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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】自動着岸装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/04 20060101AFI20220603BHJP
   B63H 25/02 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
B63H25/04 G
B63H25/02 Z
B63H25/04 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018192126
(22)【出願日】2018-10-10
(65)【公開番号】P2020059403
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】嵩 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】原 直裕
(72)【発明者】
【氏名】福川 智哉
(72)【発明者】
【氏名】横上 利之
(72)【発明者】
【氏名】上田 泰広
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/100751(WO,A1)
【文献】特開2003-212187(JP,A)
【文献】特開2013-79816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/04
B63H 25/02
G01S 13/91
G01S 15/88 - 15/89
G08G 3/00
G01C 21/20 - 21/22
G05D 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部及び受光部を有し、前記発光部からの光が物体によって反射した反射光を前記受光部で受信することにより、周囲の物体までの距離を所定角度毎に計測する光学センサと、
衛星測位情報に基づく船舶の位置データが入力される位置情報入力部と、
前記光学センサ及び前記位置情報入力部が取得するデータに基づいて、着岸位置まで前記船舶を自動で航行及び着岸させる制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記光学センサの計測結果に基づいて取得された前記船舶の位置が自動航行に用いられる前の段階で、前記着岸位置の周囲の物体までの距離を計測する準備計測を前記光学センサが行うように制御し、
前記光学センサが前記準備計測を行う場合に、前記制御部は、前記光学センサの前記発光部から照射された光が前記着岸位置の周囲の物体で反射して前記受光部で受光できるように、前記船舶の姿勢を変化させる制御及び前記船舶を移動させる制御のうち少なくとも何れかを行うことを特徴とする自動着岸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動着岸装置であって、
前記船舶の姿勢に関するデータが入力される姿勢情報入力部を備え、
前記光学センサが前記準備計測を行う場合に、前記制御部は、前記姿勢に関するデータに基づいて前記船舶の姿勢を制御することを特徴とする自動着岸装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動着岸装置であって、
前記光学センサは、前記船舶の船体に対して回転可能に設けられ、
前記光学センサが前記準備計測を行う場合に、前記制御部は、当該光学センサの前記発光部から照射された光が前記着岸位置の周囲の物体で反射して前記受光部で受光できるように、前記船体に対して前記光学センサを回転させる制御を行うことを特徴とする自動着岸装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の自動着岸装置であって、
前記準備計測が行われる前において、前記制御部は、前記位置情報入力部が取得する前記船舶の位置データに基づいて当該船舶を自動航行させ、
前記準備計測が行われる前は、前記光学センサは、周囲の物体までの距離の計測を停止するか、前記準備計測における計測周期よりも長い周期で周囲の物体までの距離を計測することを特徴とする自動着岸装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の自動着岸装置であって、
撮影を行って撮像データを生成するカメラと、
インタフェース部と、
を備え、
前記制御部は、前記撮像データを用いた画像認識により、前記着岸位置の候補となる着岸位置候補を取得し、
前記インタフェース部は、1つ以上の前記着岸位置候補を前記カメラの撮影画像とともに表示させるためのデータを生成し、
前記インタフェース部は、表示された前記着岸位置候補からユーザが選択した前記着岸位置に関するデータを前記制御部に出力することを特徴とする自動着岸装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の自動着岸装置であって、
前記制御部は、前記着岸位置の周囲の状況を示す地図データを生成し、
前記制御部は、前記船舶を自動で航行及び着岸させる経路を、前記地図データを用いて生成することを特徴とする自動着岸装置。
【請求項7】
請求項6に記載の自動着岸装置であって、
海図に関するデータを記憶可能な記憶部を備え、
前記制御部は、前記記憶部に記憶されている海図に関するデータに基づいて前記地図データを生成することを特徴とする自動着岸装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の自動着岸装置であって、
前記制御部は、前記光学センサが取得した周囲の物体までの距離に関するデータに基づいて前記地図データを生成することを特徴とする自動着岸装置。
【請求項9】
請求項6から8までの何れか一項に記載の自動着岸装置であって、
撮影を行って撮像データを生成するカメラを備え、
前記制御部は、前記撮像データに基づいて前記地図データを生成することを特徴とする自動着岸装置。
【請求項10】
請求項6から9までの何れか一項に記載の自動着岸装置であって、
前記地図データは、前記着岸位置を含む領域を航行可能領域であるか航行不可能領域であるかを定めた地図データであり、前記制御部は、前記航行可能領域を通過するように、前記船舶を自動で航行及び着岸させる経路を生成することを特徴とする自動着岸装置。
【請求項11】
請求項1から10までの何れか一項に記載の自動着岸装置であって、
インタフェース部を備え、
