(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】有機繊維用サイジング剤、有機繊維、織物、及び積層物
(51)【国際特許分類】
D06M 15/55 20060101AFI20220606BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
D06M15/55
B32B5/28 Z
(21)【出願番号】P 2017253171
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】森 三佐雄
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/172200(WO,A1)
【文献】特開2011-246608(JP,A)
【文献】特開2013-001758(JP,A)
【文献】特開昭47-039396(JP,A)
【文献】特開昭56-034767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
C08J 5/04- 5/10,
5/24
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に2個以上の脂環式エポキシ基を有するエポキシ化合物(A)と分子内に2個以上のアミノ基を有するアミン化合物(B)とが付加した構造を有するエポキシ-アミン付加物又はその誘導体である成分[I]、並びに、ポリオレフィンのエポキシ化物又はその誘導体である成分[II]からなる群より選択される少なくとも一種含有
し、
前記エポキシ化合物(A)が、下記式(a)
【化1】
[式中、Xは単結合、又は1以上の原子を有する二価の基を示す]
で表される化合物であり、前記アミン化合物(B)が、下記式(b-1)
【化2】
[式(b-1)中、R
2及びR
3は、同一又は異なって、直鎖、分岐鎖、若しくは環状の二価の脂肪族炭化水素基、又は、直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の1以上と環状の脂肪族炭化水素基の1以上とが直接又はヘテロ原子を含む連結基を介して結合した二価の基を示す。qは、0又は1以上の整数を示す。]
で表されるアミン化合物(B1)、下記式(b-2)
【化3】
[式(b-2)中、R
4及びR
5は、同一又は異なって、直鎖、分岐鎖、若しくは環状の二価の脂肪族炭化水素基、又は、直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の1以上と環状の脂肪族炭化水素基の1以上とが連結して形成される二価の基を示す。rは、1以上の整数を示す。]
で表されるアミン化合物(B2)、及び下記式(b-3)
【化4】
[式(b-3)中、R
6及びR
8は、同一又は異なって、炭素数1~4のアルキレン基、又は炭素数6~12のアリーレン基を示す。sは、0又は1を示す。R
7は、一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の硫黄原子含有基、一価の窒素原子含有基、又はハロゲン原子を示す。tは、0~10の整数を示す。]
で表されるアミン化合物(B3)からなる群より選択される少なくとも一種であ
り、
強化繊維を用いた繊維強化複合材料と積層させる織物を形成するポリフェニレンサルファイド繊維の被覆に用いる、サイジング剤。
【請求項2】
前記成分[I]が、下記成分[I-1]、成分[I-2]、及び成分[I-3]からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載のサイジング剤。
成分[I-1]:前記エポキシ化合物(A)と前記アミン化合物(B)とが付加した構造を有し、分子内に2個以上のアミノ基を有するエポキシ-アミン付加物
成分[I-2]:成分[I-1]にラクトン化合物(C)が開環付加した構造を有するラクトン変性エポキシ-アミン付加物
成分[I-3]:成分[I-1]に、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)が付加した構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート変性エポキシ-アミン付加物
【請求項3】
前記成分[II]が、ポリオレフィンのエポキシ化物とエチレン性不飽和単量体(F)とが付加した構造を有する脂肪族エポキシ化合物誘導体である請求項1又は2に記載のサイジング剤。
【請求項4】
前記成分[II]がポリオレフィンのエポキシ化物であり、さらに、(iii)界面活性剤、(iv)高分子分散剤、及び(v)側鎖に重合性不飽和基を有しない水溶性若しくは水分散性ビニル重合体からなる群より選択される一種以上の水性化成分(G)と、水系媒質(H)とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のサイジング剤。
【請求項5】
前記ポリオレフィンのエポキシ化物がエポキシ化ポリブタジエンである請求項1~4のいずれか一項に記載のサイジング剤。
【請求項6】
前記サイジング剤中の前記成分[I]及び前記成分[II]の含有量(両方含む場合は成分[I]と成分[II]の総量)は溶媒以外の前記サイジング剤の総量に対して、50重量%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のサイジング剤。
【請求項7】
ポリフェニレンサルファイド繊維が請求項1~
6のいずれか一項に記載のサイジング剤により被覆されているサイジング剤塗布有機繊維。
【請求項8】
請求項
7に記載のサイジング剤塗布有機繊維を含む織物。
【請求項9】
請求項
8に記載の織物と繊維強化複合材料とが積層された積層物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維用サイジング剤、該有機繊維用サイジング剤により有機繊維が被覆されたサイジング剤塗布有機繊維、該サイジング剤塗布有機繊維を用いた織物、及び該織物と繊維強化複合材料との積層物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維と樹脂との複合材料である繊維強化複合材料は、一般にサイジング剤(収束剤)が使用されている。上記サイジング剤は、糊剤として炭素繊維等の強化繊維に塗布し、収束性の乏しい強化繊維の高次加工性を向上させることを目的として使用されている。
【0003】
上記サイジング剤としては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(特許文献1、2参照)、ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物にエポキシ基を付加したもの(特許文献3、4参照)等の芳香族エポキシ化合物を含むもの、ウレタンエマルジョン等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭50-059589号公報
【文献】特開昭57-171767号公報
【文献】特開昭61-028074号公報
【文献】特開平01-272867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、強化繊維以外の有機繊維については、濡れ性が良いサイジング剤が存在しなかったため、サイジング剤が使用されないことが通常であった。このため、強化繊維を用いた繊維強化複合材料を有機繊維の織物に貼り合わせた場合に、繊維強化複合材料と有機繊維の織物との密着性が悪いという問題があった。なお、上記特許文献1~4に記載のサイジング剤等、強化繊維に用いるサイジング剤を有機繊維に用いた場合、有機繊維に対する濡れ性が悪く、また、繊維強化複合材料と有機繊維の織物との密着性にも劣っていた。
【0006】
従って、本発明の目的は、有機繊維に対する濡れ性に優れ、強化繊維(特に、炭素繊維)を用いた繊維強化複合材料との密着性に優れる有機繊維の織物を形成できる有機繊維用サイジング剤を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、繊維強化複合材料との密着性に優れる織物及び該織物を形成するサイジング剤塗布有機繊維を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、繊維強化複合材料と有機繊維の織物との密着性に優れる、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の積層物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エポキシ化合物の中でも、特定のエポキシ化合物、より具体的には特定のエポキシ-アミン付加物、脂肪族エポキシ化合物、及びこれらの誘導体が、共通して有機繊維に対する濡れ性に優れ、繊維強化複合材料との密着性に優れる有機繊維の織物を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、分子内に2個以上の脂環式エポキシ基を有するエポキシ化合物(A)と分子内に2個以上のアミノ基を有するアミン化合物(B)とが付加した構造を有するエポキシ-アミン付加物又はその誘導体である成分[I]、並びに、脂肪族エポキシ化合物(E)又はその誘導体である成分[II]からなる群より選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする有機繊維用サイジング剤を提供する。
