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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】摺動部材用組成物及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20220602BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20220602BHJP
   C09D 177/00 20060101ALI20220602BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20220602BHJP
   C09D 161/04 20060101ALI20220602BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220602BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220602BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20220602BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220602BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20220602BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220602BHJP
   B32B 27/42 20060101ALI20220602BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220602BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20220602BHJP
   C10M 147/02 20060101ALI20220602BHJP
   C10M 149/14 20060101ALI20220602BHJP
   C10M 107/00 20060101ALN20220602BHJP
   C10M 125/02 20060101ALN20220602BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20220602BHJP
   C10N 50/02 20060101ALN20220602BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20220602BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220602BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
C09D179/08
C09D177/00
C09D163/00
C09D161/04
C09D7/65
C09D7/61
F16C33/20 A
B32B27/34
B32B27/38
C09D201/00
B32B27/42 101
B32B27/00 A
C10M169/04
C10M147/02
C10M149/14
C10M107/00
C10M125/02
C10N40:02
C10N50:02
C10N20:06 Z
C10N30:00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020565624
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2019047383
(87)【国際公開番号】W WO2020144980
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2019003589
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102670
【氏名又は名称】NOKクリューバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】山崎 裕次郎
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-269371(JP,A)
【文献】特開2007-290358(JP,A)
【文献】特開2017-155201(JP,A)
【文献】特開2003-073609(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174292(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
F16C 33/20
B32B 27/18
B32B 27/42
B32B 27/40
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられた第1塗膜層と、前記第1塗膜層上に設けられた第2塗膜層と、を備え、
前記第1塗膜層が、バインダー樹脂と、固体潤滑剤と、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂ビーズと、を含有する摺動部材用組成物を含む塗膜を備え、
前記第2塗膜層が、バインダー樹脂及び固体潤滑剤を含むことを特徴とする摺動部材。
【請求項10】
(削除)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材用組成物及び摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂などのバインダー樹脂(結合剤)と、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイト及び二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤とを含有する組成物の塗膜により、摺動部材を被覆した塗膜付摺動部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の塗膜付摺動部材においては、摺動部材表面から遠い側の塗膜層内の固体潤滑剤の濃度を、摺動部材表面に近い側の塗膜層内の固体潤滑剤の濃度より高くする。これにより、塗膜付摺動部材は、固体潤滑剤の配合による塗膜の潤滑性の向上と、塗膜の下地との密着性の向上の両立を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/174292号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、摺動部材においては、固体潤滑剤による被膜への潤滑性の付与と、被膜と被膜の下地との密着性とは二律背反の関係にあり、被膜の潤滑性を向上させようとすると、必然的に被膜と下地との密着性は低下する問題がある。例えば、被膜における固体潤滑剤の配合割合を少なくすると、潤滑性が十分に得られず摺動部材用としては不適となる。一方、被膜における固体潤滑剤の配合割合を多くすると、被膜と被膜の下地との密着性が低下し、特に高荷重領域では被膜が下地から容易に剥離してしまう。
