(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20220603BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01G4/30 201B
H01G4/30 311E
H01G4/30 516
H01G4/30 517
(21)【出願番号】P 2016095760
(22)【出願日】2016-05-12
【審査請求日】2019-02-12
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100092071
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】土井 章孝
(72)【発明者】
【氏名】笹林 武久
(72)【発明者】
【氏名】緒方 直明
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】恩田 春香
【審判官】辻本 泰隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/157293(WO,A1)
【文献】特開2009-170242(JP,A)
【文献】特開平8-264369(JP,A)
【文献】特開2001-76964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B1/22
H01B4/12
H01B4/232
H01B4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未焼成の積層体に導電性ペーストを塗布することによって形成される電子部品の製造方法であって、
ハンセン溶解度パラメータの水素結合項δhが9以上11以下であるバインダを含むセラミックグリーンシートと内部電極用の電極材料層とが積層された、未焼成の積層体を準備する工程と、
前記未焼成の積層体
を前記導電性ペーストに浸漬して、前記導電性ペーストを塗布する工程と
を備え、
前記導電性ペーストは、導電性粒子および溶剤を含み、
前記溶剤のハンセン溶解度パラメータの水素結合項δhが15以上、かつ分極項δpが7以上であり、
前記溶剤のハンセン溶解度パラメータのSP値が24以上39以下であり、
前記溶剤は、グリコール系溶剤を含み、
前記導電性ペーストの粘度は、せん断速度が10(1/sec)かつ25℃の条件下で30(Pa・s)以上70(Pa・s)以下であり、
前記導電性粒子は、Ni、Cu、Ag、Pd、AgとPdの合金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記導電性ペーストを塗布する工程の前に、前記未焼成の積層体の表面に撥油処理を施す工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記導電性ペーストを塗布する工程の後に、前記導電性ペーストを塗布した未焼成の積層体を焼成する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造方法に関するものであり、詳しくは、導電性粒子および溶剤を有する導電性ペーストを用いた電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体層と内部電極とを積層した積層体に、導電性ペーストを塗布して焼き付ける工程を経て形成された外部電極を有する積層セラミックコンデンサなどの電子部品が知られている。そのような電子部品として、特許文献1には、積層体の対向する長辺側に一対の外部電極を形成したコンデンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、外部電極を形成するために、積層体を導電性ペーストに浸漬した際に、表面張力によって、意図しない領域にまで導電性ペーストが濡れ上がる場合がある。この導電性ペーストの濡れ上がりによって、形成された一対の外部電極間の距離が短くなり、マイグレーションが生じて絶縁抵抗が低下する可能性がある。また、導電性ペーストに用いられる材料によっては、セラミックグリーンシートを積層してなる積層体に導電性ペーストを塗布したときに、セラミックグリーンシートがダメージを受ける、いわゆるシートアタックが発生する場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、余計な濡れ上がりおよびシートアタックの発生を抑制することができる導電性ペーストを塗布して焼き付ける工程を得て形成される外部電極を備えた電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電子部品の製造方法は、
