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特許7082963強度、成形性が改善された高強度被覆鋼板の製造方法および得られた鋼板
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  • 特許-強度、成形性が改善された高強度被覆鋼板の製造方法および得られた鋼板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】強度、成形性が改善された高強度被覆鋼板の製造方法および得られた鋼板
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20220602BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220602BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20220602BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20220602BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20220602BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C21D9/46 J
C21D9/46 U
C22C38/00 301T
C22C38/00 301W
C22C38/14
C23C2/06
C23C2/28
C23C2/40
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019208851
(22)【出願日】2019-11-19
(62)【分割の表示】P 2016575882の分割
【原出願日】2015-07-03
(65)【公開番号】P2020045572
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2019-11-20
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2014/002392
(32)【優先日】2014-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドンウエイ・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ジョー・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ラッシュミ・ランジャン・モーハンティ
(72)【発明者】
【氏名】パバン・ケイ・シー・ベンカタスーリヤ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-229466(JP,A)
【文献】特開2009-209450(JP,A)
【文献】特開2010-090475(JP,A)
【文献】特表2014-518945(JP,A)
【文献】特開2010-126770(JP,A)
【文献】特開2013-019047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
C23C 2/00 - 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
0.13%≦C≦0.22%
1.9%≦Si≦2.3%
2.4%≦Mn≦3%
Al≦0.5%
Ti≦0.05%
Nb≦0.05%
を含む化学組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼製の板を熱処理して被覆することにより、改善された延性および改善された成形性を有する高強度被覆鋼板を製造する方法であって、被覆鋼板は少なくとも800MPaの降伏強度YS、少なくとも1180MPaの引張強度TS、少なくとも14%の全伸びおよび少なくとも30%の穴広げ率HERを有し、
熱処理および被覆は以下の工程:
- Ac3よりも高いが1000℃未満の焼鈍温度TAで30秒を超える時間、板を焼鈍する工程、
- オーステナイトと少なくとも50%のマルテンサイトとからなる構造を得るのに十分な冷却速度で、200℃から280℃の間の焼き入れ温度QTまで板を冷却することによって板を焼き入れする工程、
- 板を430℃から490℃の間の分配温度PTまで加熱し、10秒から100秒の間の分配時間Ptの間、板をこの温度に維持する工程であって、この工程は分配工程である工程、
- 板を溶融めっきする工程、ここで、溶融めっきする工程は490℃から530℃の間の合金化温度TGAを有する合金化亜鉛メッキ工程であり、
および
- 板を1℃/秒より高い冷却速度で室温まで冷却する工程、
を含み、それにより3%から15%の間の残留オーステナイトおよび85%から97%の間のマルテンサイトおよびベイナイトの合計からなり、フェライトを含まない最終的な構造が得られる、
