(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】逆入力遮断クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 43/02 20060101AFI20220602BHJP
F16D 41/08 20060101ALI20220602BHJP
F16D 41/10 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
F16D43/02
F16D41/08 A
F16D41/10
(21)【出願番号】P 2019214109
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】飯田 輝信
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-47563(JP,A)
【文献】特開2019-27488(JP,A)
【文献】特開2010-7755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/08-41/10
F16D 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備えた逆入力遮断クラッチであって、
前記入力部材は板状であって、径方
向に延びる第一のガイド穴を備え、
前記出力部材は、
軸方向に延びる周壁を有する筒状であって、前記周壁の内周面には、被係合部が形成されており、
前記入力部材と前記出力部材との間には、抵抗トルク付与手段によって抵抗トルクが付与され
た板状のリテーナが設置され、前記リテーナには、軸方向に見て前記第一のガイド穴と交差して延びる第二のガイド穴が形成されており、
前記第二のガイド穴に
は作動子が挿入されて、前記作動子を有する作動部材は前記作動子と共に前記第二のガイド穴に沿って移動自在であり、前記作動子の前記入力部材側の軸方向端面には、前記第一のガイド穴に挿入される作動軸が固着されると共に、前記作動子の前記出力部材側の軸方向部分には、前記周壁
の内周面に
形成され
た前記被係合部と係合可能な係合部が形成されており、
前記入力部材の回転により前記係合部が前記被係合部と係合すると、前記入力部材の回転
は前記出力部材に伝達される一方、前記作動子が所定の位置にあるときには、前記係合部と前記被係合部との係合は解除され、前記出力部材の回転は、前記出力部材が前記入力部材に対し空転して前記入力部材に伝達されない、ことを特徴とする逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
前記係合部と前記被係合部は相互に嵌り合う形状である、請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記作動子は軸方向に見て矩形であり、前記係合部は前記作動子の角部により構成される凸部であると共に、前記被係合部は直角二等辺三角形状の凹部である、請求項2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項4】
前記係合部は、前記作動子が前記第二のガイド穴の両端部にあるときに、前記被係合部と係合可能である、請求項1乃至3のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項5】
前記被係合部は前記周壁の内周面に周方向に間隔をおいて複数設けられている、請求項1乃至4のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項6】
前記第一のガイド穴、前記第二のガイド穴及び前記作動部材は夫々複数設けられている、請求項1乃至5のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項7】
前記入力部材、前記出力部材、前記抵抗トルク付与手段、前記リテーナ、及び前記作動部材は固定のハウジングに収納されている、請求項1乃至6のいずれかに記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項8】
