(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20220603BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20220603BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
C01B21/064 B
B01J23/745 M
B01J23/755 M
(21)【出願番号】P 2020567144
(86)(22)【出願日】2019-10-14
(86)【国際出願番号】 CN2019110961
(87)【国際公開番号】W WO2020057672
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】515291465
【氏名又は名称】中国科学院上海微系統与信息技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】時 志遠
(72)【発明者】
【氏名】呉 天如
(72)【発明者】
【氏名】盧 光遠
(72)【発明者】
【氏名】王 秀君
(72)【発明者】
【氏名】張 超
(72)【発明者】
【氏名】王 浩敏
(72)【発明者】
【氏名】謝 曉明
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1397491(CN,A)
【文献】国際公開第2018/128193(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104860273(CN,A)
【文献】AHMAD,P. et al,A simple technique to synthesize vertically aligned boron nitride nanosheets at 1200℃,Advances in Applied Ceramics,Vol.114 ,2015年,pp.267-272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B21/064
C01B35/14
C23C16/34
B01J23/745
B01J23/755
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法であって、
1)基板を提供するステップであって、前記基板は絶縁基板又は半導体基板を含むステップと、
2)ホウ素含有固体触媒を提供し、前記ホウ素含有固体触媒を前記基板
の上方に配置するステップと、
3)前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理することで、前記ホウ素含有固体触媒を融解させるステップと、
4)融解した前記ホウ素含有固体触媒が位置する環境内に窒素含有ガスとシールドガスを同時に導入し、前記窒素含有ガスが前記ホウ素含有固体触媒と反応することで、前記基板表面に多層六方晶窒化ホウ素シートが形成されるステップ、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
ステップ1)で提供する前記基板は、窒化ケイ素基板、酸化ケイ素基板、窒化アルミニウム基板、酸化マグネシウム基板又は酸化アルミニウム基板を含むことを特徴とする請求項1に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【請求項3】
ステップ2)で提供する前記ホウ素含有固体触媒は、ニッケルホウ素合金触媒、鉄ホウ素合金触媒、白金ホウ素合金触媒、コバルトホウ素合金触媒、クロムホウ素合金触媒、鉄ニッケルホウ素合金触媒、鉄ホウ素ケイ素合金触媒、及びニッケルホウ素ケイ素合金触媒のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【請求項4】
ステップ3)において、前記基板及び前記ホウ素含有固体触媒を
絶縁るつぼ又は半導体るつぼに投入したあと、化学気相蒸着チャンバに配置し、前記化学気相蒸着チャンバ内にシールドガスを導入して、保護雰囲気及び常圧又は
圧力が50~5000Paの条件下で前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理することを特徴とする請求項1に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【請求項5】
アニーリング温度は800~1500℃とし、アニーリング時間は0.5~2時間とすることを特徴とする請求項4に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【請求項6】
