(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】電動車両および電動車両の制動方法
(51)【国際特許分類】
A61H 3/04 20060101AFI20220606BHJP
【FI】
A61H3/04
(21)【出願番号】P 2016200320
(22)【出願日】2016-10-11
【審査請求日】2019-09-11
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【氏名又は名称】村田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】津田 真吾
【審判官】井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-223218(JP,A)
【文献】特開2016-137135(JP,A)
【文献】特開2004-113375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/04
B62B 3/00
A61G 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪又は無限軌道を備える電動車両であって、
前記車輪又は前記無限軌道を制動する制動部と、
前記電動車両の加速度の変化
量に基づいて、使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いているか否かを判断して前記制動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いていると判断した場合、前記制動部を制御して前記車輪又は前記無限軌道を制動し、前記電動車両が動かないようにし、
前記制御部は、前記加速度の変化量が所定の閾値よりも小さいときを前記使用者が前記電動車両を操作していない、と判断
し、
前記加速度の変化量は、前記車輪又は前記無限軌道の回転加速度の単位時間当たりの高周波成分の値であり、当該高周波成分は、前記回転加速度の実測値と低周波成分との差分の二乗平均又は絶対値として求められることを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記制御部は、前記加速度が所定の上限値を上回った場合、前記加速度がこの上限値に等しいとみなすことを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
車輪又は無限軌道を備える電動車両であって、
前記車輪又は前記無限軌道を制動する制動部と、
前記電動車両の加速度の変化に基づいて、使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いているか否かを判断して前記制動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いていると判断した場合、前記制動部を制御して前記車輪又は前記無限軌道を制動し、前記電動車両が動かないようにし、
前記制御部は、前記加速度が所定の正の閾値よりも小さい
状態が所定時間よりも長い時間継続したとき、又は前記加速度が所定の負の閾値よりも大きい
状態が所定時間よりも長い時間継続したときのうち、少なくともいずれか一方のときを前記使用者が前記電動車両を操作していない、と判断することを特徴とする電動車両。
【請求項4】
車輪又は無限軌道を備える電動車両であって、
前記車輪又は前記無限軌道を制動する制動部と、
前記電動車両の加速度の変化
量に基づいて、使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いているか否かを判断して前記制動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いていると判断した場合、前記制動部を制御して前記車輪又は前記無限軌道を制動し、前記電動車両が動かないようにし、
前記制御部は、前記車輪又は前記無限軌道の制動を開始した後、前記電動車両の前記加速度がゼロ又は負の値となっている間、前記車輪又は前記無限軌道の制動を継続
し、
前記加速度の変化量は、前記車輪又は前記無限軌道の回転加速度の単位時間当たりの高周波成分の値であり、当該高周波成分は、前記回転加速度の実測値と低周波成分との差分の二乗平均又は絶対値として求められることを特徴とする電動車両。
【請求項5】
前記車輪又は前記無限軌道の回転速度を検知する速度検知センサを更に備え、前記制御部は、前記速度検知センサからの信号に基づいて、前記電動車両の加速度を算出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動車両。
【請求項6】
前記電動車両の傾きを検知する傾き検知センサを更に備え、
前記制御部は、前記傾き検知センサによって前記電動車両が上りの傾斜面に位置すると判断され、かつ前記車輪又は前記無限軌道が後方に回転している場合、前記使用者が前記電動車両を操作していないと判断することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動車両。
【請求項7】
前記電動車両の傾きを検知する傾き検知センサを更に備え、
前記車輪又は前記無限軌道は、左右一対設けられ、
前記制御部は、前記傾き検知センサによって前記電動車両が左右に傾斜した傾斜面に位置していると判断され、かつ前記傾斜面の上方及び下方のうち一方に位置する前記車輪又は前記無限軌道が静止又は前方に回転し、前記傾斜面の上方及び下方のうち他方に位置する前記車輪又は前記無限軌道が静止又は後方に回転している場合、前記使用者が前記電動車両を操作していないと判断することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電動車両。
