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特許7083420グルカゴン抑制剤、グルカゴン抑制用組成物およびグルカゴン抑制用食品組成物
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  • 特許-グルカゴン抑制剤、グルカゴン抑制用組成物およびグルカゴン抑制用食品組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-02
(45)【発行日】2022-06-10
(54)【発明の名称】グルカゴン抑制剤、グルカゴン抑制用組成物およびグルカゴン抑制用食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/365 20060101AFI20220603BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20220603BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20220603BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220603BHJP
   A61K 36/28 20060101ALI20220603BHJP
   A61K 36/634 20060101ALI20220603BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220603BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220603BHJP
【FI】
A61K31/365
A61K31/7048
A61P3/08
A61P35/00
A61K36/28
A61K36/634
A23L33/105
C12N15/09 Z ZNA
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021070134
(22)【出願日】2021-04-19
(62)【分割の表示】P 2017050738の分割
【原出願日】2017-03-16
(65)【公開番号】P2021105059
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】稲益 悟志
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晋平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 光博
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼科 庸子
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-297209(JP,A)
【文献】特表2010-503712(JP,A)
【文献】Diabetologia,2012年,55,pp.1469-1481
【文献】Acta Pharmacologica Sinica,2014年,35,pp.1274-1284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、グルカゴノーマを治療、改善および予防するための医薬組成物。
【請求項2】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、グルカゴン過剰血症を治療、改善および予防するための医薬組成物。
【請求項3】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、壊死性遊走性紅斑を治療、改善および予防するための医薬組成物。
【請求項4】
前記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、グルカゴノーマを改善および予防するための食品組成物。
【請求項6】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、グルカゴン過剰血症を改善および予防するための食品組成物。
【請求項7】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、壊死性遊走性紅斑を改善および予防するための食品組成物。
【請求項8】
前記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有する、請求項5~7のいずれか一項に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴンを抑制することができるグルカゴン抑制剤、グルカゴン抑制用組成物およびグルカゴン抑制用食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカゴンは、インスリンとともに血糖値を一定に保つ作用をもつホルモンである。グルカゴンは、主に膵臓のランゲルハンス島のα細胞で生合成され、分泌される。グルカゴンは、低血糖により分泌が促進され、肝細胞に作用してグリコーゲンの分解および糖新生を促進することにより、血糖値を上昇させる作用を有する。グルカゴンは、肝臓においてcAMPの産生を介してプロテインキナーゼAを活性化し、最終的にグリコーゲンホスホリラーゼおよびリパーゼなどを活性化して肝のグリコーゲン分解および糖新生を促進する。
【0003】
また、グルカゴノーマは、膵臓のα細胞に由来する腫瘍であり、グルカゴンを過剰に産生する。グルカゴノーマによりグルカゴンが過剰産生されると、血糖値が上昇し、高グルカゴン血症が生じることが知られている。また、グルカゴノーマの症状として、皮膚に壊死性遊走性紅斑を引き起こすことが知られている。
【0004】
このようなグルカゴンの分泌に関連する種々の症状を改善するため、グルカゴンを抑制する作用を有する薬剤の開発が求められている。
【0005】
特許文献1には、治療対象における血漿グルカゴンを低下させる化合物として、エキセンジン、エキセンジン作動薬、改変エキセンジンおよび改変エキセンジン作動薬が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2002-538084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、グルカゴンを抑制する作用を有する新規の薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、レプチン受容体欠損モデルのマウスにアルクチゲニン配合の飼料を9週間自由摂取させた。その後、このマウスの血中グルカゴン濃度を測定したところ、Control群と比較して血中グルカゴン濃度が低いことを見出した。また、アルクチゲニンを投与したマウスでは、グルカゴンによって促進される下流遺伝子であるFOXO1、PGC1α、PEPCKおよびG6Paseの発現量がControl群よりも低いことを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、グルカゴン抑制剤を提供する。