【0005】
そこで、摺動部材では、用途に応じて被膜の固体潤滑剤の配合量を最適化して、密着性と潤滑性とのバランスを取って所望の機能を成立させているが、固体潤滑剤の配合量の最適化による密着性と潤滑性との両立には限界がある。また、プライマー処理などにより、被膜の下地である摺動部材の表面を改質することによる密着性の改善も検討されているが、下地にプライマー処理を施した場合であっても、密着性の大きな向上は期待できない。
【0006】
特許文献1に記載の塗膜付摺動部材では、塗膜は、下地である摺動部材との界面側に固体潤滑剤の配合割合の少ない塗料を吹き付けて設けられた下層と、下層を乾燥させずに固体潤滑剤の割合が多い塗料をウェット・オン(ON)・ウェット塗装により下層上に吹き付けて設けられた上層と、を備える。これにより、特許文献1に記載の塗膜付摺動部材では、塗膜を固体潤滑剤の濃度を塗膜内で傾斜させた傾斜コートとして、密着性と潤滑性とを両立させている。
【0007】
一方、近年の塗膜付摺動部材には、より高負荷の摺動条件に課しても十分な密着性が要求される。摺動条件によっては塗膜と摺動部材表面との密着性が不十分である場合、摺動部材と塗膜との界面から塗膜が剥離するおそれがある。そのため、塗膜の基材界面近傍からの剥離を防止でき、長期に亘って潤滑機能を維持できる摺動部材用組成物及び摺動部材が望まれている実情がある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止でき、長期に亘って潤滑機能を維持できる摺動部材用組成物及び摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る摺動部材用組成物は、バインダー樹脂と、固体潤滑剤と、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂ビーズと、を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る摺動部材用組成物によれば、摺動部材用組成物の塗膜が樹脂ビーズを含有するので、バインダー樹脂と摺動部材用組成物の塗布対象物である基材との界面の密着力に対して、バインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面の密着力が弱くなる。これにより、摺動部材用組成物の塗膜に荷重がかかった状態で摺動部材が摺動する場合であっても、塗膜の破壊の起点が塗膜と塗布対象物である基材との界面ではなく、バインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面となると推察される。ここで、バインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面における塗膜の破壊は、塗膜の内部で発生するので、塗膜と塗膜の塗布対象である基材との界面における塗膜の破壊が抑制され、摺動部材用組成物の塗膜の基材からの剥離を抑制できる。これにより、摺動部材用組成物は、固体潤滑剤に基づく潤滑機能を維持しつつ、基材と得られた塗膜との界面における塗膜の破壊に基づく塗膜の剥離を防ぐことができる。その結果、塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止でき、長期に亘って潤滑機能を維持することが可能な摺動部材用組成物を提供できる。
【0011】
上記摺動部材用組成物においては、樹脂ビーズは、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズを含むことが好ましい。この構成により、樹脂ビーズがアミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズの双方を含有するので、より一層塗膜内部でのバインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面における塗膜の破壊が起こりやすくなる。これにより、固体潤滑剤に基づく潤滑機能を維持しつつ、基材と塗膜との界面における塗膜の破壊に基づく塗膜の剥離をより一層効率的に防ぐことが可能となる。
【0012】
上記摺動部材用組成物においては、アミノ樹脂ビーズが、尿素樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂及びグアナミン樹脂からなる群から選択された少なくとも1種のアミノ樹脂を含むことが好ましい。この構成により、摺動部材用組成物の塗膜に荷重がかかった状態で摺動部材が摺動する際に、荷重に応じてバインダー樹脂と、これらのアミノ樹脂を含有するアミノ樹脂ビーズとの間の界面における塗膜が適度に破壊されるので、より塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止することが可能となる。
【0013】
上記摺動部材用組成物においては、アミノ樹脂が、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物及びメラミン・ホルムアルデヒド縮合物からなる群から選択された少なくとも1種の縮合物を含むことが好ましい。この構成により、摺動部材用組成物の塗膜に荷重がかかった状態で摺動部材が摺動する際に、荷重に応じてバインダー樹脂と、これらのアミノ樹脂を含有するアミノ樹脂ビーズとの間の界面における塗膜が適度に破壊されるので、より一層塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止することが可能となる。
【0014】
上記摺動部材用組成物においては、樹脂ビーズの平均粒子径が0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。この構成により、摺動部材用組成物において、樹脂ビーズの大きさが適度な範囲となるので、摺動部材用組成物の塗膜に荷重がかかった状態で摺動部材が摺動する際に、荷重に応じてバインダー樹脂と樹脂ビーズとの間の界面における塗膜が適度に破壊される。これにより、より一層塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止することが可能となり、長期に亘って潤滑機能を維持することが可能となる。
【0015】
上記摺動部材用組成物においては、樹脂ビーズの配合量が、摺動部材用組成物の全質量に対して、1質量%以上35質量%以下であることが好ましい。この構成により、摺動部材用組成物において、塗膜中の樹脂ビーズの含有量が適度な範囲となるので、摺動部材用組成物の塗膜に荷重がかかった状態で摺動部材が摺動する際に、荷重に応じてバインダー樹脂と上記アミノ樹脂を含有する樹脂ビーズとの間の界面における塗膜が適度に破壊される。これにより、塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止することが可能となり、長期に亘って潤滑機能を維持することが可能となる。
【0016】
