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特許7082944クロムベースのコーティング、クロムベースのコーティングを生成する方法およびコーティングされた物体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】クロムベースのコーティング、クロムベースのコーティングを生成する方法およびコーティングされた物体
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/50 20060101AFI20220602BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20220602BHJP
   C25D 3/56 20060101ALI20220602BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20220602BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20220602BHJP
   C25D 5/26 20060101ALN20220602BHJP
【FI】
C25D5/50
C25D7/00 A
C25D3/56 C
C23C28/00 B
B32B15/01 C
C25D5/26 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018511229
(86)(22)【出願日】2016-09-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 FI2016050625
(87)【国際公開番号】W WO2017042438
(87)【国際公開日】2017-03-16
【審査請求日】2019-08-20
(31)【優先権主張番号】PCT/FI2015/050587
(32)【優先日】2015-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】515191224
【氏名又は名称】サヴロック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202577
【弁理士】
【氏名又は名称】林 浩
(72)【発明者】
【氏名】ライサ ユッシ
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/111624(WO,A1)
【文献】特開2010-185116(JP,A)
【文献】特開昭50-066442(JP,A)
【文献】特開2016-216833(JP,A)
【文献】特表2017-508879(JP,A)
【文献】HUANG Ching An et al.,Hardness variation and corrosion behavior of as-plated and annealed Cr-Ni alloy deposits electroplated in a trivalent chromium-based bath,Surface & Coatings Technology,2009年09月15日,Vol.203 No.24,p.3686-3691
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00
C25D 5/00
C25D 7/00
C23C 28/00
B32B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価Cr浴から電気めっきすることによって物体上にクロムベースのコーティングを生成する方法であって、
ここで、前記クロムベースのコーティングは、クロム(Cr)、炭素(C)および鉄(Fe)を含み、
前記炭素(C)は、少なくとも部分的に、少なくとも1つの炭化クロム化合物の形態であり、
前記コーティングの硬度は、標準的なSFS-EN ISO 4516に従って測定して、ビッカース微小硬度スケールで少なくとも1,500HVであり、
a)物体上に三価Cr浴からCrの層を堆積させる工程であって、前記浴は、三価Crについての少なくとも1つの供給源、少なくとも20mg l-1のNiカチオン、Cについての少なくとも1つの供給源およびFeについての少なくとも1つの供給源を含み、それによりNi、CおよびFeがCr層に組み込まれ、コーティングのNi含有量が0.5~3wt.%になる、工程と、
b)前記物体を、400~1,200℃の温度にて少なくとも1回の加熱処理に供して、前記コーティングの機械的および物理的特性を改変する、工程と
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