【請求項8】
車輪又は無限軌道を備える電動車両であって、
前記車輪又は前記無限軌道を制動する制動部と、
前記電動車両の傾きを検知する傾き検知センサと、
前記傾き検知センサによって前記電動車両が左右に傾斜した傾斜面に位置していると判断され、かつ前記傾斜面の上方及び下方のうち一方に位置する前記車輪又は前記無限軌道が静止又は前方に回転し、前記傾斜面の上方及び下方のうち他方に位置する前記車輪又は前記無限軌道が静止又は後方に回転している場合、使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いていると判断して前記制動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いていると判断した場合、前記制動部を制御して前記車輪又は前記無限軌道を制動し、前記電動車両が動かないようにすることを特徴とする電動車両。
【請求項9】
車輪又は無限軌道を備える電動車両の制動方法であって、前記電動車両の加速度の変化
量に基づいて、使用者が前記電動車両を操作しているか否かを判断して前記車輪又は無限軌道を制動し、
前記使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いていると判断した場合、前記車輪又は前記無限軌道を制動し、前記電動車両が動かないようにし、
前記加速度の変化量が所定の閾値よりも小さいときを前記使用者が前記電動車両を操作していない、と判断
し、
前記加速度の変化量は、前記車輪又は前記無限軌道の回転加速度の単位時間当たりの高周波成分の値であり、当該高周波成分は、前記回転加速度の実測値と低周波成分との差分の二乗平均又は絶対値として求められることを特徴とする、電動車両の制動方法。
【請求項10】
左右一対の車輪又は無限軌道を備える電動車両の制動方法であって、前記電動車両が左右に傾斜した傾斜面に位置し、かつ前記傾斜面の上方及び下方のうち一方に位置する前記車輪又は無限軌道が静止又は前方に回転し、前記傾斜面の上方及び下方のうち他方に位置する前記車輪又は無限軌道が静止又は後方に回転している場合、使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いていると判断して前記車輪又は無限軌道を制動し、
前記使用者が前記電動車両を操作せず、前記使用者の手を離れたところで前記電動車両が動いていると判断した場合、前記車輪又は前記無限軌道を制動し、前記電動車両が動かないようにすることを特徴とする、電動車両の制動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者、身体障害者、入院患者その他の歩行に制限がある者の歩行を補助するための電動車両および電動車両の制動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高齢者の外出を補助する歩行車(シルバーカー、手押し車)や身体障害者または入院患者の歩行を補助するために歩行器その他の歩行補助装置が用いられている。例えば、特許文献1には、簡単な操作で直進・旋回動作を行なうことができる歩行補助装置について開示されている。
【0003】
特許文献1の歩行補助装置(電動手押し車)においては、歩行者が握るハンドル部を有するフレーム体と、フレーム体の左右両側に設けられた複数の車輪と、各車輪をそれぞれ回転駆動させる複数の駆動モータと、駆動モータに生じる逆起電力を検出し、逆起電力に基づいて駆動モータを制御する制御手段とを備えている。
【0004】
また、特許文献1の歩行補助装置において、ハンドル部に、歩行者がハンドル部を握っているかどうかを検出するグリップセンサ(タッチセンサ)が設けられている。グリップセンサの検出信号に基づいて歩行者がハンドルを握っていないと判断すると、各車輪を制動させるように制御する。しかしながら、このような従来の歩行補助装置においては、歩行者がハンドル部を握っているか否かは、グリップセンサを用いて判別する必要がある。このため、ハンドル部にグリップセンサを設けることによって歩行補助装置のコストが上昇するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、グリップセンサ等を用いることなく、歩行者が電動車両を操作しているか否かを判断することが可能な、電動車両および電動車両の制動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電動車両は、車輪又は無限軌道を備える電動車両であって、前記車輪又は前記無限軌道を制動する制動部と、前記電動車両の加速度の変化に基づいて、使用者が前記電動車両を操作しているか否かを判断して前記制動部を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。ここで、「操作している」とは、使用者が手で押したり引いたりしている場合のほか、使用者が手で把持している場合、使用者の体の一部や持ち物がもたれかかったり、支えられたり、接触していたりする場合を含む。また、「把持している」とは、包むような形で保持されることをいい、しっかり握られている場合だけでなく、軽く握られている場合も含む。
【0008】
本発明による電動車両において、前記制御部は、前記加速度の変化量が所定の閾値よりも小さいときに、前記使用者が前記電動車両を操作していないと判断してもよい。
【0009】
本発明による電動車両において、前記制御部は、前記加速度が所定の上限値を上回った場合、前記加速度がこの上限値に等しいとみなしてもよい。
【0010】
