(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】半導体モジュール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/15 20060101AFI20220603BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20220603BHJP
H01L 25/18 20060101ALI20220603BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
H01L23/14 C
H01L25/04 C
H05K3/28 G
(21)【出願番号】P 2018027138
(22)【出願日】2018-02-19
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】西田 祐平
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 文彦
(72)【発明者】
【氏名】出野 尭
(72)【発明者】
【氏名】北村 征寛
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-172172(JP,A)
【文献】特開2011-052240(JP,A)
【文献】特開2012-054368(JP,A)
【文献】特開2015-132013(JP,A)
【文献】特開2005-225745(JP,A)
【文献】特開平08-222661(JP,A)
【文献】特開2010-087309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/15
H01L 25/07
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板と、
該絶縁性基板上に形成された回路パターンと、
該回路パターン上に接合された半導体素子と、
前記絶縁性基板、前記回路パターン及び前記半導体素子を封止する封止樹脂とを備えた半導体モジュールにおいて、
前記絶縁性基板と前記封止樹脂とが密着した部分における前記絶縁性基板の表面は、前記絶縁性基板の断面において、下記方法によって測定し算出した、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上
、2μm以下であり、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上
、0.1μm以下であることを特徴とする半導体モジュール。
(平均粗さの測定・算出方法)
前記絶縁性基板の断面を走査電子顕微鏡で撮影してSEM画像を用意し、前記SEM画像を2値化して表面形状の画像データを用意し、前記画像データを画像数値化ソフトを用いて2次元座標データに変換し、下記数式により平均粗さZaを計算して求める。
【数1】
上記数式中、Zaは平均粗さを表す。Znは各nにおける前記2次元座標データと平均値との差を表す。Nは測定幅を測定ピッチで割った値であり、幅300μmの粗さ計算時はピッチ=0.5μm、すなわちN=600、幅3μmの粗さ計算時はピッチ=0.005μm、すなわちN=600とする。
【請求項2】
前記絶縁性基板と前記封止樹脂とが密着した部分は、前記絶縁性基板の周縁部を含んでいる、請求項1記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記絶縁性基板と前記封止樹脂とが密着した部分における前記絶縁性基板の表面は、前記絶縁性基板の断面において、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.7μm以上である、請求項1
又は2記載の半導体モジュール。
【請求項4】
セラミックス製の絶縁性基板の表面粗さを調整する表面処理工程と、
前記絶縁性基板を加熱処理して前記絶縁性基板の表面を酸化する酸化処理工程と、
前記絶縁性基板の表面にろう材を塗布するろう材塗布工程と、
前記ろう材を介して金属箔を前記絶縁性基板表面に接合する金属箔接合工程と、
前記金属箔と前記ろう材とをエッチングして回路パターンを形成する回路パターン形成工程と、
前記回路パターン上に半導体素子を接合する半導体素子実装工程と、
前記絶縁性基板、前記回路パターン及び前記半導体素子を、封止樹脂で封止する封止工程とを含む半導体モジュールの製造方法であって、
前記表面処理工程は、前記絶縁性基板の表面をウェットブラスト処理して粗面化する工程を含み、
前記ろう材塗布工程は、前記絶縁性基板表面の、前記金属箔が接合される面だけでなく、前記金属箔が接合されない面であって前記封止樹脂が密着する面に対しても、ろう材を塗布する工程を含み、
前記回路パターン形成工程において、前記ろう材が塗布された部分をエッチングすることによって、前記絶縁性基板の前記封止樹脂が密着する面が、前記絶縁性基板の断面において、下記方法によって測定し算出した、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上であり、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上である表面粗さとすることを特徴とする半導体モジュールの製造方法。
