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特許7083587ポリマレイミド組成物、その製造方法及びそれを用いた硬化性組成物、並びに硬化物の製造方法
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  • 特許-ポリマレイミド組成物、その製造方法及びそれを用いた硬化性組成物、並びに硬化物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】ポリマレイミド組成物、その製造方法及びそれを用いた硬化性組成物、並びに硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 222/40 20060101AFI20220606BHJP
【FI】
C08F222/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020552503
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2019015718
(87)【国際公開番号】W WO2020079871
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018197994
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390034348
【氏名又は名称】ケイ・アイ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】袴田 祐基
(72)【発明者】
【氏名】金山 薫
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-269716(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0134480(US,A1)
【文献】特開平06-128225(JP,A)
【文献】特開平04-226526(JP,A)
【文献】特開平06-001806(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0049106(US,A1)
【文献】特開2015-193628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00 - 222/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化合物群から選択される2種以上の化合物を含み、アモルファス固体であることを特徴とするポリマレイミド組成物。
【化1】
【請求項2】
請求項記載のポリマレイミド組成物を含むことを特徴とする硬化性組成物。
【請求項3】
請求項記載の硬化性組成物を硬化させる工程を備えることを特徴とする硬化物の製造方法。
【請求項4】
2以上のアミノ基を備えたポリアミン化合物からなる群より選択される2種以上の化合物、及び無水マレイン酸を溶媒の存在下で同時に反応させる反応工程と、
前記反応工程を経た反応混合物から溶媒を留去して2種以上のポリマレイミド化合物の混合物からなるアモルファス固体を得る固形化工程と、を備えることを特徴とするポリマレイミド組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリアミン化合物が、下記一般式(1a)で表す化合物である請求項記載のポリマレイミド組成物の製造方法。
【化2】
(上記一般式(1a)中、各Rはそれぞれ独立に水素原子、又は分枝を有してもよい炭素数1~9のアルキル基であり、各Xはそれぞれ独立に単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子であり、各Yはそれぞれ独立に単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子であり、mは0~3の整数であり、nは0~3の整数であり、jは0~4の整数であり、kは0~4の整数であり、pは0~4の整数であり、qは0~4の整数である。)
【請求項6】
前記ポリアミン化合物からなる群より選択される2種以上の化合物が下記化合物群より選択される2種以上の化合物である請求項4又は5記載のポリマレイミド組成物の製造方法。
【化3】
【請求項7】
下記化合物群から選択される2種以上の化合物の混合物を溶融させて溶融物とし、次いでその溶融物を冷却することにより前記混合物を含むアモルファス固体とすることを特徴とするポリマレイミド組成物の製造方法。
【化4】
【請求項8】
下記化合物群から選択される2種以上の化合物の混合物を溶媒に溶解させて溶液とし、次いでその溶液から溶媒を留去することにより前記混合物を含むアモルファス固体とすることを特徴とするポリマレイミド組成物の製造方法。
【化5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス固体状を示すポリマレイミド組成物及びその製造方法、並びにそれを用いた硬化性組成物、及び硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マレイミド基を2つ以上備えたポリマレイミド化合物は、マレイミド基に含まれる二重結合のラジカル重合、イオン重合等の単独重合や、芳香族アミンの水素との付加反応、アリルフェノールとの共重合により耐熱性に優れた硬化物を与えることが知られている。特にポリマレイミド化合物と芳香族アミンやアリルフェノールとの反応で得られる硬化物は強靭性に優れているために宇宙・航空分野の炭素繊維複合材料を中心とした先端複合材料のマトリックス樹脂として用いられている。また、ポリマレイミド化合物は、電子分野で幅広く用いられているエポキシ樹脂の耐熱性向上剤としてエポキシ樹脂と併用され、プリント配線基板、絶縁粉体塗料、レジストインキなどの分野で実用化されている。ここで、ポリマレイミド化合物として代表的な化合物としては、マレイミド基を2つ備えたビスマレイミドが挙げられるが、本発明では、こうしたビスマレイミド化合物を初めとして、マレイミド基を複数備えた化合物のことをポリマレイミド化合物と呼ぶ。また、ポリアミン化合物という用語についても、本発明では、2つのアミノ基を有するジアミン化合物を初めとして、2以上のアミノ基を有する化合物として用いる。こうしたポリマレイミド化合物を含んだ硬化性組成物は、例えば特許文献1を初めとして各種のものが提案されている。
【0003】
