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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】物理的に改質された澱粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/212 20160101AFI20220602BHJP
   C08B 30/12 20060101ALI20220602BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220602BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
A23L29/212
C08B30/12
A61K47/36
A61K8/73
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021190873
(22)【出願日】2021-11-25
(62)【分割の表示】P 2021532968の分割
【原出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022020852
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019182147
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 清香
(72)【発明者】
【氏名】中馬 誠
(72)【発明者】
【氏名】太田 美樹
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/216748(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/110610(WO,A1)
【文献】特開平09-012601(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0055026(KR,A)
【文献】SUDHA M. L., et al.,Studies on pasting and structural characteristics of thermally treated wheat germ,Eur Food Res Technol,2007年,Vol.225,p.351-357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/212
C08B 30/12
A61K 47/36
A61K 8/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のc)特性を備え、植物組織構造を有する、植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を含有する、物理的に改質された澱粉:
c)前記澱粉を5質量%含有する水懸濁液から得られる糊液の粘度について、下記に定義するレトルト殺菌処理前後の粘度相対値Aが80%以上であり、レトルト殺菌処理後の保存中の粘度相対値Bが85%~125%である、
レトルト殺菌処理前後の粘度相対値A(%)=η/η×100、
レトルト殺菌処理後の保存中の粘度相対値B(%)=η/η×100
(ここで、
前記澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、その後20℃の恒温水槽で1時間冷却した後、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をη
前記澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、さらに121℃20分間の条件でレトルト殺菌処理し、20℃で1日放冷した後、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をη
前記澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、さらに121℃20分間の条件でレトルト殺菌処理し、20℃で1日放冷した後、5℃の恒温槽にて1週間(7日間)保存し、20℃の恒温水槽に1時間つけて調温したのち、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をηとする)。
【請求項2】
さらに、以下の(a)及び/又は(b)を満たす、請求項1に記載の物理的に改質された澱粉:
(a)前記澱粉の4.8質量%の水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、
(1)試料温度を、
水和期間である0~60秒まで、50℃で保持し、
糊化期間である60~282秒まで、0.203℃/秒で昇温し、
高温保持期間である282~432秒まで、95℃で保持し、
降温期間である432~660秒まで、0.197℃/秒で降温し、及び
冷却保持期間である660~780秒まで、50℃で保持し、且つ、
(2)パドルの回転数を、
0~10秒まで、960rpm、及び
10秒以降は、160rpm
とする第1の条件
で測定した場合、糊化期間から高温保持期間の間の粘度の最大値Vaと降温期間の間の粘度の最小値Vbとの差であるVa-Vbが100mPa・s以下である;
(b)前記澱粉の4.8質量%の水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、
(1)試料温度を、
水和期間である0~60秒まで、50℃で保持し、
糊化期間である60~420秒まで、0.194℃/秒で昇温し、
高温保持期間である420~1020秒まで、120℃で保持し、及び
降温期間である1020~1380秒まで、0.194℃/秒で降温し、且つ、
(2)パドルの回転数を、
0~10秒まで、960rpm、及び
10秒以降は、160rpm
とする第2の条件
で測定した場合、糊化期間から高温保持期間の間の粘度の最大値Vaと降温期間の間の粘度の最小値Vbとの差であるVa-Vbが150mPa・s以下である。
【請求項3】
前記(a)において、前記澱粉の4.8質量%の水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、前記第1の条件で測定した場合、初期粘度上昇率(Vr)が0.02/s以下である、請求項に記載の物理的に改質された澱粉。
【請求項4】
前記(b)において、前記澱粉の4.8質量%の水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、前記第2の条件で測定した場合、初期粘度上昇率(Vr)が0.02/s以下である、請求項2又は3に記載の物理的に改質された澱粉。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の物理的に改質された澱粉を含有する、製剤。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の物理的に改質された澱粉を含有する、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的に改質された澱粉の製造方法、澱粉の糊化時又はその後の高温加熱による粘度低下を抑制する又は糊化後の粘度安定性を付与する方法、物理的な澱粉の改質のための剤、並びに、物理的に改質された澱粉及びそれを用いた製剤及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉は、多量の水の存在下で加熱されると、ある一定の温度域で周囲の水を吸収して膨潤し、それによって粘度が上昇する。このような現象を澱粉の「糊化」という。澱粉は、この糊化する特性があるために、加工食品の増粘剤又は保型剤として幅広く利用されている。しかしながら、天然の未変性の澱粉は、糊化時又はその後の加熱や撹拌によって澱粉粒が崩壊して当初の粘度を保持できなくなる。これが、いわゆる「ブレークダウン」である。ブレークダウンが起こると、粘度が低下するだけでなく、澱粉粒から溶出したアミロースやアミロペクチンが経時的に結晶化する(老化)。その結果、次第に澱粉の品質が劣化していく。
【0003】
澱粉のブレークダウンを抑制する手段の一つとして、澱粉を物理的又は化学的に改質することが挙げられる。澱粉の化学的改質は、澱粉を構成するグルコースを化学修飾する手段である。一方、物理的改質は、主に加熱等の物理的な処理によって澱粉の物性を変化させる手段である。物理的改質は、化学的改質のような新たな化学種を生じにくく、食品素材として使用しやすい点で有利である。
【0004】
物理的改質は、澱粉以外の物質を添加して行われる場合がある。例えば、種々の水溶性多糖類を添加することによって、澱粉を物理的に改質する試みがなされている。特許文献1では、キサンタンガムと澱粉を粉末混合した後、水を添加して水分量調整を行っている。そして得られた混合物を乾式条件下で100℃~200℃で30分から5時間加熱処理して澱粉を改質している。また、特許文献2には、澱粉及び果実由来食物繊維の混合物を湿熱処理することを含む、澱粉の改質手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-54028号公報
【文献】国際公開第2018/216748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の方法によって得られる改質澱粉は、加熱によって良好に粘度を発現するものの、レトルト殺菌条件のような高温加熱での粘度低下又は粘度の経時的な安定性には、なお改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、加熱によって良好に粘度発現しつつ、高温加熱でも粘度低下しにくい、又は、糊化後の粘度の安定性に優れた改質澱粉を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、澱粉及び植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を含有し、特定の水分含有量である熱処理用混合物を調製した。そして、当該熱処理用混合物5gを95mlの水に懸濁したときの25℃におけるpHが5~12であるという条件下で、当該熱処理用混合物を乾熱処理して物理的に改質された澱粉を得た。そして、当該物理的に改質された澱粉は、レトルト殺菌処理のような高温加熱でも粘度低下しにくく、糊化後の粘度の安定性に優れることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の物理的に改質された澱粉の製造方法を提供する。
[1]
(A)澱粉、(B)植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維及び0~20質量%の水分を含有する、熱処理用混合物を、乾熱処理することを含み、
前記熱処理用混合物5gを95mlの水に懸濁したときの25℃におけるpHが、5~12である、
物理的に改質された澱粉の製造方法。
[2]
前記乾熱処理の温度が、100~200℃である、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記熱処理用混合物が、さらに(C)塩基性化合物を含有する、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
(A)澱粉、(B)植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維、(C)塩基性化合物及び20~99質量%の水分を含有する中間混合物を調製すること、並びに、該中間混合物を乾燥することをさらに含む、[3]に記載の製造方法。
[5]
(B)植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を、加水することなく前記熱処理用混合物に共存させることをさらに含む、[3]に記載の製造方法。
