(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】ピラゾロピリミジン誘導体、その用途並びに医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20220603BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220603BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220603BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220603BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220603BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220603BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220603BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220603BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
C07D487/04 143
C07D487/04 CSP
A61K31/519
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P37/02
A61P17/00
A61P37/08
A61P19/02
A61P7/00
(21)【出願番号】P 2021517894
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 CN2019090095
(87)【国際公開番号】W WO2019233434
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-12-28
(31)【優先権主張番号】201810585715.6
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520478769
【氏名又は名称】ジェングル セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イン,ジャンミン
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/018868(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104844566(CN,A)
【文献】国際公開第2016/173484(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される構造を有するピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物であって、
【化1】
R
1は、
【化2】
であり、R
2は
【化3】
であり、
そのうち、R
3は
【化4】
SO
2R
6またはC(O)R
6であり、
Xは、C(=O)
もしくはS(=O)
2
であり、
Yは、無置換もしくはフッ素、塩素、臭素
、C
1-6アルキル
基およびC
1-6ハロゲン化アルキル基から選ばれる一種または複数種で置換されたC
1-6アルキル基、C
3-14シクロアルキル基、C
2-13ヘテロシクロアルキル基、C
6
アリール基または
6員ヘテロアリール基であり、
R
6は、無置換もしくは
C
1-6
ハロゲン化
アルキル基、NHCH
3、N(CH
3)
2、フェニル基、ピリジル基又はピリミジン基であり、
R
4、R
5は、独立してH、フッ素、塩素もしくは臭素から選ばれるものであり、
前記一般式(I)で表される構造を有するピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される
塩又は水和
物において、非交換性の水素が無置換もしくは一部または全体が重水素によって置換されている、ピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物。
【請求項2】
R
2は
【化5】
であることを特徴とする、請求項1に記載のピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物。
【請求項3】
Xは、S(=O)
2もしくはC(=O)であり、及び/又は、Yはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基又はブチル基であり、或いは、Yは、フッ素、塩素、臭素
、C
1‐6アルキル基
、C
1‐6ハロゲン化アルキル基から選ばれる一種又は複数種に置換された6員ヘテロアリール基である、ことを特徴とする、請求項1または2に記載のピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物。
【請求項4】
前記6員ヘテロアリール基は窒素原子を一つ含み、前記6員ヘテロアリール基上のXに接続されている炭素原子と、前記6員ヘテロアリール基上の前記窒素原子の位置関係はメタ-またはパラ-である、ことを特徴とする、請求項3に記載のピラゾロピリミジン誘導
体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物。
【請求項5】
Yは、
【化6】
