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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】油脂の結晶化促進剤
(51)【国際特許分類】
   C11B 5/00 20060101AFI20220602BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20220602BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20220602BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C11B5/00
A23D9/013
A23D9/00
A23D7/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021516146
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2020017274
(87)【国際公開番号】W WO2020218315
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2019083641
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390028897
【氏名又は名称】阪本薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100072213
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 一義
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】六本木 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】村井 卓也
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/053838(WO,A1)
【文献】特開平10-140180(JP,A)
【文献】特開2002-003883(JP,A)
【文献】特開平08-231981(JP,A)
【文献】特開2012-070722(JP,A)
【文献】特開2009-209350(JP,A)
【文献】特開2016-089004(JP,A)
【文献】国際公開第01/015544(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
A23D 7/00- 9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂の結晶化促進剤は、少なくともポリグリセリン脂肪酸エステルを含み、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃であり、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数8~24の飽和脂肪酸であることを特徴とする。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶化促進剤において、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度は、2~10であることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の結晶化促進剤において、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は、20~60%であることを特徴とする。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の結晶化促進剤において、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、凝固点が53~65℃であることを特徴とする。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の結晶化促進剤において、
前記HLBは、アトラス法により算出した値である
ことを特徴とする。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかに記載の結晶化促進剤において、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度は、4~10であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂の結晶化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂を含む商品において、油脂の結晶挙動や特性は、その商品の開発、製造、保存、流通に至る多くの場面において重要な影響を及ぼす。そのため、油脂結晶の制御技術は、最も重要な課題の一つである。とりわけ、その組成に占める油脂の割合が高い組成物においては、使用する油脂の結晶挙動の影響が大きく、様々な問題があった。
【0003】
例えば、製造後保存中における、結晶の粗大化を抑える方法として、特許文献1には、油脂結晶の粗大化による物性の悪化を防止するために、ジグリセライドを含有する油脂結晶調整剤が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、長期の保存下においても直径20μm以上の粒状結晶が生成しない油脂組成物を製造する方法として、-20℃以下の冷媒で急速冷却するか、油脂の不安定型結晶粒子を添加することにより不安定型結晶を生成させ、粒状結晶を生成しない油脂又は油脂組成物の製造方法が開示されている。
【0005】
更には、従来技術として、結晶の粗大化を抑制する方法の他、結晶化促進剤の利用も提案されている。例えば、非特許文献1には、親油性で、かつ、融点の高い乳化剤が油脂結晶の鋳型となり結晶化を促進することが記載されており、また、非特許文献2等により、ポリグリセリンのベヘン酸エステルは高い結晶化促進効果と結晶の微細化効果を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-345185号公報
【文献】特開2001-72992号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】佐藤清隆、上野聡「脂質の機能性と構造・物性 分子からマスカラ・チョコレートまで」p91
【文献】宮本敦之、松下和男「ポリグリセリンエステルの特性と食品への応用」New Food Industry,30(11)、p12-18(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術においては、長期の保存中における結晶の粗大化を抑制することに主眼が置かれているため、製造工程中に、油脂を十分に結晶化させるという根本的な問題は解決できておらず、また、結晶化促進剤は、溶解させるために油脂を十分に加熱する必要があり、作業性が悪いことや加熱により油脂の劣化を引き起こしやすいことが懸念されるため、製造工程中の短時間で、結晶化を促進させるという観点からの解決策には適当ではなかった。したがって、結晶化を促進させるための技術の更なる開発が望まれているという実情がある。
【0009】
そこで、本発明では、新規な油脂の結晶化促進剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明では、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃である、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする、油脂の結晶化促進剤を提供する。
本発明に係る結晶化促進剤は、ポリグリセリンの平均重合度が2~10であってもよい。
また、本発明に係る結晶化促進剤は、エステル化率が20~60%であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規な油脂の結晶化促進剤を提供することができる。
なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン同士を脱水縮合したポリグリセリンと脂肪酸のエステル化反応によって得られ、ポリグリセリンの種類(重合度)、脂肪酸の種類(炭素数、二重結合の数)、エステル組成等により、多種類存在する。そして、その種類毎に異なる性質を示すことが知られている。
【0014】
本発明に係る油脂の結晶化促進剤は、少なくともポリグリセリン脂肪酸エステルを含み、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃であり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数8~24の飽和脂肪酸であることを特徴とする。
【0015】
一般的に、ポリグリセリン脂肪酸エステルを油へ添加する際は、油脂となじみやすいHLBが低い(好ましくは、3以下)ものが選択される。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの融点が高いと、油脂よりも先に結晶化して核になりやすいため、結晶化促進剤としては好適であると考えられていた。しかしながら、本願発明者らが鋭意実験検討を行ったところ、意外にも、HLBの範囲を5~9とし、かつ、その融点を58~69℃の範囲に設定することで、結晶化のスピードが速く、微細な結晶を作ることができる、結晶化促進剤を提供できることが分かった。また、本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルは、融点が高すぎないため、ハンドリング性も良い。
【0016】
本発明に係る結晶化促進剤において、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、5~9である。ここで、HLBは、親水性と親油性の程度を表す指標となるものであり、本発明においては、アトラス法により算出した値である。アトラス法によるHLBは、下記式(1)から算出される。
【0017】
【数1】
【0018】
本発明において、融点及び凝固点の測定は、従来公知の方法を用いて行うことができ、例えば、示差走査型熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0019】
本発明に係る結晶化促進剤において、融点は、58~69℃であり、58~66℃であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る結晶化促進剤において、凝固点は、53~65℃であることが好ましい。これにより、十分な結晶化促進効果が得られる。
【0021】
本発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、その平均重合度が限定されるものではないが、2~10であることが好ましく、4~10が更に好ましい。ここで、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、下記式(2)及び下記式(3)から算出される。
【0022】
【数2】
【0023】
上記式(3)中の水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2003年度版」に準じて算出される。
【0024】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、従来公知のエステル化反応により製造することができる。例えば、脂肪酸とポリグリセリンとを水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒の存在下でエステル化反応させることにより製造することができる。エステル化は、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が所望の値になるまで行われる。
【0025】
本発明に係る結晶化促進剤では、エステル化率が20~60%であることが好ましく、30~45%であることが更に好ましい。ここで、エステル化率とは、水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加する脂肪酸のモル数(M)としたとき、下記式(4)で算出される値である。水酸基価とは、上記式(3)により算出される値である。
【0026】
【数3】
【0027】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、特に限定されないが、通常炭素数8~24の飽和又は不飽和の脂肪酸が用いられる。前記脂肪酸は混合物であってもよく、前記脂肪酸の具体例としては、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ベヘン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、油脂組成物の溶融性と固体脂含量のバランス、ハンドリング性において、炭素数16~18の飽和脂肪酸が好ましい。
【0028】
本発明に係る結晶化促進剤の用途は特に限定されず、油脂を含む飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品等の分野で幅広く使用することができ、とりわけ、製造工程中の短時間での結晶化促進効果が必要とされるホイップクリーム、コーヒーホワイトナー、マーガリン、ショートニング、チョコレート、乳飲料、機能性油脂等の油脂組成物において、本発明の効果を発揮することができる。
【0029】
また、前記油脂組成物が含有する油脂も特に限定されず、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂;乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂の単独又は混合油、或いはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂等が挙げられる。本発明に係る結晶化促進剤は、これらの中でも特に、結晶化速度が遅いパーム系油脂、エステル交換油脂等に好適である。エステル交換油としては、ラウリン系エステル交換油等が好適である。
【0030】
本発明に係る結晶化促進剤の使用方法は、所望の油脂中に融解させ、前記油脂と結晶化促進剤とが完全融解した状態から、結晶化工程を経ることで、結晶化促進の効果が発揮される。この際、本発明に係る結晶化促進剤は、好ましくは油脂に対して0.02~5重量%添加することで、十分な結晶化促進効果を得ることができる。
【実施例
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0032】
本発明に係るポリグリセリンは、平均重合度が2のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ジグリセリンS」を、平均重合度が4のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#310」を、平均重合度が6のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#500」を、平均重合度が10のポリグリセリンに阪本薬品工業株式会社製「ポリグリセリン#750」を使用した。
【0033】
<合成例1>
平均重合度が2のポリグリセリン100gとステアリン酸239gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率35%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0034】
<合成例2>
平均重合度が4のポリグリセリン100gとステアリン酸157gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率31%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0035】
<合成例3>
平均重合度が4のポリグリセリン100gとステアリン酸191gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率37%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0036】
