(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】可搬型浄水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20220603BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
C02F1/44 B
B01D65/06
(21)【出願番号】P 2018086613
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000147291
【氏名又は名称】株式会社清水合金製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】濱野 治男
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幸男
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-323665(JP,A)
【文献】特開2011-183320(JP,A)
【文献】特開平06-269778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 53/22
61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初動運転時に膜モジュールでの膜濾過開始に合わせて膜濾過水に
次亜塩素酸ナトリウムを多量に注入するように次亜注入ポンプを作動させるとともに、
次亜塩素酸ナトリウムが多量に注入された膜濾過水を逆洗水槽に送り、
前記逆洗水槽に接続された膜逆洗排水ラインを経由して装置外へ排出することを特徴とする可搬型浄水処理装置。
【請求項2】
前記膜モジュールでの膜濾過開始に合わせて前記膜モジュール内に充填されている膜の保管液を
前記逆洗水槽に送り、この保管液を
次亜塩素酸ナトリウムが多量に注入された膜濾過水とともに
前記逆洗水槽に接続された
前記膜逆洗排水ラインを経由して外部に排出する請求項1に記載の可搬型浄水処理装置。
【請求項3】
前記膜モジュールで膜濾過した膜濾過水へ注入する
次亜塩素酸ナトリウムの注入量は、
前記次亜注入ポンプの最大注入能力又はPLC最大通信能力の何れか低い方に基づいて設定される請求項1又は2に記載の可搬型浄水処理装置。
【請求項4】
請求項1における可搬型浄水処理装置において、装置外に給水する膜濾過水には、
前記膜濾過水の流量が設定流量に達した以降に飲用に適した量の
次亜塩素酸ナトリウムの注入を開始する可搬型浄水処理装置。
【請求項5】
請求項1における可搬型浄水処理装置において、前記逆洗水槽に充水する膜濾過水には、
前記膜濾過水の流量が設定流量に達した以降に逆洗に適した量の
次亜塩素酸ナトリウムの注入を開始する可搬型浄水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過疎化等により人口が減少した小規模集落の簡易水道施設や飲料水供給施設等の浄水装置としての使用に適した可搬型浄水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本全国の水道普及率は、平成23年には97.5%に達し、国民皆水道が略実現している。その一方で、我国の人口は平成22年をピークに減少に転じ、この人口減少に歩を合わせて全国の市町村面積の約半分を占める過疎地域の多くでは、少子高齢化による限界集落化が進んでいる。
【0003】
水道事業は原則として水道料金で事業の運営経費をまかなう必要があるが、このような限界集落化が進んだ小規模集落では、水道利用者数の減少に伴って水道料金収入が激減し、事業効率が悪化している。小規模集落であっても衛生的な飲料水・生活用水の確保は必要不可欠であるが、このような小規模集落は険しい山間に点在し、浄水施設から遠く離れているため、既存施設の老朽化に伴う更新はおろか、既存施設の維持ですら経済的に困難になりつつある。
【0004】
このため、小規模集落を対象とした簡易水道事業では、従来の浄水施設が有していた沈澱池や濾過池に代え、施設を小規模に構成できるとともに、維持管理の容易な膜濾過装置により原水の浄水を行う簡易水道施設が急速に増加してきている。これらの浄水施設では、建屋内にストレーナ、膜濾過装置、次亜塩素酸ナトリウム注入装置、膜濾過装置用の逆洗水槽、制御盤等を設け、自動運転により従来の浄水施設と同様の機能を発揮することができる。
【0005】
一方で、これらの浄水施設では、建屋内に前述した機器を分散して設置しているために建屋の建築面積が大きくなる結果、建築コストも無視できない。特に山間部の小規模集落における一日当たりの所要水量は50(m3/日)以下と極少量であるため、さらに効率的に浄水施設を維持、管理することが必要であり、従来の浄水施設とは異なる新たな給水手法が求められている。
【0006】
新たな給水手法の一つとして、定置型の小規模な水量を対象にした浄水装置が注目されている。このような浄水装置としては、例えば、特許文献1の浄水装置が知られている。この浄水装置は、直方体のフレーム内に、原水供給路と、原水供給路に配置されて原水を供給する原水供給手段と、原水供給路を二以上の複数に分岐させた原水分岐路と、複数の原水分岐路に配置された原水を浄化する複数の中空糸膜モジュールと、複数の中空糸膜モジュールの原水を浄化する膜手段の上流側に接続した排出路と、複数の中空糸膜モジュールの下流側に接続した複数の浄水分岐路と、複数の浄水分岐路を合流した浄水路とを備えるとともに、原水供給手段、並びに原水供給路、原水分岐路、排出路、浄水路に設けた電動バルブの開閉を制御し、浄水装置を自動運転する制御手段等を有している。
【0007】
