(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】真珠層付き装飾用物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A44C 25/00 20060101AFI20220603BHJP
【FI】
A44C25/00 Z
(21)【出願番号】P 2020110608
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2021-04-23
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-08
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508145506
【氏名又は名称】株式会社キャステム
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】渡嘉敷 一史
(72)【発明者】
【氏名】仲野 英則
(72)【発明者】
【氏名】大泊 清助
(72)【発明者】
【氏名】木村 仁
(72)【発明者】
【氏名】相良 宗作
(72)【発明者】
【氏名】浜地 武士
(72)【発明者】
【氏名】戸田 拓夫
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】熊谷 健治
【審判官】田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-137314(JP,A)
【文献】特開平6-46712(JP,A)
【文献】特開平6-141916(JP,A)
【文献】特表2009-544292(JP,A)
【文献】実開昭50-25187(JP,U)
【文献】特開平11-332621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C1/00-3/00
A44C7/00-27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光造形法又は3次元プリンタを用いて
メタクリル系樹脂又はアクリル系樹脂により作製された、表面に文字又は図形が突設された意匠性のある装飾用物品に模し
た文字又は図形が表面に突設された造形物からなる核を活きている二枚貝の外套膜付近の貝内面に接着する工程と、
前記核を貝内面に接着した二枚貝を所定期間養殖することにより、前記核を真珠層で被包した被包体を形成する工程と、
前記被包体の外径より大径の円筒形ドリルで前記核を被包した核付き被包体を貝殻とともに切り出す工程と、
前記貝殻とともに切り出された前記核付き被包体を80℃~100℃の熱水に5分~15分間ディッピングすることにより、前記核付き被包体から核
と貝殻を取り出して前記被包体を前記装飾用物品の成形型とする工程と、
前記成形型内に樹脂液を注入して前記樹脂液を硬化させることにより、前記成形型内
に文字又は図形が表面に突設された樹脂硬化物を形成する工程と、
被着体に取付けるための取付具を有する基台で前記樹脂硬化物の底面を覆って前記被包体を封止する工程と
を含む真珠層付き装飾用物品の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂硬化物の底面を蓋で覆って前記被包体を封止した後で、前記基台を前記蓋に接着する請求項1記載の真珠層付き装飾用物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文字や図形が突設された意匠性のある装飾用物品に模した樹脂硬化物を核としてその周囲に真珠層を形成した真珠層付き装飾用物品の製造方法に関する。意匠性のある装飾用物品には、バッジ、ネクタイピン、タイタック、ヘアピン、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、イヤリング、指輪、カフスボタン、襟飾り、メモリアル品等が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
