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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/00 20060101AFI20220603BHJP
【FI】
B25J19/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017241615
(22)【出願日】2017-12-18
(65)【公開番号】P2019107726
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏克
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 淳
(72)【発明者】
【氏名】猪股 徹也
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-148433(JP,A)
【文献】特開2015-202523(JP,A)
【文献】特開2014-079827(JP,A)
【文献】特開2010-231575(JP,A)
【文献】特開2001-242922(JP,A)
【文献】特開平09-047990(JP,A)
【文献】特開2007-164577(JP,A)
【文献】特開2016-137526(JP,A)
【文献】特開2013-056378(JP,A)
【文献】特開2012-011494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
G05B 19/18 - 19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットコントローラと、マニピュレータであるロボット本体と付属品とを含み前記ロボットコントローラによる制御の対象である対象ロボットと、を有するロボットシステムであって、
前記対象ロボットは、軸ごとに設けられたモータと、軸ごとに設けられて当該軸の前記モータの回転位置を検出するエンコーダと、当該対象ロボットを識別する個体識別データと当該対象ロボットに固有の個体差パラメータとを含む装置固有データを格納する第1記憶部と、を備え、
前記第1記憶部は、前記ロボット本体と前記付属品との各々において前記エンコーダごとに設けられており、
前記ロボットコントローラは、当該ロボットコントローラに接続する対象ロボットの前記個体識別データ及び前記個体差パラメータを格納する第2記憶部と、同一機種の対象ロボットに共通の機種構成情報と前記第2記憶部に格納された前記個体差パラメータとに基づいて前記対象ロボットを制御する制御部と、を備え
なくとも前記ロボット本体と前記付属品とを区別するロボットタスク番号が前記装置固有データに含まれ、前記第1記憶部は前記ロボットタスク番号が記憶されるフィールドを備え、
前記個体識別データは、前記ロボット本体と前記付属品との各々を個体として識別するデータであり、
前記制御部は、前記第1記憶部から読み込んだ前記装置固有データにおいて、前記ロボットタスク番号が同じである軸の前記装置固有データにおいて前記個体識別データが同一かどうか判定し、同一でなければ動作終了させ、同一であれば前記第1記憶部から読込まれる前記個体識別データと前記第2記憶部に格納された前記個体識別データとを照合し、照合結果に応じて前記第1記憶部から読込んだ前記個体差パラメータによって前記第2記憶部に格納されている前記個体差パラメータを更新し、前記付属品についてのみ前記第1記憶部から読込んだ前記個体識別データと前記第2記憶部に格納されている前記個体識別データとが異なるときに、前記付属品が交換されたと判断して前記第2記憶部において前記付属品についての前記個体差パラメータのみを更新する、ロボットシステム。
【請求項2】
前記装置固有データは、前記対象ロボットの機種を示す情報を含み、前記制御部は、前記装置固有データにおける前記機種を示す情報が前記ロボットコントローラが対象とする機種と適合しない場合には、前記ロボットシステムを起動不可とする、請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記装置固有データは、前記対象ロボットの構成に関する情報を含み、前記制御部は、前記装置固有データにおける前記構成に関する情報が前記ロボットコントローラが対象とする機種の対象ロボットの構成と適合しない場合には、前記ロボットシステムを起動不可とする、請求項1または2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記個体差パラメータは、原点位置に対するオフセット値である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの本体であるマニピュレータとこのマニピュレータを制御するロボットコントローラとを備えるロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットシステムは、一般に、相互に連結されたアームやハンドとそれらの連結部を駆動するモータとからなるマニピュレータすなわちロボット本体と、マニピュレータを制御するロボットコントローラとから構成されている。