(平均粗さの測定・算出方法)
前記絶縁性基板の断面を走査電子顕微鏡で撮影してSEM画像を用意し、前記SEM画像を2値化して表面形状の画像データを用意し、前記画像データを画像数値化ソフトを用いて2次元座標データに変換し、下記数式により平均粗さZaを計算して求める。
【数2】
上記数式中、Zaは平均粗さを表す。Znは各nにおける前記2次元座標データと平均値との差を表す。Nは測定幅を測定ピッチで割った値であり、幅300μmの粗さ計算時はピッチ=0.5μm、すなわちN=600、幅3μmの粗さ計算時はピッチ=0.005μm、すなわちN=600とする。
【請求項5】
前記絶縁性基板は、窒化アルミニウムからなる、請求項
4記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記絶縁性基板は、セラミックス製である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記絶縁性基板は、窒化アルミニウムからなる、請求項
6に記載の半導体モジュール。
【請求項8】
絶縁性基板と、
該絶縁性基板上に形成された回路パターンとを有する絶縁回路基板において、
前記絶縁性基板の前記回路パターンが形成されていない部分の表面は、前記絶縁性基板の断面において、下記方法によって測定し算出した、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上
、2μm以下であり、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上
、0.1μm以下であることを特徴とする絶縁回路基板。
(平均粗さの測定・算出方法)
前記絶縁性基板の断面を走査電子顕微鏡で撮影してSEM画像を用意し、前記SEM画像を2値化して表面形状の画像データを用意し、前記画像データを画像数値化ソフトを用いて2次元座標データに変換し、下記数式により平均粗さZaを計算して求める。
【数3】
上記数式中、Zaは平均粗さを表す。Znは各nにおける前記2次元座標データと平均値との差を表す。Nは測定幅を測定ピッチで割った値であり、幅300μmの粗さ計算時はピッチ=0.5μm、すなわちN=600、幅3μmの粗さ計算時はピッチ=0.005μm、すなわちN=600とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性基板上に回路パターンを介して半導体素子が接合され、絶縁性基板、回路パターン及び半導体素子が封止樹脂で封止された構造の半導体モジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に示されるような、電力変換用のスイッチングデバイスとして用いられるパワー半導体モジュール等では、絶縁性、耐熱性、耐久性を付与するために、絶縁性基板、回路パターン及び半導体素子が封止樹脂で封止された構造をなしている。
【0003】
しかしながら、スイッチングデバイスとして作動する際に発生する熱により、繰り返し高温に晒されることにより、絶縁性基板と封止樹脂との接着面が剥離し、剥離が内部に伸展することで、浸水、配線のリフトオフ等の不具合を引き起こす可能性があった。
【0004】
これに対して、絶縁性基板表面を粗化してアンカー効果を高めることにより、金属膜や封止樹脂との接着性を高める技術が開示されている。
【0005】
例えば下記特許文献2には、金属膜との密着力を向上させるため、イオンビームエッチング処理により結晶粒子表面に微細凹凸を形成するセラミック回路基板の製造方法が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献3には、アンカー効果を向上するため、結晶粒子表面に酸性エッチング処理による結晶粒子径より小さい径の複数の突起部を形成したセラミックス部材が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献4には、平均結晶粒径より大きな凹凸を有する窪み・突起を複数備えているセラミック基体により、ろう材のアンカー効果を高めることが記載されている。
【0008】
更に、下記特許文献5には、窒化アルミ基板の表面に砥粒を当てることで表面粗化し、金属回路箔の接合強度を向上することが記載されている。
【0009】
更に、下記特許文献6には、回路基板と、回路基板が搭載されたヒートシンクと、回路基板と電気的に接続されたリードと、回路基板及び回路基板とリードとの接続部を被覆し、リードの一部及びヒートシンクの一部が外部に露出するように、封止樹脂を配置してなる封止樹脂部と、を備える電子制御装置であって、回路基板の表面及びヒートシンクの表面の少なくとも一方の、封止樹脂部と接する部位の少なくとも一部が、粗化処理されているものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-258321号公報