Niについての少なくとも1つの供給源が、NiClまたは金属Niである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)が周囲雰囲気下で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングの間の電流密度が、10~50A dm-2、または15A dm-2である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)における前記少なくとも1回の加熱処理が、誘導加熱または炉加熱である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)における少なくとも1回の加熱処理が誘導加熱であり、前記物体が、前記加熱の終了後、0.1~60秒間、または0.5~10秒間、または0.8~1.5秒間、冷却液によって冷却される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、物理的気相成長法(PVD)、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)または電気めっきもしくは化学めっきなどの薄膜堆積によって、工程b)の後、最上層を堆積させるさらなる工程c)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、物理的気相成長法(PVD)、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)または電気めっきもしくは化学めっきなどの薄膜堆積によって、工程b)の前に最上層を堆積させるさらなる工程c)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程a)およびb)が、工程c)の前に少なくとも1回反復される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
工程a)、b)およびc)が、少なくとも1回反復される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項11】
コーティングされる前記物体が金属であり、前記方法が、工程a)の前に前記物体を浸炭するさらなる工程i)を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
Ni-Pの層が、工程a)の前に前記物体にコーティングされる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
コーティングされる前記物体が金属であり、前記物体の金属の硬化が、コーティングされる前記物体が加熱処理されるのと同時に実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムベースのコーティングおよびクロムベースのコーティングを生成する方法に関する。本発明はまた、クロムベースのコーティングでコーティングされた物体にも関する。
【背景技術】
【0002】
クロムコーティングは、その高い硬度値、魅力的な外観ならびに優れた耐摩耗性および耐食性のために異なる物品のための表面コーティングとして広範に使用されている。慣例的に、Cr堆積は六価Crイオンを含有する電解槽から電気めっきによってなされる。そのプロセスは毒性が高い性質がある。電気めっきにおいて六価Crを置き換えるための代替のコーティングおよびコーティングプロセスを開発する多くの試みがなされている。それらの代替のプロセスの中で、三価Cr電気めっきが、その低いコスト、環境に優しく毒性のない化学物質の使用による製造の利便性、および輝くCr堆積を生じる能力に起因して魅力的であるように見える。しかしながら、水性三価クロム溶液による、硬度が高く、耐食Cr堆積を得る工業規模のプロセスは、達成するのが依然として困難である。
【0003】
従来技術の多くのクロムめっきプロセスは、標準的なSFS-EN ISO 4516に従って測定して、1500HV以上のビッカース(Vickers)微小硬度値を有するコーティングを生成することができない。公知のクロムベースのコーティングのさらなる欠陥はそれらの不十分な耐摩耗性および耐食性である。クロムコーティング自体は非常にもろい特徴がある。クロムコーティングにおける亀裂および微小亀裂の数はコーティングの厚さと共に増加するので、コーティングの耐食性は損なわれる。
【0004】
無電解めっきまたは電気めっきのいずれかによるニッケルの堆積もまた、クロムを硬化する代替として提案されている。ニッケルめっきの欠点は、硬度、摩擦係数および耐摩耗性の欠乏を含む。ニッケルめっきおよびクロムは交換可能なコーティングではない。その2つは特有の堆積特性を有するので、各々はその異なる用途を有する。
【0005】
この問題に対する部分的解決策は、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4に提案されており、それらにおいてクロム含有コーティングが記載されている。
【0006】
さらに、非特許文献1において、Cr-Ni合金ベースのコーティングを生成する方法が開示されている。そのコーティングは、350℃超の温度で加熱処理される場合、不十分な耐食性を被る。したがって、連続的な2工程電気めっき法が推奨される。
【0007】
他方で、非特許文献2において、別のナノサイズ非晶質Crリッチおよび結晶質Niリッチ副層から構成されるCr-Ni多層は、Cr3+およびNi2+イオンを含有するめっき浴においてパルス電流電気めっきによって首尾良く調製された。非特許文献1および非特許文献2において、電気めっき浴におけるニッケル濃度はそれぞれ0.2Mおよび0.4Mであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/107256 A1号
【文献】国際公開第2015/107255 A1号
【文献】国際公開第2014/111624 A1号
【文献】国際公開第2014/111616 A1号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Huang et al 2009 (Hardness variation and corrosion behavior of as-plated and annealed Cr-Ni alloy deposits electroplated in a trivalent chromium-based bath, Surface & Coatings Technology 203: 3686)