【0010】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、グルカゴン抑制用組成物を提供する。
【0011】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有する、上記グルカゴン抑制用組成物を提供する。
【0012】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、グルカゴン抑制用食品組成物を提供する。
【0013】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有する、上記グルカゴン抑制用食品組成物を提供する。
【0014】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、FOXO1、PGC1αまたはPEPCKの発現抑制剤を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、グルカゴンを抑制する作用を有する新規の薬剤を提供することができる。本発明のグルカゴン抑制剤、グルカゴン抑制用組成物およびグルカゴン抑制用食品組成物は、グルカゴンを抑制することにより、グルカゴンに関連する種々の症状を治療、改善および予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】Control群およびAG群における血中グルカゴン濃度を示すグラフ。
図2】Control群およびAG群におけるFOXO1およびPGC1αの発現量を示すグラフ。
図3】Control群およびAG群におけるPEPCKおよびG6Paseの発現量を示すグラフ。
図4】Control群およびAG群における空腹時血糖の経時的変化を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、グルカゴン抑制剤およびグルカゴン抑制用組成物を提供する。
【0018】
本明細書において、「グルカゴンを抑制する」とは、膵臓におけるグルカゴンの産生もしくは分泌を抑制すること、血中のグルカゴン濃度を抑制することまたはグルカゴンによって促進される下流遺伝子の発現を抑制することをいう。本明細書においてグルカゴンを「抑制する」とは、本発明のグルカゴン抑制剤またはグルカゴン抑制用組成物を投与しなかった対照群と比較して、グルカゴンの産生量、分泌量もしくは血中グルカゴン濃度が低いことまたはグルカゴンの下流遺伝子の発現量が低いことをいう。
【0019】
本発明のグルカゴン抑制剤およびグルカゴン抑制用組成物は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する。アルクチゲニンおよびアルクチインは、ゴボウ等の植物に含まれるジフェニルプロパノイド(リグナン類)の1つである。アルクチインは、アルクチゲニンの前駆体であり、生体内で代謝されてアルクチゲニンになることが知られている。アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして、化学的に合成したアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを用いてもよいし、植物から単離したアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを用いてもよい。また、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物そのものまたはこの植物の抽出物を用いてもよい。アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物には、たとえばゴボウ(スプラウト・葉・根茎・ゴボウシ)、アイノコレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、チョウセンレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、レンギョウ(花・葉・果実・根茎)、シナレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、ベニバナ、ヤグルマギク、アメリカオニアザミ、サントリソウ(ギバナアザミ)、カルドン、ゴロツキアザミ、アニウロコアザミ、ゴマ、モミジヒルガオ、シンチクヒメハギ、チョウセンテイカカズラ、テイカカズラ、ムニンテイカカズラ、ヒメテイカカズラ、トウキョウチクトウ、ケテイカカズラ、リョウカオウ、オオケタデ、ヤマザクラ、シロイヌナズナ、アマランス、クルミ、エンバク、スペルタコムギ、軟質コムギ、メキシコイトスギおよびカヤが含まれる。なかでも、ゴボウ(特にゴボウシおよびゴボウスプラウト)およびレンギョウ(特に葉)は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの含有量が高いため好ましい。植物そのものを用いる場合、生または乾燥して刻んだもの、或いは乾燥して粉末としたものを用いることができる。
【0020】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして植物の抽出物を用いる場合、抽出物は、たとえば以下の方法によって植物から調製してもよい。本発明において使用される抽出物は、たとえばアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物から、酵素変換工程および有機溶媒による抽出工程の2段階により抽出してもよい。
【0021】
酵素変換工程は、植物に内在する酵素であるβ-グルコシダーゼにより、該植物に含まれているアルクチインをアルクチゲニンに酵素変換する工程である。具体的には、植物を乾燥し切栽したものを適切な温度に保持することにより内在のβ-グルコシダーゼを作用させて、アルクチインからアルクチゲニンへの反応を進行させる。たとえば、切裁した植物に水などの任意の溶液を加えて、30℃付近の温度(20~50℃)の間にて攪拌することなどにより、植物を任意の温度に保持することができる。
【0022】
