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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】栽培装置及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 27/06 20060101AFI20220606BHJP
   A01G 9/02 20180101ALI20220606BHJP
   A01G 27/00 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
A01G27/06
A01G9/02 F
A01G27/00 502L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017156497
(22)【出願日】2017-08-14
(65)【公開番号】P2019033683
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】519145115
【氏名又は名称】ヤンマーグリーンシステム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 龍資
(72)【発明者】
【氏名】臼崎 早苗
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 晴行
(72)【発明者】
【氏名】井上 光弘
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098414(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0082394(US,A1)
【文献】特開2004-041128(JP,A)
【文献】特開2015-112061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00-9/02
A01G 25/00-31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物を着生させる制限培地と、
上記制限培地よりも低位置に配置され、灌漑水に肥料を混合した栽培液を貯留する貯留槽と、
上記制限培地の底部と上記貯留槽とを接続し、上記貯留槽内の栽培液を毛管現象により制限培地の底部に供給可能な液送部と、
上記栽培液を得るために灌漑水に肥料を混合する混合装置を有し、上記貯留槽の液面高さを一定範囲内に保持するよう上記栽培液を上記制限培地又は貯留槽に供給する栽培液供給部と、
上記灌漑水をそのまま上記制限培地に散水するか、又は、上記灌漑水を、前記栽培液を供給する状態から切り替えて前記制限培地に散水する灌漑水散水部と
を備える栽培装置。
【請求項2】
上記制限培地の容量が、作物1株当たり30L以下である請求項1に記載の栽培装置。
【請求項3】
上記灌漑水散水部から上記制限培地への灌漑水の散水位置の中心と上記制限培地の中心との水平距離が、上記制限培地の短径の0.3倍以下である請求項1又は請求項2に記載の栽培装置。
【請求項4】
上記灌漑水散水部から上記制限培地への灌漑水の散水位置の中心と上記制限培地の表面との垂直距離が5cm 以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の栽培装置。
【請求項5】
上記灌漑水散水部が、灌漑水をシャワー状に噴水する請求項4に記載の栽培装置。
【請求項6】
上記貯留槽に排出された灌漑水を回収する回収部をさらに備える請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の栽培装置。
【請求項7】
作物を着生させる制限培地と、上記制限培地よりも低位置に配置され、灌漑水に肥料を混合した栽培液を貯留する貯留槽と、上記制限培地の底部と上記貯留槽とを接続し、上記貯留槽内の栽培液を毛管現象により制限培地の底部に供給可能な液送部とを備える栽培装置を用い、
上記貯留槽の液面高さを一定範囲内に保持するよう、上記灌漑水に肥料を混合すると共にこの混合で得られる栽培液を上記制限培地又は貯留槽に供給する工程と、
上記灌漑水をそのまま上記制限培地に散水するか、又は、上記灌漑水を、前記栽培液を供給する状態から切り替えて前記制限培地に散水する工程と
を備える栽培方法。