[6]
(A)澱粉が、コーン澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コメ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、葛澱粉及びサゴ澱粉、並びにそれらのもち種澱粉からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含む、[1]~[5]のいずれか1に記載の製造方法。
[7]
(B)の植物由来食物繊維が、シトラス由来食物繊維、リンゴ由来食物繊維、オレンジ由来食物繊維、エンドウ豆由来食物繊維、大豆由来食物繊維、キャロット由来食物繊維、トマト由来食物繊維、バンブー由来食物繊維、シュガービート由来食物繊維、種皮由来食物繊維、コーン由来食物繊維、小麦由来食物繊維、大麦由来食物繊維、ライ麦由来食物繊維及びコンニャク由来食物繊維からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、[1]~[6]のいずれか1に記載の製造方法。
[8]
(C)塩基性化合物が、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩及び有機酸塩、並びに、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩及び有機酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、[1]~[7]のいずれか1に記載の製造方法。
[9]
前記熱処理用混合物の(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量が、0.5質量部以上30質量部未満である、[1]~[8]のいずれか1に記載の製造方法。
【0010】
また、本発明は、以下の、澱粉の糊化時又はその後の高温加熱による粘度低下を抑制する、又は糊化後の粘度安定性を付与する方法を提供する。
[10]
有効量の植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を、澱粉と共存させ、乾熱処理することを含む、澱粉の糊化時又はその後の高温加熱による粘度低下を抑制する、又は糊化後の粘度安定性を付与する方法。
【0011】
さらに、本発明は、以下の物理的な澱粉の改質のための剤を提供する。
[11]
有効量の植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を含有する、乾熱処理による物理的な澱粉の改質のための剤。
【0012】
さらに、本発明は、以下の物理的に改質された澱粉と、それを用いた製剤及び飲食品を提供する。
[12]
植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を含有する、物理的に改質された澱粉であって、
前記澱粉の4.8質量%の水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、
(1)試料温度を、
水和期間である0~60秒まで、50℃で保持し、
糊化期間である60~282秒まで、0.203℃/秒で昇温し、
高温保持期間である282~432秒まで、95℃で保持し、
降温期間である432~660秒まで、0.197℃/秒で降温し、及び
冷却保持期間である660~780秒まで、50℃で保持し、且つ、
(2)パドルの回転数を、
0~10秒まで、960rpm、及び
10秒以降は、160rpm
とする第1の条件
で測定した場合、糊化期間から高温保持期間の間の粘度の最大値Vaと降温期間の間の粘度の最小値Vbとの差であるVa-Vbが100mPa・s以下である、物理的に改質された澱粉。
[13]
前記澱粉の4.8質量%の水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、前記第1の条件で測定した場合、初期粘度上昇率(Vr)が0.02/s以下である、[12]に記載の物理的に改質された澱粉。
[14]
植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を含有する、物理的に改質された澱粉であって、
前記澱粉の4.8質量%の水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、
(1)試料温度を、
水和期間である0~60秒まで、50℃で保持し、
糊化期間である60~420秒まで、0.194℃/秒で昇温し、
高温保持期間である420~1020秒まで、120℃で保持し、及び
降温期間である1020~1380秒まで、0.194℃/秒で降温し、且つ、
(2)パドルの回転数を、
0~10秒まで、960rpm、及び
10秒以降は、160rpm
とする第2の条件
で測定した場合、糊化期間から高温保持期間の間の粘度の最大値Vaと降温期間の間の粘度の最小値Vbとの差であるVa-Vbが150mPa・s以下である、物理的に改質された澱粉。
[15]
前記澱粉の4.8質量%の水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、前記第2の条件で測定した場合、初期粘度上昇率(Vr)が0.02/s以下である、[14]に記載の物理的に改質された澱粉。
[16]
植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を含有する、物理的に改質された澱粉であって、
前記澱粉を5質量%含有する水懸濁液から得られる糊液の粘度について、下記に定義するレトルト殺菌処理前後の粘度相対値Aが80%以上であり、レトルト殺菌処理後の保存中の粘度相対値Bが85%~125%である、物理的に改質された澱粉:
レトルト殺菌処理前後の粘度相対値A(%)=η/η×100、
レトルト殺菌処理後の保存中の粘度相対値B(%)=η/η×100;ここで、
前記物理的に改質された澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、その後20℃の恒温水槽で1時間冷却した後、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をη
前記物理的に改質された澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、さらに121℃20分間の条件でレトルト殺菌処理し、20℃で1日放冷した後、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をη
前記物理的に改質された澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、さらに121℃20分間の条件でレトルト殺菌処理し、20℃で1日放冷した後、5℃の恒温槽にて1週間(7日間)保存し、20℃の恒温水槽に1時間つけて調温したのち、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をηとする。
[17]
[12]~[16]のいずれか1に記載の物理的に改質された澱粉を含有する、製剤。
[18]
[12]~[16]のいずれか1に記載の物理的に改質された澱粉を含有する、飲食品。
[19]
[1]~[9]のいずれか一項に記載の製造方法によって製造される物理的に改質された澱粉を含有する、製剤。
[20]
[1]~[9]のいずれか一項に記載の製造方法によって製造される物理的に改質された澱粉を含有する、飲食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成によれば、加熱時の澱粉のブレークダウンが抑えられつつ、加熱による粘度発現が良好で、糊化後の経時的な粘度変化が抑制された改質澱粉が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1Aは、典型的なRVA粘度曲線と、Va、Vbを例示した概念図である。実線のRVA粘度曲線のように、ピークが見られる場合には、Vaはピーク時の粘度(Va)となる。また、降温時に極小値がある場合、その値がVb(Vb)となる。破線のRVA粘度曲線のように、ピークも極小値もなく、単調に粘度が変化する場合はVaとVbが一致する(VaとVb)。図1Bは、初期粘度上昇率(Vr)の算出法を示す概念図である。
図2】試験例1において、RVA(プロファイル1、最大温度95℃)によって各澱粉試料の粘度を測定して得られたRVA粘度曲線である。
図3】試験例1において、RVA(プロファイル2、最大温度120℃)によって各澱粉試料の粘度を測定して得られたRVA粘度曲線である。
図4】試験例1において、プロファイル1及び2(それぞれ最大温度95℃、120℃)でのRVAを用いた評価後に、各澱粉糊液を光学顕微鏡で観察して得られた写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解される。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
【0016】
本明細書において、単に「澱粉」と記載した場合、物理的処理又は化学的処理による変性が生じていない澱粉(いわゆる生澱粉)を表す。即ち澱粉は、細胞壁を破壊して、植物中の澱粉粒を取り出し、集めたものであって、化学的処理等の加工を一切行っていない澱粉である。
【0017】
本明細書における「物理的に改質された澱粉」とは、加熱、加圧等の物理的処理によって、生澱粉の澱粉粒が水への曝露、加熱及び/若しくは撹拌等の物理的な刺激によって膨潤及び/又は崩壊する性質が低減された澱粉を表す。
なお、本明細書においては、化学的に官能基を付加又は導入しない限り、物理的処理と同時に、酸又はアルカリ等で処理をした場合であっても、物理的に改質されたものとする。
一方、本明細書において、「化学的に改質された澱粉」とは、構成するグルコース単位の水酸基に対して官能基が付加又は導入された澱粉であり、物理的に改質された澱粉とは区別される。
例えば、日本、米国及び欧州では、物理的に改質された澱粉は一般食品に分類され、化学的に改質された澱粉は食品添加物である「加工デンプン」に分類される。
【0018】
本明細書において、「α化」と「糊化」は、特に区別されず、いずれも澱粉粒が給水して膨潤又は崩壊した状態にすることを表す。このとき、澱粉粒のアミロペクチン鎖間には水が入り込んだ状態となる。
【0019】
特に限定されない限り、本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、室温で実施され得る。
本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味する。また、本明細書中、加熱とは、室温以下の温度を有する当該混合物の温度を、処理前より高くする処理を意味する。
【0020】
本明細書において、「実質的に含まない」とは、それが存在する場合、検出限界未満のレベルであることを表し、例えば、0.1%未満であることを意味する。
【0021】
[物理的に改質された澱粉の製造方法]
本発明の物理的に改質された澱粉の製造方法は、
(A)澱粉、(B)植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維及び所定量の水分を含有する熱処理用混合物を、乾熱処理することを含む。ここで、前記熱処理用混合物5gを95mlの水に懸濁したときの25℃におけるpHは、5~12である。
【0022】
((A)成分:澱粉)
本発明で使用される(A)成分である澱粉は、特に限定されないが、コーン澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コメ澱粉、小麦澱粉、甘蔗澱粉、緑豆澱粉、葛澱粉及びサゴ澱粉、並びにそれらのもち種澱粉(例:もち馬鈴薯澱粉、もち米澱粉、ワキシーコーン澱粉)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の組み合わせ(混合物)であることが好ましく、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コメ澱粉、コーン澱粉及び甘蔗澱粉、並びにそれらのもち種澱粉からなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせであることがより好ましい。
