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特許7082914中性子捕捉療法用のコリメータ、及び中性子線のコリメータの設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】中性子捕捉療法用のコリメータ、及び中性子線のコリメータの設置方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220602BHJP
【FI】
A61N5/10 H
A61N5/10 K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018136031
(22)【出願日】2018-07-19
(65)【公開番号】P2020010890
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】武川 哲也
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-080005(JP,A)
【文献】特開2013-208257(JP,A)
【文献】特開2017-173283(JP,A)
【文献】特開2018-092899(JP,A)
【文献】国際公開第2008/025737(WO,A1)
【文献】特開2018-015148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射体に照射される中性子線の照射野を規定する中性子捕捉療法用のコリメータであって、
前記中性子線を遮蔽する能力を有する第1部材の開口部へ取付可能な、前記第1部材よりも低い前記中性子線を遮蔽する能力を有する第2部材を備え、
前記第2部材は、前記中性子線の照射軸が延びる第1の方向と直交する第2の方向へ広がる立体形状をなしており、前記第1部材の開口部を塞ぐ形状にて一体的に形成された前記第2の方向に不動の部材である、中性子捕捉療法用のコリメータ。
【請求項2】
前記第2部材は、前記第2の方向における位置に従い、前記第1の方向における位置が異なっている部分を有する、請求項1に記載の中性子捕捉療法用のコリメータ。
【請求項3】
被照射体に照射される中性子線の照射野を規定する中性子捕捉療法用のコリメータであって、
前記中性子線を遮蔽する能力を有する第1部材の開口部へ取付可能な、前記第1部材よりも低い前記中性子線を遮蔽する能力を有する第2部材を備え、
前記第2部材は、前記中性子線の照射軸が延びる第1の方向と直交する第2の方向へ広がる立体形状をなしており、
前記第2部材は、前記中性子線を遮蔽する材質で構成される中性子線遮蔽部材と、前記第1の方向における一方側への前記中性子線遮蔽部材の移動を規制する規制板と、を備える、中性子捕捉療法用のコリメータ。
【請求項4】
内部に空間が形成された殻部材を更に備え、
前記規制板は、前記殻部材の壁部をなしており、
前記中性子線遮蔽部材は、前記殻部材の前記空間内に充填されている、請求項3に記載の中性子捕捉療法用のコリメータ。
【請求項5】
前記中性子線遮蔽部材は、複数のブロック体によって構成されており、
各々の前記ブロック体は、前記規制板と当接している、請求項3又は4に記載の中性子捕捉療法用のコリメータ。
【請求項6】
前記規制板は、前記第2の方向において、前記照射軸を中央位置とする外周側から内周側へ向かって第1の突出部、第2の突出部、及び第3の突出部を有しており、
前記第1の突出部は、前記第1の方向における前記一方側へ突出し、
前記第2の突出部は、前記第1の方向における他方側へ突出し、
第3の突出部は、前記中央位置に配置されて、前記第1の方向における前記一方側へ突出する、請求項3~5の何れか一項に記載の中性子捕捉療法用のコリメータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子捕捉療法用のコリメータ、及び中性子線のコリメータの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を用いた治療方法として、中性子線を照射してがん細胞を死滅させる中性子捕捉療法であるホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)が知られている。