従来、ペットの死後に火葬した遺灰をメモリアル製品の真珠に入れたメモリアル真珠が開示されている(例えば、特許文献1(請求項4、段落[0004])参照。)。このメモリアル真珠は、遺灰の中の形状が明確な遺骨を取り出して所要大きさに加工し、該加工した遺骨を透明材で包み込んで楕円形状または球状の遺骨入り核に形成し、該遺骨入り核をアコヤガイに入れて少なくとも10月間養殖して核の周囲に真珠層を形成させてから取り出すことにより作られる。このメモリアル真珠によれば、常にペットの生前を偲びまたは癒し感が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示される方法では、メモリアル真珠の一品製作であるため、複数のメモリアル真珠を得るためには、遺灰の中の形状が明確な遺骨を複数個取り出して所要大きさに加工し、該加工した遺骨を透明材で包み込んで楕円形状または球状の複数の遺骨入り核を必要とする課題があった。
【0005】
本発明の目的は、創作者が所望する形状、寸法を有する装飾用物品を真珠層で被包した美しい真珠の輝きを呈する真珠層付き装飾用物品を製造する方法を提供することにある。本発明の別の目的は、装飾用物品に模した造形物を核として用いることにより、装飾用物品そのものを数多く準備しなくても単一の装飾用物品から同形同大の装飾用物品に模した複数の造形物を作製し、これらから真珠層に被包された複数の真珠層付き装飾用物品を製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の観点は、光造形法又は3次元プリンタを用いてメタクリル系樹脂又はアクリル系樹脂により作製された、表面に文字又は図形が突設された意匠性のある装飾用物品に模した文字又は図形が表面に突設された造形物からなる核を活きている二枚貝の外套膜付近の貝内面に接着する工程と、前記核を貝内面に接着した二枚貝を所定期間養殖することにより、前記核を真珠層で被包した被包体を形成する工程と、前記被包体の外径より大径の円筒形ドリルで前記核を被包した被包体を貝殻とともに切り出す工程と、前記貝殻とともに切り出された前記核付き被包体を80℃~100℃の熱水に5分~15分間ディッピングすることにより、前記核付き被包体から核と貝殻を前記被包体の型崩れを生じることなく取り出して前記被包体を前記装飾用物品の成形型とする工程と、前記成形型内に樹脂液を注入して前記樹脂液を硬化させることにより、前記成形型内に文字又は図形が表面に突設された樹脂硬化物を形成する工程と、被着体に取付けるための取付具を有する基台で前記樹脂硬化物の底面を覆って前記被包体を封止する工程とを含む真珠層付き装飾用物品の製造方法である。
【0014】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記樹脂硬化物の底面を蓋で覆って前記被包体を封止した後で、前記基台を前記蓋に接着する真珠層付き装飾用物品の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1の観点の製造方法では、二枚貝の中で光造形法又は3次元プリンタを用いて作製された装飾用物品に模した造形物からなる核を養殖することにより、核を真珠層からなる被包体で被包した後で、被包体から核を取り出して被包体を装飾用物品の成形型とし、この成形型を利用して装飾用物品に模した樹脂硬化物を形成し、この樹脂硬化物の底面を基台で覆うことにより、真珠層付き装飾用物品を作製する。このため、創作者が所望する形状、寸法を有する装飾用物品を真珠層で被包した美しい真珠の輝きを呈する真珠層付き装飾用物品を、装飾用物品そのものを数多く準備しなくても単一の装飾用物品から同形同大の装飾用物品に模した複数の造形物を作製し、これらから真珠層に被包された複数の真珠層付き装飾用物品を製造することができる。
【0023】
本発明の第2の観点の製造方法では、樹脂硬化物の底面を蓋で覆ってから基台を接着しているため、被包体の封止性に優れた真珠層付き装飾用物品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態の真珠層付き装飾用物品の製造フロー図である。
【
図3】本実施形態の貝内面に装飾用物品に模した造形物を2つ接着した状態の平面図である。
【
図4】本実施形態の真珠層形成後に円筒形ドリルで貝殻ごと切り出した図である。
図4(a)はその断面図であり、
図4(b)はその平面図である。
【
図5】本実施形態の造形物の核と貝殻を真珠層からなる被包体から取り出した図である。
図5(a)は真珠層からなる被包体の断面図であり、
図5(b)は貝殻付きの造形物の核である。
【
図6】本実施形態の真珠層からなる被包体に樹脂液を注入する図である。
図6(a)は樹脂液を注入する前の真珠層の被包体の断面図であり、