【0023】
一実施形態では、(A)成分である澱粉は、ワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉及び馬鈴薯澱粉から選ばれる1種単独又は2種以上である。これらの澱粉を用いて改質を行った場合、得られる改質された澱粉は攪拌等のシェアによる粘度の低下が抑制され、粘度安定性に優れる点で、好ましい。
【0024】
当該澱粉粒の粒子径(最長径)は、馬鈴薯澱粉及びそのもち種澱粉の場合は例えば15~100μm、タピオカ澱粉及びそのもち種澱粉の場合は例えば5~35μm、コメ澱粉及びそのもち種澱粉の場合は例えば2~10μm、コーン澱粉及びそのもち種澱粉の場合は例えば6~25μm、小麦澱粉の場合は例えば10~35μm、甘藷澱粉の場合は例えば15~35μm、緑豆澱粉の場合は例えば15~25μm、葛澱粉の場合は例えば3~15μm、及びサゴ澱粉の場合は例えば10~60μmの範囲内である。
【0025】
また、当該澱粉粒の粒子径(最長径)の標準偏差は、馬鈴薯澱粉及びそのもち種澱粉の場合は例えば1~60μm、タピオカ澱粉及びそのもち種澱粉の場合は例えば1~15μm、コメ澱粉及びそのもち種澱粉の場合は例えば0.1~5μm、コーン澱粉及びそのもち種澱粉の場合は例えば1~11μm、小麦澱粉の場合は例えば1~15μm、甘藷澱粉の場合は例えば1~15μm、緑豆澱粉の場合は例えば0.1~5μm、葛澱粉の場合は例えば0.1~5μm、及びサゴ澱粉の場合は例えば1~30μmの範囲内である。
【0026】
当該澱粉粒の最長径/最短径の比は、例えば、約1.0~約1.5の範囲内、約1.1~約1.5の範囲内、又は約1.0であり得る。
【0027】
((B)成分:植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維)
本発明の(B)成分としては、植物由来食物繊維及びキノコ由来食物繊維のいずれか単独又はそれら両方の組み合わせが挙げられる。
【0028】
本発明の(B)成分として使用される植物由来食物繊維は、一般に流通している植物由来食物繊維を広く利用することができる。本発明で使用される植物由来食物繊維は、果実あるいは野菜等の圧搾後に果汁あるいは野菜汁を除いた残渣、又はその精製物であり得る。これらの植物由来食物繊維は、公知の方法で製造すること、及び/又は商業的に入手することが可能である。
【0029】
本発明で使用される植物由来食物繊維は、水溶性食物繊維であっても、水不溶性食物繊維であってもよいが、水溶性食物繊維と水不溶性食物繊維を含有する複合型食物繊維であることが好ましい。水溶性食物繊維の例としては、水溶性ヘミセルロース、ペクチン、β-グルカン、グルコマンナン、キシラン、ガラクツロナン、ガラクトマンナン、キシログルカンからなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせが挙げられる。また、より具体的には、水溶性食物繊維の例としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、寒天、カラギナン、アラビアガム及びガティガムからなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせが挙げられる。不溶性食物繊維の例は、セルロース、リグニン、不溶性ヘミセルロース、プロトペクチンからなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0030】
前記複合型食物繊維は、好ましくは、食物繊維を40質量%以上、より好ましくは50質量%以上含有することができる。場合によって、前記複合型食物繊維には、食物繊維を、60質量%以上或いは70質量%以上含むこともできる。前記複合型食物繊維は、好ましくは、不溶性食物繊維を、20質量%以上、より好ましくは30質量%程度含有することができる。場合によって、複合型食物繊維に、不溶性食物繊維を、40質量%以上、50質量%以上、又は60質量%以上含有することもできる。前記複合型食物繊維は、好ましくは、水溶性食物繊維を、例えば、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、又は50質量%以上含有することができる。前記複合型食物繊維が含有する水不溶性食物繊維及び水溶性食物繊維の質量比は、好ましくは1:0.001~1:15、より好ましくは1:0.01~1:15、更に好ましくは1:0.2~1:15、更により好ましくは1:0.3~1:10の範囲内であり得る。
【0031】
本発明に関し、食物繊維含有量、水溶性食物繊維含有量、及び不溶性食物繊維含有量は、プロスキー変法によって、測定される。
【0032】
一実施形態では、植物由来食物繊維は、植物組織構造を有してもよい。植物組織構造を有する食物繊維とは、植物の細胞壁構造が残存している食物繊維を表す。細胞壁構造の有無は、例えば食物繊維又はその含有物を顕微鏡観察したときに、細胞壁構造に相当する構造が認められるか否かで判別することができる。
【0033】
植物由来食物繊維は、好ましくは、ペクチンを含有する食物繊維であり得る。
【0034】
一実施形態では、植物由来食物繊維として、下記の果実由来食物繊維の他、エンドウ豆由来食物繊維、大豆由来食物繊維等の豆類由来食物繊維、キャロット由来食物繊維、トマト由来食物繊維等の野菜由来食物繊維、バンブー由来食物繊維、シュガービート由来食物繊維、種皮由来食物繊維(バジルシード由来食物繊維、チアシード由来食物繊維等)、コーン由来食物繊維、小麦由来食物繊維、大麦由来食物繊維、ライ麦由来食物繊維、コンニャク由来食物繊維等から1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明で使用される植物由来食物繊維としては、果実由来食物繊維、種皮由来食物繊維及び豆類由来食物繊維からなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、果実由来食物繊維がより好ましく、シトラス由来食物繊維(シトラスファイバー)、リンゴ由来食物繊維、及びオレンジ由来食物繊維からなる群より選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、シトラス由来食物繊維が特に好適に用いられる。
【0036】
果実由来食物繊維は、果実の食物繊維を含む画分を乾燥粉砕した組成物である。果実由来食物繊維は、果実を構成する細胞の細胞壁中のセルロース、ヘミセルロース等の不溶性食物繊維を多く含み、果実の持つ繊維組織構造を部分的に保持していることを特徴とする。果実由来食物繊維は、例えば、細胞のミセル構造が壊れポーラスな構造を有しているものであり得る。
【0037】
本発明に用いられる果実由来食物繊維の由来としては、本発明の効果を奏するものであれば特に限定されず、例えば柑橘類(レモン、ライム、ユズ、オレンジ、グレープフルーツ、夏ミカン、温州ミカン、スダチ、カボス、ハッサク、イヨカン、ブンタン、晩白柚、キンカン、ダイダイ等)、リンゴ、パイナップル、バナナ、グァバ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、モモ、ブドウ(マスカット、巨峰等を含む)、イチゴ、ウメ、ナシ、アンズ、スモモ、キウイフルーツ、メロン、カキ、イチジク等が挙げられる。中でも柑橘類由来の食物繊維が好ましく、レモン、ライム、ユズ、オレンジ、グレープフルーツ及び夏ミカンからなる群より選ばれる1種又は2種以上に由来する食物繊維がより好ましい。
【0038】
本発明に用いられる果実由来食物繊維は、果実から果汁を除いた残渣、又は残渣をろ過等により精製した精製物から調製することが好ましい。
果実由来食物繊維の粉末を60メッシュのふるいにかけた際の残分(メッシュオン)は、ふるいにかけた粉末全量に対して、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下である。
果実由来食物繊維1質量部を25℃の水に24時間浸した後の保水量は、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。なお、保水量は、水に浸した食物繊維を遠心して水気を除いた後の質量から、水に浸す前の質量を差し引いた質量である。
果実由来食物繊維の食物繊維含有量は、好ましくは85質量%以上である。
【0039】
種皮由来食物繊維は、例えば、種子に対して水を加え、種皮(外殻)の多糖類成分を膨潤させた後、攪拌等による物理的な力を加えて、種子部分を除去することによって得ることができる。より具体的な種皮由来食物繊維の調製方法としては、例えば、WO2016/114201号公報に記載の方法に類似した方法を用いることができる。
【0040】
本発明の(B)成分として用いられるキノコ由来食物繊維は、キノコ(mushroom)から得られる食物繊維であれば特に限定されない。本明細書において、キノコは、例えば、担子菌門(Basidiomycota)又は子嚢菌門(Ascomycota)の子実体を表す。これらのキノコ由来食物繊維は、公知の方法で製造すること、及び/又は商業的に入手することが可能である。
【0041】
一実施形態において、本発明で使用される植物由来食物繊維は、キノコの水抽出物であり得る。
【0042】
本発明で使用されるキノコ由来食物繊維は、水溶性食物繊維であっても、水不溶性食物繊維であってもよい。水溶性食物繊維としては、例えば、グルクロン酸を含有する酸性ヘテロ多糖体が挙げられる。水不溶性食物繊維としては、例えばセルロース、リグニン、不溶性ヘミセルロース、プロトペクチン、キチンが挙げられる。
【0043】
(B)成分のキノコ由来食物繊維には、一般に流通しているキノコ由来食物繊維を広く利用することができる。キノコ由来食物繊維の具体例としては、例えば白キクラゲ抽出物等の白キクラゲ由来食物繊維が挙げられる。白キクラゲ由来食物繊維のより具体的な実施形態及び製造方法は、例えば、特開2019-195308号公報、特開2019-041735号公報に記載から理解することができる。
【0044】
(熱処理用混合物のpH)
熱処理用混合物5gを95mlの水に懸濁したときの25℃におけるpHは、熱処理用混合物を調製しやすくする観点から、12以下であり、例えば、11.5以下、11以下、10.5以下、10以下又は8以下であり得る。また、熱処理用混合物5gを95mlの水に懸濁したときの25℃におけるpHは、本発明の効果を顕著に奏する観点から、5以上であり、例えば5.5以上であり得る。
【0045】
((C)成分:塩基性化合物)
本発明の製造方法において、特に限定されないが、熱処理用混合物がさらに(C)成分である塩基性化合物を含有することが好ましい。塩基性化合物としては、食品に使用可能なものであれば特に限定されず、例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩及び有機酸塩、並びに、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩及び有機酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上である。ここで、当該有機酸の例は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコン酸、フマル酸、酢酸及びシュウ酸を包含する。
中でも、塩基性化合物としては、アルカリ金属の炭酸塩又は炭酸水素塩が好ましく、アルカリ金属の炭酸塩がより好ましい。
【0046】
(各成分の比)
熱処理用混合物における(A)成分の総含有量100質量部に対する(B)成分の総含有量は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、例えば2質量部以上、3質量部以上、4質量部以上又は5質量部以上であり得る。