携帯可能かつ無線通信可能な無線機器に対して、前記船舶を緊急停止させる操作がされた場合に、前記インタフェース部は緊急停止信号を制御部に出力し、
前記制御部は、前記緊急停止信号が入力されると、前記船舶を緊急停止させる制御を行うことを特徴とする自動着岸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動着岸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶を自動航行させ、桟橋等に船舶を自動的に着岸させる自動着岸装置が知られている。特許文献1は、この種の自動着岸装置を開示する。
【0003】
特許文献1の着岸支援装置は、距離センサと、GPS装置と、航走制御装置の機能として実現されるコントローラと、を備える。距離センサは、船舶から目標位置を含む測定点までの距離を測定する。GPS装置は、船舶の現在位置を検出し、それを表す位置データを生成する。コントローラには、距離センサからの距離データとGPS装置からの位置データが入力される。コントローラは、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能し、停泊目標位置設定のための演算を行う。また、コントローラは、地図や設定された停泊目標位置をモニタ上に表示させる。
【0004】
特許文献1の構成では、操船担当の乗員が、モニタの画面を見ながら操作卓を操作することによって、船舶を停泊目標位置に導くことができる。また、停泊目標位置に船舶がある程度接近した時点(20m以下となった時点)で、自動操船によって船舶を停泊目標位置に導くことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5000244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の構成は、船舶と着岸位置までの距離が長い場合、距離センサを用いて当該距離を精度良く計測することができない場合があり、これにより、自動操船の精度が低下する可能性があった。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、光学センサを用いて着岸位置の周囲の物体までの距離を遠距離から精度良く計測することができ、計測したデータを利用して自動着岸を円滑に行うことができる自動着岸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、以下の構成の自動着岸装置が提供される。即ち、この自動着岸装置は、光学センサと、位置情報入力部と、制御部と、を備える。前記光学センサは、発光部及び受光部を有し、前記発光部からの光が物体によって反射した反射光を前記受光部で受信することにより、周囲の物体までの距離を所定角度毎に計測する。前記位置情報入力部には、衛星測位情報に基づく船舶の位置データが入力される。前記制御部は、前記光学センサ及び前記位置情報入力部が取得するデータに基づいて、着岸位置まで前記船舶を自動で航行及び着岸させる制御を行う。前記制御部は、前記光学センサの計測結果に基づいて取得された前記船舶の位置が自動航行に用いられる前の段階で、前記着岸位置の周囲の物体までの距離を計測する準備計測を前記光学センサが行うように制御する。前記光学センサが前記準備計測を行う場合に、前記制御部は、前記光学センサの前記発光部から照射された光が前記着岸位置の周囲の物体で反射して前記受光部で受光できるように、前記船舶の姿勢を変化させる制御及び前記船舶を移動させる制御のうち少なくとも何れかを行う。
【0010】
これにより、船舶の姿勢を変化させたり船舶を移動させたりすることで、光学センサにより、比較的遠距離に位置する着岸位置の周囲の物体までの距離を良好に計測することができる。従って、着岸位置との関係での船舶の位置を精度良くかつ素早く取得することができるので、以後の自動航行及び着岸のための制御を円滑に行うことができる。
【0011】
前記の自動着岸装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この自動着岸装置は、前記船舶の姿勢に関するデータが入力される姿勢情報入力部を備える。前記光学センサが前記準備計測を行う場合に、前記制御部は、前記姿勢に関するデータに基づいて前記船舶の姿勢を制御する。
【0012】
これにより、光学センサによる準備計測に適した船舶の姿勢を確実に実現することができる。
【0013】
前記の自動着岸装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記光学センサは、前記船舶の船体に対して回転可能に設けられる。前記光学センサが前記準備計測を行う場合に、前記制御部は、当該光学センサの前記発光部から照射された光が前記着岸位置の周囲の物体で反射して前記受光部で受光できるように、前記船体に対して前記光学センサを回転させる制御を行う。
【0014】
これにより、船体の姿勢にかかわらず、準備計測に適した光学センサの向きを実現することができる。
【0015】
前記の自動着岸装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記準備計測が行われる前において、前記制御部は、前記位置情報入力部が取得する前記船舶の位置データに基づいて当該船舶を自動航行させる。前記準備計測が行われる前は、前記光学センサは、周囲の物体までの距離の計測を停止するか、前記準備計測における計測周期よりも長い周期で周囲の物体までの距離を計測する。
【0016】
これにより、準備計測を行うときに、比較的遠方にある着岸位置の周囲の物体を光学センサで計測することを原因とする空間的分解能の低下を、比較的短い周期で計測を行うことで補うことができる。準備計測の前の段階で光学センサによる計測を停止させたり、計測周期を長くすることで、消費電力を低減することができる。
【0017】
前記の自動着岸装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この自動着岸装置は、カメラと、インタフェース部と、を備える。前記カメラは、撮影を行って撮像データを生成する。前記制御部は、前記撮像データを用いた画像認識により、前記着岸位置の候補となる着岸位置候補を取得する。前記インタフェース部は、1つ以上の前記着岸位置候補を前記カメラの撮影画像とともに表示させるためのデータを生成する。前記インタフェース部は、表示された前記着岸位置候補からユーザが選択した前記着岸位置に関するデータを前記制御部に出力する。
【0018】
これにより、ユーザは、カメラによる撮影画像を参考にして、提示された候補の中から着岸位置を簡単に指示することができる。
【0019】