未焼成の積層体に導電性ペーストを塗布することによって形成される電子部品の製造方法であって、
ハンセン溶解度パラメータの水素結合項δhが9以上11以下であるバインダを含むセラミックグリーンシートと内部電極用の電極材料層とが積層された、未焼成の積層体を準備する工程と、
前記未焼成の積層体を前記導電性ペーストに浸漬して、前記導電性ペーストを塗布する工程と
を備え、
前記導電性ペーストは、導電性粒子および溶剤を含み、
前記溶剤のハンセン溶解度パラメータの水素結合項δhが15以上、かつ分極項δpが7以上であり、
前記溶剤のハンセン溶解度パラメータのSP値が24以上39以下であり、
前記溶剤は、グリコール系溶剤を含み、
前記導電性ペーストの粘度は、せん断速度が10(1/sec)かつ25℃の条件下で30(Pa・s)以上70(Pa・s)以下であり、
前記導電性粒子は、Ni、Cu、Ag、Pd、AgとPdの合金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0011】
前記導電性ペーストを塗布する工程の前に、前記未焼成の積層体の表面に撥油処理を施す工程をさらに備えるようにしてもよい。
【0012】
また、前記導電性ペーストを塗布する工程の後に、前記導電性ペーストを塗布した未焼成の積層体を焼成する工程をさらに備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電子部品の製造方法によれば、ハンセン溶解度パラメータの水素結合項δhが9以上11以下であるバインダを含む未焼成の積層体に、上述した導電性ペーストを塗布する工程を経て電子部品を形成するので、導電性ペーストの濡れ上がりおよびシートアタックの発生を抑制して、外部電極間の短絡や積層体のダメージなどのない信頼性の高い電子部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施の形態における積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】
図1に示す積層セラミックコンデンサのII-II線に沿った断面図である。
【
図3】
図1に示す積層セラミックコンデンサのIII-III線に沿った断面図である。
【
図4】積層セラミックコンデンサの製造方法の処理順序を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに具体的に説明する。
【0017】
以下では、本発明に用いられる導電性ペースト、および、その導電性ペーストを用いて形成される外部電極を備えた電子部品の製造方法の一実施の形態について説明する。
【0018】
なお、この実施形態では、本発明に用いられる導電性ペーストを塗布して焼き付けることにより形成される外部電極を備えた電子部品として、積層セラミックコンデンサを例に挙げて説明する。
【0019】
図1は、一実施の形態における積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、
図1に示す積層セラミックコンデンサ10のII-II線に沿った断面図である。
図3は、
図1に示す積層セラミックコンデンサ10のIII-III線に沿った断面図である。
【0020】
図1~
図3に示すように、積層セラミックコンデンサ10は、全体として直方体形状を有する電子部品であり、積層体11と一対の外部電極14とを有している。
【0021】
図2および
図3に示すように、積層体11は、交互に積層された誘電体層12と、後述するように、積層体11の第1の端面15a側に延びる第1の内部電極13aおよび第2の端面15b側に延びる第2の内部電極13bとを備える。すなわち、複数の誘電体層12と複数の内部電極13a,13bが交互に積層されて、積層体11が形成されている。
【0022】
ここでは、一対の外部電極14が並ぶ方向を積層セラミックコンデンサ10の長さ方向と定義し、誘電体層12と内部電極13(13a,13b)の積層方向を厚み方向と定義し、長さ方向および厚み方向のいずれの方向にも直交する方向を幅方向と定義する。
【0023】
積層体11は、上述のように、長さ方向に相対する第1の端面15aおよび第2の端面15bとを有しているとともに、厚み方向に相対する第1の主面16aおよび第2の主面16bと、幅方向に相対する第1の側面17aおよび第2の側面17bとを有する。
【0024】
積層体11は、角部および稜線部に丸みを帯びていることが好ましい。ここで、角部は、積層体11の3面が交わる部分であり、稜線部は、積層体11の2面が交わる部分である。