上記摺動部材用組成物においては、前記バインダー樹脂は、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂からなる群から選択された少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。この構成により、塗布対象物である基材と摺動部材用組成物の塗膜との密着性が向上するので、より一層塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止することが可能となり、長期に亘って潤滑機能を維持することが可能となる。
【0017】
上記摺動部材用組成物においては、前記固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイト及び二硫化モリブデンからなる群から選択された少なくとも1種の潤滑剤を含むことが好ましい。この構成により、摺動部材用組成物の塗膜の潤滑性能が向上するので、より一層長期に亘って潤滑機能を維持することが可能となる。
【0018】
本発明に係る摺動部材は、基材と、前記基材上に設けられ、上記摺動部材用組成物の第1塗膜層と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る摺動部材によれば、摺動部材用組成物の塗膜が樹脂ビーズを含有するので、バインダー樹脂と摺動部材用組成物の塗布対象である基材との界面の密着力に対して、バインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面の密着力が弱くなる。これにより、摺動部材は、第1塗膜層に荷重がかかった状態で摺動する場合であっても、第1塗膜層の破壊の起点が第1塗膜層と塗布対象物である基材との界面ではなく、バインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面となると推察される。ここで、バインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面における第1塗膜層の破壊は、第1塗膜層の内部で発生するので、第1塗膜層と摺動部材用組成物の塗布対象である基材との界面における第1塗膜層の破壊が抑制され、第1塗膜層の基材からの剥離を抑制できる。これにより、摺動部材は、固体潤滑剤に基づく潤滑機能を維持しつつ、基材と第1塗膜層との界面における第1塗膜層の破壊に基づく第1塗膜層の剥離を防ぐことができる。その結果、第1塗膜層と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止でき、長期に亘って潤滑機能を維持することが可能な摺動部材を提供できる。
【0020】
本発明に係る摺動部材は、さらに、第1塗膜層上に設けられ、バインダー樹脂及び固体潤滑剤を含む第2塗膜層を備えることが好ましい。この構成により、摺動部材は、第1塗膜層中に樹脂ビーズを含有するので、第1塗膜層中のバインダー樹脂と樹脂ビーズとの間の密着力が、第1塗膜層と基材との間の密着力に対して低くなる。これにより、第2塗膜層が他の部材と当接した状態で摺動部材が他の部材と摺動した場合であっても、第1塗膜層内のバインダー樹脂と樹脂ビーズとの間で第1塗膜層が破壊される。この結果、第1塗膜層と基材との間の界面及び第2塗膜層と第1塗膜層との界面での第1塗膜層の破壊を防ぐことができる。この結果、基材からの第1塗膜層の剥離を防ぐことができるので、長期間に亘って潤滑機能を維持できる摺動部材を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止でき、長期に亘って潤滑機能を維持できる摺動部材用組成物及び摺動部材を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る摺動部材の一例を示す断面模式図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る摺動部材の他の例を示す断面模式図である。
図3図3は、本発明の実施例に係る摩擦摩耗試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係る摺動部材用組成物は、バインダー樹脂と、固体潤滑剤と、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂を含む樹脂ビーズと、を含有する。以下、摺動部材用組成物の各種構成要素について詳細に説明する。
【0024】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂は、固体潤滑剤及び樹脂ビーズを結合させる。バインダー樹脂としては、固体潤滑剤及び樹脂ビーズを結合できるものであれば特に制限はない。これらのバインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
これらの中でも、バインダー樹脂としては、塗布対象物である基材と塗膜との密着性が向上し、塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止でき、長期に亘って潤滑機能を維持できる観点から、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリイミド樹脂(PI)、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂からなる群から選択された少なくとも1種のアミノ樹脂を含むことが好ましく、ポリアミドイミド樹脂を含むことがより好ましい。
【0026】
バインダー樹脂としては、例えば商品名:HPC-5012(ポリアミドイミド樹脂、日立化成株式会社製)などの市販品を用いてもよい。
【0027】
バインダー樹脂の配合量としては、基材としての摺動部材表面に対する密着性と摺動部材の潤滑性とを両立する観点から、摺動部材用組成物の全質量に対して、30質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、そして、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることが更に好ましい。以上を考慮すると、バインダー樹脂の配合量は、摺動部材用組成物の全質量に対して、30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、45質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上65質量%以下であることが更に好ましい。
【0028】
<固体潤滑剤>
固体潤滑剤は、摺動部材用組成物の被膜に潤滑性を付与する。固体潤滑剤としては、摺動部材用組成物に潤滑性を付与できるものであれば特に制限はない。固体潤滑剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオロライド及びトリクロロトリフルオロエチレンなどからなる群から選ばれたフッ素系ポリマー、二硫化モリブデン及び二硫化タングステンなどの二硫化金属、グラファイトなどが挙げられる。これらの固体潤滑剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