【文献】Huang et al. 2014 (Microstructure analysis of a Cr-Ni multilayer pulse-electroplated in a bath containing trivalent chromium and divalent nickel ions, Surface & Coatings Technology 255: 153)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、新たな種類のクロムベースのコーティングおよびクロムベースのコーティングを生成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示によるクロムベースのコーティングは請求項1において提示されるものを特徴とする。
【0012】
本開示によるクロムベースのコーティングを生成する方法は請求項11において提示されるものを特徴とする。
【0013】
本開示によるコーティングされた物体は請求項24において提示されるものを特徴とする。
【0014】
本開示のさらなる理解を提供し、本明細書の一部を構成するために含まれる添付の図面は、本発明の原理を説明するために役立つ説明と共に本発明の実施形態を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示による方法の実施形態のフローチャートである。
図2】本開示によるコーティングの実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一態様において、クロム(Cr)、炭素(C)および鉄(Fe)を含み、Crが三価Cr槽から電気めっきされる、クロムベースのコーティングが開示される。コーティングは、そのコーティングが、少なくとも20mg l-1のNiカチオンを含有するCr槽から電気めっきされるニッケル(Ni)をさらに含むこと、Cは、少なくとも部分的に、少なくとも1つの炭化クロム化合物の形態であること、コーティングは400~1,200℃の温度、または400~650℃の温度、または650~820℃の温度、または820~1,200℃の温度にて加熱処理されること、およびコーティングの硬度は、標準的なSFS-EN ISO 4516に従って測定して、ビッカース(Vickers)微小硬度スケールで少なくとも1,500HVであることを特徴とする。標準は、金属コーティングを含む、無機コーティングの微小押込試験に基づく。加熱処理の温度は、例えば650~1,200℃であってもよい。あるいは、加熱処理の温度は700~800℃であってもよい。加熱処理の温度は650~820℃であってもよい。830~900℃の温度において加熱処理を実施することも可能である。このように400~1,200℃の温度範囲内で、種々の代替が存在する。400~650℃の温度がいくつかの状況において使用されてもよい。あるいは、650~800℃の温度が使用されてもよい。また、800~1,200℃の温度が使用されてもよい。
【0017】
加熱処理とは、本明細書において、他に述べられない限り、コーティングの温度が少なくとも瞬時に所与の温度に達する処理を意味する。本開示によるコーティングは典型的に90~95wt%のCrを含む。コーティングのFe含有量は典型的に5~8wt%である。Ni含有量は典型的に0.5~3wt%である。コーティング組成は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)によって分析することができる。コーティングはさらにCを含むが、その量はEDS測定により測定可能ではない。炭素は少なくとも1種の炭化物として存在する。製造方法に起因して、コーティングは典型的に、Cr、Ni、FeおよびCに加えてさらなる元素を含有する。例えば、銅(Cu)および亜鉛(Zn)が存在してもよい。それらは、純元素として存在してもよいか、または種々の化合物もしくはCr、Ni、FeおよびCとの混合物中にもしくは互いに存在してもよい。
【0018】
本開示において、他に述べられない限り、電気めっき、電解めっきおよび電着は同義語として理解される。物体に層を堆積させるとは、本明細書において、コーティングされる物体に直接層を堆積させること、または物体上に堆積されている以前の層に層を堆積させることを意味する。本開示において、Crは三価Cr槽から電気めっきすることによって堆積される。これに関して、「三価クロム槽から電気めっきする」という用語は、クロムベースの層が、クロムが実質的に三価形態でのみ存在する電解槽から堆積される、プロセスステップを定義するために使用される。
【0019】
現在のコーティングのためのNi源はCr槽である。その槽は少なくとも20mg l-1のNiカチオンを含有する。そのカチオンはNi2+カチオンまたはNi4+カチオンであってもよい。Ni2+カチオンおよびNi4+カチオンの両方はコーティングにおけるNi源であることが可能である。一実施形態において、Cr槽は20~150mg l-1のNiカチオンを含有する。一実施形態において、Cr槽は20~80mg l-1のNiカチオンを含有する。さらに、その槽は少なくとも50mg l-1のNiカチオンを含有することが可能である。例えば、その槽は50~100mg l-1のNiカチオンを含有してもよい。
【0020】
