(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】シクロヘキサノン二量体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/74 20060101AFI20220602BHJP
C07C 49/417 20060101ALI20220602BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220602BHJP
B01J 29/16 20060101ALI20220602BHJP
B01J 29/48 20060101ALI20220602BHJP
B01J 29/78 20060101ALI20220602BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220602BHJP
【FI】
C07C45/74
C07C49/417
B01J37/08
B01J29/16 Z
B01J29/48 Z
B01J29/78 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020047217
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2020-03-18
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519380314
【氏名又は名称】中國石油化學工業開發股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】張 志成
(72)【発明者】
【氏名】楊 宏凱
(72)【発明者】
【氏名】蔡 佳岑
(72)【発明者】
【氏名】沈 佳慧
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-213251(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102311326(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102500398(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106563511(CN,A)
【文献】特開昭52-017450(JP,A)
【文献】特開2006-240920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸触媒の存在下でシクロヘキサノンを縮合反応させてシクロヘキサノン二量体を得る工程を含み、
前記固体酸触媒は、タングステン金属酸化物と、当該タングステン金属酸化物を担持し、かつルイス酸点およびブレンステッド酸点を有する担体とを含有
し、
前記タングステン金属酸化物は、三酸化タングステンであって、
前記担体における三酸化タングステンの担持量は0.5~6.0重量%である、
シクロヘキサノン二量体の製造方法。
【請求項2】
前記固体酸触媒の製造プロセスは、温度が300~600℃の条件で、タングステン塩前駆体と前記担体を回転焼成させて当該固体酸触媒を得る工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記担体は、ゼオライトである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ゼオライトの表面積が600~700m
2/gである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライトは、Y型、β型およびZSM-5型のゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記固体酸触媒は、さらに第2の金属酸化物を含み、当該第2の金属酸化物における金属は、アルカリ土類金属、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛からなる群より選ばれる一つである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記担体における前記第2の金属酸化物の担持量は0.1~3.0重量%である、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第2の金属酸化物は、前記担体のルイス酸点を覆っている、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第2の金属酸化物は、二酸化チタンである、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第2の金属酸化物は、前記担体のブレンステッド酸点を覆っている、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第2の金属酸化物は、酸化マグネシウムである、請求項
