(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】抗糖尿病ペプチドの経粘膜送達用のフィルム状投与形態
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20220603BHJP
A61K 38/26 20060101ALI20220603BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220603BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220603BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
A61K38/28
A61K38/26
A61K47/38
A61K9/70
A61P3/10
(21)【出願番号】P 2018555869
(86)(22)【出願日】2017-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2017059379
(87)【国際公開番号】W WO2017186563
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-03-17
(32)【優先日】2016-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・マリーア・ハンメス
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・シュミッツ
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・リン
(72)【発明者】
【氏名】モハンマト・ザメティ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・クラッフェンバッハ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-528227(JP,A)
【文献】特開平03-090035(JP,A)
【文献】特表2008-509144(JP,A)
【文献】特開2015-155452(JP,A)
【文献】特表2015-537030(JP,A)
【文献】特表2015-527372(JP,A)
【文献】特表2001-508037(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0309294(US,A1)
【文献】Trends in Medical Research (2011) vol.6, issue 1, p.1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/02
A61K 38/28
A61K 38/26
A61K 47/38
A61K 9/70
A61P 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔粘膜を介した抗糖尿病ペプチドの送達用のフィルム状剤形であって、少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドを含有し、異なる粘度の少なくとも2種のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物を含む、少なくとも1つの活性化合物含有層を含み、前記少なくとも2種のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物は、第1のヒドロキシプロピルメチルセルロースと第2のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物であり、ここで、第1のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、高粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、第2のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、中粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、前記高粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、20℃の温度において水中2%溶液で測定される、約3000mPa・s~約5600mPa・sの粘度を有し、前記中粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、20℃の温度において水中2%溶液で測定される、約75mPa・s~約140mPa・sの粘度を有する、前記フィルム状剤形。
【請求項2】
前記少なくとも2種のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物は、第1のヒドロキシプロピルメチルセルロース、第2のヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび第3のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物であり、ここで、第1のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、高粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、第2のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、中粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、第3のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、低粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、前記低粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、20℃の温度において水中2%溶液で測定される、約3mPa・sの粘度を有する、請求項1に記載のフィルム状剤形。
【請求項3】
少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドはインスリン、インスリンアナログ、インクレチンおよびインクレチン模倣物で構成される群から選択される、請求項1または2に記載のフィルム状剤形。
【請求項4】
カバー層をさらに有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルム状剤形。
【請求項5】
カバー層はエチルセルロースを含む、請求項4に記載のフィルム状剤形。
【請求項6】
カバー層中の
エチルセルロースの含量は、カバー層の総重量基準で、少なくとも50重量%であるが、最大で99重量%である、請求項5に記載のフィルム状剤形。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗糖尿病ペプチドの経粘膜送達用のフィルム状剤形を製造する方法であって、以下の工程:
- 活性化合物含有層の成分を溶媒に溶解および/または懸濁する工程、
- 溶液または懸濁液を指定される厚さで担体に塗布する工程;
および
- その後乾燥させる工程
を含む、前記方法。
【請求項8】
- カバー層の成分を溶媒に溶解および/または懸濁する工程、
- カバー層のための溶液または懸濁液を担体に塗布する工程、および
- その後カバー層を乾燥させる工程
をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