また、この浄水装置は、通常濾過運転時には、複数の中空糸膜モジュールに原水を並列に供給して、複数の中空糸膜モジュールで原水を濾過することにより浄水を製造し、逆洗浄運転時には、一の中空糸膜モジュールに原水の水圧を脈動させながら原水を供給して濾過し、得られた浄水の少なくとも一部を、逆洗水として、他の中空糸膜モジュールの下流側から上流側に逆流させて、他の中空糸膜モジュールを逆洗浄することができ、これを中空糸膜モジュールが交互に行うことにより濾過能力を回復させることができる。
【0008】
このように、特許文献1の浄水装置は、幅1400mm×奥行き1000mm×高さ1985mmの直方体のフレーム内に、浄水装置として必要な最小限の機器がコンパクトに収納されているため、設置に必要な面積を大幅に削減することができるとともに、高い逆洗効率により衛生的な浄水を安定的に供給することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1の浄水装置の浄水能力は5~6(m3/hr)程度であり、本来、小規模集落で必要とされる浄水能力である50(m3/日)を大幅に上回っており、装置が十分に小型化されていない。
【0010】
前述のように、限界集落化が進んだ小規模集落は険しい山間に点在しているために道路事情が悪く、特に浄水装置を設置する取水源付近においてはこの傾向が著しくなる。所要を超える浄水能力を有する装置は必然的に大型化し、搬入時、設置時の困難性をより大きなものにするとともに、流量を絞って運用する結果、運用経費の上昇を招くことになる。
【0011】
また、特許文献1の浄水装置では、一の中空糸膜モジュールで原水を濾過処理して得られた浄水の少なくとも一部を、そのまま逆洗水として他の中空糸膜モジュールの下流側から上流側に逆流させるとともに、マイクロバブルを混入させて濾過膜を逆洗浄している。
【0012】
しかしながら、中空糸膜の濾過性能の低下を抑制又は濾過性能を回復させるために一般に行われる方法である、濾過と逆方向に処理水や空気を流す逆洗、中空糸膜モジュールを気泡に曝すエアスクラビング、中空糸膜面に沿って水を高速で流すフラッシング洗浄等の物理的な手法では、中空糸膜に強固に付着したファウリング物質(有機物)を完全に除去することはできない。このため、特許文献1の浄水装置では、装置から中空糸膜を取り外し、工場へ持ち帰ってファウリング物質を除去するために薬品溶液を使用して膜モジュールを洗浄する薬品洗浄の実施間隔が短くなる問題もある。
【0013】
このため、本発明者らは、限界集落化が進んだ小規模集落の所要水量に適合した浄水供給能力を備えるとともに運搬、設置が容易な小型軽量に構成され、さらには、中空糸膜モジュールの薬品洗浄の実施間隔を長くして運用コストを削減することができる浄水装置の実現に向けて鋭意検討を行ってきた。
【0014】
その結果、原水を供給する原水供給手段を備えるとともに、直方体のフレーム内に、原水を浄化する中空糸膜モジュールを備えた浄水手段と、浄水手段が浄化した水に消毒用の次亜塩素酸ナトリウム(以下、「次亜」という。)を注入する消毒手段と、次亜が注入された浄水を中空糸膜モジュールの逆洗用に貯留する逆洗水槽を備えた逆洗手段と、各手段を連結する管路と、原水供給手段、管路に設けた電動バルブ及び消毒手段の作動を制御する制御手段とを収納した可搬型浄水処理装置を開発した。
【0015】
この可搬型浄水処理装置は、所要の浄水供給能力に適合させて中空糸膜モジュールを1本だけ備えるとともに、この中空糸膜モジュールを直方体のフレーム内の縦方向空間スペースに立てた状態で配設したことによるフレームの底面面積の最小化や、逆洗水槽をフレーム内の上部空間スペースに配設したことによるフレーム内空間の有効利用等によって小型、軽量化を図り、直方体のフレーム寸法を幅650mm×奥行き800mm×高さを1750mm以下に収めるとともに、運搬時の重量を175kgと軽量に抑えることができた。これにより、この可搬型浄水処理装置は、一般的な建屋に使用される幅700mmの片扉から人力による搬入が可能であるため、既存の建屋の利用が可能であり、専用の建屋を新たに設ける必要がない。さらに、装置の電源として家庭用AC100Vコンセントが使用可能であるので、装置の設置に伴って新たに配線工事を行う必要がなく、また、電源がない場合でも市販の小型発電機を用いて運転することができる。
【0016】
このように、この可搬型浄水処理装置は小型に構成され、移動できる浄水場として必要な機能を備えるとともに、次亜を含んだ逆洗水で中空糸膜モジュールを逆洗するようにしたことにより、中空糸膜に強固に付着したファウリング物質(有機物)を分解、除去し易くなった結果、中空糸膜モジュールの薬品洗浄間隔が延伸して長期間安定して自動運転を続けることができるため、小規模集落の老朽化した既存施設の代替用として、また災害発生時の緊急用として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者らが開発した可搬型浄水処理装置は、前述したような特長を有しているが、現状、さらなる改善が求められている事項がある。
【0019】
その第1は、膜モジュール内の膜の保管液の排出と、次亜注入系統内に存在する空気や水、劣化した次亜の除去の自動化である。
新しい膜モジュールや薬品洗浄後の膜モジュールには、PVDF製MF膜などの中空糸膜が乾燥することを防止するため、膜モジュール内に膜の保管液が充填されているが、この保管液は給水に適さないので、濾過運転に先立って排水する必要がある。
また、新たに可搬型浄水処理装置の使用を開始する場合には、次亜注入系統(次亜注入ラインや次亜注入ポンプ等)が空の状態なので、使用に先立って次亜注入系統内の空気抜きをする必要があり、可搬型浄水処理装置を保管する場合には、次亜注入系統内に水を充填して次亜タンク内は空にするので、使用の再開に先立って次亜注入系統内の水抜きや空気抜きをする必要があり、さらには、何らかの理由により可搬型浄水処理装置の運転を一定期間停止した場合には、次亜は分解しやすい物質なので、運転の再開に先立って次亜注入系統内の劣化した次亜を除去する必要がある(以下、一括して「空気抜き等」という)。