前記の自動着岸装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記制御部は、前記着岸位置の周囲の状況を示す地図データを生成する。前記制御部は、前記船舶を自動で航行及び着岸させる経路を、前記地図データを用いて生成する。
【0020】
これにより、例えば着岸位置の周囲に存在する障害物を考慮して、船舶を自動で航行及び着岸させる経路を生成することができる。
【0021】
前記の自動着岸装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この自動着岸装置は、海図に関するデータを記憶可能な記憶部を備える。前記制御部は、前記記憶部に記憶されている海図に関するデータに基づいて前記地図データを生成する。
【0022】
これにより、海図が有する情報を考慮して、船舶を自動的に航行及び着岸させる経路を生成することができる。
【0023】
前記の自動着岸装置においては、前記制御部は、前記光学センサが取得した周囲の物体までの距離に関するデータに基づいて前記地図データを生成することが好ましい。
【0024】
これにより、光学センサが実際に計測した障害物の位置等を考慮して、船舶を自動的に航行及び着岸させるときの経路を生成することができる。
【0025】
前記の自動着岸装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この自動着岸装置は、撮影を行って撮像データを生成するカメラを備える。前記制御部は、前記撮像データに基づいて前記地図データを生成する。
【0026】
これにより、周囲をカメラで実際に撮影して得られた障害物の位置等を考慮して、船舶を自動的に航行及び着岸させる経路を生成することができる。
【0027】
前記の自動着岸装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記地図データは、前記着岸位置を含む領域を航行可能領域であるか航行不可能領域であるかを定めた地図データである。前記制御部は、前記航行可能領域を通過するように、前記船舶を自動で航行及び着岸させる経路を生成する。
【0028】
これにより、着岸位置の周囲の状況を整理して把握することができるので、船舶を自動で航行及び着岸させる経路を容易に生成することができる。
【0029】
前記の自動着岸装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この自動着岸装置は、インタフェース部を備える。携帯可能かつ無線通信可能な無線機器に対して、前記船舶を緊急停止させる操作がされた場合に、前記インタフェース部は緊急停止信号を制御部に出力する。前記制御部は、前記緊急停止信号が入力されると、前記船舶を緊急停止させる制御を行う。
【0030】
これにより、船舶を自動で航行及び着岸させる途中で、例えば障害物等に船舶が衝突する可能性をユーザが認識した場合、ユーザは、携帯する無線機器を用いて船舶を直ちに停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1実施形態に係る自動着岸装置の電気的な構成を示す図。
図2】第1実施形態に係る自動着岸装置の処理フローの一例を示すフローチャート。
図3】自動着岸の一例について説明するための図。
図4】第2実施形態の自動着岸装置において、LiDARと回転機構について示した概略図。
図5】第3実施形態の自動着岸装置の処理フローを示すフローチャート。
図6】第3実施形態の自動着岸装置において、着岸位置をユーザに選択させる場合の端末装置の表示例を示す図。
図7】第4実施形態に係る自動着岸装置の処理フローを示すフローチャート。
図8】第4実施形態の自動着岸装置において、生成される地図データ及び経路の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動着岸装置1の電気的な構成を示すブロック図である。
【0033】
図1に示す本実施形態の自動着岸装置1は、船舶80に搭載して使用される。本明細書でいう「着岸」には、岸壁に船舶80を着ける場合と、桟橋等の構造体に船舶80を着ける場合と、が含まれる。
【0034】
自動着岸装置1が適用される船舶80の構成は特に限定されず、例えば、プレジャーボート、漁船、ウォータジェット船、電気推進船、ハイブリッド船等とすることができる。
【0035】
船舶80は、スクリュー11と、スラスター12と、舵13と、を備える。
【0036】
スクリュー11は、船舶80の船尾に設けられる。スクリュー11は、駆動源(エンジンや電動モータ)の駆動力により回転して、船舶80を推進させる。
【0037】
スラスター12は、例えば、船舶80の船首側や船尾側の側面部に設けられた横向きのスクリューである。スラスター12は、駆動源(例えば、電動モータ)の駆動力により回転して、船舶80に横方向の推進力を与える。
【0038】
舵13は、例えば、スクリュー11のすぐ後方に設けられる。舵13の向きを中立から変更した状態でスクリュー11を駆動することによって、船舶80の針路を変化させることができる。
【0039】
自動着岸装置1は、LiDAR(光学センサ、測距センサ)21と、カメラ22と、位置情報入力部31と、姿勢情報入力部32と、インタフェース部41と、制御部43と、を備える。
【0040】
LiDAR21は、船舶80の適宜の位置(例えば、船首)に配置される。LiDAR21は、発光部と、受光部と、を有する。発光部は、可視スペクトル範囲外のパルス光(レーザ光)を照射し、受光部は、当該パルス光が物体によって反射した反射光を受光する。LiDAR21は、パルス光を照射してから反射光を受光するまでの時間に基づいて、周囲の物体の有無と、物体がある場合は当該物体までの距離を検出する。
【0041】
LiDAR21は、パルス光の向きを所定の角度間隔で(実質的に)変化させながら、発光と受光を反復する。これにより、周囲の物体までの距離を、所定の角度毎に計測することができる。この角度走査は、例えば、発光部及び受光部の向きを機械的に調整することで実現されても良いし、MEMS(微小電気機械システム)によって実現されても良いし、公知のフェイズドアレイ方式によって実現されても良い。
【0042】
本実施形態では、LiDAR21は、ヨー方向及びピッチ方向で角度走査を行う3次元LiDARとして構成されている。従って、LiDAR21は、LiDAR21の周囲に存在する物体を表す3次元の点群データを出力することができる。なお、LiDAR21は、点の位置だけでなく、当該位置での反射光の強さに関するデータを併せて出力しても良い。
【0043】