これらの中でも、固体潤滑剤としては、摺動部材の塗膜の潤滑性能が向上し、塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止でき、より一層長期に亘って潤滑機能を維持できる観点から、フッ素系ポリマー、二硫化金属及びグラファイトからなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン及びグラファイトからなる群から選択された少なくとも1種の潤滑剤を含むことがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン及びグラファイトを併用することが更に好ましい。
【0030】
固体潤滑剤としては、商品名:フルオン(登録商標)L173J(ポリテトラフルオロエチレン、AGC株式会社製)、及び商品名:HOP(グラファイト、日本黒鉛工業株式会社製)などの市販品を用いてもよい。
【0031】
固体潤滑剤の配合量としては、潤滑性を低下することなく密着性を向上して摺動部材の被膜として好適に用いることができる観点から、摺動部材用組成物の全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが更に好ましく、そして、密着性を損なわずに潤滑性を向上して摺動部材の被膜として好適に用いることができる観点から、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。以上を考慮すると、固体潤滑剤の配合量は、基材としての摺動部材表面に対する密着性と摺動部材の潤滑性とを両立する観点から、摺動部材用組成物の全質量に対して、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、15質量%以上45質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上35質量%以下であることが更に好ましい。
【0032】
また、バインダー樹脂を基準とした固体潤滑剤の配合量としては、潤滑性を低下することなく密着性を向上して摺動部材の被膜として好適に用いることができる観点から、バインダー樹脂100質量部に対して、30質量部以上であることが好ましく、35質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることが更に好ましく、そして、密着性を損なわずに潤滑性を向上して摺動部材の被膜として好適に用いることができる観点から、80質量部以下であることが好ましく、75質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることが更に好ましい。以上を考慮すると、固体潤滑剤の配合量は、基材としての摺動部材表面に対する密着性と摺動部材の潤滑性とを両立する観点から、バインダー100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下であることが好ましく、35質量部以上75質量部以下であることがより好ましく、40質量部以上70質量部以下であることが更に好ましい。
【0033】
<樹脂ビーズ>
樹脂ビーズとしては、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂ビーズを用いる。この樹脂ビーズとしてアミノ樹脂ビーズを用いることにより、バインダー樹脂と塗布対象となる基材との間の密着力に対して、塗膜内部におけるバインダー樹脂とアミノ樹脂ビーズとの間の密着力が弱くなる。これにより、摺動部材が摺動した場合に、塗膜内部のバインダー樹脂とアミノ樹脂ビーズとの界面で塗膜が破壊され、塗膜と基材との界面での塗膜の破壊を抑制できるので、基材からの塗膜の剥離を抑制することが可能となる。また、樹脂ビーズとしてウレタン樹脂ビーズを用いることにより、バインダー樹脂と塗布対象となる基材との間の密着力に対して、バインダー樹脂とウレタン樹脂ビーズとの間の密着力が弱くなる。これにより、摺動部材が摺動した場合に、塗膜内部のバインダー樹脂とウレタン樹脂ビーズとの界面で塗膜が破壊され、塗膜と基材との界面での塗膜の破壊を抑制できるので、基材からの塗膜の剥離を抑制することが可能となる。しかも、ウレタン樹脂ビーズは、塗膜に柔軟性を付与することもできるので、摺動部材の摺動時に塗膜に印加される面圧を下げることができる。これにより、局所的な応力が塗膜にかかることを防ぐことができるので、塗膜の早期破壊及び摩耗を抑制することも可能となる。
【0034】
アミノ樹脂ビーズに含まれるアミノ樹脂としては、例えば、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、メチル化メラミン樹脂、メラミン樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ユリア・ホルムアルデヒド樹脂、アニリン樹脂及びグアナミン樹脂などが挙げられる。これらのアミノ樹脂ビーズに含まれるアミノ樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。これらの中でも、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を効果的に防止する観点から、尿素樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂及びグアナミン樹脂からなる群から選択された少なくとも1種のアミノ樹脂が好ましく、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物及びメラミン・ホルムアルデヒド縮合物からなる群から選択された少なくとも1種の縮合物がより好ましい。
【0035】
また、樹脂ビーズとしては、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離をより一層効果的に防止する観点から、アミノ樹脂ビーズとウレタン樹脂ビーズとを併用することが好ましい。
【0036】
アミノ樹脂ビーズの平均粒子径は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、0.1μm以上であることが好ましく、0.125μm以上であることがより好ましく、0.15μm以上であることが更に好ましく、そして、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12.5μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることがより更に好ましい。
【0037】
ウレタン樹脂ビーズは、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるビーズ状の樹脂である。ウレタン樹脂ビーズの平均粒子径は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、2μm以上であることが好ましく、2.5μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが更に好ましく、そして、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることがより更に好ましい。
【0038】
