(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法、及びポリスチレン系樹脂多層発泡シート
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20220603BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
B32B5/18
B32B27/30 B
(21)【出願番号】P 2019004056
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(72)【発明者】
【氏名】角田 博俊
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅司
(72)【発明者】
【氏名】五月女 陽一
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特許第6858661(JP,B2)
【文献】特開2015-4015(JP,A)
【文献】特開2009-29949(JP,A)
【文献】特開2007-125830(JP,A)
【文献】特開2005-281405(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0256898(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に、ポリスチレン系樹脂層を積層して、多層発泡シートを製造する方法において、
該ポリスチレン系樹脂層は、粒子状のゴム状重合体がポリスチレン系樹脂マトリックス中に分散している耐衝撃性ポリスチレン系樹脂と、分岐鎖を有する分岐ポリスチレン系樹脂との混合樹脂からなり、
該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量が100万~500万であると共に、該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値が0.80以下であり、且つ該分岐ポリスチレン系樹脂のテトラヒドロフラン不溶分の含有量が0.1重量%以下(0を含む)であり、
該混合樹脂中の該分岐ポリスチレン系樹脂の重量割合が5重量%以上30重量%未満であることを特徴とするポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
【請求項2】
前記分岐ポリスチレン系樹脂が、分子鎖中に多官能性単量体由来の成分を含まないことを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
【請求項3】
前記分岐ポリスチレン系樹脂中のGPC-MALS法で測定される絶対分子量100万以上の分子の重量割合が20重量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
【請求項4】
前記耐衝撃性ポリスチレン系樹脂のマトリックスのGPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量が10万~35万であると共に、該マトリックスのGPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値が0.95以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂層の積層量が50~150g/m
2であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
【請求項6】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に、ポリスチレン系樹脂層が積層されてなる、多層発泡シートにおいて、
ポリスチレン系樹脂層は、粒子状のゴム状重合体がポリスチレン系樹脂マトリックス中に分散している耐衝撃性ポリスチレン系樹脂と、分岐鎖を有する分岐ポリスチレン樹脂との混合樹脂からなり、
該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量が100万~500万であると共に、該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値が0.80以下であり、かつ該分岐ポリスチレン系樹脂のテトラヒドロフラン不溶分の含有量が0.1重量%以下(0を含む)であり、
該混合樹脂中の該分岐ポリスチレン系樹脂の重量割合が5重量%以上30重量%未満であることを特徴とするポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法及びポリスチレン系樹脂多層発泡シートに関し、詳しくは熱成形性に優れるポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法、及び熱成形性に優れるポリスチレン系樹脂多層発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系樹脂発泡シートに耐衝撃性ポリスチレン系樹脂からなる樹脂層が積層されたポリスチレン系樹脂多層発泡シート(以下、単に多層発泡シートともいう。)が広く用いられてきた。ポリスチレン系樹脂発泡シートへの耐衝撃性ポリスチレン系樹脂層の積層方法としては、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂の溶融樹脂を押出ラミネートにより発泡シートに積層して樹脂層を形成する方法や、予め作製された耐衝撃性ポリスチレン系樹脂フィルムを熱ラミネートにより発泡シートに積層して樹脂層を形成する方法が行われている。また、樹脂層形成用の溶融樹脂と発泡シート層形成用の溶融樹脂とを共押出することにより発泡シートに樹脂層が積層された多層発泡シートを製造する方法も行われている。
【0003】
該多層発泡シートは、熱成形性に優れる素材であって、該多層発泡シートから熱成形によって得られた成形体は断熱性に優れ、外観が美麗である等の特徴を有している。さらに、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂層が積層されていることにより、該多層発泡シートは熱成形可能な加熱時間範囲が広くなっていることから、特に丼等の比較的底の深い形状の食品容器等の熱成形用の素材として、近年大量に使用されてきた。なお、該多層発泡シートは単層のポリスチレン系樹脂発泡シートに比べると剛性、および耐衝撃性が向上しているものである。
【0004】