【請求項8】
上記散水工程における灌漑水の散水量が、上記制限培地の容量の1.0倍以上3.0倍以下である請求項7に記載の栽培方法。
【請求項9】
上記散水工程を上記制限培地の塩分濃度が1g/L以上20g/L以下のときに行う請求項7又は請求項8に記載の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培装置及び栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば海岸線沿いの干拓地等では、農作物を栽培するために利用することができる灌漑水が比較的高濃度の塩分を含む水、例えば海水を含む汽水となる場合がある。塩分を含む灌漑水を使用すると、土壌表層部(作物が根を張る程度の深さ)に塩分が蓄積して作物の周囲の土中塩分濃度が上昇してくる。土中塩分濃度が高くなり過ぎると、作物の生育を阻害するため収穫量が低下する。
【0003】
このため、塩分を含む灌漑水を使用する場合、土中塩分濃度が上昇したときに土壌に灌漑水を撒いて土壌表層部の塩分を深層部に染み込ませるリーチングと呼ばれる作業が行われる。このようなリーチングは、多量の灌漑水を必要とすると共に、手間が掛かる作業である。
【0004】
一方、近年、例えば灌水、施肥等を自動制御して、農作物の収量及び品質を向上する、農業の工業化が試行されている。灌水及び施肥を自動化する場合、土を用いず、灌漑水に肥料を混合した栽培液を用いる養液栽培が適している。養液栽培としては、固形培地を用いないいわゆる水耕栽培、比較的小容量の容器内に例えば砂、ロックウール、やし殻等の培地を充填した制限培地を用いる固形培地耕栽培が挙げられる。固形培地耕栽培は、水耕栽培と比べて、作物の根に空気を供給できることから作物を健康に維持しやすいことや、微生物活性により水質を維持しやすいことから、より効率的に作物を栽培できると有望視されている。
【0005】
このような固形培地耕栽培用の装置としては、下方に配置した水槽から培地部(制限培地)の底面に毛管現象によって栽培液を供給する底面給水方式の栽培装置が提案されている(例えば特開2016-27号公報参照)。上記公報に記載の栽培装置では、培地部からの蒸発量が小さく、塩類集積が起こりにくいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-27号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記公報に記載の栽培装置では、培地の量が小さいことで培地内の塩分濃度が上昇しにくいとされているが、これは塩分濃度が低い灌漑水を用いることを前提としている。つまり、上記公報に記載の栽培装置においても、塩分濃度が高い灌漑水を用いる場合には、培地内の塩分濃度の上昇を十分に抑制することができず、作物の生育を阻害し得る程度に塩分濃度が上昇するおそれがある。
【0008】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、塩分濃度が高い灌漑水を使用することができる栽培装置及び栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る栽培装置は、作物を着生させる制限培地と、上記制限培地よりも低位置に配置され、灌漑水に肥料を混合した栽培液を貯留する貯留槽と、上記制限培地の底部と上記貯留槽とを接続し、上記貯留槽内の栽培液を毛管現象により制限培地の底部に供給可能な液送部と、上記栽培液を得るために灌漑水に肥料を混合する混合装置を有し、上記貯留槽の液面高さを一定範囲内に保持するよう上記栽培液を上記制限培地又は貯留槽に供給する栽培液供給部と、上記灌漑水をそのまま上記制限培地に散水する灌漑水散水部とを備える。
【0010】
また、本発明の一態様に係る栽培方法は、作物を着生させる制限培地と、上記制限培地よりも低位置に配置され、灌漑水に肥料を混合した栽培液を貯留する貯留槽と、上記制限培地の底部と上記貯留槽とを接続し、上記貯留槽内の栽培液を毛管現象により制限培地の底部に供給可能な液送部とを備える栽培装置を用い、上記貯留槽の液面高さを一定範囲内に保持するよう、上記灌漑水に肥料を混合すると共にこの混合で得られる栽培液を上記制限培地又は貯留槽に供給する工程と、灌漑水をそのまま上記制限培地に散水する工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る栽培装置及び本発明の別の態様に係る栽培方法は、塩分濃度が高い灌漑水を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る栽培装置を示す模式的断面図である。
