(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】ガス状硫化水素を水素ガスおよび元素硫黄に分解するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/52 20060101AFI20220602BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20220602BHJP
C01B 17/16 20060101ALI20220602BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220602BHJP
C25B 11/04 20210101ALI20220602BHJP
C25B 11/073 20210101ALI20220602BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20220602BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20220602BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20220602BHJP
C02F 1/461 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
B01D53/52 200
C01B3/04 Z ZAB
C01B17/16 Z
C25B9/00 Z
C25B11/04
C25B11/073
C25B1/02
B01D53/78
B01D53/14 200
C02F1/461 101Z
(21)【出願番号】P 2020531418
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(86)【国際出願番号】 TR2017050724
(87)【国際公開番号】W WO2019035789
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-11-24
(32)【優先日】2017-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(73)【特許権者】
【識別番号】520056084
【氏名又は名称】テュルキエ・ペトロル・ラフィネリレリ・アノニム・シルケティ・テュプラシュ
【氏名又は名称原語表記】TURKIYE PETROL RAFINERILERI ANONIM SIRKETI TUPRAS
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】ジュネイト・カラカヤ
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05648054(US,A)
【文献】特開昭59-082925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0188164(US,A1)
【文献】特開2006-307333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34- 53/73
B01D 53/74- 53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
B01D 53/14- 53/18
C02F 1/46- 1/48
C25B 1/00- 9/77
C25B 13/00- 15/08
C25B 11/00- 11/097
C01B 3/00- 6/34
C01B 15/00- 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状硫化水素の水素ガスと元素硫黄への分解を提供する分解システムであって、
-供給源からのH
2Sガスの供給を、気泡の形態で該システムに供給する少なくとも1つのポンプ、
-pHが4未満であり、水中でのH
2Sガスのイオン化を提供し、少なくとも1つのレドックス対を含む、酸性水相、
-および水に完全に不溶であり、水の密度を超える密度を有し、元素硫黄を溶解できる有機相(2b)を含む少なくとも1つのカラム状反応器(2)であって、該有機相(2b)は酸性水相の下にとどまり、該
水相と
有機相とは、密度の違いにより互いに混合せず、したがって互いに接触する界面を形成し、ポンプ(1)を通じて有機相(2b)に運ばれるH
2S気泡が元素硫黄に変換される酸化反応が界面(2c)で行われるカラム状反応器、
-カラム状反応器(2)で生成された元素硫黄が輸送され、結晶化されてシステムから取り出される少なくとも1つの冷却ユニット(3)、
