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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】1型糖尿病の予防又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/35 20060101AFI20220606BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
A61K39/35
A61P3/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017237169
(22)【出願日】2017-12-11
(65)【公開番号】P2018118960
(43)【公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2017009582
(32)【優先日】2017-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】中村 和市
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】European Journal of Immunology,2003年,33,1205-1214
【文献】PNAS,2001年,98(24),13913-13918
【文献】Memorias do Instituto Oswaldo Cruz,99(Suppl.I),2004年,27-32
【文献】Molecular Immunology,2016年,77,60-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61P 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コナヒョウヒダニ虫体抽出物を有効成分として含有し、1回又は2回の皮下投与用である、1型糖尿病の予防又は治療剤。
【請求項2】
請求項1に記載の1型糖尿病の予防又は治療剤及びアジュバントを含有し、1回又は2回の皮下投与用である、1型糖尿病の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の1型糖尿病の予防又は治療剤及びアジュバントを含み、前記予防又は治療剤及び前記アジュバントを混合し、1回又は2回皮下投与して用いるための、1型糖尿病の予防又は治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1型糖尿病の予防又は治療剤に関する。より具体的には、本発明は、1型糖尿病の予防又は治療剤、1型糖尿病の予防又は治療用医薬組成物及び1型糖尿病の予防又は治療用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、その発症要因から大きく1型糖尿病と2型糖尿病に大別される。1型糖尿病は、自己免疫疾患により膵島β細胞が破壊されることによるインスリンの欠乏を主因とする疾患である。1型糖尿病は、インスリン依存糖尿病ともいわれ、日常的にインスリンが投与されない場合には死に至る。これまで、通常は若年期に発症するとされてきたが、2型糖尿病に紛れて30歳を超えてからの発症も多いことがわかってきた。
【0003】
ダニを原因とするアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患が知られている。これらの疾患の治療法の1つとして、ダニ由来抗原を用いた減感作療法が実用化されている。例えば特許文献1には、ダニ由来抗原を含む急速溶解性舌下錠が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-193929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1型糖尿病には対症療法が存在するものの、1型糖尿病を根治することのできる有効な予防方法又は治療方法は知られていない。そこで、本発明は、1型糖尿病の予防又は治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]ダニ由来抗原を有効成分として含有する、1型糖尿病の予防又は治療剤。
[2]皮下投与、経皮投与又は腹腔内投与用である、[1]に記載の1型糖尿病の予防又は治療剤。
[3][1]又は[2]に記載の1型糖尿病の予防又は治療剤及びアジュバントを含有する、1型糖尿病の予防又は治療用医薬組成物。
[4]皮下投与、経皮投与又は腹腔内投与用である、[3]に記載の1型糖尿病の予防又は治療用医薬組成物。
[5]1回又は2回投与される、[3]又は[4]に記載の1型糖尿病の予防又は治療用医薬組成物。