本発明による電動車両において、前記制御部は、前記加速度が所定の正の閾値よりも小さいとき、又は前記加速度が所定の負の閾値よりも大きいときのうち、少なくともいずれか一方のときに、前記使用者が前記電動車両を操作していないと判断してもよい。
【0011】
本発明による電動車両において、前記制御部は、前記使用者が前記電動車両を操作していないと判断した場合、前記制動部を制御して前記車輪又は前記無限軌道を制動してもよい。
【0012】
本発明による電動車両において、前記制御部は、前記車輪又は前記無限軌道の制動を開始した後、前記電動車両の前記加速度がゼロ又は負の値となっている間、前記車輪又は前記無限軌道の制動を継続してもよい。
【0013】
本発明による電動車両において、前記車輪又は前記無限軌道の回転速度を検知する速度検知センサを更に備え、前記制御部は、前記速度検知センサからの信号に基づいて、前記電動車両の加速度を算出してもよい。
【0014】
本発明による電動車両において、前記電動車両の傾きを検知する傾き検知センサを更に備え、前記制御部は、前記傾き検知センサによって前記電動車両が上りの傾斜面に位置すると判断され、かつ前記車輪又は前記無限軌道が後方に回転している場合、前記使用者が前記電動車両を操作していないと判断してもよい。
【0015】
本発明による電動車両において、前記電動車両の傾きを検知する傾き検知センサを更に備え、前記車輪又は前記無限軌道は、左右一対設けられ、前記制御部は、前記傾き検知センサによって前記電動車両が左右に傾斜した傾斜面に位置していると判断され、かつ前記傾斜面の上方及び下方のうち一方に位置する前記車輪又は前記無限軌道が静止又は前方に回転し、前記傾斜面の上方及び下方のうち他方に位置する前記車輪又は前記無限軌道が静止又は後方に回転している場合、前記使用者が前記電動車両を操作していないと判断してもよい。
【0016】
本発明による電動車両は、車輪又は無限軌道を備える電動車両であって、前記車輪又は前記無限軌道を制動する制動部と、前記電動車両の傾きを検知する傾き検知センサと、前記傾き検知センサによって前記電動車両が上りの傾斜面に位置していると判断され、かつ前記車輪又は前記無限軌道が後方に回転している場合、使用者が前記電動車両を操作していないと判断して前記制動部を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明による電動車両は、車輪又は無限軌道を備える電動車両であって、前記車輪又は前記無限軌道を制動する制動部と、前記電動車両の傾きを検知する傾き検知センサと、前記傾き検知センサによって前記電動車両が左右に傾斜した傾斜面に位置していると判断され、かつ前記傾斜面の上方及び下方のうち一方に位置する前記車輪又は前記無限軌道が静止又は前方に回転し、前記傾斜面の上方及び下方のうち他方に位置する前記車輪又は前記無限軌道が静止又は後方に回転している場合、使用者が前記電動車両を操作していないと判断して前記制動部を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明による電動車両の制動方法は、車輪又は無限軌道を備える電動車両の制動方法であって、前記電動車両の加速度の変化に基づいて、使用者が前記電動車両を操作しているか否かを判断して前記車輪又は無限軌道を制動することを特徴とする。
【0019】
本発明による電動車両の制動方法は、車輪又は無限軌道を備える電動車両の制動方法であって、前記電動車両が上りの傾斜面に位置し、かつ前記車輪または前記無限軌道が後方に回転している場合、使用者が前記電動車両を操作していないと判断して前記車輪又は無限軌道を制動することを特徴とする。
【0020】
本発明による電動車両の制動方法は、左右一対の車輪又は無限軌道を備える電動車両の制動方法であって、前記電動車両が左右に傾斜した傾斜面に位置し、かつ前記傾斜面の上方及び下方のうち一方に位置する前記車輪又は無限軌道が静止又は前方に回転し、前記傾斜面の上方及び下方のうち他方に位置する前記車輪又は無限軌道が静止又は後方に回転している場合、使用者が前記電動車両を操作していないと判断して前記車輪又は無限軌道を制動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、グリップセンサ等を用いることなく、歩行者が電動車両を操作しているか否かを判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電動アシスト歩行車を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態に係る電動アシスト歩行車の制御方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、後輪の回転加速度の実測値と後輪の回転加速度の低周波成分とを示すグラフである。
【
図4】
図4は、電動アシスト歩行車の制御方法の変形例1を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、上りの傾斜面に位置する電動アシスト歩行車を示す概略図である。
【
図6】
図6は、電動アシスト歩行車の制御方法の変形例2を説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、左右に傾斜した傾斜面に位置する電動アシスト歩行車を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態について、
図1乃至
図3を参照し詳述する。以下の説明では、同一の構成には同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0024】