ステップ3)において、前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理する前に、更に、前記化学気相蒸着チャンバ内にシールドガスを導入し、保護雰囲気及び常圧又は
圧力が50~5000Paの条件において、2~10℃/minの昇温速度で前記化学気相蒸着チャンバ内の温度を所望のアニーリング温度まで上昇させるステップを含むことを特徴とする請求項4に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【請求項7】
前記シールドガスはアルゴンガスと水素ガスを含み、前記アルゴンガスと水素ガスの体積比は1:1~30:1
とすることを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【請求項8】
ステップ4)において、前記窒素含有ガスは窒素ガス又はアンモニアガスを含み、前記シールドガスはアルゴンガスと水素ガスを含み、前記窒素含有ガスと前記アルゴンガス及び前記水素ガスの体積比は30:1:1~1:30:30とすることを特徴とする請求項1に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【請求項9】
ステップ4)において、前記窒素含有ガスと前記ホウ素含有固体触媒を常圧又は
圧力が50~5000Paの条件下で反応させ、反応時間を0.5~8時間とすることを特徴とする請求項1に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【請求項10】
ステップ4)のあとに、表面に前記多層六方晶窒化ホウ素シートが形成された前記基板を室温まで冷却するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【請求項11】
アルゴンガス及び
水素ガスの保護雰囲気及び常圧条件下で、表面に前記多層六方晶窒化ホウ素シートが形成された前記基板を室温まで冷却し、且つ冷却速度を0.25~10℃/minとすることを特徴とする請求項10に記載の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次元材料形成の技術分野に関し、特に、多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素の層状材料は、代表的な2次元絶縁材料又は半導体材料である。当該材料はバンドギャップが高く(5.97eV)、優れた熱安定性や化学的安定性、及び極めて高い熱伝導率を有する。また、六方晶窒化ホウ素はグラフェンと類似した結晶格子構造及び電子構造を有しており、格子不整合度が低い(-1.6%)ため、原子レベルの平坦面によってグラフェンのエレクトロニクス特性を有効に強化可能である。これらの利点から、六方晶窒化ホウ素は良質な誘電体層及び保護層として、集積電子工学分野やフォトニクス分野においてずば抜けた可能性を有している。
【0003】
ほかの二次元材料と同様に、多層六方晶窒化ホウ素シートは、機械的剥離法によって良質なものを形成可能である。しかし、機械的剥離法はハイコストで効率が悪く、サイズが小さく、且つ大量生産が難しいことから、デバイス分野への応用が極めて限られている。そのため、大面積の多層窒化ホウ素シートをローコストで環境に配慮しながら形成することが近年の主な研究の焦点となっている。
【0004】
化学気相蒸着法は、多層六方晶窒化ホウ素シートを大量生産するための主な方法とされている。現状では、化学気相蒸着法によって、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、白金(Pt)、銅ニッケル合金(Cu-Ni)、鉄ニッケル合金(Fe-Ni)及びニッケルクロム合金(Ni-Cr)等の遷移金属上に多層六方晶窒化ホウ素シートが形成されている。しかし、形成される多層六方晶窒化ホウ素シートは品質に劣り、通常は原子層の厚さが10ナノメートル以下となるため、デバイス分野への応用ニーズを満たすことが難しい。また、多層六方晶窒化ホウ素の形成には、BH3NH3、(HBNH)3、(HBNCl)3又は(ClBNH)3を原料物質として用いることが多いが、当該原料物質の場合にはポリマーが基板表面に極めて堆積しやすく、六方晶窒化ホウ素の品質に影響を及ぼす。且つ、当該原料物質は一定の毒性を有するため、環境への配慮やクリーン生産の実現が難しい。