(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-01
(45)【発行日】2022-06-09
(54)【発明の名称】インテグリンアンタゴニスト
(51)【国際特許分類】
C07D 471/04 20060101AFI20220602BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220602BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220602BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220602BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220602BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220602BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C07D471/04 114A
C07D471/04 CSP
A61K31/506
A61K45/00
A61P9/00
A61P35/00
A61P27/02
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021532523
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2019072185
(87)【国際公開番号】W WO2020043533
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-03-11
(32)【優先日】2018-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521067739
【氏名又は名称】オクスリオン ナムローゼ フエンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペデルセン,オヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルマッセン,エルケ
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/094285(WO,A1)
【文献】特表2007-538056(JP,A)
【文献】国際公開第2015/175954(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 471/04
A61K 31/506
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)による化合物、またはその医薬的に許容され得る塩、医薬的に許容され得る溶媒和物
、もしくは混合物
【化1】
式中、
R
1およびR
2は、水素、メチルおよびエチルからなる群から独立して選択され、
AlkはC
1~4アルキレンである。
【請求項2】
R
1およびR
2の両方がメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
AlkがC
1アルキレンまたはC
2アルキレンである、請求項1または2のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項4】
下記化合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物:
【化2】
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物と、1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアとを含む医薬組成物。
【請求項6】
血管新生を阻害する際における使用のための、請求項5に記載
の医薬組成物。
【請求項7】
がんの処置および/または防止における使用のための、請求項5に記載
の医薬組成物。
【請求項8】
眼障害の処置および/または防止における使用のための、請求項
5に記載
の医薬組成物。
【請求項9】
前記眼障害が、滲出型加齢黄斑変性、網膜剥離、後部ブドウ膜炎、角膜血管新生、虹彩血管新生、糖尿病性黄斑浮腫および糖尿病性網膜症からなる群から選択される、請求項8に記載
の医薬組成物。
【請求項10】
前記処置および/または防止が、前記化合物を硝子体内注射によって投与することを含む、請求項8または9に記載
の医薬組成物。
【請求項11】
前記阻害、処置または防止がさらに、血管内皮増殖因子(VEGF)またはVEGF受容体に結合し、その活性を阻害する化合物を投与することを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載
の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物と、血管内皮増殖因子(VEGF)またはVEGF受容体に結合し、その活性を阻害する化合物とを含む組み合わせ物。
【請求項13】
請求項
6~
11のいずれか一項において定義されるような使用のための、請求項12に記載の組み合わせ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なインテグリンアンタゴニスト、および医薬品としての本化合物の使用、具体的には血管新生を阻害するための医薬品としての本化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性黄斑浮腫(DME)は、糖尿病性網膜症(DR)を有する患者の黄斑における体液の蓄積であり、これはこの疾患のどの段階にでも生じる可能性がある。DRは糖尿病の最も一般的な微小血管合併症の1つである。視力を脅かすDR(すなわち、DMEおよび増殖性糖尿病性網膜症(PDR))は、世界中における労働年齢成人の中での視覚障害および失明の主たる原因である。世界的には、DRの全有病率が糖尿病者の34.6%と推定されており、一方、DMEの全有病率がDRを有する患者のおよそ20%と推定されている(非特許文献1)。DMEの有病率は、糖尿病の増大する有病率、人口の高齢化、および糖尿病者の増大した平均余命のためにさらに上昇することが予想される:糖尿病を有する成人の世界中での数が2017年には4億2500万人と推定されたが、2045年までには6億2900万人に増大することが予想されている。
【0003】
糖尿病が網膜症を引き起こす正確な機構は依然として不明なままであるが、いくつかの研究では、活性酸素種、終末糖化産物、ならびに循環している硝子体のサイトカインおよびケモカインが疾患に関連して上昇することが示されている。網膜における炎症がDRの主要な初期の病理学的特徴である。様々な炎症性因子および血管拡張因子が内皮機能を変化させる可能性があり、内皮機能の変化は血液網膜関門の破壊を引き起こし、その結果、血漿中のタンパク質および脂質の黄斑内への蓄積が生じる。肥厚が中心窩に関わるとき、または中心窩に関わるおそれがあるときには、患者は変視症および視力喪失の症状を示す。
【0004】
硝子体と網膜との間における相互作用が黄斑浮腫の発症に関与することが見出されている。特に、硝子体と、網膜の黄斑領域とが堅固に接合するときには、黄斑浮腫が大きく促進される可能性がある。DR患者の中では、DMEが、後部硝子体剥離(PVD)を有しない患者の55%に存在したのと比較して、PVDを有する患者の20%に存在しただけであり、このことから、PVDの強力な保護作用が示唆された。PVDの潜在的利益についての提案された機構が硝子体黄斑牽引の軽減であり、しかしながら、経硝子体酸素化と、改善された増殖因子拡散(黄斑前硝子体(pre-macular hyaloid)からの拡散)との両方もまた、有益な作用を有する可能性があることが示唆されている。
【0005】
血中グルコース、血圧、血中脂質を良好に管理することが不可欠であり、それらの管理はDRの発症を遅らせることができ、また、その進行を遅くすることができる。処置が、肥厚部の微小動脈瘤またはびまん性領域に対する小さい光強度レーザ熱傷(50~100μm)を使用する局所的/格子状レーザ光凝固によって一部の場合において行われる。しかしながら、この処置は、中心視の喪失、中心暗点および色覚低下などの合併症を生じさせることがあるかもしれない。より近年には、閾値以下のマイクロパルスレーザが、内側の神経感覚網膜の損傷を理論的に回避し、それにより、潜在的な合併症を軽減する処置として開発されている。
【0006】