【0009】
上記成分[I]は、下記成分[I-1]、成分[I-2]、及び成分[I-3]からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
成分[I-1]:エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)とが付加した構造を有し、分子内に2個以上のアミノ基を有するエポキシ-アミン付加物
成分[I-2]:成分[I-1]にラクトン化合物(C)が開環付加した構造を有するラクトン変性エポキシ-アミン付加物
成分[I-3]:成分[I-1]に、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)が付加した構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート変性エポキシ-アミン付加物
【0010】
上記エポキシ化合物(A)は、下記式(a)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
[式中、Xは単結合、又は1以上の原子を有する二価の基を示す。]
【0011】
上記アミン化合物(B)は、下記式(b-1)
【化2】
[式(b-1)中、R
2及びR
3は、同一又は異なって、直鎖、分岐鎖、若しくは環状の二価の脂肪族炭化水素基、又は、直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の1以上と環状の脂肪族炭化水素基の1以上とが直接又はヘテロ原子を含む連結基を介して結合した二価の基を示す。qは、0又は1以上の整数を示す。]
で表されるアミン化合物(B1)、下記式(b-2)
【化3】
[式(b-2)中、R
4及びR
5は、同一又は異なって、直鎖、分岐鎖、若しくは環状の二価の脂肪族炭化水素基、又は、直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の1以上と環状の脂肪族炭化水素基の1以上とが連結して形成される二価の基を示す。rは、1以上の整数を示す。]
で表されるアミン化合物(B2)、及び下記式(b-3)
【化4】
[式(b-3)中、R
6及びR
8は、同一又は異なって、炭素数1~4のアルキレン基、又は炭素数6~12のアリーレン基を示す。sは、0又は1を示す。R
7は、一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の硫黄原子含有基、一価の窒素原子含有基、又はハロゲン原子を示す。tは、0~10の整数を示す。]
で表されるアミン化合物(B3)からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0012】
上記成分[II]は、脂肪族エポキシ化合物(E)とエチレン性不飽和単量体(F)とが付加した構造を有する脂肪族エポキシ化合物誘導体であることが好ましい。
【0013】
上記有機繊維用サイジング剤は、上記成分[II]が脂肪族エポキシ化合物(E)であり、さらに、(iii)界面活性剤、(iv)高分子分散剤、及び(v)側鎖に重合性不飽和基を有しない水溶性若しくは水分散性ビニル重合体からなる群より選択される一種以上の水性化成分(G)と、水系媒質(H)とを含んでいてもよい。
【0014】
上記脂肪族エポキシ化合物(E)は、エポキシ化ポリブタジエンであることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、有機繊維が上記有機繊維用サイジング剤により被覆されているサイジング剤塗布有機繊維を提供する。
【0016】
また、本発明は、上記サイジング剤塗布有機繊維を含む織物を提供する。
【0017】
また、本発明は、上記織物と繊維強化複合材料とが積層された積層物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機繊維用サイジング剤は、特定のエポキシ化合物又はその誘導体を含むことにより、有機繊維に対する濡れ性に優れる。また、本発明の有機繊維用サイジング剤により被覆された有機繊維(サイジング剤塗布有機繊維)の織物は、強化繊維(特に、炭素繊維)を用いた繊維強化複合材料との密着性に優れる。さらに上記サイジング塗布有機繊維を用いることにより、高い機械物性(特に、強靭性)を有する織物及び積層物が高い生産性で得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の有機繊維用サイジング剤は、分子内に2個以上の脂環式エポキシ基を有するエポキシ化合物(A)と分子内に2個以上のアミノ基を有するアミン化合物(B)とが付加した構造を有するエポキシ-アミン付加物若しくはその誘導体である成分[I](以下、単に「成分[I]」と称する場合がある)、又は、脂肪族エポキシ化合物若しくはその誘導体である成分[II](以下、単に「成分[II]」と称する場合がある)を必須成分として含む組成物(有機繊維強化用として使用される組成物)である。本発明の有機繊維用サイジング剤はこのような成分[I]又は成分[II]を必須成分として含むことにより、有機繊維に対する濡れ性が良好である。このため、本発明の有機繊維用サイジング剤により有機繊維を被覆したサイジング剤塗布有機繊維を用いることにより、繊維強化複合材料との密着性に優れる織物を形成できる有機繊維を得ることができる。なお、本発明の有機繊維用サイジング剤は、成分[I]及び成分[II]以外のその他の任意成分を含んでいてもよい。
【0020】
[成分[I]]
本発明の有機繊維用サイジング剤における成分[I]であるエポキシ-アミン付加物又はその誘導体は、分子内に2個以上の脂環式エポキシ基を有するエポキシ化合物(A)(以下、単に「エポキシ化合物(A)」と称する場合がある)と分子内に2個以上のアミノ基を有するアミン化合物(B)(以下、単に「アミン化合物(B)」と称する場合がある)とが付加した構造を有する。即ち、成分[I]は、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)との反応により得られるエポキシ-アミン付加物、又はその誘導体である。
【0021】
成分[I]としては、特に限定されないが、中でも、下記成分[I-1]、成分[I-2]、及び成分[I-3]からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
成分[I-1]:エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)とが付加した構造を有し、分子内に2個以上のアミノ基を有するエポキシ-アミン付加物
成分[I-2]:成分[I-1]にラクトン化合物(C)が開環付加した構造を有するラクトン変性エポキシ-アミン付加物
成分[I-3]:成分[I-1]に、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)が付加した構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート変性エポキシ-アミン付加物
【0022】
1.成分[I-1]
成分[I-1]は、分子内に2個以上のアミノ基を有するエポキシ-アミン付加物であって、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)とが付加した構造を有するエポキシ-アミン付加物(即ち、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)との反応により得られるエポキシ-アミン付加物)である。より詳しくは、上記エポキシ-アミン付加物は、エポキシ化合物(A)が有する脂環式エポキシ基と、アミン化合物(B)が有するアミノ基とを反応させることにより生成する、1分子以上のエポキシ化合物(A)と1分子以上(特に2分子以上)のアミン化合物(B)の付加物である。なお、本明細書においては、単に「アミノ基」という場合には-NH2(無置換アミノ基)を意味するものとし、「-NH-基」には当該無置換アミノ基(-NH2)は含まれないものとする。
【0023】
1-1.エポキシ化合物(A)
エポキシ化合物(A)は、分子内に2個以上の脂環式エポキシ基を有するポリエポキシ化合物(脂環式エポキシ化合物)である。なお、本明細書における「脂環式エポキシ基」とは、脂環(脂肪族環)を構成する隣接する2つの炭素原子と、酸素原子とで構成されるエポキシ基を意味する。
【0024】
エポキシ化合物(A)が有する脂環式エポキシ基は、特に限定されないが、例えば、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環等の炭素数4~16の脂肪族環(脂肪族炭化水素環)を構成する隣接する2つの炭素原子と、酸素原子とで構成されるエポキシ基等が挙げられる。中でも、上記脂環式エポキシ基としては、シクロヘキサン環を構成する2つの炭素原子と、酸素原子とで構成されるエポキシ基(シクロヘキセンオキシド基)が好ましい。