図6(b)は樹脂液を注入した後の真珠層の被包体の断面図である。
【
図7】本実施形態の樹脂液が硬化した樹脂硬化物が真珠層の被包体で被包された断面図である。
【
図8】本実施形態の樹脂硬化物を被包する真珠層の被包体を蓋で封止する図である。
図8(a)は封止する前の図であり、
図8(b)は封止した後の図であり、
図8(c)は封止後の余分な部分を切り落とした図である。
【
図9】本実施形態の樹脂硬化物を被包する真珠層の被包体を封止する蓋にピン体を有する基台を接着する図である。
図9(a)は接着前の図であり、
図9(b)は接着後の図である。
【
図10】
図2に対応する装飾用物品の写真図である。
【
図11】
図10に示した装飾用物品に模した3次元プリンタで作製した3つの造形物の写真図である。
【
図12】
図3に示した貝内面に接着した造形物(左側:1つ、右側:2つ)を真珠層が被包して固定化した状態の写真図である。
【
図13】
図12に示した真珠層で被包され固定化された造形物を拡大した写真図である。
【
図14】
図5に対応し真珠層の被包体から取り出した造形物(左側)とその真珠層の被包体(右側)の写真図である。
【
図15】
図9(b)に対応し基台を取付けた真珠層付き装飾用物品の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態の真珠層付き装飾用物品の製造方法は、
図1に示すように、工程S01~工程S07からなる。以下、工程順に説明する。
【0027】
〔装飾用物品に模した造形物からなる核の作製〕(S01)
図1に示す工程S01では、装飾用物品に模した造形物からなる核を作製する。本発明の装飾用物品は、文字や図形が突設された意匠性のある物品であり、平面視で最も長い部分が15mm、側面視で最も高い部分が5mmである。即ち、長さ15mm以下、高さ5mm以下の造形物であることが貝の生存率等を考慮すると好ましい。意匠性のある物品には、バッジ(社章、徽章等)、ネクタイピン、タイタック、ヘアピン、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、イヤリング、指輪、カフスボタン、襟飾り、メモリアル品等が挙げられる。
【0028】
この実施形態では、
図2及び
図10に示されるように、装飾用物品1は、『R』の文字が突設された半円球の社章(直径15mm、高さ8mm)である。この装飾用物品に模した造形物は、光造形法又は3次元プリンタを用いて作製される。このため、創作者が所望する同一の形状、模様、寸法を有する造形物を複数個容易に得ることができる。この造形物は錆を生じさせず、養殖中の貝の生存率の高い樹脂製が好ましい。この実施形態では、3次元プリンタにより装飾用物品に模したメタクリル系樹脂又はアクリル系樹脂からなる造形物の核2が作製される(
図11参照。)。
【0029】
〔作製した造形物からなる核の貝内面への接着〕(S02)
図1に示す工程S02では、作製した造形物からなる核を貝内面に接着する。この実施形態では、
図3に示すように、二枚貝3の凹面となっている外套膜付近の一方の貝内面に2つの造形物の核2を速乾性のある接着剤で接着する。柔らかい外套膜は固い貝殻を作る臓器である。二枚貝は、アコヤ貝、黒蝶貝、白蝶貝、マベ貝、淡水貝等の二枚貝全般である。
【0030】
〔貝の養殖による真珠層からなる核の被包体の形成〕(S03)
図1に示す工程S03では、貝を養殖して真珠層からなる核の被包体を形成する。本発明は、活きた貝のバイオミネラリゼーション(生物がミネラル(鉱物)を作る反応)が行われている間に割り込んで真珠を作る半円球真珠養殖法の技術を利用する。
図12及び
図13に示すように、このバイオミネラリゼーションが行われている間に造形物の核2は真珠層からなる被包体4(
図4参照。)で被包され固定化される。造形物の核3を貝内面に接着してから貝の養殖を開始する。この実施形態では、養殖期間は、貝の種類、養殖条件、造形物のサイズ等により異なるが、約半年から約1年間である。
【0031】
〔円筒形ドリルでの核付き被包体及び貝殻の切り出し〕(S04)
図1に示す工程S04では、所定の期間養殖を行った後、円筒形ドリルで核付き被包体及び貝殻の切り出す。図示しない設置されたドリル機械の先端に円筒形のカッターを取り付けて、このカッターを回転させて、
図4に示すように、核付き被包体を貝殻から切り出す。