近年、該多層発泡シートを用いて、丼等より更に深い形状の食品容器、具体的には展開倍率が大きい(例えば、2.5倍以上)縦型カップ等の容器の熱成形が行われるようになった。従来技術において、展開倍率が大きい容器を熱成形する場合、坪量の大きい多層発泡シートが使用されていた。坪量の小さい多層発泡シートを用いて展開倍率が大きい容器を得ようとすると、ナキや中割れといった成形不良が発生しやすいという問題が発生するからである。この問題を解決するために、樹脂層を構成する耐衝撃性ポリスチレン系樹脂等の溶融張力や一軸伸長粘度を大きくすることにより、樹脂層の熱成形性を向上させることが試みられてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、樹脂層として、130℃における伸長粘度測定において、最大伸長粘度が7.0×105Poise以上であり、かつ伸長粘度の歪硬化指数が1.1以上であるゴム変性ポリスチレン非発泡フィルム(樹脂層)が積層された発泡積層シートであって、ヤキ、ナキ等の外観不良を発生することなく深絞り成形による深型容器の成形が可能なスチレン系樹脂発泡積層シートが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、スチレン系樹脂(a)とゴム変性ポリスチレン(b)を(a)/(b)=5/95~95/5の質量比率でブレンドして得られるゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いて非発泡のシートを製造することが開示され、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物が、マトリックス相を形成するスチレン系樹脂中にゴム状重合体粒子が分散してなるゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、マトリックス相のZ平均分子量(Mz)が50万以上であり、マトリックス相の、分子量150万以上における分岐比をgM1、分子量100万~150万における分岐比をgM2とすると、gM1が0.70~0.20であり、且つ(gM2-gM1)の値が0.05以上であり、スチレン系樹脂(a)が、スチレン系単量体に対して、1分子中に複数の二重結合を有し、且つ分岐構造を有する溶剤可溶性多官能ビニル共重合体を質量基準で50ppm~1000ppm添加し、重合して得られる樹脂であることが開示されている。また、特許文献2には、得られたゴム変性スチレン系樹脂シートは、剛性と耐衝撃性のバランスに優れ、且つ成形による偏肉が少ないため、容器の圧縮強度や落下強度に優れ、容器の複雑形状化や薄肉軽量化が可能となることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-99507号公報
【文献】特開2016-222751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載のスチレン系樹脂発泡積層シートは、ヤキ、ナキ等の外観不良を発生することがないといっても、外観不良のない深絞り容器を成形することができる成形条件の範囲は狭く、連続生産には不適であった。
また、特許文献2に記載のゴム変性スチレン系樹脂シートは、非発泡シートのみの深絞り成形は可能であるが、発泡シートに積層した場合、展開倍率が大きい深絞り成形を行うと成形体の側面にワレが発生するので、深絞り成形性は未だ不十分なものである。
【0009】
本発明は、深絞り成形性に優れるポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法、該製造方法により得られる深絞り成形性に優れるポリスチレン系樹脂多層発泡シートを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下に示すポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法、及びポリスチレン系樹脂多層発泡シートが提供される。
[1]ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に、ポリスチレン系樹脂層を積層して、多層発泡シートを製造する方法において、
該ポリスチレン系樹脂層は、粒子状のゴム状重合体がポリスチレン系樹脂マトリックス中に分散している耐衝撃性ポリスチレン系樹脂と、分岐鎖を有する分岐ポリスチレン系樹脂との混合樹脂からなり、
該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量が100万~500万であると共に、該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値が0.80以下であり、且つ該分岐ポリスチレン系樹脂のテトラヒドロフラン不溶分の含有量が0.1重量%以下(0を含む)であり、
該混合樹脂中の該分岐ポリスチレン系樹脂の重量割合が5重量%以上30重量%未満であることを特徴とするポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
[2]前記分岐ポリスチレン系樹脂が、分子鎖中に多官能性単量体由来の成分を含まないことを特徴とする前記1に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
[3]前記分岐ポリスチレン系樹脂中のGPC-MALS法で測定される絶対分子量100万以上の分子の重量割合が20重量%以上であることを特徴とする前記1又は2に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
[4]前記耐衝撃性ポリスチレン系樹脂のマトリックスのGPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量が10万~35万であると共に、該マトリックスのGPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値が0.95以上であることを特徴とする前記1~3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
[5]前記樹脂層の積層量が50~150g/m2であることを特徴とする前記1~4のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
[6]ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に、ポリスチレン系樹脂層が積層されてなる、多層発泡シートにおいて、
該ポリスチレン系樹脂層は、粒子状のゴム状重合体がポリスチレン系樹脂マトリックス中に分散している耐衝撃性ポリスチレン系樹脂と、分岐鎖を有する分岐ポリスチレン樹脂との混合樹脂からなり、
該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量が100万~500万であると共に、該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値が0.80以下であり、かつ該分岐ポリスチレン系樹脂のテトラヒドロフラン不溶分の含有量が0.1重量%以下(0を含む)であり、
該混合樹脂中の該分岐ポリスチレン系樹脂の重量割合が5重量%以上30重量%未満であることを特徴とするポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により得られるポリスチレン系樹脂多層発泡シートは、分子量が大きいと共に高度に分岐した分岐構造を有する分岐ポリスチレン系樹脂と耐衝撃性ポリスチレン系樹脂との混合樹脂を用いて形成された樹脂層をポリスチレン系樹脂発泡シートに積層することにより得られたものなので、展開倍率が大きい深絞り成形品の熱成形においても、広い成形温度条件範囲での熱成形を行うことができ、安定した連続生産が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ポリスチレン系樹脂の分子量をGPC-MALS法により測定する際に得られるDebyeプロットの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法、及び該製造方法により得られるポリスチレン系樹脂多層発泡シートについて詳細に説明する。