10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記縮合反応の温度が120~220℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
前記縮合反応はバッチ式反応器で0.25~1時間行われる、請求項
12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記固体酸触媒と前記シクロヘキサノンとの重量比が0.01~0.05である、請求項
13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記縮合反応は除水装置を有する連続式反応器により行われ、前記シクロヘキサノンの滞留時間は0.25~3時間である、請求項
12に記載の製造方法。
【請求項16】
前記シクロヘキサノンの重量空間速度(WHSV)が1~10hr
-1である、請求項
15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シクロヘキサノン二量体の製造方法に関し、特に、固体酸触媒によりシクロヘキサノン二量体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキサノン二量体は、重要な化学製品であり、エポキシ樹脂の変性剤、除草剤、殺虫剤、可塑剤、木材防腐剤、および重合体の架橋剤として用いられることに加えて、現在ではオルトフェニルフェノールの合成のための中間体でもあり、さらに、オルトフェニルフェノールは、殺菌、染色助剤、界面活性剤、難燃剤、防腐剤、プラスチック安定剤、新たなプラスチック又は樹脂の合成などの分野に広く適用され、重要で精密な有機化学製品である。
【0003】
現在、シクロヘキサノン二量体の製造方法は、主にシクロヘキサノンを原料とし、酸又は塩基の触媒作用でシクロヘキサノン分子同士を縮合反応させる方法である。ここで、当該シクロヘキサノンの縮合反応は、α炭素原子における求核置換反応であり、その反応式は、以下のように示される。
【0004】
【0005】
これにより得られた生成物は2種類の互変異性体(tautomer)であり、それぞれが2-(1-シクロヘキセニル)シクロヘキサノンおよび2-(シクロヘキシリデン)シクロヘキサノンである。
【0006】
シクロヘキサノン二量体を製造するためによく使用される塩基触媒は水酸化カルシウムであるが、水酸化カルシウムには、触媒再生後の反応効率が悪く、反応温度が高く、産物の選択率がよくないという欠点があるうえ、さらに装置を腐食する恐れがある。
【0007】
シクロヘキサノン二量体を製造するためによく使用される酸触媒は、有機酸又は無機酸であってもよいが、有機酸又は無機酸には、生産設備に対して強い腐食性を有し、産物に触媒が残りやすいため、繁雑な精製プロセスにより処理する必要があり、生産のコストが増え、環境を汚染するという問題がある。また、固体酸触媒を使用する研究開発が行われているが、このような技術には、選択性が低く副生成物が多いという欠点がある。
【0008】
さらに、従来のプロセスでは、即時に反応中に生成した水を反応系から排除するために、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン又はベンゼンのような共沸剤を使用して反応を促進させることが多い。これにより、反応温度が高過ぎて副生成物を多く形成することに起因するシクロヘキサノン二量体の選択性の低下を避ける。ただし、共沸剤を使用するには、プロセスの後半でさらに蒸留設備を設けて共沸剤を除去する必要があるので、製造コストが上昇することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記事情に鑑みて、前記従来技術が直面している問題を解決するために、低コストで高い選擇性を有するシクロヘキサノン二量体の製造方法を提出することが望ましいとされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記問題を解決するために、本開示は、固体酸触媒の存在下でシクロヘキサノンを縮合反応させてシクロヘキサノン二量体を得る工程を含み、前記固体酸触媒は、タングステン金属酸化物と、当該タングステン金属酸化物を担持し、かつルイス酸点およびブレンステッド酸点を有する担体とを含有する、シクロヘキサノン二量体の製造方法を提供する。