【0025】
エポキシ化合物(A)が分子内に有する脂環式エポキシ基の数は2個以上であればよく、特に限定されないが、2~6個が好ましく、より好ましくは2~5個、さらに好ましくは2個又は3個である。脂環式エポキシ基の数を6個以下とすることにより、成分[I]の水溶性又は水分散性が向上し、有機繊維用サイジング剤の安定性がより向上する傾向がある。
【0026】
エポキシ化合物(A)としては、特に、下記式(a)で表される化合物(エポキシ化合物)が好ましい。
【化5】
【0027】
上記式(a)におけるXは、単結合又は1以上の原子を有する二価の基(連結基)を示す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、これらの基の2以上が連結した基等が挙げられる。なお、式(a)におけるシクロヘキサン環(シクロヘキセンオキシド基)を構成する炭素原子の1以上には、アルキル基等の置換基が結合していてもよい。
【0028】
上記式(a)中のXが単結合であるエポキシ化合物(A)としては、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサンが挙げられる。
【0029】
上記二価の炭化水素基としては、炭素数が1~18の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基、二価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数が1~18の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。上記二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等の二価のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0030】
上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8の直鎖又は分岐鎖状アルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化された炭素数2~4のアルケニレン基である。
【0031】
上記連結基Xとしては、特に、酸素原子を含有する連結基が好ましく、具体的には、-CO-、-O-CO-O-、-CO-O-、-O-、-CO-NH-、エポキシ化アルケニレン基;これらの基が複数個連結した基;これらの基の1又は2以上と二価の炭化水素基の1又は2以上とが連結した基等が挙げられる。二価の炭化水素基としては上記で例示したものが挙げられる。
【0032】
上記式(a)で表される化合物の代表的な例としては、下記式(a-1)~(a-10)で表される化合物、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エタン、2,3-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)オキシラン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル等が挙げられる。なお、下記式(a-5)、(a-7)中のl、mは、それぞれ1~30の整数を表す。下記式(a-5)中のR’は炭素数1~8のアルキレン基を示し、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、s-ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基が挙げられる。中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基が好ましい。下記式(a-9)、(a-10)中のn1~n6は、それぞれ1~30の整数を示す。
【化6】
【化7】
【0033】
エポキシ化合物(A)としては、上記式(a)で表される化合物が好ましく、特に、耐熱性や取り扱い性の観点で、上記式(a-1)で表される化合物[3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート;商品名「セロキサイド2021P」((株)ダイセル製)等]が好ましい。
【0034】
1-2.アミン化合物(B)
アミン化合物(B)は、分子内に2個以上のアミノ基(-NH2;無置換アミノ基)を有するポリアミン化合物である。アミン化合物(B)が分子内に有するアミノ基の数は2個以上であればよく、特に限定されないが、2~6個が好ましく、より好ましくは2~5個、さらに好ましくは2個又は3個である。アミノ基の数を6個以下とすることにより、成分[I]の水溶性又は水分散性が向上し、有機繊維用サイジング剤の安定性がより向上する傾向がある。
【0035】
アミン化合物(B)としては、例えば、下記式(b)で表されるp価のアミン化合物が挙げられる。
【化8】
【0036】
上記式(b)におけるpは、2以上の整数を示す。pは、2以上の整数であればよく、特に限定されないが、2~6が好ましく、より好ましくは2~5、さらに好ましくは2又は3である。
【0037】
上記式(b)におけるR1は、式中に示される窒素原子との結合部位に炭素原子を有するp価の有機基(有機残基)を示す。上記R1としては、例えば、直鎖又は分岐鎖状のp価の脂肪族炭化水素基;環状のp価の脂肪族炭化水素基;p価の芳香族炭化水素基;これらの基の2以上が直接又はヘテロ原子を含む連結基(二価の基)を介して結合したp価の基等が挙げられる。
【0038】
上記直鎖又は分岐鎖状のp価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、直鎖又は分岐鎖状の二価の脂肪族炭化水素基、直鎖又は分岐鎖状の三価の脂肪族炭化水素基、直鎖又は分岐鎖状の四価の脂肪族炭化水素基等が挙げられる。上記直鎖又は分岐鎖状の二価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキレン基[例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、へプタデシレン基、オクタデシレン基等の炭素数1~30(C1-30)の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基(好ましくはC1-18アルキレン基)等]、アルケニレン基[上記アルキレン基に対応するアルケニレン基、例えば、ビニレン基、アリレン基等の炭素数2~30の直鎖又は分岐鎖状アルケニレン基(好ましくはC2-18アルケニレン基)等]等が挙げられる。上記直鎖又は分岐鎖状の三価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルカン-トリイル基[例えば、プロパン-トリイル基、1,1,1-トリメチルプロパン-トリイル基等の炭素数3~30の直鎖又は分岐鎖状アルカン-トリイル基(好ましくはC3-18アルカン-トリイル基)等]等が挙げられる。上記直鎖又は分岐鎖状の四価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルカン-テトライル基[例えば、ブタン-テトライル基、2,2-ジメチルプロパン-テトライル基等の炭素数4~30の直鎖又は分岐鎖状アルカン-テトライル基(好ましくはC4-18アルカン-テトライル基)等]等が挙げられる。
【0039】
上記直鎖又は分岐鎖状のp価の脂肪族炭化水素基は、種々の置換基を有するものであってもよい。即ち、上記直鎖又は分岐鎖状のp価の脂肪族炭化水素基が有する水素原子の少なくとも1つが種々の置換基で置換されたものであってもよい。上記置換基としては、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシ基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基等)、カルボキシ基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基等)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、複素環式基等が挙げられる。上記ヒドロキシ基やカルボキシ基は、有機合成の分野で慣用の保護基(例えば、アシル基、アルコキシカルボニル基、有機シリル基、アルコキシアルキル基、オキサシクロアルキル基等)で保護されていてもよい。
【0040】
上記置換又は無置換カルバモイル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等のアルキル基、若しくはアセチル基、ベンゾイル基等のアシル基等を有するカルバモイル基、又は無置換カルバモイル基等が挙げられる。また、上記置換又は無置換アミノ基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等のアルキル基、若しくはアセチル基、ベンゾイル基等のアシル基等を有するアミノ基、又は、無置換アミノ基等が挙げられる。