ホウ素中性子捕捉療法では、がん細胞に予め取り込ませておいたホウ素に中性子線を照射し、これにより生じる重荷電粒子の飛散によってがん細胞を選択的に破壊する。このような中性子捕捉療法では、被照射体に照射される中性子線の照射野を規定する(制限する)コリメータが用いられる(例えば、特許文献1参照。)このような中性子補足療法用のコリメータでは、照射野に合わせて複数のリーフ(中性子線遮蔽部材のピース)を移動させることで、所望の照射野を規定している。更に、患者に合わせて中性子線の照射軸方向へ複数のリーフを移動させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-208257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような中性子補足療法用のコリメータでは、手動でリーフを移動させるため、治療計画時に計画したリーフ位置を再現するときの再現性を向上させ難い場合がある。また、モータ等を設けることで機械的にリーフを駆動させる方法は、モータの制御部品(特に半導体)が中性子線によって故障し易いために、実現性が難しい。更に、患者毎にブロック型のコリメータを形成する方法は、対象となる患者のみにしか使用できないため、一の患者の治療に要するコストが高くなってしまうという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、コストを抑制しながら、再現性の良い中性子捕捉療法用のコリメータ、及び中性子線のコリメータの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る中性子捕捉療法用のコリメータは、被照射体に照射される中性子線の照射野を規定する中性子捕捉療法用のコリメータであって、中性子線を遮蔽する材質で構成される中性子線遮蔽部材と、中性子線の照射軸が延びる第1の方向における一方側への中性子線遮蔽部材の移動を規制する規制板と、を備え、規制板は、第1の方向と直交する第2の方向へ広がると共に、第2の方向における位置に従い、第1の方向における位置が異なっている部分を有する立体形状をなしている。
【0007】
本発明に係る中性子捕捉療法用のコリメータは、中性子線の照射軸が延びる第1の方向における一方側への中性子線遮蔽部材の移動を規制する規制板を備えている。この規制板は、中性子線遮蔽部材の移動を規制することで、当該中性子線遮蔽部材の位置決めを行うことができる。このような規制板は、第1の方向と直交する第2の方向へ広がると共に、第2の方向における位置に従い、第1の方向における位置が異なっている部分を有する立体形状をなしている。すなわち、規制板を、患者の姿勢や形状に合わせた立体形状とすることで、中性子線遮蔽部材を患者に合わせた位置に配置することができる。このように、コリメータの形状を規制板に対応した形状にすることができるため、予め計画した形状に対する再現性が良い。また、中性子線遮蔽部材自体を患者に合わせた形状に加工するのではなく、規制板を患者に合わせた形状とすることで、中性子線遮蔽部材を他の患者にも再利用することが可能となる。更に、規制板を形成することは、中性子線遮蔽部材自体を加工する場合や、中性子線遮蔽部材に駆動機構を設ける場合に比して、低いコストで行うことができる。以上により、コストを抑制しながら、再現性の良い中性子捕捉療法用のコリメータを提供することができる。
【0008】
本発明に係る中性子捕捉療法用のコリメータは、内部に空間が形成された殻部材を更に備え、規制板は、殻部材の壁部をなしており、中性子線遮蔽部材は、殻部材の空間内に充填されていてよい。例えば、中性子線遮蔽部材がブロック体である場合は、当該ブロック体の形状に合わせて規制板の形状を設定する必要が生じる。一方、殻部材の内部に中性子線遮蔽部材を充填する構成とすることで、規制板の形状を設定する際に、中性子線遮蔽部材の形状による制約を少なくすることができる。これにより、コリメータの形状を患者の姿勢や形状に対応させ易くなる。
【0009】
