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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20220606BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20220606BHJP
   H02K 7/06 20060101ALI20220606BHJP
   F16C 29/04 20060101ALN20220606BHJP
【FI】
F16H25/22 K
F16H25/24 A
F16H25/24 J
H02K7/06 A
F16C29/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018078345
(22)【出願日】2018-04-16
(65)【公開番号】P2019184017
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519453870
【氏名又は名称】東佑達自動化科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公哉
(72)【発明者】
【氏名】浅井 香澄
(72)【発明者】
【氏名】曾 坤成
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-275914(JP,A)
【文献】特開2011-182551(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/143397(JP,A1)
【文献】特開平11-248003(JP,A)
【文献】実開平2-150451(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
H02K 7/06
F16C 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより回転されるボールねじ軸と、
前記ボールねじ軸の回転により直進運動を行うスライダユニットと、
前記スライダユニットに固定され、前記ボールねじ軸が挿入される中空ロッドと、
前記ボールねじ軸の先端外周に設けられ、前記中空ロッドの中空内周面と接触する振れ止め部材と、
を有する電動アクチュエータにおいて、
前記振れ止め部材には、外周溝が形成されていること、
前記外周溝には弾性部材と、前記弾性部材の外周に、樹脂製の摺動部材が収納されていること、
前記振れ止め部材はボール軸受を介して前記ボールねじ軸に回転可能に保持されていること、
前記ボールねじ軸の先端外周であって、前記振れ止め部材の内周面に対向する面の一部に、軸方向の空気抜き用切り欠きが形成されていること、
を特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動アクチュエータにおいて、
前記摺動部材が、バイアスカットを有すること、
前記バイアスカットは、前記摺動部材の外周面が、中空ロッドの中空内周面に倣って安定した接触を可能にすること、
を特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動アクチュエータにおいて、
前記摺動部材の外周面にグリス溜り凹部が形成されていること、
を特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項4】
請求項3に記載の電動アクチュエータにおいて、
前記摺動部材が、円筒形状の円筒外周面を備えること、
前記グリス溜り凹部が前記円筒外周面に溝形状で形成されていること、
を特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項5】
請求項4に記載の電動アクチュエータにおいて、
前記溝形状の断面が四角形状、三角形状、または円弧形状のいずれか1つであること、
を特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項6】
請求項3に記載の電動アクチュエータにおいて、
前記摺動部材が、外周両端面に切欠き部を備えること、
前記外周溝は、前記弾性部材を収納する弾性部材溝と、前記弾性部材溝より広く形成された摺動部材溝を備えること、
前記摺動部材は、前記摺動部材溝に収納されていること、
前記グリス溜り凹部が、前記摺動部材の前記切欠き部と、前記摺動部材溝の内周面により構成されていること、