カメラ22は、船舶80の適宜位置(例えば、船首)に配置される。カメラ22は、船舶80の周囲を対象として撮影を行うことで撮像データを生成し、この撮像データを出力することができる。カメラ22は、LiDAR21の近傍に、かつ、その撮影方向がLiDAR21の角度走査範囲の中心と一致するように設けると、LiDAR21の点群データとカメラ22の撮像データとを対応させ易くなるため好ましい。
【0044】
位置情報入力部31には、船舶80が備えるGNSS装置51が取得した船舶80の位置データが入力される。位置情報入力部31は、具体的には、後述するCAN通信のコネクタとして構成されている。
【0045】
GNSS装置51は、衛星からGNSS電波を受信し、公知の測位計算を行うことによって、船舶80の現在位置を取得する。GNSS測位は単独測位でも良いが、公知のDGNSS測位やRTK(リアルタイムキネマティック)測位を用いると、船舶80の位置を高精度で取得できる点で好ましい。
【0046】
姿勢情報入力部32には、船舶80が備えるIMU52が出力するデータが入力される。IMUは、慣性計測装置の略称である。姿勢情報入力部32も位置情報入力部31と同様に、CAN通信のコネクタとして構成されている。
【0047】
IMU52は加速度センサを備えており、3次元の加速度を取得することができる。また、IMU52はジャイロセンサを備えており、3次元の角速度を算出することができる。これにより、船舶の姿勢(ロール角、ピッチ角、及びヨー角)を取得することができる。船舶80の加速度及び姿勢に関するデータは、姿勢情報入力部32を介して制御部43に出力される。
【0048】
IMU52のジャイロセンサは、各種の公知の構成とすることができる。ただし、ジャイロセンサとしてリングレーザジャイロを用いることが好ましい。リングレーザジャイロは、光学リング内で発生するレーザ光の光路差を利用して角速度を算出するので、船舶80の姿勢を精度良く検出することができる。また、安価な構成としたい場合は、MEMS(微小電気機械システム)によって実現されても良い。
【0049】
インタフェース部41は、公知のコンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM等を備える。インタフェース部41は、ユーザインタフェース機能を提供する。インタフェース部41は、後述の端末装置(無線機器)42と無線通信可能に構成されている。インタフェース部41は、無線により端末装置42にデータを送信して様々な情報を表示させたり、端末装置42に対してユーザが行った指示に関するデータを受信したりすることができる。
【0050】
端末装置42は、例えば、ユーザが携帯可能なタブレット型のコンピュータとして構成されている。端末装置42は、各種の情報を表示可能なディスプレイ(表示部)と、ユーザが指で触れて操作することが可能なタッチパネル(操作部)と、を備える。ユーザは、ディスプレイの表示を見ることで、例えば自動着岸に関して制御部43が出力した各種の情報を得ることができる。また、ユーザは、タッチパネルを操作することにより、制御部43に対して各種の指示を与えることができる。
【0051】
制御部43は公知のコンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM等を備える。ROMには、周辺の状況を認識して船舶80を目的地まで自動的に航行して着岸させる制御を行うためのプログラムが記憶されている。また、制御部43は、着岸する目的地の周囲の地図等を記憶可能な記憶部44を備えている。記憶部44の機能は、主として、制御部43が備える大規模記憶装置(例えば、フラッシュメモリドライブ)等により実現される。
【0052】
制御部43は、手動航行モードと、自動航行モードと、を切換可能に構成されている。このモードの切換は、ユーザがインタフェース部41(具体的には、端末装置42)を操作することにより行うことができる。
【0053】
手動航行モードでは、制御部43は、図略の推進操作部(例えば、アクセルレバー及びクラッチレバー)をユーザが操作するのに応じて、スクリュー11の回転数を変更したり、船舶80の前進/後進を切り換えたりする制御を行う。また、制御部43は、図略のスラスター操作部(例えば、ジョイスティック又は操作ダイヤル)をユーザが操作するのに応じて、スラスター12を作動させる。更に、制御部43は、図略の操向操作部(例えば、ステアリングホイール)をユーザが操作するのに応じて、舵13の向きを変更する。以上により、目的地までの手動操縦による航行を実現することができる。
【0054】
自動航行モードでは、制御部43は、LiDAR21、カメラ22、位置情報入力部31、姿勢情報入力部32、及びインタフェース部41から入力される様々なデータに基づいて、スクリュー11の回転数を変更したり、スラスター12を作動させたり、舵13の向きを変更したりする。これにより、目的地までの自動操縦による航行を実現することができる。
【0055】
図1に示すように、船舶80には、イーサネットバス(イーサネットは登録商標)と、CANバスと、を用いた2種類のネットワークが構築されている。CANは、Controller Area Networkの略称である。イーサネットバスには、LiDAR21及びカメラ22が接続される。CANバスには、位置情報入力部31を介してGNSS装置51が接続されるとともに、姿勢情報入力部32を介してIMU52が接続される。更に、CANバスには、スクリュー11、スラスター12、及び、舵13がそれぞれ接続される。
【0056】
制御部43は、イーサネットバス及びCANバスの両方に接続されている。制御部43は、LiDAR21及びカメラ22から、イーサネットバスを介して、点群データ及び撮像データを取得する。点群データ及び撮像データはデータサイズが大きくなり易いが、比較的高速なイーサネット通信を用いることで、処理に必要なデータを制御部43が適切に取得することができる。
【0057】
制御部43は、CANバスを介して、船舶80の位置及び姿勢に関するデータを入力するとともに、スクリュー11等への制御データを出力する。これらの小さなサイズのデータのやり取りをCAN通信で行うことで、制御のリアルタイム性を容易に確保することができる。
【0058】
次に、船舶80の自動着岸に関する制御について詳細に説明する。図2は、自動着岸装置1の処理フローの一例を示すフローチャートである。図3は、自動着岸の例を説明する概略図である。
【0059】
船舶80が沖に出て手動で航行している状態で、ユーザは、インタフェース部41を介して、制御部43に対して自動航行により着岸するように指示する(図2のステップS101)。なお、本実施形態では、最終的に船舶80を移動させるべき位置(着岸位置P1)は、例えば緯度及び経度の形でユーザにより予め設定されている。
【0060】