本発明に係る中性子捕捉療法用のコリメータにおいて、中性子線遮蔽部材は、複数のブロック体によって構成されており、各々のブロック体は、規制板と当接していてよい。例えば、中性子線遮蔽部材として流動性のある部材を用いる場合は、当該中性子線遮蔽部材を充填するために、規制板を壁部とした殻部材を構成する必要がある。一方、中性子線遮蔽部材がブロック体であることにより、当該中性子線遮蔽部材自体が形状保持性を有しているため、殻部材を形成する必要がなく、規制板の構造を簡易なものとすることができる。
【0010】
本発明に係る中性子捕捉療法用のコリメータにおいて、規制板は、第2の方向において、照射軸を中央位置とする外周側から内周側へ向かって第1の突出部、第2の突出部、及び第3の突出部を有しており、第1の突出部は、第1の方向における一方側へ突出し、第2の突出部は、第1の方向における他方側へ突出し、第3の突出部は、中央位置に配置されて、第1の方向における一方側へ突出してよい。これにより、第1の突出部で照射野が規制された中性子線がコリメータの中央位置を通過する際に、第3の突出部を通過させることで、中性子線の線量の平坦化を行うことができる。
【0011】
本発明に係る中性子線のコリメータの設置方法は、被照射体に照射される中性子線の照射野を規定する中性子線のコリメータの設置方法であって、中性子線を遮蔽する材質で構成される中性子線遮蔽部材を準備する工程と、中性子線遮蔽部材の移動を規制する規制板を準備する工程と、中性子線に対する被照射体の上流側に中性子線遮蔽部材及び規制板を配置することで、中性子線の照射軸が延びる第1の方向における一方側への中性子線遮蔽部材の移動を規制板で規制する工程と、を備え、規制板は、照射軸方向と直交する第2の方向へ広がると共に、第2の方向における位置に従い、第1の方向における位置が異なっている部分を有する立体形状をなしている。
【0012】
本発明に係る中性子線のコリメータの設置方法によれば、上述の中性子捕捉療法用のコリメータと同様の作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コストを抑制しながら、再現性の良い中性子捕捉療法用のコリメータ、及び中性子線のコリメータの設置方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るコリメータが適用される中性子捕捉療法システムの構成を示す図である。
図2図1の中性子捕捉療法システムにおける中性子線照射部近傍を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るコリメータを示す断面図である。
図4】変形例に係るコリメータを示す断面図である。
図5】変形例に係るコリメータを示す断面図である。
図6図5に示すコリメータを第1の方向から見た図である。
図7】コリメータに追加される姿勢調整部材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る中性子捕捉療法用のコリメータ、及びそれを用いた中性子線のコリメータの設置方法について説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
まず、図1及び図2を用いて、本実施形態に係る中性子捕捉療法用のコリメータが適用される中性子線捕捉療法システムの概要を説明する。図1及び図2に示すように、ホウ素中性子捕捉療法を用いたがん治療を行う中性子捕捉療法システム1は、ホウ素(10B)を含む薬剤が投与された患者S(被照射体)のホウ素が集積した部位に中性子線を照射してがん治療を行うシステムである。中性子捕捉療法システム1は、治療台3に拘束された患者Sに中性子線Nを照射して患者Sのがん治療を行う照射室2を有している。
【0017】
患者Sを治療台3に拘束する等の準備作業は、照射室2外の準備室(不図示)で実施され、患者Sが拘束された治療台3が準備室から照射室2に移動される。また、中性子捕捉療法システム1は、患者Sが載置される治療台3と、治療用の中性子線Nを発生させる中性子線発生部10と、照射室2内で治療台3に載置されている患者Sに対して中性子線Nを照射する中性子線照射部20と、なお、照射室2は遮蔽壁Wに覆われているが、患者や作業者等が通過するために通路及び扉45が設けられている。
【0018】