また、熱処理用混合物における(A)成分の総含有量100質量部に対する(B)成分の総含有量は、好ましくは30質量部未満であり、例えば20質量部以下、例えば15質量部以下、10質量部以下又は8質量部以下であり得る。このような(B)成分の含有量は、熱処理用混合物が容易に調製可能で、また加熱時の着色が抑えられる点で、好ましい。
【0047】
熱処理用混合物における(A)成分の総含有量100質量部に対する(C)成分の総含有量は、原料となる生澱粉のpHによって適宜調整し得るが、例えば、0.001質量部以上、0.01質量部以上、0.03質量部以上、0.05質量部以上である。
熱処理用混合物における(A)成分の総含有量100質量部に対する(C)成分の総含有量は、原料となる生澱粉のpHによって適宜調整し得るが、例えば10質量部以下、5質量部以下、1質量部以下である。
(水分、pH、その他成分)
【0048】
熱処理用混合物の水分含有量は、0~20質量%、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0~14.9質量%であり、実質的に水分を含まないことがより好ましい。
【0049】
熱処理用混合物には、得られる改質された澱粉の使用用途に応じて、さらに、(A)~(C)成分及び水分以外に、その他成分として、水溶性多糖類、水不溶性多糖類、賦形剤、乳化剤食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品に用いられ得る公知の栄養成分、アルコール、酒類、塩類、呈味成分、果汁、果肉、野菜、野菜汁、ピューレ、エキス(動物、植物、微生物等由来)、香辛料、甘味料、糖アルコール、高甘味度甘味料、苦味料、香料、着色料、その他食品添加物(保存料、酸化防止剤、増粘剤、安定化剤等);医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分又は添加剤;その他の防腐剤、防カビ剤、界面活性剤、ゲル化剤、溶剤、香料、殺菌剤、消臭成分からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0050】
その他成分の水溶性多糖類としては、特に限定されないが、例えば、キサンタンガム又はジェランガムが挙げられる。水不溶性多糖類としては、特に限定されないが、例えばセルロース又はヘミセルロースが挙げられる。
【0051】
(乾熱処理)
「乾熱処理」とは、加熱工程中に外部から水分を加えずに加熱する処理である。乾熱処理には、特に限定されないが、例えば、対流伝熱乾燥装置又は伝導伝熱乾燥装置等を使用することができる。中でも、混合、及び加熱を同時に行うことができ、滞留時間を長くすることが可能な、周囲を加熱可能なジャケットを備えた混合機形の加熱装置等を用いることが、処理効率を良好とする観点から好ましい。
【0052】
乾熱処理の温度は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上である。
乾熱処理の温度は、澱粉の着色の防止又は抑制の観点から、例えば200℃以下、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0053】
乾熱処理の時間は、澱粉及び植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の種類、乾熱処理温度によって適宜設定し得るが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、10分以上、好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上である。
乾熱処理の時間は、澱粉及び植物由来食物繊維の種類、乾熱処理温度によって適宜設定し得るが、着色を防止する観点から、1440分以下、好ましくは1200分以下、より好ましくは720分以下、更に好ましくは540分以下であり、例えば240分以下である。
【0054】
(その他工程)
熱処理用混合物が(A)成分及び(B)成分、並びに任意で(C)成分を含有する場合は、特に限定されないが、例えば以下の(i)又は(ii)の工程を含むことが好ましいが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、(i)の工程を含むことがより好ましい。
(i)(A)澱粉、(B)植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維及び20~99質量%の水分、並びに、任意で(C)塩基性化合物を含有する中間混合物を調製する工程;及び、
該中間混合物を乾燥させる工程。
(ii)(A)澱粉及び0~20質量%の水分、並びに任意で(C)塩基性化合物、を含有する混合物に、
(B)植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を、加水することなく添加する工程。
ここで、(ii)において、「加水することなく」とは、(B)成分自体及び(B)成分が添加されて得られる混合物にも水を添加しないことを表す。
上記(ii)の工程を含む場合、本発明の製造方法には、
(iii)(A)澱粉及び20~99質量%の水分、並びに任意で(C)塩基性化合物、を含有する中間混合物を調製し、水分含有量0~20質量%となるまで乾燥させる工程、
をさらに含むことが好ましい。
上記の(i)~(iii)の工程における乾燥には、特に限定されないが、例えば凍結乾燥、自然乾燥、恒温槽等による乾燥を用いることができる。乾燥の温度は、例えば-50~70℃である。
【0055】
乾燥によって得られた中間混合物は、乾熱処理を均一に行うために、さらに粉砕を行うことが好ましい。粉砕には、ハンマーミル、ウィングミル、ボールミル、ジェットミル、乳鉢、臼式粉砕機等が用いられる。
【0056】
乾燥によって得られた中間混合物は、さらにpH調整されてもよい。pH調整は、例えば得られた中間混合物に、所定量の塩基性物質を加えて行う。当該塩基性物質としては、水に溶かすとアルカリ性(例えば、8以上のpH)を示す物質が例示できる。その具体例は、周期表1族の金属(例:ナトリウム、カリウム)の水酸化物、炭酸塩、又は炭酸水素塩、有機酸塩;及び周期表2族の金属(例:カルシウム、マグネシウム)の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、又は有機酸塩を包含する。
【0057】
乾燥によって得られた中間混合物は、さらに調湿、篩分等を行うことが好ましい。
【0058】
本発明の製造方法には、さらに物理的に改質された澱粉を粉砕、調湿、及び篩分からなる群より選ばれる1種以上の後処理の工程を含んでもよい。
【0059】
本発明の製造方法は、乾熱処理の前又は後に、さらに水又は有機溶媒(エタノール等)で澱粉を含む熱処理用混合物又は物理的に改質された澱粉を洗浄する工程を含んでいてもよい。
【0060】
(具体的方法1:澱粉及び植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維、並びに任意で塩基性化合物を含有する粉末の乾熱処理)
本発明の製造方法の一実施形態として、(A)澱粉、及び(B)植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維、並びに、任意で(C)塩基性化合物を含有する混合物を調製し、得られた混合物を乾燥させてから乾熱処理する方法が挙げられる。
【0061】
当該方法では、まず、澱粉に植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維と、任意で水を加え、さらに任意で塩基性化合物を均一になるように混合して、水分含有量が20~99質量%である中間混合物を調製する。このとき、澱粉、水、植物由来食物繊維若しくはキノコ由来食物繊維、又は塩基性化合物の添加順序は特に限定されない。塩基性化合物を添加する場合は、局所的な澱粉のpH上昇を避ける観点から、澱粉、水及び植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の混合物に塩基性化合物をそのまま又は水に分散して添加し、混合することが好ましい。当該混合は、攪拌等の公知の方法で実施すればよい。
前記中間混合物における、(A)成分の総含有量100質量部に対する(B)成分の総含有量は、好ましくは0.5質量部以上30質量部未満、より好ましくは0.5~20質量部、更に好ましくは1~15質量部、更により好ましくは1~10質量部であり、例えば1~8質量部である。
前記中間混合物における、(A)成分の総含有量100質量部に対する(C)成分の総含有量は、好ましくは0.001~10質量部、より好ましくは0.01~5質量部、更に好ましくは0.03~1質量部であり、例えば0.05~1質量部である。
【0062】
得られた中間混合物は、必要に応じてさらに上記のその他成分を加えた上で、乾燥される。これによって得られる乾燥物の水分含有量は、例えば0~20質量%、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0~14.9質量%である。
当該乾燥の前の中間混合物はpH調整されることが好ましい。pHは、例えば、5~12に調整される。
さらに、前記乾燥物は、乾熱処理を均一に行う観点から、粉砕されることが好ましい。粉砕の手段は、上記の熱処理用混合物と同様である。
前記乾燥物は、そのまま熱処理用混合物として乾熱処理されてもよいし、さらに粉砕工程や上記のその他成分を添加する工程を経て、熱処理用混合物としてもよい。
【0063】
上記のその他成分は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、前記中間混合物又は前記乾燥物の調製段階で添加してもよいし、成分の乾熱処理による変性を抑制する観点から、乾熱処理後に得られる改質された澱粉に添加してもよい。
【0064】
(具体的方法2:澱粉及び任意で塩基性化合物を含有する粉末と、植物由来食物繊維粉末又はキノコ由来食物繊維粉末の混合物の乾熱処理)
本発明の物理的に改質された澱粉の製造方法の一実施形態として、(A)澱粉及び任意で(C)塩基性化合物を含有する中間混合物を調製して乾燥させ、さらに(B)植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を加えて、乾熱処理する態様が挙げられる。
【0065】
当該方法では、まず、澱粉及び塩基性化合物が均一に混合されるように、澱粉に任意で水、及び任意で塩基性化合物を加えて、水分含有量を20~99質量%となるように中間混合物を調製する。このとき、澱粉、水、又は塩基性化合物の添加順序は特に限定されない。塩基性化合物を添加する場合は、局所的なpH上昇を避ける観点から、澱粉及び水の混合物に塩基性化合物を添加し、混合することが好ましい。当該混合は、攪拌等の公知の方法で実施すればよい。
【0066】
前記中間混合物における、(A)成分の総含有量100質量部に対する(C)成分の総含有量の好ましい範囲は、上記具体的方法1の場合と同様である。
【0067】
得られた中間混合物は、上記具体的方法1の場合と同様に乾燥して、乾燥物とする。また上記具体的方法1と同様に、当該乾燥の際に必要に応じてpH調整、粉砕工程を含み得る。
【0068】
得られた前記乾燥物に、(B)成分として植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を添加する。このとき、植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の水分含有量は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば0~20質量%、好ましくは0~15質量%であり、より好ましくは0~14.9質量%であり、実質的に含まないことがより好ましい。
