(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】配列操作のための最適化されたCRISPR-Cas二重ニッカーゼ系、方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220603BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20220603BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220603BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20220603BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220603BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N9/16 Z ZNA
C12N15/113 Z
C12N15/55
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020025947
(22)【出願日】2020-02-19
(62)【分割の表示】P 2016521450の分割
【原出願日】2014-06-10
【審査請求日】2020-03-16
(32)【優先日】2013-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2013/074667
(32)【優先日】2013-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515236259
【氏名又は名称】ザ・ブロード・インスティテュート・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】505028576
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェロウズ オヴ ハーヴァード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】チャン フェン
(72)【発明者】
【氏名】スー パトリック
(72)【発明者】
【氏名】リン チェ ユ
(72)【発明者】
【氏名】ラン フェイ
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-518602(JP,A)
【文献】特表2007-501626(JP,A)
【文献】国際公開第2013/052681(WO,A1)
【文献】特表2012-529287(JP,A)
【文献】国際公開第2014/197568(WO,A2)
【文献】CONG, Le et al.,"Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas systems",Science,2013年,Vol. 339,pp. 819-823, Supplementary Materials,Published online: 2013 Jan 3
【文献】MALI, Prashant et al.,"RNA-guided human genome engineering via Cas9",Science,2013年,Vol. 339,pp. 823-826, Supplementary Materials,Published online: 2013 Jan 3
【文献】JINEK, Martin et al.,"RNA-programmed genome editing in human cells",Elife,2013年01月29日,Vol. 2; e00471,pp. 1-9
【文献】JIANG, Wenyan et al.,"RNA-guided editing of bacterial genomes using CRISPR-Cas systems",Nat. Biotechnol.,2013年01月29日,Vol. 31,pp. 233-239
【文献】URNOV, Fyodor D. et al.,"Genome editing with engineered zinc finger nucleases",Nat. Rev. Genet.,2010年,Vol. 11,pp. 636-646
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核細胞の目的の内因性ゲノム遺伝子座の改変に使用するための組成物であって、前記組成物は、
(a)Cas9タンパク質であって、 前記Cas9は、S.aureus Cas9であり、前記Cas9は1つ以上の突然変異をRuvCドメインまたはHNHドメインに含み、かつニッカーゼであり、前記Cas9は少なくとも2つの核局在化シグナルに融合している、Cas9タンパク質;
(b)第1のCRISPR-Cas系RNAであって、目的のゲノム遺伝子座において第1の標的配列とハイブリダイズすることができる第1のガイド配列、第1のtracrメイト配列、および第1のtracrメイト配列とハイブリダイズすることができる第1のtracr配列を含む、第1のCRISPR-Cas系RNA;および
(c)第2のCRISPR-Cas系RNAであって、目的のゲノム遺伝子座において第2の標的配列とハイブリダイズすることができる第2のガイド配列、第2のtracrメイト配列、および第2のtracrメイト配列とハイブリダイズすることができる第2のtracr配列を含む、第2のCRISPR-Cas系RNA;
を含むか、又は
前記(a)、(b)及び(c)をコードする核酸分子を含み、
前記第1および前記第2のガイド配列がそれぞれ前記第1および第2の標的配列に対する第1および第2のCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、
前記第1のCRISPR複合体が、第1のCRISPR-Cas系RNAと複合体形成している前記Cas9を含み、
前記第2のCRISPR複合体が、第2のCRISPR-Cas系RNAと複合体形成している前記Cas9を含み、
前記第1のCRISPR複合体が、目的のゲノム遺伝子座の一方のDNA鎖を開裂して第1のニックを生成し、前記第2のCRISPR複合体が、目的のゲノム遺伝子座の反対側のDNA鎖を開裂して第2のニックを生成し、
第1のニックが、第2のニックの少なくとも26ヌクレオチド5’である、
組成物。
【請求項2】
前記Cas9が、SpCas9のD10A、E762A又はD986Aに対応するRuvCドメイン中の少なくとも1つの突然変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記Cas9が、SpCas9のD10Aに対応するRuvCドメイン中の突然変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記Cas9が、SpCas9のH840A、N854A、又はN863Aに対応するHNHドメイン中の少なくとも1つの突然変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記Cas9が、SpCas9のH840Aに対応するHNHドメイン中の突然変異を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、前記第1及び第2のCRISPR-Cas系RNAおよび前記Cas9をコードするベクターを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ウイルスベクターがAAVベクターである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、前記第1及び第2のCRISPR-Cas系RNAおよび前記Cas9タンパク質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、前記第1及び第2のCRISPR-Cas系RNA、および前記Cas9タンパク質をコードするmRNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記第1及び第2のCRISPR-Cas系RNAがそれぞれ、tracrメイト配列およびtracr配列に融合したガイド配列を含むキメラRNAである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記Cas9が、異種機能性タンパク質ドメインに融合している、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
第1のニックが、第2のニックの少なくとも30ヌクレオチド5’であるか、
第1のニックが、第2のニックの最大で100ヌクレオチド5’であるか、
第1のニックが、第2のニックの30~100ヌクレオチド5’であるか、または
第1のニックが、第2のニックの34~50ヌクレオチド5’である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
目的のゲノム遺伝子座が遺伝子産物をコードしており、遺伝子産物の発現が減少または増加するか、あるいは遺伝子産物の活性または機能が変化する、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
遺伝子産物がタンパク質である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
真核細胞が、哺乳動物細胞、ヒト細胞、または植物細胞である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
2013年6月17日に出願された米国仮特許出願第61/836,123号明細書、2013年7月17日に出願された同第61/847,537号明細書、2013年8月5日に出願された同第61/862,355号明細書、2013年8月28日に出願された同第61/871,301号明細書、2013年12月12日に出願された同第61/915,383号明細書、および2013年12月12日に出願されたPCT/US2013/074667号明細書からの優先権が主張され、PCT/US2013/074667号明細書に関しては、米国の目的上、この出願はまた一部継続出願である。
【0002】
上記の出願、ならびにそれらの出願においてまたはそれらの審査中に引用される全ての文献(「出願引用文献」)およびその出願引用文献において引用または参照される全ての文献、ならびに本明細書において引用または参照される全ての文献(「本明細書引用文献」)、および本明細書引用文献において引用または参照される全ての文献は、本明細書においてまたは本明細書に参照により組み込まれる任意の文献において挙げられる任意の製品に関する任意の製造業者の指示書、説明書、製品仕様書、および製品シートと一緒に、参照により本明細書に組み込まれ、本発明の実施において用いることができる。より具体的には、全ての参照文献は、それぞれの個々の文献が個別具体的に参照により組み込まれることが示されるような程度で参照により組み込まれる。
【0003】
本発明は、一般に、クラスター化等間隔短鎖回分リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)(CRISPR)およびその成分に関する配列ターゲティング、例えば、ゲノム摂動または遺伝子編集を含む遺伝子発現の制御に使用される系、方法および組成物の送達、エンジニアリング、および最適化に関する。
【0004】
連邦政府により資金提供された研究に関する記述
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)により助成されたNIHパイオニアアワード(1DP1MH100706)のもと政府支援によりなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0005】
ゲノムシーケンシング技術および分析法の近年の進歩により、多様な範囲の生物学的機能および疾患に関連する遺伝因子を分類およびマッピングする技能が顕著に加速されている。正確なゲノムターゲティング技術は、個々の遺伝子エレメントの選択的摂動を可能とすることにより因果的遺伝子変異の体系的なリバースエンジニアリングを可能とするため、ならびに合成生物学、バイオテクノロジーおよび医薬用途を進歩させるために必要とされる。ゲノム編集技術、例えば、デザイナー亜鉛フィンガー、転写アクチベーター様エフェクター(TALE)、またはホーミングメガヌクレアーゼがターゲティングされるゲノム摂動の産生に利用可能であるが、安価で、設定が容易で、スケーラブルで、真核ゲノム内の複数位置をターゲティングしやすい新たなゲノムエンジニアリング技術が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CRISPR-Cas系は特異的配列をターゲティングするためにカスタム化タンパク質の生成を要求しないが、単一Cas酵素を短鎖RNA分子によりプログラミングして特異的DNA標的を認識させることができる。ゲノムシーケンシング技術および分析法のレパートリーへのCRISPR-Cas系の付加により方法論が顕著に簡易化され、多様な範囲の生物学的機能および疾患に関連する遺伝因子を分類およびマッピングする技能が加速される。有害効果を有さずにゲノム編集にCRISPR-Cas系を有効に利用するため、特許請求される本発明の態様であるそれらのゲノムエンジニアリングツールのエンジニアリング、および最適化の態様を理解することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幅広い適用性を有する配列ターゲティングのための代替的かつロバストな系および技術が差し迫って必要とされている。本発明の態様はこの必要性に応え、かつ関連する利点をもたらす。例示的なCRISPR複合体は、標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズするガイド配列と複合体形成するCRISPR酵素を含む。ガイド配列はtracrメイト配列に結合し、次にはtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズする。
【0008】
一態様において、本発明は、CRISPR系の1つ以上のエレメントを使用する方法を提供する。本発明のCRISPR複合体は、標的ポリヌクレオチドを改変する有効な手段を提供する。本発明のCRISPR複合体は、多様な細胞型における標的ポリヌクレオチドの改変(例えば、欠失、挿入、移行、不活性化、活性化)を含めた幅広い有用性を有する。一態様において、細胞は真核細胞である。一態様において、細胞は原核細胞である。従って本発明のCRISPR複合体は、例えば、遺伝子またはゲノム編集、遺伝子療法、創薬、薬物スクリーニング、疾患診断、および予後診断において広範囲の適用性を有する。例示的CRISPR複合体は、標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズするガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む。一態様において、ガイド配列はtracrメイト配列に結合しており、次にはtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズする。一態様において、CRISPR酵素はニッカーゼである。
【0009】
本発明の態様は、野生型Cas9酵素より長さが短いCas9酵素を有する、最適活性のガイドRNAを有するCRISPR-Cas9系における標的特異性が向上したCas9酵素(およびそれをコードする核酸分子)、およびキメラCas9酵素、ならびにCas9酵素の標的特異性を向上させる方法またはCRISPR-Cas9系を設計する方法であって、最適活性を有するガイドRNAを設計または調製しおよび/または野生型Cas9よりサイズが小さいまたは長さが短いCas9酵素を選択または調製すること(これにより、かかる構築物をコードする核酸の送達ベクターへのパッケージングが、野生型Cas9と比べて送達ベクターにおけるそのコーディングが少ないため有利である)、および/またはキメラCas9酵素を生成することを含む方法に関する。
【0010】
また、医薬における本配列、ベクター、酵素または系の使用も提供される。また、遺伝子またはゲノム編集におけるその使用も提供される。
【0011】
本発明のさらなる態様において、Cas9酵素は1つ以上の突然変異を含んでもよく、機能ドメインとの融合を含む、または含まない汎用的なDNA結合タンパク質として用いられ得る。突然変異は人為的に導入された突然変異であっても、または機能獲得型もしくは機能喪失型突然変異であってもよい。突然変異には、限定はされないが、触媒ドメイン(例えば、残基D10およびH840)の一つにおける突然変異が含まれ得る。さらなる突然変異が特徴付けられており、本発明の構築物に用いられ得る。本発明の一態様では、突然変異Cas9酵素はタンパク質ドメイン、例えば転写活性化ドメインなどと融合され得る。一態様において、転写活性化ドメインはVP64であってもよい。本発明の他の態様は、限定はされないが、転写リプレッサー、リコンビナーゼ、トランスポザーゼ、ヒストンリモデラー、DNAメチルトランスフェラーゼ、クリプトクロム、光誘導性/制御性ドメインまたは化学誘導性/制御性ドメインを含むドメインと融合している突然変異Cas 9酵素に関する。
【0012】
さらなる実施形態において、本発明は、突然変異体tracrRNAおよび細胞中におけるこれらのRNAのパフォーマンスを増強させるダイレクトリピート配列または突然変異体キメラガイド配列を作成する方法を提供する。本発明の態様はまた、前記配列の選択も提供する。
【0013】
本発明の態様はまた、CRISPR複合体の成分のクローニングおよび送達を単純化する方法も提供する。本発明の好ましい実施形態では、U6プロモーターなどの好適なプロモーターがDNAオリゴと増幅され、ガイドRNAをコードする配列に隣接して上流に配置される。次に得られたPCR産物を細胞に形質移入することにより、ガイドRNAの発現がドライブされ得る。本発明の態様はまた、インビトロで転写されるか、または合成会社に発注して直接形質移入されるガイドRNAにも関する。
【0014】
一態様において、本発明は、より高活性のポリメラーゼを使用することにより活性を向上させる方法を提供する。一態様において、ガイドRNAをコードする配列に隣接して上流にT7プロモーターが挿入されてもよい。好ましい実施形態において、T7プロモーターの制御下にあるガイドRNAの発現は、細胞中のT7ポリメラーゼの発現によってドライブされる。有利な実施形態において、細胞は真核細胞である。好ましい実施形態において真核細胞はヒト細胞である。より好ましい実施形態においてヒト細胞は患者特異的細胞である。
【0015】
一態様において、本発明は、Cas酵素の毒性を低下させる方法を提供する。特定の態様において、Cas酵素は、本明細書に記載されるとおりの任意のCas9、例えば任意の天然に存在する細菌性Cas9ならびに任意のキメラ、突然変異体、ホモログまたはオルソログである。一態様において、Cas酵素はニッカーゼである。一実施形態において、Cas9はmRNAの形態で細胞に送達される。これにより酵素の一過性発現が可能となり、それにより毒性が低下する。別の実施形態において、Cas9は、Cas9酵素をコードして発現するヌクレオチド構築物で細胞に送達される。別の実施形態において、本発明はまた、誘導性プロモーターの制御下でCas9を発現させる方法、およびそこで使用される構築物も提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、CRISPR-Cas系のインビボ適用を改良する方法を提供する。好ましい実施形態において、Cas酵素は野生型Cas9か、または任意の天然に存在する細菌性Cas9ならびに任意のキメラ、突然変異体、ホモログもしくはオルソログを含む本明細書に記載される改変型のうちのいずれかである。一態様において、Cas酵素はニッカーゼである。本発明の有利な態様は、送達用ウイルスベクターへのパッケージングが容易なCas9ホモログの選択を提供する。Cas9オルソログは、典型的には3~4個のRuvCドメインおよびHNHドメインの一般的構成を共有する。最も5’側のRuvCドメインが非相補鎖を開裂し、HNHドメインが相補鎖を開裂する。表記は全てガイド配列を参照する。
【0017】
5’RuvCドメインの触媒残基は、目的のCas9を他のCas9オルソログ(化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)II型CRISPR遺伝子座、S.サーモフィルス(S.thermophilus)CRISPR遺伝子座1、S.サーモフィルス(S.thermophilus)CRISPR遺伝子座3、およびフランシセラ・ノビシダ(Franciscilla novicida)II型CRISPR遺伝子座由来)と相同性比較することによって同定され、保存されたAsp残基をアラニンに突然変異させることにより、Cas9が相補鎖ニッキング酵素に変換される。同様に、HNHドメインの保存されたHisおよびAsn残基をアラニンに突然変異させることにより、Cas9が非相補鎖ニッキング酵素に変換される。
【0018】
一部の実施形態では、CRISPR酵素はI型またはIII型CRISPR酵素、好ましくはII型CRISPR酵素である。このII型CRISPR酵素は任意のCas酵素であってよい。Cas酵素は、II型CRISPR系の複数のヌクレアーゼドメインを有する最大のヌクレアーゼと相同性を共有する一般的な酵素クラスを指し得るとおりCas9と同定され得る。最も好ましくは、Cas9酵素はspCas9またはsaCas9由来であり、またはそれから誘導される。誘導されるとは、本出願人らは、その誘導された酵素が野生型酵素と高度な配列相同性を有するという意味では主に野生型酵素をベースとするが、しかしそれは本明細書に記載されるとおり何らかの形で突然変異している(改変されている)ものであることを意味する。
【0019】
用語CasおよびCRISPR酵素は、特に明らかでない限り、概して本明細書では同義的に使用されることが理解されるであろう。上述のとおり、本明細書で使用される残基の付番の多くは、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のII型CRISPR遺伝子座由来のCas9酵素(あるいはSpCas9またはspCas9とアノテートされる)を参照する。しかしながら、本発明が、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)に由来するSpCas9、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に由来するSaCas9、S.サーモフィラス(S.thermophilus)に由来するSt1Cas9など、他の微生物種由来のさらに多くのCas9を含むことは理解されるであろう。さらなる例は本明細書に提供される。
【0020】
この場合にはヒトに最適化された(すなわちヒトでの発現に最適化されている)コドン最適化配列の例が本明細書に提供される(SaCas9ヒトコドン最適化配列を参照のこと)。これが好ましいが、他の例も可能であることが理解されるであろうとともに、ヒト以外の宿主種に対するコドン最適化、または脳などの特定の器官に対するコドン最適化については公知である。
【0021】
さらなる実施形態において、本発明は、キメラCas9タンパク質を作成することによりCas9の機能を増強する方法を提供する。これらの方法は、あるCas9ホモログのN末端断片を別のCas9ホモログのC末端断片と融合することを含み得る。これらの方法はまた、キメラタンパク質が示す新規特性の選択も可能にする。
【0022】
本方法において、生物が動物または植物である場合、改変はエキソビボまたはインビトロ、例えば細胞培養物で、場合によってはインビボではなく行われ得ることは理解されるであろう。他の実施形態では、改変はインビボで行われ得る。
【0023】
一態様において、本発明は、
A)-I.CRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列であって、
(a)真核細胞中の標的配列にハイブリダイズし得るガイド配列、
(b)tracrメイト配列、および
(c)tracr配列
を含むポリヌクレオチド配列、および
II.少なくとも1つ以上の核局在化配列を含むCRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列
[(a)、(b)および(c)は、5’から3’配向で配置されており、
転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、および
CRISPR複合体が、(1)標的配列にハイブリダイズするガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズできるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、かつCRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列がDNAまたはRNAである]、
または
(B)I.ポリヌクレオチドであって、
(a)原核細胞中の標的配列にハイブリダイズし得るガイド配列、および
(b)少なくとも1つ以上のtracrメイト配列
を含むポリヌクレオチド、
II.CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列、および
III.tracr配列を含むポリヌクレオチド配列
[転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、および
CRISPR複合体が、(1)標的配列にハイブリダイズするガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズできるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、およびCRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列がDNAまたはRNAである]
を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を送達することを含む目的ゲノム遺伝子座における標的配列の操作により生物または非ヒト生物を改変する方法を提供する。
【0024】
CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列、ガイド配列、tracrメイト配列またはtracr配列の一部または全部が、RNA、DNAまたはRNAとDNAとの組み合わせであってもよい。一態様において、CRISPR酵素コードする配列、ガイド配列、tracrメイト配列またはtracr配列を含むポリヌクレオチドはRNAである。一態様において、CRISPR酵素をコードする配列、ガイド配列、tracrメイト配列またはtracr配列を含むポリヌクレオチドはDNAである。一態様において、ポリヌクレオチドはDNAとRNAとの混合物であり、ここではCRISPR酵素の1つ以上をコードする配列、ガイド配列、tracrメイト配列またはtracr配列を含むポリヌクレオチドの一部がDNAであり、かつポリヌクレオチドの一部がRNAである。一態様では、CRISPR酵素をコードする配列を含むポリヌクレオチドがDNAであり、かつガイド配列、tracrメイト配列またはtracr配列がRNAである。CRISPR酵素をコードする配列、ガイド配列、tracrメイト配列またはtracr配列を含む1つ以上のポリヌクレオチドは、ナノ粒子、エキソソーム、微小胞、または遺伝子銃によって送達されてもよい。
【0025】
ポリヌクレオチドが言及される場合に、当該のポリヌクレオチドがRNAであり、かつtracrメイト配列などの特徴を「含む」と言われる場合、そのRNA配列がその特徴を備えることは理解されるであろう。ポリヌクレオチドがDNAであり、かつtracrメイト配列などの特徴を含むと言われる場合、DNA配列は、問題となるその特徴を含むRNAに転写され、または転写されることができる。特徴がCRISPR酵素などのタンパク質である場合、参照されるDNAまたはRNA配列は(DNAの場合には初めに転写されて)翻訳され、または翻訳されることができる。さらに、CRISPR酵素をコードするRNAが細胞に提供される場合、そのRNAは、その送達先である細胞によって翻訳される能力を有することが理解される。
【0026】
従って、特定の実施形態において本発明は、原核生物または植物もしくは動物などの真核生物、例えばヒトもしくは非ヒト哺乳動物もしくは生物を含む哺乳動物を含めた生物を、目的のゲノム遺伝子座における標的配列の操作によって改変する方法を提供し、この方法は、組成物を発現させるためその組成物を作動可能にコードする1つ以上のウイルスまたはプラスミドベクターを含むウイルスまたはプラスミドベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を送達するステップを含み、組成物は、
(A)I.CRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、ポリヌクレオチド配列が(a)真核細胞における標的配列とのハイブリダイズ能を有するガイド配列、(b)tracrメイト配列、および(c)tracr配列を含む、第1の調節エレメント、およびII.0または少なくとも1つ以上の核局在化配列(または場合により、一部の実施形態はNLSが関与しないこともあるため、少なくとも1つ以上の核局在化配列)を含むCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント[(a)、(b)および(c)は5’から3’への方向に並び、成分IおよびIIは系の同じまたは異なるベクター上にあり、転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列に対するCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、およびハイブリダイズ可能な複合体が、(1)標的配列にハイブリダイズ可能なガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む]を含む1つ以上のベクターを含むベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物、または
(B)I.(a)原核細胞における標的配列とのハイブリダイズ能を有するガイド配列、および(b)少なくとも1つ以上のtracrメイト配列に作動可能に結合している第1の調節エレメント、II.CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント、およびIII.tracr配列に作動可能に結合している第3の調節エレメント[成分I、IIおよびIIIは系の同じまたは異なるベクター上にあり、転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列に対するCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、およびCRISPR複合体が、(1)標的配列にハイブリダイズ可能なガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む]を含む1つ以上のベクターを含むベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を含む。一態様において、CRISPR酵素は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を含む。一態様において、CRISPR酵素はニッカーゼである。
【0027】
好ましくは、ベクターはレンチウイルスまたはバキュロウイルスまたは好ましくはアデノウイルス/アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターであるが、他の送達手段が公知であり(酵母系、微小胞、遺伝子銃/ベクターを金ナノ粒子と結合させる手段など)、および提供される。一部の実施形態では、ウイルスまたはプラスミドベクターの1つ以上がナノ粒子、エキソソーム、微小胞、または遺伝子銃によって送達され得る。
【0028】
標的配列の操作とは、本出願人らは標的配列の後成的操作も意味する。これは、標的配列のメチル化状態の改変(すなわちメチル化またはメチル化パターンまたはCpG島の付加または除去)、ヒストン改変、標的配列への接触可能性の増加または低減によるか、または三次元折り畳みの促進または低減などによる、標的配列のクロマチン状態の操作であってもよい。
【0029】
目的ゲノム遺伝子座における標的配列の操作により、原核生物または真核生物、例えば植物、または動物、例えばヒトを含む哺乳動物もしくは非ヒト哺乳動物もしくは生物)を含む生物を改変する方法が参照される場合、これは生物(または哺乳動物)に全体として適用されても、または(その生物が多細胞生物である場合)当該の生物由来の単一細胞もしくは細胞集団だけに適用されてもよいことは理解されるであろう。例えばヒトの場合、本出願人らは特に単一細胞または細胞集団を想定し、それらは好ましくはエキソビボで改変されて、次に再び導入され得る。この場合、生検または他の組織試料もしくは生体液試料が必要となり得る。これに関して幹細胞もまた特に好ましい。しかし、当然ながらインビボ実施形態もまた想定される。
【0030】
特定の実施形態において本発明は、必要としている対象(例えば、哺乳動物またはヒト)または非ヒト対象(例えば、哺乳動物)における目的のゲノム遺伝子座の標的配列の欠陥によって引き起こされる病態を治療または阻害する方法を提供し、この方法は、標的配列の操作によってヒト対象または非ヒト対象を改変するステップを含み、ここで病態は、組成物を発現させるためその組成物を作動可能にコードする1つ以上のAAVベクターを含むAAVベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を送達するステップを含む治療を提供することを含む標的配列の操作による治療または阻害に感受性があり、標的配列は発現時の組成物によって操作され、組成物は以下を含む:
(A)I.CRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、ポリヌクレオチド配列が(a)真核細胞における標的配列とのハイブリダイズ能を有するガイド配列、(b)tracrメイト配列、および(c)tracr配列を含む、第1の調節エレメント、およびII.0または少なくとも1つ以上の核局在化配列(または場合により、一部の実施形態はNLSが関与しないこともあるため、少なくとも1つ以上の核局在化配列)を含むCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント[(a)、(b)および(c)は5’から3’への方向に並び、成分IおよびIIは系の同じまたは異なるベクター上にあり、転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列に対するCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、およびCRISPR複合体が、(1)標的配列にハイブリダイズ可能なガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む]を含む1つ以上のベクターを含むベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物、または
(B)I.(a)原核細胞における標的配列とのハイブリダイズ能を有するガイド配列、および(b)少なくとも1つ以上のtracrメイト配列に作動可能に結合している第1の調節エレメント、II.CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント、およびIII.tracr配列に作動可能に結合している第3の調節エレメント[成分I、IIおよびIIIは系の同じまたは異なるベクター上にあり、転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列に対するCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、およびCRISPR複合体が、(1)標的配列にハイブリダイズ可能なガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む]を含む1つ以上のベクターを含むベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物。
【0031】
本発明の一部の方法は、発現を誘導するステップを含み得る。本発明の一部の方法において生物または対象は真核生物、例えば植物または動物(ヒトを含めた哺乳動物を含む)または非ヒト真核生物もしくは非ヒト動物もしくは非ヒト哺乳動物である。本発明の一部の方法において生物または対象は植物である。本発明の一部の方法において生物または対象は哺乳動物または非ヒト哺乳動物である。本発明の一部の方法において生物または対象は藻類である。本発明の一部の方法においてウイルスベクターはAAVである。本発明の一部の方法においてウイルスベクターはレンチウイルス由来ベクターである。本発明の一部の方法においてウイルスベクターは、植物で使用されるアグロバクテリウム属(Agrobacterium)TiまたはRiプラスミドである。本発明の一部の方法においてCRISPR酵素はCas9である。本発明の一部の方法においてCRISPR酵素は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を含む。本発明の一部の方法においてCRISPR酵素はCas9ニッカーゼである。本発明の一部の方法においてガイド配列の発現は、T7ポリメラーゼの発現によってドライブされるT7プロモーターの制御下にある。本発明の一部の方法においてガイド配列の発現はU6プロモーターの制御下にある。
【0032】
標的配列の操作とは、本出願人らは標的配列の変化を意味し、これには標的配列の後成的操作が含まれ得る。この後成的操作は、標的配列のメチル化状態の改変(すなわちメチル化またはメチル化パターンまたはCpG島の付加または除去)、ヒストン改変、標的配列への接触可能性の増加または低減によるか、または三次元折り畳みの促進または低減などによる、標的配列のクロマチン状態の操作であってもよい。
【0033】
目的のゲノム遺伝子座における標的配列の操作によって生物または非ヒト生物を改変する方法が言及される場合、これは全体としての生物に適用されても、または(その生物が多細胞生物である場合)当該の生物由来の単一細胞もしくは細胞集団だけに適用されてもよいことは理解されるであろう。例えばヒトの場合、本出願人らは特に単一細胞または細胞集団を想定し、それらは好ましくはエキソビボで改変されて、次に再び導入され得る。この場合、生検または他の組織試料もしくは生体液試料が必要となり得る。これに関して幹細胞もまた特に好ましい。しかし、当然ながらインビボ実施形態もまた想定される。
【0034】
特定の実施形態において、本発明は、必要としている対象または非ヒト対象における目的のゲノム遺伝子座の標的配列の欠陥によって引き起こされる病態を治療または阻害する方法を提供し、この方法は、標的配列の操作によって対象または非ヒト対象を改変するステップを含み、ここで病態は、組成物を発現させるためその組成物を作動可能にコードするステップを含む1つ以上のベクターを含むベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を送達するステップを含む治療を提供することを含む標的配列の操作による治療または阻害に感受性があり、標的配列は発現時の組成物によって操作され、組成物は以下を含む:
(A)I.CRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、chiRNAポリヌクレオチド配列が、(a)真核細胞における標的配列とのハイブリダイズ能を有するガイド配列、(b)tracrメイト配列、および(c)tracr配列を含む、第1の調節エレメント、およびII.0または少なくとも1つ以上の核局在化配列(または場合により、一部の実施形態はNLSが関与しないこともあるため、少なくとも1つ以上の核局在化配列)を含むCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント[(a)、(b)および(c)は5’から3’への方向に並び、成分IおよびIIは系の同じまたは異なるベクター上にあり、転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列に対するCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、およびCRISPR複合体が、(1)標的配列にハイブリダイズ可能なガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む]を含む1つ以上のベクターを含むベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物、または
(B)I.(a)原核細胞における標的配列とのハイブリダイズ能を有するガイド配列、および(b)少なくとも1つ以上のtracrメイト配列に作動可能に結合している第1の調節エレメント、II.CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント、およびIII.tracr配列に作動可能に結合している第3の調節エレメント[成分I、IIおよびIIIは系の同じまたは異なるベクター上にあり、転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列に対するCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、およびCRISPR複合体が、(1)標的配列にハイブリダイズ可能なガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む]を含む1つ以上のベクターを含むベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物。真核細胞において使用される実施形態では、ベクター系はウイルスベクター系、例えばAAVベクターまたはAAVベクター系またはレンチウイルス由来ベクター系またはタバコモザイクウイルス由来系を含む。
【0035】
本発明の一部の方法は、発現を誘導するステップを含み得る。本発明の一部の方法において生物または対象は真核生物、例えば、植物または動物(ヒトを含めた哺乳動物を含む)または非ヒト真核生物もしくは非ヒト動物である。本発明の一部の方法において生物または対象は植物である。本発明の一部の方法において生物または対象は哺乳動物または非ヒト哺乳動物である。本発明の一部の方法において生物または対象は藻類である。本発明の一部の方法においてウイルスベクターはAAVである。本発明の一部の方法においてウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。本発明の一部の方法においてウイルスベクターはタバコモザイクウイルスベクターである。本発明の一部の方法においてCRISPR酵素はCas9である。本発明の一部の方法においてCRISPR酵素は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を含む。本発明の一部の方法においてCRISPR酵素はCas9ニッカーゼである。本発明の一部の方法においてガイド配列の発現は、T7ポリメラーゼの発現によってドライブされるT7プロモーターの制御下にある。本発明の一部の方法においてガイド配列の発現はU6プロモーターの制御下にある。
【0036】
一部の実施形態における本発明は、CRISPR酵素を送達する方法を包含し、この方法は、CRISPR酵素をコードするmRNAを細胞に送達することを含む。これらの方法の一部においてCRISPR酵素はCas9である。
【0037】
一部の実施形態における本発明は、本発明のAAVベクターを調製する方法を包含し、この方法は、AAVをコードする1つまたは複数の核酸分子を含有するまたはそれから本質的になる1つまたは複数のプラスミドをAAV感染細胞に形質移入すること、およびAAVの複製およびパッケージングに必須のAAV repおよび/またはcapを供給することを含む。一部の実施形態では、AAVの複製およびパッケージングに必須のAAV repおよび/またはcapは、細胞に1つまたは複数のヘルパープラスミドまたは1つまたは複数のヘルパーウイルスを形質移入することにより供給される。一部の実施形態ではヘルパーウイルスはポックスウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはバキュロウイルスである。
【0038】
植物では、病原体は多くの場合に宿主特異的である。例えば、フザリウム・オキシスポラム・f・エスピー・リコペルシシ(Fusarium oxysporum f.sp.lycopersici)はトマト萎凋病を引き起こすが、攻撃するのはトマトのみであり、F.オキシスポラム・f・ジアンチ(F.oxysporum f.dianthii)、プクシニア・グラミニス・f・エスピー・トリチシ(Puccinia graminis f.sp.tritici)はコムギのみを攻撃する。植物は既存の誘導防御を有して多くの病原体に抵抗する。特に病原体が植物より高い頻度で複製することに伴い、植物世代間での突然変異および組換えイベントが、感受性を生じさせる遺伝的変異性をもたらす。植物には非宿主抵抗性が存在することもあり、例えばその宿主と病原体とが適合しない。また、水平抵抗性、例えば、典型的には多くの遺伝子によって制御される、あらゆる病原体系統に対する部分抵抗性、および垂直抵抗性、例えば、典型的には数個の遺伝子によって制御される、他の系統に対しては存在しない、一部の病原体系統に対する完全抵抗性も存在し得る。遺伝子対遺伝子レベルでは、植物と病原体とは共に進化し、一方の遺伝的変化が他方の変化と均衡する。従って、育種家は自然変異性を用いて、収穫量、品質、均一性、耐寒性、抵抗性に関して最も有用な遺伝子をかけ合わせる。抵抗性遺伝子の供給源には、天然または外来品種、在来品種、野生植物の近縁種、および誘発突然変異(例えば突然変異誘発物質による植物材料の処理)が含まれる。本発明を用いることで、突然変異を誘発する新規の手段が植物育種家に提供される。従って、当業者は抵抗性遺伝子の供給源のゲノムを分析し、かつ所望の特性または形質を有する品種において本発明を用いることにより、これまでの突然変異誘発物質より高い精度で抵抗性遺伝子の産生を誘発し、ひいては植物育種プログラムを加速させ、および改善することができる。
【0039】
本発明は、医薬において使用される本発明の組成物またはそのCRISPR酵素(それに加えてまたは代えてCRISPR酵素をコードするmRNA)をさらに包含する。一部の実施形態では本発明は、本発明に係る方法において使用される本発明に係る組成物またはそのCRISPR酵素(それに加えてまたは代えてCRISPR酵素をコードするmRNA)を包含する。一部の実施形態では本発明は、エキソビボ遺伝子またはゲノム編集における本発明の組成物またはそのCRISPR酵素(それに加えてまたは代えてCRISPR酵素をコードするmRNA)の使用を提供する。特定の実施形態では本発明は、エキソビボ遺伝子またはゲノム編集用医薬の製造におけるまたは本発明に係る方法において使用される本発明の組成物またはそのCRISPR酵素(それに加えてまたは代えてCRISPR酵素をコードするmRNA)の使用を包含する。本発明の一部の方法においてCRISPR酵素は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を含む。本発明の一部の方法においてCRISPR酵素はCas9ニッカーゼである。本発明は、一部の実施形態では、本発明の組成物またはそのCRISPR酵素(それに加えてまたは代えてCRISPR酵素をコードするmRNA)を包含し、特にCas9が化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)または黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9である(またはそれに由来する)場合に、標的配列の3’末端にはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と称される5’-モチーフが隣接する。例えば、好適なPAMは、以下に記載するとおり、SpCas9またはSaCas9酵素(または誘導酵素)に対してそれぞれ5’-NRGまたは5’-NNGRR(式中Nは任意のヌクレオチド)である。
【0040】
SpCas9またはSaCas9は、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)または黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9のものであるか、またはそれに由来するものであることは理解されるであろう。
【0041】
本発明の態様は、CRISPR酵素、例えばCas9が媒介する遺伝子ターゲティングの特異性を改善すること、およびCRISPR酵素、例えばCas9によるオフターゲット改変の可能性を低減することを包含する。本発明は一部の実施形態において、細胞の目的のゲノム遺伝子座におけるDNA二重鎖の逆鎖上にある第1および第2の標的配列の操作によってオフターゲット改変を最小限に抑えることにより生物または非ヒト生物を改変する方法を包含し、前記方法は、
I.第1のCRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列であって、
(a)第1の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第1のガイド配列、
(b)第1のtracrメイト配列、および
(c)第1のtracr配列
を含む第1のポリヌクレオチド配列、
II.第2のCRISPR-Cas系chiRNAポリヌクレオチド配列であって、
(a)第2の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第2のガイド配列、
(b)第2のtracrメイト配列、および
(c)第2のtracr配列
を含む第2のポリヌクレオチド配列、および
III.0または少なくとも1つ以上の核局在化配列を含むCRISPR酵素をコードし、かつCRISPR酵素に1つ以上の突然変異を含むポリヌクレオチド配列、
を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を送達するステップを含み、
I.およびII.の(a)、(b)および(c)は5’から3’への方向に並び、転写されると第1および第2のtracrメイト配列がそれぞれ第1および第2のtracr配列にハイブリダイズし、かつ第1および第2のガイド配列がそれぞれ第1および第2の標的配列に対する第1および第2のCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、第1のCRISPR複合体が、(1)第1の標的配列にハイブリダイズ可能な第1のガイド配列、および(2)第1のtracr配列にハイブリダイズする第1のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、第2のCRISPR複合体が、(1)第2の標的配列にハイブリダイズ可能な第2のガイド配列、および(2)第2のtracr配列にハイブリダイズする第2のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、
CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列がDNAまたはRNAであり、および第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍でDNA二重鎖の逆鎖の開裂を指向して、それによりDNAの切断を誘導し、それによりオフターゲット改変を最小限に抑えることによって生物または非ヒト生物を改変する。一態様において、DNAにおける第1のニックと第2のニックとは互いに対して二重鎖の少なくとも1塩基対だけオフセットしている。一態様において、第1のニックと第2のニックとは互いに対し、得られるDNA切断が3’オーバーハングを有するようにオフセットしている。一態様において、第1のニックと第2のニックとは互いに対し、得られるDNA切断が5’オーバーハングを有するようにオフセットしている。一態様において、第1のニックと第2のニックとは互いに対し、オーバーハングが少なくとも1nt、少なくとも10nt、少なくとも15nt、少なくとも26nt、少なくとも30nt、少なくとも50ntであるか、または少なくとも50ntを超えるように位置している。得られるオフセットした二重ニックを有するDNA鎖を含む本発明のさらなる態様を当業者は理解し得るとともに、二重ニック系の例示的使用が本明細書に提供される。
【0042】
本発明の一部の方法において、CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列、第1および第2のガイド配列、第1および第2のtracrメイト配列または第1および第2のtracr配列の一部または全部がRNAである。本発明のさらなる実施形態において、CRISPR酵素をコードする配列、第1および第2のガイド配列、第1および第2のtracrメイト配列または第1および第2のtracr配列を含むポリヌクレオチドはRNAであり、ナノ粒子、エキソソーム、微小胞、または遺伝子銃によって送達される。本発明の特定の実施形態において、第1および第2のtracrメイト配列は100%の同一性を共有し、および/または第1および第2のtracr配列は100%の同一性を共有する。本発明の好ましい実施形態において、CRISPR酵素はCas9酵素、例えばSpCas9である。本発明の態様において、CRISPR酵素は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を含み、この1つ以上の突然変異はRuvCドメインにおけるD10A、E762A、およびD986Aからなる群から選択されるか、またはこの1つ以上の突然変異はHNHドメインにおけるH840A、N854AおよびN863Aからなる群から選択される。極めて好ましい実施形態において、CRISPR酵素はD10A突然変異またはH840A突然変異を有する。
【0043】
本発明の好ましい方法において、第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で逆鎖の開裂を指向することにより、5’オーバーハングが生じる。本発明の実施形態において、5’オーバーハングは高々200塩基対、好ましくは高々100塩基対、またはより好ましくは高々50塩基対である。本発明の実施形態において、5’オーバーハングは少なくとも26塩基対、好ましくは少なくとも30塩基対またはより好ましくは34~50塩基対または1~34塩基対である。本発明の他の好ましい方法において、第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で他方の鎖の開裂を指向することにより、平滑末端または3’オーバーハングが生じる。本発明の実施形態において、3’オーバーハングは高々150、100もしくは25塩基対または少なくとも15、10もしくは1塩基対である。好ましい実施形態において、3’オーバーハングは1~100塩基対である。
【0044】
一部の実施形態における本発明は、以下を含む1つ以上のベクターを含むベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を送達することを含む細胞の目的ゲノム遺伝子座におけるDNA二重鎖の逆鎖上にある第1および第2の標的配列の操作によってオフターゲット改変を最小限に抑えることにより生物または非ヒト生物を改変する方法を包含する
I.以下に作動可能に結合している第1の調節エレメント
(a)第1の標的配列にハイブリダイズし得る第1のガイド配列、および
(b)少なくとも1つ以上のtracrメイト配列、
II.以下に作動可能に結合している第2の調節エレメント
(a)第2の標的配列にハイブリダイズし得る第2のガイド配列、および
(b)少なくとも1つ以上のtracrメイト配列、
III.CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第3の調節エレメント、および
IV.tracr配列に作動可能に結合している第4の調節エレメント、
ここで成分I、II、IIIおよびIVは系の同じまたは異なるベクター上にあり、転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、第1および第2のガイド配列がそれぞれ第1および第2の標的配列への第1および第2のCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、第1のCRISPR複合体は、(1)第1の標的配列にハイブリダイズできる第1のガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、第2のCRISPR複合体は、(1)第2の標的配列にハイブリダイズできる第2のガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列がDNAまたはRNAであり、および第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で他方の鎖の開裂を指向して二本鎖切断を誘導し、従ってオフターゲット改変を最小限に抑えることにより生物または非ヒト生物を改変する。
【0045】
本発明の一部の方法において、CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列、第1および第2のガイド配列、第1および第2のtracrメイト配列または第1および第2のtracr配列の一部または全部がRNAである。本発明のさらなる実施形態において、第1および第2のtracrメイト配列は100%の同一性を共有し、および/または第1および第2のtracr配列は100%の同一性を共有する。本発明の好ましい実施形態において、CRISPR酵素はCas9酵素、例えばSpCas9である。本発明の態様において、CRISPR酵素は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を含み、この1つ以上の突然変異はRuvCドメインにおけるD10A、E762A、およびD986Aからなる群から選択されるか、またはこの1つ以上の突然変異はHNHドメインにおけるH840A、N854AおよびN863Aからなる群から選択される。極めて好ましい実施形態において、CRISPR酵素はD10A突然変異またはH840A突然変異を有する。CRISPR酵素またはCasタンパク質はD10AまたはH840Aのいずれかの突然変異を有してなおも残留NHEJ活性を促進し得るため、本出願全体を通して、本発明は、CRISPR酵素またはCasタンパク質における複数の突然変異の導入によってNHEJ活性をさらに低減するさらにより正確なニッカーゼの生成を包含する。D10Aニッカーゼ(nicakse)のより優れたバージョンは突然変異D10A、E762AおよびD986A(またはこれらの何らかのサブセット)を含むことができ、およびH840Aニッカーゼのより優れたバージョンは突然変異H840A、N854AおよびN863A(またはこれらの何らかのサブセット)を含むことができる。
【0046】
本発明のさらなる実施形態において、ウイルスベクターの1つ以上は、ナノ粒子、エキソソーム、微小胞、または遺伝子銃によって送達される。
【0047】
本発明の好ましい方法において、第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で他方の鎖の開裂を指向することにより、5’オーバーハングが生じる。本発明の実施形態において、5’オーバーハングは高々200塩基対、好ましくは高々100塩基対、またはより好ましくは高々50塩基対である。本発明の実施形態において、5’オーバーハングは少なくとも26塩基対、好ましくは少なくとも30塩基対またはより好ましくは34~50塩基対または1~34塩基対である。本発明の他の好ましい方法において、第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で他方の鎖の開裂を指向することにより、平滑末端または3’オーバーハングが生じる。本発明の実施形態において、3’オーバーハングは高々150、100もしくは25塩基対または少なくとも15、10もしくは1塩基対である。好ましい実施形態において、3’オーバーハングは1~100塩基対である。
【0048】
一部の実施形態における本発明は、遺伝子産物をコードする二本鎖DNA分子を含有してそれを発現する細胞に、1つ以上の突然変異を有するCasタンパク質と、DNA分子のそれぞれ第1の鎖および第2の鎖を標的にする2つのガイドRNAとを含むエンジニアリングされた天然に存在しないCRISPR-Cas系を導入することによってオフターゲット改変を最小限に抑えることにより目的ゲノム遺伝子座を改変する方法であって、それによりガイドRNAが、遺伝子産物をコードするDNA分子を標的にし、かつCasタンパク質が、遺伝子産物をコードするDNA分子の第1の鎖および第2の鎖の各々にニックを入れ、それにより遺伝子産物の発現が変化し;および、Casタンパク質と2つのガイドRNAとが天然で一緒に存在することはない、方法を包含する。
【0049】
本発明の好ましい方法において、遺伝子産物をコードするDNA分子の第1の鎖および第2の鎖の各々をCasタンパク質がニッキングすることにより、5’オーバーハングが生じる。本発明の実施形態において、5’オーバーハングは高々200塩基対、好ましくは高々100塩基対、またはより好ましくは高々50塩基対である。本発明の実施形態において、5’オーバーハングは少なくとも26塩基対、好ましくは少なくとも30塩基対またはより好ましくは34~50塩基対または1~34塩基対である。本発明の他の好ましい方法において、遺伝子産物をコードするDNA分子の第1の鎖および第2の鎖の各々をCasタンパク質がニッキングすることにより、3’オーバーハングが生じ、3’オーバーハングは1~100塩基対である。
【0050】
本発明の実施形態はまた、tracrメイト配列およびtracr配列に融合したガイド配列を含むガイドRNAも包含する。本発明の態様において、Casタンパク質は真核細胞での発現にコドン最適化され、ここで真核細胞は哺乳類細胞またはヒト細胞であってもよい。本発明のさらなる実施形態において、Casタンパク質はII型CRISPR-Casタンパク質、例えばCas 9タンパク質である。極めて好ましい実施形態において、Casタンパク質はCas9タンパク質、例えばSpCas9である。本発明の態様では、Casタンパク質は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を有し、この1つ以上の突然変異はRuvCドメインにおけるD10A、E762A、およびD986Aからなる群から選択されるか、またはこの1つ以上の突然変異はHNHドメインにおけるH840A、N854AおよびN863Aからなる群から選択される。極めて好ましい実施形態において、Casタンパク質はD10A突然変異またはH840A突然変異を有する。
【0051】
本発明の態様は、遺伝子産物の発現を低下させること、または遺伝子産物をコードするDNA分子にテンプレートポリヌクレオチドがさらに導入されること、または2つの5’または3’オーバーハングをリアニーリングおよびライゲートさせることにより介在配列が正確に切り出されること、または遺伝子産物の活性または機能を変化させること、または遺伝子産物の発現を増加させることに関する。本発明のある実施形態において、遺伝子産物はタンパク質である。
【0052】
本発明はまた、1つ以上の突然変異を有するCasタンパク質と、細胞中の遺伝子産物をコードする二本鎖DNA分子のそれぞれ第1の鎖および第2の鎖を標的にする2つのガイドRNAとを含むエンジニアリングされた天然に存在しないCRISPR-Cas系であって、それによりガイドRNAが、遺伝子産物をコードするDNA分子を標的にし、かつCasタンパク質が、遺伝子産物をコードするDNA分子の第1の鎖および第2の鎖の各々にニックを入れ、それにより遺伝子産物の発現が変化し;および、Casタンパク質と2つのガイドRNAとが天然で一緒に存在することはない、系も包含する。
【0053】
本発明の態様では、ガイドRNAは、tracrメイト配列およびtracr配列に融合したガイド配列を含み得る。本発明の実施形態において、Casタンパク質はII型CRISPR-Casタンパク質である。本発明の態様において、Casタンパク質は真核細胞での発現にコドン最適化されており、ここで真核細胞は哺乳類細胞またはヒト細胞であってもよい。本発明のさらなる実施形態において、Casタンパク質はII型CRISPR-Casタンパク質、例えばCas 9タンパク質である。極めて好ましい実施形態において、Casタンパク質はCas9タンパク質、例えばSpCas9である。本発明の態様では、Casタンパク質は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を有し、この1つ以上の突然変異はRuvCドメインにおけるD10A、E762A、およびD986Aからなる群から選択されるか、またはこの1つ以上の突然変異はHNHドメインにおけるH840A、N854AおよびN863Aからなる群から選択される。極めて好ましい実施形態において、Casタンパク質はD10A突然変異またはH840A突然変異を有する。
【0054】
本発明の態様は、遺伝子産物の発現を低下させること、または遺伝子産物をコードするDNA分子にテンプレートポリヌクレオチドがさらに導入されること、または2つの5’オーバーハングをリアニーリングおよびライゲートさせることにより介在配列が正確に切り出されること、または遺伝子産物の活性または機能を変化させること、または遺伝子産物の発現を増加させることに関する。本発明のある実施形態において、遺伝子産物はタンパク質である。
【0055】
本発明はまた、以下を含む1つ以上のベクターを含むエンジニアリングされた天然に存在しないベクター系も包含する:
a)遺伝子産物をコードする二本鎖DNA分子のそれぞれ第1の鎖および第2の鎖を標的にする2つのCRISPR-Cas系ガイドRNAの各々に作動可能に結合している第1の調節エレメント、
b)Casタンパク質に作動可能に結合している第2の調節エレメント
ここで成分(a)および(b)は系の同じまたは異なるベクター上にあり、それによりガイドRNAが、遺伝子産物をコードするDNA分子を標的にし、かつCasタンパク質が、遺伝子産物をコードするDNA分子の第1の鎖および第2の鎖の各々にニックを入れ、それにより遺伝子産物の発現が変化し;および、Casタンパク質と2つのガイドRNAとが天然で一緒に存在することはない。
【0056】
本発明の態様ではガイドRNAは、tracrメイト配列およびtracr配列に融合したガイド配列を含み得る。本発明のある実施形態においてCasタンパク質はII型CRISPR-Casタンパク質である。本発明の態様においてCasタンパク質は、哺乳類細胞またはヒト細胞であり得る真核細胞での発現にコドンが最適化される。本発明のさらなる実施形態においてCasタンパク質はII型CRISPR-Casタンパク質、例えばCas9タンパク質である。極めて好ましい実施形態においてCasタンパク質はCas9タンパク質、例えばSpCas9である。本発明の態様では、Casタンパク質は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を有し、この1つ以上の突然変異はRuvCドメインにおけるD10A、E762A、およびD986Aからなる群から選択されるか、またはこの1つ以上の突然変異はHNHドメインにおけるH840A、N854AおよびN863Aからなる群から選択される。極めて好ましい実施形態において、Casタンパク質はD10A突然変異またはH840A突然変異を有する。
【0057】
本発明の態様は、遺伝子産物の発現を低下させること、または遺伝子産物をコードするDNA分子にテンプレートポリヌクレオチドがさらに導入されること、または2つの5’オーバーハングをリアニーリングおよびライゲートさせることにより介在配列が正確に切り出されること、または遺伝子産物の活性または機能を変化させること、または遺伝子産物の発現を増加させることに関する。本発明のある実施形態において、遺伝子産物はタンパク質である。本発明の好ましい実施形態において系のベクターはウイルスベクターである。さらなる実施形態において、系のベクターはナノ粒子、エキソソーム、微小胞、または遺伝子銃によって送達される。
【0058】
本発明の態様は、相同性組換え修復を促進することによって細胞の目的のゲノム遺伝子座におけるDNA二重鎖の逆鎖上に第1および第2の標的配列を含む生物を改変する方法を提供し、この方法は、
I.第1のCRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列であって、
(a)第1の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第1のガイド配列、
(b)第1のtracrメイト配列、および
(c)第1のtracr配列
を含む第1のポリヌクレオチド配列、
II.第2のCRISPR-Cas系chiRNAポリヌクレオチド配列であって、
(a)第2の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第2のガイド配列、
(b)第2のtracrメイト配列、および
(c)第2のtracr配列
を含む第2のポリヌクレオチド配列、および
III.少なくとも1つ以上の核局在化配列を含み、かつ1つ以上の突然変異を含むCRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列、
IV.合成またはエンジニアリングされた一本鎖オリゴヌクレオチドを含む修復テンプレート
を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を送達するステップを含むことができ、
(a)、(b)および(c)は5’から3’への方向に並び、転写されると第1および第2のtracrメイト配列がそれぞれ第1および第2のtracr配列にハイブリダイズし、かつ第1および第2のガイド配列がそれぞれ第1および第2の標的配列に対する第1および第2のCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、第1のCRISPR複合体が、(1)第1の標的配列にハイブリダイズ可能な第1のガイド配列、および(2)第1のtracr配列にハイブリダイズする第1のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、第2のCRISPR複合体が、(1)第2の標的配列にハイブリダイズ可能な第2のガイド配列、および(2)第2のtracr配列にハイブリダイズする第2のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列がDNAまたはRNAであり、第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で他方の鎖の開裂を指向して二本鎖切断を誘導し、および相同組換えによってDNA二重鎖に修復テンプレートが導入され、それにより生物が改変される。
【0059】
本発明の実施形態において、修復テンプレートは制限エンドヌクレアーゼ制限部位をさらに含み得る。さらなる実施形態において、第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で他方の鎖の開裂を指向することにより、5’または3’オーバーハングが生じる。本発明の好ましい実施形態において、5’オーバーハングは1~200塩基対であり、または3’オーバーハングは1~100塩基対である。他の態様において、CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列、第1および第2のガイド配列、第1および第2のtracrメイト配列または第1および第2のtracr配列の一部または全部がRNAである。さらに別の態様において、CRISPR酵素をコードする配列、第1および第2のガイド配列、第1および第2のtracrメイト配列または第1および第2のtracr配列を含むポリヌクレオチドはRNAであり、ナノ粒子、エキソソーム、微小胞、または遺伝子銃によって送達される。本発明のさらなる実施形態において、第1および第2のtracrメイト配列は100%の同一性を共有し、および/または第1および第2のtracr配列は100%の同一性を共有する。本発明の好ましい実施形態において、CRISPR酵素はCas9酵素、例えばSpCas9である。本発明の態様において、CRISPR酵素は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を含み、この1つ以上の突然変異はRuvCドメインにおけるD10A、E762A、およびD986Aからなる群から選択されるか、またはこの1つ以上の突然変異はHNHドメインにおけるH840A、N854AおよびN863Aからなる群から選択される。極めて好ましい実施形態において、CRISPR酵素はD10A突然変異またはH840A突然変異を有する。