ジアミノジフェニルメタンビスマレイミドに代表されるポリマレイミド化合物は、無水マレイン酸とアミノ基を2以上備えたポリアミン化合物との反応により合成される。このとき用いられるポリアミン化合物としては、特段の制約はなく、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン等様々なものを用いることができるので、各種の目的に応じて、様々な骨格を有するポリマレイミド化合物を原料として選択することができる。このような例として特許文献2には、低沸点有機溶媒に対する溶解性を高めて、調製された硬化性組成物からの溶剤の除去性を高めたビスマレイミド化合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-193628号公報
【文献】特開2018-12671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2でも指摘されるように、ポリマレイミド化合物は、低沸点溶媒に対する溶解性が乏しく、また、融点も自己反応を開始する目安となる170~180℃に近い150℃程度と高いので、含浸ワニスを調製し、それを含浸させて乾燥させたり、エポキシ樹脂、硬化剤、フィラー等と溶融混合して成形材料を作製したりするには難しい材料といえる。
【0006】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、溶媒に対する溶解性が良好で、より低い温度で溶融させることも可能なポリマレイミド組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、複数種のポリアミン化合物を無水マレイン酸で同時マレイミド化反応を行うか、複数種のポリマレイミド化合物を混合して溶解又は溶融してからアモルファス固体とすると、その固体が溶媒に対して良好な溶解性を示すだけでなく、90~100℃程度で溶融できることを見出した。このアモルファス固体であるポリマレイミド組成物は、単独で硬化させてもよいし、従来のポリマレイミドと同様に芳香族アミンやアリルフェノール、シアン酸エステル等の硬化剤と組み合わせて硬化させることもできる。また、エポキシ樹脂との相溶性も優れるために任意の量をエポキシ樹脂に溶解させて耐熱性の向上を付与することもできる。本発明は、以上の知見に基づいてなされものであり、以下のようなものを提供する。
【0008】
(1)本発明は、下記化合物群から選択される2種以上の化合物を含み、アモルファス固体であることを特徴とするポリマレイミド組成物である。
【化1】
【0010】
)本発明は、(1)項記載のポリマレイミド組成物を含むことを特徴とする硬化性組成物でもある。
【0011】
)本発明は、()項記載の硬化性組成物を硬化させる工程を備えることを特徴とする硬化物の製造方法でもある。
【0012】
)本発明は、2以上のアミノ基を備えたポリアミン化合物からなる群より選択される2種以上の化合物、及び無水マレイン酸を溶媒の存在下で同時に反応させる反応工程と、当該反応工程を経た反応混合物から溶媒を留去して2種以上のポリマレイミド化合物の混合物からなるアモルファス固体を得る固形化工程と、を備えることを特徴とするポリマレイミド組成物の製造方法でもある。
【0013】
)また本発明は、上記ポリアミン化合物が、下記一般式(1a)で表す化合物である()項記載のポリマレイミド組成物の製造方法である。
【化3】
(上記一般式(1a)中、各Rはそれぞれ独立に水素原子、又は分枝を有してもよい炭素数1~9のアルキル基であり、各Xはそれぞれ独立に単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子であり、各Yはそれぞれ独立に単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子であり、mは0~3の整数であり、nは0~3の整数であり、jは0~4の整数であり、kは0~4の整数であり、pは0~4の整数であり、qは0~4の整数である。)
【0014】
)また本発明は、上記ポリアミン化合物からなる群より選択される2種以上の化合物が下記化合物群より選択される2種以上の化合物である()項又は()項記載のポリマレイミド組成物の製造方法である。
【化4】
【0015】
)本発明は、下記化合物群から選択される2種以上の化合物の混合物を溶融させて溶融物とし、次いでその溶融物を冷却することにより上記混合物を含むアモルファス固体とすることを特徴とするポリマレイミド組成物の製造方法でもある。
【化5】
【0016】
)本発明は、下記化合物群から選択される2種以上の化合物の混合物を溶媒に溶解させて溶液とし、次いでその溶液から溶媒を留去することにより上記混合物を含むアモルファス固体とすることを特徴とするポリマレイミド組成物の製造方法でもある。
【化6】
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶媒に対する溶解性が良好で、より低い温度で溶融させることも可能なポリマレイミド組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施例1~6のポリマレイミド組成物についてのDSCチャートである。
図2図2は、本発明の実施例1及び2のポリマレイミド組成物、並びに比較例1~3のビスマレイミド化合物の結晶についてのDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のポリマレイミド組成物の一実施形態、硬化性組成物の一実施形態、硬化物の製造方法の一実施態様、ポリマレイミド組成物の製造方法の三実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
<ポリマレイミド組成物>
まずは、本発明のポリマレイミド組成物の一実施形態について説明する。本発明のポリマレイミド組成物は、下記一般式(1)で表す化合物群から選択される2種以上のポリマレイミド化合物を含み、アモルファス固体であることを特徴とする。マレイミド基を2つ備えたビスマレイミド化合物を初めとして、マレイミド基を複数備えたポリマレイミド化合物は結晶性が高く、結晶状態となった状態で化学品原料として市場で取引されるのが一般的である。こうして取引されるポリマレイミド化合物は、上記の通り、ポリアミン化合物等の硬化剤と反応することにより高い耐熱性を備えた硬化物となるので、硬化性組成物の原料として重要である。しかしながら、ポリマレイミド化合物の結晶は、高い融点と有機溶媒に対する溶解性の低さから、硬化性組成物として用いる際の成形性を確保するために溶融や溶解を行うのが難しいという問題を有する。