中性子線発生部10は、荷電粒子を加速して荷電粒子線Lを出射する加速器11と、加速器11が出射した荷電粒子線Lを輸送するビーム輸送路12と、荷電粒子線Lを走査してターゲット8に対する荷電粒子線Lの照射位置の制御を行う荷電粒子線走査部13と、荷電粒子線Lが照射されることで核反応を起こして中性子線Nを発生させるターゲット8と、荷電粒子線Lの電流を測定する電流モニタ16と、を備えている。加速器11及びビーム輸送路12は、略長方形状を成す荷電粒子線生成室14の室内に配置されており、この荷電粒子線生成室14は、コンクリート製の遮蔽壁Wで覆われた空間である。なお、荷電粒子線生成室14には、メンテナンスのための作業者が通過するための通路及び扉46が設けられている。なお、荷電粒子線生成室14は略長方形状に限定されず、他の形状であってもよい。例えば、加速器からターゲットまでの経路がL字状の場合には、荷電粒子線生成室14もL字状にしてよい。また、荷電粒子線走査部13は例えば荷電粒子線Lのターゲット8に対する照射位置を制御し、電流モニタ16はターゲット8に照射される荷電粒子線Lの電流を測定する。
【0019】
加速器11は、陽子等の荷電粒子を加速して陽子線等の荷電粒子線Lを生成するものである。本実施形態では、加速器11としてサイクロトロンが採用されている。なお、加速器11として、サイクロトロンに代えて、シンクロトロン、シンクロサイクロトロン又はライナック等の他の加速器を用いてもよい。
【0020】
ビーム輸送路12の一端(上流側の端部)は、加速器11に接続されている。ビーム輸送路12は、荷電粒子線Lを調整するビーム調整部15を備えている。ビーム調整部15は、荷電粒子線Lの軸を調整する水平型ステアリング電磁石及び水平垂直型ステアリング電磁石と、荷電粒子線Lの発散を抑制する四重極電磁石と、荷電粒子線Lを整形する四方スリット等を有している。なお、ビーム輸送路12は荷電粒子線Lを輸送する機能を有していればよく、ビーム調整部15は無くてもよい。
【0021】
ビーム輸送路12によって輸送された荷電粒子線Lは、荷電粒子線走査部13によって照射位置を制御されてターゲット8に照射される。なお、荷電粒子線走査部13を省略して、常にターゲット8の同じ箇所に荷電粒子線Lを照射するようにしてもよい。
【0022】
ターゲット8は、荷電粒子線Lが照射されることによって中性子線Nを発生させる。ターゲット8は、例えば、ベリリウム(Be)、リチウム(Li)、タンタル(Ta)又はタングステン(W)で構成されており、板状を成している。ただし、ターゲットは板状に限らず、液状等であってもよい。ターゲット8が発生させた中性子線Nは、中性子線照射部20によって照射室2内の患者Sに向かって照射される。
【0023】
中性子線照射部20は、ターゲット8から出射された中性子線Nを減速させる減速材21と、中性子線N及びガンマ線等の放射線が外部に放出されないように遮蔽する遮蔽体22とを備えており、この減速材21と遮蔽体22とでモデレータが構成されている。
【0024】
減速材21は例えば異なる複数の材料から成る積層構造とされており、減速材21の材料は荷電粒子線Lのエネルギー等の諸条件によって適宜選択される。具体的には、例えば加速器11からの出力が30MeVの陽子線でありターゲット8としてベリリウムターゲットを用いる場合には、減速材21の材料は鉛、鉄、アルミニウム又はフッ化カルシウムとすることができる。
【0025】
遮蔽体22は、減速材21を囲むように設けられており、中性子線N、及び中性子線Nの発生に伴って生じたガンマ線等の放射線が遮蔽体22の外部に放出されないように遮蔽する機能を有する。遮蔽体22は、荷電粒子線生成室14と照射室2とを隔てる壁W1に少なくともその一部が埋め込まれていてもよく、埋め込まれていなくてもよい。また、照射室2と遮蔽体22との間には、照射室2の側壁面の一部を成す壁体23が設けられている。壁体23には、中性子線Nの出力口となるコリメータ取付部23aが設けられている。このコリメータ取付部23aには、中性子線Nの照射野を規定するためのコリメータ31が固定されている。コリメータ31は、患者Sの腫瘍T(被照射体)の形状に合わせて中性子線Nの照射野を規定する。なお、コリメータ取付部23aを壁体23に設けずに、後述する治療台3にコリメータ31を取り付けてもよい。
【0026】
