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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】プラスチック基材、プラスチックレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/00 20060101AFI20220603BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
G02C7/00
G02B5/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019542321
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2018034251
(87)【国際公開番号】W WO2019054502
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2020-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2017177998
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】脇保 英之
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046540(WO,A1)
【文献】特開2001-164110(JP,A)
【文献】特開平05-173307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/00
G02B 5/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物を含む、プラスチック基材。
【化1】
式中、R1 は、水素原子を表し、3、メトキシ基を表し、R2は、水素原子を表す
【請求項2】
さらに、チオウレタン樹脂を含む、請求項1に記載のプラスチック基材。
【請求項3】
380~500nmの波長域の光線カット率が29.0%以上である、請求項1または2に記載のプラスチック基材。
【請求項4】
視感透過率が82.0%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のプラスチック基材。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のプラスチック基材を含む、プラスチックレンズ。
【請求項6】
眼鏡用である、請求項に記載のプラスチックレンズ。
【請求項7】
前記プラスチックレンズの物体側面および眼球側面のうち少なくとも一方の面に機能層を有し、
380~500nmの波長域の光線カット率が20.0%以上である、請求項またはに記載のプラスチックレンズ。
【請求項8】
視感透過率が95.5%以上である、請求項に記載のプラスチックレンズ。
【請求項9】
前記機能層は、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、および、撥水撥油層からなる群から選択される1種以上の層である、請求項またはに記載のプラスチックレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラスチック基材、および、プラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
青色光のカット率の高いプラスチック基材として、ベンゾトリアゾール化合物を含むプラスチック基材がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-148877号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示は、後述する式(1)で表される化合物を含むプラスチック基材、および、プラスチック基材を含むプラスチックレンズに関する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本実施形態のプラスチック基材およびプラスチックレンズについて詳述する。
なお、本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0006】
視認性およびコントラストの向上、並びに、ブルーライトハザードなどの目の健康被害の低減の観点から、プラスチック基材においては、視感透過率に優れ、かつ、青色光カット能が優れることが望まれている。なお、ここで青色光とは、380~500nmの波長域の光を意図する。
本実施態様のプラスチック基材およびプラスチックレンズは、視感透過率に優れ、かつ、青色光カット能にも優れる。
以下では、まず、プラスチック基材に含まれる成分について詳述する。
【0007】
<式(1)で表される化合物>
プラスチック基材は、式(1)で表される化合物を含む。式(1)で表される化合物は、いわゆるベンゾトリアゾール系化合物であり、青色光の吸収特性に優れる。そのため、少量の使用で、優れた青色光カット能をプラスチック基材に付与でき、かつ、視感透過率の低減も防ぐことができる。
【0008】
【化1】
【0009】
式中、R1およびR3は、それぞれ独立に、水素原子またはアルコキシ基を表す。ただし、R1およびR3の少なくとも一方は、アルコキシ基を表す。
アルコキシ基の炭素数は特に制限されないが、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1が特に好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、へプチルオキシ基、オクチルオキシ基、および、ノニルオキシ基が挙げられる。
【0010】
2は、水素原子、アルキル基またはアルコキシ基を表す。なかでも、水素原子が好ましい。
アルキル基の炭素数は特に制限されないが、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1が特に好ましい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、n-オクチル基、1,1,3,3-テトラメチルブチル基、および、ノニル基が挙げられる。
アルコキシ基の好適態様(炭素数、具体例)は、上記R1およびR3で表されるアルコキシ基の好適態様(炭素数、具体例)と同じである。
【0011】
なかでも、式(1)で表される化合物としては、R1およびR3の一方がアルコキシ基を表し、R1およびR3の他方が水素原子を表し、かつ、R2が水素原子を表す態様が挙げられる。より具体的には、式(1)中のR1がアルコキシ基を表し、R3が水素原子を表し、かつ、R2が水素原子を表す態様、および、式(1)中のR1が水素原子を表し、R3がアルコキシ基を表し、かつ、R2が水素原子を表す態様が好ましい。
