(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】コンクリートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220606BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20220606BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20220606BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20220606BHJP
C04B 24/24 20060101ALI20220606BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20220606BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B24/06 A
C04B24/24 A
C04B40/02
B28C7/04
(21)【出願番号】P 2017248709
(22)【出願日】2017-12-26
【審査請求日】2020-10-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
(72)【発明者】
【氏名】中田 和秀
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-197267(JP,A)
【文献】特開2014-058437(JP,A)
【文献】特開2009-184867(JP,A)
【文献】特開平04-300231(JP,A)
【文献】特開平02-302350(JP,A)
【文献】特開2015-001046(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1720504(KR,B1)
【文献】セメントの規格と品質,セメントの常識,社団法人セメント協会,1997年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/00 - 40/06
B28C 1/00 - 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料、セメント混和用ポリマー、凝結遅延剤および骨材を含むコンクリートであって、
前記水硬性材料が、カルシウムアルミネート類および石膏を含み、かつ
前記水硬性材料において、前記水硬性材料の総質量基準で、
Al
2O
3含有量が7質量%~25質量%であり、
Al
2O
3含有量とSO
3含有量の合計量が12~27質量%であり、かつ
SO
3含有量とのAl
2O
3含有量の質量比(SO
3含有量/Al
2O
3含有量)が0.6~1.1である、コンクリート
(ただし、アルカリ金属アルミン酸塩を含むコンクリートを除く)。
【請求項2】
前記水硬性材料が、ポルトランドセメントまたは混合セメントをさらに含む、請求項1に記載のコンクリート。
【請求項3】
前記セメント混和用ポリマーがスチレンブタジエン系ポリマーを含む、請求項1または2に記載のコンクリート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のコンクリートであって、5℃水中養生における材齢28日の膨張ひずみが500×10
-6以下である、コンクリート。
【請求項5】
材齢150分での圧縮強度が20N/mm
2以上である、請求項4に記載のコンクリート。
【請求項6】
コンクリートの製造方法であって、
(A)カルシムアルミネート類および石膏を含む水硬性材料であって、
水硬性材料の総質量基準で、
Al
2O
3含有量が7質量%~25質量%であり、
Al
2O
3含有量とSO
3含有量の合計量が12~27質量%であり、かつ
SO
3含有量とのAl
2O
3含有量の質量比(SO
3含有量/Al
2O
3含有量)が0.6~1.1である、水硬性材料を用意することと、
(B)前記水硬性材料、セメント混和用ポリマー、凝結遅延剤、骨材および水を含む原料を混合してコンクリートを得ることと、を含むコンクリート
(ただし、アルカリ金属アルミン酸塩を含むコンクリートを除く)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緊急補修工事、例えば道路補修工事は道路解放をするために、短時間で強度発現性が得られるような水硬性組成物が使用されている。このような水硬性組成物には速硬性のあるセメントや混和材料として水硬性材料が使用されている。また、これらの材料にポリマーを加え、速硬性と遮水性、耐久性等を考慮した水硬性組成物も提案されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-58437号公報
【文献】特開2009-184867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の速硬性の水硬性組成物は、低温環境下で用いた場合に、十分な硬化が得られていない段階や水和反応が遅延している状態で水と接触すると、膨張して強度低下を引き起こす可能性があった。特に、耐久性を考慮してセメント混和用ポリマーを混入すると凝結や水和が遅延する傾向にあり、上記のような現象が起こる可能性が高まるおそれがある。