[6][1]又は[2]に記載の1型糖尿病の予防又は治療剤及びアジュバントを含む、1型糖尿病の予防又は治療用キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、1型糖尿病の予防又は治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実験例1における、対照群のNODマウスの膵島の代表的な組織像である。
図2】実験例1における、ダニ由来抗原投与群のNODマウスの膵島の代表的な組織像である。
図3】実験例1において、各群のマウスの膵島炎のスコアを算出した結果を示すグラフである。
図4】実験例3において、マウス脾臓細胞のTh1/Th2バランスを解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1型糖尿病の予防又は治療剤]
1実施形態において、本発明は、ダニ由来抗原を有効成分として含有する、1型糖尿病の予防又は治療剤を提供する。
【0010】
Non Obese Diabetes(NOD)マウスは、1型糖尿病モデルマウスである。NODマウスは、2週齢で膵島のβ細胞に対する細胞傷害性T細胞の誘導が始まり、4週齢ごろから膵島炎が認められる。その後、雌では約14週齢から糖尿病を発症するが、雄では約21週齢から糖尿病を発症する。糖尿病を発症するNODマウスの割合は、雌で9割以上、雄で1割程度である。
【0011】
実施例において後述するように、発明者らは、NODマウスにダニ由来抗原を投与することにより、糖尿病の発症を予防又は治療できることを明らかにした。したがって、本実施形態の予防又は治療剤により、1型糖尿病の予防又は治療を行うことができる。
【0012】
アレルギー性疾患の原因となるダニとしては、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae(以下、「Derf」という場合がある。)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus(以下、「Derp」という場合がある。)等が知られている。
【0013】
これらのダニが産生する抗原(アレルゲン)の中で特に問題となるものは、その排泄物中に多く含まれ分子量約25,000のグループI(DerI)と、虫体内に多く含まれ分子量約14,000のクループII(DerII)と呼ばれるタンパク質である。
【0014】
Derf由来のグループIタンパク質及びグループIIタンパク質は、それぞれDerfIタンパク質及びDerfIIタンパク質と呼ばれている。また、Derp由来のグループIタンパク質及びグループIIタンパク質は、それぞれDerpIタンパク質及びDerpIIタンパク質と呼ばれている。
【0015】
本実施形態の予防又は治療剤において、ダニ由来抗原としては、ダニの虫体の抽出物、ダニの排泄物の抽出物、組換えDerfIタンパク質又はその断片、組換えDerfIIタンパク質又はその断片、組換えDerpIタンパク質又はその断片、組換えDerpIIタンパク質又はその断片、これらの混合物等を用いることができる。また、ダニは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
特に、ダニアレルギー性鼻炎の減感作療法用のダニ由来抗原は、製造技術が確立されており、入手が容易であるため、本実施形態の予防又は治療剤に好適に用いることができる。
【0017】
1型糖尿病は、症状の進行によって、急性発症、緩徐進行、劇症の3つに分類されている。急性発症及び緩徐進行の1型糖尿病においては、患者の血液中に膵島関連自己抗体である抗グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体が検出される。このため、急性発症及び緩徐進行の1型糖尿病患者では、自己免疫反応が進行しつつ、まだ膵島が残存していると考えられる。一方、劇症の1型糖尿病患者においては、患者の血液中に抗GAD抗体は検出されず、膵島の完全な破壊が生じているものと考えられる。
【0018】
本実施形態の予防又は治療剤は、特に、抗GAD抗体が検出され、自己免疫反応が進行過程にある急性発症、緩徐進行の1型糖尿病の患者に投与することが有効である。
【0019】
本実施形態の予防又は治療剤の患者への投与は、例えば、皮下投与、経皮投与、腹腔内投与等により行うことができる。予防又は治療剤の投与量は、患者の症状、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、投与対象の生体内で免疫反応を誘導できる量であれば特に限定されない。例えば、1回あたり10~100μg/人の有効成分(ダニ由来抗原)を1週間に1回投与する投与スケジュールが挙げられるがこれに限定されない。
【0020】
[1型糖尿病の予防又は治療用医薬組成物]
