、10日後のTOC除去率が30%未満のものを「×」とした。結果を表2に示す。
【0158】
【表2】
【0159】
表2に示すように、本発明を適用した実施例1~5の水処理方法は、10日後のTOC除去率も高かった。すなわち、本発明を適用した実施例1~5の水処理方法は、処理効率に優れていた。これは、実施例1~5で用いた活性炭の触媒活性が良好であったとともに、長期間触媒活性を維持できたためだと考えられる。
【0160】
一方、比較例1~3の水処理方法は10日後のTOC除去率が低かった。すなわち、本発明を適用しなかった比較例1~3の水処理方法は、処理効率に劣っていた。
【0161】
比較例1で用いた活性炭の酸素原子濃度は9.0モル%を超えていた。このような活性炭は触媒活性が失われやすいと考えられる。また、比較例1で用いた活性炭のピーク強度比(I/I)は0.33未満であった。このような活性炭は触媒活性が低いと考えられる。このような理由から、比較例1の水処理方法は、処理効率に劣っていたと考えられる。
【0162】
比較例2で用いた活性炭のピーク強度比(I/I)は0.33以上0.60以下の範囲内であるが、酸素原子濃度が9.0モル%を超えていた。このような活性炭は、触媒活性が失われやすいと考えられる。比較例3で用いた活性炭の酸素原子濃度は9.0モル%を超えており、ピーク強度比(I/I)も0.33未満であった。このような活性炭は、触媒活性が失われやすいと考えられる。このような理由から、比較例2および比較例3の水処理方法は、処理効率に劣っていたと考えられる。
【0163】
以上の結果により、本発明が有用であることが確かめられた。
【符号の説明】
【0164】
1,3…水処理装置、11…反応槽、14…第一pH調整装置、15…鉄試薬添加手段、16…過酸化水素添加手段、17…触媒添加手段、21…不溶化槽、22…濃縮装置、24…第二pH調整装置、32…懸濁液返送手段、42…分離装置
図1
図2
図3