本発明のポリスチレン系樹脂多層発泡シート(以下、単に多層発泡シートともいう。)の製造方法においては、ポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、単に発泡シートともいう。)の片面又は両面にポリスチレン系樹脂樹脂層(以下、単に樹脂層ともいう。)を積層することにより、多層発泡シートが製造される。
【0014】
発泡シートへの樹脂層の積層は、発泡シートを製造し、得られた発泡シートに押出ラミネートにより樹脂層を積層することにより行うことができる。この場合、発泡シートの製造に用いる装置については従来公知のものを使用することができ、製造方法については従来公知の方法を利用することができ、押出ラミネートに用いる装置についても従来公知のものを使用することができ、押出ラミネートの方法についても従来公知の方法を利用することができる。
また、本発明方法においては、予め作製された耐衝撃性ポリスチレン系樹脂フィルムを発泡シートに積層接着させて樹脂層を形成する熱ラミネート法や、発泡シート形成用の発泡性溶融樹脂と樹脂層形成用溶融樹脂とを共押出用ダイを用いて積層し、共押出発泡するという共押出発泡法を採用することもできる。この場合の装置及び方法についても、従来公知の装置及び方法を使用することができる。
【0015】
本発明方法においては、特定の混合樹脂を用いて前記樹脂層が形成される。
該混合樹脂は、粒子状のゴム状重合体がポリスチレン系樹脂マトリックス中に分散している耐衝撃性ポリスチレン系樹脂と、分岐鎖を有する分岐ポリスチレン系樹脂との混合樹脂からなるものである。
【0016】
次に、該混合樹脂を構成する耐衝撃性ポリスチレン系樹脂について説明する。
該耐衝撃性ポリスチレン系樹脂は、粒子状のゴム状重合体がポリスチレン系樹脂マトリックス中に分散している樹脂である。即ち、該耐衝撃性ポリスチレン系樹脂は、ポリスチレン系樹脂がマトリックスを形成し、該マトリックスに粒子状のゴム状重合体(ゴム状重合体粒子)が分散しているものであり、該ゴム状重合体粒子によりポリスチレン系樹脂の耐衝撃性が向上したものである。
【0017】
前記マトリックスを形成するポリスチレン系樹脂の構成要素となるスチレン系単量体としては、スチレン、αメチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の単独または混合物が挙げられ、特に好ましくはスチレンである。また、スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル系モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸等を、本発明の効果を損なわない程度で共重合することもできる。
【0018】
該マトリックスに分散するゴム状重合体粒子は、ゴム状重合体にスチレン系単量体がグラフト重合されたものである。該ゴム状重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体、ポリイソプレン、スチレン-イソプレン共重合体やそれらの水添物等が挙げられる。ゴム状重合体は、単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0019】
該耐衝撃性ポリスチレン系樹脂中のゴム状重合体がポリブタジエンである場合、ポリブタジエンの含有量は、通常3~20重量%であることが好ましく、より好ましくは5~15重量%である。該含有量がこの範囲内であれば、耐衝撃性と剛性とのバランスに優れる樹脂となる。
【0020】
本明細書において、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂中のブタジエンの含有量は、次のように測定される。
測定対象となる耐衝撃性ポリスチレン系樹脂0.3~1.0gを秤量し、これにクロロホルムを50mL加えて耐衝撃性ポリスチレン系樹脂を溶解させた後、ウィイス試薬(一塩化ヨウ素の酢酸溶液)25mLを加えて軽く撹拌し、密栓して室温暗所で放置する。次いで、これに100g/Lのヨウ化カリウム水溶液20mLと精製水100mLを加え、撹拌した後、0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液を滴定液とし、電位差滴定装置を用いて滴定を行い、下記式を用いてブタジエンの含有量を算出する。
ブタジエン含有量(%)=({(V0-V1)×f×1.269})/S×54.09/253.8
S:採取試料の質量(g)
V0:空試験で要した滴定液の量(mL)
V1:本試験で要した滴定液の量(mL)
f:滴定液のファクター(1.000)
【0021】
該耐衝撃性ポリスチレン系樹脂のマトリックスにつき、GPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量は10万~35万であることが好ましく、より好ましくは15万~30万である。絶対重量平均分子量が前記範囲である耐衝撃性ポリスチレン系樹脂は、良好な流動性を示すので、押出加工が容易であり、また、耐衝撃性も良好である。なお、通常市販されている耐衝撃性ポリスチレンのマトリックスのGPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値は0.95以上である。
【0022】
次に、前記混合樹脂を構成する分岐ポリスチレン系樹脂について説明する。
分岐ポリスチレン系樹脂は、分岐鎖を有するポリスチレン系樹脂である。本発明においては、分岐ポリスチレン系樹脂の中でも、より高分子量であり、かつより高度に分岐している分岐ポリスチレン系樹脂が用いられる。具体的には、該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量が100万~500万であると共に、該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値が0.80以下であり、且つ該分岐ポリスチレン系樹脂のテトラヒドロフラン不溶分の含有量が0.1重量%以下(0を含む)である。
【0023】
該分岐ポリスチレン系樹脂の構成要素となるスチレン系単量体としては、スチレン、αメチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の単独または混合物が挙げられ、特に好ましくはスチレンである。また、スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル系モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸等を、本発明の効果を損なわない程度で共重合することもできる。
【0024】
本発明で用いられる分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量は100万~500万である。該絶対重量平均分子量が低すぎると、多層発泡シートの深絞り成形性を向上させることができなくなるおそれがある。かかる観点から、該絶対重量平均分子量は、120万以上が好ましく、155万以上がより好ましく、180万以上が更に好ましい。一方、ポリスチレン系樹脂の絶対重量平均分子量が高すぎると、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂と十分に相溶させることができなくなるおそれがある。かかる観点から、該絶対重量平均分子量は、400万以下であることが好ましい。
