(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】中空成形品の成形システム及び中空成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/44 20060101AFI20220602BHJP
B29C 70/46 20060101ALI20220602BHJP
B29L 23/00 20060101ALN20220602BHJP
【FI】
B29C70/44
B29C70/46
B29L23:00
(21)【出願番号】P 2020047437
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】302019599
【氏名又は名称】ミズノ テクニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】川口 英俊
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 誠
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸生
(72)【発明者】
【氏名】加島 匠
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137796(JP,A)
【文献】特開2011-140184(JP,A)
【文献】特開2016-168684(JP,A)
【文献】特開平06-254986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/44
B29C 70/46
B29L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂製の中空成形品の成形システムであって、
前記中空成形品の外殻形状のキャビティを備える金型と、
前記金型内に配置されるバッグと、
加熱された流体を前記バッグ内に供給する温調循環装置と
を備え、
前記温調循環装置と前記バッグとの間で、加熱された前記流体としての過熱水蒸気を循環さ
せ、
前記温調循環装置との間で前記流体としての水を循環させる冷水循環装置をさらに備えていることを特徴とする中空成形品の成形システム。
【請求項2】
前記温調循環装置は、過熱水蒸気を生成する加熱装置と過熱水蒸気の温度を検出する温度センサを備え
、前記温度センサでの過熱水蒸気の温度の検出値に基づいて、前記加熱装置での前記流体の加熱の続行及び前記冷水循環装置からの水の供給のいずれかを選択することを特徴とする請求項1に記載の中空成形品の成形システム。
【請求項3】
前記温調循環装置は、過熱水蒸気を生成する加熱装置と過熱水蒸気の温度を検出する温度センサを備え、
前記温度センサは、前記加熱装置から前記バッグへの過熱水蒸気の供給側に設けられ、
前記温調循環装置は、前記温度センサでの過熱水蒸気の温度の検出値に基づいて、前記加熱装置内の過熱水蒸気の温度を調節する温調手段を有していることを特徴とする請求項1に記載の中空成形品の成形システム。
【請求項4】
前記温調循環装置は、加圧ポンプをさらに備え、
前記加圧ポンプは、前記加熱装置から前記バッグへの過熱水蒸気の供給側であって前記温度センサの上流側に設けられ、
前記温調手段は、前記温度センサでの過熱水蒸気の温度の検出値に基づいて、前記加熱装置での加熱温度及び前記加圧ポンプでの供給圧の少なくともいずれかを調節することを特徴とする請求項
3に記載の中空成形品の成形システム。
【請求項5】
前記バッグはシリコン樹脂製である請求項1~4のいずれか一項に記載の中空成形品の成形システム。
【請求項6】
金型のキャビティ内に繊維強化樹脂製の成形基材を配置する成形基材配置工程と、
前記成形基材が配置された前記金型の内部にバッグを配置して型締めする型締め工程と、
前記バッグに過熱水蒸気を供給して、前記バッグからの熱及び圧力によって前記成形基材を前記金型の内面に押し当てながら加熱する成形工程とを備えていることを特徴とする中空成形品の製造方法。
【請求項7】
加熱装置内で水を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成工程を備え、
前記成形工程では、前記加熱装置と前記バッグとの間で過熱水蒸気を循環させることを特徴とする請求項6に記載の中空成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製の中空成形品の成形システム及び中空成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂製の中空成形品は、軽量でありながら強度に優れていることから、ゴルフクラブシャフト、テニスラケット等のスポーツ用品や、自動車、航空機等に向けた構造材料として使用されている。こうした中空成形品の成形方法として、いわゆる内圧成形法が知られている。