【0025】
この実施形態では、積層体11の第1の端面15aと第2の端面15bとを結ぶ方向の寸法である長さLは0.1mm~2.0mm、第1の側面17aと第2の側面17bとを結ぶ方向の寸法である幅Wは0.1mm~2.0mm、積層体11の積層方向の寸法である厚みTは0.05mm~0.3mmである。積層体11の寸法が前述した大きさに限定されることはないが、積層体11の厚みTは0.3mm以下、幅Wは0.1mm以上であることが好ましい。積層体11の寸法は、光学顕微鏡で測定することができる。
【0026】
なお、積層体11のサイズは、積層セラミックコンデンサ10のサイズと略同じである。従って、本明細書で説明されている積層体11のサイズは、積層セラミックコンデンサ10のサイズと言い換えることが可能である。
【0027】
後述するように、内部電極13(13a,13b)は、積層方向に対向する部分である対向電極部を有する。積層体11のうち、内部電極13の対向電極部と第1の側面17aとの間、および内部電極13の対向電極部と第2の側面17bとの間に位置する側部の幅W方向の寸法、すなわち、サイドギャップAは、0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましい。また、積層体11のうち、内部電極13の対向電極部と第1の端面15aとの間、および内部電極13の対向電極部と第2の端面15bとの間の長さL方向の寸法は、0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましい。
【0028】
積層方向最外層となる内部電極13と、積層体11の第1の主面16aおよび第2の主面16bとの間に位置する誘電体層である外層部12aの厚みCは、5μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0029】
一対の内部電極13a,13bに挟まれた各誘電体層12の厚みは、0.4μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0030】
誘電体層12の枚数は5枚以上200枚以下であることが好ましい。
【0031】
誘電体層12の材料としては、例えば、BaTiO3、CaTiO3、SrTiO3、またはCaZrO3などの主成分を含む誘電体セラミックを用いることができる。また、これらの成分に、Mn化合物、Fe化合物、Cr化合物、Co化合物、Ni化合物などの、主成分よりも含有量の少ない副成分を添加したものを用いてもよい。
【0032】
積層体11は、上述のように、第1の端面15a側に延びる第1の内部電極13aと、第2の端面15b側に延びる第2の内部電極13bとを備える。第1の内部電極13aは、第2の内部電極13bと対向する部分である対向電極部と、対向電極部から積層体11の第1の端面15aまでの間の部分である引出電極部とを備えている。また、第2の内部電極13bは、第1の内部電極13aと対向する部分である対向電極部と、対向電極部から積層体11の第2の端面15bまでの間の部分である引出電極部とを備えている。第1の内部電極13aの対向電極部と、第2の内部電極13bの対向電極部とが誘電体層12を介して対向することにより容量が形成され、これにより、コンデンサとして機能する。
【0033】
第1の内部電極13aおよび第2の内部電極13bは、例えば、Ni、Cu、Ag、Pd、AgとPdの合金、およびAuなどの金属を含有している。第1の内部電極13aおよび第2の内部電極13bは、さらに誘電体層12に含まれるセラミックと同一組成系の誘電体粒子を含んでいてもよい。
【0034】
内部電極13の枚数は5枚以上200枚以下であることが好ましい。また、第1の内部電極13aの厚みおよび第2の内部電極13bの厚みは、0.3μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
【0035】
また、内部電極13が誘電体層12を覆っている割合であるカバレッジは、70%以上であることが好ましい。
【0036】
ここで、複数の誘電体層12の各々の厚み、および、複数の内部電極13の各々の厚みは、以下の方法で測定することができる。以下では、誘電体層12の厚みを測定する方法について説明するが、内部電極13の厚みを測定する方法についても同じである。
【0037】
まず、研磨により露出させた積層体11の長さ方向に直交する断面を走査型電子顕微鏡にて観察する。次に、積層体11の断面の中心を通る厚み方向に沿った中心線、および、この中心線から両側に等間隔に2本ずつ引いた線の合計5本の線上において、誘電体層12の厚みを測定する。この5つの測定値の平均値を、誘電体層12の厚みとする。