【0021】
本発明のポリマレイミド組成物は、2種以上のポリマレイミド化合物を含んだ混合物からなるアモルファス固体であり、アモルファス状態なので結晶状態のポリマレイミド化合物に比べて融点が低くなるとともに溶媒に対する溶解性が著しく向上する一方で、溶融温度と重合温度との差が大きいために硬化剤やフィラー等との溶融混練が容易となり、上記のような、硬化性組成物の調製に際してポリマレイミド化合物の結晶を用いた場合に生じる各種の問題を解消することができる。なお、本発明において、「ポリマレイミド組成物」という用語は、2種以上のポリマレイミド化合物の混合物であることを示すものであり、本発明のポリマレイミド組成物は、これに加えて、エポキシ樹脂やエチレン性不飽和結合を有する化合物等のような重合性化合物や、ポリアミン化合物やアリルフェノール化合物等といった硬化剤等といったポリマレイミド化合物以外の化合物を含んでもよい。
【0022】
本発明のポリマレイミド組成物は、上記のように下記一般式(1)で表す化合物群から選択される2種以上のポリマレイミド化合物を含み、より好ましくは、下記一般式(1)で表す化合物群から選択される2種の化合物を含む。これらの化合物を混合し、アモルファス固体である本発明のポリマレイミド組成物を調製する方法については後述する。
【0023】
【化7】
【0024】
上記一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は分枝を有してもよい炭素数1~9のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基等を挙げることができる。なお、本明細書において「それぞれ独立に」とは、対象となる置換基(この場合はR)が複数存在する場合、それぞれの置換基は示された群から任意に選択されるという意味であり、この場合、互いの置換基は同一であっても異なってもよい。なお、m、n、j、p、q及びkの値によっては、対象となる置換基が一つだけとなることもあるが、この場合、「それぞれ独立に」の文言は無視され、対象となる置換基に付された「各」の語も無視される。
【0025】
上記一般式(1)中、各Xは、それぞれ独立に、単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子である。このようなアルキレン基としては、メチレン基、1,1-エチレン基、1,2-エチレン基、1,1-プロピレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、2,2-プロピレン基、1,1-ブチレン基、1,2-ブチレン基、1,3-ブチレン基、1,4-ブチレン基、2,2-ブチレン基、2,3-ブチレン基、1,1-ペンチレン基、1,2-ペンチレン基、1,3-ペンチレン基、1,4-ペンチレン基、1,5-ペンチレン基、1,1-ヘキシレン基、1,2-ヘキシレン基、1,3-ヘキシレン基、1,4-ヘキシレン基、1,5-ヘキシレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-へプチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、1,10-デシレン基、1,2-シクロへキシレン基、1,3-シクロへキシレン基、1,4-シクロへキシレン基、1,2-シクロヘキサンジメチレン基、1,3-シクロヘキサンジメチレン基、1,4-シクロヘキサンジメチレン基等を挙げることができる。なお、Xに含まれ得る「環構造」には脂肪環や芳香環が含まれる。Xが芳香環を含む場合、Xは一般的にアルキレン基と呼ばれるものにならないかもしれないが、この場合であっても本発明ではXをアルキレン基として扱う。すなわち、2価の置換基であるXは、他の構造と結合する箇所においてアルキレン基(メチレン基)を備えていればよい。このことは後述するYについても同様である。
【0026】
上記一般式(1)中、各Yは、それぞれ独立に、単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子である。このようなアルキレン基としては、上記Xで挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0027】
上記一般式(1)中、mは0~3の整数であり、nは0~3の整数であり、jは0~4の整数であり、kは0~4の整数であり、pは0~4の整数であり、qは0~4の整数である。
【0028】
上記一般式(1)で表すポリマレイミド化合物群として、より具体的には下記一般式(2)で表す化合物群を好ましく挙げることができる。
【0029】
【化8】
【0030】
上記一般式(2)において、R、X、Y、m及びnは、上記一般式(1)におけるものと同様である。上記一般式(2)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は分枝を有してもよい炭素数1~9のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0031】
上記一般式(1)で表すポリマレイミド化合物群から選択される2種以上のポリマレイミド化合物として、さらに具体的には、下記化合物群より選択される2種以上のポリマレイミド化合物の混合物を挙げることができる。
【0032】
【化9】
【0033】
これらのポリマレイミド化合物はいずれも市販されており、化学式の下に付した記号は、ケイ・アイ化成株式会社から市販されている当該化合物の製品番号である。これらのポリマレイミド化合物を混合して本発明のポリマレイミド組成物とする場合、その混合比率としては、BMI:BMI-70:BMI-80:BMI-50P=1:1:1:1程度を例示できるが、特に限定されない。また、BMI、BMI-70、BMI-80、BMI-50Pの任意のポリマレイミド化合物を2種若しくは3種を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0034】
