IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキョーニシカワ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図1
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図2
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図3
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図4
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図5
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図6
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図7
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図8
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図9
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図10
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図11
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図12
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図13
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図14
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図15
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図16
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図17
  • 特許-樹脂注入成形品およびその製造方法 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】樹脂注入成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/48 20060101AFI20220603BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
B29C70/48
B29C70/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018119766
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2020001171
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】村井 誠
(72)【発明者】
【氏名】中村 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】助信 哲康
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/48
B29C 70/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の繊維シート(9)が積層されてなる被含浸積層体(5)と、
前記被含浸積層体(5)に含浸した状態で硬化されたマトリックス樹脂(7)と、を備え、
前記マトリックス樹脂(7)が前記被含浸積層体(5)の表面を覆って樹脂表層(31)を形成し、前記被含浸積層体(5)のうち前記樹脂表層(31)側に位置する所定の前記繊維シート(9)の少なくとも一方側の面に凹所(19,29)が形成されている樹脂注入成形品であって、
前記被含浸積層体(5)には、前記所定の繊維シート(9)における前記凹所(19,29)が形成された面の隣接位置に不織布(15)が設けられ
前記不織布(15)の繊維は、前記凹所(19,29)に入り込み、
前記凹所(19,29)には、前記不織布(15)の繊維およびマトリックス樹脂(7)からなる樹脂リッチ部(33)のみが設けられる
ことを特徴とする樹脂注入成形品。
【請求項2】
複数枚の繊維シート(9)が積層されてなる被含浸積層体(5)と、
前記被含浸積層体(5)に含浸した状態で硬化されたマトリックス樹脂(7)と、を備え、
前記マトリックス樹脂(7)が前記被含浸積層体(5)の表面を覆って樹脂表層(31)を形成し、前記被含浸積層体(5)のうち前記樹脂表層(31)側に位置する所定の前記繊維シート(9)の少なくとも一方側の面に凹所(19,29)が形成されている樹脂注入成形品であって、
前記被含浸積層体(5)には、前記所定の繊維シート(9)における前記凹所(19,29)が形成された面の隣接位置に不織布(15)が設けられ、
前記不織布(15)の繊維は、前記凹所(19,29)における当該不織布(15)で覆われた範囲の全域に入り込む
ことを特徴とする樹脂注入成形品。
【請求項3】
請求項1または2に記載された樹脂注入成形品において、
前記被含浸積層体(5)は、前記所定の繊維シート(9)として、一方向に引き揃えられた複数の繊維束(18)からなり、隣り合う前記繊維束(18)の間の隙間が前記凹所(19)を形成しているストランドシート(17)を有し、
前記不織布(15)は、前記ストランドシート(17)の前記樹脂表層(31)側の面に隣接配置されている
ことを特徴とする樹脂注入成形品。
【請求項4】
請求項に記載された樹脂注入成形品において、
前記被含浸積層体(5)は、前記繊維シート(9)として、2軸で織られたクロスシート(13)を有し、
前記クロスシート(13)は、前記被含浸積層体(5)の表面を構成し、前記樹脂表層(31)によって覆われており、
前記樹脂表層(31)を形成するマトリックス樹脂(7)は、透光性を有する樹脂である
ことを特徴とする樹脂注入成形品。
【請求項5】
請求項に記載された樹脂注入成形品において、
前記不織布(15)は、前記ストランドシート(17)と前記クロスシート(13)との間に配置されている
ことを特徴とする樹脂注入成形品。
【請求項6】
請求項またはに記載された樹脂注入成形品において、
前記クロスシート(13)は、前記所定の繊維シート(9)であって、織り目の隙間で前記凹所(29)を形成しており、
前記不織布(15)は、前記クロスシート(13)の前記樹脂表層(31)側の面に隣接配置されている
ことを特徴とする樹脂注入成形品。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載された樹脂注入成形品において、
前記不織布(15)は、炭素繊維からなる
ことを特徴とする樹脂注入成形品。
【請求項8】
請求項に記載された樹脂注入成形品において、
前記マトリックス樹脂(7)には、酸無水物系の硬化剤が用いられている
ことを特徴とする樹脂注入成形品。
【請求項9】
複数枚の繊維シート(9)が積層されてなり、少なくとも一方側の面に凹所(19,29)が形成されている所定の繊維シート(9)が表面側に配置された被含浸積層体(5)を準備する準備ステップと、
前記被含浸積層体(5)を成形型(103)にセットし、該成形型(103)にて形成された成形空間(119)に被含浸積層体(5)を配置した状態とするセットステップと、
前記成形空間(119)を減圧した後に、液状のマトリックス樹脂(7)を前記成形空間(119)に注入して前記被含浸積層体(5)に含浸させる含浸ステップと、
前記被含浸積層体(5)に含浸したマトリックス樹脂(7)を硬化させて、該マトリックス樹脂(7)により前記被含浸積層体(5)の表面を覆う樹脂表層(31)を形成する硬化ステップと、を含み、
前記準備ステップでは、前記所定の繊維シート(9)における前記凹所(19,29)が形成された面の隣接位置に不織布(15)が設けられた被含浸積層体(5)を準備し、
前記含浸ステップでは、前記不織布(15)の繊維が凹部(19,29)に入り込み、該凹所(19,29)に、前記不織布(15)の繊維およびマトリックス樹脂(7)からなる樹脂リッチ部(33)のみを形成する
ことを特徴とする樹脂注入成形品の製造方法。
【請求項10】
複数枚の繊維シート(9)が積層されてなり、少なくとも一方側の面に凹所(19,29)が形成されている所定の繊維シート(9)が表面側に配置された被含浸積層体(5)を準備する準備ステップと、
前記被含浸積層体(5)を成形型(103)にセットし、該成形型(103)にて形成された成形空間(119)に被含浸積層体(5)を配置した状態とするセットステップと、
前記成形空間(119)を減圧した後に、液状のマトリックス樹脂(7)を前記成形空間(119)に注入して前記被含浸積層体(5)に含浸させる含浸ステップと、
前記被含浸積層体(5)に含浸したマトリックス樹脂(7)を硬化させて、該マトリックス樹脂(7)により前記被含浸積層体(5)の表面を覆う樹脂表層(31)を形成する硬化ステップと、を含み、
前記準備ステップでは、前記所定の繊維シート(9)における前記凹所(19,29)が形成された面の隣接位置に不織布(15)が設けられた被含浸積層体(5)を準備し、
前記含浸ステップでは、前記不織布(15)の繊維が前記凹所(19,29)における当該不織布(15)で覆われた範囲の全域に入り込む
ことを特徴とする樹脂注入成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維質の被含浸物がセットされた成形型の成形空間(キャビティ)に液状樹脂を注入し、被含浸物に液状樹脂を含浸し硬化させる樹脂注入成形法、いわゆるRTM(Resin Transfer Molding)法を用いて成形された樹脂注入成形品およびその製造方法に関する。
【0002】
RTM法を用いた樹脂注入成形品の製造方法では、基材としての被含浸物を成形型にセットし、成形型を型閉めして、被含浸物が配置された成形空間を減圧し、減圧された成形空間に液状のマトリックス樹脂を注入して、マトリックス樹脂を被含浸物に含浸させた後に硬化させることが行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そのような製造方法で用いられる被含浸物は、複数枚の繊維シートが積層されてなる積層体である。繊維シートには、一方向に引き揃えられた複数の繊維束(ストランド)からなるストランドシートがその取り扱いのし易さからよく用いられる。ストランドシートにおいて隣り合う繊維束の間には、凹所をなす隙間が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-170840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図17に、樹脂注入成形品201の部分的な断面図を示す。図18に、図17の樹脂注入成形品201におけるXVIIIで囲んだ箇所の拡大断面図を示す。上述したようにRTM法により成形された樹脂注入成形品201では、図17および図18に示すように、マトリックス樹脂203が、被含浸物205の表面を覆って樹脂表層207を構成している。
【0006】
そうした樹脂注入成形品201においては、被含浸物205をなす繊維シート209における隣り合う繊維束211間の凹所213にマトリックス樹脂203が溜まるため、繊維シート209の繊維束211同士の境界でマトリックス樹脂203が当該繊維シート209表面の他箇所に比べて厚くなった樹脂リッチ部215を形成する。この樹脂リッチ部215が樹脂注入成形品201の表面側で形成されると、樹脂表層207において当該樹脂リッチ部215に対応する部分には、成形後の収縮によって筋状のヒケ217が生じる。
【0007】