-少なくとも1つのアノード電極を含む少なくとも1つの第1チャンバ(5A)、少なくとも1つのカソード電極を含む少なくとも1つの第2チャンバ(5B)、および第1チャンバ(5A)を第2チャンバ(5B)から隔離する少なくとも1つの膜(5C)を含む少なくとも1つの
光電気化学又は電気化学セル(5)であって、カラム状反応器(2)中の酸性水相(2a)が輸送され、レドックス対の酸化およびH
+のH
2への還元反応が行われ、還元反応後、酸性水相(2a)がカラム状反応器(2)に返送される
光電気化学又は電気化学セル、
-およびレドックス対の酸化およびH
+のH
2への還元反応のために電極の少なくとも1つに伝導される必要な電位差を生成する少なくとも1つのエネルギー源(6)
を含むことを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記気泡がマイクロバブルの形態であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
結晶化された元素硫黄が前記システムから取り出される少なくとも1つのフィルタ(4)を含むことを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記エネルギー源(6)が電源であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記エネルギー源(6)が
UV光源又は可視光源であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記レドックス対がI
3/I
-、[Fe(CN)
6]
3-/[Fe(CN)
6]
4-、Co(III)(byp)
3/Co(II)(byp)3、金属塩および/またはメタロセンであることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記金属塩が、Fe
3+/Fe
2+、Co
3+/Co
2+、Mn
3+/Mn
2+およびCe
3+/Ce
4+カチオンおよびSO
4
2-、NO
3
-、Cl
-アニオンを含むことを特徴とする、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記レドックス対がFe
2+/Fe
3+であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記酸性水相(2a)の酸源が、硫酸、塩酸および/または硝酸であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記有機相(2b)が、純粋なクロロベンゼン、純粋な
クロロトルエンおよび/またはそれらのベンゼンまたは二硫化炭素との混合物であることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記アノード電極および/または前記カソード電極が、グラファイト、ガラス状炭素、白金、パラジウム、金属、金属酸化物、金属亜硫酸塩、金属亜リン酸塩、金属セレン化物および半導体を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記金属が、Ag、Fe、Co、Ni、MoまたはWであることを特徴とする、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記アノード電極および/または前記カソード電極の表面が、SiO
2および/またはAl
2O
3でコーティングされていることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記アノード電極および/または前記カソード電極が、シリコン、AgS、CdSe、CdS、CdTeおよびCu
2Oの光活性基板上の、白金、パラジウム、金属亜硫酸塩、金属亜リン酸塩、金属セレン化物を含むハイブリッド電極を含む群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載のシステム。
【請求項15】
前記金属が、Fe、Co、Ni、MoまたはWであることを特徴とする、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記フィルタ(4)が真空フィルタであることを特徴とする、請求項3に記載のシステム。
【請求項17】
ガス状硫化水素の水素ガスと元素硫黄への分解を提供する分解方法であって、
-供給源から受容したガス状H
2Sを、少なくとも1つのポンプ(1)を通じてカラム状反応器(2)に提供される有機相(2b)に分配することによってH
2S気泡を生成する工程、
-該H
2S気泡を、少なくとも1つのレドックス対を含み、4未満のpHを有し、水中でのH
2Sのイオン化を提供する酸性水相(2a)と、水の密度を超える密度を有し、元素硫黄を溶解できる有機相(2b)との間の界面(2c)において酸化することにより、H