活性化合物含有層の成分および/またはカバー層の成分を溶解または懸濁するための溶媒は、水および水とエタノールの混合物を含む群から選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
乾燥は80℃以下の温度で行われる、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
活性化合物含有層の成分を含む溶液または懸濁液の塗布は前もって製造された活性化合物含有層または前もって製造されたカバー層に行われる、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
剤形を分離するまたは所定の幅および長さのストリップへ切断する工程;ならびに
その後パッケージングする工程
をさらに含む、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状剤形、より具体的には粘膜を介した抗糖尿病ペプチドの送達用のフィルム状剤形に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病(真性糖尿病)は、慢性的に上昇した血糖値を特徴とする代謝疾患である。糖尿病は、ホルモンインスリンの欠乏(1型糖尿病)またはインスリンの作用に対する細胞の感受性低下(2型糖尿病)によって引き起こされる。
【0003】
インスリンは、血液の糖濃度(血中グルコースレベル)を制御するために重要であり、グルコースレベルを低下させることができる身体中の唯一のホルモンである。糖尿病患者では、慢性的に上昇した血糖が、網膜に対する深刻な損傷(糖尿病性網膜症)、神経の感覚障害(ニューロパチー)およびケトアシドーシス(不十分なグルコース利用による過度の酸性度)を引き起こす。しかしながら、過度に低い血中グルコースレベル(低血糖)も意識不明(糖尿病性機能障害)を引き起こすおそれがある。そのため、患者の健康のために、釣り合いの取れた血中グルコースレベルを維持することが極めて重要である。この目的のためにインスリンを投与することができる。
【0004】
経口投与されたインスリンは消化管内でタンパク質分解酵素によって急速に分解されるので、インスリン、ならびにインスリンアナログおよび他の抗糖尿病ペプチドは通常、注射によって真性糖尿病の患者に投与される。しかしながら、この投与経路は、特に注射に付随する痛みに関する不快感および/もしくは不安または注射に必要とされる皮膚露出による不都合さのために、生活の質の重度の障害を引き起こすものとして多くの患者に認知されている。
【0005】
インスリンの経口投与に関連する課題によって引き起こされる障害にもかかわらず、経口インスリン剤形を開発するための努力がなされてきた。L.HeinemannおよびY.Jaquesによるレビュー論文(非特許文献1)がこれらの努力の概要を提供している。
【0006】
一般に、口腔粘膜を介してインスリンを投与することができるフィルム状剤形もホルモンの経口送達に適している。例えば、特許文献1は、活性化合物が20分以内に溶解および放出することを可能にする水溶性ポリマーを含有する第1のポリマー組成物と、約1時間~約20時間の期間にわたる活性化合物の連続放出を可能にする親水性生体接着性ポリマーを含む第2のポリマー組成物と、活性化合物としてのインスリンまたはインスリンアナログとを含み、0.5mmより厚くない、粘膜に接着するフィルム状剤形を開示している。この文献に具体的に記載されているフィルム状剤形は、少なくとも口腔細胞モデルを用いたインビトロ試験で、インスリンを放出することができた。しかしながら、インビボ試験は公開されていない。
【0007】
公開された特許出願である特許文献2は、粘膜に接着することができるインスリンの全身送達用のフィルム状調製物を開示している。その賦形剤に応じて、フィルムは30秒~30分未満の期間以内にインスリンを溶解または放出するよう設計される。調製物はヒトインスリン、亜鉛キレーターおよび崩壊剤を含有する。多層フィルムであるフィルム状調製物の場合、一方でインスリン、ならびに他方で亜鉛キレーターおよび/または崩壊剤が、活性化合物の貯蔵寿命を改善するために、活性化合物が上記賦形剤と別に貯蔵されるように、別個の層中にある。
【0008】
特許文献3の下で公開された国際特許出願は、医薬活性化合物を粘膜の表面に送達するためのフィルム状担体に関する。これらの調製物は、インスリンを含む複数の活性化合物の送達に適するように設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2012/104834号
【文献】国際公開第2009/048945号
【文献】国際公開第98/17251号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Heinemann,L.およびJaques,Y.(2009)Oral Insulin and Buccal Insulin:A Critical Reappraisal.Journal of Diabetes Science and Technology 3、568~584頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の先行技術の背景に対して、本発明の目的は、口腔の粘膜を介して抗糖尿病ペプチドを送達することができるフィルム状剤形であって、口腔粘膜上の調製物の滞留時間が少なくとも30分間~1時間またはそれ以上となるフィルム状剤形を提供することであり、この期間中に口腔粘膜を介して患者の血流中に治療上有効量の抗糖尿病ペプチドが送達されることを可能にするためであった。これに関連して、口腔粘膜へのフィルム状剤形の施用が、使用者にとって受け入れられない口内の感覚を引き起こしてはならないことを考慮しなければならなかった。同時に、可能な限り効率的で、そのため経済的である製造を可能にするために、剤形を連続的に製造することが可能でなければならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、抗糖尿病ペプチドが、異なる粘度の少なくとも2種のヒドロキシプロピルメチルセルロースに基づくマトリックスに活性化合物として含有される、少なくとも1つの活性化合物含有層を含むフィルム状剤形によって、この目的が達成される。
【0013】
第1の態様によると、本発明は、口腔粘膜を介した少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドの送達用のフィルム状剤形に関する。
【0014】
第2の態様によると、本発明は、口腔粘膜を介した少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドの送達用のフィルム状剤形を製造する方法に関する。
【0015】
第3の態様によると、本発明は、口腔粘膜を介して少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドを送達するためのフィルム状剤形の使用に関する。
【0016】
さらなる態様によると、本発明は、口腔粘膜を介して少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドを送達する方法を含む。
【0017】
別のさらなる態様によると、本発明は、抗糖尿病ペプチドの送達を必要とする患者を治療する方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】インビトロ透過アッセイにおける2つの異なるフィルム状剤形からのインスリンまたはインスリンアナログの透過を示す図である。
【
図2】インビトロ透過アッセイにおける3つの異なるフィルム状剤形からのインスリンアナログの透過を示す図である。
【
図3】インビトロ透過アッセイにおける1つのフィルム状剤形からのインスリンアナログの透過を示す図である。