自動航行及び着岸の指示は、本実施形態では、端末装置42が備えるマイクにユーザが喋り、その内容を音声認識することで行われている。ただし、当該指示は、例えばタッチパネルをユーザが操作する等の方法で行われても良いし、手の動き等を端末装置42のカメラを用いてジェスチャー認識させる方法で行われても良い。
【0061】
この指示に応じて、制御部43は手動航行モードから自動航行モードに切り換わり、船舶80を所定の位置まで自動航行させる(ステップS102)。
【0062】
例えば港湾81において桟橋が入り組んで配置されている場合は、船舶を着岸位置P1に到達させるためには複雑な経路を通過しなければならない。このことを考慮して、ステップS102で船舶80を自動航行させるときの目標位置は、最終目標位置である着岸位置P1ではなく、その手前の適宜の位置(後述の遠距離計測トリガ位置P2)に設定される。この遠距離計測トリガ位置P2は、中間目標位置に相当する。
【0063】
遠距離計測トリガ位置P2は、当該位置に船舶があるときに、LiDAR21を利用して着岸位置P1の周囲の物体までの距離を計測できるような位置として適宜定められる。遠距離計測トリガ位置P2は、着岸位置P1からある程度離れており、かつ、着岸位置P1の周囲の物体が、遠距離計測トリガ位置P2を基準としてLiDAR21による測距可能な範囲内に含まれるように定められる。着岸位置P1と遠距離計測トリガ位置P2との距離は、LiDAR21の性能にもよるが、例えば50メートル程度とすることが考えられる。
【0064】
遠距離計測トリガ位置P2を定める具体的な方法は任意であるが、例えば、ある桟橋から離岸して同じ桟橋に着岸するときは、往路で船舶80が沖に出るときのGNSS測位による位置の推移により得られた経路と、着岸位置P1を中心とする半径50メートルの仮想円と、が交わる点を予め求めて記憶しておき、当該点を遠距離計測トリガ位置P2とすれば良い。また、遠距離計測トリガ位置P2をユーザが指示できるように構成しても良い。
【0065】
ステップS102において、制御部43は、位置情報入力部31が取得する船舶80の位置データを利用して、船舶80を航行させる。言い換えれば、GNSS装置51が出力するGNSS測位結果をベースとした自動航行が行われる。
【0066】
制御部43は、ステップS102で船舶80を遠距離計測トリガ位置P2まで移動させる過程で、LiDAR21及びカメラ22が取得するデータを利用して、船舶80の周囲を監視する。このときの船速は、例えば、10ノット以上の適宜の速度とすることができる。当該船速は、LiDAR21やカメラ22により障害物が検出された場合に余裕を持って当該障害物を回避できるように、あまり高速とならないように設定されることが好ましい。
【0067】
本実施形態において、遠距離計測トリガ位置P2は、港湾81の入口から内部に少し入った位置に定められている。ステップS102において船舶80を航行させているときに、制御部43は、船舶80が港湾81の内部に入ったことを適宜の方法で(例えば、GNSS測位により)検知すると、船速を自動的に減速させる。これにより、混雑することが多い港湾81の内部において、自動航行を適切に行うことができる。このときの船速は、例えば7ノット程度とすることができる。
【0068】
やがて、遠距離計測トリガ位置P2に船舶80が到達する(ステップS103)。現在の船舶80の位置が遠距離計測トリガ位置P2又はその近傍にあることをGNSS測位により検出すると、制御部43は、自動航行モードの特別な場合である自動着岸モードとなる。
【0069】
自動着岸モードでは、制御部43は先ず、LiDAR21を用いて船舶80の周囲の物体までの距離を計測する(ステップS104)。このとき、着岸位置P1の周囲の物体までの距離がLiDAR21によって計測されることが、以後に行われる着岸動作のために重要である。
【0070】
LiDAR21は、本来、船舶80の近傍の障害物を検出して衝突を回避するために用いられる。しかしながら、ステップS104においてLiDAR21は、着岸位置P1からある程度遠く離れた位置から、着岸位置P1の周囲の物体を検出することになる。従って、以下の説明では、このときの計測を「遠距離計測」と呼ぶことがある。この遠距離計測は、LiDAR21を用いて船舶80を着岸位置P1へ自動的に航行及び着岸させるために必要なデータを準備するものである。従って、この遠距離計測は、準備計測と呼ぶこともできる。
【0071】
遠距離計測トリガ位置P2において船舶80は航行中であるので、当該船舶80が前上がり姿勢となり、LiDAR21が例えば斜め上方を向いている可能性がある。そこで、制御部43は、ステップS104の検出を行う前に、船舶80を減速させることによって、船首を上下方向に揺動させる。これにより、LiDAR21による上下方向の走査範囲に、着岸位置P1の周囲の物体が含まれるようになる。この減速は、IMU52が出力する船舶80の姿勢を監視しながら行っても良いし、姿勢の監視なしで単純に減速させても良い。
【0072】
LiDAR21は、パルス光の角度を所定の角度間隔で変化させることで周囲の物体を走査する。従って、遠距離計測トリガ位置P2又はその付近に船舶80が位置している状態で、LiDAR21により着岸位置P1の周囲の物体を検出しようとする場合、遠距離計測トリガ位置P2と着岸位置P1との間が遠いので、空間的な検出分解能が低下する。また、船舶80の姿勢がピッチ方向で少し変化しただけで、LiDAR21の検出角度範囲から着岸位置P1の周囲の物体が外れ易くなる。この点、本実施形態では、LiDAR21を適切な姿勢として遠距離計測を行うので、着岸位置P1の周囲の物体を良好に検知することができる。
【0073】
また、遠距離計測トリガ位置P2と着岸位置P1との位置関係によっては、船舶80が遠距離計測トリガ位置P2にあるときに、LiDAR21が着岸位置P1の周囲の物体を良好に検出できない可能性がある。例えば、LiDAR21の発光部から照射するパルス光が、着岸位置P1に対応する桟橋の面(詳細には、船舶80を係留する側の面)に対して略垂直に当たらない場合、LiDAR21の受光部が反射光を良好に受光できない。そこで、制御部43は、着岸位置P1の周囲の物体に関する点群データをLiDAR21が良好に取得できなかった場合には、LiDAR21の発光部が、桟橋の面(船舶80を係留する側の面)に概ね対向する位置まで、船舶80を遠距離計測トリガ位置P2から移動させる。これにより、LiDAR21において、パルス光が桟橋に反射する反射光を良好に受光することができるようになる。制御部43は、この状態で、LiDAR21による遠距離計測を再び行わせる。このように、本実施形態では、LiDAR21を良好な位置へ移動させてから遠距離計測を行うので、着岸位置P1の周囲の物体を良好に検知することができる。