前記抵抗トルク付与手段は、前記ハウジングとの間の摩擦によって前記リテーナに抵抗トルクを付与する波ばねである、請求項7に記載の逆入力遮断クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆入力遮断クラッチ、特に、入力部材から出力部材への回転は伝達されるが、所要操作がされた後にあっては、出力部材から入力部材への回転は出力部材が空転して伝達されない逆入力遮断クラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車やカートの如き車両や船舶等種々の乗り物の操舵機構として、例えばラック・アンド・ピニオン方式が従来から広く用いられている。この方式は、ピニオン・ギアとよばれる円形歯車と、長手方向に延びる平板若しくは棒に歯切りをしたラック・ギアとを組み合わせたものである。上記方式が車両に用いられる場合、ピニオン・ギアはステアリング・ホイールから延びるシャフトに連結され、ラック・ギアは車両前後軸に対して垂直な状態でピニオン・ギアと組み合わされ、車輪はラック・ギアの長手方向両端に設けられる。これにより、ステアリング・ホイールを操作することで、ピニオン・ギアが回転すると共にラックが車両前後軸に対し左右方向に水平移動し、車輪の向きを変えることができる。
【0003】
また、近時では、自動運転が可能な乗り物もある。操舵機構がラック・アンド・ピニオン方式の場合、自動運転時には、ピニオン・ギア又はラック・ギアが電動モーターの如き駆動源によって直接的に駆動される。このとき、ピニオン・ギア又はラック・ギアが精確に作動するために、換言すれば、電動モーターによってピニオン・ギア又はラック・ギアが回転駆動される際にかかる回転駆動がステアリング・ホイールの操作によって阻害されることを防止するために、ステアリング・ホイールからの回転は遮断されるようにするのが良い。これは、例えば、ステアリング・ホイールとピニオン・ギアとの間に逆入力遮断クラッチを設け、手動運転時にはステアリング・ホイールからピニオン・ギアへ回転を伝達することができるが、自動運転時には、ステアリング・ホイールを電磁ブレーキの如き適宜のブレーキ手段によって保持すると共に、ピニオン・ギアがステアリング・ホイールに対して空転するようにすることで可能となる。
【0004】
上述したような逆入力遮断クラッチの一例としては、本願の出願によって本願より先に出願されて既に特許された下記特許文献1のものがある。これについて
図11を参照して説明する。
図11に示す逆入力遮断クラッチは、共通の中心軸oの回りに回転する入力部材I及び出力部材Oを備えている。入力部材Iは略円柱形状であると共に出力部材Oは筒形状であり、入力部材Iは出力部材Oの内側にこれと相対回転可能に挿入されている。出力部材Oの断面の外周には、周方向に等角度間隔をおいて配置された複数個の円弧面S1が規定されている。複数個の円弧面S1の夫々は共通の円周の一部をなすと共にその周方向長さは同一であって、周方向に隣接する2つの円弧面S1の間には夫々直線状のカム面S2が設けられている。出力部材Oは円筒形状のリテーナRの内側にこれと相対回転可能に挿入されており、リテーナRと出力部材Oと入力部材Iとはリンク部材Lによって接続されている。リンク部材Lは径方向に延びるリンク本体Lmと、リンク本体Lmの径方向両端部において軸方向に延びる枢軸La及び係合軸Lbとを備えたコの字形状である。入力部材Iの外周面及びリテーナRの内周面には夫々軸方向に延びる溝が形成されており、リンク部材Lは、枢軸Laが入力部材Iの外周面に形成された溝に、係合軸LbがリテーナRの内周面に形成された溝に夫々挿入されて、リンク本体LMが出力部材Oの内周面と外周面とを跨いだ状態で、リテーナRと出力部材Oと入力部材Iと組み合わされる。
【0005】
そして、入力部材Iが一方向に回転すると、