このようなヒケ217は樹脂注入成形品201の外観を損なうものであり、ヒケ217のある樹脂注入成形品201は見栄えが良くない。樹脂注入成形品201の表面には塗装を施す場合があるが、塗装のみでヒケ217を隠すことは難しい。そこで、樹脂注入成形品201に生じたヒケ217を樹脂表層207の研磨によってなくすことが考えられるが、樹脂表層207の研磨作業にはかなりの時間がかかるため、生産性が低下するし、その分のコストアップを招いてしまう。
【0008】
本開示の技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂注入成形品の表面にヒケが生じるのを抑制し、見栄えの良い樹脂注入成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本開示の技術では、被含浸物の表面側に位置する繊維シートに隣接させて不織布を設け、当該繊維シートにおける凹所に不織布の繊維を入り込ませるようにした。
【0010】
具体的には、本開示の技術は、複数枚の繊維シートが積層されてなる被含浸積層体と、被含浸積層体に含浸した状態で硬化されたマトリックス樹脂とを備える樹脂注入成形品を対象とする。マトリックス樹脂は、被含浸積層体の表面を覆って樹脂表層を形成している。被含浸積層体のうち樹脂表層側に位置する所定の繊維シートの少なくとも一方側の面には凹所が形成されている。そして、本開示の技術に係る樹脂注入成形品において、被含浸積層体には、所定の繊維シートにおける凹所が形成された面の隣接位置に不織布が設けられている。
【0011】
この構成によると、被含浸積層体の表面側に位置する繊維シートに隣接させて不織布を設けるようにしたから、樹脂注入成形品を成形するときには、当該繊維シートにおける凹所に不織布の繊維が入り込み、マトリックス樹脂のみが凹所に溜まらないようにすることができる。それによって、凹所に形成される樹脂リッチ部の樹脂含有率が下がるから、成形後における樹脂リッチ部の収縮量が少なくなる。しかも、不織布が樹脂リッチ部の収縮に追従するので、樹脂リッチ部の収縮による樹脂注入成形品の表面への影響が緩和されて、樹脂注入成形品の表面にヒケが生じるのを抑制することができる。
【0012】
そうした樹脂注入成形品において、被含浸積層体は、所定の繊維シートとして、一方向に引き揃えられた複数の繊維束からなり、隣り合う繊維束間の隙間が凹所を形成しているストランドシートを有していてもよい。この場合、不織布は、ストランドシートの樹脂表層側の面に隣接配置されていることが好ましい。
【0013】
樹脂注入成形品の表面におけるヒケは、前述の如くストランドシートの繊維束間の凹所に樹脂リッチ部が形成されることに起因して生じやすい。これに対し、上記の構成によると、ストランドシートの樹脂表層側の面に隣接させて不織布を配置するようにしたので、樹脂注入成形品の表面にヒケが生じるのを効果的に抑制することができる。
【0014】
さらに、被含浸積層体は、繊維シートとして、2軸で織られたクロスシートを有していてもよい。このクロスシートは、被含浸積層体の表面を構成し、樹脂表層によって覆われていてもよい。この場合、樹脂表層を形成するマトリックス樹脂は、透光性を有する樹脂であってもよい。
【0015】
この構成によると、樹脂表層の直下にクロスシートを設け、樹脂表層を透光性のある樹脂によって形成するようにしたので、樹脂注入成形品の外観に樹脂表層を通してクロスシートが視認されて、樹脂注入成形品の意匠性を高められる。
【0016】
そして、不織布は、ストランドシートとクロスシートとの間に配置されていることが好ましい。
【0017】
この構成によると、クロスシートに次いで樹脂表層に近いストランドシートに隣接させて不織布を設けるようにしたので、樹脂表層に近い位置において、樹脂リッチ部の成形後における収縮量が少なくなり、樹脂リッチ部の収縮による樹脂注入成形品の表面への影響が緩和されて、樹脂注入成形品の表面にヒケが生じるのを効果的に抑制することができる。
【0018】
クロスシートは、所定の繊維シートであって、織り目の隙間で凹所を形成している。不織布は、クロスシートの樹脂表層側の面に隣接配置されていてもよい。
【0019】
樹脂注入成形品の成形において、クロスシートで折り目の隙間がなす凹所には、マトリックス樹脂が溜まるため、マトリックス樹脂がクロスシート表面の他箇所に比べて厚くなった樹脂リッチ部が形成される。これに対し、上記の構成によると、クロスシートの凹所に形成される樹脂リッチ部の収縮に起因して樹脂注入成形品の表面にヒケが生じるのを抑制することができる。
【0020】
不織布は、炭素繊維からなることが好ましい。
【0021】
炭素繊維は、軽量であるにも関わらず優れた機械的性質を有している。上記の構成によると、被含浸積層体に設ける不織布として炭素繊維からなる不織布を採用するようにしたので、樹脂注入成形品の機械的性質を高めるのに有利である。
【0022】
さらに、マトリックス樹脂には、酸無水物系の硬化剤が用いられていることが好ましい。
【0023】
酸無水物系の硬化剤は、ポットライフ(可使時間)が長く、機械的特性や化学的特性、電気的特性などの物性バランスが良好である上に、硬化反応が比較的緩やかに進行するという性質を有する。上記の構成によると、マトリックス樹脂に添加される硬化剤として酸無水物系の硬化剤を採用するようにしたので、樹脂注入成形品の成形時間は長くなるが、成形後における樹脂リッチ部の収縮量が少なくなり、樹脂注入成形品の表面にヒケが生じることを抑制するのに有利である。
【0024】
また、本開示の技術は、上記のような樹脂注入成形品の製造方法をも対象とする。本開示の技術に係る樹脂注入成形品の製造方法は、複数枚の繊維シートが積層されてなり、少なくとも一方側の面に凹所が形成されている所定の繊維シートが表面側に配置された被含浸積層体を準備する準備ステップと、被含浸積層体を成形型にセットし、その成形型にて形成された成形空間に被含浸積層体を配置した状態とするセットステップと、成形空間内を減圧した後に、液状のマトリックス樹脂を成形空間に注入して被含浸積層体に含浸させる含浸ステップと、被含浸積層体に含浸したマトリックス樹脂を硬化させて、マトリックス樹脂により被含浸積層体の表面を覆う樹脂表層を形成する硬化ステップとを含む。