を特徴とする電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにより回転されるボールねじ軸と、ボールねじ軸の回転により直進運動を行うスライダユニットと、スライダユニットに固定され、ボールねじ軸が挿入される中空ロッドと、ボールねじ軸の先端外周に設けられ、中空ロッドの中空内周面と接触する振れ止め部材と、を有する電動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータにより回転されるボールねじ軸と、ボールねじ軸の回転により直進運動を行うスライダユニットと、スライダユニットに固定され、ボールねじ軸が挿入される中空ロッドと、ボールねじ軸の先端外周に設けられ、中空ロッドの中空内周面と接触する振れ止め部材と、を有する電動アクチュエータが使用されている。
ここで、振れ止め部材は、ボールねじ軸が片持ちになり振れ回る恐れがあるのを防止するための部材である。特許文献1には、作業軸(中空ロッド)の中空内周面と接触する弾性部材が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、振れ止め部材の外周溝に弾性部材を収納すると共に、外周溝をグリス溜りとして機能させることが記載されている。次に、グリス溜りを必要とする理由を説明する。
ボールねじ軸は、片持ちであるため、及びスライダユニットにトルクを伝えるため、ボールねじ軸の先端が大きく振れ回る問題がある。その振れ回りを防止するために、振れ止め部材が設けられている。ボールねじ軸の先端が振れ回るためボール軸受が使用できず、弾性部材で振れ回りを抑制している。弾性部材は、擦れにより摩耗してしまい振れ回りの抑制が不十分となる恐れがある。弾性部材の摩耗を低減し、摺動抵抗を低下させるためにグリスが用いられている。グリス溜りを設けることで、数年間にわたって電動アクチュエータを使用し続けた場合でも、グリスがグリス溜りに残留して、摺動部にグリスを供給することができる。
【0004】
特許文献2には、振れ止め部材本体に、空気が流入出する空気孔が貫通したものが記載されている。空気孔は、振れ止め部材の前後の空間を連通させ、振れ止め部材が中空ロッドの中空部を摺動する際の、中空ロッドの中空部において振れ止め部材により2つに隔離された空間の間の圧力差が生じることを防ぎ、空気抵抗をなくすためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5918519号公報
【文献】特許第6154648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の電動アクチュエータには、以下のような問題があった。
(1)特許文献2の技術では、図16に示すように、振れ止め部材151に設けられた外周溝151aに、弾性部材であるゴム製のOリング152を収納するとともに、外周溝151aをグリス溜りとして機能させている。Oリング152の最外周面が中空ロッド140の中空内周面140aに接触している状態であるため、弾性部材であるゴム製のOリング152は、常に中空ロッド140の中空内周面140aと接触して長期間使用されるため、摩耗し、また劣化して形状が変化して初期の機能を果たさなくなる問題がある。すなわち、Oリング152が、部分的に変形するため、中空内周面140aの全周において均一にグリス供給を行えなくなる問題があった。
また、全周における弾性力にバラツキが生じるため、振れ止め機能が低下する問題があった。
【0007】
(2)また、Oリングの最外周面が中空ロッド140の中空内周面140aに接触している状態であるため、図16中の矢印Xの方向に中空ロッド140が直線運動した場合に、Oリング152は、中空内周面140aに引きずられるように変形する。変形したOリング152が、外周溝151aの内周面に圧接され、グリスが保持されるためのスペースが消失する。グリスが保持されるためのスペースが消失することで、Oリングが中空ロッドの中空内周面に存在するグリス層を掻き落したときに、グリスは外周溝151aに入ることができず、外周溝151aがグリス溜りとして機能することができない。すると、数年間にわたって電動アクチュエータを使用し続けた場合に、グリスが枯渇し、摺動部にグリスを供給できなくなる問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、長時間使用しても、振れ止め部材と中空ロッドの中空内周面との間にグリスを供給し続けることができ、安定して振れ止め機能を発揮できる電動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の電動アクチュエータは、次のような構成を有している。