図11(b)に示すとおり、リンク部材Lは、入力部材Iの外周面に形成された溝に挿入された枢軸Laが入力部材Iと一体的に移動するのに対し、リテーナRの内周面に形成された溝に挿入された係合軸Lbは、リテーナRの抵抗力や慣性等により移動が遅延するため、リンク部材Lが入力部材Iと相対的に回動して、その連結部(つまりリンク本体Lm)が半径方向に対し傾斜することとなる。そのため、係合軸Lbの回転軸からの径方向の距離が縮小し、リンク部材Lの係合軸Lbは、出力部材Oの外周面に設けられたカム面S2に当接する。入力部材Iがさらに回転すると、入力部材Iは、リンク部材Lにより出力部材Oを連れ回すように回転させ、入力部材Iの回転トルクがリンク部材Lを介して出力部材Oに伝達される。入力部材Iの回転が完了した後には、入力部材Iを反対方向に回転させることによって、枢軸Laが反対方向に回転してリンク本体Lmは径方向に対して再び起立し、係合軸Lbの回転軸からの径方向の距離が増大する。これによって、出力部材Oは入力部材Iに対して回転可能となり、出力部材Oから入力部材Iへの回転、つまり逆入力が遮断されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1で開示された逆入力遮断クラッチには以下のような解決すべき課題がある。即ち、上記特許文献1で開示された逆入力遮断クラッチにあっては、平板状のリンク本体Lmから立設する枢軸La及び係合軸Lbを備えたリンク部材Lを介して入力部材Iと出力部材Oとは接続されているため、入力部材Iから出力部材Oへ大きな回転トルクを伝達しようとすると、枢軸Laが入力部材Iから受ける力によって或いは係合軸Lbが出力部材Oのカム面から受ける反力によって夫々リンク本体Lmに対して折損してしまう虞がある。これは、枢軸La及び係合軸Lbがリンク本体Lmから立設していることに起因し、所謂てこの原理により枢軸La及び係合軸Lbは上記力及び反力によって生じる回転モーメントに対して脆弱であるためである。従って、上記特許文献1で開示された逆入力遮断クラッチでは、入力部材Iから出力部材Oへ大きな回転トルクを伝達することができない。更に、係合軸Lbが出力部材Oの外側に位置することに起因して、装置全体の径方向サイズが大きい。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、簡単で且つ径方向にコンパクトな構成であるにも拘らず、入力部材から出力部材へ大きな回転トルクを伝達することが可能な、新規且つ改良された逆入力遮断クラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、板状の入力部材に形成された第一のガイド穴に挿入されて入力部材の回転によって作動させられる作動軸と、出力部材に設けられた周壁の内周面に作用する作動子とを軸方向に直接固着させて作動部材を構成し、入力部材の回転により作動子に形成された係合部が出力部材の周壁の内周面に形成された被係合部と係合すると、入力部材の回転が出力部材に伝達される一方、作動子が所定の位置にあるときには、係合部と被係合部との係合は解除され、出力部材の回転は、出力部材が入力部材に対し空転して入力部材に伝達されないようにすることで、上記主たる技術的課題を解決できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を達成する逆入力遮断クラッチとして、共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備えた逆入力遮断クラッチであって、
前記入力部材は板状であって、径方向に延びる第一のガイド穴を備え、
前記出力部材は、軸方向に延びる周壁を有する筒状であって、前記周壁の内周面には、被係合部が形成されており、
前記入力部材と前記出力部材との間には、抵抗トルク付与手段によって抵抗トルクが付与された板状のリテーナが設置され、前記リテーナには、軸方向に見て前記第一のガイド穴と交差して延びる第二のガイド穴が形成されており、
前記第二のガイド穴には作動子が挿入されて、前記作動子を有する作動部材は前記作動子と共に前記第二のガイド穴に沿って移動自在であり、前記作動子の前記入力部材側の軸方向端面には、前記第一のガイド穴に挿入される作動軸が固着されると共に、前記作動子の前記出力部材側の軸方向部分には、前記周壁の内周面に形成された前記被係合部と係合可能な係合部が形成されており、
前記入力部材の回転により前記係合部が前記被係合部と係合すると、前記入力部材の回転は前記出力部材に伝達される一方、前記作動子が所定の位置にあるときには、前記係合部と前記被係合部との係合は解除され、前記出力部材の回転は、前記出力部材が前記入力部材に対し空転して前記入力部材に伝達されない、ことを特徴とする逆入力遮断クラッチが提供される。
【0011】
好ましくは、前記係合部と前記被係合部は相互に嵌り合う形状である。この場合には、前記作動子は軸方向に見て矩形であり、前記係合部は前記作動子の角部により構成される凸部であると共に、前記被係合部は直角二等辺三角形状の凹部であるのがよい。好適には、前記係合部は、前記作動子が前記第二のガイド穴の両端部にあるときに、前記被係合部と係合可能である。前記被係合部は前記周壁の内周面に周方向に間隔をおいて複数設けられているのが好ましい。前記第一のガイド穴、前記第二のガイド穴及び前記作動部材は夫々複数設けられているのがよい。好適には、前記入力部材、前記出力部材、前記抵抗トルク付与手段、前記リテーナ、及び前記作動部材は固定のハウジングに収納されている。この場合には、前記抵抗トルク付与手段は、前記ハウジングとの間の摩擦によって前記リテーナに抵抗トルクを付与する波ばねであるのがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の逆入力遮断クラッチでは、出力部材に設けられた周壁の内周面に作用する作動子の入力部材側の軸方向端面に、入力部材に形成された第一のガイド穴に挿入される作動軸が直接固着されていることで、作動子と作動軸とは強固に接続され、これによって入力部材から出力部材へ回転トルクを伝達する際に作動軸又は作動子が折損することが防止され、入力部材から出力部材へ大きな回転トルクを伝達することが可能となる。更に、作動部材は出力部材に設けられた筒壁の内周面に作用するため、装置全体の径方向サイズを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの好適実施形態を示す構成図。
【
図2】
図1に示す逆入力遮断クラッチの各構成部品を分解して示す斜視図。
【
図3】
図1に示す逆入力遮断クラッチの入力部材を単体で示す図。
【
図4】
図1に示す逆入力遮断クラッチの出力部材を単体で示す図。
【
図5】
図1に示す逆入力遮断クラッチのリテーナを単体で示す図。
【
図6】
図1に示す逆入力遮断クラッチの作動部材を単体で示す図。
【
図7】
図1に示す逆入力遮断クラッチのハウジングを単体で示す図。
【
図8】
図1に示す逆入力遮断クラッチの作動を説明するための図。
【
図9】本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの変形例を示す構成図。
【
図10】
図9に示す逆入力遮断クラッチの各構成部品を分解して示す斜視図。
【
図11】従来の逆入力遮断クラッチの一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの好適実施形態を図示している添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0015】
図1及び
図2を参照して説明すると、本発明に従って構成された、全体を番号2で示す逆入力遮断クラッチは、共通の回転軸oを中心として回転可能な入力部材4及び出力部材6を備えている。
【0016】
図1及び
図2と共に
図3を参照して説明すると、入力部材4は合成樹脂製の板状であって回転軸oに対して垂直に配置され、中心軸は回転軸oと合致する。図示の実施形態においては、入力部材4は中央に円形の貫通穴8が形成された円板形状である。入力部材4の中間部には径方向に延びる第一のガイド穴10が形成されている。図示の実施形態においては、第一のガイド穴10は周方向に180度の角度間隔をおいて2つ形成されている。第一のガイド穴10は軸方向に貫通して径方向に直線状に延びている。入力部材4の中心には貫通穴8を囲繞して軸方向に直線状に延びる筒状の入力軸部12が固着されている。入力軸部12の外周面には平坦面14が形成されており、かかる平坦面14を介して、入力軸部12は例えばステアリング・ホイールから延びるシャフトに接続される。
【0017】
図1及び
図2と共に
図4を参照して説明すると、出力部材6は、
軸方向に延びる周壁15を有する合成樹脂製の筒状部材であり、中心軸が回転軸oと合致するように配置されている。周壁15の内周面には所要形状の被係合部16が形成されている。図示の実施形態においては、周壁15は全体的に円筒形状であって、被係合部16は周壁の内周面に等角度間隔をおいて8個形成されており、周方向に隣接する2つの被係合部16の間の部分は共通の円周面の一部をなしている。被係合部16は軸方向に見て直角二等辺三角形状の凹部であって軸方向に延在している。周壁15の、入力部材4とは反対側の端面は円形の出力端板18によって閉塞されている。出力端板18の中央には円形の貫通穴20が形成されている。出力端板18の中央には更に、上記貫通穴20を囲繞して周壁15とは反対側の軸方向に向かって直線状に延びる筒状の出力軸部22が固着されている。出力軸部22の外周面には平坦面24が形成されており(
