(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】積層チューブ
(51)【国際特許分類】
B32B 1/08 20060101AFI20220602BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
B32B1/08 B
F16L11/04
(21)【出願番号】P 2018160013
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】槻川原 遼
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-287164(JP,A)
【文献】特表2012-506807(JP,A)
【文献】特開2007-044915(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046444(WO,A1)
【文献】特開2016-048088(JP,A)
【文献】特開2017-186571(JP,A)
【文献】特開2017-177548(JP,A)
【文献】特表2003-525148(JP,A)
【文献】特開平07-096564(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0072322(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16L 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ弾性率が0.4GPa以下の熱可塑性樹脂で形成された内層と、
前記内層よりも外側に設けられ、前記内層よりも硬度が低い熱可塑性樹脂で形成された外層と、
前記内層と外層の間に設けられた中間層と
を有
し、
各層の厚さの比が、内層:中間層:外層=1:0.06~0.49:0.1~8.4である積層チューブ。
【請求項2】
前記内層はポリアミド12エラストマーで形成され、
前記外層はポリオレフィン系エラストマーで形成されている
請求項1に記載の積層チューブ。
【請求項3】
前記中間層は、極性基を有するポリオレフィン系接着性樹脂で形成されている請求項1又は2に記載の積層チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の樹脂層が積層された構造の積層チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの燃料輸送用のチューブには、2層又は3層構造の積層チューブが用いられている(特許文献1~3参照)。例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂又はフッ素樹脂からなる内層と、硬度90以下の軟質熱可塑性樹脂からなる外層の少なくとも2層が積層され、各層間が熱融着された積層チューブが記載されている。
【0003】
一方、特許文献2には、半芳香族ポリアミドを40質量%以上含む樹脂で最内層及び最外層を形成し、中間層を曲げ弾性率が800MPa以下の材料で形成した積層チューブが記載されている。また、特許文献3には、外層をポリオレフィン系熱可塑性エラストマー層、内層を半芳香族ポリアミド層とし、その間に変性プロピレン系重合体を含む接着剤層を設けた積層構造体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-151768号公報
【文献】国際公開第2016/152537号
【文献】特開2017-177548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献2,3に記載の積層チューブは、剛性が高い半芳香族ポリアミド樹脂で内層を形成しているため、屈曲時の反発が大きく、曲げながら組み付けるような用途には不向きである。一方、特許文献1に記載の積層チューブは、内層をポリアミド樹脂又はフッ素樹脂で形成しているため、半芳香族ポリアミド樹脂を用いた場合に比べて屈曲性は改善されるが、柔軟性は十分とはいえず、また、内層にフッ素系樹脂を用いた場合は製造コストが増加するという問題がある。積層チューブにおいて、柔軟性が不足すると、座屈が発生する虞があり、その他にも、省スペース化が困難、二次加工が必要となるといった問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、曲げやすく、かつ、座屈が発生しにくい積層チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る積層チューブは、曲げ弾性率が0.4GPa以下の熱可塑性樹脂で形成された内層と、前記内層よりも外側に設けられ、前記内層よりも硬度が低い熱可塑性樹脂で形成された外層と、前記内層と外層の間に設けられた中間層とを有し、各層の厚さの比は、内層:中間層:外層=1:0.06~0.49:0.1~8.4である。
本発明において、前記内層は例えばポリアミド12エラストマーで形成し、前記外層は例えばポリオレフィン系エラストマーで形成することができる。
前記中間層は、例えば極性基を有するポリオレフィン系接着性樹脂で形成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、屈曲性に優れ、製品への組み込み時や使用時に屈曲させても座屈が発生しにくい積層チューブを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態の積層チューブの構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】A及びBは本発明の実施例における柔軟性評価方法の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