【0060】
本発明の態様はまた、非相同末端結合(NHEJ)媒介性ライゲーションを促進することによって細胞の目的のゲノム遺伝子座におけるDNA二重鎖の逆鎖上に第1および第2の標的配列を含む生物を改変する方法も提供し、この方法は、
I.第1のCRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列であって、
(a)第1の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第1のガイド配列、
(b)第1のtracrメイト配列、および
(c)第1のtracr配列
を含む第1のポリヌクレオチド配列、
II.第2のCRISPR-Cas系chiRNAポリヌクレオチド配列であって、
(a)第2の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第2のガイド配列、
(b)第2のtracrメイト配列、および
(c)第2のtracr配列
を含む第2のポリヌクレオチド配列、および
III.少なくとも1つ以上の核局在化配列を含み、かつ1つ以上の突然変異を含むCRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列、
IV.オーバーハングの第1のセットを含む修復テンプレート
を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を送達するステップを含み、
(a)、(b)および(c)は5’から3’への方向に並び、転写されると第1および第2のtracrメイト配列がそれぞれ第1および第2のtracr配列にハイブリダイズし、かつ第1および第2のガイド配列がそれぞれ第1および第2の標的配列に対する第1および第2のCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、第1のCRISPR複合体が、(1)第1の標的配列にハイブリダイズ可能な第1のガイド配列、および(2)第1のtracr配列にハイブリダイズする第1のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、第2のCRISPR複合体が、(1)第2の標的配列にハイブリダイズ可能な第2のガイド配列、および(2)第2のtracr配列にハイブリダイズする第2のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列がDNAまたはRNAであり、第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で他方の鎖の開裂を指向してオーバーハングの第2のセットを含む二本鎖切断を誘導し、オーバーハングの第1のセットがオーバーハングの第2のセットに適合してマッチし、およびライゲーションによってDNA二重鎖に修復テンプレートが導入され、それにより生物が改変される。
【0061】
本発明の一部の実施形態では、修復テンプレートは合成またはエンジニアリングされた二本鎖オリゴヌクレオチド二重鎖であるか、または他の実施形態では、修復テンプレートは、細胞に導入されて酵素的にプロセシングされるDNAの断片から作成される。この酵素プロセシングは内因性酵素によるか、または細胞に導入された酵素(例えば制限エンドヌクレアーゼ(restriction endonucelase)、ヌクレアーゼまたは一対のニッカーゼ)によって行われてもよく、従って適合するオーバーハングが修復テンプレート上に生成される。
【0062】
さらなる実施形態において、第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で他方の鎖の開裂を指向することにより、5’または3’オーバーハングが生じる。本発明の好ましい実施形態において、5’オーバーハングは1~200塩基対であり、または3’オーバーハングは1~100塩基対である。他の態様において、CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列、第1および第2のガイド配列、第1および第2のtracrメイト配列または第1および第2のtracr配列の一部または全部がRNAである。さらに別の態様において、CRISPR酵素をコードする配列、第1および第2のガイド配列、第1および第2のtracrメイト配列または第1および第2のtracr配列を含むポリヌクレオチドはRNAであり、ナノ粒子、エキソソーム、微小胞、または遺伝子銃によって送達される。本発明のさらなる実施形態において、第1および第2のtracrメイト配列は100%の同一性を共有し、および/または第1および第2のtracr配列は100%の同一性を共有する。本発明の好ましい実施形態において、CRISPR酵素はCas9酵素、例えばSpCas9である。本発明の態様において、CRISPR酵素は触媒ドメインの一つに1つ以上の突然変異を含み、1つ以上の突然変異はRuvCドメインにおけるD10A、E762A、およびD986Aからなる群から選択されるか、または1つ以上の突然変異はHNHドメインにおけるH840A、N854AおよびN863Aからなる群から選択される。極めて好ましい実施形態において、CRISPR酵素はD10A突然変異またはH840A突然変異を有する。
【0063】
一態様において、本発明は、真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを改変する方法を提供する。一部の実施形態において、方法は、CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ、それにより標的ポリヌクレオチドを改変することを含み、CRISPR複合体は、前記標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している。一部の実施形態において、前記開裂は、前記CRISPR酵素により標的配列の局在における1つまたは2つの鎖を開裂することを含む。一部の実施形態において、前記開裂は、標的遺伝子の転写の減少をもたらす。一部の実施形態において、方法は、外因性テンプレートポリヌクレオチドとの相同組換えにより前記開裂標的ポリヌクレオチドを修復することをさらに含み、前記修復は、前記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む突然変異をもたらす。一部の実施形態において、前記突然変異は、標的配列を含む遺伝子から発現されるタンパク質中の1つ以上のアミノ酸変化をもたらす。一部の実施形態において、方法は、1つ以上のベクターを前記真核細胞に送達することをさらに含み、1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列の1つ以上の発現をドライブする。一部の実施形態において、前記ベクターを対象中の真核細胞中に送達する。一部の実施形態において、前記改変を、細胞培養物中の前記真核細胞中で行う。一部の実施形態において、方法は、前記改変前に前記真核細胞を対象から単離することをさらに含む。一部の実施形態において、方法は、前記真核細胞および/またはそれに由来する細胞を前記対象に戻すことをさらに含む。
【0064】
一態様において、本発明は、真核細胞中のポリヌクレオチドの発現を改変する方法を提供する。一部の実施形態において、方法は、CRISPR複合体をポリヌクレオチドに結合させ、その結果、前記結合が前記ポリヌクレオチドの発現の増加または減少をもたらすことを含み;CRISPR複合体は、前記ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している。一部の実施形態において、方法は、1つ以上のベクターを前記真核細胞に送達することをさらに含み、1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列の1つ以上の発現をドライブする。
【0065】
一態様において、本発明は、突然変異疾患遺伝子を含むモデル真核細胞を生成する方法を提供する。一部の実施形態において、疾患遺伝子は、疾患を有し、または発症するリスクの増加に関連する任意の遺伝子である。一部の実施形態において、方法は、(a)1つ以上のベクターを真核細胞に導入すること(1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列の1つ以上の発現をドライブする)および(b)CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記疾患遺伝子内の標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ(CRISPR複合体は、(1)標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズできるガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む)、それにより、突然変異疾患遺伝子を含むモデル真核細胞を生成することを含む。一部の実施形態において、前記開裂は、前記CRISPR酵素により標的配列の局在における1つまたは2つの鎖を開裂することを含む。一部の実施形態において、前記開裂は、標的遺伝子の転写の減少をもたらす。一部の実施形態において、方法は、外因性テンプレートポリヌクレオチドとの相同組換えにより前記開裂標的ポリヌクレオチドを修復することをさらに含み、前記修復は、前記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む突然変異をもたらす。一部の実施形態において、前記突然変異は、標的配列を含む遺伝子から発現されるタンパク質中の1つ以上のアミノ酸変化をもたらす。
【0066】
一態様において、本発明は、1つ以上の原核細胞中の遺伝子中の1つ以上の突然変異を導入することにより1つ以上の原核細胞を選択する方法であって、1つ以上のベクターを原核細胞中に導入すること(1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、tracr配列、および編集テンプレートの1つ以上の発現をドライブし;編集テンプレートは、CRISPR酵素開裂を停止させる1つ以上の突然変異を含む);編集テンプレートと、選択すべき細胞中の標的ポリヌクレオチドとを相同組換えさせること;CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記遺伝子内の標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ(CRISPR複合体は、(1)標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズできるガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、標的ポリヌクレオチドへのCRISPR複合体の結合は、細胞死を誘導する)、それにより、1つ以上の突然変異が導入された1つ以上の原核細胞の選択を可能とすることを含む方法を提供する。好ましい実施形態において、CRISPR酵素は、Cas9である。本発明の一態様において、選択される細胞は真核細胞であり得る。本発明の態様により、選択マーカーもカウンターセレクション系を含み得る2ステッププロセスも要求しない規定の細胞の選択が可能となる。
【0067】
一態様において、本発明は、真核細胞における標的ポリヌクレオチドを改変する方法を提供する。一部の実施形態では、本方法は、CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ、それにより標的ポリヌクレオチドを改変することを含み、ここでCRISPR複合体は、前記標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズするガイド配列と複合体形成するCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列がtracrメイト配列に結合し、次にはtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズする。
【0068】
他の実施形態では、本発明は、真核細胞におけるポリヌクレオチドの発現を改変する方法を提供する。本方法は、そのポリヌクレオチドに結合するCRISPR複合体を使用して標的ポリヌクレオチドの発現を増加または低下させることを含む。
【0069】
望ましい場合、細胞における発現の改変を達成するため、tracr配列、tracrメイト配列に連結したガイド配列、CRISPR酵素をコードする配列を含む1つ以上のベクターが細胞に送達される。一部の方法では、1つ以上のベクターは、核局在化配列を含む前記CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している調節エレメント;およびtracrメイト配列に作動可能に結合している調節エレメントおよびtracrメイト配列の上流にガイド配列を挿入するための1つ以上の挿入部位を含む。ガイド配列は発現すると、細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向する。典型的には、CRISPR複合体は、(1)標的配列にハイブリダイズするガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズできるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む。
【0070】
一部の方法では、細胞における発現の改変を達成するため標的ポリヌクレオチドが不活性化され得る。例えば、細胞中の標的配列にCRISPR複合体が結合したとき、配列が転写されないか、コードされたタンパク質が産生されないか、または野生型配列が機能するとおりには配列が機能しないように標的ポリヌクレオチドが不活性化される。例えば、タンパク質が産生されないようにタンパク質またはマイクロRNAコード配列が不活性化され得る。
【0071】
特定の実施形態において、CRISPR酵素は、1つ以上の突然変異D10A、E762A、H840A、N854A、N863AまたはD986Aを含み、および/または1つ以上の突然変異はCRISPR酵素のRuvC1またはHNHドメインにあるか、または他に本明細書で考察するとおりの突然変異である。一部の実施形態では、CRISPR酵素は触媒ドメインに1つ以上の突然変異を有し、ここで転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列に対するCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、および酵素は機能ドメインをさらに含む。一部の実施形態では、突然変異Cas9酵素はタンパク質ドメイン、例えば転写活性化ドメインなどと融合され得る。一態様において、転写活性化ドメインはVP64である。一部の実施形態では、転写抑制ドメインはKRABである。一部の実施形態では、転写抑制ドメインはSID、またはSIDのコンカテマー(すなわちSID4X)である。一部の実施形態では、後成的改変酵素が提供される。一部の実施形態では、活性化ドメインが提供され、それはP65活性化ドメインであってもよい。
【0072】
一部の実施形態では、CRISPR酵素はI型またはIII型CRISPR酵素であり、好ましくはII型CRISPR酵素である。このII型CRISPR酵素は任意のCas酵素であってよい。Cas酵素は、II型CRISPR系の複数のヌクレアーゼドメインを有する最大のヌクレアーゼと相同性を共有する一般的な酵素クラスを指し得るとおりCas9と同定され得る。最も好ましくは、Cas9酵素はspCas9またはsaCas9由来であり、またはそれから誘導される。誘導されるとは、本出願人らは、その誘導された酵素が野生型酵素と高度な配列相同性を有するという意味では主に野生型酵素をベースとするが、しかしそれは本明細書に記載されるとおり何らかの形で突然変異している(改変されている)ものであることを意味する。
【0073】
本発明はまた、細胞における目的の遺伝子座のDNA二重鎖を改変する方法も提供し、この方法は、
I.第1のポリヌクレオチドであって、
(a)第1の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第1のガイド配列、
(b)第1のtracrメイト配列、および
(c)第1のtracr配列
を含む第1のポリヌクレオチド;
II.第2のポリヌクレオチドであって、
(a)第2の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第2のガイド配列、
(b)第2のtracrメイト配列、および
(c)第2のtracr配列
を含む第2のポリヌクレオチド;
および
III.CRISPR酵素および1つ以上の核局在化配列をコードする配列を含む第3のポリヌクレオチド
を細胞に送達するステップを含み、
前記第1および第2のポリヌクレオチドの(a)、(b)および(c)は5’から3’への方向に並び;
第1の標的配列がDNA二重鎖の第1の鎖上にあり、かつ第2の標的配列がDNA二重鎖の逆鎖上にあり、第1および第2のガイド配列が二重鎖の前記標的配列にハイブリダイズすると、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドの5’末端が互いに対して二重鎖の少なくとも1塩基対だけオフセットし;
転写されると第1および第2のtracrメイト配列がそれぞれ第1および第2のtracr配列にハイブリダイズし、かつ第1および第2のガイド配列がそれぞれ第1および第2の標的配列に対する第1および第2のCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、
第1のCRISPR複合体が、(1)第1の標的配列にハイブリダイズ可能な第1のガイド配列、および(2)第1のtracr配列にハイブリダイズする第1のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、
第2のCRISPR複合体が、(1)第2の標的配列にハイブリダイズ可能な第2のガイド配列、および(2)第2のtracr配列にハイブリダイズする第2のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、
およびDNA二重鎖の前記第1の鎖が前記第1の標的配列の近傍で開裂され、およびDNA二重鎖の前記逆鎖が前記第2の標的配列の近傍で開裂されることにより、5’オーバーハングまたは3’オーバーハングを有する二本鎖切断が生じる。
【0074】
本発明はまた、細胞における目的の遺伝子座のDNA二重鎖を改変する方法も提供し、この方法は、
I.第1のポリヌクレオチド配列であって、
(a)第1の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第1のガイド配列、および
(b)少なくとも1つ以上のtracrメイト配列
に作動可能に結合している調節エレメントを含む第1のポリヌクレオチド配列、
II.第2のポリヌクレオチド配列であって、
(a)第2の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第2のガイド配列、および
(b)少なくとも1つ以上のtracrメイト配列、
に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含む第2のポリヌクレオチド配列
III.CRISPR酵素をコードする配列に作動可能に結合している第3の調節エレメントを含む第3のポリヌクレオチド配列、および
IV.tracr配列に作動可能に結合している第4の調節エレメントを含む第4のポリヌクレオチド配列、
を含む1つ以上のベクターを含むベクター系を細胞に送達するステップを含み、
成分I、II、IIIおよびIVは系の同じまたは異なるベクター上にあり、
第1の標的配列がDNA二重鎖の第1の鎖上にあり、かつ第2の標的配列がDNA二重鎖の逆鎖上にあり、第1および第2のガイド配列が二重鎖の前記標的配列にハイブリダイズすると、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドの5’末端が互いに対して二重鎖の少なくとも1塩基対だけオフセットし;
転写されると第1および第2のtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつ第1および第2のガイド配列がそれぞれ第1および第2の標的配列に対する第1および第2のCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、
第1のCRISPR複合体が、(1)第1の標的配列にハイブリダイズ可能な第1のガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズする第1のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、
第2のCRISPR複合体が、(1)第2の標的配列にハイブリダイズ可能な第2のガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズする第2のtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、
およびDNA二重鎖の前記第1の鎖が前記第1の標的配列の近傍で開裂され、およびDNA二重鎖の前記逆鎖が前記第2の標的配列の近傍で開裂されることにより、5’オーバーハングまたは3’オーバーハングを有する二本鎖切断が生じる。
【0075】
本発明の方法では、CRISPR酵素は有利には、触媒ドメインに少なくとも1つの突然変異を含むニッカーゼ酵素、場合によりCas9酵素である。例えば、少なくとも1つの突然変異がRuvCドメインにあり、かつ場合により、D10A、E762AおよびD986Aからなる群から選択されるか、またはHNHドメインにあり、かつ場合により、H840A、N854AおよびN863Aからなる群から選択されることがあってもよい。本発明の方法では、有利には、第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとの5’末端間のオフセットは、-8bpより大きいか、または-278から+58bpまたは-200から+200bpまたは最大100bpもしくはそれ以上または-4から20bpまたは+23bpまたは+16または+20または+16から+20bpまたは-3から+18bpであってもよく;および適切な場合、bpの代わりにヌクレオチドまたはntの用語を使用し得ることが理解される。有利には、本発明の方法では、DNA二重鎖の前記第1の鎖および前記逆鎖の開裂は、各鎖上においてPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)の3’側で起こり、前記第1の鎖上の前記PAMは前記逆鎖上の前記PAMと30~150塩基対だけ離れている。本発明の方法では、オーバーハングは高々200塩基、高々100塩基、または高々50塩基であり得る;例えば、オーバーハングは少なくとも1塩基、少なくとも10塩基、少なくとも15塩基、少なくとも26塩基または少なくとも30塩基であり得る;または、オーバーハングは34~50塩基または1~34塩基であり得る。有利には、本発明の方法では、CRISPR酵素をコードするポリヌクレオチド配列、第1および第2のガイド配列、第1および第2のtracrメイト配列または第1および第2のtracr配列の一部または全部がRNAであり、場合によりI、IIおよびIIIの一部または全部が、ナノ粒子、エキソソーム、微小胞、または遺伝子銃によって送達される。本発明の方法では、有利には、第1および第2のtracrメイト配列は100%の同一性を共有することができ、および/または第1および第2のtracr配列は100%の同一性を共有する。例えば、I、IIおよびIIIの各々はベクターで提供されてもよく、場合により、各々は同じまたは異なるベクターで提供される。本発明の方法における目的の遺伝子座は遺伝子を含むことができ、前記方法は前記遺伝子の発現の変化をもたらすか、または遺伝子産物の活性もしくは機能の変化をもたらす。例えば、遺伝子産物はタンパク質であってもよく、および/または発現、活性もしくは機能の前記変化は前記発現、活性もしくは機能の低下である。本発明の方法は以下をさらに含み得る:(a)前記二本鎖切断によって生じるオーバーハングに相補的なオーバーハングを含む二本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)を細胞に送達するステップであって、前記dsODNが目的の遺伝子座にインテグレートされるステップ;または-(b)一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)を細胞に送達するステップであって、前記ssODNが前記二本鎖切断の相同性組換え修復のテンプレートとして働くステップ。本発明の方法は個体における疾患の予防または治療のための方法であってもよく、場合により前記疾患は前記目的の遺伝子座の欠陥によって引き起こされる。本発明の方法は、個体においてインビボで実施されてもよく、または個体から採取した細胞上でエキソビボで実施されてもよく、場合により前記細胞は個体に戻される。
【0076】
本発明はまた、
I.第1のポリヌクレオチドであって、
(a)第1の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第1のガイド配列、
(b)第1のtracrメイト配列、および
(c)第1のtracr配列
を含む第1のポリヌクレオチド;
II.第2のポリヌクレオチドであって、
(a)第2の標的配列とのハイブリダイズ能を有する第2のガイド配列、
(b)第2のtracrメイト配列、および
(c)第2のtracr配列
を含む第2のポリヌクレオチド;
および
III.CRISPR酵素および1つ以上の核局在化配列をコードする配列を含む第3のポリヌクレオチド
を含むキットまたは組成物も提供し、
前記第1および第2のポリヌクレオチドの(a)、(b)および(c)は5’から3’への方向に並び;
第1の標的配列はDNA二重鎖の第1の鎖上にあり、かつ第2の標的配列はDNA二重鎖の逆鎖上にあり、第1および第2のガイド配列が二重鎖における前記標的配列にハイブリダイズされると、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドの5’末端が互いに対して二重鎖の少なくとも1塩基対だけオフセットし、
および場合によりI、IIおよびIIIの各々が同じまたは異なるベクターに提供される。
【0077】
本発明はまた、本発明の方法における本発明に係るキットまたは組成物の使用も提供する。本発明はまた、医薬の製造における本発明のキットまたは組成物の使用も提供し、場合により前記医薬は、前記目的の遺伝子座の欠陥によって引き起こされる疾患の予防用または治療用である。
【0078】
用語CasおよびCRISPR酵素は、特に明らかでない限り、本明細書では概して同義的に使用されることが理解されるであろう。上述のとおり、本明細書で使用される残基の付番の多くは化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のII型CRISPR遺伝子座由来のCas9酵素を参照する。しかしながら、この発明が、SpCas9、SaCa9、St1Cas9など、他の微生物種由来のさらに多くのCas9を含むことは理解されるであろう。
【0079】
この場合にはヒトに最適化された(すなわちヒトでの発現に最適化されている)コドン最適化配列の例が本明細書に提供される(SaCas9ヒトコドン最適化配列を参照のこと)。これが好ましいが、他の例が可能であることが理解されるであろうとともに、ヒト以外の宿主種に対するまたは脳など特定の臓器に対するコドン最適化は公知である。
【0080】
一態様において、送達はベクターの形態である。一態様において、ベクターはレンチウイルスまたはバキュロウイルスまたは好ましくはアデノウイルス/アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターであってもよいが、他の送達手段が公知であり(酵母系、微小胞、遺伝子銃/ベクターを金ナノ粒子と結合させる手段など)、および提供される。ベクターは、ウイルス系または酵母系(例えば、ここでは目的の核酸がプロモーターに作動可能に連結されかつその制御下に(発現の点で、最終的にプロセシングされたRNAを提供するなどのため)あり得る)を意味するのみならず、また宿主細胞への核酸の直接送達も意味する。本明細書における方法では、ベクターはウイルスベクターであってもよく、これは有利にはAAVであるが、本明細書で考察するとおりの他のウイルスベクターが用いられてもよい。例えば、昆虫細胞での発現にバキュロウイルスを用いることができる。これらの昆虫細胞は、次には本発明の送達に適しているAAVベクターなど、さらなるベクターを多量に産生するのに有用となり得る。また、CRISPR酵素をコードするmRNAを細胞に送達することを含む本CRISPR酵素の送達方法も想定される。CRISPR酵素はトランケートされ、1000個未満のアミノ酸もしくは4000個未満のアミノ酸を含み、ヌクレアーゼまたはニッカーゼであり、コドンが最適化され、1つ以上の突然変異を含み、および/またはキメラCRISPR酵素を含み、または本明細書で考察するとおりの他の任意選択要素を含むことは理解されるであろう。AAVウイルスベクターが好ましい。
【0081】
特定の実施形態では、CRISPR酵素、典型的にはCasおよび詳細にはCas9に好適なPAMが標的配列の3’末端に隣接しまたは後続する。
【0082】
例えば、好適なPAMは、それぞれSpCas9またはSaCas9酵素(または誘導酵素)に対する5’-NRGまたは5’-NNGRRである。
【0083】
SpCas9またはSaCas9は、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)または黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9由来のものであるかまたはそれから誘導されるものであることは理解されるであろう。
【0084】
従って、本出願人らが権利を留保し、かつ本明細書によって任意の以前に公知の産物、プロセス、または方法のディスクレーマー(disclaimer)を開示するようなこれまでに公知のいかなる産物、その産物の作製プロセス、またはその産物の使用方法も本発明の範囲内に包含しないことが、本発明の目的である。さらに、本発明は、本出願人らが権利を留保し、かつ本明細書によって任意の以前記載された産物、その産物の作製プロセス、またはその産物の使用方法のディスクレーマー(disclaimer)を開示するような、米国特許商標庁(USPTO)(米国特許法第112条第一段落)または欧州特許庁(EPO)(EPC第83条)の明細書の記載および実施可能要件を満たさないいかなる産物、その産物の作製プロセス、またはその産物の使用方法も本発明の範囲内に包含しないものと意図されることが注記される。
【0085】
本開示および特に特許請求の範囲および/または段落において、「含む(comprises)」、「含んだ(comprised)」、「含む(comprising)」などのような用語は、米国特許法に帰属する意味を有し得;例えば、それらは、「含む(includes)」、「含んだ(included)」、「含む(including)」などを意味し得;「本質的に~からなる(consisting essentially of)」および「本質的に~からなる(consists essentially of)」のような用語は、米国特許法に帰属する意味を有し、例えば、それらは、明示的に記述されない構成要素を許容するが、先行技術に見出され、または本発明の基本もしくは新規特徴に影響する構成要素を排除することが留意される。
【0086】
これらのおよび他の実施形態は、以下の詳細な説明により開示され、またはそれから明らかであり、それにより包含される。
【0087】
本発明の新規特徴を、特に添付の特許請求の範囲を用いて記載する。本発明の特徴および利点のより良好な理解は、本発明の原理が利用される説明的な実施形態を記載する以下の詳細な説明、および付属の図面を参照することにより得られる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1】CRISPR系の模式的モデルを示す。化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)からのCas9ヌクレアーゼ(黄色)を、20ntガイド配列(青色)および足場(赤色)からなる合成ガイドRNA(sgRNA)によりゲノムDNAにターゲティングする。必要な5’-NGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM;マゼンタ)のすぐ上流のDNA標的(青色)とのガイド配列塩基対、およびCas9は、PAMの約3bp上流の二本鎖切断(DSB)(赤色三角)を媒介する。
【
図2A】化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9の開裂特異性を評価するため実施したアッセイの概略図を示す。ガイドRNA配列と標的DNAとの間の単一塩基対ミスマッチが%単位の開裂効率に対してマッピングされる。
【
図2B】化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9の開裂特異性を評価するため実施したアッセイの概略図を示す。ガイドRNA配列と標的DNAとの間の単一塩基対ミスマッチが%単位の開裂効率に対してマッピングされる。
【
図2C】化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9の開裂特異性を評価するため実施したアッセイの概略図を示す。ガイドRNA配列と標的DNAとの間の単一塩基対ミスマッチが%単位の開裂効率に対してマッピングされる。
【
図2D】化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9の開裂特異性を評価するため実施したアッセイの概略図を示す。ガイドRNA配列と標的DNAとの間の単一塩基対ミスマッチが%単位の開裂効率に対してマッピングされる。
【
図2E-F】化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9の開裂特異性を評価するため実施したアッセイの概略図を示す。ガイドRNA配列と標的DNAとの間の単一塩基対ミスマッチが%単位の開裂効率に対してマッピングされる。
【
図4A】
図4A~
図4Fは、大きいCas9(約1400アミノ酸)の3つのグループと小さいCas9(約1100アミノ酸)の2つのグループとを含む5つのCas9ファミリーを明らかにする線状系統発生解析を示す。
【
図4B】
図4A~
図4Fは、大きいCas9(約1400アミノ酸)の3つのグループと小さいCas9(約1100アミノ酸)の2つのグループとを含む5つのCas9ファミリーを明らかにする線状系統発生解析を示す。
【
図4C】
図4A~
図4Fは、大きいCas9(約1400アミノ酸)の3つのグループと小さいCas9(約1100アミノ酸)の2つのグループとを含む5つのCas9ファミリーを明らかにする線状系統発生解析を示す。
【
図4D】
図4A~
図4Fは、大きいCas9(約1400アミノ酸)の3つのグループと小さいCas9(約1100アミノ酸)の2つのグループとを含む5つのCas9ファミリーを明らかにする線状系統発生解析を示す。
【
図4E】
図4A~
図4Fは、大きいCas9(約1400アミノ酸)の3つのグループと小さいCas9(約1100アミノ酸)の2つのグループとを含む5つのCas9ファミリーを明らかにする線状系統発生解析を示す。
【
図4F】
図4A~
図4Fは、大きいCas9(約1400アミノ酸)の3つのグループと小さいCas9(約1100アミノ酸)の2つのグループとを含む5つのCas9ファミリーを明らかにする線状系統発生解析を示す。
【
図5】Cas9オルソログの長さ分布を表すグラフを示す。
【
図7A】条件的Cas9、Rosa26ターゲティングベクターマップを示す。
【
図7B】構成的Cas9、Rosa26ターゲティングベクターマップを示す。
【
図8】構成的および条件的Cas9構築物における重要なエレメントの略図を示す。
【
図9】送達およびインビボマウス脳Cas9発現データを示す。
【
図10】細胞へのCas9およびキメラRNAのRNA送達を示す(A)ニューロ2A細胞へのDNAまたはmRNAのいずれかとしてのGFPレポーターの送達。(B)Cas9およびキメラRNAをRNAとしてIcam2遺伝子に対して送達すると、試験した2つのスペーサーのうちの一方に開裂が生じる。(C)Cas9およびキメラRNAをRNAとしてF7遺伝子に対して送達すると、試験した2つのスペーサーのうちの一方に開裂が生じる。
【
図11】DNA二本鎖切断(DSB)修復が遺伝子編集をいかに促進するかを示す。エラープローン非相同末端結合(NHEJ)経路において、DSBの末端は内因性DNA修復機構によりプロセシングされ、一緒に再結合し、このことは接合部位におけるランダム挿入/欠失(インデル)突然変異をもたらし得る。遺伝子のコード領域内で生じるインデル突然変異は、フレームシフトおよび早期終止コドンをもたらし得、遺伝子ノックアウトをもたらす。あるいは、プラスミドまたは一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)の形態の修復テンプレートを供給して高いフィデリティおよび正確な編集を可能とする相同性組換え修復(HDR)経路を活用することができる。
【
図12A-C】
図12A~
図12Cは、HEKおよびHUES9細胞でのHDRについて予想される結果を示す。(a)相同性アームを有するターゲティングプラスミドまたはssODN(センスまたはアンチセンス)のいずれかを使用して、Cas9により開裂される標的ゲノム遺伝子座(赤色の三角形)で配列を編集することができる。HDRの効率をアッセイするため、本発明者らは標的遺伝子座にHindIII部位(赤色のバー)を導入し、これを、相同性領域外にアニールするプライマーでPCR増幅した。HindIIIでPCR産物を消化すると、HDRイベントの発生が明らかになる。(b)目的の遺伝子座に対してセンス方向またはアンチセンス方向(sまたはa)のいずれかに向くssODNをCas9と組み合わせて使用することにより、標的遺伝子座における効率的なHDR媒介性編集を実現することができる。改変の両側に40bp、および好ましくは90bpの最小相同性領域が推奨される(赤色のバー)。(c)野生型Cas9およびCas9ニッカーゼ(D10A)の両方を使用して、EMX1遺伝子座におけるHDRに対してssODNが及ぼす効果の例が示される。各ssODNは、2つの制限部位の12bpの挿入が隣接する90bpの相同性アームを含む。
【
図14A-B】
図14A~
図14B(a)は、FXNイントロン1におけるGAAリピート伸長の略図を示し、(b)は、CRISPR/Cas系を使用したGAA伸長領域の切り出しに用いられる戦略の略図を示す。
【
図15】Tet1~3およびDnmt1、3aおよび3b遺伝子座の効率的なSpCas9媒介性ターゲティングのスクリーニングを示す。形質移入したN2A細胞のDNAに関するSurveyorアッセイにより、種々のgRNAを使用することによる効率的なDNA開裂を実証する。
【
図16】AAV1/2送達系における2ベクター系を使用した多重ゲノムターゲティング戦略を示す。Tet1-3およびDnmt1、3aおよび3b gRNAはU6プロモーターの制御下にある。GFP-KASHはヒトシナプシンプロモーターの制御下にある。制限酵素部位が、サブクローニングによる単純なgRNA置換戦略を示す。2つの核局在化シグナル(NLS)が隣接するHAタグ標識SpCas9が示される。両方のベクターとも、1:1比でAAV1/2ウイルスによって脳に送達される。
【
図17】Surveyorアッセイを用いた多重DNMTターゲティングベクター#1の機能検証を示す。DNMT遺伝子ファミリー遺伝子座のSpCas9媒介性開裂を試験するため、N2A細胞にDNMTターゲティングベクター#1(+)およびSpCas9コードベクターを同時形質移入した。gRNAのみ(-)が陰性対照である。形質移入後48時間でDNA精製および下流処理のため細胞を回収した。
【
図18】Surveyorアッセイを用いた多重DNMTターゲティングベクター#2の機能検証を示す。DNMT遺伝子ファミリー遺伝子座のSpCas9媒介性開裂を試験するため、N2A細胞にDNMTターゲティングベクター#1(+)およびSpCas9コードベクターを同時形質移入した。gRNAのみ(-)が陰性対照である。形質移入後48時間でDNA精製および下流処理のため細胞を回収した。
【
図19】インビボでのHA-SpCas9発現に使用される短いプロモーターおよび短いポリAバージョンの概略図を示す。L-ITRからR-ITRまでのコード領域のサイズを右側に示す。
【
図20】インビボでのHA-SaCas9発現に使用される短いプロモーターおよび短いポリAバージョンの概略図を示す。L-ITRからR-ITRまでのコード領域のサイズを右側に示す。
【
図21】N2A細胞におけるSpCas9およびSaCas9の発現を示す。種々の短いプロモーターの制御下にありかつ短いポリA(spA)配列を有するHAタグ標識SpCas9およびSaCas9バージョンの代表的なウエスタンブロット。チューブリンがローディング対照である。mCherry(mCh)が形質移入対照である。形質移入後48時間でウエスタンブロッティングのため細胞を回収してさらに処理した。
【
図22】Tet3遺伝子座の効率的なSaCas9媒介性ターゲティングのスクリーニングを示す。形質移入したN2A細胞のDNAに関するSurveyorアッセイにより、NNGGGT PUM配列を有する種々のgRNAを使用することによる効率的なDNA開裂が実証される。GFP形質移入細胞およびSaCas9のみを発現する細胞が対照である。
【
図23】マウス脳におけるHA-SaCas9の発現を示す。ヒトシナプシンプロモーターの制御下でHA-SaCas9の発現をドライブするウイルスを動物の歯状回に注入した。手術後2週間で動物を犠牲にした。ウサギモノクローナル抗体C29F4(Cell Signaling)を使用してHAタグを検出した。DAPI染色で細胞核は青色に染色された。
【
図24】形質導入7日後の培養下の皮質初代ニューロンにおけるSpCas9およびSaCas9の発現を示す。種々のプロモーターの制御下にありかつbghまたは短いポリA(spA)配列を有するHAタグ標識SpCas9およびSaCas9バージョンの代表的なウエスタンブロット。チューブリンがローディング対照である。
【
図25】種々のプロモーターを含むSpCas9および多重gRNA構築物を有するAAV1粒子による形質導入後7日の初代皮質ニューロンのLIVE/DEAD染色を示す(DNMTについては最後のパネルに例を示す)。AAV形質導入後のニューロンを、対照の非形質導入ニューロンと比較した。赤色の核は、透過処理された死細胞を示す(パネルの2列目)。生細胞は緑色で示される(パネルの3列目)。
【
図26】種々のプロモーターを含むSaCas9を有するAAV1粒子による形質導入後7日の初代皮質ニューロンのLIVE/DEAD染色を示す。赤色の核は、透過処理された死細胞を示す(パネルの2列目)。生細胞は緑色で示される(パネルの3列目)。
【
図27】TETおよびDNMT遺伝子座に関するSpCas9ならびにgRNA多重体を有するAAV1ウイルスによる形質導入後のニューロンの形態比較を示す。形質導入されていないニューロンを対照として示す。
【
図28】初代皮質ニューロンにおけるSurveyorアッセイを用いた多重DNMTターゲティングベクター#1の機能検証を示す。DNMT遺伝子ファミリー遺伝子座のSpCas9媒介性開裂を試験するため、細胞にDNMTターゲティングベクター#1および種々のプロモーターを有するSpCas9ウイルスを共形質導入した。
【
図29】脳におけるSpCas9開裂のインビボ効率を示す。DNMTファミリー遺伝子座を標的とするgRNA多重体を有するAAV1/2ウイルスを、2つの異なるプロモーター:マウスMecp2およびラットMap1bの制御下にあるSpCas9ウイルスと共にマウスに注入した。注入後2週間で脳組織を摘出し、gRNA多重体構築物からシナプシンプロモーターによりドライブされるGFP発現に基づき、FACSを使用して核を調製および選別した。gDNA抽出後、Surveyorアッセイを実行した。+はGFP陽性核を示し、-は同じ動物からの対照のGFP陰性核を示す。ゲル上の数字は、評価したSpCas9効率を示す。
【
図30】海馬ニューロンからのGFP-KASH標識細胞核の精製を示す。細胞核膜の核外膜(ONM)をGFPとKASHタンパク質膜貫通ドメインとの融合物でタグ標識する。定位手術およびAAV1/2注入の1週間後の脳における強力なGFP発現。密度勾配遠心ステップによるインタクトな脳からの細胞核の精製。精製された核を示す。Vybrant(登録商標)DyeCycle(商標)Ruby染色によるクロマチン染色は赤色で示され、GFP標識核は緑色で示される。GFP+およびGFP-細胞核の代表的なFACSプロファイル(マゼンタ色:Vybrant(登録商標)DyeCycle(商標)Ruby染色、緑色:GFP)。
【
図31】マウス脳におけるSpCas9開裂効率を示す。TETファミリー遺伝子座を標的とするgRNA多重体を有するAAV1/2ウイルスを、2つの異なるプロモーター:マウスMecp2およびラットMap1bの制御下にあるSpCas9ウイルスと共にマウスに注入した。注入後3週間で脳組織を摘出し、gRNA多重体構築物からシナプシンプロモーターによりドライブされるGFP発現に基づき、FACSを使用して核を調製および選別した。gDNA抽出後、Surveyorアッセイを実行した。+はGFP陽性核を示し、-は同じ動物からの対照のGFP陰性核を示す。ゲル上の数字は、評価したSpCas9効率を示す。
【
図32】培養下の皮質ニューロンにおけるGFP-KASH発現を示す。TET遺伝子座を標的とするgRNA多重体構築物を有するAAV1ウイルスをニューロンに形質導入した。KASHドメインの局在化により、最も強力なシグナルは細胞核の周りに局在する。
【
図33】(上)ガイドRNAのペア間の間隔(2つのPAM配列の配置パターンにより示されるとおり)のリストを示す。SpCas9(D10A)ニッカーゼと共に使用したとき、パターン1、2、3、4を満たすガイドRNAペアのみがインデルを呈した。(下)SpCas9(D10A)と、パターン1、2、3、4を満たすガイドRNAのペアとの組み合わせが、標的部位におけるインデルの形成をもたらしたことを示すゲル画像。
【
図34】U6ガイドRNA発現カセット(casssette)の作成に使用されるU6リバースプライマー配列のリストを示す。U6および所望のガイドRNAを含有するアンプリコンを作成するためには、各プライマーがU6フォワードプライマー「gcactgagggcctatttcccatgattc」とペアを形成する必要がある。
【
図35】
図33に掲載する24パターンの位置を示すヒトEMX1遺伝子座からのゲノム配列マップを示す。
【
図36】(右側)種々のガイドRNAペアにより標的化されたCas9ニッカーゼによる開裂の後に可変の5’オーバーハングが存在するときの標的部位におけるインデルの形成を示すゲル画像を示す。(左側)右側にゲルのレーン番号を示し、使用したガイドRNAペアおよびCas9ニッカーゼによる開裂後に存在する5’オーバーハングの長さを特定することを含めた種々のパラメータを示す表を示す。
【
図37】
図36のゲルパターン(右)をもたらしおよび実施例30にさらに記載する種々のガイドRNAペアの位置を示すヒトEMX1遺伝子座からのゲノム配列マップを示す。
【
図38】ガイド配列伸長がCas9活性に及ぼす効果を示す(A)ヒトEMX1遺伝子内の遺伝子座(標的1)をターゲティングするマッチまたはミスマッチsgRNA配列を有するCas9を示す概略図。(B)20nt長および30nt長ガイド配列を有するsgRNAによる標的1の同等の改変を示すSURVEYORアッセイゲル。(C)拡張sgRNAがHEK 293FT細胞において20ntガイド長sgRNAにほぼ戻ることを示すノーザンブロット。
【
図39】二重ニッキングがヒト細胞における効率的なゲノム編集を促進することを示す(A)Cas9 D10Aニッカーゼ(Cas9n)をガイドする一対のsgRNAを使用したDNA二本鎖切断を説明する概略図。D10A突然変異によってCas9はsgRNAに相補的な鎖のみを開裂可能となっている;一対のsgRNA-Cas9n複合体は両方の鎖を同時にニッキングすることができる。sgRNAオフセットは、所与のsgRNA対のガイド配列のPAM遠位(5’)末端間の距離として定義される;正のオフセットは、上部鎖に相補的なsgRNA(sgRNA a)が下部鎖に相補的なsgRNA(sgRNA b)の5’側にある必要があり、これは常に5’-オーバーハングを作り出す。(B)2つのsgRNA間のオフセット距離の関数としての二重ニッキング誘導NHEJの効率。使用した全てのsgRNAの配列は表S1を参照し得る。(n=3;エラーバーは平均値±s.e.m.を示す)(C)Cas9nによってターゲティングされるヒトEMX1遺伝子座の代表的な配列。sgRNA標的部位およびPAMを、それぞれ青色およびマゼンタ色のバーで示す。下、代表的なインデルを示す選択された配列。
図44および
図45もまた参照のこと。
【
図40】二重ニッキングがヒト細胞において効率的なゲノム編集を促進することを示す(A)ヒトEMX1遺伝子座のCas9n二重ニッキング(赤色の矢印)を示す概略図。Cas9n特異性のスクリーニングのため、EMX1標的1と配列相同性を有する5つのオフターゲット遺伝子座を選択した。(B)Cas9nおよび一対のsgRNAによるオンターゲット改変率は、野生型Cas9および単一のsgRNAによって媒介されるオンターゲット改変率と同等である(左側のパネル)。Cas9-sgRNA1複合体は有意なオフターゲット突然変異誘発を生じるが、Cas9nではオフターゲット遺伝子座改変は検出されない(右側のパネル)。(C)形質移入したHEK 293FT細胞のディープシーケンシングにより、インデル改変に関してsgRNA1の5つのオフターゲット遺伝子座を調べる。(n=3、エラーバーは平均値±s.e.m.を示す)(D)オフターゲット部位における二重ニッキングを伴うCas9nとsgRNA1のみを有する野生型Cas9との特異性比較。特異性の比はオンターゲット/オフターゲット改変率として計算する。(n=3;エラーバーは平均値±s.e.m.を示す)(E、F)二重ニッキングは、高い特異性を維持する一方で、2つのさらなるヒトVEGFA遺伝子座においてオフターゲット改変を最小限に抑える(オン/オフ標的改変比;n=3、エラーバーは平均値±s.e.m.を示す)。
【
図41】二重ニッキングがヒト細胞においてHDRによるゲノムへの挿入を可能にすることを示す(A)一対のCas9n酵素によって作成されたDSBにおける一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)テンプレートの媒介によるHDRを説明する概略図。HindIII制限部位を含む12nt配列(赤色)が、灰色の破線によって示す位置でEMX1遺伝子座に挿入される;HDR挿入部位からのCas9n媒介性ニックの距離が、上部に斜体で示される。(B)HEK 293FT細胞における二重ニッキング媒介性HDRによるHindIII開裂部位の挿入の成功を示す制限消化アッセイゲル。上のバンドは非改変テンプレートである;下のバンドはHindIII切断産物である。(C)二重ニッキングはHUES62ヒト胚性幹細胞系におけるHDRを促進する。HDR頻度はディープシーケンシングによって決定される。(n=3;エラーバーは平均値±s.e.m.を示す)。(D)HDR効率はCas9またはCas9n媒介性ニックの構成に依存する。ニックがssODN相同性アーム(HDR挿入部位)の中心近傍で起こる場合にHDRは促進され、5’-の得られるオーバーハングが生じる。ニッキング構成は位置および鎖(赤色の矢印)およびオーバーハングの長さ(黒色の線)でアノテートされる(左側のパネル)。HDR挿入部位からの各ニックの距離(bp)が黒い線の端部に斜体で示され、sgRNAの位置がEMX1遺伝子座の概略図上に太字で示される。Cas9もしくはCas9nのいずれかを伴う対のsgRNA(上のパネル)または単一のsgRNA(下のパネル)による二重ニッキングによって媒介されるHDR効率が示される(
図45;n=3、エラーバーは平均値±s.e.m.を示す)。
【
図42】多重ニッキングが非HR媒介性遺伝子インテグレーションおよびゲノム欠失を促進することを示す(A)Cas9二重ニッキングによって作成された5’オーバーハングに相補的なオーバーハングを有する二本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)ドナー断片の挿入を示す概略図。dsODNは、天然EMX1終止コドンを取り除き、かつHAタグ、3X FLAGタグ、HindIII制限部位、Mycエピトープタグ、および終止コドンをインフレームで含み、合計148bpとなるように設計した。挿入の成功は、示されるとおりのサンガーシーケンシングによって確認した(1/37のクローンをスクリーニングした)。改変遺伝子座のアミノ酸翻訳をDNA配列の下に示す。(B)4つのsgRNAをCas9nと共に同時送達すると、DYRK1A遺伝子座に(0.5kbから最長6kbまでの)長距離ゲノム欠失が生成される。欠失は、標的領域にかかるプライマー(表S6)を使用して検出した。
【
図43】Cas9二重ニッキングがマウス胚において効率的なインデル形成を媒介することを示す(A)マウスMecp2遺伝子座のCas9n二重ニッキングを説明する概略図。インビトロ転写Cas9nコードmRNAと標的92および93にマッチするsgRNA対とを同時注入したマウス胚盤胞の代表的なインデルを示す。(B)効率的な胚盤胞改変は複数の濃度のsgRNA(1.5~50ng/uL)および野生型Cas9またはCas9n(ng/uL~100ng/uL)で達成される。
【
図44A】
図44A~
図44Fは、
図39に関連して、複数の遺伝子にわたり二重ニッキングに最適な標的部位間隔を特定するためCas9ニッカーゼ(D10A)と共に使用されるsgRNA対のリストを示す。N.D.:不検出。N.T.:未検
【
図44B】
図44A~
図44Fは、
図39に関連して、複数の遺伝子にわたり二重ニッキングに最適な標的部位間隔を特定するためCas9ニッカーゼ(D10A)と共に使用されるsgRNA対のリストを示す。N.D.:不検出。N.T.:未検
【
図44C】
図44A~
図44Fは、
図39に関連して、複数の遺伝子にわたり二重ニッキングに最適な標的部位間隔を特定するためCas9ニッカーゼ(D10A)と共に使用されるsgRNA対のリストを示す。N.D.:不検出。N.T.:未検
【
図44D】
図44A~
図44Fは、
図39に関連して、複数の遺伝子にわたり二重ニッキングに最適な標的部位間隔を特定するためCas9ニッカーゼ(D10A)と共に使用されるsgRNA対のリストを示す。N.D.:不検出。N.T.:未検
【
図44E】
図44A~
図44Fは、
図39に関連して、複数の遺伝子にわたり二重ニッキングに最適な標的部位間隔を特定するためCas9ニッカーゼ(D10A)と共に使用されるsgRNA対のリストを示す。N.D.:不検出。N.T.:未検
【
図44F】
図44A~
図44Fは、
図39に関連して、複数の遺伝子にわたり二重ニッキングに最適な標的部位間隔を特定するためCas9ニッカーゼ(D10A)と共に使用されるsgRNA対のリストを示す。N.D.:不検出。N.T.:未検
【発明を実施するための形態】
【0089】
CRISPR-Cas系に関する一般的な情報については、2013年1月30日;2013年3月15日;2013年3月28日;2013年4月20日;2013年5月6日および2013年5月28日にそれぞれ出願された米国仮特許出願第61/758,468号明細書;同第61/802,174号明細書;同第61/806,375号明細書;同第61/814,263号明細書;同第61/819,803号明細書および同第61/828,130号明細書が参照される。また、2013年6月17日、2013年7月17日、2013年8月5日、および2013年8月28日にそれぞれ出願された米国仮特許出願第61/836,123号明細書、同第61/847,537号明細書、同第61/862,355号明細書、および同第61/871,301号明細書も参照される。さらに、2012年12月12日および2013年1月2日にそれぞれ出願された米国仮特許出願第61/736,527号明細書および同第61/748,427号明細書も参照される。また、2013年3月15日に出願された米国仮特許出願第61/791,409号明細書も参照される。また、2013年3月15日に出願された米国仮特許出願第61/799,800号明細書も参照される。また、各々2013年6月17日に出願された米国仮特許出願第61/835,931号明細書、同第61/835,936号明細書、同第61/836,127号明細書、同第61/836,101号明細書、同第61/836,123号明細書、同第61/836,080号明細書および同第61/835,973号明細書も参照される。これらの出願の各々、ならびにその中に引用されるかまたはその審査手続中に引用される全ての文献(「出願引用文献」)および出願引用文献中で引用または参照される全ての文献は、そこで言及されるかまたはまたはその中の任意の文献中にある、かつ参照によって本明細書に援用される任意の製品に関する任意の指示書、説明書、製品仕様書、およびプロダクトシートと共に、本明細書によって参照により本明細書に援用され、かつ本発明の実施に用いられ得る。全ての文献(例えば、これらの出願および出願引用文献)は、個々の文献それぞれについて参照によって援用されることが具体的かつ個々に指示されたものとするのと同程度に参照により本明細書に援用される。
【0090】
また、CRISPR-Cas系に関する一般的な情報については以下が挙げられ:
・ Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas systems.Cong,L.,Ran,F.A.,Cox,D.,Lin,S.,Barretto,R.,Habib,N.,Hsu,P.D.,Wu,X.,Jiang,W.,Marraffini,L.A.,& Zhang,F.Science Feb 15;339(6121):819-23(2013);
・ RNA-guided editing of bacterial genomes using CRISPR-Cas systems.Jiang W.,Bikard D.,Cox D.,Zhang F,Marraffini LA.Nat Biotechnol Mar;31(3):233-9(2013);
・ One-Step Generation of Mice Carrying Mutations in Multiple Genes by CRISPR/Cas-Mediated Genome Engineering.Wang H.,Yang H.,Shivalila CS.,Dawlaty MM.,Cheng AW.,Zhang F.,Jaenisch R.Cell May 9;153(4):910-8(2013);
・ Optical control of mammalian endogenous transcription and epigenetic states.Konermann S,Brigham MD,Trevino AE,Hsu PD,Heidenreich M,Cong L,Platt RJ,Scott DA,Church GM,Zhang F.Nature.2013 Aug 22;500(7463):472-6.doi:10.1038/Nature12466.Epub 2013 Aug 23;
・ Double Nicking by RNA-Guided CRISPR Cas9 for Enhanced Genome Editing Specificity.Ran,FA.,Hsu,PD.,Lin,CY.,Gootenberg,JS.,Konermann,S.,Trevino,AE.,Scott,DA.,Inoue,A.,Matoba,S.,Zhang,Y.,& Zhang,F.Cell Aug 28.pii:S0092-8674(13)01015-5.(2013);
・ DNA targeting specificity of RNA-guided Cas9 nucleases.Hsu,P.,Scott,D.,Weinstein,J.,Ran,FA.,Konermann,S.,Agarwala,V.,Li,Y.,Fine,E.,Wu,X.,Shalem,O.,Cradick,TJ.,Marraffini,LA.,Bao,G.,& Zhang,F.Nat Biotechnol doi:10.1038/nbt.2647(2013);
・ Genome engineering using the CRISPR-Cas9 system.Ran,FA.,Hsu,PD.,Wright,J.,Agarwala,V.,Scott,DA.,Zhang,F.Nature Protocols Nov;8(11):2281-308.(2013);
・ Genome-Scale CRISPR-Cas9 Knockout Screening in Human Cells.Shalem,O.,Sanjana,NE.,Hartenian,E.,Shi,X.,Scott,DA.,Mikkelson,T.,Heckl,D.,Ebert,BL.,Root,DE.,Doench,JG.,Zhang,F.Science Dec 12.(2013).[Epub ahead of print];
・ Crystal structure of cas9 in complex with guide RNA and target DNA.Nishimasu,H.,Ran,FA.,Hsu,PD.,Konermann,S.,Shehata,SI.,Dohmae,N.,Ishitani,R.,Zhang,F.,Nureki,O.Cell Feb 27.(2014).156(5):935-49;
・ Genome-wide binding of the CRISPR endonuclease Cas9 in mammalian cells.Wu X.,Scott DA.,Kriz AJ.,Chiu AC.,Hsu PD.,Dadon DB.,Cheng AW.,Trevino AE.,Konermann S.,Chen S.,Jaenisch R.,Zhang F.,Sharp PA.Nat Biotechnol.(2014)Apr 20.doi:10.1038/nbt.2889、および
・ Development and Applications of CRISPR-Cas9 for Genome Engineering,Hsu et al,Cell 157,1262-1278(June 5,2014)(Hsu 2014)、
この各々が参照により本明細書に援用され、簡潔には以下のとおり考察している:
・ Cong et al.は、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)Cas9およびまた化膿性連鎖球菌(Streptoccocus pyogenes)Cas9の両方に基づき、真核細胞で使用されるII型CRISPR/Cas系をエンジニアリングし、Cas9ヌクレアーゼが低分子RNAの指図を受けてヒトおよびマウス細胞で正確なDNA開裂を誘導し得ることを実証した。この著者らの研究はさらに、ニッキング酵素に変換されるCas9を使用して、最小限の変異原活性を有する真核細胞での相同性組換え修復を促進し得ることを示した。加えて、この著者らの研究は、複数のガイド配列を単一のCRISPR配列にコードすることによって哺乳類ゲノム内の内在性ゲノム遺伝子座部位でいくつかを同時に編集することが可能となり得ることを実証し、RNAガイドヌクレアーゼ技術の容易なプログラム可能性および広範な適用性を実証した。このようにRNAを使用して細胞における配列特異的DNA開裂をプログラムすることが可能となり、ゲノムエンジニアリングツールの新しいクラスが定義された。これらの研究はさらに、他のCRISPR遺伝子座が哺乳類細胞に移植可能であると見込まれ、また哺乳類ゲノム開裂も媒介し得ることを示した。重要なことに、CRISPR/Cas系のいくつかの側面をさらに改良してその効率および多用途性を高め得ることが想定され得る。
【0091】
・ Jiang et al.は、デュアルRNAと複合体形成したクラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)関連Cas9エンドヌクレアーゼを使用して、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)および大腸菌(Escherichia coli)のゲノムに正確な突然変異を導入した。この手法は、標的ゲノム部位におけるデュアルRNA:Cas9指向開裂によって非突然変異細胞を死滅させ、選択可能マーカーまたは対抗選択系の必要性を回避することによった。この研究は、単一および複数のヌクレオチド変化が生じるように短鎖CRISPR RNA(crRNA)の配列を変えることによってデュアルRNA:Cas9特異性を再プログラム化すると、テンプレートの編集が行われることを報告した。この研究は、2つのcrRNAを同時に使用すると突然変異誘発の多重化が可能であることを示した。さらに、この手法をリコンビニアリングと組み合わせて用いたとき、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)では、記載される手法を用いて回収された細胞のほぼ100%が所望の突然変異を含み、大腸菌(E.coli)では回収された細胞の65%が突然変異を含んだ。
【0092】
・ Konermann et al.は、CRISPR Cas9酵素およびまた転写活性化因子様エフェクターに基づくDNA結合ドメインの光学的および化学的モジュレーションを可能にする多用途のかつロバストな技術が当該技術分野で必要とされていることに対処した。
【0093】
・ 本明細書で考察するとおり、微生物CRISPR-Cas系由来のCas9ヌクレアーゼが20ntガイド配列によって特異的なゲノム遺伝子座にターゲティングされ、ガイド配列はDNA標的との特定のミスマッチに耐えることができるため、従って望ましくないオフターゲット突然変異誘発を促進し得る。これに対処するため、Ran et al.は、Cas9ニッカーゼ突然変異体を対のガイドRNAと組み合わせて標的二本鎖切断を導入するという手法を記載した。ゲノム中の個々のニックは高いフィデリティで修復されるため、二本鎖切断には適切にオフセットしたガイドRNAによる同時のニッキングが必要であり、これが標的開裂のために特異的に認識される塩基の数を伸長する。この著者らは、対のニッキングを使用して細胞系におけるオフターゲット活性を50~1,500分の1に減らし、オンターゲット開裂効率を犠牲にすることなしにマウス接合体における遺伝子ノックアウトを促進し得ることを実証した。この多用途戦略により、高い特異性が要求される多種多様なゲノム編集適用が可能となる。
【0094】
・ Hsu et al.は、標的部位の選択を知らせ、かつオフターゲット効果を回避するためのヒト細胞におけるSpCas9ターゲティングの特異性を特徴付けた。この研究は、700個を超えるガイドRNA変異体ならびに293Tおよび293FT細胞の100個を超える予測ゲノムオフターゲット遺伝子座におけるSpCas9誘導インデル突然変異レベルを評価した。この著者ら、SpCas9がミスマッチの数、位置および分布に感受性を有して、配列依存的に種々の位置におけるガイドRNAと標的DNAとの間のミスマッチに耐えること。この著者らはさらに、SpCas9媒介性開裂がDNAメチル化の影響を受けないこと、およびSpCas9およびsgRNAの投与量を滴定してオフターゲット改変を最小限に抑え得ることを示した。加えて、哺乳類ゲノムエンジニアリング適用を促進するため、この著者らは、標的配列の選択および検証ならびにオフターゲット解析をガイドするウェブベースのソフトウェアツールの提供を報告した。
【0095】
・ Ran et al.は、哺乳類細胞における非相同末端結合(NHEJ)または相同性組換え修復(HDR)を用いたCas9媒介性ゲノム編集ならびに下流機能研究用の改変細胞系生成のための一組のツールを記載した。オフターゲット開裂を最小限に抑えるため、この著者らはさらに、対のガイドRNAを含むCas9ニッカーゼ突然変異体を使用した二重ニッキング戦略を記載した。この著者らによって提供されるプロトコルは、標的部位の選択、開裂効率の評価およびオフターゲット活性の分析に関する指針を実験的に導いた。この研究は、標的設計から始めて、僅か1~2週間以内に遺伝子改変を達成し得るとともに、2~3週間以内に改変クローン細胞系を誘導し得ることを示した。
【0096】
・ Shalem et al.は、ゲノムワイドな規模で遺伝子機能を調べる新しい方法を記載した。この著者らの研究は、64,751個のユニークなガイド配列で18,080個の遺伝子をターゲティングするゲノム規模のCRISPR-Cas9ノックアウト(GeCKO)ライブラリの送達が、ヒト細胞におけるネガティブ選択およびポジティブ選択の両方のスクリーニングを可能にしたことを示した。第一に、この著者らは、GeCKOライブラリを使用した、癌および多能性幹細胞における細胞生存にとって不可欠な遺伝子の同定を示した。次に、この著者らは黒色腫モデルにおいて、その欠損が突然変異体プロテインキナーゼBRAFを阻害する治療薬ベムラフェニブに対する耐性に関わる遺伝子をスクリーニングした。この著者らの研究は、最も上位にランク付けされた候補に、以前検証された遺伝子NF1およびMED12ならびに新規ヒットNF2、CUL3、TADA2B、およびTADA1が含まれたことを示した。この著者らは、同じ遺伝子をターゲティングする独立したガイドRNA間における高度な一致および高率のヒット確認を観察し、従ってCas9によるゲノム規模スクリーニングの有望さを実証した。
【0097】
・ Nishimasu et al.は、2.5Åの分解能でsgRNAおよびその標的DNAと複合体形成する化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9の結晶構造を報告した。この構造から、標的認識ローブとヌクレアーゼローブとで構成された、それらの界面にある正電荷の溝にsgRNA:DNAヘテロ二本鎖を受け入れる2ローブ構成が明らかになった。認識ローブはsgRNAおよびDNAの結合に決定的に重要であるのに対し、ヌクレアーゼローブはHNHおよびRuvCヌクレアーゼドメインを含み、これらのドメインは標的DNAのそれぞれ相補鎖および非相補鎖の開裂に適切な位置にある。ヌクレアーゼローブはまた、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)との相互作用に関与するカルボキシル末端ドメインも含む。この高分解能構造解析および付随する機能解析により、Cas9によるRNAガイドDNAターゲティングの分子機構が明らかになることで、ひいては新規の多用途ゲノム編集技術の合理的な設計への道が開かれつつある。
【0098】
・ Wu et al.は、マウス胚性幹細胞(mESC)においてシングルガイドRNA(sgRNA)を負荷した化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来の触媒不活性Cas9(dCas9)のゲノムワイドな結合部位をマッピングした。この著者らは、試験した4つのsgRNAの各々が、多くの場合にsgRNAにおける5ヌクレオチドシード領域およびNGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)によって特徴付けられる数十個ないし数千個のゲノム部位にdCas9をターゲティングすることを示した。クロマチンが接触不可能であることにより、一致するシード配列を含む他の部位に対するdCas9結合が減少し;従ってオフターゲット部位の70%が遺伝子と会合する。この著者らは、触媒活性Cas9を形質移入したmESCにおける295個のdCas9結合部位の標的シーケンシングから、バックグラウンドレベルを上回って突然変異した部位は1つのみ同定されたことを示した。この著者らは、Cas9結合および開裂の2状態モデルを提案しており、このモデルではシードの一致が結合を引き起こすが、開裂には標的DNAとの広範な対合が必要である。
【0099】
・ Hsu 2014は、2014年6月5日より前に出願された本明細書の系統上にある出願の情報、データおよび知見にあるような、細胞の遺伝子スクリーニングを含めたヨーグルトからゲノム編集に至るまでのCRISPR-Cas9の歴史を広く考察するレビュー論文である。Hsu 2014の一般的な教示は、本明細書の特定のモデル、動物を含まない。
【0100】
本発明は、ゲノム摂動または遺伝子編集など、配列ターゲティングが関わる遺伝子発現の制御に使用される、CRISPR-Cas系およびその成分に関する系、方法および組成物のエンジニアリングおよび最適化に関する。有利な実施形態においてCas酵素はCas9である。
【0101】
本方法の利点は、CRISPR系がオフターゲット結合およびその結果として生じる副作用を回避することである。これは、標的DNAに対して高度な配列特異性を有するように構成された系を使用して達成される。
【0102】