以上を考慮すると、樹脂ビーズの平均粒子径は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、0.1μm以上であることが好ましく、0.155μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることが更に好ましく、そして、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。なお、上述した樹脂ビーズの平均粒子径は、レーザー回折錯乱法の測定方法によって測定されたものである。
【0039】
アミノ樹脂ビーズの配合量は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、摺動部材用組成物の全質量に対して、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、そして、20質量%以下であることが好ましく、17.5質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。
【0040】
また、バインダー樹脂を基準としたアミノ樹脂ビーズの配合量は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、バインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、7.5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることが更に好ましく、そして、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることが更に好ましい。
【0041】
ウレタン樹脂ビーズの配合量は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、摺動部材用組成物の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが更に好ましく、そして、15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることが更に好ましい。
【0042】
また、バインダー樹脂を基準としたウレタン樹脂ビーズの配合量は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、バインダー樹脂100質量部に対して、2.5質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることが更に好ましく、そして、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましい。
【0043】
アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズを併用する場合の樹脂ビーズの配合量は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、摺動部材用組成物の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが更に好ましく、そして、35質量%以下であることが好ましく、32質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0044】
また、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズを併用する場合のバインダー樹脂を基準とした樹脂ビーズの配合量は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、バインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、7.5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることが更に好ましく、そして、65質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、55質量部以下であることが更に好ましい。
【0045】
以上を考慮すると、樹脂ビーズの配合量は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、摺動部材用組成物の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが更に好ましく、そして、35質量%以下であることが好ましく、32質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。また、バインダー樹脂を基準としたウレタン樹脂ビーズの配合量は、塗膜の基材としての摺動部材と塗膜との界面からの剥離を防止する観点から、バインダー樹脂100質量部に対して、2.5質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることが更に好ましく、そして、65質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、55質量部以下であることが更に好ましい。
【0046】
本実施の形態に係る摺動部材用組成物においては、本発明の効果を奏する範囲で他の物質を添加してもよい。他の物質としては、例えば、従来公知の着色フィラー、界面活性剤及び消泡剤などが挙げられる。これらの他の物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、摺動部材用組成物は、摺動部材などの塗布対象物質への塗布方法に応じて粘度調整のために溶剤を含有してもよい。
【0047】
<摺動部材用組成物の製造方法>
摺動部材用組成物の製造方法は、バインダー、固体潤滑剤、充填材フィラーとしての樹脂ビーズ、必要に応じてその他物質及び溶剤を分散混合できるものであれば特に制限はない。摺動部材用組成物は、例えば、固体潤滑剤、樹脂ビーズ、必要に応じてその他物質及び溶剤を、ディゾルバーなどの撹拌機、ボールミル、サンドミル、アジホモミキサーなどを適宜組み合わせて分散混合することにより製造することができる。
【0048】
摺動部材用組成物の摺動部材などの塗布対象物への塗布方法は、塗布対象物に摺動部材用組成物を塗布できるものであれば特に制限はない。摺動部材用組成物は、スプレー法、ディッピング法、ロールコート法、ディスペンサー法などが挙げられる。
【0049】
摺動部材用組成物の製造時及び塗布対象物への塗布時には、必要に応じて摺動部材用組成物に溶剤を加えて粘度調整をしてもよい。溶剤としては、摺動部材用組成物の粘度を所望の粘度に調整できるものであれば特に制限はない。溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、キシレン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンなどが挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン及びメチルイソブチルケトンが好ましい。
【0050】
<塗膜の製造方法>