【文献】特開平5-24959号公報
【文献】特開2002-241187号公報
【文献】特開2010-30280号公報
【文献】特開2013-27918号公報
【文献】特開2008-172172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1~5では、絶縁性基板と封止樹脂との密着強度を改善するための絶縁性基板の表面粗さについては検討されていない。また、上記特許文献6には、粗化処理の条件について詳細が記載されていない。
【0012】
したがって、上記従来技術に開示された技術では、絶縁性基板と封止樹脂との密着性の改善効果が、未だ十分とは言えなかった。
【0013】
したがって、本発明の目的は、絶縁性基板と封止樹脂との密着性がより向上した半導体モジュール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の半導体モジュールは、
絶縁性基板と、
該絶縁性基板上に形成された回路パターンと、
該回路パターン上に接合された半導体素子と、
前記絶縁性基板、前記回路パターン及び前記半導体素子を封止する封止樹脂とを備えた半導体モジュールにおいて、
前記絶縁性基板と前記封止樹脂とが密着した部分における前記絶縁性基板の表面は、前記絶縁性基板の断面において、下記方法によって測定し算出した、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上であり、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上であることを特徴とする半導体モジュール。
(平均粗さの測定・算出方法)
前記絶縁性基板の断面を走査電子顕微鏡で撮影してSEM画像を用意し、前記SEM画像を2値化して表面形状の画像データを用意し、前記画像データを画像数値化ソフトを用いて2次元座標データに変換し、下記数式により平均粗さZaを計算して求める。
【0015】
【0016】
上記数式中、Zaは平均粗さを表す。Znは各nにおける前記2次元座標データと平均値との差を表す。Nは測定幅を測定ピッチで割った値であり、幅300μmの粗さ計算時はピッチ=0.5μm、すなわちN=600、幅3μmの粗さ計算時はピッチ=0.005μm、すなわちN=600とする。
【0017】
本発明の半導体モジュールにおいては、前記絶縁性基板と前記封止樹脂とが密着した部分は、前記絶縁性基板の周縁部を含んでいることが好ましい。
【0018】
また、前記絶縁性基板と前記封止樹脂とが密着した部分における前記絶縁性基板の表面は、前記絶縁性基板の断面において、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが2μm以下であることが好ましい。
【0019】
更に、前記絶縁性基板と前記封止樹脂とが密着した部分における前記絶縁性基板の表面は、前記絶縁性基板の断面において、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.7μm以上であることが好ましい。
【0020】
更にまた、前記絶縁性基板と前記封止樹脂とが密着した部分における前記絶縁性基板の表面は、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.1μm以下であることが好ましい。
【0021】
一方、本発明の半導体モジュールの製造方法は、
セラミックス製の絶縁性基板の表面粗さを調整する表面処理工程と、
前記絶縁性基板を加熱処理して前記絶縁性基板の表面を酸化する酸化処理工程と、
前記絶縁性基板の表面にろう材を塗布するろう材塗布工程と、
前記ろう材を介して金属箔を前記絶縁性基板表面に接合する金属箔接合工程と、
前記金属箔と前記ろう材とをエッチングして回路パターンを形成する回路パターン形成工程と、
前記回路パターン上に半導体素子を接合する半導体素子実装工程と、
前記絶縁性基板、前記回路パターン及び前記半導体素子を、封止樹脂で封止する封止工程とを含む半導体モジュールの製造方法であって、
前記表面処理工程は、前記絶縁性基板の表面をウェットブラスト処理して、前記絶縁性基板の断面において、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上となるように粗面化する工程からなり、
前記ろう材塗布工程は、前記絶縁性基板表面の、前記金属箔が接合される面だけでなく、前記金属箔が接合されない面であって前記封止樹脂が密着する面に対しても、ろう材を塗布する工程からなり、
前記回路パターン形成工程において、前記ろう材が塗布された部分をエッチングすることによって、前記絶縁性基板の前記封止樹脂が密着する面が、前記絶縁性基板の断面において、前述した方法によって測定し算出した、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上であり、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上である表面粗さとなることを特徴とする。