(1)モータにより回転されるボールねじ軸と、ボールねじ軸の回転により直進運動を行うスライダユニットと、スライダユニットに固定されボールねじ軸が挿入される中空ロッドと、ボールねじ軸の先端外周に設けられ中空ロッドの中空内周面と接触する振れ止め部材と、を有する電動アクチュエータにおいて、振れ止め部材には外周溝が形成されていること、外周溝には弾性部材と、弾性部材の外周に樹脂製の摺動部材が収納されていること、振れ止め部材はボール軸受を介してボールねじ軸に回転可能に保持されていること、ボールねじ軸の先端外周であって、振れ止め部材の内周面に対向する面の一部に、軸方向の空気抜き用切り欠きが形成されていること、を特徴とする。外周溝に摺動部材と弾性部材の2つの部材を収納すると、外周溝の深さが大きくなるため、振れ止め部材本体に空気孔を形成することが困難となる問題がある。この問題を解消するために本発明の電動アクチュエータは、空気孔を振れ止め部材に設けるのではなく、ボールねじ軸に設けている。
【0010】
(2)(1)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記摺動部材が、バイアスカットを有すること、前記バイアスカットは、前記摺動部材の外周面が、中空ロッドの中空内周面に倣って安定した接触を可能にすること、を特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記摺動部材の外周面にグリス溜り凹部が形成されていること、を特徴とする。
【0011】
(4)(3)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記摺動部材が、円筒形状の円筒外周面を備えること、前記グリス溜り凹部が前記円筒外周面に溝形状で形成されていること、を特徴とする。
(5)(4)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記溝形状の断面が四角形状、三角形状、または円弧形状のいずれか1つであること、を特徴とする。
【0012】
(6)(3)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記摺動部材が、外周両端面に切欠き部を備えること、前記外周溝は、前記弾性部材を収納する弾性部材溝と、前記弾性部材溝より広く形成された摺動部材溝を備えること、前記摺動部材は、前記摺動部材溝に収納されていること、前記グリス溜り凹部が、前記摺動部材の前記切欠き部と、前記摺動部材溝の内周面により構成されていること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電動アクチュエータは、次のような作用・効果を有する。
(1)モータにより回転されるボールねじ軸と、ボールねじ軸の回転により直進運動を行うスライダユニットと、スライダユニットに固定されボールねじ軸が挿入される中空ロッドと、ボールねじ軸の先端外周に設けられ中空ロッドの中空内周面と接触する振れ止め部材と、を有する電動アクチュエータにおいて、振れ止め部材には外周溝が形成されていること、外周溝には弾性部材と、弾性部材の外周に樹脂製の摺動部材が収納されていること、を特徴とするので、振れ止め部材の有する外周溝に弾性部材が収納され、弾性部材の外周に摺動部材が収納されているため、摺動部材が中空ロッドの中空内周面に接触し、弾性部材が中空ロッドの中空内周面に接触することがない。弾性部材が中空ロッドの中空内周面に接触することがないため、数年間に渡り電動アクチュエータを使用し続けた場合でも弾性部材の摩耗や劣化を防止することができ、振れ止め部材の振れ止め機能を維持することができる。また、前記振れ止め部材はボール軸受を介して前記ボールねじ軸に回転可能に保持されていること、前記ボールねじ軸の先端外周であって、前記振れ止め部材の内周面に対向する面の一部に、軸方向の空気抜き用切り欠きが形成されていること、を特徴とするので、中空ロッドの中空部において振れ止め部材により2つに隔離された空間の間の圧力差が生じることを防ぐことができ、中空ロッドの円滑な往復運動が確保され、電動アクチュエータの作業精度の低下を防ぐことができる。
【0015】