【0025】
ここで、「被含浸積層体を成形型にセットする」とは、予め複数枚の繊維シートを積層して形成された被含浸積層体を準備し、その被含浸積層体を成形型に配置させる場合は勿論、複数枚の繊維シートを成形型に順に積層配置して成形型で被含浸積層体をセットした状態に作製する場合をも含む意である。また、本開示の技術が対象とする樹脂注入成形品の製造方法には、気圧差を利用して被含浸積層体に液状樹脂を含浸させる真空補助樹脂注入成形法、いわゆるVaRTM(Vacuum-assisted Resin Transfer Molding)法を用いた製造方法をも含む。そして、本開示の技術に係る樹脂注入成形品の製造方法において、準備ステップでは、所定の繊維シートにおける凹所が形成された面の隣接位置に不織布が設けられた被含浸積層体を準備する。
【0026】
この構成によると、準備ステップにて準備される被含浸積層体において表面側に位置する繊維シートの隣接位置に不織布が設けられているようにしたので、含侵ステップにおいて、成形空間を減圧したときには、当該繊維シートにおける凹所に不織布の繊維が入り込み、マトリックス樹脂のみが凹所に溜まらないようにすることができる。それによって、凹所に形成される樹脂リッチ部の樹脂含有率が減るから、硬化ステップを行った後における樹脂リッチ部の収縮量が少なくなる。しかも、不織布が樹脂リッチ部の収縮に追従するので、樹脂リッチ部の収縮による樹脂注入成形品の表面への影響が緩和されて、樹脂注入成形品の表面にヒケが生じるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本開示の技術に係る樹脂注入成形品およびその製造方法によれば、樹脂注入成形品の表面にヒケが生じるのを抑制し、見栄えの良い樹脂注入成形品を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施形態に係る樹脂注入成形品の構成を示す概略図である。
図2図2は、実施形態に係る樹脂注入成形品の部分的な断面図である。
図3図3は、実施形態に係る樹脂注入成形品に用いられるストランドシートの部分的な断面斜視図である。
図4図4は、実施形態に係る樹脂注入成形品に用いられるクロスシートの概略平面図である。
図5図5は、図2の樹脂注入成形品におけるVで囲んだ箇所の拡大図である。
図6図6は、実施形態に係る樹脂注入成形品の成形装置と被含浸積層体を示す概略構成図である。
図7図7は、実施形態に係る樹脂注入成形品の製造方法におけるセットステップの様子を示す図である。
図8図8は、図7の被含浸積層体におけるVIIIで囲んだ箇所の拡大図である。
図9図9は、実施形態に係る樹脂注入成形品の製造方法における含浸ステップで成形空間を減圧している様子を示す図である。
図10図10は、図9の被含浸積層体におけるXで囲んだ箇所の拡大図である。
図11図11は、実施形態に係る樹脂注入成形品の製造方法における含浸ステップでマトリックス樹脂を成形空間に注入している様子を示す図である。
図12図12は、図11の被含浸積層体におけるXIIで囲んだ箇所の拡大図である。
図13図13は、実施例1~5および比較例に係る樹脂注入成形品の平滑性の評価を示す図である。
図14図14は、実施例1~5および比較例に係る樹脂注入成形品の弾性率の評価を示す図である。
図15図15は、変形例1に係る樹脂注入成形品の図2相当図である。
図16図16は、変形例2に係る樹脂注入成形品の図2相当図である。
図17図17は、樹脂注入成形品の部分的な断面図である。
図18図18は、図17の樹脂注入成形品におけるXVIIIで囲んだ箇所の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1に、この実施形態に係る樹脂注入成形品1の構成の概略図を示す。図2に、樹脂注入成形品1の部分的な断面図を示す。図3に、樹脂注入成形品1に用いられるストランドシート17の部分的な断面斜視図を示す。図4に、樹脂注入成形品1に用いられるクロスシート13の概略平面図を示す。図5に、図2の樹脂注入成形品1におけるVで囲んだ箇所の拡大図を示す。
【0031】
樹脂注入成形品1は、自動車のドア(サイドドアやバックドア)、フード、ルーフ、フェンダーなどを構成するボディパネル(車体外板)に用いられる。樹脂注入成形品1は、図1および図2に示すように、繊維強化樹脂複合体であって、強化繊維3,21を含む被含浸積層体5と、被含浸積層体5に含浸されたマトリックス樹脂7とで構成されている。被含浸積層体5は、複数枚の繊維シート9が積層されてなる繊維質基材であって、マトリックス樹脂7に内包されている。被含浸積層体5は、基材本体11と、クロスシート13と、不織布15とを備える。
【0032】
基材本体11は、繊維シート9であるストランドシート17を複数枚組み合わせてなる。ストランドシート17は、図3に示すように、多数本の強化繊維3が一方向に引き揃えられた一方向(UD:Uni-Direction)材である。このストランドシート17をなす強化繊維3は、補助糸4により束ねられて、シート面方向における一方向に並ぶ複数の繊維束(ストランド)18を構成している。ストランドシート17としては、例えばNCF(Non-Crimp Fabric)と呼ばれる繊維編物が挙げられる。
【0033】
ストランドシート17の強化繊維3としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、ポリアミド繊維やアラミド繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維が挙げられる。なかでも、炭素繊維は、軽量であるにも関わらず優れた機械的性質を有している。ストランドシート17には、強化繊維3が一種単独で用いられていてもよいし、二種以上が併用されていてもよい。補助糸4としては、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの合成樹脂糸、ガラス繊維糸などからなるステッチ糸が用いられる。
【0034】