マニピュレータ内の各モータの回転をロボットコントローラによって制御するために、モータにはその回転位置を検出するエンコーダが取り付けられており、エンコーダで取得した回転位置情報はロボットコントローラに随時送信される。場合によっては、ロボットシステムには、マニピュレータによる処理の対象となるワークの姿勢を変更するアライナーなどの付属品が設けられることがある。付属品もロボットコントローラによる制御の対象となる。
【0003】
ロボット本体であるマニピュレータでは、その機種ごとに、アームやハンドの数や寸法、それらの接続関係、搭載されるモータの仕様など異なっている。そのため、ロボットの機種ごとにロボットコントローラが用意されることになる。さらに同一機種のロボットであってもマニピュレータごとにどうしても個体差があり、ロボットコントローラによって制御するときは個体差に応じた制御を行なう必要がある。個体差の例として、原点位置に対するオフセット値がある。マニピュレータにはその動作の基準となる姿勢である原点位置が定められているが、原点位置となるときにモータごとのエンコーダが示す回転位置データは、モータやエンコーダの取り付け上のばらつきなどにより、マニピュレータの個体ごとに異なる値となってしまう。モータを有する付属品についても同様である。そこでロボットの組み立て完了時などに個体差を実測し、その後、ロボットコントローラの記憶部に格納される。このため、同じ機種のマニピュレータを対象とするロボットコントローラであっても、同一機種のマニピュレータを交換して接続することが容易にはできない。
【0004】
ロボットコントローラに接続されるロボット本体を交換することを可能にする試みとして、特許文献1は、ロボット本体内の内蔵ボードを取り替えたときであってもロボットコントローラによって制御可能なロボットシステムが開示している。特許文献2は、ロボット機構部あるいは機構ユニットの交換後に諸データ変更の作業を自動化するために、交換を検出したらロボット機構部あるいは機構ユニットから読込んだデータによってロボットコントローラ内のデータを書き換えることを開示している。特許文献3は、ロボットに設けられるセンサー類に関する情報に関し、ロボット本体の交換後にロボット本体からロボットコントローラに読込むことを開示している。特許文献4は、これまで使用していたロボットコントローラから新たなロボットコントローラへのロボット動作用データの移行を適切かつ簡便に行うために、交換用のメモリを使用することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-242922号公報
【文献】特開2004-148433号公報
【文献】特開2016-137526号公報
【文献】特開2013-56378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ある機種のロボット本体に接続されるロボットコントローラをその機種用の他のロボットコントローラに交換する、あるいはロボットコントローラに接続されるロボット本体を同一機種の範囲内で交換することは、同一機種内でロボット本体とロボットコンローラとの組み合わせを変更することに他ならない。ロボットコントローラに接続されるロボット本体の変更を可能にする特許文献1~4に開示される技術は、同一機種内でロボット本体とロボットコンローラとの組み合わせを変更するという観点からすると、必ずしも最適化された技術であるとは言えない。特許文献4に示す技術では、ロボットコントローラの変更の際に結局は個体差に関するパラメータをバックアップする必要があり、手順として煩雑なものとなる。
【0007】
本発明の目的は、ロボット本体に対してロボットコントローラや付属品を交換して接続することが容易であり、かつ、ロボット本体や付属品側に保持するデータを最小限のものとすることができるロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のロボットシステムは、ロボットコントローラと、マニピュレータであるロボット本体と付属品とを含みロボットコントローラによる制御の対象である対象ロボットと、を有するロボットシステムであって、対象ロボットは、軸ごとに設けられたモータと、軸ごとに当該軸のモータの回転位置を検出するエンコーダと、その対象ロボットを識別する個体識別データとその対象ロボットに固有の個体差パラメータとを含む装置固有データを格納する第1記憶部と、を備え、第1記憶部は、ロボット本体と付属品との各々においてエンコーダごとに設けられており、ロボットコントローラは、そのロボットコントローラに接続する対象ロボットの個体識別データ及び個体差パラメータを格納する第2記憶部と、同一機種の対象ロボットに共通の機種構成情報と第2記憶部に格納された個体差パラメータとに基づいて対象ロボットを制御する制御部と、を備え、少なくともロボット本体と付属品とを区別するロボットタスク番号が装置固有データに含まれ、第1記憶部はロボットタスク番号が記憶されるフィールドを備え、個体識別データは、ロボット本体と付属品との各々を個体として識別するデータであり、制御部は、第1記憶部から読み込んだ装置固有データにおいて、ロボットタスク番号が同じである軸の装置固有データにおいて個体識別データが同一かどうか判定し、同一でなければ動作終了させ、同一であれば第1記憶部から読込まれる個体識別データと第2記憶部に格納された個体識別データとを照合し、照合結果に応じて第1記憶部から読込んだ個体差パラメータによって第2記憶部に格納されている個体差パラメータを更新し、付属品についてのみ第1記憶部から読込んだ個体識別データと第2記憶部に格納されている個体識別データとが異なるときに、付属品が交換されたと判断して第2記憶部において付属品についての個体差パラメータのみを更新する。
【0009】
このような本発明によれば、対象ロボットに接続されるロボットコントローラを同じ機種用のロボットコントローラに交換した場合において、ロボットコントローラは、対象ロボットに格納されている個体差パラメータに基づいて対象ロボットの制御を行うことができるようになり、対象ロボットに適した制御を実現できる。
【0010】
特に本発明のロボットシステムでは、対象ロボットはマニピュレータであるロボット本体と付属品とを備えており、付属品のみが交換されたときであっても適切な制御を行なうことができる。
【0011】
本発明のロボットシステムでは、対象ロボットの機種を示す情報が装置固有データに含まれるようにし、装置固有データにおける機種を示す情報がロボットコントローラが対象とする機種と適合しない場合には、制御部がロボットシステムを起動不可とするようにすることができる。これにより、他機種のロボットコントローラが接続されることによる不具合を防止することができる。
【0012】
本発明のロボットシステムでは、対象ロボットの構成に関する情報が装置固有データに含まれるようにし、装置固有データにおける構成に関する情報がロボットコントローラが対象とする機種の対象ロボットの構成と適合しない場合には、制御部がロボットシステムを起動不可とするようにすることができる。これにより、構成の不一致、例えば、対象ロボット内でのモータの配線の誤接続などがある場合にロボットシステムが動作することを防止できる。
【0013】
本発明のロボットシステムでは、個体差パラメータとして、原点位置に対するオフセット値を使用することができる。これにより、ロボットコントローラの交換を行なったときに新たなオフセット調整やオフセット測定を行う必要なく、新しいロボットコントローラで対象ロボットの駆動を行うことができるようになる。
【0014】
象ロボットにおいては、オフセット値などの個体差パラメータがモータ交換により変化してしまうが、本発明のロボットシステムでは、モータに付属する部品であるエンコーダの記憶部に装置固有データを格納することにより、交換される部品に紐付けられて装置固有データが格納されることになるので、ロボットシステムの管理が容易になる。この場合、制御部は、装置固有データに基づいて対象ロボットにおけるモータの交換を検出し、モータの交換を検出したときにロボットシステムを起動不可とすることができる。モータ交換は対象ロボットにおける新規調整を必要とするので、モータ交換の検出時にシステムの起動を不可とすることによって、調整が不十分なままで対象ロボットが動作することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ロボット本体に対してロボットコントローラや付属品を交換して接続することが容易であり、かつ、ロボット本体や付属品側に保持するデータを最小限のものとすることができるロボットシステムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の一形態のロボットシステムの構成を示すブロック図である。
図2】エンコーダごとに記憶される装置固有データの形式を示す図である。
図3図1に示すロボットシステムの動作を示すフローチャートである。
図4図1に示すロボットシステムの動作を示すフローチャートである。