【0025】
多層発泡シートの深絞り成形性をより向上させるという観点から、該分岐ポリスチレン系樹脂においては、GPC-MALS法で測定される絶対分子量100万以上の分子の重量割合が20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは25重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上である。該重量割合の上限は、好ましくは概ね80重量%、より好ましくは70重量%である。
【0026】
該分岐ポリスチレン系樹脂のGPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値は0.80以下である。該収縮因子が大きすぎると、分子鎖の分岐度が小さくなりすぎ、多層発泡シートの深絞り成形性を向上させることができなくなるおそれがある。かかる観点から、該収縮因子の平均値は、0.75以下であることがより好ましく、0.70以下であることがさらに好ましい。その下限は概ね0.4程度である。
【0027】
本発明において、該分岐ポリスチレン系樹脂のテトラヒドロフラン不溶分の含有量は0.1重量%以下(0を含む)であり、0.05重量%以下であることが好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。該含有量が0.1重量%以下であることは、樹脂中にゲル化物が実質的に含まれないことを意味する。
本発明で用いられる分岐ポリスチレン系樹脂は、絶対重量平均分子量が100万を超え、収縮因子の平均値が0.80以下である場合であっても、ゲル化物を実質的に含まない。このような分岐ポリスチレン系樹脂は、例えば分岐鎖をグラフト重合により形成させることにより得ることができる。このような分岐構造のポリスチレン系樹脂は、分岐鎖が局所的に集中して主鎖に結合していることがなく、分岐鎖が主鎖全体に均一に結合していると考えられる。この構造により、分子量が高く、かつ高度に分岐していても、ゲル化物の生成が抑制されているものと考えられる。
【0028】
テトラヒドロフラン不溶分(THF不溶分)は、次のようにして求められる。
分岐ポリスチレン系樹脂1gを精秤して、これにテトラヒドロフラン30mlを加え、23℃で24時間浸漬後、5時間振とうし、静置する。次いで上澄みをデカンテーションにより取り除き、再度テトラヒドロフラン10mlを加えて静置し、上澄みをデカンテーションにより取り除き、23℃で24時間乾燥する。乾燥後の重量を求め、次式によりテトラヒドロフラン不溶分を求める。
テトラヒドロフラン不溶分(%)=[乾燥後の不溶分重量/試料の重量]×100
【0029】
次に、本発明で用いられる混合樹脂における、前記分岐ポリスチレン系樹脂の配合量について説明する。
該混合樹脂においては、前記分岐ポリスチレン系樹脂の混合樹脂中の重量割合は5重量%以上30重量%未満である。該分岐ポリスチレン系樹脂の配合量が少なすぎると、成形性向上効果が十分に発揮されないおそれがある。一方、該配合量が多すぎると、樹脂層の耐衝撃性が低下しすぎてしまい、得られた成形品が割れやすくなるおそれがある。かかる観点から、分岐ポリスチレン系樹脂の重量割合の下限は、10重量%であることが好ましく、その上限は20重量%であることが好ましい。
【0030】
以上説明したように、本発明において用いられる分岐ポリスチレン系樹脂は、(1)GPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量が100万~500万であること(2)GPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値が0.80以下であること、(3)分岐ポリスチレン系樹脂のテトラヒドロフラン不溶分の含有量が0.1重量%以下(0を含む)であることを満たすことに特徴があり、このような分岐ポリスチレン系樹脂は、次の重合方法で製造することができる。
【0031】
(1)ポリスチレン系樹脂核粒子を水性媒体中に分散させ、(2)次に、該水性媒体中に、有機過酸化物を含む重合開始剤及びスチレン単量体を添加し、実質的にスチレン単量体の重合が進行しない温度で該核粒子に該重合開始剤及び該スチレン単量体を含浸させ、(3)次に、該水性媒体を昇温して、該スチレン単量体の重合を開始させ、(4)次に、該水性媒体中に、スチレン単量体を追加して添加し、該核粒子に該スチレン単量体を含浸させつつ、かつ核粒子中のスチレン単量体の濃度を特定範囲としつつ、ポリスチレン系樹脂にスチレン単量体をグラフト重合させることにより、本発明で用いられる分岐ポリスチレン系樹脂を得ることができる。
【0032】
従来の分岐ポリスチレン系樹脂は、多量の多官能性単量体(分岐化剤)の存在下でスチレン単量体の重合を行うことにより製造されていた。しかし、このような重合方法では、多官能性単量体が重合した部分が過度に高分子量化してしまう。より高度に分岐化した分岐ポリスチレン系樹脂を製造するために、多官能性単量体の添加量を多くすると、多官能性単量体が重合した部分に分岐点がさらに集中し、ゲル化が生じ易くなるといった問題があった。そのため、多官能性単量体を用いた重合方法では、高分子量で、高度に分岐しており、かつゲル化物を実質的に含まない分岐ポリスチレン系樹脂を製造することができなかった。
【0033】
上記の製造方法では、前記(4)の工程で、重合の反応場となる核粒子内におけるスチレン単量体を特定濃度以下に保ちスチレン単量体を重合させることで、分岐点の数を多くしつつ(高分岐度)、高分子量化することができ、更に、分岐点間を離すことができるものと考えられる。反応場のスチレン単量体の濃度が低い場合、開始剤ラジカルやポリマー鎖の生長末端ラジカルとスチレン単量体との重合反応だけではなく、開始剤ラジカルによるポリマー鎖の水素引抜反応が生じやすくなると考えられる。その結果、水素引抜反応により発生したポリマー鎖上のラジカルに、スチレン単量体がグラフト重合することや、あるいは、ポリマー鎖の生長末端ラジカルが再結合することで、ポリマー鎖に分岐鎖が生成すると考えられる。さらに、ポリマー鎖に分岐鎖が生成した位置は、立体的に混み合った状況にあることから、生成した分岐点の近くには更なる分岐鎖は生じにくく、分岐点から離れたポリマー鎖上で、再び水素引抜反応が生じ、分岐鎖が生成すると考えられる。そのため、分岐点間が適度に離れながら、分岐鎖を生成するため、ゲル化が生じることなく、多くの分岐鎖を有し、かつ高分子量の分岐ポリスチレン系樹脂が得られるものと考えられる。
【0034】
前記(4)の工程において、スチレン単量体の添加量は、前記核粒子100重量部に対して50~700重量部であることが好ましく、前記核粒子中のスチレン単量体の含有量を10重量%以下に維持することが好ましい。
【0035】
前記(2)の工程における「実質的にスチレン単量体の重合が進行しない温度」とは、有機過酸化物が実質的に分解しない温度である。有機過酸化物の分解を抑制するという観点から、有機過酸化物の10時間半減期温度をT1/2としたとき、該工程における水性媒体の温度を(T1/2-15)℃以下とすることが好ましい。一方、核粒子へのスチレン単量体の含浸性の観点から、含浸工程における水性媒体の温度を70℃以上とすることが好ましい。