図1は、電動車両の一例として電動の歩行車(以下、電動アシスト歩行車という。)を示す図である。
図1は、本実施の形態による電動アシスト歩行車10の外観の一例を示す模式的斜視図である。
【0025】
(電動アシスト歩行車の構成)
図1に示すように、電動アシスト歩行車10は、フレーム11と、フレーム11に設けられた一対の前輪12及び一対の後輪(車輪)13と、フレーム11に接続された一対のハンドル14とを備えている。
【0026】
一対の後輪13には、それぞれ対応する後輪13の動きをアシストするモータ20が連結されている。フレーム11には、バッテリ21と、制御部16とがそれぞれ取り付けられている。また、制御部16には、速度検知センサ(検知部)22と、傾き検知センサ23とが設けられている。
【0027】
次に、電動アシスト歩行車10の各構成要素について更に説明する。
【0028】
フレーム11は、左右一対のパイプフレーム31を有している。左右一対のパイプフレーム31の各々の前端側には、一対の前輪12がそれぞれ設けられている。一対の前輪12は、それぞれ前後方向に回転可能であるとともに、鉛直軸周りにも回動可能に設けられている。この場合、一対の前輪12は、自由に方向転換可能な自在輪となっている。
【0029】
また、左右一対のパイプフレーム31の各々の後端側には、一対の後輪13がそれぞれ設けられている。各後輪13は、前後方向に回転可能に設けられている。その結果、電動アシスト歩行車10を前進および後退させることが容易であり、また、容易に左右方向に移動または方向転換させることができる。
【0030】
左右一対のパイプフレーム31の上端部には、使用者によって操作される一対のハンドル14が設けられている。本実施の形態においては、一対のハンドル14が使用者の手によって把持される場合を例にとって説明する。一対のハンドル14は、水平方向に伸びるバーハンドル17によって互いに連結されている。また一対のハンドル14とバーハンドル17とは、略U字形状をなしている。さらに一対のハンドル14には、使用者の肘を載せることが可能な馬蹄状部27が取り付けられている。馬蹄状部27には、各ハンドル14を挿入可能なように穴部が設けられ、この穴部にハンドル14を取付け可能になっている。なお、ハンドル14の構成については、これに限られず、例えば左右一対のパイプフレーム31にそれぞれ独立したハンドル14が設けられていても良い。
【0031】
なお、本実施の形態において、電動アシスト歩行車10には、使用者が一対のハンドル14を把持したか否かを直接検出するグリップセンサ、歪みセンサ、近接センサ又は圧力センサ等は設けられていない。
【0032】
左右一対のパイプフレーム31の間には、必要に応じて使用者が着座することが可能なシート部37が設けられている。
【0033】
バッテリ21は、モータ20や制御部16等、電動アシスト歩行車10の各要素に電力を供給するものである。このバッテリ21は、一対のパイプフレーム31間に位置するシート部37の下方に設けられている。
【0034】
本実施の形態において、モータ20は、各後輪13の内部にそれぞれ取り付けられている。モータ20は、サーボモータ、ステッピングモータ、ACモータ、DCモータ等、任意のモータを用いることができ、さらに減速機を一体に形成されたものを用いてもよい。
【0035】
なお、本実施の形態において、モータ20は、後輪13の動作をアシストするほか、発電ブレーキとしての機能も有している。すなわち本実施の形態において、モータ20は、後輪13を駆動する駆動部としての役割と、後輪13を制動する制動部としての役割との両方を果たす。モータ20が後輪13を制動する場合、モータ20を発電機として働かせ、その抵抗力をブレーキとする。なお、モータ20が制動部としての役割を果たす場合、モータ20を逆向きに駆動させる逆転ブレーキとして、あるいはモータ20の相間を短絡させる短絡ブレーキとして用いても良い。あるいは、モータ20は、後輪13を駆動する駆動部としての役割のみを果たし、後輪13を制動する制動部は、モータ20と別体に設けても良い。このような制動部としては、電磁ブレーキや機械的ブレーキ等を挙げることができる。
【0036】
本実施の形態において、モータ20を各後輪13に取り付けているが、これに限定されず、モータ20を一対の前輪12にのみ取り付けてもよく、あるいは、モータ20を一対の前輪12および一対の後輪13の全てに取り付けてもよい。
【0037】
制御部16は、モータ20等、電動アシスト歩行車10の全体を制御するものである。この場合、制御部16は、バッテリ21の近傍に設けられている。制御部16による制御の詳細については、後述する。
【0038】
速度検知センサ(検知部)22は、後輪13の回転数または回転速度を検知し、この回転数または回転速度の信号を制御部16に対して送信する。この場合、制御部16は、速度検知センサ22からの信号に基づいて、後輪13の回転速度を微分することで後輪13の回転加速度を算出するようになっている。なお、速度検知センサ22は、電動アシスト歩行車10の一対の後輪13の内部に内蔵させてもよい。あるいは、速度検知センサ22は、モータ20と同様に、一対の前輪12の内部にのみ内蔵させてもよく、一対の前輪12および一対の後輪13の全てに内蔵してもよい。
【0039】
モータ20がブラシレスモータである場合は、速度検知センサ22は、モータ20に内蔵されたホール素子を用いて車輪の回転数または速度、電動アシスト歩行車10の速度を算出するものであってもよい。
【0040】
なお、モータ20の逆起電力から速度検出を行なうことができる場合には、この逆起電力から車輪の回転数または速度、電動アシスト歩行車10の速度を算出するように構成し、各後輪13または各前輪12の角速度検出を行なうことができる場合は、この角速度から車輪の回転数または速度、電動アシスト歩行車10の速度を算出するように構成することができる。