【0038】
なお、より正確に求めるためには、厚み方向において、積層体11を上部、中央部、および、下部に分けて、上部、中央部、および、下部のそれぞれにおいて、上述した5つの測定値を求め、求めた全ての測定値の平均値を、誘電体層12の厚みとする。
【0039】
外部電極14は、積層体11の端面15aおよび15bの全体と、主面16aおよび16b、および側面17aおよび17bの端面15aおよび15b側の一部の領域とを覆うように形成されている。
【0040】
外部電極14は、下地電極層と、下地電極層上に配置されためっき層とを備える。
【0041】
下地電極層は、焼付け電極層からなる。焼付け電極層は、金属を含む層であり、1層であってもよいし、複数層であってもよい。焼付け電極層に含まれる金属には、例えば、Ni、Cu、Ag、Pd、およびAgとPdの合金などのうちの少なくとも1つが含まれる。焼付け電極層の最も厚い部分の厚みは、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0042】
焼付け電極層は、導電性ペーストを積層体11に塗布して焼き付けることによって形成される。この導電性ペーストの詳細については後述する。コファイア法により、導電性ペーストの焼き付けと内部電極13の焼成とを同時に行うため、焼付け電極層には、誘電体粒子が含まれる。
【0043】
下地電極層上に配置されるめっき層は、例えば、Cuを含む。めっき層は、1層であってもよいし、複数層であってもよい。めっき層の一層あたりの厚みは、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0044】
焼付け電極層を形成するために用いられる導電性ペーストは、導電性粒子および溶剤を含む。この溶剤には、グリコール系溶剤が含まれる。ただし、溶剤は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、またはそれらの混合溶剤であってもよい。
【0045】
導電性ペーストに含まれる溶剤のハンセン溶解度パラメータのSP値δは24以上39以下であり、ハンセン溶解度パラメータの水素結合項δh、分極項δp、および分散項δdはそれぞれ以下の通りである。
δh:15~28
δp:7~20
δd:17~19
【0046】
なお、溶解度パラメータは、ガスクロマトグラフィ、またはガスクロマトグラフィ質量分析計により、導電性ペースト中の溶剤組成を分析し、溶剤の比率と溶剤の分子量から特定することができる。
【0047】
導電性ペーストの粘度は、せん断速度が10(1/sec)および25℃の条件下で、30(Pa・s)以上70(Pa・s)以下であることが好ましい。なお、この粘度は回転式粘度計により測定している。
【0048】
導電性ペーストに含まれる導電性粒子には、例えば、Ni、Cu、Ag、Pd、およびAgとPdの合金のうちのいずれかが含まれ、その粒径は0.05μm~0.5μmである。
【0049】
また、上述したように、焼付け電極層には誘電体粒子が含まれるが、この誘電体粒子は、例えばBaTiO3からなり、その粒径は0.01μm~0.2μmである。
【0050】
導電性粒子と誘電体粒子との和に対する誘電体粒子の重量比率は、10~50wt%である。
【0051】
導電性ペーストには、バインダが含まれている。このバインダとして、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、またはポリビニルアルコールを用いることが好ましい。バインダのハンセン溶解度パラメータの水素結合項δhは、15以上であり、特に16以上25以下が好ましい。
【0052】
ここで、外部電極14用の導電性ペーストに含まれる溶剤のハンセン溶解度パラメータの水素結合項をδh、分極項をδp、分散項をδdとし、セラミックグリーンシートに含まれるバインダのハンセン溶解度パラメータの水素結合項をδh’、分極項をδp’、分散項をδd’とする。本実施形態では、外部電極14用の導電性ペーストに含まれる溶剤のハンセン溶解度パラメータのSP値δと、セラミックグリーンシートに含まれるバインダのハンセン溶解度パラメータのSP値δ’との差Δδは5以上である。Δδは、次式(1)により算出することができる。
Δδ=√{(δd’-δd)2+(δp’-δp)2+(δh’-δh)2} …(1)
【0053】
[導電性ペーストの製造方法]