である、ことを特徴とする、請求項1に記載のピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩又は水和物。
【請求項6】
R
6が無置換もしくはハロゲン化のC
1‐6アルキル基であることを特徴とする、請求項
1に記載のピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物。
【請求項7】
R
2は
【化7】
であり、そのうち、R
8が存在しないか、又は
【化8】
であり、R
9は
【化9】
であり、R
10はメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であり、R
11はフッ素、塩素、臭素、ハロゲン化C
1‐6アルキル基から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されたピリジル基であり、且つピリジル基上のカルボニル基の炭素原子と接続している原子とピリジル基上の窒素原子との位置関係はパラ-であることを特徴とする、請求項1に記載のピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物。
【請求項8】
前記ピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物が、下記構造式で表される化合物の一種であることを特徴とする、請求項1に記載のピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物。
【化10】
【化11】
【請求項9】
JAKキナーゼ機能に関する適応症を予防及び/又は治療する薬剤の製造における、請求項1~8のいずれか一項に記載の一般式(I)で表される構造を有するピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和物
の使用。
【請求項10】
前記JAKキナーゼ機能に関する適応症は、強直性脊椎炎自己免疫疾患、クローン病炎症性疾患、真性赤血球増加症、アトピー性皮膚炎、乾癬性関節炎、本態性血小板増加症、骨髄線維症及び癌を含むことを特徴とする請求項9に記載の
使用。
【請求項11】
JAKキナーゼ機能に関する適応症を予防及び/又は治療する医薬組成物であって、請求項1~8のいずれか一項に記載の一般式(I)で表される構造を有するピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩
又は水和
物を含む、ことを特徴とする医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラゾロピリミジン誘導体、そのJAKキナーゼ(Janus kinase:ヤーヌスキナーゼ)機能に関する適応症を予防及び/又は治療する薬剤中の用途と医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サイトカインは、細胞の分化、増殖及び活性化に影響を及ぼし、かつ炎症誘発性反応及び抗炎症反応を調節可能である。多種のサイトカインのシグナル伝達は、プロテインチロシンキナーゼのJanusキナーゼファミリー(JAK)とシグナルの伝達、転写活性化因子(STAT)と、を含む。JAKキナーゼは、細胞内非受容体チロシンキナーゼであり、サイトカインへの媒介ができ、免疫応答に関与する細胞増殖及び機能に一定の調節作用がある。JAKキナーゼファミリーはまとめて4つのメンバを有し、それぞれJAKキナーゼ1、JAKキナーゼ2、JAKキナーゼ3、チロシンキナーゼ2である。通常、サイトカインは、サイトカイン受容体と結合することにより、JAKキナーゼを活性化し、JAKキナーゼ活性化後にSTATsを活性化し、活性化したSTATsが細胞核に入り込んで遺伝子発現を制御する。JAKs‐STATsファミリーは、サイトカイン受容体媒介の主なシグナル伝達経路として他のシグナル伝達経路と互いに影響する可能性があり、複種の免疫や造血細胞の発育、分化、成熟、死、機能発現の過程に参加し、体の免疫、炎症反応の調節中に極めて重要な役割を果たしている。
【0003】
JAKs-STATs経路の異常活性化は、多種の疾患と密接する。癌におけるJAK/STATの活性化は、サイトカイン刺激等の減少により発生し得る。従って、JAKキナーゼ阻害剤は、強直性脊椎炎自己免疫疾患、クローン病炎症性疾患、真性赤血球増加症、アトピー性皮膚炎、乾癬性関節炎、本態性血小板増加症、骨髄線維症及び癌などの疾患の治療に用いられる。
【発明の概要】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、好ましい選択性のJAKキナーゼ阻害剤である新規なピラゾロピリミジン誘導体を提供することにある。
【0005】
また、本発明は、ピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩、水和物、又は、任意形態の代謝による代謝産物が、JAKキナーゼ機能に関する適応症を予防及び/又は治療する薬剤中の用途も提供する。
【0006】
また、本発明は、JAKキナーゼ機能に関する適応症を予防及び/又は治療する医薬組成物をさらに提供する。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、下記の技術案を採用する。
一般式(I)で表される構造を有するピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩、水和物、又は、任意形態の代謝による代謝産物であって、
【化1】
そのうち、
R
1は、
【化2】
であり、R
2は
【化3】
であり、