【0074】
制御部43は、着岸位置P1の経度及び緯度、船舶80のGNSS測位結果、及び、LiDAR21が取得した点群データの形状的特徴等に基づいて、点群データが配置される空間での着岸位置P1を検出する。これにより、船舶の位置を、着岸位置P1(桟橋)に対する相対位置の形で、LiDAR21を用いて数センチメートル以下の誤差で計測することができる。
【0075】
その後、制御部43は、現在の船舶の位置から着岸位置P1まで船舶80が通る経路を計算する(ステップS105)。言い換えれば、船舶80の航路計画を立案する。このとき、船舶80の経路は、ステップS104で取得したLiDAR21による遠距離計測の結果を利用して生成される。
【0076】
遠距離計測により得られた点群は、殆どの場合、水面上に出ている障害物を意味する。従って、制御部43は、当該点群を回避するように経路を生成する。制御部43が作成する経路は、例えば、桟橋の長手方向に対して30°の角度をなして船舶80が桟橋に接近するような経路とすると、着岸が容易であるので好ましい。
【0077】
次に、制御部43は、ステップS105で求めた経路の途中の所定位置まで、船舶80を自動航行させる(ステップS106)。
【0078】
具体的には、制御部43は先ず、図3に示すように、上記の経路の途中に着岸動作トリガ位置P3を適宜定める。この着岸動作トリガ位置P3は、着岸位置P1よりは手前であるが、着岸位置P1に十分に近づいた適宜の位置に設定される。
【0079】
上記のようにして着岸動作トリガ位置P3を定めた後、制御部43は、当該着岸動作トリガ位置P3まで、ステップS105で求めた経路に従って船舶80を移動させる。このときの船速は、例えば7ノットである。
【0080】
やがて、船舶80の位置が着岸動作トリガ位置P3に到達する(ステップS107)。LiDAR21により取得した船舶80の位置が着岸動作トリガ位置P3又はその近傍にあることを検出すると、制御部43は、船速を2ノット程度に調整して、上述の経路に従って船舶80を桟橋に接近させる(ステップS108)。このとき、制御部43は、船舶80が桟橋に接近するに従って船体の向きが桟橋の長手方向に沿うように、船舶80を制御する。
【0081】
船舶80は桟橋にゆっくり近づき、着岸位置P1に到達する。LiDAR21により取得した船舶80の位置が着岸位置P1と一致したことを検出すると、制御部43は、船舶80の慣性をキャンセルする方向の推進力を少しだけ付与して、船舶80を停止させる。
【0082】
なお、ステップS106の自動航行、又はステップS108の着岸動作の過程で、波及び風等の何らかの理由で、経路から船舶80が外れる場合が考えられる。この場合、制御部43は、LiDAR21を用いて取得した船舶80の現在位置に基づいて、船舶80を元の経路に戻すように制御する。LiDAR21は、GNSS測位と比較して、短い時間間隔で船舶80の位置を取得することができる。従って、経路から船舶80が大きく外れる前に、船舶80の位置を修正することができる。船体の制御特性は2次遅れ系であり、いったん船舶80が流されてしまうと立て直すことが難しいので、上記のように早期に対処できることは特に有利である。また、船舶80の位置の修正は、LiDAR21により得られたデータに基づいて行われる。従って、周囲の桟橋及び障害物等との関係で船舶80の位置精度を高く保つことができる。
【0083】
以上により、自動着岸が完了する。ユーザは、ロープを用いて、着岸した船舶80を桟橋に係留する。
【0084】
ステップS102~S108の処理において、ユーザは、例えば端末装置42を操作することで、船舶80の自動航行又は着岸動作を直ちに停止させる緊急停止指示が可能であることが好ましい。これにより、非常停止を実現することができる。
【0085】
インタフェース部41の構成は、入力されたユーザの指示に応じた信号を制御部43に出力することができれば、特に限定されない。インタフェース部41は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ジェスチャー認識装置、音声認識装置、リモコン、携帯電話、スマートフォン等とすることができる。また、インタフェース部41は、タブレット型のコンピュータ以外の無線機器(例えば、携帯電話、スマートフォン、リモートコントローラ等)に対してされた操作に応じた信号を出力するように構成することもできる。また、無線でなく有線での遠隔操作が行われても良い。
【0086】
遠距離計測トリガ位置P2に船舶80が到達する前(図2のステップS102)では、制御部43は、LiDAR21が、例えば1秒間に1~5回の頻度で周囲の物体を計測するように制御する。この程度の検出頻度でも、船舶80の周囲の障害物を検知して回避するには十分であると考えられる。ただし、LiDAR21による計測を停止して、カメラ22だけによる監視を行わせても良い。計測周期を長くしたり計測自体を停止することで、LiDAR21の消費電力を減らすことができる。
【0087】
一方、遠距離計測トリガ位置P2に船舶が到達したときに行われるステップS104の遠距離計測では、比較的に高い頻度(例えば1秒間に20~30回)で計測を行うようにLiDAR21を制御することが好ましい。これにより、遠方の物体をLiDAR21が検出するときの空間的な検出分解能の低下を補うことができる。
【0088】
以上に説明したように、本実施形態の自動着岸装置1は、LiDAR21と、位置情報入力部31と、制御部43と、を備える。LiDAR21は、発光部及び受光部を有し、発光部からの光が物体によって反射した反射光を受光部で受信することにより、周囲の物体までの距離を所定角度毎に計測する。位置情報入力部31には、衛星測位情報に基づく船舶80の位置データが入力される。制御部43は、LiDAR21及び位置情報入力部31が取得するデータに基づいて、着岸位置P1まで船舶80を自動で航行及び着岸させる制御を行う。制御部43は、LiDAR21の計測結果に基づいて取得された船舶80の位置が自動航行に用いられる前の段階で、着岸位置P1の周囲の物体までの距離を計測する準備計測をLiDAR21が行うように制御する。LiDAR21が準備計測を行う場合に、制御部43は、LiDAR21の発光部から照射された光が着岸位置P1の周囲の物体で反射して受光部で受光できるように、船舶80の姿勢を変化させる制御及び船舶80を移動させる制御のうち少なくとも何れかを行う。
【0089】
これにより、船舶80の姿勢を変化させたり船舶80を移動させたりすることで、LiDAR21により、比較的遠距離に位置する着岸位置P1の周囲の物体までの距離を良好に計測することができる。従って、着岸位置P1との関係での船舶80の位置を精度良くかつ素早く取得することができるので、以後の自動航行及び着岸のための制御を円滑に行うことができる。