方法。
【請求項2】
以下の条件
PT≧455℃
および
PT≦485℃
の少なくとも1つが満たされる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分配の間、板の温度はPT-20℃からPT+20℃の間に留まる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
分配の間、板の温度は再加熱の温度から455℃から465℃の間の温度まで直線的に低下する請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
鋼の化学組成は、以下の条件、
C≧0.16%
C≦0.20%
Si≧2.0%
Si≦2.2%
Mn≧2.6%
および
Mn≦2.8%
の少なくとも1つを満たす請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
板が焼き入れ温度QTに焼き入れされた後、板が分配温度PTに加熱される前に、板は、2秒から8秒の間の保持時間の間、焼き入れ温度QTに保持される請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
保持時間が、3秒から7秒の間に含まれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
焼鈍温度は875℃より高い請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
分配時間Ptは10から90秒の間である請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
合金化温度は、以下の条件
TGA>515℃
および
TGA<525℃
の少なくとも1つを満たす請求項に記載の方法。
【請求項11】
板が2℃/秒から4℃/秒の間の冷却速度で室温まで冷却される請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
鋼の化学組成が重量%で
0.13%≦C≦0.22%
2.0%≦Si≦2.2%
2.4%≦Mn≦3%
Al≦0.5%
Ti≦0.05%
Nb≦0.05%
を含み、残部は鉄および不可避的な不純物である被覆鋼板であって、被覆鋼板は、3から15%の残留オーステナイト、85から97%の間のマルテンサイトとベイナイトの合計からなり、フェライトを含まない構造を有し、マルテンサイトは少なくとも50%であり、被覆鋼板の少なくとも1つの面は金属被覆を含み、被覆鋼板は、少なくとも800MPaの降伏強度、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも14%の全伸びおよび少なくとも30%の穴広げ率HERを有し、残留オーステナイト中のC含有率は、0.9%及び1.6%の間である、被覆鋼板。
【請求項13】
穴広げ率HERは40%より大きい請求項12に記載の被覆鋼板。
【請求項14】
鋼の化学組成は、以下の条件
C≧0.16%
C≦0.20%
Si≧2.0%
Si≦2.2%
Mn≧2.6%
および
Mn≦2.8%
の少なくとも1つを満たす請求項12または13に記載の被覆鋼板。
【請求項15】
金属被覆を含む被覆鋼板の少なくとも1つの面は亜鉛メッキされる請求項12から14のいずれか一項に記載の被覆鋼板。
【請求項16】
金属被覆を含む被覆鋼板の少なくとも1つの面は合金化亜鉛メッキされる請求項12から14のいずれか一項に記載の被覆鋼板。
【請求項17】
残留オーステナイト中のC含有率は、少なくとも1.0%である、請求項12から16のいずれか一項に記載の被覆鋼板。
【請求項18】
残留オーステナイトは5μm以下である平均粒径を有する、請求項12から17のいずれか一項に記載の被覆鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度、延性および成形性が改善された高強度被覆鋼板の製造方法ならびにこの方法により得られた板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体構造部材の部品および車体パネル等の各種機器を製造するには、DP(二相)板またはTRIP(変態誘起塑性)板から製造された亜鉛メッキまたは合金化亜鉛メッキ板を使用することが普通である。
【0003】
例えば、マルテンサイト組織および/または残留オーステナイトを含み、約0.2%のC、約2%のMn、約1.7%のSiを含むような鋼は、約750MPaの降伏強度、約980MPaの引張強度、8%を超える全伸びを有する。これらの板は、Ac変態点よりも高い焼鈍温度から、Ms変態点を超える過時効まで焼き入れし、板をその温度に所定の時間維持することにより、連続焼鈍ライン上で製造される。その後、板は亜鉛メッキまたは合金化亜鉛メッキされる。
【0004】