【0003】
特許文献1には、筒状の中空成形品を内圧成形法によって成形することが記載されている。ここでは、成形用のバッグとしてのフッ素ゴムチューブに、繊維強化樹脂製の成形基材を被覆したものを加熱された状態の金型内に配置し、フッ素ゴムチューブの内部に窒素ガスを注入することにより成形素材を金型の内面に押し当てている。窒素ガスの注入前には、真空ポンプによって金型内を所定の真空度にまで減圧するとともに、成形中も真空状態を維持している。金型内の真空度を高めることによって、複雑な形状の中空成形品を成形することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されるような従来の内圧成形法では、窒素ガス等の圧縮空気により付与される内圧は、せいぜい0.5MPa程度であり、成形基材を金型の内面へ押圧する際の押圧力としては不十分である。そのため、中空成形品の隅々まで圧縮空気が十分に行き渡り難く、金型の内面への押圧が不十分となる場合がある。金型の内面への押圧が不十分であると、成形基材同士の間に空隙が発生し易くなり、成形後に成形品にボイドが発生する原因となる。そして、中空成形品にボイドが多く発生すると、その部分での強度を確保することができず、中空成形品の強度が低下してしまう事態が生じる。押圧力が不十分であることによる問題は、金型内を所定の真空度まで減圧した場合であっても生じ得る問題である。
【0006】
本発明は、こうした従来の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、ボイドの発生を抑制して、強度に優れた中空成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の繊維強化樹脂製の中空成形品の成形システムは、前記中空成形品の外殻形状のキャビティを備える金型と、前記金型内に配置されるバッグと、加熱された流体を前記バッグ内に供給する温調循環装置とを備え、前記温調循環装置と前記バッグとの間で、加熱された前記流体としての過熱水蒸気を循環させる。
【0008】
上記の構成によれば、バッグ内に過熱水蒸気を供給しながら繊維強化樹脂製の中空成形品を成形することができるため、成形に必要な温度が得られるだけでなく、圧縮空気を供給する場合に比べてバッグ内に高い圧力を付与することができる。そのため、繊維強化樹脂製の成形基材を金型の内面に強い押圧力で押し付けることが可能となり、成形基材の層間に隙間が発生することが抑制される。これにより、成形品にボイドが発生することが抑制され、強度に優れた中空成形品が得られる。
【0009】
上記の構成において、前記温調循環装置は、過熱水蒸気を生成する加熱装置と過熱水蒸気の温度を検出する温度センサを備え、前記温度センサは、前記加熱装置から前記バッグへの過熱水蒸気の供給側に設けられ、前記温調循環装置は、前記温度センサでの過熱水蒸気の温度の検出値に基づいて、前記加熱装置内の過熱水蒸気の温度を調節する温調手段を有していることが好ましい。
【0010】
上記の構成によれば、成形温度、成形圧力の変動が抑制された状態で、所望の温度、圧力の過熱水蒸気を常にバッグ内に供給することができる。そのため、強化樹脂製の成形基材を金型の内面に常に所望の押圧力で押し付けながら成形することが可能となり、これにより、強度に優れた中空成形品が得られる。
【0011】
上記の構成において、前記温調循環装置は、加圧ポンプをさらに備え、前記加圧ポンプは、前記加熱装置から前記バッグへの過熱水蒸気の供給側であって前記温度センサの上流側に設けられ、前記温調手段は、前記温度センサでの過熱水蒸気の温度の検出値に基づいて、前記加熱装置での加熱温度及び前記加圧ポンプでの供給圧の少なくともいずれかを調節することが好ましい。
【0012】
上記の構成によれば、過熱水蒸気の温度、圧力の管理がし易い。
上記の構成において、前記温調循環装置との間で前記流体としての水を循環させる冷水循環装置を備えていることが好ましい。
【0013】
上記の構成によれば、成形開始時には、温調循環装置を介して冷水循環装置とバッグとの間で水を循環させることができる。そのため、成形前に、温調循環装置の内部やバッグの内部、或いは、冷水循環装置、温調循環装置、及びバッグを繋ぐ流体通路の内部を水で充填することができる。これにより、流体通路等の内部に存在していた空気を容易に排除することができる。また、成形終了時には、成形に使用した過熱水蒸気を、冷水循環装置内の水とともに外部へ排出させることができる。このように、成形開始時の流体の供給や、成形終了時の流体の排出を容易に行うことができる。