【
図4】インビトロ透過アッセイにおける1つのフィルム状剤形からのインスリンアナログの透過を示す図である。
【
図5】インビトロ透過アッセイにおける1つのフィルム状剤形からのインスリンアナログの透過を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の態様によるフィルム状剤形は、少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドを活性化合物として含み、剤形を適切に施用すると、口腔粘膜と接触して、口腔粘膜を介して含有する化合物を放出する、少なくとも1つの活性化合物含有層を含む。
【0020】
少なくとも1つの活性化合物含有層は少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドを含む。フィルム状剤形を施用すると、少なくとも1つの活性化合物含有層が口腔粘膜と接触し、そこに接着する。少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される抗糖尿病ペプチドは、少なくとも1つの活性化合物含有層から口腔粘膜を介して使用者の血流中に放出される。
【0021】
本開示の意味内の「抗糖尿病ペプチド」という用語は、抗糖尿病薬として、すなわち、真性糖尿病を治療するための活性化合物として活性なペプチドを指す。「抗糖尿病ペプチド」という用語には、インスリンおよびインスリンアナログが含まれるが、インクレチンおよびインクレチン模倣物も含まれる。
【0022】
インスリンは、好ましくはヒトインスリンであるが、ブタインスリンまたはウシインスリンも使用することができる。インスリンアナログには、インスリンアスパルト、インスリンリスプロおよびインスリングルリジンのような短時間作用型および速効型インスリンアナログが含まれるが、インスリンデテミル、インスリングラルギン、インスリンデグルデクおよびイソフェンインスリンのような長時間作用型インスリンも含まれる。
【0023】
インスリンは、膵臓のβ細胞で産生される全ての哺乳動物にとって極めて重要なタンパク質ホルモンである。インスリンは、2個の分子間ジスルフィド結合(Cys-A7とCys-B7およびCys-A20とCys-B19)によって互いに共有結合した、21個のアミノ酸を含むA鎖と30個のアミノ酸を含むB鎖の2本のペプチド鎖で構成される。第3の分子間ジスルフィド結合は、A鎖の6位と11位のシステイン残基を結合している。
【0024】
インスリンはプレプロインスリンとして自然に合成される。プレプロインスリンは、シグナル配列24アミノ酸長、2個のアミノ酸残基、そこに結合したB鎖30アミノ酸長およびその後のCペプチド31アミノ酸長、引き続いてさらに2個のアミノ残残基および21個のアミノ酸のA鎖で構成される110個のアミノ酸のポリペプチド分子である。
【0025】
プレプロインスリンは、2個がAペプチドとBペプチドとの間で1個がAペプチド内にある3個のジスルフィド結合の形成によって折り畳まれる。シグナル配列およびCペプチドは折り畳まれたプレプロペプチドから切断される。シグナル配列がERの膜を通したプレプロインスリンの貫通によって分割されて、プロインスリンが生じる。プロインスリンはゴルジ装置に吸収され、そこで貯蔵される。必要な時に、C鎖が特異的プロテアーゼによって切断されて、結果として得られたインスリンがその最終構造を獲得する。
【0026】
ブタインスリンは、ブタ膵臓由来の精製された、天然の、抗糖尿病作用物質である。これは、スレオニンの代わりにアラニンを有する、B鎖のB30位を除いて、ヒトインスリンと同じ構造を有する。
【0027】
ウシインスリン(C254H377N65O75S6、Mr=5734g/mol)は、ウシ膵臓由来の精製された、天然の、抗糖尿病作用物質である。ウシインスリンは、3個のアミノ酸がヒトインスリンと異なる。
【0028】
インスリンアスパルト(C256H381N65O79S6、Mr=5825.8g/mol)の一次構造は、B鎖の28位がプロリンの代わりにアスパラギン酸(=アスパラギン酸、よって「アスパルト」)であることを除いて、ヒトインスリンの一次構造と同一である。アミノ酸の置換によって、皮下送達後に、血中のより優れた吸収およびより急速な排除がもたらされる。
【0029】
インスリンリスプロ(C257H383N65O77S6、Mr=5808g/mol)は、B鎖の28位と29位で交換されているアミノ酸を除いて、ヒトインスリンと同一の一次構造を有する。
【0030】
インスリングルリジン(C258H384N64O78S6、Mr=5823g/mol)の一次構造は、以下を除いて、ヒトインスリンの一次構造と同一である:
B鎖の29位がリジンの代わりにグルタミン酸;
B鎖の3位がアスパラギンの代わりにリジン。
【0031】
インスリンデテミル(C267H402N76O64S6、Mr=5916.9g/mol)は、B鎖のB30位のスレオニンが除去され、B29位のリジンにミリスチン酸分子が付加されたことを除いて、ヒトインスリンと同一の一次配列を有する。
【0032】
インスリングラルギン(C267H404N72O78S6、Mr=6063g/mol)は、以下を除いて、ヒトインスリンと同じ一次構造を有する:
A鎖:21位がアスパラギンの代わりにグリシン;
B鎖:さらに、31位および32位の2個のアルギニン。
【0033】
インスリンデグルデクは、以下を除いて、ヒトインスリンと同じ構造を有する:
B鎖の最後のアミノ酸(スレオニンB30)が除去されている;
グルタミン酸および16-C脂肪酸がリジンB29に結合している。
【0034】
イソフェンインスリン(=NPHインスリン)は、硫酸プロタミンまたは別の適切なプロタミンと複合体化したインスリンである。プロタミンは、魚類(通常、サケまたはニシン)の精子または卵から抽出によって得られる塩基性ペプチドである。イソフェンインスリンは、慣用的なインスリンよりも作用開始が遅く、作用持続時間が長く、中間作用型インスリンとして分類される。
【0035】
インクレチンには、膵臓のβ細胞からのインスリンの食物依存性分泌を制御する消化管ホルモンが含まれる。インクレチンには、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)およびグルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド(GIP)が含まれる。
【0036】
グルカゴン様ペプチド1は、そのアミノ酸配列がプログルカゴン遺伝子によって決定されるポリペプチドである。グルカゴン様ペプチドは、30個のアミノ酸の一次構造を有するGLP-1-(7-37)と31個のアミノ酸の一次構造を有するGLP-1-(7-36)の2種類の異なる生物学的に活性な形態で存在することができる。他の作用に加えて、グルカゴン様ペプチド1は膵臓でのインスリン合成を刺激し、グルカゴンレベルを低下させ、胃内容排出を遅くし、飢渇の感覚を抑制する。
【0037】
グルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチドは、十二指腸および空腸のK細胞で実際に産生される。これは、42個のアミノ酸で構成される一次構造を有するポリペプチドである。GIPは膵臓B細胞からのインスリンの放出を促進する。これは胃運動および胃液分泌を抑制する。
【0038】
インクレチン模倣物は、その作用が、体自身のインクレチンの作用を模倣する抗高血糖および抗高血圧活性化合物である。インクレチン模倣物はまた、GLP-1アゴニスト、GLP-1アナログまたはGLP-1受容体アゴニストとも呼ばれる。経粘膜送達に適したインクレチン模倣物には、エキセナチド、リラグルチドおよびリキシセナチドが含まれる。
【0039】