図5図1に示すロボットシステムの動作を示す状態遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の一形態のロボットシステムを示している。このロボットシステムは、マニピュレータとして構成されたロボット本体1と、ロボット本体1を制御するロボットコントローラ2とを備えている。ロボット本体1とロボットコントローラ2とは接続ケーブル3により取り外し可能に接続されている。接続ケーブル3の一端にはロボット本体1との接続のためのコネクタ31が取り付けられており、他端にはロボットコントローラ2との接続のためのコネクタ32が取り付けられている。図1では破線で示しているが、ロボットシステムには、付属品として、ワークの姿勢を変更するアライナー4が設けられていてもよく、その場合、アライナー4もロボットコントローラ2に接続されてロボットコントローラ2によって制御される。アライナー4以外の付属品が設けられていてもよい。ロボットコントローラ2による制御の対象となるものを総称して対象ロボットと呼ぶこととする。ここで示す例で言えば、対象ロボットには、ロボット本体1とアライナー4とが含まれる。
【0018】
ロボット本体1は、複数の駆動軸を有するものであって、駆動軸ごとに、サーボモータであってその駆動軸を駆動するモータ11と、ロボットコントローラ2からの指令に基づいてモータ11を駆動制御するドライバ12と、モータ11の回転軸に取り付けられてその回転軸の回転位置を検出するエンコーダ13とを備えている。図示していないが、モータ11には減速機やプーリーなども付属している。エンコーダ13には、そのエンコーダの動作パラメータを格納する不揮発性の記憶部14が設けられている。記憶部14は、典型的にはEEPROM(電気的消去可能・プログラム可能読出し専用メモリ)によって構成される。ロボットシステムにアライナー4が設けられる場合、アライナー4は、1軸のロボットすなわち、モータ11、ドライバ12及びエンコーダ13を1つずつ有するものとして扱われる。アライナーのエンコーダ13にも不揮発性の記憶部14が設けられる。
【0019】
ロボットコントローラ2は、予め定められた軌道でロボット本体1が移動するように、各軸のエンコーダ13から読み出される回転位置に基づいて各軸のモータ11に対する指令を生成する制御部21と、制御部21での演算に必要なパラメータ類を格納する不揮発性の記憶部22と、を備えている。マニピュレータであるロボット本体1を構成するアームやハンドの長さ、接続関係、各モータ11の仕様など、ロボットの構成を記述するデータであって同一機種のロボットであれば共通に使用できる情報は記憶部22に格納される。このように同一機種のロボットであれば個体差を無視して共通であるとみなせる情報のことを機種構成情報と呼ぶ。さらに、同一機種のロボットであっても個体差が無視できないパラメータ、例えば、原点位置に対する各エンコーダ13ごとのオフセット値も記憶部22に格納される。アライナー4が設けられる場合には、アライナー4についてのオフセット値も記憶部22に格納される。制御部21がロボット本体1やアライナー4を制御するときには、記憶部22に格納された機種構成情報とオフセット値などの個体差に関するパラメータとの両方を利用する。
【0020】
本実施形態のロボットシステムでは、ある機種のロボット本体1に接続されるロボットコントローラをその機種用の他のロボットコントローラに交換する、あるいはロボットコントローラ2に接続されるロボット本体を同一機種の範囲内で交換することを可能にする。このどちらの種類の交換も、結局は、同一機種の範囲内でのロボット本体1とロボットコントローラ2の組み合わせの範囲内であり、これらの交換のことを以下の説明では「ロボットコントローラの交換」と呼ぶことにする。例えば予備品として用意されたロボットコントローラと交換することもロボットコントローラの交換である。本実施形態では、ロボットコントローラの交換を可能にするために、エンコーダ13の不揮発性の記憶部14に装置固有データを書き込んでおき、ロボットシステムの起動時に各エンコーダ13から装置固有データをロボットコントローラ2に読込む。読込んだ結果、ロボットコントローラの交換があったと判断されるときは、ロボットコントローラ2の制御部21は、エンコーダ13から読込んだ装置固有データを用いて必要な処理を行なう。
【0021】
図2は、エンコーダ13ごとにその記憶部14に記憶される装置固有データの形式の一例を示している。装置固有データは、ロボットタイプ(機種)を示すデータと、ロボット本体1やアライナー4を個体として識別するためのデータと、個体差として同一機種のロボット本体1やアライナー4の中で変化し得るパラメータ(例えば原点位置に対するオフセット値)とを含む固定長のデータである。ロボット本体1やアライナー4を個体として識別するデータを個体識別データと呼ぶ。本実施形態では、シリアル番号を個体識別データとするが、他のデータを個体識別データとして用いてもよい。一方、個体差として同一機種のロボット本体1やアライナー4の中で変化し得るパラメータのことを個体差パラメータと呼ぶ。図示されるように、装置固有データは、アドレス順に、ヘッダ情報とデータ部とから構成されている。アライナー4の記憶部14にも同様の装置固有データが格納される。ヘッダ情報には、装置固有データの形式を特定するフォーマットバージョンのフィールド、書き込み状態のフィールド、予約領域、及び、ヘッダ情報についてのチェックサムのフィールドが含まれる。書き込み状態のフィールドには、その装置固有データが初期状態のものなのか、書き込みが完了したものなのか、あるいは書き込み途中であって書き込みが未完了のものなのか、を示すデータが書き込まれる。ヘッダ情報チェックサムのフィールドは、フォーマットバージョンのフィールド、書き込み状態のフィールド及びヘッダ情報の予約領域に対するチェックサムを格納するフィールドである。