【0041】
また、速度検知センサ22は、一対の前輪12及び/又は一対の後輪13に内蔵することに限定されず、フレーム11、一対のハンドル14等、その他任意の部材に取り付けてもよい。あるいは、速度検知センサ22は、制御部16の近傍に配設されていても良い。
【0042】
あるいは、検知部は加速度検知センサで構成されても良い。この場合、加速度検知センサは、後輪13の回転加速度を用いることなく、電動アシスト歩行車10の加速度を直接検知し、この加速度の信号を制御部16に対して送信する。また、制御部16は、加速度を積分することで速度を算出するように構成される。
【0043】
また、検知部はGPS(グローバルポジショニングシステム)で構成されても良い。この場合、GPSは、後輪13の回転加速度を用いることなく、電動アシスト歩行車10の位置を検知する。また、制御部16は、GPSからの位置情報を微分することで電動アシスト歩行車10の速度を算出し、GPSからの位置情報を2回微分することで加速度を算出するように構成することができる。
【0044】
傾き検知センサ23は、電動アシスト歩行車10の傾き、例えば電動アシスト歩行車10が平坦面にあるか傾斜面にあるか等を検知し、この電動アシスト歩行車10の前後方向及び/又は左右方向への傾きに関する信号を制御部16に対して送信する。この場合、傾き検知センサは、2軸以上の加速度検知センサからなる。傾き検知センサ23は、制御部16の近傍に設けられている。あるいは、傾き検知センサ23は、電動アシスト歩行車10の上部に設けられていても良い。なお、傾き検知センサ23として加速度検知センサを用いる代わりに、ジャイロセンサを用いて電動アシスト歩行車10の姿勢を検知するようにしてもよい。
【0045】
本実施の形態において、制御部16は、電動アシスト歩行車10の加速度の変化に基づいて、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作しているか否かを判断する。そして制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を操作せず、ハンドル14から手を離していると判断される場合(両手離し状態)、モータ20(制動部)を制御して後輪13を制動する。なお、以下においては、制御部16が、速度検知センサ22から送られた信号に基づいて後輪13の回転加速度を算出し、この回転加速度の変化に基づいて、使用者が電動アシスト歩行車10を操作しているか否かを判断する場合を例にとって説明する。
【0046】
(制御部による制御方法)
次に、制御部16による電動アシスト歩行車10の制御方法について説明する。
図2は、制御部16の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【0047】
まず、制御部16がアシスト制御モード(
図2のステップS11)を実施している場合を想定する。この場合、電動アシスト歩行車10の後輪13の回転がモータ20によってアシストされ、使用者の操作力だけでは不足する分の力を発生させるようにモータ20が駆動される。
【0048】
続いて、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作しているか否かを判断する(
図2のステップS12)。
【0049】
具体的には、制御部16は、速度検知センサ22からの回転速度の信号に基づいて、当該回転速度を微分することにより、後輪13の回転加速度を算出する。算出された回転加速度は、後輪13の回転加速度の実測値であり、信号処理される前の瞬間的な加速度に相当する。
図3において、実線は、このようにして算出された後輪13の回転加速度の変化を示している。
【0050】
続いて、制御部16は、算出された後輪13の回転加速度の信号をローパスフィルタを通して信号処理し、回転加速度の信号のうち低周波成分のみを抽出する。この抽出された低周波成分は、後輪13の回転加速度の平均的ないし時系列的な変化に対応する。
図3において、破線は、このようにして求められた後輪13の回転加速度の低周波成分を示している。なお、制御部16は、後輪13の回転加速度の信号を用いて移動平均を求めることにより信号処理しても良い。この場合、後輪13の回転加速度の低周波成分を、回転加速度の実測値の移動平均から算出しても良い。
【0051】
次いで、制御部16は、回転加速度の実測値(瞬間的な加速度、
図3の実線)と、低周波成分(平均的ないし時系列的な加速度、
図3の破線)との差分の二乗平均を、回転加速度の高周波成分(振動成分)として算出する。
図3において、斜線で示す領域の面積は、回転加速度の実測値と低周波成分との差分(二乗する前の高周波成分の値)を示している。なお、回転加速度の高周波成分の値は、回転加速度の実測値と低周波成分との差分の絶対値として求めても良い。
【0052】
ここで、一般に、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作している場合、後輪13の回転加速度は、使用者の歩行に合わせて瞬間的に変化(増減)しやすい。このため、使用者が電動アシスト歩行車10を操作している場合には、回転加速度の実測値(
図3の実線)が回転加速度の低周波成分(
図3の破線)から乖離しやすい。
【0053】
これに対して、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等から手を離し、電動アシスト歩行車10が傾斜面等を自由落下している場合には、後輪13の回転加速度は略一定の値になる。このため、使用者が電動アシスト歩行車10から手を離した場合、回転加速度の実測値(