1実施形態において、本発明は、上述した予防又は治療剤及びアジュバントを含有する、1型糖尿病の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
【0021】
実施例において後述するように、本実施形態の医薬組成物は、アジュバントを含有することにより、1型糖尿病の予防又は治療効果を向上させるとともに、アナフィラキシーショックの発症を抑制することができる。
【0022】
アジュバントとしては、通常のワクチン製剤に使用されるものと同様のものを用いることができる。より具体的には、例えば、水酸化アルミニウムゲル、フロイントの完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント、へモゾイン、TiterMax Gold(タイターマックス社)等を用いることができる。TiterMax Goldは、ポリオキシエチレンからなる親水性領域と、ポリオキシプロピレンからなる疎水性領域を有する非イオン系コポリマーの油中水型(water-in-oil)エマルジョンから構成されるアジュバントである。
【0023】
本実施形態の医薬組成物は、上述した予防又は治療剤、アジュバント及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物として製剤化されていてもよい。
【0024】
医薬組成物は、例えば注射剤、皮膚外用剤等の非経口的に使用される剤型であることが好ましい。皮膚外用剤としては、より具体的には、軟膏剤、貼付剤等の剤型が挙げられる。
【0025】
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。
【0026】
医薬組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
【0027】
医薬組成物は、上述したダニ由来抗原、アジュバント及び上述した薬学的に許容される担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0028】
医薬組成物の患者への投与は、例えば、皮下投与、経皮投与、腹腔内投与等により行うことができる。医薬組成物の投与量は、患者の症状、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、投与対象の生体内で免疫反応を誘導できる量であれば特に制限されない。例えば、1回あたり100μg/人程度の有効成分(ダニ由来抗原)を1回又は2回投与する投与スケジュールが挙げられるがこれに限定されない。
【0029】
例えば、実施例において後述するように、本実施形態の医薬組成物を1回のみ投与(単回投与)することにより、ダニ由来抗原特異的なIgE抗体の発生を伴わずに膵島炎を改善すると考えられる。
【0030】
[キット]
1実施形態において、本発明は、上述した1型糖尿病の予防又は治療剤、及び、アジュバントを含む、1型糖尿病の予防又は治療用キットを提供する。本実施形態のキットは、ダニ由来抗原及びアジュバントを含むキットであるということができる。
【0031】
本実施形態のキットにおいて、ダニ由来抗原、アジュバントについては上述したものと同様である。本実施形態のキットによれば、使用時に、ダニ由来抗原及びアジュバントを混合し、患者又は患畜に投与することができる。また、本実施形態のキットは、例えば注射筒等の機材を更に含んでいてもよい。
【0032】
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、ダニ由来抗原の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、1型糖尿病の予防又は治療方法を提供する。ダニ由来抗原としては、上述したものと同様のものを使用することができる。
【0033】
1実施形態において、本発明は、ダニ由来抗原及びアジュバントを含有する医薬組成物の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、1型糖尿病の予防又は治療方法を提供する。ダニ由来抗原、アジュバントとしては、上述したものと同様のものを使用することができる。
【0034】
1実施形態において、本発明は、1型糖尿病の予防又は治療のためのダニ由来抗原を提供する。ダニ由来抗原としては、上述したものと同様のものを使用することができる。
【0035】
1実施形態において、本発明は、1型糖尿病の予防又は治療のための医薬組成物であって、ダニ由来抗原及びアジュバントを含有する医薬組成物を提供する。ダニ由来抗原、アジュバントとしては、上述したものと同様のものを使用することができる。
【0036】
1実施形態において、本発明は、1型糖尿病の予防又は治療薬を製造するためのダニ由来抗原の使用を提供する。ダニ由来抗原としては、上述したものと同様のものを使用することができる。
【0037】