【0036】
前記(2)の工程において、スチレン単量体の添加量は、前記核粒子100重量部に対して10~200重量部であることが好ましい。スチレン単量体の添加量が前記範囲である場合、核粒子を十分に可塑化させることができ、重合開始剤を核粒子に十分に含浸させやすくなると共に、核粒子外でスチレン単量体が重合し細粒が発生することを抑制することができる。
【0037】
前記(3)の工程では、水性媒体の温度を、有機過酸化物が実質的に分解する温度とすることにより、スチレン単量体の重合を開始させることが好ましい。生産性の観点から、水性媒体の温度を(T1/2-10)℃以上の温度とすることが好ましい。
【0038】
前記(1)~(4)の工程により、多官能性単量体(分岐化剤)を用いずに、高分子量かつ高分岐度の分岐ポリスチレン系樹脂を得ることができる。ただし、重合時にゲル化が生じない限度において、水性媒体に多官能性単量体を添加してもよい。水性媒体中への多官能性単量体の添加量は、核粒子とスチレン系単量体との合計100重量部に対して0.1重量部以下であることが好ましく、0.05重量部であることがより好ましい。ただし、多官能性単量体を用いないこと、すなわち、分岐ポリスチレン系樹脂が、分子鎖中に多官能性単量体由来の成分を含まないことが特に好ましい。
【0039】
次に、GPC-MALS法による分子解析方法について説明する。
GPC-MALS法により、ポリスチレン系樹脂(分岐ポリスチレン系樹脂、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂のマトリックス部分)の絶対分子量及び回転半径が測定される。具体的には、ポリスチレン系樹脂等の測定試料を、テトラヒドロフラン等の溶媒に溶解してポリスチレン系樹脂溶液を調製し、GPC測定にかけると、分子サイズが大きいポリマーほど先に溶出することから、ポリスチレン系樹脂溶液を分子サイズにより分けることができる。引き続き、MALS測定において、GPC測定で分子サイズにより分けられたポリスチレン系樹脂溶液に、レーザー光を照射し、レイリー散乱によってスチレン系樹脂溶液から生じた散乱光強度を計測する。得られた測定値から、以下の式(1)及び
図1に示すDebyeプロットを用いて重量平均分子量Mw’及び二乗平均回転半径<R
g
2>を算出する。
【0040】
【0041】
K*:光学パラメーター(4π2n0
2(dn/dc)2/[λ0
4NA])
n0:溶媒の屈折率
dn/dc:屈折率の濃度増分
λ0:真空中での入射光の波長
NA:アボガドロ数
c:サンプル濃度(g/mL)
R(θ):過剰散乱のレイリー比
Mw’:重量平均分子量(g/mole)
P(θ):干渉因子
P(θ)=(1-2{(4π/λ)sin(θ/2)}2<Rg
2>/3!+・・・)
λ:測定系における波長 λ0/n0
<Rg
2>:二乗平均回転半径
A2:第二ビリアル係数
【0042】
図1は、樹脂濃度の異なるスチレン系樹脂溶液について、GPC-MALS法で測定をし、縦軸(Y軸)を「K
*c/R(θ)」、横軸(X軸)を「sin
2(θ/2)」としてプロットしたDebyeプロットの一例である。
Debyeプロットにより得られる回帰直線と縦軸との切片(Y軸切片)から、GPC測定で分子サイズにより分けられたポリスチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’、回帰直線の初期勾配から、該ポリスチレン系樹脂の二乗平均回転半径<R
g
2>がそれぞれ求められる。
GPC測定において、各溶出時間におけるサンプル濃度は非常に希薄であるため、2A
2cの項を0として解析すると、GPC測定で分子サイズにより分けられたポリスチレン系樹脂の重量平均分子量Mw’と二乗平均回転半径<R
g
2>は、それぞれ、下記式(2)、(3)により求められる。
【0043】
【0044】
K*c/R0:角度θ=0°におけるK*c/R(θ)
dy/dx:回帰直線の初期勾配
【0045】
GPC-MALS法による測定方法の具体例としては、例えば、島津製作所社製Prominence LC-20AD(2HGE)/WSシステム、Wyatt Technology社製の多角度光散乱検出器 DAWN HELEOS IIを用いて、Wyatt社の解析ソフト ASTRAにより解析を行う方法が挙げられる。該方法においては、各分子サイズのポリスチレン系樹脂の絶対重量平均分子量Mw’及び二乗平均回転半径<Rg
2>から、ポリスチレン系樹脂の絶対重量平均分子量(Mw’)、絶対数平均分子量(Mn’)、絶対Z平均分子量(Mz’)、スチレン1000単位あたりの長鎖分岐度が求められる。
この解析により得られる、重量平均分子量Mw’が、本発明における「GPC-MALS法により求められる絶対重量平均分子量」であり、数平均分子量Mn’が、本発明における「GPC-MALS法により求められる絶対数平均分子量」であり、Z平均分子量Mz’が、本発明における「GPC-MALS法により求められる絶対Z平均分子量」である。
これに対し、直鎖ポリスチレンを標準物質として、GPC法により求められる重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、Z平均分子量Mzは、ポリスチレン系樹脂の相対分子量である。
【0046】
また、ポリスチレン系樹脂の収縮因子gは、次のようにして求められる。
ポリスチレン系樹脂の二乗平均回転半径<Rg
2>Bと直鎖ポリスチレンの二乗平均回転半径<Rg
2>Lの比を収縮因子gとして、下記式(4)~(6)に基づき、収縮因子gを求めることができる。
【0047】
【0048】
上記式において、giは区間iにおける収縮因子であり、ciは区間iにおけるサンプル濃度である。
【0049】
前記耐衝撃性ポリスチレン系樹脂のマトリックスにつき、GPC-MALS法により絶対重量平均分子量、収縮因子等を測定する場合、ゴム分を除去し、マトリックス部分(ポリスチレン系樹脂成分)を単離した試料について測定するものとする。ゴム分の除去は次のように行うことができる。
測定対象となる試料をメチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(質量比10/1)に溶解させ、遠心分離機にて遠心分離を行う。分離後の上澄み液をメタノールに少量ずつ滴下し、ポリスチレン系樹脂成分を沈殿させ、次いでペーパーフィルタを用いて吸引ろ過しマトリックス相であるスチレン系樹脂を分別する。これを真空乾燥などにより乾燥させて測定試料とする。
【0050】
本発明において用いられる分岐ポリスチレン系樹脂の前記GPC-MALS法で測定される、数平均分子量Mn’、Z平均分子量Mz’、Z平均分子量Mz’と数平均分子量Mn’との比(Mz’/Mn’)、重量平均分子量Mw’と数平均分子量Mn’との比(Mw’/Mn’)、Z平均分子量Mz’と重量平均分子量Mw’との比(Mz’/Mw’)は次の範囲内であることが好ましい。
【0051】
前記分岐ポリスチレン系樹脂の数平均分子量Mn’は、30万以上であることが好ましく、50万以上であることがより好ましい。
また、溶融時の流動性の観点から、数平均分子量Mn’は300万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましく、90万以下であることが更に好ましい。
【0052】