前記乾燥物の(A)成分の総含有量100質量部に対して、添加する植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の量は、好ましくは0.5質量部以上30質量部未満、より好ましくは0.5~20質量部、更に好ましくは1~15質量部、更により好ましくは1~10質量部であり、例えば1~8質量部である。
前記乾燥物に、植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を添加して得られた(A)~(C)成分を含有する混合物は、そのまま熱処理用混合物として乾熱処理されてもよいし、さらに粉砕工程や上記のその他成分を添加する工程を経て、熱処理用混合物としてもよい。
【0069】
上記のその他成分は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、前記中間混合物又は前記乾燥物の調製段階で添加されてもよいし、成分の乾熱処理による変性を抑制する観点から、乾熱処理後に得られる改質された澱粉に添加されてもよい。
【0070】
[澱粉に糊化後の粘度安定性を付与する方法]
本発明の方法は、澱粉の糊化時又はその後の高温加熱による粘度低下を抑制する、又は糊化後の粘度安定性を付与する方法であり、有効量の植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を、澱粉と共存させ、乾熱処理することを特徴とする。
【0071】
有効量の植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維が澱粉と共存した状態における水分含有量は、0~20質量%であることが好ましく、0~14.9質量%であることがより好ましい。
【0072】
植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維、澱粉、塩基性化合物、及び乾熱処理その他の工程の具体的態様は、上記の[物理的に改質された澱粉の製造方法]の項に記載されたものと同じである。
【0073】
[植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の使用]
本発明は、乾熱処理による改質澱粉の製造のための、植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の使用を含む。当該使用に係る製造条件、植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の具体的態様は、上記の[物理的に改質された澱粉の製造方法]の項に記載されたものと同じである。
【0074】
[物理的な澱粉の改質のための剤]
本発明の剤は、乾熱処理による物理的な澱粉の改質のための剤であり、有効量の植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を含有することを特徴とする。
【0075】
本発明の剤には、さらに、植物由来食物繊維及びキノコ由来食物繊維以外の成分として、賦形剤、乳化剤、食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品に用いられ得る公知の栄養成分、アルコール、酒類、塩類、呈味成分、果汁、果肉、野菜、野菜汁、ピューレ、エキス(動物、植物、微生物等由来)、香辛料、甘味料、糖アルコール、高甘味度甘味料、苦味料、香料、着色料、その他食品添加物(保存料、酸化防止剤、増粘剤、安定化剤等);医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分又は添加剤;その他の防腐剤、防カビ剤、界面活性剤、ゲル化剤、溶剤、香料、殺菌剤、消臭成分等を1種又は2種以上含有していてもよい。
【0076】
食物繊維は[物理的に改質された澱粉の製造方法]の項に記載されたものと同じである。本発明の剤の使用において、対象となる澱粉、使用する塩基性化合物、及び乾熱処理その他の工程の具体的態様もまた、同項の記載から理解することができる。
【0077】
[物理的に改質された澱粉]
本発明の物理的に改質された澱粉(以下、本発明の改質澱粉という)は、少なくとも植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を含有する。改質澱粉としては、特に限定されないが、例えば上記の製造方法によって製造される改質澱粉が好適な例として挙げられる。
【0078】
本発明の改質澱粉は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、次の特性(I)を有することが好ましい。
特性(I):本発明の改質澱粉を4.8質量%含有する水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、
(1)試料温度を、
水和期間である0~60秒まで、50℃で保持し、
糊化期間である60~282秒まで、0.203℃/秒で昇温し、
高温保持期間である282~432秒まで、95℃で保持し、
降温期間である432~660秒まで、0.197℃/秒で降温し、及び
冷却保持期間である660~780秒まで、50℃で保持し、且つ、
(2)パドルの回転数を、
0~10秒まで、960rpm、及び
10秒以降は、160rpm
とする第1の条件(プロファイル1)で測定する。このとき、糊化期間から高温保持期間の間の粘度の最大値Vaと降温期間の間の粘度の最小値Vbとの差であるVa-Vbが、100mPa・s以下、好ましくは80mPa・s以下、より好ましくは50mPa・s以下、更に好ましくは35mPa・s以下である。
また、本発明の改質澱粉は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、次の特性(II)を有することが好ましい。
特性(II):本発明の改質澱粉を4.8質量%含有する水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、上記第1の条件(プロファイル1)で測定する。このとき、初期粘度上昇率が0.02/s以下、より好ましくは0.017/s以下、更に好ましくは0.016/s以下である。
【0079】
特性(III):本発明の改質澱粉を4.8質量%含有する水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、
(1)試料温度を、
水和期間である0~60秒まで、50℃で保持し、
糊化期間である60~420秒まで、0.194℃/秒で昇温し、
高温保持期間である420~1020秒まで、120℃で保持し、及び
降温期間である1020~1380秒まで、0.194℃/秒で降温し、且つ、
(2)パドルの回転数を、
0~10秒まで、960rpm、及び
10秒以降は、160rpm
とする第2の条件(プロファイル2)で測定する。このとき、糊化期間から高温保持期間の間の粘度の最大値Vaと降温期間の間の粘度の最小値Vbとの差であるVa-Vbが、150mPa・s以下、より好ましくは100mPa・s以下、更に好ましくは80mPa・s以下、特に好ましくは50mPa・s以下である。
また、本発明の改質澱粉は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、次の特性(IV)を有することが好ましい。
特性(IV):本発明の改質澱粉を4.8質量%含有する水懸濁液の粘度を、ラピッドビスコアナライザーを用いて、上記第2の条件(プロファイル2)で測定する。このとき、初期粘度上昇率が0.02/s以下、より好ましくは0.017/s以下、更に好ましくは0.016/s以下である。
【0080】
ラピッドビスコアナライザー(RVA)とは、デンプンや穀物、小麦粉等の粘度特性の測定に最適化された自在な温度管理と回転条件の設定が可能な回転粘度計である。本明細書において、特に限定されないが、RVAとして、例えばNSP perten社製のものが好適に用いられる。また、同様の測定機器として、ブラベンダー(Brabender)社製のアミロビスコグラフ(アミログラフ又はビスコグラフと呼ぶこともある)やマイクロビスコアミログラフ、ベーリン社のレオメーター、ハーケ(HAAKE)社製の回転粘度計、ハーケ社製のレオメーター、ハーケ社製のマイクロビスコ等が例示できる。
【0081】
RVAを用いて上記のような時間依存的な温度変化を与えた時に得られる、時間に対する粘度の変化曲線を、RVA粘度曲線と呼ぶ(図1A参照)。RVA粘度曲線は、上記の2つのプロファイルに示されるように、水和、糊化、高温保持、降温及び冷却保持の期間に分かれている。
【0082】
本明細書において、2つのパラメータである、Va-Vb及び初期粘度上昇率を以下のように定める。なお、これらのパラメータの取得に際して、RVAの粘度データの測定間隔は4秒とする。
(a)Va-Vb
RVA測定条件の糊化期間から高温保持期間の間の粘度の最大値をVa、降温期間の間の粘度の最小値をVbとし、VaからVbを差し引いた値をVa-Vb(単位はmPa・s)とする。
(b)初期粘度上昇率(Vr)
RVA測定条件の糊化期間において、縦軸を、Vaを1としたときの相対的な粘度VRel、横軸を時間(秒)としたグラフを作成する。そして、当該グラフ上のある測定点Aは、Aの直後から連続する6測定点のいずれの点においても、それらの直前の測定点に比べてVRelが0.01以上増加する、という条件を満たす測定点であると定義する。このとき、測定開始から最初の測定点A及びその直後の連続する6測定点(即ち、測定時間24秒の区間に存在する計7測定点)のデータについて線形近似を行う。その結果得られる近似式の傾きを、初期粘度上昇率(単位は/s)とする。
【0083】
図1Aに、Va及びVbの例を記載している。実線で示されるような、典型的な生澱粉のRVA粘度曲線は糊化期間に粘度が増加した後ブレークダウンが起こって、粘度のピークを生じる。また降温期間に、ブレークダウンで減少した粘度が老化によって再度増加し、極小値を有する。従って、生澱粉のようなブレークダウンが顕著な澱粉については、Va-Vbの値が大きくなる。一方、破線で示されるように、RVA粘度曲線の粘度増加が単調でブレークダウンが起こっていない場合は、図1AのようにVaとVbが一致する。このように、Va-Vbの値は、ブレークダウンの度合いを反映する。糊化後の粘度の安定性の観点から、Va-Vbは小さいほうが好ましい。
【0084】
また、図1Bに初期粘度上昇率の説明図を示す。上記定義に基づく初期粘度上昇率は、試料澱粉粒が膨潤して粘度が上昇し始める時点における、VRelの時間に対する増加率を表す。そのため、初期粘度上昇率が小さいほど、試料澱粉の膨潤が緩やかに起こることを示す。試料澱粉の膨潤が緩やかな場合、急激な澱粉粒の膨張による崩壊が起こりにくい。よって、糊化後の粘度の安定性の観点から、初期粘度上昇率が小さいほうが好ましい。
【0085】
本発明の改質澱粉は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、次の特性(V)を有することが好ましい。このような特性を有する改質澱粉が高温加熱及び長期の保存性に優れることは容易に理解される。
特性(V):本発明の改質澱粉を5質量%含有する水懸濁液から得られる糊液の粘度について、下記に定義する、
レトルト殺菌処理前後の粘度相対値Aが、例えば80%以上、好ましくは90%以上であって、例えば500%以下、400%以下、300%以下、200%以下又は150%以下であり、且つ、レトルト殺菌処理後の保存中の粘度相対値Bが、例えば85%以上、好ましくは90%以上であって、例えば125%以下、好ましくは110%以下である、
物理的に改質された澱粉:
レトルト殺菌処理前後の粘度相対値A(%)=η/η×100、
レトルト殺菌処理後の保存中の粘度相対値B(%)=η/η×100;
ここで、
前記物理的に改質された澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、その後20℃の恒温水槽で1時間冷却した後、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をη