【0022】
データ部は、データ部全体に対するチェックサムを格納するデータ部のチェックサムの領域と、ロボットの機種を示すデータであるロボットタイプのフィールドと、シリアル番号のフィールドと、原点位置に対するオフセット値のフィールドと、物理軸番号のフィールドと、ロボットタスク番号のフィールドと、予約領域とからなっている。本実施形態では、装置固有データとしてエンコーダ13ごとに記憶される個体差パラメータは、ロボット本体1の全体に関するものではなく、そのエンコーダ13に関するものに限定されている。したがって、原点位置に関するオフセット値としては、ロボット本体1が原点位置にあるときにその装置固有データを格納するエンコーダ13の回転位置についてのオフセット値が格納される。アライナー4の記憶部14に格納される個体差パラメータは、アライナー4のエンコーダ13に関するものに限定される。物理軸番号のフィールドは、ロボット本体1に複数の駆動軸があってそれらの駆動軸に一意に物理軸番号が付与されているとして、その装置固有データを格納するエンコーダ13がどの物理軸のものであるかを示している。ロボットタスク番号は、その装置固有データを格納するエンコーダ13がロボット本体1のものなのかアライナー4のものなのかを示す番号である。本実施形態では、ロボット本体1とアライナー4とでは同じロボットタイプを使用するものとしており、これらの区別はロボットタスク番号を用いて行なっている。複数の付属品を使用する場合には、付属品の種類に応じて異なるロボットタスク番号を付与するようにする。シリアル番号は個体識別データを構成し、物理軸番号及びロボットタスク番号の各々は、対象ロボットの構成に関する情報の1つである。
【0023】
エンコーダ13をモータ11から取り外すことは一般には行なわれないから、ロボット本体1やアライナー4においてモータ11を交換するときはエンコーダ13と一緒に交換することになる。したがって、エンコーダ13の記憶部14に格納されている装置固有データは、モータ11に紐付けられているデータであるといえる。モータ11を交換したときは、そのときのモータ11の組み付けのばらつきなどにより、原点位置に対するオフセット値も変化するから、再度、オフセット値を決定する調整作業を行なう必要がある。そこで本実施形態では、コントローラの交換は認めるものの、ロボット本体1やアライナー4におけるモータ11単体の交換は認めずにエラーとすることにする。同様の理由により、エンコーダ13に記憶される物理軸番号は、実際にそのエンコーダ13に関連する駆動軸の物理軸番号と一致していなければならない。また、同一のロボット本体1に含まれるエンコーダ13では装置固有データのシリアル番号が全て同じであるものとする。もちろん、他のロボット本体1に含まれるエンコーダ13とは装置固有データのシリアル番号が異なるものとする。ロボット本体1と同時に使用されるアライナー4については、ロボット本体1側の装置固有データにおけるシリアル番号とアライナー4側の装置固有データにおけるシリアル番号とは同じであっても異なっていてもよい。
【0024】
装置固有データのデータ構成について図2を用いて説明したが、装置固有データに格納される同一機種のロボットにおいても個体差のあるパラメータとして、原点位置に対するオフセット値以外のものを用いてもよく、複数種類のパラメータを用いてもよい。さらに、不適切な交換などの検出のために、ロボットを個体として識別する情報として、ロボットタイプやシリアル番号以外の情報を用いてもよく、あるいは、ロボットタイプとシリアル番号に加えて他の情報を用いてもよい。
【0025】
次に、ロボットコントローラ2を交換した際のロボットシステムにおける処理について説明する。本実施形態ではロボットコントローラ2は制御対象のロボットの機種ごとに用意されるものであるので、ロボットコントローラ2の記憶部22には、ロボットタイプを示すデータと、その機種に共通な寸法や仕様を示す機種構成情報と、現在接続されているか直近に接続されていたロボット本体1(さらにはアライナー4)の個体識別データ及び個体差パラメータとが格納される。現在接続されているか直近に接続されていたロボット本体1(さらにはアライナー4)の個体識別データ及び個体差パラメータの代わりに初期値が格納されていてもよく、さらには、ロボットコントローラ2におけるコマンド操作によって個体識別データ及び個体差パラメータの部分を初期値にクリアできるようになっていてもよい。
【0026】