Cas9の最適化を用いて機能を増強しまたは新規機能を開発してもよく、キメラCas9タンパク質を作成することができる。本出願人らが作成した例を実施例6に提供する。キメラCas9タンパク質は、異なるCas9ホモログの断片を組み合わせることにより作製し得る。例えば、本明細書に記載されるCas9からの2つの例示的なキメラCas9タンパク質。例えば、本出願人らは、St1Cas9のN末端(このタンパク質からの断片は太字である)をSpCas9のC末端と融合した。キメラCas9を作製する利益には、以下の一部または全部が含まれる:
毒性の低下;
真核細胞における発現の向上;
特異性の亢進;
タンパク質の分子量の低下、異なるCas9ホモログの最も小さいドメインを組み合わせてより小さいタンパク質を作製;および/または
PAM配列要件の変更。
【0103】
Cas9は、汎用DNA結合タンパク質として用いられ得る。例えば、および実施例7に示すとおり、本出願人らは、DNA標的の両鎖の開裂に関与する2つの触媒ドメイン(D10およびH840)を突然変異させることにより、Cas9を汎用DNA結合タンパク質として使用した。標的遺伝子座における遺伝子転写を上方制御するため、本出願人らは転写活性化ドメイン(VP64)をCas9と融合した。他の転写活性化ドメインが公知である。実施例11に示すとおり、転写活性化が可能である。同様に実施例11に示すとおり、標的遺伝子配列に結合し、ひいてはその活性を抑制するCas9リプレッサー(DNA結合ドメイン)を使用して遺伝子抑制(この場合β-カテニン遺伝子の)が可能である。
【0104】
トランスジェニック動物もまた提供される。好ましい例としては、Cas9をコードするポリヌクレオチドまたはタンパク質それ自体という意味においてCas9を含む動物が挙げられる。マウス、ラットおよびウサギが好ましい。本明細書に例示されるとおり構築物でトランスジェニックマウスを作成するには、純粋な線状DNAを偽妊娠雌、例えばCB56雌由来の接合体の前核に注入し得る。次にファウンダーを同定し、遺伝子型を決定し、CB57マウスと戻し交配し得る。次に構築物をクローニングし、場合により、例えばサンガーシーケンシングによって検証し得る。ノックアウトが想定され、例えばモデルにおいて1つ以上の遺伝子がノックアウトされる。しかしながらノックインもまた(単独でまたは組み合わせで)想定される。例示的なノックインCas9マウスを作成しており、これを例示するが、Cas9ノックインが好ましい。Cas9ノックインマウスを作成するには、本明細書に記載されるとおり同じ構成的および条件的構築物をRosa26遺伝子座にターゲティングし得る(
図7A~
図7Bおよび
図8)。トランスジェニックマウスの作成においてCRISPR-Cas系を利用可能であることはまた、全体として参照により援用されるWang et al.Cell.2013 May 9;153(4):910-8.doi:10.1016/j.cell.2013.04.025.Epub 2013 May 2による論稿「CRISPR/Cas媒介性ゲノムエンジニアリングによる複数の遺伝子に突然変異を有するマウスのワンステップ作成(One-step generation of mice carrying mutations in multiple genes by CRISPR/Cas-mediated genome engineering)」にも提供され、ここでは、CRISPR/Cas媒介性遺伝子編集によってマウス胚性幹細胞における5つの遺伝子を高効率で同時に破壊可能であることが実証されている。
【0105】
条件的Cas9マウスの有用性:本出願人らは、293細胞において、Creとの同時発現によりCas9条件的発現構築物を活性化し得ることを示している。本出願人らはまた、Creが発現するとき正しくターゲティングされるR1 mESCが活性Cas9を有し得ることも示す。Cas9の後にはP2Aペプチド開裂配列と、次にEGFPが続くため、本出願人らはEGFPを観察することにより発現の成功を特定する。本出願人らは、mESCにおけるCas9活性化を示している。この同じ概念が、条件的Cas9マウスを極めて有用にするものである。本出願人らはそれらの条件的Cas9マウスを、Creを遍在的に発現するマウス(ACTB-Cre系統)と交配させることができ、あらゆる細胞でCas9を発現するマウスが得られ得る。胎仔または成体マウスにおいてゲノム編集を誘導するために必要なことはキメラRNAの送達のみであるはずである。興味深いことに、条件的Cas9マウスを組織特異的プロモーターの制御下でCreを発現するマウスと交配させる場合、同様にCreを発現する組織にのみCas9が存在するはずである。この手法を用いて正確な組織に限ったゲノムの編集を、同組織にキメラRNAを送達することにより行い得る。
【0106】
上述のとおり、トランスジェニック動物もまた、トランスジェニック植物、特に作物および藻類と同様に提供される。トランスジェニックは、疾患モデルを提供すること以外の適用で有用であり得る。そうした適用には、例えば通常野生型で見られるより高いタンパク質、炭水化物、栄養素またはビタミンレベルの発現による飼料生産の食糧が含まれ得る。この点で、トランスジェニック植物、特に豆類および塊茎、および動物、特に家畜(乳牛、ヒツジ、ヤギおよびブタ)などの哺乳動物、また家禽および食用昆虫も好ましい。
【0107】
トランスジェニック藻類または他の植物、例えばセイヨウアブラナが、例えば植物油またはアルコール(特にメタノールおよびエタノール)などのバイオ燃料の生産において特に有用であり得る。これらは、油またはバイオ燃料産業で使用される高レベルの油またはアルコールを発現または過剰発現するようにエンジニアリングされ得る。
【0108】
アデノ随伴ウイルス(AAV)
インビボ送達の点では、AAVはいくつかの理由で他のウイルスベクターと比べて有利である:
毒性が低い(これは、免疫応答を活性化し得る細胞粒子の超遠心が不要であるという精製方法に起因し得る)
宿主ゲノムにインテグレートされないため挿入突然変異生成を引き起こす可能性が低い。
【0109】
AAVは4.5または4.75Kbのパッケージング限界を有する。これは、Cas9ならびにプロモーターおよび転写ターミネーターを全て同じウイルスベクターに詰め込まなければならないことを意味する。4.5または4.75Kbより大きい構築物はウイルス産生の著しい低下を引き起こし得る。SpCas9は非常に大きく、遺伝子それ自体が4.1Kbを超えるため、AAVにパッケージングすることが難しい。従って本発明の実施形態は、より短いCas9のホモログを利用することを含む。例えば:
【0110】
【0111】
従ってこれらの種は、概して好ましいCas9種である。本出願人らは、送達およびインビボマウス脳Cas9発現データを示している。
【0112】
インビボでゲノム改変を媒介するためCas9コード核酸分子、例えばDNAをウイルスベクターにパッケージングする2つの方法が好ましい:
NHEJ媒介性遺伝子ノックアウトを達成するため:
単一ウイルスベクター:
2つ以上の発現カセットを含むベクター:
プロモーター-Cas9コード核酸分子-ターミネーター
プロモーター-gRNA1-ターミネーター
プロモーター-gRNA2-ターミネーター
プロモーター-gRNA(N)-ターミネーター(ベクターのサイズ限界に至るまで)
二重ウイルスベクター:
Cas9の発現をドライブするための1つの発現カセットを含むベクター1
プロモーター-Cas9コード核酸分子-ターミネーター
1つ以上のガイドRNAの発現をドライブするためのもう1つの発現カセットを含むベクター2
プロモーター-gRNA1-ターミネーター
プロモーター-gRNA(N)-ターミネーター(ベクターのサイズ限界に至るまで)
【0113】
相同性組換え修復を媒介するため。上記に記載する単一および二重ウイルスベクター手法に加え、さらなるベクターを使用して相同性組換え修復テンプレートが送達される。
【0114】
Cas9コード核酸分子の発現をドライブするために使用されるプロモーターとしては、以下を挙げることができる:
AAV ITRはプロモーターとして働き得る:これは、追加的なプロモーターエレメント(これはベクター中でスペースを取り得る)の必要性をなくすのに有利である。空いた追加のスペースは、追加的なエレメント(gRNA等)の発現のドライブに使用することができる。また、ITR活性は比較的弱いため、Cas9の過剰発現に起因する毒性を低下させるためにも使用することができる。
【0115】
遍在的な発現には、以下のプロモーターを使用することができる:CMV、CAG、CBh、PGK、SV40、フェリチン重鎖または軽鎖等
【0116】
脳での発現には、以下のプロモーターを使用することができる:全てのニューロンに対するシナプシンI、興奮性ニューロンに対するCaMKIIα、GABA作動性ニューロンに対するGAD67またはGAD65またはVGAT等
【0117】
肝臓での発現には、アルブミンプロモーターを使用することができる。
肺での発現には、SP-Bを使用することができる。
内皮細胞にはICAMを使用することができる。
造血細胞にはIFNβまたはCD45を使用することができる。
骨芽細胞にはOG-2を使用することができる。
ガイドRNAのドライブに使用されるプロモーターとしては、以下を挙げることができる:
Pol IIIプロモーター、例えばU6またはH1
Pol IIプロモーターおよびイントロンカセットを使用することによるgRNAの発現
【0118】
AAVに関して、AAVはAAV1、AAV2、AAV5またはそれらの任意の組み合わせであってよい。標的とする細胞に関連するAAVのAAVを選択することができる;例えば、脳または神経細胞を標的にするためAAV血清型1、2、5またはハイブリッドまたはカプシドAAV1、AAV2、AAV5またはそれらの任意の組み合わせを選択することができ;および心臓組織を標的にするためAAV4を選択することができる。AAV8は肝臓への送達に有用である。上記のプロモーターおよびベクターは個々に好ましい。
【0119】
RNA送達もまた有用なインビボ送達方法である。
図9は送達およびインビボマウス脳Cas9発現データを示す。リポソームまたはナノ粒子を使用してCas9およびgRNA(および、例えばHR修復テンプレート)を細胞に送達することが可能である。従ってCRISPR酵素、例えばCas9の送達および/または本発明のRNAの送達は、RNA形態で、微小胞、リポソームまたはナノ粒子を介してもよい。例えば、インビボ送達のためCas9 mRNAおよびgRNAをリポソーム粒子にパッケージングすることができる。リポソーム形質移入試薬、例えばLife Technologiesのインビボフェクタミンおよび他の市販の試薬は、RNA分子を肝臓に有効に送達することができる。
【0120】
NHEJまたはHR効率を増強させることもまた、送達の助けとなる。NHEJ効率は、Trex2などの末端プロセシング酵素を同時発現させて増強することが好ましい(Dumitrache et al.Genetics.2011 August;188(4):787-797)。HR効率は、Ku70およびKu86などのNHEJ機構を一過性に阻害して増加させることが好ましい。HR効率はまた、RecBCD、RecAなどの原核生物または真核生物相同組換え酵素を同時発現させて増加させることもできる。
【0121】
種々の送達手段が本明細書に記載され、本節でさらに考察される。
【0122】
ウイルス性送達:CRISPR酵素、例えばCas9および/または本RNAのいずれか、例えばガイドRNAは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、アデノウイルスまたは他のウイルスベクター型、またはそれらの組み合わせを使用して送達することができる。Cas9および1つ以上のガイドRNAは1つ以上のウイルスベクターにパッケージングすることができる。一部の実施形態では、ウイルスベクターは、例えば筋肉内注射によって目的の組織に送達されるが、他の場合にはウイルス性送達は静脈内、経皮的、鼻腔内、経口、粘膜、または他の送達方法による。かかる送達は単回用量によっても、あるいは複数回用量によってもよい。当業者は、本明細書における送達される実際の投薬量が、ベクターの選択、標的細胞、生物、または組織、治療対象の全身状態、求められる形質転換/改変の程度、投与経路、投与方法、求められる形質転換/改変のタイプ等の種々の要因に応じて大幅に異なり得ることを理解する。
【0123】
かかる投薬量は、例えば、担体(水、生理食塩水、エタノール、グリセロール、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、ピーナッツ油、ゴマ油等)、希釈剤、薬学的に許容可能な担体(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、薬学的に許容可能な賦形剤、抗原性を増強するアジュバント、免疫賦活性化合物または分子、および/または当技術分野において公知の他の化合物をさらに含有し得る。本明細書におけるアジュバントは、抗原が吸着されるミネラル(ミョウバン、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム)の懸濁液;または抗原溶液が油中に乳化される油中水型エマルション(MF-59、フロイントの不完全アジュバント)(時に死滅マイコバクテリアを含む(フロイントの完全アジュバント))を含有して抗原性をさらに増強し得る(抗原の分解を阻害しおよび/またはマクロファージの流入を生じさせる)。アジュバントにはまた、免疫賦活性分子、例えばサイトカイン、副刺激分子、および例えば、免疫賦活性DNAまたはRNA分子、例えばCpGオリゴヌクレオチドも含まれる。かかる投薬量配合は当業者により容易に確かめられる。投薬量は、1つ以上の薬学的に許容可能な塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩をさらに含有し得る。加えて、補助物質、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質、ゲルまたはゲル化材料、香味料、着色料、マイクロスフェア、ポリマー、懸濁剤等もまた本明細書において存在し得る。加えて、1つ以上の他の従来の医薬品成分、例えば保存剤、保湿剤、懸濁剤、界面活性剤、抗酸化剤、固化防止剤、充填剤、キレート剤、コーティング剤、化学的安定剤等もまた、特に剤形が再構成可能な形態である場合に存在し得る。好適な例示的成分としては、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリソルベート80、フェニルエチルアルコール、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン、エチルバニリン、グリセリン、フェノール、パラクロロフェノール、ゼラチン、アルブミンおよびそれらの組み合わせが挙げられる。薬学的に許容可能な賦形剤の詳細な考察は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub.Co.,N.J.1991)(参照により本明細書に組み込まれる)を参照することができる。
【0124】
本明細書のある実施形態では、送達はアデノウイルスを介し、これは、少なくとも1×105粒子(粒子単位、puとも称される)のアデノウイルスベクターを含有する単回ブースター用量であり得る。本明細書のある実施形態では、用量は好ましくは、少なくとも約1×106粒子(例えば、約1×106~1×1012粒子)、より好ましくは少なくとも約1×107粒子、より好ましくは少なくとも約1×108粒子(例えば、約1×108~1×1011粒子または約1×108~1×1012粒子)、および最も好ましくは少なくとも約1×100粒子(例えば、約1*×109~1×1010粒子または約1×109~1×1012粒子)、またはさらには少なくとも約1×1010粒子(例えば、約1×1010~1×1012粒子)のアデノウイルスベクターである。あるいは、用量は、約1×1014粒子以下、好ましくは約1×1013粒子以下、さらにより好ましくは約1×1012粒子以下、さらにより好ましくは約1×1011粒子以下、および最も好ましくは約1×1010粒子以下(例えば、約1×109粒子(articles)以下)を含む。従って、用量は、例えば、約1×106粒子単位(pu)、約2×106pu、約4×106pu、約1×107pu、約2×107pu、約4×107pu、約1×108pu、約2×108pu、約4×108pu、約1×109pu、約2×109pu、約4×109pu、約1×1010pu、約2×1010pu、約4×1010pu、約1×1011pu、約2×1011pu、約4×1011pu、約1×1012pu、約2×1012pu、または約4×1012puのアデノウイルスベクターを含む単回用量のアデノウイルスベクターを含有し得る。例えば、2013年6月4日に付与されたNabel,et.al.に対する米国特許第8,454,972 B2号明細書(参照によって本明細書に組み込まれる)のアデノウイルスベクター、およびその第29欄第36~58行にある投薬量を参照のこと。本明細書のある実施形態では、アデノウイルスは複数回用量で送達される。
【0125】
本明細書のある実施形態では、送達はAAVを介する。ヒトに対するAAVのインビボ送達についての治療上有効な投薬量は、約1×1010~約1×1010の機能性AAV/ml溶液を含有する生理食塩水約20~約50mlの範囲であると考えられる。投薬量は、治療利益と、それに対する任意の副作用との均衡をとるように調整され得る。本明細書のある実施形態では、AAV用量は、概して、約1×105~1×1050ゲノムのAAV、約1×108~1×1020ゲノムのAAV、約1×1010~約1×1016ゲノム、または約1×1011~約1×1016ゲノムのAAVの濃度範囲である。ヒト投薬量は約1×1013ゲノムのAAVであってもよい。かかる濃度は、約0.001ml~約100ml、約0.05~約50ml、または約10~約25mlの担体溶液で送達され得る。他の効果的な投薬量が、当業者により、用量反応曲線を作成する常法の試験を介して容易に確立され得る。例えば、2013年3月26日に付与されたHajjar,et al.に対する米国特許第8,404,658 B2号明細書、第27欄第45~60行を参照のこと。
【0126】
本明細書のある実施形態では、送達はプラスミドを介する。かかるプラスミド組成物では、投薬量は、反応を誘発するのに十分な量のプラスミドでなければならない。例えば、プラスミド組成物中のプラスミドDNAの好適な分量は、約0.1~約2mg、または約1μg~約10μgであり得る。
【0127】
本明細書の用量は平均70kgの個体に基づく。投与頻度は医学または獣医学の実務者(例えば、医師、獣医師)、または当技術分野の科学者の範囲内にある。
【0128】
Cas9および1つ以上のガイドRNAは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、アデノウイルスまたは他のプラスミドもしくはウイルスベクタータイプを使用して、例えば、米国特許第8,454,972号明細書(アデノウイルス用の配合、用量)、同第8,404,658号明細書(AAV用の配合、用量)および同第5,846,946号明細書(DNAプラスミド用の配合、用量)、ならびにレンチウイルス、AAVおよびアデノウイルスが関わる臨床試験およびそうした臨床試験に関する文献の配合および用量を使用して送達することができる。例えば、AAVについては、投与経路、配合および用量を米国特許第8,454,972号明細書にあるとおりとし、およびAAVが関わる臨床試験にあるとおりとすることができる。アデノウイルスについては、投与経路、配合および用量を米国特許第8,404,658号明細書にあるとおりし、およびアデノウイルスが関わる臨床試験にあるとおりとすることができる。プラスミド送達については、投与経路、配合および用量を米国特許第5,846,946号明細書にあるとおりし、およびプラスミドが関わる臨床試験にあるとおりとすることができる。用量は、平均70kgの個体に基づくかまたはそれに対して推定してもよく、異なる体重および種の患者、対象、哺乳動物用に調整することができる。投与頻度は、患者または対象の年齢、性別、全般的な健康、他の状態ならびに対処すべき特定の状態または症状を含めた通常の要因に依存して、医学または獣医学の実務者(例えば、医師、獣医師)の範囲内にある。
【0129】
ウイルスベクターは目的の組織に注入され得る。細胞型に特異的なゲノム改変については、Cas9の発現を細胞型特異的プロモーターによってドライブすることができる。例えば、肝臓特異的発現はアルブミンプロモーターを使用してもよく、およびニューロン特異的発現はシナプシンIプロモーターを使用してもよい。
【0130】
RNA送達:CRISPR酵素、例えばCas9、および/または本RNAのいずれか、例えばガイドRNAはまた、RNAの形態でも送達することができる。Cas9 mRNAはインビトロ転写を用いて作成することができる。例えば、Cas9 mRNAは、βグロビン-ポリAテール(120個以上の一連のアデニン)から以下のエレメント:T7_プロモーター-コザック配列(GCCACC)-Cas9-3’UTRを含むPCRカセットを使用して合成することができる。このカセットは、T7ポリメラーゼによる転写に使用することができる。ガイドRNAもまた、T7_プロモーター-GG-ガイドRNA配列を含むカセットからのインビトロ転写を用いて転写させることができる。
【0131】
発現を増強しかつ毒性を低下させるため、CRISPR酵素および/またはガイドRNAを、プソイドUまたは5-メチル-Cを使用して改変することができる。
【0132】
CRISPR酵素mRNAおよびガイドRNAは、ナノ粒子または脂質エンベロープを使用して同時に送達されてもよい。
【0133】
例えば、Su X,Fricke J,Kavanagh DG,Irvine DJ(「脂質エンベロープを有するpH応答性ポリマーナノ粒子を使用したインビトロおよびインビボmRNA送達(In vitro and in vivo mRNA delivery using lipid-enveloped pH-responsive polymer nanoparticles)」Mol Pharm.2011 Jun 6;8(3):774-87.doi:10.1021/mp100390w.電子出版2011年4月1日)は、ポリ(β-アミノエステル)(PBAE)コアがリン脂質二重層シェルに包まれている被覆されている生分解性のコア-シェル構造を有するナノ粒子について記載する。これらはインビボmRNA送達のために開発された。pH応答性PBAE成分がエンドソーム破壊を促進するように選択された一方、脂質表面層はポリカチオンコアの毒性を最小限に抑えるように選択された。従って、これは本発明のRNAを送達に好ましい。
【0134】
さらに、Michael S D Kormann et al.(「マウスにおける化学改変mRNA送達後の治療用タンパク質の発現(Expression of therapeutic proteins after delivery of chemically modified mRNA in mice):Nature Biotechnology,Volume:29,Pages:154-157(2011)、オンライン発行2011年1月9日)は、脂質エンベロープを使用したRNAの送達を記載している。脂質エンベロープの使用もまた本発明において好ましい。
【0135】
mRNA送達方法は、現在、肝臓送達に特に有望である。
【0136】
CRISPR酵素mRNAおよびガイドRNAはまた個別に送達されてもよい。CRISPR酵素が発現する時間を与えるため、CRISPR酵素mRNAはガイドRNAより先に送達され得る。CRISPR酵素mRNAはガイドRNA投与の1~12時間前(好ましくは約2~6時間前)に投与され得る。
【0137】
あるいは、CRISPR酵素mRNAおよびガイドRNAは共に投与することができる。有利には、ガイドRNAの第2のブースター用量を、CRISPR酵素mRNA+ガイドRNAの初回投与の1~12時間後(好ましくは約2~6時間後)に投与することができる。
【0138】
最も効率的なゲノム改変レベルを達成するために、CRISPR酵素mRNAおよび/またはガイドRNAのさらなる投与が有用であり得る。
【0139】
毒性およびオフターゲット効果を最小限に抑えるためには、送達されるCRISPR酵素mRNAおよびガイドRNAの濃度を制御することが重要となる。CRISPR酵素mRNAおよびガイドRNAの最適濃度は、細胞または動物モデルで種々の濃度を試験し、ディープシーケンシングを使用して潜在的なオフターゲットゲノム遺伝子座における改変の程度を分析することにより決定し得る。例えば、ヒトゲノムのEMX1遺伝子の5’-GAGTCCGAGCAGAAGAAGAA-3’を標的化するガイド配列について、ディープシーケンシングを使用して以下の2つのオフターゲット遺伝子座、すなわち1:5’-GAGTCCTAGCAGGAGAAGAA-3’および2:5’-GAGTCTAAGCAGAAGAAGAA-3’における改変レベルを評価することができる。オフターゲット改変レベルを最小限に抑えながら最も高いオンターゲット改変レベルが得られる濃度をインビボ送達に選択するべきである。
【0140】
あるいは、毒性レベルおよびオフターゲット効果を最小限に抑えるため、CRISPR 酵素ニッカーゼmRNA(例えばD10AまたはH840A突然変異のいずれかを有する化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9)を目的の部位を標的化するガイドRNAのペアと共に送達することができる。2つのガイドRNAは以下のとおり隔てられていなければならない。それぞれ赤色(一重下線)および青色(二重下線)のガイド配列(これらの例は化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9のPAM要件に基づく)。
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
この系をさらに調べることにより、出願人らは5’オーバーハングのエビデンスを得ている(例えば、Ran et al.,Cell.2013 Sep 12;154(6):1380-9および2013年8月28日に出願された米国仮特許出願第61/871,301号明細書を参照のこと)。出願人らは、2つのガイドRNAと組み合わせたときのCas9ニッカーゼ突然変異体による効率的な開裂に関連するパラメータをさらに同定しており、それらのパラメータには、限定はされないが5’オーバーハングの長さが含まれる。本発明の実施形態において5’オーバーハングは高々200塩基対、好ましくは高々100塩基対、またはより好ましくは高々50塩基対である。本発明の実施形態において5’オーバーハングは少なくとも26塩基対、好ましくは少なくとも30塩基対またはより好ましくは34~50塩基対または1~34塩基対である。本発明の他の好ましい方法では、第1のガイド配列が第1の標的配列の近傍でDNA二重鎖の一方の鎖の開裂を指向し、かつ第2のガイド配列が第2の標的配列の近傍で他方の鎖の開裂を指向することにより、平滑末端または3’オーバーハングが生じる。本発明の実施形態において3’オーバーハングは高々150、100または25塩基対または少なくとも15、10または1塩基対である。好ましい実施形態において3’オーバーハングは1~100塩基対である。
【0145】
本発明の態様は、遺伝子産物の発現を低下させること、または遺伝子産物をコードするDNA分子にテンプレートポリヌクレオチドがさらに導入されること、または2つの5’オーバーハングをリアニーリングおよびライゲートさせることにより介在配列が正確に切り出されること、または遺伝子産物の活性または機能を変化させること、または遺伝子産物の発現を増加させることに関する。本発明のある実施形態において、遺伝子産物はタンパク質である。
【0146】
ガイド配列間に8bp未満のオーバーラップ(-8bpより大きいオフセット)を有する5’オーバーハングを作り出すsgRNAペアのみが、検出可能なインデル形成を媒介することが可能であった。重要なことには、これらのアッセイで使用される各ガイドは、野生型Cas9とペアになるとインデルを効率的に誘導することが可能であり、二重ニッキング活性を予測する際にガイドペアの相対位置が最も重要なパラメータであることが示される。
【0147】
Cas9nとCas9H840AとはDNAの逆の鎖にニックを入れるため、所与のsgRNAペアを有するCas9H840AによるCas9nの置換によってオーバーハング型の逆位が生じるはずである。例えば、Cas9nで5’オーバーハングを生成し得るsgRNAのペアは、原則的には代わりに対応する3’オーバーハングを生成するはずである。従って、Cas9nで3’オーバーハングの生成を生じさせるsgRNAペアを、Cas9H840Aで5’オーバーハングを生成するために使用し得る。予想外にも、本出願人らは、5’および3’オーバーハングの両方(オフセット範囲-278~+58bp)を生成するように設計された一組のsgRNAペアでCas9H840Aを試験したが、インデル形成を観察することはできなかった。Cas9H840Aによる二重ニッキングが可能となるようにsgRNAペアを組み合わせるのに必要な設計基準を特定するには、さらなる研究が必要であり得る。
【0148】
脳に関する追加の送達の選択肢としては、DNAまたはRNAのいずれかの形態のCRISPR酵素およびガイドRNAをリポソームに封入し、分子トロイの木馬にコンジュゲートして血液脳関門(BBB)を通過させて送達することが含まれる。分子トロイの木馬は、B-gal発現ベクターを非ヒト霊長類の脳に送達するのに有効であることが示されている。同じ手法を用いて、CRISPR酵素とガイドRNAとを含有するベクターを送達することができる。例えば、Xia CF and Boado RJ,Pardridge WM(「アビジン-ビオチン技術を用いたヒトインスリン受容体を介するsiRNAの抗体媒介性ターゲティング(Antibody-mediated targeting of siRNA via the human insulin receptor using avidin-biotin technology)」Mol Pharm.2009 May-Jun;6(3):747-51.doi:10.1021/mp800194)は、受容体特異的モノクローナル抗体(mAb)およびアビジン-ビオチン技術の併用によって、培養下、およびインビボでの細胞に対する低分子干渉性RNA(siRNA)の送達がどのように可能になるかを記載している。この著者らはまた、標的化するmAbとsiRNAとの間の結合がアビジン-ビオチン技術で安定しており、標的化siRNAの静脈内投与後にインビボで脳などの遠隔部位でのRNAi効果が観察されることも報告する。
【0149】
Zhang Y,Schlachetzki F,Pardridge WM.(“Global non-viral gene transfer to the primate brain following intravenous administration.”Mol Ther.2003 Jan;7(1):11-8))は、ヒトインスリン受容体(HIR)に対するモノクローナル抗体(MAb)によってインビボでアカゲザル脳に標的化させた、85nmペグ化免疫リポソームで構成される「人工ウイルス」の内部にルシフェラーゼなどのレポーターをコードする発現プラスミドがどのように封入されたかを記載している。HIRMAbは、静脈注射後に、外来性遺伝子を担持するリポソームが血液脳関門にわたるトランスサイトーシスおよび神経細胞膜にわたるエンドサイトーシスを受けることを可能にする。脳におけるルシフェラーゼ遺伝子発現のレベルはラットと比較してアカゲザルにおいて50倍高かった。霊長類脳におけるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子の広範なニューロン発現が、組織化学および共焦点顕微鏡法の両方によって実証された。この著者らは、この手法によって24時間で可逆的な成体トランスジェニックが実現可能になることを示している。従って、免疫リポソームの使用が好ましい。それらが抗体と併せて用いられることにより、特定の組織または細胞表面タンパク質が標的化される。
【0150】
ナノ粒子(Cho,S.,Goldberg,M.,Son,S.,Xu,Q.,Yang,F.,Mei,Y.,Bogatyrev,S.,Langer,R.and Anderson,D.,「低分子干渉RNAを内皮細胞に送達するための脂質様ナノ粒子(Lipid-like nanoparticles for small interfering RNA delivery to endothelial cells)」,Advanced Functional Materials,19:3112-3118,2010)またはエキソソーム(Schroeder,A.,Levins,C.,Cortez,C.,Langer,R.,and Anderson,D.,「siRNA送達用の脂質ベースのナノ治療薬(Lipid-based nanotherapeutics for siRNA delivery)」,Journal of Internal Medicine,267:9-21,2010,PMID:20059641)を介するなど、他の送達手段またはRNAもまた好ましい。実際、エキソゾームは、いくらかCRISPR系と似たところがある系であるsiRNAの送達において特に有用であることが示されている。例えば、El-Andaloussi S,et al.(「インビトロおよびインビボでのsiRNAのエキソソーム媒介性送達(Exosome-mediated delivery of siRNA in vitro and in vivo)」Nat Protoc.2012 Dec;7(12):2112-26.doi:10.1038/nprot.2012.131.電子出版2012年11月15日)は、如何にエキソソームが種々の生物学的関門を越える薬物送達に有望なツールであるか、およびそれをインビトロおよびインビボでのsiRNAの送達に利用することができるかについて記載している。この著者らの手法は、発現ベクターの形質移入によって標的化エキソソームを生成することであり、ペプチドリガンドと融合したエキソソームタンパク質が含まれる。次にエキソソームが形質移入細胞上清から精製されて特徴付けられ、次にそのエキソソームにsiRNAが負荷される。
【0151】
遺伝子の標的欠失が好ましい。例を実施例12に示す。従って、数ある障害の中でも特に、コレステロール生合成、脂肪酸生合成、および他の代謝疾患に関与する遺伝子、アミロイド病および他の疾患に関与する誤って折り畳まれたタンパク質をコードする遺伝子、細胞形質転換を生じさせる癌遺伝子、潜伏ウイルス遺伝子、およびドミナントネガティブな障害を生じさせる遺伝子が好ましい。ここで例示するとおり、本出願人らによれば、ウイルスまたはナノ粒子のいずれかの送達系を使用した、代謝疾患、アミロイドーシスおよびタンパク質凝集関連疾患、遺伝子突然変異および転座によって生じる細胞形質転換、遺伝子突然変異のドミナントネガティブ効果、潜伏ウイルス感染症、および他の関連症状に罹患している必要性がある対象または患者の肝臓、脳、眼、上皮、造血、または別の組織に対するCRISPR-Cas系の遺伝子送達が好ましい。
【0152】
CRISPR-Cas系の治療適用としては、緑内障、アミロイドーシス、およびハンチントン病が挙げられる。これらは実施例14に例示し、そこに記載される特徴は単独で、または組み合わせで、好ましい。
【0153】
例として、HIV-1による慢性感染症が治療または予防され得る。これを達成するため、有効範囲および有効性を最大化するようにHIV-1株変異体を考慮しながら、大多数のHIV-1ゲノムを標的化するCRISPR-CasガイドRNAを作成し得る。CRISPR-Cas系の送達は、従来どおり宿主免疫系のアデノウイルスまたはレンチウイルス媒介性感染により達成し得る。手法に応じて、宿主免疫細胞は、a)単離され、CRISPR-Casが形質導入され、選択され、および宿主に再導入されてもよく、またはb)CRISPR-Cas系の全身送達によりインビボで形質導入されてもよい。第1の手法は、抵抗性免疫集団の作成を可能にする一方、第2の手法は宿主内の潜伏ウイルスリザーバを標的化する傾向が強い。これは実施例の節でさらに詳細に考察する。
【0154】
また、本発明が遺伝子ノックアウト細胞ライブラリを作成することも想定される。各細胞が単一遺伝子のノックアウトを有し得る。これは実施例17に例示する。
【0155】
ES細胞のライブラリを作製してもよく、ここでは各細胞が単一遺伝子のノックアウトを有し、かつES細胞のライブラリ全体はその中のあらゆる遺伝子が一つ一つノックアウトされている。このライブラリは、細胞プロセスならびに疾患における遺伝子機能のスクリーニングに有用である。この細胞ライブラリを作製するには、誘導性プロモーター(例えばドキシサイクリン誘導性プロモーター)によりドライブされるCas9をES細胞にインテグレートし得る。加えて、特異的遺伝子を標的化する単一のガイドRNAをES細胞にインテグレートし得る。ES細胞ライブラリを作製するには、単純に、ヒトゲノムにおける各遺伝子を標的化するガイドRNAをコードする遺伝子のライブラリとES細胞を混合し得る。初めに単一のBxB1 attB部位をヒトES細胞のAAVS1遺伝子座に導入し得る。次にBxB1インテグラーゼを使用してAAVS1遺伝子座のBxB1 attB部位に対する個々のガイドRNA遺伝子のインテグレーションを促進し得る。インテグレーションを促進するため、各ガイドRNA遺伝子が、単一のattP部位を担持するプラスミド上に含まれてもよい。このようにしてBxB1がゲノムのattB部位をガイドRNA含有プラスミド上のattP部位と組み換え得る。細胞ライブラリを作成するため、インテグレートされた単一のガイドRNAを有しかつCas9発現を誘導する細胞のライブラリを取り得る。誘導後、ガイドRNAによって指定された部位でCas9が二本鎖切断を媒介する。
【0156】
タンパク質治療薬の慢性投与は、特異的タンパク質に対する許容し難い免疫応答を誘発し得る。タンパク質薬物の免疫原性は、いくつかの免疫優性ヘルパーTリンパ球(HTL)エピトープに起因し得る。これらのタンパク質内に含まれるこれらのHTLエピトープのMHC結合親和性を低下させると、免疫原性がより低い薬物を作成することができる(Tangri S,et al.(「免疫原性が低い合理的にエンジニアリングされた治療用タンパク質(Rationally engineered therapeutic proteins with reduced immunogenicity)」J Immunol.2005 Mar 15;174(6):3187-96)。本発明では、CRISPR酵素の免疫原性は、詳細には、初めにTangri et alにおいてエリスロポエチンに関連して示され、続いて展開された手法に従い低下させることができる。従って、定向進化または合理的設計を使用して、宿主種(ヒトまたは他の種)におけるCRISPR酵素(例えばCa9)の免疫原性を低下させることができる。
【0157】
実施例28において、本出願人らは3つの目的とするガイドRNAを使用し、ごく一部の細胞においてのみ起こるインビボでの効率的なDNA開裂を可視化することができた。本質的に、本出願人らがここで示しているものは、標的化したインビボ開裂である。詳細にはこれは、哺乳動物などの高等生物における特異的標的化もまた達成し得るという概念実証を提供する。またこれは、複数のガイド配列(すなわち別個の標的)を(共送達という意味で)同時に使用することができる点で多重的側面も強調する。換言すれば、本出願人らは、いくつかの異なる配列が同時に、しかし独立して標的化される、多重的手法を使用した。
【0158】
本発明の好ましいベクターであるAAVの作製プロトコルの好適な例を、実施例29に提供する。
【0159】
トリヌクレオチドリピート障害は、治療するのに好ましい病態である。これらもまた本明細書において例示する。
【0160】
別の態様によれば、CFTR遺伝子に突然変異を有する対象を治療するための遺伝子治療方法が提供され、これは、治療有効量のCRISPR-Cas遺伝子治療粒子を、場合により生体適合性医薬担体を介して、対象の細胞に投与することを含む。好ましくは、標的DNAは突然変異ΔF508を含む。一般に、突然変異が野生型に修復されることが好ましい。この場合、突然変異は、508位にフェニルアラニン(F)のコドンを含む3つのヌクレオチドの欠失である。従って、この場合における修復は、欠損したコドンを突然変異体に再導入することが必要である。
【0161】
この遺伝子修復戦略を実現するため、宿主細胞、細胞または患者にアデノウイルス/AAVベクター系が導入されることが好ましい。好ましくは、この系は、Cas9(またはCas9ニッカーゼ)およびガイドRNAを、F508残基を含有する相同性修復テンプレートを含むアデノウイルス/AAVベクター系と共に含む。これは、先に考察した送達方法の一つによって対象に導入され得る。CRISPR-Cas系はCFTRΔ508キメラガイドRNAによりガイドされ得る。これは、ニックを入れられまたは開裂されるCFTRゲノム遺伝子座の特定の部位を標的にする。開裂後、修復テンプレートは、嚢胞性線維症をもたらしまたは嚢胞性線維症関連症状を引き起こす欠失を補修する相同組換えによって開裂部位に挿入される。適切なガイドRNAでCRISPR系の送達を導きその全身的な導入をもたらすこの戦略を用いて遺伝子突然変異を標的化することにより、表Bにあるような代謝、肝臓、腎臓およびタンパク質の疾患および障害を引き起こす遺伝子を編集しまたは他の形で操作することができる。
【0162】
CFTRΔ508キメラガイドRNAの例に関しては実施例22を参照されたく、この実施例は、アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を使用した、嚢胞性線維症または嚢胞性線維症(CF)関連症状に罹患している、必要性のある対象または患者の気道におけるCRISPR-Cas系の遺伝子導入または遺伝子送達を実証する。詳細には、嚢胞性線維症ΔF508突然変異の修復戦略が例示される。この種の戦略は全生物にわたり適用されるはずである。特にCFに関連して、好適な患者には以下が含まれ得る:ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマおよび他の家畜。この例では、本出願人らはCas9酵素を含むCRISPR-Cas系を利用してΔF508または他のCFTR誘導突然変異を標的化した。
【0163】
この例における治療対象は、自発呼吸下で各肺につき薬学的に有効な量のエアロゾル化AAVベクター系の気管支内送達を受ける。このように、エアロゾル化送達は、一般にAAV送達に好ましい。送達にはアデノウイルスまたはAAV粒子が用いられ得る。各々が1つ以上の調節配列に作動可能に結合している好適な遺伝子構築物を送達ベクターにクローニングし得る。この例では、以下の構築物が例として提供される:Cas9に対するCbhまたはEF1aプロモーター、キメラガイドRNAに対するU6またはH1プロモーター):好ましい構成は、CFTRΔ508を標的化するキメラガイド、ΔF508突然変異の修復テンプレートおよびコドン最適化されたCas9酵素(好ましいCas9は、ヌクレアーゼ活性またはニッカーゼ活性を有するものである)を、場合により1つ以上の核局在化シグナルまたは配列(NLS)、例えば2つのNLSを伴い使用することである。NLSを含まない構築物もまた想定される。
【0164】
Cas9標的部位を同定するため、本出願人らはヒトCFTRゲノム遺伝子座を解析し、Cas9標的部位を同定した。好ましくは、一般に、およびこのCFの場合、PAMはNGGまたはNNAGAAWモチーフを含み得る。
【0165】
従って、CFの場合、本方法は、
組成物を発現させるため組成物を作動可能にコードする1つ以上のウイルスベクターを含むウイルスベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を送達すること
を含む目的ゲノム遺伝子座における標的配列の操作を含み、
ここでこの組成物は、
I.CRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列であって、
(a)好適な哺乳類細胞におけるCF標的配列にハイブリダイズし得るガイド配列、
(b)tracrメイト配列、および
(c)tracr配列
を含むポリヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメント、および
II.少なくとも1つ以上の核局在化配列を含むCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント、
[(a)、(b)および(c)は、5’から3’配向で配置されており、
成分IおよびIIは、系の同じまたは異なるベクター上にあり、
転写されるとtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、かつガイド配列が標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、および
CRISPR複合体が、(1)標的配列にハイブリダイズできるガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む]を含む1つ以上のベクターを含むベクター系を含む天然に存在しないまたはエンジニアリングされた組成物を含む。CFに関して、好ましい標的DNA配列はCFTRΔ508突然変異を含む。好ましいPAMは上記に記載される。好ましいCRISPR酵素は任意のCas(本明細書に記載されるものであるが、特に実施例16に記載されるもの)である。
【0166】
CFに代わるものとしては任意の遺伝的障害が挙げられ、その例は周知されている。本発明の別の好ましい方法または使用は、ラフォラ病に関連することが特定されているEMP2AおよびEMP2B遺伝子の欠陥を補修するためのものである。
【0167】
一部の実施形態では、「ガイド配列」は「ガイドRNA」と異なり得る。ガイド配列は、ガイドRNAの範囲内にある、標的部位を指定する約20bpの配列を指し得る。
【0168】
一部の実施形態では、Cas9はSpCas9である(またはそれから誘導される)。かかる実施形態において、好ましい突然変異は、SpCas9の10位、762位、840位、854位、863位および/または986位または他のCas9における対応する位置(これは例えば標準的な配列比較ツールによって確かめることができる)の一部または全部にある。詳細には、SpCas9において以下の突然変異の一部または全部が好ましい:D10A、E762A、H840A、N854A、N863Aおよび/またはD986A;ならびに代替アミノ酸のいずれかの保存的置換も想定される。他のCas9の対応する位置における同じ(またはこれらの突然変異の保存的置換)もまた好ましい。特にSpCas9ではD10およびH840が好ましい。しかしながら、他のCas9では、SpCas9 D10およびH840に対応する残基もまた好ましい。これらはニッカーゼ活性を提供するため有利である。
【0169】
同様の方法で他の疾患の宿主を治療し得ることは直ちに明らかであろう。突然変異によって引き起こされる遺伝性疾患のいくつかの例が本明細書に提供されるが、さらに多くが知られている。上記の戦略はそれらの疾患に適用することができる。
【0170】
本発明は核酸を使用して標的DNA配列を結合する。核酸は作製がはるかに容易で安価であり、かつ相同性が求められるストレッチの長さに応じて特異性を変化させることができるため、これは有利である。例えば、複数のフィンガーの複雑な三次元の配置は不要である。
【0171】
用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用される。これらは、任意の長さのヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドのいずれか、またはそれらのアナログのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有し得、既知または未知の任意の機能を遂行し得る。以下のものは、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子断片のコードまたは非コード領域、連鎖分析から定義される遺伝子座(遺伝子座)、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、短鎖干渉RNA(siRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意配列の単離DNA、任意配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマー。この用語はまた、合成骨格を有する核酸様構造も包含し、例えば、Eckstein, 1991;Baserga et al.,1992;Milligan,1993;国際公開第97/03211号パンフレット;国際公開第96/39154号パンフレット;Mata,1997;Strauss-Soukup,1997;およびSamstag,1996を参照のこと。ポリヌクレオチドは、1つ以上の改変ヌクレオチド、例えば、メチル化ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログを含み得る。ヌクレオチド構造の改変は、存在する場合、ポリマーの集合前または後に与えることができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により中断することができる。ポリヌクレオチドは、重合後に例えば標識成分とのコンジュゲーションによりさらに改変することができる。
【0172】
本明細書において使用される用語「野生型」は、当業者により理解される当技術分野の用語であり、突然変異体またはバリアント形態から区別される天然状態で生じるままの生物、株、遺伝子または特徴の典型的な形態を意味する。
【0173】
本明細書において使用される用語「バリアント」は、天然状態で生じるものから逸脱するパターンを有する品質の提示を意味すると解釈すべきである。
【0174】
用語「天然に存在しない」または「エンジニアリングされた」は、互換的に使用され、人工の関与を示す。この用語は、核酸分子またはポリペプチドを指す場合、核酸分子またはポリペプチドが、それらが天然状態で天然に会合し、または天然状態で見出される少なくとも1つの他の成分を少なくとも実質的に含まないことを意味する。
【0175】
「相補性」は、古典的ワトソン-クリック塩基対形成または他の非古典的タイプのいずれかによる別の核酸配列との水素結合を形成する核酸の能力を指す。相補性パーセントは、第2の核酸配列との水素結合(例えば、ワトソン-クリック塩基対形成)を形成し得る核酸分子中の残基の割合を示す(例えば、10のうち5、6、7、8、9、10は、50%、60%、70%、80%、90%、および100%の相補性である)。「完全に相補的」は、核酸配列の全ての連続残基が第2の核酸配列中の同一数の連続残基と水素結合することを意味する。本明細書において使用される「実質的に相補的」は、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、またはそれよりも多いヌクレオチドの領域に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、もしくは100%である相補性の程度を指し、またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする2つの核酸を指す。
【0176】
本明細書において使用されるハイブリダイゼーションのための「ストリンジェントな条件」は、標的配列に対する相補性を有する核酸が、標的配列と優位にハイブリダイズし、非標的配列と実質的にハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は、一般に、配列依存的であり、多数の因子に応じて変動する。一般に、配列が長ければ、配列がその標的配列と特異的にハイブリダイズする温度が高い。ストリンジェントな条件の非限定的な例は、Tijssen(1993),Laboratory Techniques In Biochemistry And Molecular Biology-Hybridization With Nucleic Acid Probes Part I,Second Chapter“Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assay”,Elsevier,N.Y.に詳述されている。ポリヌクレオチド配列に言及がなされる場合、相補的なまたは部分的に相補的な配列もまた想定される。それらは好ましくは、高度にストリンジェントな条件下で参照配列にハイブリダイズし得る。概して、ハイブリダイゼーション速度を最大化するためには、比較的低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件が選択される:熱的融点(Tm)より約20~25℃低い。Tmは、特定の標的配列の50%が規定のイオン強度およびpHの溶液中で完全に相補的なプローブとハイブリダイズする温度である。概して、ハイブリダイズされる配列の少なくとも約85%のヌクレオチド相補性を求めるためには、Tmより約5~15℃低い高度にストリンジェントな洗浄条件が選択される。ハイブリダイズされる配列の少なくとも約70%のヌクレオチド相補性を求めるためには、Tmより約15~30℃低い中程度にストリンジェントな洗浄条件が選択される。高度に許容的な(極めて低いストリンジェンシーの)洗浄条件は、Tmより50℃も低いものであってよく、ハイブリダイズされる配列間における高度のミスマッチを許容する。当業者は、標的配列とプローブ配列との間の具体的な相同性レベルによる検出可能なハイブリダイゼーションシグナルの結果に影響が及ぶように、ハイブリダイゼーション工程および洗浄工程における他の物理的および化学的パラメータもまた変更し得ることを認識するであろう。好ましい高度にストリンジェントな条件は、50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でのインキュベーション、または5×SSCおよび1%SDS、65℃でのインキュベーションと、0.2×SSCおよび0.1%SDS、65℃での洗浄を含む。
【0177】
「ハイブリダイゼーション」は、1つ以上のポリヌクレオチドが反応してヌクレオチド残基の塩基間の水素結合を介して安定化される複合体を形成する反応を指す。水素結合は、ワトソン・クリック塩基対形成、フーグスティーン結合により、または任意の他の配列特異的様式で生じ得る。複合体は、二本鎖構造を形成する2つの鎖、多重鎖複合体を形成する3つ以上の鎖、単一の自己ハイブリダイズする鎖、またはそれらの任意の組合せを含み得る。ハイブリダイゼーション反応は、より広範なプロセス、例えば、PCRの開始、または酵素によるポリヌクレオチドの開裂におけるステップを構成し得る。所与の配列とハイブリダイズし得る配列は、所与の配列の「相補鎖」と称される。
【0178】
本明細書で使用されるとき、用語「ゲノム遺伝子座(genomic locus)」または「遺伝子座(locus)」(複数形では遺伝子座(loci))は、染色体上の遺伝子またはDNA配列の特定の位置である。「遺伝子」は、ポリペプチドをコードするひと続きのDNAもしくはRNA、または生物において機能的な役割を担い、ひいては生体における遺伝の分子単位であるRNA鎖を指す。本発明の目的上、遺伝子は遺伝子産物の産生を調節する領域(かかる調節配列がコード配列および/または転写配列に隣接するか否かに関わらず)を含むと見なされ得る。従って、遺伝子には、必ずしも限定されるわけではないが、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳調節配列、例えばリボソーム結合部位および配列内リボソーム進入部位、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス付着部位および遺伝子座制御領域が含まれる。
【0179】
本明細書で使用されるとき、「ゲノム遺伝子座の発現」または「遺伝子発現」は、機能性遺伝子産物の合成において遺伝子からの情報が用いられるプロセスである。遺伝子発現の産物は多くの場合にタンパク質であるが、rRNA遺伝子またはtRNA遺伝子などの非タンパク質コード遺伝子では、産物は機能性RNAである。遺伝子発現プロセスは、知られている全ての生命-真核生物(多細胞生物を含む)、原核生物(細菌および古細菌)およびウイルスによって、生存のための機能性産物の生成に用いられる。本明細書で使用されるとき、遺伝子または核酸の「発現」には、細胞遺伝子発現のみならず、クローニングシステムおよび任意の他のコンテクストにおける核酸の転写および翻訳もまた包含される。本明細書で使用されるとき、「発現」はまた、ポリヌクレオチドがDNAテンプレートから(例えばmRNAまたは他のRNA転写物に)転写されるプロセスおよび/または転写されたmRNAが続いてペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に翻訳されるプロセスも指す。転写物およびコードされたポリペプチドは、まとめて「遺伝子産物」と称され得る。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現には、真核細胞におけるmRNAのスプライシングが含まれ得る。
【0180】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために互換的に使用される。ポリマーは、直鎖または分枝鎖であり得、それは、改変アミノ酸を含み得、それは、非アミノ酸により中断されていてよい。この用語は、改変、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または任意の他の操作、例えば、標識成分とのコンジュゲーションを受けたアミノ酸ポリマーも包含する。本明細書において使用される用語「アミノ酸」は、グリシンおよびDまたはL光学異性体の両方を含む天然および/または非天然または合成アミノ酸、ならびにアミノ酸アナログおよびペプチド模倣体を含む。
【0181】
本明細書で使用されるとき、用語「ドメイン」または「タンパク質ドメイン」は、タンパク質鎖の残りの部分と独立して存在しおよび機能し得るタンパク質配列の一部を指す。
【0182】
本発明の態様に記載されるとおり、配列同一性は配列相同性と関係がある。相同性比較は目測で行われてもよく、またはより通例では、容易に利用可能な配列比較プログラムの助けを借りて行われてもよい。これらの市販のコンピュータプログラムは2つ以上の配列間のパーセント(%)相同性を計算し得るとともに、2つ以上のアミノ酸または核酸配列が共有する配列同一性も計算し得る。一部の好ましい実施形態では、本明細書に記載されるdTALEのキャッピング領域は、本明細書に提供されるキャッピング領域アミノ酸配列と少なくとも95%同一であるまたはそれとの同一性を共有する配列を有する。
【0183】
配列相同性は、当該技術分野において公知の多くのコンピュータプログラムのいずれか、例えばBLASTまたはFASTA等により生成し得る。かかるアラインメントの実行に好適なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージである(ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)、米国;Devereux et al.,1984,Nucleic Acids Research 12:387)。配列比較を実施し得る他のソフトウェアの例としては、限定はされないが、BLASTパッケージ(Ausubel et al.,1999 前掲書-Chapter 18を参照)、FASTA(Atschul et al.,1990,J.Mol.Biol.,403-410)およびGENEWORKSスイートの比較ツールが挙げられる。BLASTおよびFASTAは両方とも、オフラインおよびオンライン検索に利用可能である(Ausubel et al.,1999 前掲書,7-58~7-60頁を参照)。しかしながら、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。
【0184】
パーセンテージ(%)配列相同性は連続する配列にわたり計算することができ、すなわち1つの配列が他の配列と整列され、一方の配列の各アミノ酸またはヌクレオチドが他方の配列の対応するアミノ酸またはヌクレオチドと一度に1個の残基ずつ直接比較される。これは「ギャップなし」アラインメントと呼ばれる。典型的には、かかるギャップなしアラインメントは比較的少ない数の残基にわたってのみ実施される。
【0185】
これは極めて単純かつ一貫した方法であるが、例えば、本来同一である配列ペアにおいて、1つの挿入または欠失によって続くアミノ酸残基のアラインメントにずれが生じ、ひいては大域的アラインメントの実行時に%相同性が大幅に低下する可能性がある点を考慮に入れることができない。結果的に、多くの配列比較方法が、全体的な相同性または同一性スコアを過度に不利にすることなく可能性のある挿入および欠失を考慮に入れる最適アラインメントを作製するように設計される。これは配列アラインメントに「ギャップ」を挿入して局所的な相同性または同一性を最大化しようとすることにより達成される。
【0186】
しかしながら、これらのより複雑な方法では、アラインメントに現れる各ギャップに「ギャップペナルティー」が割り当てられ、従って、同じ数の同一アミノ酸について、可能な限り少ないギャップ-2つの比較される配列間のより高い関連性を反映する-を有する配列アラインメント程、多くのギャップを有するものより高いスコアを達成し得る。ギャップの存在に比較的高いコストを課し、ギャップにおける後続の各残基により小さいペナルティーを課す「アフィニティーギャップコスト」が典型的に使用される。これは最も一般的に用いられるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティーは、当然ながらギャップがより少ない最適化されたアラインメントを生じ得る。多くのアラインメントプログラムでギャップペナルティーを変更することが可能である。しかしながら、配列比較にかかるソフトウェアを使用する際にはデフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列に関するデフォルトのギャップペナルティーは、ギャップが-12、および各伸長が-4である。
【0187】
従って最大%相同性の計算は、初めにギャップペナルティーを考慮して最適アラインメントを作成することが必要である。かかるアラインメントの実行に好適なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(Devereux et al.,1984 Nuc.Acids Research 12 p387)である。配列比較を実施し得る他のソフトウェアの例としては、限定はされないが、BLASTパッケージ(Ausubel et al.,1999 Short Protocols in Molecular Biology,4th Ed.-Chapter 18を参照)、FASTA(Altschul et al.,1990 J.Mol.Biol.403-410)およびGENEWORKSスイートの比較ツールが挙げられる。BLASTおよびFASTAは両方とも、オフラインおよびオンライン検索に利用可能である(Ausubel et al.,1999,Short Protocols in Molecular Biology,7-58~7-60頁を参照)。しかしながら、用途によってはGCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。BLAST 2 Sequencesと呼ばれる新規ツールもまたタンパク質およびヌクレオチド配列の比較に利用可能である(FEMS Microbiol Lett.1999 174(2):247-50;FEMS Microbiol Lett.1999 177(1):187-8および米国国立衛生研究所(National Institutes for Health)のウェブサイトにある国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)のウェブサイトを参照)。
【0188】
最終的な%相同性は同一性の点で測定され得るが、アラインメントプロセスそれ自体は典型的にはオール・オア・ナッシングのペア比較に基づくものではない。代わりに、化学的類似性または進化距離に基づき各ペアワイズ比較にスコアを割り当てるスケール付き類似性スコア行列が概して使用される。一般的に用いられるかかる行列の例は、BLOSUM62行列-BLASTプログラムスイートのデフォルト行列である。GCG Wisconsinプログラムは、概して公開されているデフォルト値か、あるいは供給がある場合にはカスタムの記号比較表を使用する(さらなる詳細についてはユーザーマニュアルを参照のこと)。用途によっては、GCGパッケージの公開されているデフォルト値か、または他のソフトウェアの場合にはBLOSUM62などのデフォルト行列を使用することが好ましい。
【0189】
あるいは、パーセンテージ相同性は、DNASIS(商標)(Hitachi Software)の多重アラインメント機能を使用して、CLUSTAL(Higgins DG & Sharp PM(1988),Gene 73(1),237-244)と類似したアルゴリズムに基づき計算することができる。ソフトウェアが最適アラインメントを作成し終えると、%相同性、好ましくは%配列同一性を計算することが可能になる。ソフトウェアは典型的にはこれを配列比較の一部として行い、数値結果を生成する。
【0190】
配列はまた、サイレントな変化を生じさせて機能的に等価な物質をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入または置換も有し得る。アミノ酸特性(残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の性質など)の類似性に基づき計画的なアミノ酸置換が作製されてもよく、従ってアミノ酸を官能基で一つにまとめることが有用である。アミノ酸は、その側鎖の特性のみに基づき一つにまとめられてもよい。しかしながら、突然変異データも同様に含めることがより有用である。このように得られたアミノ酸セットは、構造上の理由から保存されているものと見られる。これらのセットはベン図の形式で記述することができる(Livingstone C.D.and Barton G.J.(1993)「タンパク質配列アラインメント:残基保存の階層分析戦略(Protein sequence alignments:a strategy for the hierarchical analysis of residue conservation)」Comput.Appl.Biosci.9:745-756)(Taylor W.R.(1986)「アミノ酸保存の分類(The classification of amino acid conservation)」J.Theor.Biol.119;205-218)。保存的置換は、例えば、一般に受け入れられているベン図によるアミノ酸分類を記載する下記の表に従い作製し得る。
【0191】
【0192】
本発明の実施形態は、起こり得る相同置換(置換(substitution)および置換(replacement)は、本明細書では既存のアミノ酸残基またはヌクレオチドと代替の残基またはヌクレオチドとの相互交換を意味して用いられる)、すなわち、アミノ酸の場合に塩基性同士、酸性同士、極性同士等、同種のもの同士の置換を含み得る配列(ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの両方)を含む。非相同置換、すなわち、あるクラスから別のクラスの残基への置換、あるいは、オルニチン(以下、Zと称する)、ジアミノ酪酸オルニチン(以下、Bと称する)、ノルロイシンオルニチン(以下、Oと称する)、ピリイルアラニン(pyriylalanine)、チエニルアラニン、ナフチルアラニンおよびフェニルグリシンなどの非天然アミノ酸の取り込みが関わる置換もまた起こり得る。
【0193】
変異体アミノ酸配列は、グリシンまたはβ-アラニン残基などのアミノ酸スペーサーに加え、メチル基、エチル基またはプロピル基などのアルキル基を含む配列の任意の2つのアミノ酸残基の間に挿入され得る好適なスペーサー基を含み得る。別形態の変化(これにはペプトイド形態の1つ以上のアミノ酸残基の存在が関わる)については、当業者は十分に理解し得る。誤解を避けるため、「ペプトイド形態」は、α-炭素置換基がα-炭素上ではなく、むしろ残基の窒素原子上にある変異体アミノ酸残基を指して使用される。ペプトイド形態のペプチドの調製方法は当該技術分野において公知である(例えばSimon RJ et al.,PNAS(1992)89(20),9367-9371およびHorwell DC,Trends Biotechnol.(1995)13(4),132-134)。
【0194】
本発明の実施は、特に記載のない限り、当業者の技能の範囲内である免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクスおよび組換えDNAの慣用の技術を用いる。Sambrook,Fritsch and Maniatis,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,2nd edition(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubel,et al.eds.,(1987));シリーズMETHODS IN ENZYMOLOGY(Academic Press,Inc.):PCR 2:A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson,B.D.Hames and G.R.Taylor eds.(1995))、Harlow and Lane,eds.(1988)ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL、およびANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney,ed.(1987))参照。
【0195】
一態様において、本発明は、CRISPR-Cas系のエンジニアリングおよび最適化において使用されるベクターを提供する。
【0196】
本明細書で使用されるとき、「ベクター」は、ある環境から別の環境に実体を移すことを可能にし、またはそれを促進するツールである。ベクターはレプリコン、例えばプラスミド、ファージ、またはコスミドであり、そこに別のDNAセグメントが挿入されることで、挿入されたセグメントの複製がもたらされ得る。概してベクターは、適切な制御エレメントと関連付けられたときに複製能を有する。一般に、用語「ベクター」は、核酸分子であって、それが結合している別の核酸の輸送能を有する核酸分子を指す。ベクターとしては、限定はされないが、一本鎖、二本鎖、または部分的に二本鎖の核酸分子;1つ以上の遊離末端を含む、遊離末端を含まない(例えば環状の)核酸分子;DNA、RNA、または両方を含む核酸分子;および当該技術分野において公知の他のポリヌクレオチド変種が挙げられる。ある種のベクターは「プラスミド」であり、これは、標準的な分子クローニング技術によるなどしてさらなるDNAセグメントを中に挿入することのできる環状二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターはウイルスベクターであり、ここではウイルス(例えばレトロウイルス、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠損アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス(AAV))にパッケージングするためのウイルス由来のDNAまたはRNA配列がベクター中に存在する。ウイルスベクターはまた、宿主細胞への形質移入のためウイルスによって担持されるポリヌクレオチドも含む。特定のベクターは、それが導入される宿主細胞中で自己複製する能力を有する(例えば細菌性複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムにインテグレートされ、従って宿主ゲノムと共に複製する。さらに、特定のベクターは、作動可能に結合している遺伝子の発現を指向させる能力を有する。かかるベクターは、本明細書では「発現ベクター」と称される。組換えDNA技法において有用な一般的な発現ベクターは、多くの場合にプラスミドの形態である。
【0197】
組換え発現ベクターは、宿主細胞における核酸の発現に好適な形態の本発明の核酸を含んでもよく、これは、その組換え発現ベクターが、発現させる核酸配列に作動可能に結合した1つ以上の調節エレメントを含むことを意味し、調節エレメントは、発現に使用される宿主細胞に基づき選択され得る。組換え発現ベクター内で「作動可能に結合している」とは、目的のヌクレオチド配列が調節エレメントに、そのヌクレオチド配列の(例えばインビトロ転写/翻訳系における、またはベクターが宿主細胞に導入される場合には宿主細胞における)発現を可能にする形で結合していることを意味するように意図される。組換えおよびクローニング方法に関しては、2004年9月2日に米国特許出願公開第2004-0171156 A1号明細書として公開された米国特許出願第10/815,730号明細書(その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる)が参照される。
【0198】