上記実施の形態に係る摺動部材用組成物を、必要に応じて溶剤で希釈して塗布対象物上に塗布した後、乾燥工程及び焼成工程により摺動部材用組成物に含まれる溶剤を蒸発させると共に、樹脂を架橋反応することにより、塗膜(焼成膜)を製造することができる。摺動部材用組成物の塗布対象となる基材としては、例えば、樹脂部材及び金属部材などが挙げられる。乾燥工程における乾燥温度は、摺動部材用組成物に含まれる樹脂により適宜設定される。乾燥工程における乾燥温度は、例えば、60℃以上120℃以下である。ここでは、摺動部材用組成物は、乾燥工程後の膜厚が、例えば、15μm以上100μm以下となるように塗布される。焼成工程における焼成温度は、乾燥工程と同様に、摺動部材用組成物に含まれる樹脂により適宜設定される。焼成工程における焼成温度は、例えば、150℃以上300℃以下である。ここでは、摺動部材用組成物は、焼成工程後の膜厚が、例えば、10μm以上80μm以下となるように塗布される。焼成工程後の摺動部材用組成物の塗膜(焼成膜)は、冷却後、必要に応じて研磨調整されて製品となる。
【0051】
以上説明したように、上記実施の形態に係る摺動部材用組成物によれば、摺動部材用組成物の塗膜が樹脂ビーズを含有するので、バインダー樹脂と摺動部材用組成物の塗布対象である基材との界面の密着力に対して、バインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面の密着力が弱くなる。これにより、摺動部材用組成物の塗膜に荷重がかかった状態で摺動部材が摺動する場合であっても、塗膜の破壊の起点が塗膜と塗布対象物である基材との界面ではなく、バインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面となると推察される。ここで、バインダー樹脂と樹脂ビーズとの界面における塗膜の破壊は、塗膜の内部で発生するので、塗膜と塗膜の塗布対象である基材との界面における塗膜の破壊が抑制され、摺動部材用組成物の塗膜の基材からの剥離を抑制できる。これにより、摺動部材用組成物は、固体潤滑剤に基づく潤滑機能を維持しつつ、基材と得られた塗膜との界面における塗膜の破壊に基づく塗膜の剥離を防ぐことができる。その結果、塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止でき、長期に亘って潤滑機能を維持することが可能な摺動部材用組成物を実現することができる。
【0052】
<摺動部材>
次に、本実施の形態に係る摺動部材について説明する。本実施の形態に係る摺動部材は、上記実施の形態に係る摺動部材用組成物を含む塗膜を備えるものである。図1は、本実施の形態に係る摺動部材の一例を示す断面模式図である。図1に示すように、摺動部材1は、摺動部材用組成物の塗布対象物である基材11と、基材11上に設けられた塗膜層12とを備える。基材11としては、基材11上に摺動部材用組成物を塗布できるものであれば特に制限はなく、例えば、各種樹脂部材及び各種金属部材などが用いられる。塗膜層12は、上記実施の形態に係る摺動部材用組成物を基材11上に塗布した後、乾燥及び焼成することにより設けられる。
【0053】
摺動部材1によれば、塗膜層12中に樹脂ビーズを含有するので、塗膜層12中のバインダー樹脂と樹脂ビーズとの間の密着力が、塗膜層12と基材11との間の密着力に対して低くなる。これにより、塗膜層12が他の部材と当接して摺動部材1が他の部材と摺動した場合であっても、塗膜層12内のバインダー樹脂と樹脂ビーズとの間で塗膜が破壊され、塗膜層12と基材11との間の界面IF1での塗膜の破壊を防ぐことができる。この結果、基材11からの塗膜層12の剥離を防ぐことができるので、長期間に亘って潤滑機能を維持できる摺動部材を実現することが可能となる。
【0054】
図2は、本実施の形態に係る摺動部材の他の例を示す断面模式図である。図2に示すように、摺動部材2は、基材11と、基材11上に設けられた第1塗膜層12-1と、第1塗膜層12-1上に設けられた第2塗膜層12-2とを備える。第1塗膜層12-1は、図1に示した塗膜層12と同様に、上記摺動部材用組成物を基材11上に塗布することにより設けられる。第2塗膜層12-2は、バインダー樹脂及び固体潤滑剤を溶剤に分散させた組成物を塗布することにより設けられる。バインダー樹脂、固体潤滑剤及び溶剤としては、上記摺動部材用組成物のバインダー樹脂、固体潤滑剤及び溶剤と同様のものが用いられる。すなわち、摺動部材2は、図1に示した塗膜層12としての第1塗膜層12-1を、樹脂ビーズを含有しない第2塗膜層用組成物によって設けられた第2塗膜層12-2によって被覆したものである。第2塗膜層用組成物中におけるバインダー樹脂、固体潤滑剤及び溶剤の配合量としては、例えば、上述した摺動部材用組成物と同様の範囲とすることができる。
【0055】
摺動部材2によれば、第1塗膜層12-1中に樹脂ビーズを含有するので、第1塗膜層12-1中のバインダー樹脂と樹脂ビーズとの間の密着力が、第1塗膜層12-1と基材11との間の密着力に対して低くなる。これにより、第2塗膜層12-2が他の部材と当接して摺動部材2が他の部材と摺動した場合であっても、第1塗膜層12-1内のバインダー樹脂と樹脂ビーズとの間で第1塗膜層12-1が破壊される。この結果、第1塗膜層12-1と基材11との間の界面IF1及び第2塗膜層12-2と第1塗膜層12-1との界面IF2での第1塗膜層12-1の破壊を防ぐことができる。この結果、基材11からの塗膜層12の剥離を防ぐことができるので、長期間に亘って潤滑機能を維持できる摺動部材を実現することが可能となる。
【0056】
摺動部材2を製造する際には、基材11上に上記摺動部材用組成物(塗料)を塗布して第1塗膜層12-1を設けた後、第1塗膜層12-1を乾燥させずに第2塗膜層12-2の組成物(塗料)を第1塗膜層12-1上に設ければよい。この場合、第1塗膜層12-1は、焼成後膜厚が、例えば、10μm以上15μm以下となるように基材11上に塗布する。また、第2塗膜層12-2は、焼成後膜厚が、例えば、10μm以上15μm以下となるように第1塗膜層12-1上に塗布する。そして、例えば、合計膜厚を20μm以上30μm以下となるようにしてもよい。摺動部材2では、第1塗膜層12-1及び第2塗膜層12-2の合計膜厚が、例えば、20μm以上30μm以下となるように第1塗膜層12-1及び第2塗膜層12-2を設ける。
【実施例
【0057】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0058】
上記実施の形態に係る摺動部材用組成物を調製して図2に示した摺動部材2を作製し、作製した摺動部材2について摩擦磨耗試験を実施して評価した。以下、その結果について説明する。
【0059】
(実施例1)
(摺動部材用組成物の調製)
バインダー樹脂としては、ポリアミドイミド(PAI)樹脂(商品名:「HPC-5012」)、日立化成株式会社製を用いた。固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(商品名:「フルオン(登録商標)L173J、AGC株式会社製」)及びグラファイト(商品名:「HOP」、日本黒鉛工業株式会社製)を用い、樹脂ビーズとしては、アミノ樹脂ビーズ(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)を用いた。溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン及びメチルイソブチルケトンの混合溶剤を用いた。
【0060】