地球環境保全の観点から、燃費を向上させるよう自動車の重量を低減するためには、降伏強度および引張強度が改善された板を有することが望ましい。しかし、そのような板は、良好な延性および良好な成形性、より具体的には良好な伸びフランジ性も有さなければならない。
【0005】
この点において、少なくとも800MPaの降伏強度YS、約1180MPaの引張強度TS、少なくとも14%の全伸びおよびISO規格16630:2009に従う25%を超え、さらには30%を超える穴広げ率HERを有する板を有することが望ましい。測定方法の違いにより、ISO規格による穴広げ率HERの値は大きく異なり、JFS T 1001(日本鉄鋼連盟規格)による穴広げ率λの値と比較できないことが強調されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、そのような板およびそれを製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明は、鋼の化学組成が
0.13%≦C≦0.22%
1.9%≦Si≦2.3%
2.4%≦Mn≦3%
Al≦0.5%
Ti≦0.05%
Nb≦0.05%
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼板を熱処理して被覆することにより、改善された延性および改善された成形性を有する高強度被覆鋼板を製造する方法であって、板は少なくとも800MPaの降伏強度YS、少なくとも1180MPaの引張強度TS、少なくとも14%の全伸びおよび少なくとも30%のISO規格に従う穴広げ率HERを有し、
熱処理および被覆は以下の工程:
- Ac3よりも高いが1000℃未満の焼鈍温度TAで30秒を超える時間、板を焼鈍する工程、
- オーステナイトと少なくとも50%のマルテンサイトとからなる構造を得るのに十分な冷却速度で、200℃から280℃の間の焼き入れ温度QTまで板を冷却することによって板を焼き入れする工程であって、オーステナイト含有率は、最終的な構造、即ち、処理、被覆および室温までの冷却後、3%から15%の間の残留オーステナイト、85%から97%の間のマルテンサイトおよびベイナイトの合計を含むことができ、フェライトを含まないようなものである焼き入れ工程、
- 板を430℃から490℃の間の分配(partitioning)温度PTまで加熱し、10秒から100秒の間の分配時間Ptの間、板をこの温度に維持する工程であって、この工程は分配工程である工程、
- 板を溶融めっきする工程、および
- 板を室温まで冷却する工程
を含む方法に関する。
【0008】
好ましくは、分配温度PTは、以下の条件、即ち、PT≧455℃およびPT≦485℃の少なくとも1つを満たすことができる。
【0009】
分配の間、板の温度はPT-20℃からPT+20℃の間に留まることができるか、または再加熱の温度から455℃から465℃の間の温度まで直線的に低下する。
【0010】
好ましくは、鋼の化学組成は、以下の条件、即ち、C≧0.16%、C≦0.20%、Si≧2.0%、Si≦2.2%、Mn≧2.6%およびMn≦2.8%の少なくとも1つを満たすことができる。
【0011】
好ましくは、板が焼き入れ温度QTに焼き入れされた後、板が分配温度PTに加熱される前に、板は、2秒から8秒の間、好ましくは3秒から7秒の間の保持時間の間、焼き入れ温度QTに保持される。
【0012】
好ましくは、焼鈍温度はAc3+15℃より高く、特に875℃より高い。
【0013】
好ましくは、溶融めっき工程は、亜鉛メッキ工程あるいは490℃から530℃の間または以下の条件、即ち、TGA>515℃およびTGA<525℃の少なくとも1つを満たす合金化温度TGAを有する合金化亜鉛メッキ工程である。
【0014】
好ましくは、分配時間Ptは10から90秒の間である。
【0015】
本発明はまた、その化学組成が重量%で
0.13%≦C≦0.22%
1.9%≦Si≦2.3%
2.4%≦Mn≦3%
Al≦0.5%
Ti≦0.05%
Nb≦0.05%
を含み、残部は鉄および不可避的な不純物である被覆鋼板に関する。鋼の構造は、3から15%の残留オーステナイト、85から97%の間のマルテンサイトとベイナイトの合計からなり、フェライトを含まない。板の少なくとも1つの面は金属被覆を含む。板は、少なくとも800MPaの降伏強度、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも14%の全伸びおよび少なくとも30%の穴広げ率HERを有する。穴広げ率HERはさらに40%より大きくてもよい。
【0016】
場合により、鋼の化学組成は、以下の条件の少なくとも1つを満たすことができる。
C≧0.16%
C≦0.20%
Si≧2.0%
Si≦2.2%
Mn≧2.6%
および
Mn≦2.8%
【0017】
好ましくは、少なくとも1つの被覆面は、亜鉛メッキまたは合金化亜鉛メッキされる。
【0018】
好ましくは、残留オーステナイト中のC含有率は、少なくとも0.9%、さらに好ましくは少なくとも1.0%、最大で1.6%である。
【0019】