前記分岐ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量Mz’は、300万以上であることが好ましく、350万以上であることがより好ましく、500万以上であることが更に好ましく、800万以上であることが特に好ましい。
また、溶融時の流動性の観点から、Z平均分子量Mz’は1500万以下であることが好ましく、1200万以下であることがより好ましい。
【0053】
前記分岐ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量Mz’と数平均分子量Mn’との比(Mz’/Mn’)は、4以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましく、10以上であることが特に好ましい。Mz’/Mn’の上限は、25であることが好ましく、20であることがより好ましい。
【0054】
次に、本発明で用いられる分岐ポリスチレン系樹脂の溶融物性(溶融張力、溶融粘度、メルトフローレイト)について説明する。
本発明で用いられる分岐ポリスチレン系樹脂の200℃における溶融張力は500mN以上であることが好ましい。
また、溶融張力の上限は、本発明の所期の目的を達成することが可能であれば特に限定されるものではないが、概ね1500mNであることが好ましい。
【0055】
該溶融張力は、例えば、株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定できる。具体的には、シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径2.095mm、長さ8.0mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を200℃とし、ポリスチレン系樹脂試料の必要量を該シリンダー内に入れ、4分間放置してから、ピストン速度を10mm/分として溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を直径45mmの張力検出用プーリーに掛け、4分で引取速度が0.2m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取速度を増加させながら引取りローラーで紐状物を引取る。その巻取り速度が200m/分になるまでに観察される張力の最大値を溶融張力とする。なお、巻取り速度が200m/分になる前に紐状物が切れてしまう場合は、それまでに観察される張力の最大値を溶融張力とする。
【0056】
該分岐ポリスチレン系樹脂の200℃、剪断速度100sec-1における溶融粘度は2100Pa・s以下であることが好ましく、2000Pa・s以下であることがより好ましくい。当該溶融粘度の下限は特に制限されないが、1000Pa・s以上であることが好ましい。
【0057】
該溶融粘度は、例えば、溶融張力と同様に株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定できる。具体的には、シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径1.0mm、長さ10.0mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を200℃とし、ポリスチレン系樹脂試料の必要量を該シリンダー内に入れ、4分間放置してから、ピストン速度をせん断速度10、50、100、200、300sec-1となるよう変化させ、溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、発生した応力をロードセルで記録する。各せん断速度における溶融粘度は、ピストン速度が規定の値に到達した30秒後、溶融粘度のデータの取り込みを開始し、さらにその30秒後にデータの取り込みを終了する。この30秒の間に得られた応力から溶融粘度を算出する。
【0058】
該分岐ポリスチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、押出加工の容易性から0.2~5g/10分であることが好ましい。
該MFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、200℃、荷重5kgで測定される値である。
【0059】
次に、本発明により得られる多層発泡シートを構成するポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、単に発泡シートともいう。)について説明する。
該発泡シートとしては、従来公知の押出発泡法により製造されたものを使用することができる。該発泡シートの製造に用いられる樹脂、物理発泡剤、添加剤等は次の通りである。
【0060】
該発泡シートの製造に用いられるポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリメチルスチレン、ポリスチレン-ポリフェニレンエーテル共重合体、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物や、これら2種類以上の混合物などが挙げられる。上記ポリスチレン系樹脂におけるスチレン成分の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。また、発泡シートの耐衝撃性を向上させるために、ポリスチレン系樹脂にスチレン系熱可塑性エラストマーを配合することができる。この場合、該エラストマーの配合量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して3~20重量%であることが好ましい。
【0061】
該発泡シートの製造に用いられる物理発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2-テトラフロロエタン、1,1-ジフロロエタン等のフッ化炭化水素等の有機系物理発泡剤、窒素、二酸化炭素、空気、水等の無機系物理発泡剤が挙げられる。前記した物理発泡剤は、2種以上を併用することが可能である。これらのうち、特にポリスチレン系樹脂との相溶性、発泡性の観点から有機系物理発泡剤が好ましく、中でもノルマルブタン、イソブタン、又はこれらの混合物を主成分とするものが好適である。
【0062】
物理発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、目的とする見掛け密度に応じて調整する。また気泡調整剤の添加量は、目的とする気泡径に応じて調節する。
【0063】
該発泡シートの製造に用いられる添加剤の主要なものとして、気泡調整剤が挙げられる。気泡調整剤としては有機系のもの、無機系のもののいずれも使用することができる。無機系気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。また、有機系気泡調整剤としては、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。またクエン酸と重炭酸ナトリウム、クエン酸のアルカリ塩と重炭酸ナトリウム等を組み合わせたもの等も気泡調整剤として用いることができる。これらの気泡調整剤は2種以上を併用することもできる。
気泡調整剤の添加量は、基材樹脂100重量部当たり0.01~3重量部であることが好ましく、より好ましくは0.03~1重量部である。