本発明のポリマレイミド組成物は、アモルファス固体であることから、低い融点と高い溶解性とを併せ持つ。このため、極性溶媒を用いることなく溶融成型可能となり、CFRPやプリント配線基板等の用途で残存溶媒によるボイドの発生を抑制でき、溶剤回収の必要も無くなり、信頼性の向上とコストダウンを図ることが可能になる。また、成型前に硬化剤、充填剤、触媒、各種副資材等を溶融混練する必要のある半導体封止分野、絶縁粉体封止分野等でも低温で溶融混練ができるため、品質の安定した成形用コンパウンドを調製することができる。なお、本発明のポリマレイミド組成物に硬化剤やエポキシ樹脂等を添加してアモルファス固体としてもよく、そのようなアモルファス固体もまた本発明のポリマレイミド組成物の一形態である。硬化剤やエポキシ樹脂等については、本発明の硬化性組成物の項にて説明する。なお、本発明のポリマレイミド組成物がアモルファス固体であることの確認は、当該固体をDSC(示差走査熱量計)やXRD(X線回折)による分析で行うことができる。当該固体をDSCにより分析すれば、ガラス転移に基づく、60~80℃付近における小吸熱ピークとともにDSCベースシフトが観察され、アモルファス状態であることが確認できる。また、当該固体をXRDにより分析すれば、ブロードなパターンのチャートとなり、アモルファス状態であることが確認できる。
【0035】
<硬化性組成物>
次に、本発明の硬化性組成物の一実施形態について説明する。本発明の硬化性組成物は、上記ポリマレイミド組成物を含み、加熱によりポリマレイミド化合物が重合して硬化する。この硬化性組成物は、上記ポリマレイミド組成物に加えて硬化剤やエポキシ樹脂等の成分を含んでもよい。この場合、本発明の硬化性組成物は、上記本発明の固体状態のポリマレイミド組成物に固体状態の硬化剤等の成分を加えた固体混合物であってもよいし、本発明のポリマレイミド組成物に硬化剤の成分を加えて一旦液状化してから再度固体状態にしたものであってもよいし、液状の混合物のままであってもよい。
【0036】
ポリマレイミド組成物は、上記本発明のポリマレイミド組成物の項で既に説明した通りであるので、詳細については省略する。ポリマレイミド化合物は、単独でラジカル重合、イオン重合して耐熱性の高い硬化物となるが、ポリマレイミド化合物に公知の硬化剤を組み合わせて用いることができる。このような硬化剤として、具体的には、ポリマレイミド化合物と付加反応することのできる活性水素を有するアミン系化合物や、マレイミドの二重結合と共重合可能な不飽和化合物であるアリルフェノール、シアン酸エステル、アクリレート等が挙げられる。また、硬化反応を促進するために、硬化触媒を用いることも可能である。さらに、ポリマレイミド組成物とは直接反応はしないがそれぞれが独自に網目構造を形成し、相互網目貫通構造(IPN構造)となる他の硬化性樹脂を併用し強靭な構造を形成させることを目的として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂等を組み合わせて用いてもよい。ポリマレイミド化合物に加えて、硬化剤を用いて硬化性組成物を構成する場合、マレイミド基と当量の硬化剤を配合するのが一般的であるが、硬化剤の配合量が当量よりも少ない場合は耐熱性が向上するが、得られる硬化物は脆弱となるので、硬化剤の配合量は、マレイミド基に対して1.5当量から0.5当量が好ましく、1.2当量から0.7当量がより好ましい。また、硬化性組成物の硬化性を向上する目的で触媒を用いることも可能である。
【0037】
硬化剤として用いることができるアミン系化合物としては、1級アミノ基(-NH)を備える化合物が挙げられる。アミン系化合物としては、それ自体が架橋剤となることができるという観点から、2個以上の1級アミノ基を備えることが好ましい。アミン類としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、3-メチル-1,4-ジアミノベンゼン、2,5-ジメチル-1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、ベンジジン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3-ジメチル5,5-ジエチル-4,4-ジフェニルメタンジアミン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらのアミン類は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。アミン系化合物の配合量としては、マレイミド基1当量に対して1.5~0.5活性水素当量程度が好ましく例示され、1.2~0.7活性水素当量程度がより好ましく例示される。
【0038】
アリルフェノールとしては、o,o’-ジアリルビスフェノールA、o,o’-ジアリルビスフェノールF、o,o’-ジアリルビスフェノールS、2,2’-ジアリル-4,4’-ビフェノール、3,3’-ジアリル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジアリル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、o,o’-ジメタクリルビスフェノールA、o,o’-ジメタクリルビスフェノールF等が挙げられる。これらのアリルフェノールは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。硬化性組成物中におけるアリルフェノール類の配合量としては、マレイミド基1当量に対しアリル基1.5~0.5当量程度が好ましく例示され、アリル基1.2~0.7当量程度がより好ましく例示される。また、これらアリルフェノールの二重結合を異性化したプロペニルフェノールもまた、アリルフェノールと同様に用いることができる。アリルフェノールに代えて、又はアリルフェノールとともにプロペニルフェノールを用いる場合、その全体の用量は、上記アリルフェノールについての場合と同様である。
【0039】
マレイミド化合物と硬化剤との反応を促進するための触媒として、イミダゾール類、3級アミン類、3級アミン類の塩、リン系化合物、パーオキサイド等を添加することもできる。これらの添加量としては、硬化性組成物100質量部に対して0.01~10質量部程度が好ましく例示され、0.1~5質量部程度がより好ましく例示される。
【0040】
イミダゾール類は、イミダゾール骨格を備える化合物である。イミダゾール類としては、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-ビニルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール、1-メチル-2-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4―メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、TBZ(2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール)1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド等が挙げられる。