図1は本実施形態の積層チューブの構造を模式的に示す断面図である。
図1に示すように本実施形態の積層チューブ10は、内層1と中間層2と外層3が積層された3層構造となっている。
【0011】
[内層1]
内層1は、曲げ弾性率が0.4GPa以下の熱可塑性樹脂により形成されている。曲げ弾性率が高い材料で内層1を形成すると、積層チューブ10の剛性が高くなり、曲げにくくなる。具体的には、内層1を形成する樹脂の曲げ弾性率が0.4GPaを超えると、積層チューブ10の屈曲性が低下する。そこで、本実施形態の積層チューブ10では、内層1を曲げ弾性率が0.4GPa以下の熱可塑性樹脂で形成することにより、チューブ全体の剛性を抑制し、屈曲性向上を図っている。
【0012】
内層1を形成する熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド12エラストマー、ポリウレタンエラストマーなどの各種エラストマーを用いることができる。また、これらの熱可塑性樹脂の中でも、柔軟性、屈曲性、透明性及び成形加工性に優れることから、ポリアミド12エラストマーが好ましい。ポリアミド12エラストマーで内層1を形成することにより、一般的なポリアミド樹脂を用いた従来の積層チューブに比べて、柔軟性を向上させ、座屈を発生しにくくすることができる。
【0013】
また、内層1を形成する熱可塑性樹脂には、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。内層1に含有される添加剤としては、例えば、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑材、着色剤、フィラー及び難燃剤などが挙げられる。
【0014】
[中間層2]
中間層2は内層1と外層3とを接着するための層であり、内層1及び外層3の両方に対して接着性に優れた樹脂により形成されている。中間層2を形成する樹脂は、内層1及び外層3を形成する樹脂に応じて、適宜選択することができるが、JIS K6854-3に準じる方法で測定した内層1及び外層3に対する接着強度が10N/cm以上となる樹脂を使用することが好ましい。これにより、層間剥離が発生しにくく、かつ、剥離が発生した場合でも進行しにくくすることができる。
【0015】
中間層2は、内層1や外層3を構成する様々な樹脂と化学的に結合する必要があるため、極性基を有する接着性樹脂で形成されていることが好ましく、比重、コスト及び成形加工性の観点から、特にポリオレフィン系接着性樹脂が好ましい。
【0016】
[外層3]
積層チューブ10を屈曲させると、曲げ半径の外側は曲率半径が大きくなるため、外側に位置する外層3には引張応力が働く。このとき、外層3を構成する材料の硬度が高いと、屈曲時の変形に外層3が追従できず、柔軟性が損なわれる。特に、外層3が内層1よりも硬度が高い材料で形成されていると、外層3の柔軟性がチューブ全体の柔軟性に影響するため、積層チューブ10の柔軟性が低下し、十分な屈曲性が得られない。
【0017】
そこで、本実施形態の積層チューブ10では、外層3は、内層1を形成している樹脂よりも硬度が低い熱可塑性樹脂で形成する。これにより、外層3が曲げ変形に追従しやすく、屈曲した際の反発力も小さくなるため、屈曲性に優れ、座屈が発生しにくい積層チューブ10が得られる。
【0018】
外層3を形成する熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド12エラストマー及びポリウレタンエラストマーなどの各種エラストマーを用いることができる。なお、外層3には、原則として内層1とは異なる種類の樹脂を使用する。また、前述した熱可塑性樹脂の中でも、柔軟性及び成形加工性に優れることから、ポリオレフィン系エラストマーが好ましい。
【0019】
外層3を形成する熱可塑性樹脂には、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。外層3に含有される添加剤としては、例えば、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑材、着色剤、フィラー及び難燃剤などが挙げられる。
【0020】
[各層の厚さ]
前述した内層1、中間層2及び外層3の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば内層1の厚さを1としたとき、外層3の厚さは0.1~8.4であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.3である。また、中間層2の厚さは0.06~0.49であることが好ましく、より好ましくは0.13~0.17である。内層1、中間層2及び外層3の厚さを前述した範囲にすることにより、積層チューブ10の柔軟性と屈曲性をバランス良く向上させることができる。
【0021】
また、例えば積層チューブ10の直径が20mm以下の場合、チューブ全体の厚さに対する比で、内層1:中間層2:外層3=0.2~0.8:0.001~0.2:0.2~0.8とすることが好ましい。これにより、積層チューブ10の柔軟性と屈曲性をバランス良く向上させることができる。
【0022】
[製造方法]
本実施形態の積層チューブ10は、例えば、内層1、中間層2及び外層3を形成する各樹脂をそれぞれ溶融し、共押出すること又は層毎に逐次積層することにより形成することができる。
【0023】
以上詳述したように、本実施形態の積層チューブは、内層を曲げ弾性率が0.4GPa以下の熱可塑性樹脂で形成しているため、屈曲性に優れる。また、本実施形態の積層チューブは、外層の硬度が低いため屈曲時の反発力を抑えることができると共に、内層は外層よりも硬度が高いため座屈の発生を防止することができる。その結果、本実施形態の積層チューブは、屈曲性に優れ、製品への組み込み時や使用時に屈曲させても座屈が発生しにくい。