図3及び図4は、ロボットシステムで実行される処理を示すフローチャートである。ここで示す処理は、電源投入時などにロボットコントローラ2がロボットシステムを起動する処理である。以下の説明において、ロボット本体1のみがロボットコントローラ2に接続されているときはロボット本体1の各駆動軸を有効軸と呼び、ロボット本体1とアライナー4の両方が接続されているときはロボット本体1とアライナー4の各駆動軸を有効軸と呼ぶ。ロボット本体1が接続されさらに必要に応じてアライナー4が接続された状態でこのロボットシステムの電源を投入すると、ロボットコントローラ2の制御部21は、ステップ101において、各有効軸のエンコーダ13から、そのエンコーダ13の記憶部(EEPROM)14に格納されている装置固有データを読込み、ステップ102において、全ての有効軸についてデータの読込みが正常に終了したかどうかを判定する。正常に終了していない場合には、リアルタイムエラーが発生したものとして、制御部21はロボットシステムの動作が終了させる。全有効軸のデータの読込みが正常に終了した場合には、制御部21は、ステップ103において、エンコーダ13から読込んだデータの中のロボットタスク番号が同じである軸の装置固有データにおいてシリアル番号が同一かどうかを判定する。シリアル番号が同一でない装置固有データがあることはモータ11が交換されたことを意味するから、モータ交換エラーが発生したものとして、制御部21はロボットシステムの動作が終了させる。
【0027】
ステップ103においてモータ交換エラーが発生しなかった場合には、制御部21は、ステップ104において、全ての有効軸においてエンコーダ13から読出されたロボットタイプ(機種)が記憶部22に予め記憶されているロボットタイプと一致するかどうかを判定する。一致しない場合には、ロボットコントローラ2が対象とする機種以外のロボット本体1あるいはアライナー4がロボットコントローラ2に接続されていることになるので、機種不一致エラーが発生したものとして、制御部21はロボットシステムの動作が終了させる。ステップ104においてロボットタイプが一致したときは、制御部21は、ステップ111において、全有効軸について、エンコーダ13から読込んだ物理軸番号及びロボットタスク番号が、記憶部22に予め記憶されている物理軸番号及びロボットタスク番号に一致しているかを判定する。ロボットコントローラ2が複数のエンコーダ13から装置固有データを読込むときは、予め定められた順番によってエンコーダ13の一つずつからデータを読込むが、このとき、モータ配線の誤接続などによって本来の順番とは異なる順番でデータを読込んでしまうことがあり、この場合、物理軸番号あるいはロボットタスク番号の不一致が生じる。複数のエンコーダ13から並列にデータを読込む場合であっても、配線の誤接続があれば、物理軸番号あるいはロボットタスク番号の不一致が生じる。そこで物理軸番号あるいはロボットタスク番号の不一致が生じたときは、構成不一致エラーが発生したものとして、制御部21はロボットシステムの動作が終了させる。
【0028】
ステップ111において全ての有効軸について物理軸番号及びロボットタスク番号が一致したときは、制御部21は、ステップ112において、全有効軸について、エンコーダ13から読込んだシリアル番号と記憶部22に記憶されたシリアル番号とが一致するかどうかを判定する。ここで一致している場合には、ロボットコントローラ2もアライナー4も交換されていない場合であるので、次に制御部21は、ステップ113において、全ての有効軸について記憶部22に記憶されているオフセット値とエンコーダ13から読込んだオフセット値とが一致するかを判定する。ここで全ての有効軸に関してオフセット値が一致するときは、ロボットコントローラ2の記憶部22に格納されているオフセット値すなわち個体差パラメータは適切なものであると判断できるので、制御部21は、ステップ114において、ロボットシステムを正常起動して、システム起動の処理を終了する。
【0029】
ステップ113においてロボットコントローラ2の記憶部22に予め格納されたオフセット値とエンコーダ13から読込んでオフセット値とが一致しないのは、モータ11の再調整などを行ったがその結果がロボットコントローラ2側に反映されていない場合である。そこで制御部21は、ステップ115において、エンコーダ13から読込んだオフセット値によって記憶部22に格納されているオフセット値を書き換えて処理を終了する。こののち、電源投入を再度行えば、そのときはステップ101からステップ112までの処理が実行され、引き続いてステップ113、ステップ114と処理が進行するので、書き換え後のオフセット値に基づいてロボットシステムが正常起動することになる。
【0030】