Cr含有層の厚さは用途に応じて広範に変化させてもよい。装飾的なコーティング用途に関して、より厚い層が、耐食性または耐摩耗性コーティング用途についてよりも必要となる。コーティングの厚さは、それが含む層の数および厚さに応じる。コーティングの厚さは0.05~200μmの間で変化させてもよい。コーティングの厚さは、例えば0.5~100μmであってもよい。あるいは、コーティングの厚さは0.3~5μmであってもよい。
【0021】
コーティングおよびその任意の構成層と共に厚さおよび組成の両方がコーティングの特性を決定する。典型的に本開示によるコーティングは硬質である。それらは従来の硬質クロムコーティングと置き換えるために使用され得る。
【0022】
一実施形態において、コーティングの硬度は少なくとも1,500HV0.05である。コーティングの硬度が少なくとも2,000HVである実施形態が想定される。
【0023】
一実施形態において、少なくとも1つの炭化クロム化合物は、Cr、CrもしくはCr23またはそれらの組み合わせを含む。炭化クロムという用語は、本明細書において、炭化クロムの全ての化学組成、例えばCr、CrおよびCr23などを含むと理解される。異なる炭化クロム化合物間の量および割合は変化させてもよい。炭化クロムは有益にはコーティングの硬度を改善する。
【0024】
一実施形態において、NiおよびCrの少なくとも一部は互いに溶解する。NiおよびCrは異なる濃度で互いに溶解可能である。つまり、金属は互いに完全に溶解し得る。あるいは金属は互いに部分的にのみ溶解し得る。相互溶解は本開示によるコーティングの加熱処理の間に行われ得る。2種の金属が少なくとも部分的に互いに溶解する場合、NiはXRDスペクトル測定において必ずしも検出可能ではない。
【0025】
コーティングは1つ以上の酸化クロムを含むことが可能である。本開示を任意の特定の理論に限定するものではないが、酸化クロム(複数も含む)は加熱処理の間に形成され得る。コーティングに存在し得る酸化クロムの例は、CrO、CrO、Crまたはそれらの組み合わせである。
【0026】
コーティングは窒化クロム(CrN)を含むことがさらに可能である。本開示を任意の特定の理論に限定するものではないが、窒化クロムは加熱処理の間に形成され得る。
【0027】
酸化クロムおよび窒化クロムの両方は本開示によればコーティングの特性に影響を及ぼし得る。
【0028】
コーティングの磨損は、例えばテーバー(Taber)摩耗試験によって測定することができる。その結果はテーバー摩耗指数として表され、より小さい値はより大きい摩耗抵抗を示す。硬質クロムコーティングの典型的な値は、試験が標準的なISO9352に従って行われた場合、2~5の範囲である。TABER 5135摩耗試験機により試験を実施し、車輪の種類はCS10であり、回転速度72rpm、荷重1,000gおよびサイクルの総数6,000であった。摩耗は、物体の開始重量、1,000サイクル毎の後の中間重量および試験を終えた後の物体の終了重量を測定することによって決定した。本開示によるコーティングは、同じ試験条件下で2以下のテーバー摩耗指数によって示される優れた摩耗抵抗を有する。一実施形態において、ISO 9352に従ってテーバー摩耗試験によって測定したコーティングのテーバー摩耗指数は、2未満、または1未満である。
【0029】
一実施形態において、コーティングは異なる元素組成を有する少なくとも2つの層を形成する。つまり、本開示によるコーティングはコーティングの他の層との組み合わせとして使用され得る。コーティングの他の層は、金属およびそれらの合金から選択され得るか、またはコーティングのために使用される他の物質から選択され得る異なる材料を含んでもよい。本明細書において層とは、コーティングの表面と実質的に平行であり、電子顕微鏡写真(透過型電子顕微鏡写真(TEM)または走査型電子顕微鏡写真(SEM)など)、光学マイクロ写真において、またはエネルギー分散型X線分光法(EDS)によって識別できる、コーティングのセグメント(部分、区分)を意味する。層の可視性は、分析されるコーティングの断面化の間、エッチングまたはイオンエッチングなどの方法を使用することによって改良され得る。層の間の境界は十分に規定されることを必要としない。対照的に、加熱処理の間、層の境界はある程度混合する。本開示による発明を任意の特定の理論に限定するものではないが、加熱処理の間に層成分のいくらかの量の移動または拡散があり得る。成分が移動または拡散し得る程度は、例えば、加熱処理の継続時間および層成分の強度に依存する。
【0030】
一実施形態において、基材とクロムベースのコーティングとの間に混合層が存在し、前記混合層は、基材材料およびコーティング成分の両方を含み、コーティングされた基材の加熱処理によって生成される。
【0031】
本明細書において混合層とは、隣接する層といくつかの特性を共有するが、それらは識別可能なままである層を意味する。混合層は基材とクロムベースのコーティングとの間に位置し得る。コーティングが1つより多い層を含む場合、混合層はさらにまたは代替としてコーティングの2つの層の間に位置し得る。本開示によるコーティングが中間層を含む場合、混合層はさらにまたは代替として中間層とコーティング層との間に位置し得る。
【0032】
コーティングが異なる元素組成を有する少なくとも2つの層を形成する場合、混合層は異なる元素組成を有する任意の2つの層の間に存在し得る。
【0033】
混合層は多相層であってもよい。例えば、多相層である混合層は本開示によるNi-CrおよびCrベースのコーティングを含んでもよい。多相層は本開示によるFe-CrおよびCrベースのコーティングを含んでもよい。多相層は本開示によるX-CrおよびCrベースのコーティングを含んでもよい。Xは、本開示によるCrベースのコーティングが混合され得る任意の元素または化合物を示す。