ポリアミドイミド樹脂56質量部と、ポリテトラフルオロエチレン28質量部と、グラファイト2質量部と、アミノ樹脂ビーズ14質量部とをボールミルにより十分に混合分散させて下層用組成物としての摺動部材用組成物(第1塗膜層用組成物)の塗料を調製した。
【0061】
(第2塗膜層用組成物の調製)
バインダー樹脂としては、ポリアミドイミド(PAI)樹脂(商品名:「HPC-5012」)、日立化成株式会社製を用いた。固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(商品名:「フルオン(登録商標)L173J、AGC株式会社製」)及びグラファイト(商品名:「HOP」、日本黒鉛工業株式会社製)を用いた。溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン及びメチルイソブチルケトンの混合溶剤を用いた。
【0062】
ポリアミドイミド樹脂50質量部と、ポリテトラフルオロエチレン35質量部と、グラファイト15質量部とをボールミルにより十分に混合分散させて第2塗膜層用組成物の塗料を調製した。
【0063】
(試験片の調製)
第1塗膜層用組成物の塗料を摺動部材の試験片(材質:ステンレス(SUS430))に、スプレーにより、焼成後膜厚が10μm以上15μm以下となるように塗装し、第1塗膜層12-1を試験片上に設けた。次に、摺動部材用組成物を乾燥させずに、第2塗膜層組成物を焼成後の膜厚が10μm以上15μm以下となるように塗装し、第1塗膜層12-1上に第2塗膜層12-2を設けた。塗装後の試験片を80℃にて30分間乾燥した後、230℃で30分焼成した。ここでの塗装では、焼成後の第1塗膜層12-1及び第2塗膜層12-2の膜厚の合計が20μm以上30μm以下となるように塗装して試験用の摺動部材2を作製した。作製した試験用の摺動部材2は、下記試験方法に従って評価した。その結果、摩耗深さは、1.7μmであり、剥離体積は、0.04mmであり、試験後外観は良好であった。第1塗膜層12-1及び第2塗膜層12-2の組成、並びに、評価結果を下記表1に示す。
【0064】
(実施例2)
第1塗膜層用組成物において、アミノ樹脂ビーズ(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)14質量部に代えて、アミノ樹脂ビーズ(ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:3μm、商品名:「エポスター(登録商標)M30」、株式会社日本触媒製)14質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に試験用の摺動部材2を作製して評価した。その結果、摩耗深さは、2.0μmであり、剥離体積は、0.01mmであり、試験後外観は良好であった。評価結果を下記表1に示す。
【0065】
(実施例3)
第1塗膜層用組成物において、ポリアミドイミド樹脂を63質量部用いたこと、及びアミノ樹脂ビーズ(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)14質量部に代えて、アミノ樹脂ビーズ(ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:3μm、商品名:「エポスター(登録商標)M30」、株式会社日本触媒製)7質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に試験用の摺動部材2を作製して評価した。その結果、摩耗深さは、2.2μmであり、剥離体積は、0.02mmであり、試験後外観は良好であった。評価結果を下記表1に示す。
【0066】
(実施例4)
第1塗膜層用組成物において、アミノ樹脂ビーズ(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)14質量部に代えて、アミノ樹脂ビーズ(ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:5μm、商品名:「エポスター(登録商標)M05」、株式会社日本触媒製)14質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に試験用の摺動部材2を作製して評価した。その結果、摩耗深さは、1.3μmであり、剥離体積は、0.11mmであり、試験後外観は良好であった。評価結果を下記表1に示す。
【0067】
(実施例5)
第1塗膜層用組成物において、アミノ樹脂ビーズ(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)14質量部に代えて、アミノ樹脂ビーズ(ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:9μm、商品名:「エポスター(登録商標)L15」、株式会社日本触媒製)14質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に試験用の摺動部材2を作製して評価した。その結果、摩耗深さは、1.7μmであり、剥離体積は、0.10mmであり、試験後外観は良好であった。評価結果を下記表1に示す。
【0068】
(実施例6)
第1塗膜層用組成物において、ポリアミドイミド樹脂を63質量部用いたこと、ポリテトラフルオロエチレンを25質量部用いたこと、及びアミノ樹脂ビーズ(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)14質量部に代えて、ウレタン樹脂ビーズ:ウレタン架橋微粒子(平均粒子径:6μm、商品名:「アートパール(登録商標)C800」、根上工業株式会社製)10質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に試験用の摺動部材2を作製して評価した。その結果、摩耗深さは、1.2μmであり、剥離体積は、0.14mmであり、試験後外観は良好であった。評価結果を下記表1に示す。
【0069】
(実施例7)
第1塗膜層用組成物において、ポリアミドイミド樹脂を53質量部用いたこと、ポリテトラフルオロエチレンを26質量部用いたこと、及びアミノ樹脂ビーズ(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)14質量部に代えて、アミノ樹脂ビーズ(ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:5μm、商品名:「エポスター(登録商標)M05」、株式会社日本触媒製)14質量部及びウレタン樹脂ビーズ(ウレタン架橋微粒子、平均粒子径:6μm、商品名:「アートパール(登録商標)C800」、根上工業株式会社製)5質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に試験用の摺動部材2を作製して評価した。その結果、摩耗深さは、0.7μmであり、剥離体積は、0.01mmであり、試験後外観は良好であった。評価結果を下記表1に示す。
【0070】
(実施例8)