図2を参照されたい)、かかる平坦面24を介して、出力軸部22は例えばピニオン・ギアに接続される。
【0018】
逆入力遮断クラッチ2は更に、抵抗トルク付与手段26によって抵抗トルクが付与されたリテーナ28、及びこのリテーナ28と共働する作動部材30を備えている。
【0019】
図1及び
図2と共に
図5を参照して説明を続けると、リテーナ28は合成樹脂製の板状部材であって、入力部材4と出力部材6との間において、回転軸oに対して垂直に配置され、中心軸は回転軸oと合致する。図示の実施形態においては、リテーナ28は中央に円形の貫通穴32が形成された円板形状である。リテーナ28の中間部には軸方向に貫通する第二のガイド穴33が形成されている。第二のガイド穴33は軸方向に見て入力部材4に形成された第一のガイド穴10と交差して延びている。図示の実施形態においては、第二のガイド穴33は2つ形成されている。2つの第二のガイド穴33は夫々径方向に対して実質上垂直に延びる矩形形状であって、相互に平行である。図示の実施形態においては、抵抗トルク付与手段26は金属製のウェーブワッシャーであって、後述する固定のハウジングとの摩擦によってリテーナ28に抵抗トルクを付与している。
【0020】
図1及び
図2と共に
図6を参照して説明すると、作動部材30は合成樹脂製であって、図示の実施形態においては2つ配設されている。作動部材30には、リテーナ28に形成された第二のガイド穴33に夫々挿入されて、これに沿って移動自在な作動子34が設けられている。図示の実施形態においては、作動子34は直方体形状であって、
図1のB-B断面に示されるとおり、軸方向に見て、作動子34の短手方向長さは第二のガイド穴33の短手方向長さと対応すると共に、作動子34の長手方向長さは第二のガイド穴33の長手方向長さよりも短い。そして、作動子34の出力部材6側の軸方向部分は周壁15内に配置されており、この部分には周壁15の内周面に形成された被係合部16と係合可能な係合部が形成されている。図示の実施形態においては、係合部は直方体形状である作動子34の角部により構成される2つの凸部であって(夫々を35a及び35bで示す)、係合部35a及び35bと被係合部16とは相互に嵌り合うことが可能である。係合部35a及び35bは、作動子34が第二のガイド穴33の両端部にあるときに、被係合部16と係合可能である。作動子34の入力部材4側の軸方向端面には、第一のガイド穴10に挿入されて、これに沿って移動可能な作動軸36が固着されている。図示の実施形態においては、作動軸36は作動子34の短手方向長さと同一の大きさの直径を有する円柱形状であって、作動子34の長手方向中央に配置されている。
図1のA-A断面に示されるとおり、作動軸36の直径は第一のガイド穴10の短手方向長さとも同一である。
【0021】
図示の実施形態においては、入力部材4、出力部材6、抵抗トルク付与手段26、リテーナ28、及び作動部材30は固定のハウジング38に収納されている。
図1及び
図2と共に
図7を参照して説明すると、ハウジング38は、
図7(a)に示すハウジング本体40と、
図7(b)に示すシールド体42とを具備している。
【0022】
図1及び
図2と共に
図7を参照して説明すると、ハウジング本体40は合成樹脂製であって、回転軸oに対して垂直に配置され中心軸は回転軸oと合致する円形の端板44と、端板44の外周縁から軸方向に延びる筒状の側壁46とを具備している。端板44の中央には軸方向に貫通する円形の貫通穴48が形成され、この貫通穴48には出力軸部22が挿通される。側壁46の内側には、比較的小径の円柱形状である片側空間部50と、比較的大径の円柱形状である他側空間部52とが設けられている。両空間部は中心軸oと同軸上に軸方向に直列に配置されており、軸方向に見て両空間部の境界と対応する位置の側壁46には軸方向に対して実質上垂直な円環形状の肩面54が形成されている。