【0090】
また、本実施形態の自動着岸装置1は、船舶80の姿勢に関するデータが入力される姿勢情報入力部32を備える。LiDAR21が準備計測を行う場合に、制御部43は、姿勢に関するデータに基づいて船舶80の姿勢を制御する。
【0091】
これにより、LiDAR21による遠距離計測に適した船舶80の姿勢を確実に実現することができる。
【0092】
また、本実施形態の自動着岸装置1において、遠距離計測が行われる前は、制御部43は、位置情報入力部31が取得する船舶80の位置データに基づいて船舶80を自動航行させる。遠距離計測が行われる前は、LiDAR21は、遠距離計測における計測周期よりも長い周期で周囲の物体までの距離を計測する。
【0093】
これにより、遠距離計測を行うときに、比較的遠方にある着岸位置P1の周囲の物体をLiDAR21で計測することを原因とする空間的分解能の低下を、比較的短い周期で計測を行うことで補うことができる。遠距離計測が行われる前は、計測周期を長くすることで、LiDAR21の省電力を実現できる。
【0094】
また、本実施形態の自動着岸装置1は、インタフェース部41を備える。携帯可能かつ無線通信可能な端末装置42に対して、船舶80を緊急停止させる操作がされた場合に、インタフェース部41は緊急停止信号を制御部43に出力する。制御部43は、緊急停止信号の入力に基づいて、船舶80を緊急停止させる制御を行う。
【0095】
これにより、船舶80を自動で航行及び着岸させる途中で、例えば障害物等に船舶80が衝突する可能性をユーザが認識した場合、ユーザは、携帯する端末装置42を用いて船舶80を直ちに停止させることができる。
【0096】
次に、第2実施形態を説明する。図4は、第2実施形態の自動着岸装置が備えるLiDAR21と回転機構61について示した概略図である。なお、本実施形態以降の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0097】
図4に示す第2実施形態の自動着岸装置では、LiDAR21が、回転機構61を介して、船舶80に取り付けられている。回転機構61は、適宜の駆動源を利用して、ヨー方向及びピッチ方向にLiDAR21を回転させ、船舶80に対するLiDAR21の向きを変更することができる。
【0098】
制御部43は、姿勢情報入力部32を介してIMU52から入力される船舶80の姿勢に関するデータを利用して、LiDAR21の計測に影響を与える船舶80の揺れをキャンセルするように、回転機構61を制御する。これにより、例えば波や風の影響によって船体が動揺する場合であっても、着岸位置P1の近傍に対してLiDAR21を安定して向けることができるので、LiDAR21による遠距離計測を良好に行うことができる。
【0099】
遠距離計測において、制御部43は、着岸位置P1に相当する方位をLiDAR21が向くように回転機構61を制御しても良い。
【0100】
以上に説明したように、本実施形態の自動着岸装置において、LiDAR21は、船舶80の船体に対して回転可能に設けられる。LiDAR21が準備計測を行う場合に、制御部43は、LiDAR21の発光部から照射された光が着岸位置P1の周囲の物体で反射して受光部で受光できるように、船体に対してLiDAR21を回転させる制御を行う。
【0101】
これにより、船体の姿勢にかかわらず、遠距離計測に適したLiDAR21の向きを実現することができる。
【0102】
次に、第3実施形態を説明する。図5は、第3実施形態に係る自動着岸装置の処理フローの一例を示すフローチャートである。図6は、ユーザが着岸位置候補P1Cから着岸位置P1を選択する場合の端末装置42の表示例を示す図である。
【0103】
図5に示す第3実施形態の自動着岸装置のフローのうち、ステップS201~S203の処理は、上述の第1実施形態(図2)におけるステップS101~S103と同一であるので、説明を省略する。
【0104】
ステップS203で船舶80が遠距離計測トリガ位置P2に到達した後、制御部43は、カメラ22によって港湾81内を撮影するように制御する。その後、制御部43は、港湾81内をカメラ22が撮影して得られる撮像データに対して公知の画像認識処理を行うことにより、桟橋を検出する。
【0105】
画像認識を行う具体的な方法は任意であるが、例えば、深層学習の一種である公知のRCNNを用いたものとすることが考えられる。これにより、カメラ22の撮影画像に含まれる1以上の桟橋の画像上の位置をそれぞれ求めることができる。また、いわゆるセマンティックセグメンテーション手法により、画像における桟橋の位置を求めても良い。
【0106】
得られた1以上の桟橋の位置のそれぞれは、実質的には、船舶80の着岸位置P1の候補(着岸位置候補P1C)となる。
【0107】
制御部43は、1以上の着岸位置候補P1Cが得られると、カメラ22による撮像データ、及び、それぞれの着岸位置候補P1Cのデータを、インタフェース部41に出力する。インタフェース部41は、端末装置42のディスプレイに、着岸位置候補P1Cを示す図形を撮影画像に合成して表示させる。端末装置42における表示例が図6に示され、着岸位置候補P1Cを示す図形は、例えば、対応する桟橋を囲む矩形(バウンディングボックス)とすることができる。図6には、当該矩形が太線で示されている。
【0108】
ユーザは、端末装置42に表示される着岸位置候補P1Cの図形のうち、船舶80を着岸させたい位置の図形(バウンディングボックス)を、タッチパネルに指で触れることで選択する(ステップS204)。これにより、ユーザは、実際に船舶80を着岸させる着岸位置P1を直感的に指定することができる。ユーザが選択した着岸位置P1を示す情報は、インタフェース部41から制御部43に出力される。
【0109】
その後の処理(ステップS205~S209)は、第1実施形態のフロー(ステップS104~S108)と同様であるので、説明を省略する。
【0110】
以上に説明したように、本実施形態の自動着岸装置は、カメラ22と、インタフェース部41と、を備える。カメラ22は、撮影を行って撮像データを生成する。制御部43は、撮像データを用いた画像認識により、着岸位置P1の候補となる着岸位置候補P1Cを取得する。インタフェース部41は、1つ以上の着岸位置候補P1Cをカメラ22の撮影画像とともに表示させるためのデータを生成する。インタフェース部41は、表示された着岸位置候補P1Cからユーザが選択した着岸位置P1に関するデータを制御部43に出力する。
【0111】
これにより、ユーザは、カメラ22による撮影結果を参考にして、提示された着岸位置候補P1Cの中から着岸位置P1を簡単に指示することができる。
