(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】チタン又はチタン合金の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/06 20060101AFI20220606BHJP
A61C 8/00 20060101ALI20220606BHJP
A61F 2/28 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
A61L27/06
A61C8/00
A61F2/28
(21)【出願番号】P 2022519066
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048219
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2020217531
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598086316
【氏名又は名称】株式会社エー・アイ・システムプロダクト
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】岡島 眞裕
(72)【発明者】
【氏名】松野 智宣
(72)【発明者】
【氏名】三木 貴仁
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-36716(JP,A)
【文献】特開2016-146967(JP,A)
【文献】特開2011-32223(JP,A)
【文献】特表2016-522026(JP,A)
【文献】特開2003-235954(JP,A)
【文献】特開平11-99199(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1835684(KR,B1)
【文献】チタン,2012年,60(3),pp.224-227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61C
A61F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金を、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬する工程を含む、チタン又はチタン合金の表面処理方法。
【請求項2】
前記アルカリイオン水中に、前記ケイ素が0.4~400mass ppm、及びリンが400~800mass ppm含まれる、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記アルカリイオン水中に、さらに、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のミネラルが含まれる、請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記アルカリイオン水中に、さらに、塩素が含まれる、請求項1~3の何れか一項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記アルカリイオン水のpHが10~12.5である、請求項1~4の何れか一項に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記アルカリイオン水の表面張力が55~68mN/mである、請求項1~5の何れか一項に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記アルカリイオン水が、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得られたものである、請求項1~6の何れか一項に記載の表面処理方法。
【請求項8】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水によって表面が処理されている、チタン又はチタン合金製のインプラント。
【請求項9】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解してアルカリイオン水を得る工程、及び、
前記アルカリイオン水をチタン又はチタン合金の表面に処理する工程を備える、チタン又はチタン合金製のインプラントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン又はチタン合金の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラントの分野では、主としてチタン又はチタン合金が素材として利用されてきた。その理由として、チタン又はチタン合金の表面が酸化チタンを主体とする酸化被膜で被覆されており、この被膜が体液中での腐食に対する不動態膜となってチタン又はチタン合金の腐食を抑制すること、及びこの被膜が骨に対して高い親和性をもつことが挙げられる。
【0003】
特に歯科用インプラントにおいては、インプラントを一旦顎骨に埋入してインプラントと骨との十分な結合を待ってからインプラント体上部に補綴物を装着する必要があり、このインプラントの埋入から上部補綴物の装着までの時間はインプラントと骨との結合が得られる時間に依存する。骨結合に要する時間は下顎で3~4か月、上顎で6か月という長期間を要する。現在、患者を中心に考えるインプラント治療への気運が高まる中で、骨結合を得るために要するこの3~6か月の期間を短縮することが課題となっている。
【0004】
そのためには骨結合を早期に達成させることが極めて重要であり、そのためにインプラント材料表面を改質する技術の開発が進められている。このような表面改質方法の一つとして、医療用インプラントを高エネルギー放射線(紫外線)で照射する工程を含む医療用インプラントの処理方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法を用いてインプラント材料表面を改質するためには、高価な器材を用いて高エネルギー放射線(紫外線)を長時間照射する必要であり、そのため該方法で処理されたインプラントは、高コストとなる等の問題点があった。
かかる状況において、本発明は、安価かつ簡便にチタン又はチタン合金の表面の性状を改質することができる表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが安価かつ簡便にチタン又はチタン合金の表面の性状を改質することができる表面処理方法を開発すべく鋭意検討した結果、チタン表面を特定の製造方法により製造されたアルカリイオン水で処理することにより、チタン表面が親水性となり、タンパク吸着量及び細胞接着率が向上することを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
チタン又はチタン合金を、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬する工程を含む、チタン又はチタン合金の表面処理方法。
項2.
前記アルカリイオン水中に、前記ケイ素が0.4~400mass ppm、及びリンが400~800mass ppm含まれる、上記項1に記載の表面処理方法。
項3.
前記アルカリイオン水中に、さらに、カルシウム、カリウム、ナトリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のミネラルが含まれる、上記項1又は2に記載の表面処理方法。
項4.
前記アルカリイオン水中に、さらに、塩素が含まれる、上記項1~3の何れか一項に記載の表面処理方法。
項5.
前記アルカリイオン水のpHが10~12.5である、上記項1~4の何れか一項に記載の表面処理方法。
項6.
前記アルカリイオン水の表面張力が55~68mN/mである、上記項1~5の何れか一項に記載の表面処理方法。
項7.
前記アルカリイオン水が、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得られたものである、上記項1~6の何れか一項に記載の表面処理方法。
項8.
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水によって表面が処理されている、チタン又はチタン合金製のインプラント。
項9.