前記物理的に改質された澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、さらに121℃20分間の条件でレトルト殺菌処理し、20℃で1日放冷した後、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をη
前記物理的に改質された澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、さらに121℃20分間の条件でレトルト殺菌処理し、20℃で1日放冷した後、5℃の恒温槽にて1週間(7日間)保存し、20℃の恒温水槽に1時間つけて調温したのち、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をηとする。
【0086】
本発明の植物由来澱粉を含有する改質澱粉は、上記特性(I)~(V)のうち、いずれか単独の特性又は2以上の特性を備えるが、
中でも、(V)単独;又は、(I)及び(II)若しくは(III)及び(IV)、のいずれかを少なくとも含むことが好ましく、
(I)、(II)及び(V);(III)、(IV)及び(V);又は(I)~(V)全て、のいずれかの組み合わせを備えることがより好ましく、
(I)~(V)全てを備えることが更に好ましい。
【0087】
本明細書において、粘度測定に用いるB型回転粘度計は、東京計器株式会社製BL型が好ましい。測定用ローターは、付属のローターを試料の粘度に応じて選択し、100mPa・s未満ではNo.1の、100~500mPa・sではNo.2の、500~2000mPa・sではNo.3の、2000mPa・s以上ではNo.4のローターを使用する。
【0088】
[物理的に改質された澱粉を含有する製剤、飲食品]
本発明の製剤又は飲食品は、上記の物理的に改質された澱粉を含有することを特徴とする。
【0089】
(製剤)
本発明の製剤において、上記の物理的に改質された澱粉の含有量は、特に限定されないが、例えば、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上であり得る。
【0090】
本発明の製剤には、さらに、上記の物理的に改質された澱粉以外の成分として、水溶性多糖類;水不溶性多糖類;賦形剤;乳化剤;飲食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品に用いられ得る栄養成分;塩類;呈味成分;果汁;果肉;野菜;野菜汁;アルコール、酒類;ピューレ;エキス;香辛料;甘味料;糖アルコール;高甘味度甘味料;苦味料;酸味料;香料;着色料、その他食品添加物;医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分又は添加剤;防腐剤、防カビ剤、界面活性剤、ゲル化剤、溶剤、香料、殺菌剤、消臭成分等から選ばれる1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0091】
本発明の製剤に含有される改質澱粉は、α化(gelatinized)されていてもよい。係るα化された製剤は、特に限定されないが、例えば、以下の工程で得られる。
(i)改質澱粉そのものの懸濁液を、ドラムドライやスプレードライ、エクストルーダー、スプレークック等によって加熱してα化し、そのまま乾燥させてα化改質澱粉を調製する。その後α化改質澱粉に、任意で上記改質澱粉以外の成分を加えて製剤化する。
(ii)改質澱粉及び任意で上記改質澱粉以外の成分を含有する水懸濁液をドラムドライやスプレードライ、エクストルーダー、スプレークック等によって加熱してα化する。得られたα化改質澱粉を含有する製剤液を、製剤化する。
【0092】
本発明の製剤は、特に限定されず、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、日用品等に用いることができるが、好ましくは飲食品、医薬品、医薬部外品、又は化粧品に用いられ、より好ましくは飲食品に用いられる。飲食品の好ましい形態は、後述の飲食品の項で挙げられる具体例と同じである。
【0093】
本発明の製剤は、好ましくは、飲食品の品質改良剤又は食感改良剤として各種の飲食品の製造に使用される。
【0094】
(飲食品)
本発明の飲食品の形態は、通常、澱粉が使用される食品、又は澱粉を含有する食品であることができ、好ましくは、澱粉が水中(又は自由水の存在下)で撹拌される工程、澱粉が水中(又は自由水の存在下)で糊化される工程、及び澱粉が水中で加熱される工程を含む製造方法で製造される食品である。そのような飲食品の具体例としては、特に限定されないが、例えば、バッター;ソース(例:ホワイトソース、果実ソース、果実プレパレーション)、たれ類、甘酢あん、;スープ;ドレッシング(例:マヨネーズタイプドレッシング);ヨーグルト(例:無脂肪ヨーグルト、低脂肪ヨーグルト)、チーズ、及びサワークリーム等のデイリープロダクト;うどん、そば、スパゲティ、マカロニ、及び中華麺等の麺類(当該麺類は、例えば、生麺、半生麺、冷凍麺、乾燥麺、フライ麺、又はノンフライ麺等であることができる);パン類(例:食パン、全粒粉パン);ケーキ、及びクッキー等の焼き菓子類;アイスクリーム、アイスミルク、及びラクトアイス等の冷菓類;フラワーペースト(小麦粉含有ペースト)、及びカスタード風クリーム;団子、練りあん、及びようかん等の和菓子類;お好み焼き、たこ焼き、チヂミ、及びブリトー;餃子、春巻き、及び中華饅;ハム、及びソーセージ等の魚畜加工肉製品;煮しめ、甘露煮、湯煮、うま煮、及び煮豆等の煮物類;いため物、串焼、網焼、ホイル焼、及びかば焼等の焼物類;から揚げ、天ぷら、及びフライ等の揚げ物類;しゅうまい、及び茶わん蒸し等の蒸し物類;胡麻あえ等の和えもの類;サラダ類; プリン、ゼリー、ババロア、ムース、杏仁豆腐等の洋生菓子等;ホットケースミックス等の粉末ミックス類;インスタントスープ等のインスタント食品;卵製品(例:だし巻き卵、スクランブルエッグ等);飲料(例:乳飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、果汁飲料)等が挙げられる。
【0095】
本発明の飲食品は、さらに、上記の物理的に改質された澱粉以外の成分として、水溶性多糖類;水不溶性多糖類;賦形剤;乳化剤;飲食品に用いられる栄養成分;塩類;呈味成分;果汁;果肉;野菜;野菜汁;アルコール、酒類;ピューレ;エキス;香辛料;甘味料;糖アルコール;高甘味度甘味料;苦味料;酸味料;香料;着色料、その他食品添加物等から選ばれる1種又は2種以上含有していてもよい。
【0096】
本発明の飲食品は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、飲食品の製造又は使用(調理)の際に、加熱されるものであることが好ましい。加熱は、特に限定されず、例えば90℃で10分以上、121℃で4分以上、等が挙げられる。
【実施例
【0097】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。特に記載のない限り、「部」は「質量部」を、また「%」は「質量%」を意味する。また、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であることを示し、文中「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0098】
以下、試験例では、末尾に「R」を付した番号を有する例は生澱粉(比較例)、「NF」を付した番号を有する例は植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を含有しない改質澱粉(比較例)である。また、末尾に「A」、「B」を付した番号を有する例は、以下の方法に記載される植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の添加の方法の方法A又はBを表す。さらに、末尾に「Acid」を付した番号を有する例は熱処理用混合物のpHが5未満であった改質澱粉(比較例)を表す。
【0099】
[共通の方法]
(改質された澱粉の調製方法)
後記の試験例では、以下の2通りの方法(方法A、B)で植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を添加して、熱処理用混合物を調製した。得られた熱処理用混合物は、バットに広げて40℃で乾燥後粉砕した。そして、得られた粉砕物を、目開き150μmの篩に通し、通過画分を得た。得られた通過画分をさらに乾熱処理した。用いる各成分の種類及び添加割合、植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の添加方法、熱処理条件については、各表に記載している。処理後の試料は、ステンレス製のバットに取り出し、室温で一晩乾燥させた。その後、試料を乳鉢で粉砕し、均一な粉末にした。
方法A:(i)澱粉100g、植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維、及び場合によって塩基性化合物、を水150gと共に混合し、懸濁物を得た。(ii)当該懸濁物を乾燥処理して乾燥物とし、当該乾燥物を熱処理用混合物とした。
方法B:(i)澱粉100g、及び場合によって塩基性化合物、を水150gと共に混合し、懸濁物を得た。(ii)当該懸濁物を乾燥処理して乾燥物を得た。(iii)当該乾燥物に粉末の植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を添加し、熱処理用混合物を得た。
【0100】
下記試験例において、熱処理用混合物のpHは、各熱処理用混合物5gを95mlの水に懸濁したときの25℃におけるpHの測定値である。
【0101】
(ラピッドビスコアナライザー(RVA)を用いた改質された澱粉の膨潤及び/又は崩壊抑制効果の評価)
各試料について、下記プロファイル1の測定にはNewport Scientific社製のRVA Super 3、プロファイル2の測定にはNSP Perten社製のRVA-4800を用いて、膨潤及び/又は崩壊抑制効果を調べた。RVAはプログラムされた温度と攪拌(回転数)で被験試料を加熱及び冷却しながら連続してその粘度を測定することができる装置である。なお、RVA-4800は、密閉状態で試料を100℃以上に加熱しながら測定するHTモードを使用することが可能である。
(1)前記で調製した試料を当該RVAにかけ、次の条件(プロファイル1、最大温度95℃)又は(プロファイル2、最大温度120℃)で経時的に粘度を測定した。
<RVA測定条件(プロファイル1、最大温度95℃)>
(a)試料1.2gにイオン交換水を加えて全量25gにしてスラリーを調製した。
(b)当該スラリーの粘度を、RVAを用いて、試料の温度を、
水和期間である0~60秒まで、50℃で保持し、
糊化期間である60~282秒まで、0.203℃/秒で昇温し、
高温保持期間である282~432秒まで、95℃で保持し、
降温期間である432~660秒まで、0.197℃/秒で降温し、及び
冷却保持期間である660~780秒まで、50℃で保持し、且つ
パドルの回転数を、
0~10秒まで960rpm、及び
10秒以降は160rpm
とする条件で、当該0~780秒の間、粘度を測定した。
<RVA測定条件(プロファイル2、最大温度120℃)>
(a)試料1.2gにイオン交換水を加えて全量25gにしてスラリーを調製した。
(b)当該スラリーの粘度を、RVAを用いて、試料の温度を、
水和期間である0~60秒まで、50℃で保持し、
糊化期間である60~420秒まで、0.194℃/秒で昇温し、
高温保持期間である420~1020秒まで、120℃で保持し、及び
降温期間である1020~1380秒まで、0.194℃/秒で降温し、且つ
パドルの回転数を、
0~10秒まで、960rpm、及び
10秒以降は、160rpm
とする条件で、当該0~1380秒の間、粘度を測定した。