【0014】
上記の構成において、前記バッグはシリコン樹脂製であることが好ましい。
シリコン樹脂は、耐熱性に優れているだけでなく、可撓性に優れている。そのため、金型の内面形状が複雑であってもその形状に追随し易く、バッグ内に付与された圧力を成形基材に均等に伝えることができる。また、離型性にも優れているため、成形後に中空成形体から取り出し易い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ボイドの発生が抑制されて、強度に優れた中空成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の中空成形品の成形システムの概略図。
【
図4】金型の短手方向断面図であって、
図3におけるA-A線断面図。
【
図6】成形システムの立ち上げ時のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した中空成形品の成形システムの一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の成形システム1は、冷水循環装置10、温調循環装置20、バッグ30、及び金型40を備えている。
【0018】
本実施形態では、繊維強化樹脂製の中空成形品として、径方向断面が四角形状の長尺筒体を成形する場合について説明する。
図3及び
図4に示すように、成形品は、繊維強化樹脂製のシート状の成形基材60を金型40のキャビティ内に複数層積層し、金型40内で加熱硬化させて成形される。成形基材60を構成する繊維強化樹脂材料の材質は特に限定されない。強化繊維、樹脂とも従来公知のものを使用することができる。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が挙げられる。また、樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0019】
成形システム1は、成形システム1を構成する装置間で、流体としての水を、状態変化させながら流通させるように構成されている。
図1に示すように、冷水循環装置10の内部には水が貯留されている。冷水循環装置10には供給ポンプ11が内蔵されており、供給ポンプ11の供給圧により冷水循環装置10から温調循環装置20に水が供給される。冷水循環装置10は、空冷式であっても水冷式であってもよい。
【0020】
温調循環装置20は、加熱装置21、加圧ポンプ22、及び温度センサ23を備えている。加熱装置21では、冷水循環装置10から供給された水を100℃以上に加熱して、過熱水蒸気を生成する。加圧ポンプ22は、加熱装置21で生成された過熱水蒸気をバッグ30に供給する際の供給圧を調節する。加圧ポンプ22には、過熱水蒸気の供給圧を調節する図示しない圧力調節手段が設けられている。温度センサ23は、加熱装置21で生成された過熱水蒸気の温度を検出する。
【0021】
バッグ30は、成形に先立って金型40の内部に配置される。成形時には、バッグ30の内部に、加熱装置21で生成された過熱水蒸気が加圧ポンプ22を介して供給されるとともに、温調循環装置20との間で過熱水蒸気が循環される。そのため、バッグ30は、耐熱性及び可撓性に優れた合成樹脂で筒状に形成されている。合成樹脂の材質は時に限定されないが、成形時に金型40のキャビティ形状に追随し易く、成形時の過熱水蒸気の温度に対して強度を保持できるといった点から、可撓性及び耐熱性に優れたシリコン樹脂製であることが好ましい。
【0022】
図2に示すように、金型40は、上型41及び下型42を備えており、型締めによって中空成形品の外殻形状に沿った長尺状のキャビティが内部に形成される。上型41には、凹部41a、凹部41b、及び凹部41cが形成され、下型42には、凹部41a、凹部42b、及び凹部42cが形成されている。凹部41a及び凹部42aは、型締めによって中空成形品の外殻形状を形成し、成形時に成形基材が配置される。凹部41b及び凹部42bは、型締めによって、後に説明するアダプタ50の外殻形状を形成し、成形時にアダプタ50が配置される。凹部41c及び凹部42cは、成形時に、成形基材及びアダプタ50に被覆されていない部分のバッグ30が配置される。
【0023】
図2及び
図3に示すように、上型41の長手方向両端部には、温調循環装置20との間で過熱水蒸気を循環させる際の通路となる流体通路43が形成されている。一つの流体通路43の一端側は、上型41の長手方向端面に開口し、他端側は、上型41の凹部41bの内面に開口している。金型40の両端部の流体通路43のうちの一方は、温調循環装置20からの過熱水蒸気の供給通路を構成し、他方は、バッグ30からの過熱水蒸気の排出通路を構成している。