【0034】
本明細書において相とは、物質の物理的特性が一定である領域を意味する。1つの層は単一の相を含んでもよいか、またはそれは1つより多い相を含んでもよく、その各々は1種以上の元素、物質または化合物から形成されてもよい。層は、1種より多い元素、物質または化合物を含んでもよく、それらの各々の場合、1つ以上の相を独立して含んでもよい。1種以上の元素、物質または化合物を表す、1つの層に2つ以上の相が存在する各場合、層は多相層と呼ばれる。
【0035】
本開示によるコーティングが1つより多い層を含む場合、コーティングの2つの層の間に中間層が存在してもよい。例えば、中間層は銅または銅の合金を含有してもよい。例えば、中間層はモリブデンまたはモリブデンの合金を含んでもよい。中間層は、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物、金属シリサイドおよびそれらの混合物を含む群から選択される無機非金属固体を含んでもよい。
【0036】
さらに、2つの隣接する層の間の接着が増強されてもよい。例えば、ストライク層が層の間に配置されてもよい。ストライク層は中間層の1つの可能な代替である。ストライク層は、スルファミン酸ニッケル、光沢ニッケル、例えばWattsニッケルまたはWoodsニッケル、チタン、または任意の他の適切な材料を含んでもよい。最初に基材上にコーティングされる層の表面構造は、例えばエッチングにより改変されてもよい。第1の層の表面は、ストライク層を堆積させる前に、強酸、好ましくは30%(w/w)の塩酸により処理されてもよい。
【0037】
一実施形態において、コーティングは基材上に直接コーティングされる。基材とは、本明細書において、本開示によるコーティングが上にコーティングされる任意の表面を意味する。一般に、本開示によるコーティングは様々な基材上に使用され得る。したがって、多くの用途において、コーティング前に基材上に下層またはストライク層を提供する必要はない。基材は金属または金属合金から作製され得る。例えば、基材は、鋼、銅またはニッケルであってもよい。基材はセラミック材料から作製されてもよい。基材は均質な材料である必要はない。つまり、基材は不均質な材料であってもよい。基材は層状であってもよい。例えば、基材は、ニッケルリン合金(Ni-P)の層によってコーティングされた鋼物体であってもよい。Ni-P層の厚さは、例えば1~5μmであってもよい。Ni-P層によりコーティングされた基材は、Ni-Pの拡散および基材材料とのその混合を増強するように炉において(300~500℃の温度にて)前処理されてもよい。そのような基材は、例えば、500、600または850℃のより高い温度にて後で加熱処理されてもよい。一実施形態において、クロムベースのコーティングはNi-Pの層の上にコーティングされる。
【0038】
基材は、本開示によるコーティング下でNiストライク層を含むことが可能である。
【0039】
一実施形態において、コーティングは最上層をさらに含む。物理的気相成長法(PVD)、化学蒸着(CVD)または原子層堆積(ALD)などの薄膜堆積が最上層を生成するために使用されてもよい。最上層とは、本明細書において、コーティングされた物体の外面に配置される層を意味する。コーティングされた物体上の最上層の提供は、コーティングされた物体の色を調整するためまたはコーティングされた物体の摩擦抵抗および/もしくは摩耗抵抗を変化させるために使用され得る。最上層は、金属、金属合金、セラミックまたはダイヤモンド状炭素を含んでもよい。
【0040】
一態様において、三価Cr槽から電気めっきすることによって物体上に本開示によるクロムベースのコーティングを生成する方法が開示される。その方法は、
a)物体上に三価Cr槽からCrの層を堆積させる工程であって、その槽は、三価Crについての少なくとも1つの供給源、少なくとも20mg l-1のNiカチオン、Cについての少なくとも1つの供給源およびFeについての少なくとも1つの供給源を含み、それによりNi、CおよびFeがCr層に組み込まれる、工程と、
b)コーティングされた物体を、400~1,200℃の温度、または400~650℃の温度、または650~820℃の温度、または820~1,200℃の温度にて少なくとも1回の加熱処理に供して、コーティングの機械的および物理的特性を改変する工程と
を含むことを特徴とする。加熱処理の温度は例えば650~1,200℃であってもよい。あるいは、加熱処理の温度は700~800℃であってもよい。加熱処理の温度は650~800℃であってもよい。830~900℃の温度で加熱処理を実施することも可能である。このように400~1,200℃の温度範囲内で様々な代替が存在する。400~650℃の温度がいくつかの状況において使用されてもよい。あるいは650~800℃の温度が使用されてもよい。800~1,200℃の温度も使用されてもよい。
【0041】
方法の工程a)において、Cr層はコーティング可能な物体上に堆積される。Cr堆積の間、NiおよびFeは槽から共堆積される。Cもまた、堆積層に含まれる。Cr電気めっき工程は任意の市販のCr(III)槽を使用して実施され得る。三価クロムコーティング工程において使用されている電解質溶液の一例は、商標名Trichrome Plus(登録商標)としてAtotech Deutschland GmbHにより販売されているものである。一実施形態において、Niについての少なくとも1つの供給源はNiClまたは金属Niである。Cr槽におけるNiカチオンの濃度は、例えば20~150mg l-1であってもよい。Cr槽におけるNiカチオンの濃度は、例えば20~80mg l-1であってもよい。さらに、Cr槽におけるNiカチオンの濃度は少なくとも50mg l-1であってもよいことが可能である。例えば、その槽は50~100mg l-1のNiカチオンを含有してもよい。