この実施形態の基材本体11をなすストランドシート17は、樹脂注入成形品1の裏面側から表面側(意匠面側)に向かって順に配置された第1ストランドシート17a、第2ストランドシート17b、第3ストランドシート17cおよび第4ストランドシート17dの4枚である。これら第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17dは、基準となる方向に対してそれぞれ所定の繊維配向をなしており、疑似等方積層方式で積層されている。疑似等方積層方式では、第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17dの繊維配向が0°、45°、90°、-45°のいずれかに割り当てられて互いに所定の交差角度を持っている。
【0035】
具体的には、第1ストランドシート17aの繊維配向は-45°であり、第2ストランドシート17bの繊維配向は45°であり、第3ストランドシート17cの繊維配向は90°であり、第4ストランドシート17dの繊維配向は0°である。こうした積層レイアウトを以て、樹脂注入成形品1には、優れた強度(弾性率など)の機械的性質を実現しつつ疑似等方性が付与されている。第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17dの表裏両面には、隣り合う繊維束18の合せ目の隙間からなる凹所19が繊維束18に沿って直線状に複数形成されている。
【0036】
クロスシート13は、被含浸積層体5の表面を構成している繊維シート9である。このクロスシート13は、図4に示すように、複数の強化繊維21を束ねた繊維束23を経糸25および緯糸27として2軸で平織りに織ってなる繊維織物であって、光の反射によって市松模様のような織目模様を呈している。クロスシート13の表裏両面には、織り目の隙間からなる凹所29が形成されている。クロスシート13をなす強化繊維21としては、ストランドシート17に用いられる上述した強化繊維3が挙げられ、ストランドシート17と同様な理由から炭素繊維が好ましい。
【0037】
不織布15は、基材本体11上に設けられ、基材本体11の表面にある第4ストランドシート17dとクロスシート13との間、つまり第4ストランドシート17dにおける表面側(第3ストランドシート17cとは反対側)の隣接位置に配置されている。不織布15をなす繊維としては、ストランドシート17に用いられる上述した強化繊維3が挙げられ、ストランドシート17と同様な理由から炭素繊維が好ましい。炭素繊維には、ポリアクリロニトリル(PAN:Polyacrylonitrile)繊維を素材としたPAN系炭素繊維、ピッチ繊維を素材としたピッチ系炭素繊維があるが、強度などの性能、コストおよび使い易さなどのバランスの良さから前者が好ましい。
【0038】
マトリックス樹脂7は、被含浸積層体5の表面に満遍なく含侵された状態で硬化されており、図5に示すように、被含浸積層体5を固めると共にその外面を覆って樹脂表層31を形成している。すなわち、樹脂注入成形品1の外殻はマトリックス樹脂7からなる。このマトリックス樹脂7は、第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17dの各凹所19内にも、クロスシート13の各凹所29内にも充填されており、他箇所に比べて相対的に厚くなった樹脂リッチ部33(図5で二点鎖線に囲まれた部分)を形成している。マトリックス樹脂7には、熱硬化性樹脂が用いられる。
【0039】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、シリコーン、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂が挙げられる。なかでもエポキシ樹脂およびビニルエステル樹脂は、耐熱性、衝撃吸収性、耐薬品性に優れた特性を有している。熱硬化性樹脂には、硬化剤や硬化促進剤、難燃剤などの添加剤が含有されていてもよい。熱硬化性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種以上で併用されてもよい。この実施形態のマトリックス樹脂7には、透光性を有する熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂が用いられており、樹脂注入成形品1の外観に樹脂表層31を通してクロスシート13の織目模様が視認される。
【0040】
被含浸積層体5の表面側の繊維シート9、具体的には基材本体11表面の第4ストランドシート17dおよびクロスシート13における各凹所19,29に形成された樹脂リッチ部33は、樹脂注入成形品1の表面、つまり樹脂表層31にヒケが生じる重要な要因となる。この実施形態の樹脂注入成形品1では、それら第4ストランドシート17dの表面側およびクロスシート13の裏面側における各凹所19,29に不織布15の繊維が入り込んでおり、当該凹所19,29内の樹脂リッチ部33での樹脂含有率が下げられている。また、不織布15は、樹脂注入成形品1の製造において、クロスシート13の繊維束23がマトリックス樹脂7の注入時における流動で撚れるなどして乱れるのを規制し、且つ、樹脂リッチ部33の成形後の収縮による樹脂注入成形品1の表面への影響を緩和する役割を担う。
【0041】
上記構成の樹脂注入成形品1はRTM法を用いて製造される。図6に、樹脂注入成形品1の成形に用いられる成形装置101と被含浸積層体5の概略構成図を示す。樹脂注入成形品1の成形装置101は、図6に示すように、成形型103と、樹脂注入装置105と、真空吸引装置107と、加熱装置(不図示)とを備え、加熱装置によって成形型103の温度調整が可能に構成されている。
【0042】
成形型103は、互いに対向配置されたキャビ型109とコア型111とによって構成されている。キャビ型109は、固定型であって、凹状部113を有している。凹状部113の内面は、樹脂注入成形品1の外面を成形する成形面115であって、図6では平坦形状に示すが、樹脂注入成形品1がなすボディパネルに応じた形状とされている。コア型111は、可動型であって、凹状部113に嵌合する凸状部(コア)117を有している。