【0022】
本発明の半導体の製造方法においては、前記絶縁性基板は、セラミックス製であることが好ましく、窒化アルミニウムからなることがより好ましい。
【0023】
また、本発明の絶縁回路基板は、絶縁性基板と、
該絶縁性基板上に形成された回路パターンとを有する絶縁回路基板において、
前記絶縁性基板の前記回路パターンが形成されていない部分の表面は、前記絶縁性基板の断面において、前述した方法によって測定し算出した、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上であり、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の半導体モジュールによれば、絶縁性基板と封止樹脂とが密着した部分における絶縁性基板の表面は、絶縁性基板の断面において、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上であり、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上であることにより、絶縁性基板と封止樹脂との密着強度が向上し、高温下においても高い密着強度が維持され、封止樹脂の剥離が抑制されるので、半導体モジュールの耐久性を向上させることができる。
【0025】
本発明の半導体モジュールの製造方法によれば、絶縁性基板表面に、ウェットブラスト処理によって比較的粗い凹凸を形成し、更に、金属箔が接合されない面であって封止樹脂が直接接着される面に対しても、ろう材を塗布しエッチングすることにより、比較的粗い凹凸の表面に微小な凹凸を更に形成することができ、粗い凹凸表面に微小な凹凸が更に形成された粗面によって、封止樹脂の密着強度を更に高めて、封止樹脂の剥離を抑制することができる。
【0026】
本発明の絶縁回路基板によれば、半導体モジュールの絶縁回路基板として用い、封止樹脂で封止した際に、絶縁性基板と封止樹脂との密着強度が向上し、高温下においても高い密着強度が維持され、封止樹脂の剥離が抑制されるので、半導体モジュールの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る半導体モジュールの断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態に係る半導体モジュールの断面図である。
【
図3】本発明の半導体モジュールの絶縁性基板表面の粗さを示す模式図である。
【
図4】平均粗さの計算式や概念を示す説明図である。
【
図5】絶縁性基板と封止樹脂との剥離強度の測定方法を示す説明図である。
【
図6】絶縁性基板と封止樹脂との剥離強度の測定結果を示す図表である。
【
図7】絶縁性基板と封止樹脂との剥離強度の別の測定結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の半導体モジュールの実施形態を説明する。
【0029】
図1には、本発明が適用される半導体モジュールの一実施形態が示されている。この半導体モジュール50は、パワー半導体モジュールであって、絶縁性基板23の上面に、回路パターン24が形成され、絶縁性基板23の下面に熱伝導のよい金属板22が接合されている。絶縁性基板23と、回路パターン24と、金属板22とによって、絶縁回路基板21が構成されている。
【0030】
絶縁性基板23としては、例えば窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素等を主成分とするセラミックス基板が好ましく用いられるが、アルミニウムなどの金属板表面に絶縁樹脂層を被覆したものなどを用いることもできる。特に好ましくは窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板である。セラミックス基板のセラミックスの平均結晶粒径は、0.5~20μmが好ましく、2~7μmがより好ましい。窒化アルミニウム焼結体は、平均粒子径が0.1~15μmの窒化アルミニウム原料粉末からなる成形体を焼成することにより得ることができ、成形体は、必要に応じて焼結助剤、有機バインダ等を含んでもよい。
【0031】
回路パターン24としては、絶縁性基板23にろう材を介して接合された金属箔をエッチングによってパターン化したものが好ましく採用される。金属箔としては、特に限定されないが、例えば銅が好ましく採用される。金属板22は、熱伝導性のよいものであれば、特に限定されないが、例えば銅、アルミニウム、銅合金、アルミニウム合金などの金属板が用いられる。
【0032】
そして、回路パターン24上には、はんだ29を介して半導体素子25、26が接合されている。また、回路パターン24上には、はんだ29を介して外部端子12が立設され、半導体素子25、26と外部端子12とは、回路パターン24やボンディングワイヤ27によって接続されている。
【0033】