有機溶媒による抽出工程は、任意の適切な有機溶媒を使用して、植物からアルクチゲニンおよびアルクチインを抽出する工程である。すなわち、上記の酵素変換工程によりアルクチゲニンが高含量となった状態で、適切な溶媒を添加して、植物から抽出物(エキス)を抽出する工程である。たとえば、植物に適切な溶媒を添加して、適切な時間加熱攪拌して抽出物を抽出する。また、加熱攪拌以外にも、加熱還流、ドリップ式抽出、浸漬式抽出または加圧式抽出法などの当業者に公知の任意の抽出法を使用して、抽出物を抽出することができる。
【0023】
アルクチゲニンは水難溶性であることから、有機溶媒を添加することにより、アルクチゲニンの収率を向上させることができる。有機溶媒は、任意の有機溶媒を使用することができる。たとえば、メタノール、エタノールおよびプロパノールなどのアルコール、並びにアセトンを使用することができる。安全性の面を考慮すると、有機溶媒として30%量のエタノールを使用することが好ましい。抽出物から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物を得ることができる。
【0024】
本発明のグルカゴン抑制剤およびグルカゴン抑制用組成物は、任意の形態の製剤であることができる。グルカゴン抑制剤およびグルカゴン抑制用組成物は、経口投与製剤として、たとえば糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤;トローチ剤;丸剤;散剤;硬カプセル剤および軟カプセル剤を含むカプセル剤;顆粒剤;ならびに懸濁剤、乳剤、シロップ剤およびエリキシル剤等の液剤などであることができる。
【0025】
また、本発明のグルカゴン抑制剤およびグルカゴン抑制用組成物は、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの非経口投与製剤であることができる。本発明のグルカゴン抑制剤およびグルカゴン抑制用組成物は、たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。
【0026】
また、本発明のグルカゴン抑制剤およびグルカゴン抑制用組成物は、外用剤として提供されることができる。本発明の外用剤は、医薬品および化粧品などであることができる。本発明の外用剤は、皮膚、頭皮、毛髪、粘膜および爪などに適用するための外用剤であることができる。外用剤には、たとえばクリーム剤、軟膏剤、液剤、ゲル剤、ローション剤、乳液剤、エアゾール剤、スティック剤、シートマスク剤、固形剤、泡沫剤、オイル剤およびチック剤等の塗布剤;パップ剤、プラスター剤、テープ剤およびパッチ剤等の貼付剤;並びにスプレー剤などが含まれる。
【0027】
また、本発明のグルカゴン抑制剤およびグルカゴン抑制用組成物は、食用に適した形態であることができ、たとえば固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状およびペースト状などであってもよい。
【0028】
本発明のグルカゴン抑制用組成物は、医薬品、化粧品および食品などに用いるための組成物であることができる。本発明のグルカゴン抑制用組成物は、医薬品、化粧品および食品に通常用いられる任意の成分をさらに含むことができる。たとえば、本発明のグルカゴン抑制用組成物は、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などをさらに含んでもよい。
【0029】
グルカゴン抑制用組成物に使用する担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、デキストリン、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。
【0030】
結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。
【0031】
崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。
【0032】
滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。着色剤は、医薬品、化粧品および食品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。
【0033】
また、グルカゴン抑制用組成物は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。
【0034】
また、グルカゴン抑制用組成物は、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、希釈剤、コーティング剤、甘味剤、香料および可溶化剤などを添加してもよい。
【0035】
本発明はまた、本発明のグルカゴン抑制用組成物を含有する医薬品を提供する。本発明の医薬品は、グルカゴンを抑制するための医薬品であることができる。また、本発明の医薬品は、グルカゴンに関連する種々の症状を治療、改善および予防するための医薬品であることができ、たとえば糖尿病、高血糖症、グルカゴノーマ、グルカゴン過剰血症および壊死性遊走性紅斑を治療、改善および予防するための医薬品であることができる。
【0036】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有するグルカゴン抑制用食品組成物を提供する。本発明のグルカゴン抑制用食品組成物は、上述したグルカゴン抑制剤およびグルカゴン抑制用組成物と同様に構成されることができる。本発明の食品組成物は、糖尿病、高血糖症、グルカゴノーマ、グルカゴン過剰血症および壊死性遊走性紅斑などの疾患および状態を改善または予防するための食品組成物であることができる。
【0037】
本明細書において「食品組成物」には、一般的な飲食品だけでなく、病者用食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品およびサプリメントなどが含まれる。一般的な飲食品には、たとえば各種飲料、各種食品、加工食品、液状食品(スープ等)、調味料、栄養ドリンクおよび菓子類などが含まれる。本明細書において「加工食品」とは、天然の食材(動物および植物など)に対し加工および/または調理を施したものをいい、たとえば肉加工品、野菜加工品、果実加工品、冷凍食品、レトルト食品、缶詰食品、瓶詰食品およびインスタント食品などが含まれる。本発明の食品組成物は、グルカゴンを抑制する旨の表示を付した食品であってもよい。また、本発明の食品組成物は、袋および容器等に封入された形態で提供されてもよい。本発明において使用する袋および容器は、食品に通常使用される任意の袋および容器であることができる。
【0038】
本発明のグルカゴン抑制剤、グルカゴン抑制用組成物およびグルカゴン抑制用食品組成物におけるアルクチゲニンおよび/またはアルクチインの含有量は、グルカゴンを抑制する効果を発揮できる量であればよく、適用する対象、目的および投与方法(摂取方法)に応じて適宜設定することができる。たとえばヒトに経口摂取させる場合、好ましくはアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを1日あたりの摂取量が10~2000mgとなるように含むことができる。