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解してアルカリイオン水を得る工程、及び、
前記アルカリイオン水をチタン又はチタン合金の表面に処理する工程を備える、チタン又はチタン合金製のインプラントの製造方法。
【0009】
なお、現時点で、上記インプラントは、物の構造を完全に特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって、物の発明を記載している。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面処理方法によれば、安価かつ簡便にチタン又はチタン合金の表面の性状を改質することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、アルカリイオン水を製造する装置を説明する模式図である。
【
図2】前処理直後及び4週間後のアルカリイオン水処理群、並びに前処理直後及び4週間後のコントロール群について、X線光電子分光法(XPS)により、微量元素分析を行った結果であり、
図2Aはワイドスキャン分析の結果であり、
図2Bはナロースキャン分析の結果である。
【
図3】
図3は、接触角測定時の写真である。A(上段)はコントロール群を示し、B(中段)はアルカリイオン水処理群を示し、C(下段)はUV群を示す。1(左列)は前処理直後を示し、2(中央列)は1週間後を示し、3(右列)は4週間後を示す。
【
図5】
図5は、タンパク質吸着試験の結果を示す図である。
【
図6】
図6は、細胞接着試験の結果を示す図である。
【
図7】
図7は、細胞増殖試験の結果を示す図である。
【
図8】
図8は、チタンディスク埋入時のウサギ大腿骨の写真であり、
図8Aはチタンディスク埋入用のグルーブ形成を示し、
図2Bはチタンディスク埋入後の状態を示す。
【
図9】
図9は、ウサギ大腿骨のマイクロCT画像である。
【
図10】
図10は、ウサギ大腿骨のビラヌエバ・ボーン染色画像である。
【
図11】
図11は、BIC測定範囲を説明する模式図である。a:チタンディスク表面の長さ(点線)、b:チタンディスク表面に結合した骨の長さ(矢印)、c:新生骨
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、チタン又はチタン合金の表面処理方法に関する。前記チタン又はチタン合金は、生体内に埋入されるインプラント用のチタン又はチタン合金である。
本発明のチタン又はチタン合金の表面処理方法においては、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水(以下、単に「アルカリイオン水」という場合もある。)を用い、チタン又はチタン合金のインプラントを、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬することを特徴とする。本発明の表面処理方法は、チタン又はチタン合金を、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬するだけで、チタン又はチタン合金の表面の性状を改質することができるので、高価な器材を必要とする従来の紫外線照射に比べて安価かつ簡便に表面改質を行うことができる。ここで、アルカリイオン水は、アルカリ電解水と言い換えることができる。
【0013】
表面処理の対象は、チタン又はチタン合金である。チタン合金として、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)とバナジウム(V)との合金、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)とニオブ(Nb)との合金、チタン(Ti)とニッケル(Ni)との合金(ニチノール)、チタン(Ti)と白金(Pt)との合金等が挙げられる。表面改質の対象には、Ti、Ti-6Al-4V合金、Ti-6Al-7Nb合金等を用いることが好ましい。
【0014】
表面処理には、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水が使用される。
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水には、ケイ素及びリンが含まれる。具体的には、前記アルカリイオン水中に、ケイ素(Si)が0.4~400mass ppm(mg/L)程度、好ましくは0.8~390mass ppm程度、より好ましくは1.0~380mass ppm程度、及びリン(P)が2~800mass ppm程度、好ましくは4~780mass ppm程度、より好ましくは10~770mass ppm程度含まれる。なお、元素分析は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法(日立ハイテクサイエンス株式会社製 SPECTRO ACROSII)により行った。
【0015】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水は、リン及びケイ素以外の他の元素を含んでもよく、例えば、カルシウム(Ca)を0.0001~900mass ppb程度、好ましくは0.001~800mass ppm程度、より好ましくは0.01~700mass ppm程度、カリウム(K)を0.0005~3000mass ppm程度、好ましくは1~2900mass ppm程度、より好ましくは5~2800mass ppm程度、マグネシウム(Mg)を0.0001~300mass ppb程度、好ましくは0.001~250mass ppm程度、より好ましくは0.01~200mass ppm程度、ナトリウム(Na)を34~8000mass ppm程度、好ましくは40~7900mass ppm程度、より好ましくは50~7800mass ppm程度等含んでいてもよい。また、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水中には、塩素(Cl)が含まれていてもよく、例えば、塩素(Cl)を1.5~450mg/kg程度、好ましくは1.5~440mg/kg程度、より好ましくは1.5~430mg/kg程度含まれていてもよい。