半導体素子25、26は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。IGBTはRB-IGBT(Reverse Blocking-IGBT)やRC-IGBT(Reverse Conducting-IGBT)であってもよい。
【0034】
更に、金属板22の下面と、外部端子12の上方部分を残して、絶縁性基板23、回路パターン24、半導体素子25、26、外部端子12の下方部分、及び金属板22の側面が、封止樹脂28によって封止されている。封止樹脂28としては、特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シリコーン樹脂、液晶ポリマーなどが用いられる。
【0035】
封止樹脂28は、絶縁性基板23、回路パターン24、半導体素子25、26、外部端子12の下方部分、及び金属板22の側面のそれぞれに密着しているが、絶縁性基板23は、封止樹脂28と密着(接着)した面(以下「封止樹脂密着面」とする)23aを有している。封止樹脂密着面23aは、回路パターン24および金属板22の外周を囲むように、絶縁性基板23の周縁部に形成されており、この実施形態では、絶縁性基板23の上面側の周縁部に加え、絶縁性基板23の外周側面や、金属板22の外周に位置する、絶縁性基板23の下面側の周縁部も、封止樹脂密着面23aとなっている。
【0036】
図2には、本発明が適用される半導体モジュールの他の実施形態が示されている。この半導体モジュール50aも、パワー半導体モジュールであって、絶縁性基板23の上面に、回路パターン24が形成され、絶縁性基板23の下面に熱伝導のよい金属板22が接合されている。絶縁性基板23と、回路パターン24と、金属板22とによって、絶縁回路基板21が構成されている。
【0037】
ただし、この半導体モジュール50aでは、絶縁回路基板21を囲む、樹脂製の枠状のケース13が設けられており、絶縁回路基板21の周縁部が、接着剤14を介してケース13に固着されている。ケース13には、L字状に折曲された外部端子12の下方部分が、ケース13を貫通してケース13内に露出するように一体成形されて、インサートケース11を構成している。
【0038】
そして、回路パターン24上には、はんだ29を介して半導体素子25、26が接合されている。半導体素子25,26と外部端子12とは、回路パターン24やボンディングワイヤ27によって接続されている。
【0039】
更に、ケース13の内部には、封止樹脂28が充填され、絶縁性基板23、回路パターン24、半導体素子25、26、外部端子12の下方部分が、封止樹脂28によって封止されている。この実施形態の場合も、絶縁性基板23は、封止樹脂28と密着(接着)した封止樹脂密着面23aを有している。封止樹脂密着面23aは、絶縁性基板23の周縁部に形成されている。
【0040】
本発明の半導体モジュールの特徴は、上記のような半導体モジュール50,50aにおいて、絶縁性基板23の封止樹脂密着面23aにおける表面粗さを、特定の表面粗さとなるようにしたことにある。
【0041】
すなわち、本発明の半導体モジュール50,50aは、絶縁性基板23の封止樹脂密着面23aの幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上であり、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上であることを特徴としている。以下、本発明で採用した上記平均粗さの測定、算出方法について詳しく説明する。
【0042】
図3は、封止樹脂密着面23aにおいて、絶縁性基板23の断面における表面形状を図示したものである。絶縁性基板23の断面からの表面形状の抽出は、基板の表面に直角な断面を走査電子顕微鏡で撮影してSEM画像を用意し、SEM画像を2値化して表面形状を反映する画像データを用意し、画像データを2次元座標データに変換することによって行うことができる。
【0043】
SEM画像の2値化は、画像処理機能を有するソフトウェア、例えば「Microsoft PowerPoint」(商品名、マイクロソフト社製)で、コントラストを最大にすることで作成することができる。なお、画像処理機能を有するソフトウェアとしては、上記以外のソフトウェアを用いても良い。
【0044】
図3(A)は、絶縁性基板23の断面の表面に沿って、図中矢印で示す幅が300μmとなるように取出した形状であり、同図(B)は、その一部を図中矢印で示す幅が3μmとなるように取出した形状である。なお、30は、結晶粒の表面を示している。
図3(A)(幅300μm)の表面形状は、例えば1000倍で撮影したSEM画像を用いて取出すことができ、
図3(B)(幅3μm)の表面形状は、例えば結晶粒の表面を15000倍の倍率で撮影したSEM画像を用いて取出すことができる。
【0045】
こうして2値化した表面形状の画像を、画像数値化ソフト、例えば「Graphcel」(商品名、フリーウェア)を用いて数値化し、表計算ソフト、例えば「Microsoft Excel」(商品名、マイクロソフト社製)で、
図4に示した下記数式により平均粗さを計算して求めることができる。
【0046】
【0047】