図1の中央縦断面を参照することによって理解されるとおり、肩面54はリテーナ28の外周縁部と対向する。側壁46の延出端部の内周面にはシールド体42が嵌合される溝55が周方向に連続して円環状に形成されている。
【0023】
シールド体42は合成樹脂製であって、ハウジング本体40の端板44と軸方向に対向して位置する(つまり回転軸oに対して垂直に配置され中心軸は回転軸oと合致する)円形の端板56と、この端板56の外周縁からから軸方向に延びる円筒形状の支持壁58とを具備している。端板56の中央には軸方向に貫通する円形貫通穴60が形成されており、この貫通穴60には入力軸部12が挿通される。端板56の外周面には径方向外方に突出する断面弧状の突条62が周方向に連続して円環状に設けられている。シールド体42は、支持壁58をハウジング本体40の側壁46の内側に進入させた後に突条62をハウジング本体40の溝55に圧入することによってハウジング本体40と組み合わされる。シールド体42とハウジング本体40とが組み合わされると、支持壁58の軸方向先端面とリテーナ28とが抵抗トルク付与手段26を介して対向することとなり、抵抗トルク付与手段26はシールド体42との摩擦によってリテーナ28に所要程度の抵抗トルクを付与する。
【0024】
続いて、
図1に示す逆入力遮断クラッチ2の作動について
図1と共に
図8を参照して説明する。
図1に示す状態にあっては、作動部材30の作動軸36は、
図1のA-A断面に示すとおり、入力部材4の第一のガイド穴10の径方向内側に位置している。作動子34は、同図のB-B断面に示すとおり、リテーナ28に形成された第二のガイド穴33の略中央に位置している。そして、作動子34の係合部35a及び35bは、同図のC-C断面に示すとおり、筒壁20に形成された被係合部16から離隔すると共に、出力部材6が回転した際に被係合部16が描く軌跡の内側縁(同図のC-C断面において二点鎖線で示す)よりも径方向内側に位置している。係合部35a及び35bが上記位置にあるときに、作動子34が「所定の位置」にあるという。この状態において出力部材6が正・逆いずれの方向に回転しても、被係合部16が係合部35a及び35bに当接(干渉)することはなく、従って、出力部材6は入力部材4に対して回転可能となる。つまり、出力部材6から入力部材4への回転の伝達は、出力部材6が空転して遮断される。
【0025】
図1に示す状態から、入力部材4が同図の中央縦断面の左方向から見て反時計方向に回転すると、作動部材30の作動軸36は、
図8のA-A断面に示すとおり、第一のガイド穴10
に沿って径方向外側に、作動子34は、同図のB-B断面に示すとおり、第二のガイド穴33
に沿って周壁15の内周面に向かって移動してこれに当接する。図示の実施形態においては、作動子34は2つ配設されており、これらは同図のB-B断面の左右方向に見て相互に逆側に移動する。作動子34が第二のガイド穴33
に沿って移動する間、リテーナ28は抵抗トルク付与手段26から付与される所定の抵抗トルクによってその場で保持若しくは入力部材4と同一方向に幾分回転させられる。作動子34が周壁15の内周面に当接すると、第二のガイド穴33内での作動子34の移動、つまり、リテーナ28に対する作動子34の移動は制限されることから、以後は、入力部材4は作動部材30及びリテーナ28と一体となって回転する。そして、入力部材4の回転によって作動子34に形成された係合部35a及び35bも回転し、係合部35aが周壁15に形成された被係合部16と整合する角度位置に到達すると、作動子34は再び第二のガイド穴33
に沿って移動し、係合部35aが被係合部16に係合する。係合部35aが被係合部16に係合した状態で入力部材4が更に回転すると、上記係合によって、入力部材4及び出力部材6はリテーナ28及び作動部材30と一体となって回転する。つまり、入力部材4の回転は出力部材6へ伝達される。
【0026】
入力部材4の時計方向への回転が終了した後には、入力部材4は反対方向に回転させられて再び
図1に示す状態となる。
図1に示す状態から、入力部材4が同図の中央縦断面の左方向から見て時計方向に回転した場合は、係合部35bが被係合部16と係合することを除いて、入力部材4が反時計方向に回転した場合と同様である。
【0027】