【0024】
図2及び
図4に示すように、下型42の上面には、凹部42a、42b、42cを囲むように、環状の溝44が凹設されている。溝44には、Oリング45が嵌め込まれており、型締め時に上型41との間でOリング45が圧縮変形されて、キャビティ内の密閉性が確保される。
【0025】
図3及び
図5に示すように、成形時には、金型40内に、バッグ30を固定するとともに流体通路43とバッグ30の内部とを連通させるアダプタ50が配置される。アダプタ50は、金型40の長手方向両端部のそれぞれに、相対するような状態で配置される。
【0026】
図5に示すように、アダプタ50は、アダプタ本体51、板バネ52、及び締付部材53を備えている。アダプタ本体51には、基部54と筒部55が形成されている。ここで、説明の便宜上、アダプタ本体51において筒部55が形成された側をアダプタ50の上方、基部54が形成された側を下方とする。
【0027】
アダプタ本体51には、過熱水蒸気の通路となる流体通路56が形成されている。流体通路56の一端側は、アダプタ本体51の側面に開口し、他端側は、アダプタ本体51の上面に開口している。
図3に示すように、アダプタ50を金型40の凹部41b、42bに配置した状態では、一端側の開口が上型41の流体通路43の位置と合致し、他端側の開口がバッグ30に向かって開口する。金型40の長手方向両端部の配置されるアダプタ50のうち、一方のアダプタ50では、アダプタ本体51の流体通路56は、温調循環装置20からの過熱水蒸気の供給通路を構成し、他方のアダプタ50では、バッグ30からの過熱水蒸気の排出通路を構成することになる。
【0028】
図5に示すように、筒部55は、同一中心をなす円筒状の内筒部57及び外筒部58を備えた2重筒状に形成されている。内筒部57の外周面は上下方向に同径となるように形成されている一方で、内筒部57の内周面は、上方ほど拡径するようなテーパ形状に形成されている。これにより、アダプタ50を金型40に配置すると、流体通路56は、
図3に示すように、バッグ30に向かって拡径した形状となる。また、外筒部58の内周面は上方ほど拡径するテーパ形状に形成されている。外筒部58の外周面は上下方向に同径となるように形成され、締付部材53が螺合する螺条が形成されている。
【0029】
図3及び
図5に示すように、板バネ52は、内筒部57の外周面と外筒部58の外周面との間の空間に配置される。成形時には、板バネ52の内周側にバッグ30の端部を配置して、バッグ30を板バネ52とともに内筒部57に外嵌する。板バネ52の外周面は、上方ほど拡径するテーパ形状に形成されている。そのため、板バネ52が内筒部57と外筒部58との間の空間内に挿入されると、板バネ52の外周面が外筒部58のテーパ形状の内周面に押されて、板バネ52によりバッグ30の端部が締め付けられて、内筒部57の外周面に押し付けられる。これにより、バッグ30内の気密性が保持される。
【0030】
次に、成形システム1による中空成形品の成形方法について、作用とともに説明する。
中空成形品の成形方法は、バッグ30にアダプタ50を取り付ける前工程、金型40のキャビティ内に繊維強化樹脂製の成形基材60を配置する成形基材配置工程、下型42内にバッグ30を配置して型締めする型締め工程、成形システム1を起動する準備工程、成形システム1により成形体を成形する成形工程、成形システム1を終了する終了工程、及び成形体を取り出す後工程を備えている。
【0031】
前工程では、金型40のキャビティの長手方向の長さと略同一の長さの筒状のバッグ30を準備して、その両端部のそれぞれにアダプタ50を取り付ける。バッグ30の両端部のそれぞれから締付部材53を外嵌した後、バッグ30の両端部のそれぞれに板バネ52を外嵌する。続いて、バッグ30の両端部のそれぞれで、板バネ52をバッグ30の両端部とともにアダプタ本体51の内筒部57と外筒部58との間の空間に嵌め込む。そして、先に概観されていた締付部材53を、両端部に取り付けられたアダプタ本体51の外筒部58の外周面から締め付ける。これにより、バッグ30の両端部にアダプタ50が取り付けられ、バッグ30の内部空間がアダプタ50に形成された流体通路56を介して外部と連通した状態となる。
【0032】
成形基材配置工程では、下型42の凹部42aに成形基材60を配置する。