【0041】
3級アミン類としては、1、8ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン‐7(DBU)、1、5ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5(DBN)等が挙げられる。3級アミン類の塩としては、DBU-フェノール塩、DBU-オクチル酸塩、DBU-p-トルエンスルホン酸塩、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-30)等が挙げられる。リン系化合物としては、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルフォスフォニウム・テトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0042】
パーオキサイドは、加熱により分解してラジカルを発生させる。このラジカルが、硬化性組成物に含まれるポリマレイミド化合物やエチレン性不飽和結合を備えた化合物を重合させる。パーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジミリスティルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクテート、t-ヘキシルパーオキシネオデカネート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオヘキサネート、アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアリルカーボネート等が挙げられる。
【0043】
本発明の硬化性組成物は、上記本発明のポリマレイミド組成物を含み、低い融点と高い溶解性とを併せ持つ。このため、成形時に容易に液状化することができ、好ましく用いられる。これらの用途の一例としては、耐熱性樹脂の製造、電子部品の封止材、含浸ワニス、積層板等が挙げられる。
【0044】
<硬化物の製造方法>
次に、本発明の硬化物の製造方法の一実施態様について説明する。本発明の硬化物の製造方法は、上記本発明の硬化性組成物を硬化させる工程を備えることを特徴とする。
【0045】
本発明の硬化物の製造方法を実施するにあたり、上記本発明の硬化性組成物を溶媒に溶解、又は100~150℃程度に加熱して溶融させて液状化する。次いで、液状化した硬化性組成物を所望の形状に成型し、又は炭素繊維やガラス繊維等の基材に含浸させて所望の形状に成型する。
【0046】
その後、所望の形状に成型した硬化性組成物に対して加熱を行い、硬化性組成物を硬化させる。加熱温度としては、180~250℃程度が挙げられる。この作業が、本発明における「硬化性組成物を硬化させる」工程に該当する。
【0047】
本発明の硬化物の製造方法で得られる硬化物は、高い耐熱性を持つと同時に、誘電正接が低いという点で電子材料としても優れた特性を備える。
【0048】
<ポリマレイミド組成物の製造方法の第一実施態様>
次に、本発明のポリマレイミド組成物の製造方法の第一実施態様について説明する。本実施態様では、溶媒中で2種以上のポリマレイミド化合物を合成し、その後、その溶媒を留去してアモルファス固体であるポリマレイミド組成物を得る。
【0049】
すなわち本実施態様のポリマレイミド組成物の製造方法は、2以上のアミノ基を備えたポリアミン化合物からなる群より選択される2種以上の化合物、及び無水マレイン酸を溶媒の存在下で同時に反応させる反応工程と、当該反応工程を経た反応混合物から溶媒を留去して2種以上のポリマレイミド化合物の混合物からなるアモルファス固体を得る固形化工程と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0050】
[反応工程]
まずは、反応工程について説明する。これは、2以上のアミノ基を備えたポリアミン化合物からなる群より選択される2種以上の化合物、及び無水マレイン酸を溶媒の存在下で同時に反応させる工程である。
【0051】
本工程では、2種以上のポリアミン化合物を原料の一つとして用いる。つまり、構造の異なる2種以上のポリアミン化合物の混合物が用いられる。このポリアミン化合物に含まれるアミノ基が、もう一つの原料である無水マレイン酸と反応することでマレイミド基に変換される。したがって、ポリアミン化合物の骨格部分が将来のポリマレイミド化合物の骨格部分となるので、所望するポリマレイミド化合物の構造に応じてポリアミン化合物が選択される。
【0052】
ポリアミン化合物としては、下記一般式(1a)で表す化合物群から選択される2種以上の化合物が挙げられる。下記一般式(1a)は、上記一般式(1)のポリマレイミド化合物のマレイミド基をアミノ基に変更したものであり、下記一般式(1a)で表す化合物に無水マレイン酸を作用させることにより上記一般式(1)で表すポリマレイミド化合物が得られることになる。
【0053】
【化10】
【0054】
上記一般式(1a)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は分枝を有してもよい炭素数1~9のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0055】
上記一般式(1a)中、各Xは、それぞれ独立に、単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子である。このようなアルキレン基としては、メチレン基、1,1-エチレン基、1,2-エチレン基、1,1-プロピレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、2,2-プロピレン基、1,1-ブチレン基、1,2-ブチレン基、1,3-ブチレン基、1,4-ブチレン基、2,2-ブチレン基、2,3-ブチレン基、1,1-ペンチレン基、1,2-ペンチレン基、1,3-ペンチレン基、1,4-ペンチレン基、1,5-ペンチレン基、1,1-ヘキシレン基、1,2-ヘキシレン基、1,3-ヘキシレン基、1,4-ヘキシレン基、1,5-ヘキシレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-へプチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、1,10-デシレン基、1,2-シクロへキシレン基、1,3-シクロへキシレン基、1,4-シクロへキシレン基、1,2-シクロヘキサンジメチレン基、1,3-シクロヘキサンジメチレン基、1,4-シクロヘキサンジメチレン基等を挙げることができる。なお、Xに含まれ得る「環構造」には脂肪環や芳香環が含まれる。Xが芳香環を含む場合、Xは一般的にアルキレン基と呼ばれるものにならないかもしれないが、この場合であっても本発明ではXをアルキレン基として扱う。すなわち、2価の置換基であるXは、他の構造と結合する箇所においてアルキレン基(メチレン基)を備えていればよい。このことは後述するYについても同様である。