いくつかの薬理学的薬剤が、抗血管内皮増殖因子(VEGF)剤およびコルチコステロイドを含めて今や、DMEの処置のために利用可能である。VEGFは、DMEに伴う黄斑肥厚および視覚障害の一因となっている強力な血管透過性因子である。抗VEGF化合物は血管形成および血管透過性を低下させ、これにより血管新生の退行および浮腫の軽減を引き起こす。いくつかの臨床研究では、抗VEGF処置が、DME患者において中心亜領域厚(central subfield thickness)(CST)を減少させること、および視力を改善させることに向けて局所的/格子状レーザ光凝固よりも効果的であることが示されている。抗VEGF処置に関連づけられる有害事象(AE)はまれであり、大半が、長期間にわたる繰り返しでの硝子体内(IVT)注射が必要であることに関連づけられる。
【0007】
炎症が、重要な役割をDMEの病理発生において果たしている。白血球によって放出される血液中のサイトカインおよびケモカインが血管透過性を著しく増大させ、これにより、より多くの体液の網膜下での集積を引き起こしている。コルチコステロイド療法は炎症性メディエータを阻害することができる。いくつかの臨床研究では、コルチコステロイドが、DMEにおいてCSTを低下させること、および視力を改善させることにおいて効果的であることが示されている。コルチコステロイドインプラントの処置負担は抗VEGF剤の処置負担よりもはるかに低いが、眼内コルチコステロイドには、白内障の発症および眼内圧の上昇という増大したリスクが伴う。そのため、全体として、DME患者におけるIVTコルチコステロイドの使用は、IVT抗VEGF療法に対する応答が不十分である患者において第二選択治療として留保されており、緑内障が根底にある患者では禁忌である。
【0008】
上述のDMEの可能な処置のうち、抗VEGF剤は現在、DMEのための第一選択のゴールドスタンダード処置である。しかしながら、今日までのほとんどの研究では、DME患者のかなりの割合が、すなわち、最大で40%に達する割合が、抗VEGF処置にもかかわらず、持続的な浮腫および視力の喪失を有すると報告されている。これらの知見は、VEGFと無関係である別の経路がDMEの発症の一因であることを示唆しており、したがって、DMEのためのさらなる効果的な処置についての重要な臨床的必要性がある。
【0009】
インテグリンは、細胞間の相互作用および細胞と細胞外マトリックスとの相互作用を媒介することができる膜貫通細胞表面受容体のファミリーを構成している。インテグリンは、細胞の分化、接着、形状、遊走、運動性、侵入、増殖および生存を含めて様々な生物学的プロセスに関与している。これらの生物学的プロセスにおけるその役割のために、インテグリンはまた、様々な病理学的状態(例えば、がんおよび眼障害など)にも関連している。眼では、インテグリンが、血管新生、血管透過性および硝子体網膜接着において重要な役割を果たすことが示されている。
【0010】
インテグリンは、非共有結合により結合したαサブユニットおよびβサブユニットからなる真正ヘテロダイマー受容体である。18αおよび8βの知られているサブユニットの種々の組み合わせにより、これまでに認識されている24種のヘテロダイマー型インテグリンのファミリーが構成されている。インテグリンファミリーの受容体は、それらのリガンド認識パターンに依存して大雑把には4つのカテゴリに分類することができる:1)トリペプチドのL-アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)と結合するもの、2)コラーゲンと結合するもの、3)ラミニンと結合するもの、および4)白血球と結合するもの。
【0011】
細胞外マトリックスとのインテグリンの相互作用は、最終的には硝子体領域に向かって広がることがあるが、網膜表面の血管新生を引き起こすことがある。PDR患者に由来するヒト網膜組織に対する免疫組織化学的染色では、活発に増殖している血管内皮細胞は、休止状態の内皮細胞では高発現していないαvβ3インテグリンおよびαvβ5インテグリンを発現することが示されている(非特許文献2および3)。加えて、αvβ3およびαIIbβ3が、線維化段階にある活動性PDRの患者からの線維血管性網膜上膜において発現することが示されており(非特許文献3および4)、これに対し、α5β1がCNVのレーザ誘発マウスモデルで過剰発現することが示されている(非特許文献5)。これと一致して、いくつかの非臨床研究では、インテグリンの阻害が白血球停滞および網膜血管透過性を弱めることが明らかにされている(非特許文献6~8)。αvβ3およびαvβ5の拮抗作用は網膜の血管新生を妨げ、しかし、既存血管には害を及ぼさず(非特許文献2、6、9、および10)、これに対し、α5β1の阻害は種々の動物モデルにおいて内皮細胞の増殖を阻害し、脈絡膜新生血管膜の退行をもたらした(非特許文献5および11)。
【0012】
RGDモチーフが、ビトロネクチン、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンを含めて細胞外マトリックスの多くの成分において非常によく見出される。したがって、インテグリンは細胞外マトリックスタンパク質に非常に関連づけられており、それにより、細胞と細胞外マトリックスとの接着、例えば、硝子体網膜境界での細胞と細胞外マトリックスとの接着を媒介している。RGDモチーフの様々な類似体が、インビトロ実験において細胞外マトリックスタンパク質のRGDモチーフと競合して、インテグリンと細胞外マトリックスとの相互作用を中断させ、したがって、付着を緩めることが知られている(非特許文献12~14)。これと一致して、可溶性RGDペプチドのIVT注射はウサギの眼においてPVDを誘発することが示されている(非特許文献15)。そのうえ、ヒトでは、インテグリンアンタゴニストのALG1001(Allegro Ophthalmics,LLC)の3回のIVT注射により、完全なPVDが、PVDがベースライン時にないか、または部分的である11名のDME患者のうちの6名で誘発されることが、最初の概念実証研究において示されている(非特許文献16~17)。
【0013】
これらの観察結果は、処置されることになる疾患の異なる局面の根底にある異なるタイプのインテグリン(最も注目すべきものとして、αvβ3、αvβ5およびα5β1)を標的とする汎インテグリンアンタゴニストを使用することが好ましいことを実証している。その複雑さが、そのような汎インテグリンアンタゴニストは多くの場合にまた、他のRGD結合インテグリンと拮抗することになり、これにより副作用を引き起こしかねないということである。最も注目すべきものが血小板インテグリンのαIIbβ3であり、その拮抗作用により、血小板の活性化および凝集が妨害される場合がある。
【0014】
特許文献1~4には、様々な化合物が潜在的なインテグリンアンタゴニストとして、または潜在的なビトロネクチン受容体アンタゴニストとして開示される。これらの特許出願で開示される化合物は、一般には下記の式Aに対応するとしてまとめることができる:
【0015】
【0016】
式中、一般には、G1は、置換されたピリジンまたはテトラヒドロナフチリジンを表し、R1およびR2は、水素、メチルまたはエチルであり、R3は疎水性の尾部基である。特に、活性が確認された例示化合物において、R3は、アルキル末端基、シクロアルキル末端基または(ヘテロ)芳香族末端基を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】国際公開WO2011/119282(A1)
【文献】国際公開WO2011/094285(A1)パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2006/0052398号(A1)明細書
【文献】米国特許出願公開第2008/058348号(A1)明細書
【非特許文献】
【0018】
【文献】Yau et al.,2012
【文献】Friedlander et al.,1996
【文献】Ning et al.,2008
【文献】Abu El-Asrar,Missotten and Geboes,2010
【文献】Umeda et al.,2006
【文献】Santulli et al.,2008
【文献】Iliaki et al.,2009
【文献】Rao et al.,2010
【文献】Hammes et al.,1996
【文献】Lahdenranta et al.,2007
【文献】Ramakrishnan et al.,2006
【文献】Gehlsen et al.,1988
【文献】Pierschbacher and Ruoslahti,1987