そのうち、R
3は
【化4】
SO
2R
6またはC(O)R
6であり、
Xは、C(=O)、C(=O)N(R
7)、C(=O)C(R
7)
2、S(=O)
2、C(=O)O、C(=O)OC(R
7)
2 もしくはC(=O)N(R
7)C(R
7)
2であり、R
7はHもしくはC
1-4アルキル基であり、
Yは、無置換もしくはフッ素、塩素、臭素、シアノ、ニトロ、C
1-6アルキル基、C
2-6アルケニル基、C
2-6アルキニル基およびC
1-6ハロゲン化アルキル基から選ばれる一種または複数種で置換されたC
1-6アルキル基、C
3-14シクロアルキル基、C
2-13ヘテロシクロアルキル基、C
6-14アリール基またはC
3-14ヘテロアリール基であり、
R
6は、無置換もしくはハロゲン化炭化水素基、NHCH
3、N(CH
3)
2、フェニル基、ピリジル基又はピリミジン基であり、
R
4、R
5は、独立してH、フッ素、塩素もしくは臭素から選ばれるものであり、
前記一般式(I)で表される構造を有するピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩、水和物、又は、任意形態の代謝による代謝産物において、非交換性の水素が無置換もしくは一部または全体が重水素によって置換されている、ピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩、水和物、又は、任意形態の代謝による代謝産物。
【0008】
本発明のいくつかの好ましい態様によれば、R
2は
【化5】
である。
【0009】
本発明のいくつかの好ましい態様によれば、Xは、S(=O)2もしくはC(=O)である。
【0010】
本発明のいくつかの好ましい態様によれば、Yはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基又はブチル基であり、或いは、Yは、フッ素、塩素、臭素、シアノ、ニトロ、C1‐6アルキル基、C2‐6アルケニル基、C2‐6アルキニル基、C1‐6ハロゲン化アルキル基から選ばれる一種又は複数種に置換された6員ヘテロアリール基であるそのうち、C1‐6アルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基
、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等であってもよい、C2‐6アルケニル基は、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等であってもよいよい、C2‐6アルキニル基は、エチニル基、プロピニル基、1‐ブチニル基、1‐ペンチニル基、2‐ペンチニル基、1‐ヘキシニル基、2‐ヘキシニル基等であってもよい、C1‐6ハロゲン化アルキル基は、フッ素、塩素及び臭素から選ばれる1つまたは複数で置換されたメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピ
ル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等であってもよい、6員ヘテロアリール基は、窒素原子、硫黄原子、酸素原子から選ばれる1つまたは複数で置換されたフェニル基であってもよい。
【0011】
本発明のいくつかの好ましい態様によれば、前記6員ヘテロアリール基は窒素原子を一つ含み、前記6員ヘテロアリール基上のXに接続されている炭素原子と、前記6員ヘテロアリール基上の前記窒素原子の位置関係はメタ-またはパラ-である。そのうち、6員ヘテロアリール基は、窒素原子、硫黄原子、酸素原子から選ばれる1つまたは複数で置換されたフェニル基であってもよい。
【0012】
本発明のいくつかの好ましい態様によれば、R6は、無置換もしくはハロゲン化の直鎖炭化水素基、シクロアルキル基、又は少なくとも1つの二重結合を有する直鎖炭化水素基或いは分岐炭化水素基であり、R6の炭素数は1~20である。そのうち、直鎖炭化水素基は直鎖のアルキル基、直鎖のアルケニル基と直鎖のアルキニル基を含んでよい、直鎖のアルキル基はメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等であってもよい、直鎖のアルケニル基としては、ビニル基、n-プロペニル基
、n-ブテニル基、n-ペンテニル基、n-ヘキセニル基等であってもよい、直鎖のアルキ
ニル基は、エチニル基、n-プロピニル基、n-ブチニル基、n-ペンチニル基、n-ヘ
キシニル基等であってもよい、分岐の炭化水素基は、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等であってもよい、シクロアルキル基は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基等であってもよい。
【0013】
本発明のいくつかのさらに好ましい態様によれば、R6は、無置換もしくはハロゲン化C1‐6アルキル基である。ここで、C1‐6アルキル基は、メチル基、エチル基、n-
プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、ter
t-ブチル基等であってもよい。
【0014】
本発明のいくつかの好ましいまたは具体的な態様によれば、R
2は
【化6】
であり、そのうち、R
8が存在しないか、又は
【化7】
であり、R
9は
【化8】
であり、R
10はメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であり、R
11はフッ素、塩素、臭素、ハロゲン化C