【0016】
前記アルカリイオン水に含まれるケイ素は、ケイ酸イオン、例えば、H3SiO4
-、H5Si2O7
-、H5Si3O9
-等の状態で存在することができる。
【0017】
前記アルカリイオン水に含まれるリンは、リン酸イオン、例えば、H2PO4
-、H3P2O7
-、H4P3O10
-等の状態で存在することができる。
【0018】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水のpHは、通常、10~12.5程度である。表面張力は、通常、70mN/m以下であり、好ましくは50~69mN/m、より好ましくは55~68mN/m程度である。さらに、前記アルカリイオン水には、物理的に電子が過剰に含まれている。
【0019】
本発明で使用するアルカリイオン水は、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程、及び、前記工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程により得ることができる。ケイ素及びリンを含有するミネラル塩としては、例えば、海水から得られるケイ素及びリンを含有する電解質を用いることができる。海水は、特に限定なく使用することができ、例えば、日本の海水を用いることができる。ケイ素及びリンを含有するミネラル塩は、使用する水の量の0.001~3質量%程度添加すればよい。
【0020】
前記アルカリイオン水の製造方法は、上記の工程に加えて、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を脱酸素処理して溶存酸素濃度を1ppm以下にする脱酸素工程、及び前記陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩との混合液に1kg/cm2~12kg/cm2の圧力をかける安定化工程を備えることが好ましい。ここで、陰極側のアルカリ水と混合されるケイ素及びリンを含有するミネラル塩は、前記電気分解工程で使用するケイ素及びリンを含有するミネラル塩と同じものを使用することができ、例えば、日本の海水から採取されたものを用いることができる。
【0021】
以下、アルカリイオン水の製造方法について説明する。
第1工程は、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液を電気分解する電気分解工程である。
【0022】
原料となる水としては、純水、イオン交換水等を用いることができる。水には、支持電解質として海水から得られるケイ素及びリンを含有するミネラル塩等を溶解させる。水として、脱酸素処理を行って水中の溶存酸素の濃度を1ppm以下に低下させたものを使用することが好ましい。脱酸素処理として、物理的処理方法と化学的処理方法とがあり、従来、化学的処理方法単独か、あるいは物理的処理方法と化学的処理方法とを併用する方法が採られている。物理的処理方法としては、加熱脱気装置、膜脱気装置等による脱気処理が挙げられる。化学的処理方法としては、脱酸素剤として、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム、糖類(グリコース等)を添加する方法等が挙げられる。脱酸素処理として、例えば、水に前記酸素除去剤を添加することができる。
【0023】
電気分解は、電解槽等の密閉空間で行われることが好ましい。電解槽内は、窒素、二酸化炭素等の不活性雰囲気であることが好ましい。また、水として、予め脱酸素処理を行って溶存酸素濃度を1ppm以下に低下させたものを用いる代わりに、又は、予め脱酸素処理した水を使用することに加えて、電気分解を電解槽中で行う際に、電解槽中に脱酸素剤を投入することも可能である。電気分解で印加される電気エネルギーは1000W~3000Wであることが好ましい。
【0024】
第2工程は、前記第1工程で得られた陰極側のアルカリ水と、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩とを混合して混合液を得、該混合液に電子を供給する電子供給工程である。
【0025】
電気分解で得られた陰極側のアルカリ水は、電解槽から取り出され、混合槽に供給されることが好ましい。混合槽には、海水から得られるケイ素及びリンを含有するミネラル塩を供給する手段と、アルカリ水に電気を供給する電子供給手段とが設けられていることが好ましい。
【0026】
ケイ素を含有する原材料(又はケイ素を含有するミネラル塩)としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩;ケイ酸カルシウム等のケイ酸アルカリ土類金属塩;ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。混合液に含まれるケイ素の含有量は、混合液全量を100質量%としたときに、0.005~5質量%程度とすることが好ましく、0.01~1質量%とすることがより好ましい。