図2図1の栽培装置の変形例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る栽培装置は、作物を着生させる制限培地と、上記制限培地よりも低位置に配置され、灌漑水に肥料を混合した栽培液を貯留する貯留槽と、上記制限培地の底部と上記貯留槽とを接続し、上記貯留槽内の栽培液を毛管現象により制限培地の底部に供給可能な液送部と、上記栽培液を得るために灌漑水に肥料を混合する混合装置を有し、上記貯留槽の液面高さを一定範囲内に保持するよう上記栽培液を上記制限培地又は貯留槽に供給する栽培液供給部と、上記灌漑水をそのまま上記制限培地に散水する灌漑水散水部とを備える。
【0014】
当該栽培装置は、上記貯留槽から上記液送部を介して底部に栽培液を供給可能な制限培地に作物を着生させるため、培地からの水分蒸発量が小さく、培地内の塩分濃度の上昇を抑制することができる。また、当該栽培装置は、上記栽培液を得るために灌漑水に肥料を混合する混合装置を有し、上記貯留槽の液面高さを一定範囲内に保持するよう上記栽培液を上記制限培地又は貯留槽に供給する栽培液供給部に加えて、上記灌漑水をそのまま上記制限培地に散水する灌漑水散水部を備えるので、灌漑水散水部からの灌漑水の散水によって、制限培地中の塩分を灌漑水で貯留槽に排出することができる。このように、当該栽培装置は、塩分濃度が高い灌漑水を使用しても制限培地中の塩分濃度を一定の範囲内に保つことができるので、塩分濃度が高い灌漑水を使用して作物を栽培することができる。
【0015】
当該栽培装置において、上記制限培地の容量としては、作物1株当たり30L以下であることが好ましい。このように、上記制限培地の容量が上記上限以下であることによって、灌漑水散水部から散水して制限培地内の塩分を排出する際に必要な灌漑水の水量を低減することができる。
【0016】
当該栽培装置において、上記灌漑水散水部から上記制限培地への灌漑水の散水位置の中心と上記制限培地の中心との水平距離としては、上記制限培地の短径の0.3倍以下が好ましい。このように、上記灌漑水散水部から上記制限培地への灌漑水の散水位置の中心と上記制限培地の中心との水平距離が上記上限以下であることによって、上記灌漑水を上記制限培地全体に浸透させて効率よく塩分を排出することができる。
【0017】
当該栽培装置において、上記灌漑水散水部から上記制限培地への灌漑水の散水位置の中心と上記制限培地の表面との垂直距離としては、5cm以上が好ましい。このように、上記灌漑水散水部から上記制限培地への灌漑水の散水位置の中心と上記制限培地の表面との垂直距離が上記下限以上であることによって、上記灌漑水を上記制限培地全体に浸透させてより効率よく塩分を排出することができる。
【0018】
当該栽培装置において、上記灌漑水散水部が、灌漑水をシャワー状に噴水してもよい。このように、上記灌漑水散水部が、灌漑水をシャワー状に噴水することによって、上記灌漑水を上記制限培地全体に浸透させてさらに効率よく塩分を排出することができる。
【0019】
当該栽培装置は、上記貯留槽に排出された灌漑水を回収する回収部をさらに備えてもよい。このように、上記貯留槽に排出された灌漑水を回収する回収部をさらに備えることによって、当該栽培装置は、灌漑水を再利用して使用水量を低減することができる。
【0020】
また、本発明の別の態様に係る栽培方法は、作物を着生させる制限培地と、上記制限培地よりも低位置に配置され、灌漑水に肥料を混合した栽培液を貯留する貯留槽と、上記制限培地の底部と上記貯留槽とを接続し、上記貯留槽内の栽培液を毛管現象により制限培地の底部に供給可能な液送部とを備える栽培装置を用い、上記貯留槽の液面高さを一定範囲内に保持するよう、上記灌漑水に肥料を混合すると共にこの混合で得られる栽培液を上記制限培地又は貯留槽に供給する工程と、灌漑水をそのまま上記制限培地に散水する工程とを備える。
【0021】