エキセナチドは39個のアミノ酸で構成される合成ペプチドである。この物質は、アメリカドクトカゲ(ヘロデルマ・ススペクツム(Heloderma suspectum))の毒に由来する。この天然ペプチドはエキセンジン-4と呼ばれる。エキセナチドはインクレチングルカゴン様ペプチド1(GLP-1)に関連し、53%の配列相同性を有する。エキセナチドは、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)によって分解されないので、GLP-1よりも実質的に長い半減期および作用持続時間を有する。
【0040】
リラグルチドまたはγ-L-グルタモイル(N-α-ヘキサデカノイル)-Lys26,Arg34-GLP-1(7-37)は分枝鎖ペプチドである。これはインクレチンGLP-1のアナログである。その配列相同性は97%である。Lys34がArgによって置換されており、C16脂肪酸がGluスペーサーを介してLys26に結合していた。これらの修飾により、GLP-1の半減期(2分)を13時間まで延長させることができた。
【0041】
リキシセナチドは、44個のアミノ酸で構成されたペプチドであり、エキセナチドのように、エキセンジン-4に基づいて開発されたGLP-1アナログである。リキシセナチドは天然の基質GLP-1よりも長い半減期および高い結合親和性を有する。しかしながら、その半減期はリラグルチドの半減期よりも短い。
【0042】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドは、抗糖尿病ペプチド含有層の総重量基準で、少なくとも5重量%、より具体的には少なくとも5.6重量%、好ましくは少なくとも10重量%、特に好ましくは少なくとも12重量%、最も特に好ましくは少なくとも15重量%の量で活性化合物含有層に含有される。抗糖尿病ペプチドは、好ましくは、抗糖尿病ペプチド含有層の総重量基準で、20重量%以下、特に好ましくは16重量%以下の量で活性化合物含有層に含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドは、抗糖尿病ペプチド含有層の総重量基準で、約20重量%の量で活性化合物含有層に含有される。
【0043】
少なくとも1種の活性化合物含有層は、少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドを含む、少なくとも2種のヒドロキシプロピルメチルセルロース、第1のヒドロキシプロピルメチルセルロースと第2のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物を含む。追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1種の活性化合物含有層は、3種のヒドロキシプロピルメチルセルロース、第1のヒドロキシプロピルメチルセルロース、第2のヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび第3のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む。種々のヒドロキシプロピルメチルセルロースは粘度が互いに異なる。
【0044】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、第1のヒドロキシプロピルメチルセルロースは高粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースである。高粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースとは、Brookfield LV粘度計で、20℃の温度において水中2%溶液で測定される、約3000mPa・s~約5600mPa・sの範囲のBrookfield粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースを指すと理解される。このようなヒドロキシプロピルメチルセルロースはHPMC4000とも呼ばれる。
【0045】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、第2のヒドロキシプロピルメチルセルロースは中粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースである。中粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースとは、Brookfield LV粘度計で、20℃の温度において水中2%溶液で測定される、約75mPa・s~約140mPa・sの範囲のBrookfield粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースを指すと理解される。このようなヒドロキシプロピルメチルセルロースはHPMC100とも呼ばれる。
【0046】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、第3のヒドロキシプロピルメチルセルロースは低粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースである。低粘度のHPMCとは、Brookfield LV粘度計で、20℃の温度において水中2%溶液で測定される、約3mPa・sの範囲のBrookfield粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースを指すと理解される。このようなヒドロキシプロピルメチルセルロースはHPMC3とも呼ばれる。
【0047】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、異なるヒドロキシプロピルメチルセルロースは1:6~10:0~6(第1のHPMC:第2のHPMC:第3のHPMC)の比で存在する。特定の実施形態では、第1のHPMCと第2のHPMCの比が1:9である。他の実施形態によると、第1のHPMCと第2のHPMCと第3のHPMCの比は1:6.46~6.52:4.07~5.18である。別の実施形態によると、第1のHPMCと第2のHPLCと第3のHPMCの比は約1:7.31:4.5である。
【0048】
より具体的には上記の比の、異なる密度の種々のヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせが、口腔粘膜に接着し、不快な異物感を引き起こさない可撓性フィルムをもたらす。
【0049】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、種々のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物は、各場合で、活性化合物含有層の総重量基準で、少なくとも49重量%、好ましくは少なくとも55重量%、特に好ましくは少なくとも58重量%、最も特に好ましくは少なくとも60重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。種々のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物は、74重量%以下、好ましくは65重量%以下、特に好ましくは62重量%以下、最も特に好ましくは61重量%以下の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、種々のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物は、約51重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。