図4において、符号4は真珠層からなる被包体、符号2は造形物の核、符号5は貝殻である。切り出した貝殻は円形である。造形物の核が、菱形、ハート形、三角形、その他の多角形である場合には、それらの形の最も長い径よりも内径が大きな円筒形カッターを使用して、核付き被包体全体を切り出す。
【0032】
〔核取り出し後の被包体の装飾用物品の成形型の作製〕(S05)
図1に示す工程S05では、核を取り出し後の被包体を装飾用物品の成形型として作製する。造形物の核の被包体からの取り出しは、核付き被包体を80℃~100℃の熱水に5分~15分間ディッピングすることにより、
図5(a)、(b)に示すように、真珠層からなる被包体4が型崩れを生じることなく、被包体4から造形物の核2と貝殻5を取り出すことができる。これにより、被包体4を装飾用物品の成形型として作製することができる。
【0033】
〔成形型内への樹脂液の注入硬化による樹脂硬化物の形成〕(S06)
図1に示す工程S06では、成形型内に樹脂液を注入し硬化させて樹脂硬化物を形成する。
図6(a)、(b)に示すように、真珠層からなる被包体4に樹脂液6を注入する。この実施形態では、樹脂液6は常温硬化型樹脂である2液性のエポキシ樹脂である。これ以外に、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂等の硬化性樹脂の液状物を用いることができる。樹脂液6は有色又は半透明、不透明であることが突設した文字、図形が明確になるため好ましい。突設した部分のみ有色又は半透明、不透明の樹脂液を注入し、それ以外の部分に透明な樹脂液を注入すると、より文字、図形が浮き出て明確に視認できるため好ましい。
図6(b)に示すように、樹脂液6は被包体4内に満ちわたるように注入する。樹脂液6を注入した後、常温(室温)で放置することにより、
図7に示すように、真珠層からなる被包体4で被包された樹脂硬化物7が形成される。
【0034】
〔樹脂硬化物の底面を被着体取付け用の取付具を有する基台による被包体の被覆と封止〕(S07)
図1に示す工程S07では、樹脂硬化物の底面を被着体取付け用の取付具を有する基台で覆って被包体を封止する。この実施形態では、
図8に示すように、真珠層からなる被包体4で被包された樹脂硬化物7の底面を貝殻等の加工し易い円板状の蓋8で覆って被包体4を封止する(
図8(a)、(b)参照。)。封止後に被包体4及び蓋8の周囲に余分な部分(バリ)がある場合には、
図8(c)に示すようにカッターや砥石等でその余分な部分を取り除く。その後、
図9に示すように、被着体取付け用の取付具9aを有する基台9を蓋8に接着剤を介して接着する。これにより真珠層付き装飾用物品10が作られる。ここで被着体は、図示しないが、服、ネクタイ、シャツであったり、指、首、手首、足首、耳たぶ、髪の毛のような身体の一部である。この実施形態では、取付具9aは先の尖った一本のピンからなるピン体であり、被着体にピン体を通した後、図示しない止め金具で止めることにより、真珠層付き装飾用物品10を被着体に付けることができる。
【0035】
図示しないが、蓋8を設けることなく、蓋8の代わりに、基台9で直接真珠層からなる被包体4で被包された樹脂硬化物7の底面を覆って封止してもよい。
また被着体取付け用の取付具9aは、上述した先の尖ったピン以外に、図示しないが、一本のねじ軸でもよく、その場合にはねじ軸に止め金具を螺合して、真珠層付き装飾用物品10を被着体に付けることができる。また被着体取付け用の取付具9aは、基台に固着した小リングであってもよい。この場合、小リングにチェーンや大リングを通して、チェーンを首、手首、足首等に掛けることにより、真珠層付き装飾用物品を備えた首飾り(ネックレス)、ブレスレット、アンクレット等にすることができる。更に被着体取付け用の取付具9aは、基台に固着したクリップのような挟持具であってもよい。この場合、クリップを被着体の襟、ネクタイ、耳たぶ、髪の毛等に掛けたり、挟むことにより、襟飾り、ネクタイを挟むタイプのネクタイピン、耳飾り(イヤリング)、ヘアピン等にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の真珠層付き装飾用物品は、文字や図形が突設されたバッジ、装身具、メモリアル品等の意匠性のある装飾用物品に美観を付与する製品に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 装飾用物品
2 造形物の核
3 貝
4 真珠層からなる被包体
5 貝殻
6 樹脂液
7 樹脂硬化物
8 蓋
9 基台
10 真珠層付き装飾用物品