【0020】
従来は、以下の通り装置を手動操作することで、膜の保管液の排水や次亜注入系統の空気抜き等を実施している。
先ず、逆洗水槽のドレン弁を開放した後に装置を作動させて膜モジュールに原水を供給し、供給した原水により膜モジュール内の膜保管液を押出して、逆洗水槽経由で装置外に排出するようにしている。膜の保管液が膜モジュール内から完全に排水された時点で装置を停止する。
【0021】
次に、通常運転時よりも多量の次亜を注入するように次亜注入ポンプの作動レート(回/分)を変更してから装置の運転を開始し、多量の次亜を供給して短時間で次亜注入系統内の空気抜き等が行えるようにしている。このように多量の次亜を注入するため、次亜注入系統の空気抜き等が完了した以降の膜濾過水には多量の次亜が注入される結果、高濃度の次亜を含むことになるので、給水することが無いように逆洗水槽を経由して装置外に排出している。次亜注入系統内に次亜が充填されたことを次亜注入部での次亜の挙動によって確認した後、装置を停止する。
【0022】
その後、次亜注入ポンプの作動レートを通常運転時の作動レートに設定変更した後、逆洗水槽のドレン弁を閉止する。このように、装置の運転を手動操作で行う必要があるので、煩雑であるとともに操作ミスが発生するおそれもある。
【0023】
改善が求められている事項の第2は、給水する膜濾過水(飲料水)と膜モジュールの逆洗用に逆洗水槽に充水する膜濾過水(逆洗水)の次亜濃度の適正化である。
可搬型浄水処理装置では、濾過流量は流量計及び比例制御弁により一定の流量に維持されており、この一定に維持された濾過流量に対して適切な量の次亜が注入されている。次亜注入ポンプによる次亜の注入は、給水工程や充水工程が開始され、取水ポンプが運転開始して原水の取水を始めるのと同時に開始されるが、取水ポンプの作動開始直後はどうしても取水量が少ないのに対し、次亜注入ポンプからは設定した量の次亜が注入される。このため、濾過水流量が少ない取水ポンプの作動開始直後は、膜濾過水の流量に対して過剰な次亜が注入される結果、膜濾過水に含まれる次亜濃度が高濃度となり、装置内の配管や金属製の部品には劣化や腐食のおそれがあり、特に金属製バルブの接液部位では高濃度の次亜の影響により腐食のおそれがある。
【0024】
本発明は以上の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、初動運転時に膜モジュールに充填されている膜の保管液の排水と、次亜注入系統の空気抜き等を自動的に実施することができるとともに、給水工程と充水工程の開始直後における膜濾過水の次亜濃度を抑制することができる可搬型浄水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、初動運転時に膜モジュールでの膜濾過開始に合わせて膜濾過水に次亜塩素酸ナトリウム(以下、単に「次亜」という。)を多量に注入するように次亜注入ポンプを作動させるとともに、次亜が多量に注入された膜濾過水を逆洗水槽に送り、逆洗水槽に接続された膜逆洗排水ラインを経由して装置外へ排出することを特徴とする可搬型浄水処理装置である。
【0026】
請求項2に係る発明は、膜モジュールでの膜濾過開始に合わせて前記膜モジュール内に充填されている膜の保管液を逆洗水槽に送り、この保管液を次亜が多量に注入された膜濾過水とともに逆洗水槽に接続された膜逆洗排水ラインを経由して外部に排出する可搬型浄水処理装置である。
【0027】
請求項3に係る発明は、膜モジュールで膜濾過した膜濾過水へ注入する次亜の注入量は、次亜注入ポンプの最大注入能力又はPLC最大通信能力の何れか低い方に基づいて設定される可搬型浄水処理装置である。
【0028】
請求項4に係る発明は、装置外に給水する膜濾過水には、膜濾過水の流量が設定流量に達した以降に飲用に適した量の次亜の注入を開始する可搬型浄水処理装置である。
【0029】
請求項5に係る発明は、逆洗水槽に充水する膜濾過水には、膜濾過水の流量が設定流量に達した以降に逆洗に適した量の次亜の注入を開始する可搬型浄水処理装置である。
【発明の効果】
【0030】
請求項1に係る発明によると、次亜が多量に注入された膜濾過水を給水に供することなく、既存の逆洗水槽を利用して確実に装置外に排出することができるので、飲用に適した量の次亜を注入した膜濾過水の給水を早期に開始することができる。
【0031】
請求項2に係る発明によると、膜の保管液と多量に次亜を注入された膜濾過水とを同時に排出することができるので、飲用に適した量の次亜を注入した膜濾過水の給水を早期に開始することができる。
【0032】
請求項3に係る発明によると、次亜注入系統内に存在する空気や水、劣化した次亜の除去を自動的に操作ミスをすることなく最短時間で実施し、飲用に適した量の次亜を注入した膜濾過水の給水を早期に開始することができる。
【0033】
請求項4に係る発明によると、膜濾過水が設定流量に達した以降、飲用に適した量の次亜の注入を開始するようにしているので、飲用に適した量の次亜を含む安全な膜濾過水を給水することができるとともに、膜濾過水の流量が少ないにも係わらず一定量の次亜を注入することにより次亜濃度が高くなることがないため、装置内の配管や金属製の部品に劣化のおそれがない。
【0034】