【0050】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1つの活性化合物含有層は少なくとも1種の可塑剤を含む。少なくとも1種の可塑剤は、剤形が口腔粘膜の表面により容易に適合することができ、よって、不快な異物感を引き起こさないように、フィルム状剤形の可撓性を増加させる。
【0051】
少なくとも1種の可塑剤は、中鎖トリグリセリド、グリセリンおよびクエン酸エステル、例えばクエン酸トリエチルを含む可塑剤の群から選択することができる。中鎖トリグリセリドは、中鎖脂肪酸残基を含むトリグリセリドである。中鎖脂肪酸残基は、6~12個の炭素原子長を有する炭素鎖を有する。
【0052】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1種の可塑剤または複数の可塑剤は、少なくとも4重量%、好ましくは少なくとも5重量%、特に好ましくは少なくとも6重量%、最も特に好ましくは少なくとも9重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。少なくとも1種の可塑剤または複数の可塑剤は、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは16.5重量%以下、最も特に好ましくは11重量%以下の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1種の可塑剤または複数の可塑剤は、約16重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。
【0053】
追加のおよび/代替の実施形態によると、少なくとも1つの活性化合物含有層は少なくとも1種のエンハンサーを含む。少なくとも1種のエンハンサーは、口腔粘膜を通る活性化合物の透過性を改善する。
【0054】
少なくとも1種のエンハンサーは、β-シクロデキストリン、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル、ミリスチン酸イソプロピル、大豆レシチン、トレハロースおよびグリセリン、リノール酸、オレイン酸、オクチルドデカノール、ポリエチレングリコールおよび胆汁酸塩を含む群から選択することができる。
【0055】
少なくとも1種のエンハンサーまたは全エンハンサーは、少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも1.5重量%、特に好ましくは少なくとも4重量%、最も特に好ましくは少なくとも5重量%の量で、活性化合物含有層に含有される。少なくとも1種のエンハンサーまたは全エンハンサーは、22重量%以下の量、好ましくは18重量%以下、特に好ましくは16重量%以下の量で、活性化合物含有層に含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1種のエンハンサーまたは全エンハンサーは、約16重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。
【0056】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1つの活性化合物含有層は少なくとも1種の安定剤を含む。少なくとも1種の安定剤は、より具体的にはフィルム状調製物の貯蔵中の、活性化合物含有層中の活性化合物の安定性を改善し、よって貯蔵寿命を増加させる。
【0057】
少なくとも1種の安定剤は、β-シクロデキストリン、エデト酸二ナトリウム、ポロキサマー188およびトレハロースを含む群から選択することができる。
【0058】
少なくとも1種の安定剤または全安定剤は、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも1.4重量%、特に好ましくは少なくとも3.5重量%の量で、活性化合物含有層に含有される。少なくとも1種の安定剤または全安定剤は、23重量%以下、好ましくは16重量%以下、特に好ましくは11重量%以下、最も特に好ましくは8重量%以下の量で含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、安定剤または全安定剤は、2.5重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。
【0059】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1つの活性化合物含有層は少なくとも1種の保存剤を含む。保存剤は、より具体的には貯蔵中の、フィルム状調製物の貯蔵寿命を改善する。
【0060】
少なくとも1種の保存剤は、メチル-4-ベンゾエートを含む群から選択することができる。
【0061】
少なくとも1種の保存剤は、約0.1重量%の量で含有される。
【0062】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1つの活性化合物含有層は少なくとも1種の色素を含む。
【0063】
色素は、二酸化チタンおよび酸化鉄を含む群から選択することができる。
【0064】
色素は、少なくとも0.1、好ましくは少なくとも0.5重量%、特に好ましくは少なくとも1重量%および好ましくは2重量%以下の量で含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、色素は、約0.5重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。
【0065】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1つの活性化合物含有層は、少なくとも1種のさらなる薬学的に許容される賦形剤を含有する。少なくとも1種のさらなる薬学的に許容される賦形剤は、緩衝物質、例えばリン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液、Na2HPO4、NaH2PO4、クエン酸三ナトリウム、酸性化剤、例えば塩酸もしくはクエン酸、および/または酸性調整剤、例えば水酸化ナトリウムである。
【0066】
リン酸緩衝液は、最大約4.5重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、Na2HPO4は、最大約1.0重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、NaH2PO4は、最大約3.5重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。
【0067】
クエン酸緩衝液は、最大11.7重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、クエン酸三ナトリウムは、最大約8.7重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、クエン酸は、最大約3.0重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1つの活性化合物含有層に、クエン酸三ナトリウムが約5.8重量%の量で含有される、および/またはクエン酸が約3.0重量%の量で含有される。
【0068】
酸性調整剤は、最大約1.0重量%の量で、少なくとも1つの活性化合物含有層に含有される。
【0069】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1種の活性化合物含有層は以下の組成を有する:
【0070】
【0071】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、フィルム状剤形はカバー層を含む。カバー層は、活性化合物含有層の2つの面の1つまたは少なくとも2つの活性化合物含有層の積層上に配置され、剤形が口腔粘膜に正確に施用されると、口腔に向く。
【0072】