図4に示すように、下型42に配置する成形基材60は、あらかじめ凹部42aの長手方向の長さと略同一の長さであって、金型40のキャビティの短手方向の内周面の長さより少し短い形状に切断されたものを複数枚準備して順に積層する。成形基材60における強化繊維の配向角度は、成形体に要求される性状に応じて適宜調整すればよい。これは、後に説明する型締め工程の際に上型41側に配置する成形基材60についても同様である。
【0033】
型締め工程では、下型42の内部に、アダプタ50が取り付けられたバッグ30を配置する。続いて、バッグ30の上方から成形基材60を配置する。
図4に示すように、ここでの成形基材60は、あらかじめ凹部41aの長手方向の長さと略同一の長さであって、凹部41aの短手方向の長さより少し短い形状に切断されたものを複数枚準備して順に積層する。この状態で、下型42の上に上型41を配置し、図示しない締付具により型締めする。
図4に示すように、金型40を型締めした状態では、下型42の溝44に嵌め込まれたOリング45が圧縮されて上型41の下面に押し付けられ、金型40のキャビティ内が気密状態に保持される。
【0034】
図1に示すように、成形システム1を起動する準備工程では、成形システム1の供給ポンプ11及び加圧ポンプ22をONにするとともに、加熱装置21における冷水循環装置10側の流体通路に設けられた排出口21aを開放する。準備工程では、加熱装置21での加熱は行わない。供給ポンプ11の供給圧によって冷水循環装置10内の水が加熱装置21に供給されるとともに、加圧ポンプ22の供給圧によって加熱装置21内の水がバッグ30内に供給される。また、バッグ30の水は、加熱装置21を介して冷水循環装置10へ戻る。これにより、冷水循環装置10、温調循環装置20、金型40内のバッグ30との間で流体が循環する第1ルートR1が形成される。第1ルートR1が選択されたときの供給ポンプ11及び加圧ポンプ22の供給圧は同程度であり、例えば0.25MPa以上であることが好ましい。
【0035】
図6に示すように、準備工程では、ステップS11で、第1ルートR1が選択され、ステップS12で、流体としての水が冷水循環装置から供給される。供給された水は第1ルートR1で循環することにより、成形前に、温調循環装置20の内部やバッグ30の内部、或いは、冷水循環装置10、温調循環装置20、及びバッグ30を繋ぐ流体通路の内部が水で充填される。これにより、流体通路等の内部に存在していた空気が排除される。
【0036】
図7に示すように、成形システム1により成形体を成形する成形工程では、ステップS21で、供給ポンプ11をOFFにするとともに、加熱装置21における冷水循環装置10側の流体通路に設けられた排出口21aを閉塞する。これにより、加熱装置21内の流体が加圧ポンプ22の供給圧によってバッグ30内に供給され、温調循環装置20と金型40内のバッグ30との間で流体が循環する第2ルートR2が形成される。成形工程は、第2ルートR2を選択して行う。
【0037】
成形工程では、成形に先立ち、ステップS22で、第2ルートR2上の加圧ポンプ22をOFFにする。ステップS23では、この状態で加熱装置21での加熱を開始し、加熱装置21内の水から所定温度、所定圧力の過熱水蒸気を生成する。過熱水蒸気の温度は、繊維強化樹脂製の成形基材60を構成する熱硬化性樹脂の熱硬化温度より少し高い温度であることが好ましく、例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、40~140℃程度であることが好ましい。また、過熱水蒸気の圧力は、1.0~1.8MPa程度であることが好ましい。
【0038】
加熱装置21内の過熱水蒸気が所定温度に達したら、ステップS24で、加圧ポンプ22をONにして、過熱水蒸気をバッグ30内へ供給するとともに、第2ルートR2を介して過熱水蒸気を循環させる。このときの加圧ポンプ22の供給圧は、0.85MPa以上であることが好ましい。また、過熱水蒸気の流速は、金型40の入口と出口での過熱水蒸気の温度が同程度になるように設定すればよい。過熱水蒸気が供給されたバッグ30では、過熱水蒸気の圧力によって内圧が高まって、成形基材60を金型40のキャビティの内面に押し付ける。また、過熱水蒸気の熱によって成形基材60を構成する熱硬化性樹脂が熱硬化を始める。なお、本実施形態の成形装置では、金型40は加熱されていない。
【0039】
図7に示すように、成形システム1は、加熱装置21からバッグ30へ供給される過熱水蒸気の温度の検出値に基づいて加熱装置21内の過熱水蒸気の温度を調節する調節手段を有している。調節手段は、一定時間ごとに温度センサ23で過熱水蒸気の温度を検出し、温度の検出値に基づいて、加熱装置21内の過熱水蒸気の温度を調節する。
【0040】