本発明の逆入力遮断クラッチにあっては、出力部材6に設けられた周壁15の内周面に作用する作動子34の入力部材4側の軸方向端面に、入力部材4に形成された第一のガイド穴10に挿入される作動軸36を直接固着したことで、作動子34と作動軸36とは強固に接続され、これによって入力部材4から出力部材6へ回転トルクを伝達する際に作動軸36又は作動子34が折損することが防止され、入力部材4から出力部材6へ大きな回転トルクを伝達することが可能となる。更に、作動部材30は出力部材6に設けられた周壁15の内周面に作用するため、装置全体の径方向サイズを小さくすることができる。そして、図示の実施形態においては、係合部35a及び35bと被係合部16は相互に嵌り合う形状であるため、入力部材4から出力部材6に回転を伝達する際には、係合部35a又は35bと被係合部16とは強固に係合し、より確実に入力部材4から出力部材6へ回転を伝達することができる。また、作動部材30は2つ配設されており、2つの作動部材30に形成された係合部35a又は35bの各々は相互に直径方向反対側の位置にて被係合部と同時に係合するため、入力部材4は出力部材6をバランスよく押すことができ、入力部材4から出力部材6へ回転を安定して伝達することが可能となる。さらに、被係合部16は周壁15の内周面に複数設けられていることに起因して、係合部35a又は35bと被係合部16との時間遅れは短い。
【0028】
図9及び
図10には本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの変形例が示されている。全体を番号2´で示す本変形例の逆入力遮断クラッチにあっては、各構成部品を収納する固定のハウジングに替えて、各構成部品の中心に挿通される固定軸部材38´が設けられている。固定軸部材38´の外周面には軸方向に間隔をおいて2個の環状溝64´が形成されている。2個の環状溝64´には、これらの間にリテーナ28´及び抵抗トルク付与手段26´が配置された状態でC字形状の固定具66´が嵌め合わされる。これにより、リテーナ28´は固定軸部材38´の外周面に、軸方向の移動が規制された状態で回転可能に保持される。このとき、抵抗トルク付与手段26´は固定具66´との摩擦によってリテーナ28´に抵抗トルクを付与する。また、本変形例にあっては、入力部材4´は入力歯車12´を介して、出力部材6´は出力歯車22´を介して外部機器に接続される。入力部材4´、出力部材6´、リテーナ28´及び作動部材30´のその他基本的な構成及び作動については上述した本発明の実施形態と同様であるため、その詳細な説明については省略する。
【0029】
以上、添付図面を参照して本発明に従って構成された逆入力遮断クラッチの好適実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能であることは多言を要しない。例えば、図示の実施形態においては、第一のガイド穴、第二のガイド穴及び作動部材は2つずつ配設され、2つの作動部材に形成されていた係合部は共に、作動子が第二のガイド穴の両端部にあるときに、被係合部と係合可能となるようにしていたが、第一のガイド穴、第二のガイド穴及び作動部材は1つずつ配設するようにしてもよい。また、第一のガイド穴、第二のガイド穴及び作動部材は2つずつ配設されているものの、作動軸を作動子の長手方向中央ではなくその片側に偏位して配置させ、2つの作動部材に形成された係合部は、作動子が第二のガイド穴のいずれか一方端部にあるときにのみ、被係合部と係合可能となるように構成することもできる。これらの場合、被係合部は複数ではなく単一であってもよい。更に、係合部及び被係合部は相互に係合可能な形状であれば任意の形状で良く、作動子も直方体形状に限定されない。また、図示の実施形態においては、抵抗トルク付与手段はリテーナの軸方向に隣接して配置されたウェーブワッシャーであったが、これに替えてリテーナの外周面に隣接して配置される板ばね等、リテーナに所要の抵抗トルクを付与する形式であれば任意の形式であってよい。念のため付言しておくと、本発明の逆入力遮断クラッチは、操舵機構に限定して適用されるわけではなく、車両に設けられる電動スライドドアや電動カーテンの駆動機構等にも適用されうる。
【符号の説明】
【0030】
2:逆入力遮断クラッチ
4:入力部材
6:出力部材
10:第一のガイド穴
15:周壁
16:被係合部
26:抵抗トルク付与手段
28:リテーナ
30:作動部材
33:第二のガイド穴
34:作動子
35:係合部
36:作動軸