【0005】
したがって、本発明の課題は、セメント混和用ポリマーを含有しながらも、低温環境下においても膨張が抑制され、かつ硬化時に所要の強度を満足できるコンクリートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題に対して、本発明者らは、今般、カルシウムアルミネート類および石膏を含み、かつAl2O3含有量とSO3含有量が所定の範囲の水硬性材料と、セメント混和用ポリマーと、凝結遅延剤と、骨材とを含むコンクリートを用いることによって、低温環境下においても膨張が抑制され、かつ所要の強度を満足できるコンクリートを得ることができるとの予想外の知見を得た。本発明は、係る知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち本発明は以下のとおりである。
[1]水硬性材料、セメント混和用ポリマー、凝結遅延剤および骨材を含むコンクリートであって、
前記水硬性材料が、カルシウムアルミネート類および石膏を含み、かつ
前記水硬性材料において、前記水硬性材料の総質量基準で、
Al2O3含有量が7質量%~25質量%であり、
Al2O3含有量とSO3含有量の合計量が12~30質量%であり、かつ
SO3含有量とのAl2O3含有量の質量比(SO3含有量/Al2O3含有量)が0.6~1.1である、コンクリート。
[2]前記水硬性材料が、ポルトランドセメントまたは混合セメントをさらに含む[1]に記載のコンクリート。
[3]前記セメント混和用ポリマーがスチレンブタジエン系ポリマーを含む、[1]または[2]に記載のコンクリート。
[4][1]~[3]のいずれか1項に記載のコンクリートであって、5℃水中養生における材齢28日の膨張ひずみが500×10-6以下である、コンクリート。
[5]材齢150分での圧縮強度が20N/mm2以上である、[4]に記載のコンクリート。
[6]コンクリートの製造方法であって、
(A)カルシムアルミネート類および石膏を含む水硬性材料であって、
水硬性材料の総質量基準で、
Al2O3含有量が7質量%~25質量%であり、
Al2O3含有量とSO3含有量の合計量が12~30質量%であり、かつ
SO3含有量とのAl2O3含有量の質量比(SO3含有量/Al2O3含有量)が0.6~1.1である、水硬性材料を用意することと、
(B)前記水硬性材料、セメント混和用ポリマー、凝結遅延剤、骨材および水を含む原料を混合してコンクリートを得ることと、を含むコンクリートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セメント混和用ポリマーを含有しながらも、低温環境下においても膨張が抑制され、かつ硬化時に所要の強度を満足できるコンクリートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。なお、本明細書において引用した全ての文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
【0010】
<コンクリート>
本発明のコンクリートは、(A)カルシウムアルミネート類および石膏を含み、かつAl2O3含有量とSO3含有量が所定の範囲の水硬性材料と、(B)セメント混和用ポリマーと、(C)凝結遅延剤と、(D)骨材とを含むことによって、低温環境下においても膨張が抑制され、かつ硬化時に所要の強度を満足することができる。そのため、本発明のコンクリートは、低温環境下であっても、緊急補修工事や短時間強度が必要な個所に好適に使用することができる。
【0011】
本発明のコンクリートは、上記のとおり、水硬性材料、セメント混和用ポリマー、凝結遅延剤および骨材を含む。各構成要素について、以下にそれぞれ説明する。なお、本明細書において、「単位量(kg/m3)」とは、1m3のコンクリートを作製するときに用いる各原料の使用量を意味する。また、本明細書において、「コンクリート」には「モルタル」も含まれる。
【0012】
[水硬性材料]
本発明に用いる水硬性材料は、カルシウムアルミネート類および石膏を含む。さらに、水硬性材料において、該水硬性材料の総質量基準で、Al2O3含有量が7質量%~25質量%であり、Al2O3含有量とSO3含有量の合計量が12~30質量%であり、かつSO3含有量とのAl2O3含有量の質量比(SO3含有量/Al2O3含有量)が0.6~1.1である。
【0013】
カルシウムアルミネート類としては、CaOとAl2O3を含む種々のものを使用することができる。例えば、カルシウムアルミネート類には、CaOをC、Al2O3をAで表示した場合、C3A、C2A、C12A7、C5A3、CA、C3A5またはCA2等と表示される鉱物組成を有する結晶質のカルシウムアルミネートもしくは非晶質のカルシウムアルミネート、アルミナセメント、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶または置換したC11A7・CaF2と表示されるカルシウムフロロアルミネート等を含むカルシウムハロアルミネート、アウイン(C3A3・CaSO4)等のカルシウムサルホアルミネート、およびこれらにSiO2、Fe2O3、MgO、K2O、Na2O、Li2OまたはTiO2等が固溶もしくは化合したもの等が含まれる。この中で、低温環境下での強度発現性の点から、結晶質または非晶質のカルシウムアルミネートが好ましい。