【0056】
上記一般式(1a)中、各Yは、それぞれ独立に、単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子である。このようなアルキレン基としては、上記Xで挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0057】
上記一般式(1a)中、mは0~3の整数であり、nは0~3の整数であり、jは0~4の整数であり、kは0~4の整数であり、pは0~4の整数であり、qは0~4の整数である。
【0058】
上記一般式(1a)で表すポリアミン化合物として、より具体的には下記一般式(2a)で表す化合物を好ましく挙げることができる。
【0059】
【化11】
【0060】
上記一般式(2a)において、R、X、Y、m及びnは、上記一般式(1a)におけるものと同様である。上記一般式(2a)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は分枝を有してもよい炭素数1~9のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0061】
上記一般式(1a)で表すポリアミン化合物群から選択される2種以上のポリアミン化合物として、さらに具体的には、下記化合物群より選択される2種以上のポリアミン化合物の混合物を挙げることができる。
【0062】
【化12】
【0063】
本実施態様における無水マレイン酸の使用量としては、特に限定されないが、上記ポリアミン化合物に含まれるアミノ基に対して、1~5当量程度が好ましく挙げられ、1~2当量程度がより好ましく挙げられ、1~1.5当量がさらに好ましく挙げられる。
【0064】
本実施態様における溶媒としては、反応を阻害せず、水に不溶かつ水と共沸可能な溶媒が好ましく用いられる。本反応は、ポリアミン化合物のアミノ基に無水マレイン酸が反応してマレアミド化合物となり、次いでこれが脱水縮合してイミド化することでマレイミド化合物を生成させるので、反応系内に生じる縮合水を系外に除去するために、溶媒は水と共沸するものが好ましく用いられる。このような溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;クロロベンゼン、ジクロロメタン等の含ハロゲン溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-デカン等の脂肪族炭化水素溶媒が好ましく挙げられ、反応系が均一反応系となりやすい点から、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒がより好ましく挙げられる。
【0065】
なお、上記の溶媒に加え、本反応を阻害せず、水に可溶かつ水と共沸しない溶媒を必要に応じて添加しても構わない。このような溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0066】
また、上記ポリアミン化合物、無水マレイン酸及び溶媒に加えて、反応系内に酸触媒を加えてもよい。このような酸触媒としては、メタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、並びにp-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびキシレンスルホン酸等の芳香族スルホン酸を包含するスルホン酸;硫酸、発煙硫酸、リン酸等の鉱酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;三フッ化ホウ素-テトラヒドロフラン(THF)錯体、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のルイス酸;モンモリロナイトK-10、硫酸化ジルコニア等の固体酸等を挙げることができ、入手性や取り扱いの容易さ等の観点からは、これらの中でも、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸(有機のスルホン酸)、硫酸等がより好ましく挙げられる。
【0067】
酸触媒の使用量としては、特に限定されないが、上記ポリアミン化合物に含まれるアミノ基に対して、0.01~1当量程度が好ましく挙げられ、0.1~0.9当量程度がより好ましく挙げられ、0.2~0.8当量程度がさらに好ましく挙げられる。
【0068】
これらの化合物を反応させてポリマレイミド化合物とするには、無水マレイン酸及び溶媒を反応容器に加えて、反応溶液を80~100℃程度に加熱しながら、溶媒に溶解させたポリアミン化合物、及び必要に応じて酸触媒を反応容器に滴下しながら添加する。その後、共沸する水を反応系外に除去しながら反応混合物を加熱還流させればよい。
【0069】
反応終了後、水洗を繰り返して酸触媒、水に可溶な溶媒、及び未反応の無水マレイン酸を除去する。こうして得られた反応混合物は、固形化工程に付される。
【0070】
[固形化工程]
固形化工程は、上記反応工程を経た反応混合物から溶媒を留去して2以上のポリマレイミド化合物の混合物からなるアモルファス固体を得る工程である。
【0071】
溶媒を留去する手段としては、公知のものを特に制限無く挙げることができる。このような手段の一例としては、減圧下で反応混合物を加熱し、溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。この工程において、反応混合物に含まれる2種以上のポリマレイミド化合物は、2種以上存在するポリマレイミド化合物が互いに不純物となり、また、場合によってはポリマレイミド化合物の分子内又は分子間に溶媒分子が取り込まれることで、結晶化せずにアモルファス状態で固体となる。このようにして得られたアモルファス固体は、本発明のポリマレイミド組成物に相当する。