2Sを元素硫黄とH
+イオンとに分解する工程、
-H
2Sから分解したH
+イオンを酸性水相(2a)に輸送する工程、
-H
2Sから分解した元素硫黄を有機相(2b)に溶解する工程、
-溶解した元素硫黄で飽和した有機相(2b)を冷却ユニット(3)を通じて冷却して結晶化し、次いでシステムから取り出す工程、
-元素硫黄から精製された有機相(2b)をカラム状反応器(2)に戻す工程、
-H
2SガスとH
2Sの酸化状態よりもより高い酸化状態を有する酸性水相のレドックス対の1つとの界面でのレドックス反応によってH
+イオンを酸性水相(2a)に渡す工程、
-酸性水相(2a)を
光電気化学又は電気化学セル(5)の第1チャンバ(5A)に輸送する工程、
-より低い酸化状態を有する第1チャンバ(5A)に輸送された酸性水相(2a)に存在するレドックス対の1つを酸化再生に供する工程、
-酸性水相(2a)に存在するH
+イオンを、
光電気化学又は電気化学セル(5)に存在する膜(5C)を通じた拡散によって第2チャンバ(5B)に渡す工程、
-第2チャンバ(5B)に渡されたH
+イオンをH
2ガスに還元する工程、
-生成されたH
2ガスを
光電気化学又は電気化学セル(5)から取り出す工程、
-再生された酸性水相(2a)をカラム状反応器(2)に戻し、H
2Sを元素硫黄に酸化する工程
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項18】
前記冷却ユニット(3)で結晶化された前記元素硫黄が、少なくとも1つのフィルタ(4)を通過し、前記システムから除去されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に石油精製所で生成されたガス状硫化水素(H2S)を水素ガスと元素硫黄とに分解するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化水素(H2S)は、石油および天然ガスの処理分野および石油精製所で広く見られるガスである。H2Sは、天然に原油(硫黄原油)だけでなく、天然ガスおよび油井を伴う油田、石油精製所、原油/天然ガスの輸送に使用されるパイプラインにも存在する。また、水素化分解、加水分解および元素硫黄の生成など、精製所でのさまざまなプロセスの結果としても生成される。標準燃料(例えば、EURO6燃料)の特性を達成するために、精製所の硫黄除去ユニットで水素ガスを使用して硫黄が除去され、結果として大量の硫化水素(H2S)が放出される。
【0003】
硫化水素(H2S)は、日常の作業中に予想外に発生する有毒で可燃性のガスであり、石油およびガス産業で最も危険なガスの1つである。H2Sは無色で目に見えないガスであり、その臭いによってのみ知覚され得る。しかし、H2Sを含む空気を吸入すると、嗅覚が急速に失われるため、その臭いはこのガスにとって信頼できる因子ではない。曝露量次第では、ガス状のH2Sは意識喪失および突然死を引き起こす。したがって、放出されたH2Sを制御する必要がある。さらに、H2Sは2つの経済的に価値のある元素(HおよびS)を有する。したがって、望ましくない副産物であるH2Sの分解は、精製所にとって有利である。H2Sから得られる元素の1つである水素は、水素化、脱硫および水素化分解などの重要なプロセスにおいて精製所で使用され、一般には天然ガスの改質反応から得られる。
【0004】
ガス状H2Sを硫黄に変換するために使用される最も一般的な方法は、クラウスプロセスである。このプロセスにより、H2Sは空気との部分酸化反応により、ほぼ完全に元素硫黄と水とに分解される。しかしながら、このプロセスの主な欠点は、H2Sに蓄積されたエネルギーがH2Oの生成によって部分的に浪費されることである。したがって、得られる収率は十分ではない。クラウスプロセスのもう1つの欠点は、環境に有害なガスの発生である。このプロセスにより、二酸化硫黄(SO2)の排出および相当量の二酸化炭素(CO2)の排出を引き起こす排ガスの量が増加する。したがって、クラウスプロセスが広く使用されている場合でも、環境にかなりの危険がある。
【0005】
これらすべての欠点に関して、元素硫黄を得るための新しい方法が探究されてきた。したがって、従来の化学プロセスと比較して、潜在的効率が高く、副産物の生成が少ないこのような電気化学的または光化学的プロセスを開発する試みがなされてきた。このように、風力および太陽エネルギーなどの環境に優しいプロセスから生成される電気エネルギーの使用が提供され、温室効果ガスの排出の削減に貢献することを目的としてきた。
【0006】