そこで、現在のところ、如何にして大面積且つ良質な多層窒化ホウ素シートを環境に配慮しつつ形成するかが科学研究の大きな難題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術の欠点に鑑みて、本発明は、従来技術で六方晶窒化ホウ素シートを形成する際に存在するハイコストで効率が悪く、サイズが小さく且つ大量生産が難しいとの課題、形成される多層六方晶窒化ホウ素シートは品質に劣り、厚さが薄く、デバイス分野への応用ニーズを満たせないとの課題、及び、六方晶窒化ホウ素を形成する原料物質が六方晶窒化ホウ素シートの品質に影響を及ぼし、且つ毒性により環境を汚染するとの課題を解決するための多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的及びその他関連の目的を実現するために、本発明は、多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法を提供する。前記多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法は、
1)基板を提供するステップであって、前記基板は絶縁基板又は半導体基板を含むステップと、
2)ホウ素含有固体触媒を提供し、前記ホウ素含有固体触媒を前記基板に配置するステ
ップと、
3)前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理することで、前記ホウ素含有固体触媒を融解させるステップと、
4)融解した前記ホウ素含有固体触媒が位置する環境内に窒素含有ガスとシールドガスを同時に導入する。前記窒素含有ガスが前記ホウ素含有固体触媒と反応することで、前記基板表面に多層六方晶窒化ホウ素シートが形成されるステップを含む。
【0007】
選択的に、ステップ1)で提供する前記基板は、窒化ケイ素基板、酸化ケイ素基板、窒化アルミニウム基板、酸化マグネシウム基板又は酸化アルミニウム基板を含む。
【0008】
選択的に、ステップ2)で提供する前記ホウ素含有固体触媒は、ニッケルホウ素合金触媒、鉄ホウ素合金触媒、白金ホウ素合金触媒、コバルトホウ素合金触媒、クロムホウ素合金触媒、鉄ニッケルホウ素合金触媒、鉄ホウ素ケイ素合金触媒、及びニッケルホウ素ケイ素合金触媒のうちの少なくとも1つを含む。
【0009】
選択的に、ステップ3)において、前記基板及び前記ホウ素含有固体触媒を密閉された絶縁るつぼ又は半導体るつぼに投入したあと、化学気相蒸着チャンバに配置し、前記化学気相蒸着チャンバ内にシールドガスを導入して、保護雰囲気及び常圧又は低圧条件下で前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理する。
【0010】
選択的に、アニーリング温度は800-1500℃とし、アニーリング時間は0.5-2時間とする。
【0011】
選択的に、ステップ3)において、前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理する前に、更に、前記化学気相蒸着チャンバ内にシールドガスを導入し、保護雰囲気及び常圧又は低圧条件下において、2-10℃/分の昇温速度で前記化学気相蒸着チャンバ内の温度を所望のアニーリング温度まで上昇させるステップを含む。
【0012】
選択的に、前記シールドガスはアルゴンガスと水素ガスを含み、前記アルゴンガスと水素ガスの体積比は1:1-30:1とする。また、前記低圧条件の圧力は50-5000Paとする。
【0013】
選択的に、ステップ4)において、前記窒素含有ガスは窒素ガス又はアンモニアガスを含み、前記シールドガスはアルゴンガスと水素ガスを含む。前記窒素含有ガスと前記アルゴンガス及び前記水素ガスの体積比は30:1:1-1:30:30とする。
【0014】
選択的に、ステップ4)において、前記窒素含有ガスと前記ホウ素含有固体触媒を常圧又は低圧条件下で反応させ、反応時間を0.5-8時間とする。
【0015】
選択的に、ステップ4)のあとに、表面に前記多層六方晶窒化ホウ素シートが形成された前記基板を室温まで冷却するステップを含む。
【0016】
選択的に、アルゴンガス及びアンモニアガスの保護雰囲気及び常圧条件下で、表面に前記多層六方晶窒化ホウ素シートが形成された前記基板を室温まで冷却する。また、冷却速度を0.25-10℃/分とする。
【発明の効果】
【0017】
上述したように、本発明の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法は、以下の有益な効果を有する。
【0018】
本発明の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法によれば、基板の表面に横方向のサイズがインチレベルに達し、且つ厚さが数ナノメートルから数百ナノメートルの六方晶窒化ホウ素シートを形成可能である。本発明の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法は形成条件がシンプルであり、ローコストで環境に優しい。また、成長パラメータの幅が広く、再現性に優れている。よって、二次元材料デバイス分野における六方晶窒化ホウ素の応用に良好な基礎を構築するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法のフローチャートを示す。