<合成例4>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとステアリン酸123gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率30%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0037】
<合成例5>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとステアリン酸184gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率45%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0038】
<合成例6>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとステアリン酸225gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率55%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0039】
<合成例7>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとステアリン酸153gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率38%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0040】
<合成例8>
平均重合度が10のポリグリセリン100gとステアリン酸184gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率45%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0041】
<合成例9>
平均重合度が6のポリグリセリン100gとパルミチン酸31gとステアリン酸101gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率33%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0042】
<比較例1>
ポリグリセリンベヘン酸エステル 製品名:HB-750(阪本薬品工業株式会社製)
【0043】
<比較例2>
ポリグリセリンベヘン酸エステル 製品名:DDB-750(阪本薬品工業株式会社製)
【0044】
<比較例3>
ポリグリセリンステアリン酸エステル 製品名:MS-3S(阪本薬品工業株式会社製)
【0045】
<比較例4>
ポリグリセリンステアリン酸エステル 製品名:PS-3S(阪本薬品工業株式会社製)
【0046】
<比較例5>
ポリグリセリンステアリン酸エステル 製品名:TS-5S(阪本薬品工業株式会社製)
【0047】
<比較例6>
ポリグリセリンステアリン酸エステル 製品名:DAS-7S(阪本薬品工業株式会社製)
【0048】
<比較例7>
平均重合度が4のポリグリセリン100gとパルミチン酸157gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムによるアルカリ性および窒素流気下、245℃で反応させ、エステル化率33%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0049】
以上のようにして製造した合成例1~9及び比較例1~7のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて、下記の測定を行った。
【0050】
<凝固点及び融点の測定>
示差走査熱量計(型番:DSC8320、株式会社リガク製)により各ポリグリセリン脂肪酸エステルの凝固点及び融点を測定した。各試料をアルミセルに5mg秤量し、サンプルシーラーで蓋をした。対照にはアルミナ5mgを用いた。セルを85℃から5℃/minで25℃まで冷却し5分間保持後、5℃/minで85℃まで加熱した際の冷却時の発熱ピークのon-set温度を凝固点、加熱時の吸熱ピークのoff-set温度を融点とした。
【0051】
<固定脂含量(SFC)の測定及び顕微鏡観察のための試料作製>
精製パーム油、硬化パーム核油、及びエステル交換油の各油脂に、各ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.5重量%添加後、80℃で均一に溶解させた。なお、エステル交換油は、具体的には、ラウリン系エステル交換油であり、パーム核油、ヤシ油、及び菜種極度硬化油の混合油脂、融点27.2℃のものを用いた。
【0052】
<固体脂含量(SFC)の測定>
AOCS Official Method Cd 16b-93(1999)に準じ、卓上NMR(型番:minispec mq20、BRUKER社製)によりSFCを測定した。なお、SFCとは、Solid Fat Content(固体脂含量)の略称であり、一定温度下で油脂中に存在する固体脂の含量(%)を示す。したがって、結晶化を開始してから一定時間後における油脂のSFCが高いほど、油脂の結晶化が速く、結晶化促進効果が高い。
【0053】
測定用サンプル管に試料を高さ5cm程度入れ、80℃で10分間加熱し融解させた。その後、精製パーム油は25℃、硬化パーム核油は25℃、エステル交換油は20℃に調温した循環恒温水槽(型番:NCB-1200、東京理化器械株式会社製)に移し、精製パーム油は10分後、硬化パーム核油は3分後、エステル交換油は10分後のSFCを測定した。なお、評価は、無添加(Blank)、及び結晶化促進剤として汎用であるHB-750、DDB-750を指標として行った。
[評価基準]
×:無添加のSFCと同等かそれより低い
△:無添加のSFCよりも高く、HB-750より低い
○:HB-750のSFCと同等かそれより高く、DDB-750のSFCより低い
◎:DDB-750のSFCと同等かそれより高い
【0054】
<結晶サイズの測定>
スライドガラスに各試料10μL滴下し、カバーガラスを被せ、プレパラートを作製した、これを冷却加熱ステージ(型番:10030、リンカム社製)で80℃まで20℃/minで昇温させた後、5℃/minで、精製パーム油は25℃、硬化パーム核油は25℃、エステル交換油は20℃にまで冷却し、精製パーム油は20分後、硬化パーム核油は10分後、エステル交換油は15分後の結晶形態を偏光顕微鏡(型番:BX50、オリンパス株式会社製)にて観察し、付属のデジタルカメラ(型番:DP20、オリンパス株式会社製)で撮影した。画像から結晶サイズを計測した。なお、評価は、無添加(Blank)、及び結晶化促進剤として汎用であるHB-750、DDB-750を指標として行った。
[評価基準]
×:無添加の結晶サイズと同等かそれより大きい
△:無添加の結晶サイズより小さく、HB-750より大きい
○:HB-750の結晶サイズと同等かそれより小さく、DDB-750より大きい。
◎:DDB-750の結晶サイズと同等かそれより小さい
【0055】
<測定結果>
合成例1~9及び比較例1~7のポリグリセリン脂肪酸エステルの測定結果、HLB、及びエステル化率(%)について、下記表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
<考察>
合成例1~9のポリグリセリン脂肪酸エステルは、精製パーム油、硬化パーム核油、及びエステル交換油のいずれの油脂を用いた場合にも、結晶化促進効果のあるポリグリセリンベヘン酸エステル(比較例1及び2)と同等以上であり、また、比較例3~7のポリグリセリン脂肪酸エステルと比較して、SFCの値が大きく、結晶も微細であることが確認された。したがって、HLBを5~9であり、かつ、融点を58~69℃とすることにより、ハンドリング性が良く、油脂の結晶化促進効果の高いポリグリセリン脂肪酸エステルを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、新規な油脂の結晶化促進剤を提供することができる。本発明に係る結晶化促進剤は、その優れた結晶化促進効果に基づき、油脂を含む飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品等の分野で幅広く使用することができる。