【0011】
本開示の一つの具体的な実施態様において、固体酸触媒の製造プロセスは、温度が300~600℃の条件で、タングステン塩前駆体と前記担体を回転焼成させて当該固体酸触媒を得る工程を含む。
【0012】
本開示の一つの具体的な実施態様において、前記担体は、ゼオライトであり、特に表面積が600~700m2/gのゼオライト担体である。
【0013】
本開示のもう一つの具体的な実施態様において、前記ゼオライトは、Y型、β型およびZSM-5型のゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一種であっでもよい。
【0014】
本開示の一つの具体的な実施態様において、前記タングステン金属酸化物は三酸化タングステンであり、また、一つの具体的な実施態様において、前記担体における三酸化タングステンの担持量は0.5~6.0重量%である。
【0015】
本開示の一つの具体的な実施態様において、前記固体酸触媒は、さらに第2の金属酸化物を含み、当該第2の金属酸化物における金属は、アルカリ土類金属、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛からなる群より選ばれる一つであり、また、一つの具体的な実施態様において、前記担体における第2の金属酸化物の担持量は0.1~3.0重量%である。
【0016】
本開示の一つの具体的な実施態様において、前記第2の金属酸化物は、担体のルイス酸点を覆っている、例えば、当該第2の金属酸化物は二酸化チタンである。
【0017】
本開示のもう一つの具体的な実施態様において、前記第2の金属酸化物は、担体のブレンステッド酸点を覆っている、例えば、当該第2の金属酸化物は酸化マグネシウムである。
【0018】
本開示の一つの具体的な実施態様において、前記シクロヘキサノンの縮合反応の温度が120~220℃である。
【0019】
本開示の一つの具体的な実施態様において、前記製造方法は、バッチ式反応器で行われ、また、前記シクロヘキサノンの縮合反応の時間が0.25~1時間であり、前記固体酸触媒と前記シクロヘキサノンとの重量比が0.01~0.05である。
【0020】
本開示の一つの具体的な実施態様において、前記製造方法は除水装置を有する連続式反応器により行われ、前記シクロヘキサノンの滞留時間は0.25~3時間である。一つの具体的な実施態様において、前記シクロヘキサノンの重量空間速度(Weight Hourly Space Velocity、WHSV)が1~10hr-1である。
【発明の効果】
【0021】
本開示の製造方法において、触媒として、タングステン金属酸化物を含み、かつルイス酸点およびブレンステッド酸点を有するものを適用することにより、穏やかな反応条件で反応速度と選択性を向上させることができる。また、本開示の製造方法では、高温により副生成物を形成するという問題を避けることができ、さらに、共沸剤やその他の溶媒を使用する必要がないので、プロセスの後半での分離精製プロセスを削減し、プロセスと原料のコストを効率的に減少させ、工業上の利用価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
例示的な図面により本開示の実施形態について説明する。
【
図1】
図1は本開示の実施例4-4における反応時間に対する転化率および選択率の変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、所定の具体的な実施例により本開示の実施形態について説明するが、当業者は本明細書に記載の内容により、その利点および効果を簡単に理解できる。本開示は、別の実施形態によっても実施または適用でき、本明細書の各詳細内容は、様々な観点や目的に応じて本開示の要旨を逸脱しない範囲で、様々な修飾、変更を行うことができる。なお、本明細書に記載の範囲および数値はすべて本開示に含まれ、合併されてもよい。本明細書に記載の囲範内に含まれる任意の数値または端点、例えば任意の整数は、すべて最小値または最大値としてさらなる下位範囲などを導き出すことができる。
【0024】
本開示のシクロヘキサノン二量体の製造方法は、固体酸触媒の存在下で、シクロヘキサノンを縮合反応させてシクロヘキサノン二量体を得る工程を含む。そのうち、前記固体酸触媒は、タングステン金属酸化物と、当該タングステン金属酸化物を担持する担体とを含有し、当該担体は、ルイス酸点およびブレンステッド酸点を有する。