まず、固形成分として、金属粉末、セラミック粉末、分散剤、および溶剤を混合することによって第1ミルベースを得て、これを玉石とともに容積1Lの樹脂ポット中で調合した。この調合済みポットを一定の回転速度で12時間回転させることによってポットミル分散処理を行い、第1スラリーを得た。
【0054】
次に、上記ポット中に、バインダと溶剤とを予め混合しておいた有機ビヒクルを添加することによって、第2ミルベースを得て、さらに一定速度で12時間回転させることによってポットミル分散処理を行い、第2スラリーを得た。
【0055】
そして、第2スラリーを加温した状態で目開きが5μmのメンブレン式フィルタを用いて、圧力1.5kg/cm2の加圧濾過を行って、導電性ペーストを得た。
【0056】
[積層セラミックコンデンサの製造方法]
図4を参照しながら、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について説明する。
【0057】
ステップS1では、誘電体層12を形成するためのセラミックグリーンシート、および内部電極13用の電極材料層を形成するための導電性ペーストを準備する。セラミックグリーンシートは、既知の方法により形成することができる。セラミックグリーンシートには、バインダおよび溶剤が含まれる。セラミックグリーンシートに含まれるバインダは、ポリビニルブチラール系樹脂またはエチルセルロース系樹脂であることが好ましく、セラミックグリーンシートに含まれるバインダのハンセン溶解度パラメータの水素結合項δhは、9以上11以下であることが好ましい。
【0058】
ステップS2では、セラミックグリーンシート上に、例えば、スクリーン印刷やグラビア印刷などにより、所定のパターンで内部電極13用の導電性ペーストを印刷し、内部電極パターンを形成する。
【0059】
ステップS3では、内部電極パターンが形成されていない外層用のセラミックグリーンシートを所定枚数積層し、その上に内部電極パターンが印刷されたセラミックグリーンシートを順次積層し、さらにその上に外層用のセラミックグリーンシートを所定枚数積層することによって、積層シートを作製する。
【0060】
ステップS4では、作製した積層シートを静水圧プレスなどの手段によって積層方向にプレスして、積層ブロックを作製する。
【0061】
ステップS5では、作製した積層ブロックを所定のサイズにカットして、未焼成の積層体である積層チップを切り出す。このとき、バレル研磨などにより積層チップの角部および稜線部に丸みをつけてもよい。
【0062】
また、後の工程で積層チップに導電性ペーストを塗布したときの導電性ペーストの濡れ上がりを抑制するために、切り出した積層チップの表面に撥油処理を施すようにしてもよい。例えば、積層チップの表面に撥油剤を塗布してコーティングする方法などによって、撥油処理を行う。
【0063】
ステップS6では、積層チップの外部電極14を形成する領域を、上述した外部電極14用の導電性ペーストに浸漬して、導電性ペーストを塗布する。
【0064】
上述したように、外部電極14用の導電性ペーストに含まれる溶剤のハンセン溶解度パラメータのSP値δと、セラミックグリーンシートに含まれるバインダのハンセン溶解度パラメータのSP値δ’との差Δδは5以上であるので、導電性ペーストに含まれる溶剤は、セラミックグリーンシートに含まれるバインダを溶解しない。
【0065】
また、外部電極14用の導電性ペーストに含まれる溶剤のハンセン溶解度パラメータの水素結合項δhは15以上であるので、セラミックグリーンシートに対する導電性ペーストの表面張力は高くなり、接触角を78度以上とすることができる。これにより、導電性ペーストの余計な濡れ上がりを防止することができる。
【0066】
ステップS7では、導電性ペーストを塗布した積層チップを焼成し、積層体を作製する。ここでは、セラミックグリーンシートの焼成と外部電極14用の導電性ペーストの焼成とを同時に行う。焼成温度は、誘電体層12や内部電極13を形成する材料にもよるが、1000℃~1200℃であることが好ましい。
【0067】
ステップS8では、作製した積層体に、外部電極14のめっき層となるCuめっきを施す。これにより、積層セラミックコンデンサ10が得られる。
[実験例]
【0068】
セラミックグリーンシートに、異なる種類の溶剤を含む導電性ペーストを用いて外部電極を形成した複数の試料、ここでは積層セラミックコンデンサについて、導電性ペーストの濡れ上がりによる形状不良品の選別を行い、形状不良率を調べた。ここでは、積層体の端面上に形成された外部電極の端縁同士を結んだ仮想線を主面側に引き、主面側に形成された外部電極がその仮想線よりはみ出した量が35μm以上である場合を形状不良と判断した。また、焼成前の積層チップに対するシートアタックの有無、すなわち、導電性ペーストをセラミックグリーンシートに塗布したときに、セラミックグリーンシートへの溶剤の侵食性の有無についても調べた。侵食性については、最外層に配置されたセラミックグリーンシートを目視確認することで侵食の有無を確認した。