なお、RVA(プロファイル1)、RVA(プロファイル2)いずれの条件とも、0~60秒の間の粘度は、攪拌・測定開始に伴うアーティファクトが生じるため、評価には使用しない。また、測定期間中は、粘度のデータは4秒おきに収集した。
(2)得られたRVA粘度曲線から、Va-Vb、初期粘度上昇率(Vr)を以下の定義に従って求めた。
(a)Va-Vb
RVA測定条件の糊化期間から高温保持期間の間の粘度の最大値をVa、降温期間の間の粘度の最小値をVbとし、VaからVbを差し引いた値をVa-Vb(単位はmPa・s)とする。
(b)初期粘度上昇率(Vr)
RVA測定条件の糊化期間において、縦軸を、Vaを1としたときの相対的な粘度VRel、横軸を時間(秒)としたグラフを作成する。そして、当該グラフ上のある測定点Aは、Aの直後から連続する6測定点のいずれの点においても、それらの直前の測定点に比べてVRelが0.01以上増加する、という条件を満たす測定点であると定義する。このとき、測定開始から最初の測定点A及びその直後の連続する6測定点(即ち測定時間24秒の区間に存在する計7測定点)のデータについて線形近似を行う。その結果得られる近似式の傾きを、初期粘度上昇率(単位は/s)とする。
【0102】
(糊液の澱粉粒の残存量の評価)
(1)上記のRVA(プロファイル1又はプロファイル2)の測定を経た澱粉試料(糊液)を、イオン交換水で4倍希釈して澱粉粒観察用サンプルを作製した。前記の澱粉粒観察用サンプルに、該サンプルの1/20量の1%ヨウ素-10%ヨウ化カリウム溶液を加えて澱粉粒を着色し、倍率10倍の対物レンズを装着した光学顕微鏡にデジタルカメラを接続してPCに画像を取り込み、1365μm×1024μmの視野内の澱粉粒の状態を観察した。
(2)以下の評価基準に従って、糊液の澱粉粒の残存量を評価した。
<澱粉粒の残存量の評価基準>
0: 澱粉粒がほとんど崩壊し、未崩壊澱粉粒が視野の10%未満しか存在しない。
1:澱粉粒が崩壊し、未崩壊澱粉粒が視野の10%以上30%未満を占める。
2: 澱粉粒の一部が崩壊しており、未崩壊澱粉粒が視野の30%以上50%未満を占める。
3:澱粉粒がほとんど崩壊しておらず、未崩壊澱粉粒が視野の50%以上を占有している。
【0103】
(改質された澱粉の粘度の長期安定性評価)
(1)前記で調製した改質澱粉試料10gにイオン交換水を加えて全量200gとし、改質澱粉5質量%を含有する水懸濁液を調製した。得られた水懸濁液を攪拌しながら湯浴中で加熱し90℃達温後さらに10分間90℃で保温した。そして得られた糊液を100gずつに分け、一方を蓋つきガラス瓶に入れ、20℃の恒温水槽で1時間冷却したのち、5℃の恒温槽で保存した。もう一方の糊液はパウチに充填したうえで、121℃20分の条件でレトルト殺菌処理し、1日20℃に放置した後、5℃の恒温槽で保存した。
(2)上記2加熱条件の試料について、5℃保存開始前、及び5℃保存開始から1週間後の時点において、それぞれB型回転粘度計(東京計器株式会社製 BL型)を用いて20℃、60rpmで粘度を測定した。測定用ローターは、付属のローターを試料の粘度に応じて選択した。即ち、100mPa・s未満ではNo.1の、100~500mPa・sではNo.2の、500~2000mPa・sではNo.3の、2000mPa・s以上ではNo.4のローターを使用した。
(3)そして、90℃10分加熱試料の5℃保存開始前の粘度に対する粘度相対値A及びBを、以下の式により求めた。粘度の相対値が100%より大きければ、5℃保存開始前よりも粘度が増大したことを表し、100%より小さければ、5℃保存開始前よりも粘度が低下したことを表す。
<粘度相対値A、B>
レトルト殺菌処理前後の粘度相対値A(%)=η/η×100、
レトルト殺菌処理後の保存中の粘度相対値B(%)=η/η×100;
(ここで、
前記物理的に改質された澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、その後20℃の恒温水槽で1時間冷却した後、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をη
前記物理的に改質された澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、さらに121℃20分間の条件でレトルト殺菌処理し、20℃で1日放冷した後、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をη
前記物理的に改質された澱粉を5質量%含有する水懸濁液について、湯浴中で、撹拌しながら加熱し90℃達温後10分間90℃で保温し、さらに121℃20分間の条件でレトルト殺菌処理し、20℃で1日放冷した後、5℃の恒温槽にて1週間(7日間)保存し、20℃の恒温水槽に1時間つけて調温したのち、B型回転粘度計を用いて60rpmで測定した粘度をηとする。)
(4)レトルト殺菌前後の粘度相対値Aが80%以上の場合、高温加熱でも粘度低下しにくい性質が良好であると判定する。また、保存中の粘度相対値Bが85~125%の範囲である場合、糊化後の粘度の安定性が良好であると判定する。
【0104】
(澱粉ゲルの破断試験)
(1)前記で調製した改質澱粉試料を10質量%含有する水懸濁液を攪拌しながら90℃達温後10分保温し、糊化した。得られた糊液の一部をそのままプラスチックカップ(直径35mm、高さ35mm)に充填して5℃の恒温槽で1日保存した。残りの糊液のうち100gはパウチに充填したうえで、121℃20分の条件でレトルト殺菌処理した。レトルト殺菌処理した糊液はすぐにプラスチックカップに充填し、5℃で1日保存した。
(2)冷蔵庫にて5℃で1日保存した試料は、取り出してすぐにテクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製TA-XT2i)で破断試験を行った。5℃で保存した試料の入ったカップを、上部(開口部)を上にして底面積1cmのプランジャーの直下に設置された水平面のステージ上に置き、プランジャーを鉛直下方に1mm/秒の速さで移動させた。プランジャーが試料の上部表面に接触後クリアランス5mmとなるよう挿入移動させる間、プランジャー底面にかかる荷重値が単調上昇する場合はゲルの破断を(-)、荷重値が挿入移動途中で低下した場合はゲルの破断を(+)と評価した。
【0105】
[試験例1:植物由来食物繊維による澱粉の改質及びその特性評価]
次の表1に示す条件で、種々の原料澱粉(生澱粉)を処理した。得られた改質澱粉は、RVA(プロファイル1、最大温度95℃)の条件でRVA測定され、Va-Vb、初期粘度上昇率、及び澱粉粒の残存量を上記の方法に基づいて評価した。結果を同じ表1に示した。また、比較例1-1-R、NF及び実施例1-1-A、BのRVA粘度曲線を図2に示した。またいくつかの改質澱粉又はその原料澱粉については、プロファイル2(最大温度120℃)の条件でRVA測定を行い、Va-Vb、初期粘度上昇率、及び澱粉粒の残存量を上記の方法に基づいて評価した。結果を表2に示した。また、RVA粘度曲線を図3に示した。
【0106】
いずれの生澱粉を原料とした場合でも、植物由来食物繊維を添加して方法A又はBで改質処理をして得られた実施例の試料は、Va-Vbが100mPa・s以下であり、植物由来食物繊維を添加せずに乾熱処理を行った比較例に比べて低く、ブレークダウンが抑えられていた。また、実施例の改質澱粉は、初期粘度上昇率Vr0.02/s以下であり、比較例に比べて低かった。
【0107】
図2及び図3に示されるように、ワキシーコーン澱粉においては、改質前の生ワキシーコーン澱粉(比較例1-1-R)、及び比較例1-1-NFは加熱によって明瞭な粘度のピークが現れ、冷却過程で極小値を示したことから、明らかなブレークダウンが認められた。一方、食物繊維及び塩基性化合物を両方含む状態で乾熱処理して調製した実施例1-1-A、Bや実施例1-7-A、1-8-Aの改質ワキシーコーン澱粉は、ブレークダウンは見られなかった。
【0108】
上記のRVA(プロファイル1又はプロファイル2)の測定を経た一部の澱粉試料(糊液)の澱粉粒を観察した結果を表1、表2、及び図4に示す。図4に示すように、比較例1-1-R及び比較例1-1-NFでは、RVAプロファイル1の最大95℃の加熱を経ると澱粉粒の崩壊が多く見られ、未崩壊澱粉粒は視野の30%未満しか観察されなかった。それに対し、実施例1-1-A、1-7-A、及び1-8-AではRVAプロファイル2の最大120℃の加熱を経た後でも多くの粒子径の大きい澱粉粒が残っており、視野の30~50%以上が未崩壊澱粉粒に占有されていた。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
以上から、実施例の改質澱粉は、加熱による糊化時の澱粉粒の崩壊が抑制されることが明らかとなった。本発明の改質澱粉は、このような加熱に対して耐性がある澱粉粒を有することで、粘度を発現しつつも経時的な粘度低下をしにくい特性を有するものと推察される。
【0112】
また、表1の結果より、初期粘度上昇率が低い場合、糊化が緩やかに起こるため、澱粉粒の急激な膨張による崩壊が抑えられる結果、顕微鏡で多くの未崩壊澱粉粒が観察されたものと推察される。
【0113】
[試験例2.改質澱粉の保存安定性の評価]
(1)表3に示すように、上記の表1に記載の改質澱粉の一部及び比較例1-Acidについて、粘度の長期安定性評価を行った。
その結果、植物由来食物繊維を添加した熱処理用混合物のpHが5以上である場合には、90℃10分加熱による粘度(η)は200mPa・s以上であった。しかも当該90℃で加熱溶解した試料に対して、高温のレトルト殺菌処理を更に行うと、90℃加熱による粘度よりも粘度が維持又は増加し、レトルト殺菌前後の粘度相対値Aは80%以上であった。そして、当該レトルト殺菌処理後に5℃1週間の保存を経た後も、粘度は安定しており、レトルト殺菌後の保存中の粘度相対値Bは85~125%の範囲内であった。一方、植物由来食物繊維を含有させない場合又はpH5未満で乾熱処理した場合は、レトルト殺菌処理により大幅な粘度低下が見られた。
以上から、実施例の改質澱粉は、レトルト殺菌処理条件でも粘度が低下せず、また1週間という長期の保存でも糊化後の粘度低下が起こりにくいことが示された。また、方法Aによって調製した改質澱粉は、方法Bによって調製した改質澱粉と比べても、レトルト殺菌処理してから5℃で1週間保存した後の粘度の上昇が小さく、粘度の経時的な安定性も優れることが明らかとなった。
【0114】
【表3】
【0115】
(2)馬鈴薯澱粉及びタピオカ澱粉はゲルを形成し得る。そこで、表1の改質澱粉試料のうち、これらの澱粉に由来するものについて、澱粉ゲルを上記の方法により作製し、その破断の有無と食感を評価した。破断の有無の評価として上記のテクスチャーアナライザーを用いた評価を実施した。また、ゲルの特徴は摂食による官能評価により評価した。
結果を表4に示した。馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉のいずれも植物由来食物繊維の共存下で乾熱処理することにより、ゲルの破断が見られず、軟らかなゲルとなった。このような物性の変化は、本発明の方法による改質で、低温保存時の老化が抑制されたことに起因すると推察される。
【0116】
【表4】
【0117】
[試験例3.改質処理における植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維の種類及び加熱条件の検討]
次の表5-1に示す条件で、原料澱粉(生澱粉)を処理した。得られた改質澱粉は、RVA(プロファイル1、最大温度95℃)の条件でRVA測定され、Va-Vb、初期粘度上昇率Vr、及び澱粉粒の残存量を上記の方法に基づいて評価した。
【0118】
結果を表5-2に示した。実施例2-1~2-12の改質澱粉は、いずれもVa-Vb、Vr及び澱粉粒の残存率の値が良好であった。そして、これらの実施例の改質澱粉は、粘度相対値A及び粘度相対値Bの値も良好であり、高温加熱でも粘度低下しにくく、糊化後の安定性に優れることが明らかとなった。また、一方、植物由来食物繊維又はキノコ由来食物繊維を添加せずに乾熱処理した場合(比較例2-1)では粘度相対値A及びBの両方が不良であった。