本発明の態様は、キメラRNAおよびCas9用のバイシストロニックベクターに関する。キメラRNAおよびCas9用のバイシストロニック発現ベクターが好ましい。概して、および特に、この実施形態においてCas9は好ましくはCBhプロモーターによりドライブされる。キメラRNAは、好ましくはU6プロモーターによりドライブされ得る。理想的にはこの2つが組み合わされる。キメラガイドRNAは、典型的には20bpのガイド配列(N)からなり、これがtracr配列(下部鎖の1つ目の「U」から転写物の末端まで延在する)につなぎ合わされ得る。tracr配列は、指示されるとおりの種々の位置でトランケートされ得る。ガイド配列とtracr配列とはtracrメイト配列に隔てられ、tracrメイト配列はGUUUUAGAGCUAであってもよい。この後に、示されるとおりのループ配列GAAAが続き得る。これらは両方ともに好ましい例である。本出願人らは、SURVEYORアッセイによりヒトEMX1およびPVALB遺伝子座におけるCas9媒介性インデルを実証している。chiRNAは、その「+n」記号で示され、crRNAは、ガイド配列およびtracr配列が別個の転写物として発現するハイブリッドRNAを指す。本出願全体を通じて、キメラRNAはシングルガイド、または合成ガイドRNA(sgRNA)とも称され得る。ループは好ましくはGAAAであるが、この配列に限定されるものではなく、または実際には、4bp長であることのみに限定されるものではない。実際には、ヘアピン構造における使用に好ましいループ形成配列は4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは配列GAAAを有する。しかしながら、代替的な配列であってよいとおり、より長いまたは短いループ配列が使用され得る。配列は好ましくはヌクレオチドトリプレット(例えばAAA)、およびさらなるヌクレオチド(例えばCまたはG)を含む。ループ形成配列の例にはCAAAおよびAAAGが含まれる。
【0199】
用語「調節エレメント」は、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、および他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナルおよびポリU配列などの転写終結シグナル)を含むことが意図される。かかる調節エレメントは、例えば、Goeddel,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に記載される。調節エレメントには、多くのタイプの宿主細胞でヌクレオチド配列の構成的発現を指図するもの、および特定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を指図するもの(例えば組織特異的調節配列)が含まれる。組織特異的プロモーターは、主として所望される目的の組織、例えば、筋肉、ニューロン、骨、皮膚、血液、特定の臓器(例えば肝臓、膵臓)など、または特定の細胞型(例えばリンパ球)における発現を指図し得る。調節エレメントはまた、細胞周期依存的または発生段階依存的様式など、時間依存的様式での発現も指図することができ、これは同時に組織または細胞型特異的であっても、またはそうでなくてもよい。一部の実施形態では、ベクターは、1つ以上のpol Iプロモーター(例えば1、2、3、4、5つ、またはそれ以上のpol IIIプロモーター)、1つ以上のpol IIプロモーター(例えば1、2、3、4、5つ、またはそれ以上のpol IIプロモーター)、1つ以上のpol Iプロモーター(例えば1、2、3、4、5つ、またはそれ以上のpol Iプロモーター)、またはそれらの組み合わせを含む。pol IIIプロモーターの例としては、限定はされないが、U6およびH1プロモーターが挙げられる。pol IIプロモーターの例としては、限定はされないが、レトロウイルスのラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(場合によりRSVエンハンサーを伴う)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(場合によりCMVエンハンサーを伴う)[例えば、Boshart et al,Cell,41:521-530(1985)を参照]、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1αプロモーターが挙げられる。また、エンハンサーエレメント、例えばWPRE;CMVエンハンサー;HTLV-IのLTRにおけるR-U5’セグメント(Mol.Cell.Biol.,Vol.8(1),p.466-472,1988);SV40エンハンサー;およびウサギβ-グロビンのエクソン2と3との間のイントロン配列(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,Vol.78(3),p.1527-31,1981)も用語「調節エレメント」に包含される。発現ベクターの設計が、形質転換する宿主細胞の選択、所望の発現レベルなどの要因に依存し得ることは、当業者によって理解されるであろう。ベクターを宿主細胞に導入し、それにより本明細書に記載されるとおり核酸によってコードされる転写物、タンパク質、またはペプチド、例えば融合タンパク質またはペプチド(例えば、クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)転写物、タンパク質、酵素、それらの突然変異形態、それらの融合タンパク質等)を産生させることができる。調節配列に関しては、米国特許出願第10/491,026号明細書が参照される(その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる)。プロモーターに関しては、国際公開第2011/028929号パンフレットおよび米国特許出願第12/511,940号明細書が参照される(その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる)。
【0200】
ベクターは、原核または真核細胞中のCRISPR転写物(例えば、核酸転写物、タンパク質、または酵素)の発現のために設計することができる。例えば、CRISPR転写物は、細菌細胞、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用)、酵母細胞、または哺乳動物細胞中で発現させることができる。好適な宿主細胞は、Goeddel,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)にさらに考察されている。あるいは、組換え発現ベクターをインビトロで、例えばT7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを使用して転写および翻訳させることができる。
【0201】
ベクターは、原核生物または原核細胞中に導入し、その中で増殖させることができる。一部の実施形態において、原核生物を使用して真核細胞中に導入すべきベクターのコピーを増幅し、または真核細胞中に導入すべきベクターの産生における中間ベクターとして使用される(例えば、ウイルスベクターパッケージング系の一部としてプラスミドを増幅)。一部の実施形態において、原核生物を使用してベクターのコピーを増幅し、1つ以上の核酸を発現させ、例えば、宿主細胞または宿主生物への送達のための1つ以上のタンパク質の資源を提供する。原核生物中のタンパク質の発現は、大腸菌(Escherichia coli)中で、融合または非融合タンパク質のいずれかの発現を指向する構成的または誘導的プロモーターを含有するベクターを用いて実施されることが最も多い。融合ベクターは、多数のアミノ酸をそれにコードされるタンパク質に、例えば、組換えタンパク質のアミノ末端に付加する。このような融合ベクターは、1つ以上の目的、例えば、(i)組換えタンパク質の発現の増加;(ii)組換えタンパク質の溶解度の増加;および(iii)親和性精製におけるリガンドとして作用することによる組換えタンパク質の精製の支援を果たし得る。融合発現ベクターにおいて、タンパク質分解開裂部位を融合部分および組換えタンパク質の接合部に導入して融合タンパク質の精製後に融合部分からの組換えタンパク質の分離を可能とすることが多い。このような酵素、およびそのコグネート認識配列としては、Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼが挙げられる。例示的融合発現ベクターとしては、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;Smith and Johnson,1988.Gene 67:31-40)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,Mass.)およびpRIT5(Pharmacia,Piscataway,N.J.)が挙げられ、それぞれ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、またはプロテインAを標的組換えタンパク質に融合する。
【0202】
好適な誘導的非融合大腸菌(E.coli)発現ベクターの例としては、pTrc(Amrann et al.,(1988)Gene 69:301-315)およびpET 11d(Studier et al.,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)60-89)が挙げられる。
【0203】
一部の実施形態において、ベクターは、酵母発現ベクターである。酵母の出芽酵母(Saccharomyces cerivisae)中の発現のためのベクターの例としては、pYepSec1(Baldari,et al.,1987.EMBO J.6:229-234)、pMFa(Kuijan and Herskowitz,1982.Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultz et al.,1987.Gene 54:113-123)、pYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,Calif.)、およびpicZ(InVitrogen Corp,San Diego,Calif.)が挙げられる。
【0204】
一部の実施形態において、ベクターは、バキュロウイルス発現ベクターを使用して昆虫細胞中のタンパク質発現をドライブする。培養昆虫細胞(例えば、SF9細胞)中のタンパク質の発現に利用可能なバキュロウイルスベクターとしては、pAcシリーズ(Smith,et al.,1983.Mol.Cell.Biol.3:2156-2165)およびpVLシリーズ(Lucklow and Summers,1989.Virology 170:31-39)が挙げられる。
【0205】
一部の実施形態において、ベクターは、哺乳動物発現ベクターを使用して哺乳動物細胞中の1つ以上の配列の発現をドライブし得る。哺乳動物発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed,1987.Nature 329:840)およびpMT2PC(Kaufman,et al.,1987.EMBO J.6:187-195)が挙げられる。哺乳動物細胞中で使用される場合、発現ベクター制御機能は、典型的には、1つ以上の調節エレメントにより提供される。例えば、一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2型、サイトメガロウイルス、シミアンウイルス40、ならびに本明細書に開示の他のものおよび当技術分野において公知のものに由来する。原核および真核細胞の両方のために他の好適な発現系については、例えば、Chapters 16 and 17 of Sambrook,et al.,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL.2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989参照。
【0206】
一部の実施形態において、組換え哺乳動物発現ベクターは、特定の細胞タイプ中の核酸の発現を優先的に指向し得る(例えば、組織特異的調節エレメントを使用して核酸を発現させる)。組織特異的調節エレメントは、当技術分野において公知である。好適な組織特異的プロモーターの非限定的な例としては、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkert,et al.,1987.Genes Dev.1:268-277)、リンパ系特異的プロモーター(Calame and Eaton,1988.Adv.Immunol.43:235-275)、特にT細胞受容体のプロモーター(Winoto and Baltimore,1989.EMBO J.8:729-733)および免疫グロブリン(Baneiji,et al.,1983.Cell 33:729-740;Queen and Baltimore,1983.Cell 33:741-748)、神経細胞特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター;Byrne and Ruddle,1989.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlund,et al.,1985.Science 230:912-916)、および乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター;米国特許第4,873,316号明細書および欧州特許出願公開第264,166号明細書)が挙げられる。発生制御プロモーター、例えば、ネズミhoxプロモーター(Kessel and Gruss,1990.Science 249:374-379)およびα-フェトタンパク質プロモーター(Campes and Tilghman,1989.Genes Dev.3:537-546)も包含される。これらの原核生物および真核生物ベクターに関しては、米国特許第6,750,059号明細書(その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる)が参照される。本発明の他の実施形態はウイルスベクターの使用に関するものであってよく、これに関しては米国特許出願第13/092,085号明細書(その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる)が参照される。組織特異的調節エレメントは当該技術分野において公知であり、これに関しては米国特許第7,776,321号明細書(その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる)が参照される。
【0207】
一部の実施形態において、調節エレメントは、CRISPR系の1つ以上のエレメントの発現をドライブするようにCRISPR系の1つ以上のエレメントに作動可能に結合している。一般に、CRISPR(クラスター化等間隔短鎖回分リピート)は、SPIDR(スペーサー散在型ダイレクトリピート(SPacer Interspersed Direct Repeat))としても公知であり、通常、特定の細菌種に特異的であるDNA遺伝子座のファミリーを構成する。CRISPR遺伝子座は、大腸菌(E.coli)中で認識された区別されるクラスの散在型短鎖配列リピート(SSR)(Ishino et al.,J.Bacteriol.,169:5429-5433[1987];およびNakata et al.,J.Bacteriol.,171:3553-3556[1989])および関連遺伝子を含む。類似の散在型SSRが、ハロフェラックス・メディテラネイ(Haloferax mediterranei)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、アナベナ属(Anabaena)、および結核菌(Mycobacterium tuberculosis)中で同定されている(Groenen et al.,Mol.Microbiol.,10:1057-1065[1993];Hoe et al.,Emerg.Infect.Dis.,5:254-263[1999];Masepohl et al.,Biochim.Biophys.Acta 1307:26-30[1996];およびMojica et al.,Mol.Microbiol.,17:85-93[1995]参照)。CRISPR遺伝子座は、典型的には他のSSRとリピートの構造が異なり、それは短鎖等間隔リピート(SRSR)と称されている(Janssen et al.,OMICS J.Integ.Biol.,6:23-33[2002];およびMojica et al.,Mol.Microbiol.,36:244-246[2000])。一般に、リピートは、実質的に一定の長さを有するユニーク介入配列により等間隔とされているクラスターで生じる短いエレメントである(Mojica et al.,[2000]、前掲)。リピート配列は株間で高度に保存されているが、散在型リピートの数およびスペーサー領域の配列は、典型的には、株ごとに異なる(van Embden et al.,J.Bacteriol.,182:2393-2401[2000])。CRISPR遺伝子座は、40を超える原核生物中で同定されており(例えば、Jansen et al.,Mol.Microbiol.,43:1565-1575[2002];およびMojica et al.,[2005]参照)、例として、限定されるものではないが、アエロパイラム属(Aeropyrum)、パイロバキュラム属(Pyrobaculum)、スルフォロバス属(Sulfolobus)、アーケオグロバス属(Archaeoglobus)、ハロカーキュラ属(Halocarcula)、メタノバクテリウム属(Methanobacterium)、メタノコッカス属(Methanococcus)、メタノサルシナ属(Methanosarcina)、メタノパイラス属(Methanopyrus)、パイロコッカス属(Pyrococcus)、ピクロフィラス属(Picrophilus)、サーモプラズマ属(Thermoplasma)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、アキフェックス属(Aquifex)、ポーフィロモナス属(Porphyromonas)、クロロビウム属(Chlorobium)、サーマス属(Thermus)、バシラス属(Bacillus)、リステリア属(Listeria)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、サーモアナエロバクター属(Thermoanaerobacter)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、アザーカス属(Azarcus)、クロモバクテリウム属(Chromobacterium)、ネイセリア属(Neisseria)、ニトロソモナス属(Nitrosomonas)、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)、ジオバクター属(Geobacter)、ミクソコッカス属(Myxococcus)、カンピロバクター属(Campylobacter)、ウォリネラ属(Wolinella)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、エシェリキア属(Escherichia)、レジオネラ属(Legionella)、メチロコッカス属(Methylococcus)、パスツレラ属(Pasteurella)、フォトバクテリウム属(Photobacterium)、サルモネラ属(Salmonella)、キサントモナス属(Xanthomonas)、エルシニア属(Yersinia)、トレポネーマ属(Treponema)、およびサーモトガ属(Thermotoga)である。
【0208】
一般に、「CRISPR系」は、集合的に、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現またはその活性の指向に関与する転写物および他のエレメント、例として、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性部分tracrRNA)、tracrメイト配列(内因性CRISPR系に関して「ダイレクトリピート」およびtracrRNAによりプロセシングされる部分ダイレクトリピートを包含)、ガイド配列(内因性CRISPR系に関して「スペーサー」とも称される)、またはCRISPR遺伝子座からの他の配列および転写物を指す。本発明の実施形態において用語のガイド配列とガイドRNAとは同義的に用いられる。一部の実施形態において、CRISPR系の1つ以上のエレメントは、I型、II型、またはIII型CRISPR系に由来する。一部の実施形態において、CRISPR系の1つ以上のエレメントは、内因性CRISPR系を含む特定の生物、例えば、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)に由来する。一般に、CRISPR系は、標的配列(内因性CRISPR系に関してプロトスペーサーとも称される)におけるCRISPR複合体の形成を促進するエレメントを特徴とする。CRISPR複合体の形成に関して、「標的配列」は、ガイド配列が相補性を有するように設計される配列を指し、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションがCRISPR複合体の形成を促進する。標的配列は、任意のポリヌクレオチド、例えば、DNAまたはRNAポリヌクレオチドを含み得る。一部の実施形態において、標的配列は、細胞の核または細胞質中に局在している。
【0209】
一部の実施形態では、以下の基準の一部または全部を満たす反復モチーフを検索することにより、インシリコでダイレクトリピートが同定され得る:
1.II型CRISPR遺伝子座に隣接するゲノム配列の2Kbウィンドウに存在する;
2.20~50bpにわたる;および
3.20~50bpの間隔が置かれている。
【0210】
一部の実施形態では、これらの基準のうち2つ、例えば1および2、2および3、または1および3が使用されてもよい。一部の実施形態では、3つ全ての基準が使用されてもよい。
【0211】
一部の実施形態では、続いて以下の基準の一部または全部を満たす配列により候補tracrRNAが予測され得る:
1.ダイレクトリピートとの配列相同性(最大18bpのミスマッチを含むGeneiousにおけるモチーフ検索);
2.転写方向における予測されたRho非依存性転写ターミネーターの存在;および
3.tracrRNAとダイレクトリピートとの間の安定したヘアピン二次構造。
【0212】
一部の実施形態では、これらの基準のうち2つ、例えば1および2、2および3、または1および3が使用されてもよい。一部の実施形態では、3つ全ての基準が使用されてもよい。
【0213】
一部の実施形態では、キメラ合成ガイドRNA(sgRNA)設計が、ダイレクトリピートとtracrRNAとの間に少なくとも12bpの二重鎖構造を組み込み得る。
【0214】
本発明の好ましい実施形態において、CRISPR系はII型CRISPR系であり、Cas酵素は、DNA開裂を触媒するCas9である。化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)に由来するCas9または任意の近縁のCas9による酵素作用は、ガイド配列の20ヌクレオチドにハイブリダイズしかつ標的配列の20ヌクレオチドに続いてプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(例としては、NGG/NRGまたは本明細書に記載されるとおり決定され得るPAMが挙げられる)を有する標的部位配列に二本鎖切断を生じさせる。部位特異的DNA認識および開裂のためのCas9を介したCRISPR活性は、ガイド配列、一部がガイド配列にハイブリダイズするtracr配列およびPAM配列によって規定される。CRISPR系のさらなる態様が、Karginov and Hannon,「CRISPR系:細菌および古細菌における低分子RNAガイド防御(The CRISPR system:small RNA-guided defence in bacteria and archaea)」,Mole Cell 2010,January 15;37(1):7に記載される。
【0215】
化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)SF370由来のII型CRISPR遺伝子座、これは、4つの遺伝子Cas9、Cas1、Cas2、およびCsn1のクラスター、ならびに2つの非コードRNAエレメント、tracrRNAおよび短い一続きの非反復配列(スペーサー、各約30bp)が間に置かれた反復配列(ダイレクトリピート)の特徴的アレイを含む。この系では、標的化されたDNA二本鎖切断(DSB)が4段階の逐次的なステップで作成される(
図2A)。第一に、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイおよびtracrRNAが、CRISPR遺伝子座から転写される。第二に、tracrRNAがプレcrRNAのダイレクトリピートにハイブリダイズし、次にはこれがプロセシングされて、個々のスペーサー配列を含む成熟crRNAとなる。第三に、成熟crRNA:tracrRNA複合体が、crRNAのスペーサー領域とプロトスペーサーDNAとの間のヘテロ二重鎖形成によって、プロトスペーサーおよび対応するPAMからなるDNA標的にCas9を仕向ける。最後に、Cas9がPAMの上流で標的DNAの開裂を媒介することにより、プロトスペーサー内にDSBが作り出される(
図2A)。
図2Bは、コドン最適化Cas9の核局在を実証する。正確な転写開始を促進するため、tracrRNAの発現の駆動にRNAポリメラーゼIIIベースのU6プロモーターが選択された(
図2C)。同様に、単一のスペーサーと、それに隣接する2つのダイレクトリピート(DR、用語「tracrメイト配列」にも包含される;
図2C)からなるプレcrRNAアレイを発現させるため、U6プロモーターベースの構築物が開発された。初期のスペーサーは、大脳皮質の発生に重要な遺伝子であるヒトEMX1遺伝子座における33塩基対(bp)の標的部位(30bpプロトスペーサー+Cas9のNGG認識モチーフを満たす3bp CRISPRモチーフ(PAM)配列)をターゲティングするように設計された、(
図2C)。
【0216】
典型的には、内因性CRISPR系に関して、CRISPR複合体の形成(標的配列にハイブリダイズされ、1つ以上のCasタンパク質と複合体形成しているガイド配列を含む)は、標的配列中または付近(例えば、それから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、またはそれよりも多い塩基対内)の一方または両方の鎖の開裂をもたらす。理論により拘束されるものではないが、tracr配列は、野生型tracr配列の全部または一部(例えば、野生型tracr配列の約または約20、26、32、45、48、54、63、67、85、またはそれよりも多い数を超えるヌクレオチド)を含み得、またはそれからなっていてよく、例えば、ガイド配列に作動可能に結合しているtracrメイト配列の全部または一部とのtracr配列の少なくとも一部に沿うハイブリダイゼーションによりCRISPR複合体の一部も形成し得る。一部の実施形態において、CRISPR系の1つ以上のエレメントの発現をドライブする1つ以上のベクターを宿主細胞中に導入し、その結果、CRISPR系のエレメントの発現が1つ以上の標的部位におけるCRISPR複合体の形成を指向する。例えば、Cas酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列は、それぞれ別個のベクター上の別個の調節エレメントに作動可能に結合させることができる。あるいは、同一または異なる調節エレメントから発現されるエレメントの2つ以上を単一ベクター中で合わせることができ、CRISPR系の任意の成分を提供する1つ以上の追加のベクターは第1のベクター中に含まれない。単一ベクター中で合わせるCRISPR系エレメントは、任意の好適な配向で配置することができ、例えば、あるエレメントを第2のエレメントに対して5’側(の上流)にまたは3’側(の下流)に局在化することができる。あるエレメントのコード配列は、第2のエレメントのコード配列の同一または逆鎖上で局在化し、同一または逆向きで配向させることができる。一部の実施形態において、単一のプロモーターは、CRISPR酵素をコードする転写物、ならびに1つ以上のイントロン配列内に埋め込まれているガイド配列、tracrメイト配列(場合により、ガイド配列に作動可能に結合している)、およびtracr配列(例えば、それぞれが異なるイントロン中に、2つ以上が少なくとも1つのイントロン中に、または全部が単一のイントロン中に存在する)の1つ以上の発現をドライブする。一部の実施形態において、CRISPR酵素、ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列は、同一のプロモーターに作動可能に結合しており、それから発現される。
【0217】
一部の実施形態において、ベクターは、1つ以上の挿入部位、例えば、制限エンドヌクレアーゼ認識配列(「クローニング部位」とも称される)を含む。一部の実施形態において、1つ以上の挿入部位(例えば、約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超える挿入部位)は、1つ以上のベクターの1つ以上の配列エレメントの上流および/または下流に局在している。一部の実施形態において、ベクターは、tracrメイト配列の上流、および場合によりtracrメイト配列に作動可能に結合している調節エレメントの下流の挿入部位を含み、その結果、挿入部位中へのガイド配列の挿入後および発現時にガイド配列が真核細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向する。一部の実施形態において、ベクターは、2つ以上の挿入部位を含み、それぞれの挿入部位は、それぞれの部位におけるガイド配列の挿入を可能とするために2つのtracrメイト配列間に局在している。このような配置において、2つ以上のガイド配列は、単一ガイド配列の2つ以上のコピー、2つ以上の異なるガイド配列、またはそれらの組合せを含み得る。複数の異なるガイド配列を使用する場合、単一発現構築物を使用して細胞内の複数の異なる対応する標的配列に対するCRISPR活性をターゲティングすることができる。例えば、単一ベクターは、約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、またはそれよりも多い数を超えるガイド配列を含み得る。一部の実施形態において、約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるそのようなガイド配列含有ベクターを提供し、場合により細胞に送達することができる。
【0218】
一部の実施形態において、ベクターは、CRISPR酵素、例えば、Casタンパク質をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している調節エレメントを含む。Casタンパク質の非限定的な例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12としても公知)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログ、またはそれらの改変バージョンが挙げられる。一部の実施形態において、非改変CRISPR酵素は、DNA開裂活性を有し、例えば、Cas9である。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の局在における、例えば、標的配列内および/または標的配列の相補鎖内の一方または両方の鎖の開裂を指向する。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の最初または最後のヌクレオチドからの約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500、またはそれよりも多い塩基対内の一方または両方の鎖の開裂を指向する。一部の実施形態において、ベクターは、対応する野生型酵素に対して突然変異しているCRISPR酵素をコードし、その結果、突然変異CRISPR酵素は、標的配列を含有する標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を開裂する能力を欠く。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からのCas9のRuvC I触媒ドメイン中のアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を両方の鎖を開裂するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を開裂する)に変換する。Cas9をニッカーゼに変える突然変異の他の例としては、限定されるものではないが、H840A、N854A、およびN863Aが挙げられる。さらなる例として、Cas9の2つ以上の触媒ドメイン(RuvC I、RuvC II、およびRuvC IIIまたはHNHドメイン)を突然変異させて全てのDNA開裂活性を実質的に欠く突然変異Cas9を産生することができる。一部の実施形態において、D10A突然変異を、H840A、N854A、またはN863A突然変異の1つ以上と組み合わせて全てのDNA開裂活性を実質的に欠くCas9酵素を産生する。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、突然変異酵素のDNA開裂活性がその非突然変異形態に対して約25%、10%、5%、1%、0.1%、0.01%、またはそれよりも小さい数未満である場合、全てのDNA開裂活性を実質的に欠くとみなす。
【0219】
SpCas9のRuvC I触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)をエンジニアリングしてヌクレアーゼをニッカーゼに変換し(SpCas9n)(例えば、Sapranauskas et al.,2011,Nucleic Acis Research,39:9275;Gasiunas et al.,2012,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,109:E2579を参照)、ニックの入ったゲノムDNAが高フィデリティ相同性組換え修復(HDR)を起こすようにした。Surveyorアッセイにより、SpCas9nがEMX1プロトスペーサー標的にインデルを生成しないことが確認された。EMX1ターゲティングキメラcrRNA(tracrRNA成分も同様に有する)をSpCas9と同時発現させると標的部位にインデルが生じたが、SpCas9nとの同時発現では生じなかった(n=3)。さらに、327個のアンプリコンのシーケンシングでは、SpCas9nによって誘導されたインデルは検出されなかった。同じ遺伝子座を選択して、EMX1を標的とするキメラRNA、hSpCas9またはhSpCas9n、ならびに一対の制限部位(HindIIIおよびNheI)をプロトスペーサー近傍に導入するためのHRテンプレートをHEK293FT細胞に同時形質移入することにより、CRISPR媒介性HRを試験した。
【0220】
本明細書には好ましいオルソログが記載される。Cas酵素は、II型CRISPR系の複数のヌクレアーゼドメインを有する最大のヌクレアーゼと相同性を共有する一般的な酵素クラスを指し得るとおりCas9と同定され得る。最も好ましくは、Cas9酵素はspCas9またはsaCas9由来であり、またはそれから誘導される。誘導されるとは、本出願人らは、その誘導された酵素が野生型酵素と高度な配列相同性を有するという意味では主に野生型酵素をベースとするが、しかし本明細書に記載されるとおり何らかの形で突然変異している(改変されている)ものであることを意味する。
【0221】
用語CasおよびCRISPR酵素は、特に明らかでない限り、本明細書では概して同義的に使用されることが理解されるであろう。上述のとおり、本明細書で使用される残基の付番の多くは化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のII型CRISPR遺伝子座由来のCas9酵素を参照する。しかしながら、この発明が、SpCas9、SaCa9、St1Cas9など、他の微生物種由来のさらに多くのCas9を含むことは理解されるであろう。
【0222】
この場合にはヒトに最適化された(すなわちヒトでの発現に最適化されている)コドン最適化配列の例が本明細書に提供される(SaCas9ヒトコドン最適化配列を参照のこと)。これが好ましいが、他の例が可能であることが理解されるであろうとともに、ヒト以外の宿主種に対するコドン最適化、または脳などの特定の臓器対するコドン最適化は公知である。
【0223】
一部の実施形態では、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列は、特に細胞、例えば真核細胞での発現にコドンが最適化される。真核細胞は特定の生物、例えば哺乳動物、例えば限定はされないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、または非ヒト哺乳動物または霊長類のものであるかまたはそれに由来し得る。一部の実施形態では、ヒトの生殖系列の遺伝的アイデンティティを改変する方法および/または動物の遺伝的アイデンティティを改変する方法であって、人または動物に対するいかなる実質的な医学的利益もなしにそれらに苦痛を生じさせる可能性がある方法、およびかかる方法から得られる動物もまた、除外され得る。
【0224】
一般に、コドン最適化は、天然配列の少なくとも1つのコドン(例えば、約または約1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、またはそれよりも多い数を超えるコドン)を、その宿主細胞の遺伝子中で使用されるより高頻度または最も高頻度のコドンにより置き換える一方、天然アミノ酸配列を維持することにより目的宿主細胞中の発現の向上のために核酸配列を改変するプロセスを指す。種々の種は、特定のアミノ酸のあるコドンについて特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用頻度の差)は、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳の効率と相関することが多く、このことは、次いで、とりわけ、翻訳されるコドンの特性および特定のトランスファーRNA(tRNA)分子の利用可能性に依存的であると考えられる。細胞中で選択されるtRNAの優位性は、一般に、ペプチド合成において最も高頻度で使用されるコドンの反映である。したがって、遺伝子は、コドン最適化に基づき所与の生物中の最適な遺伝子発現のために調整することができる。コドン使用頻度表は、例えば、www.kazusa.orjp/codon/(2002年7月9日にアクセス)で入手可能な「コドン使用頻度データベース」において容易に入手可能であり、これらの表は、多数の手法で適応させることができる。Nakamura,Y.,et al.“Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases:status for the year 2000”Nucl.Acids Res.28:292(2000)参照。特定の宿主細胞中の発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピュータアルゴリズムも入手可能であり、例えば、Gene Forge(Aptagen;Jacobus,PA)も入手可能である。一部の実施形態において、CRISPR酵素をコードする配列中の1つ以上のコドン(例えば、1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、またはそれよりも多い、または全てのコドン)は、特定のアミノ酸について最も高頻度で使用されるコドンに対応する。
【0225】
一部の実施形態において、ベクターは、1つ以上の核局在化配列(NLS)、例えば、約また約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるNLSを含むCRISPR酵素をコードする。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、アミノ末端またはその付近における約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるNLS、カルボキシ末端またはその付近における約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるNLS、またはそれらの組合せ(例えば、アミノ末端における1つ以上のNLSおよびカルボキシ末端における1つ以上のNLS)を含む。2つ以上のNLSが存在する場合、それぞれは、単一のNLSが2つ以上のコピーで存在し得るように他のものから独立して、および/または1つ以上のコピーで存在する1つ以上の他のNLSとの組合せで選択することができる。本発明の好ましい実施形態において、CRISPR酵素は、多くとも6つのNLSを含む。一部の実施形態において、NLSは、NLSの最近傍アミノ酸が、NまたはC末端からポリペプチド鎖に沿って約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、40、50、またはそれよりも多いアミノ酸内である場合、NまたはC末端付近に存在するとみなす。NLSの非限定的な例としては、アミノ酸配列PKKKRKVを有するSV40ウイルスラージT抗原のNLS;ヌクレオプラスミンからのNLS(例えば、配列KRPAATKKAGQAKKKKを有するヌクレオプラスミン二分(bipartite)NLS);アミノ酸配列PAAKRVKLDまたはRQRRNELKRSPを有するc-mycNLS;配列NQSSNFGPMKGGNFGGRSSGPYGGGGQYFAKPRNQGGYを有するhRNPA1 M9 NLS;インポーチンアルファからのIBBドメインの配列RMRIZFKNKGKDTAELRRRRVEVSVELRKAKKDEQILKRRNV;筋腫Tタンパク質の配列VSRKRPRPおよびPPKKARED;ヒトp53の配列POPKKKPL;マウスc-abl IVの配列SALIKKKKKMAP;インフルエンザウイルスNS1の配列DRLRRおよびPKQKKRK;肝炎ウイルスデルタ抗原の配列RKLKKKIKKL;マウスMx1タンパク質の配列REKKKFLKRR;ヒトポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼの配列KRKGDEVDGVDEVAKKKSKK;ならびにステロイドホルモン受容体(ヒト)グルココルチコイドの配列RKCLQAGMNLEARKTKKに由来するNLS配列が挙げられる。
【0226】
一般に、1つ以上のNLSは、真核細胞の核中の検出可能な量のCRISPR酵素の蓄積をドライブするために十分な強度である。一般に、核局在化活性の強度は、CRISPR酵素中のNLSの数、使用される特定のNLS、またはそれらの因子の組合せに由来し得る。核中の蓄積の検出は、任意の好適な技術により実施することができる。例えば、検出可能なマーカーをCRISPR酵素に融合させることができ、その結果、細胞内の局在を、例えば、核の局在を検出する手段(例えば、核に特異的な染色、例えば、DAPI)との組合せで可視化することができる。細胞核を細胞から単離することもでき、次いでその含有物を、タンパク質を検出する任意の好適なプロセス、例えば、免疫組織学的分析、ウエスタンブロット、または酵素活性アッセイにより分析することができる。核中の蓄積は、例えば、CRISPR複合体形成の効果についてのアッセイ(例えば、標的配列におけるDNA開裂もしくは突然変異についてのアッセイ、またはCRISPR複合体形成および/もしくはCRISPR酵素活性により影響される遺伝子発現活性の変化についてのアッセイ)により、CRISPR酵素にも複合体にも曝露されず、または1つ以上のNLSを欠くCRISPR酵素に曝露される対照と比較して間接的に測定することもできる。
【0227】
一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するために標的ポリヌクレオチド配列との十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である。一部の実施形態において、ガイド配列とその対応する標的配列との間の相補性の程度は、好適なアラインメントアルゴリズムを使用して最適にアラインされた場合、約または約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%、またはそれよりも大きい数を超える。最適なアラインメントは、配列をアラインするための任意の好適なアルゴリズムを使用して決定することができ、その非限定的な例としては、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformをベースとするアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、ClustalW、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies;www.novocraft.comにおいて入手可能)、ELAND(Illumina,San Diego,CA)、SOAP(soap.genomics.org.cnにおいて入手可能)、およびMaq(maq.sourceforge.netにおいて入手可能)が挙げられる。一部の実施形態において、ガイド配列は、約または約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75、またはそれよりも大きい数を超えるヌクレオチド長である。一部の実施形態において、ガイド配列は、約75、50、45、40、35、30、25、20、15、12、またはそれよりも小さい数未満のヌクレオチド長である。標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するガイド配列の能力は、任意の好適なアッセイにより評価することができる。例えば、CRISPR複合体を形成するために十分なCRISPR系の成分、例として、試験すべきガイド配列は、対応する標的配列を有する宿主細胞に、例えば、CRISPR配列の成分をコードするベクターによる形質移入により提供することができ、次いで標的配列内の優先的開裂を例えば本明細書に記載のSurveyorアッセイにより評価する。同様に、標的ポリヌクレオチド配列の開裂は、試験管中で標的配列、CRISPR複合体の成分、例として、試験すべきガイド配列および試験ガイド配列とは異なる対照ガイド配列を提供し、試験および対照ガイド配列反応間の標的配列における結合または開裂の比率を比較することにより評価することができる。他のアッセイが考えられ、当業者はそれを認識する。
【0228】
ガイド配列は、任意の標的配列をターゲティングするように選択することができる。一部の実施形態において、標的配列は、細胞のゲノム内の配列である。例示的な標的配列としては、標的ゲノム中でユニークなものが挙げられる。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9について、ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMNNNNNNNNNNNNXGGのCas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNNXGG(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれでもよい)は、ゲノム中の単一発生を有する。ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMMNNNNNNNNNNNXGGの化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNXGG(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよい)は、ゲノム中の単一発生を有する。S.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR1Cas9について、ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMNNNNNNNNNNNNXXAGAAWのCas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNNXXAGAAW(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよく;Wは、AまたはTである)は、ゲノム中の単一発生を有する。ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMMNNNNNNNNNNNXXAGAAWのS.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR1Cas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNXXAGAAW(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよく;Wは、AまたはTである)は、ゲノム中の単一発生を有する。化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9について、ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMNNNNNNNNNNNNXGGXGのCas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNNXGGXG(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよい)は、ゲノム中の単一発生を有する。ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMMNNNNNNNNNNNXGGXGの化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNXGGXG(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよい)は、ゲノム中の単一発生を有する。これらの配列のそれぞれにおいて、「M」は、A、G、T、またはCであり得、配列をユニークと同定するにあたり考慮する必要はない。
【0229】
一部の実施形態において、ガイド配列は、ガイド配列内の二次構造の程度を低減させるように選択される。一部の実施形態では、最適に折り畳まれたとき、ガイド配列のヌクレオチドの約75%前後またはそれ未満、50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、1%、またはそれ未満が、自己相補的塩基対合に関与する。最適な折り畳みは任意の好適なポリヌクレオチド折り畳みアルゴリズムによって決定され得る。一部のプログラムは、最小ギブズ自由エネルギーを計算することに基づく。一つのかかるアルゴリズムの例は、Zuker and Stiegler(Nucleic Acids Res.9(1981),133-148)により記載されるとおりのmFoldである。別の例示的な折り畳みアルゴリズムは、重心構造予測アルゴリズムを使用した、ウィーン大学(University of Vienna)のInstitute for Theoretical Chemistryで開発されたオンラインウェブサーバRNAfoldである(例えば、A.R.Gruber et al.,2008,Cell 106(1):23-24;およびPA Carr and GM Church,2009,Nature Biotechnology 27(12):1151-62を参照)。
【0230】
一般に、tracrメイト配列は、(1)対応するtracr配列を含有する細胞中でtracrメイト配列によりフランキングされているガイド配列の切り出し;および(2)標的配列におけるCRISPR複合体の形成(CRISPR複合体は、tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列を含む)の1つ以上を促進するためにtracr配列との十分な相補性を有する任意の配列を含む。一般に、相補性の程度は、2つの配列の短い方の長さに沿うtracrメイト配列およびtracr配列の最適なアラインメントに準拠する。最適なアラインメントは、任意の好適なアラインメントアルゴリズムにより決定することができ、二次構造、例えばtracr配列またはtracrメイト配列内の自己相補性をさらに説明し得る。一部の実施形態において、2つの短い方の長さに沿ったtracr配列とtracrメイト配列との間の相補性の程度は、最適にアラインされた場合、約または約25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97.5%、99%、またはそれよりも大きい数を超える。一部の実施形態において、tracr配列は、約または約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50、またはそれよりも大きい数を超えるヌクレオチド長である。一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。本発明の一実施形態において、転写物または転写されるポリヌクレオチド配列は、少なくとも2つ以上のヘアピンを有する。好ましい実施形態において、転写物は、2、3、4または5つのヘアピンを有する。本発明の別のさらなる実施形態において、転写物は、多くとも5つのヘアピンを有する。ヘアピン構造において、最後の「N」およびループの上流の5’側の配列の部分は、tracrメイト配列に対応し、ループの3’側の配列の部分は、tracr配列に対応する。ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチドのさらなる非限定的な例は、以下のとおりであり(5’から3’に列記)、「N」は、ガイド配列の塩基を表し、第1の小文字のブロックは、tracrメイト配列を表し、第2の小文字のブロックは、tracr配列を表し、最後のポリT配列は、転写ターミネーターを表す:
【化1】
一部の実施形態において、配列(1)から(3)は、S.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR1からのCas9との組合せで使用される。一部の実施形態において、配列(4)から(6)は、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からのCas9との組合せで使用される。一部の実施形態において、tracr配列は、tracrメイト配列を含む転写物と別個の転写物である。
【0231】
一部の実施形態において、組換えテンプレートも提供される。組換えテンプレートは、本明細書に記載の別のベクターの成分であり、別個のベクター中で含有させ、または別個のポリヌクレオチドとして提供することができる。一部の実施形態において、組換えテンプレートは、例えば、CRISPR複合体の一部としてのCRISPR酵素によりニック形成または開裂される標的配列内またはその付近での相同組換えにおけるテンプレートとして機能するように設計される。テンプレートポリヌクレオチドは、任意の好適な長さ、例えば、約または約10、15、20、25、50、75、100、150、200、500、1000、またはそれよりも大きい数を超えるヌクレオチド長であり得る。一部の実施形態において、テンプレートポリヌクレオチドは、標的配列を含むポリヌクレオチドの一部に相補的である。最適にアラインされた場合、テンプレートポリヌクレオチドは、標的配列の1つ以上のヌクレオチド(例えば、約または約1、5、10、15、20またはそれよりも多い数を超えるヌクレオチド)と重複し得る。一部の実施形態において、テンプレート配列および標的配列を含むポリヌクレオチドが最適にアラインされた場合、テンプレートポリヌクレオチドの最近傍ヌクレオチドは、標的配列から約1、5、10、15、20、25、50、75、100、200、300、400、500、1000、5000、10000、またはそれよりも多いヌクレオチド内に存在する。
【0232】
一部の実施形態において、CRISPR酵素は、1つ以上の異種タンパク質ドメイン(例えば、CRISPR酵素の他の約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるドメイン)を含む融合タンパク質の一部である。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意の追加のタンパク質配列、および場合により任意の2つのドメイン間のリンカー配列を含み得る。CRISPR酵素に融合させることができるタンパク質ドメインの例としては、限定されるものではないが、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、ならびに以下の活性:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写放出因子活性、ヒストン修飾活性、RNA開裂活性および核酸結合活性の1つ以上を有するタンパク質ドメインが挙げられる。エピトープタグの非限定的な例としては、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザヘマグルチニン(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグ、およびチオレドキシン(Trx)タグが挙げられる。レポーター遺伝子の例としては、限定されるものではないが、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および自己蛍光タンパク質、例として、青色蛍光タンパク質(BFP)が挙げられる。CRISPR酵素は、DNA分子に結合し、または他の細胞分子に結合するタンパク質またはタンパク質の断片、例として、限定されるものではないが、マルトース結合タンパク質(MBP)、S-タグ、Lex A DNA結合ドメイン(DBD)融合物、GAL4DNA結合ドメイン融合物、および単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合物をコードする遺伝子配列に融合させることができる。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得る追加のドメインは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20110059502号明細書に記載されている。一部の実施形態において、タグ化CRISPR酵素を使用して標的配列の局在を同定する。
【0233】
一部の実施形態では、CRISPR酵素は誘導性システムの成分をなし得る。このシステムの誘導可能である性質により、エネルギーの形態を用いた遺伝子編集または遺伝子発現の時空間的制御が可能となり得る。エネルギーの形態としては、限定はされないが、電磁放射線、音響エネルギー、化学エネルギーおよび熱エネルギーを挙げることができる。誘導性システムの例には、テトラサイクリン誘導性プロモーター(Tet-OnまたはTet-Off)、小分子2ハイブリッド転写活性化システム(FKBP、ABA等)、または光誘導性システム(フィトクロム、LOVドメイン、またはクリプトクロム)が含まれる。一実施形態において、CRISPR酵素は、配列特異的に転写活性の変化を誘導する光誘導性転写エフェクター(LITE)の一部であり得る。光の成分には、CRISPR酵素、光応答性シトクロムヘテロ二量体(例えばシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来)、および転写活性化/抑制ドメインが含まれ得る。誘導性DNA結合タンパク質およびその使用方法のさらなる例は、米国仮特許出願第61/736465号明細書および米国特許出願第61/721,283号明細書(本明細書によって全体として参照により組み込まれる)に提供される。
【0234】
一部の態様において、本発明は、1つ以上のポリヌクレオチド、例えば、または本明細書に記載の1つ以上のベクター、1つ以上のその転写物、および/またはそれから転写された1つまたはタンパク質を宿主細胞に送達することを含む方法を提供する。一部の態様において、本発明は、そのような細胞により産生された細胞、およびそのような細胞を含み、またはそれから産生された動物をさらに提供する。一部の実施形態において、ガイド配列との組合せの(および場合によりそれと複合体形成している)CRISPR酵素を細胞に送達する。慣用のウイルスおよび非ウイルスベース遺伝子移入法を使用して核酸を哺乳動物細胞または標的組織中に導入することができる。このような方法を使用してCRISPR系の成分をコードする核酸を培養物中の細胞に、または宿主生物中に投与することができる。非ウイルスベクター送達系としては、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載のベクターの転写物)、ネイキッド核酸、および送達ビヒクル、例えば、リポソームと複合体形成している核酸が挙げられる。ウイルスベクター送達系としては、細胞への送達後にエピソーム性またはインテグレートされるゲノムを有するDNAおよびRNAウイルスが挙げられる。遺伝子療法手順の概要については、Anderson,Science 256:808-813(1992);Nabel & Felgner,TIBTECH 11:211-217(1993);Mitani & Caskey,TIBTECH 11:162-166(1993);Dillon,TIBTECH 11:167-175(1993);Miller,Nature 357:455-460(1992);Van Brunt,Biotechnology 6(10):1149-1154(1988);Vigne,Restorative Neurology and Neuroscience 8:35-36(1995);Kremer & Perricaudet,British Medical Bulletin 51(1):31-44(1995);Haddada et al.,in Current Topics in Microbiology and Immunology,Doerfler and Boehm(eds)(1995);およびYu et al.,Gene Therapy 1:13-26(1994)参照。
【0235】
核酸の非ウイルス送達の方法としては、リポフェクション、マイクロインジェクション、遺伝子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオン、および薬剤により向上されるDNAの取り込みが挙げられる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号明細書、同第4,946,787号明細書;および同第4,897,355号明細書)に記載されており、リポフェクション試薬は、市販されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに好適なカチオンおよび中性脂質としては、Felgner、国際公開第91/17424号パンフレット;国際公開第91/16024号パンフレットのものが挙げられる。送達は、細胞(例えば、インビトロまたはエクスビボ投与)または標的組織(例えば、インビボ投与)に対するものであり得る。
【0236】
脂質:核酸複合体、例として、ターゲティングされるリポソーム、例えば、免疫脂質複合体の調製は、当業者に周知である(例えば、Crystal,Science 270:404-410(1995);Blaese et al.,Cancer Gene Ther.2:291-297(1995);Behr et al.,Bioconjugate Chem.5:382-389(1994);Remy et al.,Bioconjugate Chem.5:647-654(1994);Gao et al.,Gene Therapy 2:710-722(1995);Ahmad et al.,Cancer Res.52:4817-4820(1992);米国特許第4,186,183号明細書、同第4,217,344号明細書、同第4,235,871号明細書、同第4,261,975号明細書、同第4,485,054号明細書、同第4,501,728号明細書、同第4,774,085号明細書、同第4,837,028号明細書、および同第4,946,787号明細書参照)。
【0237】
核酸の送達のためのRNAまたはDNAウイルスベース系の使用は、ウイルスを体内の規定の細胞にターゲティングし、ウイルスペイロードを核に輸送する高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターは、患者に直接投与することができ(インビボ)、またはそれらを使用してインビトロで細胞を治療することができ、場合により、改変された細胞を患者に投与することができる(エクスビボ)。慣用のウイルスベース系としては、遺伝子移入のためのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴および単純ヘルペスウイルスベクターを挙げることができる。宿主ゲノム中のインテグレーションは、レトロウイルス、レンチウイルス、およびアデノ随伴ウイルス遺伝子移入法について考えられ、挿入されたトランス遺伝子の長期発現をもたらすことが多い。さらに、高い形質導入効率が多くの異なる細胞タイプおよび標的組織において観察されている。
【0238】
レトロウイルスの向性は、外来エンベロープタンパク質を取り込むことにより変え、標的細胞の潜在的な標的集団を拡大することができる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞に形質導入または感染し、典型的には、高ウイルス力価を産生し得るレトロウイルスベクターである。したがって、レトロウイルス遺伝子移入系の選択は、標的組織に依存する。レトロウイルスベクターは、6~10kbまでの外来配列のためのパッケージング能を有するシス作用長鎖末端リピートを含む。最小シス作用LTRは、ベクターの複製およびパッケージングに十分であり、次いでそれを使用して治療遺伝子を標的細胞中にインテグレートして恒久的なトランス遺伝子発現を提供する。広く使用されるレトロウイルスベクターとしては、ネズミ白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)をベースとするもの、またはそれらの組合せが挙げられる(例えば、Buchscher et al.,J.Virol.66:2731-2739(1992);Johann et al.,J.Virol.66:1635-1640(1992);Sommnerfelt et al.,Virol.176:58-59(1990);Wilson et al.,J.Virol.63:2374-2378(1989);Miller et al.,J.Virol.65:2220-2224(1991);PCT/US94/05700号明細書参照)。
【0239】
一過的発現が好ましい用途においては、アデノウイルスベース系を使用することができる。アデノウイルスベースベクターは、多くの細胞タイプにおいて極めて高い形質導入効率を示し得、細胞分裂を要求しない。このようなベクターについて、高い力価および発現のレベルが得られている。このベクターは、比較的単純な系で大量に産生することができる。
【0240】
例えば、核酸およびペプチドのインビトロ産生において、ならびにインビボおよびエクスビボ遺伝子療法手順のためにアデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターを使用して細胞に標的核酸を形質導入することもできる(例えば、West et al.,Virology 160:38-47(1987);米国特許第4,797,368号明細書;国際公開第93/24641号パンフレット;Kotin,Human Gene Therapy 5:793-801(1994);Muzyczka,J.Clin.Invest.94:1351(1994)参照。組換えAAVベクターの構築は、多数の刊行物、例として、米国特許第5,173,414号明細書;Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251-3260(1985);Tratschin,et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072-2081(1984);Hermonat & Muzyczka,PNAS 81:6466-6470(1984);およびSamulski et al.,J.Virol.63:03822-3828(1989)に記載されている。
【0241】
典型的には、パッケージング細胞を使用して宿主細胞に感染し得るウイルス粒子を形成する。このような細胞としては、アデノウイルスをパッケージングする293細胞、およびレトロウイルスをパッケージングするψ2細胞またはPA317細胞が挙げられる。遺伝子療法において使用されるウイルスベクターは、通常、核酸ベクターをウイルス粒子中にパッケージングする細胞系を産生することにより生成する。ベクターは、典型的には、パッケージングおよび後続の宿主中へのインテグレーションに要求される最小ウイルス配列を含有し、他のウイルス配列は、発現させるべきポリヌクレオチドのための発現カセットにより置き換えられている。欠損ウイルス機能は、典型的には、パッケージング細胞系によりトランスで供給する。例えば、遺伝子療法において使用されるAAVベクターは、典型的には、宿主ゲノム中へのパッケージングおよびインテグレーションに要求されるAAVゲノムからのITR配列のみを有する。ウイルスDNAは、他のAAV遺伝子、すなわち、repおよびcapをコードするが、ITR配列を欠くヘルパープラスミドを含有する細胞系中にパッケージングされる。細胞系は、ヘルパーとしてのアデノウイルスにより感染させることもできる。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製およびヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列の欠如に起因して顕著な量でパッケージングされない。アデノウイルスによる汚染は、例えば、アデノウイルスがAAVよりも感受性である熱処理により低減させることができる。
【0242】
従って、AAVは形質導入ベクターとして使用するのに理想的な候補と考えられる。かかるAAV形質導入ベクターは、トランスに提供されるアデノウイルスまたはヘルペスウイルスまたはポックスウイルス(例えば、ワクシニアウイルス)ヘルパー機能の存在下で複製するのに十分なシス作用性機能を含み得る。組換えAAV(rAAV)を使用して種々の系統の細胞に外来性遺伝子を運び込むことができる。これらのベクターでは、AAV capおよび/またはrep遺伝子をウイルスゲノムから欠失させ、選択のDNAセグメントに置き換える。現在のAAVベクターは、最大4300塩基の挿入DNAを収容し得る。
【0243】
rAAVの作製方法は数多くあり、本発明はrAAVおよびrAAVの調製方法を提供する。例えば、所望のウイルス構築物を含むまたはそれから本質的になる1つまたは複数のプラスミドが、AAV感染細胞に形質移入される。加えて、第2のまたは追加のヘルパープラスミドがこれらの細胞に同時形質移入され、組換え構築物の複製およびパッケージングに必須のAAV repおよび/またはcap遺伝子が提供される。これらの条件下で、AAVのrepおよび/またはcapタンパク質はトランスに作用してrAAV構築物の複製およびパッケージングを刺激する。形質移入後2~3日でrAAVは回収される。従来、rAAVはアデノウイルスと共に細胞から回収される。次に汚染アデノウイルスが熱処理によって不活性化される。本発明では、rAAVは有利には、細胞それ自体からではなく、細胞上清から回収される。従って、最初の態様では本発明はrAAVを調製することを提供し、および前述に加えて、以下を含むまたはそれから本質的になる方法によりrAAVを調製することができる:発現用DNAを含む外来性DNAと、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスなどのポックスウイルス)とを含有するrAAVを感受性細胞に感染させるステップであって、rAAVが機能性capおよび/またはrepを欠損している(およびヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスなどのポックスウイルス)はrAAVに欠損しているcapおよび/またはrev機能を提供する)ステップ;または発現用DNAを含む外来性DNAを含有するrAAVを感受性細胞に感染させるステップであって、組換え体が機能性capおよび/またはrepを欠損しているステップと、rAAVに欠損しているcapおよび/またはrep機能を提供するプラスミドを前記細胞に形質移入すること;または発現用DNAを含む外来性DNAを含有するrAAVを感受性細胞に感染させるステップであって、組換え体が機能性capおよび/またはrepを欠損しており、前記細胞が、組換え体に欠損しているcapおよび/またはrep機能を提供すること;または機能性capおよび/またはrepを欠損しているAAVと、外来性DNAが組換え体によって発現されるように外来性DNAを組換え体に挿入するための、かつrepおよび/またはcap機能を提供するためのプラスミドとを感受性細胞に形質移入することであって、従って形質移入により、機能性capおよび/またはrepが欠損した、発現用DNAを含む外来性DNAを含有するrAAVがもたらされること。