上記数式中、Zaは平均粗さを表す。Znは各nにおける前記2次元座標データと平均値との差を表す。Nは測定幅を測定ピッチで割った値であり、幅300μmの粗さ計算時はピッチ=0.5μm、すなわちN=600、幅3μmの粗さ計算時はピッチ=0.005μm、すなわちN=600とする。
【0048】
なお、平均粗さの測定は、断面からの表面形状の3箇所以上で行い、その平均値を測定値とした。
【0049】
そして、本発明では、例えば
図3(A)の矢印で示す幅300μmを基準長さLとして、その部分の表面形状から、
図4に示す式により平均粗さを求めた値が0.15μm以上となるようにする。また、
図3(B)の矢印で示す幅3μmを基準長さLとして、その部分の表面形状から、
図4に示す式により平均粗さを求めた値が0.02μm以上となるようにする。
【0050】
絶縁性基板23の封止樹脂接着面23aを上記のような表面形状とすることにより、絶縁性基板23と封止樹脂28との密着強度が向上し、高温下においても高い密着強度が維持され、封止樹脂の剥離が抑制されるので、半導体モジュールの耐久性を向上させることができる。また、絶縁性基板23の封止樹脂接着面23aが、絶縁性基板23の周縁に、回路パターン24を囲むように形成されており、その部分での剥離が抑制されることにより、回路パターン24やそれに接合された半導体素子25,26をより強固に保護することができ、信頼性を高めることができる。
【0051】
なお、絶縁性基板23の封止樹脂接着面23aの幅300μmの範囲で求めた平均粗さは、絶縁性基板23と封止樹脂28との密着強度をより高めるために、0.7μm以上であることが好ましく、1.1μm以上であることが更に好ましい。しかし、回路パターン24等の形成に支障を与えないように、上記幅300μmの範囲で求めた平均粗さは、2μm以下であることが好ましい。
【0052】
また、絶縁性基板23の封止樹脂接着面23aの幅3μmの範囲で求めた平均粗さは、絶縁性基板23と封止樹脂28との密着強度を高める上で、0.1μm以下であることが好ましい。
【0053】
次に、本発明の半導体モジュールの製造方法について説明する。
【0054】
(表面処理工程)
本発明の半導体モジュールの製造方法においては、絶縁性基板23として、セラミックス基板を用いる。特には、窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板が好ましく用いられる。
【0055】
そして、絶縁性基板23の表面をウェットブラスト処理して、絶縁性基板23の断面において、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上となるように粗面化する。
【0056】
ウェットブラスト処理は、セラミックス基板より高い硬度を有する砥粒を使用し、該砥粒を含む液体として、圧縮空気と共に、セラミックス基板に噴射することによって行うことができる。このとき、砥粒の粒子の大きさや、噴射圧力を調整することによって、幅300μmの範囲で求めた平均粗さの値を調整することができる。
【0057】
(酸化処理工程)
次に、絶縁性基板23を加熱処理して、絶縁性基板23の表面を酸化処理する。加熱処理は、例えば800~1200℃好ましくは1000℃~1100℃で2~12時間保持して行うことができる。
【0058】
(ろう材塗布工程)
次に、絶縁性基板23の表面にろう材を塗布する。ろう材としては、例えばAg-Cu系ろう材にTi、Zr、Hf、Nbなどから選ばれる少なくとも1種の活性金属を含む活性金属ろう材を使用するのが好ましい。必要に応じてSn、Inなどを含んでいてもよい。前記活性金属ろう材はペースト状のろう材を好ましく用いることができる。ろう材の塗布は、例えばスクリーン印刷、ロールコーター等によって行うことができる。
【0059】
従来、ろう材は、絶縁性基板23表面の、回路パターン24を形成するための金属箔を接合する部分にのみ塗布されるのが通常である。しかし、本発明では、絶縁性基板23の封止樹脂接着面23aとなる部分の、金属箔が接合されない部分にもろう材を塗布する。好ましくは、絶縁性基板23の封止樹脂接着面23a全面にろう材を塗布する。
【0060】
(金属箔接合工程)
次に、絶縁性基板23表面のろう材を塗布した部分の所定箇所に、回路パターン24を形成するための金属箔を設置し、その状態で必要により押圧して、加熱処理することにより、上記ろう材を溶融させて、ろう材を介して金属箔を絶縁性基板23表面に接合する。
【0061】
(回路パターン形成工程)
こうして金属箔を接合した後、フォトエッチング等の周知の方法で、金属箔及びろう材をエッチングしてパターニングし、回路パターン24を形成する。
【0062】
このとき、絶縁性基板23表面に固着されたろう材を、エッチング除去して現れる絶縁性基板23の表面は、前記表面処理工程で、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上となるように粗面化して形成された比較的大きな凹凸表面に、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上となる微細な凹凸が形成されたものとなる。