【0012】
プラスチック基材中に含まれる式(1)で表される化合物の含有量は特に制限されないが、プラスチック基材の視感透過率と青色光カット能とのバランスがより優れる点で、後述する樹脂100質量部に対して、0.01~1.5質量部が好ましく、0.05~1.0質量部がより好ましく、0.05~0.5質量部がさらに好ましい。
【0013】
<樹脂>
プラスチック基材は、樹脂を含むことが好ましい。樹脂は、式(1)で表される化合物を分散させるマトリックスとして機能する。
樹脂の種類は特に制限されず、例えば、チオウレタン樹脂、ウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、および、ポリエステル樹脂が挙げられる。なかでも、プラスチック基材をプラスチックレンズに用いる場合、樹脂は、チオウレタン樹脂、ウレタン樹脂、および、エピスルフィド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、チオウレタン樹脂であることがより好ましい。
【0014】
チオウレタン樹脂は、ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させることにより得られる。
ポリイソシアネート化合物とは、イソシアネート基を2つ以上有する化合物である。ポリイソシアネート化合物の種類は特に制限されず、公知の化合物が挙げられる。例えば、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-または1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、および、ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの脂環族ポリイソシアネート化合物;ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、および、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート化合物;1,3-キシリレンジイソシアネート、および、1,4-キシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ポリイソシアネート化合物が挙げられる。
なかでも、ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、または、1,3-キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0015】
なお、ポットライフの観点から、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基はブロック剤で保護されていてもよい。
【0016】
ポリチオール化合物とは、チオール基を2つ以上有する化合物である。ポリチオール化合物の種類は特に制限されず、公知の化合物が挙げられる。例えば、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパンビス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパンビス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール、および、テトラキス(メルカプトメチル)メタンなどの脂肪族ポリチオール化合物;1,3,5-トリメルカプトベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、2,5-トルエンジチオール、3,4-トルエンジチオール、1,3-ジ(p-メトキシフェニル)プロパン-2,2-ジチオール、1,3-ジフェニルプロパン-2,2-ジチオール、フェニルメタン-1,1-ジチオール、および、2,4-ジ(p-メルカプトフェニル)ペンタンなどの芳香族ポリチオール化合物が挙げられる。
なお、脂肪族ポリチオール化合物および芳香族ポリチオール化合物は、チオール基以外に硫黄原子を有していてもよい。
【0017】
プラスチック基材中に含まれる樹脂の含有量は特に制限されないが、プラスチック基材の視感透過率と青色光カット能とのバランスがより優れる点で、プラスチック基材全質量に対して、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されず、99.99質量%以下としてもよい。
【0018】
プラスチック基材は、上記式(1)で表される化合物および樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、内部離型剤、光安定剤、充填剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、ブルーイング剤、重合触媒、および、染料などが挙げられる。
【0019】
プラスチック基材の屈折率は特に制限されず、1.55以上が好ましく、1.60以上がより好ましい。上限は特に制限されず、1.70以下としてもよい。
上記屈折率は波長546.1nmにおける屈折率であり、屈折率の測定はカルニュー光学工業社製精密屈折計KPR-20を用いて行う。
【0020】
プラスチック基材の厚さは特に制限されず、取扱い性の点から、例えば、1~30mm程度としてもよい。
プラスチック基材の形状は特に制限されず、例えば、眼鏡用のプラスチックレンズへの適用する場合、プラスチック基材の形状は物体側の面(物体側面)を凸面とし、眼球側の面(眼球側面)を凹面としたメニスカス形状が一般的である。
【0021】
プラスチック基材の製造方法は特に制限されず、公知の方法が採用できる。
例えば、式(1)で表される化合物と、樹脂を形成するモノマーとを混合して組成物を形成し、組成物中のモノマーを重合する方法が挙げられる。重合方法は特に制限されないが、プラスチックレンズを形成する場合は、注型重合が好ましい。
例えば、式(1)で表される化合物と、ポリチオール化合物と、ポリイソシアネート化合物とを含む組成物を調製し、この組成物をレンズ成型用鋳型中に注入し、所定の温度(例えば、-20~150℃)で加熱することにより、式(1)で表される化合物およびチオウレタン樹脂を含むプラスチック基材が得られる。
なお、プラスチック基材の他の製造方法としては、式(1)で表される化合物と界面活性剤とを水に溶解または分散させた液に、プラスチック基材を浸漬させ、式(1)で表される化合物をプラスチック基材中に滲入させる方法も挙げられる。
【0022】
式(1)で表される化合物を含むプラスチック基材は種々の用途に適用でき、プラスチックレンズへの適用が好ましく、眼鏡用のプラスチックレンズへの適用がより好ましい。