平均オーステナイト粒径、即ち、残留オーステナイトの平均粒径は好ましくは5μm以下である。
【0020】
マルテンサイトおよびベイナイトの粒子またはブロックの平均サイズは10μm以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による実施例1を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、制限を導入することなく本発明を詳細に説明し、本発明による実施例1を例示する独特の図によって示す。
【0023】
本発明によれば、板は、化学組成は、重量%で、以下を含むTRIPまたは二相鋼から作られた半製品の熱間圧延および場合により冷間圧延によって得られる。
- 十分な強度を確保し、十分な伸びを得るのに必要な残留オーステナイトの安定性を向上させるために、0.13から0.22%、好ましくは0.16%超、好ましくは0.20%未満の炭素。炭素含有率が高すぎると、熱間圧延板の冷間圧延が困難であり、溶接性が不十分である。
- オーステナイトを安定化させ、固溶体の強化を提供し、板の表面に被覆性に悪影響を及ぼす酸化ケイ素を形成させることなく、過時効時に炭化物の形成を遅延させるために、1.9%から2.3%、好ましくは2%超および2.2%未満のケイ素。Siの量を増やすと、穴広げ率が改善され、炭化物形成を遅らせることによって鋼のバルク微細構造に有害な影響を与えることなく、より高い合金化亜鉛メッキ温度に達することが可能になる。
- マルテンサイトまたはマルテンサイトおよびベイナイト(マルテンサイトが好ましいが、しばしばマルテンサイトおよびベイナイトを光学顕微鏡検査で区別することは困難である)を少なくとも85%含む構造、1150MPaを超える引張強度を得、延性に有害な偏析問題を有することを回避するために、十分な焼入れ性を有するように2.4%から3%、好ましくは2.6%超、好ましくは2.8%未満のマンガン。また、2.4%から3%のMnは、合金化亜鉛メッキ中にオーステナイトを安定化させることができる。
- 脱酸の目的で液状鋼に通常添加される0.5%までのアルミニウム(好ましくはAl含有率は0.05に制限される)。Alの含有率が0.5%を超えると、オーステナイト化温度が到達するには高くなり過ぎて、鋼を工業的に加工することが困難になる。
- Nb含有率は0.05%に制限される。何故ならば、そのような値を超えると、大きな析出物が生じ、成形性が低下し、14%の全伸びに達することがより困難となるためである。
- Ti含有率は0.05%に制限される。何故ならば、そのような値を超えると、大きな析出物が生じ、成形性が低下し、14%の全伸びに達することがより困難となるためである。
【0024】
残部は鉄および製鋼に起因する残留元素である。この点で、少なくともNi、Cr、Mo、Cu、V、B、S、PおよびNは、不可避的不純物である残留元素と考えられる。従って、それらの含有率はNiに対しては0.05%未満、Crに対しては0.05%未満、Moに対しては0.02%未満、Cuに対しては0.03%未満、Vに対しては0.007%未満、Bに対しては0.0010%未満、Sに対しては0.007%未満、Pに対しては0.02%未満、およびNに対しては0.010%未満である。
【0025】
板は、当業者に既知の方法に従った熱間圧延および場合により冷間圧延によって調製される。
【0026】
圧延後、板は酸洗いまたは洗浄された後、熱処理および溶融めっきされる。
【0027】
好ましくは、組み合わされた連続焼鈍および溶融めっきライン上で行われる熱処理は、以下の工程を含む。
- 鋼板のAc変態点よりも高い、好ましくはAc+15℃より高い、即ち、本発明による鋼について、構造が完全にオーステナイトであることを確実にするため875℃より高い、しかしオーステナイト粒を過度に粗大化させないために1000℃未満である焼鈍温度TAで板を焼鈍する工程。板は、化学組成を均質化するのに十分な時間、焼鈍温度に維持され、即ち、TA-5℃からTA+10℃の間に維持される。この時間は、好ましくは60秒を超えるが、300秒を超える必要はない。
- フェライト形成を回避するのに、即ち、フェライトを含まない構造を有するために十分な冷却速度で、Ms変態点より低い焼き入れ温度QTまで冷却することによって板を焼き入れする工程。3%から15%の間の残留オーステナイト、85%から97%の間のマルテンサイトとベイナイトの合計を含む構造を有するためには、焼き入れ温度は200℃から280℃である。特に、板を200℃から280℃の間の焼き入れ温度まで焼き入れすることは、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも14%の全伸びおよび30%を超えるISO規格16630:2009による穴広げ率HERを得るために重要である。特に、本発明者は280℃を超える焼き入れ温度により、全伸びおよび穴広げ率が目標値を大きく下回ることを見出した。前述のように、マルテンサイトが好ましいが、マルテンサイトおよびベイナイトは区別することが困難であることが多い。しかし、焼き入れ温度がMsよりも低いため、構造は必然的にマルテンサイトを含む。得られる引張強度のために、最終的な構造中のマルテンサイトの量は50%を超えると見積もることができる。30℃/秒より高い冷却速度で十分である。