特許文献米国特許出願公開第20060275193号明細書は、電気化学的方法によるH2Sの分解に関し、硫黄イオンを含む溶液は、溶液を酸化ガスと接触させることによりユニット内で酸化され、元素硫黄が沈殿によって液相から分離される。次に、特許文献米国特許第4526774号明細書は、ヨウ化物の電気化学的酸化に基づいて水素および元素硫黄を生成するための間接硫化水素変換プロセスに関する。このプロセスの結果、硫黄は可塑性の形態で得られ、結晶化によってシステムから取り出される。しかしながら、そのような光/電気化学的方法は酸性媒体中で行われる。生成された硫黄は酸性条件で安定しているという事実にもかかわらず、酸性条件での酸性H2Sガスの溶解度は非常に低い。このため、硫黄の蓄積、触媒表面の被毒、およびゴム状硫黄の形成を引き起こすいくつかの好ましくない条件が発生し、得られた元素硫黄をシステムから円滑に除去することができない。したがって、そのようなH2S分解システムは、長期にわたる持続的な運転を提供できない。
【0007】
従来技術はさらに、塩基性媒体中で行われる光/電気化学的方法を含む。特許文献米国特許第5908545号明細書はそのような光/電気化学的方法の一例であり、硫化水素から水素および硫黄を得るためのプロセスが行われ、硫化水素が塩基性溶液と混合され、この混合物は、アノードとカソードとを含む電解セルに運ばれる。また、塩基性媒体で行われるそのようなプロセスは、元素硫黄の安定性の問題を伴う。塩基性条件下では、酸性のH2Sがイオン化されてS2
-に変換されるという事実にもかかわらず、OH-と化学的に反応して酸化されるまたは副産物を生成し、理想的な分解プロセスを達成できない。さらに、分解に必要なセル電圧が高いという事実により、そのようなプロセスはエネルギー消費が高く、したがって効率が低くなる。さらに、分解に使用されるアノードの表面は、溶解したS2
-によって被毒されるため、長期にわたる実験を行うことはできない。したがってこれにより、変換プロセスで別の望ましくない状態が生じる。
【発明の概要】
【0008】
本発明により、ガス状硫化水素(H2S)を水素ガスと元素硫黄とに分解するための分解システムが開発され、このシステムは、供給源からH2Sガスを取得し、気泡の形態でシステムに供給する少なくとも1つのポンプ、pHが4未満であり、水中でH2Sガスのイオン化を提供し、少なくとも1つのレドックス対を有する、密度の違いのために互いに混合せず、したがって互いに接触する界面を形成する酸性水相、および水の密度を超える密度を有し、元素硫黄を溶解できる有機相を含む少なくとも1つのカラム状反応器であって、ポンプを通じて有機相に運ばれたH2S気泡が元素硫黄に変換される酸化反応がその界面で行われるカラム状反応器、カラム状反応器で生成された元素硫黄が輸送され、結晶化されてシステムから取り出される少なくとも1つの冷却ユニット、少なくとも1つのアノード電極を含む少なくとも1つの第1チャンバ、少なくとも1つのカソード電極を含む少なくとも1つの第2チャンバ、および第1チャンバを第2チャンバから隔離する少なくとも1つの膜を含む少なくとも1つの光電気化学又は電気化学セルであって、ここにカラム状反応器中の酸性水相が輸送され、レドックス対の酸化およびH+のH2への還元反応が行われ、還元反応後、酸性水相がカラム状反応器に返送される光電気化学又は電気化学セル、およびレドックス対の酸化およびH+のH2への還元反応のために電極の少なくとも1つに伝導される必要な電位差を生成する少なくとも1つのエネルギー源を含む。
【0009】
また、本発明に従ってH2S分解方法が開発され、この方法は、供給源から取得したH2Sガスを少なくとも1つのポンプを通じてカラム状反応器内に提供される有機相に分配することによりH2S気泡を生成する工程、pHが4未満であり、水中でH2Sガスをイオン化するための少なくとも1つのレドックス対を含む酸性水相と、水の密度を超える密度を有し、元素硫黄を溶解できる有機相との界面においてH2S気泡を酸化することにより、H2Sを元素硫黄とH+イオンとに分解する工程、H2Sから分解したH+イオンを酸性水相に輸送する工程、有機相でH2Sから分解した元素硫黄を溶解する工程、溶解した元素硫黄で飽和した有機相を冷却ユニットを通じて冷却して結晶化し、次いでシステムから取り出す工程、元素硫黄から精製された有機相をカラム状反応器に戻す工程、H2Sガスと、H2Sの酸化状態よりも高い酸化状態がを有する酸性水相で提供されるレドックス対の1つとの間の界面でのレドックス反応によって、H+イオンを酸性水相に渡す工程、酸性水相を光電気化学又は電気化学セルの第1チャンバに輸送する工程、より低い酸化状態を有する第1チャンバに輸送された酸性水相中のレドックス対の1つを酸化再生に供する工程、酸性水相に存在するH+イオンを、光電気化学又は電気化学セルに存在する膜を通じた拡散によって第2チャンバに渡す工程、第2チャンバに渡されたH+イオンをH2ガスに還元する工程、生成されたH2ガスを光電気化学又は電気化学セルから取り出す工程、再生された酸性水相をカラム状反応器に戻してH2Sを元素硫黄に酸化する工程を含む。