【
図2】
図2は、本発明で提供するFe-B合金をホウ素含有固体触媒、窒素ガスをガス源、Al
2O
3基板を基板として多層六方晶窒化ホウ素シートを形成する装置を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのSEM画像を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施例1で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのXRDスペクトル図を示す。
【
図5】
図5は、本発明の実施例1で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのTEM画像を示す。
【
図6】
図6は、本発明の実施例1で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのナノビーム電子回折画像を示す。
【
図7】
図7は、本発明の実施例2で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのSEM画像を示す。
【
図8】
図8は、本発明の実施例2で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのラマンスペクトル図を示す。
【
図9】
図9は、本発明の実施例3で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのSEM画像を示す。
【
図10】
図10は、本発明の実施例4で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのAFM画像を示す。
【
図11】
図11は、本発明の実施例5で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのOM画像を示す。
【
図12】
図12は、本発明の実施例5で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのラマンスペクトル図を示す。
【
図13】
図13は、比較実施例で提供する多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法で形成した多層六方晶窒化ホウ素シートのSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、特定の具体的実例によって本発明の実施形態につき説明する。なお、当業者であれば、本明細書に開示の内容から、本発明のその他の利点及び効果を容易に理解可能である。また、本発明はその他の異なる具体的実施形態で実施又は応用してもよい。本明細書の各詳細事項に関しては、異なる観点及び応用に基づき、本発明の精神を逸脱しないことを前提に各種の追加又は変更を行ってもよい。
【0021】
図1-
図13を参照する。なお、本実施例で提示する図面は本発明の基本思想を概略的に説明するためのものにすぎない。図面には本発明に関係する部材のみを示しており、実際に実施する際の部材数、形状及び寸法に基づき記載しているわけではない。実際の実施時には、各部材の形態、数量及び比率を任意に変更してもよく、部材の配置形態がいっそう複雑となる場合もある。
【0022】
図1を参照して、本発明は、多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法を提供する。前記
多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法は
1)基板を提供するステップであって、前記基板は絶縁基板又は半導体基板を含むステップと、
2)ホウ素含有固体触媒を提供し、前記ホウ素含有固体触媒を前記基板に配置するステップと、
3)前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理することで、前記ホウ素含有固体触媒を融解させるステップと、
4)融解した前記ホウ素含有固体触媒が位置する環境内に窒素含有ガスとシールドガスを同時に導入する。前記窒素含有ガスが前記ホウ素含有固体触媒と反応することで、前記基板表面に多層六方晶窒化ホウ素シートが形成されるステップを含む。
【0023】
図1のステップS1を参照して、ステップ1)では基板を提供する。前記基板は絶縁基板又は半導体基板を含む。
【0024】