【0027】
リンを含有する原材料(又はリンを含有するミネラル塩)としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩;リン酸カルシウム等のリン酸アルカリ土類金属塩;リン酸マグネシウム等が挙げられる。混合液に含まれるリンの含有量は、混合液全量を100質量%としたときに、0.005~5質量%程度とすることが好ましく、0.01~1質量%とすることがより好ましい。
【0028】
アルカリ水に添加されるケイ素を含有するミネラル塩とリンを含有するミネラル塩との質量比は、1:0.5~1.5であることが好ましい。
【0029】
電子供給手段として、例えば、陰極端子が挙げられる。電気分解で得られた陰極側のアルカリ水に、陰極端子を接触させることにより、電子を供給することができる。陰極電子から電子が放電されて、アルカリ水に多くの電子が供給される。
【0030】
陰極端子には、直流電流が印加されることが好ましい。陰極端子に印加される直流電流の電圧は、例えば、10~1000Vであり、50~300Vであることが好ましく、100~300Vであることがさらに好ましい。混合液に電子が供給されることにより、製造されたアルカリイオン水は、チタン又はチタン合金の表面の性状を効果的に改質することができると考えられる。
【0031】
混合槽には、電圧が100~300Vの直流電流を印加し、陰極電子から放出される電気量は1000~3000Wであることが好ましい。
【0032】
混合槽には、1kg/cm2~12kg/cm2(98~1177kPa)の圧力をかけることが好ましく、2kg/cm2~6kg/cm2(196~588kPa)がより好ましい。圧力をかけることで、アルカリイオン水の安定性が向上する。
【0033】
混合槽内は、窒素、二酸化炭素等の不活性雰囲気であることが好ましい。また、混合槽中に脱酸素剤を投入することも可能である。混合槽は、周囲の温度によって影響を受けないように、断熱手段によって周囲の温度から断熱するとともに、温度調整手段によって、混合槽の内部が-5℃~25℃の範囲に調整することが好ましい。混合液の温度は0℃~10℃とすることが好ましい。
【0034】
混合槽は、外気雰囲気と隔離した隔離槽内に配置することが好ましく、隔離槽内には、窒素又は二酸化炭素を充填することが好ましい。これにより、アルカリイオン水の変質を防止することができるので、長期にわたり性能を維持することができる。
【0035】
アルカリイオン水を、上記混合槽内で24~36時間安定化させることにより、最終生成物であるアルカリイオン水が得られる。得られたアルカリイオン水は、アルカリイオン水出口から直接に取り出すことができる。あるいは、アルカリイオン水にアルコールを混合して、混合アルカリイオン水出口から取り出すこともできる。アルコールとしては、水との相溶性の大きなアルコールを用いることが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0036】
以下、アルカリイオン水を製造する際に使用することができる製造装置について説明する。
アルカリイオン水を製造する装置を説明する模式図を
図1に示す。アルカリイオン水製造装置101は、電解槽1と混合槽11とを備えており、電解槽1と混合槽11とはアルカリ水導出管9で連結されている。電解槽1には、導水管2が接続されており、この導水管2によって原料水(ケイ素及びリンを含有するミネラル塩と水とを含む水溶液)が供給される。電解槽1は、隔膜3によって区画された陽極室4及び陰極室5を有している。陽極室4には陽極6が設けられ、陰極室5には陰極7が設けられている。両電極に電解電流を通電して、陽極室4に接続された酸性水排出管8より酸性水を取り出し、陰極室5に接続されたアルカリ水導出管9よりアルカリ水を取り出す。アルカリ水は、アルカリ水導出管9を通る間に、冷媒を循環した冷却管を設けた冷却装置10によって冷却して混合槽11に導入する。
【0037】
混合槽11は、前記アルカリ水導出管9、原料液貯槽12、及び出口管16と接続されている。混合槽11には、原料液貯槽12から流入量調整装置13を介して原料液を供給する。原料液の供給量は、通電した電気量等によって調整する。原料液としては、日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩が用いられる。混合槽11内には、攪拌装置14を設け、アルカリイオン水と原料液とが均一に混合されるようにする。
【0038】
混合槽11の中には陰極端子100を配置する。陰極端子100には、200Vの直流電流が印加されている。陰極端子100から放出される電気量は1000W~3000Wであることが好ましい。
【0039】
混合槽11は、周囲の温度によって影響を受けないように、断熱手段15によって断熱され、温度調整手段(図示せず)によって内部の温度を15℃~25℃程度に調整する。混合槽11の温度は、0℃~10℃程度にすることが好ましい。
【0040】
混合槽11から導出するアルカリイオン水のpHは、出口管16に設けられたpH測定手段17によって測定する。混合槽11から取り出すアルカリイオン水のpHは、10~12.5程度であることが好ましい。
【0041】
混合槽11に接続された出口管16は、アルカリイオン水出口管18、及び混合アルカリイオン水出口管21に分枝している。アルカリイオン水出口管18からは混合槽11内のアルカリイオン水が直接取り出される。アルカリイオン水は、アルコールと混合されて混合アルカリイオン水とすることも可能である。この場合、アルコール貯槽19からアルコールが注入されるアルコール混合槽20においてアルカリイオン水とアルコールとを混合し、混合アルカリイオン水出口管21から混合アルカリイオン水として取り出してもよい。アルカリイオン水と混合するアルコールは、水との相溶性の大きなアルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0042】