【0063】
上記微細な凹凸は、絶縁性基板23表面に固着されたろう材をエッチング除去して形成されるものであり、絶縁性基板23を酸化処理しただけの表面をエッチングしても、そのような凹凸は形成されない。このため、本発明では、前記ろう材塗布工程において、絶縁性基板23の封止樹脂接着面23aとなる部分の、金属箔が接合されない部分にもろう材を塗布するようにしたのである。
【0064】
(半導体素子実装工程)
こうして回路パターン24を形成した後、常法に従って、半導体素子25,26や、外部端子12を、はんだ29を介して接合する。
【0065】
(封止工程)
最後に、絶縁性基板23、回路パターン24、半導体素子25,26、及び外部端子12の下方部分等を、封止樹脂28で封止することにより、半導体モジュール50、50aを製造することができる。
【0066】
こうして得られる半導体モジュール50、50aは、絶縁性基板23の封止樹脂接着面23aにおける表面形状が、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上となる比較的粗い凹凸を有すると共に、その比較的大きな凹凸表面に、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上となる微細な凹凸が形成されているので、前述したように、絶縁性基板23と封止樹脂28との密着強度が向上し、高温下においても高い密着強度が維持され、封止樹脂の剥離が抑制されるので、半導体モジュールの耐久性を向上させることができる。
【実施例】
【0067】
絶縁性基板として、窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板を用い、封止樹脂として、エポキシ樹脂を用いて、絶縁性基板の表面粗さを変えて、絶縁性基板と封止樹脂との密着強度を測定した。
【0068】
(樹脂密着強度の測定方法)
図5に示すように、絶縁性基板23上に、図示しない型を重ね、型に設けられた孔に樹脂を注入し、170℃で60分間加熱硬化させることによって、
図5に示す形状及び大きさ(底面の直径3.57mm、上面の直径3mm、高さ4mmの円錐台形状)の封止樹脂28を、絶縁性基板23に接合された状態で成形した。
【0069】
このサンプルをシェア試験機(製品名「DIGITAL FORCE GAUGE Model ZP-1000N」、株式会社イマダ製と、製品名「FORCE GAUGE STAND Model FGS-50D」、シンポ工業株式会社製とを組み合わせた試験機)にセットし、成形された封止樹脂28に対してプランジャー40を押し当て、シェア速度0.03mm/secで押圧して破断したときの最大荷重(kgf)を測定し、この荷重を10mm2で割って密着強度(MPa)を求めた。
【0070】
(試験例1)
比較例1
幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.10μm、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.015μmの表面粗さを有する窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板(以下「標準品」とする)の表面に、前述した方法で、封止樹脂28の成形体を形成した。
【0071】
比較例2
上記標準品のセラミックス基板に活性金属含有ペーストろう材(金属分の重量比としてAg:Cu:Ti=80:17:3)を塗布して、該ろう材上に無酸素銅の銅箔を積層し、ろう材を真空中850℃に加熱して溶融、凝固させることにより、ろう材を介して銅箔をセラミックス基板表面に固着させた後、塩化第2銅エッチング液により銅箔を除去し、ついで5%の過酸化水素と3%のアンモニア水と1.6重量%のEDTAを含む水溶液に20℃で15分間浸漬し、水洗した後、2%のDTPA・5Naと5%の過酸化水素を含む水溶液に30℃で30分間浸漬することにより、ろう材を除去した。こうして、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.10μm、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.025μmの表面粗さを有するセラミックス基板を形成した。この基板の表面に、前述した方法で、封止樹脂28の成形体を形成した。
【0072】
比較例3
上記標準品のセラミックス基板の表面を富士機工製ウェットブラストでアルミナ砥材320番のものを0.2MPaの圧力で処理して、次いで、セラミックス基板を大気中1050℃で2時間加熱処理してその表面を酸化し幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.33μm、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.015μmの表面粗さを有するセラミックス基板を形成した。この基板の表面に、前述した方法で、封止樹脂28の成形体を形成した。