プラスチックレンズは上記プラスチック基材を含んでいればよく、プラスチック基材上に他の機能層を含んでいてもよい。
プラスチックレンズが眼鏡用である場合、機能層は、プラスチック基材の物体側面および眼球側面の一方の面上に配置されていてもよいし、両方の面上に配置されていてもよい。
機能層としては、例えば、プライマー層、ハードコート層、反射防止層、および、撥水撥油層からなる群から選択される1種以上の層が挙げられる。機能層には、上記層が複数層含まれていてもよい。
【0023】
プライマー層は、2つの層の間に配置され、両者の密着性を向上させる層である。
プライマー層を構成する材料は特に制限されず、公知の材料が挙げられる。
【0024】
ハードコート層は、プラスチックレンズに耐傷性を付与する層である。なお、本明細書において、ハードコート層とは、JIS K5600において定められた試験法による鉛筆硬度で、「H」以上の硬度を示すものとして定義される。
ハードコート層としては、公知のハードコート層を用いることができ、例えば、有機系ハードコート層、無機系ハードコート層、および、有機-無機ハイブリッドハードコート層が挙げられる。
【0025】
反射防止層は、入射した光の反射を防止する機能を有する層である。なお、本明細書において、反射防止層とは、400~700nmの可視光領域において、反射率が5%以下程度に低減された反射特性を示す層として定義される。
反射防止層の構造は特に制限されず、単層構造であっても、多層構造であってもよい。
多層構造の場合、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した構造が好ましい。なお、高屈折率層を構成する材料としては、チタン、ジルコン、アルミニウム、タンタル、または、ランタンの酸化物などが挙げられる。また、低屈折率層を構成する材料としては、シリカなどが挙げられる。
【0026】
撥水撥油層は、プラスチックレンズの表面エネルギーを低下させ、汚染防止の機能をプラスチックレンズに付与できる。
撥水撥油層は、撥水撥油成分を含む。撥水撥油成分の種類は特に制限されず、例えば、フッ素含有化合物、シリコーン化合物、および、長鎖アルキル基を有する化合物などが挙げられる。
【0027】
プラスチックレンズを構成するプラスチック基材は、透明であることが好ましい。透明とは、視感透過率が82.0%以上であることを意図する。
また、物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に機能層が配置されたプラスチックレンズの視感透過率は、94.0%以上であることが好ましく、95.5%以上であることがより好ましい。上限は特に制限されず、99.9%としてもよい。
なお、本願において、視感透過率はCIE表色系における三刺激値のYを用いてY(%)と定義され、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U4100によりプラスチックレンズの分光透過率を測定し、D65光源10°視野におけるYを採用する。
【0028】
プラスチックレンズを構成するプラスチック基材の380~500nmの波長域の光線カット率は、29.0%以上であることが好ましく、40.0%以上であることがより好ましく、50.0%以上であることがさらに好ましい。上限は特に制限されず、60.0%以下としてもよい。
プラスチックレンズの380~500nmの波長域の光線カット率は、20.0%以上であることが好ましく、30.0%以上であることがより好ましく、40.0%以上であることがさらに好ましい。上限は特に制限されず、60.0%以下としてもよい。
上記光線カット率の測定方法は、まず、太陽光の放射照度分布(Air Mass2.0の環境下)と、その放射スペクトルリスク(青色光ハザードおよびその関数)とで重みづけした、以下式で表される分光透過率τsb(波長域380~500nm、5nmピッチ)を算出する。
【0029】
【数1】
【0030】
上記式中、τ(λ)は透過率、ESλ(λ)は太陽光の分光放射照度、B(λ)はブルーライトハザード関数をそれぞれ表す。
また、上記式中、WBλ(λ)は、重み関数を表し、重み関数は、青色光ハザードに関する記載JIS T7333:2005 附属書C C.1項に記載される。
【0031】
次に、(100-τsb)によって得た値を、上記光線カット率(%)とする。
【実施例
【0032】
以下、プラスチック基材およびプラスチックレンズに関して実施例および比較例によりさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0033】
後述する実施例および比較例における視感透過率および380~500nmの波長域の光線カット率(青色光カット率)は、上述した方法にて測定した。
【0034】
<実施例1>
ポリイソシアネート化合物としてビス(イソシアネートメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン(50.6質量部)と、ポリチオール化合物としてペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(23.9質量部)および4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール(25.5質量部)と、重合触媒としてジブチルスズジクロリド(0.08質量部)と、リン酸エステルを主成分とする内部離型剤(0.1質量部)と、紫外線吸収剤として2-(2’-ヒドロキシ-5’-メトキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールと、を均一になるように混合し、組成物を調製した。なお、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メトキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールは、上記ポリイソシアネート化合物と上記ポリチオール化合物との合計質量(100質量部)に対して、0.09質量部使用した。
次に、得られた組成物を脱気した後、脱気された組成物をガラスモールドに注入し、熱重合硬化を行った。硬化終了後、モールドを離型し、得られたプラスチック基材を洗浄して、さらに、アニール処理を施した。
その後、得られたプラスチック基材の両面上に、プライマー層、ハードコート層および反射防止層をこの順で配置して、評価用レンズを得た。
プライマー層、ハードコート層および反射防止層の形成手順は以下の通りであった。
具体的には、浸漬法により、プラスチック基材の表面に、厚さ約1μmのウレタン系耐衝撃性向上コート(プライマー層)と、厚さ約2μmのシリコーン系耐擦傷性向上ハードコート(ハードコート層)とを、この順に積層した。