【0014】
石膏としては、特に限定されないが、二水石膏、半水石膏、無水石膏等の各種石膏を用いることができる。この中で、無水石膏が好ましい。石膏は、粉末にしたものを膨張性焼成物の粉砕物とミキサ等で混合してもよいし、石膏と膨張焼成物を混合粉砕してもよい。石膏は硫酸カルシウム(CaSO4)を主成分とする鉱物であるため、石膏の含有量を調整することで、水硬性材料におけるSO3含有量を調製することができる。
【0015】
上記のカルシムアルミネート類および石膏以外に水硬性材料に含まれる原料としては、ポルトランドセメントや混合セメント等が挙げられる。ポルトランドセメントは、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al2O3)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)、および硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)を含む。混合セメントは、高炉水砕スラグ、フライアッシュ、ケイ酸質混合材をポルトランドセメントに混合したセメントである。本発明に用いることができるポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントなどが挙げられ、混合セメントとしては、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどが挙げられる。これらのカルシムアルミネート類および石膏以外に水硬性材料に含まれる原料は、他の構成要素を混合する前に水硬性材料に添加してもよいし、カルシムアルミネート類および石膏を含む水硬性材料を他の構成要素と混合した後に別途添加してもよい。
【0016】
本発明における水硬性材料は、水硬性材料の総質量基準で、Al2O3含有量が7質量%~25質量%であり、Al2O3含有量とSO3含有量の合計量が12~30質量%であり、かつSO3含有量とのAl2O3含有量の質量比(SO3含有量/Al2O3含有量)が0.6~1.1である。このように組成範囲とすることで、本発明における水硬性材料を含むコンクリートは、低温環境下においても、硬化時に所要の特性を確保することができる。
【0017】
水硬性材料におけるAl2O3含有量は、主にカルシウムアルミネート類、ポルトランドセメント等のAl2O3含有原料の配合量によって調整することができる。Al2O3含有量は、水硬性材料の総質量基準で、7質量%~25質量%である。含有量を7質量%以上とすることで、初期強度発現性が十分に確保することができ、含有量を25質量%以下とすることで、可使時間を好適な範囲にコントロールすることができる。さらに、Al2O3含有量は、8質量%~14質量%が好ましく、10質量%~14質量%がより好ましい。
【0018】
水硬性材料におけるAl2O3含有量とSO3含有量の合計量は、カルシウムアルミネート類、石膏およびポルトランドセメント等の配合量によって調整することができ、水硬性材料の総質量基準で12~30質量%である。Al2O3含有量とSO3含有量の合計量が12質量%以上であれば、コンクリートの強度発現性が低下することを好適に防止することができ、かつ、ひび割れを補償するための膨張量も十分に確保することができる。また、Al2O3含有量とSO3含有量の合計量を30質量%以下とすることで、膨張量が大きくなりすぎたり、低温環境下でコンクリートの異常膨張(遅れ膨張)を起こしたりすることを好適に防止することができる。Al2O3含有量とSO3含有量の合計量の下限値は、15質量%以上が好ましく、17質量%以上がより好ましい。また、上限値は28質量%以下が好ましく、27質量%以下がより好ましい。なお、水硬性材料における、Al2O3とSO3以外の成分としては、カルシウムアルミネート類、石膏およびセメント由来のCaOや、セメント由来のSiO2等が挙げられる。
【0019】
水硬性材料におけるSO3含有量とのAl2O3含有量の質量比(SO3含有量/Al2O3含有量)は、カルシウムアルミネート類、石膏およびポルトランドセメント等の配合量によって調整することができ、0.6~1.1である。SO3含有量とのAl2O3含有量の質量比が0.6以上であれば、ひび割れを補償するためのコンクリートの膨張量を十分に確保することができる。また、1.1以下であれば、低温環境下でのコンクリート膨張量が大きくなりすぎることを防止することができる。SO3含有量とのAl2O3含有量の質量比の下限値は、0.65以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。また、SO3含有量とのAl2O3含有量の質量比の上限値は、1.0以下が好ましく、0.95以下がより好ましい。
【0020】
[セメント混和用ポリマー]