以上の中性子線照射部20では、荷電粒子線Lがターゲット8に照射され、これに伴いターゲット8が中性子線Nを発生させる。ターゲット8によって発生した中性子線Nは、減速材21内を通過している際に減速され、減速材21から出射された中性子線Nは、コリメータ31を通過して治療台3に載置されている患者Sに対して照射される。ここで、中性子線Nとしては、比較的エネルギーが低い熱中性子線又は熱外中性子線を用いることができる。
【0027】
治療台3は、中性子捕捉療法で患者が載置される載置台として機能し、患者Sを載置したまま準備室(不図示)から照射室2へ移動可能となっている。治療台3は、治療台3の土台を構成する土台部32と、土台部32を床面上で移動可能とするキャスタ33と、患者Sを載置するための天板34と、天板34を土台部32に対して相対的に移動させるための駆動部35とを備えている。なお、キャスタ33を用いず、土台部32を床に固定しても良い。
【0028】
次に、図3を参照して、中性子捕捉療法システム1に用いられる中性子捕捉療法用のコリメータ31の構成について説明する。コリメータ31は、被照射体に照射される中性子線の照射野を規定する部材である。コリメータ31は、中性子線を遮蔽する材質で構成される中性子線遮蔽部材41と、中性子線遮蔽部材41の移動を規制する規制板42と、を備えている。なお、以降の説明においては、中性子線Nの照射軸CLが延びる方向を「第1の方向D1」とする。照射軸CLとは、中性子線Nの中心線であり、コリメータ取付部23aやコリメータ31の中心線にも該当する。また、中性子線Nが進行する方向を第1の方向における下流側とし、反対側を上流側とする。第1の方向D1と直交する方向を「第2の方向D2」とする。なお、第2の方向D2は、照射軸CLを中心線とした場合の径方向に該当する。照射軸CLに近づく方向を第2の方向D2における内周側とし、反対側を第2の方向D2における外周側とする。図3では、コリメータ31の断面に対する第2の方向D2のみが示されているが、第1の方向D1に直交する全方向が第2の方向D2に該当する。
【0029】
規制板42は、第1の方向D1における少なくとも下流側への中性子線遮蔽部材41の移動を規制する。すなわち、中性子線遮蔽部材41は、中性子線遮蔽部材41の第1の方向D1における少なくとも下流側の位置決めを行うための部材として機能する。規制板42は、第2の方向D2へ広がるように形成されている。また、規制板42は、第2の方向D2における位置に従い、第1の方向D1における位置が異なっている部分を有する立体形状をなしている。すなわち、規制板42のうち、第2の方向D2に広がり、且つ中性子線遮蔽部材41を規制している部分が、第1の方向D1における位置が一定となる平板のみによって構成されていない。規制板42のうち、第2の方向D2に広がり、且つ中性子線遮蔽部材41を規制している部分は、第1の方向D1における位置が、第2の方向に沿って段階的、又は連続的に変化している。規制板42の立体形状は、患者Sの患部の表面形状に対応して、任意の形状に設定される。これにより、患者Sの患部表面とコリメータ31との間の空間を少なくし、中性子線が漏れる量を低減することができる。規制板42は、例えば3Dプリンタ等を用いて製造される。規制板42の材質としては、中性子線Nに対する影響が小さいもの、すなわち中性子線Nに対する特性が中性子線遮蔽部材41に近いものが選択される。例えば、規制板42の材質として、ABS樹脂等のプラスチック樹脂を採用してよい。
【0030】
本実施形態では、規制板42のうち、第2の方向D2に広がり、且つ中性子線遮蔽部材41を規制している部分は、第1の方向D1における位置が、第2の方向に沿って連続的に変化している部分を有する。また、本実施形態では、コリメータ31は、内部に空間が形成された殻部材50を備えている。規制板42が殻部材50の壁部をなしている。
【0031】