【0064】
次に、本発明により得られる多層発泡シートについて説明する。
該多層発泡シートは、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面または両面に前記樹脂層を積層することにより得られるものである。樹脂層を積層する方法としては、押出ラミネート、熱ラミネートや共押出法が挙げられ、これらを実施するためには、従来公知の装置、方法を用いることができる。これらの方法の中でも、押出ラミネートにより発泡シートに樹脂層を積層することが好ましい。
【0065】
剛性や耐衝撃性の向上効果及び熱成形性の向上効果と、軽量性とを両立させるという観点から、該樹脂層の積層量は50~150g/m2であることが好ましく、70~140g/m2であることがより好ましい。本発明においては、特定の樹脂層を発泡シートに積層させることにより、樹脂層の積層量を過度に増やさずとも、多層シートの深絞り成形性を向上させることができる。
【0066】
軽量性と強度とのバランスという観点から、多層発泡シートの見掛け密度は0.05~0.30g/cm3であることが好ましく、0.07~0.25g/cm3であることがより好ましく、0.09~0.21g/cm3であることが更に好ましい。
【0067】
熱成形性と強度とのバランスという観点から、該多層発泡シートの厚みは1~3mmであることが好ましく、1.4~2.8mmであることがより好ましく、1.8~2.4mmであることが更に好ましい。
【0068】
熱成形性やコスト、軽量性、得られる成形体の強度の観点から、該多層発泡シート全体の坪量は、概ね150~550g/m2であることが好ましく、より好ましくは200~450g/m2であり、さらに好ましくは220~400g/m2である。
【0069】
次に、本発明のポリスチレン系樹脂多層発泡シートについて説明する。該多層発泡シートは前記多層発泡シートの製造方法により得ることができる。
該多層発泡シートは、発泡シートの片面又は両面に、樹脂層が積層されているものであり、該樹脂層は、粒子状のゴム状重合体がポリスチレン系樹脂マトリックス中に分散している前記耐衝撃性ポリスチレン系樹脂と、分岐鎖を有する前記分岐ポリスチレン樹脂との混合樹脂からなるものである。
該分岐ポリスチレン樹脂は、前記したように、GPC-MALS法で測定される絶対重量平均分子量が100万~500万であると共に、GPC-MALS法で測定される収縮因子の平均値が0.80以下であり、かつ該分岐ポリスチレン系樹脂のテトラヒドロフラン不溶分の含有量が0.1重量%以下の樹脂である。また、該混合樹脂中の該分岐ポリスチレン系樹脂の重量割合は5重量%以上30重量%未満である。
【0070】
本発明の多層発泡シートは、従来公知の成形方法によって成形することができ、特に深絞り成形性に優れている。成形方法としては、真空成形、圧空成形や、これらの応用として、フリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形、マッチド・モールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、リバースドロー成形、エアスリップ成形、プラグアシスト成形、プラグアシストリバースロード成形等やこれらを組合せた方法等が採用される。
【0071】
本発明の多層発泡シートが熱成形されてなる成形体の展開倍率は、特に限定されるものではないが、深絞り成形が可能である観点から、概ね2~5倍が好ましく、3~5倍がより好ましく、3.5~5倍がさらに好ましい。なお、成形体の展開倍率とは、成形体の開口面積に対する成形体内面の表面積の比である。この際、成形体内面の表面積は、成形体から直接測定する方法や、3D形状測定機により測定する方法等により求めることができる。
【0072】
本発明の多層発泡シートを用いて成形される成形体としては、深絞り形状の丼、カップ等が挙げられる。ただし、浅型のトレイ、弁当箱等の成形にも用いることもできる。
【実施例】
【0073】
次に、本発明の多層発泡シートの製造方法について、実施例により詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0074】
樹脂層を形成するための耐衝撃性ポリスチレンとして、次の樹脂を用いた。
(1)略称「HIPS1」:PSジャパン株式会社製耐衝撃性ポリスチレン「475D」(MFR=4g/10min、ブタジエン量6.3%)
(2)略称「HIPS2」:東洋スチレン株式会社製耐衝撃性ポリスチレン「H450」(MFR=5.5g/10min、ブタジエン量5.1%)
(3)略称「HIPS3」:PSジャパン株式会社製耐衝撃性ポリスチレン「408」(MFR=7g/10min、ブタジエン量5.0%)
(4)略称「HIPS4」:PSジャパン株式会社製耐衝撃性ポリスチレン「AGI02」(MFR=15g/10min、ブタジエン量5.3%)
耐衝撃性ポリスチレン系樹脂の諸物性を表1に示す。
【0075】
【0076】
樹脂層を形成するための分岐ポリスチレン系樹脂として、次の樹脂を用いた。
(1)略称「多分岐PS1」
(核粒子の作製)
撹拌装置を備えた内容積が1m3のオートクレーブに、脱イオン水350kg、懸濁剤として第三リン酸カルシウム(太平化学産業株式会社製、20.5%スラリー)2.1kg、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製、10%水溶液)0.158kg、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸二ナトリウム(花王株式会社製、ペレックスSSH、10%水溶液)0.053kg、電解質として酢酸ナトリウム0.535kgを投入した。
次いで、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.975kg(日油株式会社製、パーブチルO)及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート0.284kg(日油株式会社製、パーブチルE)、重合禁止剤として4-tert-ブチルカテコール15.4gを、スチレン390kgに溶解させ、110rpmで撹拌しながら、これをオートクレーブ内に供給した。オートクレーブ内を窒素置換した後、昇温を開始し、1時間15分かけて90℃まで昇温した。
90℃到達後、100℃まで5時間かけて昇温した。100℃到達後、1時間30分かけて115℃まで昇温した。115℃で2時間40分保持し、その後40℃まで2時間かけて冷却した。90℃までの昇温中、60℃到達の時点で、懸濁助剤として過硫酸カリウム1.95gをオートクレーブ内に投入した。
冷却後、内容物を取り出し、重合されたポリスチレン系樹脂の粒子の表面に付着した第三リン酸カルシウムを硝酸により溶解させた後、水で洗浄し、遠心分離機で脱水した。
得られた粒子を篩にかけて、直径が0.5~1.3mmの粒子(平均粒子径0.8mm)を取り出し、これを核粒子とした。
【0077】