- 板を焼き入れ温度から430℃から490℃の間、好ましくは455℃から485℃の間の分配温度PTまで再加熱する工程。例えば、分配温度は、溶融めっきするために板を加熱しなければならない温度、即ち、455℃から465℃の間に等しくすることができる。誘導加熱器によって再加熱を行う場合、再加熱速度は高くなり得るが、その再加熱速度は、板の最終特性に明らかな影響を及ぼさなかった。好ましくは、焼き入れ工程と分配温度PTでの板の再加熱工程との間で、板は、2秒から8秒の間、好ましくは3秒から7秒の間の保持時間の間、焼き入れ温度に保持される。
- 板を分配温度PTで10秒から100秒の間、例えば、90秒間維持する工程。分配温度で板を維持することは、分配中、板の温度がPT-20℃からPT+20℃の間に留まるか、または温度が再加熱の温度から455℃から465℃の間の温度まで直線的に低下することを意味する。
- 場合により、溶融めっきするために板を加熱しなければならない温度に等しくなるように冷却または加熱によって板の温度を調節する工程。
- 板を溶融亜鉛メッキすることにより、または板を合金化電気亜鉛メッキすることにより板を溶融めっきする工程。板が亜鉛メッキされる場合、それは通常の条件で行われる。板が合金化亜鉛メッキされる場合、良好な最終機械的特性を得るには、アリエーション(alliation)の温度TGAが高すぎてはならない。この温度は好ましくは490°から530℃の間、好ましくは515℃から525℃の間である。
【0028】
一般に、被覆後、板は既知の技術に従って処理される。特に板は、好ましくは1℃/秒より高い冷却速度、現在は2℃/秒から4℃/秒の間の冷却速度で室温まで冷却される。
【0029】
この処理により、残留オーステナイトを3%から15%、マルテンサイトとベイナイトの合計を85%から97%含み、フェライトを含まない最終的な構造を、即ち、分配、被覆および室温までの冷却後に得ることが可能になる。
【0030】
さらに、この処理により、残留オーステナイト中のC含有率を少なくとも0.9%、好ましくは少なくとも1.0%、さらには1.6%まで増加させることができる。
【0031】
また、平均オーステナイト粒径は5μm以下であることが好ましく、ベイナイトまたはマルテンサイトのブロックの平均サイズは10μm以下であることが好ましい。
【0032】
残留オーステナイトの量は、例えば、少なくとも11%である。
【0033】
このような処理により、降伏強度YSが少なくとも800MPa、引張強度が少なくとも1180MPa、全伸びが少なくとも14%、ISO規格16630:2009に従った穴広げ率HERが少なくとも30%である被覆板を得ることができる。
【実施例
【0034】
一例として、次の組成、即ち、C = 0.19%、Si=2.1%、Mn=2.7%、残部がFeおよび不純物である厚さ1.2mmの板を、熱間圧延および冷間圧延により製造した。この鋼の理論的Ms変態点(Andrewsの公式による)は363℃であり、実験方法によって測定されたAc点は856℃である。
【0035】
板の試料を880℃で焼鈍し、250℃、300℃および350℃の焼き入れ温度まで焼き入れし、480℃までの加熱および460℃までの温度の直線降下により分配することにより熱処理した。その後、それらを520℃、550℃または570℃で合金化させて合金化亜鉛メッキした。
【0036】
熱処理条件および得られた特性を表Iに報告する
【0037】
【表1】
【0038】
この表において、ATは焼鈍温度、QTは焼入れ温度、PTは分配温度、Ptは分配温度における維持時間、GAは合金化亜鉛メッキを指し、合金化温度に関係し、YSは降伏強度、TSは引張強度、UEは均一伸び、TEは全伸び、HERはISO規格に従って測定された穴広げ率である。RA%は微細構造中の残留オーステナイトの量であり、RA粒径は平均オーステナイト粒径であり、RA中のC%は残留オーステナイト中のC含有率であり、BM粒径はマルテンサイトおよびベイナイトの粒子またはブロックの平均サイズである。
【0039】
全ての例は、合金化亜鉛メッキされた板に関連する。実施例1のみが特性に対する必要な条件を満たす。他の例(例2から8)では、十分な降伏強度を示さない例5を除いて、延性が十分ではない。これらの結果は、300℃または350℃の焼入れ温度が満足のいく結果をもたらさないことを示す。焼入れ温度が250℃である場合、合金化温度が550℃または570℃である場合には、その結果も満足できるものではない。
【0040】
本発明による鋼板に対して実施された試験は、板の溶接性が満足のいくものであることを示した。特に、本発明による溶接板に対し行われた溶接試験は、約6kNの断面強度を示し、それは溶接後の熱処理が行われた後に約12kNまで改善され得る。引張剪断強度は約25kNで測定した。
図1