請求項5に係る発明によると、逆洗水槽に充水する膜濾過水には、膜濾過水の流量が設定流量に達した以降に逆洗に適した量の次亜の注入が開始されるので、その逆洗水を用いて膜モジュールの逆洗を実施することにより、装置内の配管や金属製の部品を劣化させることなく、濾過膜の膜表面や膜細孔内に付着した濾過対象物質を効果的に除去して濾過膜の濾過能力を回復させることができるとともに、膜モジュールの薬品洗浄間隔を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明における可搬型浄水処理装置の一実施形態を説明する模式図である。
【
図2】(a)
図1の可搬型浄水処理装置の実装例の左側面図である。(b)
図1の可搬型浄水処理装置の実装例の正面図である。(c)
図1の可搬型浄水処理装置の実装例の右側面図である。
【
図3】可搬型浄水処理装置の初動運転時における従来の操作フローと改善後の操作フローを比較した図である。
【
図4】
図1の可搬型浄水処理装置の初動運転時における作動状態を説明する模式図である。
【
図5】
図1の可搬型浄水処理装置の給水工程における作動状態を説明する図である。
【
図6】(a)取水ポンプの運転時間と濾過流量の関係から設定流量を決定する基本概念を説明する模式図である。(b)実際の取水ポンプの運転時間と濾過流量の関係を説明する図である。
【
図7】
図1の可搬型浄水処理装置の充水工程における作動状態を説明する図である。
【
図8】
図1の可搬型浄水処理装置の逆洗工程における作動状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明における可搬型浄水処理装置の構成について図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の可搬型浄水処理装置の一実施形態の模式図である。
図1において、可搬型浄水処理装置11は、1次側に原水ライン12を、2次側に給水ライン13を有するMF(精密濾過膜)又はUF(限外濾過膜)の濾過膜(フィルタ)を備えた膜モジュール14と、膜モジュール14が濾過処理した膜濾過水に次亜を注入する次亜注入装置15と、膜モジュール14が濾過処理した膜濾過水を給水ライン13に接続した充水ライン16を介して流入させて貯留する逆洗水槽17と、この逆洗水槽17に貯留した膜濾過水を逆洗ポンプ18を介して膜モジュール14に逆洗洗浄用の逆洗水として送水する逆洗ライン19と、膜モジュール14をエアスクラビングするエアを供給するエア供給装置20と、膜モジュール14を逆洗洗浄した逆洗水とエアスクラビングしたエアを膜モジュール14から排出する逆洗水排水ライン21と、逆洗ライン19と逆洗水排水ライン21とを連結して逆洗水槽17内に貯留した膜濾過水を可搬型浄水処理装置11の外部に排出する膜逆洗排水ライン22と、原水を取水して原水ラインを介して膜モジュール14に供給する取水ポンプ23と、可搬型浄水処理装置11の運転を制御する制御部24(
図1では図示せず。)とを備えている。また、
図1に示すように、取水ポンプ23を除いた各部は、フレーム25内に収納されている。
【0037】
原水ライン12は、取水ホース接続口27と膜モジュール14の1次側を連結する管路であり、取水ポンプ23が取水した原水を膜モジュール14の1次側に供給する。原水ライン12には、プレフィルタ装置であるストレーナ28と、原水ライン12を流れる原水の流量を調整する流量調整弁29と、原水ライン12を流れる原水の流量を計測する流量計30とを設けている。
【0038】
ストレーナ28は、原水が膜モジュール14に流入するに先立って、原水に含まれるゴミ(土、砂、その他夾雑物)を除去するものであり、本例では、目開き寸法200μmのディスク型ストレーナを使用している。また、ストレーナ28には、差圧計31が装備されており、ストレーナ28の目詰まり異常を検知することができる。
【0039】
流量計30が計測した流量データは制御部24へ送信され、制御部24は、原水ライン12を流れる原水の流量が一定となるように流量調整弁29の開度を制御している。本実施例では、流量調整弁29には比例制御弁を、流量計30には超音波流量計を使用している。
【0040】
給水ライン13は、膜モジュール14の2次側に取り付けられ、膜モジュール14が濾過処理した膜濾過水を膜モジュール14の外部に流出させるための管路であり、その先端は給水ホース接続口33を連結されており、膜モジュール14が濾過処理した膜濾過水を可搬型浄水処理装置11の外部に給水することができる。また、給水ライン13には制御部24により開閉操作される電動弁34を設け、膜モジュール14が濾過処理した膜濾過水の装置外への給水を制御可能にしている。なお、給水ホース接続口33には給水ホース35を接続し、膜濾過水を図示しない配水池等に供給する。
【0041】
膜モジュール14は、MF又はUFの中空糸膜を収納しており、原水に含まれる一般細菌、病原菌、懸濁物質(SS)などを膜濾過して除去する。本例では、公称孔径0.1μmで膜面積23m2のMF膜フィルタを使用している。膜モジュール14には、逆洗水出口37が設けられており、内部に収納するMF又はUFの中空糸膜を逆洗洗浄した逆洗水やエアスクラビングしたエアを膜モジュール14の外部に排出することができる。なお、膜モジュール14にも差圧計38を装備し、膜モジュール14の目詰まり異常を検知することができる。
【0042】
次亜注入装置15は、膜モジュール14が濾過処理した膜濾過水に消毒用の次亜を注入する装置であり、次亜注入部40と、次亜タンク41と、次亜注入部と次亜タンクを接続する次亜注入ライン42と、次亜注入ライン42に設けた次亜注入ポンプ43と逆止弁44とを備えている。
【0043】
次亜注入部40は、給水ライン13を流れる膜濾過水に次亜を注入する部位であり、給水ライン13の途中にT字形状に設けられている。次亜注入部40では、給水ライン13が次亜注入部40を貫通する流路の内周面から突出した次亜注入用のパイプにより、流路を流れる膜濾過水に次亜を直接注入するように構成されている。
【0044】