1‐6アルキル基から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されたピリジル基であり、且つピリジル基上のカルボニル基の炭素原子と接続している原子とピリジル基上の窒素原子との位置関係はパラ-である。ここで、C
1‐6アルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基
、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等であってもよい。
【0015】
本発明の一つ具体的な形態によれば、R
8が存在しない場合、R
9は
【化9】
である。本発明他の一つ具体的な形態によれば、R
8が
【化10】
である場合、R
9は
【化11】
である。
【0016】
本発明のいくつかの好ましい且つ具体的な態様によれば、前記ピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩、水和物、又は、任意形態の代謝による代謝産物が、下記構造式で表される化合物の一種である。
【0017】
【0018】
【0019】
本発明によれば、前記ピラゾロピリミジン誘導体の化合物が、単一の化合物形態のみならず、構造が一般式(I)の要求を満たしている化合物を多種含む混合物形態、及び、ラセミ体、鏡像異性体、非鏡像異性体などの同一化合物の異なる異性体の形態も含む。前記
薬学的に許容される塩としては、塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、3-アミノプロピオニトリルフマル酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、没食子酸塩、クエン酸塩等を含むがこれらに限定されない。前記「一般式(I)の化合物を有するプロドラッグ」とは、適当な方法を採用して適用した後、被験者体内で代謝又は化学反応して構造式(I)の少なくとも1種の化合物またはその塩に変換可能の物質である。
【0020】
化学分野で公知の類似の方法による合成経路により本発明のピラゾロピリミジン誘導体を調製しもよい、特に、本明細書に含まれる記載に基づいて本発明の化合物を合成してもよい。試薬は、通常、市場から入手されるもの、あるいは当業者に公知の方法を用いて容易に調製されるものである。
【0021】
また、本発明は、上記一般式(1)に表されるピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩、水和物、又は、任意形態の代謝による代謝産物が、JAKキナーゼ機能に関する適応症を予防及び/又は治療する薬剤中の用途を別の技術案として提出する。
【0022】
本発明のいくつかの具体的な態様によれば、JAKキナーゼ機能に関する適応症は、強直性脊椎炎自己免疫疾患、クローン病炎症性疾患、真性赤血球増加症、アトピー性皮膚炎、乾癬性関節炎、本態性血小板増加症、骨髄線維症及び癌などの疾患を含む。
【0023】
また、本発明は、JAKキナーゼ機能に関する適応症を予防及び/又は治療する医薬組成物であって、上述した前記一般式(I)で表される構造を有するピラゾロピリミジン誘導体、その薬学的に許容される塩、水和物、又は、任意形態の代謝による代謝産物を含む医薬組成物を別の技術案として提出する。
【0024】
上記技術案の実施により、本発明は、従来技術と比べると次のような利点を有する。
本発明が提供する化合物は、新規なピラゾロピリミジン誘導体であり、好ましい選択的JAKキナーゼ阻害剤であり、JAKキナーゼに作用することにより、免疫及び炎症反応等にある程度の薬物治療作用がある。
【0025】
用語の定義
別途の定義がない限り、本文に使用される全ての技術と科学の用語は、本発明が属する分野の一般当業者が通常に理解されるものと同義である。
【0026】
「異性体」という用語は、分子中の原子の空間的な配列方式の違いによる生じる異性体を意味する。シス/トランス異性体、鏡像異性体と、配座異性体とを含む。全ての立体異性体が本発明の範囲に属する。本発明の化合物は、単独な立体異性体でもよいしその他の異性体の混合、例えばラセミ体、あるいは、他の全ての立体異性体の混合であってもよい。
【0027】
「塩」という用語は、本発明の化合物と酸と形成するの薬学的に許容可能な塩を意味し、前記酸は、有機酸もしくは無機酸であってもよい、具体的には、リン酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸、マンデル酸、コハク酸、フマル酸、酢酸、乳酸、硝酸、スルホン酸、p-トルエンスルホン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸また
はその類似体から選択される。
【0028】
「溶媒和物」という用語は、溶媒分子と配位して固体又は液状の配位性化合物を形成する本発明化合物の形態をいう。水和物は、水と配位する溶媒和物の特殊な形態である。本発明の範囲内、溶媒和物は、水和物であることが好ましい。
【0029】
「結晶」という用語は、本発明に記載の化合物が形成する各種の固体形態を意味し、結晶型、アモルファスを含む。
【0030】
「炭化水素基」とは、直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和で主に炭素および水素からなる置換基を意味する。好ましくは、炭素数が1~20であり、より好ましくは、炭素数が1~12である。なお、「アルキル基」とう用語は、直鎖、分岐の飽和炭化水素基を意味する。アルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピ
ル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロヘキシル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、2,2-メチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、16-アルキル基、18-アルキル基を含む。「C1-20アルキル基」という用語は、炭素数1~20の直鎖、分岐の飽和炭化水素基を意味する。置換アルキル基とは、置換基で置換されたアルキル基である。アルキル基が置換されている場合、置換基は、任意の利用可能な連結点で置換されていてもよいが、置換基は、一置換でも多置換でもよい。置換基は独立してアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、重水素、ハロゲン、チオール、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、エステル基、シアノ基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルコキシ基、複素環式アルコキシ基、シクロアルキルチオ基、オキソから選択され、名前を付けるとき、置換基は通常、アルキル基の前に配置される。
【0031】
「シクロアルキル基」という用語は、飽和及び/または一部不飽和の単環又は多環式のシクロ炭化水素基を意味する。単環は、3~10個の炭素原子を含んでいてもよい。単環式シクロアルカン基の制限なしの例は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル、シクロペンテニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロヘプチル基等を含む。多環式シクロアルキル基は、スピロ、縮合環およびブリッジ環のシクロアルキル基を含む。シクロアルキル基は、無置換基および置換基を含む。置換基は、1又は複数の置換基から選ばれるものであり、独立してアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、アミド基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アリール基、ヘテロアリール基から選ばれるがこがこれらの基に限定されない。
【0032】
「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を意味し、好ましくはフッ素、塩素、臭素である。
【0033】
「ハロゲン化アルキル基」という用語は、少なくとも1つのハロゲン原子で置換されたアルキル基を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
本実施例は、式Ig化合物、式Ii化合物及び式Ip化合物の3種類の具体的なピラゾロピリミジン誘導体を提供する。
【0036】
式Ig化合物、式Ii化合物及び式Ip化合物の構造式をそれぞれ以下に示す。
【化14】
【0037】
以上の3つの化合物は、以下の合成経路により得られる。
【0038】
【0039】
化合物の調製方法は、具体的に、以下のステップを含む。
【0040】
1.化合物A‐1の合成:
-20℃にてDIPEA(63g,0.488mol,N,N-ジイソプロピルエチルアミン)のTHF(50mL)溶液を、SM(50g,0.324mol)と2-(クロロメトキシ)エチルトリメチルシラン(62g,0.39mol,SEMCl)のDMF(50mL)とTHF(200mL)の混合溶液中徐々に加え、-20℃で3時間撹拌した後、水を加えて急冷し、酢酸エチルで抽出し、有機相を乾燥、ろ過、濃縮して粗生成物を得て、石油エーテルと酢酸エチル(v/v=1/1)を溶離液として高速カラム精製により淡黄色油状物A‐1(45g,0.158mol,収率:32.6%)を得た。
【0041】
2.化合物A‐2の合成:
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを、化合物A‐1(45g,0.158mol)と、1-(1-エトキシエチル)-4-(4,4,5,5-テトラメチル-
1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(63g,0.237mol)と、炭酸カリウム(43.6g,0.316 mol)とのn-ブタノール(20
0mL)と水(200mL)の混合溶液に加え、アルゴンガスで4回置換して、反応液を100℃で一晩攪拌した後に、室温まで冷却し、濾過、抽出、乾燥、濃縮し、石油エーテルと酢酸エチル(v/v=2/1)を溶離液として高速カラム精製により黄色油状物A‐2(31g,0.1288mol,収率:81.5%)を得た。
【0042】
3.化合物A‐3の合成:
化合物A‐2(50g、0.1288mol)のテトラヒドロフラン(800mL)溶液と1.5N塩酸水溶液(100mL)との混合溶液を室温で一晩撹拌し、濃縮した後、濃縮液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に加え、一晩撹拌し、濾過、脱水ケーキ乾燥により白色固体A‐3(31g,0.098mol,収率:76%)を得た。
【0043】
4.化合物A‐4の合成:
化合物A‐3(31g,0.098mol)、1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(シアノメチレン)アゼチジン(29g,0.147mol)とDBU(30g,0.196mol)のアセトニトリル(500mL)混合液を、70℃で4時間撹拌した後、減圧濃縮し、石油エーテルと酢酸エチル(v/v=2/1)を溶離液として高速カラム精製により白色固体A‐4(40g,0.0784mol,収率:80%)を得た。
【0044】
5.化合物A合成:
化合物A‐4(31g,0.0784mol)の酢酸エチル(800mL,4N HCl)溶液を室温で一晩撹拌し、濃縮した後、濃縮液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に加え、一晩撹拌、ろ過し、脱水ケーキ乾燥により白色固体Aを得て、精製しなくでそのまま次のステップに供した。
【0045】
6.化合物B‐1の合成:
化合物A(前のステップの反応から)と、N-(TERT-ブトキシカルボニル)-4-ピペリドン(23.4g,1.176mol)とナトリウムトリアセチルボロヒドリド(42.3g,0.196mol)との1,2‐ジクロロエタン(500mL)溶液を室温で一晩撹拌した後、減圧濃縮し、石油エーテルと酢酸エチル(v/v=2/1)を溶離液として高速カラム精製により白色固体B‐1(30g,0.05059mol,収率:83%)を得た。
【0046】
7.化合物Bの合成:
化合物B‐1(30g,0.05059mol)のメタノール(600mL,4N HCl)溶液を室温で一晩撹拌し、濃縮した後、濃縮液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に加え、一晩撹拌、ろ過し、脱水ケーキ乾燥により白色固体B(22g,0.04462mmol,収率:88%)を得た。
【0047】
8.化合物Ii-1の合成:
化合物B(16g,0.03245mol)と、DIPEA(8.37g,0.0649mmol)と、HATU(18.5g,0.048675mmol,O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート)と、3-フルオロ-2-トリフルオロメチル-イソニコチン酸(8.8g,0.042185mmol)とのジクロロメタン(200mL)溶液を室温で一晩撹拌した後、減圧濃縮し、シリカカラム(酢酸エチルを展開溶媒とする)で精製して白色固体Ii‐1(8g,0.01169mol,収率:36%)を得た。
【0048】
9.化合物Iiの合成:
化合物Ii‐1(8g,0.01169mol)のジクロロメタン(50mL)とトリフルオロ酢酸(50mL)の混合溶液を室温で1時間撹拌し、減圧濃縮した後、メタノール(50mL)とアンモニア水(10mL)を加え、室温で2時間撹拌し、溶媒を取り除いて濃縮液を水に加え、ジクロロメタンで抽出、乾燥、濃縮し、シリカカラム精製により白色固体Ii(3.67g,収率:56.6%)を得た。
【0049】
10.化合物Ig‐1の合成:
0℃にて化合物B(14g,0.0284mol)とEt3N(5.7g,0.0568mmol)のジクロロメタン(200mL)溶液に、エタンスルホニルクロリドを徐々に滴下し、室温で一晩撹拌した後、減圧濃縮し、濃縮液を水に加え、ジクロロメタンで抽出、乾燥、濃縮後にシリカカラム(酢酸エチルを展開溶剤とする)で精製して白色固体Ig‐1(15g,0.02564mol,収率:90.3%)を得た。
【0050】
11.化合物Igの合成:
化合物Ig‐1(15g,0.02564mol)のジクロロメタン(100mL)とトリフルオロ酢酸(100mL)との混合溶液を室温で1時間撹拌した後、減圧濃縮し、メタノール(100mL)とアンモニア水(20mL)を加え、室温で2時間撹拌し、溶媒を取り除いて濃縮液を水に加え、ジクロロメタンで抽出、乾燥、ジクロロメタン/メタノール=10/1を展開溶剤として精製して白色固体Ig(10.3g,0.022637 mol,収率:88.3%)を得た。
【0051】
12.化合物Ip‐1の合成:
0℃でにて化合物A(16g,0.039mol)とEt3N(7.9g,0.078mmol)とのジクロロメタン(200mL)溶液にエタンスルホニルクロリド(7.5
g, 0.0585 mmol)を徐々に滴下し、室温で一晩撹拌した後、減圧濃縮し、濃縮液を水に加え、ジクロロメタンで抽出、乾燥、濃縮後シリカカラム(酢酸エチルを展開溶剤とする)により精製して白色固体Ip‐1(17g,0.03386mol,収率:86.8%。)を得た。
【0052】
13.化合物Ipの合成:
化合物Ip‐1(17g,0.03386mol)のジクロロメタン(100mL)とトリフルオロ酢酸(100mL)の混合溶液を室温で1時間撹拌した後に減圧濃縮した後、メタノール(100mL)とアンモニア水(20mL)を加え、室温で2時間撹拌し、溶媒を取り除いて濃縮液を水に加え、ジクロロメタンで抽出、乾燥、濃縮後にシリカカラム(ジクロロメタン/メタノール=10/1を展開溶剤とする)により精製して白色固体Ip(9.2g、0.02473mol、収率:73%)を得た。
【0053】
得られた目的産物Iiについて、水素核磁気共鳴1H‐NMR及び質量分析を行った結果は以下の通りであった。
1H-NMR(500MHz)(DMSO-d6):δppm 14.09(s,1H),8.99(s,1H),8.87-8.85(d,2H),8.68-8.66(d,1H),8.55(s,1H),7.91(s,1H),4.10-4.07(d,1H),3.78-3.86(d,2H),3.61-3.57(t,4H),3.46-3.42(d,1H),3.30-3.27(d,1H),3.08-3.04(t,1H),2.51(s,1H),1.77-1.64(d,2H),1.31-1.23(d,2H);LCMS[M+H]+=555.2.