【0041】
上記複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環、オキセタン環等の4員環、フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環、4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環、ベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環等の縮合環、3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環等)、ヘテロ原子として硫黄原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、チアジアゾール環等の5員環、4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環、ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環、インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)等が挙げられる。上記複素環式基は置換基を有する複素環式基であってもよく、当該置換基としては、例えば、上記直鎖又は分岐鎖状のp価の脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基等のC1-4アルキル基等)、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)等の一価の炭化水素基等が挙げられる。また、上記複素環式基における複素環を構成する窒素原子は、慣用の保護基(例えば、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アラルキル基、アシル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基等)により保護されていてもよい。
【0042】
上記環状のp価の脂肪族炭化水素基としては、環状の二価の脂肪族炭化水素基、環状の三価の脂肪族炭化水素基、環状の四価の脂肪族炭化水素基等が挙げられる。上記環状の二価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキレン基[例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等の炭素数3~20のシクロアルキレン基(好ましくはC3-15シクロアルキレン基)等]、シクロアルケニレン基[上記シクロアルキレン基に対応するシクロアルケニレン基、例えば、シクロヘキセニレン基等の炭素数3~20のシクロアルケニレン基(好ましくはC3-15シクロアルケニレン基)等]、シクロアルキリデン基[上記シクロアルキレン基に対応するシクロアルキリデン基、例えば、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基等の炭素数3~20のシクロアルキリデン基(好ましくはC3-15シクロアルキリデン基)等]、シクロアルカジエニレン基[上記シクロアルキレン基に対応するシクロアルカジエニレン基、例えば、シクロペンタジエニレン基等の炭素数4~20のシクロアルカジエニレン基(好ましくはC4-15シクロアルカジエニレン基)等]、二価の多環式炭化水素基[例えば、スピロ炭化水素(例えば、スピロ[4.4]ノナン、スピロ[4.5]デカン等)-ジイル基等の二価のスピロ炭化水素基;環集合炭化水素(例えば、ビシクロプロピル等)-ジイル基等の二価の環集合炭化水素基;橋かけ環炭化水素(例えば、ビシクロ[2.1.0]ペンタン、ビシクロ[3.2.1]オクタン、ノルボルナン、ノルボルネン、アダマンタン等)-ジイル基等の二価の橋かけ環炭化水素基等]等が挙げられる。上記環状の三価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、シクロアルカン-トリイル基、多環式炭化水素-トリイル基等が挙げられる。上記環状の四価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、シクロアルカン-テトライル基、多環式炭化水素-テトライル基等が挙げられる。上記環状のp価の脂肪族炭化水素基は、置換基を有するものであってもよく、当該置換基としては、例えば、上記直鎖又は分岐鎖状のp価の脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基等のC1-4アルキル基等)、アルケニル基、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)等の一価の炭化水素基等が挙げられる。
【0043】
上記p価の芳香族炭化水素基としては、構造式上、芳香族炭化水素からp個の水素原子を除いた基が挙げられる。上記芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、9-フェニルアントラセン、9,10-ジフェニルアントラセン、ナフタセン、ピレン、ペリレン、ビフェニル、ビナフチル、ビアンスリル等が挙げられる。上記p価の芳香族炭化水素基は、置換基を有するものであってもよく、当該置換基としては、例えば、上記直鎖又は分岐鎖状のp価の脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基等のC1-4アルキル基等)、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等の一価の炭化水素基等が挙げられる。
【0044】
上記ヘテロ原子を含む連結基(二価の基)としては、例えば、-CO-、-O-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CO-NH-、-CO-NRa-(置換アミド基;Raはアルキル基を示す)、-NH-、-NRb-(Rbはアルキル基を示す)、-SO-、-SO2-等のヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子等)を含む二価の基、これらが複数個連結した二価の基等が挙げられる。
【0045】
より具体的には、アミン化合物(B)としては、下記式(b-1)で表されるアミン化合物(B1)、下記式(b-2)で表されるアミン化合物(B2)、下記式(b-3)で表されるアミン化合物(B3)、下記式(b-4)で表されるアミン化合物(B4)等が挙げられる。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0046】
上記式(b-1)中、R2及びR3は、同一又は異なって、直鎖、分岐鎖、若しくは環状の二価の脂肪族炭化水素基、又は、直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の1以上と環状の脂肪族炭化水素基の1以上とが直接若しくはヘテロ原子を含む連結基(二価の基)を介して結合した二価の基を示す。上記直鎖、分岐鎖、又は環状の二価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、R1として例示した置換又は無置換の直鎖、分岐鎖、又は環状の二価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。また、上述の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の1以上と環状の脂肪族炭化水素基の1以上とが直接結合した2価の基としては、例えば、後述の式(b-3)で表される構造式から両末端の2個のアミノ基を除いて形成される基として例示する基(例えば、シクロヘキシレン-アルキレン基、アルキレン-シクロヘキシレン-アルキレン基等)等が挙げられる。さらに、ヘテロ原子を含む連結基としては、例えば、R1におけるヘテロ原子を含む連結基として例示した基が挙げられる。
【0047】
中でも、上記R2としては、直鎖又は分岐鎖状の二価の脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基、さらに好ましくは炭素数2~4の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基(特に、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基)である。
【0048】