次亜タンク41は、消毒用の次亜を貯留するタンクであり、本実施例では、容量25(L)のポリエチレン製角型タンクを使用し、水位センサ45を備えている。
【0045】
次亜注入ポンプ43は、次亜タンク41に貯留された次亜を次亜注入部40に送液するためのポンプであり、本実施例では、φ4×20(W)のダイアフラム式定量ポンプを使用し、制御部からの制御により、例えば2回/分のレートで間欠的に作動させている。
【0046】
充水ライン16は、給水ライン13に接続し、膜モジュール14が濾過処理した膜濾過水を逆洗水槽17に送水するための管路であり、逆洗水槽17への送水を制御するため、制御部24により開閉操作される電動弁47を設けている。
【0047】
逆洗水槽17は、充水ライン16を介して供給される膜濾過水を逆洗水として貯留する容器であり、水位センサ48を備え、可搬型浄水処理装置11の上部位置に配置されている。逆洗水槽17は、内部に膜濾過水を貯留し、膜モジュール14に収納されたMF又はUFのフィルタを逆洗洗浄する際にその貯留した濾過水を逆洗水として供給する役割を有している。本例では、逆洗水槽17はポリエチレン樹脂製であり、容量60Lの角型に成形されている。
【0048】
逆洗ポンプ18は、逆洗水槽17内に貯留した逆洗水を膜モジュール14の2次側に圧送し、膜モジュール14に収納されMF又はUFのフィルタを逆洗洗浄するためのポンプであり、逆洗ライン19に設けられている。本実施例では、逆洗ポンプ18として、ステンレス製の横軸渦巻ポンプ(0.4kW、32A)を使用している。
【0049】
逆洗ライン19は、逆洗水槽17と充水ライン16との間を連接し、給水ライン13を介して膜モジュール14の2次側へ逆洗水槽17から逆洗水を送水するための管路であり、制御部が運転を制御する逆洗ポンプ18と、逆止弁49とを設けている。
【0050】
エア供給装置20は、膜モジュール14を逆洗洗浄する際に膜モジュール14にエアスクラビング用のエアを供給する装置であり、エアを圧縮するコンプレッサ51と、コンプレッサ51と膜モジュール14の1次側との間を接続するエア供給ライン52と、エア供給ライン52に設けた逆止弁53とを備えている。コンプレッサ51の運転は、制御部により制御され、逆洗ポンプ18の運転と合わせて膜モジュール14にエアを供給する。なお、本実施例では、コンプレッサ51として、オイルフリー式レシプロコンプレッサ(0.4kW)を使用している。
【0051】
逆洗水排水ライン21は、膜モジュール14の逆洗水出口37と排水ホース接続口54との間を接続する管路であり、膜モジュール14を逆洗洗浄した後の洗浄水、及びエアスクラビングした後のエアを可搬型浄水処理装置11の外部に排出するための管路である。また、逆洗水排水ライン21には、制御部により開閉を制御される電動弁57を設け、逆洗水とエアの装置外部への排出を制御している。排水ホース接続口54には排水ホース55を接続し、逆洗水及びエアを可搬型浄水処理装置11の外部の適宜な場所に排出する。
【0052】
膜逆洗排水ライン22は、逆洗ライン19と逆洗水排水ライン21とを連結する管路であり、逆洗水槽17内に貯留した膜の保管液や膜濾過水を逆洗水排水ライン21を介して可搬型浄水処理装置11の外部に排出するための管路である。また、膜逆洗排水ライン22には、制御部により開閉を制御される電動弁58を設け、逆洗水槽17に貯留した膜濾過水等の排出を制御している。
【0053】
取水ポンプ23は、取水源59から原水を取水して、原水ライン12を介して膜モジュール14の1次側に原水を圧送するポンプであり、取水源59の原水中に完全に水没させた状態で使用する。取水ポンプ23と取水ホース接続口27との間は、取水ホース60により連結されている。本実施例では、取水ポンプ23として、ステンレス製の水中ポンプ(0.7kW、35L/min)を使用している。
【0054】
なお、本実施例では、以上の各ラインは、樹脂製ホースで構成されている次亜注入ライン42を除き、内径25Aの耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニル(HIVP)製であり、また、バルブは銅鋳物(CAC)製である。
【0055】
制御部24は、可搬型浄水処理装置11を自動的に運転するための装置であり、流量計30の信号に基づいて流量調整弁29の開度を調整し、一定流量の原水を膜モジュール14に供給するとともに、PLC(Programmable Logic Controller)を使用したシーケンス制御により、予め設定した時間間隔毎に膜モジュール14の逆洗洗浄とエアスクラビング洗浄を行い、膜濾過装置の濾過処理能力を回復させている。
【0056】
可搬型浄水処理装置11では、デッドエンド濾過方式(全量濾過)により膜濾過処理を行っているため、膜モジュール14に収納された濾過膜表面に濾過対象物質が堆積するので、定期的に膜モジュール14に収納された濾過膜の逆洗洗浄とエアスクラビング洗浄を行って、堆積した濾過対象物質を除去し、濾過膜の濾過能力を回復させることが不可欠である。
【0057】
このため、制御部24は、プログラムされた制御シーケンスや、逆洗水槽17に設置した水位センサ48及び図示しない配水池などに設置した水位センサからの信号等に基づき、逆洗ポンプ18、次亜注入ポンプ43、取水ポンプ23の作動と停止を制御するとともに、これらの制御に伴って電動弁34、47、57、58の開閉を制御している。
【0058】
また、制御部24は、
図2に示すように、可搬型浄水処理装置11の上部位置で逆洗水槽17の正面側に配置され、その正面に本装置の操作・表示部61を設けているので、可搬型浄水処理装置11を縦型に構成したことと併せて、装置の操作及び表示部の確認を容易に行うことができる。
【0059】
フレーム25は、本実施例ではステンレス鋼(SUS)の形材を組み合わせて製作されており、フレーム25の内部に各部を組み込んだ状態の外観は