本発明のコンクリートは、セメント混和用ポリマーを含む。ここでセメント混和用ポリマーは、セメントモルタルおよびコンクリートの改質を目的に、それらに混和して用いるポリマーディスパージョンおよび再乳化形粉末樹脂の総称をいい、JIS A 6203によって規定されている。具体的には、セメント混和用ポリマーとしては、アクリル酸エステル系ポリマー、アクリルスチレン系ポリマー、スチレンブタジエン(SBR)系ポリマー、酢酸ビニル系ポリマー、エチレン酢酸ビニル系ポリマー、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル系ポリマー、エチレンビニルアルコール(EVA)系ポリマー、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル系ポリマーを用いることができるが、これらに限定されるものではない。これらのセメント混和用ポリマーは、通常ポリマーディスパージョンの形態で市販されているもの、および再乳化粉末樹脂として市販されているもののいずれでもよい。これらの中で、スチレンブタジエン系ポリマーが特に好ましい。セメント混和用ポリマーの含有量は、曲げ強度や付着強度の確保等の点から、水硬性材料100質量部に対し2~20質量部が好ましく、4~16質量部がより好ましい。
【0021】
[凝結遅延剤]
本発明のコンクリートは、凝結遅延剤を含む。凝結遅延剤としては、モルタルやコンクリートの凝結遅延剤として用いられるものであれば特に限定されず、例えばクエン酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトン酸等のオキシカルボン酸またはその塩、リン酸塩、硼酸またはその塩等が挙げられる。遅延剤の含有量は、可使時間の確保と強度発現遅れ防止の点から、水硬性材料100質量部に対し0.05~2.0質量部が好ましく、さらに0.1~1.5質量部が好ましい。
【0022】
[骨材]
本発明のコンクリートは骨材を含む。骨材は、特に限定されるものではなく、通常のモルタルやコンクリートの製造に使用される細骨材および粗骨材をいずれも使用することができる。細骨材および粗骨材の例としては、川砂、海砂、山砂、砕砂、石灰砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生細骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、石灰石骨材、人工粗骨材、スラグ粗骨材および再生粗骨材等が挙げられる。
【0023】
[その他の構成要素]
本発明のコンクリートは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種混和材(剤)を含んでもよい。混和材(剤)としては、例えば、減水剤、AE剤、消泡剤、発泡剤、防水剤、防錆剤、膨張材、収縮低減剤、増粘剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維、無機微粉末等が挙げられる。
【0024】
[単位量(kg/m3)基準の配合量]
本発明のコンクリートの単位量基準の配合量は、好ましくは、水硬性材料が300~600kg/m3であり、水が100~200kg/m3であり、セメント混和用ポリマーが20~60kg/m3(固形分)であり、細骨材が700~900kg/m3であり、粗骨材が800~1000kg/m3である。その他所望により、上記の混和材(剤)等の任意の構成要素を加えてもよい。
【0025】
[コンクリートの特性]
本発明のコンクリートは、5℃水中養生における材齢28日の膨張ひずみが500×10-6以下であることが好ましい。これによって低温環境下においても、異常膨張により強度低下を引き起こすことがなく、良好なコンクリートが得られる。膨張歪みは、JIS A 1129に準拠して測定することができる。
【0026】
さらに、本発明のコンクリートは、材齢150分での圧縮強度が20N/mm2以上であることが好ましい。これにより、初期強度に優れる速硬コンクリートが得られる。圧縮強度はJIS A 1108に準拠して測定することができる。
【0027】
本発明のコンクリートの可使時間は、30分以上であることが好ましい。コンクリートの施工時間を確保する観点から可使時間は長い方が好ましいが、材齢150分で20N/mm2以上の圧縮強度を得るには90分以下とすることが好ましい。なお、可使時間とは、コンクリートを混練し始めてから打設可能な状況までの時間をいい、JIS A 1101のコンクリートのスランプ試験方法によりスランプの経時変化を確認することによって測定することができる。可使時間を30分以上とすることで、十分な施工時間を確保できる。コンクリートの可使時間は、混合する凝結遅延剤の添加量を調節することで調節することができる。
【0028】
本発明のコンクリートは、低温環境下での膨張ひずみを抑制することができることから、膨張による強度低下を抑制することができ、低温環境下においても初期強度発現性の良好なコンクリートを得ることができる。そのため、本発明のコンクリートは、低温環境下用の速硬性コンクリートとして用いることができる。本明細書において、「低温環境下用」とは、例えば10℃以下等の低温環境下でも十分な凝結時間、初期強度発現性を示し、かつ膨張ひずみを抑制することができるものを指す。具体的には、5℃環境下におけるコンクリートの可使時間が30分以上を示し、コンクリート(養生条件:5℃)の圧縮強度(N/mm2)が、150分材齢で20N/mm2以上を示す。さらに、5℃水中養生における材齢28日の膨張ひずみが500×10-6以下であることを示す。