中でも、上記R3としては、直鎖又は分岐鎖状の二価の脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基、さらに好ましくは炭素数2~4の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基(特に、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基)である。なお、qが2以上の整数の場合には、それぞれの括弧内のR3(複数のR3)は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、二種以上のR3を有する場合、qが付された括弧内の構造の付加形態(重合形態)はランダム型であってもよいし、ブロック型であってもよい。
【0049】
上記式(b-1)中、qは、0又は1以上の整数を示す。qとしては、例えば、0~100が好ましく、より好ましくは0~70、さらに好ましくは1~30、特に好ましくは1~8である。qを100以下とすることにより、成分[I]の水溶性又は水分散性が向上し、有機繊維用サイジング剤の安定性がより向上する傾向がある。また、成分[I]の耐熱性、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性がより向上する傾向がある。一方、qを1以上とすることにより、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性がより向上する傾向がある。
【0050】
なお、上記式(b-1)におけるR2とR3は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
中でも、上記式(b-1)で表される化合物としては、成分[I]の水溶性、有機繊維用サイジング剤の有機繊維に対する濡れ性、耐熱性の観点で、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)が好ましく、より好ましくはトリエチレンテトラミンである。また、上記式(b-1)で表される化合物としては、市販品を使用することもできる。
【0052】
上記式(b-2)におけるR4は、直鎖、分岐鎖、若しくは環状の二価の脂肪族炭化水素基、又は、直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の1以上と環状の脂肪族炭化水素基の1以上とが連結して形成される二価の基を示す。上記R4としては、例えば、上述のR2及びR3として例示した二価の基が挙げられる。
【0053】
中でも、上記R4としては、直鎖又は分岐鎖状の二価の脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基、さらに好ましくは炭素数2~4の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基(特に、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基)である。
【0054】
上記式(b-2)におけるR5は、直鎖、分岐鎖、若しくは環状の二価の脂肪族炭化水素基、又は、直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の1以上と環状の脂肪族炭化水素基の1以上とが連結して形成される二価の基を示す。上記R5としては、例えば、上述のR2及びR3として例示した二価の基が挙げられる。
【0055】
中でも、上記R5としては、直鎖又は分岐鎖状の二価の脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基、さらに好ましくは炭素数2~4の直鎖又は分岐鎖状アルキレン基(特に、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基)である。なお、rが2以上の整数の場合には、それぞれの括弧内のR5(複数のR5)は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、二種以上のR5を有する場合、rが付された括弧内の構造の付加形態(重合形態)はランダム型であってもよいし、ブロック型であってもよい。
【0056】
上記式(b-2)におけるr(rが付された括弧内の構造単位の繰り返し数)は、1以上の整数を示す。rとしては、例えば、1~100が好ましく、より好ましくは1~70、さらに好ましくは1~30である。rを100以下とすることにより、成分[I]の水溶性が向上し、また、成分[I]の耐熱性、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性がより向上する傾向がある。一方、rを1以上とすることにより、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性がより向上する傾向がある。
【0057】
なお、上記式(b-2)におけるR4とR5は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0058】
中でも、上記式(b-2)で表される化合物としては、有機繊維用サイジング剤の有機繊維に対する濡れ性の観点で、アミン末端(両末端アミノ基)ポリエチレングリコール、アミン末端ポリプロピレングリコール、アミン末端ポリブチレングリコールが好ましく、より好ましくはアミン末端ポリプロピレングリコールである。また、上記式(b-2)で表される化合物としては、市販品(例えば、HUNTSMAN社製、商品名「JEFFAMINE」シリーズ等)を使用することもできる。
【0059】
上記式(b-3)におけるR6及びR8は、同一又は異なって、炭素数1~4のアルキレン基、又は炭素数6~12のアリーレン基を示す。R6及びR8の具体例としては、式(b)中のR1として例示した炭素数1~4のアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基(芳香族炭化水素から2個の水素原子を除いた基)等が挙げられる。
【0060】
上記式(b-3)におけるsは、0又は1を示す。
【0061】
上記式(b-3)におけるR7は、式中に示されるシクロヘキサン環上の置換基を示し、同一又は異なって、一価の有機基、一価の酸素原子含有基、一価の硫黄原子含有基、一価の窒素原子含有基、又はハロゲン原子を示す。R7としては、具体的には、例えば、アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アミノ基、ニトロ基、モノ又はジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、エポキシ基、グリシジル基、アシル基、シアノ基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、カルバモイル基、スルホ基等が挙げられる。また、上記式(b-3)におけるtは、式中に示されるシクロヘキサン環上の置換基(R7)の数を示し、0~10の整数を示す。上記式(b-3)におけるtが2以上の整数である場合、それぞれのR7は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0062】
より詳しくは、上記式(b-3)で表される構造式から両末端の2個のアミノ基を除いて形成される基としては、例えば、1,2-シクロヘキシレン-メチレン基、1,3-シクロヘキシレン-メチレン基、1,4-シクロヘキシレン-メチレン基、シクロヘキシリデン-メチレン基、1,2-シクロヘキシレン-エチレン基、1,3-シクロヘキシレン-エチレン基、1,4-シクロヘキシレン-エチレン基、シクロヘキシリデン-エチレン基、メチレン-1,5,5-トリメチル-1,3-シクロヘキシレン基(イソホロンジアミンから2つのアミノ基を除いて形成される二価の基)等のシクロヘキシレン-アルキレン基;1,2-シクロヘキシレン-フェニレン基、1,3-シクロヘキシレン-フェニレン基、1,4-シクロヘキシレン-フェニレン基等のシクロヘキシレン-アリーレン基;メチレン-1,2-シクロヘキシレン-メチレン基、メチレン-1,3-シクロヘキシレン-メチレン基、メチレン-1,4-シクロヘキシレン-メチレン基等のアルキレン-シクロヘキシレン-アルキレン基;メチレン-1,2-シクロヘキシレン-フェニレン基、メチレン-1,3-シクロヘキシレン-フェニレン基、メチレン-1,4-シクロヘキシレン-フェニレン基等のアルキレン-シクロヘキシレン-フェニレン基;フェニレン-1,2-シクロヘキシレン-フェニレン基、フェニレン-1,3-シクロヘキシレン-フェニレン基、フェニレン-1,4-シクロヘキシレン-フェニレン基等のアリーレン-シクロヘキシレン-アリーレン基等が挙げられる。
【0063】
中でも、上記式(b-3)で表される化合物としては、成分[I]の耐熱性の観点で、イソホロンジアミンが好ましい。また、上記式(b-3)で表される化合物としては、市販品(例えば、エボニックジャパン(株)製、商品名「ベスタミンIPD」)を使用することもできる。
【0064】
上記式(b-4)におけるu(uが付された括弧内の構造単位の繰り返し数)は、1以上の整数を示し、好ましくは1~100、より好ましくは1~70、さらに好ましくは1~30である。また、上記式(b-4)におけるv(R9に結合したvが付された括弧内の構造の数)は、3以上の整数を示し、好ましくは3~6、より好ましくは3~5、さらに好ましくは3又は4である。
【0065】