図2に示すとおりとなり、フレーム25の底部には搬送手段としてキャスター62を設けている。
【0060】
以上のように構成された可搬型浄水処理装置11は、幅約650mm、奥行き約800mm、高さ約1750mmの縦型のフレーム25に収納された状態で小型に構成されるとともに、運搬時の質量が約175kgと軽量であるため、建屋に一般的に使用される幅700mmの片扉から人力による搬入が可能であるだけでなく、狭小スペースでも移動や収納が容易であり、また、限られたスペースでも複数台を設置することができる。
【0061】
次に、本発明の可搬型浄水処理装置の基本動作の説明と併せ、特に、初動運転時に膜モジュールに充填されている膜の保管液の排水と次亜注入系統の空気抜き等を実施する動作、並びに、給水工程及び充水工程の開始直後において膜濾過水の次亜濃度を適正化する動作について詳細に説明する。
【0062】
可搬型浄水処理装置は、通常、給水工程、充水工程、逆洗工程の3工程を順次繰り返して運転される。しかしながら、可搬型浄水処理装置を導入後に初めて運転する場合や、新しい膜モジュールや薬品洗浄した膜モジュールに交換した場合等には、給水に供することなく膜濾過を開始する初動運転を行う必要がある。
【0063】
初動運転は、給水工程を行う前に、膜モジュールに充填されている膜の保管液を排水するとともに、次亜注入系統の空気抜き等を行う工程であり、初動運転を実施することにより可搬型浄水処理装置を給水可能な状態にすることができる。
【0064】
また、可搬型浄水処理装置が安定して連続的に運転されている状態では、次亜は常に次亜注入部40の次亜注入用のパイプの先端まで達しているが、新たに可搬型浄水装置の使用を開始する場合には、次亜注入系統は空の状態なので、使用に先立って次亜注入系統内の空気抜きをする必要がある。また、可搬型浄水装置を保管する場合には、次亜注入系統内に水を充填して次亜タンク内は空にするので、使用の再開に先立って次亜注入系統内の水抜きや空気抜きをする必要がある。さらには、何らかの理由により可搬型浄水処理装置の運転を一定期間停止した場合には、次亜は分解しやすい物質なので、運転の再開に先立って次亜注入系統内の劣化した次亜を除去する必要がある。
【0065】
このため、通常の運転レートで次亜注入ポンプ43を作動させて次亜を供給して次亜注入系統内に存在する空気や、水や、或いは劣化した次亜を押出し、空気抜き等を行おうとすると、次亜が次亜注入部40の次亜注入用のパイプの先端に達するまでに長時間を要するので、次亜注入ポンプ43の作動レートを変更して多量の次亜を供給し、早期に空気抜き等を行う必要がある。
【0066】
従来は、
図3(a)に示すように、11工程から成る手動操作により膜の保管液の排出と次亜注入系統の空気抜き等を行っていた。しかしながら、このような手動操作は煩雑で面倒であるだけでなく、操作ミスなどにより次亜注入ポンプ43の運転レートを通常の運転レートに戻さなかった場合には、高濃度の次亜を含む膜濾過水が飲用として装置外に給水されるおそれがある。
【0067】
そこで、本発明の可搬型浄水処理装置では、逆洗水槽17を有効利用できるようにし、初動運転における膜の保管液の排出と次亜注入系統の空気抜き等を略自動的に実施可能として、これらの問題を解決している。以下に、本発明の可搬型浄水処理装置の初動運転時の作用、効果を詳細に説明する。
【0068】
初動運転では、
図3(b)に示すように、手動操作により膜逆洗排水ライン22に設けた電動弁58を開位置にした後、手動操作を選択してから保管液排水を操作する。これにより、
図4に示すように、取水ポンプ23が作動して膜モジュール14に1次側から原水を供給するので、供給された原水が膜モジュール14内に充填されている膜の保管液を2次側から押し出して排水する。なお、電動弁58は、手動弁としても良い。
【0069】
これと併せて、次亜注入ポンプ43を作動させて次亜を供給するが、次亜を多量に供給して早期に次亜注入系統の空気抜き等を行うため、通常の供給量の10倍以上、好ましくは通常の供給量の100倍以上の次亜を供給する。このため、次亜の注入量を可能な限り多くする必要があるので、次亜の注入量は、次亜注入ポンプの最大注入能力又はPLC最大通信能力の何れか低い方に基づいて設定する。本実施例では、次亜注入ポンプの最大作動レートが360回/分であるのに対し、PLCの最大通信能力が300回/分であるため、制御部のPLCの最大通信能力に基づいて、次亜注入ポンプの作動レートを通常の2回/分の150倍となる300回/分に設定した。なお、
図4において、流体が流れているラインは太い実線で、流体が流れていないラインは破線で、開位置にある電動弁は白色で、閉位置にある電動弁は黒色で、作動しているポンプは白色で、停止しているポンプは黒色で示している(以後、同じ)。
【0070】
初動運転の開始直後、膜モジュール14の2次側から排出されるのは膜モジュール14に供給された原水に押出された次亜を含まない膜の保管液であるが、給水には適さないので充水ライン16を介して逆洗水槽17に送水する。この時、膜逆洗排水ライン22に設けた電動弁58は開位置にあり、また逆洗水排水ライン21に設けた電動弁57は閉位置にあるので、逆洗水槽17に送水された膜の保管液は逆洗ライン19、膜逆洗排水ライン22及び逆洗水排水ライン21を介して外部に排出される。
【0071】
その後、次亜注入ポンプ43により次亜が高い作動レートで供給され、次亜注入系統の空気抜き等が進行すると、次亜は次亜注入部40の次亜注入用のパイプの先端に達して膜の保管水や初期の膜濾過水に注入されるので、その時点で次亜注入ポンプ43を停止して次亜の連続注入を停止するとともに、次亜注入ポンプの作動レートが通常の値に変更される。高濃度の次亜が注入された膜の保管水や初期の膜濾過水は、逆洗水槽17を経由して装置の外部に排出されるので、外部に給水されることはない。