【0043】
これらキャビ型109およびコア型111は、互いに型締めされることで凹状部113と凸状部117との間に成形空間(キャビティ)119を形成する。コア型111には、樹脂注入ポート121と真空吸引ポート123とが設けられている。例えば、樹脂注入ポート121の開口は成形空間119の中央部に位置付けられ、真空吸引ポート123の開口は成形空間119の外周側に位置付けられている。
【0044】
樹脂注入装置105は、コア型111の樹脂注入ポート121に樹脂注入経路125を介して接続されている。そして、樹脂注入装置105は、樹脂注入経路125を通じて樹脂注入ポート121から液状のマトリックス樹脂7を成形空間119に注入するようになっている。樹脂注入経路125の途中には、開閉弁127が設けられている。
【0045】
真空吸引装置107は、コア型111の真空吸引ポート123に真空吸引経路129を介して接続されている。そして、真空吸引装置107は、真空吸引経路129を通じて真空吸引ポート123から成形空間119を減圧するようになっている。真空吸引経路129の途中には、開閉弁131が設けられている。
【0046】
このような成形装置101を用いた樹脂注入成形品1の製造方法は、準備ステップと、セットステップと、含侵ステップと、硬化ステップとを含む。この樹脂注入成形品1の製造方法について、図7図12を参照しながら以下に説明する。
【0047】
図7は、樹脂注入成形品1の製造方法におけるセットステップの様子を示す図である。図8は、図7の被含浸積層体5におけるVIIIで囲んだ箇所の拡大図である。図9は、樹脂注入成形品1の製造方法における含浸ステップで成形空間119を減圧している様子を示す図である。図10は、図9の被含浸積層体5におけるXで囲んだ箇所の拡大図である。図11は、樹脂注入成形品1の製造方法における含浸ステップでマトリックス樹脂7を成形空間119に注入している様子を示す図である。図12は、図11の被含浸積層体5におけるXIIで囲んだ箇所の拡大図である。
【0048】
準備ステップでは、第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17d(基材本体11)と不織布15とクロスシート13とが予め積層された被含浸積層体5を予め賦形したプリフォームとして準備する。この被含浸積層体5では、第4ストランドシート17dとクロスシート13との間、つまり第4ストランドシート17dにおける樹脂表層31側の面の隣接位置に不織布15が設けられている。当該被含浸積層体5を構成する第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17d、不織布15およびクロスシート13には、液状のマトリックス樹脂7と強化繊維3,21との接着性(馴染み)を良くするためのサイジング剤が塗布されている。このサイジング剤としては、例えば、ビスフェノールAエポキシと不飽和ポリエステルの混合物やビスフェノールAエステルが用いられる。
【0049】
次いで、セットステップでは、準備した被含浸積層体5をキャビ型109の凹状部113にセットする。そして、図7に示すように、被含浸積層体5をセットしたキャビ型109とコア型111とを型閉めして、凹状部113と凸状部117との間に成形空間119を形成し、被含浸積層体5を成形空間119に配置した状態とする。このときの被含浸積層体5では、図8に示すように、不織布115の繊維が第4ストランドシート17dの凹所19とクロスシート13の凹所29には未だ入り込んでいなくてもよい。
【0050】
続いて、含浸ステップでは、図9に示すように、真空吸引装置107の開閉弁127を開状態として真空吸引装置107を作動させることにより、真空吸引ポート123を通じて成形空間119を真空吸引により減圧する。このとき、被含浸積層体5では、図10に示すように、不織布15の繊維が減圧作用により第4ストランドシート17d表面の凹所19とクロスシート13裏面の凹所29に入り込む。そうした減圧後、真空吸引装置107の開閉弁127を閉状態とする。そして、図11に示すように、樹脂注入装置105の開閉弁131を開状態として樹脂注入装置105を作動させることにより、樹脂注入ポート121を通じて成形空間119に液状のマトリックス樹脂7を注入して隅々にまで行き渡らせる。このようにして、図12にも示すように、被含浸積層体5の全体に亘ってマトリックス樹脂7を含浸させる。
【0051】
このとき注入されるマトリックス樹脂7には、アミン系の硬化剤や酸無水物系の硬化剤が添加されている。アミン系の硬化剤としては、例えばトリエチレンテトラミン化合物が挙げられる。酸無水物系の硬化剤としては、例えばメチルヘキサヒドロ無水フタル酸が挙げられる。
【0052】
さらに、硬化ステップでは、加熱装置を作動させて成形型103の温度をマトリックス樹脂7が硬化する所定の温度にまで加熱することにより、被含浸積層体5に含浸したマトリックス樹脂7を硬化させる。しかる後、成形型103を型開きして、マトリックス樹脂7を冷ました樹脂注入成形品105を取り出し、樹脂注入成形品105に付いているゲート残渣物などの不要片を切除する端末処理を施す。こうして、樹脂注入成形品1を製造することができる。
【0053】
この実施形態に係る樹脂注入成形品1およびその製造方法によると、被含浸積層体5の表面側に位置する第4ストランドシート17dとクロスシート13との間に不織布15を設けるようにしたので、これら第4ストランドシート17dの表面側およびクロスシート13の裏面側における各凹所19,29に不織布15の繊維が入り込み、マトリックス樹脂7のみが凹所19,29に溜まらないようにすることができる。それによって、凹所19,29に形成される樹脂リッチ部33の樹脂含有率が下がるから、成形後における樹脂リッチ部33の収縮量が少なくなる。しかも、不織布15が樹脂リッチ部33の収縮に追従するので、樹脂リッチ部33の収縮による樹脂注入成形品1の表面への影響が緩和されて、樹脂注入成形品1の表面にヒケが生じるのを抑制することができる。その結果、見栄えの良い樹脂注入成形品1を実現することができる。