【0073】
実施例1
上記標準品のセラミックス基板の表面を比較例3と同じ条件でウェットブラストと酸化処理して、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.33μm、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.015μmの表面粗さを有するセラミックス基板を形成した。次いで、比較例2と同じ条件でろう材を塗布して、銅箔を積層し、ろう材を真空中850℃に加熱溶融、凝固させることにより、ろう材を介して銅箔をセラミックス基板表面に固着させた後、比較例2と同様にエッチング液に浸漬して銅箔、ろう材および反応層を除去した。こうして、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.33μm、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.025μmの表面粗さを有するセラミックス基板を形成した。この基板の表面に、前述した方法で、封止樹脂28の成形体を形成した。
【0074】
こうして得られた比較例1~3、実施例1のサンプルについて、
図5に示した方法により、密着強度(MPa)を測定した。なお、密着強度の測定は、室温(R.T;25℃)下と、150℃の高温下とで行った。その結果を
図6に示す。
【0075】
図6に示されるように、窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板の標準品をそのまま用いた比較例1では、密着強度が極めて低かった。
【0076】
また、比較例2の処理を施したセラミックス基板の表面に封止樹脂28の成形体を形成した比較例2における密着強度の評価では、室温下、高温下のいずれも密着強度が倍近くに向上したが、未だ十分な強度とは言えなかった。
【0077】
また、比較例3の処理を施したセラミックス基板の表面に封止樹脂28の成形体を形成した比較例3における密着強度の評価では、室温下、高温下のいずれも密着強度が向上したが、半導体モジュールの耐熱、耐久性を十分に付与する上での目標値となる25MPaには達しなかった。
【0078】
一方、実施例1の処理を施したセラミックス基板の表面に、封止樹脂28の成形体を形成した実施例1における密着強度の評価では、室温下、高温下のいずれも密着強度が顕著に向上し、半導体モジュールの耐熱、耐久性を十分に付与する上での目標値となる25MPaを超えることができた。
【0079】
このように、ウェットブラスト処理によって、比較的大きな凹凸を形成した後、酸化処理し、更に、エッチング処理によって、比較的微細な凹凸を形成し、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが0.15μm以上、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上となるようにすることにより、絶縁性基板と封止樹脂との密着強度を飛躍的に高めることができることがわかった。
【0080】
(試験例2)
窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板(標準品)を用い、ウェットブラス処理の条件(処理時間)を変化させた以外は実施例1と同様の製造方法により、幅300μmの範囲で求めた平均粗さを変えたものを作成した。なお、幅3μmの範囲で求めた平均粗さは、一部を除いて、いずれも0.02μm以上であった。
【0081】
こうして得られたそれぞれのセラミックス基板の表面に、封止樹脂28の成形体を形成し、室温において、
図5に示した方法で密着強度を測定した。その結果を
図7に示す。
図7において、黒丸は、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm以上のものを示し、黒三角は、幅3μmの範囲で求めた平均粗さが0.02μm未満のものを示している。
図7の縦軸が、幅300μmの範囲で求めた平均粗さの値を表し、横軸が密着強度(MPa)の値を表している。
【0082】
図7に示されるように、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが高くなるほど、密着強度は向上する傾向があった。しかしながら、幅300μmの範囲で求めた平均粗さが2μm近くになると、密着強度はそれ以上には向上しない傾向があった。
【0083】
したがって、幅300μmの範囲で求めた平均粗さは、0.15~2.0μmが好ましく、0.7~2.0μmがより好ましく、1.1~2.0μmが最も好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0084】
11 インサートケース
12 外部端子
13 ケース
14 接着剤
21 絶縁回路基板
22 金属板
23 絶縁性基板
24 回路パターン
25,26 半導体素子
27 ボンディングワイヤ
28 封止樹脂
29 はんだ
30 結晶粒の表面
50、50a 半導体モジュール