一例として、前記基板は窒化ケイ素(Si3N4)基板、酸化ケイ素(SiO2)基板、窒化アルミニウム(AlN)基板、酸化マグネシウム(MgO)基板又は酸化アルミニウム(Al2O3)基板を含む。
【0025】
図1のステップS2を参照して、ステップ2)では、ホウ素含有固体触媒を提供し、前記ホウ素含有固体触媒を前記基板に配置する。
【0026】
一例として、前記ホウ素含有固体触媒は、ニッケルホウ素(Ni-B)合金触媒、鉄ホウ素(Fe-B)合金触媒、白金ホウ素(Pt-B)合金触媒、コバルトホウ素(Co-B)合金触媒、クロムホウ素(Cr-B)合金触媒、鉄ニッケルホウ素(Fe-Ni-B)合金触媒、鉄ホウ素ケイ素(Fe-B-Si)合金触媒及びニッケルホウ素ケイ素(Ni-B-Si)合金触媒のうちの少なくとも1つを含む。
【0027】
図1のステップS3及び
図2を参照して、ステップ3)では、前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理することで、前記ホウ素含有固体触媒を融解させる。
【0028】
一例として、前記基板3及び前記ホウ素含有固体触媒4を密閉された絶縁るつぼ又は半導体るつぼに投入したあと、図
2の化学気相蒸着チャンバ1に配置する。そして、給気端11から前記化学気相蒸着チャンバ1内にシールドガスを導入し(
図2の矢印はシールドガスの流動方向を示す)、保護雰囲気及び常圧又は低圧条件下で前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理する。具体的には、排気端12の機械式ポンプ5により前記化学気相蒸着チャンバ1内のシールドガスを吸引することで、前記化学気相蒸着チャンバ1内の圧力を制御できる。一例として、加熱システム2により前記基板3及び前記ホウ素含有固体触媒4を加熱することで、前記ホウ素含有固体触媒4をアニーリング処理する。アニーリング温度は800~1500℃とすればよく、アニーリング時間は0.5~2時間とすればよい。
【0029】
一例として、前記ホウ素含有固体触媒4をアニーリング処理する前に、更に、前記化学気相蒸着チャンバ1内にシールドガスを導入し、保護雰囲気及び常圧又は低圧条件において、2-10℃/分の昇温速度で前記化学気相蒸着チャンバ1内の温度を所望のアニーリング温度まで上昇させるステップを含む。
【0030】
一例として、前記シールドガスはアルゴンガスと水素ガスを含む。前記アルゴンガスと水素ガスの体積比は1:1-30:1とする。また、前記低圧条件の圧力は50-5000Paとする。
【0031】
図1のステップS4及び
図2を参照して、ステップ4)では、融解した前記ホウ素含有固体触媒が位置する環境内に窒素含有ガスとシールドガスを同時に導入する。前記窒素含有ガスが前記ホウ素含有固体触媒と反応することで、前記基板表面に多層六方晶窒化ホウ素シートが形成される。
【0032】
一例として、
図2に示す前記化学気相蒸着チャンバ1に窒素含有ガスとシールドガスを同時に導入する。
【0033】
一例として、前記窒素含有ガスは窒素ガス又はアンモニアガスを含み、前記シールドガスはアルゴンガスと水素ガスを含む。前記窒素含有ガスと前記アルゴンガス及び前記水素ガスの体積比は30:1:1-1:30:30とする。
【0034】
一例として、前記窒素含有ガスと前記ホウ素含有固体触媒は、常圧又は低圧条件下で反応させ、反応時間を0.5-8時間とする。また、前記低圧条件の圧力は50-5000Paとする。
【0035】
一例として、ステップ4)のあとに、表面に前記多層六方晶窒化ホウ素シートが形成された前記基板を室温まで冷却するステップを含む。
【0036】
一例として、アルゴンガス及びアンモニアガスの保護雰囲気及び常圧条件下で、表面に前記多層六方晶窒化ホウ素シートが形成された前記基板を室温まで冷却する。冷却速度は0.25-10℃/分とする。
【0037】
上記の形成方法によれば、層数が数層から数千層の六方晶窒化ホウ素シートを形成可能である。また、得られる前記多層六方晶窒化ホウ素シートの横方向のサイズはインチレベルに到達可能である。
【0038】
よりしっかりとした比較及び分析を行うべく、以下に、具体的実施例を挙げて本発明の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法について詳述する。本発明で提示する実施例では、いずれも常圧雰囲気下で化学気相蒸着方式により多層六方晶窒化ホウ素シートを形成した。
図2は、代表的な装置を示す図である。なお、選択的に低圧(50-5000Pa)雰囲気を使用してもよい。当業者は化学気相蒸着プロセス及び使用する装置をいずれも熟知しているため、ここではこれ以上詳述しない。
【0039】
実施例1
本実施例では、ホウ素含有固体触媒としてFe-B合金を、基板としてAl2O3研磨基板を、ガス状窒素源として窒素ガスを選択した。
【0040】