【0054】
- 樹脂注入成形品の外観・性能評価 -
以下に示す実施例1~5に係る樹脂注入成形品1と比較例に係る樹脂注入成形品とを、RTM法を用いて製造し、それらの外観性状および機械的性質をそれぞれ評価した。なお、以下では、便宜上、比較例に係る樹脂注入成形品1の構成についても、上記実施形態と同様な参照符号を付して説明する。
【0055】
[実施例1]
実施例1に係る樹脂注入成形品1は、上記実施形態と同じく第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17dとクロスシート13とからなる被含浸積層体5を用いて製造した。第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17dには、それぞれ炭素繊維からなるNCFを用いた。クロスシート13には、炭素繊維からなる平織りの繊維織物を用いた。不織布15には、PAN系炭素繊維からなる無機繊維シート状物を用いた。不織布15において、炭素繊維の繊維径は7μm程度であり、目付は10g/m程度である。サイジング剤としては、ビスフェノールAエポキシと不飽和ポリエステルの混合物を用いた。マトリックス樹脂7としては、エポキシ樹脂を用いた。硬化剤としては、アミン系の硬化剤であるトリエチレンテトラミン化合物を用いた。
【0056】
[実施例2]
実施例2に係る樹脂注入成形品1は、被含浸積層体5の不織布15として、ピッチ系炭素繊維からなる無機繊維シート状物を用いた。不織布15において、炭素繊維の繊維径は11μm程度であり、目付は40g/m程度である。この実施例2に係る樹脂注入成形品1におけるその他の構成は、上記実施例1に係る樹脂注入成形品1と同じである。
【0057】
[実施例3]
実施例3に係る樹脂注入成形品1は、被含浸積層体5の不織布15として、ポリアミド繊維からなる有機繊維シート状物を用いた。不織布15において、ポリアミド繊維の繊維径は4μm程度であり、目付は45g/m程度である。この実施例3に係る樹脂注入成形品1におけるその他の構成は、上記実施例1に係る樹脂注入成形品1と同じである。
【0058】
[実施例4]
実施例4に係る樹脂注入成形品1は、被含浸積層体5の不織布15として、アラミド繊維からなる有機繊維シート状物を用いた。不織布15において、アラミド繊維の繊維径は12μm程度であり、目付は20g/m程度である。この実施例4に係る樹脂注入成形品1におけるその他の構成は、上記実施例1に係る樹脂注入成形品1と同じである。
【0059】
[実施例5]
実施例5に係る樹脂注入成形品1は、被含浸積層体5の不織布15として、PAN系炭素繊維からなる無機繊維シート状物を用いた。不織布15の炭素繊維の繊維径は、7μm程度であり、目付は10g/m程度である。マトリックス樹脂7の硬化剤としては、酸無水物系の硬化剤であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸を用いた。この実施例5に係る樹脂注入成形品1におけるその他の構成は、上記実施例1に係る樹脂注入成形品1と同じである。
【0060】
[比較例]
比較例に係る樹脂注入成形品は、被含浸積層体5に不織布15を備えていない。この比較例に係る樹脂注入成形品におけるその他の構成は、上記実施例1に係る樹脂注入成形品1と同じである。
【0061】
これら実施例1~5および比較例に係る樹脂注入成形品1について、ウェーブスキャン測定装置(BYK Additives & Instruments社製)を用いて長波長による表面平滑度を測定した。図13に、実施例1~5および比較例に係る樹脂注入成形品1の平滑性の評価を示す。表面平滑度を示すスキャン値は、低いほど外観性状が良いことを表している。
【0062】
図13に示すように、比較例に係る樹脂注入成形品の表面平滑度を示すスキャン値は、65を超えている。これに対し、実施例1~5に係る樹脂注入成形品1のスキャン値は、60を下回っていた。特に、実施例5に係る樹脂注入成形品1のスキャン値は、20未満であり10を少し上回る程度の値であった。こうした表面平滑度の測定結果から、実施例1~5に係る樹脂注入成形品1、とりわけ実施例5に係る樹脂注入成形品1の平滑性は、比較例に係る樹脂注入成形品の平滑性よりも高められていることが確認された。
【0063】
また、実施例1~5および比較例に係る樹脂注入成形品について、弾性率を測定した。当該弾性率の測定は、動的粘弾性測定装置(UBM社製 Rheogel-E4000)を用いて、30℃における樹脂注入成形品の動的粘弾性を測定することにより行った。図14に、実施例1~5および比較例に係る樹脂注入成形品の弾性率の評価を示す。
【0064】
図14に示すように、比較例に係る樹脂注入成形品についての弾性率は、25GPa以上であった。これに対し、実施例1および5に係る樹脂注入成形品1についての弾性率も、25GPa以上であった。また、実施例2~4に係る樹脂注入成形品1についての弾性率は、25GPaを下回るものの、20PGa前後の値であった。こうした弾性率の測定結果から、不織布15を表面側に備える実施例1~5に係る樹脂注入成形品1でも、比較例に係る樹脂注入成形品に比べて弾性率の大幅な低下を招いておらず、とりわけ不織布15にPAN系炭素繊維を用いた実施例1および5に係る樹脂注入成形品1では、比較例に係る樹脂注入成形品と同等な弾性率を発揮することが確認された。
【0065】
上述の如く、実施例1~5のなかでも、不織布15にPAN系炭素繊維を用い、且つマトリックス樹脂7の硬化剤として酸無水物系の硬化剤を用いた実施例1に係る樹脂注入成形品1が、機械的性質(弾性率)が良好であり、表面平滑度が高い。したがって、樹脂注入成形品1において、PAN系炭素繊維からなる不織布15を備え、マトリックス樹脂7に酸無水物系の硬化剤を用いることが、機械的性質(弾性率)を維持しながら表面平滑度を高めるのに有効である。
【0066】
以上のように、本開示の技術として、好ましい実施形態について説明した。しかし、本開示の技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0067】