上記式(b-4)におけるR10は、直鎖、分岐鎖、若しくは環状の二価の脂肪族炭化水素基、又は、直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の1以上と環状の脂肪族炭化水素基の1以上とが連結して形成される二価の基を示し、例えば、上述のR2及びR3として例示した二価の基が挙げられる。また、R9は、式中に示される酸素原子との結合部位に炭素原子を有するv価の有機基を示し、例えば、R1と同様のもの(例えば、直鎖又は分岐鎖状のp価の脂肪族炭化水素基、環状のp価の脂肪族炭化水素基等)が例示される。
【0066】
上記式(b-4)で表される化合物としては、市販品(例えば、HUNTSMAN社製、商品名「JEFFAMINE」シリーズ等)を使用することができる。
【0067】
アミン化合物(B)としては、特に、有機繊維用サイジング剤の有機繊維に対する濡れ性向上効果、成分[I]の耐熱性等の観点で、式(b-1)で表される化合物、式(b-2)で表される化合物、式(b-3)で表される化合物が好ましく、より好ましくは式(b-1)で表される化合物、式(b-3)で表される化合物である。
【0068】
1-3.エポキシ-アミン付加物の製造方法;エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の反応
上記エポキシ-アミン付加物(即ち、成分[I-1])は、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)とを反応させることにより製造できる。より具体的には、エポキシ化合物(A)が有する脂環式エポキシ基と、アミン化合物(B)が有するアミノ基とを反応させることにより、上記エポキシ-アミン付加物が生成する。
【0069】
上記エポキシ-アミン付加物の原料としてのエポキシ化合物(A)及びアミン化合物(B)は、有機繊維用サイジング剤に対して付与しようとする特性に応じて、適宜選択することができる。上記エポキシ-アミン付加物は、例えば、特に成分[I]の水溶性又は水分散性、有機繊維用サイジング剤の有機繊維に対する濡れ性、耐熱性、取り扱い性を重視する場合には、式(a)で表される化合物と、アミン化合物(B1)(さらに好ましくはアミン化合物(B1)及び(B3)の両方)とを反応させることにより得られるエポキシ-アミン付加物(「エポキシ-アミン付加物(i)」と称する)であることが好ましい。また、例えば、特に耐熱性を重視する場合には、式(a)で表される化合物と、アミン化合物(B2)と、アミン化合物(B3)とを反応させることにより得られるエポキシ-アミン付加物(「エポキシ-アミン付加物(ii)」と称する)であることが好ましい。なお、エポキシ-アミン付加物(i)及び(ii)においては、上記必須のエポキシ化合物(A)及びアミン化合物(B)以外のエポキシ化合物やアミン化合物を併用することもできる。例えば、エポキシ-アミン付加物(i)の原料としてアミン化合物(B1)以外のアミン化合物(例えば、アミン化合物(B2)、アミン化合物(B3)、アミン化合物(B4)等)を併用することもできるし、エポキシ-アミン付加物(ii)の原料としてアミン化合物(B2)及びアミン化合物(B3)以外のアミン化合物(例えば、アミン化合物(B1)、アミン化合物(B4)等)を併用することもできる。
【0070】
エポキシ-アミン付加物として、上述のエポキシ-アミン付加物(i)又はエポキシ-アミン付加物(ii)を使用した場合、成分[I]は熱分解温度が高く耐熱性に優れるものとなるため、高温での加工に適用可能であり、サイジング剤塗布有機繊維の生産性向上に寄与し得る。また、ある程度高いガラス転移温度を有するものとなるため、加工機(ロール等)等の汚染が防止され、取り扱い性に優れる。
【0071】
成分[I-1](例えば、エポキシ-アミン付加物(i)、(ii))の原料であるエポキシ化合物(A)の総量(100重量%)中の式(a)で表される化合物の割合は、特に限定されないが、80重量%以上が好ましく、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは98~100重量%である。式(a)で表される化合物の割合を80重量%以上とすることにより、有機繊維用サイジング剤の有機繊維に対する濡れ性、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性がより向上する傾向がある。
【0072】
エポキシ-アミン付加物(i)の原料であるアミン化合物(B)の総量(100重量%)中のアミン化合物(B1)の割合は、特に限定されないが、10重量%以上(例えば、10~100重量%)が好ましく、より好ましくは20~90重量%、さらに好ましくは50~80重量%である。アミン化合物(B1)の割合を上記範囲に制御することにより、成分[I]の水溶性又は水分散性、有機繊維用サイジング剤の有機繊維に対する濡れ性、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性がより向上する傾向がある。
【0073】
エポキシ-アミン付加物(i)の原料であるアミン化合物(B)の総量(100重量%)中のアミン化合物(B3)の割合は、特に限定されないが、10~70重量%が好ましく、より好ましくは20~60重量%、さらに好ましくは30~50重量%である。アミン化合物(B3)の割合を上記範囲に制御することにより、有機繊維用サイジング剤の有機繊維に対する濡れ性、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性が効率的に向上する傾向がある。
【0074】
エポキシ-アミン付加物(ii)の原料であるアミン化合物(B)の総量(100重量%)中のアミン化合物(B2)の割合は、特に限定されないが、10~90重量%が好ましく、より好ましくは20~80重量%、さらに好ましくは30~70重量%である。アミン化合物(B2)の割合を上記範囲に制御することにより、有機繊維用サイジング剤の有機繊維に対する濡れ性、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性が効率的に向上する傾向がある。
【0075】
エポキシ-アミン付加物(ii)の原料であるアミン化合物(B)の総量(100重量%)中のアミン化合物(B3)の割合は、特に限定されないが、10~90重量%が好ましく、より好ましくは20~80重量%、さらに好ましくは30~70重量%である。アミン化合物(B3)の割合を上記範囲に制御することにより、有機繊維用サイジング剤の有機繊維に対する濡れ性、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性が効率的に向上する傾向がある。
【0076】
上記反応(エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の反応)は、溶媒の存在下で進行させることもできるし、溶媒の非存在下で(即ち、無溶媒で)進行させることもできる。上記溶媒としては、特に限定されないが、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)とを均一に溶解又は分散できるものが好ましい。より具体的には、上記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。なお、溶媒は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0077】
上記反応における溶媒の使用量は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0078】
上記反応に付すエポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の割合は、特に限定されないが、上記反応におけるエポキシ化合物(A)が有する脂環式エポキシ基とアミン化合物(B)が有するアミノ基との割合[脂環式エポキシ基/アミノ基](当量比)が、0.05~1.00(より好ましくは0.10~0.95、さらに好ましくは0.15~0.90)となるように制御することが好ましい。上記割合[脂環式エポキシ基/アミノ基]を0.05(特に0.5)以上とすることにより、生成物中に未反応のアミン化合物(B)が残存しにくい傾向がある。一方、上記割合[脂環式エポキシ基/アミノ基]を1.00以下とすることにより、生成物中に未反応のエポキシ化合物(A)が残存しにくい傾向がある。
【0079】
上述のエポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の反応は、例えば、下記[1]の方法、下記[2]の方法、又は下記[3]の方法により進行させることができる。但し、上記反応を進行させる方法は、下記方法[1]~[3]に限定されるものではない。
[1]エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)とを反応容器に一括で仕込み、必要に応じて反応温度にまで加熱して両者を反応させる方法。