【0025】
前記シクロヘキサノンの縮合反応は、固体酸触媒の作用でシクロヘキサノン分子同士に縮合脱水を行わせてシクロヘキサノン二量体を形成する。前記シクロヘキサノン二量体は2種類の互変異性体であり、かつ2-(1-シクロヘキセニル)シクロヘキサノンおよび2-(シクロヘキシリデン)シクロヘキサノンを含み、なかでも、2-(1-シクロヘキセニル)シクロヘキサノンが主要な成分である。
【0026】
一つの具体的な実施態様において、前記シクロヘキサノンの縮合反応の温度が120~220℃である。縮合反応の温度が低すぎると、本開示の固体酸触媒の触媒作用の進行が不利になり、反応が遅くなる。縮合反応の温度が高すぎると、副反応が容易に発生する。一部の具体的な実施態様において、前記シクロヘキサノンの縮合反応の温度は、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215又は220℃であってもよい。
【0027】
本開示の固体酸触媒は、タングステン金属酸化物を活性成分として使用し、タングステン金属酸化物により触媒の酸量を上昇させ、反応速度と収率が向上することに有利である。
【0028】
一つの具体的な実施態様において、前記タングステン金属酸化物は三酸化タングステンが好ましく、これは三酸化タングステンが相對的に高い酸化状態を有して、触媒の酸量を効率的に上昇させることができるためである。より具体的には、前記担体における三酸化タングステンの担持量は0.5~6.0重量%であり、一部の具体的な実施態様において、当該担体における三酸化タングステンの担持量は0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5又は6.0重量%である
【0029】
本開示では、「三酸化タングステンの担持量」とは、担体が担持する三酸化タングステンの含有量、すなわち担体に対する三酸化タングステンの重量比を指す。
【0030】
三酸化タングステンの担持量が0.5重量%より低いと、反応転化率が低くなりすぎる。三酸化タングステンの担持量が6重量%より多いと、残りの三酸化タングステンが重なってその反応活性部位を覆って、反応物と接触する表面積を減少させるため、反応転化率の更なる向上ができず、生産コストが無益に増える。
【0031】
前記固体酸触媒は再生して再利用することができる。一つの具体的な実施態様において、燃焼の方法により前記固体酸触媒を再生する。
【0032】
前記固体酸触媒は、混合浸漬、乾燥脱水、焼製の順を経て得られる。一つの具体的な実施態様において、前記固体酸触媒の製造方法は、温度が300~600℃の条件で、タングステン塩前駆体を前記担体と回転焼成させて当該固体酸触媒を得る工程を含む。一部の具体的な実施態様において、前記温度が300、350、400、450、500、550又は600℃である。
【0033】
より具体的には、前記固体酸触媒の製造方法は、タングステン塩前駆体を溶媒に溶かした後、多孔性の担体を当該溶かしたタングステン塩前駆体に浸漬させて混合物を形成し、当該多孔性の担体の表面および孔にタングステン塩前駆体を吸着させる工程、そして、当該混合物中の水分を除去し、例えば回転濃縮機により当該混合物を乾燥させて除水する工程、および、最後に、温度が300~600℃の条件下で、タングステン塩前駆体を当該担体と6~10時間回転焼成させて当該固体酸触媒を得る工程を含む。
【0034】
一つの具体的な実施態様において、前記タングステン塩前駆体はタングステンの含有量が0.5~6重量%である化合物を使用する。例えば、前記タングステン塩前駆体は、メタタングステン酸アンモニウム((NH4)6[H2W12O40]・xH2Oであり、xが1~4の整数である)又はタングステン酸アンモニウム((NH4)10W12O41)から選ばれていてもよい。一部の具体的な実施態様において、前記タングステン塩前駆体はタングステンの含有量が0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5又は6.0重量%である化合物を使用する。
【0035】
前記担体は、前記タングステン金属酸化物を担持する機能を有することにより、前記タングステン金属酸化物が分散され、觸媒活性を増加させる。また、前記担体は、ルイス酸点およびブレンステッド酸点を有する、すなわち当該担体の表面には同時に電子受容能力およびプロトン供与能力を有するため、固体酸觸媒の酸強度を向上させ、觸媒活性の強度を増加させ、反応選択性および反応速度が向上するという効果を有している。
【0036】