【0054】
得られた目的産物Igについて、水素核磁気共鳴1H‐NMR及び質量分析を行った結果、以下の通りであった。
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δppm 9.00(s,1H),8.88(d,J=9.2Hz,2H),8.57(s,1H),3.76(d,J=8.0Hz,2H),3.60-3.57(m,4H),3.48-3.44(m,2H),3.06-3.00(m,2H),2.42(m,1H),1.75-1.72(m,2H),1.30-1.26(m,2H),1.20(t,J=7.6Hz,3H);LC-MS(ESI,m/z):456[M+l]+.
【0055】
得られた目的産物Ipについて、水素核磁気共鳴1H‐NMR及び質量分析を行った結果、以下の通りであった。
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δppm 9.11(s,1H),8.89(d,J=9.2Hz,2H),8.62(s,1H),4.62(d,J=9.6Hz,2H),4.26(d,J=9.2Hz,2H),3.71(s,2H),3.28-3.22(q,2H),1.25(t,J=7.6Hz,3H);LC-MS(ESI,m/z):373[M+l]+.
【0056】
実施例2 薬効などの試験
一、化合物の酵素活性試験:
1、試験方法
化合物の半数阻害濃度IC50(酵素活性を50%まで抑制しようとする際に必要な化合物の濃度)は、規定の酵素と特定の基質及び異なる濃度の被測化合物とを混合することで測定したものである。用いた測定方法は、Caliper Mobility Shift Assayであり、測定されたキナーゼはJAK1、JAK2、JAK3及びTYK2であり、適用した標準参照化合物はスタウロスポリン(staurosporine)である。
【0057】
2、試験結果
表1に化合物の酵素活性阻害実験の結果をまとめた。結果に示すように、目的化合物(Ig、Ii、Ip)は、JAK1、JAK2キナーゼに対して比較的に強い阻害作用を持つとともに、目的化合物(Ig、Ii、Ip)のJAK3、TYK2に対する阻害活性が弱く、優れた選択性を有する。このような選択性を持つ阻害作用は、関節リウマチ、真性赤血球増加症、乾癬病、本態性血小板増加症、骨髄線維症等の疾患の治療に重要な治療意義を有する。
【0058】
【0059】
二、薬物動態学実験
1、実験方法:
実験動物: マウス、雄性と雌性、体重:23‐25g;
供試品調製:目的化合物(Ig、Ii、Ip)を0.4mg/mL(静脈投与用)と1.0mg/mL(経口投与用)に調製し、使用待ち。投与経路:経口・静脈内投与投与量及び頻度:5mL/kg(静脈内投与)又は10mL/kg(経口投与)、1回投与。
サンプル採取:投与後5min、15min、30min、1hr、2hr、4hr、8hr、及び24hrの時点で採血して血液を採取する。
【0060】
2、サンプル分析及び結果
サンプル分析:LC‐MS/MS法を用いて採取サンプルに対して検出。使用した機器型番はTriple Quad 6500+。
【0061】
薬物動態学データ分析:WinNolinを用いて、ノンコンパートメント解析に従って得られた血漿中濃度データをフィッティング及び計算し、一部の結果を表2にまとめた。
【0062】
【0063】
試験結果は、本発明に係る化合物が良好な薬物動態学の特徴を有していることを示している。
【0064】
以上の実施例は代表的なものである。上記実施例から分かるように、本発明の化合物は、好ましい高効率JAKキナーゼ阻害剤であり、関節リウマチ、真性赤血球増加症、乾癬病、本態性血小板増加症、骨髄線維症等の疾患の治療または予防に用いられて非常に良好な効果を得ることを期待でき、また、異なる種類の薬学的に許容される塩を組み合わせて経口投与剤(錠剤やカプセル等)とすることもできる。本発明化合物からなる錠剤又はカ
プセルは、1日あたり1回または複数回に服用可能である。また、本発明の化合物は、他の薬物と結合して複合製剤とすることもできる。
【0065】
上記実施例は、本発明の技術的思想及び特徴を説明するためのものであり、その目的は、この技術を知る者人に本発明の内容を理解させ、それに応じて本発明を実施させることであり、実施例によって本発明の保護範囲を限定することができない。本発明の旨による同等な変化や修飾は、いずれも本発明の保護範囲内に属する。