フィルム状剤形のカバー層は、活性化合物を本質的に含まず、剤形中に含有される活性化合物の口腔への放出を防ぐので、口腔粘膜上への少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドの選択的放出を提供する。この目的のために、カバー層は、唾液に不溶性である、または活性化合物含有層よりも有意に遅く唾液中で分解する。好ましくは、カバー層は、1つの活性化合物含有層または複数の活性化合物含有層に含有される活性化合物に本質的に不透過性である。
【0073】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、エチルセルロースで構成されたポリマーフィルムは高度に可撓性であるので、少なくとも1つのカバー層は一定含量のポリマー、好ましくは一定含量のエチルセルロースを含む。カバー層中のポリマー、より具体的にはエチルセルロースの含量は、カバー層の総重量基準で、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも55重量%、特に好ましくは少なくとも60重量%、最も特に好ましくは少なくとも65重量%である。カバー層中のポリマー、より具体的にはエチルセルロースの含量は、カバー層の総重量基準で、最大で99重量%、好ましくは最大で95重量%、特に好ましくは最大で94重量%、最も特に好ましくは最大で93.5重量%である。
【0074】
特定の実施形態によると、エチルセルロースは、80体積%のトルエンと20体積%のエタノールの溶媒混合物中5%溶液について、25℃においてUbbelohde粘度計で測定される、90~110mPa・s(cP)の範囲の粘度を有するエチルセルロースである。このようなエチルセルロースはエチルセルロース100とも呼ばれる。
【0075】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、カバー層は少なくとも1種の可塑剤を含む。カバー層中の可塑剤の含量は、カバー層の総重量基準で、好ましくは少なくとも5重量%、特に好ましくは少なくとも10重量%、最も特に好ましくは少なくとも15重量%である。カバー層中の可塑剤の含量は、カバー層の総重量基準で、好ましくは34重量%以下、特に好ましくは30重量%以下、最も特に好ましくは20重量%以下である。
【0076】
カバー層中の可塑剤は、中鎖トリグリセリド、グリセリンおよびクエン酸トリエチルのようなクエン酸エステルを含む群から選択することができる。中鎖トリグリセリドは中鎖脂肪酸を含むトリグリセリドである。中鎖脂肪酸には、6~12個のC原子の炭素鎖を有する脂肪酸、例えばカプロン酸(C6:0)、カプリル酸(C8:0)、カプリン酸(C10:0)およびラウリン酸(C12:0)が含まれる。
【0077】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、カバー層は色素を含む。カバー層中の色素の含量は、カバー層の総重量基準で、約0.5重量%~約2重量%、好ましくは約1重量%または約1.5重量%である。
【0078】
色素は、二酸化チタンおよび酸化鉄で構成される群から選択することができる。
【0079】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、カバー層と少なくとも1つの活性化合物含有層は色が異なる。これにより、患者が活性化合物含有層とカバー層を識別し、カバー層が口腔粘膜に反対に位置せず、口腔に面するように、適切な配向でフィルム状剤形を施用することが可能になる。
【0080】
第2の態様によると、本発明は、上記フィルム状剤形を製造する方法に関する。
【0081】
本方法の一実施形態によると、フィルム状剤形は、活性化合物含有層の成分を溶媒に溶解または懸濁することによって製造される。得られた粘性塊を、適切なフィルムアプリケーター、例えばドクターブレードを使用して、指定される厚さで平らな担体に塗布する。この後、このようにして得られた活性化合物層を乾燥させる。
【0082】
本方法は以下の工程:
活性化合物含有層の成分を溶媒に溶解および/または懸濁する工程、
溶液または懸濁液を指定される厚さで担体に塗布する工程;および
その後乾燥させる工程
を含む。
【0083】
一実施形態によると、活性化合物含有層のための溶媒は、エタノール、水および水とエタノールの混合物、より具体的には約96体積%のエタノールと約4体積%の水の混合物(96%エタノール)を含む群から選択される。追加の実施形態によると、水とエタノールの混合物は、80%と20%(水とエタノール)の体積比を有する。驚くべきことに、水とエタノールの上記混合物を使用することによって、水を溶媒として使用するよりも、インスリンに基づく得られたフィルム状剤形からの優れた活性化合物透過を達成することが可能であった。
【0084】
さらなる実施形態によると、担体が平らな担体、例えばプラスチックフィルム、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルム、前もって製造された活性化合物含有層、前もって製造されたカバー層、少なくとも1つの活性化合物含有層を含む前もって製造された積層、またはカバー層および少なくとも1つの活性化合物含有層を含む前もって製造された積層である。
【0085】
一実施形態によると、乾燥は80℃以下、好ましくは50℃以下の温度、特に好ましくは約50℃の温度で行われる。乾燥によって、溶媒が層から除去される。比較的低い乾燥温度により、抗糖尿病ペプチドが乾燥中に破壊されないことが保証される。
【0086】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、少なくとも1つのさらなる活性化合物含有層は、
さらなる活性化合物含有層の成分を溶媒に溶解および/または懸濁する工程、
溶液または懸濁液を指定される厚さで乾燥した活性化合物層に塗布する工程、および
このようにして得られたさらなる活性化合物層を乾燥させる工程
によって、既に乾燥した活性化合物層に塗布される。そのため、さらなる活性化合物層のための溶液または懸濁液が塗布される乾燥した活性化合物層は平らな担体を構成する。
【0087】
好ましくは、第1の活性化合物含有層の製造と同じ溶媒がさらなる活性化合物含有層の製造に使用される。
【0088】
好ましくは、さらなる活性化合物含有層の乾燥は、80℃以下、好ましくは50℃以下の温度、特に好ましくは約50℃の温度で行われる。
【0089】
カバー層を有する本発明によるフィルム状剤形の製造についてのさらなるおよび/または代替の実施形態によると、カバー層の成分は溶媒に溶解または懸濁される。このようにして得られた粘性塊は、適切なフィルムアプリケーター、例えばドクターブレードを使用して、平らな担体としての最後の乾燥した活性化合物層に塗布され、同様に乾燥される。
【0090】
この実施形態では、フィルム状剤形を製造する方法は、
カバー層の成分を溶媒に溶解および/または懸濁する工程、
カバー層のための溶液または懸濁液を最後の乾燥した活性化合物層に塗布する工程、および
カバー層を乾燥させる工程
を含む。
【0091】
一実施形態によると、カバー層のための溶媒は、水および水とエタノールの混合物を含む群から選択される。追加の実施形態によると、水とエタノールの混合物は、80%と20%(水とエタノール)の体積比を有する。代替の実施形態によると、カバー層のための溶媒はエタノール(96%)である。
【0092】
一実施形態によると、カバー層は、80℃以下、好ましくは50℃以下の温度、特に好ましくは約50℃で乾燥される。乾燥により、層から溶媒が除去される。比較的低い乾燥温度により、抗糖尿病ペプチドが乾燥中に破壊されないことが保証される。
【0093】