【文献】Zhou,Zhang and Yue,1996
【文献】Oliveira et al.,2002
【文献】Kuppermann,2013
【文献】Boyer et al.,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
新規なインテグリンアンタゴニスト、具体的には、疾患経路に関与する異なるタイプのインテグリン(例えば、αvβ3、αvβ5およびα5β1など)に対して同時に作用し、しかし、αIIbβ3に対するそれらの作用を介して血小板凝集を妨害するリスクが低下しているインテグリンアンタゴニストが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、下記式(I)による化合物またはその医薬的に許容され得る塩、医薬的に許容され得る溶媒和物、異性体もしくは混合物を提供する:
【化2】
【0021】
式中、R1およびR2は、水素、メチルまたはエチルからなる群から独立して選択され、 AlkはC1~4アルキレンである。
【0022】
本発明はさらに、本発明の化合物と、1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアと含む医薬組成物に関する。
【0023】
本発明はさらに、医薬品としての使用のための化合物に関する。本発明のさらなる目的が、病理学的な血管新生を阻害するための化合物を提供することである。
【0024】
本発明はさらに、糖尿病性黄斑浮腫および糖尿病性網膜症などの眼障害の処置および/または防止における使用のための化合物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】cpd1、cpd2、cpd3、ならびに比較化合物のcpdAおよびcpdBについて、インテグリンα
vβ
3/α
IIbβ
3についてのEC50比を示す(値が小さくなるほど、α
vβ
3についての特異性が大きくなることを示している)。
【
図2】マウス脈絡膜外植片アッセイにおけるcpd3による血管出芽の阻害を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
上記の本発明の化合物について記載されるようなすべての定義および好ましいことは、下記において記載されるようにこの実施形態およびすべてのさらなる実施形態について等しく当てはまることがさらに理解される。
【0027】
上記および本明細書中以下において使用されるように、下記の定義が、別途記される場合を除き当てはまる。
【0028】
用語「アルキレン」は、単独であるか、または組み合わせであるかにかかわらず、アルカン由来の二価基を意味し、これは、1個~4個の炭素原子を含有する直鎖アルキレンまたは分岐アルキレンである場合がある。直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基は、安定な化合物をもたらすためにどのような点であれ利用可能な点において結合する。ある特定の実施形態によれば、CA~Bアルキレンは、A個~B個の炭素原子を有する直鎖アルキレンまたは分岐アルキレンの二価基を規定する。例えば、C1~4アルキレンは、1個~4個の炭素原子を有する直鎖アルキレンまたは分岐アルキレンの二価基を規定し、例えば、メチレン、エチレン、1-プロピレン、2-プロピレン、l-ブチレン、2-ブチレン、2-メチル-1-プロピレンなどを規定する。
【0029】
百分率に言及する場合、この言及は、文脈がそうでないことを明確に示している場合を除き、重量比百分率を示す。
【0030】
本明細書中、前記において記載されるように、本発明は、下記式(I)による化合物またはその医薬的に許容され得る塩、医薬的に許容され得る溶媒和物、異性体もしくは混合物を提供する:
【化3】
【0031】
式中、R1およびR2は、水素、メチルまたはエチルからなる群から独立して選択され、AlkはC1~4アルキレンである。
【0032】
本発明のある特定の実施形態によれば、R1およびR2がともにメチルであるか、または、R1が水素であり、かつ、R2がエチルであるかのいずれかである。
【0033】
好ましい実施形態によれば、本発明は、R1およびR2がともにメチルであるそのような化合物を提供する。
【0034】
本発明のある特定の実施形態によれば、AlkはC1~2アルキレンである。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、化合物は、下記化合物からなる群から選択され、 またはその医薬的に許容され得る塩、医薬的に許容され得る溶媒和物、異性体もしくは混合物である。:
【化4】
【0036】
本発明の化合物は、上記において詳述されるように、キラリティ中心を有する場合があり、立体化学的異性形態として存在する。用語「立体化学的異性形態」は、本明細書中で使用される場合、本明細書中に明記されるような抗炎症性化合物にはあるかもしれないが、同じ一連の結合によって結合する同じ原子から構成され、しかし、交換可能でない異なる三次元構造を有する可能な化合物のすべてを規定する。
【0037】
別途言及される場合または別途示される場合を除き、化合物の化学的呼称は、上記において詳述されるように、当該化合物が有するかもしれないすべての可能な立体化学的異性形態の混合物を包含する。上記混合物は、使用のための上記化合物の基本分子構造のすべてのジアステレオマーおよび/またはエナンチオマーを含有する場合がある。純粋な形態での、または互いに混合されての両方での本発明の化合物のすべての立体化学的異性形態が、本発明の範囲内に包含されることが意図される。
【0038】
好ましい実施形態において、本発明は、式Iによる化合物の(S)エナンチオマー形態を提供する。したがって、特定の実施形態において、本発明は、下記式IIによる化合物を提供する:
【化5】
【0039】
式中、R1、R2およびAlkは、本出願において定義される通りである。
【0040】
さらなる実施形態において、本発明は、下記化合物からなる群から選択される化合物、またはその医薬的に許容され得る塩、医薬的に許容され得る溶媒和物、異性体もしくは混合物を提供する:
【化6】
【0041】
治療的使用のために、本発明の使用のための化合物の塩は、上記において詳述されるように、対イオンが医薬的に許容され得る塩であり、そのような塩は医薬的に許容され得る酸付加塩および塩基付加塩として示すことができる。しかしながら、医薬的に許容され得ない酸および塩基の塩もまた、例えば、医薬的に許容され得る化合物の調製または精製において使用が見出される場合がある。医薬的に許容され得るか否かにかかわらず、すべての塩が本発明の範囲内に含まれる。
【0042】
本明細書中上記において言及されるような医薬的に許容され得る酸付加塩および塩基付加塩は、上記において詳述されるような本発明の使用のための化合物を生じさせることができる治療活性な非毒性の酸付加塩形態および塩基付加塩形態を含むことが意味される。医薬的に許容され得る酸付加塩は、塩基形態をアニオン形態でのそのような適切な酸により処理することによって都合よく得ることができる。適切なアニオンは、例えば、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重酒石酸塩、臭化物、エデト酸カルシウム、カムシイアート(camsyiate)、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシラート、エストラート、エシラート、フマル酸塩、グルセプタート、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニラート(glycollylarsanilate)、ヘキシルレゾルシナート、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシラート、メチルブロミド、メチルニトラート、メチル硫酸塩、粘液酸塩、ナプシラート、硝酸塩、パモ酸塩(エンボナート)、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩およびトリエチオジドなどを構成する。選択された対イオンは、イオン交換樹脂を使用して導入することができる。逆に、上記塩形態は、適切な塩基による処理によって遊離塩基形態に変換することができる。好ましい塩が、本明細書中に記載される化合物の塩酸塩である。
【0043】