【0072】
<ポリマレイミド組成物の製造方法の第二実施態様>
次に、本発明のポリマレイミド組成物の製造方法の第二実施態様について説明する。本実施態様では、下記一般式(1)で表す化合物群から選択される2種以上の化合物の混合物を溶融させて溶融物とし、次いでその溶融物を冷却することにより上記混合物を含むアモルファス固体であるポリマレイミド組成物を得る。
【0073】
【化13】
(上記一般式(1)中、各Rはそれぞれ独立に水素原子、又は分枝を有してもよい炭素数1~9のアルキル基であり、各Xはそれぞれ独立に単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子であり、各Yはそれぞれ独立に単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子であり、mは0~3の整数であり、nは0~3の整数であり、jは0~4の整数であり、kは0~4の整数であり、pは0~4の整数であり、qは0~4の整数である。)
【0074】
上記一般式(1)で表す化合物群については、上記本発明のポリマレイミド組成物で述べたものと同じなので、ここでの説明を省略する。
【0075】
2種以上の上記一般式(1)で表す化合物群を溶融させるに際しては、まず、1種のみの化合物をその化合物の融点付近で溶融させ、次いでこれを撹拌しながら残りの化合物を順次加えてこれも溶融させればよい。その後、得られた溶融混合物を急冷するとアモルファス固体が得られる。このようにして得られたアモルファス固体は、本発明のポリマレイミド組成物に相当する。
【0076】
<ポリマレイミド組成物の製造方法の第三実施態様>
次に、本発明のポリマレイミド組成物の製造方法の第三実施態様について説明する。本実施態様では、下記一般式(1)で表す化合物群から選択される2種以上の化合物の混合物を溶媒に溶解させて溶液とし、次いでその溶液から溶媒を留去することにより上記混合物を含むアモルファス固体であるポリマレイミド組成物を得る。
【0077】
【化14】
(上記一般式(1)中、各Rはそれぞれ独立に水素原子、又は分枝を有してもよい炭素数1~9のアルキル基であり、各Xはそれぞれ独立に単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子であり、各Yはそれぞれ独立に単結合、途中に分枝又は環構造を有してもよい炭素数1~15のアルキレン基、スルホニル基(-SO-)、硫黄原子、又は酸素原子であり、mは0~3の整数であり、nは0~3の整数であり、jは0~4の整数であり、kは0~4の整数であり、pは0~4の整数であり、qは0~4の整数である。)
【0078】
上記一般式(1)で表す化合物群については、上記本発明のポリマレイミド組成物で述べたものと同じなので、ここでの説明を省略する。
【0079】
2種以上の上記一般式(1)で表す化合物群を溶解させるのに用いる溶媒としては、当該化合物群を溶解させることにできるものであれば特に限定されない。このような溶媒の一例としては、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒が挙げられる。
【0080】
2種以上の上記一般式(1)で表す化合物群を溶媒に溶解させた後、溶媒を留去する。溶媒を留去する手段としては、公知のものを特に制限無く挙げることができる。このような手段の一例としては、減圧下で溶液を加熱し、溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。この工程において、溶液に含まれる2種以上のポリマレイミド化合物は、2種以上存在するポリマレイミド化合物が互いに不純物となり、また、場合によっては分子内又は分子間に溶媒分子が取り込まれることで、結晶化せずにアモルファス状態で固体となる。このようにして得られたアモルファス固体は、本発明のポリマレイミド組成物に相当する。
【実施例
【0081】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
撹拌機、冷却コンデンサー、温度計、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた500mLのガラス製四つ口フラスコに、無水マレイン酸50.0g及びクロロベンゼン250.0gを仕込んだ。次に、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(富士フイルム和光純薬株式会社製)14.7g、メチレンビス(2-エチル-6-メチルアニリン)(富士フイルム和光純薬株式会社製、以下同様)17.0g、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(日本純良薬品株式会社製、以下同様)18.9g及びN-メチル-2-ピロリドン5.2gをクロロベンゼン120.0gに溶解させた溶液を、反応系内の温度を85~95℃に保ちながら反応系内へ2時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で2時間反応を行い、p-トルエンスルホン酸2.4gを反応系内へ加えて、還流条件で共沸してくる縮合水とクロロベンゼンとを冷却及び分液した後、有機層であるクロロベンゼンだけを系内に戻して脱水を行いながら2時間反応させた。反応終了後、水洗を繰り返してp-トルエンスルホン酸、N-メチル-2-ピロリドン及び過剰の無水マレイン酸を除去した。次いで、反応溶液を濃縮することでアモルファス固体のビスマレイミド組成物77.5gを得た。このポリマレイミド組成物には、3種のビスマレイミド化合物(上記BMI、BMI-70及びBMI-80)が含まれることになる。
【0083】
[実施例2]
撹拌機、冷却コンデンサー、温度計、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた500mLのガラス製四つ口フラスコに、無水マレイン酸50.0g及びトルエン200.0gを仕込んだ。次に、メチレンビス(2-エチル-6-メチルアニリン)29.7g、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン33.4g及びN-メチル-2-ピロリドン5.0gをトルエン100.0gに溶解させた溶液を、反応系内の温度を85~95℃に保ちながら反応系内へ2時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で2時間反応を行い、p-トルエンスルホン酸2.4gを反応系内へ加えて、還流条件で共沸してくる縮合水とクロロベンゼンとを冷却及び分液した後、有機層であるトルエンだけを系内に戻して脱水を行いながら2時間反応させた。反応終了後、水洗を繰り返してp-トルエンスルホン酸、N-メチル-2-ピロリドン及び過剰の無水マレイン酸を除去した。次いで、反応溶液を濃縮することでアモルファス固体のビスマレイミド組成物91.1gを得た。このポリマレイミド組成物には、2種のビスマレイミド化合物(上記BMI-70及びBMI-80)が含まれることになる。