(2)(1)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記摺動部材が、バイアスカットを有すること、前記バイアスカットは、前記摺動部材の外周面が、中空ロッドの中空内周面に倣って安定した接触を可能にすること、を特徴とするので、摺動部材は、バイアスカットにより拡径,縮径が可能となり、摺動部材の外周面は、中空ロッドの中空内周面に倣って安定して接触することができる。弾性部材が中空ロッドの中空内周面に接触している場合と異なり、全周における弾性力にバラツキが生じず、振れ止め機能が低下する問題を解消できる。
(3)(1)または(2)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記摺動部材の外周面にグリス溜り凹部が形成されていること、を特徴とするので、摺動部材として摩擦抵抗の小さい材質の樹脂を選べば、摺動部材の外周に形成されたグリス溜り凹部は、摺動部材が固くて変形しにくい樹脂製であるため、摺動して中空ロッドの中空内周面に存在するグリス層を掻き落したときに、グリス溜り凹部に安定してグリスを溜めることができる。例えば、従来技術においては、数年間にわたって電動アクチュエータを使用し続けた場合に、グリスが枯渇する恐れがあったが、グリスがグリス溜り凹部に安定して溜められることで、数年間にわたって電動アクチュエータを使用し続けた場合でも、グリスはわずかに残留し、潤滑作用を果たすことができる。
【0016】
(4)(3)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記摺動部材が、円筒形状の円筒外周面を備えること、前記グリス溜り凹部が前記円筒外周面に溝形状で形成されていること、を特徴とするので、摺動部材の外周が全周に渡って広い面積で中空ロッドの中空内周面と接触しているため、全周に渡って安定して摺動部材の外周面と中空ロッドの中空内周面と接触を保持できる。これにより、摺動部材が部分的に摩耗することが防止でき、振れ止め部材としての機能を長時間使用後も発揮し続けることができる。
【0017】
(5)(4)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記溝形状の断面が四角形状、三角形状、または円弧形状のいずれか1つであること、を特徴とする。四角形状の溝は、グリスを溜める量を多くすることができる。また、三角形状および円弧形状の溝は、内部にグリスが長時間に渡って動かない箇所がないため、グリスの変質を防止することができる。
【0018】
(6)(3)に記載の電動アクチュエータにおいて、前記摺動部材が、外周両端面に切欠き部を備えること、前記外周溝は、前記弾性部材を収納する弾性部材溝と、前記弾性部材溝より広く形成された摺動部材溝を備えること、前記摺動部材は、前記摺動部材溝に収納されていること、前記グリス溜り凹部が、前記摺動部材の前記切欠き部と、前記摺動部材溝の内周面により構成されていること、を特徴とするので、摺動部材の幅をより広く採ることができ、摺動部材外周面と中空ロッドの中空内周面との接触をより安定させることができる。また、グリス溜りが摺動部材の両端に形成されているため、中空ロッドが正方向・反対方向のどちらに移動する場合でも、摺動部材の接触面に安定してグリスを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】電動アクチュエータ1の全体の部分断面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3図1の振れ止め部材50周辺の部分拡大図である。
図4】(a)は振れ止め部材50の固定部分の側断面図である。また、(b) はB-B断面図であり、(c)はC-C断面図である。
図5】ボール軸受の隙間を利用した空気の流入出について説明するための 振れ止め部材50の固定部分の側断面図である。
図6】(a)は振れ止め部材50の側面図であり、(b)は振れ止め部材 50の側断面図である。
図7】(a)は第2の実施形態に係る振れ止め部材50の側面図であり、 (b)は第2の実施形態に係る振れ止め部材50の側断面図である。
図8】(a)は第3の実施形態に係る振れ止め部材50の側面図であり、 (b)は第3の実施形態に係る振れ止め部材50の側断面図である。
図9】(a)は第4の実施形態に係る振れ止め部材50の側面図であり、 (b)は第4の実施形態に係る振れ止め部材50の側断面図である。