一つの具体的な実施態様において、前記担体は、複数の孔又はチャンネル構造を持つ材料から選ばれていてもよく、例えば、改質した若しくは改質していないモンモリロン石(montmorillonite)又はゼオライトを使用すれば、どのような形式でもよい。
【0037】
一つの具体的な実施態様において、前記担体はゼオライトであり、特に表面積が600~700m2/gのゼオライト担体である。
【0038】
一部の具体的な実施態様において、前記ゼオライト担体の表面積は、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690又は700m2/gであってもよいが、これに限定されない。
【0039】
前記ゼオライトは、アルミノケイ酸塩の結晶構造であり、その電荷分布が結晶構造の配列型式によって異なるため、堆積方法が異なったら觸媒活性も異なる。一つの具体的な実施態様において、前記ゼオライトの型式は、Y型、β型およびZSM-5型のゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよく、なかでも、Y型、β型のゼオライトが好ましい。
【0040】
もう一つの具体的な実施態様において、前記固体酸觸媒は、さらに第2の金属酸化物を含んでもよく、第2の金属酸化物を前記タングステン金属酸化物と混合して担持させることにより、活性成分による被毒現象の発生を低下させ、反応時間を延ばして反応の転化率を向上させる。
【0041】
前記第2の金属酸化物における金属は、アルカリ土類金属、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛からなる群から選ばれる一つである。また、前記第2の金属酸化物の担持量は0.1~3.0重量%である。一部の具体的な実施態様において、前記第2の金属酸化物の担持量は0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5又は3.0重量%である。
【0042】
本開示では、「第2の金属酸化物の担持量」とは、タングステン金属酸化物を含む担体が担持する第2の金属酸化物の含有量、すなわちタングステン金属酸化物と担体の総重に対する第2の金属酸化物の重量比を指す。
【0043】
前記タングステン金属酸化物と第2の金属酸化物を混合して担持させた固体酸觸媒の製造方法は、前記タングステン金属酸化物および担体を有する固体酸觸媒を製造完了した後、さらに、第2の金属塩前駆体と前記タングステン金属酸化物および担体を有する固体酸觸媒とを溶媒に入れて混合物を形成する工程、そして、当該混合物における水分を除去し、例えば回転濃縮機により当該混合物を乾燥させて除水する工程、および、最後に、温度が300~600℃の条件下で6~10時間回転焼成させて、当該タングステン金属酸化物と第2の金属酸化物を混合して担持させた固体酸触媒を得る工程を含む。
【0044】
一つの具体的な実施態様において、前記第2の金属酸化物は、担体のルイス酸点を覆っている。例えば、前記第2の金属酸化物は二酸化チタンである。
【0045】
もう一つの具体的な実施態様において、前記第2の金属酸化物は、担体のブレンステッド酸点を覆っている。例えば、前記第2の金属酸化物は酸化マグネシウムである。
【0046】
本開示のシクロヘキサノン二量体の製造方法はバッチ式プロセス又は連続式プロセスに適用できる。バッチ式プロセス又は連続式プロセスにかかわらず、本開示のシクロヘキサノン二量体の製造方法又は反応器には、共沸剤又はその他の溶媒、例えばシクロヘキサン、ノルマルヘプタン又はベンゼン等が含まれていない。
【0047】
バッチ式プロセスの場合、前記反応器は、原料を間欠的に仕込んで反応し、反応が終わった後又は所定の時間を経った後に製品を取り出すという反応モードのバッチ式反応器である。本開示の実施例において、前記バッチ式反応器は、さらに撹拌装置を含む撹拌槽型反応器であり、当該撹拌装置の回転速度が150~300rpmである。前記撹拌装置は傾斜パドル翼式撹拌機、タービン翼式撹拌機、パドル翼式撹拌機、アンカー翼式撹拌機、傾斜翼式撹拌機、横型撹拌機、プロペラ翼式撹拌機、磁気加熱式撹拌機又はリボン翼式撹拌機から選ばれていてもよい。
【0048】
一つの具体的な実施態様において、反応器がバッチ式反応器である場合、前記製造方法は、固体酸触媒とシクロヘキサノンとの重量比が0.01~0.05、例えば0.01、0.02、0.03、0.04又は0.05である前記固体酸触媒と前記シクロヘキサノンを混合する工程、および、温度120~220℃、反応時間0.25~1時間でシクロヘキサノンを縮合反応させる工程を含む。
【0049】