当該栽培方法は、上記制限培地、貯留槽及び液送部を備える栽培装置を用いるので、培地からの水分蒸発量が小さく、培地内の塩分濃度の上昇を抑制することができる。また、当該栽培方法は、上記貯留槽の液面高さを一定範囲内に保持するよう、上記灌漑水に肥料を混合すると共にこの混合で得られる栽培液を上記制限培地又は貯留槽に供給する工程と、灌漑水をそのまま上記制限培地に散水する工程とを備えるので、上記供給工程において制限培地内の塩分濃度が上昇しても、上記散水工程における灌漑水の散水によって、制限培地中の塩分を貯留槽に排出することができる。このように、当該栽培方法は、塩分濃度が高い灌漑水を使用しても制限培地中の塩分濃度を一定の範囲内に保つことができるので、塩分濃度が高い灌漑水を使用して作物を栽培することができる。
【0022】
当該栽培方法において、上記散水工程における灌漑水の散水量としては、上記制限培地の容量の1.0倍以上3.0倍以下が好ましい。このように、上記散水工程における灌漑水の散水量が上記範囲内であることによって、確実に制限培地内の塩分濃度を低下させられると共に、灌漑水の使用量を抑制して、作物の収量当たりの灌漑水の使用量を低減することができる。
【0023】
当該栽培方法において、上記散水工程を上記制限培地の塩分濃度が1g/L以上20g/L以下のときに行ってもよい。このように、上記散水工程を上記制限培地の塩分濃度が上記範囲内のときに行うことによって、灌漑水の使用量を抑制しつつ、塩害を防止して作物の健康状態を維持することができる。
【0024】
なお、「制限培地」とは、容器内に収容された培地、つまり空間的に制限された培地を意味する。
【0025】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る栽培装置及び栽培方法を説明する。
【0026】
[第一実施形態]
図1に示す本発明の一実施形態に係る栽培装置は、灌漑水を貯留する灌漑水タンク1と、肥料を貯留する1又は複数の肥料タンク2と、作物を着生させる制限培地3と、この制限培地3よりも低位置に配置され、灌漑水に肥料を混合した栽培液を貯留する貯留槽4と、制限培地3の底部と貯留槽4とを接続し、貯留槽4内の栽培液を毛管現象により制限培地3の底部に供給可能な液送部5と、貯留槽4の液面高さを一定範囲内に保持するよう栽培液を貯留槽4に供給する栽培液供給部6と、灌漑水タンク1から供給される灌漑水をそのまま制限培地3に上方から散水する灌漑水散水部7とを備える。
【0027】
当該栽培装置は、貯留槽4及び液送部5から水分が蒸発することを防止するために、図示しない水蒸気シール性を有するカバーで貯留槽4及び液送部5が覆われることが好ましい。
【0028】
(灌漑水タンク)
灌漑水タンク1は、灌漑水を貯留する。この灌漑水タンク1に貯留される灌漑水としては、塩分を比較的高濃度に含有する汽水(淡水と海水とが混合した水)等を用いることができる。
【0029】
灌漑水の塩分濃度の上限としては、栽培する作物の種類にもよるが、塩化ナトリウム換算(モル濃度が等しい塩化ナトリウムの質量に換算)で1.0質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましい。灌漑水の塩分濃度が上記上限を超える場合、高頻度のリーチングが必要となり、作物の経済的な栽培が困難となるおそれがある。
【0030】
灌漑水タンク1の容量は、必要とされる灌漑水の水量、灌漑水タンク1への給水頻度等を考慮して選定される。例えば河川、井戸等から灌漑水を常時供給できる場合には、灌漑水タンク1を省略してもよい。
【0031】
(肥料タンク)
肥料タンク2は、作物の栽培に必要な肥料を貯留する。肥料タンク2に貯留される肥料としては、灌漑水との混合が容易な液体肥料を用いることが好ましい。また、当該栽培装置は、複数の肥料タンク2を備え、複数種類の肥料を灌漑水に混合した栽培液を使用してもよい。
【0032】
肥料タンク2の容量は、必要とされる肥料の容積、想定される肥料タンク2へ肥料の補給頻度等を考慮して選定することができる。また、市販される肥料の流通時の包装容器をそのまま肥料タンク2として使用してもよい。
【0033】
(制限培地)
制限培地3は、容器8と、この容器8内に充填される粒子状の固形培地9とを有する。
【0034】
また、制限培地3は、後述する貯留槽4よりも上方に配置するために、台座10上に配設されてもよい。
【0035】
容器8は、防根性及び固形培地9を保持できる十分な強度を有する材料から形成され、少なくとも底面が透水性を有する。具体的には、容器8は、例えば樹脂等から形成される筒状体乃至枠状体と、この筒状体乃至枠状体の底面を封止する透水シートとを有する構成とすることができる。また、容器8は、底面が開口し、底面の開口が後述する液送部5によって封止されてもよい。