Fe-B合金をAl2O3基板の上方に配置してから、絶縁又は半導体のるつぼ内に密閉状に配置した。次に、装置を化学気相蒸着チャンバ内に配置し、常圧雰囲気下で昇温、高温アニーリング、成長及び降温を実施した。
【0041】
昇温段階では、常圧雰囲気下で1250℃まで昇温させた。昇温速度は10℃/分であった。この過程で導入したガスはアルゴンガスと水素ガスであり、体積比はAr:H2=6:1とした。高温アニーリング段階では、常圧雰囲気下でアニーリング温度を1250℃に維持した。アニーリング時間は60分であった。この過程で導入したガスはアルゴンガスと水素ガスであり、体積比はAr:H2=6:1とした。成長段階では、常圧状態で成長温度を1250℃、成長時間を240分とした。この過程で導入したガスは、窒素ガス、アルゴンガス及び水素ガスであり、流速比はN2:Ar:H2=6:1:1とした。降温段階では、常圧雰囲気下で1250℃から室温まで低下させた。降温速度は10℃/
分であった。この過程で導入したガスはアルゴンガスと水素ガスであり、流速比はAr:H2=6:1とした。そして、チャンバを室温まで冷却したあとにAl2O3基板を取り出せば、基板表面に多層六方晶窒化ホウ素シートを取得可能であった。
【0042】
本実施例の結果:窒素ガスは保護雰囲気とともにチャンバに導入した。高温アニーリング段階ではFe-B合金を十分に融解し、窒素元素の溶解度を大幅に上昇させた。成長段階では、窒素元素とホウ素元素が鉄元素の触媒作用で化合され、六方晶窒化ホウ素の核生成のコアを形成した。そして、成長時間の経過とともに合金表面の六方晶窒化ホウ素のコアが成長し、融合してシートを形成した。六方晶窒化ホウ素は金属との結合力が弱く、合金から剥がれやすい。そのため、六方晶窒化ホウ素シートは重力の作用でAl
2O
3基板の表面に堆積していた。
図3に示すように、SEMより、上記の成長条件において、Al
2O
3の表面に大面積の六方晶窒化ホウ素シートを取得可能なことがわかった。また、
図4に示すように、XRDより、26.8°に明らかな特徴ピークを有することが示された。これを標準回折カードと照合したところ、六方晶窒化ホウ素(0002)の特徴回折ピークであることが明らかとなり、成長したシートが多層六方晶窒化ホウ素であることが証明された。また、成長後のAl
2O
3基板を集束イオンビームで切断して断面構造情報を取得し、TEMで観察することで、厚さ、層間積層及び結晶性を特定した。
図5より、層状の六方晶窒化ホウ素の層間分布が明らかに確認され、且つ層厚は約40ナノメートルであった。また、
図6は、断面サンプルをナノビーム収束回折したものであり、六方晶窒化ホウ素結晶が非常に良質であることを確認できた。
【0043】
実施例2
本実施例では、実施例1の基板であるAl2O3研磨基板をSiO2研磨基板に変更した点で実施例1と異なっていた。なお、残りのプロセスパラメータは実施例1と同様であった。
【0044】
本実施例の結果:SEMでSiO
2基板上の六方晶窒化ホウ素シートを観察したところ、
図7に示すように、SiO
2基板を選択した場合の六方晶窒化ホウ素シートの表面の皺密度は実施例1よりも明らかに低下していた。これは、Al
2O
3基板と比較して、SiO
2基板は熱膨張係数が六方晶窒化ホウ素と近いことから、降温後の六方晶窒化ホウ素シートの皺密度が低下したためである。また、
図8に示すように、六方晶窒化ホウ素のラマン特徴ピークは1366cm
-1であり、得られた六方晶窒化ホウ素シートが多層であることが示された。
【0045】
実施例3
本実施例は、実施例1のガス状窒素源である窒素ガスをアンモニアガスに変更し、成長段階の流速比をNH3:Ar:H2=0.5:15:1とした点で実施例1と異なっていた。なお、残りのプロセスパラメータは実施例1と同様であった。
【0046】
本実施例の結果:SEMによりAl
2O
3基板上の六方晶窒化ホウ素シートを観察したところ、
図9に示すように、実施例1と比較して、六方晶窒化ホウ素はAl
2O
3基板の表面に大面積の連続した膜を形成したが、膜層は薄く、明らかな皺も認められなかった。これは、ガス源をアンモニアガスに変更し、成長温度を1250℃とした場合、大量のアンモニアガスがこの条件下で分解されて水素ガスと窒素ガスを生成したためである。これにより、反応チャンバ内の水素ガスの分圧が上昇し、窒素ガスの分圧が低下したため、同じ成長時間条件の場合には、層数の少ない六方晶窒化ホウ素の連続膜が取得された。
【0047】
実施例4
本実施例は、実施例1の成長時間を60分に短縮した点で実施例1と異なっていた。なお、残りのプロセスパラメータは実施例1と同様であった。
【0048】
本実施例の結果:AFMのタッピングモードでAl
2O
3基板上の六方晶窒化ホウ素シートの厚さを測定した。