1実施形態において、本発明は、1型糖尿病の予防又は治療薬を製造するためのダニ由来抗原及びアジュバントの使用を提供する。ダニ由来抗原、アジュバントとしては、上述したものと同様のものを使用することができる。
【実施例
【0038】
次に、実験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0039】
[実験例1]
(NODマウスへのダニ由来抗原の投与)
2週齢の雌のNODマウスに、2~8週齢にかけて1週間に1回、10μg/匹のダニ由来抗原(Df虫体抽出物、品番10107、ITEA株式会社東京環境アレルギー研究所製)を腹腔内投与した(ダニ由来抗原投与群、n=7)。アジュバントは使用しなかった。また、対照群のマウスには、ダニ由来抗原の代わりに媒体のみを投与した(n=7)。
【0040】
続いて、尿糖が陽性になること、あるいは10週齢に達することのいずれかの条件を満たした時点で安楽殺し、膵臓を摘出した。続いて、摘出した膵臓をパラホルムアルデヒド固定し、パラフィン包埋した後、組織切片を作製した。
【0041】
続いて、得られた膵臓組織切片をヘマトキシリン・エオジン染色して顕微鏡観察し、膵島炎の評価を行った。1個体あたり3個以上の膵島を評価し、そのうち最も高いスコアをその個体の膵島炎のスコアとした。膵島炎の評価基準は下記表1に記載の通りとした。
【0042】
【表1】
【0043】
図1(a)~(g)は、それぞれ対照群の各マウス(No.1~No.7)の膵島の代表的な組織像である。また、図2(a)~(g)は、それぞれダニ由来抗原投与群の各マウス(No.1~No.7)の膵島の代表的な組織像である。下記表2に、図1及び図2の各写真に基づいて評価した膵島炎のスコアを示す。
【0044】
【表2】
【0045】
図3は、表2の結果に基づいて、各群のマウスの膵島炎のスコア(平均値±標準偏差)を算出した結果を示すグラフである。図3中、「**」は、危険率(p値)0.01未満で有意差があることを示す。
【0046】
その結果、ダニ由来抗原投与群では、対照群と比較して、膵島へのリンパ球の浸潤が有意に抑制されたことが確認された。
【0047】
本実験では、NODマウスにおいて膵島炎が発現する4週齢より前の2週齢からダニ由来抗原の投与を開始し、8週齢まで投与を行った。1型糖尿病の発症は膵島炎によっておこることから、ダニ由来抗原の投与により1型糖尿病を予防又は治療できることが明らかとなった。
【0048】
[実験例2]
(ダニ由来抗原とアジュバントの併用)
4週齢のNODマウスはすでに膵島炎を発症していると考えられる。本実験例では4週齢のNODマウスを使用して検討を行った。まず、4週齢の雌のNODマウスを各群5匹ずつ5群に分けた。続いて、各群のマウスに、ダニ由来抗原(Df虫体抽出物、品番10107、ITEA株式会社東京環境アレルギー研究所製)及びアジュバントを下記表3に示す条件で投与した。
【0049】
表3中、E-1はアジュバントであるヘモゾイン(インビボジェン社)を表し、E-2はアジュバントであるTiterMax Gold(タイターマックス社)を表す。
【0050】
続いて、各マウスを11週齢に達した時点で安楽殺し、膵臓を摘出した。続いて、摘出した膵臓をパラホルムアルデヒド固定し、パラフィン包埋した後、組織切片を作製した。
【0051】
続いて、得られた膵臓組織切片をヘマトキシリン・エオジン染色して顕微鏡観察し、膵島炎の評価を行った。膵島炎の評価基準は実験例1と同様であった。1個体あたり3個以上の膵島を評価し、そのうち最も高いスコアをその個体の膵島炎のスコアとした。表3に膵島炎のスコアを示す。表3中、「**」はウィルコクソンの順位和検定の結果、P<0.01で有意差が存在したことを表す。
【0052】
【表3】
【0053】
その結果、ダニ由来抗原とヘモゾインの混合物を単回腹腔内投与することにより、膵島炎の発症が抑制される傾向が認められた(2-2群)。また、ダニ由来抗原とTiterMax Goldの混合物を単回皮下投与することにより、膵島炎の発症を有意に抑制できることが明らかとなった(2-4群)。また、アジュバントを使用してダニ由来抗原を単回投与した場合(2-2群、2-4群)の膵島炎の発症抑制効果は、アジュバントを使用せずにダニ由来抗原を5回腹腔内投与した場合(2-5群)の膵島炎の発症抑制効果よりも高かった。
【0054】
すなわち、膵島炎発症後であっても、アジュバントを使用してダニ由来抗原を単回投与することにより、膵島炎を改善できることが明らかとなった。
【0055】
[実験例3]
(Th1/Th2バランスの検討)
生体内に異物が侵入すると、樹状細胞等に取り込まれてナイーブなCD4陽性T細胞に抗原提示され、活性化されたT細胞がTh1細胞又はTh2細胞に分化することが知られている。Th1細胞は、インターフェロン(IFN)-γ等を産生し、主に細胞性免疫や感染防御に関与する。
【0056】