図3の実線)が回転加速度の低周波成分(
図3の破線)に近づく傾向がある。したがって、回転加速度の実測値が、どの程度回転加速度の低周波成分から乖離しているかを求めることにより、使用者が電動アシスト歩行車10から手を離しているか否かを判定することができる。
【0054】
具体的には、制御部16は、上述したように回転加速度の実測値と低周波成分との差分の二乗平均を高周波成分として求め、単位時間当たりの高周波成分の値が所定の閾値よりも大きいか否かを判定する。そして制御部16は、高周波成分の値が所定の閾値よりも小さいとき、使用者が電動アシスト歩行車10を操作せず、ハンドル14から手を離していると判断する。この場合、制御部16は、モータ(制動部)20を制御することによりモータ20を例えば発電ブレーキとして機能させ、後輪13を制動する(
図2のステップS13)。これにより、使用者が電動アシスト歩行車10を操作していないときに、電動アシスト歩行車10が意図せず動いてしまうことを防止することができる。
【0055】
一方、制御部16は、単位時間当たりの高周波成分の値が所定の閾値よりも大きいとき、使用者が電動アシスト歩行車10を操作しており、使用者がハンドル14を把持しながら歩行していると判断する。この場合、制御部16は、後輪13を制動することなく、モータ20によって後輪13の動きをアシストし続ける。
【0056】
なお、制御部16は、電動アシスト歩行車10の主電源がオフにされるまで、上記処理を繰り返す。このようにして、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を操作しているか否かを判断することができる。
【0057】
上記に加え、制御部16は、任意的に以下のような制御を行っても良い。
【0058】
(1)電動アシスト歩行車10が下りの斜面にあることを傾き検知センサ23が検知し、かつ、後輪13の回転加速度の高周波成分の値が所定の閾値よりも小さい場合、使用者が下りの斜面で電動アシスト歩行車10のハンドル14等から手を離したと判断する。この場合、上述したように制御部16は後輪13を制動するが、後輪13を制動した瞬間に後輪13の回転加速度が急変するため、瞬間的に高周波成分が大きくなることが考えられる。この場合、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を操作したと誤って判断するおそれがある。したがって、制御部16は、後輪13の制動を開始した後、後輪13の回転加速度の実測値がゼロ又は負の値となっている間は、高周波成分の値に関わらず、引き続き後輪13の制動を継続しておいても良い。
【0059】
(2)後輪13の回転加速度の信号をローパスフィルタを通して信号処理する場合、直前の回転加速度の実測値が大きいと、使用者が実際にハンドル14から手を離したとしても、回転加速度の高周波成分の値が閾値以下になるまでに時間を要するおそれがある。この場合、後輪13を制動して電動アシスト歩行車10を停止させるまでの時間が長くなってしまう。これに対して、制御部16は、回転加速度の実測値が所定の上限値を上回った場合、回転加速度がこの上限値に等しいとみなして、回転加速度の信号をローパスフィルタによって信号処理しても良い。これにより、回転加速度の実測値が瞬間的に大きくなった場合でも、使用者がハンドル14から手を離してから後輪13を制動するまでの時間を短縮することができる。
【0060】
(3)一般に人が歩行する際には左右の足を交互に動かすため、後輪13の回転加速度は、使用者の足の動きに応じて変化を生じる。そのため、歩行の周期よりも長い時間、加速度に変化が無い場合は、人が操作していないと考えられる。加速度の周期的な変動を観測する方法としては様々な方法があるが、加速度が閾値を超えたか否かで、この周期を判断するのが簡便である。後輪13の回転加速度が所定の正の閾値よりも小さいとき、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等から手を離したと判定してもよい。この場合、制御部16がモータ20の出力による加速度を使用者による操作と誤検知して、使用者がハンドル14から手を離したと誤判定することを効果的に防ぐことができる。また、後輪13の回転加速度が所定の負の閾値よりも大きいとき、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等から手を離したと判定してもよい。この場合、制御部16が電動アシスト歩行車10の重力による下方への移動を使用者による操作と誤検知して、使用者がハンドル14から手を離したと誤判定することを効果的に防ぐことができる。さらに、前記正の閾値と負の閾値との両方から判定してもよい。また、後輪13の回転加速度の絶対値が閾値以下のとき、カウントアップ(回転加速度の絶対値が連続的に閾値以下となっている時間を測定)していき、そのカウントが一定量を超えた場合に、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等から手を離したと判定してもよい。
【0061】
(4)後輪13の回転加速度は、左右の後輪13の合算値を使用してもよい。あるいは、左右の後輪13のそれぞれについて判断し、左右の後輪13の両方の高周波成分の値が所定の閾値よりも小さい場合(AND条件)、または、左右の後輪13のいずれか一方の高周波成分の値が所定の閾値よりも小さい場合(OR条件)、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等から手を離したと判断してもよい。
【0062】