[2]エポキシ化合物(A)を仕込んで必要に応じて反応温度にまで加熱した反応容器に、アミン化合物(B)を逐次添加して、両者を反応させる方法。
[3]アミン化合物(B)を仕込んで必要に応じて反応温度にまで加熱した反応容器に、エポキシ化合物(A)を逐次添加して、両者を反応させる方法。
【0080】
なお、上記「逐次添加」とは、連続的添加(一定時間かけて添加する態様)又は断続的添加(複数回に分けて分割添加する態様)を意味する。
【0081】
上記方法[1]~[3]の中でも、反応熱の制御が容易であり、また、分子量が高くガラス転移温度の高いエポキシ-アミン付加物を生成させやすい点で、上記[2]の方法又は[3]の方法が好ましい。一方、用途によってはエポキシ-アミン付加物の分子量が低い方が好都合な場合があるが、このような場合には、上記[1]の方法により反応させることが好ましい。
【0082】
上記[2]の方法においてアミン化合物(B)を添加する速度は、特に限定されないが、例えば、添加するアミン化合物(B)の総量を100重量部とした場合、0.1~20重量部/分の範囲から適宜設定することができる。また、上記[3]の方法においてエポキシ化合物(A)を添加する速度は、特に限定されないが、例えば、添加するエポキシ化合物(A)の総量を100重量部とした場合、0.1~20重量部/分の範囲から適宜設定することができる。なお、添加するアミン化合物(B)又はエポキシ化合物(A)は、そのままの状態で添加することもできるし、溶媒に溶解又は分散させた溶液又は分散液の状態で添加することもできる。
【0083】
なお、アミン化合物(B)を二種以上使用する場合、上記[2]の方法においては、各アミン化合物(B)を混合した状態で滴下してもよいし、混合しない状態(それぞれ)で滴下してもよい。なお、後者の場合には、各アミン化合物(B)を同時に滴下することもできるし、逐次滴下することもできる。上記[3]の方法におけるエポキシ化合物(A)を二種以上使用する場合の滴下についても同様である。
【0084】
上記反応における温度(反応温度)は、特に限定されないが、30~280℃が好ましく、より好ましくは80~260℃、さらに好ましくは120~250℃である。反応温度を30℃以上とすることにより、反応速度が速くなりエポキシ-アミン付加物の生産性がより向上する傾向がある。一方、反応温度を280℃以下とすることにより、エポキシ化合物(A)やアミン化合物(B)の熱分解が抑制され、エポキシ-アミン付加物の収率がより向上する傾向がある。なお、上記反応中、反応温度は常に一定(実質的に一定)となるように制御することもできるし、段階的又は連続的に変化するように制御することもできる。
【0085】
上記反応を実施する時間(反応時間)は、特に限定されないが、0.2~20時間が好ましく、より好ましくは0.5~10時間、さらに好ましくは2~8時間である。反応時間を0.2時間以上とすることにより、エポキシ-アミン付加物の収率がより向上する傾向がある。一方、反応時間を20時間以下とすることにより、エポキシ-アミン付加物の生産性が向上する傾向がある。
【0086】
上記反応は、常圧下、加圧下、減圧下のいずれにおいても実施することができる。また、上記反応を実施する雰囲気も特に限定されず、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン等)中、空気中等のいずれの雰囲気においても実施することができる。
【0087】
上記反応は、特に限定されず、回分方式(バッチ式)、半回分方式、連続流通方式のいずれの方式によっても実施することができる。
【0088】
上記反応(エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の反応)により、エポキシ-アミン付加物が得られる。上記反応の後、得られたエポキシ-アミン付加物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知乃至慣用の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段等により分離精製することが可能である。
【0089】
成分[I-1]が分子内に有するアミノ基(-NH2;無置換アミノ基)の数は、2個以上であり、好ましくは2~10個、より好ましくは2~4個、さらに好ましくは2個又は3個である。また、成分[I-1]は、エポキシ基(特に、エポキシ化合物(A)由来の脂環式エポキシ基)を実質的に有しない。
【0090】
成分[I-1]におけるアミノ基(-NH2;無置換アミノ基)は、特に限定されないが、通常、成分[I-1](エポキシ-アミン付加物)の分子鎖末端(特に、直鎖状のエポキシ-アミン付加物の場合には該エポキシ-アミン付加物の分子鎖の両末端)に位置する。但し、これに限定されない。
【0091】
成分[I-1]は、上述のように、エポキシ化合物(A)の脂環式エポキシ基とアミン化合物(B)のアミノ基(-NH2;無置換アミノ基)が反応することにより生成する。成分[I-1]は、上記脂環式エポキシ基とアミノ基の反応により生成する-NH-基(置換アミノ基)(さらに、アミン化合物(B1)を使用する場合には、アミン化合物(B1)が有する-NH-基(qが1以上の場合))と、エポキシ化合物(A)の脂環式エポキシ基との反応性に乏しいためと推測されるが、通常、分子内に-NH-基が未反応の状態で残存する。成分[I-1]が分子内に有する-NH-基の数は、特に限定されないが、1~200個が好ましく、より好ましくは1~150個、さらに好ましくは2~100個である。成分[I-1]が-NH-基を有しない場合、エポキシ-アミン付加物の反応性が低下したり、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性向上の効果が十分に得られない場合がある。さらに、成分[I-1]の水溶性又は水分散性が低下する場合がある。なお、成分[I-1]が有する-NH-基の数は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の分子量を用いて、該成分[I-1]を構成するエポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の数を求めることにより算出することが可能である。
【0092】
上記に対して、例えば、グリシジル基を有するエポキシ化合物とアミン化合物(B)との反応により得られる化合物(エポキシ-アミン付加物)には、グリシジル基とアミノ基(無置換アミノ基)の反応により生成する-NH-基とグリシジル基との反応性が非常に高いため、通常、架橋構造が形成されてしまい、エポキシ化合物の当量が多い場合には-NH-基は実質的に残存しない。
【0093】
エポキシ-アミン付加物の数平均分子量は、特に限定されないが、200~40000が好ましく、より好ましくは300~30000、さらに好ましくは400~20000である。数平均分子量を200以上とすることにより、エポキシ-アミン付加物のガラス転移温度がある程度高くなり、加工機(ロール等)の汚染が抑制される傾向がある。また、サイジング剤塗布有機繊維に対して優れた風合いや取り扱い性を付与できる傾向がある。一方、数平均分子量を40000以下とすることにより、成分[I-1]の水溶性又は水分散性がより向上する傾向がある。なお、エポキシ-アミン付加物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の分子量を用いて算出することができる。
【0094】
エポキシ-アミン付加物のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-50~200℃が好ましく、より好ましくは-40~190℃、さらに好ましくは-30~180℃、特に好ましくは20~180℃である。エポキシ-アミン付加物のTgを-50℃以上(特に20℃以上)とすることにより、サイジング剤塗布有機繊維や織物の耐熱性や機械物性(強靭性等)がより向上する傾向がある。また、加工機(ロール等)の汚染が抑制され、また、サイジング剤塗布有機繊維に対して優れた風合いや取り扱い性を付与できる傾向がある。一方、エポキシ-アミン付加物のTgを200℃以下とすることにより、成分[I-1]の他の成分に対する配合が容易となる場合がある。なお、エポキシ-アミン付加物のTgは、示差走査熱量計(DSC)[例えば、セイコーインスツルメント(株)製装置等]を用いて、窒素流通下、25℃から20℃/分の昇温速度で200~230℃まで昇温し、次いで、20℃/分の冷却速度で-100℃まで冷却し(ここまでを1回目のスキャンとする)、引き続き、10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温し、次いで、20℃/分の冷却速度で25℃まで冷却する(1回目のスキャン終了からここまでを2回目のスキャンとする)ことにより測定を実施した上で、2回目のスキャンにおける昇温時のDSC曲線より求められる。
【0095】