【0036】
固形培地9の材質としては、砂状の物質であればよく、例えば海砂等の珪砂、パミスサンド等の微粒軽石、多孔性の火山岩の粉砕粒、粒状のロックウール、コーラルサンド、やし殻、木炭等を挙げることができる。上記の砂状の物質のサイズは、0.15mmメッシュ未満の粒子が10体積%未満であると好適で、加えて0.3mmメッシュ以上の粒子が50%以上であるとさらに好適である。
【0037】
作物の種類等にもよるが、制限培地3の作物1株あたりの容量(容器8の1株当たりの内容積)の下限としては、0.2Lが好ましく、0.3Lがより好ましい。一方、制限培地3の作物1株あたりの容量の上限としては、30Lが好ましく、10Lがより好ましい。制限培地3の作物1株あたりの容量が上記下限に満たない場合、作物が十分に根を張ることができないおそれがある。逆に、制限培地3の作物1株あたりの容量が上記上限を超える場合、リーチングに要する灌漑水の水量が不必要に増大するおそれがある。
【0038】
(貯留槽)
貯留槽4は、台座10の側方に形成されることで、制限培地3よりも低位置に配置される。この貯留槽4は、台座10と一体に形成されてもよい。また、貯留槽4の中に台座10を設けることによって、貯留槽4の上方に制限培地3を配置してもよい。
【0039】
貯留槽4は、貯留する栽培液の液面高さを検出するレベルセンサ11を有することが好ましい。
【0040】
このレベルセンサ11としては、栽培液の液面に浮かべられる可動部を有するセンサを採用してもよいが、耐久力の観点から可動部を有しないセンサを採用することが好ましい。このような可動部を有しないセンサとしては、例えば電極式センサ、静電容量式センサ、光学式センサ等の栽培液に接触する接触式センサ、例えば静電容量式センサ、電波式センサ、超音波式センサ等の栽培液に接触しない非接触式センサなどを採用することができる。これらの中でも、レベルセンサ11としては、メンテナンス性が良好でありかつ安価であるという観点から、静電容量式センサを採用することが好ましい。この場合、レベルセンサ11は、貯留槽4の外壁又は内壁に設置されることにより、設置高さでの栽培液の液面の有無を検知し、液面の有無に基づき栽培液の増減を検出するよう構成することができる。
【0041】
貯留槽4は、例えば樹脂、金属等の堅固な材料によって形成してもよく、窪みを有する部材の窪みの内面に沿って防水シートを配置することによって形成してもよい。
【0042】
貯留槽4の容量としては、制限培地3及び栽培する作物から蒸発する水分量、及び後述する栽培液供給部6の能力等を考慮して、貯留する栽培液の液量を一定に保つことができる最低限の容量とすることが好ましい。
【0043】
(液送部)
液送部5は、貯留槽4に貯留される栽培液を毛管現象により揚水して制限培地3に供給する。この液送部5は、制限培地3内の水分量が小さくなる程、貯留槽4から制限培地3への栽培液の供給量を増大させる。制限培地3の底面と貯留槽4の液面との高低差は、液送部5による栽培液の供給抵抗となるため、貯留槽4の液面高さによって、制限培地3の底部における含水量を調節することができる。
【0044】
この液送部5は、例えば紙、織布、不織布等の吸水性を有するシートを用いて形成することができる。中でも吸水速度、揚水力及び耐久性に優れるものを得やすいという観点から織布が好ましい。
【0045】
(栽培液供給部)
栽培液供給部6は、レベルセンサ11の出力に応じて、貯留槽4に貯留される栽培液の液面高さを一定範囲内に保持するよう栽培液を貯留槽4に供給するよう構成される。具体的には、貯留槽4の液面高さが所定の下限以下となったときに栽培液の供給を開始し、貯留槽4の液面高さが所定の上限以上となったときに栽培液の供給を停止するよう構成することができる。
【0046】
この栽培液供給部6は、貯留槽4に供給する栽培液を得るために、灌漑水タンク1から供給される灌漑水に肥料タンク2から供給される肥料を混合する混合装置12を有する。この混合装置12としては、灌漑水に一定の比率で肥料を混合することができる定量混合装置を用いることが好ましい。
【0047】
(灌漑水散水部)
灌漑水散水部7は、制限培地3の上方に配置されるシャワーノズル13を有し、このシャワーノズル13から灌漑水をシャワー状に噴水することで、灌漑水を制限培地3の固形培地9に散水することが好ましい。このように、灌漑水をシャワー状に噴水することによって、制限培地3の固形培地9の表面に広範に散水して、固形培地9全体に均等に通水することができる。