以上のように、本実施の形態によれば、制御部は、後輪13の回転加速度の変化に基づいて、使用者が電動アシスト歩行車10を操作しているか否かを判断する。これにより、ハンドル14にグリップセンサ等を設けることなく、使用者が電動アシスト歩行車10を操作しているか否かを判断することができる。このため、使用者がハンドル14から手を離した場合に、電動アシスト歩行車10が使用者の意図に反して動いてしまう不具合を防止することができる。また、ハンドル14にグリップセンサを取り付けることによって電動アシスト歩行車10のコストが上昇することを防止することもできる。さらに、ハンドル14にグリップセンサ等が設けられていないので、ハンドル14の周囲にグリップセンサ等の配線を配置する必要もない。とりわけ、ハンドル14の高さを調節可能とする場合には、高さ調節のための可動部分に配線を取り回す必要がなくなるので、可動部分の構造を簡単なものとすることができる。
【0063】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、後輪13の回転加速度を信号処理し、この回転加速度の高周波成分が所定の閾値よりも小さいときに、使用者が電動アシスト歩行車10を操作していないと判断する。これにより、ハンドル14にグリップセンサ等を設けることなく、使用者が電動アシスト歩行車10を操作しているか否かを高い精度で判断することができる。
【0064】
また、本実施の形態によれば、後輪13の回転加速度が所定の上限値を上回った場合、回転加速度がこの上限値に等しいとみなして、回転加速度の信号を信号処理する。これにより、回転加速度の実測値が瞬間的に大きくなっても、使用者がハンドル14から手を離してから後輪13を制動するまでの時間を短縮することができる。
【0065】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を操作していないと判断した場合、モータ20を制御して後輪13を制動する。これにより、使用者が例えば坂道等の傾斜面でハンドル14から手を離した場合であっても、電動アシスト歩行車10が不必要に動いてしまうおそれがない。
【0066】
また、本実施の形態によれば、後輪13の制動を開始した後、後輪13の回転加速度がゼロ又は負の値となっている間、後輪13の制動を継続する。これにより、制御部16が、電動アシスト歩行車10が使用者によって操作されたと誤判断することが防止される。
【0067】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、速度検知センサ22からの信号に基づいて、後輪13の回転加速度を算出する。この場合、制御部16は、後輪13に予め設けられた速度検知センサ22によって使用者が電動アシスト歩行車10を操作しているか否かを判断することができる。これにより、ハンドル14にグリップセンサ等を設けることなく、使用者が電動アシスト歩行車10を操作しているか否かを判断することができる。
【0068】
なお、上記実施の形態においては、制御部16は、モータ(制動部)20を制御することにより一対の後輪13を制動する場合を例にとって説明したが、これに限らず、後輪13および/または前輪12を制動しても良い。また、本実施の形態においては、一対の後輪(車輪)13を例示して説明したが、これに限定されず、起動輪、転輪、遊動輪(誘導輪)を囲むように一帯に接続された履板の環、キャタピラ等、任意の無限軌道を用いてもよい。
【0069】
(本実施の形態における制御方法の変形例)
次に、本実施の形態において、制御部16によりモータ20を制御する制御方法の各種変形例について説明する。なお、下記の変形例による制御方法は、上述した本実施の形態による制御方法と並行して行っても良く、上述した制御方法とは独立して行っても良い。
【0070】
(制御方法の変形例1)
制御部16は、傾き検知センサ23によって電動アシスト歩行車10が上りの傾斜面にあると判断され、かつ後輪13が後方に回転している場合、使用者が電動アシスト歩行車10を操作していないと判断しても良い。
【0071】
この場合、まず制御部16は、アシスト制御モード(
図4のステップS21)を実施している。この間、電動アシスト歩行車10の後輪13の回転がモータ20によってアシストされる。
【0072】
続いて、制御部16は、傾き検知センサ23からの信号に基づき、電動アシスト歩行車10が上りの傾斜面に位置しているか否かを判断する(
図4のステップS22)。具体的には、制御部16は、傾き検知センサ23の測定値に基づき、電動アシスト歩行車10が所定の角度以上の上りの傾斜面に位置しているか否かを判定する。
【0073】
電動アシスト歩行車10が上りの傾斜面に位置している場合、次に制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作しているか否かを判断する(
図4のステップS23)。
【0074】
具体的には、制御部16は、速度検知センサ22からの回転速度の信号に基づいて、後輪13が後方に回転しているか否かを検知する。
【0075】
ここで、一般に、使用者が上りの傾斜面で電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作している場合、後輪13は前方に回転しているか、又は静止していると考えられる。これに対して、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作していない場合、上りの傾斜面では後輪13が後方に回転すると考えられる(
図5参照)。
【0076】