酸性プロトンを含有する本明細書中に明記されるような使用のための化合物はまた、カチオン形態での適切な有機塩基および無機塩基による処理によってその無毒な金属付加塩形態またはアミン付加塩形態に変換される場合がある。適切な塩基性塩は、有機カチオンにより形成される塩、例えば、ベンザチン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミンおよびプロカインなどにより形成される塩、ならびに金属カチオンにより形成される塩、例えば、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムおよび亜鉛などにより形成される塩を含む。逆に、上記塩形態は、適切な酸による処理によって遊離形態に変換することができる。
【0044】
本明細書中上記で使用されるような用語の付加塩はまた、本明細書中に明記されるような使用のための化合物、同様にまたその塩を生じさせることができる溶媒和物を含む。そのような溶媒和物は、例えば、水和物およびアルコラートなどである。
【0045】
本明細書中の開示から理解されるであろうように、本発明は特に、単離された化合物および単離された組成物を提供する。化合物は特にインビトロ合成によって、例えば、化学合成などによって得られる。さらなる実施形態において、本発明の化合物は純度が少なくとも85%であり、具体的には少なくとも90%であり、より具体的には少なくとも95%である。特定の実施形態において、本発明は、本発明の化合物を提供するための方法であって、本発明の化合物を化学合成し、合成された化合物を無菌容器に包装することを含む方法を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、本発明の化合物を提供するための方法であって、該化合物を少なくとも85%の純度で、具体的には少なくとも90%の純度で、より具体的には少なくとも95%の純度で化学合成することを含む方法を提供する。好ましくは、合成された化合物は続いて、無菌容器に包装される。
【0046】
組成物
本発明はさらに、上記において定義されるような、また、本明細書中に提示される実施形態のいずれか1つにおいて定義されるような化合物を含む医薬組成物に関する。
【0047】
本文の残り部分において、表現「化合物」または表現「本発明による化合物」は、本発明の目的のためには、複数形および単数形の両方においてであるが、すなわち、本発明の組成物は1つまたは2つ以上の「本発明による化合物」を含み得ることが理解される。
【0048】
特定の実施形態において、本発明は、請求項のいずれか一項による化合物と、1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアとを含む医薬組成物を提供する。医薬的に許容される配合物ならびにその作製方法の様々な例を、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(例えば、第20版;Lippincott、Williams&Wilkins、2000年)において、またはいずれかの薬局方ハンドブック(例えば、米国薬局方、欧州薬局方または国際薬局方)において見出すことができる。
【0049】
別の実施形態において、本発明は、本発明の化合物が溶解されている水性緩衝液を含む組成物を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、本発明の化合物および1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアが溶解されている水性緩衝液を含む医薬組成物を提供する。別のさらなる実施形態において、本発明は、水性緩衝液と、本発明の化合物と、1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアとからなる医薬組成物を提供する。
【0050】
特定の実施形態において、本発明は、インテグリンアンタゴニストを含む組成物であって、該インテグリンアンタゴニスト化合物の少なくとも90%が本発明による化合物である組成物を提供する。本発明のインテグリンアンタゴニスト化合物の好ましくは少なくとも95%が、とりわけ少なくとも99%が、本発明による化合物である。別の特定の実施形態において、本発明の組成物は、別のインテグリンアンタゴニスト(例えば、化合物Aなど)を実質的に含まない。さらなる実施形態において、本発明の化合物の、他のインテグリンアンタゴニスト化合物(例えば、化合物Aなど)に対する比率が、98:2を超えており、具体的には99:1を超えており、より具体的には99.9:0.1を超えている。さらに別の実施形態において、本発明は、本明細書中に記載されるような組成物であって、化合物Aを実質的に含まない組成物、具体的には3%未満、とりわけ2%未満、好ましくは1%未満の化合物Aを含む組成物、より具体的には化合物Aを含まないという条件での組成物を提供する。
【0051】
別の実施形態において、本発明は、第1の有効成分と、第2の有効成分とを含む組成物であって、第1の有効成分が本発明によるインテグリンアンタゴニストであり、第1の有効成分とは異なるインテグリンアンタゴニストが実質的に含まれない組成物を提供する。さらなる実施形態において、第2の有効成分は、VEGFまたはVEGF受容体に結合し、その活性を阻害する化合物である。
【0052】
本出願におけるインテグリンアンタゴニストまたはインテグリンアンタゴニスト化合物は好ましくは、インテグリン受容体に対する最大半量有効濃度(EC50)が1μM未満であり、特にαvβ3インテグリン受容体に対するEC50が1μM未満である。EC50値を求めるための様々な好適な方法が当業者には知られている。特定の化合物についての値を求めるための1つの特定の方法が、研究中のインテグリン受容体(特にヒトαvβ3インテグリン受容体)が、4μg/mLの溶液を使用してマルチウエルプレートに被覆され、ウエルが5%ウシ血清アルブミンによりブロック処理される競合ELISAアッセイである。アッセイで使用されることになるフィブロネクチン濃度が、研究中の被覆されたインテグリンに対する様々なフィブロネクチン濃度の結合を調べることによって別個の実験で実験的に求められ、この場合、アッセイのためのフィブロネクチンの濃度は、最大結合の80%を与える濃度である。その後、決定された濃度のヒトフィブロネクチンが、増大する濃度の化合物が存在する被覆されているブロック処理されたウエルに加えられる。37℃での2時間のインキュベーションの後、ウエルが洗浄され、結合したフィブロネクチンが、特異的試薬(例えば、検出可能な抗フィブロネクチン抗体など)の助けを借りて検出される。その後、データの量的分析が、EC50値を求めるために、すなわち、被覆された受容体に対するフィブロネクチン結合を50%低下させる化合物の濃度を求めるために行われる。
【0053】
別の実施形態において、本発明は、水性緩衝液と、本発明の化合物とを含む組成物を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、水性緩衝液と、本発明の化合物と、1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアとを含む医薬組成物を提供する。別のさらなる実施形態において、本発明は、水性緩衝液と、本発明の化合物と、1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアとからなる医薬組成物を提供する。
【0054】
特定の実施形態において、本発明は、1mlの組成物あたり0.1mg~1000mgの間の本発明の化合物を含む組成物、具体的には1mg/ml~500mg/mlの間の本発明の化合物を含む組成物、より具体的には1mg/ml~100mg/mlの間の本発明の化合物を含む組成物を提供する。さらなる実施形態において、組成物は、10mg/ml~100mg/mlの間、例えば、20mg/ml~75mg/mlの間などを含む。
【0055】
医薬品としての使用のための化合物および/または組成物
本発明はさらに、医薬品としての使用のための化合物に関する。
【0056】
特定の実施形態において、本発明は、血管新生を阻害する際における使用のための化合物に関する。
【0057】
さらなる実施形態において、本発明は、がんの処置および/または防止における使用のための化合物に関する。特に、がんの成長および/または転移を阻害するためである。
【0058】
別の実施形態において、本発明は、眼障害の処置および/または防止における使用のための化合物に関する。特に、眼における血管新生を処置および/または防止するためである。より一般には、本発明は、(病理学的な)眼の血管新生を処置するための、軽減するための、改善するための、またはその進行を阻害するための医薬用の化合物および組成物を提供する。別の局面において、本発明は、眼の血管新生から生じる眼障害、または病因が眼の血管新生にある眼障害を処置するための、軽減するための、改善するための、またはその進行を阻害するための医薬用の化合物および組成物を提供する。