【0048】
灌漑水散水部7から制限培地3への灌漑水の散水位置の中心、つまりシャワーノズル13の放水面の中心と制限培地3の固形培地9存在領域の中心との水平距離の上限としては、制限培地3の表面における固形培地9存在領域の短径の0.3倍が好ましく、0.2倍がより好ましい。灌漑水散水部7から制限培地3への灌漑水の散水位置の中心と制限培地3の中心との水平距離が上記上限を超える場合、固形培地9に均等に通水することができず、塩分の排出が非効率となるおそれがある。
【0049】
灌漑水散水部7から制限培地3への灌漑水の散水位置の中心と制限培地3の固形培地9の表面との垂直距離の下限としては、5cmが好ましく、8cmがより好ましい。一方、灌漑水散水部7から制限培地3への灌漑水の散水位置の中心と制限培地3の固形培地9の表面との垂直距離の上限としては、50cmが好ましく、30cmがより好ましい。灌漑水散水部7から制限培地3への灌漑水の散水位置の中心と制限培地3の固形培地9の表面との垂直距離が上記下限に満たない場合、固形培地9に均等に通水することができず、塩分の排出が非効率となるおそれがある。逆に、灌漑水散水部7から制限培地3への灌漑水の散水位置の中心と制限培地3の固形培地9の表面との垂直距離が上記上限を超える場合、灌漑水が制限培地3の外部に飛散するおそれや、作物の陰が大きくなることで固形培地9に均等に通水することができないおそれがある。
【0050】
[栽培方法]
本発明の別の実施形態に係る栽培方法は、図1の栽培装置を用い、貯留槽4の液面高さを一定範囲内に保持するよう、灌漑水に肥料を混合すると共にこの混合で得られる栽培液を貯留槽4に供給する工程(供給工程)と、灌漑水をそのまま制限培地3に上方から散水する工程(散水工程)とを備える。
【0051】
供給工程は、散水工程を行う間を除いて継続的に行われる。なお、継続的とは、連続的又は一定時間毎に貯留槽4の液面高さを監視して必要に応じて栽培液を供給することを意味し、栽培液の供給が連続的に行われることを要求するものではない。
【0052】
散水工程は、制限培地3内の塩分濃度が一定濃度まで上昇したときに行われる。この散水工程は、散水する灌漑水によって制限培地3内の塩分を灌漑水と共に貯留槽4に排出するいわゆるリーチングを行う工程である。
【0053】
栽培する作物の種類等によっても異なるが、例えばトマトの場合は次のとおりである。散水工程を行う制限培地3の塩分濃度の下限としては1g/Lが好ましく、5g/Lがより好ましい。一方、散水工程を行う制限培地3の塩分濃度の上限としては20g/Lが好ましく、10g/Lがより好ましい。散水工程を行う制限培地3の塩分濃度が上記下限に満たない場合、灌漑水の使用量が不必要に増大するおそれがある。逆に、散水工程を行う制限培地3の塩分濃度が上記上限を超える場合、塩害により作物の育成が阻害されるおそれがある。
【0054】
制限培地3内の塩分濃度は、例えば制限培地3に塩分濃度センサを配設することによって検出してもよいが、供給工程における栽培液の供給量に基づいて、簡易的な塩収支モデルによって推測してもよい。これにより、作物の種類毎に好ましい塩分濃度の上下限を設定することができ、良好な育成を行なうことが可能になる。
【0055】
散水工程における灌漑水の散水量の下限としては、制限培地3の容量の1.0倍が好ましく、1.5倍がより好ましい。一方、散水工程における灌漑水の散水量の上限としては、制限培地3の容量の3.0倍が好ましく、2.5倍がより好ましい。散水工程における灌漑水の散水量が上記下限に満たない場合、制限培地3内の塩分濃度を十分に低下できないおそれがある。逆に、散水工程における灌漑水の散水量が上記上限を超える場合、灌漑水を不必要に消費するおそれがある。
【0056】
<利点>
当該栽培装置及び当該栽培方法は、貯留槽4から液送部5を介して比較的小容量の制限培地3の底部に栽培液を供給するため、水分蒸発量が小さく、固形培地9内の塩分濃度の上昇を抑制することができる。また、当該栽培装置及び当該栽培方法は、灌漑水散水部7が灌漑水をそのまま制限培地3に上方から散水するので、制限培地3中の塩分を灌漑水で貯留槽4に排出することができる。したがって、当該栽培装置及び当該栽培方法は、塩分濃度が高い灌漑水を使用しても制限培地3中の塩分濃度を一定の範囲内に保つことができるので、塩分濃度が高い灌漑水を使用して作物を栽培することができる。