【0084】
[実施例3]
撹拌機、冷却コンデンサー、温度計、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた500mLのガラス製セパラブルフラスコに、上記BMI-80(ケイ・アイ化成株式会社製、以下同様)を50.0g投入し、180℃で加熱した。投入したBMI-80が溶融したことを確認し、上記BMI-70(ケイ・アイ化成株式会社製、以下同様)50.0gを徐々に加え、混合溶融させた。次に、上記BMI(ケイ・アイ化成株式会社製、以下同様)50.0gを徐々に加え、混合溶融させた。溶融液を水浴中のステンレス製バットにあけ、急冷した。50℃まで冷却後、バットから固化物を取り外し、アモルファス固体のポリマレイミド組成物140.3gを得た。
【0085】
[実施例4]
撹拌機、冷却コンデンサー、温度計、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた500mLのガラス製セパラブルフラスコに、上記BMI-80を75.0g投入し、180℃で加熱した。投入したBMI-80が溶融したことを確認し、上記BMI 75.0gを徐々に加え、混合溶融させた。溶融液を水浴中のステンレス製バットにあけ、急冷した。50℃まで冷却後、バットから固化物を取り外し、アモルファス固体のポリマレイミド組成物143.0gを得た。
【0086】
[実施例5]
撹拌機、冷却コンデンサー、温度計、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた500mLのガラス製セパラブルフラスコに、上記BMI-80を75.0g投入し、180℃で加熱した。投入したBMI-80が溶融したことを確認し、上記BMI-70 75.0gを徐々に加え、混合溶融させた。溶融液を水浴中のステンレス製バットにあけ、急冷した。50℃まで冷却後、バットから固化物を取り外し、アモルファス固体のポリマレイミド組成物141.4gを得た。
【0087】
[実施例6]
撹拌機、冷却コンデンサー、温度計、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた500mLのガラス製セパラブルフラスコに、上記BMI-80を50.0g投入し、180℃で加熱した。上記BMI-70 50.0gを徐々に加え、混合溶融させた。次に、上記BMI-50P 50.0gを徐々に加え、混合溶融させた。溶融液を水浴中のステンレス製バットにあけ、急冷した。50℃まで冷却後、バットから固化物を取り外し、アモルファス固体のポリマレイミド組成物139.4gを得た。
【0088】
[実施例7]
撹拌機、冷却コンデンサー、温度計、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた500mLのガラス製セパラブルフラスコに、上記BMI-70を75.0g投入し、180℃で加熱した。投入したBMI-70が溶融したことを確認し、上記BMI-50P 75.0gを徐々に加え、混合溶融させた。溶融液を水浴中のステンレス製バットにあけ、急冷した。50℃まで冷却後、バットから固化物を取り外し、アモルファス固体のポリマレイミド組成物140.5gを得た。
【0089】
[実施例8]
撹拌機、冷却コンデンサー、温度計、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた500mLのガラス製セパラブルフラスコに、上記BMI-80を75.0g投入し、180℃で加熱した。投入したBMI-80が溶融したことを確認し、上記BMI-50P 75.0gを徐々に加え、混合溶融させた。溶融液を水浴中のステンレス製バットにあけ、急冷した。50℃まで冷却後、バットから固化物を取り外し、アモルファス固体のポリマレイミド組成物139.8gを得た。
【0090】
[DSC分析]
実施例1~8で得たポリマレイミド組成物、BMIの結晶(比較例1)、BMI-70の結晶(比較例2)、及びBMI-80の結晶(比較例3)のそれぞれについて、DSC(示差走査熱量計)による分析を行った。その結果を図1及び図2に示す。図1は、本発明の実施例1~6のポリマレイミド組成物についてのDSCチャートである。図2は、本発明の実施例1及び2のポリマレイミド組成物、並びに比較例1~3のビスマレイミド化合物の結晶についてのDSCチャートである。
【0091】
図1及び図2に示すように、実施例1~8のポリマレイミド組成物では、60~80℃付近にて小吸熱ピークとともにDSCベースシフトが観察された。その結果、実施例1~8のポリマレイミド組成物は、この温度帯でガラス転移を示し、アモルファス固体であることが確認された。これに対して、図2に示すように、比較例1~3のビスマレイミド結晶では、160℃付近に融点を示す大吸熱ピークが観察された。
【0092】
[融点測定]
実施例1~8で得たポリマレイミド組成物、BMIの結晶(比較例1)、BMI-70の結晶(比較例2)、及びBMI-80の結晶(比較例3)のそれぞれについて、融点測定用毛細管内に少量の固体を入れ、融点測定機により融点(又は溶融点)を測定した。融点の測定に際しては、融け始めの温度と融け終わりの温度を記録し、その範囲を融点として評価した。その結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1より明らかなように、本発明のポリマレイミド組成物は、いずれもそれに含まれる単独成分であるビスマレイミド化合物の結晶(比較例1~3)に比べて溶融点が低いことが理解される。また、本発明のポリマレイミド組成物は、いずれもそれに含まれる単独成分であるビス(又はポリ)マレイミド化合物の結晶に比べて、低沸点の溶媒(メチルエチルケトン、トルエン等)に対する溶解性が高かった。以上のことから、本発明のポリマレイミド組成物が低融点・高溶解性という硬化性組成物の調製に求められる特性を備えることが確認された。
図1
図2