ステップS25では、温度センサ23で過熱水蒸気の温度を検出する。ステップS26では、過熱水蒸気の温度の検出値を過熱水蒸気の温度の目標値と比較する。そして、検出値が目標値に対して所定以上離れていると判断した場合には、ステップS27で目標値より低いかどうかを判断する。検出値が目標値より低いと判断された場合、つまり、目標値より所定以上低いと判断された場合には、ステップS28で加熱装置21での加熱をそのまま続行する。一方、目標値より所定以上高いと判断された場合には、ステップS29で、一時的に第1ルートR1を選択し、冷水循環装置10から温調循環装置20への水の供給によって過熱水蒸気の温度を調節する。
【0041】
また、ステップS26で検出値が目標値に対して所定以上離れておらず、許容範囲であると判断した場合にも、その状態を継続する。そして、ステップS30では、過熱水蒸気が所定温度に達して第2ルートR2を介した成形を開始した後所定時間経過したかどうかを判断する。所定時間経過していないと判断された場合には、ステップS25に戻って、過熱水蒸気の温度の検出を所定時間ごとに続行し、所定時間経過したと判断した場合には、成形工程を終了する。なお、ステップS30での所定時間は、成形基材60を構成する熱硬化性樹脂の硬化温度により適宜設定すればよい。
【0042】
成形工程を経て、金型40内では、成形基材60を構成する熱硬化性樹脂が熱硬化して中空成形体が成形される。バッグ30内には、過熱水蒸気によって、熱硬化性樹脂が熱硬化するために必要な温度が得られるため、過熱水蒸気による熱のみで、成形体が成形される。また、過熱水蒸気による高い圧力によって成形基材60が金型40のキャビティ内面に押し付けられる。バッグ30の高い内圧によって複数層の成形基材60の間に隙間が形成することが抑制され、成形された中空成形体にボイドが発生することが抑制される。
【0043】
図8に示すように、成形システム1を終了する終了工程では、ステップS31で、成形システム1での第1ルートR1を選択する。具体的には、供給ポンプ11及び加圧ポンプ22をONにするとともに、加熱装置21における冷水循環装置10側の流体通路に設けられた排出口21aを開放する。加熱装置21、バッグ30、及び第2ルートR2の流体通路内に存在する過熱水蒸気は、加熱装置21の排出口21aから排出されて、冷水循環装置10に運ばれる。過熱水蒸気は、冷水循環装置10までの流体通路内で徐々に排熱して温度が低下し、冷水循環装置10では、冷水循環装置10内の水と適宜混合して外部に排出される。
【0044】
後工程では、金型40を型開きして、金型40の内部から、アダプタ50が取り付けられたバッグ30とともに成形体を取り出す。締付部材53を緩めて、バッグ30の両端部からアダプタ本体51及び締付部材53を取り外す。これにより、バッグ30の周囲に成形体が成形され、バッグ30の両端部に板バネ52が取り付けられた状態のものが得られる。必要に応じて、成形体内部からバッグ30を取り除くか、或いは、成形体の両端縁でバッグ30を切り落とすことにより、成形体が得られる。
【0045】
次に、上記実施形態の成形システム1、中空成形体の成形方法の効果について説明する。
(1)上記実施形態の成形システム1は、中空成形品の外殻形状のキャビティを備える金型40と、金型40内に配置されるバッグ30と、過熱水蒸気をバッグ30内に供給する温調循環装置20を備えている。そして、温調循環装置20とバッグ30との間で、過熱水蒸気を循環させている。
【0046】
そのため、中空成形品の成形に必要な温度が得られるだけでなく、バッグ30内に過熱水蒸気に基づく高い圧力を付与することができる。流体として圧縮空気を供給する場合に比べて、成形基材60をより強い押圧力で金型40の内面に押し付けることができる。これにより、複数層の成形基材60の層間に隙間が発生することが抑制され、中空成形品にボイドが発生することが抑制される。強度に優れた中空成形品が得られる。
【0047】
(2)温調循環装置は、過熱水蒸気を生成する加熱装置21と過熱水蒸気の温度を検出する温度センサ23を備え、温度センサ23で所定時間ごとに過熱水蒸気の温度を検出して、その検出値に基づいて、加熱装置21内の過熱水蒸気の温度を調節している。
【0048】
そのため、成形温度、成形圧力の変動が抑制された状態で、所望の温度、圧力の過熱水蒸気を常にバッグ30内に供給することができる。
(3)上記実施形態の成形システム1は、温調循環装置20との間で流体を循環させる冷水循環装置10を備えている。
【0049】
そのため、成形開始時には、温調循環装置20を介して冷水循環装置10とバッグ30との間で水を循環させることができるため、成形前に、各装置の内部や流体通路の内部を水で充填することができる。また、成形終了時には、成形工程で発生させた過熱水蒸気を、冷水循環装置10内の水とともに外部へ排出させることができる。このように、成形開始時の流体の供給や、成形終了時の流体の排出を容易に行うことができる。