【0057】
[第二実施形態]
図2に示す本発明の別の実施形態に係る栽培装置は、灌漑水を貯留する灌漑水タンク1と、肥料を貯留する1又は複数の肥料タンク2と、作物を着生させる制限培地3aと、この制限培地3aよりも低位置に配置され、灌漑水に肥料を混合した栽培液を貯留する貯留槽4aと、制限培地3aの底部と貯留槽4aとを接続し、貯留槽4a内の栽培液を毛管現象により制限培地3aの底部に供給可能な液送部5と、貯留槽4aの液面高さを一定範囲内に保持するよう栽培液を制限培地3aの表面に供給する栽培液供給部6aと、灌漑水タンク1から供給される灌漑水をそのまま制限培地3aの表面に散水する灌漑水散水部7aとを備える。また、当該栽培装置は、貯留槽4aに制限培地3aから排出された灌漑水を回収する回収部14をさらに備える。
【0058】
図2の栽培装置における灌漑水タンク1、肥料タンク2及び液送部5の構成は、図1の栽培装置における灌漑水タンク1、肥料タンク2及び液送部5の構成と同様とすることができる。このため、図2の栽培装置について、図1の栽培装置と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明は省略する。
【0059】
(制限培地)
図2の栽培装置において、制限培地3は、貯留槽4aの内部に配置される。具体的には、貯留槽4aの内部に、貯留槽4の周壁よりも高さが小さい台座10aが配置され、制限培地3は、貯留槽4a内の台座10aよりも上方の空間内に収容されている。
【0060】
制限培地3aは、透水シートから形成される容器8aと、この容器8aに充填される粒子状の固形培地9とを有する。図2の栽培装置における固形培地9は、図1の栽培装置における固形培地9と同様とすることができる。
【0061】
容器8aは、底面が液送部5を介して台座10aの上に載置され、上部が貯留槽4aに保持されることによって、固形培地9を収容する容器形状を保持する。
【0062】
(貯留槽)
貯留槽4aは、この台座10aの周囲の空間に栽培液を貯留する。貯留槽4aは、台座10aと一体に形成されてもよく、台座10aが中空であってもよい。
【0063】
貯留槽4aは、貯留する栽培液の液面高さを検出するレベルセンサ11を有することが好ましい。図2の栽培装置におけるレベルセンサ11の構成は、図1の栽培装置におけるレベルセンサ11の構成と同様とすることができる。
【0064】
(栽培液供給部)
栽培液供給部6aは、レベルセンサ11の出力に応じて、貯留槽4aに貯留される栽培液の液面高さを一定範囲内に保持するよう栽培液を制限培地3aの固形培地9の表面に供給するよう構成される。
【0065】
この栽培液供給部6aは、貯留槽4aに供給する栽培液を得るために、灌漑水タンク1から供給される灌漑水に肥料タンク2から供給される肥料を混合する混合装置12を有する。図2の栽培装置における混合装置12は、図1の栽培装置における混合装置12と同様とすることができる。
【0066】
また、栽培液供給部6aは、その末端に、制限培地3aの固形培地9の表面に載置され、栽培液が流出する複数の流出孔を有する散水チューブ15を有する構成とすることができる。このような散水チューブ15を用いることによって、固形培地9の全体に栽培液を分散して供給することができる。
【0067】
(灌漑水散水部)
灌漑水散水部7aは、制限培地3aの固形培地9の表面に灌漑水を散水するよう構成される。この灌漑水散水部7aは、栽培液供給部6aと散水チューブ15を共用するよう構成することができる。栽培液供給部6aと灌漑水散水部7aとが散水チューブ15を共用することによって、栽培液供給部6a及び灌漑水散水部7が、互いに干渉せず、栽培液又は灌漑水をいずれも固形培地9の全体に通水できるよう設計することが容易となる。
【0068】
(回収部)
回収部14は、灌漑水散水部7aから制限培地3aに灌漑水を散水するとき、制限培地3aから貯留槽4aに排出される灌漑水(肥料等を含み得る)を貯留槽4aから排出して不図示の水槽等に回収する機構である。このような回収部14を備えることによって、当該栽培装置は、リーチングに使用した灌漑水を回収して再利用することができるので、灌漑水の使用量を抑制することができる。
【0069】
回収部14の具体的構成としては、図示するようなドレン配管を採用することができる他、例えばオーバーフロー流路、排水ポンプ等を用いることもできる。