第1塗膜層用組成物において、ポリアミドイミド樹脂を50質量部用いたこと、ポリテトラフルオロエチレンを25質量部用いたこと、及びアミノ樹脂ビーズ(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)14質量部に代えて、アミノ樹脂ビーズ(ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:5μm、商品名:「エポスター(登録商標)M05」、株式会社日本触媒製)13質量部及びウレタン樹脂ビーズ(ウレタン架橋微粒子、平均粒子径:6μm、商品名:「アートパール(登録商標)C800」、根上工業株式会社製)10質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に試験用の摺動部材2を作製して評価した。その結果、摩耗深さは、1.1μmであり、剥離体積は、0.00mmであり、試験後外観は良好であった。評価結果を下記表1に示す。
【0071】
(比較例1)
第1塗膜層用組成物において、ポリアミドイミド樹脂を70質量部用いたこと、及びアミノ樹脂ビーズ(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)14質量部を用いなかったこと以外は、実施例1と同様に試験用の摺動部材2を作製して評価した。その結果、摩耗深さ及び剥離体積は測定不能であり、試験後外観も評価できなかった。評価結果を下記表1に示す。
【0072】
<試験方法>
鈴木式摩擦摩耗試験機(型番:「EFM-III-EN」、株式会社オリエンテック製)を用いた摩擦摩耗試験により評価した。相手材としては、外径が5mm、高さ15mmのピン(材質;鉄材(SUJ-2))を用いた。この相手材を表面粗さRz[DIN]=1.0±0.5μmの範囲で収まるように研磨した。
【0073】
図3は、本実施例に係る摩擦摩耗試験の説明図である。図3に示すように、摩擦摩耗試験では、基材111(材質:SUS430)上に被膜112が設けられた試験用の摺動部材2のディスク110の被膜112側を摺動面110Aとした。摩擦磨耗試験では、被膜112上に相手材としての3本のピン120を固定した冶具130を載せた後、冶具130の上方から1000N(面圧:約17MPa)の荷重(矢印140参照)を掛けた状態でディスク110を周速100rpm(0.17m/s)で50時間回転(矢印150参照)させた。試験後の摺動面110Aの摩耗深さ(μm)に基づいて摩耗評価をした。被膜112が剥離した部分の剥離体積(mm)に基づいて剥離評価をした。また、摩擦摩耗試験後の摺動面110Aを目視にて確認した試験後概観に基づいて外観評価をした。評価基準を下記に示す。
<摩耗量評価>
摩耗深さ1.5μm未満:◎
摩耗深さ2.5μm未満:○
摩耗深さ2.5μm以上又は測定不能:×
<剥離体積評価>
剥離体積0.05mm未満:◎
剥離体積0.15mm未満:○
剥離体積0.15mm以上又は測定不能:×
<外観評価>
試験後外観に擦過痕が認められない:○
試験後外観に擦過痕が認められる又は外観評価不能:×
<総合評価>
上記3つの評価において「◎」が2つ以上:◎
上記3つの評価において「×」がない:〇
上記3つの評価において「×」が1つ以上:×
【0074】
【表1】
【0075】
上記表1における各成分の配合量は、下記の通りである。
PAI樹脂:ポリアミドイミド樹脂(商品名:「HPC-5012」、日立化成株式会社製)PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(商品名:「フルオン(登録商標)L173J、AGC株式会社製」
グラファイト:グラファイト(商品名:「HOP」、日本黒鉛工業株式会社製)
樹脂ビーズA:メラミン・ホルムアルデヒド縮合物(平均粒子径:0.2μm、商品名:「エポスター(登録商標)S」、株式会社日本触媒製)
樹脂ビーズB:ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物(平均粒子径:3μm、商品名:「エポスター(登録商標)M30」、株式会社日本触媒製)
樹脂ビーズC:ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物(平均粒子径:5μm、商品名:「エポスター(登録商標)M05」、株式会社日本触媒製)
樹脂ビーズD:ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物(平均粒子径:9μm、商品名:「エポスター(登録商標)L15」、株式会社日本触媒製)
樹脂ビーズE:ウレタン架橋微粒子(平均粒子径:6μm、商品名:「アートパール(登録商標)C800」、根上工業株式会社製)
【0076】
表1から分かるように、第1塗膜層用組成物が、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂ビーズを含む場合には、摩耗量評価、剥離体積評価及び外観評価がいずれも良好となり、優れた耐摩耗特性及び耐剥離特性が得られることが分かる(実施例1~実施例8)。この結果は、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズからなる群から選択された少なくとも1種の樹脂ビーズの使用により、第1塗膜層12-1と基材11との界面における第1塗膜層12-1の破壊が抑制され、第1塗膜層12-1の基材111からの剥離を抑制できたためと考えられる。特に、第1塗膜層用組成物が、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズの双方を含む場合には、摩耗評価及び剥離評価がより一層向上することが分かる(実施例7及び実施例8)。
【0077】
これに対して、第1塗膜層用組成物が固体潤滑剤として、アミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズのいずれも含まない場合には、既定の試験時間に到達することなく、塗膜が摩耗及び剥離して摩耗量評価、剥離体積評価及び外観評価が不良(測定不能)となることが分かる(比較例1)。この結果は、第1塗膜層12-1中にアミノ樹脂ビーズ及びウレタン樹脂ビーズのいずれも存在しなかったために、第1塗膜層12-1内部での樹脂ビーズとバインダー樹脂との間の開裂が発現せず、第1塗膜層12-1と基材111との間の界面での開裂が進行したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、上記実施の形態によれば、塗膜と塗布対象物との界面近傍からの塗膜の剥離を防止でき、長期に亘って潤滑機能を維持できる摺動部材用組成物及び摺動部材を提供でき、特に、このような摺動部材は、例えば、エアコンなどの各種コンプレッサー、エンジンピストン、内燃機関部品、滑り軸受、チェーン、気体及び液体の電磁弁、プランジャー、バルブなどに好適に用いることができる。
【0079】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本実施の形態の内容により本発明の実施の形態が限定されるものではない。また、上述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施の形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0080】
1,2…摺動部材、11,111…基材、12…塗膜層、12-1…第1塗膜層、 12-2…第2塗膜層、110…ディスク、110A…摺動面、112…被膜、120…ピン、130…冶具
図1
図2
図3