一方、Th2細胞は、インターロイキン(IL)-4、IL-5、IL-9、IL-13等を産生する。IL-4及びIL-13は、B細胞における免疫グロブリンのクラススイッチを促進してIgE産生を亢進させる。また、IL-5は好酸球を活性化する。また、IL-4及びIL-9はマスト細胞に作用してアレルギー炎症を惹起する。
【0057】
Th1細胞及びTh2細胞のサブセットは、それぞれの産生するサイトカインが互いに抑制的に働くことによってTh1/Th2バランスを形成している。そして、1型糖尿病は臓器特異的自己免疫疾患であり、この場合Th1/Th2バランスはTh1優位になっていると考えられている。
【0058】
本実験例では、実験例2で採取した各マウスの脾臓細胞浮遊液を用いて、各群のマウスにおけるTh1/Th2バランスを検討した。
【0059】
具体的には、脾臓細胞浮遊液をレクチンの一種であるコンカナバリンAで刺激し、T細胞のサイトカイン産生を促進させた。続いて、細胞にモネンシンを添加して細胞内タンパク輸送を阻害した。続いて、FITC標識抗マウスCD4抗体で細胞表面抗原であるCD4を染色した。
【0060】
続いて、細胞にサポニンを添加して細胞膜透過性を亢進させ、細胞内サイトカインであるIFN-γ及びIL-4を、それぞれAPC標識抗マウスIFN-γ抗体及びPE標識抗マウスIL-4抗体で染色した。
【0061】
続いて、フローサイトメーターを用いて細胞を解析した。CD4陽性IFN-γ陽性細胞をTh1細胞とし、CD4陽性IL-4陽性細胞をTh2細胞とした。
【0062】
図4は、細胞を解析した結果を示すグラフである。図4中、「*」は、スチューデントのt検定の結果、P<0.05で有意差が存在したことを表し、「**」は、スチューデントのt検定の結果、P<0.01で有意差が存在したことを表す。
【0063】
その結果、4週齢のNODマウスに、アジュバントを使用してダニ由来抗原を単回投与することにより、Th1優位の状態を改善することができたことが明らかとなった。
【0064】
[実験例4]
(ダニ由来抗原の投与によるIgEクラス抗体の出現の検討)
4週齢の雌のNODマウスを各群5匹ずつ4群に分けた。続いて、各群のマウスに、ダニ由来抗原(Df虫体抽出物、品番10107、ITEA株式会社東京環境アレルギー研究所製)及びアジュバントを下記表4に示す条件で投与した。
【0065】
表4中、E-1はアジュバントであるヘモゾイン(インビボジェン社)を表し、E-2はアジュバントであるTiterMax Gold(タイターマックス社)を表す。
【0066】
続いて、各マウスが11週齢に達した時点で採血し、ダニ由来抗原特異的なIgE抗体を検出した。IgE抗体の検出は、ラットを用いた受動皮膚アナフィラキシー反応(passive cutaneous anaphylaxis reaction:PCA反応)により評価した。
【0067】
具体的には、各群のマウスから採取した血清をラットに皮内投与し、24時間後に同じラットに色素(エバンスブルー)及びダニ由来抗原を尾静脈投与した。ここで、マウス由来の血清中にIgEが存在していた場合、ラット肥満細胞の受容体に結合したマウスIgEにダニ由来抗原が結合して皮膚局所でI型アレルギー反応が誘導され、ヒスタミン等が放出されて、末梢血管の透過性亢進が誘導される。その結果、ラットの血管外に色素を含む血液成分が流出する。そこで、剥離したラットの皮膚を観察することにより、血管から流出した色素の分布を斑点として肉眼で観察することができる。
【0068】
本実験例では、斑点の直径が5mm以上であった場合にPCA反応陽性であったと判定し、斑点の直径が5mm未満であった場合にPCA反応陰性であったと判定した。また、PCA反応陽性であった場合には、陽性となったマウス血清の最高希釈倍数を抗体価とした。表4にPCA反応の結果を示す。表4中、例えば「陰性(5/5例)」は、5例中5例のマウス血清のPCA反応の結果が陰性であったことを示す。
【0069】
【表4】
【0070】
その結果、アジュバントを使用してダニ由来抗原をマウスに単回投与した場合、ダニ由来抗原特異的なIgE抗体の発生は認められなかった(4-1群、4-2群)。また、アジュバントを使用してダニ由来抗原をマウスに2回投与した場合、5例中1例において、ダニ由来抗原特異的なIgE抗体の発生が認められた(4-3群)。
【0071】
4-4群のマウス血清中のダニ由来抗原特異的なIgE抗体の抗体価は5例とも20倍以上であった。また、4-3群において陽性であった1例の抗体価は32倍であった。
【0072】
以上の結果から、膵島炎発症後であっても、アジュバントを使用してダニ由来抗原を単回投与することにより、ダニ由来抗原特異的なIgE抗体の発生を伴わずに膵島炎を改善できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により、1型糖尿病の予防又は治療剤を提供することができる。
図1
図2
図3
図4