【0112】
次に、第4実施形態を説明する。図7は、第4実施形態に係る自動着岸装置の処理フローを示すフローチャートである。図8は、第4実施形態の自動着岸装置において、生成される地図データ及び経路の例を示す図である。
【0113】
図7にフローを示す第4実施形態の自動着岸装置において、制御部43は上述の第1実施形態と異なり、着岸位置までの経路を、着岸位置の周囲の状況を表す地図データを考慮して生成している。
【0114】
地図データは、ユーザが自動着岸を指示する前に、制御部43によって予め生成される(ステップS301)。
【0115】
地図データを具体的にどのように生成するかは様々に考えられる。例えば、制御部43は、当該制御部43が備える記憶部44に海図データを予め記憶させ、この海図データの情報(例えば、岩礁又は進入禁止領域等の位置)を利用して地図データを作成することができる。
【0116】
また、制御部43は、港湾81の内部に位置する物体までの距離をLiDAR21によって予め計測することにより、障害物等の位置を取得して記憶部44に記憶し、この情報を利用して地図データを作成することもできる。
【0117】
更に、制御部43は、港湾81の内部をカメラ22で事前に撮影した画像から画像認識を行うことで、障害物(例えば、ブイ、岩、桟橋等)の位置を推定して記憶し、この情報を利用して地図データを作成することもできる。画像認識の方法としては、上記と同様にRCNNを用いることが考えられる。ブイ及び岩等の水面付近の障害物に関しては、画像において当該ブイ等が検出された領域の位置及び大きさから、方角及び距離を大まかに推定することができる。
【0118】
カメラ22で撮影した障害物の距離を、深層学習により推定することもできる。具体的には、ステレオカメラ、又はLiDARとカメラの組合せ等を用いて、画像と、当該画像に対応する物体の撮影地点からの距離と、の組合せからなるデータセットを用意し、このデータセットを予測モデルに学習させる。その後、カメラ22が障害物を撮影した画像を予測モデルに入力すると、当該予測モデルは、当該障害物の撮影地点からの距離を出力する。
【0119】
基礎データの収集が終わると、制御部43は、様々な情報源から得られたデータを記憶部44から読み出して、とりまとめて1つの地図データを生成する。本実施形態において、地図データは、図8に示すように、様々な情報源から「航行可能領域」と「航行不能領域」とに区分される形で、構成されている。
【0120】
ステップS302~S305の処理は、上述の第1実施形態(図2)におけるステップS101~S104と同一であるので、説明を省略する。
【0121】
ステップS305の遠距離計測が終わると、制御部43は、ステップS301で生成した地図データに対し、遠距離計測によりLiDAR21から得られた点群データをマッチングする。これにより、制御部43は、現在の船舶80の位置及び着岸位置P1が地図データのどの位置に対応するかを求めることができる。
【0122】
制御部43は、地図データを利用して、現在の船舶80の位置から着岸位置P1までの経路を求める(ステップS306)。具体的には、制御部43は、適宜の経路探索アルゴリズムを用いて、航行可能領域内を船舶80が通る経路を求める。図8には、生成された経路の例が示されている。
【0123】
制御部43は、互いに異なる複数の経路を求めても良い。この場合、ユーザは、実際に船舶80を航行させたい経路を、インタフェース部41を介して選択する。
【0124】
その後の処理(ステップS307~S309)は、第1実施形態のフロー(ステップS106~S108)と同様であるので、説明を省略する。
【0125】
以上に説明したように、本実施形態の自動着岸装置において、制御部43は、着岸位置P1の周囲の状況を示す地図データを生成する。制御部43は、船舶80を自動で航行及び着岸させる経路を、地図データを用いて生成する。
【0126】
これにより、例えば着岸位置P1の周囲に存在する障害物を考慮して、船舶を自動で航行及び着岸させる経路を生成することができる。
【0127】
また、本実施形態の自動着岸装置は、海図に関するデータを記憶することができる記憶部44を備える。制御部43は、記憶部44に記憶されている海図に関するデータに基づいて地図データを生成する。
【0128】
これにより、海図が有する情報(特に、規則等により航行できない領域等)を考慮して、船舶を自動的に航行及び着岸させる経路を生成することができる。
【0129】
また、本実施形態の自動着岸装置において、制御部43は、LiDAR21が取得した周囲の物体までの距離に関するデータに基づいて地図データを生成する。
【0130】
これにより、LiDAR21が実際に計測した障害物の位置等を考慮して、船舶を自動的に航行及び着岸させるときの経路を生成することができる。
【0131】
また、本実施形態の自動着岸装置は、撮影を行って撮像データを生成するカメラ22を備える。制御部43は、撮像データに基づいて地図データを生成する。
【0132】
これにより、周囲をカメラ22で実際に撮影して得られた障害物の位置等を考慮して、船舶80を自動的に航行及び着岸させる経路を生成することができる。
【0133】
また、本実施形態の自動着岸装置において、地図データは、着岸位置P1を含む領域を航行可能領域であるか航行不可能領域であるかを定めた地図データである。制御部43は、航行可能領域を通過するように、船舶80を自動で航行及び着岸させる経路を生成する。
【0134】
これにより、着岸位置P1の周囲の状況を整理して把握することができるので、船舶を自動で航行及び着岸させる経路を容易に生成することができる。
【0135】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0136】
本発明の自動着岸装置1が搭載される船舶は、例えば、1軸1舵の船舶80や1軸2舵の船舶80とすることができる。
【0137】
LiDAR21の構成は任意であるが、例えば、水平方向(ヨー方向)で、60°以上の範囲を5°以下の角度間隔で走査する構成とすることができる。
【0138】
LiDAR21を船舶80に取り付ける位置は任意であり、船首のほか、船尾、船体の側面、操舵室の上部等に取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0139】
1 自動着岸装置
21 LiDAR(光学センサ)
22 カメラ
31 位置情報入力部
32 姿勢情報入力部
41 インタフェース部
42 端末装置(無線機器)
43 制御部
44 記憶部
80 船舶
P1 着岸位置
P1C 着岸位置候補
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8