例えば、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0068】
図15に、変形例1に係る樹脂注入成形品1の図2相当図を示す。上記実施形態では、不織布15が基材本体11表面をなす第4ストランドシート17dとクロスシート13との間にのみ配置されている樹脂注入成形品1を例に挙げて説明したが、これに限らない。図15に示すように、不織布15は、第4ストランドシート17dとクロスシート13との間に配置されることに加え、クロスシート13の樹脂表層31側の面にも隣接配置されていてもよい。このような構成によれば、第4ストランドシート17d表面側の凹所19およびクロスシート13裏面側の凹所29に形成される樹脂リッチ部33の収縮と、クロスシート13表面側の凹所29に形成される樹脂リッチ部33の収縮とに起因して樹脂注入成形品1の表面にヒケが生じるのを抑制することができる。
【0069】
図16に、変形例2に係る樹脂注入成形品1の図2相当図を示す。図16に示すように、不織布15は、第4ストランドシート17dとクロスシート13との間には配置されず、クロスシート13の樹脂表層31側の面のみに隣接配置されていてもよい。このような構成によれば、クロスシート13表面側の凹所29に形成される樹脂リッチ部33の収縮に起因して樹脂注入成形品1の表面にヒケが生じるのを抑制することができる。
【0070】
また、上記実施形態では、被含浸積層体5がセットされた成形型103の成形空間119に液状のマトリックス樹脂7を注入し、被含浸積層体にマトリックス樹脂7を含浸させるRTM法を用いる樹脂注入成形品1の製造方法を例に挙げて説明したが、これに限らない。本開示の技術は、被含浸積層体5を成形型にセットし、成形型にセットした被含浸積層体5をフィルム状のバッグ材で覆って密封した後に、成形型とバッグ材との間に形成された成形空間を、その一方側に設けられた真空吸引ポートを通じて減圧すると共に、成形空間に対し他方側に設けられた樹脂注入ポートから液状のマトリックス樹脂7を注入することにより、被含浸積層体5にマトリックス樹脂7を含浸させるといった、VaRTM法を用いる樹脂注入成形品1の製造方法にも適用することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、被含浸積層体5が4枚のストランドシート17(第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17d)およびクロスシート13からなるとしたが、これに限らない。被含浸積層体5をなす基材本体11は、5枚以上のストランドシート17によって構成されていてもよいし、3枚以下のストランドシート17によって構成されていても構わない。また、被含浸積層体5は、クロスシート13を備えていなくてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、被含浸積層体5の基材本体11を構成する繊維シート9がNCFなどからなる第1~第4ストランドシート17a,17b,17c,17dであるとしたが、これに限らない。被含浸積層体5の基材本体11に用いられる繊維シート9は、多数本の強化繊維3からなるシート状繊維物あれば、ストランドシート以外のUD材からなる繊維シート、その他の織物や編物などであってもよい。被含浸積層体5を構成する繊維シート9,13は、液状樹脂を含浸可能であって、少なくとも一方側の面に隙間などからなる凹所が形成されていれば構わない。
【0073】
また、上記実施形態では、マトリックス樹脂7として熱硬化性樹脂が用いられているとしたが、これに限らない。マトリックス樹脂7には、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、アミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、サルファイド系樹脂、アクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられてもよい。熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、樹脂注入成形品1は自動車のボディパネルに用いられるとしたが、これに限らない。自動車のボディパネルは、樹脂注入成形品1の用途の一例に過ぎず、樹脂注入成形品1は、シートやサスペンション、フロアなどのその他の自動車部品に用いられていてもよいし、自動車用途に限らず、航空機部材や自転車部材、船舶部材、風車ブレード、スポーツ用具、建築構造材などの他用途にも広く用いることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したように、本開示の技術は、RTM法を用いて成形された樹脂注入成形品およびその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0076】
1 樹脂注入成形品
3 強化繊維
4 補助糸
5 被含浸積層体
7 マトリックス樹脂
9 繊維シート
11 基材本体
13 クロスシート(繊維シート)
15 不織布
17 ストランドシート
17a 第1ストランドシート(繊維シート)
17b 第2ストランドシート(繊維シート)
17c 第3ストランドシート(繊維シート)
17d 第4ストランドシート(繊維シート)
18 繊維束
19 凹所
21 強化繊維
23 繊維束
25 経糸
27 緯糸
29 凹所
31 樹脂表層
33 樹脂リッチ部
101 成形装置
103 成形型
105 樹脂注入装置
107 真空吸引装置
109 キャビ型
111 コア型
113 凹状部
115 成形面
117 凸状部
119 成形空間
121 樹脂注入ポート
123 真空吸引ポート
125 樹脂注入経路
127 開閉弁
129 真空吸引経路
131 開閉弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18