【0244】
rAAVは、本明細書に記載されるとおりAAV由来であってもよく、有利には、AAV1、AAV2、AAV5またはそれらの任意の組み合わせを含み得るハイブリッドまたはカプシドを有するrAAV1、rAAV2、AAV5またはrAAVであり得る。rAAVのAAVは、rAAVが標的とする細胞に関連して選択することができる;例えば、脳または神経細胞のターゲティングには、AAV血清型1、2、5またはハイブリッドまたはカプシドAAV1、AAV2、AAV5またはそれらの任意の組み合わせを選択することができ;および心臓組織のターゲティングには、AAV4を選択することができる。
【0245】
293細胞に加えて、本発明の実施に用いることのできる他の細胞およびそれらの細胞に関するインビトロでの特定のAAV血清型の相対的感染力(Grimm,D.et al,J.Virol.82:5887-5911(2008)を参照)は以下のとおりである。
【0246】
【0247】
本発明は、CRISPR(クラスター化等間隔短鎖回分リピート)系をコードする外来性核酸分子、例えば、プロモーターと、CRISPR関連(Cas)タンパク質(推定ヌクレアーゼまたはヘリカーゼタンパク質)、例えばCas9をコードする核酸分子と、ターミネーターとを含むまたはそれから本質的になる第1のカセット、およびプロモーターと、ガイドRNA(gRNA)をコードする核酸分子と、ターミネーターとを含むまたはそれから本質的になる2つ、またはそれ以上の、有利にはベクターのパッケージングサイズ限界に至るまでの、例えば合計で(第1のカセットを含めて)5つのカセット(例えば、各カセットは概略的に、プロモーター-gRNA1-ターミネーター、プロモーター-gRNA2-ターミネーター...プロモーター-gRNA(N)-ターミネーター(式中、Nは、ベクターのパッケージングサイズ限界の上限である挿入可能な数である)と表される)を含むまたはそれからなる複数のカセットを含むまたはそれから本質的になるrAAV、または2つ以上の個々のrAAVであって、各々がCRISPR系の1つまたは2つ以上のカセットを含み、例えば、第1のrAAVが、プロモーターと、Cas、例えばCas9をコードする核酸分子と、ターミネーターとを含むまたはそれから本質的になる第1のカセットを含み、および第2のrAAVが、プロモーターと、ガイドRNA(gRNA)をコードする核酸分子と、ターミネーターとを含むまたはそれから本質的になる複数の4つのカセット(例えば、各カセットは概略的に、プロモーター-gRNA1-ターミネーター、プロモーター-gRNA2-ターミネーター...プロモーター-gRNA(N)-ターミネーター(式中、Nは、ベクターのパッケージングサイズ限界の上限である挿入可能な数である)と表される)を含むrAAVを提供する。rAAVはDNAウイルスであるため、AAVまたはrAAVに関する本明細書の考察における核酸分子は、有利にはDNAである。プロモーターは、一部の実施形態では有利にはヒトシナプシンIプロモーター(hSyn)である。
【0248】
核酸を細胞に送達する追加の方法は、当業者に公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20030087817号明細書参照。
【0249】
一部の実施形態において、宿主細胞を、本明細書に記載の1つ以上のベクターにより一過的にまたは非一過的に形質移入する。一部の実施形態において、細胞を、それが対象中で天然に生じるままで形質移入する。一部の実施形態において、形質移入される細胞を対象から採取する。一部の実施形態において、細胞は、対象から採取された細胞、例えば、細胞系に由来する。組織培養のための広範な細胞系は、当技術分野において公知である。細胞系の例としては、限定されるものではないが、C8161、CCRF-CEM、MOLT、mIMCD-3、NHDF、HeLa-S3、Huh1、Huh4、Huh7、HUVEC、HASMC、HEKn、HEKa、MiaPaCell、Panc1、PC-3、TF1、CTLL-2、C1R、Rat6、CV1、RPTE、A10、T24、J82、A375、ARH-77、Calu1、SW480、SW620、SKOV3、SK-UT、CaCo2、P388D1、SEM-K2、WEHI-231、HB56、TIB55、Jurkat、J45.01、LRMB、Bcl-1、BC-3、IC21、DLD2、Raw264.7、NRK、NRK-52E、MRC5、MEF、Hep G2、HeLa B、HeLa T4、COS、COS-1、COS-6、COS-M6A、BS-C-1サル腎臓上皮、BALB/3T3マウス胚線維芽細胞、3T3Swiss、3T3-L1、132-d5ヒト胎児線維芽細胞;10.1マウス線維芽細胞、293-T、3T3、721、9L、A2780、A2780ADR、A2780cis、A172、A20、A253、A431、A-549、ALC、B16、B35、BCP-1細胞、BEAS-2B、bEnd.3、BHK-21、BR293、BxPC3、C3H-10T1/2、C6/36、Cal-27、CHO、CHO-7、CHO-IR、CHO-K1、CHO-K2、CHO-T、CHO Dhfr-/-、COR-L23、COR-L23/CPR、COR-L23/5010、COR-L23/R23、COS-7、COV-434、CML T1、CMT、CT26、D17、DH82、DU145、DuCaP、EL4、EM2、EM3、EMT6/AR1、EMT6/AR10.0、FM3、H1299、H69、HB54、HB55、HCA2、HEK-293、HeLa、Hepa1c1c7、HL-60、HMEC、HT-29、Jurkat、JY細胞、K562細胞、Ku812、KCL22、KG1、KYO1、LNCap、Ma-Mel1-48、MC-38、MCF-7、MCF-10A、MDA-MB-231、MDA-MB-468、MDA-MB-435、MDCK II、MDCK II、MOR/0.2R、MONO-MAC6、MTD-1A、MyEnd、NCI-H69/CPR、NCI-H69/LX10、NCI-H69/LX20、NCI-H69/LX4、NIH-3T3、NALM-1、NW-145、OPCN/OPCT細胞系、Peer、PNT-1A/PNT2、RenCa、RIN-5F、RMA/RMAS、Saos-2細胞、Sf-9、SkBr3、T2、T-47D、T84、THP1細胞系、U373、U87、U937、VCaP、Vero細胞、WM39、WT-49、X63、YAC-1、YAR、およびそれらのトランスジェニック変種が挙げられる。細胞系は、当業者に公知の種々の資源から入手可能である(例えば、American Type Culture Collection(ATCC)(Manassus,Va.)参照)。一部の実施形態において、本明細書に記載の1つ以上のベクターにより形質移入された細胞を使用して1つ以上のベクター由来配列を含む新たな細胞系を樹立する。一部の実施形態において、本明細書に記載のCRISPR系の成分により一過的に形質移入され(例えば、1つ以上のベクターの一過的形質移入、またはRNAによる形質移入により)、CRISPR複合体の活性を通して改変された細胞を使用して改変を含有するがあらゆる他の外因性配列を欠く細胞を含む新たな細胞系を樹立する。一部の実施形態において、本明細書に記載の1つ以上のベクターにより一過的にまたは非一過的に形質移入された細胞、またはそのような細胞に由来する細胞系を、1つ以上の試験化合物の評価において使用する。
【0250】
一部の実施形態において、本明細書に記載の1つ以上のベクターを使用して非ヒトトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を産生する。一部の実施形態において、トランスジェニック動物は、哺乳動物、例えば、マウス、ラット、またはウサギである。トランスジェニック植物および動物を産生する方法は、当技術分野において公知であり、一般に、例えば、本明細書に記載の細胞形質移入の方法から出発する。
【0251】
作物ゲノミクスにおける最近の進歩に伴い、CRISPR-Cas系を使用して効率的かつ費用対効果の高い遺伝子編集および操作を実施可能であることにより、生産を向上させかつ形質を強化するための単一の迅速な選択および比較ならびにかかるゲノムを形質転換する多重化した遺伝子操作が実現し得る。この点に関しては、米国特許および公開公報:米国特許第6,603,061号明細書-アグロバクテリウム属媒介性植物形質転換方法(Agrobacterium-Mediated Plant Transformation Method);米国特許第7,868,149号明細書-植物ゲノム配列およびその使用(Plant Genome Sequences and Uses Thereof)および米国特許出願公開第2009/0100536号明細書-強化された農業形質を備えるトランスジェニック植物(Transgenic Plants with Enhanced Agronomic Traits)(これらの各々の内容および開示は全て、全体として参照により組み込まれる)が参照される。本発明の実施においては、Morrell et al「作物ゲノミクス:進歩と応用(Crop genomics:advances and applications)」Nat Rev Genet.2011 Dec 29;13(2):85-96の内容および開示もまた、本明細書に全体として参照により組み込まれる。本発明の有利な実施形態において、CRISPR/Cas9系は微細藻類のエンジニアリングに用いられる。植物系においてCRISPR-Cas系を利用可能であることは、全体として参照により援用されるFeng et al.Cell Res.2013 Aug 20.doi:10.1038/cr.2013.114.[Epub ahead of print]による論稿「CRISPR/Cas系を使用した植物における効率的なゲノム編集(Efficient Genome Editing in Plants using a CRISPR/Cas System)」にも提供され、ここでは、エンジニアリングされたCRISPR/Cas複合体を使用して植物ゲノムの特定の部位に二本鎖切断を作り出し、双子葉植物および単子葉植物の両方で標的ゲノム改変を達成し得ることが実証されている。従って、本明細書における動物細胞に関する言及は、特に明らかでない限り、適宜修正して植物細胞にもまた適用し得る。
【0252】
一態様において、本発明は、真核細胞における標的ポリヌクレオチドを改変する方法を提供し、これはインビボ、エキソビボまたはインビトロであってよい。一部の実施形態では、本方法は、ヒトもしくは非ヒト動物または植物(微細藻類を含む)から細胞または細胞集団を採取すること、および1つまたは複数の細胞を改変することを含む。培養は任意の段階でエキソビボで行われ得る。1つまたは複数の細胞は、さらには非ヒト動物または植物(微細藻類を含む)に再導入されてもよい。再導入される細胞に関して、細胞が幹細胞であることが特に好ましい。
【0253】
一部の実施形態では、本方法は、CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ、それにより標的ポリヌクレオチドを改変することを含み、ここでCRISPR複合体は、前記標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズするガイド配列と複合体形成するCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列はtracrメイト配列に結合し、次にはtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズする。
【0254】
一態様において、本発明は、真核細胞におけるポリヌクレオチドの発現を改変する方法を提供する。一部の実施形態では、本方法は、CRISPR複合体をポリヌクレオチドに結合させるステップであって、前記結合により前記ポリヌクレオチドの発現の増加または減少がもたらされることを含み;ここでCRISPR複合体は、前記ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズするガイド配列と複合体形成するCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列はtracrメイト配列に結合し、次にはtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズする。同様の考慮事項および条件が、上記のとおり標的ポリヌクレオチドを改変する方法に適用される。実際上、これらの採取、培養および再導入のオプションは本発明の全態様に適用される。
【0255】
実際、本発明の任意の態様において、CRISPR複合体は、標的配列にハイブリダイズするガイド配列と複合体形成するCRISPR酵素を含むことができ、ここで前記ガイド配列はtracrメイト配列に結合することができ、次にはtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズすることができる。同様の考慮事項および条件が、上記のとおり標的ポリヌクレオチドを改変する方法に適用される。
【0256】
一態様において、本発明は、上記の方法および組成物に開示されるエレメントの任意の1つ以上を含むキットを提供する。エレメントは個々にまたは組み合わせで提供されてもよく、および任意の好適な容器、例えば、バイアル、ボトル、またはチューブに提供されてもよい。一部の実施形態では、キットは1つ以上の言語、例えば2つ以上の言語による説明書を含む。
【0257】
一部の実施形態において、キットは、本明細書に記載のエレメントの1つ以上を利用するプロセスにおいて使用される1つ以上の試薬を含む。試薬は、任意の好適な容器中で提供することができる。例えば、キットは、1つ以上の反応または貯蔵緩衝液を提供し得る。試薬は、特定のアッセイにおいて使用可能な形態で、または使用前に1つ以上の他の成分の添加を要求する形態(例えば、濃縮物または凍結乾燥形態)で提供することができる。緩衝液は、任意の緩衝液、例として、限定されるものではないが、炭酸ナトリウム緩衝液、重炭酸ナトリウム緩衝液、ホウ酸緩衝液、Tris緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液、およびそれらの組合せであり得る。一部の実施形態において、緩衝液はアルカリ性である。一部の実施形態において、緩衝液は、約7から約10のpHを有する。一部の実施形態において、キットは、ガイド配列および調節エレメントを作動可能に結合させるためのベクター中への挿入のためのガイド配列に対応する1つ以上のオリゴヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、キットは、相同組換えテンプレートポリヌクレオチドを含む。
【0258】
一態様において、本発明は、CRISPR系の1つ以上のエレメントを使用する方法を提供する。本発明のCRISPR複合体は、標的ポリヌクレオチドを改変する有効な手段を提供する。本発明のCRISPR複合体は、広範な有用性、例として、非常に多数の細胞タイプ中の標的ポリヌクレオチドの改変(例えば、欠失、挿入、転座、不活性化、活性化)を有する。したがって、本発明のCRISPR複合体は、例えば、遺伝子療法、薬物スクリーニング、疾患診断、および予後における幅広い用途範囲を有する。例示的CRISPR複合体は、標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む。ガイド配列は、次いでtract配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している。
【0259】
一実施形態において、本発明は、標的ポリヌクレオチドを開裂する方法を提供する。本方法は、標的ポリヌクレオチドに結合して前記標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせるCRISPR複合体を使用して標的ポリヌクレオチドを改変することを含む。典型的には、本発明のCRISPR複合体は、細胞に導入されると、ゲノム配列に切断(例えば、一本鎖または二本鎖切断)を作り出す。例えば、本方法を用いて細胞中の疾患遺伝子を開裂させることができる。
【0260】
CRISPR複合体によって作り出された切断は、エラープローン非相同末端結合(NHEJ)経路または高フィデリティ相同性組換え修復(HDR)(
図11)などの修復プロセスによって修復され得る。これらの修復プロセスの間、ゲノム配列に外来性ポリヌクレオチドテンプレートを導入することができる。一部の方法では、HDRプロセスを用いてゲノム配列が改変される。例えば、上流配列および下流配列が隣接するインテグレートしようとする配列を含む外来性ポリヌクレオチドテンプレートが細胞に導入される。上流および下流配列は、染色体におけるインテグレーション部位の両側と配列類似性を共有する。
【0261】
望ましい場合、ドナーポリヌクレオチドは、DNA、例えばDNAプラスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、ウイルスベクター、線状DNA片、PCR断片、ネイキッド核酸、またはリポソームまたはポロキサマーなどの送達ビヒクルと複合体化した核酸であってもよい。
【0262】
外来性ポリヌクレオチドテンプレートは、インテグレートされる配列(例えば変異遺伝子)を含む。インテグレートする配列は、細胞にとって内因性または外来性の配列であってもよい。インテグレートされる配列の例としては、タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは非コードRNA(例えばマイクロRNA)が挙げられる。従って、インテグレートする配列は、1つまたは複数の適切な制御配列に作動可能に結合され得る。あるいは、インテグレートされる配列が調節機能を提供し得る。
【0263】
外来性ポリヌクレオチドテンプレート中の上流および下流配列は、目的の染色体配列とドナーポリヌクレオチドとの間の組換えを促進するように選択される。上流配列は、標的インテグレーション部位の上流のゲノム配列と配列類似性を共有する核酸配列である。同様に、下流配列は、標的インテグレーション部位の下流の染色体配列と配列類似性を共有する核酸配列である。外来性ポリヌクレオチドテンプレート中の上流および下流配列は、標的ゲノム配列と75%、80%、85%、90%、95%、または100%の配列同一性を有し得る。好ましくは、外来性ポリヌクレオチドテンプレート中の上流および下流配列は、標的ゲノム配列と約95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。一部の方法では、外来性ポリヌクレオチドテンプレート中の上流および下流配列は、標的ゲノム配列と約99%または100%の配列同一性を有する。
【0264】
上流または下流配列は、約20bp~約2500bp、例えば、約50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、または2500bpを含み得る。一部の方法では、例示的上流または下流配列は、約200bp~約2000bp、約600bp~約1000bp、またはより詳細には約700bp~約1000bpを有する。
【0265】
一部の方法では、外来性ポリヌクレオチドテンプレートはマーカーをさらに含み得る。かかるマーカーは標的インテグレーションのスクリーニングを容易にし得る。好適なマーカーの例としては、制限部位、蛍光タンパク質、または選択可能なマーカーが挙げられる。本発明の外来性ポリヌクレオチドテンプレートは組換え技術を用いて構築することができる(例えば、Sambrook et al.,2001およびAusubel et al.,1996を参照)。
【0266】
外来性ポリヌクレオチドテンプレートをインテグレートすることにより標的ポリヌクレオチドを改変する例示的方法においては、CRISPR複合体によってゲノム配列に二本鎖切断が導入され、その切断が、外来性ポリヌクレオチドテンプレートによる相同組換えでテンプレートがゲノムにインテグレートされることにより修復される。二本鎖切断の存在がテンプレートのインテグレーションを促進する。
【0267】
他の実施形態では、この発明は、真核細胞におけるポリヌクレオチドの発現を改変する方法を提供する。本方法は、そのポリヌクレオチドに結合するCRISPR複合体を使用して標的ポリヌクレオチドの発現を増加または低下させることを含む。
【0268】
一部の方法では、細胞における発現の改変を達成するため標的ポリヌクレオチドを不活性化させることができる。例えば、細胞中の標的配列にCRISPR複合体が結合すると、配列が転写されないか、コードされたタンパク質が産生されないか、または野生型配列が機能するとおりには配列が機能しないように、標的ポリヌクレオチドが不活性化される。例えば、タンパク質が産生されないようにタンパク質またはマイクロRNAコード配列が不活性化されてもよい。
【0269】
一部の方法では、それ以上制御配列として機能しないように制御配列を不活性化することができる。本明細書で使用されるとき、「制御配列」は、核酸配列の転写、翻訳、または接触可能性を実現する任意の核酸配列を指す。制御配列の例としては、プロモーター、転写ターミネーターが挙げられ、およびエンハンサーが制御配列である。
【0270】
不活性化された標的配列は、欠失突然変異(すなわち、1つ以上のヌクレオチドの欠失)、挿入突然変異(すなわち、1つ以上のヌクレオチドの挿入)、またはナンセンス突然変異(すなわち、終止コドンが導入されるような単一のヌクレオチドによる別のヌクレオチドとの置換)を含み得る。一部の方法では、標的配列の不活性化は標的配列の「ノックアウト」をもたらす。
【0271】
本発明の方法を用いて、疾患モデルとして使用し得る植物、動物または細胞を作り出すことができる。本明細書で使用されるとき、「疾患」は、対象における疾患、障害、または徴候を指す。例えば、本発明の方法を用いて、疾患に関連する1つ以上の核酸配列に改変を含む動物もしくは細胞、または疾患に関連する1つ以上の核酸配列の発現が変化している植物、動物もしくは細胞を作り出すことができる。かかる核酸配列は疾患関連タンパク質配列をコードしてもよく、または疾患関連制御配列であってもよい。従って、本発明の実施形態において植物、対象、患者、生物または細胞は、非ヒトの対象、患者、生物または細胞であり得ることが理解される。従って、本発明は、本方法により作製された植物、動物もしくは細胞、またはその子孫を提供する。子孫は、作製された植物または動物のクローンであってもよく、またはさらに望ましい形質をその子孫に遺伝子移入させるため同じ種の他の個体と交配させることによる有性生殖から生じてもよい。細胞は、多細胞生物、特に動物または植物の場合にインビボまたはエキソビボであってよい。細胞が培養下にある例では、適切な培養条件が満たされる場合、かつ好ましくは細胞がこの目的に好適に適合する場合(例えば幹細胞)、細胞系が樹立され得る。本発明によって作製される細菌細胞系もまた想定される。ひいては細胞系もまた想定される。
【0272】
一部の方法では、疾患モデルを使用することにより、疾患の研究で一般的に用いられる手段を用いて突然変異が動物または細胞および疾患の発症および/または進行に及ぼす効果を研究することができる。あるいは、かかる疾患モデルは、薬学的に活性な化合物が疾患に及ぼす効果の研究に有用である。
【0273】
一部の方法では、疾患モデルを使用して、見込みのある遺伝子治療戦略の有効性を評価することができる。すなわち、疾患の発症および/または進行が阻害または軽減されるように疾患関連遺伝子またはポリヌクレオチドを改変することができる。詳細には、本方法は、変化したタンパク質が産生され、結果として動物または細胞が変化した反応を有するように疾患関連遺伝子またはポリヌクレオチドを改変することを含む。従って、一部の方法では、遺伝子治療イベントの効果を評価し得るように、遺伝子改変を受けた動物が、疾患を発症する素因のある動物と比較され得る。
【0274】
別の実施形態において、本発明は、疾患遺伝子に関連する細胞シグナル伝達イベントを調節する生物学的に活性な薬剤を開発する方法を提供する。本方法は、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合したガイド配列、およびtracr配列の1つ以上の発現をドライブする1つ以上のベクターを含む細胞に試験化合物を接触させるステップ;および例えば細胞に含まれる疾患遺伝子の突然変異に関連する細胞シグナル伝達イベントの減少または増加を示す読み取り値の変化を検出することを含む。
【0275】
細胞機能の変化をスクリーニングするため本発明の方法と組み合わせて、細胞モデルまたは動物モデルを構築することができる。かかるモデルを使用して、本発明のCRISPR複合体により改変されたゲノム配列が目的の細胞機能に及ぼす効果を研究し得る。例えば、細胞機能モデルを使用して、改変ゲノム配列が細胞内シグナル伝達または細胞外シグナル伝達に及ぼす効果を研究することができる。あるいは、細胞機能モデルを使用して、改変ゲノム配列が感覚認知に及ぼす効果を研究することができる。一部のかかるモデルにおいては、モデルにおける生化学的シグナル伝達経路に関連する1つ以上のゲノム配列が改変される。
【0276】
いくつかの疾患モデルが特に研究されている。それらには、デノボ自閉症リスク遺伝子CHD8、KATNAL2、およびSCN2A;ならびに症候性自閉症(アンジェルマン症候群)遺伝子UBE3Aが含まれる。これらの遺伝子および得られる自閉症モデルは当然ながら好ましいが、遺伝子および対応するモデル全体にわたる本発明の広範な適用性を明らかにすることに役立つ。
【0277】
生化学的シグナル伝達経路に関連する1つ以上のゲノム配列の発現の変化は、候補薬剤に接触させたときの試験モデル細胞と対照細胞との間における対応する遺伝子のmRNAレベルの差をアッセイすることにより決定され得る。あるいは、生化学的シグナル伝達経路に関連する配列の発現の差は、コードされたポリペプチドまたは遺伝子産物のレベルの差を検出することにより決定される。
【0278】
mRNA転写物または対応するポリヌクレオチドのレベルの薬剤により引き起こされた変化をアッセイするため、初めに試料中に含まれる核酸が当該技術分野の標準方法に従い抽出される。例えば、Sambrook et al.(1989)に示される手順に従い種々の溶菌酵素または化学溶液を使用してmRNAを単離することができ、または製造者により提供される付属の説明書に従い核酸結合樹脂で抽出することができる。抽出した核酸試料に含まれるmRNAは、次に当該技術分野において広く知られている方法に従うかまたは本明細書に例示する方法に基づき、増幅手順または従来のハイブリダイゼーションアッセイ(例えばノーザンブロット解析)により検出される。
【0279】
本発明の目的上、増幅は、妥当なフィデリティで標的配列を複製する能力を有するプライマーおよびポリメラーゼを用いる任意の方法を意味する。増幅は、天然または組換えDNAポリメラーゼ、例えば、TaqGold(商標)、T7 DNAポリメラーゼ、大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼのクレノウ断片、および逆転写酵素によって行われ得る。好ましい増幅方法はPCRである。詳細には、単離されたRNAが、生化学的シグナル伝達経路に関連する配列の発現レベルを定量化するため定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)と組み合わされた逆転写アッセイに供され得る。
【0280】
遺伝子発現レベルの検出は、増幅アッセイ中にリアルタイムで行うことができる。一態様では、増幅産物が、蛍光DNA結合剤、例えば限定はされないがDNAインターカレート剤およびDNA溝結合剤で直接可視化され得る。二本鎖DNA分子に組み込まれるインターカレート剤の量は、典型的には増幅されたDNA産物の量に比例するため、好都合には、当該技術分野における従来の光学的システムを使用してインターカレート色素の蛍光を定量化することにより、増幅産物の量を決定することができる。この適用に好適なDNA結合色素としては、SYBRグリーン、SYBRブルー、DAPI、プロピジウムヨウ素、Hoeste、SYBRゴールド、臭化エチジウム、アクリジン、プロフラビン、アクリジンオレンジ、アクリフラビン、蛍光クマリン(fluorcoumanin)、エリプチシン、ダウノマイシン、クロロキン、ジスタマイシンD、クロモマイシン、ホミジウム、ミトラマイシン、ルテニウムポリピリジル、アントラマイシンなどが挙げられる。
【0281】
別の態様では、配列特異的プローブなどの他の蛍光標識を増幅反応に用いて増幅産物の検出および定量化を促進し得る。プローブベースの定量的増幅は、所望の増幅産物の配列特異的検出に頼る。この増幅は、特異性および感度の増加をもたらす蛍光性の標的特異的プローブ(例えば、TaqMan(登録商標)プローブ)を利用する。プローブベースの定量的増幅を実施する方法は当該技術分野で十分に確立されており、米国特許第5,210,015号明細書に教示される。
【0282】
さらに別の態様では、生化学的シグナル伝達経路に関連する配列と配列相同性を共有するハイブリダイゼーションプローブを使用して従来のハイブリダイゼーションアッセイを実施し得る。典型的には、プローブは、被験対象から得られた生体試料内に含まれる生化学的シグナル伝達経路に関連する配列と安定した複合体をハイブリダイゼーション反応で形成することが可能である。アンチセンスがプローブ核酸として使用される場合、試料中に提供される標的ポリヌクレオチドがアンチセンス核酸の配列と相補的であるように選択されることは、当業者に理解されるであろう。逆に、ヌクレオチドプローブがセンス核酸である場合、標的ポリヌクレオチドはセンス核酸の配列と相補的であるように選択される。
【0283】
ハイブリダイゼーションは、種々のストリンジェンシーの条件下で実施することができる。本発明の実施に好適なハイブリダイゼーション条件は、プローブと生化学的シグナル伝達経路に関連する配列との間の認識相互作用が十分に特異的であるとともに十分に安定しているものである。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーが増加する条件は当該技術分野で広く知られており、発表されている。例えば、(Sambrook,et al.,(1989);Nonradioactive In Situ Hybridization Application Manual,Boehringer Mannheim,second edition)を参照のこと。ハイブリダイゼーションアッセイは、限定はされないが、ニトロセルロース、ガラス、ケイ素、および種々の遺伝子アレイを含めた任意の固体支持体上に固定化されたプローブを使用して形成され得る。好ましいハイブリダイゼーションアッセイは、米国特許第5,445,934号明細書に記載されるとおりの高密度遺伝子チップで実施される。
【0284】
ハイブリダイゼーションアッセイ中に形成されるプローブ-標的複合体を好都合に検出するため、ヌクレオチドプローブが検出可能標識にコンジュゲートされる。本発明における使用に好適な検出可能標識には、光化学的、生化学的、分光学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段で検出可能な任意の組成物が含まれる。幅広い種類の適切な検出可能標識が当該技術分野において公知であり、それには、蛍光または化学発光標識、放射性同位元素標識、酵素または他のリガンドが含まれる。好ましい実施形態では、ジゴキシゲニン、β-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼまたはペルオキシダーゼ、アビジン/ビオチン複合体など、蛍光標識または酵素タグを用いることが所望されるものと思われる。
【0285】
ハイブリダイゼーション強度の検出または定量化に用いられる検出方法は、典型的には上記で選択される標識に依存することになる。例えば、放射標識は、写真フィルムまたはホスフォイメージャー(phosphoimager)を使用して検出し得る。蛍光マーカーは、放出される光を検出するため光検出器を使用して検出および定量化し得る。酵素標識は、典型的には酵素に基質を提供し、基質に対する酵素の作用によって産生された反応産物を計測することにより検出される;および最後に、比色標識は、単純に、着色した標識を可視化することにより検出される。
【0286】
薬剤により引き起こされる、生化学的シグナル伝達経路に関連する配列の発現の変化はまた、対応する遺伝子産物を調べることによっても決定し得る。タンパク質レベルの決定には、典型的には、a)生体試料中に含まれるタンパク質を、生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質に特異的に結合する薬剤と接触させること;および(b)そのようにして形成された任意の薬剤:タンパク質複合体を同定することが関わる。この実施形態の一態様において、生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質に特異的に結合する薬剤は、抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0287】
反応は、薬剤と生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質との間で複合体が形成されることを可能にする条件下で、被験試料から得られた生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質の試料に薬剤を接触させることにより実施される。複合体の形成は、当該技術分野の標準的手順に従い直接的または間接的に検出することができる。直接的な検出方法では、薬剤に検出可能標識が提供され、複合体から未反応薬剤が除去され得る;従って残る標識の量が、形成された複合体の量を示す。かかる方法には、ストリンジェントな洗浄条件の中にあっても薬剤に結合したまま留まる標識を選択することが好ましい。標識は結合反応を妨げないことが好ましい。代替として、間接的な検出手順では、化学的に、あるいは酵素的に導入された標識を含む薬剤を使用し得る。望ましい標識は、概して得られる薬剤:ポリペプチド複合体の結合または安定性を妨げない。しかしながら、標識は典型的には、有効な結合、ひいては検出可能なシグナルの生成のため抗体に接触可能であるように設計される。
【0288】
タンパク質レベルの検出に好適な幅広い種類の標識が当該技術分野において公知である。非限定的な例としては、放射性同位元素、酵素、コロイド金属、蛍光化合物、生物発光化合物、および化学発光化合物が挙げられる。
【0289】
結合反応中に形成された薬剤:ポリペプチド複合体の量は、標準的な定量アッセイにより定量化することができる。上記に説明したとおり、薬剤:ポリペプチド複合体の形成は、結合部位に残る標識の量によって直接計測することができる。代替例では、生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質が、特定の薬剤上の結合部位に関して標識類似体と競合するその能力に関して試験される。この競合アッセイでは、捕捉される標識の量は、被験試料中に存在する生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質配列の量に反比例する。
【0290】
上記に概説した一般的原理に基づく多くのタンパク質分析技術は、当該技術分野において利用可能である。これには、限定はされないが、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合イムノラジオメトリックアッセイ)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、インサイチューイムノアッセイ(例えば、コロイド金、酵素または放射性同位元素標識を使用する)、ウエスタンブロット分析、免疫沈降アッセイ、免疫蛍光アッセイ、およびSDS-PAGEが含まれる。
【0291】
前述のタンパク質分析の実施には、生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質を特異的に認識しまたは結合する抗体が好ましい。望ましい場合、特定のタイプの翻訳後改変(例えば、生化学的シグナル伝達経路誘導性改変)を認識する抗体を使用することができる。翻訳後改変としては、限定はされないが、グリコシル化、脂質化、アセチル化、およびリン酸化が挙げられる。これらの抗体は、商業的な供給業者から購入してもよい。例えば、チロシンリン酸化タンパク質を特異的に認識する抗ホスホチロシン抗体が、InvitrogenおよびPerkin Elmerを含む多くの供給業者から入手可能である。抗ホスホチロシン抗体は、ERストレスに応答してそのチロシン残基で別様にリン酸化されるタンパク質の検出において特に有用である。かかるタンパク質としては、限定はされないが、真核生物翻訳開始因子2α(eIF-2α)が挙げられる。あるいは、これらの抗体は、従来のポリクローナルまたはモノクローナル抗体技術を用いて、所望の翻訳後改変を呈する標的タンパク質で宿主動物または抗体産生細胞を免疫することにより作成し得る。
【0292】
主題の方法を実施するにおいて、異なる体組織、異なる細胞型、および/または異なる細胞内構造における生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質の発現パターンを識別することが望ましいこともある。こうした試験は、特定の組織、細胞型、または細胞内構造で優先的に発現するタンパク質マーカーと結合する能力を有する組織特異的、細胞特異的または細胞内構造特異抗体を使用して実施することができる。
【0293】
生化学的シグナル伝達経路に関連する遺伝子の発現の変化はまた、対照細胞と比べた遺伝子産物の活性の変化を調べることにより決定し得る。薬剤により引き起こされる、生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質の活性の変化に関するアッセイは、調べている生物学的活性および/またはシグナル伝達経路に依存し得る。例えば、タンパク質がキナーゼである場合、下流の1つまたは複数の基質をリン酸化するその能力の変化を当該技術分野において公知の種々のアッセイにより決定することができる。代表的なアッセイとしては、限定はされないが、リン酸化タンパク質を認識する抗ホスホチロシン抗体などの抗体による免疫ブロットおよび免疫沈降が挙げられる。加えて、キナーゼ活性は、AlphaScreen(商標)(Perkin Elmerから入手可能)およびeTag(商標)アッセイ(Chan-Hui,et al.(2003)Clinical Immunology 111:162-174)などのハイスループット化学発光アッセイにより検出することができる。
【0294】
生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質が細胞内pH条件の変動をもたらすシグナル伝達カスケードの一部である場合、蛍光pH色素などのpH感受性分子をレポーター分子として使用することができる。生化学的シグナル伝達経路に関連するタンパク質がイオンチャネルである別の例では、膜電位および/または細胞内イオン濃度の変動をモニタすることができる。多くの市販キットおよびハイスループット装置が、イオンチャネルの調節因子に関する迅速かつロバストなスクリーニングに特に適している。代表的な機器としては、FLIPR(商標)(Molecular Devices,Inc.)およびVIPR(Aurora Biosciences)が挙げられる。これらの機器は、マイクロプレートの1000個を超えるサンプルウェルで同時に反応を検出し、かつ1秒またはさらには1ミリ秒以内にリアルタイムの計測値および機能データを提供する能力を有する。
【0295】
本明細書に開示される任意の方法の実施においては、限定なしに、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、ソノポレーション、微粒子銃、リン酸カルシウム媒介性形質移入、カチオン性形質移入、リポソーム形質移入、デンドリマー形質移入、熱ショック形質移入、ヌクレオフェクション形質移入、マグネトフェクション、リポフェクション、インペイルフェクション(impalefection)、光学的形質移入、有標の薬剤により増強される核酸取り込み、およびリポソーム、免疫リポソーム、ビロソーム、または人工ビリオンを介した送達を含めた当該技術分野で公知の1つ以上の方法によって細胞または胚に好適なベクターを導入することができる。一部の方法では、ベクターはマイクロインジェクションにより胚に導入される。1つまたは複数のベクターが胚の核または細胞質に微量注入され得る。一部の方法では、1つまたは複数のベクターはヌクレオフェクションにより細胞に導入され得る。
【0296】
CRISPR複合体の標的ポリヌクレオチドは、真核細胞に対して内因性または外因性である任意のポリヌクレオチドであり得る。例えば、標的ポリヌクレオチドは、真核細胞の核中に残留するポリヌクレオチドであり得る。標的ポリヌクレオチドは、遺伝子産物(例えば、タンパク質)をコードする配列または非コード配列(例えば、調節ポリヌクレオチドまたはジャンクDNA)であり得る。
【0297】
標的ポリヌクレオチドの例としては、生化学的シグナル伝達経路に関連する配列、例えば、生化学的シグナル伝達経路関連遺伝子またはポリヌクレオチドが挙げられる。標的ポリヌクレオチドの例としては、疾患関連遺伝子またはポリヌクレオチドが挙げられる。「疾患関連」遺伝子またはポリヌクレオチドとは、罹患組織に由来する細胞において非疾患対照の組織または細胞と比較して異常なレベルでまたは異常な形態で転写または翻訳産物を産生している任意の遺伝子またはポリヌクレオチドを指す。それは異常に高いレベルで発現するようになる遺伝子であってもよく;異常に低いレベルで発現するようになる遺伝子であってもよく、ここで発現の変化は疾患の発生および/または進行と相関する。疾患関連遺伝子はまた、疾患の原因に直接関与するかまたはそれに関与する1つまたは複数の遺伝子との連鎖不平衡がある1つまたは複数の突然変異または遺伝的変異を有する遺伝子も指す。転写または翻訳された産物は既知であってもまたは未知であってもよく、および正常レベルであってもまたは異常レベルであってもよい。
【0298】
CRISPR複合体の標的ポリヌクレオチドは、真核細胞にとって内因性または外来性の任意のポリヌクレオチドであり得る。例えば、標的ポリヌクレオチドは、真核細胞の核に存在するポリヌクレオチドであり得る。標的ポリヌクレオチドは、遺伝子産物(例えばタンパク質)をコードする配列または非コード配列(例えば調節ポリヌクレオチドまたはジャンクDNA)であり得る。
【0299】
CRISPR複合体の標的ポリヌクレオチドとしては、それぞれBroad参照番号BI-2011/008/WSGR整理番号44063-701.101およびBI-2011/008/WSGR整理番号44063-701.102を有する米国仮特許出願第61/736,527号明細書および同第61/748,427号明細書(両方とも、標題SYSTEMS METHODS AND COMPOSITIONS FOR SEQUENCE MANIPULATION、それぞれ2012年12月12日および2013年1月2日に出願、これらの全ての内容は参照により全体として本明細書に組み込まれる)に列記の多数の疾患関連遺伝子およびポリヌクレオチドならびにシグナリング生化学経路関連遺伝子およびポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0300】
標的ポリヌクレオチドの例としては、シグナリング生化学経路に関連する配列、例えば、シグナリング生化学経路関連遺伝子またはポリヌクレオチドが挙げられる。標的ポリヌクレオチドの例としては、疾患関連遺伝子またはポリヌクレオチドが挙げられる。「疾患関連」遺伝子またはポリヌクレオチドは、非疾患対照の組織または細胞と比較して患部組織に由来する細胞中で異常なレベルにおいてまたは異常な形態で転写または翻訳産物を生じさせている任意の遺伝子またはポリヌクレオチドを指す。これは、異常に高いレベルにおいて発現されるようになる遺伝子であり得;これは、異常に低いレベルにおいて発現されるようになる遺伝子であり得、発現の変化は、疾患の発生および/または進行と相関する。疾患関連遺伝子は、疾患の病因を直接担い、または疾患の病因を担う遺伝子と連鎖不平衡をなす突然変異または遺伝子変異を有する遺伝子も指す。転写または翻訳される産物は、既知または未知のものであり得、正常または異常レベルにおけるものであり得る。
【0301】
疾患関連遺伝子およびポリヌクレオチドの例を表AおよびBに列記する。疾患特異的情報は、McKusick-Nathans Institute of Genetic Medicine,Johns Hopkins University (Baltimore,Md.)およびNational Center for Biotechnology Information,National Library of Medicine(Bethesda,Md.)から入手可能であり、ワールドワイドウェブから入手可能である。シグナリング生化学経路関連遺伝子およびポリヌクレオチドの例を表Cに列記する。
【0302】
これらの遺伝子および経路中の突然変異は、不適切なタンパク質の産生または機能に影響する不適切な量のタンパク質をもたらし得る。遺伝子、疾患およびタンパク質のさらなる例は、2012年12月12日に出願された米国仮特許出願第61/736,527号明細書および2013年1月2日に出願された61/748,427号明細書から参照により本明細書に組み込まれる。このような遺伝子、タンパク質および経路は、CRISPR複合体の標的ポリヌクレオチドであり得る。
【0303】
【0304】
【0305】
【0306】
【0307】
【0308】
【0309】
【0310】
【0311】
【0312】
【0313】
【0314】
【0315】
【0316】
【0317】
【0318】
【0319】
【0320】
【0321】
本発明の実施形態は、遺伝子のノックアウト、遺伝子の増幅ならびにDNAリピート不安定性および神経学的疾患に関連する特定の突然変異の修復に関連する方法および組成物にも関する(Robert D.Wells,Tetsuo Ashizawa,Genetic Instabilities and Neurological Diseases,Second Edition,Academic Press,Oct 13,2011-Medical)。規定の態様のタンデムリピート配列が20を超えるヒト疾患を担うことが見出されている(New insights into repeat instability:role of RNA・DNA hybrids.McIvor EI,Polak U,Napierala M.RNA Biol.2010 Sep-Oct;7(5):551-8)。CRISPR-Cas系を利用してゲノム不安定性のこれらの異常を補正することができる。
【0322】
本発明のさらなる態様は、ラフォラ病に関連することが同定されているEMP2AおよびEMP2B遺伝子の異常の補正のためのCRISPR-Cas系の利用に関する。ラフォラ病は、青年期において癲癇性発作として始まり得る進行性ミオクローヌス癲癇を特徴とする常染色体劣性病態である。この疾患の数例は、未だ同定されていない遺伝子の突然変異により引き起こされ得る。この疾患は、発作、筋痙攣、歩行困難、認知症、および最終的に死亡を引き起こす。現在、疾患進行に対して有効であることが証明されている治療は存在しない。癲癇に関連する他の遺伝子異常を、CRISPR-Cas系によりターゲティングすることもでき、基礎となる遺伝学は、Genetics of Epilepsy and Genetic Epilepsies,Giuliano Avanzini,Jeffrey L.Noebelsにより編集,Mariani Foundation Paediatric Neurology:20;2009)にさらに記載されている。
【0323】
本発明のさらに別の態様では、CRISPR-Cas系を使用して、Genetic Diseases of the Eye,Second Edition,編者Elias I.Traboulsi,Oxford University Press,2012にさらに記載されるいくつかの遺伝子突然変異により生じる眼の異常が補修され得る。
【0324】
本発明のいくつかのさらなる態様は、米国国立衛生研究所のウェブサイト(health.nih.gov/topic/GeneticDisordersにおけるウェブサイト)上にトピックサブセクションGenetic Disordersのもとでさらに記載されている広範な遺伝子疾患に関連する異常の補正に関する。遺伝子脳疾患としては、限定されるものではないが、副腎白質ジストロフィー、脳梁欠損症、アイカルディ症候群、アルパース病、アルツハイマー病、バース症候群、バッテン病、CADASIL、小脳変性症、ファブリー病、ゲルストマン-ストロイスラー-シャインカー病、ハンチントン病および他のトリプレットリピート病、リー病、レッシュ-ナイハン症候群、メンケス病、ミトコンドリアミオパチーならびにNINDSコルポセファリーが挙げられる。これらの疾患は、米国国立衛生研究所のウェブサイト上にサブセクションGenetic Brain Disordersのもとでさらに記載されている。
【0325】
一部の実施形態において、病態は、新形成である。病態が新形成であり得る一部の実施形態において、ターゲティングすべき遺伝子は、表Aに列記のもののいずれかであり得る(この場合、PTENなど)。一部の実施形態において、病態は、加齢黄斑変性症であり得る。一部の実施形態において、病態は、統合失調症であり得る。一部の実施形態において、病態は、トリヌクレオチドリピート障害であり得る。一部の実施形態において、病態は、脆弱性X症候群であり得る。一部の実施形態において、病態は、セクレターゼ関連障害であり得る。一部の実施形態において、病態は、プリオン関連障害であり得る。一部の実施形態において、病態は、ALSであり得る。一部の実施形態において、病態は、薬物嗜好であり得る。一部の実施形態において、病態は、自閉症であり得る。一部の実施形態において、病態は、アルツハイマー病であり得る。一部の実施形態において、病態は、炎症であり得る。一部の実施形態において、病態は、パーキンソン病であり得る。
【0326】
パーキンソン病に関連するタンパク質の例としては、限定されるものではないが、α-シヌクレイン、DJ-1、LRRK2、PINK1、パーキン、UCHL1、シンフィリン-1、およびNURR1が挙げられる。
【0327】
嗜好関連タンパク質の例としては、例えば、ABATを挙げることができる。
【0328】
炎症関連タンパク質の例としては、例えば、Ccr2遺伝子によりコードされる単球走化性タンパク質-1(MCP1)、Ccr5遺伝子によりコードされるC-Cケモカイン受容体5型(CCR5)、Fcgr2b遺伝子によりコードされるIgG受容体IIB(FCGR2b、CD32とも称される)、またはFcer1g遺伝子によりコードされるFcイプシロンR1g(FCER1g)タンパク質を挙げることができる。
【0329】
心血管疾患関連タンパク質の例としては、例えば、IL1B(インターロイキン1、ベータ)、XDH(キサンチンデヒドロゲナーゼ)、TP53(腫瘍タンパク質p53)、PTGIS(プロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)シンターゼ)、MB(ミオグロビン)、IL4(インターロイキン4)、ANGPT1(アンジオポエチン1)、ABCG8(ATP結合カセット、サブファミリーG(WHITE)、メンバー8)、またはCTSK(カテプシンK)を挙げることができる。
【0330】
アルツハイマー病関連タンパク質の例としては、例えば、VLDLR遺伝子によりコードされる超低密度リポタンパク質受容体タンパク質(VLDLR)、UBA1遺伝子によりコードされるユビキチン様修飾因子活性化酵素1(UBA1)、またはUBA3遺伝子によりコードされるNEDD8活性化酵素E1触媒サブユニットタンパク質(UBE1C)を挙げることができる。
【0331】
自閉症スペクトラム障害に関連するタンパク質の例としては、例えば、BZRAP1遺伝子によりコードされるベンゾジアゼピン受容体(末梢性)関連タンパク質1(BZRAP1)、AFF2遺伝子(MFR2とも称される)によりコードされるAF4/FMR2ファミリーメンバー2タンパク質(AFF2)、FXR1遺伝子によりコードされる脆弱性X精神遅滞常染色体ホモログ1タンパク質(FXR1)、またはFXR2遺伝子によりコードされる脆弱性X精神遅滞常染色体ホモログ2タンパク質(FXR2)を挙げることができる。
【0332】
黄斑変性症に関連するタンパク質の例としては、例えば、ABCR遺伝子によりコードされるATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)メンバー4タンパク質(ABCA4)、APOE遺伝子によりコードされるアポリポタンパク質Eタンパク質(APOE)、またはCCL2遺伝子によりコードされるケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド2タンパク質(CCL2)を挙げることができる。
【0333】
統合失調症に関連するタンパク質の例としては、NRG1、ErbB4、CPLX1、TPH1、TPH2、NRXN1、GSK3A、BDNF、DISC1、GSK3B、およびそれらの組合せを挙げることができる。
【0334】
腫瘍抑制に関与するタンパク質の例としては、例えば、ATM(毛細血管拡張性運動失調症変異)、ATR(毛細血管拡張性運動失調症およびRad3関連)、EGFR(上皮成長因子受容体)、ERBB2(v-erb-b2赤芽球性白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ2)、ERBB3(v-erb-b2赤芽球性白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ3)、ERBB4(v-erb-b2赤芽球性白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ4)、Notch1、Notch2、Notch3、またはNotch4を挙げることができる。
【0335】
セクレターゼ障害に関連するタンパク質の例としては、例えば、PSENEN(プレセニリンエンハンサー2ホモログ(線虫(C.elegans)))、CTSB(カテプシンB)、PSEN1(プレセニリン1)、APP(アミロイドベータ(A4)前駆体タンパク質)、APH1B(咽頭前部欠損1ホモログB(線虫(C.elegans)))、PSEN2(プレセニリン2(アルツハイマー病4))、またはBACE1(ベータ部位APP開裂酵素1)を挙げることができる。
【0336】
筋萎縮性側索硬化症に関連するタンパク質の例には、SOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)、ALS2(筋萎縮性側索硬化症2)、FUS(肉腫融合)、TARDBP(TAR DNA結合タンパク質)、VAGFA(血管内皮増殖因子A)、VAGFB(血管内皮増殖因子B)、およびVAGFC(血管内皮増殖因子C)、およびそれらの任意の組み合わせが含まれ得る。
【0337】
プリオン疾患に関連するタンパク質の例としては、SOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)、ALS2(筋萎縮性側索硬化症2)、FUS(fused in sarcoma)、TARDBP(TAR DNA結合タンパク質)、VAGFA(血管内皮成長因子A)、VAGFB(血管内皮成長因子B)、およびVAGFC(血管内皮成長因子C)、およびそれらの任意の組合せを挙げることができる。
【0338】
プリオン障害における神経変性病態に関連するタンパク質の例としては、例えば、A2M(アルファ-2-マクログロブリン)、AATF(アポトーシス拮抗転写因子)、ACPP(前立腺酸性ホスファターゼ)、ACTA2(大動脈平滑筋アクチンアルファ2)、ADAM22(ADAMメタロペプチダーゼドメイン)、ADORA3(アデノシンA3受容体)、またはADRA1D(アルファ-1Dアドレナリン受容体についてのアルファ-1Dアドレナリン作動性受容体)を挙げることができる。
【0339】
免疫不全症に関連するタンパク質の例としては、例えば、A2M[アルファ-2-マクログロブリン];AANAT[アリールアルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ];ABCA1[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)、メンバー1];ABCA2[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)、メンバー2];またはABCA3[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)、メンバー3]を挙げることができる。
【0340】
トリヌクレオチドリピート障害に関連するタンパク質の例としては、例えば、AR(アンドロゲン受容体)、FMR1(脆弱性X精神遅滞1)、HTT(ハンチントン)、またはDMPK(筋緊張性異栄養症タンパク質キナーゼ)、FXN(フラタキシン)、ATXN2(アタキシン2)が挙げられる。
【0341】
神経伝達障害に関連するタンパク質の例としては、例えば、SST(ソマトスタチン)、NOS1(一酸化窒素シンターゼ1(神経型))、ADRA2A(アドレナリン作動性アルファ-2A受容体)、ADRA2C(アドレナリン作動性アルファ-2C受容体)、TACR1(タキキニン受容体1)、またはHTR2c(5-ヒドロキシトリプタミン(セロトニン)受容体2C)が挙げられる。
【0342】
神経発達関連配列の例としては、例えば、A2BP1[アタキシン2結合タンパク質1]、AADAT[アミノアジピン酸アミノトランスフェラーゼ]、AANAT[アリールアルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ]、ABAT[4-アミノ酪酸アミノトランスフェラーゼ]、ABCA1[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)メンバー1]、またはABCA13[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)メンバー13]が挙げられる。
【0343】
本発明の系により治療可能な好ましい病態のさらなる例は、以下のものから選択することができる:アルカルディ-グティエール症候群;アレキサンダー病;アラン-ハーンドン-ダッドリー症候群;POLG関連障害;アルファ-マンノシドーシス(IIおよびIII型);アルストレム症候群;アンジェルマン症候群;毛細血管拡張性運動失調症;神経セロイドリポフスチン症;ベータ-セラサミア;両側性視神経委縮症および(幼児型)視神経委縮症1型;網膜芽腫(両側性);カナバン病;脳・眼・顔・骨格症候群1[COFS1];脳腱黄色腫症;コルネリア・デ・ラング症候群;MAPT関連障害;遺伝性プリオン病;ドラベ症候群;早期発症型家族性アルツハイマー病;フリードライヒ運動失調症[FRDA];フリンス症候群;フコシドーシス;福山型先天性筋ジストロフィー;ガラクトシアリドーシス;ゴーシェ病;有機酸血症;血球貪食性リンパ組織球症;ハッチンソン-ギルフォード早老症候群;ムコリピドーシスII型;幼児遊離シアル酸蓄積症;PLA2G6関連神経変性症;ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群;接合型表皮水疱症;ハンチントン病;クラッベ病(幼児型);ミトコンドリアDNA関連リー症候群およびNARP;レッシュ-ナイハン症候群;LIS1関連滑脳症;ロウ症候群;メープルシロップ尿症;MECP2重複症候群;ATP7A関連銅輸送障害;LAMA2関連筋ジストロフィー;アリールスルファターゼA欠損症;ムコ多糖症I、IIまたはIII型;ペルオキシソーム形成異常症、ツェルウェーガー症候群スペクトラム;脳の鉄蓄積症を伴う神経変性症;酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症;ニーマン-ピック病C型;グリシン脳症;ARX関連障害;尿素サイクル異常症;COL1A1/2関連骨形成不全症;ミトコンドリアDNA欠失症候群;PLP1関連障害;ペリー症候群;フェラン-マクダーモット症候群;グリコーゲン蓄積症II型(ポンペ病)(幼児型);MAPT関連障害;MECP2関連障害;肢根型点状軟骨異形成症1型;ロバーツ症候群;サンドホフ病;シンドラー病1型;アデノシンデアミナーゼ欠損症;スミス-レムリ-オピッツ症候群;脊髄性筋萎縮症;幼児期発症型脊髄小脳失調症;ヘキソサミニダーゼA欠損症;致死性異形成1型;コラーゲンVI型関連障害;アッシャー症候群I型;先天性筋ジストロフィー;ウォルフ-ヒルシュホーン症候群;リソソーム酸リパーゼ欠損症;ならびに色素性乾皮症。
【0344】
明らかなとおり、本発明の系を使用して任意の目的ポリヌクレオチド配列をターゲティングすることができることが想定される。本発明の系を使用して有用に治療することができる病態または疾患の一部の例を上記表に含め、それらの病態に現在関連する遺伝子の例もその表に提供する。しかしながら、例示される遺伝子は排他的なものではない。
【0345】
例えば、「野生型StCas9」は、タンパク質配列がSwissProtデータベースにおいて受託番号G3ECR1として提供されるS thermophilus(S サーモフィラス)由来の野生型Cas9を指す。同様に、化膿連鎖球菌(S pyogenes)Cas9が、SwissProtに受託番号Q99ZW2として含まれる。
【0346】
CRISPR-Cas系を使用して効率的かつ費用対効果の高い遺伝子編集および操作を実施可能であることにより、生産を向上させかつ形質を強化するための単一の迅速な選択および比較ならびにかかるゲノムを形質転換する多重化した遺伝子操作が実現し得る。この点に関しては、米国特許および公開公報:米国特許第6,603,061号明細書-アグロバクテリウム属媒介性植物形質転換方法(Agrobacterium-Mediated Plant Transformation Method);米国特許第7,868,149号明細書-植物ゲノム配列およびその使用(Plant Genome Sequences and Uses Thereof)および米国特許出願公開第2009/0100536号明細書-強化された農業形質を備えるトランスジェニック植物(Transgenic Plants with Enhanced Agronomic Traits)(これらの各々の内容および開示は全て、全体として参照により組み込まれる)が参照される。本発明の実施においては、Morrell et al「作物ゲノミクス:進歩と応用(Crop genomics:advances and applications)」Nat Rev Genet.2011 Dec 29;13(2):85-96の内容および開示もまた、本明細書に全体として参照により組み込まれる。
【実施例】
【0347】
以下の実施例を、本発明の種々の実施形態を説明する目的のために挙げ、それらは本発明をいかなる様式にも限定することを意味しない。本実施例は、本明細書に記載の方法とともに、目下好ましい実施形態の代表例であり、例示であり、本発明の範囲に対する限定を意図するものではない。特許請求の範囲の範囲により定義される本発明の趣旨に包含されるその変更および他の使用は、当業者が行う。
【0348】
実施例1:クローニングおよび送達を単純化する方法論的改良。
プラスミド上のU6プロモーターおよびガイドRNAをコードするよりむしろ、本出願人らはU6プロモーターをDNAオリゴと共に増幅してガイドRNAを付加した。得られたPCR産物を細胞に形質移入してガイドRNAの発現をドライブすることができる。
【0349】
U6プロモーター::ヒトEmx1遺伝子座を標的にするガイドRNAからなるPCR産物の生成を可能にする例示的プライマー対:
フォワードプライマー:
【化2】
リバースプライマー(ガイドRNA(下線)を有する):
【化3】
【0350】
実施例2:活性を向上させる方法論的改良:
真核細胞でガイドRNAを発現させるためにpol3プロモーター、詳細にはRNAポリメラーゼIII(例えばU6またはH1プロモーター)を使用するよりむしろ、本出願人らは真核細胞でT7ポリメラーゼを発現させることにより、T7プロモーターを使用してガイドRNAの発現をドライブする。
【0351】
この系の一例は、3つのDNA断片の導入を伴い得る:
1.Cas9の発現ベクター
2.T7ポリメラーゼの発現ベクター
3.T7プロモーターと融合したガイドRNAを含む発現ベクター
【0352】
実施例3:Cas9の毒性を低下させる方法論的改良:mRNA形態のCas9の送達。
Cas9をmRNAの形態で送達することにより、細胞でのCas9の一過性発現が可能となり、毒性が低下する。例えば、ヒト化SpCas9は、以下のプライマー対を使用して増幅し得る:
フォワードプライマー(インビトロ転写用にT7プロモーターを付加するため):
【化4】
リバースプライマー(ポリAテールを付加するため):
【化5】
【0353】
本出願人らは、真核細胞におけるガイドRNA発現をドライブするようにRNAまたはDNAカセットの形態のいずれかのガイドRNAと共にCas9 mRNAを細胞に形質移入する。
【0354】
実施例4:Cas9の毒性を低下させる方法論的改良:誘導性プロモーターの使用
本出願人らは、ゲノム改変を実行するのに必要となった場合に限りCas9発現を一過性にオンにする。誘導性システムの例には、テトラサイクリン誘導性プロモーター(Tet-OnまたはTet-Off)、小分子2ハイブリッド転写活性化システム(FKBP、ABA等)、または光誘導性システム(フィトクロム、LOVドメイン、またはクリプトクロム)が含まれる。
【0355】
実施例5:インビボ適用のためのCas9系の改良
本出願人らは、低分子量のCas9に対してメタゲノム検索を行った。多くのCas9ホモログはかなり大きい。例えばSpCas9は約1368アミノ酸長であり、これは大き過ぎるため送達用のウイルスベクターへのパッケージングが容易でない。GenBankに寄託されている配列からCas9ホモログの長さ分布を表すグラフが作成される(
図5)。配列の中には誤って注釈されているものもあり、従って各長さについての正確な度数は必ずしも正しいとは限らない。それでもなお、これによりCas9タンパク質の分布の概観が得られ、より短いCas9ホモログの存在が示唆される。
【0356】
本出願人らは、コンピュータ解析により、細菌株カンピロバクター属(Campylobacter)に1000アミノ酸未満のCas9タンパク質が2つあることを見出した。カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)由来の1つのCas9の配列を以下に提供する。この長さでは、CjCas9は、初代細胞へのおよび動物モデルにおけるインビボでのロバストな送達のためAAV、レンチウイルス、アデノウイルス、および他のウイルスベクターに容易にパッケージングすることができる。本発明の好ましい実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のCas9タンパク質が使用される。
【0357】
>カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)Cas9(CjCas9)
【化6】
【0358】
このCjCas9に対する推定tracrRNAエレメントは以下である:
【化7】
【0359】
【0360】
CjCas9に対するキメラガイドRNAの例は以下である:
【化9】
【0361】
実施例6:Cas9最適化
機能強化のためまたは新規機能を開発するため、本出願人らは異なるCas9ホモログの断片を組み合わせることにより、キメラCas9タンパク質を作成する。例えば、2つの例示的なキメラCas9タンパク質:
例えば、本出願人らは、St1Cas9(このタンパク質からの断片は太字とする)のN末端を、SpCas9(このタンパク質からの断片には下線を引く)のC末端と融合した。
>St1(N)Sp(C)Cas9
【化10】
>Sp(N)St1(C)Cas9
【化11】
【0362】
キメラCas9を作製することの利益には、以下が含まれる:
毒性が低下する
真核細胞における発現が向上する
特異性が強化される
タンパク質の分子量が低下し、異なるCas9ホモログからの最も小さいドメインを組み合わせることによりタンパク質が小さくなる。
PAM配列要件の変更
【0363】
実施例7:汎用DNA結合タンパク質としてのCas9の利用
本出願人らは、DNA標的の両鎖の開裂に関与する2つの触媒ドメイン(D10およびH840)を突然変異させることにより、Cas9を汎用DNA結合タンパク質として使用した。標的遺伝子座における遺伝子転写を上方制御するため、本出願人らはCas9に転写活性化ドメイン(VP64)を融合した。本出願人らは、転写因子活性化強度が標的で費やされる時間の関数であるため、Cas9-VP64融合タンパク質の強力な核局在を認めることが重要であるという仮説を立てた。従って、本出願人らは一組のCas9-VP64-GFP構築物をクローニングし、それらを293細胞に形質移入し、形質移入後12時間でその局在を蛍光顕微鏡下で評価した。
【0364】
嵩高いGFPの存在が妨げとなることなく構築物を機能的に試験するため、同じ構築物を、直接的な融合ではなく、2A-GFPとしてクローニングした。Sox2遺伝子座は細胞の再プログラム化に有用となり得るとともに、この遺伝子座はTALE-TF媒介性転写活性化の標的として既に検証されているため、本出願人らはSox2遺伝子座をCas9トランス活性化因子による標的とすることにした。Sox2遺伝子座について、本出願人らは転写開始部位(TSS)近傍の8つの標的を選んだ。各標的は20bp長であり、隣接するNGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を有した。各Cas9-VP64構築物を各PCR生成キメラcrispr RNA(chiRNA)と293細胞に同時形質移入した。形質移入後72時間でRT-qPCRを使用して転写活性化を評価した。
【0365】
転写活性化因子をさらに最適化するため、本出願人らは、chiRNA(Sox2.1およびSox2.5)とCas9(NLS-VP64-NLS-hSpCas9-NLS-VP64-NLS)との比率をタイトレートし、293細胞に形質移入し、およびRT-qPCRを使用して定量化した。これらの結果は、Cas9を汎用DNA結合ドメインとして使用して標的遺伝子座における遺伝子転写を上方制御し得ることを示している。
【0366】
本出願人らは、第2世代の構築物を設計した(以下のリストを参照)。
【0367】
【0368】
本出願人らはこれらの構築物を使用して転写活性化(VP64融合構築物)および抑制(Cas9のみ)をRT-qPCRにより評価する。本出願人らは抗His抗体を使用して各構築物の細胞局在を評価し、Surveyorヌクレアーゼアッセイを使用してヌクレアーゼ活性を評価し、およびゲルシフトアッセイを使用してDNA結合親和性を評価する。本発明の好ましい実施形態において、ゲルシフトアッセイはEMSAゲルシフトアッセイである。
【0369】
実施例8:Cas9トランスジェニックおよびノックインマウス
Cas9ヌクレアーゼを発現するマウスを作成するため、本出願人らは2つの一般的戦略、トランスジェニックとノックインとを提示する。これらの戦略は、目的とする任意の他のモデル生物の作成、例えばラットに適用し得る。これらの一般的戦略の各々について、本出願人らは、構成的に活性なCas9と、条件的に発現する(Creリコンビナーゼ依存性の)Cas9とを作製する。構成的に活性なCas9ヌクレアーゼは以下のコンテクストで発現する:pCAG-NLS-Cas9-NLS-P2A-EGFP-WPRE-bGHpolyA。pCAGはプロモーターであり、NLSは核局在化シグナルであり、P2Aはペプチド開裂配列であり、EGFPは高感度緑色蛍光タンパク質であり、WPREはウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメントであり、およびbGHpolyAはウシ成長ホルモンポリAシグナル配列である(
図7A~
図7B)。条件的バージョンは、プロモーターの後ろおよびNLS-Cas9-NLSの前に1つのさらなる終止カセットエレメント、loxP-SV40 polyA x3-loxPを有する(すなわち pCAG-loxP-SV40polyAx3-loxP-NLS-Cas9-NLS-P2A-EGFP-WPRE-bGHpolyA)。重要な発現エレメントは
図8のとおり可視化することができる。構成的構築物は開発全体を通して全ての細胞型で発現しなければならないが、条件的構築物は、同じ細胞がCreリコンビナーゼを発現するときに限りCas9発現を可能にし得る。この後者のバージョンは、Creが組織特異的プロモーターの発現下にあるときCas9の組織特異的発現を可能にし得る。さらに、CreをTET onまたはoffシステムなどの誘導性プロモーターの発現下に置くことにより、Cas9発現を成体マウスで誘導することができる。