【0042】
その槽におけるNi濃度の測定は当該分野において公知の方法により実施される。例えば、原子吸光分光法(AAS)が使用されてもよい。その方法は、分析を実施するための槽溶液の広範な希釈を必要とする。典型的に25の希釈係数が使用される。したがって、測定値はいくらかのmg l-1の範囲の不正確さを有する傾向がる。
【0043】
電気めっきの間の電流密度は、異なるイオンの相対コーティング効率が電流密度に応じて変化するので、正確なコーティング組成に影響を与え得る。一実施形態において、コーティングの間の電流密度は10~50A dm-2または15A dm-2である。このように15A dm-2の電流密度を使用することが可能である。また、20または40A dm-2などの電流密度も適切である。
【0044】
方法の工程b)において、コーティングされた物体は、コーティングの機械的および物理的特性を改変するために加熱処理に供される。
【0045】
さらに、コーティングされる物体の材料(すなわち基材材料)に依存して、物体特性も改変され得る。例えば、コーティングされる物体が鋼であり、加熱処理が適切な温度で実施される場合、鋼は工程b)において硬化され得る。このような加熱処理は、例えば700℃または800℃の温度で実施され得る。
【0046】
硬化は、金属の硬度を増加させるために使用される冶金プロセスである。一例として、鋼は、フェライトおよびパーライトの形成を防ぎ、マルテンサイトの形成を生じる速度で臨界温度範囲超から冷却することによって硬化され得る(クエンチング)。硬化は、物品の組成およびサイズならびに鋼の焼入性に応じて、水、油または空気中での冷却を含み得る。金属物体の硬化がコーティングされた物体の加熱処理と関連して実施される場合、後の第2の加熱処理において物体をアニーリングまたは焼き戻しに供することが可能であり、それはクエンチングの後に実施される。また、金属物体がコーティング前に最初に硬化されているとしても、既に硬化された金属物体を、コーティングされた物体の加熱処理の間にさらなる硬化に供することも可能である。
【0047】
この方法は、特に、コーティングされた物体の機械的および物理的特性の改変を目的とする、さらなる加熱処理を含んでもよい。
【0048】
工程b)において、例えばコーティング構成物質の結晶形態が形成されてもよい。加熱処理の長さおよび温度に応じて、拡散がコーティングと基材との間に行われることも可能である。これにより混合層の形成がもたらされ得る。しかしながら、拡散は混合層が形成されないように制限されることが可能である。加熱処理後、2つの層の間またはコーティングと基材との間の境界は典型的に明確ではないが、いくらかの量の拡散が行われてもよい。
【0049】
本開示による方法は1回より多い加熱処理を含んでもよい。この方法は、例えば、2回の加熱処理を含んでもよい。この方法は、例えば、3回の加熱処理を含んでもよい。この方法は、3回より多い加熱処理を含んでもよい。加熱処理は同一である必要はない。加熱処理の長さは、5~60分、例えば15~60分であってもよい。コーティングされた物体は少なくとも1回の加熱処理の後、冷却されてもよい。水または空気が冷却のために使用されてもよい。
【0050】
加熱処理は、例えば、周囲のガス雰囲気下または保護ガス雰囲気下で従来のガス炉において実施されてもよい。一実施形態において、工程b)は周囲雰囲気下で実施される。このような加熱処理の長さは、例えば30分であってもよい。
【0051】
加熱処理は、誘導、炎熱処理、レーザー加熱または塩浴加熱処理によって実施されてもよい。誘導加熱、炎熱加熱、レーザー加熱および塩浴加熱処理に関して、加熱処理の継続時間は典型的に炉加熱の継続時間よりも短い。したがって加熱処理の長さは、数秒、例えば0.5~30秒、例えば10秒であってもよい。
【0052】
一実施形態において、工程b)における少なくとも1回の加熱処理は、誘導加熱または炉加熱である。誘導加熱は、強力で、局部的で制御可能な熱を素早く発生する非接触プロセスである。誘導により、コーティングされた金属基材の唯一の選択された部分を加熱することが可能である。炎熱とは、熱が、物体を融解しないか、または材料を除去せずにガスの炎によって物体に移動するプロセスを指す。レーザー加熱により、影響を受けない所与の成分のバルクの特性を残しながら、材料の表面において局所変化が生じる。レーザーによる加熱処理は固体状態変換を含むので、金属の表面は融解されない。コーティングされた物品の機械的および化学的特性の両方は、多くの場合、加熱および冷却サイクルの間に生じる冶金反応により大いに増強し得る。
【0053】
一実施形態において、コーティングされる物体は金属であり、物体の金属の硬化は、コーティングされる物体が加熱処理されるのと同時に実施される。物体の同時加熱処理および硬化に関して、特に誘導加熱が適している。なぜなら、それは均質であり、金属物体の硬化が、表面の下、数ミリメートルの範囲で表面付近においてのみ達成され得るからである。
【0054】