【0072】
その後、膜の保管液や高濃度の次亜が注入された初期の膜濾過水が逆洗水槽17を経由して装置の外部に完全に排出された時点で取水ポンプ23の運転を停止し、逆洗水槽17内の膜濾過水が完全に排水された時点で、膜逆洗排水ライン22に設けた電動弁58を手動操作により閉位置にすると初動運転を終了する。
【0073】
以上の運転は、電動弁58の開閉操作を除き、制御部24の制御により自動的に行われるので、次亜が次亜注入部40の次亜注入用のパイプの先端に達するまでの時間、膜の保管液が完全に除去されるまでの時間を事前に計測しておき、それらの時間が経過した時点で所要の指令が発せられるようにプログラミングする。本実施例では、従来の手動操作時の実績に基づいて、次亜供注入系統の空気抜き等の運転を5分間、膜の保管液の排水運転を15分間実施するようにプログラミングしている。
【0074】
このように、初動運転を自動化したことにより、
図3のフローチャートに示すように、従来の手動操作による初動運転では11工程の操作が必要であったが、次亜注入系統の空気抜き等の運転及び膜の保管液の排水運転を制御部24により自動化したことにより、4工程の操作に減じることができ、操作の煩雑さを解消することができた。
【0075】
また、従来の手動操作では、設定忘れや設定ミスにより次亜注入ポンプ43の運転レートが適正な通常のレートに設定されなかった場合には、高濃度の次亜を含む膜濾過水が給水されるおそれがあったが、自動化したことによりこのような問題の発生を排除することができる。
【0076】
以上説明した初動運転は、主として新たに可搬型浄水処理装置の使用を開始する場合や、保管しておいた可搬型浄水処理装置の使用を再開する場合に実施する必要があるものであり、可搬型浄水処理装置が安定して連続的に運転されている場合には行う必要がない。しかしながら、整備、点検等のため、可搬型浄水処理装置の運転を一定期間停止した場合には、運転の再開に先立って初動運転を行い、次亜注入系統内に留まって劣化した次亜を給水工程に先立って除去する必要がある。
【0077】
初動運転を終了した後には、可搬型浄水処理装置から外部に膜濾過した膜濾過水を供給する給水工程に移行する。この給水工程では、
図5に示すように、取水ポンプ23を作動させて取水源59から原水を膜モジュール14に圧送し、濾過処理した膜濾過水を外部の図示しない配水池等に給水するが、従来は、取水ポンプ23の作動開始と同時に次亜注入ポンプ43の作動も開始していた。
【0078】
このとき、次亜は、初動運転により次亜注入部40の次亜注入用のパイプの先端に達しているため、次亜注入ポンプ43が作動すると直ちに設定量の次亜の注入が開始されるのに対し、取水ポンプ23が作動を開始しても、原水の供給量は直ちに設定量となることはなく、設定量に達するまでには一定の時間を要する。このため、給水工程の開始直後には、濾過流量が少なく、膜濾過水の次亜濃度が高濃度になるので、次亜注入部40付近の配管が劣化したり腐食したりするおそれがあり、また、電動弁の接液部位に腐食が発生するおそれもある。
【0079】
このため、取水ポンプ23のある運転期間における膜濾過水の総量に対する次亜注入量の総量の比率が、取水ポンプ23の作動開始直後に濾過流量が増加する間であっても、濾過流量が安定して一定となった間であっても同じになるように次亜注入ポンプ43の作動開始時点を設定することとした。
【0080】
この次亜注入ポンプ43の作動開始時点を設定する考え方について、以下に詳述する。
図6は、横軸に取水ポンプの運転時間を、縦軸に膜濾過水の濾過流量をとり、取水ポンプの運転時間と濾過流量との関係を示している。いま、濾過流量が、
図6(a)に模式的に示すように直線状に増加する状態であったとした場合、濾過流量は、取水ポンプ23の運転開始から2分を経過した時点で所定流量に安定する。このとき、次亜注入ポンプ43の作動レートが2回/分であり、取水ポンプ23の作動と同時に作動を開始したとすると、
図6(a)に白丸で示した時点で次亜の注入を行うことになる。これらの次亜注入時における濾過流量は、所定流量に対して少量であるため、膜濾過水の次亜濃度は高濃度となり、次亜注入部40付近の配管の劣化や腐食を発生させたり、電動弁の接液部位に腐食を発生させたりするおそれもある。
【0081】
そこで、濾過流量が直線状に増加する取水ポンプの運転開始から2分までの間の総濾過水量と、濾過流量が一定となる運転開始から2分以降の1分間毎の総濾過水量とを比較してみると、取水ポンプ23の運転時間が1分に達した時点での総濾過水量63と、運転時間が1分を過ぎてから2分に達するまでの間に所定流量に対して不足する総不足水量64が等しくなり、総濾過水量63と総不足水量64を足した量と、濾過流量が一定となる運転開始から2分以降の1分間毎の総濾過水量が等しくなることが分かる。
【0082】
従って、
図6(a)の場合には、取水ポンプ23の運転開始から1分を経過した時点を総濾過水量63と総不足水量64が等しくなる時点Tとし、この時点Tにおける濾過流量を設定流量として次亜注入ポンプ43の作動開始時点とすると、図中に黒丸で示したように次亜の注入が行われ、膜濾過水の総量に対する次亜注入量の総量の比率が、取水ポンプの作動開始直後に濾過流量が増加する間であっても、濾過流量が安定して一定となった間であっても同じにすることができる。
【0083】
実際の取水ポンプ23では、取水ポンプの運転時間と濾過流量との関係は
図6(b)に示すように曲線状に変化するため、設定流量は、実際に取水ポンプを作動させて濾過流量の時間変化を計測し、その計測結果から求める必要がある。なお、
図6(b)には、濾過流量が設定流量に達した時点Tで次亜注入ポンプの作動を開始し、以後、2回/分の作動レートで次亜を注入する状況を黒丸で表示している。