【0010】
本発明に従って開発された分解システムおよび方法により、酸性媒体で遭遇する硫黄の蓄積、触媒表面被毒、ゴム状硫黄形成の問題が回避される。したがって、元素硫黄はより簡便な方法でシステムから除去される。したがって、H2S分解のための本発明を用いてシステムおよび方法が達成され、長期にわたる低コストで効率的な中断のないプロセスを行うことができる。
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、元素硫黄および水素ガスがH2Sから分解される分解システムおよび方法を開発することである。
【0012】
本発明の別の目的は、硫黄の蓄積が回避される、ガス状H2Sを水素ガスおよび元素硫黄に分解するためのシステムおよび方法を開発することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、触媒表面被毒を回避する、ガス状H2Sを水素ガスおよび元素硫黄に分解するためのシステムおよび方法を開発することである。
【0014】
本発明のなおさらなる目的は、ゴム状硫黄の形成を回避するH2S分解システムおよび方法を開発することである。
【0015】
本発明のなおさらなる目的は、分解の結果として形成された元素硫黄が問題のない方法で除去されるH2S分解システムおよび方法を開発することである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
H
2Sガスを水素ガスおよび元素硫黄に分解するためのシステムおよび方法の代表的な実施形態が、以下に記載される次の図に示されている。
【
図1】
図1は、本発明に従って開発されたシステムの概略図である。
【0017】
前記図の部分は、次のように個別に指定されている。
【表1】
【発明の詳細な説明】
【0018】
硫化水素(H2S)は、重油の水素化脱硫、ピッチおよび石炭のガス化ならびに化石燃料の精製などの石油精製所で行われるいくつかのプロセスで生成されるガス流に副産物として存在する。望ましくない副産物としてのH2Sガスは、分解プロセスに供され、水素ガスと元素硫黄とに変換される。従来技術においてこの分解プロセスを行うための多くの方法が利用可能であるにもかかわらず、それらのいくつかは環境的に有害である。他のいくつかでは、使用される酸性/塩基性媒体は硫黄の蓄積、触媒表面の被毒、およびゴム状硫黄の形成を引き起こし、したがってこれらの事実は、元素硫黄の円滑な除去を回避する。本発明によれば、これらの問題がすべて解決される、ガス状H2Sを水素ガスおよび元素硫黄に分解するための分解システムおよび方法が開発される。
【0019】
本発明に従って開発されたガス状硫化水素(H2S)分解システムは、以下を含む、
- 供給源からシステムへH2Sガスを気泡の形態で供給する少なくとも1つのポンプ(1)(前記気泡は、好ましくはマイクロバブルの形態である)、
- pHが4未満であり、H2Sガスをイオン化する酸性水相であり、少なくとも1つのレドックス対を含む、密度の違いにより互いに混合せず、したがって互いに接触する界面(2c)を形成する酸性水相、および水の密度(1.000g/cm3)を超える密度を有し、元素硫黄を溶解できる有機相(2b)を含む少なくとも1つのカラム状反応器(2)であって、酸化反応が界面(2c)で行われ、ポンプ(1)を通じて有機相(2b)に運ばれたH2S気泡が、元素硫黄に変換される反応器、
- カラム状反応器(2)で生成された元素硫黄が輸送され、結晶化されてシステムから取り出される少なくとも1つの冷却ユニット(3)、
- 少なくとも1つのアノード電極を含む少なくとも1つの第1チャンバ(5A)、少なくとも1つのカソード電極を含む少なくとも1つの第2チャンバ(5B)、および第1チャンバを第2チャンバと隔離する少なくとも1つの膜(5C)を含む少なくとも1つの光電気化学又は電気化学セル(5)であって、カラム状反応器(2)の酸性水相(2a)が輸送され、レドックス対の酸化およびH+からH2への還元反応が行われ、還元反応後、酸性水相(2a)がカラム状反応器(2)に返送される、光電気化学又は電気化学セル、
- およびレドックス対の酸化およびH+からH2への還元反応のために電極の少なくとも1つに伝導される必要な電位差を生成する少なくとも1つのエネルギー源(6)(該エネルギー源は、好ましくは電源および/またはUV光源又は可視光源である)。
【0020】
本発明に従って開発されたガス状硫化水素(H2S)分解方法は、次に、以下の工程を含む、
- 供給源から受け取ったガス状H2Sを、少なくとも1つのポンプ(1)を通じて、カラム状反応器(2)に提供される有機相(2b)に分配することにより、H2S気泡を生成する工程、