具体的には、図3の照射軸CLよりも紙面上側領域では、規制板42は、第1の方向D1の下流側で中性子線遮蔽部材41の移動を規制する壁部43A,43Bを備えている。壁部43Aは、第2の方向D2における内周側から外周側へ向かうに従って、第1の方向D1における下流側に配置されるように湾曲している。壁部43Bは、壁部43Aの外周側の端部から第2の方向D2における外周側へ向かって平板状に広がっている。規制板42は、第1の方向D1の上流側で中性子線遮蔽部材41の移動を規制する壁部45A,45Bを備えている。壁部45Aは、第2の方向における内周側から外周側へ向かうに従って、第1の方向D1における下流側に配置されるように湾曲している。壁部45Bは、壁部45Aの外周側の端部から第2の方向における外周側へ向かって平板状に広がっている。壁部43Aの内周側の端部と壁部45Aの内周側の端部との間には、中性子線Nが通過する空間を形成するように、第1の方向D1へ平行に延びる壁部44Aが形成されている。壁部43Bの外周側の端部と壁部45Bの外周側の端部との間には、第1の方向D1へ平行に延びる壁部44Bが形成されている。
【0032】
図3の照射軸CLよりも紙面下側領域では、規制板42は、第1の方向D1の下流側で中性子線遮蔽部材41の移動を規制する壁部43C,43Dを備えている。壁部43Cは、第2の方向D2における内周側から外周側へ向かうに従って、第1の方向D1における下流側に配置されるように湾曲している。壁部43Dは、壁部43Cの外周側の端部から第2の方向D2における外周側へ向かって平板状に広がっている。規制板42は、第1の方向D1の上流側で中性子線遮蔽部材41の移動を規制する壁部45C,45Dを備えている。壁部45Cは、第2の方向における内周側から外周側へ向かうに従って、第1の方向D1における下流側に配置されるように湾曲している。壁部45Dは、壁部45Cの外周側の端部から第2の方向D2における外周側へ向かって平板状に広がっている。壁部43Cの内周側の端部と壁部45Cの内周側の端部との間には、中性子線Nが通過する空間を形成するように、第1の方向D1へ平行に延びる壁部44Cが形成されている。壁部43Dの外周側の端部と壁部45Dの外周側の端部との間には、第1の方向D1へ平行に延びる壁部44Dが形成されている。壁部43C,45Cの円弧の大きさは、壁部43A,45Aの円弧の大きさよりも小さい。従って、紙面上側領域と紙面下側領域とでは、殻部材50の断面形状が異なっている。殻部材50は、上述のように、場所によって異なる断面形状を有した状態で、照射軸CLを中心線とした略円環状の形状を有している。ただし、殻部材50(すなわち規制板42)の形状は特に限定されず、患者Sの姿勢及び形状に合わせて適宜変更可能である。
【0033】
中性子線遮蔽部材41は、殻部材50内に充填される。中性子線遮蔽部材41の材質として、ポリエチレンやフッ化リチウム等が採用される。中性子線遮蔽部材41は、流動性を有する部材であり、例えば粒状、液状、またはゲル状に構成されている。中性子線遮蔽部材41は、殻部材50に形成された投入口(不図示)から当該殻部材50の内部空間へ投入される。中性子線遮蔽部材41は、殻部材50の内部空間に隙間なく充填される。これにより、中性子線遮蔽部材41は、殻部材50の各壁部(規制板)の内面に当接し、各方向における移動が規制される。
【0034】
次に、本実施形態に係る中性子線Nのコリメータの設置方法について説明する。当該コリメータの設置方法は、中性子線を遮蔽する材質で構成される中性子線遮蔽部材41を準備する第1の工程と、中性子線遮蔽部材41の移動を規制する規制板42を準備する第2の工程と、規制板42で中性子線遮蔽部材41の移動を規制する第3の工程と、を備えている。
【0035】
第2の工程では、予め治療計画システムで、患者Sの姿勢や形状を考慮し、腫瘍Tに対する所望の中性子線Nの線量が得られるように、コリメータ31の形状を計画する。そして、治療計画システムは、当該コリメータ31の形状に対応する規制板42(ここでは殻部材50)の形状を演算する。また、第2の工程では、治療計画システムで演算された形状を得るためのプログラムに従って、3Dプリンタ等を用いて規制板42を形成する。このように規制板42を壁部として構成された殻部材50の内部空間に中性子線遮蔽部材41が充填される。また、第3の工程では、中性子線Nに対する腫瘍Tの上流側に中性子線遮蔽部材41及び規制板42を配置することで、第1の方向D1における下流側及び上流側への中性子線遮蔽部材41の移動を規制板42で規制する。規制板42は、第2の方向D2へ広がると共に、第2の方向D2における位置に従い、第1の方向D1における位置が異なっている部分(壁部43A,43C)を有する立体形状をなしている。