一実施形態において、工程b)における少なくとも1回の加熱処理は誘導加熱であり、物体は、加熱の終了後、0.1~60秒間、または0.5~10秒間、または0.8~1.5秒間、冷却液によって冷却される。このように物体は0.1~60秒間冷却されてもよい。物体は0.5~10秒間冷却されてもよい。物体は0.8~1.5秒間冷却されてもよい。誘導加熱およびその後の冷却を実施する1つの手段は、物体を、冷却液の固定ジェットから予め決定された距離に配置される固定誘導コイルによる処理を通すことである。物体が誘導コイルを出て行った後、それは冷却液のジェットに移動する。あるいは処理される物体は固定され得、誘導コイルおよび冷却流は移動する。したがって、加熱の終わりと液体冷却の開始との間の時間のずれが、処理される物体の相対速度ならびに加熱および冷却手段によって制御され得る。例えば、工程c)の加熱処理は誘導加熱であってもよく、加熱コイルと冷却ジェットとの間の距離は25mmであり、加熱される物体に対する誘導コイルおよび冷却液体ジェットの速度は、500~3,000mm min-1、好ましくは1,500mm min-1である。冷却液は、例えば、水または適切なエマルションであってもよい。
【0055】
本開示による方法は中間層を堆積させる工程を含んでもよい。中間層は金属または金属合金またはセラミックを含んでもよい。本開示による方法は、本開示によるクロムベースのコーティングの2つの層の間に中間ニッケル層を電気めっきする工程を含んでもよい。コーティングが異なる元素組成を有する1つより多い層を含む場合、中間層はこれらの層のいずれかの間に配置されてもよい。
【0056】
この方法の一実施形態において、Ni-Pの層は工程a)の前に物体にコーティングされる。
【0057】
一実施形態において、この方法は、物理的気相成長法(PVD)、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)などの薄膜蒸着または電気めっきもしくは化学めっきによって工程b)の後に最上層を堆積させるさらなる工程c)を含む。最上層を生成する方法は十分に確立され、適切なものの選択およびそのパラメーターの調整は当業者の見識の範囲内である。最上層は、コーティングされた表面を所望の特性にすることができる任意の適切な材料から作製されてもよい。適切な材料は、例えば、金属、金属合金、セラミック、窒化物(TiN、CrN)およびダイヤモンド状炭素(DLC)を含む。Ni-Pは最上層として堆積され得る。ニッケル-リン酸化合物は着色または他の修飾のためにそれ自体で役立つ。一例として、浸漬プロセス後の酸は、より暗い色、極端な場合、黒色であってもよい表面を生成するように使用されてもよい。黒色のNiPコーティングを生成するためのプロセスは当該分野において公知である。
【0058】
大部分の用途において、コーティングされた物体は最初に加熱処理され、次いで最上層が堆積される。
【0059】
一実施形態において、この方法は、物理的気相成長法(PVD)、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)または電気めっきもしくは化学めっきなどの薄膜蒸着によって工程b)の前に最上層を堆積させる、さらなる工程c)を含む。つまり、加熱処理前にコーティングされた物体上に薄膜堆積最上層を生成することが可能となる。また、工程c)はそれ自体で加熱処理を含むことも可能である。この場合、加熱処理は最上層の完了のために最適化され、したがってそのパラメーターは、現在の方法の工程b)における加熱処理のものと異なってもよい。最上層を仕上げるための加熱処理パラメーターの選択は当業者の見識の範囲内である。
【0060】
一実施形態において、工程a)およびb)は工程c)の前に少なくとも1回反復される。つまり、電気めっき工程a)および加熱処理b)は、最上層を堆積させる前に1回以上反復されてもよい。一実施形態において、工程a)、b)およびc)は少なくとも1回反復される。
【0061】
一実施形態において、コーティングされる物体は金属であり、この方法は、工程a)の前に物体を浸炭するさらなる工程i)を含む。鋼基材の炭素含有量は浸炭により増加する。
【0062】
本開示による方法はさらなるプロセス工程を含んでもよい。それらは例えば前処理工程であってもよい。その一例は、コーティングされる表面から油および汚れを除去するための化学および/または電解脱脂である。別の例は、実際のコーティングおよびめっき工程前に表面を活性化するための酸洗いである。また、さらなる保護層が使用されてもよい。一例として、銅または亜鉛を含むコーティングが一時的な保護層として使用されてもよい。そのようなコーティングは、本開示によるコーティングを露出させるために、例えば、適切な溶液(例えば酸)による溶解または粉砕によって除去されてもよい。これらの前処理および処理後工程は当業者の見識に属し、意図される用途に従って選択されてもよい。
【0063】
一態様において、コーティングされた物体が開示される。コーティングされた物体は、それが、本開示によるコーティングを含むか、または本開示による方法によって生成されたコーティングを含むことを特徴とする。例えば、コーティングされた物体は、ガスタービン、ショックアブソーバ、油圧シリンダ、連結ピン、ボールバルブまたはエンジンバルブであってもよい。コーティングされる物体は、高い硬度および耐食性を必要とする機能のために使用される、セラミック、金属または金属合金材料などの任意の材料であってもよい。本開示によるコーティング物体が使用され得る多くの用途が存在する。
【0064】
本明細書上記の本発明の実施形態は互いに任意の組み合わせで使用されてもよい。実施形態のいくつかは、本発明のさらなる実施形態を形成するように一緒に組み合わされてもよい。本発明が関連する方法、コーティングまたは物体は、本明細書上記の本発明の実施形態のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0065】