上述したアルカリイオン水製造装置101は、隔離室22に収容されることにより外気と隔離される。隔離室22は、窒素で置換されているか、又は二酸化炭素、酸素除去剤等を充填した通気装置によって外気雰囲気と結合されている。隔離室22内にアルカリイオン水製造装置101を設けることによって、アルカリイオン水の変質を防止することができ、長期にわたり性能を維持することができる。
【0043】
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水は、市販品を使用することができる。市販品として、商品名S-100及びS-100G(いずれも株式会社エー・アイ・システムプロダクト製)が挙げられる。
【0044】
本発明の表面処理方法は、チタン又はチタン合金を、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬することを特徴とする。
【0045】
前記アルカリイオン水の温度は、通常0~40℃程度であり、好ましくは10~30℃である。室温(常温)のアルカリイオン水中にチタン又はチタン合金を浸漬すればよい。
【0046】
処理時間は、特に限定されない。通常1分間以上、好ましくは3分間以上10分間以下である。
【0047】
本発明の表面処理方法は、チタン又はチタン合金を、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬するだけで、チタン又はチタン合金の表面の性状を改質することができるので、高価な器材を必要とする従来の紫外線照射に比べて安価かつ簡便に表面改質を行うことができる。
【0048】
本発明には、上述した表面処理方法により表面処理されたチタン又はチタン合金製のインプラントも包含される。よって、本発明のインプラントは、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水によって表面が処理されている、チタン又はチタン合金製のインプラントである。
【0049】
本明細書において、チタン又はチタン合金製のインプラントとは、チタン又はチタン合金により形成された、生体内で使用するための成形体を意味する。チタン又はチタン合金製のインプラントは、生体内で使用するために必要な物性と安全性とを有するものであれば、形状、使用形態等は特に限定されない。例えば、人工骨金属材料としては、柱状、板状、ブロック状、シート状、繊維状、ペレット状等の任意の形状のものを使用することができる。また、人工股関節用ステム材、骨補填材、人工椎体、人工歯根、人工椎間板、骨プレート、骨スクリュー等の製品形態としてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0051】
(製造例1)アルカリイオン水の製造
上述したアルカリイオン水製造装置101を用いて、以下のようにアルカリイオン水を製造した。
原料水として、イオン交換水を準備した。イオン交換水は、イオン交換樹脂(サムソン社製)を用いて、水道水から不純物を除去することにより製造した。イオン交換水に日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩を1質量%添加した水溶液を、導水管2を通じて電解槽1に導入し、陽極6及び陰極7に電気を流した。電気分解の条件は、電圧200V、電気エネルギー2500Wとした。イオン交換水が電気分解され、陽極室4では酸性水が生成し、陰極室5ではアルカリ水が生成した。陽極室4で生成された酸性水は、酸性水排出管8から排出された。陰極室5で生成されたアルカリ水はアルカリ水導出管9に導出され、アルカリ水導出管9を通るアルカリ水は冷却装置10により冷却されて、混合槽11に導入された。
【0052】
混合槽11において、冷却されたアルカリ水と、原料液貯槽12から供給された日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩とが、攪拌装置14によって混合された。原料液貯槽12内の日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩は、混合槽11内の混合液中の日本の海水から採取されたケイ素及びリンを含有するミネラル塩の含有量が、0.3質量%となるように流入量調整装置13で調整して供給した。混合液を、圧力294kPa、温度4±3℃で24時間保存した。保存中、混合液には、陰極端子100から電子が放出された。
その後、アルカリイオン水は、出口管16から導出され、pH測定手段17によりアルカリイオン水のpHを測定した後、アルカリイオン水出口管18から取り出された。
【0053】
<元素分析>
アルカリイオン水出口管から取り出された製造例1のアルカリイオン水を、ICP発光分光法(製造会社:日立ハイテクサイエンス株式会社、製品名:SPECTRO ARCOSII)を用いて、元素分析した。
その結果、ケイ素が100mass ppm、及びリンが760mass ppm含まれていることがわかった。なお、さらに、詳細には、ナトリウムが7500mass ppm、カリウムが2700mass ppm、カルシウムが0.2mass ppm、マグネシウムが0.1mass ppm以下含まれていることがわかった。
【0054】