【0039】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、FOXO1、PGC1αまたはPEPCKの発現抑制剤を提供する。FOXO1は、肝臓において糖新生酵素を制御する転写因子である。PGC1αは、グルカゴンにより発現が上昇し、FOXO1などと協調して糖新生系酵素の発現を誘導する、転写コアクチベーターである。PEPCKは肝臓における糖新生酵素遺伝子の1つである。
【0040】
本明細書において「発現を抑制する」とは、たとえばタンパク質をコードする遺伝子の転写産物の量を減少させることおよびタンパク質の量を減少させることなどを意味する。
【0041】
本発明のFOXO1、PGC1αまたはPEPCKの発現抑制剤は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有してもよい。また、本発明のFOXO1、PGC1αまたはPEPCKの発現抑制剤は、上述した本発明のグルカゴン抑制剤、グルカゴン抑制用組成物およびグルカゴン抑制用食品組成物と同様に構成されることができる。
【0042】
本発明のFOXO1、PGC1αまたはPEPCKの発現抑制剤は、FOXO1、PGC1αおよび/またはPEPCKの発現を抑制することにより、糖新生系酵素などの発現を抑制することができる。したがって、本発明のFOXO1、PGC1αまたはPEPCKの発現抑制剤は、肝臓の糖新生を抑制することができるため、グルカゴンに関連する種々の症状、たとえば糖尿病、高血糖症、グルカゴノーマ、グルカゴン過剰血症および壊死性遊走性紅斑を治療、予防または改善することができる。
【実施例
【0043】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(酵素活性の測定)
ゴボウシ中のβ-グルコシダーゼ活性は、以下の方法で測定した。産地やロットが異なるゴボウシをウイレー氏粉砕機により粉砕し、このゴボウシ粉砕品0.1gを10mLの水で希釈し、試料溶液とした。
【0045】
基質溶液として、p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド0.15gに水を加えて25mLに定容し、20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液を調製した。0.1mol/L酢酸緩衝液1mLに20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液0.5mLを加えて、反応混液を調製し、37℃で約5分予備加熱を行った。
【0046】
反応混液に試料溶液0.5mL加えて37℃で15分反応させた後、反応停止液である0.2mol/L炭酸ナトリウム水溶液を2mL加えて反応を停止させた。この液の400nmにおける吸光度を測定し、酵素反応を行わないブランク溶液からの変化量から下式により酵素活性を求めた。
酵素活性(U/g)=(試料溶液の吸光度-ブランク溶液の吸光度)×4mL×1/18.1(p-ニトロフェノールの上記測定条件下でのミリモル分子吸光係数:cm2/μmol)×1/光路長(cm)×1/反応時間(分)×1/0.5mL×1/試料溶液濃度(g/mL)。
【0047】
(実施例1 ゴボウシ抽出物の製造1)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを29~33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した。次いで、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに60分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および7.1%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0048】
(実施例2 ゴボウシ抽出物の製造2)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30~33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.0%および6.8%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.87のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0049】
(実施例3 ゴボウシ抽出物の製造3)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30~32℃に保温した水560Lに加えて40分間攪拌した後、60分後にエタノール258Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および6.7%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.93のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0050】
(実施例4 ゴボウシ抽出物の製造4)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30~32℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール253Lを加えて85℃に昇温し、さらに40分間加熱還流した。この液を遠心分離し、得られた抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.4%および7.2%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0051】
(実施例5 シナレンギョウ葉抽出物の製造1)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。アルクチイン2.53%およびアルクチゲニン0.76%を含有するレンギョウ葉小刻み50gに水350mLを加えて37℃で30分間保温後、エタノール150mLを添加し30分間加熱抽出した。この溶液を100メッシュ篩を用いて固液分離し、凍結乾燥を行うことにより、アルクチゲニン含量が5.62%のシナレンギョウ葉抽出物18.62gを得た。
【0052】