【0370】
Cas9構築物の検証:各プラスミドを3つの方法で機能検証した:1)293細胞における一過性形質移入と、続くGFP発現の確認;2)293細胞における一過性形質移入と、続くP2A配列を認識する抗体を使用した免疫蛍光法;および3)一過性形質移入と、続くSurveyorヌクレアーゼアッセイ。293細胞は、目的の細胞に応じて293FT細胞または293 T細胞であってもよい。好ましい実施形態では、細胞は293FT細胞である。Surveyorの結果は、条件的および構成的構築物についてゲルのそれぞれ最上列および最下列で実施した。各々を、hEMX1遺伝子座を標的にするキメラRNA(キメラRNA hEMX1.1)の存在下および非存在下で試験した。結果は、この構築物がキメラRNA(および条件的の場合にはCre)の存在下においてのみhEMX1遺伝子座のターゲティングに成功し得ることを示している。ゲルを定量化した。結果は3試料の平均切断効率および標準偏差として提供する。
【0371】
トランスジェニックCas9マウス:構築物を有するトランスジェニックマウスを作成するため、本出願人らは純粋な線状DNAを偽妊娠CB56雌由来の接合体の前核に注入する。ファウンダーを同定し、遺伝子型を決定し、CB57マウスと戻し交配させる。構築物がクローニングが成功し、これはサンガーシーケンシングによって確認された。
【0372】
ノックインCas9マウス:Cas9ノックインマウスを作成するため、本出願人らは同じ構成的および条件的構築物をRosa26遺伝子座にターゲティングする。本出願人らはこれを、以下のエレメントを有するRosa26ターゲティングベクターに各々をクローニングすることにより行った:Rosa26ショート相同性アーム-構成的/条件的Cas9発現カセット-pPGK-Neo-Rosa26ロング相同性アーム-pPGK-DTA。pPGKは、PGKによりドライブされる、ネオマイシンに対する耐性を付与するポジティブ選択マーカーNeo、1kbショートアーム、4.3kbロングアーム、およびネガティブ選択ジフテリア毒素(DTA)に対するプロモーターである。
【0373】
2つの構築物をR1 mESCにエレクトロポレートし、2日間成長させておいた後、ネオマイシン選択を適用した。5~7日目まで生存していた個々のコロニーを取り、個別のウェルで成長させた。5~7日後にコロニーを回収し、半分は凍結し、残りの半分は遺伝子タイピングに使用した。遺伝子タイピングはゲノムPCRにより行い、ここでは一方のプライマーをドナープラスミド(AttpF)内にアニールし、他方のプライマーをショート相同性アーム(Rosa26-R)の外側にアニールした。条件的ケース用に回収した22個のコロニーのうち、7個が陽性であった(左)。構成的ケース用に回収した27個のコロニーのうち、陽性は0個であった(右)。Cas9がmESCにおいてあるレベルの毒性を引き起こし、そのため陽性クローンがなかったものと思われる。これを試験するため、本出願人らは正しくターゲティングされる条件的Cas9細胞にCre発現プラスミドを導入し、培養下で何日も経った後にも極めて低毒性であることを認めた。正しくターゲティングされる条件的Cas9細胞におけるCas9のコピー数の低下(細胞当たり1~2コピー)は、安定発現および相対的な無細胞毒性を可能にするのに十分である。さらに、このデータはCas9コピー数が毒性を決定することを示している。エレクトロポレーション後、各細胞は数コピーのCas9を得るはずで、これが、構成的Cas9構築物の場合に陽性コロニーが認められなかった理由であると思われる。これは、条件的Cre依存戦略を利用すると毒性の低下が示されるはずであるという強力なエビデンスを提供する。本出願人らは、正しくターゲティングされる細胞を胚盤胞に注入して雌マウスに移植する。キメラを同定し、戻し交配させる。ファウンダーを同定し、遺伝子型を決定する。
【0374】
条件的Cas9マウスの有用性:本出願人らは、293細胞において、Creとの同時発現によりCas9条件的発現構築物を活性化し得ることを示している。本出願人らはまた、Creが発現するとき正しくターゲティングされるR1 mESCが活性Cas9を有し得ることも示す。Cas9の後にはP2Aペプチド開裂配列と、次にEGFPが続くため、本出願人らはEGFPを観察することにより発現の成功を特定する。この同じ概念が、条件的Cas9マウスを極めて有用にするものである。本出願人らはそれらの条件的Cas9マウスを、Creを遍在的に発現するマウス(ACTB-Cre系統)と交配させることができ、あらゆる細胞でCas9を発現するマウスが得られ得る。胎仔または成体マウスにおいてゲノム編集を誘導するために必要なことはキメラRNAの送達のみであるはずである。興味深いことに、条件的Cas9マウスを組織特異的プロモーターの制御下でCreを発現するマウスと交配させる場合、同様にCreを発現する組織にのみCas9が存在するはずである。この手法を用いて正確な組織に限ったゲノムの編集を、同組織にキメラRNAを送達することにより行い得る。
【0375】
実施例9:Cas9の多様性およびキメラRNA
CRISPR-Cas系は、細菌および古細菌にわたる多様な種により用いられる侵入外来性DNAに対する適応免疫機構である。II型CRISPR-Cas系は、CRISPR遺伝子座への外来DNAの「獲得」に関与するタンパク質をコードする一組の遺伝子、ならびにDNA開裂機構の「遂行」をコードする一組の遺伝子からなる;これらには、DNAヌクレアーゼ(Cas9)、非コードトランス活性化cr-RNA(tracrRNA)、および外来DNA由来のスペーサーにダイレクトリピートが隣接したアレイ(crRNA)が含まれる。Cas9による成熟時、tracrRNAおよびcrRNA二重鎖が、スペーサーガイド配列により特定されるCas9ヌクレアーゼを標的DNA配列にガイドし、開裂に必要でかつ各CRISPR-Cas系に特異的な、標的DNAの短鎖配列モチーフ近傍でのDNAの二本鎖切断を媒介する。II型CRISPR-Cas系は細菌界全体にわたり見られ、Cas9タンパク質配列およびサイズ、tracrRNAおよびcrRNAダイレクトリピート配列、これらのエレメントのゲノム構成、および標的開裂のモチーフ要件の点で高度に多様である。1つの種が複数の異なるCRISPR-Cas系を有し得る。
【0376】
本出願人らは、既知のCas9との配列相同性および既知のサブドメイン、例えばHNHエンドヌクレアーゼドメインおよびRuvCエンドヌクレアーゼドメイン[Eugene KooninおよびKira Makarovaからの情報]とオルソロガスな構造に基づき同定された細菌種から207個の推定Cas9を評価した。このセットのタンパク質配列保存に基づく系統発生解析から、3群の大型Cas9(約1400アミノ酸)および2群の小型Cas9(約1100アミノ酸)を含む5つのCas9ファミリーが明らかとなった(
図3および
図4A~
図4F)。
【0377】
本出願人らはまた、インビトロ方法を用いてCas9ガイドRNAの最適化も行っている。
【0378】
実施例10:Cas9突然変異
本実施例において、本出願人らは、以下の突然変異がSpCas9をニック形成酵素に変換し得ることを示す:D10A、E762A、H840A、N854A、N863A、D986A。
【0379】
本出願人らは、突然変異点がSpCas9遺伝子内のどこに局在するかを示す配列を提供する(
図6A~
図6M)。本出願人らは、ニッカーゼが相同組換えを依然として媒介し得ることも示す。さらに、本出願人らは、これらの突然変異を有するSpCas9が(個々に)二本鎖切断を誘導しないことを示す。
【0380】
Cas9オルソログは全て、3~4個のRuvCドメインおよびHNHドメインの一般的構成を共有する。最も5’側のRuvCドメインが非相補鎖を開裂し、HNHドメインが相補鎖を開裂する。表記は全てガイド配列を参照する。
【0381】
5’RuvCドメインの触媒残基は、目的のCas9を他のCas9オルソログ(化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)II型CRISPR遺伝子座、S.サーモフィルス(S.thermophilus)CRISPR遺伝子座1、S.サーモフィルス(S.thermophilus)CRISPR遺伝子座3、およびフランシセラ・ノビシダ(Franciscilla novicida)II型CRISPR遺伝子座由来)と相同性比較することによって同定され、保存されたAsp残基をアラニンに突然変異させることにより、Cas9が相補鎖ニッキング酵素に変換される。同様に、HNHドメインの保存されたHisおよびAsn残基をアラニンに突然変異させることにより、Cas9が非相補鎖ニッキング酵素に変換される。
【0382】
実施例11:Cas9転写活性化およびCas9リプレッサー
Cas9転写活性化
第2世代の構築物を設計してパイプライン中で試験する(表1)。これらの構築物を使用して転写活性化(VP64融合構築物)および抑制(Cas9のみ)をRT-qPCRにより評価する。本出願人らは、抗His抗体を使用して各構築物の細胞局在を評価し、Surveyorヌクレアーゼアッセイを使用してヌクレアーゼ活性を評価し、およびゲルシフトアッセイを使用してDNA結合親和性を評価する。
【0383】
Casリプレッサー
dCas9を汎用DNA結合ドメインとして使用して遺伝子発現を抑制し得ることがこれまでに示されている。本出願人らは、改良されたdCas9設計ならびにリプレッサードメインKRABおよびSID4xに対するdCas9融合を報告する。表1におけるCas9を使用して転写を調節するため作成されたプラスミドライブラリから、以下のリプレッサープラスミドがqPCRにより機能的に特徴付けられた:pXRP27、pXRP28、pXRP29、pXRP48、pXRP49、pXRP50、pXRP51、pXRP52、pXRP53、pXRP56、pXRP58、pXRP59、pXRP61、およびpXRP62。
【0384】
各dCas9リプレッサープラスミドを、β-カテニン遺伝子のコード鎖にターゲティングされた2つのガイドRNAと共に同時形質移入した。形質移入後72時間でRNAを単離し、RT-qPCRによって遺伝子発現を定量化した。内在性対照遺伝子はGAPDHであった。2つのバリデートされたshRNAを陽性対照として使用した。陰性対照はgRNAなしに形質移入した特定のプラスミド(これらは「pXRP##対照」と表される)であった。プラスミドpXRP28、pXRP29、pXRP48、およびpXRP49は、指定される標的化戦略を用いるときβ-カテニン遺伝子を抑制することができた。このようなプラスミドは、機能ドメインを有しないdCas9(pXRP28およびpXRP28)、およびSID4xに融合したdCas9(pXRP48およびpXRP49)に対応する。
【0385】
さらなる研究では以下を調べる:上記の実験の反復、種々の遺伝子のターゲティング、他のgRNAを利用した最適なターゲティング位置の決定、および多重抑制。
【0386】
【0387】
【0388】
実施例12:コレステロール生合成、脂肪酸生合成、および他の代謝疾患に関与する遺伝子、アミロイド病および他の疾患に関与する誤って折り畳まれたタンパク質をコードする遺伝子、細胞形質転換を引き起こす癌遺伝子、潜伏ウイルス遺伝子、および数ある障害の中でも特にドミナントネガティブ障害を引き起こす遺伝子の標的欠失。
本出願人らは、ウイルス送達系あるいはナノ粒子送達系を用いた、代謝疾患、アミロイドーシスおよびタンパク質凝集関連疾患、遺伝子突然変異および転座により生じる細胞形質転換、遺伝子突然変異のドミナントネガティブ効果、潜伏ウイルス感染、および他の関連症状に罹患した、必要性のある対象または患者における肝組織、脳組織、眼組織、上皮組織、造血組織、または別の組織でのCRISPR-Cas系の遺伝子送達を実証する。
【0389】
研究設計:代謝疾患、アミロイドーシスおよびタンパク質凝集関連疾患に罹患した、必要性のある対象または患者としては、限定はされないが、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、他の家畜および関連哺乳動物が含まれる。CRISPR-Cas系はキメラガイドRNAにガイドされ、開裂しようとするヒトゲノム遺伝子座の特定の部位を標的にする。開裂および非相同末端結合媒介性修復の後、フレームシフト突然変異により遺伝子のノックアウトがもたらされる。
【0390】
本出願人らは、上述の障害に関わる遺伝子を標的にするガイドRNAを、最小限のオフターゲット活性で内因性遺伝子座に特異的であるように選択する。2つ以上のガイドRNAを単一のCRISPRアレイにコードすることによりDNAに同時の二本鎖切断を誘導し、罹患した遺伝子または染色体領域の微小欠失を生じさせてもよい。
【0391】
遺伝子標的の同定および設計
各候補疾患遺伝子について、本出願人らは目的のDNA配列を選択し、それにはタンパク質コードエクソン、既知のドミナントネガティブ突然変異部位を含みかつそれに隣接する配列、病的反復配列を含みかつそれに隣接する配列が含まれる。遺伝子ノックアウト手法に関して、開始コドンに最も近接した初期コードエクソンが、完全なノックアウトを達成し、かつ部分的な機能を保持するトランケート型タンパク質産物となる可能性を最小限に抑えるのに最良の選択肢を提供する。
【0392】
本出願人らは、NGGモチーフ(SpCas9系について)またはNNAGAAW(St1Cas9系について)の直ちに5’側にある可能な全てのターゲティング可能20bp配列に関して目的の配列を分析する。本出願人らは、特異性を決定する計算アルゴリズムに基づきオフターゲット効果が最小限に抑えられるように、ゲノムにおけるRNAによってガイドされるユニークな単一のCas9認識用配列を選択する。
【0393】
送達系へのガイド配列のクローニング
ガイド配列は二本鎖20~24bpオリゴヌクレオチドとして合成される。オリゴを5’-リン酸化処理し、アニーリングにより二重鎖を形成した後、オリゴを送達方法に応じた好適なベクターにライゲートする:
【0394】
ウイルスベースの送達方法
AAVベースのベクター(PX260、330、334、335)が他の部分に記載されている。
レンチウイルスベースのベクターは、U6プロモーターによってドライブされるキメラRNA足場と、EF1aプロモーターによってドライブされるCas9またはCas9ニッカーゼとを担持する単一のベクターにガイド配列を直接ライゲートする同様のクローニング戦略を用いる。
【0395】
ウイルス産生については他の部分に記載される。
【0396】
ナノ粒子ベースのRNA送達方法
1.T7プロモーター-ガイド配列キメラRNAをコードするオリゴヌクレオチド二重鎖としてガイド配列を合成する。T7プロモーターをCas9の5’にPCR方法によって付加する。
【0397】
2.T7によりドライブされるCas9およびガイドキメラRNAをインビトロで転写し、市販のキットを使用してCas9 mRNAをさらにキャッピングし、Aテールを付加する。キットの説明書に従いRNA産物を精製する。
【0398】
流体力学的尾静脈送達方法(マウスに対して)
ガイド配列を、上記および本出願の他の部分に記載するとおりAAVプラスミドにクローニングする。
【0399】
細胞系に関するインビトロ検証
形質移入
1.DNAプラスミド形質移入
ガイド配列を担持するプラスミドをヒト胎児腎臓(HEK293T)細胞またはヒト胚性幹(hES)細胞、他の関連性のある細胞型に、脂質ベース、化学ベースまたはエレクトロポレーションベースの方法を使用して形質移入する。HEK293T細胞の24ウェル形質移入(約260,000細胞)に対しては、500ngの総DNAを、リポフェクタミン2000を使用して各ウェルに形質移入する。hES細胞の12ウェル形質移入に対しては、1ugの総DNAを、Fugene HDを使用して単一のウェルに形質移入する。
【0400】
2.RNA形質移入
上記に記載する精製RNAを、HEK293T細胞への形質移入に使用する。1~2ugのRNAを、製造者の指示に従いリポフェクタミン2000を使用して約260,000個に形質移入し得る。Cas9およびキメラRNAのRNA送達を
図10に示す。
【0401】
インビトロインデル形成アッセイ
形質移入後72時間で細胞を回収し、二本鎖切断の指標としてのインデル形成に関してアッセイする。
【0402】
簡潔に言えば、標的配列の周りのゲノム領域を、高フィデリティポリメラーゼを使用してPCR増幅する(約400~600bpアンプリコンサイズ)。産物を精製し、等濃度に標準化し、95℃から4℃まで徐々にアニーリングしてDNAヘテロ二本鎖を形成させる。アニーリング後、Cel-I酵素を使用してヘテロ二本鎖を開裂し、得られた産物をポリアクリルアミドゲル上で分離し、インデル効率を計算する。
【0403】
動物におけるインビボ原理証明
送達機構
AAVまたはレンチウイルス作製については他の部分に記載される。
【0404】
ナノ粒子製剤:ナノ粒子製剤にRNAを混合する
市販のキットを使用して、マウスにおけるDNAプラスミドの流体力学的尾静脈注射を実施する。
Cas9およびガイド配列は、ウイルス、ナノ粒子コーティングRNA混合物、またはDNAプラスミドとして送達され、被験動物に注射される。並行する一組の対照動物に、滅菌生理食塩水、Cas9およびGFP、またはガイド配列およびGFP単独を注射する。
【0405】
注射後3週間で症状の改善に関して動物を調べて犠牲にする。関係する臓器系のインデル形成を分析する。表現型アッセイには、HDL、LDL、脂質の血中濃度が含まれる。
【0406】
インデル形成アッセイ
市販キットを使用して組織からDNAを抽出する;インデルアッセイは、インビトロ実証について記載されるとおり実施し得る。
【0407】
CRISPR-Cas系の治療適用は、候補疾患遺伝子の組織特異的かつ時間的に制御された標的欠失の達成に適している。例としては、数ある障害の中でも特に、コレステロールおよび脂肪酸代謝、アミロイド病、ドミナントネガティブ疾患、潜伏ウイルス感染症に関与する遺伝子が挙げられる。
【0408】
遺伝子座に標的インデルを導入するためのシングルガイドRNAの例
【0409】
【0410】
遺伝子座に染色体微小欠失を導入するためのガイドRNA対の例
【0411】
【0412】
実施例13:疾患原因突然変異を有する遺伝子に対する修復の標的インテグレーション;酵素欠損症および他の関連疾患の再現
研究設計
I.遺伝子標的の同定および設計
・実施例16に記載される
II.送達系に対するガイド配列および修復テンプレートのクローニング
・上記の実施例16に記載される
・本出願人らは、罹患アレルを含む相同性アームを含めるためのDNA修復テンプレートならびに野生型修復テンプレートをクローニングする
III.細胞系に関するインビトロ検証
a.形質移入については、上記の実施例16に記載される;Ca9、ガイドRNA、および修復テンプレートを関連性のある細胞型に同時形質移入する。
b.インビトロ修復アッセイ
i.本出願人らは形質移入後72時間で細胞を回収し、修復に関してアッセイする
ii.簡潔に言えば、本出願人らは修復テンプレートの周りのゲノム領域を、高フィデリティポリメラーゼを使用してPCR増幅する。本出願人らは突然変異体アレルの発生率の低下に関して産物を配列決定する。
IV.動物におけるインビボ原理証明
a.送達機構については、上記の実施例16および29に記載される。
b.インビボ修復アッセイ
i.本出願人らは、インビトロ実証に記載するとおり修復アッセイを実施する。
V.治療適用
CRISPR-Cas系は、候補疾患遺伝子の組織特異的かつ時間的に制御された標的欠失の達成に適している。例としては、数ある障害の中でも特に、コレステロールおよび脂肪酸代謝、アミロイド病、ドミナントネガティブ疾患、潜伏ウイルス感染症に関与する遺伝子が挙げられる。
【0413】
修復テンプレートによる一つの単一ミスセンス突然変異の例:
【0414】
【0415】
実施例14:緑内障、アミロイドーシス、およびハンチントン病におけるCRISPR-Cas系の治療適用
緑内障:本出願人らは、ミオシリン(mycilin)(MYOC)遺伝子の第1のエクソンをターゲティングするガイドRNAを設計する。本出願人らはアデノウイルスベクター(Ad5)を使用してCas9ならびにMYOC遺伝子をターゲティングするガイドRNAの両方をパッケージングする。本出願人らはこのアデノウイルスベクターを、細胞が緑内障の病態生理に関係付けられている小柱網に注入する。本出願人らは、初めにこれを、突然変異MYOC遺伝子を有するマウスモデルで試験して、アデノウイルスベクターが視力を改善し、および眼圧を低下させるかどうかを見る。ヒトにおける治療適用も同様の戦略を用いる。
【0416】
アミロイドーシス:本出願人らは、肝臓におけるトランスサイレチン(TTR)遺伝子の第1のエクソンをターゲティングするガイドRNAを設計する。本出願人らはAAV8を使用してCas9ならびにTTR遺伝子の第1のエクソンをターゲティングするガイドRNAをパッケージングする。AAV8は、効率的に肝臓をターゲティングすることが示されており、静脈内投与され得る。Cas9は、アルブミンプロモーターなどの肝臓特異的プロモーターを使用するか、あるいは構成的プロモーターを使用してドライブすることができる。pol3プロモーターがガイドRNAをドライブする。
【0417】
あるいは、本出願人らは、プラスミドDNAの流体力学的送達を利用してTTR遺伝子をノックアウトする。本出願人らは、Cas9とTTRのエクソン1をターゲティングするガイドRNAとをコードするプラスミドを送達する。
【0418】
さらなる代替的な手法として、本出願人らはRNAの組み合わせ(Cas9のmRNA、およびガイドRNA)を投与する。RNAはLife TechnologiesのInvivofectamineなどのリポソームを使用してパッケージングし、静脈内送達することができる。RNAによって誘発される免疫原性を低下させ、Cas9発現レベルおよびガイドRNAの安定性を高めるため、本出願人らは5’キャッピングを用いてCas9 mRNAを改変する。本出願人らはまた、改変されたRNAヌクレオチドをCas9 mRNAおよびガイドRNAに組み込むことにより、それらの安定性を高め、免疫原性を低下させる(例えばTLRの活性化)。効率を高めるため、本出願人らは複数回用量のウイルス、DNA、またはRNAを投与する。
【0419】
ハンチントン病:本出願人らは、患者のHTT遺伝子におけるアレル特異的突然変異に基づきガイドRNAを設計する。例えば、CAGリピートが伸長したHTTがヘテロ接合の患者において、本出願人らは、突然変異体HTTアレルに特有のヌクレオチド配列を同定し、それを使用してガイドRNAを設計する。本出願人らは、突然変異体塩基がガイドRNAの最後の9bpの範囲内に位置することを確実にする(これは標的サイズとガイドRNAとの間の単一のDNA塩基ミスマッチ間を識別する能力を有することが、本出願人らにより確認されている)。
【0420】
本出願人らは、突然変異体HTTアレル特異的ガイドRNAおよびCas9をAAV9にパッケージングし、ハンチントン病患者の線条体内に送達する。ウイルスは開頭術によって定位的に線条体に注入する。AAV9は、ニューロンを効率的に形質導入することが知られる。本出願人らはヒトシナプシンIなどのニューロン特異的プロモーターを使用してCas9をドライブする。
【0421】
実施例15:HIVにおけるCRISPR-Cas系の治療適用
慢性ウイルス感染症は、有意な罹患率および死亡率の原因である。これらのウイルスの多くに関しては、ウイルス複製の種々の側面を有効にターゲティングする従来の抗ウイルス治療薬が存在するが、現在の治療モダリティは、通常、「ウイルス潜伏」に起因して非治癒的な性質のものである。その性質上、ウイルス潜伏は、活性のあるウイルス産生のないウイルスのライフサイクルにおける休眠期により特徴付けられる。この期間中、ウイルスは大部分が免疫監視機構および従来の治療薬の両方を回避することができるため、ウイルスが宿主内に長期にわたるウイルスリザーバを構築することが可能となり、続いてそこから再活性化し、ウイルスの伝播および伝染を続行することができる。ウイルス潜伏の鍵は、ウイルスゲノムを安定的に維持する能力であり、これは、それぞれウイルスゲノムを細胞質に貯えるかまたはそれを宿主ゲノムにインテグレートするものであるエピソーム潜伏またはプロウイルス潜伏のいずれかによって達成される。初感染を防ぐ有効なワクチン接種がない場合、潜伏リザーバおよび溶菌作用のエピソードにより特徴付けられる慢性ウイルス感染症は重大な影響を及ぼし得る:ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸癌をもたらすことがあり、C型肝炎ウイルス(HCV)は肝細胞癌の原因となり、およびヒト免疫不全ウイルスは最終的には宿主免疫系を破壊して日和見感染に対する感受性をもたらす。このように、これらの感染症では、現在利用可能な抗ウイルス治療薬の生涯にわたる使用が必要となる。さらに問題を複雑にしているのは、これらのウイルスゲノムの多くの高い変異性であり、これが有効な治療の存在しない耐性株の進化につながっている。
【0422】
CRISPR-Cas系は、多重的能力のある配列特異的な形で二本鎖DNA切断(DSB)を誘導することが可能な細菌性適応免疫系であり、最近になって哺乳類細胞系内で再構成されている。1つまたは多数のガイドRNAによってDNAをターゲティングすると、介在配列にそれぞれインデルおよび欠失の両方がもたらされ得ることが示されている。このように、この新規技術は、高効率および高特異性で単一細胞内における標的化されかつ多重化されたDNA突然変異作成を達成し得る手段に相当する。結果的に、ウイルスDNA配列に対するCRISPR-Cas系の送達は、進行中のウイルス産生がない場合であっても、潜伏ウイルスゲノムの標的化した破壊および欠失を可能にし得る。
【0423】
例として、HIV-1による慢性感染症は、3300万人の感染者を抱え、毎年260万人の感染が発生している世界的な健康問題である。ウイルス複製の複数の側面を同時にターゲティングする集学的高活性抗レトロウイルス療法(HAART)の使用により、HIV感染の大部分を、末期的でない慢性の病気として管理することが可能となっている。治療しなければ、通常9~10年以内にHIVからAIDSへの進行が起こり、宿主免疫系の枯渇および日和見感染症の発生がもたらされ、通常はその後間もなく死亡に至る。ウイルス潜伏に続発して、HAARTの中断は必然的にウイルスのリバウンドを引き起こす。さらに、一時的ではあっても治療の寸断により、利用可能な手段では制御不可能なHIV耐性株が選択され得る。加えて、HAART治療のコストは著しく高い:1年に1人当たり10,000~15,0000米国ドルの範囲内である。このように、ウイルス複製のプロセスではなしに、HIVゲノムを直接ターゲティングする治療手法は、潜伏リザーバの根絶による治癒的な治療選択肢を可能にし得る手段に相当する。
【0424】
HIV-1ターゲティングCRISPR-Cas系の開発および送達は、既存の標的DNA突然変異生成手段、すなわちZFNおよびTALENとは区別され得るユニークな手法に相当し、数多くの治療的関連性を有する。HAARTと併せたCRISPR媒介性DSBおよびインデルによるHIV-1ゲノムの標的破壊および欠失は、宿主内での活性なウイルス産生ならびに潜伏ウイルスリザーバの枯渇を同時に防ぐことを可能にし得る。
【0425】
宿主免疫系にインテグレートされると、CRISPR-Cas系によりHIV-1抵抗性亜集団の生成が可能となり、この亜集団は、ウイルスが完全には根絶されていない場合であっても、宿主免疫活性の維持および再構成を可能にし得る。これは、ウイルスゲノムの破壊によりウイルスの産生およびインテグレーションを妨げることで潜在的に初感染を予防するもので、「ワクチン接種」の手段に相当し得る。CRISPR-Cas系の多重化した性質により、個々の細胞内においてゲノムの複数の側面を同時に標的化することが可能となる。
【0426】
HAARTなどでは、複数の適応突然変異を同時に獲得する必要があるため、突然変異生成によるウイルスのエスケープが最小限に抑えられる。複数のHIV-1株を同時にターゲティングすることができ、従って重感染の可能性が最小限に抑えられ、かつ続く新規組換え株の作成が妨げられる。CRISPR-Cas系の、タンパク質媒介性よりむしろヌクレオチド媒介性の配列特異性により、送達機構を大幅に変更することなく治療薬を迅速に作成することが可能となる。
【0427】
これを達成するため、本出願人らは、有効範囲および有効性を最大化するためのHIV-1株変異体を考慮しながら大多数のHIV-1ゲノムを標的とするCRISPR-CasガイドRNAを作成する。HIV-1サブタイプと変異体との間のゲノム保存の配列解析から、介在するウイルス配列を欠失させるかまたはウイルスの遺伝子機能を破壊し得るフレームシフト突然変異を導入することを目的としたゲノムの隣接保存領域のターゲティングが可能になるはずである。
【0428】
本出願人らは、従来どおり宿主免疫系のアデノウイルスまたはレンチウイルス媒介性感染によるCRISPR-Cas系の送達を達成する。手法に応じて、宿主免疫細胞は、a)単離され、CRISPR-Casが形質導入され、選択され、および宿主に再導入されてもよく、またはb)CRISPR-Cas系の全身送達によりインビボで形質導入されてもよい。第1の手法は、抵抗性免疫集団の作成を可能にする一方、第2の手法は宿主内の潜伏ウイルスリザーバを標的にする傾向が強い。
【0429】
【0430】
実施例16:嚢胞性線維症におけるΔF508または他の突然変異の標的補修
本発明の態様は、CRISPR-Cas遺伝子治療粒子と生体適合性医薬担体とを含み得る医薬組成物を提供する。別の態様によれば、CFTR遺伝子に突然変異を有する対象を治療するための遺伝子治療方法は、対象の細胞に治療有効量のCRISPR-Cas遺伝子治療粒子を投与することを含む。
【0431】
本実施例は、嚢胞性線維症または嚢胞性線維症関連症状に罹患した、必要性がある対象または患者の気道における、アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を使用したCRISPR-Cas系の遺伝子導入または遺伝子送達を実証する。
【0432】
研究設計:必要性がある対象または患者:関連するヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマおよび他の家畜。この研究は、AAVベクターによるCRISPR-Cas系の遺伝子導入の有効性を試験する。本出願人らは、遺伝子発現に十分な導入遺伝子レベルを決定し、Cas9酵素を含むCRISPR-Cas系を利用してΔF508または他のCFTR誘導突然変異をターゲティングする。
【0433】
治療対象は、自発呼吸下に各肺につき薬学的に有効な量のエアロゾル化したAAVベクター系の気管支内送達を受ける。対照対象は、内在性の対照遺伝子を含む同量の偽型AAVベクター系の投与を受ける。ベクター系は、薬学的に許容可能なまたは生体適合性の医薬担体と共に送達され得る。ベクター投与後3週間または適切なインターバルを置いて、嚢胞性線維症関連症状の改善に関して治療対象を調べる。
【0434】
本出願人らは、アデノウイルスまたはAAV粒子を使用する。
【0435】
本出願人らは、各々が1つ以上の調節配列(Cas9用のCbhまたはEF1aプロモーター、キメラガイドRNA用のU6またはH1プロモーター)に作動可能に結合している以下の遺伝子構築物を、1つ以上のアデノウイルスまたはAAVベクターまたは任意の他の適合性ベクターにクローニングする:CFTRΔ508ターゲティングキメラガイドRNA(
図13B)、ΔF508突然変異の修復テンプレート(
図13C)および場合により1つ以上の核局在化シグナルまたは配列(NLS)、例えば2つのNLSを有するコドン最適化Cas9酵素。
【0436】
Cas9標的部位の同定
本出願人らはヒトCFTRゲノム遺伝子座を解析し、Cas9標的部位を同定した(
図13A)。(PAMはNGGまたはNNAGAAWモチーフを含み得る)。
【0437】
遺伝子修復戦略
本出願人らは、Cas9(またはCas9ニッカーゼ)およびガイドRNAを含むアデノウイルス/AAVベクター系を、F508残基を含有する相同性修復テンプレートを含むアデノウイルス/AAVベクター系と共に対象に、先に考察した送達方法の一つによって導入する。CRISPR-Cas系はCFTRΔ 508キメラガイドRNAによりガイドされ、ニックを入れられるかあるいは開裂されるCFTRゲノム遺伝子座の特定の部位を標的にする。開裂後、嚢胞性線維症をもたらしまたは嚢胞性線維症関連症状を引き起こす欠失を補修する相同組換えによって開裂部位に修復テンプレートが挿入される。適切なガイドRNAでCRISPR系を直接送達し、その全身性の導入を提供するこの戦略を用いて遺伝子突然変異をターゲティングし、表Bにあるような代謝、肝臓、腎臓およびタンパク質の疾患および障害を引き起こす遺伝子を編集または他の方法で操作することができる。
【0438】
実施例17:遺伝子ノックアウト細胞ライブラリの作成
本実施例は、各細胞がノックアウトされた単一遺伝子を有する細胞ライブラリを作成する方法を実証する:
本出願人らは、ES細胞のライブラリであって、各細胞はノックアウトされた単一遺伝子を有し、かつES細胞のライブラリ全体はあらゆる単一遺伝子がノックアウトされているライブラリを作製する。このライブラリは、細胞プロセスならびに疾患における遺伝子機能のスクリーニングに有用である。
【0439】
この細胞ライブラリを作成するため、本出願人らは、誘導性プロモーター(例えばドキシサイクリン誘導性プロモーター)によりドライブされるCas9をES細胞にインテグレートする。加えて、本出願人らは、ES細胞において特定の遺伝子を標的にする単一のガイドRNAをインテグレートする。ES細胞ライブラリを作成するため、本出願人らは、単純に、ヒトゲノムにおける各遺伝子を標的にするガイドRNAをコードする遺伝子のライブラリとES細胞を混合する。本出願人らは、初めに、単一のBxB1 attB部位をヒトES細胞のAAVS1遺伝子座に導入する。次に本出願人らは、BxB1インテグラーゼを使用して、AAVS1遺伝子座のBxB1 attB部位に対する個々のガイドRNA遺伝子のインテグレーションを促進する。インテグレーションを促進するため、各ガイドRNA遺伝子は単一のattP部位を担持するプラスミド上に含まれる。このようにしてBxB1がゲノムのattB部位をガイドRNA含有プラスミド上のattP部位と組み換え得る。
【0440】
細胞ライブラリを作成するため、本出願人らは、インテグレートされた単一のガイドRNAを有しかつCas9発現を誘導する細胞のライブラリを取る。誘導後、ガイドRNAによって指定された部位でCas9が二本鎖切断を媒介する。この細胞ライブラリの多様性を確認するため、本出願人らは全エクソンシーケンシングを実施し、本出願人らが単一の標的遺伝子毎に突然変異を観察可能であることを確実にする。この細胞ライブラリは、全ライブラリベースのスクリーニングを含めた種々の用途に使用することができ、または選別して個々の細胞クローンにし、個々のノックアウトヒト遺伝子を有するクローン細胞系の迅速作成を促進することができる。
【0441】
実施例18:Cas9を使用する微細藻類のエンジニアリング
Cas9を送達する方法
方法1:本出願人らは、構成的プロモーター、例えば、Hsp70A-Rbc S2またはベータ2-チューブリンの制御下でCas9を発現するベクターを使用してCas9およびガイドRNAを送達する。
【0442】
方法2:本出願人らは、構成的プロモーター、例えば、Hsp70A-Rbc S2またはベータ2-チューブリンの制御下でCas9およびT7ポリメラーゼを発現するベクターを使用してCas9およびT7ポリメラーゼを送達する。ガイドRNAは、ガイドRNAをドライブするT7プロモーターを含有するベクターを使用して送達する。
【0443】
方法3:本出願人らは、Cas9mRNAおよびインビトロで転写されたガイドRNAを藻類細胞に送達する。RNAは、インビトロで転写させることができる。Cas9mRNAは、Cas9についてのコード領域およびCas9mRNAの安定化を確保するためのCop1からの3’UTRからなる。
【0444】
相同組換えのため、本出願人らは、追加の相同組換え修復テンプレートを提供する。
【0445】
ベータ-2チューブリンプロモーターの制御下でCas9の発現をドライブするカセットと、それに続くCop1の3’UTRについての配列。
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0446】
ベータ-2チューブリンプロモーターの制御下でT7ポリメラーゼの発現をドライブするカセットと、それに続くCop1の3’UTRについての配列:
【化16】
【化17】
【0447】
T7プロモーターによりドライブされるガイドRNAの配列(T7プロモーター、Nは、ターゲティング配列を表す):
【化18】
【0448】
遺伝子送達:
Chlamydomonas Resource Centerからのコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)株CC-124およびCC-125を、エレクトロポレーションに使用する。エレクトロポレーションプロトコルは、GeneArt Chlamydomonas Engineeringキットからの標準的な推奨プロトコルに従う。
【0449】
また、本出願人らは、Cas9を構成的に発現するコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)の系統を生成する。このことは、pChlamy1(PvuIを使用して線形化)を使用し、ハイグロマイシン耐性コロニーを選択することにより行うことができる。Cas9を含有するpChlamy1についての配列を以下に示す。遺伝子ノックアウトを達成するためのこの手法において、ガイドRNAのためのRNAを送達することが必要なだけである。相同組換えのため、本出願人らは、ガイドRNAおよび線形化相同組換えテンプレートを送達する。
pChlamy1-Cas9:
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【0450】
全ての改変コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)細胞について、本出願人らは、PCR、SURVEYORヌクレアーゼアッセイ、およびDNAシーケンシングを使用して良好な改変を確認した。
【0451】
実施例19:Cas9を使用して種々の疾患型をターゲティングする
タンパク質コード配列の突然変異が関与する疾患:
優性障害は、ドミナントネガティブアレルを不活性化することによりターゲティングされ得る。本出願人らは、Cas9を使用してドミナントネガティブアレルにおけるユニーク配列をターゲティングし、NHEJによって突然変異を導入する。NHEJによって誘導されるインデルは、ドミナントネガティブアレルにフレームシフト突然変異を導入してドミナントネガティブタンパク質を除去することが可能であり得る。これは遺伝子がハプロ不全でない(haplo-sufficient)場合に機能し得る(例えばMYOC突然変異によって生じる緑内障およびハンチントン病)。
【0452】
劣性遺伝疾患は、両方のアレルで疾患突然変異を修復することによりターゲティングされ得る。分裂細胞について、本出願人らはCas9を使用して突然変異部位の近傍に二本鎖切断を導入し、外来性組換えテンプレートを使用して相同組換え速度を増加させる。分裂細胞について、これは多重ニッカーゼ活性を用いて達成されてもよく、それにより、相補的なオーバーハングを有する外来性DNA断片のNHEJ媒介性ライゲーションによる両方のアレルの突然変異配列の置換が触媒される。
【0453】
本出願人らはまた、Cas9を使用して保護突然変異も導入する(例えばHIV感染を防ぐためのCCR5の不活性化、コレステロールを減少させるためのPCSK9の不活性化、またはアルツハイマー病の可能性を低下させるAPPへのA673Tの導入)。
【0454】
非コード配列が関与する疾患
本出願人らは、Cas9を使用してプロモーター領域の非コード配列を破壊し、転写因子結合部位を変化させ、およびエンハンサーまたはリプレッサーエレメントを変化させる。例えば、Cas9を使用して造血幹細胞のKlf1エンハンサーEHS1を切り出すことにより、BCL11aレベルを低下させ、分化した赤血球における胎児グロビン遺伝子発現を再活性化し得る。
【0455】
本出願人らはまた、Cas9を使用して5’または3’非翻訳領域の機能性モチーフを破壊する。例えば、筋強直性ジストロフィーの治療のため、Cas9を使用してDMPK遺伝子のCTGリピート伸長を除去し得る。
【0456】
実施例20:多重化ニッカーゼ
本出願に詳説されるCas9の最適化の態様および教示を使用してCas9ニッカーゼもまた作成し得る。本出願人らは、Cas9ニッカーゼをガイドRNAのペアと組み合わせて使用して、規定のオーバーハングを有するDNA二本鎖切断を作成する。ガイドRNAの2つのペアが使用されるとき、介在するDNA断片を切り出すことが可能である。2つのガイドRNAペアで外来性DNA断片を開裂することによってゲノムDNAと適合性のオーバーハングを作成する場合、外来性DNA断片をゲノムDNAにライゲートして切り出された断片を置き換え得る。例えば、これを用いてハンチンチン(huntintin)(HTT)遺伝子のトリヌクレオチドリピート伸長を除去し、ハンチントン病を治療し得る。
【0457】
より少数のCAGリピートを有する外来性DNAが提供される場合、同じオーバーハングを有するDNA断片を作成することが可能であり得るとともに、HTTゲノム遺伝子座にライゲートして、切り出された断片を置き換えることができる。
【化25】
【0458】
ゲノムへの外来性DNA断片のライゲーションに相同組換え機構は必須ではなく、従ってこの方法はニューロンなどの分裂終了細胞で用いられてもよい。
【0459】
実施例21:CRISPR系の送達
Cas9およびそのキメラガイドRNA、またはtracrRNAとcrRNAとの組み合わせは、DNAとしても、あるいはRNAとしても送達することができる。Cas9およびガイドRNAを両方ともにRNA(普通のまたは塩基もしくは骨格改変を含む)分子として送達することを用いて、Cas9タンパク質が細胞内に留まる時間を低減することができる。これにより標的細胞におけるオフターゲット開裂活性のレベルが低下し得る。mRNAとしてのCas9の送達はタンパク質に翻訳されるまでに時間がかかるため、Cas9 mRNAを送達した数時間後にガイドRNAを送達して、Cas9タンパク質との相互作用に利用可能なガイドRNAのレベルを最大化することが有利であり得る。
【0460】
ガイドRNAの量が限られている状況では、Cas9をmRNAとして導入し、かつガイドRNAを、ガイドRNAの発現をドライブするプロモーターを含むDNA発現カセットの形態で導入することが望ましい場合もある。このようにして利用可能なガイドRNAの量を転写によって増幅し得る。
【0461】
Cas9(DNAまたはRNA)およびガイドRNA(DNAまたはRNA)を宿主細胞に導入するため種々の送達系を導入することができる。これには、リポソーム、ウイルスベクター、エレクトロポレーション、ナノ粒子、ナノワイヤ(Shalek et al.,Nano Letters,2012)、エキソソームの使用が含まれる。分子トロイの木馬リポソーム(Pardridge et al.,Cold Spring Harb Protoc;2010;doi:10.1101/pdb.prot5407)を使用して、Cas9およびガイドRNAを血液脳関門を越えて送達してもよい。
【0462】
実施例22:Cas9オルソログ
本出願者らはCas9オルソログ(
図3および
図4A~
図4F)を分析することにより、関連するPAM配列および対応するキメラガイドRNAを同定した。この拡張PAMセットは、ゲノムにわたるより広範囲のターゲティングを提供し、またユニークな標的部位の数を大幅に増加させ、ゲノムにおいて高い特異性レベルの新規Cas9を同定し得る可能性を提供し得る。本出願者らは、黄色ブドウ球菌種アウレウス(Staphylococcus aureus sp.Aureus)Cas9のPAMがNNGRRであることを決定した。黄色ブドウ球菌種アウレウス(Staphylococcus aureus sp.Aureus)Cas9はSaCas9としても知られる。
【0463】
Cas9オルソログの特異性は、各Cas9がガイドRNAとそのDNA標的との間のミスマッチを許容する能力を試験することにより評価し得る。例えば、SpCas9の特異性は、ガイドRNAの突然変異が開裂効率に及ぼす効果を試験することによって特徴付けられている。ガイド配列と標的DNAとの間で単一または複数のミスマッチを有するガイドRNAのライブラリを作製した。これらの知見に基づけば、以下の指針に基づきSpCas9の標的部位を選択することができる:
【0464】
特定の遺伝子の編集に対するSpCas9の特異性を最大化するためには、目的の遺伝子座内の標的部位は、潜在的な「オフターゲット」ゲノム配列が以下の4つの制約に従うように選択しなければならない:何よりも第一に、それらの配列の後に5’-NGGまたはNAG配列のいずれかを有するPAMが続いてはならない。第二に、標的配列とのそれらの大域的な配列類似性が最小限でなければならない。第三に、最大数のミスマッチがオフターゲット部位のPAM近位領域内になければならない。最後に、最大数のミスマッチは連続していなければならず、または4塩基以上離れていてはならない。
【0465】
同様の方法を用いて他のCas9オルソログの特異性を評価し、標的種のゲノム内にある特定の標的部位を選択するための基準を確立することができる。
【0466】
実施例23:トリヌクレオチドリピート障害の治療戦略
本出願で既述したとおり、CRISPR複合体の標的ポリヌクレオチドは複数の疾患関連遺伝子およびポリヌクレオチドを含んでもよく、それらの疾患関連遺伝子の一部はトリヌクレオチドリピート障害と称される(またトリヌクレオチドリピート伸長障害、トリプレットリピート伸長障害またはコドン反復障害とも称される)一連の遺伝的障害に属し得る。
【0467】
これらの疾患は、特定の遺伝子のトリヌクレオチドリピートが正常な安定閾値(通常は遺伝子の点で異なり得る)を超える突然変異により引き起こされる。リピート伸長障害の発見が増えるにつれ、これらの障害を、根底にある類似した特性に基づきいくつかのカテゴリーに分類することが可能となっている。特定の遺伝子のタンパク質コード部分におけるCAGリピート伸長によって引き起こされるハンチントン病(HD)および脊髄小脳失調症は、カテゴリーIに含められる。伸長を有する疾患または障害であって、その表現型が多様になる傾向のある、かつ伸長が通常は規模が小さく、遺伝子のエクソンにも認められるものは、カテゴリーIIに含められる。カテゴリーIIIは、カテゴリーIまたはIIと比べてはるかに大きいリピート伸長によって特徴付けられ、かつ概してタンパク質コード領域の外側に位置する障害または疾患を含む。カテゴリーIII疾患または障害の例には、限定はされないが、脆弱X症候群、筋強直性ジストロフィー、脊髄小脳失調症と、若年性ミオクローヌスてんかんと、フリードライヒ失調症とのうちの2つが含まれる。
【0468】
以下でフリードライヒ失調症に関して言及するものなどの、同様の治療戦略を取り入れて、さらに他のトリヌクレオチドリピートまたは伸長障害にも対処し得る。例えば、ほぼ同一の戦略を用いて治療することのできる別のトリプルリピート疾患は、3’UTRに伸長したCTGモチーフがある筋強直性ジストロフィー1型(DM1)である。フリードライヒ失調症においては、疾患はフラタキシン(FXN)の最初のイントロンにおけるGAAトリヌクレオチドの伸長により生じる。CRISPRを使用した一つの治療戦略は、最初のイントロンからGAAリピートを切り出すことである。伸長したGAAリピートはDNA構造に影響を及ぼすと考えられ、ヘテロクロマチンの形成の動員がもたらされてフラタキシン遺伝子がオフになる(
図14A)。
【0469】
他の治療戦略と比べて競争力のある利点を以下に列挙する:
疾患がフラタキシンの発現低下に起因するため、この場合にsiRNAノックダウンは適用できない。ウイルス遺伝子療法が現在調査されている。動物モデルにおいてHSV-1ベースのベクターを使用してフラタキシン遺伝子が送達され、治療効果が示されている。しかしながら、ウイルスベースのフラタキシン送達の長期有効性は、いくつかの問題を抱えている:第一に、フラタキシンの発現を健常者の天然レベルに一致するように調節することが困難であり、第二に、フラタキシンの長期過剰発現は細胞死を引き起こす。
【0470】
ヌクレアーゼを使用してGAAリピートを切り出すことにより健常な遺伝子型を回復し得るが、ジンクフィンガーヌクレアーゼおよびTALEN戦略は、高い有効性のヌクレアーゼの2つのペアを送達する必要があり、これは送達ならびにヌクレアーゼのエンジニアリングの両方にとって困難である(ZFNまたはTALENによるゲノムDNAの効率的な切り出しは達成が困難である)。
【0471】
上記の戦略とは対照的に、CRISPR-Cas系には明らかな利点がある。Cas9酵素は効率性が高く、かつ多重化し易い、つまり1つ以上の標的を同時に設定し得るということになる。これまでのところ、ゲノムDNAの効率的な切り出しはCas9によるとヒト細胞で30%を超え、30%もの高さであることもあり、将来改善され得る。さらに、ハンチントン病(HD)のような特定のトリヌクレオチドリピート障害に関しては、2つのアレル間に違いがある場合にコード領域におけるトリヌクレオチドリピートが対処され得る。具体的には、HD患者が突然変異体HTTに関してヘテロ接合であり、かつ野生型と突然変異体とのHTTアレル間にSNPなどのヌクレオチドの違いがある場合、Cas9を使用して突然変異体HTTアレルを特異的に標的化し得る。ZFNまたはTALENは、一塩基の違いに基づく2つのアレルを区別する能力を有しないであろう。
【0472】
CRISPR-Cas9酵素を使用してフリードライヒ失調症に対処する戦略を採るにおいて、本出願人らは、GAA伸長に隣接する部位を標的にする複数のガイドRNAを設計し、最も効率性および特異性が高いものを選択する(
図14B)。
【0473】
本出願人らは、FXNのイントロン1を標的にするガイドRNAとCas9との組み合わせを送達することにより、GAA伸長領域の切り出しを媒介する。AAV9を使用してCas9のおよび脊髄における効率的な送達を媒介し得る。
【0474】
GAA伸長に隣接するAluエレメントが重要であると考えられる場合、標的にすることのできる部位の数に制約があり得るが、本出願人らはAluエレメントの破壊を回避する戦略を採り得る。
【0475】
代替的戦略:
Cas9を使用してゲノムを改変するよりむしろ、本出願人らはまた、Cas9(ヌクレアーゼ活性欠損)ベースのDNA結合ドメインを使用して転写活性化ドメインをFXN遺伝子にターゲティングすることでFXN遺伝子を直接活性化し得る。本出願人らは、Cas9媒介性の人為的な転写活性化のロバスト性について取り組み、それが他の方法と比較して十分にロバストであることを確実にする必要があり得る(Tremblay et al.,「転写活性化因子様エフェクタータンパク質はフラタキシン遺伝子の発現を誘導する(Transcription Activator-Like Effector Proteins Induce the Expression of the Frataxin Gene)」;Human Gene Therapy.August 2012,23(8):883-890)。
【0476】
実施例24:Cas9ニッカーゼを使用してオフターゲット開裂を最小限に抑えるための戦略
本出願において既述したとおり、Cas9を、以下の1つ以上の突然変異を介して一本鎖開裂を媒介し得るように突然変異させ得る:D10A、E762A、およびH840A。
【0477】
NHEJによる遺伝子ノックアウトを媒介するため、本出願人らはニッカーゼバージョンのCas9を2つのガイドRNAと共に使用する。各個別のガイドRNAによるオフターゲットニッキングは主に突然変異を伴わず修復されてもよく、二本鎖切断(NHEJによる突然変異を生じさせ得る)は、標的部位が互いに隣接するときに限り起こる。二重ニッキングにより導入される二本鎖切断は平滑末端ではないため、TREX1などの末端プロセシング酵素の同時発現がNHEJ活性レベルを増加させ得る。
【0478】
以下の表形式の標的リストは、以下の疾患に関与する遺伝子に対するものである:
ラフォラ病-ニューロンにおけるグリコーゲンを低下させるための標的GSY1またはPPP1R3C(PTG)。
【0479】
高コレステロール血症-標的PCSK9
標的配列をペア(LおよびR)で列挙し、ここではスペーサーにおけるヌクレオチドの数は異なる(0~3bp)。各スペーサーそれ自体を野生型Cas9と共に使用して標的遺伝子座に二本鎖切断を導入し得る。
【0480】
【0481】
【0482】
ガイドRNAの安定性を向上させかつ特異性を増加させるための代替的戦略
1.ガイドRNAの5’におけるヌクレオチドは、天然RNAのようなリン酸エステル結合よりむしろ、チオールエステル結合で連結され得る。チオールエステル結合は、内因性RNA分解機構によるガイドRNAの消化を防止し得る。
2.ガイドRNAのガイド配列(5’20bp)におけるヌクレオチドは、結合特異性を改善するためのベースとして架橋核酸(bridged nucleic acid:BNA)を使用することができる。
【0483】
実施例25:迅速多重ゲノム編集用のCRISPR-Cas
本発明の態様は、標的設計後3~4日以内に遺伝子改変の効率および特異性を試験することができ、かつ2~3週間以内に改変されたクローン細胞系を得ることができるプロトコルおよび方法に関する。
【0484】
プログラム可能なヌクレアーゼは、ゲノムエンジニアリングを高精度で媒介するのに強力な技術である。微生物CRISPR適応免疫系由来のRNAガイドCas9ヌクレアーゼを使用して、単純にそのガイドRNAにおいて20ntターゲティング配列を指定することにより真核細胞における効率的なゲノム編集を促進することができる。本出願人らは、哺乳類細胞における効率的なゲノム編集を促進し、かつ下流機能性研究用の細胞系を作成するためCas9を応用する一組のプロトコルを記載する。標的設計から始めて3~4日以内に効率的かつ特異的な遺伝子改変を達成することができ、かつ2~3週間以内に改変されたクローン細胞系を得ることができる。
【0485】
生体系および生物をエンジニアリングする能力は、基礎科学、医薬、およびバイオテクノロジー全域にわたる非常に大きな適用可能性を有している。ここで、内在性ゲノム遺伝子座の正確な編集を促進するプログラム可能な配列特異的エンドヌクレアーゼが、これまで遺伝学的に扱い易くなかったものを含め、広範囲の種における遺伝的エレメントおよび原因遺伝子変異の体系的調査を可能にする。ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびRNAガイドCRISPR-Casヌクレアーゼシステムを含め、多くのゲノム編集技術が近年出現している。最初の2つの技術は、エンドヌクレアーゼ触媒ドメインをモジュール式DNA結合タンパク質にテザー係留して、特定のゲノム遺伝子座に標的DNA二本鎖切断(DSB)を誘導するという共通した戦略を用いる。対照的に、Cas9は、標的DNAとのワトソン・クリック型塩基対合を介して小さいRNAにガイドされるヌクレアーゼであり、設計が容易で効率的な、かつ種々の細胞型および生物のハイスループットの多重化した遺伝子編集に良く適したシステムを呈する。ここで本出願人らは、最近開発されたCas9ヌクレアーゼを応用して哺乳類細胞における効率的なゲノム編集を促進し、かつ下流機能性研究用の細胞系を作成する一組のプロトコルを記載する。
【0486】
ZFNおよびTALENと同様に、Cas9は標的ゲノム遺伝子座におけるDSBを刺激することによりゲノム編集を促進する。Cas9によって開裂されると、標的遺伝子座は2つの主要なDNA損傷修復経路であるエラープローン非相同末端結合(NHEJ)経路または高フィデリティ相同性組換え修復(HDR)経路のうちの一方を経る。いずれの経路を利用しても所望の編集結果を達成し得る。
【0487】
NHEJ:修復テンプレートが存在しない場合、NHEJプロセスはDSBを再びライゲートし直し、これによりインデル突然変異の形態の傷跡が残り得る。コードエクソン内に現れるインデルはフレームシフト突然変異および未成熟終止コドンをもたらし得るため、このプロセスを利用して遺伝子ノックアウトを達成することができる。ゲノムにおいて大きい欠失を媒介するため複数のDSBも利用し得る。
【0488】
HDR:相同性組換え修復は、NHEJの代替となる主要なDNA修復経路である。HDRは典型的にはNHEJと比べて起こる頻度が低いが、HDRを利用すると、外因的に導入された修復テンプレートの存在下で標的遺伝子座に正確な定義付けられた改変を作成し得る。修復テンプレートは、二本鎖DNAの形態であって、挿入配列に隣接する相同性アームを含む従来のDNAターゲティング構築物と同様に設計されてもよく、あるいは一本鎖DNAオリゴヌクレオチド(ssODN)の形態であってもよい。後者は、原因遺伝子変異を探索するための単一のヌクレオチド突然変異の導入など、ゲノムに小さい編集を作製するための有効かつ単純な方法を提供する。NHEJと異なり、HDRは概して分裂細胞においてのみ活性であり、その効率は細胞型および細胞状態に応じて変化する。
【0489】
CRISPRの概要:CRISPR-Cas系は、対照的に、Cas9ヌクレアーゼと低分子ガイドRNAとからなる最小でも二成分系である。Cas9を異なる遺伝子座にターゲティングし直し、または複数の遺伝子を同時に編集するために必要なことは、単純に、異なる20bpオリゴヌクレオチドのクローニングである。Cas9ヌクレアーゼの特異性は未だ完全には解明されていないが、CRISPR-Cas系の単純なワトソン・クリック型塩基対合はZFNまたはTALENドメインのそれより予測可能性が高いように思われる。
【0490】
II型CRISPR-Cas(クラスター化等間隔短鎖回分リピート)は、Cas9を使用して外来性遺伝子エレメントを開裂する細菌適応免疫系である。Cas9は、可変的crRNAと必須の補助的tracrRNAとの非コードRNAのペアによりガイドされる。crRNAは、ワトソン・クリック型塩基対合で標的DNAの位置を特定することにより特異性を決定する20ntガイド配列を含む。天然の細菌系では複数のcrRNAが共転写され、Cas9を種々の標的に向けさせる。化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)に由来するCRISPR-Cas系では、標的DNAが5’-NGG/NRGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)(他のCRISPR系については異なり得る)の直前になければならない。
【0491】
CRISPR-Casは、哺乳類細胞ではヒトコドン最適化Cas9および必須のRNA成分の異種発現により再構成される。さらに、crRNAとtracrRNAとを融合してキメラの合成ガイドRNA(sgRNA)を作り出すことができる。このように、sgRNA内の20ntガイド配列を変えることにより、目的とするいかなる標的にもCas9を仕向け直すことができる。
【0492】
その実現の容易さおよび多重化可能性を所与として、Cas9は、NHEJおよびHDRの両方による特定の突然変異を担持するエンジニアリングされた真核細胞の作成に用いられてきた。加えて、sgRNAおよびCas9をコードするmRNAの胚への直接注入が、複数の改変アレルを有するトランスジェニックマウスの迅速な作成を可能にしている;これらの結果は、本来遺伝的に扱いが困難な生物の編集に有望である。
【0493】
その触媒ドメインの1つに破壊を有する突然変異体Cas9が、DNAを開裂するというよりむしろそれにニックを入れるようにエンジニアリングされており、一本鎖切断およびHDRによる優先的修復が可能となって、オフターゲットDSBによる望ましくないインデル突然変異が潜在的に改良されている。加えて、突然変異したDNA開裂触媒残基を両方ともに有するCas9突然変異体が、大腸菌(E.coli)における転写調節を可能にするように適合されており、多様な適用に合わせてCas9を機能性にし得る可能性を実証している。本発明の特定の態様は、ヒト細胞の多重編集用Cas9の構築および適用に関する。
【0494】
本出願人らは、真核生物遺伝子編集を促進するため核局在化配列が隣接するヒトコドン最適化Cas9を提供している。本出願人らは、20ntガイド配列を設計するに当たっての考慮点、sgRNAの迅速な構築および機能検証プロトコル、および最後に、Cas9ヌクレアーゼを使用したヒト胎児腎臓系(HEK-293FT)およびヒト幹細胞系(HUES9)におけるNHEJベースおよびHDRベースの両方のゲノム改変の媒介を記載する。このプロトコルは他の細胞型および生物にも同様に適用することができる。
【0495】
sgRNAの標的選択:遺伝子ターゲティング用の20ntガイド配列の選択には、2つの主な考慮点がある:1)化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9については標的配列が5’-NGG PAMの前になければならず、および2)ガイド配列はオフターゲット活性を最小限に抑えるように選択されなければならない。本出願人らは、目的の入力配列を取り込み好適な標的部位を同定するオンラインCas9ターゲティング設計ツールを提供した。各sgRNAについてオフターゲット改変を実験的に評価するため、本出願人らはまた、塩基対合ミスマッチのアイデンティティ、位置、および分布の効果に関する本出願人らの定量的特異性分析に従い順位が付けられた、意図する各標的についての計算的に予測されたオフターゲット部位も提供する。
【0496】
計算的に予測されたオフターゲット部位に関する詳細情報は以下のとおりである:
オフターゲット開裂活性の考慮点:他のヌクレアーゼと同様に、Cas9は低い頻度でゲノムにおけるオフターゲットDNA標的を開裂し得る。所与のガイド配列がオフターゲット活性を呈する程度は、酵素濃度、用いられる特定のガイド配列の熱力学、および標的ゲノムにおける同様の配列の存在量を含めた複合的な要因に依存する。Cas9の常法の適用については、オフターゲット開裂の程度を最小限に抑えるとともに、オフターゲット開裂の存在を検出可能である方法を考慮することが重要である。
【0497】
オフターゲット活性の最小化:細胞系における適用について、本出願人らは、以下の2ステップでオフターゲットゲノム改変の程度を低下させることを推奨する。第一に、本発明者らのオンラインCRISPR標的選択ツールを使用して、所与のガイド配列がオフターゲット部位を有する可能性を計算的に評価することが可能である。このような分析は、ガイド配列と同様の配列であるオフターゲット配列に関してゲノムを網羅的に検索することにより実施される。sgRNAとその標的DNAとの間のミスマッチ塩基の効果の包括的な実験研究から、ミスマッチの許容範囲は、1)位置依存性-ガイド配列の3’末端側8~14bpは、5’塩基と比べてミスマッチに対する許容度が低い、2)数量依存性-一般に3個より多いミスマッチは許容されない、3)ガイド配列依存性-一部のガイド配列は他と比べてミスマッチに対する許容度が低い、および4)濃度依存性-オフターゲット開裂は形質移入されたDNAの量に対する感度が極めて高いことが明らかになった。本出願人らの標的部位分析ウェブツール(ウェブサイトgenome-engineering.org/toolsで利用可能)は、これらの基準を統合し、標的ゲノムにおける推定オフターゲット部位の予測を提供する。第二に、本出願人らは、Cas9およびsgRNA発現プラスミドの量をタイトレートしてオフターゲット活性を最小限に抑えることを推奨する。
【0498】
オフターゲット活性の検出:本出願人らのCRISPRターゲティングウェブツールを使用して、最も可能性の高いオフターゲット部位ならびにそれらの部位のSURVEYORまたはシーケンシング分析を実施するプライマーのリストを作成することが可能である。Cas9を使用して作成されるアイソジェニッククローンについて、本出願人らは、これらの候補オフターゲット部位のシーケンシングにより任意の望ましくない突然変異を調べることを強く推奨する。予測された候補リストに含まれない部位にオフターゲット改変があり得ることは注記に値し、完全なゲノム配列を実施してオフターゲット部位がないことを完全に確かめるべきである。さらに、同じゲノム内にいくつかのDSBが誘導される多重アッセイでは、低率の転座イベントがあり得、ディープシーケンシングなどの種々の技法を用いて評価され得る。
【0499】
本オンラインツールは、1)sgRNA構築物の調製、2)標的改変効率のアッセイ、および3)潜在的なオフターゲット部位における開裂の評価に必要なあらゆるオリゴおよびプライマーの配列を提供する。sgRNAの発現に使用されるU6 RNAポリメラーゼIIIプロモーターは、その転写物の最初の塩基としてグアニン(G)ヌクレオチドを好むため、20ntガイド配列がGから始まらないsgRNAの5’に追加のGが付加されることは注記に値する。
【0500】
sgRNAの構築および送達手法:所望の適用に応じて、sgRNAは、1)発現カセットを含有するPCRアンプリコン、または2)sgRNA発現プラスミドのいずれかとして送達され得る。PCRベースのsgRNA送達は、U6プロモーターテンプレートの増幅に使用されるリバースPCRプライマーにカスタムのsgRNA配列を付加する。得られるアンプリコンが、Cas9含有プラスミド(PX165)と同時形質移入され得る。この方法は、sgRNAコードプライマーを得て僅か数時間後に機能性試験用の細胞形質移入を実施することができるため、複数の候補sgRNAの迅速スクリーニングに最適である。この単純な方法ではプラスミドベースのクローニングおよび配列検証が不要となるため、大規模なノックアウトライブラリの作成または他のスケールに影響される適用のため多数のsgRNAを試験しまたは同時形質移入することに良く適している。プラスミドベースのsgRNA送達に必要な約20bpオリゴと比較して、sgRNAコードプライマーが100bpを超える点は留意すべきである。
【0501】
sgRNA用の発現プラスミドの構築もまた単純かつ高速であり、部分的に相補的なオリゴヌクレオチドのペアによる単一のクローニングことを含む。オリゴペアのアニーリング後、得られるガイド配列が、Cas9およびsgRNA配列の残り部分を有する不変の足場の両方を有するプラスミド(PX330)に挿入され得る。形質移入プラスミドもまた、インビボ送達用のウイルス産生を可能にするように改変され得る。
【0502】
PCRおよびプラスミドベースの送達に加え、Cas9およびsgRNAの両方をRNAとして細胞に導入することができる。
【0503】
修復テンプレートの設計:従来、標的DNA改変は、変化させる部位に隣接する相同性アームを含むプラスミドベースのドナー修復テンプレートを使用する必要があった。両側の相同性アームの長さは様々であってもよいが、典型的には500bpより長い。この方法を使用して、蛍光タンパク質または抗生物質耐性マーカーなどのレポーター遺伝子の挿入を含む大きい改変を作成することができる。ターゲティングプラスミドの設計および構築は、他の部分に記載されている。
【0504】
最近になって、クローニングを含まない定義付けられた遺伝子座の範囲内の短い改変には、ターゲティングプラスミドの代わりに一本鎖DNAオリゴヌクレオチド(ssODN)が使用されている。高いHDR効率を達成するため、ssODNは標的領域と相同の少なくとも40bpのフランキング配列を両側に含み、標的遺伝子座に対してセンス方向にも、またはアンチセンス方向にも向くことができる。
【0505】
機能性試験
SURVEYORヌクレアーゼアッセイ:本出願人らは、SURVEYORヌクレアーゼアッセイ(またはPCRアンプリコンシーケンシングのいずれかによりインデル突然変異を検出した。本出願人らのオンラインCRISPR標的設計ツールは、両方の手法に推奨されるプライマーを提供する。しかしながら、SURVEYORまたはシーケンシングプライマーはまた、ゲノムDNAから目的の領域を増幅し、かつ非特異的なアンプリコンを回避するようにNCBIプライマーBlastを使用して手動で設計されてもよい。SURVEYORプライマーは、ゲル電気泳動による開裂バンドの明確な可視化を可能にするため、Cas9標的の両側で300~400bp(600~800bpの総アンプリコンに対して)を増幅するように設計されなければならない。過剰なプライマー二量体形成を防ぐため、SURVEYORプライマーは、典型的には融解温度が約60℃の25nt長未満であるように設計されなければならない。本出願人らは、特定のPCRアンプリコンに対する候補プライマーの各ペアを試験し、ならびにSURVEYORヌクレアーゼ消化プロセスの間に非特異的な開裂が存在しないことについても試験することを推奨する。
【0506】
プラスミド媒介性またはssODN媒介性HDR:HDRは改変領域のPCR増幅およびシーケンシングにより検出することができる。この目的上、PCRプライマーは、残存する修復テンプレート(HDR FwdおよびRev、
図12)の誤検出を回避するため相同性アームが広がる領域の外側にアニールしなければならない。ssODN媒介性HDRはSURVEYOR PCRプライマーを使用することができる。
【0507】
シーケンシングによるインデルまたはHDRの検出:本出願人らは、サンガー法または次世代ディープシーケンシング(NGS)のいずれかにより標的ゲノム改変を検出した。前者については、SURVEYORプライマーまたはHDRプライマーのいずれかを使用して改変領域からゲノムDNAを増幅することができる。アンプリコンは、形質転換のためpUC19などのプラスミドにサブクローニングしなければならない;個々のコロニーをシーケンシングすることによりクローン遺伝子型を明らかにすることができる。
【0508】
本出願人らは、より短いアンプリコン用の次世代シーケンシング(NGS)プライマーを、典型的には100~200bpのサイズ範囲で設計した。NHEJ突然変異の検出には、より長いインデルの検出が可能であるように、プライミング領域とCas9標的部位との間が少なくとも10~20bpのプライマーを設計することが重要である。本出願人らは、多重ディープシーケンシング用のバーコード付きアダプターを取り付ける二段階PCR法に関する指針を提供する。本出願人らは、偽陽性インデルレベルが全般的に低いことから、Illuminaプラットフォームを推奨する。次に、ClustalW、Geneious、または単純な配列解析スクリプトなどのリードアラインメントプログラムを用いてオフターゲット分析(先述した)を実施することができる。
【0509】
材料および試薬
sgRNA調製:
超高純度DNアーゼRNアーゼ不含蒸留水(Life Technologies、カタログ番号10977-023)
Herculase II融合ポリメラーゼ(Agilent Technologies、カタログ番号600679)
重要。標準Taqポリメラーゼ、これは3’-5’エキソヌクレアーゼ校正活性を欠いており、フィデリティが低く、増幅エラーをもたらし得る。Herculase IIは高フィデリティポリメラーゼ(Pfuと同等のフィデリティ)であり、最小限の最適化で高収率のPCR産物を生じる。他の高フィデリティポリメラーゼに代えてもよい。
Herculase II反応緩衝液(5×;Agilent Technologies、ポリメラーゼと同梱)
dNTP溶液ミックス(各25mM;Enzymatics、カタログ番号N205L)
MgCl2(25mM;ThermoScientific、カタログ番号R0971)
QIAquickゲル抽出キット(Qiagen、カタログ番号28704)
QIAprep spinミニプレップキット(Qiagen、カタログ番号27106)
超高純度TBE緩衝液(10×;Life Technologies、カタログ番号15581-028)
SeaKem LEアガロース(Lonza、カタログ番号50004)
SYBR Safe DNA染色(10,000×;Life Technologies、カタログ番号S33102)
1kb Plus DNAラダー(Life Technologies、カタログ番号10787-018)
TrackIt CyanOrangeローディング緩衝液(Life Technologies、カタログ番号10482-028)
FastDigest BbsI(BpiI)(Fermentas/ThermoScientific、カタログ番号FD1014)
Fermentas Tango緩衝液(Fermentas/ThermoScientific、カタログ番号BY5)
DL-ジチオスレイトール(DTT;Fermentas/ThermoScientific、カタログ番号R0862)
T7 DNAリガーゼ(Enzymatics、カタログ番号L602L)
重要:より一般的に用いられるT4リガーゼを代用しないこと。T7リガーゼは付着末端で平滑末端と比べて1,000倍高い活性を有し、かつ市販の高濃度T4リガーゼと比べて全体的な活性が高い。
T7 2×迅速ライゲーション緩衝液(T7 DNAリガーゼと同梱、Enzymatics、カタログ番号L602L)
T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs、カタログ番号M0201S)
T4DNAリガーゼ反応緩衝液(10×;New England Biolabs、カタログ番号B0202S)
アデノシン5’-三リン酸(10mM;New England Biolabs、カタログ番号P0756S)
PlasmidSafe ATP依存性DNアーゼ(Epicentre、カタログ番号E3101K)
One Shot Stbl3化学的コンピテント大腸菌(Escherichia coli)(E.coli)(Life Technologies、カタログ番号C7373-03)