また、上記ICP発光分光法では、塩素等のガスを検出できないことから、別途、アルカリイオン水出口管から取り出された製造例1のアルカリイオン水(試料1)を、一般財団法人日本食品分析センターにて、下記の燃焼-電量滴定法を用いて測定した。
燃焼-電量滴定法としては、日東精工アナリテック株式会社製、塩素・硫黄分析装置TSX-10型を用いて、上記試料1約10mgを燃焼させ、電量適定により塩化物イオンの濃度を算出した。この測定により有機塩素、無機塩素を問わず試料中の塩素量が求められる。有機塩素量は、トータル塩素量から無機塩素量を差し引いた値を用いた。無機塩素量は、試料5gを熱水抽出し、抽出液中の塩素イオンをイオンクロマトグラフ法により測定して求めた。
その結果、製造例1のアルカリイオン水中に、塩素が410mg/kg含まれていることがわかった。
【0055】
<pHの測定>
製造例1で得られたアルカリイオン水のpHを、pHメーター(株式会社堀場製作所製、HORIBA F-74SPを用いて測定したところ、pHの値は12であった。
【0056】
<表面張力の測定>
製造例1で得られたアルカリイオン水の表面張力を、Wilhelmy法を用いて測定した。
その結果、製造例1で得られたアルカリイオン水の表面張力は、約65.41mN/m(20℃)であった。同様の方法で、精製水の表面張力を測定したところ、約72.96mN/m(20℃)であったことから、本発明で用いるケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含有するアルカリイオン水の表面張力は、精製水の表面張力に比べて、約7.55mN/m低かった。
【0057】
(製造例2)
ケイ素及びリンを含有するミネラル塩の原料を日本の海水から沖縄県の海水に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、アルカリイオン水を製造した。
得られたアルカリイオン水について、実施例1と同様に、ICP発光分光法を用いで元素分析を行った結果、ケイ素が370mass ppm、及びリンが450mass ppm含まれていることが分かった。なお、さらに、詳細には、ナトリウムが6900mass ppm、カリウムが1mass ppm以下、カルシウムが0.9mass ppm、マグネシウムが0.3mass ppm以下含まれていることがわかった。
さらに、実施例2で得られたアルカリイオン水に含まれる塩素を、実施例1と同様に、一般財団法人日本食品分析センターにて、燃焼-電量滴定法を用いて測定した結果、実施例2のアルカリイオン水中に塩素が410mg/kg含まれることがわかった。
【0058】
(製造例3)チタンディスクの処理
チタンディスクとして、鏡面研磨した直径9.5mm、厚み1.0mmのTi-6Al-4Vディスク(Osaka Yakken社製)を用いた。前処理として、前記チタンディスクをエタノール、アセトン、及び二段蒸留水(DDW)中に浸漬し、超音波処理を10分間行った。前処理したチタンディスクに対して、前処理直後、クリーンベンチ内に1週間静置後、又は4週間静置後に以下の処理を行った。
(1)製造例1で製造したアルカリイオン水に3分間浸漬した。以下、該処理を行ったものをアルカリイオン水処理群という。
(2)DDW中に3分間浸漬した。以下、該処理を行ったものをコントロール群という。
(3)クリーンベンチ内の15W殺菌灯(λ=253.7nm、パナソニック株式会社製)を48時間照射した。以下、該処理を行ったものをUV群という。
前処理直後、1週間後、又は4週間後に上記処理を行ったチタンディスク(アルカリイオン水処理群、コントロール群、又はUV群)について、以下の試験を行った。
【0059】
(実施例1)微量元素分析
前処理直後及び4週間後のアルカリイオン水処理群、並びに前処理直後及び4週間後のコントロール群について、X線光電子分光法(XPS)により、走査型X線光電子分光分析装置PHI X-tool(アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、ワイドスキャン分析(1300.00-0.00 eV, 20.000 s)、及びナロースキャン分析(C1s:298.00-278.00 eV, N1s:411.00-391.00 eV, O1s:543.00-523.00 eV, Ti2p:469.00-449.00 eV, 20.000 s)で微量元素を測定した(n=4)。ワイドスキャン分析の結果を
図2Aに示し、ナロースキャン分析の結果を
図2Bに示す。
【0060】
図2Aより、ワイドスキャン分析において、コントロール群及びアルカリイオン水処理群で、炭素(C)、酸素(O)、及びチタン(Ti)の存在が認められた。アルカリイオン水処理群ではコントロール群に比べて炭素(C)が減少し、酸素(O)が増加したことが認められた。
図2Bより、ナロースキャン分析においても、アルカリイオン水処理群ではコントロール群に比べて炭素(C)が減少し、酸素(O)が増加したことが認められた。
チタンのエイジングには、空気中の微量元素(炭素等)がチタン表面に経時的に付着することによる表面の極性の低下、表面エネルギーが小さくなることによる疎水性への変化等が関係していることが知られている。上記微量元素分析の結果から、コントロール群とアルカリイオン水処理群との炭素のパーセンテージの差より、アルカリイオン水処理群における親水性の獲得は炭素(C)の除去が関連していると考えられる。また、酸素(O)が増加したのは、炭素(C)が除去されたことでチタンディスク表面の酸化チタン層が顕在化したためと考えられる。
【0061】
(実施例2)接触角の測定(親水性の評価)