カバー層を有する本発明によるフィルム状剤形の製造についての代替の実施形態によると、カバー層は最初に、カバー層の成分の溶液または懸濁液を平らな担体、好ましくはプラスチックフィルム、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムに指定される厚さで塗布し、次いで、このようにして得られた材料層を乾燥させることによって製造される。この後、少なくとも1つの活性化合物含有層は、活性化合物含有層のための担体としての前もって製造されたカバー層に指定される厚さで塗布され、乾燥される。
【0094】
この製造変形のために、カバー層の成分は、溶媒、好ましくは水、エタノール、または水とエタノールの混合物、より具体的には80体積%の水と20体積%のエタノールの混合物、またはエタノール(96%)に溶解または懸濁される。このようにして得られた粘性塊は、指定される厚さで、適切な装置、例えばドクターブレードによって、担体、好ましくはプラスチックフィルム、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布される。このようにして得られた材料層は、好ましくは上記のように乾燥される。高い乾燥温度によってこの乾燥中に活性化合物は悪影響を受けないので、カバー層のための材料層をより高温で乾燥させることも可能である。これにより、乾燥時間を短縮し、製造工程を全体として加速させることが可能になる。
【0095】
乾燥後、活性化合物含有層は前もって製造されたカバー層に塗布される。この目的のために、活性化合物含有層の成分は溶媒、好ましくは水、エタノール、または水とエタノールの混合物、より具体的には80体積%の水と20体積%のエタノールの混合物、またはエタノール(96%)に溶解または懸濁される。得られた粘性活性化合物含有塊は、指定される厚さで、適切なフィルムアプリケーター、例えばドクターブレードによって、前もって製造されたカバー層の自由面に塗布される。
【0096】
この後、このようにして得られた活性化合物層は乾燥される。一実施形態によると、乾燥は80℃以下、好ましくは50℃以下の温度、特に好ましくは約50℃で行われる。
【0097】
よって、この実施形態による方法は、以下の工程:
カバー層の成分を溶媒に溶解および/または懸濁する工程;
溶液を指定される厚さで平らな担体に塗布する工程;
カバー層を乾燥させる工程;
活性化合物含有層の成分を溶媒に溶解または懸濁する工程;
活性化合物含有溶液を前もって製造されたカバー層に塗布する工程;
および
このようにして得られた活性化合物層を乾燥させる工程
を含む。
【0098】
抗糖尿病ペプチドを1つの乾燥段階に供さなければならないだけであり、カバー層の乾燥による活性化合物のさらなる障害を回避することができるので、カバー層を前もって製造し、その後少なくとも1つの活性化合物含有層を塗布することによる抗糖尿病ペプチドの送達用のフィルム状剤形の製造は、活性化合物にとってあまり有害でない。活性化合物にとってあまり有害でないこの製造方法は、剤形中の活性化合物の効能が可能な限り小さい程度にしか影響を受けないので、有利である。
【0099】
さらなる実施形態では、少なくとも1つのさらなる活性化合物含有層を、好ましくは活性化合物層および/または少なくとも1つのさらなる活性化合物層について上記の様式で、既に乾燥され、前もって製造されたカバー層に塗布された活性化合物層に塗布することができる。
【0100】
製造方法のさらなる実施形態によると、剤形は、例えば切断または打抜きによって、複数の活性化合物含有層または少なくとも1つの活性化合物含有層およびカバー層を含む、活性化合物含フィルムまたは得られた活性化合物含有積層から分離される。次いで、分離された剤形はパッケージング、好ましくは個別にパッケージングされる。
【0101】
製造方法の別の実施形態によると、複数の活性化合物含有層または少なくとも1つの活性化合物含有層およびカバー層を含む、活性化合物含有フィルムまたは得られた積層を所定の幅および長さの1つまたは複数のストリップに切断することができる。このようにして得られた活性化合物含有ストリップが圧延またはレポレッロ折り(leporello-folded)材料としてパッケージングされる。この種のパッケージングは、患者個人の要件に応じて、患者が、必要量の活性化合物を含有する活性化合物含有ストリップの切片を切断して、このようにして分離された剤形を使用して個々のニーズに合わせた適切な量の活性化合物を送達することができるようになるという点で、有利である。
【0102】
追加の実施形態によると、所定の長さのストリップは、活性化合物含有ストリップ中の活性化合物の所定の量を示す印を有する。好ましくは、活性化合物含有ストリップ上の印は、互いに等距離で配置される。印は線、模様、ミシン目、表面構造、刻み目、弱化領域などとすることができる。このような印により、使用者が、所望の量の活性化合物を含有する切片を切り離すことによって、活性化合物を正確に投与することが容易になる。
【0103】
追加のおよび/または代替の実施形態によると、活性化合物含有ストリップはディスペンサーにパッケージングされる。活性化合物含有ストリップのディスペンサーへのパッケージングは、この実施形態の活性化合物含有ストリップが患者による使用に直ちに利用可能であり、活性化合物含有ストリップ自体が患者による操作(開梱、ディスペンサーの充填等)を必要とせず、それにもかかわらず、特にユーザーフレンドリーな使用を可能にする形態であるので、例えば、ディスペンサーが特に正確な投薬および/または望ましい切片の特に容易な分離を可能にするので、有利である。
【0104】
あるいは、活性化合物含有ストリップをディスペンサーではなく個別にパッケージングすることもできる。この構成では、個別にパッケージングされた活性化合物含有ストリップを、対応するディスペンサー用の詰め替え用パッケージとして使用することができる。
【0105】
第3の態様によると、本発明は、抗糖尿病ペプチドの経粘膜送達、より具体的には少なくとも1つの口腔粘膜を介した送達のための上記フィルム状剤形の使用に関する。よって、本発明はまた、口腔粘膜を介して少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドを送達する方法、ならびに抗糖尿病ペプチドの送達を必要とする患者を治療する方法に関する。
【0106】
フィルム状剤形の使用、少なくとも1種の抗糖尿病ペプチドを送達する方法、またはフィルム状剤形によって抗糖尿病ペプチドの送達を必要とする患者を治療する方法の使用の好ましい実施形態によると、フィルム状剤形の送達は歯茎の粘膜に行われる(歯肉施用)。驚くべきことに、本発明による剤形のためのこの施用部位が、より具体的には粘膜を介した抗糖尿病ペプチドの透過に関して、特に好ましいことが分かった。
【0107】
一実施形態によると、フィルム状剤形はインスリンまたはインスリンアナログを活性化合物として含み、1型真性糖尿病または2型真性糖尿病の治療に使用される。
【0108】
経粘膜送達、より具体的には経口送達およびその後の口腔粘膜を介した抗糖尿病ペプチドの吸収は、使用者にとって特に快適である。活性化合物は直接粘膜を通して血流中に拡散するので、一般的に「初回通過」代謝を回避することが可能になる。この送達方法は実行が容易であるので、視覚障害者および/または協調運動能力の限られた患者にも適している。
【0109】
本発明を以下の使用実施例で、図面を参照して説明する。ここでは、実施例も図面も請求される発明の範囲を限定せず、説明目的のためのものにすぎない。
【実施例1】
【0110】
活性化合物含有層の成分を、0.141重量%の37%塩酸と混合した水に溶解し、フィルムアプリケーターによって、ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布した。次いで、活性化合物層を80℃の温度で乾燥させた。
【0111】
この後、さらなる活性化合物層を、フィルムアプリケーターによって、上記活性化合物含有層に塗布した。次いで、積層を80℃の温度で乾燥させた。次いで、得られたフィルムから4.11cm2を測定して個々の用量を打ち抜いた。