- 該H2S気泡を、少なくとも1つのレドックス対を含み、4未満のpHを有し、水中でH2Sをイオン化する酸性水相(2a)と、水の密度を超える密度を有し、元素硫黄を溶解することができる有機相(2b)との間の界面(2c)で酸化することにより、H2Sを元素硫黄およびH+イオンに分解する工程、
- H2Sから分解したH+イオンを酸性水相(2a)に輸送する工程、
- 有機相(2b)中のH2Sから分解した元素硫黄を溶解する工程、
- 溶解した元素硫黄で飽和した有機相(2b)を冷却ユニット(3)を通じて冷却することにより結晶化し、次いでシステムから除去する工程、
- 元素硫黄から精製された有機相(2b)をカラム状反応器(2)に戻す工程、
- H2Sの酸化状態より高い酸化状態を有する酸性水相のレドックス対の1つとのH2Sガスの界面(2c)でのレドックス反応により、H+イオンを酸性水相(2a)に渡す工程、
- 酸性水相(2a)を光電気化学又は電気化学セル(5)の第1チャンバ(5A)に輸送する工程、
- より低い酸化状態を有する第1チャンバ(5A)に輸送された酸性水相(2a)中のレドックス対の1つを酸化再生に供する工程、
- 酸性水相(2a)に存在するH+イオンを光電気化学又は電気化学セル(5)に存在する膜(5C)を通じた拡散によって、第2チャンバ(5B)に渡す工程、
- 第2チャンバ(5B)に渡されたH+イオンをH2ガスに還元する工程、
- 再生された酸性水相(2a)をカラム状反応器(2)に戻して、H2Sを元素硫黄に酸化する工程。
【0021】
本発明に従って開発された方法において、界面(2c)におけるH2Sガスと、H2Sの酸化状態よりも高い酸化状態を有する酸性水相(2a)におけるレドックス対の1つとの反応は、より高い酸化状態を有するレドックス対の、より低い酸化状態を有するレドックス対への還元をもたらす。
【0022】
本発明に従って開発されたシステムおよび方法において、酸性水相(2a)および有機相(2b)が互いに接触する部位は、界面(2c)と称する。この界面(2c)は、酸性水相(2a)と有機相(2b)との間の密度の違いにより形成される。有機相(2b)の密度は酸性水相(2a)の密度よりも高いので、それは酸性水相(2a)がその上にある反応器のより低い位置を占める。H
2S酸化は、これら2つの相の間に形成された界面(2c)で行われる。これにより、元素硫黄は有機相(2b)に溶解し、一方でH
+イオンは水相(2a)に入る。したがって、前記界面(2c)により、水から分離するのが非常に難しい元素硫黄、H
2S、HS
-、S
2-、S
0、ポリスルフィド(S
x
n-)、およびSO
4
2-の酸性水相(2a)への移動は防止され、こうして結晶化/濾過などの低コストのプロセスによって有機相(2b)から元素硫黄を得ることができる。界面(2c)により、酸性媒体で遭遇する硫黄の蓄積、触媒表面の被毒、ゴム状硫黄の形成という形の問題が解消される。界面(2c)および界面(2c)で発生する反応について、以下で詳しく説明する。
【化1】
【0023】
元素硫黄は有機相(2b)に溶解し、酸性水相(2a)への移動は界面(2c)によって防止されるため、元素硫黄およびポリスルフィドイオンなどの硫黄の化学種は、光電気化学又は電気化学セル(5)にはいずれも存在しない。したがって、レドックス対の酸化およびH+からH2への還元は、光電気化学又は電気化学セル(5)で行われる。酸性水相(2a)が本発明によるシステムの光電気化学又は電気化学セル(5)を出た後、および有機相(2b)が濾過により元素硫黄から精製された後、それらはカラム状反応器(2)に戻される。これにより、循環の観点から酸性水相(2a)および有機相(2b)の一体化が保証され、H2Sからの元素硫黄およびH2の中断のない、または連続的な生成が提供される。したがって、H2Sを分解するための本発明に従って、長期にわたる低コストで効率的な中断のないプロセスを行うことができる。
【0024】
本発明に従って開発されたシステムの好ましい実施形態において、システムは、結晶化された元素硫黄をシステムから除去する少なくとも1つのフィルタ(4)を含む。前記フィルタは、好ましくは真空フィルタであり、濾過の結果として元素硫黄から精製された有機相(2b)は、カラム状反応器(2)に戻される。したがって、本方法による好ましい実施形態では、冷却ユニット(3)で結晶化された元素硫黄は、少なくとも1つのフィルタ(4)を通過し、システムから除去される。
【0025】
本発明に従って開発されたシステムの代替実施形態では、システムは、好ましくはUV光源又は可視光源を含み、電極の少なくとも1つは、この光源と相互作用する電極である。システムがUV光源又は可視光源を含む場合、アノード電極および/またはカソード電極は、シリコン、AgS、CdSe、CdS、CdTeおよびCu2Oの光活性基板上の、白金、パラジウム、金属亜硫酸塩、金属亜リン酸塩、金属セレン化物(金属は好ましくはAg、Fe、Co、Ni、MoまたはWである)を含むハイブリッド電極の群から選択できる。この光源により、開発された方法は電気化学的方法だけでなく、光/電気化学的方法でもある。したがって、電源に加えて、該方法は日光も利用するので、分解に必要な非再生可能エネルギーの量を減らすことができる。