【0059】
さらなる実施形態において、本発明は、滲出型加齢黄斑変性、網膜剥離、後部ブドウ膜炎、角膜血管新生、虹彩血管新生、糖尿病性黄斑浮腫および糖尿病性網膜症からなる群から選択される眼障害の処置および/または防止における使用のための化合物に関する。
【0060】
さらに別の実施形態において、本発明の化合物は、インテグリンアンタゴニストとしての、具体的にはビトロネクチン受容体アンタゴニストとしての生体外または生体内での使用のために提供される。特定の実施形態において、インテグリンはRGD結合インテグリンである。さらなる実施形態において、インテグリンは、αvサブユニット、α5サブユニットまたはα8サブユニットを含むインテグリンである。より具体的な実施形態において、インテグリンは、αvβ3受容体、αvβ5受容体またはα5β1受容体である。
【0061】
別の実施形態において、本発明の化合物は、血管透過性を低下させる際における使用のためのものであり、好ましくは網膜血管透過性を低下させるための使用のためのものである。さらなる実施形態において、本発明のための化合物は、浮腫の処置および/または防止における、具体的には黄斑浮腫の処置および/または防止における、より具体的には糖尿病性黄斑浮腫の処置および/または防止における使用のためのものである。
【0062】
別の実施形態において、本発明の化合物は、後部硝子体剥離(PVD)を誘発する際における使用のために提供される。別の実施形態において、本発明の化合物は、硝子体黄斑牽引の処置における使用のために提供される。
【0063】
前述のように、本発明は、新規化合物、その医薬的に許容され得る塩、それらの医薬的に許容され得る溶媒和物、異性体または混合物に関する。本発明の化合物はまた、投与目的のための様々な医薬用形態物に配合される場合がある。適切な組成物として、薬物を全身投与するために通常的に用いられるすべての組成物が挙げられる場合がある。本発明の医薬組成物を調製するために、効果的な量の、有効成分としての特定の化合物、必要な場合には加えて、塩形態または金属錯化物が、投与のために所望される調剤の形態に依存して広範囲の様々な形態を取ることがある医薬的に許容され得るキャリアと混和されて一緒にされる。これらの医薬組成物は望ましくは、具体的には経口投与、直腸投与、経皮投与、非経口注射または硝子体内注射による投与のために好適である単位型の投薬形態である。例えば、組成物を経口投薬形態物で調製する際には、通常の医薬用媒体のどれもが用いられる場合があり、例えば、水、グリコール、油、アルコールなどが、経口用の液体調製物(例えば、懸濁物、シロップ、エリキシル、乳濁液および溶液など)の場合には用いられることがあり、あるいは固体キャリア、例えば、デンプン、糖、カオリン、滑剤、結合剤および崩壊剤などが、粉末剤、丸剤、カプセルおよび錠剤の場合には用いられることがある。
【0064】
上述の組成物を投与の容易さおよび投薬量の均一性のために単位投薬形態物で配合することがとりわけ好都合である。単位投薬形態物は、本明細書中で使用される場合、要求された医薬用キャリアと連携して所望の治療効果をもたらすために計算される所定量の有効成分をそれぞれが含有する、単位型の投薬として好適である物理的に別個の単位物を示す。そのような単位投薬形態物の例が、錠剤(割線入り錠剤または被覆錠剤を含む)、カプセル、丸剤、坐剤、粉末小包、ウエハー、注射可能な溶液または懸濁物など、およびそれらの区分倍数物である。
【0065】
1つの特定の実施形態において、本発明は、本発明の化合物と、本明細書中に列挙されるような眼障害を有する患者に、具体的には、滲出型加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症または糖尿病性黄斑浮腫を有する患者に、より具体的には糖尿病性網膜症または糖尿病性黄斑浮腫を有する患者に該化合物を投与するための指示を有するリーフレットとを含む包装物を提供する。
【0066】
処置および/または防止を成し遂げるために、本明細書中に記載されるような化合物または組成物は、眼状態の部位への治療剤の送達をもたらすどのような方法によってでも、例えば、眼への投与などによって患者に投与される場合がある。別の実施形態において、使用、処置および/または防止は、硝子体液および/または房水を、本発明の化合物を含む効果的な量の組成物と接触させることを含む。投与は、局所的、結膜下、テノン嚢下、眼内、眼インプラントなどの眼経路によってである場合がある。局所的投与は、本発明の化合物を含む組成物の1滴または数滴を眼に投与することを含む場合がある。眼内の様々な領域への送達、すなわち、インサイチュ送達を、注射、カニューレ、または正確に計量された量の所望の眼用組成物を眼内の特定の区画もしくは組織(例えば、後眼房もしくは網膜)に導入するために設計される他の侵襲的デバイスによって達成することができる。眼内注射は硝子体の中に(硝子体内)、または結膜の下部に(結膜下)、または眼の裏側に(眼球後)、強膜の中に、またはテノン嚢の下部に(テノン嚢下)である場合がある。他の眼内投与経路ならびに注射部位および注射形態もまた意図され、本発明の範囲内である。好ましい実施形態において、処置および/または防止は、化合物を硝子体内注射によって投与することを含む。好ましくは、これは、セルフシーリング・ゲージ・ニードル(self-sealing gauge needle)または他のいずれかの適切に較正された送達デバイスを介して行われる。眼内への注射は、セルフシーリング・ニードルにより毛様体扁平部を経由する場合がある。
【0067】
組成物を硝子体内注射によって投与するときには、活性な薬剤は、注射量を最小限に抑えるために高濃度でなければならない。好ましくは、注射量は約5mL未満である。この注射量などの様々な容量は、眼内圧における上昇、および送達ニードルにより形成される開口部からの注入液の漏出を防ぐために、硝子体液の代償的排液を必要とする場合がある。より好ましくは、注入量は約10μL~200μLの間である。最も好ましくは、注射量は30μL~100μLの間であり、特に約50μLである。
【0068】
好ましい投与経路に関して、医薬的に許容され得る塩、その医薬的に許容され得る溶媒和物、異性体または混合物はまた、眼科的に許容され得る塩、その眼科的に許容され得る溶媒和物、異性体または混合物である。好ましい実施形態において、医薬組成物は、化合物と、1つまたは複数の眼科的に許容され得るキャリアとを含む。興味深いことに、本発明の化合物は、100mg/mlを超える大きい水溶性を有することが見出されたが、一方、先行技術の化合物は1桁以下のmg/mlの水溶性を有する。好ましい実施形態において、本明細書中に開示されるような本発明の組成物は、本発明の化合物を含む水溶液である。別の実施形態において、本発明は、本発明の化合物を含む容器と、本発明の化合物を溶解するための水性緩衝液を含む別の容器とを含む様々な部品のキットを提供する。
【0069】
当業者には理解されるであろうように、本明細書中に開示されるような組成物は好ましくは、無菌の組成物である。特定の実施形態において、本発明は、本発明の化合物または組成物を含む無菌容器を提供する。さらなる実施形態において、無菌容器は、本発明の化合物または組成物を含むバイアルである。バイアルは化合物を粉末として、または溶液として、好ましくは水溶液として含む場合がある。より具体的な実施形態において、本発明は、本発明の化合物の水溶液を含む無菌バイアルを提供する。一層より具体的な実施形態において、本明細書中に記載されるようなバイアルは、シリンジニードルによって突き通すことができるように設計される部分を含む。代替となる実施形態において、本発明は、本発明の化合物を粉末形態で有するバイアルと、水溶液、具体的には緩衝剤水溶液を含む容器とを含むキットを提供する。別の実施形態において、無菌容器は、本発明の医薬組成物、具体的には本発明の化合物を含む水溶液が事前に充填されたシリンジである。さらに別の実施形態において、無菌容器は、本発明の医薬組成物を含む少なくとも1個の錠剤を含む容器である。特に、本発明の化合物と、1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアとを含む多数の錠剤を含むブリスター包装物またはボトル。1つの特定の実施形態において、記載されるようなバイアルは、本発明の化合物を含む溶液の5mL未満、具体的には4mL未満、より具体的には3mL未満を含む。