SOC培地(New England Biolabs、カタログ番号B9020S)
LB培地(Sigma、カタログ番号L3022)
LB寒天培地(Sigma、カタログ番号L2897)
アンピシリン、滅菌ろ過済み(100mg ml-1;Sigma、カタログ番号A5354)
【0510】
哺乳類細胞培養:
HEK293FT細胞(Life Technologies、カタログ番号R700-07)
ダルベッコ最小イーグル培地(DMEM、1×、高グルコース;Life Technologies、カタログ番号10313-039)
ダルベッコ最小イーグル培地(DMEM、1×、高グルコース、フェノールレッド不含;Life Technologies、カタログ番号31053-028)
ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS、1×;Life Technologies、カタログ番号14190-250)
ウシ胎仔血清、適格品(qualified)かつ熱失活済み(Life Technologies、カタログ番号10438-034)
Opti-MEM I低血清培地(FBS;Life Technologies、カタログ番号11058-021)
ペニシリン-ストレプトマイシン(100×;Life Technologies、カタログ番号15140-163)
TrypLE(商標)Express(1×、フェノールレッド不含;Life Technologies、カタログ番号12604-013)
リポフェクタミン2000形質移入試薬(Life Technologies、カタログ番号11668027)
Amaxa SF細胞系4D-Nucleofector(登録商標)XキットS(32 RCT;Lonza、カタログ番号V4XC-2032)
HUES 9細胞系(HARVARD STEM CELL SCIENCE)
Geltrex LDEV不含低成長因子基底膜マトリックス(Life Technologies、カタログ番号A1413201)
mTeSR1培地(Stemcell Technologies、カタログ番号05850)
Accutase細胞剥離液(Stemcell Technologies、カタログ番号07920)
ROCK阻害薬(Y-27632;Millipore、カタログ番号SCM075)
Amaxa P3初代細胞4D-Nucleofector(登録商標)XキットS(32 RCT;Lonzaカタログ番号V4XP-3032)
【0511】
遺伝子型解析:
QuickExtract DNA抽出溶液(Epicentre、カタログ番号QE09050)
SURVEYOR、RFLP分析、またはシーケンシング用のPCRプライマー(プライマー表参照)
Herculase II融合ポリメラーゼ(Agilent Technologies、カタログ番号600679)
重要。Surveyorアッセイは一塩基ミスマッチの感度を有するため、高フィデリティポリメラーゼを使用することが特に重要である。他の高フィデリティポリメラーゼに代えてもよい。
Herculase II反応緩衝液(5×;Agilent Technologies、ポリメラーゼと同梱)
dNTP溶液ミックス(各25mM;Enzymatics、カタログ番号N205L)
QIAquickゲル抽出キット(Qiagen、カタログ番号28704)
Taq緩衝液(10×;Genscript、カタログ番号B0005)
標準ゲル電気泳動用のSURVEYOR突然変異検出キット(Transgenomic、カタログ番号706025)
超高純度TBE緩衝液(10×;Life Technologies、カタログ番号15581-028)
SeaKem LEアガロース(Lonza、カタログ番号50004)
4~20%TBEゲル 1.0mm、15ウェル(Life Technologies、カタログ番号EC62255BOX)
Novex(登録商標)高密度TBE試料緩衝液(5×;Life Technologies、カタログ番号LC6678)
SYBR Gold核酸ゲル染色(10,000×;Life Technologies、カタログ番号S-11494)
1kb Plus DNAラダー(Life Technologies、カタログ番号10787-018)
TrackIt CyanOrangeローディング緩衝液(Life Technologies、カタログ番号10482-028)
FastDigest HindIII(Fermentas/ThermoScientific、カタログ番号FD0504)
【0512】
機器
フィルター付き滅菌ピペットチップ(Corning)
標準1.5ml微量遠心管(Eppendorf、カタログ番号0030 125.150)
Axygen96ウェルPCRプレート(VWR、カタログ番号PCR-96M2-HSC)
Axygen 8ストリップPCRチューブ(Fischer Scientific、カタログ番号14-222-250)
Falconチューブ、ポリプロピレン、15ml(BD Falcon、カタログ番号352097)
Falconチューブ、ポリプロピレン、50ml(BD Falcon、カタログ番号352070)
細胞ストレーナーキャップ付き丸底チューブ、5ml(BD Falcon、カタログ番号352235)
ペトリ皿(60mm×15mm;BD Biosciences、カタログ番号351007)
組織培養プレート(24ウェル;BD Falcon、カタログ番号353047)
組織培養プレート(96ウェル、平底;BD Falcon、カタログ番号353075)
組織培養皿(100mm;BD Falcon、353003)
プログラム可能な温度ステッピング機能付き96ウェルサーモサイクラー(Applied Biosystems Veriti、カタログ番号4375786)。
卓上微量遠心機5424、5804(Eppendorf)
ゲル電気泳動システム(PowerPac basic power supply、Bio-Rad、カタログ番号164-5050、およびSub-Cell GTシステムゲルトレー、Bio-Rad、カタログ番号170-4401)
Novex XCell SureLock Mini-Cell(Life Technologies、カタログ番号EI0001)
デジタルゲルイメージングシステム(GelDoc EZ、Bio-Rad、カタログ番号170-8270、および青色試料トレー、Bio-Rad、カタログ番号170-8273)
青色光トランスイルミネーターおよびオレンジフィルターゴーグル(SafeImager 2.0;Invitrogen、カタログ番号G6600)
ゲル定量化ソフトウェア(Bio-Rad、ImageLab、GelDoc EZと同梱、または国立衛生研究所(National Institutes of Health)のオープンソースImageJ、ウェブサイトrsbweb.nih.gov/ij/で利用可能)
紫外分光光度計(NanoDrop 2000c、Thermo Scientific)
【0513】
試薬セットアップ
トリス-ホウ酸EDTA(TBE)電気泳動溶液 TBE緩衝液を蒸留水に希釈し、アガロースゲルをキャスティングするためおよびゲル電気泳動用緩衝液として使用するための1×ワーキング溶液とする。緩衝液は室温(18~22℃)で少なくとも1年間保存しておくことができる。
【0514】
・ATP、10mM 10mM ATPを50μlアリコートに分け、-20℃で最長1年間保存する;凍結-融解サイクルを繰り返すことは避ける。
【0515】
・DTT、10mM 蒸留水中に10mM DTT溶液を調製し、20μlアリコートとして-70℃で最長2年間保存する;DTTは酸化し易いため、反応毎に新しいアリコートを使用する。
【0516】
・D10培養培地 HEK293FT細胞を培養するため、DMEMに1× GlutaMAXおよび10%(vol/vol)ウシ胎仔血清を補給することによりD10培養培地を調製する。プロトコルに示すとおり、この培地はまた1×ペニシリン-ストレプトマイシンを補給してもよい。D10培地は前もって作製しておき、4℃で最長1ヶ月間保存することができる。
【0517】
・mTeSR1培養培地 ヒト胚性幹細胞の培養のため、5×サプリメント(mTeSR1基本培地と同梱)、および100ug/ml Normocinを補給してmTeSR1培地を調製する。
【0518】
手順
ターゲティング成分の設計およびオンラインツールの使用・タイミング1日
1|標的ゲノムDNA配列を入力する。本出願人らは、目的の入力配列を受け取り、好適な標的部位を同定してそれに順位を付け、および意図する標的毎にオフターゲット部位を計算的に予測するオンラインCas9ターゲティング設計ツールを提供する。あるいは、任意の5’-NGGの直ちに上流で20bp配列を同定することにより、ガイド配列を手動で選択してもよい。
【0519】
2|オンラインツールによって特定されるとおりの必要なオリゴおよびプライマーを注文する。部位を手動で選択する場合、オリゴおよびプライマーを設計しなければならない。
【0520】
sgRNA発現構築物の調製
3|sgRNA発現構築物を作成するため、PCRベースまたはプラスミドベースのいずれのプロトコルも用いることができる。
【0521】
(A)PCR増幅による・タイミング2時間
(i)本出願人らは希釈U6 PCRテンプレートを調製する。本出願人らはPX330をPCRテンプレートとして使用することを推奨するが、任意のU6含有プラスミドを同様にPCRテンプレートとして使用することができる。本出願人らはテンプレートを10ng/ulの濃度となるようにddH2Oで希釈した。U6によってドライブされるsgRNAを既に含んでいるプラスミドまたはカセットがテンプレートとして使用される場合、ゲル抽出を実施して、産物が意図したsgRNAのみを含み、テンプレートからのsgRNAキャリーオーバーの痕跡を含まないことを確実にする必要がある点に留意されたい。
【0522】
(ii)本出願人らは希釈PCRオリゴを調製した。U6-FwdおよびU6-sgRNA-Revプライマーは、ddH2O中10uMの最終濃度に希釈される(10ulの100uMプライマーを90ul ddH2Oに添加する)。
【0523】
(iii)U6-sgRNA PCR反応。本出願人らは、各U6-sgRNA-Revプライマーおよび必要に応じてマスターミックスに対して以下の反応をセットアップした:
【0524】
【0525】
(iv)本出願人らは、ステップ(iii)の反応物に対し、以下のサイクル条件を使用してPCR反応を実施した:
【0526】
【0527】
(v)反応の完了後、本出願人らは産物をゲル上で泳動させて、シングルバンドの増幅の成功を確かめた。1×SYBR Safe色素を含む1×TBE緩衝液に2%(wt/vol)アガロースゲルをキャスティングする。5ulのPCR産物をゲル中15Vcm-1で20~30分間泳動させる。成功したアンプリコンは、1つのシングル370bp産物を生じるはずであり、テンプレートは見えないはずである。PCRアンプリコンをゲル抽出する必要はないはずである。
【0528】
(vi)本出願人らは、製造者の指示に従いQIAquick PCR精製キットを使用してPCR産物を精製した。35ulの緩衝液EBまたは水中にDNAを溶出させる。精製したPCR産物は4℃または-20℃で保存しておくことができる。
【0529】
(B)Cas9含有バイシストロニック発現ベクターへのsgRNAのクローニング・タイミング3日
(i)sgRNAオリゴインサートを調製する。本出願人らは、各sgRNA設計について、100uMの最終濃度となるようにオリゴの上部鎖および下部鎖を再懸濁した。オリゴを以下のとおりリン酸化およびアニーリングする:
【0530】
【0531】
(ii)以下のパラメータを使用してサーモサイクラーでアニーリングする:
37℃で30分
95℃で5分
毎分5℃で25℃まで下降させる。
【0532】
(iii)本出願人らは、1ulのオリゴを199ulの室温ddH2Oに添加することにより、リン酸化およびアニーリングしたオリゴを1:200希釈した。
【0533】
(iv)sgRNAオリゴをPX330にクローニングする。本出願人らは、各sgRNAについてGolden Gate反応をセットアップする。本出願人らは、インサートのない、PX330のみの陰性対照を設定することを推奨する。
【0534】
【0535】
(v)Golden Gate反応物を合計1時間インキュベートする:
【0536】
【0537】
(vi)本出願人らはPlasmidSafeエキソヌクレアーゼでGolden Gate反応物を処理することにより、任意の残留する線状DNAを消化させた。このステップは任意選択であるものの、強く推奨される。
【0538】
【0539】
(vii)本出願人らはPlasmidSafe反応物を37℃で30分間インキュベートし、続いて70℃で30分間不活性化した。休題:完了後、反応物を凍結させて後に続行してもよい。環状DNAは少なくとも1週間安定しているはずである。
【0540】
(viii)形質転換。本出願人らはPlasmidSafe処理したプラスミドを、細胞と共に提供されるプロトコルに従いコンピテントな大腸菌(E.coli)株に形質転換した。本出願人らは迅速な形質転換のためStbl3を推奨する。簡潔に言えば、本出願人らは、ステップ(vii)からの5ulの産物を20ulの化学的にコンピテントな氷冷Stbl3細胞に添加した。次にこれを氷上で10分間インキュベートし、42℃で30秒間熱ショックを与え、直ちに氷上に2分間戻し、100ulのSOC培地を添加し、これを100ug/mlアンピシリンを含有するLBプレートにプレーティングして37℃で一晩インキュベートする。
【0541】
(ix)2日目:本出願人らはコロニーの成長に関してプレートを調べた。典型的には、陰性対照プレート(BbsI消化PX330のみのライゲーション、アニーリングされたsgRNAオリゴなし)にはコロニーはなく、PX330-sgRNAクローニングプレートには数十個ないし数百個のコロニーがある。
【0542】
(x)本出願人らは各プレートから2~3個のコロニーを取り、sgRNAが正しく挿入されていることを確かめた。本出願人らは、滅菌ピペットチップを使用して単一のコロニーを100ug/mlアンピシリン含有LB培地の3ml培養液に接種した。37℃で一晩インキュベートし、振盪する。
【0543】
(xi)3日目:本出願人らはQiAprep Spinミニプレップキットを製造者の指示に従い使用して、一晩培養物からプラスミドDNAを単離した。
【0544】
(xii)CRISPRプラスミドを配列検証する。本出願人らはU6プロモーターからU6-Fwdプライマーを使用してシーケンシングすることにより各コロニーの配列を検証した。任意選択:以下のプライマー表に掲載するプライマーを使用してCas9遺伝子を配列決定する。
【0545】
【0546】
【0547】
本出願人らはシーケンシングの結果をPX330クローニングベクター配列と照合し、U6プロモーターとsgRNA足場の残り部分との間に20bpガイド配列が挿入されたことを確かめた。GenBankベクターマップフォーマット(*.gb file)でのPX330マップの詳細および配列を、ウェブサイトcrispr.genome-engineering.orgで見ることができる。
【0548】
(任意選択)ssODNテンプレートの設計・タイミング3日 事前計画
3|ssODNを設計および注文する。センスまたはアンチセンスのいずれかのssODNを供給業者から直接購入することができる。本出願人らは、両側に少なくとも40bpおよび最適なHDR効率のためには90bpの相同性アームを設計することを推奨する。本出願人らの経験上、改変効率はアンチセンスオリゴの方がやや高い。
【0549】
4|本出願人らはssODNウルトラマー(ultramer)を10uMの最終濃度となるように再懸濁して希釈した。センスssODNとアンチセンス ssODNとを組み合わせない、またはアニーリングしないこと。-20℃で保存する。
【0550】
5|HDR適用に関する注記として、本出願人らはsgRNAをPX330プラスミドにクローニングすることを推奨する。
【0551】
sgRNAの機能検証:細胞培養および形質移入・タイミング3~4日
CRISPR-Cas系は多くの哺乳類細胞系で使用されている。細胞系毎に条件が異なり得る。以下のプロトコルは、HEK239FT細胞の形質移入条件を詳説する。ssODN媒介性HDR形質移入に関する注記として、ssODNの最適な送達のためAmaxa SF細胞系Nucleofectorキットが使用される。これは次節に記載する。
【0552】
7|HEK293FTの維持。細胞は製造者の推奨に従い維持される。簡潔に言えば、本出願人らは、D10培地(10%ウシ胎仔血清を補給したGlutaMax DMEM)中、37℃および5%CO2で細胞を培養した。
【0553】
8|継代のため、本出願人らは培地を取り出し、細胞を押し退けないようDPBSを容器の側面に穏やかに加えることにより1回リンスした。本出願人らはT75フラスコに2mlのTrypLEを添加し、37℃で5分間インキュベートした。10mlの温D10培地を添加して失活させ、50ml Falconチューブに移した。本出願人らは細胞を穏やかに粉砕することにより解離させ、必要に応じて新しいフラスコに播種し直した。本出願人らは、典型的には2~3日毎に1:4または1:8の分割比で細胞を継代し、細胞を70%を超えるコンフルエンシーに至らせることが絶対にないようにする。細胞系は継代数が15に達したところで再出発する。
【0554】
9|形質移入用細胞の調製。本出願人らは、形質移入の16~24時間前に、十分に解離した細胞を24ウェルプレートの抗生物質不含D10培地にウェル当たり1.3×105細胞の播種密度および500ulの播種容積でプレーティングした。必要に応じて製造者のマニュアルに従いスケールアップまたはスケールダウンする。推奨される密度より多い細胞をプレーティングすることは、そうすることによって形質移入効率が低下し得るため勧められない。
【0555】
10|形質移入当日、細胞は70~90%コンフルエンシーで最適である。細胞は、リポフェクタミン2000またはAmaxa SF細胞系Nucleofectorキットで製造者のプロトコルに従い形質移入し得る。
【0556】
(A)PX330にクローニングされるsgRNAについては、本出願人らは500ngの配列検証したCRISPRプラスミドを形質移入した;2つ以上のプラスミドを形質移入する場合、等モル比および合計500ng以下で混合する。
【0557】
(B)PCRによって増幅するsgRNAについては、本出願人らは以下を混合した:
【0558】
【0559】
本出願人らは、信頼のおける定量化のため技術的トリプリケートで形質移入することおよび形質移入対照(例えばGFPプラスミド)を入れて形質移入効率をモニタすることを推奨する。加えて、下流機能アッセイの陰性対照としてPX330クローニングプラスミドおよび/またはsgRNAアンプリコンを単独で形質移入してもよい。
【0560】
11|本出願人らはリポフェクタミン複合体を細胞に添加し、ここでHEK293FT細胞はプレートから容易に剥がれ易く、形質移入効率の低下がもたらされ得るため、穏やかに添加した。
【0561】
12|本出願人らは、蛍光顕微鏡を使用して対照(例えばGFP)形質移入における蛍光細胞の割合を推定することにより、形質移入後24時間の細胞の効率を調べた。典型的には70%を超える細胞が形質移入される。
【0562】
13|本出願人らは、培養培地にさらに500ulの温D10培地を補給した。細胞が容易に剥がれ得るため、D10はウェルの側面に極めてゆっくりと加え、低温の培地は使用しないこと。
【0563】
14|細胞は形質移入後合計48~72時間インキュベートしてからインデル分析のため回収する。48時間以降はインデル効率の著しい増加はない。
【0564】
(任意選択)HR用のCRISPRプラスミドとssODNまたはターゲティングプラスミドとの同時形質移入・タイミング3~4日
15|ターゲティングプラスミドを線状化する。ターゲティングベクターは、可能な場合には、相同性アームの一方の近傍またはいずれかの相同性アームの遠位端におけるベクター骨格中の制限部位で1回切断することにより線状化する。
【0565】
16|本出願人らは、少量の線状化プラスミドを切断されていないプラスミドと共に0.8~1%アガロースゲル上で泳動させて、線状化の成功を確認した。線状化プラスミドはスーパーコイルプラスミドより上に泳動するはずである。
【0566】
17|本出願人らはQIAQuick PCR精製キットで線状化プラスミドを精製した。
【0567】
18|形質移入用の細胞を調製する。本出願人らはT75またはT225フラスコでHEK293FTを培養した。形質移入当日までに十分な細胞数が計画される。Amaxaストリップキュベットフォーマットには、形質移入当たり2×106細胞が使用される。
【0568】
19|形質移入用のプレートを調製する。本出願人らは12ウェルプレートの各ウェルに1mlの温D10培地を添加した。プレートはインキュベーターに置かれ、培地が温かいまま保たれる。
【0569】
20|ヌクレオフェクション。本出願人らは、以下のステップに適合させて、Amaxa SF細胞系Nucleofector 4Dキットの製造者の指示に従いHEK293FT細胞を形質移入した。
【0570】
a.ssODNとCRISPRとの同時形質移入については、PCRチューブに以下のDNAを予め混合する:
【0571】
【0572】
b.HDRターゲティングプラスミドとCRISPRとの同時形質移入については、PCRチューブに以下のDNAを予め混合する:
【0573】
【0574】
形質移入対照に関しては前節を参照されたい。加えて、本出願人らは、陰性対照としてssODNまたはターゲティングプラスミドを単独で形質移入することを推奨する。
【0575】
21|単一細胞に解離する。本出願人らは培地を取り出し、細胞を押し退けないよう注意しながらDPBSで1回穏やかにリンスした。2mlのTrypLEをT75フラスコに添加し、37℃で5分間インキュベートする。10mlの温D10培地を添加して失活させ、50ml Falconチューブにおいて穏やかに粉砕する。細胞は穏やかに粉砕して単一細胞に解離することが推奨される。大きい凝集塊は形質移入効率を低下させ得る。本出願人らは懸濁液から10ulアリコートを取り、カウントのため90ulのD10培地に希釈した。本出願人らは細胞をカウントし、形質移入に必要な細胞数および懸濁液の容積を計算した。本出願人らは、典型的にはAmaxa Nucleocuvetteストリップを使用して条件当たり2×105細胞を形質移入したとともに、後続のピペッティングステップでの容積損失を調整するため所要数より20%多い細胞を計算することを推奨する。必要な容積を新しいFalconチューブに移す。
【0576】
23|本出願人らはこの新しいチューブを200×gで5分間スピンダウンした。
【0577】
本出願人らは、SF溶液とS1サプリメントとをAmaxaが推奨するとおり混合して形質移入溶液を調製した。Amaxaストリップキュベットについては、形質移入当たり合計20ulの補給SF溶液が必要である。同様に、本出願人らは、所要量より20%多い容積を計算することを推奨する。
【0578】
25|本出願人らは、ステップ23のペレット化した細胞から培地を完全に取り除き、適切な容積(2×105細胞当たり20ul)のS1補給SF溶液に穏やかに再懸濁した。細胞をSF溶液中に長時間置いたままにしないこと。
【0579】
26|20ulの再懸濁した細胞をステップ20の各DNAプレミックスにピペッティングする。穏やかにピペッティングして混合し、Nucleocuvetteストリップチャンバに移す。これを形質移入条件毎に繰り返す。
【0580】
Amaxaが推奨するNucleofector 4DプログラムCM-130を使用して細胞をエレクトロポレートする。
【0581】
28|本出願人らは、100ulの温D10培地を各Nucleocuvetteストリップチャンバに穏やかにかつゆっくりとピペッティングし、全容積をステップ19の予め温めたプレートに移す。重要。この段階で細胞は極めて脆弱であり、苛酷なピペッティングは細胞死を引き起こし得る。24時間インキュベートする。この時点で、陽性形質移入対照における蛍光細胞の割合から形質移入効率を推定することができる。ヌクレオフェクションは、典型的には70~80%より高い形質移入効率をもたらす。本出願人らは、各ウェルに1mlの温D10培地を、細胞を押し退けないようにしてゆっくりと添加した。細胞を合計72時間インキュベートする。
【0582】
ヒト胚性幹細胞(HUES 9)培養および形質移入・タイミング3~4日
hESC(HUES9)株の維持。本出願人らはHUES9細胞系をmTeSR1培地による無フィーダー条件に常法で維持する。本出願人らは、基本培地と同梱の5×サプリメントおよび100ug/ml Normocinを添加することによりmTeSR1培地を調製した。本出願人らは、10uM Rock阻害薬をさらに補給したmTeSR1培地の10mlアリコートを調製した。組織培養プレートをコーティングする。冷GelTrexを冷DMEMに1:100希釈し、100mm組織培養プレートの表面全体をコーティングする。
【0583】
プレートをインキュベーターに37℃で少なくとも30分間置く。細胞のバイアルを15ml Falconチューブにおいて37℃で解凍し、5mlのmTeSR1培地を添加し、および200×gで5分間ペレット化する。GelTrexコーティングを吸い取り、Rock阻害薬を含有する10ml mTeSR1培地に約1×106細胞を播種する。形質移入後24時間で通常のmTeSR1培地に交換し、毎日リフィードする。細胞を継代する。細胞に新鮮なmTeSR1培地を毎日リフィードし、70%のコンフルエンシーに達するまで継代する。mTeSR1培地を吸い取り、細胞をDPBSで1回洗浄する。2mlのAccutaseを添加して37℃で3~5分間インキュベートすることにより細胞を解離する。10ml mTeSR1培地を添加して細胞を剥がし、15ml Falconチューブに移して穏やかに再懸濁する。GelTrexをコーティングしたプレートの10uM Rock阻害薬含有mTeSR1培地に改めてプレーティングする。プレーティング後24時間で通常のmTeSR1培地に交換する。
【0584】
形質移入。本出願人らは、解凍後少なくとも1週間細胞を培養した後にAmaxa P3初代細胞4-D Nucleofectorキット(Lonza)を使用して形質移入することを推奨する。対数期増殖細胞に新鮮培地を2時間リフィードした後形質移入する。accutaseで単一細胞または10細胞以下の小さいクラスターに解離し、穏やかに再懸濁する。ヌクレオフェクションに必要な細胞の数をカウントし、200×gで5分間スピンダウンする。培地を完全に取り除き、推奨される容積のS1補給P3ヌクレオフェクション溶液に再懸濁する。1×Rock阻害薬の存在下で、コーティングされたプレートにエレクトロポレートした細胞を穏やかにプレーティングする。
【0585】
形質移入の成功を確かめ、通常のmTeSR1培地を毎日、ヌクレオフェクション後24時間目から始めてリフィードする。典型的には、本出願人らはAmaxaヌクレオフェクションで70%より高い形質移入効率を観察する。DNAを回収する。形質移入後48~72時間でaccutaseを使用して細胞を解離し、5倍容積のmTeSR1を添加することにより失活させる。細胞を200×gで5分間スピンダウンする。ペレット化した細胞はQuickExtract溶液によるDNA抽出用に直接処理することができる。細胞をaccutaseを用いずに機械的に解離することは推奨されない。accutaseを失活させずにまたは推奨速度より高速で細胞をスピンダウンすることは推奨されない;それを行うと細胞の溶解が引き起こされ得る。
【0586】
FACSによるクローン細胞系の単離。タイミング・2~3時間ハンズオン;2~3週間拡大
形質移入後24時間でFACSによるかまたは段階希釈によりクローン単離を実施し得る。
【0587】
54|FACS緩衝液を調製する。有色の蛍光を使用して選別する必要のない細胞は、1×ペニシリン/ストレプトマイシン(streptinomycin)を補給した通常のD10培地で選別し得る。有色の蛍光選別もまた必要である場合、フェノール不含DMEMまたはDPBSが通常のDMEMに代用される。1×ペニシリン/ストレプトマイシン(streptinomycin)を補給し、0.22um Steriflipフィルターでろ過する。
【0588】
55|96ウェルプレートを調製する。本出願人らは、各ウェルにつき1×ペニシリン/ストレプトマイシン(streptinomycin)を補給した100ulのD10培地を添加し、所望の数のクローンに必要なとおりのプレート数を調製した。
【0589】
56|FACS用の細胞を調製する。本出願人らは培地を完全に吸い取り、24ウェルプレートのウェル当たり100ul TrypLEを添加することにより、細胞を解離した。5分間インキュベートし、400ulの温D10培地を添加した。
【0590】
57|再懸濁した細胞を15ml Falconチューブに移し、20回穏やかに粉砕する。確実に単一細胞に解離したことを顕微鏡下で確かめることが推奨される。
【0591】
58|細胞を200×gで5分間スピンダウンする。
【0592】
59|本出願人らは培地を吸引し、細胞を200ulのFACS培地に再懸濁した。
【0593】
60|細胞を35umメッシュフィルターでろ過し、ラベルを付したFACSチューブに入れる。本出願人らは、BD Falcon細胞ストレーナーキャップ付き12×75mmチューブを使用することを推奨する。選別時まで細胞を氷上に置く。
【0594】
61|本出願人らは単一細胞を、ステップ55で調製した96ウェルプレートに選別した。本出願人らは、各プレート上の一つの単一の指定されたウェルに100細胞を陽性対照として選別することを推奨する。
【0595】
注。残りの細胞をとっておき、集団レベルでの遺伝子タイピングに使用して全体的な改変効率を評価し得る。
【0596】
62|本出願人らは細胞をインキュベーターに戻して2~3週間拡大させた。選別後5日で100ulの温D10培地を添加する。必要に応じて3~5日おきに100ulの培地を交換する。
【0597】
63|選別後1週間でコロニーの「クローンのような」外観、すなわち中心点から放射状に広がる丸いコロニーについて調べる。空のウェル、またはダブレットまたはマルチプレットが播種された可能性のあるウェルに印を付ける。
【0598】
64|細胞が60%を上回ってコンフルエントになったとき、本出願人らは、継代用に一組のレプリカ平板を調製した。レプリカ平板の各ウェルに100ulのD10培地を添加する。本出願人らは上下に激しく20回ピペッティングすることにより細胞を直接解離した。調製したレプリカ平板に再懸濁容積の20%をプレーティングしてクローン株を維持した。その後培地を2~3日おきに交換し、それに従い継代する。
【0599】
65|残りの80%の細胞はDNA単離および遺伝子タイピングに使用する。
【0600】
任意選択:希釈によるクローン細胞系の単離。タイミング・2~3時間ハンズオン;2~3週間拡大
66|本出願人らは上記に記載したとおり24ウェルプレートから細胞を解離した。確実に単一細胞に解離する。細胞ストレーナーを使用して細胞の凝集を防ぐことができる。
【0601】
67|条件毎に細胞の数をカウントする。各条件を100ul当たり0.5細胞の最終濃度となるようにD10培地に段階稀釈する。各96ウェルプレートについて、本出願人らは、12mlのD10中60細胞の最終カウントとなるように希釈することを推奨する。適切なクローン希釈のため細胞数を正確にカウントすることが推奨される。正確を期すため細胞を段階希釈の中間段階で再度カウントしてもよい。
【0602】
68|マルチチャンネルピペットを使用して100ulの希釈細胞を96ウェルプレートの各ウェルにピペッティングした。
【0603】
注。残りの細胞をとっておき、集団レベルでの遺伝子タイピングに使用して全体的な改変効率を評価し得る。
【0604】
69|本出願人らは、プレーティング後約1週間でコロニーの「クローンのような」外観、すなわち中心点から放射状に広がる丸いコロニーについて調べた。ダブレットまたはマルチプレットが播種された可能性のあるウェルに印を付ける。
【0605】
70|本出願人らは細胞をインキュベーターに戻して2~3週間拡大させた。前節に詳説したとおり必要に応じて細胞にリフィードする。
【0606】
CRISPR開裂効率のSURVEYORアッセイ。タイミング・5~6時間
形質移入細胞の開裂効率をアッセイする前に、本出願人らは、以下に記載するプロトコルを使用するSURVEYORヌクレアーゼ消化のステップにより陰性(形質移入されていない)対照試料でそれぞれの新規SURVEYORプライマーを試験することを推奨する。時折、シングルバンドのクリーンなSURVEYOR PCR産物であっても非特異的SURVEYORヌクレアーゼ開裂バンドを生じ、正確なインデル分析を妨げる可能性がある。
【0607】
71|DNA用の細胞を回収する。細胞を解離し、200×gで5分間スピンダウンする。注。形質移入細胞系をとっておく必要に応じてこの段階でレプリカ平板を作製する。
【0608】
72|上清を完全に吸引する。
【0609】
73|本出願人らはQuickExtract DNA抽出溶液を製造者の指示に従い使用した。本出願人らは典型的には24ウェルプレートの各ウェルに50ulの溶液を使用し、および96ウェルプレートについては10ulを使用した。
【0610】
74|本出願人らは抽出DNAをddH2Oで100~200ng/ulの最終濃度となるように標準化した。休題:抽出DNAは-20℃で数ヶ月間保存しておくことができる。
【0611】
75|SURVEYOR PCRをセットアップする。本出願人らのオンライン/コンピュータアルゴリズムツールによって提供されるSURVEYORプライマーを使用して以下をマスターミックスする:
【0612】
【0613】
76|本出願人らは、各反応について100~200ngのステップ74からの標準化ゲノムDNAテンプレートを添加した。
【0614】
77|30回以下の増幅サイクルに対し、以下のサイクル条件を使用してPCR反応を実施した:
【0615】
【0616】
78|本出願人らは2~5ulのPCR産物を1%ゲル上で泳動させてシングルバンド産物を確認した。これらのPCR条件は多くのSURVEYORプライマー対で機能するように設計されているが、一部のプライマーは、テンプレート濃度、MgCl2濃度、および/またはアニーリング温度を調整することによるさらなる最適化が必要になり得る。
【0617】
79|本出願人らはQIAQuick PCR精製キットを使用してPCR反応物を精製し、溶離液を20ng/ulに標準化した。休題:精製したPCR産物は-20℃で保存しておくことができる。
【0618】
80|DNAヘテロ二重鎖形成。アニーリング反応を以下のとおりセットアップした:
【0619】
【0620】
81|以下の条件を用いて反応物をアニーリングする:
【0621】
【0622】
82|SURVEYORヌクレアーゼS消化。本出願人らはマスターミックスを調製し、氷上で以下の成分を添加して、25ulの総最終容積についてステップ81のヘテロ二本鎖をアニーリングした:
【0623】
【0624】
83|十分にボルテックスし、スピンダウンする。反応物を42℃で1時間インキュベートする。
【0625】
84|任意選択:SURVEYORキットの停止液2ulを添加してもよい。休題。消化産物は、後の分析のため-20℃で保存しておくことができる。
【0626】
85|SURVEYOR反応を可視化する。2%アガロースゲル上でSURVEYORヌクレアーゼ消化産物を可視化し得る。分解能を良くするため、産物を4~20%勾配ポリアクリルアミドTBEゲル上で泳動させてもよい。本出願人らは推奨されるローディング緩衝液で10ulの産物をロードし、製造者の指示に従いゲルを泳動させた。典型的には、本出願人らはブロモフェノールブルー色素が移動してゲルの底に達するまで泳動させる。同じゲル上にDNAラダーおよび陰性対照を含める。
【0627】
86|本出願人らは、TBE中に希釈した1×SYBR Gold色素でゲルを染色した。ゲルを15分間穏やかに揺り動かした。
【0628】
87|本出願人らは、バンドを過度に露光することなく定量的イメージングシステムを使用してゲルをイメージングした。陰性対照は、PCR産物のサイズに対応する1つのバンドのみを有するはずであるが、時折、他のサイズの非特異的な開裂バンドを有し得る。これらは、標的の開裂バンドとサイズが異なる場合には分析を妨げない。本出願人らのオンライン/コンピュータアルゴリズムツールによって提供される標的開裂バンドのサイズの合計は、PCR産物のサイズと等しいはずである。
【0629】
88|開裂強度を推定する。本出願人らはImageJまたは他のゲル定量化ソフトウェアを使用して各バンドの面積強度を定量化した。
【0630】
89|各レーンについて、本出願人らは、以下の式を使用して開裂されたPCR産物の割合(f
cut)を計算した:f
cut=(b+c)/(a+b+c)(式中、aは消化されなかったPCR産物の面積強度であり、bおよびcは各開裂産物の面積強度である)。90|開裂効率は、二重鎖形成の二項確率分布に基づき、以下の式を使用して推定し得る:
91|
【数1】
【0631】
CRISPR開裂効率を評価するためのサンガーシーケンシング。タイミング・3日
最初のステップは、SURVEYORアッセイのステップ71~79と同じである。注:フォワードおよびリバースプライマーに適切な制限部位が付加される場合、サンガーシーケンシングにSURVEYORプライマーを用い得る。推奨されるpUC19骨格へのクローニングに関しては、フォワードプライマーにEcoRIおよびリバースプライマーにHindIIIを用い得る。
【0632】
92|アンプリコン消化。消化反応を以下のとおりセットアップする:
【0633】
【0634】
93|pUC19骨格消化。消化反応を以下のとおりセットアップする:
【0635】
【0636】
94|本出願人らは、QIAQuick PCR精製キットを使用して消化反応物を精製した。休題:精製したPCR産物は-20℃で保存しておくことができる。
【0637】
95|本出願人らは、消化したpUC19骨格およびサンガーアンプリコンを1:3のベクター:インサート比で以下のとおりライゲートした:
【0638】
【0639】
96|形質転換。本出願人らは、細胞と共に供給されるプロトコルに従いPlasmidSafe処理したプラスミドをコンピテント大腸菌(E.coli)株に形質転換した。本出願人らは迅速な形質転換のためStbl3を推奨する。簡潔に言えば、5ulのステップ95の産物を20ulの氷冷化学コンピテントStbl3細胞に添加し、氷上で10分間インキュベートし、42℃で30秒間熱ショックを与え、直ちに氷に2分間戻し、100ulのSOC培地を添加し、100ug/mlアンピシリンを含有するLBプレートにプレーティングする。これを37℃で一晩インキュベートする。
【0640】
97|2日目:本出願人らはプレートのコロニー成長を調べた。典型的には、陰性対照プレート(EcoRI-HindIII消化pUC19のみのライゲーション、サンガーアンプリコンインサート無し)にはコロニーがなく、pUC19-サンガーアンプリコンクローニングプレートには数十個ないし数百個のコロニーがある。
【0641】
98|3日目:本出願人らは、QIAprep Spinミニプレップキットを製造者の指示に従い使用して、一晩培養物からプラスミドDNAを単離した。
【0642】
99|サンガーシーケンシング。本出願人らは、pUC19骨格からpUC19-フォワードプライマーを使用してシーケンシングすることにより各コロニーの配列を確かめた。本出願人らはシーケンシング結果を予想ゲノムDNA配列と照合し、Cas9誘発性のNHEJ突然変異の存在を調べた。%編集効率=(改変クローン数)/(総クローン数)。正確な改変効率を得るには、妥当な数のクローン(>24)を選ぶことが重要である。
【0643】
微小欠失のための遺伝子タイピング。タイミング・2~3日ハンズオン;2~3週間拡大
100|上記に記載したとおり、欠失させる領域を標的にするsgRNAのペアを細胞に形質移入した。
【0644】
101|形質移入後24時間で、クローン株を上記に記載したとおりFACSまたは段階希釈によって単離する。
【0645】
102|細胞を2~3週間拡大させる。
【0646】
103|本出願人らは上記に記載したとおり10ul QuickExtract溶液を使用してクローン株からDNAを回収し、ゲノムDNAを50~100ng/ulの最終濃度となるようにddH2Oで標準化した。
【0647】
104|改変領域をPCR増幅する。PCR反応を以下のとおりセットアップする:
【0648】
【0649】
注:欠失サイズが1kbより大きい場合、内側フォワードプライマーおよび内側リバースプライマーを含む並行する一組のPCR反応をセットアップし、野生型アレルの存在についてスクリーニングする。
【0650】
105|逆位についてスクリーニングするため、PCR反応を以下のとおりセットアップする:
【0651】
【0652】
注:プライマーは、外側フォワード+内側フォワード、または外側リバース+内側リバースのいずれかとしてペアにされる。
【0653】
106|本出願人らは、各反応について100~200ngのステップ103の標準化ゲノムDNAテンプレートを添加した。
【0654】
107|以下のサイクル条件を使用してPCR反応を実施した:
【0655】
【0656】
108|本出願人らは2~5ulのPCR産物を1~2%ゲル上で泳動させて産物を確認した。これらのPCR条件は多くのプライマーで機能するように設計されるが、一部のプライマーは、テンプレート濃度、MgCl2濃度、および/またはアニーリング温度を調整することによるさらなる最適化が必要となり得る。
【0657】
HDRによる標的改変のための遺伝子タイピング。タイミング・2~3日、2~3時間ハンズオン
109|本出願人らは上記に記載したとおりQuickExtract溶液を使用してDNAを回収し、ゲノムDNAを100~200ng/ulの最終濃度となるようにTEで標準化した。
【0658】
110|改変領域をPCR増幅する。PCR反応を以下のとおりセットアップする:
【0659】
【0660】
111|本出願人らは各反応について100~200ngのステップ109のゲノムDNAテンプレートを添加し、以下のプログラムを実行した。
【0661】
【0662】
112|本出願人らは5ulのPCR産物を0.8~1%ゲル上で泳動させてシングルバンド産物を確認した。プライマーは、テンプレート濃度、MgCl2濃度、および/またはアニーリング温度を調整することによるさらなる最適化が必要となり得る。
【0663】
113|本出願人らはQIAQuick PCR精製キットを使用してPCR反応物を精製した。
【0664】
114|HDRの例では、EMX1遺伝子にHindIII制限部位が挿入される。これらはPCRアンプリコンの制限酵素消化により検出される:
【0665】
【0666】
i.DNAを37℃で10分間消化する:
ii.本出願人らは、ローディング色素を含む10ulの消化産物を、4~20%勾配ポリアクリルアミドTBEゲル上でキシレンシアノールバンドが移動してゲルの底に達するまで泳動させた。
【0667】
iii.本出願人らは15分間揺り動かしながら1×SYBR Gold色素でゲルを染色した。
【0668】
iv.上記でSURVEYORアッセイの節に記載したとおり開裂産物をイメージングして定量化する。HDR効率は以下の式により推定される:(b+c)/(a+b+c)(式中、aは消化されなかったHDR PCR産物の面積強度であり、bおよびcはHindIII切断断片の面積強度である)。
【0669】
115|あるいは、ステップ113の精製PCRアンプリコンをクローニングし、サンガーシーケンシングまたはNGSを用いて遺伝子型を決定してもよい。
【0670】
ディープシーケンシングおよびオフターゲット分析・タイミング1~2日
オンラインCRISPR標的設計ツールは、同定された標的部位のそれぞれについて候補ゲノムオフターゲット部位を作成する。これらの部位でのオフターゲット分析は、SURVEYORヌクレアーゼアッセイ、サンガーシーケンシング、または次世代ディープシーケンシングにより実施することができる。これらの部位の多くで改変率が低いまたは検出不能である可能性を考えると、本出願人らは、高感度および高精度のためのIllumina Miseqプラットフォームによるディープシーケンシングを推奨する。プロトコルはシーケンシングプラットフォームによって異なり得る;ここで本出願人らは、シーケンシングアダプターをつなぎ合わせるための融合PCR方法について簡単に記載する。
【0671】
116|ディープシーケンシングプライマーを設計する。次世代シーケンシング(NGS)プライマーは、典型的には100~200bpサイズ範囲の、より短いアンプリコン向けに設計される。プライマーはNCBIプライマーBlastを使用して手動で設計されてもよく、またはオンラインCRISPR標的設計ツール(genome-engineering.org/toolsにあるウェブサイト)で生成されてもよい。
【0672】
117|Cas9標的細胞からゲノムDNAを回収する。QuickExtractゲノムDNAをddH2Oで100~200ng/ulに標準化する。
【0673】
118|初期ライブラリ調製PCR。ステップ116のNGSプライマーを使用して初期ライブラリ調製PCRを調製する。
【0674】
【0675】
119|各反応につき100~200ngの標準化したゲノムDNAテンプレートを加える。
【0676】
120|20回以下の増幅サイクルについて、以下のサイクル条件を使用してPCR反応を実施する:
【0677】
【0678】
121|2~5ulのPCR産物を1%ゲル上で泳動させてシングルバンド産物を確認する。あらゆるゲノムDNA PCRと同様に、NGSプライマーは、テンプレート濃度、MgCl2濃度、および/またはアニーリング温度を調整することによるさらなる最適化が必要となり得る。
【0679】
122|PCR反応物をQIAQuick PCR精製キットを使用して精製し、溶離液を20ng/ulに標準化する。休題:精製したPCR産物は-20℃で保存しておくことができる。
【0680】
123|Nextera XT DNA試料調製キット。製造者のプロトコルに従い、各試料に対するユニークバーコードでMiseqシーケンシング準備ライブラリを作成する。
【0681】
124|シーケンシングデータを分析する。ClustalW、Geneious、または単純な配列解析スクリプトなどのリードアラインメントプログラムにより、オフターゲット分析を実施し得る。
【0682】
タイミング
ステップ1~2 sgRNAオリゴおよびssODNの設計および合成:1~5日、供給業者によって変動
ステップ3~5 CRISPRプラスミドまたはPCR発現カセットの構築:2時間~3日
ステップ6~53 細胞系への形質移入:3日(1時間のハンズオン時間)
ステップ54~70 任意選択のクローン株誘導:1~3週間、細胞型によって変動
ステップ71~91 SURVEYORによるNHEJの機能検証:5~6時間
ステップ92~124 サンガー法または次世代ディープシーケンシングによる遺伝子タイピング:2~3日(3~4時間のハンズオン時間)
【0683】
【0684】
考察
CRISPR-Casは容易に多重化し得るため、いくつかの遺伝子の同時改変が促進され、かつ高効率で染色体微小欠失が媒介される。本出願人らは2つのsgRNAを使用することにより、HEK293FT細胞において最大68%の効率でのヒトGRIN2BおよびDYRK1A遺伝子座の同時標的化を実証した。同様に、sgRNAのペアを使用することによりエクソンの切り出しなどの微小欠失を媒介することができ、これはクローンレベルでPCRにより遺伝子型決定され得る。エクソン接合部の正確な位置は異なり得ることに留意されたい。本出願人らはまた、ssODNおよびターゲティングベクターを使用したHEK 293FT細胞およびHUES9細胞におけるCas9の野生型およびニッカーゼ突然変異体の両方によるHDRの媒介も実証した(
図12)。本出願人らはCas9ニッカーゼを使用したHUES9細胞でのHDRを検出できていないことに留意されたく、これはHUES9細胞における修復活性の低い効率または潜在的な違いに起因し得る。これらの値は典型的であるが、所与のsgRNAの開裂効率にはいくらかのばらつきがあり、まれにある種のsgRNAは、未だ解明されていない理由により機能しないこともある。本出願人らは、各遺伝子座につき2つのsgRNAを設計し、かつ意図される細胞型におけるそれらの効率を試験することを推奨する。
【0685】
実施例26:NLS
Cas9転写モジュレーター:本出願人らは、Cas9/gRNA CRISPR系を、DNA開裂の域を越える機能が遂行され得る汎用DNA結合システムに転換しようと試みた。例えば、1つまたは複数の機能ドメインを触媒的に不活性なCas9と融合することにより、本出願人らは新規機能、例えば転写活性化/抑制、メチル化/脱メチル化、またはクロマチン改変を付与している。この目標を達成するため、本出願人らは、ヌクレアーゼ活性に必須の2つの残基D10およびH840をアラニンに変えることにより、触媒的に不活性なCas9突然変異体を作製した。これらの2つの残基を突然変異させることにより、Cas9のヌクレアーゼ活性を消失させ、一方で標的DNAとの結合能は維持する。本出願人らが自らの仮説を検証するため着目することに決めた機能ドメインは、転写活性化因子VP64ならびに転写リプレッサーSIDおよびKRABである。
【0686】
Cas9核局在:本出願人らは、最も有効なCas9転写モジュレーターが、転写に対してその最も大きい影響を及ぼし得るところである核に強力に局在し得るという仮説を立てた。さらに、細胞質内に残る任意のCas9が望ましくない効果を有する可能性がある。本出願人らは、野生型Cas9が核に局在せず、複数の核局在化シグナル(NLS)を含まないことを決定した(CRISPR系が1つ以上のNLSを有する必要はないが、有利には少なくとも1つ以上のNLSを有する)。複数のNLS配列が必要であったため、Cas9を核に入れるのが困難であることは妥当であったとともに、Cas9と融合する任意のさらなるドメインが核局在を破壊する可能性があった。従って、本出願人らは、異なるNLS配列(pXRP02-pLenti2-EF1a-NLS-hSpCsn1(10A,840A)-NLS-VP64-EGFP、pXRP04-pLenti2-EF1a-NLS-hSpCsn1(10A,840A)-NLS-VP64-2A-EGFP-NLS、pXRP06-pLenti2-EF1a-NLS-EGFP-VP64-NLS-hSpCsn1(10A,840A)-NLS、pXRP08-pLenti2-EF1a-NLS-VP64-NLS-hSpCsn1(10A,840A)-NLS-VP64-EGFP-NLS)を有する4つのCas9-VP64-GFP融合構築物を作製した。これらの構築物をヒトEF1aプロモーターの発現下にあるレンチ骨格にクローニングした。よりロバストなタンパク質発現のため、WPREエレメントもまた加えた。各構築物を、リポフェクタミン2000(Lipofectame 2000)を使用してHEK293FT細胞に形質移入し、形質移入後24時間でイメージングした。融合タンパク質が融合タンパク質のN末端およびC末端の両方にNLS配列を有するとき、最良の核局在が得られる。観察された最も高い核局在は、4つのNLSエレメントを有する構築物で起こった。
【0687】
Cas9に対するNLSエレメントの影響をさらに確実に理解するため、本出願人らは同じαインポーチンNLS配列を、0~3個のタンデムリピートを見てN末端またはC末端のいずれかに付加することにより、16個のCas9-GFP融合物を作製した。各構築物を、リポフェクタミン2000(Lipofectame 2000)を使用してHEK293FT細胞に形質移入し、形質移入後24時間でイメージングした。顕著なことに、NLSエレメントの数は核局在の程度と直接相関しない。C末端にNLSを付加する方が、N末端への付加と比べて核局在により大きい影響を及ぼす。
【0688】
Cas9転写活性化因子:本出願人らは、Sox2遺伝子座を標的にしてRT-qPCRで転写活性化を定量化することにより、Cas9-VP64タンパク質の機能試験を行った。Sox2のプロモーターに跨るように8個のDNA標的部位を選択した。各構築物を、リポフェクタミン2000(Lipofectame 2000)を使用してHEK293FT細胞に形質移入し、形質移入後72時間で細胞から全RNAを抽出した。1ugのRNAを40ul反応物でcDNAに逆転写した(qScript Supermix)。単一の20ul TaqManアッセイqPCR反応に2ulの反応産物を加えた。各実験は生物学的および技術的トリプリケートで実施した。RT対照反応およびテンプレート対照反応はいずれも増幅を示さなかった。強力な核局在を示さない構築物pXRP02およびpXRP04は、活性化が起こらない。実に強力な核局在を示した構築物、pXRP08については、中程度の活性化が観察された。ガイドRNASox2.4およびSox2.5の場合に統計的に有意な活性化が観察された。
【0689】
実施例27:インビボマウスデータ
材料および試薬
Herculase II融合ポリメラーゼ(Agilent Technologies、カタログ番号600679)
10× NE緩衝液 4(NEB、カタログ番号B7004S)
BsaI HF(NEB、カタログ番号R3535S)
T7 DNAリガーゼ(Enzymatics、カタログ番号L602L)
Fast Digest緩衝液、10×(ThermoScientific、カタログ番号B64)
FastDigest NotI(ThermoScientific、カタログ番号FD0594)
FastAPアルカリホスファターゼ(ThermoScientific、カタログ番号EF0651)
リポフェクタミン2000(Life Technologies、カタログ番号11668-019)
トリプシン(Life Technologies、カタログ番号15400054)
鉗子#4(Sigma、カタログ番号Z168777-1EA)
鉗子#5(Sigma、カタログ番号F6521-1EA)
10× ハンクス平衡塩類溶液(Sigma、カタログ番号H4641-500ML)
ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(Life Technologies、カタログ番号P4333)
Neurobasal(Life Technologies、カタログ番号21103049)
B27サプリメント(Life Technologies、カタログ番号17504044)
L-グルタミン(Life Technologies、カタログ番号25030081)
グルタミン酸塩(Sigma、カタログ番号RES5063G-A7)
β-メルカプトエタノール(Sigma、カタログ番号M6250-100ML)
HAウサギ抗体(Cell Signaling、カタログ番号3724S)
LIVE/DEAD(登録商標)細胞イメージングキット(Life Technologies、カタログ番号R37601)
30G World Precision Instrumentシリンジ(World Precision Instruments、カタログ番号NANOFIL)
定位固定装置(Kopf Instruments)
UltraMicroPump3(World Precision Instruments、カタログ番号UMP3-4)
スクロース(Sigma、カタログ番号S7903)
塩化カルシウム(Sigma、カタログ番号C1016)
酢酸マグネシウム(Sigma、カタログ番号M0631)
トリス-HCl(Sigma、カタログ番号T5941)
EDTA(Sigma、カタログ番号E6758)
NP-40(Sigma、カタログ番号NP40)
フェニルメタンスルホニルフルオリド(Sigma、カタログ番号78830)
塩化マグネシウム(Sigma、カタログ番号M8266)
塩化カリウム(Sigma、カタログ番号P9333)
β-グリセロリン酸(Sigma、カタログ番号G9422)
グリセロール(Sigma、カタログ番号G9012)
Vybrant(登録商標)DyeCycle(商標)Ruby染色(Life technologies、カタログ番号S4942)
FACS Aria Flu-act-細胞選別機(Koch Institute of MIT、Cambridge、米国)
DNAeasy血液および組織キット(Qiagen、カタログ番号69504)
【0690】
手順
インビボで脳において使用されるgRNA多重体の構築
本出願人らは、マウスTETおよびDNMTファミリーメンバーを標的にする単一のgRNAを設計し、PCR増幅した(本明細書に記載されるとおり)。標的化効率をN2a細胞系で評価した(
図15)。インビボでいくつかの遺伝子の同時改変を達成するため、効率的なgRNAをAAVパッケージングベクターに多重化した(
図16)。系の効率のさらなる分析を促進するため、本出願人らは、ヒトシナプシンIプロモーターの制御下にあるGFP-KASHドメイン融合タンパク質からなる発現カセットを系に加えた(
図16)。この改変により、ニューロン集団における系の効率のさらなる分析が可能になる(さらに詳細な手順は「核の選別およびインビボ結果」の節にある)。
【0691】
系の4つ全てのパーツを、Herculase II融合ポリメラーゼを使用し、以下のプライマーを使用してPCR増幅した:
【化26】
(NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNは、標的ゲノム配列の逆相補体である。)
【0692】
本出願人らは、Golden Gate戦略を用いて単一ステップ反応で系の全てのパーツを組み立てた(1:1分子比):
【0693】
【0694】
Golden Gate反応産物を、Herculase II融合ポリメラーゼおよび以下のプライマーを使用してPCR増幅した:
【化27】
【0695】
PCR産物を、NotI制限部位を使用してAAV骨格のITR配列間にクローニングした:
PCR産物消化:
【0696】
【0697】
AAV骨格消化:
【0698】
【0699】
37℃で20分間インキュベートした後、QIAQuick PCR精製キットを使用して試料を精製した。標準化した試料を1:3のベクター:インサート比で以下のとおりライゲートした:
【0700】
【0701】
細菌をライゲーション反応産物で形質転換した後、本出願人らは、得られたクローンをサンガーシーケンシングで確認した。
【0702】
Cas9構築物との同時形質移入後に陽性DNAクローンをN2a細胞で試験した(
図17および
図18)。
【0703】
AAV送達用新規Cas9構築物の設計
AAV送達系は、そのユニークな特徴にも関わらず、パッキングに限界がある-インビボでの発現カセットの送達を成功させるには、4.7kb未満のサイズでなければならない。SpCas9発現カセットのサイズを小さくして送達を促進するため、本出願人らはいくつかの変更を試験した:異なるプロモーター、より短いポリAシグナルおよび最後により小さいバージョンの黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来Cas9(SaCas9)(
図19および
図20)。試験した全てのプロモーターが、マウスMecp2(Gray et al.,2011)、ラットMap1bおよびトランケート型ラットMap1b(Liu and Fischer,1996)を含め、以前試験され、ニューロンにおいて活性であることが発表されたものである。代替的な合成ポリA配列は、同様に機能性であることが以前示されたものである(Levitt et al.,1989;Gray et al.,2011)。クローニングした全ての構築物を、リポフェクタミン2000による形質移入後にN2a細胞で発現させ、ウエスタンブロッティング法で試験した(
図21)。
【0704】
初代ニューロンでAAV多重系を試験する
開発した系のニューロンにおける機能性を確認するため、本出願人らはインビトロで初代ニューロン培養物を使用する。Banker and Goslin(Banker and Goslin,1988)により既発表のプロトコルに従いマウス皮質ニューロンを調製した。
【0705】
神経細胞は16日目の胚から得られる。安楽死させた妊娠中の雌から胚を摘出し、断頭し、頭部を氷冷HBSSに置く。次に頭蓋から鉗子(#4および#5)で脳を摘出し、別の交換した氷冷HBSSに移す。氷冷HBSSで満たしたペトリ皿において実体顕微鏡および#5鉗子の助けを借りてさらなるステップを実施する。半球を互いに分離し、脳幹から髄膜を取り除く。次に海馬を極めて慎重に解剖し、氷冷HBSSで満たした15mlの円錐管に入れる。海馬解剖後に残る皮質を、脳幹の残りの部分および嗅球を取り除いた後に類似のプロトコルを用いたさらなる細胞単離に使用することができる。単離された海馬は10ml氷冷HBSSで3回洗浄し、HBSS中トリプシン(海馬当たり10μl 2.5%トリプシンを添加した4ml HBSS)と共に37℃で15分間インキュベートして解離する。トリプシン処理後、海馬を37℃に予熱したHBSSで3回極めて慎重に洗浄して痕跡量のトリプシンを取り除き、温HBSS中に解離する。本出願人らは、通常、1ml HBSS中の10~12個の胚から1mlピペットチップを使用して細胞を解離し、解離した細胞を4mlに至るまで希釈する。細胞を250細胞/mm2の密度でプレーティングし、37℃および5%CO2で最長3週間培養する。
【0706】
HBSS
435ml H2O
50ml 10×ハンクス平衡塩類溶液
16.5ml 0.3M HEPES pH7.3
5ml ペニシリン-ストレプトマイシン溶液
ろ過(0.2μm)および保存4℃
【0707】
ニューロンプレーティング培地(100ml)
97ml Neurobasal
2ml B27サプリメント
1ml ペニシリン-ストレプトマイシン溶液
250μl グルタミン
125μl グルタミン酸
【0708】
HEK293FT細胞のろ過培地からの濃縮AAV1/2ウイルスまたはAAV1ウイルスを、培養下で4~7日間ニューロンに形質導入し、送達された遺伝子を発現させるため形質導入後少なくとも1週間培養下に保つ。
【0709】
系のAAVドライブ発現
本出願人らは、AAV送達後のニューロン培養物におけるSpCas9およびSaCas9の発現を、ウエスタンブロット法を用いて確認した(
図24)。形質導入後1週間でニューロンをβ-メルカプトエタノール含有NuPage SDSローディング緩衝液に回収し、タンパク質を95℃で5分間変性させた。試料をSDS PAGEゲル上で分離し、WBタンパク質検出用のPVDF膜に移した。HA抗体でCas9タンパク質を検出した。
【0710】
gRNA多重AAVからのSyn-GFP-kashの発現が蛍光顕微鏡法で確認された(
図32)。
【0711】
毒性
CRISPR系を含むAAVの毒性を評価するため、本出願人らはウイルス形質導入後1週間のニューロンの全体的な形態を調べた(
図27)。加えて、本出願人らは、設計した系の潜在的毒性を、培養下の生細胞と死細胞との区別を可能にするLIVE/DEAD(登録商標)細胞イメージングキットで調べた。これは、細胞内エステラーゼ活性の存在(非蛍光カルセインAMから強度に緑色の蛍光カルセインへの酵素変換により決定されるとおりの)に基づく。他方で、キットの赤色の細胞不透過性成分は、破損した膜を有する細胞に限り侵入し、DNAに結合して死細胞で蛍光を生じる。両方のフルオロフォアとも、生細胞では蛍光顕微鏡法で容易に可視化され得る。初代皮質ニューロンにおけるCas9タンパク質および多重gRNA構築物のAAVドライブ発現は十分な忍容性を有し、非毒性であった(
図25および
図26)ことから、設計されたAAV系がインビボ試験に好適であることを示している。
【0712】
ウイルス産生
McClure et al.,2011に記載される方法により濃縮ウイルスを作製した。HEK293FT細胞において上清ウイルス産生が生じた。
【0713】
脳手術
ウイルスベクター注入のため、10~15週齢雄性C57BL/6Nマウスをケタミン/キシラジンカクテル(100mg/kgのケタミン用量および10mg/kgのキシラジン用量)で腹腔内注射により麻酔した。先制鎮痛薬(1mg/kg)としてブプレネックス(Buprenex)の腹腔内(intraperitonial)投与を使用した。動物を、耳内位置決めスタッドおよびトゥースバーを使用してKopf定位固定装置に固定化し、固定された頭蓋を維持した。手持形ドリルを使用して、ブレグマの-3.0mm後方および3.5mm側方に、海馬のCA1野における注入用の穴(1~2mm)を開けた。30G World Precision Instrumentシリンジを2.5mmの深さで使用して、総容積1ulのAAVウイルス粒子の溶液を注入した。注入は「World Precision Instruments UltraMicroPump3」注入ポンプにより0.5ul/分の流量でモニタして組織損傷を防いだ。注入が完了した時点で注射針をゆっくりと、0.5mm/分の速度で取り出す。注入後、6-0 Ethilon縫合糸で皮膚を閉じた。動物を術後に1mLの乳酸加リンゲル液(皮下)で水分補給させ、歩行可能な回復に達するまで温度制御された(37℃)環境に収容した。術後3週間で深麻酔により動物を安楽死させ、続いて核選別のため組織を摘出するか、または免疫化学のため4%パラホルムアルデヒドを灌流させた。
【0714】
核の選別およびインビボ結果
本出願人らは、標識した細胞核の蛍光活性化細胞選別(FACS)ならびにDNA、RNAおよび核タンパク質の下流処理のためgRNA標的神経細胞核をGFPで特異的に遺伝的にタグ標識する方法を設計した。そのために、本出願人らの多重ターゲティングベクターが、GFPとマウス核膜タンパク質ドメインKASH(Starr DA,2011,Current biology)との間の融合タンパク質および目的の特異的遺伝子座を標的にする3つのgRNAの両方を発現するように設計された(
図16)。GFP-KASHはヒトシナプシンプロモーターの制御下で発現してニューロンを特異的に標識した。融合タンパク質GFP-KASHのアミノ酸は以下であった:
【化28】
【0715】
脳へのAAV1/2媒介性送達後1週間でGFP-KASHのロバストな発現が観察された。標識された核のFACSおよび下流処理のため、術後3週間で海馬を解剖し、勾配遠心ステップを用いて細胞核精製用に処理した。そのために、320mM スクロース、5mM CaCl、3mM Mg(Ac)2、10mM トリス pH7.8、0.1mM EDTA、0.1%NP40、0.1mM フェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)、1mM β-メルカプトエタノール中で2ml Dounceホモジナイザー(Sigma)を使用して組織をホモジナイズした。ホモジナイズ処理物を、25%~29%のOptiprep(登録商標)勾配で製造者のプロトコルに従い30分間3.500rpm、4℃で遠心した。核ペレットを、340mM スクロース、2mM MgCl2、25mM KCl、65mM グリセロリン酸、5%グリセロール、0.1mM PMSF、1mM β-メルカプトエタノール中に再懸濁し、Vybrant(登録商標)DyeCycle(商標)Ruby染色(Life technologies)を添加して細胞核を標識した(DNAに近赤外放射を提供する)。標識し精製した核を、Aria Flu-act細胞選別機およびBDFACS Divaソフトウェアを使用してFACSにより選別した。選別されたGFP+核およびGFP-核を最終的に使用することにより、標的ゲノム領域のSurveyorアッセイ分析のためDNAeasy血液および組織キット(Qiagen)を使用してゲノムDNAを精製した。同じ手法を、下流処理のための標的細胞からの核RNAまたはタンパク質の精製に容易に用いることができる。本出願人らがこの手法で用いているのが2ベクター系(
図16)であることに起因して、脳のごく一部の細胞(多重ターゲティングベクターおよびCas9コードベクターの両方を同時感染させた細胞)においてのみ効率的なCas9媒介性DNA開裂が起こることが予想された。ここに記載する方法は、本出願人らが目的の3つのgRNAを発現する細胞集団からDNA、RNAおよび核タンパク質を特異的に精製することを可能にし、従ってCas9媒介性DNA開裂を起こすはずである。この方法を用いることにより、本出願人らは、ごく一部の細胞においてのみ起こるインビボでの効率的なDNA開裂を可視化することができた。
【0716】
本質的に、本出願人らがここで示したものは、標的インビボ開裂である。さらに本出願人らは多重的手法を使用し、ここではいくつかの異なる配列が同時に、但し独立してターゲティングされる。提供される系は、脳の病的状態(遺伝子ノックアウト、例えばパーキンソン病)の研究に応用することができ、また脳におけるゲノム編集ツールのさらなる開発分野も切り開くことができる。ヌクレアーゼ活性を遺伝子転写調節因子または後成的調節因子に置き換えることにより、病的状態のみならず、学習および記憶形成のような生理学的過程における遺伝子調節および脳の後成的変化の役割に関するあらゆる種類の科学的問題に答えることが可能になる。最後に、提供される技術は、霊長類のようなより複雑な哺乳類系において応用することができ、これにより現在の技術の限界を乗り越えることが可能となる。
【0717】
実施例28:モデルデータ
いくつかの疾患モデルが特に研究されている。それらには、デノボ自閉症リスク遺伝子CHD8、KATNAL2、およびSCN2A;および症候性自閉症(アンジェルマン症候群)遺伝子UBE3Aが含まれる。これらの遺伝子および得られる自閉症モデルは当然ながら好ましいが、本発明を任意の遺伝子に適用することができ、従って任意のモデルが可能であることを示している。
【0718】
本出願人らは、ヒト胚性幹細胞(hESC)においてCas9ヌクレアーゼを使用してこれらの細胞系を作製した。これらの株は、hESCにCbh-Cas9-2A-EGFPおよびpU6-sgRNAを一過性に形質移入することにより作成された。ほとんどの場合に、自閉症患者の全エクソンシーケンシング研究から患者ナンセンス(ノックアウト)突然変異が最近になって記載されている同じエクソンを標的にして、各遺伝子につき2つのsgRNAが設計される。本計画のため特にCas9-2A-EGFPおよびpU6プラスミドを作成した。
【0719】
実施例29:AAV産生系またはプロトコル
本明細書には、ハイスループットスクリーニング用途のために開発された、かつそれで特に上手く機能するAAV産生系またはプロトコルが提供され、しかしながらこれは、本発明においても同様により広い適用性を有する。内因性遺伝子発現の操作は、発現速度が、調節エレメント、mRNAプロセシング、および転写物の安定性を含めた多くの要因に依存するため、種々の難題を突きつける。この難題を解消するため、本出願人らは、送達用のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベースのベクターを開発した。AAVはssDNAベースのゲノムを有し、従って組換えを起こしにくい。
【0720】
AAV1/2(血清型AAV1/2、すなわち、ハイブリッドまたはモザイクAAV1/AAV2カプシドAAV)ヘパリン精製濃縮ウイルスプロトコル
【0721】
培地:D10+HEPES
500mlボトルDMEM高グルコース+Glutamax(GIBCO)
50ml Hyclone FBS(熱失活)(Thermo Fischer)
5.5ml HEPES溶液(1M、GIBCO)
細胞:低継代HEK293FT(ウイルス産生時の継代数<10、ウイルス産生には継代数2~4の新しい細胞を解凍し、3~5代成長させる)
【0722】
形質移入試薬:ポリエチレンイミン(PEI)「Max」
50ml滅菌超高純度H2Oに50mg PEI「Max」を溶解する
pHを7.1に調整する
0.22umフリップトップフィルターでろ過する
チューブを密閉し、パラフィルムで包む
アリコートを-20℃で凍結する(保存のため、また直ちに使用してもよい)
【0723】
細胞培養
D10+HEPES中で低継代HEK293FTを培養する
毎日1:2~1:2.5で継代する
有利には細胞を85%より高いコンフルエンシーに至らせない
【0724】
T75について
-フラスコ当たり10ml HBSS(-Mg2+、-Ca2+、GIBCO)+1ml TrypLE Express(GIBCO)を37℃に温める(ウォーターバス)
培地を完全に吸引する
-10mlの温HBSSを穏やかに添加する(培地を完全に洗い流すため)
-フラスコ当たり1mlのTrypLEを添加する
-フラスコをインキュベーター(37℃)に1分間置く
-フラスコを揺り動かして細胞を剥がす
-9mlのD10+HEPES培地(37℃)を添加する
-上下に5回ピペッティングして単一細胞懸濁液を作成する
-1:2~1:2.5(T75には12mlの培地)の比で分割する(細胞の成長が遅い場合、廃棄して新しいバッチを解凍する、それらは最適成長でない)
-十分な(大量の細胞の取り扱いが容易になるだけの)細胞が存在するようになったら直ちにT225に移す
【0725】
AAV産生(構築物当たり5×15cmディッシュスケール):
1000万細胞を15cmディッシュ中21.5ml培地にプレーティングする
37℃で18~22時間インキュベートする
80%コンフルエンスでの形質移入が理想的である
【0726】
プレート当たり
22ml培地(D10+HEPES)を予熱する
【0727】
DNA混合物を含むチューブを調製する(内毒素不含maxiprep DNAを使用する):
5.2ug 目的のベクターのプラスミド
4.35ug AAV血清型1プラスミド
4.35ug AAV血清型2プラスミド
10.4ug pDF6プラスミド(アデノウイルスヘルパー遺伝子)・ボルテックスして混合する
434uL DMEMを添加する(無血清!)