図10】(a)は第5の実施形態に係る振れ止め部材50の側面図であり、 (b)は第5の実施形態に係る振れ止め部材50の断面図である。
図11】グリス溜り凹部53aの作用を説明するための断面図(その1)で ある。
図12】グリス溜り凹部53aの作用を説明するための断面図(その2)で ある。
図13】摺動部材53が摩耗した状態を示す断面図である。
図14】第4の実施形態に係るグリス溜り凹部71の作用を説明するため の断面図である。
図15】貫通空気孔を示す図である。
図16】従来技術の問題点を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の電動アクチュエータ1の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
電動アクチュエータ1は、図1に示すように、図1中の矢印X及びその反対方向に往復運動する円筒状の中空ロッド40を有するロッドタイプの電動アクチュエータ1である。この電動アクチュエータ1は、ボールねじ軸10と、スライダユニット20と、モータ30と、中空ロッド40と、ケース60と、フロントハウジング61と、ベース70と、を有する。ケース60は、図2に示すように、略コの字状の断面形状をなし、ベース70とともに、ボールねじ軸10と、スライダユニット20と、中空ロッド40と、を収納する空間を形成する。ケース60とベース70によって形成される空間の先端側は、図1に示すように平板状のフロントハウジング61により閉鎖されている。また、フロントハウジング61は、中空ロッド40が貫通する挿通孔61aを有する。
【0023】
中空ロッド40は、図1に示すように、フロントハウジング61の挿通孔61aに嵌合されることにより、直線移動可能に支持されているとともに、振れ止めがなされている。振れ止めをする目的は、中空ロッド40の振れ回りによる電動アクチュエータ1の作業精度(例えば、スライダユニット20の位置決め精度)の低下を防ぐためである。また、中空ロッド40の往復運動により、中空ロッド40と挿通孔61aが擦れるため、フロントハウジング61は、摩擦係数の低い樹脂が適する。
【0024】
ベース70の後端部には、正逆回転可能なモータ30が取り付けられている。また、モータ30は不図示のモータ軸を有する。該モータ軸には、不図示の継手を介して、後述するボールねじナット21とともにモータの回転運動を直進運動に変換するボールねじ軸10が連結されている。また、ボールねじ軸10の後端側は、ベース70後端側に取り付けられている不図示のボール軸受により、回転可能に支持されている。
【0025】
ボールねじ軸10は、中空ロッド40の中空部に片持ち状態で挿入されている。また、ボールねじ軸10の先端には、ボールねじ軸10の先端の振れ回りを防止する振れ止め部材50が設けられている。振れ止め部材50を設けている理由は、モータ30の回転によってボールねじ軸10に共振による振れ回りが生じ、後述するスライダユニット20の直進運動の精度が低下すること、ひいては電動アクチュエータ1の作業精度の低下すること、を防止するためである。
【0026】
次に、振れ止め部材50の構成についてより詳しく説明する。振れ止め部材50は、図6に示すように、振れ止め部材本体51と、弾性部材としてのOリング52と、摺動部材53と、から構成される。振れ止め部材本体51は、外周が円筒形状をなし、その内周先端側に段差部51bを有する。ボール軸受12は、周知のボール軸受であり、ボール軸受12のアウターリングが、段差部51bに圧入されることで、振れ止め部材本体51とボール軸受12のアウターリングが一体化されている。また、振れ止め部材本体51には全周にわたって断面が四角形状の外周溝51aが形成されている。外周溝51aには、Oリング52が収納されている。さらに、Oリング52の外周に、摺動部材53が収納されている。摺動部材53の外周面には、全周にわたって断面が四角形状のグリス溜り凹部53aが設けられている。また、摺動部材53は、略S字状のバイアスカット59が設けられている。バイアスカット59を設けているのは、摺動部材53を振れ止め部材本体51の外径よりも大きく拡径しながら、外周溝51aに収納するためである。また、摺動部材53は、樹脂製であり、Oリング52に比べて摩擦係数が小さく、硬度が高く弾性変形しにくいフッ素系樹脂が適する。
【0027】