【0119】
実施例2-5のように、160℃で長時間(240分)乾熱処理して得られる改質澱粉は、90℃10分の処理の後にさらにレトルト殺菌処理すると、粘度が大幅に上昇する性質が見られた。また、実施例2-5や実施例2-9のように乾熱時間をより長くすると、高温加熱に伴う粘度低下がより抑制され、糊化後の粘度の安定性が向上する傾向が見出された。
【0120】
なお、熱処理用混合物をpH13に調整しようとすると、混合中に増粘し、当該組成物が不均一となり、十分な品質の改質澱粉が得られないことが判明した。
【0121】
【表5-1】
【表5-2】
【0122】
さらに、上記の表5-1の実施例の一部は、RVA(プロファイル2、最大温度120℃)の条件でもRVA測定され、Va-Vb、初期粘度上昇率Vr、及び澱粉粒の残存量を上記の方法に基づいて評価した。
【0123】
結果を表5-3に示した。実施例の改質澱粉は、いずれもVa-Vb、Vr及び澱粉粒の残存率の値が良好であった。
【表5-3】
【0124】
[試験例4.種々の改質澱粉の膨潤度の測定]
【0125】
表6に示す条件で、原料澱粉(生澱粉)を処理した。得られた澱粉試料について、次の手順で膨潤度を測定した。
<膨潤度の測定手順>
(1)澱粉試料0.01gを水5gに分散させ、1%ヨウ素-10%ヨウ化カリウム溶液を30μl加えて混合した。
(2)ホットステージ(井元製作所製IMC-0203型)を取り付けた光学顕微鏡で加熱しながら澱粉粒の観察を行った。0.1℃/sで、25℃から90℃まで昇温し、25℃時点で未膨潤の状態で大きさが異なる澱粉粒10粒以上を選択し、25℃及び85℃に達した時点で撮影した。
(3)Winroof2015(三谷商事株式会社製)を用いて視野において各澱粉粒が占める面積を測定した。澱粉粒が崩壊している場合は、崩壊した澱粉の分布する領域をその澱粉粒の面積とした。
(4)25℃及び85℃における澱粉粒の面積の平均値(単位はμm)をそれぞれS25、S85とした場合に、澱粉粒の膨潤度(%)は次の式で求められる。
膨潤度(%)=(S85/S25)×100
【0126】
結果を表6に示す。実施例の本発明の改質澱粉は、膨潤度が1000%未満に低下しており、比較例の澱粉試料に比べて加熱による澱粉粒の崩壊が抑制されていることが確かめられた。
【0127】
【表6】
【0128】
[試験例5.澱粉試料のシェア耐性試験]
表7の澱粉試料の糊液について、以下の手順で攪拌によるシェアを与えたときの粘度変化率を求め、シェア耐性を比較した。
<シェア付与時の粘度低下率の測定手順>
(1)イオン交換水95gに、澱粉試料5gを添加して水懸濁液を調製し、湯浴中で500rpm又は1000rpmで攪拌しながら加熱し、90℃達温後、90℃で10分間保温した。撹拌には撹拌機マゼラNZ型(東京理化器械株式会社製)を用いた。
(2)得られた糊液をガラス瓶に移し、20℃の恒温水槽で1時間冷却後、B型回転粘度計(東京計器株式会社製 BL型)を用いて20℃、60rpmで粘度を測定した。ローターの選択基準は上記の「改質された澱粉の粘度の長期安定性評価」と同じである。
(3)500rpmの攪拌で得られた糊液の粘度をη、1000rpmの攪拌で得られた糊液の粘度をηとする。このとき、η/η(%)は、以下の式により求められる。
η/η(%)=η/η×100
【0129】
結果を表7に示す。実施例の澱粉試料は、いずれもη/ηが75~150%であり、シェアの増加によって粘度が大きく低下しないか、若干増粘した。一方、比較例の澱粉試料は、η/ηが大きく低下しており、シェアの増加によって粘度が顕著に低下した。よって、少なくともワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉又は馬鈴薯澱粉に由来する本発明の物理的に改質された澱粉は、優れたシェア耐性を有することが明らかとなった。
【0130】
【表7】
【0131】
[試験例6.改質澱粉含有食品の粘度安定性の比較]
表8の処方の中華あんを調製した。処方に記載の原材料を全て加え、90℃達温後10分間加熱し、熱水を加えて全量を補正した。得られた中華あんをパウチに充填して121℃で20分間レトルト殺菌を行った。流水で冷却後に、B型回転粘度計を用いて、20℃にて回転数60rpmで測定を行った。ローターの選択基準は上記の「改質された澱粉の粘度の長期安定性評価」と同じである。
【0132】
粘度測定の結果を表8に示す。本発明の改質澱粉を含有する実施例では中華あんに適した十分なとろみが得られ、風味立ちも良好であった。一方、比較例の中華あんは、レトルト殺菌を経ると減粘し、十分なとろみが得られなかった。以上から、飲食品においても、本発明の改質澱粉により高温加熱に伴う粘度低下が抑えられることが明らかとなった。
【0133】
【表8】
【0134】
[製造例:改質澱粉を含有する食品]
(甘酢あん)
以下の製法で、表9-1の処方の甘酢あんを調製した。
<製法>
(1)水に実施例1-1-Aの改質澱粉を添加し、85℃で10分間撹拌した。
(2)残りの原材料を加え、5分間撹拌しながら溶解した後、耐熱パウチに充填し、密封した。
(3)85℃の湯浴中で30分間殺菌した。
【0135】
【表9-1】
【0136】
(ホワイトソース)
以下の製法で、表9-2の処方のホワイトソースを調製した。
<製法>
(1)水に焙焼小麦粉、実施例2-5の改質澱粉を加え、80℃で10分間加熱撹拌した。
(2)残りの原料を加え、撹拌溶解した。
(3)蒸発水を補正後、パウチに充填して、121℃10分間レトルト殺菌した。
【0137】
【表9-2】
【0138】
(白桃プレパレーション)
以下の製法で、表9-3の処方の白桃プレパレーションを調製した。
<製法>
(1)白桃ピューレ、水に砂糖、実施例1-1-Aの改質澱粉を加え、加熱し、80℃で10分間加熱撹拌した。
(2)10%クエン酸溶液を用いてpH3.8に調整し、フレーバーを添加後、蒸発水で全量を補正した。
(3)パウチに充填し、85℃で30分殺菌後、8℃の恒温水槽で2時間冷却した。
【0139】
【表9-3】
【0140】
(バッター及びその調理品)
以下の製法で表9-4の処方のバッターを調製して、天ぷらを調理した。
<製法>
(1)サツマイモを1cmの厚さに切った。
(2)氷水に原材料を添加することにより、バッター液を調製した。
(3)サツマイモ片を、バッター液に浸浸することによりバッター液でコーティングした後、175℃で3分間油調した。
【0141】
【表9-4】
【0142】
(食パン)
以下の製法で、表9-5の処方の食パンを調製した。
<製法>
(1)強力粉、グラニュー糖、脱脂粉乳、塩、及び実施例2-5の改質澱粉を粉体混合した。
(2)(1)とバター、水をホームベーカリーに投入し、ドライイーストは専用のポケットに投入し、焼成した。
【0143】
【表9-5】
【0144】
(うどん)
以下の製法で、表9-6の処方のうどんを調製した。
<製法>
(1)中力粉、及び実施例1-2-Aの改質澱粉に水を添加し、万能混合攪拌機にて10分間混合捏練した。
(2)(1)に食塩を添加し、更に5分間混合捏練して、麺塊を得た。
(3)麺塊を製麺機にて荒延ばしすることにより、ソボロ状の麺塊を含む帯状の生地を得た。
(4)(3)の生地の4枚を製麺機にて複合することによりシート状の麺帯を得たのち、3mmの厚さに圧延し、3mm幅にカットして、生のうどんを調製した。
(5)得られた生のうどんを茹で(98~100℃で12分間)、水洗し、及び10℃に冷却した後、酸浸漬(条件:グルコノデルタラクトンの0.5%水溶液(pH2.9)中に、30秒間)、包装、殺菌(条件:コンベアスティーマーにて90℃、30分間)、及び10℃まで冷却して、チルドタイプの茹でうどん(製品pH=4.8)を得た。
【0145】
【表9-6】
【0146】
(クッキー)
以下の製法で、表9-7の処方のうどんを調製した。
<製法>
(1)ショートニングとマーガリンを、万能型混合撹拌器を用いて216rpmでクリーム状になるまで撹拌した。
(2)グラニュー糖を加え、さらに3分間撹拌した。
(3)あらかじめ混合した全卵にカロチンベースを数回に分けて加え、混合した。
(4)予めふるっておいた薄力粉、澱粉、脱脂粉乳、食塩、膨張剤を添加し、ゴムベラで混合した。
(5)冷蔵庫で30分間生地を寝かせた。
(6)厚さ5mmにのばし、直径32mmの型で型抜きした。
(7)180℃に予熱したオーブンで12分間焼成した。
(8)室温まで十分に冷ましたのち、乾燥剤を入れた密閉容器に保存した。
【0147】
【表9-7】
【0148】
(ラクトアイス)
以下の製法で、表9-8の処方のラクトアイスを調製した。
<製法>
(1)水あめ、水を撹拌しながら、粉末原料を投入した。
(2)加温して80℃でヤシ油を投入し、更に10分間撹拌した。
(3)水で全量を補正し、高圧ホモジナイザーで均質化した(200kgf/cm)。
(4)5℃まで冷却したのち、一晩エージングし、フレーバーを添加してフリージングした(オーバーラン:70%)。
【0149】
【表9-8】
【0150】
(マヨネーズタイプドレッシング)
以下の製法で、表9-9の処方のマヨネーズタイプドレッシングを調製した。
<製法>
(1)攪拌しながら水に実施例1-2-Aの改質澱粉、砂糖、L-グルタミン酸ナトリウム、調味料を加え90℃で10分間加熱した。
(2)室温まで冷却後、水分調整を行ない、加糖卵黄を加え攪拌混合した。
(3)醸造酢、リンゴ酢、レモン果汁を加え攪拌混合した。
(4)サラダ油を攪拌しながら少しずつ添加した。
(5)クリアランスを200μmに設定したコロイドミルで乳化した。
(6)容器に充填した。
【0151】
【表9-9】
【0152】
(ヨーグルト)
以下の製法で、表9-10の処方のヨーグルトを調製した。
<製法>
(1)牛乳に砂糖、実施例1-2-Aの改質澱粉を入れ、70℃まで加熱後、10分間撹拌した。
(2)水を加えて全量補正後、高圧ホモジナイザーにて均質化した(150kgf/cm)。
(3)90℃にて10分間加熱し殺菌後、約40℃まで冷却した。
(4)スターターとして市販のヨーグルトを全量の3%添加した。
(5)40℃の恒温器に入れ、pHが4.6になるまで発酵させた。
(6)撹拌してカードを破砕して均一な状態にし、容器に小分けした。
(7)室温に静置して粗熱をとったのち、5℃の冷蔵庫で冷却した。
【0153】
【表9-10】
【0154】
(コーヒー飲料)
以下の製法で、表9-11の処方のコーヒー飲料を調製した。
<製法>
(1)砂糖、実施例1-1-Aの改質澱粉、乳化剤の粉体混合物を水に加え、75℃で10分溶解した。
(2)室温まで冷却後、牛乳、コーヒーエキスを添加した。
(3)炭酸水素ナトリウムを用いてpHを6.8に調整した。
(4)75℃まで加温し、均質化処理を行った(150kgf/cm)。
(5)缶に充填後、123℃20分レトルト殺菌を行った。
【0155】
【表9-11】
【0156】
(だし巻き卵)
以下の製法で、表9-12の処方のコーヒー飲料を調製した。
<製法>
(1)水に、全卵及び改質澱粉以外の素材を加えて、10分間撹拌した。
(2)(1)に、さらに全卵及び実施例1-1-Aの改質澱粉を加え、混合した。
(3)170℃に熱したフライパンを用いて、(2)を3回に分けて投入し、卵焼きを調製した。
(4)真空パックし、85℃で30分殺菌後、流水で冷却し、冷蔵後で保存した。
【0157】
【表9-12】
【0158】
[試験例で使用した食物繊維の水不溶性食物繊維及び水溶性食物繊維の測定]
上記の試験例1~6の改質澱粉の製造に使用したシトラスファイバー、リンゴ由来食物繊維、バンブー由来食物繊維、エンドウ豆由来食物繊維、及びシュガービート由来食物繊維について、水不溶性食物繊維及び水溶性食物繊維の量をプロスキー変法により測定した。得られた結果から、各食物繊維の水不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の比は、表10のように求められた。
【0159】
【表10】
図1
図2
図3
図4