【0050】
(4)温調循環装置20は、温度センサ23での過熱水蒸気の温度の検出値に基づいて、加熱装置21での加熱を続行するか、冷水循環装置10から水が供給される第1ルートR1を選択するかの判断をしている。
【0051】
過熱水蒸気の温度が高い場合には、冷水循環装置10から水を供給可能としているため、過熱水蒸気の温度、圧力の管理を容易に行うことができる。
(5)バッグ30はシリコン樹脂製である。
【0052】
そのため、可撓性に優れており、金型40の内面形状が複雑であってもその形状に追随し易い。バッグ30内に付与された圧力を成形基材60に均等に伝えることができる。これにより、中空成形品のボイドの発生を抑制することができる。
【0053】
また、例えば、中空成形体として曲管を成形するような場合、短い側の周壁の長さに合わせてバッグ30を形成すれば、バッグ30は、成形時に長い側の周壁に沿って伸び易い。そのため、短い側の周壁でのバッグ30のたるみを抑制することができる。これにより、成形品の肉厚にばらつきが生じることが抑制される。
【0054】
さらに、シリコン樹脂は耐熱性、離型性にも優れているため、成形時に強度が保持され、成形後に中空成形体から取り出し易い。
(6)下型42の溝44には、Oリング45が嵌め込まれており、型締め時に上型41との間でOリング45が圧縮変形される。
【0055】
そのため、成形時にバッグ30から流体が漏れるような事態が生じても、流体が金型40の外部に排出されることが抑制される。
(7)バッグ30の両端部は、アダプタ50に設けられた板バネ52及び締付部材53によって締め付けられる。
【0056】
そのため、バッグ30内に高圧の過熱水蒸気が供給されても、バッグ30からの過熱水蒸気の漏れが抑制された状態を実現することができる。また、アダプタ50に板バネ52が設けられていることで高圧に耐えられるため、中空成形品にボイドが発生することを抑制することができる。
【0057】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0058】
・成形基材配置工程と型締め工程は上記実施形態のものに限定されない。例えば、アダプタ50が取り付けられたバッグ30の周面に成形基材を巻き付け、成形基材が巻き付けられたバッグ30を下型42の内部に配置して、上型41で型締めするようにしてもよい。
【0059】
・成形工程では、バッグ30に供給される過熱水蒸気の温度を所定時間ごとに検出し、過熱水蒸気の温度の目標値を比較して、加熱装置21における加熱温度を調節した。過熱水蒸気の温度を調節する調節手段は、これに限定されず、加圧ポンプ22の供給圧を調節することで行ってもよい。また、加圧ポンプ22の供給圧の調節は、加熱装置21における加熱温度の調節と併せて行い、加圧ポンプ22での供給圧の調節により、過熱水蒸気の温度の微調整を行うようにしてもよい。この場合、過熱水蒸気の温度の検出値が目標値より所定以上高いと判断されたときに、加圧ポンプ22を緩める調節を行い、過熱水蒸気の温度の検出値が目標値より所定以上低いと判断されたときに、加熱装置21の加熱温度を上げるようにしてもよい。
【0060】
・上記実施形態では、加熱装置21における加熱温度の調節を、ステップS27で目標より低いと判断された場合には、そのまま加熱を続行し、高いと判断された場合には、一時的に第1ルートR1を選択して水を供給するようにした。調節手段はこれに限定されず、例えば、ステップS27で目標より低いと判断された場合には、加熱の設定温度を上げ、高いと判断された場合には、加熱の設定温度を下げるようにしてもよい。
【0061】
・成形工程で過熱水蒸気量が不十分となった場合に、一時的に第1ルートR1を選択して、冷水循環装置10から温調循環装置20へ水を供給するようにしてもよい。
・成形工程では、金型40を加熱するようにしてもよい。
【0062】
・金型40の形状は、中空成形体の形状に基づいて適宜変更可能である。
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)繊維強化樹脂製の中空成形品の成形システムであって、前記中空成形品の外殻形状のキャビティを備え、上型及び下型を有する金型と、前記金型内に配置されるバッグと、前記バッグとの間で過熱水蒸気を循環させる温調循環装置とを備え、前記上型及び下型の少なくとも一方には、前記キャビティを囲むように溝が形成され、前記溝内にOリングが配設されていることを特徴とする中空成形品の成形システム。
【0063】