【0029】
本発明のコンクリートを用いることによって、良好な速硬性コンクリートが得られることから、本発明のコンクリートを道路等の緊急補修工事などに用いることができる。
【0030】
本発明のコンクリートの硬化は任意の方法によって行うことができるが、例えば、上記コンクリートの構成材料を混練し、その混練物を型枠等に流し込んだ後に養生することで硬化させてもよい。
【0031】
<コンクリートの製造方法>
本発明のコンクリートは、(A)カルシムアルミネート類および石膏を含む水硬性材料であって、水硬性材料の総質量基準で、Al2O3含有量が7質量%~25質量%であり、Al2O3含有量とSO3含有量の合計量が12~30質量%であり、かつSO3含有量とのAl2O3含有量の質量比(SO3含有量/Al2O3含有量)が0.6~1.1である、水硬性材料を用意することと、(B)前記水硬性材料、セメント混和用ポリマー、凝結遅延剤、骨材および水を含む原料を混合(混練)してコンクリートを得ることと、を含む方法によって製造することができる。混合方法は特に制限されるものではなく、例えば、傾動ミキサ、パン型ミキサ、2軸ミキサ、グラウトミキサ、ホバートミキサ、オムニミキサなど汎用的なミキサを用いることができる。モルタルやコンクリートを調製する際にも、これらの混合方法を用いることができる。水硬性材料は、他の構成要素を混合する前に上記の組成となるように用意してもよいし、他の構成要素と混合する際にカルシムアルミネート類および石膏以外の原料を添加することで用意してもよい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。
【0033】
(水硬性材料の調製)
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、カルシウムアルミネート類(試製品)、石膏(セントラル硝子社製)を用いて、表1に示す化学成分となるよう水硬性材料を調製した。その際、各原料中のAl
2O
3含有量とSO
3含有量をJIS R 5204に規定されたセメントの蛍光X線分析方法に準拠した方法によって測定し(蛍光X線分析装置:リガク社製)、得られた値を基に表1に示す化学成分となるように各原料の配合量を調節した。なお普通ポルトランドセメントとカルシウムアルミネート類および石膏とは、質量比が概ね7:3になるよう調製した。カルシウムアルミネート類としては、配合No.1ではカルシウムサルホアルミネート(CSA)を、No.2ではカルシウムフロロアルミネート(CFA)を、それ以外の配合ではカルシウムアルミネートを主成分とするカルシウムアルミネート(CA)使用した。各カルシウムアルミネート類はいずれも結晶質のものであり、そのAl
2O
3含有量およびSO
3含有量は、それぞれ、CSAが55質量%および13質量%、CFAが47質量%および0.4質量%、CAが53質量%および0.3質量%であった。石膏は無水石膏を使用した。
【表1】
【0034】
(コンクリートの調製)
配合No.1~14で得た水硬性材料と、セメント混和用ポリマー、凝結遅延剤および骨材(細骨材、粗骨材)を表2の配合となるよう調製し、コンクリートミキサを用いて水と混練し、各配合のコンクリートを製造した。
【0035】
セメント混和用ポリマーとしてはスチレンブタジエンゴム系ポリマーエマルジョン(固形分45%:表1は固形分量を記載、太平洋マテリアル社製)を使用した。凝結遅延剤としてはクエン酸系遅延剤を用いた。凝結遅延剤は、水硬性材料に対して0.12質量%の量で添加し、可使時間が30分以上となるように調整した。細骨材は掛川産細砂(密度:2.54g/cm
3)、粗骨材は桜川産骨材(密度:2.65g/cm
3)を使用した。
【表2】
【0036】
(評価試験)
得られた各種のコンクリートの圧縮強度および膨張ひずみを評価した。具体的な評価は下記の方法で行った。
(1)圧縮強度
圧縮強度は、JIS A 1108に準拠し、5℃環境下でコンクリート供試体を養生し、材齢150分は5℃封かん養生、材齢28日は5℃水中養生における強度を測定した。
(2)膨張ひずみ
膨張ひずみは、脱型は材齢24時間で実施し,基長の測定を材齢7日から24時間に変更した以外はJIS A 1129に準拠してひずみを測定した。その後、得られたコンクリート供試体を5℃水中で養生しながら膨張ひずみを測定した。
【0037】
(評価試験結果)
評価試験結果を表3に示す。水硬性材料の化学成分が所定の範囲に入る実施例(No.1~6)においては、5℃における材齢28日の膨張ひずみが500×10-6以下であり、低温環境下でも膨張量が抑制されており、かつ材齢150分における圧縮強度は20N/mm2以上であり良好な初期強度発現性を有するコンクリートが得られることが分かった。
【0038】
一方、Al
2O
3含有量、Al
2O
3含有量とSO
3含有量の合計量、SO
3含有量とのAl
2O
3含有量の質量比のうち少なくとも一つが規定の範囲を外れる配合(No.7~14)では、材齢150分の圧縮強度が20N/mm
2に達しないか、もしくは材齢28日の膨張ひずみが500×10
-6以上と大きくなった。
【表3】