撹拌装置を備えた内容積が1.5m3のオートクレーブに、脱イオン水410kg、ピロリン酸ナトリウム2.56kg、硝酸マグネシウム6.39kgを供給し、塩交換によりオートクレーブ内で懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムを合成した。界面活性剤としてアルキルスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製、ラテムルPS、40%水溶液)0.128kg、上述した方法で得られた核粒子78.2kgをオートクレーブに供給した後、オートクレーブ内の気相部を窒素置換した。
【0078】
次いで、50rpmで撹拌しながら、80℃まで昇温した。80℃に到達後、脱イオン水82kg、アルキルスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製、ラテムルPS、40%水溶液)0.166kg、スチレン(スチレン単量体)27.6kg、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(日油株式会社製、パーブチルE、10時間半減期温度T1/2:99.0℃)3.06kg、連鎖移動剤としてα-メチルスチレンダイマー(日油株式会社製、ノフマーMSD)1.15kgの混合物をホモジナイザーにより乳化液に調製し、乳化液をオートクレーブ内に供給した。その後、オートクレーブ内を0.1MPa(G)になるまで窒素で加圧し、80℃で15分保持した。
【0079】
その後、1時間かけて105℃まで昇温した。オートクレーブ内の温度が105℃に到達後、7時間30分間保持しながら、スチレン(スチレン単量体)354.3kgを0.87kg/分の割合でオートクレーブ内に連続的に添加した。
なお、スチレンの添加に当たっては、上記添加条件、重合に用いた重合開始剤の化学的特性、及び重合温度から計算したスチレンの重合速度をもとに、シミュレーションにより経過時間に対する核粒子中のスチレン含有量変化と温度変化を確認し、そのシミュレーションに基づき、スチレンの添加中の核粒子中のスチレン含有量が10重量%以下となるようにスチレンを追加添加した。
スチレンの追加添加開始時、添加開始から2.5時間経過時、追加添加終了時のそれぞれにおいて、ポリスチレン系樹脂粒子中のスチレン含有量を測定したところ、核粒子中のスチレン含有量はそれぞれ3重量%、5重量%、4重量%であった。
その後、水性媒体を120℃まで2時間かけて昇温し、120℃で3時間保持することで未反応のスチレン単量体を重合させた。
オートクレーブ内を冷却後、オートクレーブから取り出したポリスチレン系樹脂の粒子を希硝酸で洗浄して粒子表面に付着した懸濁剤を溶解除去した後、水洗を行い、さらに遠心分離機で脱水し、多分岐PS1を得た。
【0080】
(2)略称「多分岐PS2」
重合開始剤の量を3.06kgから1.54kg、連鎖移動剤の量を1.15kgから0.22kgに変更した以外は、多分岐PS1の製造条件と同様にして、多分岐PS2を作製した。なお、スチレンの追加添加開始時、添加開始から2.5時間経過時、追加添加終了時のそれぞれにおいて、スチレン系樹脂粒子中のスチレン含有量を測定したところ、核粒子中のスチレン含有量はそれぞれ7重量%、7重量%、6重量%であった。
(3)略称「多分岐PS3」:DIC株式会社製「ハイブランチHP780AN」
分岐ポリスチレン系樹脂の諸物性を表2に示す。なお、表2中の溶融張力の測定には、測定サンプルの均質化を目的として、上記の分岐ポリスチレン系樹脂を同方向2軸押出機(スクリュ径:26mm)にて200℃、回転数:80rpm、吐出:15kg/hrの条件にて溶融混錬してリペレタイズしたものを測定サンプルとして用いた。
【0081】
【0082】
絶対分子量である、ポリスチレン系樹脂の数平均分子量Mn’、重量平均分子量Mw’、Z平均分子量Mz’、及び収縮因子gを以下の方法により測定した。株式会社島津製作所製「Prominence LC-20AD(2HGE)/WSシステム」、Wyatt Technology製の多角度光散乱検出器DAWN HELEOS IIを用いて、溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、流量1.0ml/minという条件で測定を行った。カラムとしては、東ソー株式会社製のTSKgel GMHHR×2本、東ソー株式会社製のTSKgel HHR―H×1本を直列に接続して用いた。Wyatt Technology社の解析ソフト ASTRAにより、ポリスチレン系樹脂の数平均分子量Mn’、重量平均分子量Mw’、Z平均分子量Mz’を求めた。また、収縮因子gは、測定対象のポリスチレン系樹脂の回転半径の二乗<Rb
2>と直鎖状スチレン系樹脂の回転半径の二乗<Rl
2>との比(前記式(4))から求めた。直鎖状スチレン系樹脂としては、核粒子として製造したポリスチレン系樹脂のデータを用いた。また、前記式(5)から絶対分子量100万以上の範囲を対象として収縮因子の平均値gwを求めた。
【0083】
樹脂層を積層するポリスチレン系樹脂発泡シートとして、株式会社JSP製ポリスチレン樹脂発泡シート B220MRN(厚み1.85mm、坪量220g/m2、見掛け密度0.119g/m3、独立気泡率90%)を使用した。
【0084】
実施例1~4、比較例1~6
表3に示す種類、重量割合の耐衝撃性ポリスチレンと分岐ポリスチレン系樹脂を、同方向2軸押出機(スクリュ径:26mm、回転数:80rpm、吐出:15kg/hr)に供給し、200℃にて溶融、混合して混合樹脂ペレットを得た。混合樹脂ペレットをTダイを備えた押出機に投入して240℃の樹脂温度となるように溶融させ、前記発泡シートの一方の表面に120g/m2の坪量となるように押出ラミネート法により積層した(引取速度:10.0m/min)。
実施例、比較例で得られた多層発泡シートの見掛け密度は0.17g/cm3、厚みは2.0mm、坪量:340g/m2であった。
実施例、比較例で得られた多層発泡シートの熱成形性評価を表3に示す。また、樹脂層の形成に用いた混合樹脂について、溶融粘度、溶融張力を測定した結果を表3に示す。
【0085】
得られたポリスチレン系樹脂発泡多層シートについて、熱成形装置(浅野研究所製「FKS-0631-10」)を用いて、樹脂層が積層された面が容器外側に位置するようにして、多層発泡シートを所定秒数加熱した後、開口部が直径94mmの円形、高さ94mm、底面が直径70mmの円形のカップ形状(展開倍率4.1倍)の金型を用いて熱成形を行った。なお、ヒータ温度は、樹脂層積層面側340℃、反対面側250℃とした。熱成形性の評価を表3に示す。得られた成形品につき、耐衝撃性試験を行った。結果を表3に示す。
【0086】
【0087】
表3において、各測定、評価は次のように行った。
【0088】
溶融張力は、前記方法により測定した。
【0089】
溶融粘度は、前記方法により測定した。
【0090】
熱成形性の評価基準(成形可能な加熱時間)
○:良好な成形体を得ることができる加熱時間の範囲が5秒以上である。
×:良好な成形体を得ることができる加熱時間の範囲が5秒未満である。
なお、良好な成形体を得ることができる加熱時間の範囲が5秒以上であれば、連続成形においても安定して成形が可能となる。
【0091】
成形体の耐衝撃性(フランジ部座屈・割れ)の評価基準
株式会社オリエンテック製テンシロン:RTC-1250Aを用いて、成形体の開口部周縁に形成されたフランジ部を、容器開口部に対して水平方向に速度100mm/minで圧縮し、フランジ部に割れが発生した際の変位を測定し以下の基準で評価した。
○:フランジ部割れが発生した変位量が30%以上。
×:フランジ部割れが発生した変位量が30%未満。