図10に示すように、成長時間を60分に短縮したところ、六方晶窒化ホウ素シートの代表的な厚さは約17ナノメートル程度となり、実施例1よりも明らかに減少していた。これは、成長時間を短縮したことで、液状の合金触媒と基板との境界で拡散する窒素元素の量が減った結果、反応により形成される六方晶窒化ホウ素シートの厚さが減少したためである。
【0049】
実施例5
本実施例は、実施例1のホウ素含有固体触媒をNi-B合金に変更した点で実施例1と異なっていた。なお、残りのプロセスパラメータは実施例1と同様であった。
【0050】
本実施例の結果:実施例1と比較して、Ni-B合金をホウ素含有固体触媒としたところ、Fe-B合金の場合よりも融点が200℃以上低下した。そのため、当該ホウ素含有固体触媒は1250℃条件下で十分に融解可能となり、N
2と十分に反応した。
OMでAl
2O
3基板上の六方晶窒化ホウ素シートを観察したところ、
図11に示すように、Al
2O
3基板における六方晶窒化ホウ素シート(大面積の白色領域)の被覆率が高いことがわかった。且つ、Al
2O
3基板の表面には3次元六方晶窒化ホウ素(島状の黒色領域)の形成も始まっており、ランダムに分布していた。
図12に示すように、ラマンでAl
2O
3基板上の六方晶窒化ホウ素の連続膜と3次元六方晶窒化ホウ素を測定したところ、3次元六方晶窒化ホウ素の信号強度は連続膜よりも10倍強いことがわかった。しかし、ラマン特徴ピークはいずれも1366cm
-1であり、得られた材料が多層六方晶窒化ホウ素であることが証明された。
【0051】
比較実施例
本実施例では、実施例1のFe-B合金とAl2O3基板との相対位置を入れ替えた点で実施例1とは異なっていた。即ち、Al2O3基板をFe-B合金の上方に配置した。なお、残りのプロセスパラメータは実施例1と同様であった。
【0052】
本実施例の結果:Al
2O
3基板をFe-B合金の上方に配置した。液状のFe-B合金は、高温状態で一部のFe-B相のみが蒸気圧の作用及び液体-固体間の毛細管現象によって基板の表面に付着した。そして、窒素含有ガスの導入に伴って、基板の表面に徐々に六方晶窒化ホウ素が形成された。走査型電子顕微鏡でAl
2O
3基板上の六方晶窒化ホウ素シートを観察したところ、
図13に示すように、実施例1と比較して、Al
2O
3基板上の六方晶窒化ホウ素シートはランダムに分布していた。また、被覆率が低く、且つ断片化が見られた。Al
2O
3基板には極めて少量のホウ素元素と鉄元素が拡散したことから、形成された六方晶窒化ホウ素はランダムに分布した。
【0053】
以上述べたように、本発明は、多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法を提供する。前記多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法は、1)基板を提供するステップであって、前記基板は絶縁基板又は半導体基板を含むステップと、2)ホウ素含有固体触媒を提供し、前記ホウ素含有固体触媒を前記基板に配置するステップと、3)前記ホウ素含有固体触媒をアニーリング処理することで、前記ホウ素含有固体触媒を融解させるステップと、4)融解した前記ホウ素含有固体触媒が位置する環境内に窒素含有ガスとシールドガスを同時に導入し、前記窒素含有ガスが前記ホウ素含有固体触媒と反応することで、前記基板表面に多層六方晶窒化ホウ素シートが形成されるステップ、を含む。本発明の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法によれば、基板の表面に横方向のサイズがインチレベルに達し、且つ厚さが数ナノメートルから数百ナノメートルの六方晶窒化ホウ素シートを形成可能である。本発明の多層六方晶窒化ホウ素シートの形成方法は形成条件がシンプルであり、ローコストで環境に優しい。また、成長パラメータの幅が広く、再現性に優れている。よっ
て、二次元材料デバイス分野における六方晶窒化ホウ素の応用に良好な基礎を構築するものである。
【0054】
上記の実施例は本発明の原理及び効果を例示的に説明するためのものにすぎず、本発明を制限するものではない。当該技術を熟知する者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱しないことを前提に、上記実施例につき追加又は変更が可能である。したがって、当業者が、本発明で開示する精神及び技術的思想を逸脱せずに完了するあらゆる等価の追加又は変更もまた、本発明における特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1 化学気相蒸着チャンバ
11 給気端
12 排気端
2 加熱システム
3 基板
4 ホウ素含有触媒
5 機械式ポンプ