振れ止め部材50の固定方法について詳しく説明する。図4に示すように、ボールねじ軸10の先端に、ボールねじ軸10の外周直径よりも小さい小径部11が形成されている。さらに小径部11の先端には、ボール軸受嵌合部11bが形成され、ボール軸受嵌合部11bにボール軸受12を嵌合することで、振れ止め部材50が、ボールねじ軸10に取り付けられている。また、小径部11の先端面には、ねじ穴13が設けられている。ねじ穴13に螺合したボルト14により、ボール軸受12のインナーリングが固定されることで、振れ止め部材50が位置決めされている。
【0028】
摺動部材53の外径は、ボールねじ軸10が中空ロッド40の中空部に挿入される前において、中空内周面40aの内径と同じか、またははめあい隙間を有するように設定されており、ボールねじ軸10が中空ロッド40の中空部に挿入されると、摺動部材53が、バイアスカット59により中空内周面40aに倣い、中空内周面40aに接触する。Oリング52は摺動部材53の内周面に接触しており、ボールねじ軸10が半径方向に振れ回ろうとする力を、Oリング52が弾性変形する反力により減衰することができる。また、中空ロッド40が直線移動する際には、摺動部材53が中空内周面40aに摺接する。摺動部材53が摺動する中空内周面40aにはグリスGが塗布されており、円滑な摺動が確保されている。
【0029】
小径部11には、図4に示すように、空気孔となる空気抜き用切り欠き11aが設けられている。空気抜き用切り欠き11aを設けることで、小径部11と振れ止め部材本体51の隙間が空気抜き用切り欠き11aのサイズ分拡大され、図4(a)中の矢印Lのように空気抜き用切り欠き11aとボール軸受12の隙間を空気が流入出することができる。空気を流入出させる理由は、中空ロッド40の往復運動の際、中空ロッド40の中空部において振れ止め部材50により2つに隔離された空間の間の圧力差が生じることを防ぐためである。中空ロッド40の中空部において振れ止め部材50により2つに隔離された空間の間の圧力差が生じることを防ぐことで、中空ロッド40の円滑な往復運動が確保され、電動アクチュエータ1の作業精度の低下を防ぐことができる。
【0030】
ベース70は、図2に示すように、コの字状の断面形状をなし、内周両側面にボールを配したリニアガイド24を有する。リニアガイド24によって中空ロッド40を往復運動させるスライダユニット20が図1中の矢印X及びその反対方向に案内される。スライダユニット20は、図1のようにボールねじナット21及びスライダ部材22から構成され、ボールねじナット21は、スライダ部材22内部に、圧入されたピン25と、止めねじ23とによって固定されている。また、ボールねじナット21は、ボールねじ軸10が螺進自在に螺着されている。また、スライダ部材22には、中空ロッド40の後端側が一体移動可能に連結されている。
【0031】
以上の構成の電動アクチュエータ1の作用を説明する。モータ30に電力が供給されることで、不図示のモータ軸が回転する。モータ軸の回転運動が継手によりモータ軸に固定されたボールねじ軸10に伝達される。伝達された回転運動は、ボールねじ軸10及びボールねじナット21により、直線運動に変換され、モータ30の正逆回転に伴い、スライダユニット20が図1中の矢印Xの方向及びその反対の方向に往復運動をする。このとき、スライダユニット20は、リニアガイド24によって、回転運動をせずに直進することができる。スライダユニット20の往復運動に伴い、スライダユニット20に連結された中空ロッド40が挿通孔61aから突出する方向及びその反対方向に往復運動をする。
【0032】
中空ロッド40の往復運動の際には、摺動部材53が中空内周面40aに摺接していることにより、摺動部材53が中空内周面40aに塗布されたグリスGが掻き落され、掻き落されたグリスGは、グリス溜り凹部53aに保持される。そして、図11に示すように、中空ロッド40が図11中の矢印Xの方向に直線運動する際、グリス溜り凹部53aに保持されたグリスGが、中空ロッド40の直線運動方向とは反対の方向に流れ出て、摺動部材53の摺動面にグリスGが供給される。
図12に示すように、図11とは逆の方向である矢印Yの方向に中空ロッド40が直線運動する際には、グリス溜り凹部53aに保持されたグリスGが、図11とは反対の方向にグリスGが流れ出て、摺動部材53の摺動面にグリスGが供給される。
また、中空ロッド40の往復運動の繰り返しにより、摺動部材53が摩耗した場合であっても、図13に示すようにグリス溜り凹部53aにグリスGが保持されるため、図11及び図12に示すような摺動面へのグリスGの供給が可能であり、円滑な摺動を維持することができる。例えば、従来技術においては、数年間にわたって電動アクチュエータ1を使用し続けた場合に、グリスGが枯渇する恐れがあったが、グリスGがグリス溜り凹部53aに安定して溜められることで、数年間にわたって電動アクチュエータ1を使用し続けた場合でも、グリスGはわずかに残留し、潤滑作用を果たすことができる。