【0070】
[栽培方法]
本発明のさらに別の実施形態に係る栽培方法は、図2の栽培装置を用い、貯留槽4aの液面高さを一定範囲内に保持するよう、灌漑水に肥料を混合すると共にこの混合で得られる栽培液を制限培地3aに表面から供給する工程(供給工程)と、灌漑水をそのまま制限培地3aに上方から散水する工程(散水工程)とを備える。
【0071】
図2の栽培装置を用いる栽培方法における供給工程及び散水工程のタイミング及び散水工程での散水量は、図1の栽培装置を用いる栽培方法における供給工程及び散水工程のタイミング及び散水工程での散水量と同様とすることができる。
【0072】
<利点>
当該栽培装置及び当該栽培方法は、灌漑水散水部7aが灌漑水をそのまま制限培地3aに散水するので、制限培地3a中の塩分を貯留槽4aに排出することができる。したがって、当該栽培装置及び当該栽培方法は、塩分濃度が高い灌漑水を使用しても制限培地3a中の塩分濃度を一定の範囲内に保つことができるので、塩分濃度が高い灌漑水を使用して作物を栽培することができる。
【0073】
[他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0074】
例えば、図1の栽培装置のシャワーノズル13と図2の栽培装置の散水チューブ15とは、相互に入れ替え可能である。また、図1の栽培装置において栽培液供給部6が制限培地3に栽培液を供給するようにしてもよく、図2の栽培装置において栽培液供給部6aが貯留槽4aに栽培液を供給するようにしてもよい。
【実施例
【0075】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
<栽培例1>
栽培例1として、ビニールハウス内に設置した図1に準じる栽培装置を用い、葉かび病耐病性Cf9をもつトマト「桃太郎ヨーク」を栽培した。制限培地の容量は0.5Lとし、固形培地として鳥取砂丘砂を使用した。灌漑水としては、1000質量ppmの塩化ナトリウム水溶液を使用した。給水工程では、貯留槽の液面高さが、制限培地の底面を基準として-7cmとなるように栽培液を供給した。散水工程は、簡易的塩収支モデルにより推定される制限培地内の塩分濃度が10g/L以上になったときに行った。各散水工程では、制限培地の容量と同量の灌漑水を散水した。
【0077】
<栽培例2>
栽培例2は、貯留槽の液面高さを-4cmとした以外は、上記栽培例1と同様とした。
【0078】
<栽培例3>
栽培例3は、各散水工程における散水量を制限培地の容量の2倍とした以外は、上記栽培例2と同様とした。
【0079】
<栽培例4>
栽培例4は、固形培地として、ルナサンド社の青森砂「ルナサンドH」を使用した以外は、上記栽培例3と同様とした。
【0080】
<栽培例5>
栽培例5として、栽培例1~4と同じビニールハウス内での土耕により、栽培例1~4と同じトマトを栽培した。土壌としては、鳥取砂丘砂を用い、土壌表層にグラフテック社の水分センサ「WD3-WET-5TE」を設置し、電気伝導度を0.19V(水分含有率換算で11体積%)に保持するよう灌漑水を1株につき1本の点滴チューブから灌水した。
【0081】
次の表に、上記栽培例1~5における果実の収量と、果実の平均糖度とを示す。なお、栽培例1~4では、それぞれ9回の散水工程が行われた。
【0082】
【表1】
【0083】
以上のように、本発明の実施形態に係る栽培装置を用いた栽培例1~4は、土耕による栽培例5と比べて収量が大幅に増大し、且つ糖度も上昇している。このことから、本発明の実施形態に係る栽培装置は、塩分濃度が高い灌漑水を使用しても、培地中の塩分を効率よく排出して塩害を防止することにより、高品質の作物を育成することができ、且つ収量も十分に得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の栽培装置及び栽培方法は、淡水を灌漑水として使用する場合にも利用することができるが、塩分濃度が高い灌漑水を用いる農業において特に好適に利用される。
【符号の説明】
【0085】
1 灌漑水タンク
2 肥料タンク
3,3a 制限培地
4,4a 貯留槽
5 液送部
6,6a 栽培液供給部
7,7a 灌漑水散水部
8,8a 容器
9 固形培地
10,10a 台座
11 レベルセンサ
12 混合装置
13 シャワーノズル
14 回収部
15 散水チューブ
図1
図2