130ul PEI溶液を添加する
5~10秒間ボルテックスする
DNA/DMEM/PEI混合物を予熱した培地に添加する
短時間ボルテックスして混合する
15cmディッシュ中の培地をDNA/DMEM/PEI混合物に交換する
37℃インキュベーターに戻す
48時間インキュベートした後回収する(培地が過度に酸性にならないようにすること)
【0728】
ウイルス回収:
1.15cmディッシュから培地を慎重に吸引する(有利には細胞を押し退けない)
2.各プレートに25ml RT DPBS(Invitrogen)を添加し、細胞スクレーパーで細胞を穏やかに剥がし取る。50mlチューブに懸濁液を収集する。
3.800×gで10分間細胞をペレット化する。
4.上清を廃棄する。
【0729】
休題:必要に応じて細胞ペレットを-80℃で凍結する
5.ペレットを150mM NaCl、20mM トリス pH8.0中に再懸濁し、組織培養プレート当たり10mlを使用する。
6.dH2O中に10%デオキシコール酸ナトリウムの新鮮な溶液を調製する。これを0.5%の最終濃度で組織培養プレート当たり1.25ml添加する。ベンゾナーゼ(benzonase)ヌクレアーゼを50単位/mlの最終濃度となるように添加する。チューブを徹底的に混合する。
7.37℃で1時間(ウォーターバス)インキュベートする。
8.3000×gで15分間遠心することにより細胞残屑を除去する。新鮮な50mlチューブに移し、ヘパリンカラムの詰まりを防ぐため、全ての細胞残屑が除去されたことを確実にする。
【0730】
AAV1/2のヘパリンカラム精製:
1.蠕動ポンプを使用して、溶液が毎分1mlでカラムを通って流れるようにHiTrapヘパリンカラムをセットアップする。ヘパリンカラム内に気泡が取り込まれないよう確実にすることが重要である。
2.蠕動ポンプを使用して、10ml 150mM NaCl、20mM トリス、pH8.0でカラムを平衡化する。
3.ウイルスの結合:50mlウイルス溶液をカラムに加え、中を通って流れさせる。
4.洗浄ステップ1:カラムを20ml 100mM NaCl、20mM トリス、pH8.0で(蠕動ポンプを使用)。
5.洗浄ステップ2:3mlまたは5mlシリンジを使用して、1ml 200mM NaCl、20mM トリス、pH8.0、続いて1ml 300mM NaCl、20mM トリス、pH8.0でカラムの洗浄を続ける。
フロースルーは廃棄する。
(上記のウイルス溶液を50分間流す間、種々の緩衝液でシリンジを調製する)
6.溶出 5mlシリンジおよび軽い圧力(<1ml/分の流量)を使用して、以下を加えることによりカラムからウイルスを溶出させる:
1.5ml 400mM NaCl、20mM トリス、pH8.0
3.0ml 450mM NaCl、20mM トリス、pH8.0
1.5ml 500mM NaCl、20mM トリス、pH8.0
これらを15ml遠心管に収集する。
【0731】
AAV1/2の濃縮:
1.濃縮ステップ1:100,000分子量カットオフのAmicon ultra 15ml遠心フィルターユニットを使用して、溶出したウイルスを濃縮する。カラム溶出物を濃縮機にロードし、2000×gで2分間遠心する(室温で。濃縮された容積を確認する-約500μlとなるはずである。必要であれば、正しい容積に達するまで1分間隔で遠心する。
2.緩衝液交換:1mlの滅菌DPBSをフィルターユニットに添加し、正しい容積(500ul)に達するまで1分間隔で遠心する。
3.濃縮ステップ2:500ulの濃縮物をAmicon Ultra 0.5ml 100Kフィルターユニットに添加する。6000gで2分間遠心する。濃縮された容積を確認する-約100μlとなるはずである。必要であれば、正しい容積に達するまで1分間隔で遠心する。
4.回収:フィルターインサートを反転させ、新鮮な収集チューブに挿入する。1000gで2分間遠心する。
アリコートに分け、-80℃で凍結する
典型的には注入部位当たり1ulが必要であり、従って少量のアリコート(例えば5ul)が推奨される(ウイルスの凍結融解を回避する)。
qPCRを使用してDNアーゼI耐性GC粒子力価を決定する(別個のプロトコルを参照)
【0732】
材料
Amicon Ultra、0.5ml、100K;MILLIPORE;UFC510024
Amicon Ultra、15ml、100K;MILLIPORE;UFC910024
Benzonaseヌクレアーゼ;Sigma-Aldrich、E1014
HiTrapヘパリンカートリッジ;Sigma-Aldrich;54836
デオキシコール酸ナトリウム;Sigma-Aldrich;D5670
【0733】
AAV1上清産生プロトコル
培地:D10+HEPES
500mlボトルDMEM高グルコース+Glutamax(Invitrogen)
50ml Hyclone FBS(熱失活)(Thermo Fischer)
5.5ml HEPES溶液(1M、GIBCO)
細胞:低継代HEK293FT(ウイルス産生時の継代数<10)
ウイルス産生には継代数2~4の新しい細胞を解凍し、2~5代成長させる
形質移入試薬:ポリエチレンイミン(PEI)「Max」
50ml滅菌超高純度H2Oに50mg PEI「Max」を溶解する
pHを7.1に調整する
0.22umフリップトップフィルターでろ過する
チューブを密閉し、パラフィルムで包む
アリコートを-20℃で凍結する(保存のため、また直ちに使用してもよい)
細胞培養
D10+HEPES中で低継代HEK293FTを培養し、毎日1:2~1:2.5で継代する
有利には細胞を85%より高いコンフルエンシーに至らせる
T75について
-フラスコ当たり10ml HBSS(-Mg2+、-Ca2+、GIBCO)+1ml TrypLE Express(GIBCO)を37℃に温める(ウォーターバス)
-培地を完全に吸引する
-10mlの温HBSSを穏やかに添加する(培地を完全に洗い流すため)
-フラスコ当たり1mlのTrypLEを添加する
-フラスコをインキュベーター(37℃)に1分間置く
-フラスコを揺り動かして細胞を剥がす
-9mlのD10+HEPES培地(37℃)を添加する
-上下に5回ピペッティングして単一細胞懸濁液を作成する
-1:2~1:2.5(T75には12mlの培地)の比で分割する(細胞の成長が遅い場合、廃棄して新しいバッチを解凍する、それらは最適成長でない)
-十分な(大量の細胞の取り扱いが容易になるだけの)細胞が存在するようになったら直ちにT225に移す
AAV産生(単一15cmディッシュスケール)
1000万細胞を15cmディッシュ中21.5ml培地にプレーティングする
37℃で18~22時間インキュベートする
プレート毎に80%コンフルエンスでの形質移入が理想的である
22ml培地(D10+HEPES)を予熱する
DNA混合物を含むチューブを調製する(内毒素不含maxiprep DNAを使用する):
5.2ug 目的ベクターのプラスミド
8.7ug AAV血清型1プラスミド
10.4ug DF6プラスミド(アデノウイルスヘルパー遺伝子)
ボルテックスして混合する
434uL DMEMを添加する(無血清!)130ul PEI溶液を添加する
5~10秒間ボルテックスする
DNA/DMEM/PEI混合物を予熱した培地に添加する
短時間ボルテックスして混合する
15cmディッシュ中の培地をDNA/DMEM/PEI混合物に交換する
37℃インキュベーターに戻す
48時間インキュベートした後回収する(有利には、培地が過度に酸性にならないよう監視する)
【0734】
ウイルス回収:
15cmディッシュから上清を取り出す
0.45umフィルター(低タンパク質結合)でろ過し、アリコートに分け、-80℃で凍結する
形質導入(24ウェルフォーマット、5DIVでの初代ニューロン培養)
形質導入されるニューロンの各ウェル内の完全neurobasal培地を新鮮なneurobasalに交換する(通常、ウェルにつき500ul中400ulが交換される)
37℃のウォーターバスでAAV上清を解凍する
インキュベーターで30分間平衡化させる
各ウェルに250ul AAV上清を添加する
37℃で24時間インキュベートする
培地/上清を取り出し、新鮮な完全neurobasalに交換する
48時間後に発現が目に見え始め、感染後約6~7日で飽和する
GOI(目的の遺伝子)を含むpAAVプラスミド用の構築物は、両方のITRSを含めて4.8kbを超えてはならない。
【0735】
ヒトコドン最適化配列(すなわちヒトでの発現に最適化されている)配列の例:SaCas9を以下に提供する:
【化29】
【化30】
【化31】
【0736】
実施例30:Cas9ニッカーゼおよび2つのガイドRNAを使用したオフターゲット開裂の最小化
Cas9は、RNAにガイドされるDNAヌクレアーゼであり、20bp RNAガイドの助けによりゲノムにおける特定の位置にターゲティングされ得る。しかしながら、ガイド配列はガイド配列とDNA標的配列との間のいくらかのミスマッチを許容し得る。ガイドRNAによってCas9が、ガイド配列と数塩基の違いを有するオフターゲット配列をターゲティングするき、オフターゲット開裂が起こる可能性があるため、この柔軟性は望ましくない。全ての実験的応用(遺伝子ターゲティング、作物エンジニアリング、治療適用等)について、Cas9媒介性遺伝子ターゲティングの特異性を向上させ、かつCas9によるオフターゲット改変の可能性を低下させることが重要である。
【0737】
本出願人らは、Cas9ニッカーゼ突然変異体を2つのガイドRNAと組み合わせて使用して、オフターゲット改変なしにゲノム中の標的二本鎖切断を促進する方法を開発した。Cas9ニッカーゼ突然変異体は、Cas9ヌクレアーゼから、その開裂活性を無効にすることにより作成され、従ってDNA二重鎖の両鎖が開裂される代わりに一方の鎖のみが開裂される。Cas9ニッカーゼは、Cas9ヌクレアーゼの1つ以上のドメイン、例えばRuvc1またはHNHに突然変異を誘発することにより作成されてもよい。これらの突然変異には、限定はされないが、Cas9触媒ドメインの突然変異が含まれてもよく、例えばSpCas9では、これらの突然変異はD10位またはH840位にあり得る。これらの突然変異には、限定はされないが、SpCas9におけるD10A、E762A、H840A、N854A、N863AまたはD986Aが含まれ得るが、ニッカーゼは、他のCRISPR酵素またはCas9オルソログにおける対応する位置に突然変異を誘発することにより作成されてもよい。本発明の最も好ましい実施形態において、Cas9ニッカーゼ突然変異体は、D10A突然変異を有するSpCas9ニッカーゼである。
【0738】
これの機能の仕方は、Cas9ニッカーゼと組み合わせた各ガイドRNAが二重鎖DNA標的の標的一本鎖切断を誘導し得ることである。各ガイドRNAが1つの鎖にニックを入れるため、正味の結果は二本鎖切断となる。この方法でオフターゲット突然変異がなくなる理由は、両方のガイド配列に高度な類似性を有するオフターゲット部位を有する可能性が極めて低いためである(各ガイドにつき20bp+2bp(PAM)=22bpの特異性、および2つのガイドは、任意のオフターゲット部位が44bp近くの相同配列を有しなければならないことを意味する)。個々のガイドがオフターゲットを有し得る可能性はなおあるが、それらのオフターゲットはニッキングされるに過ぎず、それが突然変異誘発性のNHEJプロセスによって修復される可能性は低い。従ってDNA二本鎖ニッキングの多重化は、オフターゲットの突然変異誘発効果なしに標的DNA二本鎖切断を導入する強力な方法を提供する。
【0739】
本出願人らは、HEK293FT細胞と、Cas9(D10A)ニッカーゼならびに1つ以上のガイド用のDNA発現カセットをコードするプラスミドとの同時形質移入を含む実験を実施した。本出願人らは、リポフェクタミン2000を使用して細胞を形質移入し、形質移入後48時間または72時間で形質移入細胞を回収した。二重ニッキングにより誘導されるNHEJを、本明細書において先述したとおりSURVEYORヌクレアーゼアッセイを使用して検出した(
図33、
図34および
図35)。
【0740】
本出願人らはさらに、2つのガイドRNAと組み合わせたときのCas9ニッカーゼ突然変異体による効率的な開裂に関係するパラメータを特定しており、それらのパラメータには、限定はされないが、5’オーバーハングの長さが含まれる。少なくとも26塩基対の5’オーバーハングについて効率的な開裂が報告される。本発明の好ましい実施形態において、5’オーバーハングは少なくとも30塩基対およびより好ましくは少なくとも34塩基対である。最大200塩基対のオーバーハングが開裂に許容され得るが、100塩基対未満の5’オーバーハングが好ましく、および50塩基対未満の5’オーバーハングが最も好ましい(
図36および
図37)。
【0741】
実施例31:ゲノム編集特異性を増強するためのRNAガイドCRISPR Cas9による二重ニッキング
標的ゲノム編集技術は、幅広い研究および医学的応用を可能にしている。微生物CRISPR-Cas系のCas9ヌクレアーゼは20ntガイド配列によって特定のゲノム遺伝子座にターゲティングされ、ガイド配列はDNA標的とのある程度のミスマッチを許容し得るため、従って望ましくないオフターゲット突然変異誘発を促進し得る。実施例30に簡単に記載したとおり、この例では、本出願者らは、Cas9ニッカーゼ突然変異体を対のガイドRNAと組み合わせて標的二本鎖切断を導入する手法についてさらに記載する。ゲノム中の個々のニックは高いフィデリティで修復されるため、二本鎖切断には適切にオフセットしたガイドRNAによる同時のニッキングが必要であり、従って標的開裂のために特異的に認識される塩基の数が事実上拡張される。本出願者らは、対のニッキングを使用して細胞系におけるオフターゲット活性を50~1,000分の1に減らし、オンターゲット開裂効率を犠牲にすることなしにマウス接合体における遺伝子ノックアウトを促進し得ることを実証した。従ってこの多用途戦略により、高い特異性が要求される多種多様なゲノム編集適用が可能となる。
【0742】
正確な標的化した形でゲノムに摂動を与える能力は、バイオロジーおよび疾患への遺伝的寄与の理解に決定的に重要である。細胞系または動物モデルのゲノムエンジニアリングは、従来、ランダム突然変異誘発または低効率の遺伝子ターゲティングによって達成されてきた。ゲノム編集を促進するため、プログラム可能な配列特異的DNAヌクレアーゼ技術によって内因性ゲノム配列を高効率でターゲティングして改変することが、特に遺伝的に扱いが困難であることが分かっている種において可能となっている。微生物CRISPR(クラスター化等間隔短鎖回分リピート)-Cas系のRNAによってガイドされるCas9ヌクレアーゼは、真核細胞において標的二本鎖DNA切断(DSB)を刺激するためのロバストで多用途のツールであり、ここでは得られる細胞修復機構-非相同末端結合(NHEJ)または相同性組換え修復(HDR)経路-を利用してエラープローンまたは定義された変化を誘導することができる。
【0743】
化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9ヌクレアーゼは、キメラ単一ガイドRNA(sgRNA)によって、5’-NGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に先行する任意のゲノム遺伝子座に指向させることができる。sgRNA内の20ntガイド配列はワトソン・クリック塩基対合によってCas9をゲノム標的に指向させ、所望のゲノム遺伝子座をターゲティングするように容易にプログラムすることができる。Cas9特異性の最近の研究では、20ntガイド配列内の各塩基が全体的な特異性に寄与するものの、ミスマッチの量、位置、および塩基アイデンティティに応じてガイドRNAとその相補的な標的DNA配列との間に複数のミスマッチが許容され、潜在的なオフターゲットDSBおよびインデル形成をもたらし得ることが実証されている。このような望ましくない突然変異は、原因となる遺伝的変異を試験するためのアイソジェニック細胞系の作成またはインビボおよびエキソビボゲノム編集に基づく治療など、高度な正確さが要求されるゲノム編集適用に対するCas9の有用性を潜在的に制限し得る。
【0744】
Cas9媒介性ゲノム編集の特異性を改善するため、本出願者らは、D10A突然変異体ニッカーゼバージョンのCas9(Cas9n)を標的部位の逆鎖に相補的な一対のオフセットしたsgRNAと組み合わせる新規戦略を開発した。一対のCas9ニッカーゼによる両方のDNA鎖のニッキングが部位特異的DSBおよびNHEJをもたらす一方、個々のニックは主に高フィデリティベースの除去修復経路(BER)によって修復される。系のエンジニアリングによってオフターゲット活性を改善する可能性に関係し得る対のニッカーゼ戦略については、標的特異性スクリーニング用のCAS9転写活性化因子および協働的ゲノムエンジニアリングのための対のニッカーゼ(CAS9 transcriptional activators for target specificity screening and paired nickases for cooperative genome engineering)と題されるMali et al.,2013a論文を参照することができる。この二重ニッキング戦略は、FokIヌクレアーゼ単量体を指向する特異性をコードする2つの独立したDNA結合モジュールの相乗的相互作用がDNA開裂に必要な二量体ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)と類似した方法で、オンターゲット改変率を野生型Cas9と同程度に維持しながらも、個々のCas9n-sgRNA複合体のそれぞれによるオフターゲット突然変異誘発を最小限に抑える。ここで本出願者らは、有効な二重ニッキングを促進するsgRNA対の選択に重要なパラメータを定義し、野生型Cas9と二重ニッキングを有するCas9nとの特異性を比較し、および細胞ならびにマウス接合体において二重ニッキングを使用して達成し得る種々の実験的適用を実証する。
【0745】
ガイド配列を拡張してもCas9ターゲティング特異性は改善しない:Cas9ターゲティングは、sgRNA内の20ntガイド配列と標的DNAとの間の塩基対合によって促進される。本出願者らは、ガイドRNAとその標的遺伝子座との間の塩基対合の長さを増加させることにより開裂特異性が向上し得ると考えた。本出願者らは、ヒトEMX1遺伝子内の遺伝子座をターゲティングする20nt(sgRNA1)または30ntガイド配列(sgRNA2および3)を含む3つのsgRNAを発現するようにU6ドライブ発現カセットを作成した(
図38A)。
【0746】
本出願者らおよび他の研究者らによって、ガイド配列のPAM遠位領域と標的DNAとの間の一塩基ミスマッチはCas9に十分に許容されるが、この領域における複数のミスマッチはオンターゲット活性に重大な影響を与え得ることがこれまでに示されている。さらなるPAM遠位塩基(21~30)が全体的なターゲティング特異性に影響し得るかどうかを決定するため、本出願者らは、10個の完全に一致する塩基または8個のミスマッチ塩基(塩基21~28)のいずれかからなる10個のさらなる塩基を含むsgRNA2および3を設計した。意外にも、本出願者らは、さらなる塩基がゲノム標的に相補的であったかどうかに関わらず、これらの拡張sgRNAがHEK 293FT細胞の標的遺伝子座で同程度の改変を媒介したことを観察した(
図38B)。続くノーザンブロットにより、sgRNA2および3は両方とも、大部分が、追加の塩基を有しない同じ20ntガイド配列を含むsgRNA1と同じ長さにプロセシングされたことが明らかになった(
図38C)。
【0747】
Cas9ニッカーゼは、対のオフセットしたガイドRNAによって効率的なNHEJを生じる:ガイド配列の拡張がCas9ターゲティング特異性を改善しないことを所与として、本出願者らは、ガイド配列とそのDNA標的との間の全体的な塩基対合長さを増加させるための別の戦略を模索した。Cas9酵素は2つの保存ヌクレアーゼドメインHNHおよびRuvCを含み、これらはガイドRNAとそれぞれ相補的および非相補的なDNA鎖を開裂する。触媒残基の突然変異(RuvCにおけるD10AおよびHNHにおけるH840A)により、Cas9はDNAニッカーゼに変換される。一本鎖ニックは高フィデリティBER経路によって優先的に修復されるため、本出願者らは、標的遺伝子座の逆鎖をターゲティングする一対のsgRNAによって指向する2つのCas9ニッキング酵素が、オフターゲット活性を最小限に抑えながらDSBを媒介し得ると考えた(
図39A)。
【0748】
多くの要因が、2つの隣接するCas9分子間またはCas9-sgRNA複合体間の立体障害、オーバーハングタイプ、および配列コンテクストを含め、インデル形成をもたらす協働的ニッキングに影響を及ぼし得る;これらの一部は、個別の標的配列およびオフセット(所与のsgRNA対のガイド配列のPAM遠位(5’)末端間の距離)を有する複数のsgRNA対を試験することによって特徴付けられ得る。sgRNAオフセットが続くインデルの修復および生成にどのように影響を及ぼし得るかを系統的に評価するため、本出願者らは初めに、5’-および3’-オーバーハング産物の両方が生じるように約-200~200bpの種々のオフセット距離だけ離れた、ヒトEMX1ゲノム遺伝子座にターゲティングされたsgRNA対のセットを設計した(
図39A、
図44)。本出願者らは次に、各sgRNA対がD10A Cas9突然変異体(Cas9nと称される;H840A Cas9突然変異体はCas9H840Aと称される)と共にヒトHEK 293FT細胞においてインデルを作成する能力を評価した。オフセット4~20bpのsgRNA対にロバストなNHEJ(最大40%)が観察され、100bpまでのオフセットの対では中程度のインデル形成であった(
図39B、左側のパネル)。続いて本出願者らは、同様にオフセットしたsgRNA対を2つの他のゲノム遺伝子座DYRK1AおよびGRIN2Bで試験することにより、これらの知見を再現した(
図39B、右側のパネル)。顕著なことには、調べた3つの遺伝子座全てにわたり、ガイド配列間のオーバーラップが8bp未満(-8bpより大きいオフセット)の5’オーバーハングを作るsgRNA対のみが、検出可能なインデル形成を媒介することができた(
図39C)。重要なことには、これらのアッセイで使用した各ガイドは、野生型Cas9と対にしたときインデルを効率的に誘導することができ(
図44)、二重ニッキング活性の予測においてガイド対の相対位置が最も重要なパラメータであることが示唆される。
【0749】
Cas9nおよびCas9H840AはDNAの逆の鎖をニッキングするため、所与のsgRNA対を有するCas9H840AにCas9nを置き換えると、逆転したオーバーハングタイプがもたらされるはずである。例えば、Cas9nで5’オーバーハングを生じるであろう一対のsgRNAは、原則的に代わりに対応する3’オーバーハングを生じるはずである。従って、Cas9nで3’オーバーハングの作成をもたらすsgRNA対は、Cas9H840Aで5’オーバーハングを作成するために用いられ得る。予想外にも、本出願者らは、5’および3’オーバーハングの両方が作成されるように設計した一組のsgRNA対(オフセット範囲-278~+58bp)でCas9H840Aを試験したが、インデル形成を観察することはできなかった。Cas9H840Aによる二重ニッキングを可能にするsgRNAのペアリングに必要な設計基準を特定するには、さらなる研究が必要であり得る。
【0750】
二重ニッキングは、特異性が向上した効率的なゲノム編集を媒介する:二重ニッキング(DN)が、野生型Cas9によって誘導されるレベルと同程度で高効率のNHEJを媒介することが確立されたため、次に本出願者らは、DNが野生型Cas9と比べて特異性を改善したかどうかを、それらのオフターゲット活性を計測することにより調べた。本出願者らはCas9nを、+23bpのオフセットだけ離れているsgRNA1および9と同時送達することにより、HEK 293FT細胞のヒトEMX1遺伝子座をターゲティングした(
図40A)。このDN構成により、各sgRNA単独と対にした野生型Cas9によって生じたものと同程度のオンターゲットインデルレベルが生じた(
図40B、左側のパネル)。顕著なことには、SURVEYORアッセイによれば、野生型Cas9と異なりDNは以前検証済みのsgRNA1オフターゲット部位OT-4に検出可能な改変を生じさせず(
図40B、右側のパネル)、DNはオフターゲット改変の可能性を潜在的に低減し得ることが示唆される。
【0751】
ディープシーケンシングを用いて5つの異なるsgRNA1オフターゲット遺伝子座における改変を評価することにより(
図40A)、本出願者らは、野生型Cas9+sgRNA1で全ての部位において顕著な突然変異誘発を観察した(
図40C)。対照的に、試験した5つのオフターゲット部位のCas9nによる開裂は、バックグラウンドシーケンシングエラーを上回って検出可能なものはほとんどなかった。オン対オフターゲット改変レベルの比を特異性の尺度として使用して、本出願者らは、一対のsgRNAを伴うCas9nがsgRNAの一方を伴う野生型Cas9と比べて100倍超高い特異性を達成可能であったことを見出した(
図40D)。本出願者らは、VEGFA遺伝子座をターゲティングする2つのsgRNA対(+16および+20bpのオフセット)に関するディープシーケンシングによるさらなるオフターゲット解析を実施し、同様の結果を得た(
図40E)。これらのオフターゲット遺伝子座におけるDN(表4)は、野生型Cas9と比べて200倍から1500倍超高い特異性を達成可能であった(
図40F、
図44)。まとめると、これらの結果は、Cas9媒介性二重ニッキングがオフターゲット突然変異誘発を最小限に抑え、高い特異性のゲノム編集に好適であることを実証している。
【0752】
二重ニッキングは、高効率の相同性組換え修復、NHEJ媒介性DNA挿入、およびゲノム微小欠失を促進する:DSBは相同性組換え修復(HDR)を刺激して、ゲノム標的部位の高度に正確な編集を可能にし得る。DN誘導性HDRを評価するため、本出願者らは、それぞれ-3および+18bpだけオフセットしている(31bpおよび52bpの5’オーバーハングを生じさせる)sgRNAの対でヒトEMX1遺伝子座をターゲティングし、HindIII制限部位を有する一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)をHDR修復テンプレートとして導入した(
図41A)。各DN sgRNA対は、単一ガイドCas9nニッカーゼより高く、かつ野生型Cas9と同等の頻度でHDRを誘導することに成功した(
図41B)。さらに、胚性幹細胞または患者由来の人工多能性幹細胞におけるゲノム編集は、新規疾患パラダイムを作成および研究し、ならびに新規治療法を開発する重要な機会に相当する。ヒト胚性幹細胞(hESC)においてHDRを誘導する単一ニックの手法は、もたらされる成功が限られているため、本出願者らはHUES62 hES細胞系でDNを試み、HDRの成功を観察した(
図41C)。
【0753】
オフセットしたsgRNAの間隔がHDRの効率にどのような影響を与えるかをさらに特徴付けるため、次に本出願者らはHEK 293FT細胞において一組のsgRNA対を試験し、ここで少なくとも1つのsgRNAの開裂部位は組換え部位の近傍に位置している(HDR ssODNドナーテンプレートアームとオーバーラップしている)。本出願者らは、5’オーバーハングを生じさせ、かつ相同性アームの22bpの範囲内に少なくとも1つのニックを生じさせるsgRNA対が、野生型Cas9媒介性HDRと同等の、かつ単一Cas9n-sgRNAニッキングと比べて大幅に高いレベルでHDRを誘導可能であることを観察した。対照的に、本出願者らは、同じDNA鎖の3’-オーバーハングまたは二重ニッキングを生じさせるsgRNA対ではHDRを観察しなかった(
図41D)。
【0754】
定義されたオーバーハングを作成する能力は、適合するオーバーハングを含むドナー修復テンプレートの、NHEJ媒介性ライゲーションによる正確な挿入を可能にし得る。この代替的な導入遺伝子挿入戦略を調査するため、本出願者らは、終止コドン近傍に43bp 5’-オーバーハングが生じるように設計したCas9nおよびsgRNA対でEMX1遺伝子座をターゲティングし、マッチするオーバーハングを有する二本鎖オリゴヌクレオチド(dsODN)二重鎖を供給した(
図42A)。複数のエピトープタグおよび制限部位を含むアニーリングしたdsODNインサートを、3%の頻度で(クローニングしたアンプリコンのサンガーシーケンシングによって1/37がスクリーニングされた)標的にインテグレートすることに成功した。従ってこのライゲーションに基づく戦略は、短い改変、例えばタンパク質タグまたは組換え部位をコードするdsODNを内因性遺伝子座に挿入するための有効な手法を示している。
【0755】
加えて、本出願者らは、sgRNA対の組み合わせ(組み合わせ当たり4つのsgRNA)をHEK 293FT細胞のDYRK1A遺伝子座にターゲティングし、ゲノム微小欠失を促進した。本出願者らは、0.5kb、1kb、2kb、および6kbの欠失(
図42B、
図45:sgRNA32、33、54~61)を媒介する一組のsgRNAを作成し、予測欠失サイズのPCRスクリーニングによってこれらの範囲にわたる多重ニッキング媒介性欠失の成功を確認した。
【0756】
二重ニッキングはマウス接合体における効率的なゲノム改変を可能にする:最近の研究において、野生型Cas9 mRNAを複数のsgRNAと共に同時送達すると、複数の対立遺伝子改変を有するトランスジェニックマウスのシングルステップ作成を媒介し得ることが実証された。インビボでいくつかのsgRNAを使用して一度にゲノム改変を達成する能力を所与として、本出願者らは、マウス接合体におけるCas9nによる複数のニッキングの効率を評価しようとした。単一細胞マウス接合体への野生型Cas9またはCas9n mRNAとsgRNAとの細胞質同時注射により、Mecp2遺伝子座のターゲティングの成功が可能となった(
図43A)。効率的な遺伝子ターゲティングに最適なCas9n mRNAおよびsgRNA濃度を同定するため、本出願者らは、sgRNAレベルを1:20のCas9:sgRNAモル比に維持しながら、Cas9 mRNAを100ng/uLから3ng/uLまで滴定した。Cas9二重ニッキングに関して試験した全ての濃度が、スクリーニングした胚の少なくとも80%で改変を媒介し、これは野生型Cas9で達成されるレベルと同程度であった(
図43B)。まとめると、これらの結果は、二重ニッキングに基づくゲノム編集の多くの適用を示唆している。
【0757】
考察:ゲノム改変の永久的な性質を所与とすれば、特異性は、特定の遺伝的変異を生物学的過程または疾患表現型と関係付けることを目的とする研究および遺伝子療法などの、慎重に扱うべき適用にとって最重要事項である。本出願者らは、Cas9のターゲティング特異性を改善する戦略を探究してきた。単にsgRNAのガイド配列長さを延ばすだけではターゲティング特異性を改善できなかったが、2つの適切にオフセットしたsgRNAをCas9nと組み合わせると、個々のオフターゲット一本鎖ニックが塩基除去修復によって高フィデリティで修復されるため、望ましくない開裂は最小限に抑えながらも、インデルが有効に作成された。ヒト細胞におけるCas9ヌクレアーゼについてはこれまで顕著なオフターゲット突然変異誘発が報告されていることを考えると、DN手法は迅速かつ正確なゲノム編集に向けた一般化可能な解決法を提供し得る。Cas9二重ニッカーゼ媒介性遺伝子ターゲティングの成功を左右する間隔パラメータを特徴付けることにより、100bp長を超える有効なオフセットウィンドウが明らかとなり、sgRNA対の選択において高度な柔軟性が許容される。これまでの計算論的解析から、5’-NGG PAMに基づきヒトゲノムにおいて化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9の12bp毎の平均ターゲティング範囲が明らかとなっており、ゲノム内の多くの遺伝子座について適切なsgRNA対が容易に同定可能なはずであることが示唆される。本出願者らは、ヒトおよびマウスの両方の細胞における複数の遺伝子および遺伝子座でDN媒介性インデル頻度が野生型Cas9改変と同等であることをさらに実証し、この高精度のゲノムエンジニアリング戦略の再現性を確認している(
図44)。
【0758】
Cas9二重ニッキング手法は、標的部位で二本鎖切断を達成するために2つのヘミヌクレアーゼドメイン間の協働が必要なZFNおよびTALENベースのゲノム編集系と原則的に同様である。ZFNおよびTALEN系の系統的な研究から、所与のZFNおよびTALEN対のターゲティング特異性がヌクレアーゼ構成(ホモまたはヘテロ二量体ヌクレアーゼ)または標的配列に高度に依存し得るとともに、ある場合にはTALENは高度に特異的であり得ることが明らかになっている。野生型Cas9系は高いレベルのオフターゲット突然変異誘発を呈することが示されているが、DN系は有望な解決法であり、RNAガイドゲノム編集にZFNおよびTALENと同程度の特異性レベルをもたらす。
【0759】
加えて、Cas9をターゲティングし得る容易さおよび効率によってDN系は特に魅力的となる。しかしながら、DNを使用したDNAターゲティングは、可能性は大幅に低下しているとはいえ、オフターゲット部位における協働的なニッキングがなおも起こり得るというZFNおよびTALENと同様のオフターゲットの問題に直面する可能性が高い。Cas9特異性の広範な特徴付けおよびsgRNA突然変異分析、ならびに本研究で同定されたNHEJ媒介性sgRNAオフセット範囲を所与として、計算論的アプローチを用いることにより所与のsgRNA対についてオフターゲットと見込まれる部位を評価し得る。sgRNA対の選択を促進するため、本出願者らは、二重ニッキング適用に最適な間隔を有するsgRNAの組み合わせを同定するオンラインウェブツールを開発した(ウェブサイトgenome-engineering.orgで利用可能)。
【0760】
Cas9nはオンターゲット部位でHDRを促進することが以前示されているが、その効率は野生型Cas9より実質的に低い。比較すると、二重ニッキング戦略は高いオンターゲット効率を維持する一方で、オフターゲット改変をバックグラウンドレベルまで低減する。それにも関わらず、超高精度ゲノム編集が要求されるバイオテクノロジーまたは臨床での応用におけるCas9n DNの有用性を評価するには、DNオフターゲット活性の、特にDN手法を用いて生成された細胞または全生物の全ゲノムシーケンシングおよび標的ディープシーケンシングによるさらなる特徴付けが必要であり得る。加えて、Cas9nは、「標的特異性スクリーニング用のCAS9転写活性化因子および協働的ゲノムエンジニアリングのための対のニッカーゼ(CAS9 transcriptional activators for target specificity screening and paired nickases for cooperative genome engineering)」(2013)と題されるMali et al.の論文に示されるとおり、特定のsgRNAについてオンターゲット部位におけるインデルの誘導レベルが低いことが示されており、これは残留する二本鎖切断活性によって生じ得るもので、Cas9触媒活性のさらなる構造-機能研究によって回避され得る。概して、Cas9n媒介性多重ニッキングは、高度に正確かつ効率的な標的ゲノムエンジニアリングのためのカスタマイズ可能なプラットフォームとして働き、バイオテクノロジー、基礎科学、および医学における適用範囲を広げることが見込まれる。
【0761】
実験手順
細胞培養および形質移入:ヒト胎児腎臓(HEK)細胞系293FT(Life Technologies)またはマウスNeuro 2a(Sigma-Aldrich)細胞系を、10%ウシ胎仔血清(HyClone)、2mM GlutaMAX(Life Technologies)、100U/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを補足したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に37℃で5%CO2インキュベーションによって維持した。
【0762】
細胞を24ウェルプレート(Corning)に120,000細胞/ウェルの密度で播種し、24時間後に形質移入した。細胞は、80~90%コンフルエンシーでLipofectamine 2000(Life Technologies)を使用して製造者の推奨プロトコルに従い形質移入した。合計500ngのCas9プラスミドおよび100ngのU6-sgRNA PCR産物が形質移入された。
【0763】
ヒト胚性幹細胞系HUES62(ハーバード幹細胞研究所(Harvard Stem Cell Institute)コア)を、100ug/ml Normocin(InvivoGen)を補足したmTesR培地(Stemcell Technologies)中のGelTrex(Life Technologies)上にフィーダー不含条件で維持した。HUES62細胞を、Amaxa P3初代細胞4-D Nucleofectorキット(Lonza)で製造者のプロトコルに従い形質移入した。
【0764】
ゲノム改変のためのSURVEYORヌクレアーゼアッセイ:
293FTおよびHUES62細胞に、上記に記載したとおりのDNAを形質移入した。細胞を形質移入後72時間にわたり37℃でインキュベートした後、ゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAはQuickExtract DNA抽出溶液(Epicentre)を使用して、製造者のプロトコルに従い抽出した。簡潔に言えば、ペレット化した細胞をQuickExtract溶液に再懸濁し、65℃で15分間、68℃で15分間、および98℃で10分間インキュベートした。
【0765】
各遺伝子についてCRISPR標的部位に隣接するゲノム領域をPCR増幅し(表2)、産物をQiaQuickスピンカラム(Qiagen)を使用して、製造者のプロトコルに従い精製した。合計400ngの精製PCR産物を2μlの10×Taq DNAポリメラーゼPCR緩衝液(Enzymatics)および超純水と混合して最終容積を20μlとし、リアニーリングプロセスに供してヘテロ二本鎖の形成を可能にした:95℃で10分、-2℃/秒で95℃~85℃のランピング、-0.25℃/秒で85℃~25℃、および25℃で1分間保持。リアニーリング後、産物をSURVEYORヌクレアーゼおよびSURVEYORエンハンサーS(Transgenomics)で製造者の推奨するプロトコルに従い処理し、4~20%Novex TBEポリアクリルアミドゲル(Life Technologies)で分析した。ゲルをSYBR Gold DNA染料(Life Technologies)で30分間染色し、Gel Docゲルイメージングシステム(Bio-rad)でイメージングした。定量化は相対バンド強度に基づいた。インデル率を、式100×(1-(1-(b+c)/(a+b+c))1/2)(式中、aは未消化PCR産物の積分強度であり、bおよびcは各開裂産物の積分強度である)によって決定した。
【0766】
ヒト細胞におけるtracrRNA発現のノーザンブロット解析 以前Cong et al.,2013に記載されたとおりノーザンブロットを実施した。簡潔に言えば、mirPremierマイクロRNA単離キット(Sigma)を使用してRNAを抽出し、95℃で5分間加熱した後、8%変性ポリアクリルアミドゲル(SequaGel、National Diagnostics)にロードした。その後、RNAを、プレハイブリダイズしたHybond N+膜(GE Healthcare)に移し、Stratagene UVクロスリンカー(Stratagene)で架橋した。プローブを、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)によって[γ-32P]ATP(Perkin Elmer)で標識した。洗浄後、膜を蛍光スクリーンに1時間曝露させ、ホスフォイメージャー(Typhoon)で走査した。
【0767】
ディープシーケンシングによるターゲティング特異性の評価:HEK 293FT細胞をプレーティングして上記に記載したとおり形質移入し、72時間後にゲノムDNAを抽出した。各遺伝子についてCRISPR標的部位に隣接するゲノム領域をフュージョンPCR方法によって増幅し(プライマー配列に関しては表3を参照のこと)、Illumina P5アダプターならびにユニークな試料特異的バーコードを標的に付加した。PCR産物を、EconoSpin 96ウェルフィルタープレート(Epoch Life Sciences)を使用して製造者の推奨プロトコルに従い精製した。
【0768】
バーコードを付加して精製したDNA試料をQubit 2.0蛍光光度計(Life Technologies)によって定量化し、等モル比でプールした。次にシーケンシングライブラリをIllumina MiSeq Personalシーケンサー(Life Technologies)でシーケンシングした。
【0769】
シーケンシングデータ解析、インデル検出、および相同組換え検出:MiSeqリードを、少なくとも30の平均Phredクオリティ(Qスコア)、ならびにバーコードとの完全な配列マッチを要件とすることによりフィルタリングした。オンターゲットおよびオフターゲット遺伝子座からのリードを、Python difflibモジュールで実行されるとおり、標的部位の上流および下流の30ヌクレオチドを含む遺伝子座配列(合計80bp)に対してRatcliff-Obershelpストリング比較を実施することにより解析した。得られた編集操作をパースし、挿入または欠失操作が見付かった場合にリードをインデルとしてカウントした。それらのアラインメントの一部がMiSeqリードそれ自体の範囲外にある場合またはコールされなかった塩基が5塩基より多かった場合、解析した標的領域は破棄した。
【0770】
各試料の陰性対照が、インデルを推定切断イベントとして含めるか、それとも除外するかの判断基準を提供した。相同組換えの定量化のため、初めにリードをインデル検出ワークフローにあるとおり処理し、次に相同組換えテンプレートCCAGGCTTGGの存在を調べた。
【0771】
マウス接合体へのマイクロインジェクション:T7プロモーター配列コンジュゲートプライマーでCas9 mRNAおよびsgRNAテンプレートを増幅した。ゲル精製後、Cas9およびCas9nをmMESSAGE mMACHINE T7 Ultraキット(Life technologies)で転写した。sgRNAはMEGAshortscript T7キット(Life technologies)で転写した。RNAをMEGAclearキット(Life technologies)によって精製し、-80℃で凍結した。
【0772】
8週齢の過排卵BDF1雌から、7.5I.U.のPMSG(Harbor、UCLA)およびhCG(Millipore)を注入することによりMII期卵母細胞を採取した。それらを、10mg/mlウシ血清アルブミン(BSA;Sigma-Aldrich)を補足したHTF培地に移し、成体C57BL/6雄マウスの尾側精巣上体から得た受精能を獲得した精子を受精させた。受精後6時間で、ピエゾインパクトドライブマイクロマニピュレータ(プライムテック株式会社、茨城県、日本)を使用して接合体にM2培地(Millipore)中のmRNAおよびsgRNAを注入した。Cas9およびCas9n mRNAならびにsgRNAの濃度は本文および
図6Bに記載する。マイクロインジェクション後、接合体をKSOM(Millipore)において5%CO2および95%空気の加湿雰囲気下37℃で培養した。
【0773】
胚盤胞胚からのゲノム抽出:胚を6日間インビトロ培養した後、拡張した胚盤胞をPBS中0.01%BSAで洗浄し、個々に0.2mLチューブに収集した。5マイクロリットルのゲノム抽出溶液(50mMトリス-HCl、pH8.0、0.5%Triton-X100、1mg/mlプロテイナーゼK)を添加し、試料を65℃で3時間、続いて95℃で10分間インキュベートした。次に試料を、上記に記載したとおりの標的ディープシーケンシング用に増幅した。
【0774】
【0775】
【0776】
【0777】
【0778】
【0779】
配列は全て5’から3’への方向である。U6転写については、下線のTのストリングが転写ターミネーターとして働く。
【0780】
>+85 tracrRNAを含むsgRNA(化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes) SF370)
【化32】
【0781】
(ガイド配列は大文字「N」の太字の文字列であり、tracrRNA断片は下線Tの文字列の前にある太字の配列である)
【化33】
【化34】
【0782】
>3xFLAG-NLS-SpCas9n-NLS (D10Aニッカーゼ突然変異を太字で強調表示する)
【化35】
【化36】
【化37】
【0783】
T7-SpCas9-NLS (T7プロモーターに下線を引く)
【化38】
【化39】
【化40】
【0784】
T7-SpCas9n-NLS (D10Aニッカーゼ突然変異を太字で強調表示する; T7プロモーターに下線を引く)
【化41】
【化42】
【0785】
>dsODNライゲーションインサートフォワード
【化43】
【0786】
>dsODNライゲーションインサートリバース
【化44】
【0787】
実施例32:RNAガイドCRISPR Cas9による二重ニッキングのさらなる特徴付け
二重ニッキング特異性:Cas9多重ニッキングのターゲティングスペースは、標的DNAが複数のガイドRNA(sgRNA)によってターゲティングされるときのCas9 PAM認識のストリンジェンシーの緩和を利用して増加させることができる。本出願者ら(applciants)は、実施例31において(Ran et al.,「ゲノム編集特異性を増強するためのRNAガイドCRISPR Cas9による二重ニッキング(Double nicking by RNA-guided CRISPR Cas9 for enhanced genome editing specificity)」,Cell.2013 Sep 12;154(6):1380-9)、2つの適切にオフセットしたsgRNAが特異的な「sgRNAオフセット」パラメータ内でターゲティングされ、インデルを生成し得ることを実証している。本出願者ら(aplicants)は、オフセットしたsgRNAが非NGG PAM(詳細にはNGNおよびNNG)でターゲティングされるとき、効率的なインデルが形成され得ることを実証している。Cas9は、シフトしたPAM、または2番目または3番目のPAM塩基位置にGヌクレオチドを1つのみ有するPAMを潜在的に許容し得るように思われる。
【0788】
二重ニッキングのためのCas9突然変異誘発:本出願者らは、1つのsgRNAのみによってターゲティングされるときにCas9ニッカーゼ突然変異体がインデルを作成する能力を試験した。一本鎖DNA切断は高フィデリティの非NHEJ修復経路を通じて修復される。しかしながら、他のグループの研究では、Cas9(D10A)ニッカーゼおよび1つのsgRNAによる顕著な突然変異誘発が示唆され得る(Mali et al.,Science 2013)。本出願者らは、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9内に存在する(全3つのうち)2つのさらなるRuvC触媒ドメインに突然変異を生成してCas9 3KO[Cas9(D10A、E762A、およびD986A)]を作製し、それをAAVS1遺伝子座に対して試験した(sgRNAガイド配列:ggggccactagggacaggat)。本出願者らはCas9 D10Aと比べて3KOニッカーゼ突然変異体によるインデル突然変異誘発の低下を見出した(以下の表を参照のこと、表中のデータは3つの生物学的レプリケートの平均値である)。
【0789】
【0790】
マウス胚の特異的編集:本出願者らは、マウス接合体におけるCas9投与量を10ng/uLから0.01ng/uLまで滴定し、二重ニッキングによる特異的Cas9編集に最適な投与量を決定した。10ng/uL条件では、本出願者らは、野生型Cas9で88%の編集およびD10A二重ニッキングによる83%の編集を実証した。10ng/uLのD10A+L sgRNAが0%のインデルを呈した一方、wt Cas9は1、0.1、および0.01ng/uL条件でインデルを呈しなかった。
【0791】
ゲノム改変のための細胞培養および形質移入プロトコルならびにSURVEYORヌクレアーゼアッセイに関する本実施例の実験詳細は、実施例31にさらに記載される。
【0792】
本発明の好ましい実施形態を本明細書に図示および記載したが、当業者には、かかる実施形態が単に例として提供されることは明らかであろう。ここで多数の変形例、変更例、および代替例が、当業者には本発明から逸脱することなく想起されるであろう。本明細書に記載される発明の実施形態の様々な代替例を本発明の実施に用い得ることが理解されなければならない。
【0793】
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