(ロ)内筒部及び外筒部を備えた二重管構造を有するとともに、該内筒部内に前記バッグ内へ過熱水蒸気を供給する流体通路が形成されたアダプタを備え、前記アダプタには、前記内筒部と前記外筒部との間の空間に挿入されて取り付けられた前記バッグを、前記内筒部の外周面に付勢する板バネが設けられていることを特徴とする前記(イ)に記載の中空成形品の成形システム。
【0064】
(ハ)金型のキャビティ内に繊維強化樹脂製の成形基材を配置する成形基材配置工程と、前記金型の内部にバッグを配置して型締めする型締め工程と、前記バッグに過熱水蒸気を供給して、前記バッグからの熱及び圧力によって前記成形基材を前記金型の内面に押し当てながら加熱する成形工程を備えていることを特徴とする中空成形品の成形方法。
【0065】
(ニ)加熱装置内で水を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成工程を備え、前記成形工程では、前記加熱装置と前記バッグとの間で過熱水蒸気を循環させることを特徴とする前記(ハ)に記載の中空成形品の成形方法。
【実施例】
【0066】
本発明の成形システム1によって中空成形品を成形した実施例について説明する。
<中空成形品の成形>
上記成形方法に従って中空成形品の試作品1を成形した。試作品1は、径方向断面が四角形状の長尺筒体である。成形基材60は、炭素繊維にエポキシ樹脂が含浸されたシート状基材であるシートプリプレグ(P3252S-10、東レ株式会社製)を使用した。シートプリプレグを8層積層した状態で、金型40内に配置した。成形システム1の加熱装置21では、冷水循環装置10から供給された水を120℃となるまで加熱した。120℃に達したことを確認後、成形システム1の第2ルートR2を選択して、バッグ30内に過熱水蒸気を供給した。金型40の流体通路43のうち過熱水蒸気の供給通路の入口での過熱水蒸気の温度と、過熱水蒸気の排出通路の出口での過熱水蒸気の温度を測定したところ、ともに約140℃であった。これにより、バッグ30内の過熱水蒸気の温度が約140℃であることを確認した。また、過熱水蒸気が循環しているバッグ30内の内圧は1~1.5MPaに保たれていた。加熱装置21での過熱水蒸気の温度が140℃となり、第2ルートR2を介した成形を開始してから90分経過後に成形工程を終了した。その後、アフターキュア等の後工程を経て試作品1を得た。
【0067】
また、金型40が加熱された状態で成形工程を行ったものを試作品2とした。金型40の加熱温度は、140℃に設定した。金型40を加熱したこと以外は、試作品1と同様にして成形した。
【0068】
試作品1の成形方法において、加熱流体を過熱水蒸気に代えて空気を循環させることにより成形工程を行ったものを試作品3とした。バッグ30内の空気の温度は約140℃であり、バッグ30内の内圧は約0.5MPaであった。
【0069】
<ボイド解析方法>
試作品1~3中のボイドを解析して、ボイド率(%)を算出した。ボイドの解析には、マイクロフォーカスX線発生装置であるTOSCANER-32300μFD(東芝ITコントロールシステム株式会社製)を使用した。X線CTスキャンによって得られた断面画像を解析して、試作品1~3中のボイド率(%)を算出した。ボイド率(%)は、中空成形品の体積(cm3)とボイド体積(cm3)を測定し、以下の式に従って算出した。その結果を表1に示した。
【0070】
ボイド率(%)=(ボイド体積/中空成形品の体積)×100 ・・・・・ (1)
【0071】
【表1】
表1のボイド率(%)の結果より、加熱流体として空気を循環させて成形した試作品3に対して、空気に代えて高い内圧が得られる過熱水蒸気を循環させて成形した試作品2では、ボイド率(%)の顕著な減少が見られた。試作品3では筒状の周壁全体に亘って多数のボイドが確認されたが、試作品2では、周壁全体に亘るボイドは確認されなかった。
【0072】
金型40を加熱せず、バッグ30内の過熱水蒸気の熱及び内圧のみで成形した試作品1でも、ボイド率(%)は試作品3に比べて顕著な減少が見られた。試作品1でも、周壁全体に亘るボイドは確認されなかった。試作品1では、金型40を加熱していない分、成形時間が試作品2に比べて少し長くなるが、ボイドの発生に関しては、試作品2との間で大きな違いは観察されなかった。過熱水蒸気をバッグ30内に循環させるだけでも、強度に優れた成形品を成形することができることがわかった。
【符号の説明】
【0073】
1…成形システム、10…冷水循環装置、11…供給ポンプ、20…温調循環装置、21…加熱装置、22…加圧ポンプ、23…温度センサ、30…バッグ、40…金型、41…上型(金型)、42…下型(金型)、50…アダプタ、60…成形素材。