ステップ112においてシリアル番号が一致しないのは、ロボットコントローラ2の交換があったか、アライナー4の交換があったかのいずれかの場合である。そこで制御部21は、ステップ112においてシリアル番号の不一致があったときに、ステップ116において、ロボットタスク番号から判別されるアライナー4の軸でのみシリアル番号の不一致となっているかどうかを判定する。アライナー4の軸でのみシリアル番号の不一致となっているときはアライナー4の交換と判断できるので、制御部21は、ステップ117において、アライナー4の軸に関し、エンコーダ13から読込んだオフセット値によって記憶部22に格納されているオフセット値を書き換えて処理を終了する。こののち、電源投入を再度行えば、書き換え後のオフセット値に基づいてロボットシステムが正常起動することになる。
【0031】
ステップ116においてアライナー4の軸以外でもシリアル番号の不一致がある場合には、ロボットコントローラの交換があったと判断できるので、制御部21は、ステップ118において、全有効軸に関し、エンコーダ13から読込んだシリアル番号及びオフセット値によって記憶部22に格納されているシリアル番号及びオフセット値を書き換えて処理を終了する。電源投入を再度行えば、書き換え後のシリアル番号及びオフセット値に基づいてロボットシステムが正常起動することになる。ロボット本体1(及びアライナー4)のエンコーダ13から読込んだシリアル番号(すなわち個体識別データ)とオフセット値(すなわち個体差パラメータ)とによって、ロボットコントローラ2の記憶部22に格納されているシリアル番号とオフセット値とを書き換えることにより、ロボットコントローラ2は、その接続されるロボット本体1やアライナー4が交換された場合に交換後のロボット本体1やアライナー4に適合するものとなる。また、予備品であってその記憶部22において個体識別データ(シリアル番号)と個体差パラメータ(オフセット値)に初期値が格納されている予備品のロボットコントローラ2についても、ここで示す処理を実行することによって、そのロボットコントローラ2に接続しているロボット本体1やアライナー4の制御に適したものとなる。
【0032】
図5は、ここで説明した処理を説明する状態遷移図である。ロボットコントローラ2がその接続しているロボット本体1とアライナー4などの付属品とを制御するのに適した状態であることを正常状態と呼ぶ。正常状態においてロボットコントローラ2の交換が行われたときは、ロボットコントローラ2の交換が行われたことを示すイベントが起動時に上記のステップ118に示すように発生し、個体差パラメータがエンコーダ13側からロボットコントローラ2の記憶部22に自動的にコピーされ、正常状態に戻ることになる。その後、電源投入の動作を行えば正常状態に自動復帰することになる。同様に、アライナー4などの付属品を交換したときは、付属品交換が行われたことを示すイベントが起動時に上記のステップ117に示すように発生し、個体差パラメータがエンコーダ13側からロボットコントローラ2の記憶部22に自動的にコピーされ、正常状態に戻ることになる。これに対してモータ交換が行われた場合には、ステップ103に示すようにモータ交換エラーとなってロボットシステムの起動処理が異常終了し、ロボットシステムの起動が不可となる。モータ交換エラーから正常状態に復帰するためには、交換されたモータに対応する軸の再調整作業などのメンテナンス作業を実施する必要がある。ステップ104で判定される機種不一致エラーやステップ105で判定される構成不一致エラーは、いずれも、ロボット本体1やアライナー4さらにはロボットコントローラ2に記憶されている装置固有データにおけるパラメータ異常に分類されるものであり、パラメータ異常と判定された場合には、ロボットシステムの起動処理が異常終了し、ロボットシステムの起動が不可となる。パラメータ異常から正常状態に復帰するためには、正しい機種のロボットコントローラ2を使用する、誤配線を修正するなどを行って、正しいパラメータ設定となるようにする必要がある。
【0033】
[本実施形態の効果]
本実施形態によれば、電源投入時などに、対象ロボット(ロボット本体1及びアライナー4)のエンコーダ13に格納されている装置固有データを読み出してロボットコントローラ2に格納されている装置固有データを照合し、ロボットコントローラ2の交換が検出されたときには最新の個体差パラメータを対象ロボット側からロボットコントローラ2に読込むので、同じ機種用のロボットコントローラ2を交換して使用することが可能になり、交換後のロボットコントローラ2を用いてその接続している対象ロボットに適した制御を実行できるようになる。また機種の不一致や構成の不一致が生じたとき、モータ交換が検出されたときには起動不可とすることによって、不適切な状態でロボット本体やアライナーが動作することを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0034】
1…ロボット本体、2…ロボットコントローラ、4…アライナー、11…モータ、12…ドライバ、13…エンコーダ、14,22…記憶部、21…制御部。
図1
図2
図3
図4
図5