【0024】
本実施形態の積層チューブは、配策の簡便性及び省スペース化の効果も期待できるため、産業用ロボットの配管に好適である。また、使用する際は、二次的な曲げ加工も必要ないため、加工コストを低減することもできる。
【0025】
なお、本実施形態では、3層構造の積層チューブを例に説明したが、本発明は
図1に示す構造に限定されるものではなく、少なくも内層、中間層及び外層を備えていればよく、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂層や繊維補強層などが設けられていてもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、
図1に示す構造の積層チューブを作製し、その性能を評価した。具体的には、内層、中間層及び外層を形成する各樹脂を、それぞれ別々の成型機で溶融させ、共押出法により各樹脂を吐出させて、外径5.9mm、内径4.3mmのチューブ状に成型した後、冷却して実施例及び比較例の積層チューブを得た。また、参考例として、外径5.9mm、内径4.3mmで、単層構造のチューブを作製し、同様の方法で性能を評価した。
【0027】
実施例及び比較例の各積層チューブ及び参考例の単層チューブの性能の評価は、以下に示す方法で行った。
【0028】
<剥離強度>
実施例及び比較例の積層チューブについて、内層及び外層と中間層の各樹脂間の剥離強度を測定した。測定に際し、内層、外層及び中間層を形成した各樹脂により、縦17cm、横17cm、厚さ0.5mmのシートを形成し、内層と中間層、外層と中間層をそれぞれ積層して加熱プレスで貼り合わせて、樹脂積層シートを作製した。樹脂積層シートの作製には、株式会社東洋精機製作所製 ミニテストプレス機を使用し、シートの末端から5cmは、測定時にチャックするため、予め接着しないようにした。
【0029】
この積層樹脂シートを、幅25cm、長さ17cmにカットし、評価用試料とした。測定は、JIS K6854に準拠した方法により、剥離速度を20mm/分として行った。その結果、剥離強度が10N/cm以上であったものを合格(○)、10N/cm未満であったものを不合格(×)とした。
【0030】
<曲げ荷重試験>
実施例及び比較例の積層チューブ及び参考例の単層チューブの柔軟性は、各チューブから長さ20cmの評価用試料を切り出し、曲げ荷重試験により評価した。試験は、直径が異なる3種類のポリ塩化ビニル製直管(直径125mm,83mm,54mm)を用いて、温度23℃、湿度50%の環境下で行った。
図2A,Bは曲げ荷重試験の概念図であり、
図2Aは荷重なしの状態、
図2Bは荷重ありの状態を示す。
【0031】
先ず、
図2Aに示すように、評価用試料20の一方の端部を治具(ポリ塩化ビニル製直管)21に固定した。その後、
図2Bに示すように、評価用試料20に荷重をかけ、デジタルバネ秤により円周の1/4まで沿わせるのに必要な荷重を測定した。測定は3回行い、その平均値を求めた。その結果、直径125mmの治具での曲げ荷重が0.8N以下、直径83mmの治具での曲げ荷重が1.2N以下、直径54mmの治具での曲げ荷重が1.5N以下であったものを合格(○)とし、いずれかが規定値を超えていたものは不合格(×)とした。
【0032】
<座屈>
実施例及び比較例の積層チューブ及び参考例の単層チューブを、直径44mmの円形状治具(ポリ塩化ビニル製直管)に円周の1/4まで沿わせ、パイプゲージで変形箇所の短径(最小外径寸法)を測定した。そして、変形箇所の短径がチューブ外径の70%以下であったものを「座屈あり(×)」とし、70%を超えていたものを「座屈なし(○)」とした。
【0033】
以上の結果を、下記表1及び表2にまとめて示す。なお、下記表1及び表2に示すポリオレフィン(PO)系エラストマーは住友化学株式会社製 エスポレックスWSB080A)であり、ポリオレフィン(PO)系接着性樹脂は三菱ケミカル株式会社製 モディックM512であり、ポリアミド(PA)12エラストマーは宇部興産株式会社製 UBESTA XPA9048HVであり、ポリアミド(PA)は宇部興産株式会社製 UBESTA3030Uであり、ポリスチレン(PS)系エラストマーは旭化成株式会社製 タフテックH1221である。また、下記表1及び表2に示す「層厚比」は、内層の厚さを1としたときの外層及び中間層の厚さである。
【0034】
【0035】
【0036】
上記表2に示すように、参考例であるNo.10の単層チューブは、座屈は発生しなかったが、曲げ荷重が高かった。一方、比較例であるNo.7~9の積層チューブは、中間層と内層及び外層の剥離強度は問題なかったが、No.7の積層チューブは、内層に用いた樹脂の曲げ弾性率が1.4GPaと本発明の範囲を大幅に超えていたため、柔軟性が損なわれて曲げ荷重が高くなり、座屈も発生した。
【0037】
No.8の積層チューブは、内層に用いた樹脂の硬度(40A)が外層に用いた樹脂の硬度(78A)よりも低かったため、座屈が生じた。No.9の積層チューブは、曲げ荷重が低く柔軟性は向上したが、内層に用いた樹脂の曲げ弾性率が0.5GPaと本発明の範囲を超えていたため、座屈が発生した。
【0038】
これに対して、上記表1に示すように、内層、中間層、外層の三層構造で、内層の曲げ弾性率が0.4GPa以下の熱可塑性樹脂で形成され、外層が内層よりも硬度が低い熱可塑性樹脂で形成されたNo.1~6の積層チューブは、座屈の発生がなく、柔軟性にも優れていた。以上の結果から、本発明によれば、曲げやすく、かつ、座屈が発生しにくい積層チューブが得られることが確認された。
【符号の説明】
【0039】
1 内層
2 中間層
3 外層
10 積層チューブ
20 評価用試料(チューブ)
21 治具(ポリ塩化ビニル製直管)