(実施例6 シナレンギョウ葉抽出物の製造2)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。アルクチイン7.38%およびアルクチゲニン0.78%を含有するレンギョウ葉小刻み720gに水5Lを加えて37°Cで30分間保温後、エタノール2.16Lを添加し30分間加熱抽出した。この溶液を100メッシュ篩を用いて固液分離し、凍結乾燥を行うことにより、アルクチゲニン含量が9.55%のシナレンギョウ葉抽出物343.07gを得た。
【0053】
(実施例7 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて顆粒剤を製造した。「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造した。すなわち、下記(1)~(3)の成分をとり、顆粒状に製した。これを1.5gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を0.5g含有する顆粒剤を得た。
【0054】
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 33.3%
(2)乳糖 65.2%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 1.5%
合計 100%
【0055】
(実施例8 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて顆粒剤を製造した。「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造した。すなわち、下記(1)~(3)の成分をとり、顆粒状に製した。これを3.0gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を2g含有する顆粒剤を得た。
【0056】
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 66.7%
(2)乳糖 30.3%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 3.0%
合計 100%
【0057】
(実施例9 ゴボウシ抽出物粉末配合錠剤)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて錠剤を製造した。「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製した。すなわち、下記(1)~(6)の成分をとり、錠剤を得た。
【0058】
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 37.0%
(2)結晶セルロース 45.1%
(3)カルメロースカルシウム 10.0%
(4)クロスポピドン 3.5%
(5)含水二酸化ケイ素 3.4%
(6)ステアリン酸マグネシウム 1.0%
合計 100%
【0059】
(実施例10 血中グルカゴンおよび下流遺伝子発現に対するアルクチゲニンの効果)
【0060】
[実験動物]
レプチン受容体欠損モデルである、5週齢の雄性db/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl、日本クレア社より購入)を使用して、1週間の予備飼育後に実験を開始した。動物は温度23.0±5℃、湿度50.0±10%、12時間の明暗サイクルの環境下で飼育した。動物実験は慶應義塾大学動物実験委員会の承認を得て、慶應義塾大学動物実験規定に基づき実施した。
【0061】
[実験方法]
予備飼育後に、マウスを(a)Control群および(b)アルクチゲニン投与群(AG群)の2群にわけ(各群n=8)、Control群には精製飼料(AIN-93G)を、AG群にはアルクチゲニン(>98.0%)0.2%配合の精製飼料を9週間自由摂取させた。投与終了後、18時間の絶食を行い、麻酔下で腹部大静脈より採血し、肝臓を採取した。
【0062】
[血中グルカゴン濃度の測定]
Mercodia Glucagon ELISA Kit(Mercodia AB社)を用いて、血中グルカゴン濃度を測定した。図1は、各群における血中グルカゴン濃度を示す。AG群では、Control群と比較して血中グルカゴン濃度が低かった。
【0063】
[下流遺伝子の発現量]
各群について、得られた臓器からtotal RNAの抽出およびcDNA合成を行った後、qPCRによりグルカゴンの下流遺伝子であるFOXO1、PGC1α、PEPCKおよびG6Paseの発現量を比較した。コントロールとして、18S rRNAを用いた。qPCRのためのプライマーは、18S(F: TTCTGGCCAACGGTCTAGACAAC(配列番号1)、R: CCAGTGGTCTTGGTGTGCTGA(配列番号2))、FOXO1(F: CACACAGCTGGGTGTCAGGCTA(配列番号3)、R: GGGGTGAAGGGCATCTTT(配列番号4))、PGC1α(F: AAGGGCCAAACAGAGAGAGA(配列番号5)、R: GCGTTGTGTCAGGTCTGATT(配列番号6))、PEPCK(F: GGGAACTGACTACTCGGGAA(配列番号7)、R: GCCAGGTATTTCTTCTTGCC(配列番号8))、G6Pase(F: CCGGATCTACCTTGCTGCTCACTTT(配列番号9)、R:TAGCAGGTAGAATCCAAGCGCGAAAC(配列番号10))を用いた。
【0064】
図2は各群におけるFOXO1およびPGC1αの発現量を示し、図3はPEPCKおよびG6Paseの発現量を示す。AG群では、Control群と比較して、これら4つの遺伝子の発現量が低かった。
【0065】
これらの結果から、アルクチゲニンは、グルカゴンを抑制する作用を有することが示唆される。
【0066】
(実施例11 空腹時血糖の経時的変化)
実施例10のControl群およびAG群について、各群にそれぞれの餌を摂取させて4週目に絶食させ、絶食開始時からの空腹時血糖の経時的変化を測定した。空腹時血糖は、尾静脈より採血し、自己血糖測定器「LIFE CHECK」(エーディア株式会社)によって測定した。
【0067】
図4は、各群の空腹時血糖の経時的変化を表すグラフである。AG群では、絶食後16~20時間においてControl群と比較して血糖上昇が抑制されていた。したがって、アルクチゲニンは、グルカゴンを抑制することにより、空腹時の血糖上昇を抑制することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、グルカゴンを抑制するための医薬品および食品などに好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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