【0070】
好ましい実施形態において、本発明はさらに、前述の障害の処置、阻害および/または防止がさらに、VEGFまたはVEGF受容体に結合し、その活性を阻害する化合物を投与することを含む使用のための化合物に関する。この化合物は、VEGF阻害剤、VEGF受容体抗体またはその抗原結合フラグメント、あるいはVEGF抗体またはその抗原結合フラグメントが可能である。そのような化合物の好適な例には、ベバシズマブ、ラニビズマブ、ブロルシズマブまたはコンベルセプト(conbercept)が含まれる。別の可能なさらなる化合物が、VEGF結合ドメインを含むVEGFトラップであり、例えば、アフリベルセプトなどである。
【0071】
本発明はさらに、本発明の化合物と、VEGFまたはVEGF受容体に結合し、その活性を阻害するさらなる化合物とを含む組み合わせ物に関する。上記において明記されるように、このさらなる化合物は、VEGF阻害剤、VEGF受容体抗体またはその抗原結合フラグメント、あるいはVEGF抗体またはその抗原結合フラグメント、例えば、ベバシズマブ、ラニビズマブ、ブロルシズマブまたはコンベルセプトなどが可能である。別の可能なさらなる化合物が、VEGF結合ドメインを含むVEGFトラップであり、例えば、アフリベルセプトなどである。
【0072】
有効成分の組み合わせ物に言及するときは常に、有効成分は1つの組成物において、または別個の組成物において提供することができる。加えて、有効成分の組み合わせ物はまた、非共有結合または共有結合により連結される有効成分を包含する。
【0073】
本発明はさらに、医薬品としての使用のための、あるいは病理学的血管新生、がんまたは眼障害(例えば、滲出型加齢黄斑変性、網膜剥離、後部ブドウ膜炎、角膜血管新生、虹彩血管新生、糖尿病性黄斑浮腫および糖尿病性網膜症など)の阻害、治療および/または防止を行うための使用のための上記で明記されるような組み合わせ物に関する。
【0074】
本発明はまた、インテグリン(特にビトロネクチン受容体)との拮抗をその必要性のある対象において行うための方法であって、本発明の化合物を投与することを含む方法を提供する。より具体的には、本発明は、対象における血管形成を阻害するための方法を提供する。本発明はさらに、(病理学的)血管新生の阻害をその必要性のある対象において行うための方法であって、本発明の化合物を投与することを含む方法に関する。さらなる実施形態において、本発明は、対象における眼の血管新生を阻害するための方法であって、本発明の化合物を該対象に投与することを含む方法を提供する。さらに別の特定の実施形態において、方法は、本発明の化合物または組成物を、例えば、硝子体内注射などによって対象の眼に投与することを含む。特に、方法は、本明細書中に記載されるような組成物を硝子体内注射することを含む。
【0075】
本発明はさらに、本明細書中に記載されるような障害の防止および/または処置のための医薬品の製造における使用のための本明細書中に記載される化合物および組成物を提供する。
【実施例】
【0076】
実施例1-本発明の化合物の合成
N-[(2S)-1-(tert-ブトキシ)-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)-1-ヒドロキシプロパン-2-イル]カルバミン酸ベンジルの合成
【化7】
【0077】
2-[1-(6-クロロ-2,5-ジメチルピリミジン-4-イル)ピペリジン-4-イル]-1,8-ナフチリジンおよび(2S)-3-アミノ-2-{[(ベンジルオキシ)カルボニル]アミノ}プロパン酸tert-ブチルを、米国特許出願公開第2008/0058348号(A1)(これは本明細書により参照によって組み込まれる)に記載される方法に従って調製した。両方の分子を、ジクロロ[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロロメタン錯体(1:1)、1,1’-フェロセンジイル-ビスジフェニルホスフィン、フェニルボロン酸、トリエチルアミンおよびフッ化セシウムによって触媒される2-メチルテトラヒドロフラン中でのBuchwald-Hartwigアミノ化反応でカップリングした。反応混合物をセライトでろ過し、塩酸水溶液により抽出した。水性抽出液を酢酸ナトリウム水溶液により中和し、ジクロロメタンにより抽出し、これを重炭酸ナトリウム水溶液により洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥して、粗生成物を得た。粗生成物を、トルエン/酢酸エチルを溶離液として使用するシリカでのカラムクロマトグラフィーによって精製した。クロマトグラフィー処理物を酢酸エチルに溶解し、(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸の塩として結晶化によってさらに精製した。重炭酸ナトリウム水溶液を使用して、この酒石酸塩を除いて、精製した生成物を得た。
【0078】
(2S)-2-アミノ-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸tert-ブチルの合成
【化8】
【0079】
N-[(2S)-1-(tert-ブトキシ)-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)-1-ヒドロキシプロパン-2-イル]カルバミン酸ベンジルを2-メチルテトラヒドロフラン中、パラジウム担持活性炭で水素化した。触媒をセライトでのろ過によって除いた。溶媒を蒸発させて、所望の生成物を得た。
【0080】
(2S)-3-({2,5-ジメチル-6-{4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)-2-{[(3-メトキシ-3-オキソプロポキシ)カルボニル]アミノ}nプロパン酸tert-ブチルの合成
【化9】
【0081】
N,N-ジスクシンイミジルカルボナートをトリエチルアミンの存在下、ジクロロメタン中で3-ヒドロキシプロパン酸メチルと反応させて、2-({[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]カルボニル}オキシ)酢酸メチルを得た。(2S)-2-アミノ-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸tert-ブチルを加えて、所望の生成物を得た。反応混合物を塩酸水溶液および重炭酸ナトリウム水溶液により洗浄し、その後、硫酸ナトリウムで乾燥して、粗生成物を得た。粗生成物を、酢酸エチル/n-ヘプタン/トリエチルアミンを溶離液として使用するシリカでのカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0082】
(2S)-3-({2,5-ジメチル-6-{4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)-2-{[(3-メトキシ-3-オキソプロポキシ)カルボニル]アミノ}プロパン酸トリフルオロ酢酸塩の合成
【化10】
【0083】
(2S)-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)-2-{[(2-メトキシ-2-オキソエトキシ)カルボニル]アミノ}プロパン酸tert-ブチルをジクロロメタンに溶解し、トリフルオロ酢酸により処理した。反応混合物をブラインにより洗浄し、溶媒を蒸発させて、所望の生成物をトリフルオロ酢酸の塩として得た。得られた化合物はさらに、比較化合物A(cpd A)として示される。
【0084】
電子スプレー(ES)低分解能MS m/z:556[(M+1)、100%]
【0085】
(2S)-2-{[(2-カルボキシエトキシ)カルボニル]アミノ}-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸の合成
【化11】
【0086】
(2S)-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)-2-{[(3-メトキシ-3-オキソプロポキシ)カルボニル]アミノ}プロパン酸トリフルオロ酢酸塩を2Mの塩酸水溶液に溶解する。反応完了後、溶媒を凍結乾燥により除いて、所望の生成物を得る。(2S)-2-{[(2-カルボキシエトキシ)カルボニル]アミノ}-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸はさらに、化合物1(cpd1)として示される。
【0087】
電子スプレー(ES)低分解能MS m/z:542[(M+1)、100%]
【0088】