【0033】
第2の実施形態として、図7に示すように、摺動部材54の外周面に形成されたグリス溜り凹部54aには、円弧形状の溝を適用することができる。第2の実施形態によっても、摺動部材54により掻き落されたグリスGがグリス溜り凹部54aに保持されるため、図11及び図12と同様に、保持されたグリスGを中空ロッド40の直線運動の方向とは反対の方向に、摺動部材54の摺動面にグリスGが供給される。また、中空ロッド40の往復運動の繰り返しにより、摺動部材54が摩耗した場合であっても、図13と同様にグリス溜り凹部54aにグリスGが保持されるため、図11及び図12と同様に摺動面へのグリスGの供給が可能であり、円滑な摺動を維持することができる。
【0034】
第3の実施形態として、図8に示すように、摺動部材55の外周面に形成されたグリス溜り凹部55aには、三角形状の溝を適用することができる。第3の実施形態によっても、摺動部材55により掻き落されたグリスGがグリス溜り凹部55aに保持されるため、図11及び図12と同様に、保持されたグリスGを中空ロッド40の直線運動の方向とは反対の方向に、摺動部材55の摺動面にグリスGが供給される。また、中空ロッド40の往復運動の繰り返しにより、摺動部材55が摩耗した場合であっても、図13と同様にグリス溜り凹部55aにグリスGが保持されるため、図11及び図12と同様に摺動面へのグリスGの供給が可能であり、円滑な摺動を維持することができる。
【0035】
以上詳細に説明したように、第1乃至第3の実施形態の電動アクチュエータ1によれば、
(1)モータ30により回転されるボールねじ軸10と、ボールねじ軸10の回転により直進運動を行うスライダユニット20と、スライダユニット20に固定されボールねじ軸10が挿入される中空ロッド40と、ボールねじ軸10の先端外周に設けられ中空ロッド40の中空内周面40aと接触する振れ止め部材50と、を有する電動アクチュエータ1において、振れ止め部材50には外周溝51aが形成されていること、外周溝51aにはOリング52と、Oリング52の外周に樹脂製の摺動部材53が収納されていること、摺動部材53の外周面にグリス溜り凹部53aが形成されていること、を特徴とするので、摺動部材53として摩擦抵抗の小さい材質の樹脂を選べば、Oリング52が中空ロッド40の中空内周面40aに接触することがなく、Oリング52の摩耗や劣化を防止することができる。また、摺動部材53は、外周溝51aに収納されているために摺動方向の位置決めがされていることや、Oリング52に比べて摩擦係数が小さく、硬度が高く弾性変形しにくいフッ素系樹脂であるために図16に示されるOリング152のような軸方向の変形が生じないことにより、中空ロッド40の往復運動時に安定した制動反力を得ることができる。さらに、摺動部材53の外周に形成されたグリス溜り凹部53aの内部には、他の部材が存在せず、グリスGのみが保持されるため、摺動して中空ロッドの中空内周面40aに存在するグリス層を掻き落したときに、グリス溜り凹部53aに安定してグリスGを溜めることができる。
【0036】
(2)(1)に記載の電動アクチュエータ1において、前記摺動部材53が、円筒形状の円筒外周面を備えること、前記グリス溜り凹部53aが前記円筒外周面に溝形状で形成されていること、を特徴とするので、摺動部材53の外周が全周に渡って広い面積で中空ロッド40の中空内周面40aと接触しているため、全周に渡って安定して摺動部材53の外周面と中空ロッド40の中空内周面40aと接触を保持できる。これにより、摺動部材53が部分的に摩耗することが防止でき、振れ止め部材50としての機能を長時間使用後も発揮し続けることができる。
【0037】
(3)(2)に記載の電動アクチュエータ1において、前記溝形状の断面が四角形状、三角形状、または円弧形状のいずれか1つであること、を特徴とする。四角形状の溝は、グリスGを溜める量を多くすることができる。また、三角形状および円弧形状の溝は、内部にグリスGが長時間に渡って動かない箇所がないため、グリスGの変質を防止することができる。
【0038】
第4の実施形態として、図9に示すように、摺動部材57は、外周両端部に切り欠き部57aが形成され、断面形状が凸形状となっている。