もう一つの具体的な実施態様において、反応器がバッチ式反応器である場合、前記製造方法は、さらに、シクロヘキサノンの縮合反応が終わった後、前記固体酸触媒をろ過して除去し、ろ過したろ液を減圧蒸留させて未反応のシクロヘキサノンを回収して高純度のシクロヘキサノン二量体の製品を得る工程を含む。
【0050】
連続式プロセスでは、前記反応器は、原料を連続的に仕込んで反応し続けて製品を連続的に取り出すという反応モードの連続式反応器であり、当該連続式反応器は除水装置を有し、当該連続式反応器の具体例には、固定床反応器、移動床反応器、流動床反応器又は連続撹拌反応器が含まれる。
【0051】
一つの具体的な実施態様において、反応器が除水裝置を有する連続式反応器である場合、前記製造方法は、固体酸触媒を当該連続式反応器に充填する工程、シクロヘキサノンを当該連続式反応器に仕込む工程、120~220℃の温度条件で、シクロヘキサノンを縮合反応させ、シクロヘキサノンを当該連続式反応器に0.25~3時間、例えば0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.95、1、1.5、2、2.5又は3時間滞留させる工程、および、反応した生成物の流れを当該連続式反応器から流出させる工程を含む。
【0052】
本開示の連続式反応器は不均一系反応系統であるので、反応物の流れの流速はその觸媒表面の流動膜の厚さ、および反応物の間の物質移動に影響を与える。一つの具体的な実施態様において、120~220℃の温度条件でシクロヘキサノンを縮合反応させる場合、当該シクロヘキサノンの重量空間速度(WHSV)が1~10hr-1、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10hr-1である。一部の具体的な実施態様において、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215又は220℃の温度でシクロヘキサノンを縮合反応させる。
【0053】
もう一つの具体的な実施態様において、反応器が除水装置を有する連続式反応器である場合、前記製造方法は、さらに、生成物の流れを減圧蒸留させて未反応のシクロヘキサノンを連続式反応器に還流させる工程を含むことで、高純度のシクロヘキサノン二量体の製品を得るうえ、反応の転化率を向上させる。
【0054】
以下、具体的な実施例により本開示の利点および効果についてより詳細に説明するが、本開示の範囲はこれらに限定されない。
【0055】
本明細書に記載の選択率は以下のように定義される。
【0056】
【0057】
触媒の製造例1
【0058】
メタタングステン酸アンモニウム((NH4)6[H2W12O40]・xH2O、MDL number:MFCD00150662、Strem Chemicals,Incから入手)をタングステン塩前駆体とし、当該タングステン塩前駆体のタングステン含有量が72重量%であり、前記メタタングステン酸アンモニウム(1.72g)を脱イオン水(250g)に溶解させた後、500mlのシングルネック丸底フラスコに入れた。Y型のゼオライト(40g)は前記タングステン金属酸化物を担持する担体とし、当該担体を前記溶解したタングステン塩前駆体に浸漬させて混合物を形成した。ここで、前記ゼオライト担体の表面積は600m2/gである。
【0059】
そして、前記混合物を回転濃縮機により80℃の温度で均一に分散させ、さらに、乾燥させて除水した。温度が450℃の条件で、回転濃縮機により前記タングステン塩前駆体と前記担体を6時間回転焼成させて、WO3の担持量が3重量%であるWO3/Y型のゼオライト触媒を得た。
【0060】
触媒の製造例2
【0061】
前記メタタングステン酸アンモニウムの添加量を0.28gに変更する以外は、製造例1と同様にしてWO3の担持量が0.5重量%であるWO3/Y型のゼオライト触媒を得た。
【0062】
触媒の製造例3
【0063】
前記担体をZSM-5型のゼオライトに変更する以外は、製造例1と同様にしてWO3の担持量が3重量%であるWO3/ZSM-5型のゼオライト触媒を得た。
【0064】
触媒の製造例4
【0065】
前記メタタングステン酸アンモニウムの添加量を0.28gに変更し、β型のゼオライトを担体として使用する以外は、製造例1と同様にしてWO3の担持量が0.5重量%であるWO3/β型のゼオライト触媒を得た。
【0066】
触媒の製造例5
【0067】
硝酸マグネシウムを第2の金属塩前駆体として、製造例1のWO3/Y型のゼオライト触媒(20g)、硝酸マグネシウム(0.13g)および脱イオン水(150g)を500mlのシングルネック丸底フラスコに入れて混合物を形成した。