【0084】
このように、濾過流量が設定流量に達した以降に次亜の注入を開始するように次亜注入ポンプ43を制御するため、未だ濾過流量が少ない時点では膜濾過水に次亜の注入は行われずに配水池等に給水されるが、濾過流量が設定流量に達した以降は次亜の注入が開始され、前述したように、配水池等に給水される総膜濾過水量に対する次亜注入量は所定量となるので、配水池等に供給された浄水は配水池等内で混合される結果、最終的には、配水池等から給水される浄水には、例えば、残留塩素濃度で0.1ppm以上となる飲用に適した量の次亜が注入されていることになる。また、この制御により、汎用的な次亜注入ポンプで所定量の次亜注入が可能となる。
【0085】
また、次亜の注入が開始されるのは、
図6(b)に示すように、濾過流量が所定流量に近づいた時点となるため、次亜注入部40付近の配管が劣化したり腐食したりするおそれや、電動弁の接液部位に腐食が発生するおそれを抑制することができる。
【0086】
なお、濾過流量と取水ポンプ23の原水供給量は略等しいので、取水ポンプ23の運転時間と原水供給量の関係は、原水ライン12に設けた流量計30で求めても良い。
【0087】
前述したとおり、可搬型浄水処理装置11では、デッドエンド濾過方式(全量濾過)により濾過処理を行っているため、膜モジュール14に収納された濾過膜表面に濾過対象物質が堆積するので、本実施例では、運転30分毎に膜モジュール14に収納された濾過膜の逆洗洗浄とエアスクラビング洗浄を行って、堆積した濾過対象物質を除去し、濾過膜の濾過能力を回復させている。
【0088】
可搬型浄水処理装置11の給水工程が所定時間行われると、逆洗工程の準備として充水工程に移行する。充水工程は、逆洗工程で使用する逆洗に適した量の次亜を注入した膜濾過水を逆洗水槽17に充水するための工程である。充水工程では、
図7に示すように、逆洗に適した量の次亜を注入した膜濾過水を逆洗水槽17に充水するが、この充水工程でも給水工程と同様に、取水ポンプの作動開始直後の濾過流量が少ない状態において膜濾過水の次亜濃度が高濃度となることを防止する必要がある。
【0089】
このため、充水工程でも給水工程と同様に、濾過流量が設定流量に達した以降に次亜の注入を開始するように次亜注入ポンプ43を制御している。濾過流量が設定流量に達した以降に次亜の注入を開始するように次亜注入ポンプ43を制御するため、未だ濾過流量が少ない時点では、次亜が注入されていない膜濾過水が逆洗水槽17に充水されるが、濾過流量が設定流量に達した以降は次亜の注入が開始され、逆洗水槽17に充水される総膜濾過水量に対する次亜注入量は所定量となるので、逆洗水槽17に充水された逆洗水は逆洗水槽17内で混合される結果、逆洗に適した量の次亜を注入した膜濾過水が逆洗水槽17に充水される。この充水は、逆洗水槽17に設けた水位センサ48が満水を検知するまで行うが、充水に要する時間は5分程度である。
【0090】
逆洗水槽17に設けた水位センサ48が満水を検知すると、逆洗工程に移行する。逆洗工程では、
図8に示すように、取水ポンプ23と次亜注入ポンプ43の作動を停止させ、原水の取水と次亜の注入を中止する。その後、逆洗ポンプ18とコンプレッサ51を作動させて、膜モジュール14の2次側から逆洗水を、1次側からエアを膜モジュール14内に供給し、膜モジュール14に収納されている濾過膜の逆洗洗浄とエアスクラビング洗浄を行う。
【0091】
膜モジュール14に供給された逆洗水とエアは、膜モジュール14に収納された濾過膜を逆洗洗浄とエアスクラビング洗浄した後に膜モジュール14の逆洗水出口37から膜モジュール外14に排出され、逆洗水排水ライン21を経由して装置外に排出される。
【0092】
本発明の可搬型浄水処理装置では、逆洗に適した量の次亜の注入が行われた逆洗水で膜モジュール14に収納された濾過膜を逆洗するようにしているので、MF又はUFの濾過膜の膜表面や膜細孔内に付着したフミン質や微生物由来のタンパク質等の有機物を分解、除去することができる。また、逆洗水による逆洗洗浄と同時に、エアスクラビング洗浄を行っているため、さらに効果的に濾過膜の膜表面や膜細孔内に付着した濾過対象物質を除去し、濾過膜の濾過能力を回復させることができるので、膜モジュールの薬品洗浄間隔を延長し、可搬型浄水処理装置の稼働率の向上と運用コストの削減に資することができる。
【0093】
逆洗水槽17内の水位センサ48が水槽内の逆洗水が全て流出したことを検知した時点で逆洗工程は終了する。逆洗工程が終了した後、直ちに給水工程に移行しても良いし、充水工程と逆洗工程を更に複数繰り返すようにしても良い。
【0094】
以上のとおり、本発明の可搬型浄水処理装置では、逆洗ライン19と逆洗水排水ライン21とを連結する管路である膜逆洗排水ライン22を新設するとともに、このラインに制御部により開閉を制御される電動弁58を設けたことにより、装置内の上部位置に配置した逆洗水槽17を有効利用できるようにし、初動運転時の膜の保管液の排水及び次亜注入系統の空気抜き等を略自動的に実行できるようにするとともに、給水工程初期における膜濾過水への次亜の過剰注入を抑制することができるようにしている。
【0095】
このように、本発明の可搬型浄水処理装置は、操作性が改善されるとともに機能及び信頼性がさらに向上したので、過疎化等により人口が減少した小規模集落の簡易水道施設や飲料水供給施設等の浄水装置としての利用に適するものである。
【符号の説明】
【0096】
11 可搬型浄水処理装置
12 原水ライン
13 給水ライン
14 膜モジュール
15 次亜注入装置
16 充水ライン
17 逆洗水槽
18 逆洗ポンプ
19 逆洗ライン
20 エア供給装置
21 逆洗水排水ライン
22 膜逆洗排水ライン
24 制御部
25 フレーム
40 次亜注入部
41 次亜タンク
43 次亜注入ポンプ
51 コンプレッサ