【0036】
次に、本実施形態に係るコリメータ31の作用・効果について説明する。
【0037】
本実施形態に係るコリメータ31は、第1の方向D1における一方側への中性子線遮蔽部材41の移動を規制する規制板42を備えている。この規制板42は、中性子線遮蔽部材41の移動を規制することで、当該中性子線遮蔽部材41の位置決めを行うことができる。このような規制板42は、第2の方向D2へ広がると共に、第2の方向D2における位置に従い、第1の方向D1における位置が異なっている部分を有する立体形状をなしている。すなわち、規制板42を、患者の姿勢や形状に合わせた立体形状とすることで、中性子線遮蔽部材41を患者に合わせた位置に配置することができる。このように、コリメータ31の形状を規制板42に対応した形状にすることができるため、予め計画した形状に対する再現性が良い。また、中性子線遮蔽部材41自体を患者に合わせた形状に加工するのではなく、規制板42を患者に合わせた形状とすることで、中性子線遮蔽部材41を他の患者にも再利用することが可能となる。更に、規制板42を形成することは、中性子線遮蔽部材41自体を加工する場合や、中性子線遮蔽部材41に駆動機構を設ける場合に比して、低いコストで行うことができる。以上により、コストを抑制しながら、再現性の良いコリメータ31を提供することができる。
【0038】
本実施形態に係るコリメータ31は、内部に空間が形成された殻部材50を更に備え、規制板42は、殻部材50の壁部をなしており、中性子線遮蔽部材41は、殻部材50の空間内に充填されていている。例えば、中性子線遮蔽部材がブロック体である場合(図5に示す形態)は、当該ブロック体の形状に合わせて規制板の形状を設定する必要が生じる。一方、殻部材50の内部に中性子線遮蔽部材41を充填する構成とすることで、規制板42の形状を設定する際に、中性子線遮蔽部材41の形状による制約を少なくすることができる。これにより、コリメータ31の形状を患者の姿勢や形状に対応させ易くなる。
【0039】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0040】
例えば、図4に示すコリメータ131を採用してよい。図4に示す規制板142は、第2の方向D2において、照射軸CLを中央位置とする外周側から内周側へ向かって第1の突出部161,162、第2の突出部163,164、及び第3の突出部166を有している。規制板142が殻部材150の壁部をなしている。第1の突出部161,162は、第1の方向D1における下流側へ突出し、第2の突出部163,164は、第1の方向D1における上流側へ突出し、第3の突出部166は、中央位置に配置されて、第1の方向D1における下流側へ突出している。これにより、第1の突出部161,162で照射野が規制された中性子線Nがコリメータの中央位置を通過する際に、第3の突出部166を通過させることで、中性子線Nの線量の平坦化を行うことができる。なお、第1の突出部161,162の内周側の角部には、患者Sの形状に合わせた傾斜壁部143A,143Bが形成されている。
【0041】
また、図5に示すコリメータ231を採用してもよい。規制板242のうち、第2の方向D2に広がり、且つ中性子線遮蔽部材241を規制している部分は、第1の方向D1における位置が、第2の方向に沿って段階的に変化している。規制板242は、第2の方向D2へ平板状に広がる壁部243と、第1の方向D1と平行に延びる壁部244と、を複数備えている。平板状に広がる壁部243は、照射軸CLから遠ざかるに従って、第1の方向D1における下流側に配置されている。
【0042】