したがって、電動アシスト歩行車10が上りの傾斜面にあり、かつ後輪13が後方に回転している場合、使用者が電動アシスト歩行車10を操作していない(手を離した)と判断することができる。この場合、制御部16は、モータ(制動部)20を制御することにより、モータ20を例えば発電ブレーキとして機能させ、後輪13を制動する(
図4のステップS24)。これにより、使用者が上りの傾斜面で電動アシスト歩行車10を操作していないときに、電動アシスト歩行車10が意図せず動いてしまうことを防止することができる。
【0077】
(制御方法の変形例2)
制御部16は、傾き検知センサ23によって電動アシスト歩行車10が左右に傾斜した傾斜面に位置していると判断され、かつ一対の後輪13のうち傾斜面の上方に位置する後輪13が静止又は前方に回転し、傾斜面の下方に位置する後輪13が静止又は後方に回転している場合、使用者が電動アシスト歩行車10を操作していないと判断しても良い。
【0078】
すなわち、まず制御部16は、アシスト制御モード(
図6のステップS31)を実施している。この場合、電動アシスト歩行車10の後輪13の回転がモータ20によってアシストされる。
【0079】
続いて、制御部16は、傾き検知センサ23からの信号に基づき、電動アシスト歩行車10が左右に傾斜した傾斜面に位置しているか否かを判断する(
図6のステップS32)。具体的には、制御部16は、傾き検知センサ23の測定値に基づき、電動アシスト歩行車10が所定の角度以上左右に傾斜した傾斜面に位置しているか否かを判定する。
【0080】
電動アシスト歩行車10が左右に傾斜した傾斜面に位置している場合、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作しているか否かを判断する(
図6のステップS33)。
【0081】
具体的には、制御部16は、速度検知センサ22からの回転速度の信号に基づいて、左右の後輪13がそれぞれ前方に回転しているか、後方に回転しているか、又は静止しているかを検知する。この場合、速度検知センサ22は、左右の後輪13の回転速度をそれぞれ独立して測定し、各回転速度を信号として制御部16に送信する。
【0082】
ここで、一般に、使用者が左右に傾斜した傾斜面で電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作している場合、左右の後輪13はともに静止しているか又は前方に回転すると考えられる。これに対して、使用者が左右に傾斜した傾斜面で電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作していない場合、上方に位置する後輪13が静止又は前方に回転し、下方に位置する後輪13が静止又は後方に回転すると考えられる(
図7参照)。なぜなら、電動アシスト歩行車10は自在輪である前輪12から下方へ向けて移動するためである。
【0083】
したがって、電動アシスト歩行車10が左右に傾斜した傾斜面にあり、かつ上方に位置する後輪13が静止又は前方に回転し、下方に位置する後輪13が静止又は後方に回転している場合、使用者が電動アシスト歩行車10を操作していないと判断することができる。この場合、制御部16は、モータ(制動部)20を制御することにより、モータ20を例えば発電ブレーキとして機能させ、後輪13を制動する(
図6のステップS34)。これにより、使用者が左右に傾斜した傾斜面で電動アシスト歩行車10を操作していないときに、電動アシスト歩行車10が意図せず動いてしまうことを防止することができる。
【0084】
なお、このようにして後輪13を制動している間、傾斜面の上方に位置する後輪13の前方に回転する速度が所定値以上となった場合、使用者が電動アシスト歩行車10を旋回させようとしていると考えることができる。したがって、制御部16は、傾斜面の上方に位置する後輪13の前方に回転する速度が所定値以上となった場合には、後輪13の制動を解除するようにしても良い。
【0085】
なお、別の変形例として、後輪13が自在輪で、前輪12の回転を検知する場合には、自在輪である後輪13が下方へ向けて移動する。このため、使用者が電動アシスト歩行車10のハンドル14等を操作していない場合、上方に位置する前輪12が静止又は後方に回転し、下方に位置する前輪12が静止又は前方に回転すると考えられる。この場合、制御部16は、上方に位置する後輪13が静止又は後方に回転し、下方に位置する後輪13が静止又は前方に回転しているとき、使用者が電動アシスト歩行車10を操作していないと判断し、後輪13を制動する。
【0086】
また、上記では前輪12及び/又は後輪13の回転を検知しているが、その他に、傾き検知センサ23等の傾斜センサやジャイロセンサを用いて、電動アシスト歩行車10の車体の回転する動きを検知することで、同様に制御することもできる。
【0087】
(電動アシスト歩行車の構成要素の変形例)
次に、電動アシスト歩行車10の構成要素の変形例について説明する。本実施の形態においては、一対の後輪(車輪)13を例示して説明したが、これに限定されず、起動輪、転輪、遊動輪(誘導輪)を囲むように一帯に接続された履板の環、キャタピラ等、任意の無限軌道を用いてもよい。
【0088】
以上本発明の各実施の形態を説明したが、上記各実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記各実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記各実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
10 電動アシスト歩行車
11 フレーム
12 前輪
13 後輪
14 ハンドル
16 制御部
20 モータ(制動部)
21 バッテリ
22 速度検知センサ
23 傾き検知センサ