前処理直後、1週間後、及び4週間後のチタンディスクの表面に、DDW0.5μLを滴下し、接触角計LSE-ME3(株式会社ニック製)を用いて接触角を測定し、親水性を評価した(n=5)。
【0062】
接触角測定時の写真を
図3に示す。
図3において、A(上段)はコントロール群を示し、B(中段)はアルカリイオン水処理群を示し、C(下段)はUV群を示している。また、1(左列)は前処理直後を示し、2(中央列)は1週間後を示し、3(右列)は4週間後を示している。
【0063】
図3より、コントロール群(A)では、チタンディスク上に滴下したDDWがドーム状を呈していたのに対し、アルカリイオン水処理群(B)及びUV群(C)ではDDWがチタンディスク表面全体に薄く広がり、良好な親水性(濡れ性)を示すことがわかった。
【0064】
接触角の測定結果を
図4に示す。なお、測定結果は、一元配置分散分析を行った後、Tukey法で検定した。
図4中、*はp<0.01を示す。
【0065】
図4より、すべての群で接触角が経時的に増加する傾向を示すことがわかった。コントロール群の前処理直後と1週間後との間、前処理直後と4週間後との間において、接触角の値に有意な差が認められた。また、すべての測定ポイントにおいて、コントロール群と比較して、アルカリイオン水処理群及びUV群は接触角の値が有意に低かった。アルカリイオン水処理群とUV群とを比較すると、前処理直後、1週間後及び4週間後のいずれにおいてもUV群の接触角の値が有意に低かった。
これらの結果より、アルカリイオン水で処理することで、チタンの表面エネルギーが大きくなり、疎水性の表面から親水性の表面に改質することができたことがわかる。今回、アルカリイオン水処理群における接触角が10°程度となり、超親水性(5°未満)にならなかったのは、使用したチタンディスクが鏡面研磨加工されたものであり、元々の表面エネルギーが非常に小さかったためと考えられる。
【0066】
(実施例3)タンパク質吸着試験
前処理直後及び4週間後のアルカリイオン水処理群、前処理直後及び4週間後のコントロール群、並びに前処理直後及び4週間後のUV群のそれぞれのチタンディスク表面に、ウシ血清フィブロネクチン1.0mg/mLを200μL滴下し、24時間後にプロテインアッセイキット(バイオ・ラッドプロテインアッセイキット、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)を用いてブラッドフォード法でタンパク質吸着量を測定した(n=5)。結果を
図5に示す。なお、測定結果は、一元配置分散分析を行った後、Tukey法で検定した。
図5中、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。
【0067】
図5より、前処理直後では、コントロール群と比較してUV群は有意に高い値を示したが、コントロール群とアルカリイオン水処理群との間に有意な差は認められなかった。4週間後では、コントロール群と比較してアルカリイオン水処理群及びUV群は有意に高い値を示した。
コントロール群の前処理後と4週間後との間に有意な差が認められたことから、エイジングによって4週間後には表面が疎水性に変化したことで、前処理直後と比較してタンパク質吸着量が低くなったと考えられる。さらに、前処理直後ではコントロール群とアルカリイオン水処理群との間に有意な差は認められなかったが、エイジングが進行した4週間後ではコントロール群のチタン表面が疎水性に変化し、アルカリイオン水処理群及びUV群のチタン表面が親水性になったことから、アルカリイオン水処理群及びUV群のほうが高いタンパク質吸着量を示したと考えられる。
【0068】
(実施例4)細胞接着試験
骨芽細胞様細胞株MC3T3E-1(理研細胞バンク)を培地α-MEM(ナカライテスク株式会社製、イーグル最小必須培地α改変型)、10%FBS(ウシ胎児血清)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社製)を用いて、37℃及び5%CO2下で培養した。なお、培養液は3日毎に交換した。
【0069】
24ウェルプレート内に設置した前処理直後及び4週間後のアルカリイオン水処理群、前処理直後及び4週間後のコントロール群、並びに前処理直後及び4週間後のUV群のチタンディスク上に、MC3T3E-1細胞を500μL播種(4.0×10
4細胞/ウェル)し、24時間インキュベートした。その後、ローダミン・ファロイジン及び4’,6-ジアミジノ-2-フェニリンドール(DAPI)で染色したものを、共焦点レーザー顕微鏡(LSM700、カール・ツァイス社製)で観察した。染色した細胞に対し、画像解析ソフト(ImageJ,NIH,Bethesda,ML)を用いて接触面積を定量した(n=5)。その結果を
図6に示す。なお、測定結果は、一元配置分散分析を行った後、Tukey法で検定した。
図6中、*はp<0.01を示す。
【0070】
図6より、前処理直後の細胞接着面積は、コントロール群及びアルカリイオン水処理群と比較してUV群は有意に大きな値を示した。4週間後では、コントロール群と比較してアルカリイオン水処理群及びUV群は有意に大きな値を示した。
エイジングによって疎水性になった表面では細胞接着が低下し、それに続く細胞応答にも影響を与え、骨芽細胞の増殖及び分化にも寄与することが知られている。上記結果より、コントロール群では炭素等の付着による表面エネルギーの減少、表面電位の変化等によってチタン表面に細胞が付着しにくくなったと考えられる。一方、アルカリイオン水処理群及びUV群では、炭素が除去されたことによる表面エネルギーの増大、表面電位の変化等によって、より多くの細胞が付着したと考えられる。
【0071】
(実施例5)細胞増殖試験