【0026】
本発明に従って開発されたシステムの別の好ましい実施形態では、酸性水相(2a)で提供されるレドックス対は、好ましくは、I3/I-、[Fe(CN)6]3-/[Fe(CN)6]]4-、Co(III)(byp)3/Co(II)(byp)3、金属塩および/またはメタロセンである。ここで、前記金属塩は、好ましくはFe3+/Fe2+、Co3+/Co2+、Mn3+/Mn2+およびCe3+/Ce4+カチオンおよびSO4
2-、NO3
-、Cl-アニオンを含む。前記レドックス対は、好ましくは、Fe2+/Fe3+である。一方、酸性水相(2a)中に存在する酸は、好ましくは硫酸、塩酸および/または硝酸である。
【0027】
本発明に従って開発された方法では、酸性水相(2a)で提供されるレドックス対は、好ましくはFe2+/Fe3+であり、電解質として使用される。本発明に従って開発されたシステムで生じる反応の結果として、H2Sから生成されたS2-は、低pHでの酸化反応で直接酸化されることなく、または副反応が行われることなく、元素硫黄に変換され、これにより、本発明の顕著な利点を提供する。レドックス対は、界面(2c)でH2Sと反応して元素硫黄を与え、次いで、レドックス対は、光電気化学又は電気化学セル(5)の第1チャンバ(5A)で酸化され、したがって元に戻る。ここで、第1チャンバ(5A)では、より低い酸化数を有するレドックス対の1つが、より高い酸化数を有するレドックス対の1つになる。
【0028】
工業用H2S分解には、H2Sを元素硫黄に変換するための水溶液を含まないプロセスの開発が必要である。これは、本発明により、水と混和せず、硫黄を部分的に溶解することができ、水の密度よりも高い密度を有する有機相(2b)を使用することにより達成される。この相のおかげで、一連の反応の結果として界面(2c)で生成された硫黄は、酸性水相(2a)と混合されることなく分離される。本発明に従って開発されたシステムの好ましい実施形態では、有機相(2b)は、純粋なクロロベンゼン、純粋なクロロトルエンおよび/またはそれらのベンゼンまたは二硫化炭素との混合物である。
【0029】
本発明に従って開発されたシステムの代替の実施形態では、アノード電極および/またはカソード電極は、グラファイト、ガラス状炭素、白金、パラジウム、金属、金属酸化物、金属亜硫酸塩、金属亜リン酸塩、金属セレン化物(金属は、好ましくはAg、Fe、Co、Ni、MoまたはWである)および半導体の群から選択される。さらに、アノード電極および/またはカソード電極の表面は、SiO2および/またはAl2O3でコーティングされる。したがって、電極は酸腐食から保護され、耐用寿命が増加する。
【0030】
本発明に従って開発されたH2S分解プロセスにおいて電気化学セルで行われる反応は、実施例1、実施例2および実施例3に示されるとおりである。
【実施例1】
【0031】
実施例1 電気化学分解
H2S(g)+Fe3+
(aq)→S(クロロベンゼン)+Fe2+(aq)+H+
(aq)(80℃) 元素硫黄の生成
S(クロロベンゼン)→S(固体)(20℃) 硫黄除去
2Fe2+
(aq)→2Fe3+(aq))+e-(アノード) レドックス再生
H+
(aq)+e-→H2(カソード) 水素生成
【実施例2】
【0032】
実施例2 光電気化学(フォトカソード)分解
H2S(g)+Fe3+
(aq)→S(クロロベンゼン)+Fe2+(aq)+H+
(aq)(80℃) 元素硫黄の生成
S(クロロベンゼン)→S(固体)(20℃) 硫黄除去
半導体+hν→h++e- 正電荷および電子生成
2Fe2+
(aq)+h+→2Fe3+(aq))(アノード) レドックス再生
H+
(aq)+e-→H2(フォトカソード) 水素生成
【実施例3】
【0033】
実施例3 光電気化学(フォトアノード)分解
H2S(g)+Fe3+
(aq)→S(クロロベンゼン)+Fe2+(aq)+H+
(aq)(80℃) 元素硫黄の生成
S(クロロベンゼン)→S(固体)(20℃) 硫黄除去
半導体+hν→h++e- 正電荷および電子生成
2Fe2+
(aq)+h+→2Fe3+(aq)(フォトアノード) レドックス再生
H+
(aq)+e-→H2(カソード) 水素生成
【0034】
本発明に従って開発された分解システムおよび方法により、酸性媒体で遭遇する硫黄の蓄積、触媒表面被毒、ゴム状硫黄形成の問題が回避される。したがって、元素硫黄はより簡便な方法でシステムから除去される。したがって、H2S分解のための本発明を用いてシステムおよび方法が達成され、長期にわたる低コストで効率的な中断のないプロセスを行うことができる。