次に、真空蒸着法により、シリコーン系耐擦傷性向上ハードコートの上に、厚さ約0.3μmの無機酸化物からなる多層膜反射防止コート(反射防止層)を成膜した。
【0035】
得られたプラスチック基材のレンズ中心部における分光透過率を測定した結果、2.0mm厚における視感透過率が88.8%、青色光カット率(380~500nmの波長域の光線カット率)が31.0%であった。
得られた評価用レンズのレンズ中心部における分光透過率を測定した結果、S-0.00(D)レンズ2.0mm厚における視感透過率が97.0%、青色光カット率(380~500nmの波長域の光線カット率)が25.1%であった。
なお、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メトキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールをクロロホルム溶液中に濃度10ppmにて溶解させ、得られた溶液を用いて2-(2’-ヒドロキシ-5’-メトキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールの極大吸収波長を測定したところ、366nmであった。
【0036】
<実施例2~6>
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メトキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールの使用量を表1に記載の値に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、評価用レンズを作製し、各種評価を実施した。
【0037】
<実施例7>
ポリイソシアネート化合物としてm-キシリレンジイソシアネート(52.1質量部)、ポリチオール化合物として4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール(47.9質量部)と、重合触媒としてジブチルスズジクロリド(0.01質量部)を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従って、評価用レンズを作製し、各種評価を実施した。
【0038】
<実施例8>
エピスルフィド化合物としてビス(β―エピチオプロピル)スルフィド(78.5質量部)と、硫黄粉末(純度98%以上試薬)(14.3質量部)と、キシリレンジチオール(2.5質量部)と、紫外線吸収剤として2-(2’-ヒドロキシ-5’-メトキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(0.07質量部)を添加し、60℃で溶解するまで攪拌した。
続いて、この混合液に、予備反応触媒として2-メルカプト-1-メチルイミダゾール0.2質量部を加え、60℃にて50分間の予備反応を行った後、20℃まで冷却した。
次に、キシリレンジチオール(4.6質量部)に硬化触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド(0.02質量部)と反応調整剤としてジブチル錫ジクロライド(0.2質量部)を溶解させたものをさらに添加し、組成物を調製した。
得られた組成物を脱気した後、脱気された組成物をガラスモールドに注入し、熱重合硬化を行った。硬化終了後、モールドを離型し、得られたプラスチック基材を洗浄して、さらに、アニール処理を施した。
以後、実施例1と同様の手順に従って、評価用レンズを作製し、各種評価を実施した。
【0039】
<比較例1>
ポリイソシアネート化合物としてメチレンビス(4,1-シクロヘキシレン)=ジイソシアネート(58.9質量部)と、ポリチオール化合物としてビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチオ-1,11-ウンデカンジチオール(41.1質量部)と、重合触媒としてジブチルスズジクロリド(0.15質量部)と、リン酸エステルを主成分とする内部離型剤(0.1質量部)と、紫外線吸収剤として2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾールと、を均一になるように混合し、組成物を調製した。なお、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾールは、上記ポリイソシアネート化合物と上記ポリチオール化合物との合計質量(100質量部)に対して、0.64質量部使用した。
得られた組成物を用いて、実施例1と同様の手順に従って、評価用レンズを作製し、各種評価を実施した。
なお、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾールをクロロホルム溶液中に濃度10ppmにて溶解させ、得られた溶液を用いて2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾールの極大吸収波長を測定したところ、353nmであった。
【0040】
<比較例2>
紫外線吸収剤として2-(2’-ヒドロキシ-5’-メトキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(0.07質量部)の代わりに2-(4-ブトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(1.4質量部)を添加する以外は、実施例8と同様の手順に従って、評価用レンズを作製し、各種評価を実施した。
【0041】
表1中、「屈折率」は、波長546.1nmにおけるプラスチック基材の屈折率を表す。屈折率の測定は、カルニュー光学工業社製精密屈折計KPR-20を用いて行った。
「紫外線吸収剤の使用量比」は、実施例1~7においては「(紫外線吸収剤の使用量(質量部))/(ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物との合計質量(質量部))」を表し、実施例8においては「(紫外線吸収剤の使用量(質量部))/(ビス(β―エピチオプロピル)スルフィドとキシリレンジチオールと硫黄粉末との合計質量(質量部))」を表す。なお、ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物との合計質量、および、ビス(β―エピチオプロピル)スルフィドとキシリレンジチオールと硫黄粉末との合計質量は、プラスチック基材中の樹脂の質量と同じである。
なお、以下の表1では、各実施例および比較例のプラスチック基材の評価結果(視感透過率、青色光カット率)、および、評価用レンズの評価結果(視感透過率、青色光カット率)を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
上記表1に示すように、実施例においては、所望の効果(高い視感透過率、高い青色光カット能)を示した。