【0068】
そして、前記混合物を回転濃縮機により80℃の温度で均一に分散させ、さらに、乾燥させて除水した。温度が450℃の条件で、回転濃縮機により前記第2の金属塩前駆体および前記WO3/Y型のゼオライト触媒と前記担体を6時間回転焼成させて、MgOの担持量が0.1重量%であって、WO3の担持量が3重量%であるMgO・WO3/Y型のゼオライト触媒を得た。
【0069】
触媒の製造例6
【0070】
硝酸マグネシウム(0.13g)に替えてチタン酸テトラエチル(0.1g)を使用し、脱イオン水に替えてエタノールを使用し、60℃の温度で回転濃縮機により均一に分散させ、さらに、乾燥させて除水する以外は、製造例5と同様にしてTiO2の担持量が0.1重量%であって、WO3の担持量が3重量%であるTiO2・WO3/Y型のゼオライト触媒を得た。
【0071】
実施例1
【0072】
シクロヘキサノン(300g)と製造例1のWO3/Y型のゼオライト触媒(12g)を、撹拌装置を有する1Lのバッチ式反応器に入れ、180℃の温度条件でシクロヘキサノンを縮合させ、1時間反応させた後、シクロヘキサノン二量体を得た。ここで、前記固体酸触媒と前記シクロヘキサノンの重量比は0.04である。
【0073】
水分計およびガスクロマトグラフ(GC)で分析し、その反応転化率および選択率の測定結果を表1に記す。
【0074】
実施例1-1~1-2
【0075】
反応温度を表1のように変更する以外は、実施例1と同様にしてシクロヘキサノン二量体を得、その反応転化率および選択率の測定結果を表1に記す。
【0076】
【0077】
実施例2
【0078】
製造例1のWO3の担持量が3重量%であるWO3/Y型のゼオライト触媒に替えて製造例2のWO3の担持量が0.5重量%であるWO3/Y型のゼオライト触媒を使用する以外は、実施例1と同様にしてシクロヘキサノン二量体を得、その反応転化率および選択率の測定結果を表2に記す。
【0079】
実施例3
【0080】
製造例1のWO3/Y型のゼオライト触媒に替えて製造例3のWO3/ZSM-5型のゼオライト触媒を使用する以外は、実施例1と同様にしてシクロヘキサノン二量体を得、その反応転化率および選択率の測定結果を表2に記す。
【0081】
実施例4
【0082】
製造例1のWO3/Y型のゼオライト触媒に替えて製造例4のWO3/β型のゼオライト触媒を使用し、反応時間を0.25時間に短縮させる以外は、実施例1と同様にしてシクロヘキサノン二量体を得、その反応転化率および選択率の測定結果を表2に記す。
【0083】
【0084】
実施例4-1~4-3
【0085】
反応温度を表3のように変更する以外は、実施例4と同様にしてシクロヘキサノン二量体を得、その反応転化率および選択率の測定結果を表3に記す。
【0086】
【0087】
実施例4-4
【0088】
反応器を、除水装置を有する連続式反応器に変更し、反応する際に0.25時間ごとにサンプリングする以外は、実施例4-2と同様にしてシクロヘキサノン二量体を得、その反応転化率および選択率の測定結果を
図1に記す。
【0089】
実施例5
【0090】
製造例1のWO3/Y型のゼオライト触媒に替えて製造例5のMgO・WO3/Y型のゼオライト触媒を使用する以外は、実施例1と同様にしてシクロヘキサノン二量体を得、その反応転化率および選択率の測定結果を表4に記す。
【0091】
実施例6
【0092】
製造例1のWO3/Y型のゼオライト触媒に替えて製造例6のTiO2・WO3/Y型のゼオライト触媒を使用する以外は、実施例1と同様にしてシクロヘキサノン二量体を得、その反応転化率および選択率の測定結果を表4に記す。
【0093】
【0094】
前記のように、本開示のシクロヘキサノン二量体の製造方法は、触媒として、タングステン金属酸化物を含み、かつルイス酸点とブレンステッド酸点を有するものを使用することにより、穏やかな反応条件で反応速度と選択性を向上させることができる。また、本開示の製造方法では、高温により副生成物を形成するという問題を解消し、さらに、共沸剤やその他の溶媒を使用する必要がないので、プロセスの後半での分離精製プロセスを削減し、プロセスと原料のコストを効率的に減少させ、工業上の利用価値を有する。
【0095】
前記実施例は、例示的に説明するものであり、本開示の範囲を限定するものではない。本開示の精神および範囲に反することがない場合、当業者によって前記実施例に様々な修飾および変更を行うことができる。したがって、本開示の権利範囲は、特許請求の範囲によって規定され、本開示の効果および実施の目的に影響しない限り、本開示の内容に含まれている。