前処理直後のチタンディスク表面に前記細胞接触試験と同じ条件で細胞を播種し、24時間又は72時間インキュベートした後に細胞の増殖能を測定した、増殖能は、24ウェルプレートにセルタイター96(登録商標)(プロメガ株式会社製)を添加し、37℃で15分間インキュベートして比色呈色させ、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad Model 680、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)を用いて、波長490nmの吸光度を計測することで評価した(n=5)。その結果を
図7に示す。なお、測定結果は、一元配置分散分析を行った後、Tukey法で検定した。
図7中、*はp<0.05、**はp<0.01を示す。
【0072】
図7より、24時間ではコントロール群と比較して、アルカリイオン水処理群及びUV群の増殖能は有意に高い値を示した。72時間ではコントロール群及びアルカリイオン水処理群と比較して、UV群の増殖能は有意に高い値を示した。
この結果から、チタン表面の親水性は細胞の初期接着に寄与することから、親水性が付与されたアルカリイオン水処理群及びUV群は24時間において高い値を示し、より高い親水性を有するUV群が72時間において高い値を示したと考えられる。
【0073】
(実施例6)動物実験
ニュージーランドホワイトラビット6羽に対し、三種混合麻酔薬(酒石酸ブトルファノール、塩酸メデトミジン、及びミダゾラム)を大腿部に筋肉注射し、全身麻酔を行った。左右の大腿部をポビドンヨードで消毒した後、2%キシロカインで局所麻酔を行い#15メスで皮膚を切開し、筋層を剥離し、骨膜を切開して大腿骨を剖出した。その後、大腿骨を超音波骨切削器具(PIEZOSURGERY(登録商標))を用いて、長さ10.0mm、幅1.0mm、深さ10.0mmのグルーブを形成した(
図8A参照)。アルカリイオン水又は生理食塩水に3分間浸漬したチタンディスクを、グルーブ内に埋入した(
図8B参照)。創部は骨膜を5-0VICRYL縫合糸で、皮膚を5-0ナイロン糸で縫合した。埋入から4週間後に、パントバルビタールナトリウムを耳介静脈より過剰投与して安楽死させ、大腿骨を採取した。採取した大腿骨について、マイクロCTを撮影した。マイクロCT画像を
図9に示す。
図9において、A(上段)はコントロール群を示し、B(下段)はアルカリイオン水処理群を示す。また、1(左列)はX-Y面であり、2(中央列)はY-Z面であり、3(右列)はZ-X面である。
【0074】
その後、非脱灰研磨標本を作製し、ビラヌエバ・ボーン染色を行った。ビラヌエバ・ボーン染色画像を
図10に示す。なお、Aはコントロール群を示し、Bはアルカリイオン水処理群を示す。また、
図10中のスケールバーは、100μmである。
その後、ディスク中央から骨髄側までの5mmの範囲におけるBIC(骨-インプラント接触率)を測定した(n=5)。BICは、ImageJを用いて下式1より計算した。
【0075】
【0076】
BICにおけるチタンディスク表面に結合している骨の長さ、及びチタンディスク表面の長さは、
図11に示すBIC測定範囲の模式図に基づいて測定した。なお、
図11において、aはチタンディスク表面の長さ(点線)を示し、bはチタンディスク表面に結合した骨の長さ(矢印)を示し、cは新生骨を示す。BICの結果を
図12に示す。なお、測定結果は、t-検定を行った。
図12中、*はp<0.05を示す。
【0077】
図9より、コントロール群と比較して、アルカリイオン水処理群の骨髄側のチタンディスク周囲に活発な新生骨の形成が認められた。
図10より、コントロール群と比較して、アルカリイオン水処理群の骨髄側のチタンディスク周囲に赤紫色に濃染された類骨が多く見られた。
図12より、コントロール群と比較して、アルカリイオン水処理群のBICは有意に高い値を示した。
チタン表面の親水性はオッセオインテグレーションに影響を与える種々のタンパク質又はサイトカインの吸着又は細胞接着に関与し、BICを低下させることが知られている。このことから、表面が疎水性のコントロール群よりも親水性のアルカリイオン水処理群のほうが、BICが高くなったと考えられる。
【0078】
以上より、チタンディスクを、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水中に短時間浸漬処理することで、従来行われている紫外線照射とほぼ同等の表面改質効果が得られることがわかった。現在インプラントの表面処理には、特殊な器材を消毒室等に設置する必要があるが、本発明の表面処理方法を用いれば、省スペースで簡便かつ低コストにインプラントの表面改質を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0079】
1 電解槽
2 導水管
3 隔膜
4 陽極室
5 陰極室
6 陽極
7 陰極
8 酸性水排出管
9 アルカリ水導出管
10 冷却装置
11 混合槽
12 原料液貯槽
13 流入量調整装置
14 攪拌装置
15 断熱手段
16 出口管
17 pH測定手段
18 アルカリイオン水出口管
19 アルコール貯槽
20 アルコール混合槽
21 混合アルカリイオン水出口管
22 隔離室
100 陰極電子
101 アルカリイオン水製造装置
【要約】
本発明は、安価かつ簡便にチタン又はチタン合金の表面の性状を改質することができる表面処理方法を提供することを目的とする。本発明は、チタン又はチタン合金を、ケイ素及びリンを含有するミネラル塩を含む水溶液を電気分解して得られたアルカリイオン水に浸漬する、チタン又はチタン合金の表面処理方法に関する。