振れ止め部材本体56は、外周溝51aとともに、外周溝51aより幅広の摺動部材溝56aを備え、摺動部材57が摺動部材溝56aに収納されている。
このとき、切り欠き部57aの外周面は、振れ止め部材本体56の外周面よりも低く設定されており、切り欠き部57aと摺動部材溝56aの内周面によりグリス溜り凹部71が構成される。
中空ロッド40が図14中の矢印Xの方向に直線運動する際、切り欠き部57aと摺動部材溝56aの内周面により構成されたグリス溜り凹部71に保持されたグリスが、中空ロッド40の直線運動方向とは反対の方向に流れ出る。グリスGが流れ出ることにより摺動部材57の摺動面全体にグリスGが供給される。第1乃至第3の実施形態においては、摺動面の半分にしかグリスGが供給されない可能性があるが、第4の実施形態によれば、摺動面全体にグリスGが供給されるため、グリスGの潤滑作用の効果がより高く発揮される。
【0039】
第5の実施形態として、図10に示すように、摺動部材58に形成される切り欠き部58aを、面取り形状とすることができる。
振れ止め部材本体56の摺動部材溝56aに、摺動部材58が収納されている。このとき、切り欠き部58aの中心軸に近い方の稜線は、振れ止め部材本体56の外周面よりも低く設定されており、切り欠き部58aと摺動部材溝56aの内周面によりグリス溜り凹部72が構成される。
第5の実施形態によっても、図14と同様に中空ロッド40が直線運動する際、切り欠き部58aと摺動部材溝56aの内周面により構成されたグリス溜り凹部72に保持されたグリスGが、中空ロッド40の直線運動方向とは反対の方向に流れ出る。グリスGが流れ出ることにより摺動部材58の摺動面全体にグリスGが供給される。第1乃至第3の実施形態においては、摺動面の半分にしかグリスGが供給されない可能性があるが、第5の実施形態によれば、摺動面全体にグリスGが供給されるため、グリスGの潤滑作用の効果がより高く発揮される。
【0040】
第6の実施形態として、図5に示すように、小径部11に空気抜き用切り欠き11aを設けず、小径部11と振れ止め部材本体の間の隙間と、ボール軸受12の隙間を利用して、図5中矢印Lのように空気を流入出させる方法が考えられる。この形態によっても、中空ロッド40の往復運動の際、中空ロッド40の中空部において振れ止め部材50により2つに隔離された空間の間の圧力差が生じることを防ぐことができる。
【0041】
空気抜き用切り欠き11aは、図4(b)に示すように、小径部11の上下に形成されているが、上下のどちらか一方に空気抜き用切り欠き11aを付与することでも、中空ロッド40の中空部において振れ止め部材50により2つに隔離された空間の間の圧力差が生じることを防ぐ効果を得ることができる。
【0042】
第7の実施形態として、中空ロッド40の中空部において振れ止め部材50により2つに隔離された空間の間の圧力差が生じることを防ぐための空気孔は、図15に示すような形態も考えられる。小径部64の先端面から軸方向に第1の空気孔64aを設け、小径部64の外周面であって、振れ止め部材50が取り付けられている部分と重ならない位置に、第1の空気孔64aと繋がるように設けられた第2の空気孔64bを設ける。これにより、第1の空気孔64aと第2の空気孔64bが貫通空気孔を形成し、図15中の矢印Lに示すように、第1の空気孔64aと第2の空気孔64bを空気が流入出し、中空ロッド40の中空部において振れ止め部材50により2つに隔離された空間の間の圧力差が生じることを防ぐ。第7の実施形態においては、振れ止め部材50は、Eリング63によってボール軸受12のインナーリングが固定されることで、位置決めがなされている。
【0043】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。
例えば、本実施の形態では、弾性部材として断面形状が円状のOリングを用いているが、円状に限らず、様々な断面形状を適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 電動アクチュエータ
10 ボールねじ軸
11 小径部
11a 空気抜き用切り欠き
12 ボール軸受
20 スライダユニット
30 モータ
40 中空ロッド
40a 中空内周面
50 振れ止め部材
51 振れ止め部材本体
51a 外周溝
52 Oリング(弾性部材)
53 摺動部材
53a グリス溜り凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16