【0112】
【0113】
この実施例によるフィルム状剤形を用いて実施例9によるインビトロ透過試験で達成された透過速度を、-■-で標識した曲線によって、
図1に示す。
【実施例2】
【0114】
活性化合物含有層の成分を、20重量%のエタノールと80重量%の水の溶媒混合物に溶解し、フィルムアプリケーターによって、ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、次いで、50℃の温度で乾燥させた。
【0115】
【0116】
カバー層の成分をエタノール(96%)に溶解し、フィルムアプリケーターによって、上記活性化合物含有層に塗布した。次いで、積層を50℃の温度で乾燥させた。
【0117】
得られた二層フィルムでは、乾燥カバー層が48.0g/m2の坪量を有しており、活性化合物含有層が114g/m2の坪量を有していた。フィルムから4.11cm2を測定して個々の用量を打ち抜いた。
【0118】
【0119】
この実施例によるフィルム状剤形を用いて実施例9によるインビトロ透過試験で達成された透過速度を、-●-で標識した曲線によって、
図1に示す。
【実施例3】
【0120】
活性化合物含有層の成分を、20重量%のエタノールと80重量%の水の溶媒混合物に溶解し、フィルムアプリケーターによって、ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、次いで、50℃の温度で乾燥させた。
【0121】
【0122】
カバー層の成分をエタノール(96%)に溶解し、フィルムアプリケーターによって、上記活性化合物含有層に塗布した。次いで、積層を50℃の温度で乾燥させた。
【0123】
得られた二層フィルムでは、乾燥カバー層が48.0g/m2の坪量を有しており、活性化合物含有層が114g/m2の坪量を有していた。フィルムから4.11cm2を測定して個々の用量を打ち抜いた。
【0124】
【0125】
この実施例によるフィルム状剤形を用いて実施例9によるインビトロ透過試験で達成された透過速度を、-●-で標識した曲線によって、
図2に示す。
【実施例4】
【0126】
【0127】
活性化合物含有層の成分を、20重量%のエタノールと80重量%の水の溶媒混合物に溶解し、フィルムアプリケーターによって、ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、次いで、50℃の温度で乾燥させた。
【0128】
【0129】
カバー層の成分をエタノール(96%)に溶解し、フィルムアプリケーターによって、上記活性化合物含有層に塗布した。次いで、積層を50℃の温度で乾燥させた。
【0130】
得られた二層フィルムでは、乾燥カバー層が48.0g/m2の坪量を有しており、活性化合物含有層が114g/m2の坪量を有していた。フィルムから4.11cm2を測定して個々の用量を打ち抜いた。
【0131】
この実施例によるフィルム状剤形を用いて実施例9によるインビトロ透過試験で達成された透過速度を、-◆-で標識した曲線によって、
図2に示す。
【実施例5】
【0132】
活性化合物含有層の成分を、20重量%のエタノールと80重量%の水の溶媒混合物に溶解し、フィルムアプリケーターによって、ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、次いで、50℃の温度で乾燥させた。
【0133】
【0134】
カバー層の成分をエタノール(96%)に溶解し、フィルムアプリケーターによって、上記活性化合物含有層に塗布した。次いで、積層を50℃の温度で乾燥させた。
【0135】
【0136】
得られた二層フィルムでは、乾燥カバー層が48.0g/m2の坪量を有しており、活性化合物含有層が114g/m2の坪量を有していた。フィルムから4.11cm2を測定して個々の用量を打ち抜いた。
【0137】
この実施例によるフィルム状剤形を用いて実施例9によるインビトロ透過試験で達成された透過速度を、-▲-で標識した曲線によって、
図2に示す。
【実施例6】
【0138】
カバー層の成分をエタノール(96%)に溶解し、フィルムアプリケーターによって、ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、次いで、50℃の温度で乾燥させた。
【0139】
【0140】
活性化合物含有層の成分を、20重量%のエタノールと80重量%の水の溶媒混合物に溶解し、フィルムアプリケーターによって、ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、次いで、50℃の温度で乾燥させた。
【0141】
【0142】
得られた二層フィルムでは、乾燥カバー層が48.0g/m2の坪量を有しており、活性化合物含有層が114g/m2の坪量を有していた。フィルムから4.11cm2を測定して個々の用量を打ち抜いた。
【0143】
この実施例によるフィルム状剤形を用いて実施例9によるインビトロ透過試験で達成された透過速度を、
図3に示す。
【実施例7】
【0144】
カバー層の成分をエタノール(96%)に溶解し、フィルムアプリケーターによって、上記活性化合物含有層に塗布した。次いで、積層を50℃の温度で乾燥させた。
【0145】
【0146】
活性化合物含有層の成分を、20重量%のエタノールと80重量%の水の溶媒混合物に溶解し、フィルムアプリケーターによって、ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、次いで、50℃の温度で乾燥させた。
【0147】
【0148】
得られた二層フィルムでは、乾燥カバー層が48.0g/m2の坪量を有しており、活性化合物含有層が114g/m2の坪量を有していた。フィルムから4.11cm2を測定して個々の用量を打ち抜いた。
【0149】
この実施例によるフィルム状剤形を用いて実施例9によるインビトロ透過試験で達成された透過速度を、
図4に示す。
【実施例8】
【0150】
カバー層の成分をエタノール(96%)に溶解し、フィルムアプリケーターによって、上記活性化合物含有層に塗布した。次いで、積層を50℃の温度で乾燥させた。
【0151】
【0152】
活性化合物含有層の成分を、20重量%のエタノールと80重量%の水の溶媒混合物に溶解し、フィルムアプリケーターによって、ポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、次いで、50℃の温度で乾燥させた。
【0153】
得られた二層フィルムでは、乾燥カバー層が48.0g/m2の坪量を有しており、活性化合物含有層が114g/m2の坪量を有していた。フィルムから4.11cm2を測定して個々の用量を打ち抜いた。
【0154】
【0155】
この実施例によるフィルム状剤形を用いて実施例6によるインビトロ透過試験で達成された透過速度を、
図5に示す。
【実施例9】
【0156】
インビトロにおけるインスリンアナログの透過の決定
インスリンまたはインスリンアナログの放出および経粘膜透過を、会社Skin Ethics、Lyon、フランスのヒト上皮皮膚モデルを使用したインビトロモデルで調査した。このモデルでは、細胞株TR146のヒトケラチノサイトを、化学的に定義された培地において、角質層を有さず、よって、少なくとも組織学的に口腔粘膜に相当する上皮組織が空気との液体界面上に形成するように、ポリカーボネートフィルタ上で培養した。
【0157】
ディスペンサー区画とアクセプター区画を互いに分離するために、モデル組織を含有する個々のポリカーボネートフィルタを拡散チャンバーに入れ、ここで、上皮をディスペンサー区画の腔に向けて配向した。フィルム状剤形を上皮に施用し、アクセプター区画の活性化合物を予め設定された時間間隔で決定した。実施例1~実施例4に記載される調製物についての結果を
図1および
図2に示す。