(2S)-2-({[2-(tert-ブトキシ)-2-オキソエトキシ]カルボニル}アミノ)-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸tert-ブチルの合成
【化12】
【0089】
N,N-ジスクシンイミジルカルボナートをトリエチルアミンの存在下、ジクロロメタン中で2-ヒドロキシ酢酸tert-ブチルと反応させて、2-({[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]カルボニル}オキシ)酢酸tert-ブチルを得た。(2S)-2-アミノ-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸tert-ブチルを加えた。反応完了後、反応混合物を塩酸水溶液および重炭酸ナトリウム水溶液により洗浄し、その後、硫酸ナトリウムで乾燥して、粗生成物を得た。粗生成物を、酢酸エチル/n-ヘプタン/トリエチルアミンを溶離液として使用するシリカでのカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0090】
(2S)-2-([(2-カルボキシエトキシ)カルボニル]アミノ)-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸二塩酸塩(THR-687)の合成
【化13】
【0091】
(2S)-2-({[2-(tert-ブトキシ)-2-オキソエトキシ]カルボニル}アミノ)-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸tert-ブチルを塩酸水溶液により加水分解した。反応混合物をn-ヘプタンにより洗浄して、エバポレーションしたとき、化合物2(cpd2)を得る。
【0092】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ:7.64(d 1H),6.71(d 1H),4.63(d 1H),4.46(d 1H),4.57(dd 1H),4.06(dd 1H),3.85(dd 1H),3.77(m 2H),3.53(dd 2H),3.27(m,2H),3.01(tt 1H),2.84(dd 2H),2.58,(s 3H),2.10(dd,2H),2.07,(s 3H),1.99(t,2H),1.95(td 2H)
【0093】
(2S)-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)-2-({[(1-エトキシ-1-オキソプロパン-2-イル)オキシ]カルボニル}アミノ)プロパン酸tert-ブチルの合成
【化14】
【0094】
N,N-ジスクシンイミジルカルボナートをトリエチルアミンの存在下、ジクロロメタン中で2-ヒドロキシプロパン酸エチルと反応させて、2-({[(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ]カルボニル}オキシ)プロパン酸エチルを得た。(2S)-2-アミノ-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸tert-ブチルを加えた。反応完了後、反応混合物を塩酸水溶液および重炭酸ナトリウム水溶液により洗浄し、その後、硫酸ナトリウムで乾燥して、粗生成物を得た。粗生成物を、ジクロロメタン/メタノールを溶離液として使用するシリカでのカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0095】
(2S)-2-{[(1-カルボキシエトキシ)カルボニル]アミノ}-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)プロパン酸二塩酸塩の合成
【化15】
【0096】
(2S)-3-({2,5-ジメチル-6-[4-(5,6,7,8-テトラヒドロ-1,8-ナフチリジン-2-イル)ピペリジン-1-イル]ピリミジン-4-イル}アミノ)-2-({[(1-エトキシ-1-オキソプロパン-2-イル)オキシ]カルボニル}アミノ)プロパン酸tert-ブチルを塩酸水溶液により加水分解した。反応混合物をn-ヘプタンにより洗浄して、エバポレーションしたとき、生成物を得る。生成物はさらに、化合物3(cpd3)として示される。
【0097】
1H NMR(400MHz,D2O)δ:7.5(d 1H),6.5(d 1H),4.5(m 1H),4.2(m 1H),3.9(dd 1H),3.5-3.7(m 3H),3.4(t 2H),3.1(t 2H),2.8(m 1H),2,7(t 2H),2.4(s 3H),1.9(s 3H),1.9-2.0(m 3H),1.7-1.9(m 4H),1.3(d 3H).
【0098】
したがって、本発明の下記化合物が作製されている:
【化16】
【0099】
本発明による他の例示的な化合物が下記の化合物である:
【化17】
【0100】
化合物A(cpd A)を上記のように合成した:
【化18】
【0101】
化合物B(CpdB)を米国特許出願公開第2008058348号(A1)の手順に従って合成した。
【化19】
【0102】
実施例2-インテグリン拮抗作用
本実施例で使用される競合ELISAアッセイの原理は下記の通りであった:(1)研究中のインテグリン受容体を96ウエルプレートに被覆し、ウエルをブロック処理した。(2)その後、インテグリンリガンド(フィブロネクチン)を、増大する濃度の所与インテグリンアンタゴニストが存在する関連ウエルに加えた。3)規定量の時間の後、ウエルを洗浄し、結合したリガンドを、特異的な試薬の助けを借りて検出した。その後、データの量的分析を行って、EC50値、すなわち、被覆された受容体に対するリガンド結合を50%低下させるインテグリンアンタゴニストの濃度を求めた。
【0103】
【0104】
式(I)による化合物は様々なインテグリンとそれらのリガンドとの間での相互作用を阻害する。式(I)による化合物は、一桁台のナノモル濃度の親和性で、αvβ3、αvβ5およびα5β1を含めていくつかのインテグリン受容体と拮抗することが示された。これらのインテグリン受容体は、血管形成において(αvβ3、αvβ5およびα5β1)、血管透過性において(αvβ3およびαvβ5)、硝子体網膜接着において役割を果たすことが示されている(α5β1)。
【0105】
注目すべきことに、本発明の化合物は、血小板凝集に関与する血小板インテグリンαIIbβ3に対する有意に低下した拮抗作用を示す。
図1には、α
vβ
3/α
IIbβ
3についてのEC50値の決定された比率が示される。これらの結果から導き出され得るように、本発明の化合物は、α
vβ
3インテグリンと比較して、血小板インテグリンに対するはるかにより低い活性を示す。対照的に、先行技術において記載されるような化合物は、α
vβ
3インテグリンと比較して、血小板インテグリンに対する有意により高い活性を示す。
【0106】
実施例3-細胞遊走アッセイ
内皮細胞創傷治癒が内皮細胞の遊走および増殖(両方が血管形成プロセスの非常に重要な構成要素である)によって媒介されており、インビトロ血管形成能についての代用モデルとして日常的に使用されている。ORIS(商標)細胞遊走アッセイをヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)とともに使用した。
【0107】
HUVEC細胞(SCCE-001、カタログ番号1000519、Merck Chemicals)をEndoGro成長培地(SCME-003、Merck Chemicals)においてT175フラスコ(カタログ番号353112、falcon)で培養し、細胞が90~100%のコンフルエンスに達したときに分割した。
【0108】
アッセイのために、細胞を解凍後の2代~4代の継代数で、かつ80~90%の集密度で使用した。当日の初めに、フィブロネクチン被覆されたOris(商標)細胞遊走アッセイプレート(カタログ番号#CMAFN.l01、AMS Biotechnology)を冷蔵から取り出し、RTで1時間置いた。Oris検出マスクをエタノールにより洗浄し、マスクのAl角部をプレートのAl角部と合致させて96ウエルプレートの底に置いた。細胞をトリプシン処理によって回収し(カタログ番号25300、Gibco)、250gで5mmにわたって遠心分離し、完全EndoGro成長培地において1mLあたり0.4.106で懸濁した。100μLの細胞懸濁物をウエルに加え、プレートを37℃および5%CO2で6時間インキュベーションして、細胞を接着させた。
【0109】