本開示による方法およびコーティングは従来技術よりも以下の利点のうちの少なくとも1つを提供する:
- 本開示によるコーティングの利点は、多くの異なる種類の基材上にコーティングされ得ることである。コーティングは基材上に直接電気めっきされてもよい。
- 本開示によるコーティングの利点は、高い硬度および十分な耐摩耗性を有することである。コーティングの耐食性は従来技術の解決策よりも改良され得る。硫酸に対するコーティングの耐性は従来技術の解決策よりも改良され得る。
- 本開示によるコーティングのさらなる利点は、Ni含有Crベースのコーティングが、基材を硬化するのに十分に高い温度にて硬化され得ることである。
【実施例
【0066】
以下の説明は、当業者が本開示に基づいて本発明を利用できるように詳細に本発明のいくつかの実施形態を開示する。工程の多くは本開示に基づいて当業者に明白であるので、実施形態の全ての工程が詳細に説明されているわけではない。
【0067】
図1
図1は、本発明の実施形態のフローチャート図である。方法の工程a)において、Crベースの層が基材上に堆積される。Crは、少なくとも20mg l-1のNiカチオンを含有する三価Crの槽から堆積される。槽におけるNiおよびFeの存在により、Crベース層へのそれらの共堆積がもたらされる。Cもまた、コーティングに含まれる。方法の工程b)において、コーティング物体は400~1,200℃の温度にて少なくとも1回の加熱処理に供される。加熱処理の結果として、コーティングの機械的および物理的特性が改変され、標準的なSFS-EN ISO 4516に従って測定して、少なくとも1,500HVのビッカース微小硬度値を有する硬質コーティングの形成がもたらされる。加熱処理の仕様に応じて、基材の機械的および物理的特性が所定の深さまで影響を受けることも起こり得る。基材が鋼である場合、基材は典型的に硬化する。
【0068】
図2
図2は、本開示によるコーティングの構造の概略図である。コーティング層Cは薄灰色で示される。その図におけるコーティング層Cの表面は図2の上部にある。基材Sは図の底部において黒色で示される。コーティング層Cと基材との間に、混合層Mが見える。コーティング層Cは本開示によるコーティングを意味する。混合層Mはコーティング層Cとほぼ等しい厚さであるように示される。しかしながら、ほとんどの用途において、混合層Mはコーティング層Cより薄い。例えば、コーティング層Cは7μm厚であってもよく、混合層Mは1μm厚であってもよい。
【0069】
実施例1
三価クロム含有槽を当該分野において知られているように調製した。例えば、20~23g l-1の三価クロムイオンおよび60~65g l-1のホウ酸を含む電解質溶液(商標名Trichrome Plus(登録商標)としてAtotech Deutschland GmbHにより販売されている)を使用することができる。NiClを電解質溶液に加えて、50mg l-1(約0.85mM)のNi2+濃度を達成した。槽を通常の開始めっきに供し、その後、使用できる状態になった。
【0070】
クロムコーティングを、2:1のアノード/カソード表面比で30分間、2.6のpHにて15A dm-2の電流密度にて基材上にコーティングした(方法の工程a))。2つのアノードを使用し、各々はその独自の電源を有した。これは、コーティングされる物体上の電流密度の均一な分布を確実にするためであった。
【0071】
次いで基材をリンスし、700℃にて30分間加熱処理した(方法の工程b))。コーティング厚は約15~20μmであり、硬度は1,500~1,700HV0.05であった。コーティングは、EDS測定により測定して約1%(w/w)のNiを含んだ。コーティングの均一性を確実にするために空気および液体運動の均一性、ならびにそれらの効率に対して注意を払った。
【0072】
実施例1の方法の変形において、基材を工程bにおいて400℃の温度にて30分間加熱処理した。実施例1の別の変形において、工程bの加熱処理を840℃の温度にて30分間実施した。
【0073】
実施例2
鋼物体を、本開示によるコーティングを電気めっきする前に浸炭した。物体の硬化が方法の工程b)において実施されるため、物体を同じ深さまで浸炭した。炭素含有量は物体の浸炭部分において少なくとも約0.5%(w/w)である。
【0074】
浸炭後、物体をコーティングし、コーティングを500~700℃の温度にて30分間加熱処理する。次いで金属物体を高周波焼入れによって硬化する。浸炭は、800℃未満の温度にて鋼の硬化を可能にするので、有益であり得る。
【0075】
実施例3
50mg l-1(約0.85mM)のNi2+濃度を達成するように、三価クロム含有槽を実施例1のように調製し、槽を通常の開始めっきに供した。
【0076】
クロムコーティングを、2:1のアノード/カソード表面比で2.6のpHにて40分間、15A dm-2の電流密度にて基材上にコーティングした(方法の工程a))。2つのアノードを使用し、各々はその独自の電源を有した。
【0077】
次いで基材をリンスし、700℃にて30分間加熱処理した。コーティング厚は約15~20μmであり、硬度は1,500~1,700HV0.05であった。コーティングは、EDS測定により測定して約1%(w/w)のNiを含んだ。次いでコーティングされた基材を、820~860℃の温度にて炉において、または誘導加熱によって加熱処理し、その後、コーティングした基材を水または油中でクエンチした。
【0078】
技術の進歩により、本発明の基本概念は様々な手段において実施され得ることは当業者に明白である。したがって本発明およびその実施形態は上記の実施例に限定されず、代わりにそれらは請求項の範囲内で変わり得る。
図1
図2