【0069】
表1に、試料番号1~8の特性測定用の試料の特性を示す。表1では、導電性ペーストに含まれる溶剤の種類、溶剤のハンセン溶解度パラメータの分散項δd、分極項δp、水素結合項δh、SP値δ、溶剤のハンセン溶解度パラメータのSP値と、セラミックグリーンシートに含まれるバインダのハンセン溶解度パラメータのSP値との差Δδ、導電性ペーストの接触角、導電性ペーストの粘度、試料の形状不良率、シートアタックの発生の有無を示している。ただし、表1において、試料番号に*を付した試料は、「溶剤のハンセン溶解度パラメータの水素結合項δhが15以上、かつ分極項δpが7以上であり、溶剤のハンセン溶解度パラメータのSP値δが24以上39以下である」という本発明の要件を満たさない試料であり、*を付していない試料は、本発明の要件を満たす試料である。
【0070】
【0071】
試料番号1の試料は、導電性ペーストに含まれる溶剤として、エチレングリコールを用いたものである。導電性ペーストの粘度は、65(Pa・s)である。
【0072】
試料番号2の試料は、導電性ペーストに含まれる溶剤として、プロピレングリコールを用いたものである。導電性ペーストの粘度は、54(Pa・s)である。
【0073】
試料番号3の試料は、導電性ペーストに含まれる溶剤として、1,3ブチレングリコールを用いたものである。導電性ペーストの粘度は、57(Pa・s)である。
【0074】
試料番号4の試料は、導電性ペーストに含まれる溶剤として、エチレングリコールとターピネオールとの混合比が1:3の混合溶剤を用いたものである。導電性ペーストの粘度は、52(Pa・s)である。
【0075】
試料番号5の試料は、導電性ペーストに含まれる溶剤として、エチレングリコールとターピネオールとの混合比が1:3の混合溶剤を用いたものである。導電性ペーストの粘度は、30(Pa・s)である。
【0076】
試料番号6の試料は、導電性ペーストに含まれる溶剤として、エチレングリコールとターピネオールとの混合比が1:3の混合溶剤を用いたものである。導電性ペーストの粘度は、25(Pa・s)である。
【0077】
試料番号7の試料は、導電性ペーストに含まれる溶剤として、ターピネオールを用いたものである。導電性ペーストの粘度は、45(Pa・s)である。
【0078】
試料番号8の試料は、導電性ペーストに含まれる溶剤として、ジヒドロターピネオールを用いたものである。導電性ペーストの粘度は、40(Pa・s)である。
【0079】
本発明の要件を満たす試料番号1~6の試料はいずれも、焼成前の積層チップに対するシートアタックは発生しなかった。また、試料番号1~5の試料はいずれも、セラミックグリーンシートに対する導電性ペーストの接触角が78度以上であり、導電性ペーストの濡れ上がりによる形状不良品の発生率である不良率は、低い数値となった。特に、導電性ペーストの粘度が30以上である試料番号1~5の試料は全て、形状不良品の不良率が10%未満となった。
【0080】
一方、本発明の要件を満たしていない試料番号7の試料は、形状不良品の不良率は比較的低い数値を示したが、溶剤のハンセン溶解度パラメータのSP値と、セラミックグリーンシートに含まれるバインダのハンセン溶解度パラメータのSP値との差Δδが小さく、焼成前の積層チップに対するシートアタックが発生した。また、本発明の要件を満たしていない試料番号8の試料は、形状不良品の不良率が17.5%と高い数値となり、また、焼成前の積層チップに対するシートアタックも発生した。
【0081】
本発明は、上述した実施の形態に限定されることはない。例えば、上述した実施の形態では、導電性ペーストを用いて形成した外部電極を備える電子部品として、積層セラミックコンデンサを例に挙げたが、本発明に用いられる導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサ以外の電子部品に適用することができるし、電子部品以外のものに適用することもできる。
【符号の説明】
【0082】
10 積層セラミックコンデンサ
11 積層体
12 誘電体層
12a 外層部である誘電体層
13(13a,13b) 内部電極
14 外部電極
L 積層体(積層セラミックコンデンサ)の長さ
T 積層体(積層セラミックコンデンサ)の厚み
W 積層体(積層セラミックコンデンサ)の幅