具体的には、図5の照射軸CLよりも紙面上側領域では、照射軸CL側の内周側から外周側へ向かって、平板状に広がる壁部243A,243B,243C,243Dを備えている。このうち、壁部243A,243B,243Dが中性子線遮蔽部材241を規制する位置に配置される。壁部243Dは、コリメータ取付部23aを形成する壁体23の外面23bと当接する位置に配置される。壁部243Bは、壁部243Aよりも第1の方向D1における下流側に配置されている。壁部243Cは、壁部243Bよりも第1の方向D1における下流側に配置されている。壁部243Dは、壁部243Cよりも第1の方向D1における上流側に配置されている。壁部243Aの外周側の端部と壁部243Bの内周側の端部とは、第1の方向D1と平行に延びる壁部244Aで接続されている。壁部243Bの外周側の端部と壁部243Cの内周側の端部とは、第1の方向D1と平行に延びる壁部244Bで接続されている。壁部243Cの外周側の端部と壁部243Dの内周側の端部とは、第1の方向D1と平行に延びる壁部244Cで接続されている。なお、壁部243A内周側の端部には、中性子線Nが通過する空間を形成するように、第1の方向D1へ平行に延びる壁部244Fが形成されている。
【0043】
図5の照射軸CLよりも紙面下側領域では、照射軸CL側の内周側から外周側へ向かって、平板状に広がる壁部243E,243F,243Gを備えている。このうち、壁部243E,243Fが中性子線遮蔽部材241を規制する位置に配置される。壁部243Gは、コリメータ取付部23aを形成する壁体23の外面23bと当接する位置に配置される。壁部243Fは、壁部243Eよりも第1の方向D1における下流側に配置されている。壁部243Gは、壁部243Fよりも第1の方向D1における上流側に配置されている。壁部243Eの外周側の端部と壁部243Fの内周側の端部とは、第1の方向D1と平行に延びる壁部244Dで接続されている。壁部243Fの外周側の端部と壁部243Gの内周側の端部とは、第1の方向D1と平行に延びる壁部244Eで接続されている。壁部243Eの内周側の端部には、中性子線Nが通過する空間を形成するように、第1の方向D1へ平行に延びる壁部244Gが形成されている。
【0044】
中性子線遮蔽部材241は、複数のブロック体によって構成されており、各々のブロック体は規制板242と当接している。各々のブロック体は、互いに分離されており、独立して移動可能である。具体的に、中性子線遮蔽部材241は、壁部243A,243B,243C,243E,243Fと当接するブロック体241A,241B,241C,241E,241Fによって構成されている。すなわち、ブロック体241A,241B,241C,241E,241Fの第1の方向D1における位置は、規制板242の壁部243A,243B,243C,243E,243Fによって位置決めされる。なお、中性子線遮蔽部材241を構成する複数のブロック体は、第1の方向D1から見た時に、図6に示すように、同一の方向へ延びる長方形状をなしていてよい。当該ブロック体の形状に合わせて、規制板242の形状も設定される。
【0045】
例えば、中性子線遮蔽部材として流動性のある部材を用いる場合(図3に示す形態)、中性子線遮蔽部材を充填するために、規制板を壁部とした殻部材を構成する必要がある。一方、中性子線遮蔽部材241がブロック体であることにより、当該中性子線遮蔽部材241自体が形状保持性を有しているため、殻部材を形成する必要がなく、規制板242の構造を簡易なものとすることができる。例えば、図5に示す形態では、規制板242は、殻部材のように中性子線遮蔽部材を全方向から取り囲む必要はなく、第1の方向D1における下流側のみで、ブロック体と当接する構成でよい。
【0046】
また、図7に示すように、上述の実施形態や変形例のコリメータに加え、コリメータと同趣旨の構成によって、患者Sの姿勢を調整する姿勢調整部材300を設けてもよい。すなわち、姿勢調整部材300は、規制板を壁部とする殻部材310と、殻部材310に充填される中性子線遮蔽部材320を有していてよい。なお、コリメータは図3~6のいずれのコリメータを用いてもよいので、図7ではコリメータを省略している。
【0047】
また、本発明に係るコリメータが適用される中性子捕捉療法システムの構成は、上記に限定されず、種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
31,131,231…コリメータ、41,241…中性子線遮蔽部材、42,142,242…規制板、50,150…殻部材、241A,241B,241C,241E,241F…ブロック体、161,162…第1の突出部、163,164…第2の突出部、166…第3の突出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7