インキュベーション終了時に、ストッパー用具をエタノールにより洗浄し、これを使用して、参照ウエルを除くすべてのウエルからストッパーを取り除いた。異なる濃度の化合物(cpd2、cpd3、cpdB、シレンギチド)を含有する100μLの成長培地をウエルに加え、プレートを37℃および5%CO2でのインキュベーターに24時間にわたって移して、遊走させた。
【0110】
インキュベーション終了の直前に、4μg/mLのカルセインAM(カタログ番号354217、Beckton Dickinson)溶液を、事前に加温したHBSS(カタログ番号14025、Gibco)において調製した。ストッパーを参照ウエルから除き、培地をマルチチャネル(真空吸引なし)によりすべてのウエルから注意深く除いた。ウエルを100μLのDPBSにより洗浄した。その後、100μLのカルセインAM溶液を加え、プレートを37℃および5%CO2で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、蛍光を、FlexstationおよびSofiMax Pro5.4.5ソフトウェア(Molecular Devices)を使用して494nmの励起波長および517nmの放射波長で読み取った。プレートを無菌状態で保つために蓋をつけたまま、蛍光をプレートの底から読み取った。その後、マスクを除き、写真を、反射光、GFPおよび2.5倍の対物レンズを使用してAxiovert蛍光顕微鏡(Zeiss)により撮影した。
【0111】
cpdB、cpd2およびcpd3についてのIC50値はすべてが1μM未満であった。陽性コントロールのシレンギチドについてのIC50が100μMであった。式(I)の化合物は強い活性を保持し、細胞遊走をナノモル濃度の範囲でのIC50値により阻害すると結論づけることができる。
【0112】
実施例4-マウス脈絡膜外植片アッセイ
本アッセイは、インビバ(in viva)脈絡膜血管形成を細密に模倣するマウスの微小血管の血管形成外植片モデルに基づいている。この器官型培養モデルの主要な優位点が、細胞がその通常の環境の中に保たれ、それにより、細胞間の相互作用を保持し、一方で、動物モデルの場合よりも高いレベルの実験的管理を維持しているということである。脈絡膜外植片モデル、または簡単に言えば、EMCAモデルでは、新しい抗血管新生治療剤の迅速な評価が、小分子を動物の眼で試験するときにはしばしば遭遇する起こり得る曝露不足を排除しているというさらなる利点を伴って可能である。RPE-脈絡膜強膜外植片(これは本明細書中下記では脈絡膜外植片として示される)が三次元フィブリノーゲン/フィブリンゲルに埋め込まれる。血清含有培地を加えることにより、マトリックス内への広範囲にわたる内皮細胞芽伸長が培養において3日後~4日後に誘導される。
【0113】
動物
すべての実験を、食物および水を自由に取らせながら通常の昼夜リズムに従って標準的な実験室条件のもとで飼育される4週齢~5週齢のオスのC57BL/6Jマウス(Charles River Laboratories France)を使用して行った。すべての動物実験がルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)の施設倫理委員会によって承認された。
【0114】
脈絡膜組織の解剖および外植片培養準備
最初の最適化の後、一般的なプロトコルを設定した。簡単に記載すると、マウスを、ペントバルビタール(200mg/kg、IP、Dolethal、Vetoquinol)、続いて頸椎脱臼を使用して安楽死させた後、眼を湾曲した鉗子により直ちに摘出し、氷冷したDPBS(カタログ番号14190-136、Gihco)において保った。実体顕微鏡のもと、眼を一滴の氷冷DPBSに置き、氷冷ペトリ皿に鉗子により所定位置に保持した。角膜および水晶体を、Vannasスプリング剪刀(Fine Science Tools)を使用して縁部(角膜-強膜境界)での円周切開によって除いた。次に、余分な筋肉を残りの眼球から除き、切れ目を後眼房の端から視神経乳頭に向かって入れた。RPE-脈絡膜-強膜複合体を網膜から慎重に分離した後、6個~8個の外植片を、パンチ針(750μmの直径、Mediquip Surgical)を使用してこの複合体の周辺で作製した。外植片を、350μlの血清非含有DMEM(カタログ番号11995-065、Gibco)および1%(v/v)のPen/Strep(カタログ番号15140-122、Gibco)が事前に満たされる48ウエルプレート(BD Biosciences)に移し、5%CO2において37℃で一晩インキュベーションした。
【0115】
脈絡膜外植片のフィブリノーゲン/フィブリンゲルでの埋め込みおよび培養条件
ウシフィブリノーゲン(3.1mg/mi、カタログ番号F863、Sigma-Aldrich)を、1%(v/v)のPen/Strep(カタログ番号15140-122、Gibco)を含有するDMEM(カタログ番号11995-065、Gibco)に溶解し、続いて0.22μmの細孔のフィルター(Corning)でろ過した。次に、10μg/mLのセリンプロテアーゼ阻害剤アプロチニン(カタログ番号A6279、Sigma-Aldrich)を、線維素溶解活性を阻止するためにフィブリノーゲン溶液に加えた。400mU/mLのウシトロンビン(SRP6555、Sigma-Aldrich)を加えた後、このフィブリノーゲン-アプロチニン-トロンビン溶液を48ウエルプレートに素早く分注し(ウエルあたり100μL)、少なくとも5mmにわたって37℃で固化させた。フィブリン被覆ウエルの上に、175μLのフィブリノーゲン/アプロチニン溶液を加え、その後、個々のRPE-脈絡膜外植片を、切断チップを使用して175μLのDMEM培地において移した。最後に、1.4μLのトロンビン(400mU/nit)をそれぞれのウエルに加え、この混合物を37℃および5%CO2で1時間にわたってゲル化させた。凝固後、10%のFBS(SH30071.03、熱不活化されたもの、HyClone)および試験中の分子(cpd3、cpdBおよびシレンギチド)を含有する350μLのDMEMをゲルの上に加え、プレートを5%CO2において37℃でインキュベーションした。
【0116】
血管出芽の定量化
3日後~4日後、明視野写真を、ZEN lite 2012顕微鏡ソフトウェア(Zeiss)を使用するAxio Vert.A1倒立顕微鏡(Zeiss)により2.5倍の倍率で撮影した。血管伸長領域の分析をZVI画像に対して手動で、より具体的には、外植片本体の輪郭、同様にまた全血管伸長領域(外植片本体を含む)の輪郭を、Axiovision Rel 4.8ソフトウェア(「測定>輪郭」、Zeiss)を使用して描くことによって行った。さらなる分析を、Microsoft Excelで行った:内皮器官型培養の出芽面積を、芽が占める総面積から組織外植片の面積を差し引くことによって定量化した。独立した実験の間における絶対な出芽面積はわずかに異なっているため、それぞれの実験におけるすべてのデータをビヒクル処理条件に対して正規化し、IC50値を計算した(GraphPad Prism5)。
【0117】
結果
すべてのインテグリンアンタゴニストが濃度依存的様式で内皮芽形成を阻止した。このことは、内皮細胞はROD認識特異性を介してフィブリノーゲンと会合することができることを示す研究と一致している。実際、フィブリノーゲンは、内皮細胞によって発現されること、および(病理学的)血管形成の重要な調節因子であることが知られているα
vβ
3インテグリンおよびα
5β
1インテグリンのための多数の結合部位を含有する。Cpd3およびCpdBは血管伸長をおよそ1μMのIC50値により阻害し、一方で、陽性コントロールのシレンギチドについては、測定されたIC50がおよそ約300μMであった。cpd3についての代表的な明視野写真が
図2に示される。これらの発見は、実施例3において議論される細胞遊走アッセイの結果と一致している。
【0118】
結論として、本発明の化合物は、血管形成において(αvβ3、αvβ5およびα5β1)、血管透過性において(αvβ3およびαvβ5)、硝子体網膜接着において(α5β1)役割を果たすことが示されている多数のインテグリン受容体に対する強い拮抗作用を示す汎インテグリン阻害剤である。他方、比較化合物との関連では、本発明の化合物は血小板インテグリン(αIIbβ3)のはるかに低い拮抗作用を示し、それにより、血小板凝集を妨害するリスクを軽減し、治療域を増大させている。さらに、本発明の化合物は細胞遊走を阻害し、血管出芽を減少させることが示されている。本発明は、とりわけ、新生血管疾患の処置のために有用である新規インテグリンアンタゴニストを提供する。