エポキシ-アミン付加物の5%重量減少温度(Td5)は、特に限定されないが、280℃以上が好ましく、より好ましくは300℃以上である。エポキシ-アミン付加物の5%重量減少温度を280℃以上(特に300℃以上)とすることにより、成分[I-1]をいっそう高温での加工(例えば、サイジング剤塗布有機繊維の製造)に適用できる傾向がある。なお、エポキシ-アミン付加物の5%重量減少温度は、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)[例えば、セイコーインスツルメント(株)装置等]を用いて、窒素流通下、25℃から10℃/分の昇温速度で400℃まで昇温することにより求められる。
【0096】
上述のエポキシ-アミン付加物(i)は、下記式(I)で表される構成単位(構造単位;式(a)で表される化合物に由来する構成単位)と、下記式(II)で表される構成単位(アミン化合物(B1)に由来する構成単位)とを含み、両末端には、アミノ基、エポキシ基、水酸基等を有するエポキシ-アミン付加物である。エポキシ-アミン付加物(i)は、さらに、下記式(III)で表される構成単位を含むことが好ましい。
【化13】
[式(I)中、Xは、上記式(a)におけるものと同じ。]
【化14】
[式(II)中、R
2、R
3、及びqは、上記式(b-1)におけるものと同じ。]
【化15】
[式(III)中、R
6、R
7、R
8、s、及びtは、上記式(b-3)におけるものと同じ。]
【0097】
エポキシ-アミン付加物(i)は、エポキシ化合物(A)に由来する構成単位(例えば、式(I)で表される構成単位)と、アミン化合物(B)に由来する構成単位(例えば、式(II)で表される構成単位、式(III)で表される構成単位)とが交互に並んだ分子鎖を有する。そして、該分子鎖の両末端には、アミノ基、エポキシ基、水酸基等が存在する。なお、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の付加形態(重合形態)はランダム型であってもよいし、ブロック型であってもよい。
【0098】
なお、上記式(I)において、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、Xが結合した炭素原子を「1位」の炭素原子とすると、式(I)に示される構成単位のそれぞれのシクロヘキサン環に結合するアミン化合物(B)に由来する構成単位の窒素原子(-NH-)の結合位置は、シクロヘキサン環の3位の炭素原子又は4位の炭素原子である。上記窒素原子の結合位置が3位の炭素原子である場合、式(I)におけるシクロヘキサン環に結合するヒドロキシ基(-OH)の結合位置は、4位の炭素原子である。また、上記窒素原子の結合位置がシクロヘキサン環の4位の炭素原子である場合、式(I)におけるシクロヘキサン環に結合するヒドロキシ基(-OH)の結合位置は、3位の炭素原子である。上記式(I)中の複数の(2以上の)シクロヘキサン環における上記窒素原子の結合位置(又はヒドロキシ基の結合位置)は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。なお、式(I)中のシクロヘキサン環を構成する炭素原子に上述の位置番号を付すと、下記式のようになる。このことは、エポキシ-アミン付加物(ii)においても同じである。
【化16】
【0099】
エポキシ-アミン付加物(ii)は、上記式(I)で表される構成単位(式(a)で表される化合物に由来する構成単位)と、下記式(IV)で表される構成単位(アミン化合物(B2)に由来する構成単位)と、上記式(III)で表される構成単位(アミン化合物(B3)に由来する構成単位)とを含み、両末端には、アミノ基、エポキシ基、水酸基等を有するエポキシ-アミン付加物である。
【化17】
[式(IV)中、R
4、R
5、及びrは、上記式(b-2)におけるものと同じ。]
【0100】
エポキシ-アミン付加物(ii)は、エポキシ化合物(A)に由来する構成単位(例えば、式(I)で表される構成単位)と、アミン化合物(B)に由来する構成単位(例えば、式(III)で表される構成単位、式(IV)で表される構成単位)とが交互に並んだ分子鎖を有する。そして、該分子鎖の両末端には、アミノ基、エポキシ基、水酸基等が存在する。なお、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の付加形態(重合形態)はランダム型であってもよいし、ブロック型であってもよい。
【0101】
なお、式(a)中のXにエステル結合が含まれる場合や、式(b)中のR1(特に、R2~R10)にエステル結合が含まれる場合には、これらのエステル結合とアミン化合物(B)のアミノ基との交換反応により、アミド結合や水酸基末端が生成する場合もある。このように、エポキシ-アミン付加物(例えば、エポキシ-アミン付加物(i)、エポキシ-アミン付加物(ii))は、一部、上述の構成単位とは異なる構成単位を有していてもよい。
【0102】
上記エポキシ-アミン付加物(即ち、成分[I-1])は、そのままの状態で使用することもできるし、溶液(例えば、水溶液)又は分散液の状態で使用することもできる。例えば、成分[I-1]を、必要に応じて界面活性剤を使用した上で、水に分散させることにより、水分散液として使用してもよい。また、成分[I-1]は、分子内のアミノ基及び-NH-基の一部又は全部を酸によりプロトン化してアニオンとの塩(例えば、炭酸塩、カルボン酸塩等)として使用することもできる。塩とすることによって、成分[I-1]の水溶性又は水分散性がより向上する傾向がある。
【0103】
成分[I-1]を塩として使用する場合、当該塩を構成する酸としては、成分[I-1]が有するアミノ基等の塩基性基との間で酸塩基反応を生じて塩を形成できる酸であればよく、特に限定されないが、例えば、塩酸、リン酸、炭酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸等の有機酸等が挙げられる。塩を形成する際の酸は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、酸としては、取り扱い性、製造の容易さの点で、炭酸、有機酸が好ましく、より好ましくは炭酸、酢酸(特に炭酸)である。即ち、成分[I-1]の塩としては、炭酸塩、有機酸塩が好ましく、より好ましくは炭酸塩、酢酸塩(特に好ましくは炭酸塩)である。
【0104】
成分[I-1]の塩は、公知乃至慣用の塩の製造方法によって製造できる。具体的には、例えば、成分[I-1](詳しくは、成分[I-1]が有するアミノ基等の塩基性基)と酸とを反応(酸塩基反応)させる方法によって、成分[I-1]の塩を得ることができる。
【0105】
上記反応は、溶媒の存在下で進行させることもできるし、溶媒の非存在下で(即ち、無溶媒で)進行させることもできる。上記溶媒としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の反応において例示したものが使用できるが、特に、少なくとも水を使用することが好ましい。なお、溶媒は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、上記反応における溶媒の使用量は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0106】
上記反応(成分[I-1]と酸との反応)に付す成分[I-1]と酸の割合は、特に限定されず、成分[I-1]が有する塩基性基(例えば、アミノ基、-NH-基等)のうち塩へと変換させることを求める割合(この割合は、例えば、所望の水溶性等に応じて決定できる)に応じて、適宜選択可能である。
【0107】
上記反応を行うための操作は、特に限定されず、例えば、成分[I-1]と酸とを反応容器に一括で仕込んで反応させることもできるし、成分[I-1]と酸のいずれか一方を反応容器に仕込んでおき、他方を添加(例えば、上述の逐次添加)して反応させることもできる。
【0108】
上記反応における温度(反応温度)、時間(反応時間)は、特に限定されず、適宜設定可能である。例えば、上記反応は室温で進行させることができる。
【0109】
上記反応は、常圧下、加圧下、減圧下のいずれにおいても実施することができる。また、上記反応を実施する雰囲気も特に限定されず、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン等)中、空気中等のいずれの雰囲気においても実施することができる。
【0110】
上記反応は、特に限定されず、回分方式(バッチ式)、半回分方式、連続流通方式等のいずれの方式によっても実施することができる。
【0111】
上記反応により、成分[I-1]の塩が生成する。上記反応の後、成分[I-1]の塩は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知乃至慣用の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段等により分離精製することが可能である。また、成分[I-1]の塩は特に水溶性に優れるという特徴を有するため、水溶液の状態で好ましく使用することができる。
【0112】
成分[I-1]の塩は、エポキシ-アミン付加物が有する塩基性基(特にアミノ基、-NH-基)の一部又は全部が少なくとも酸との酸塩基反応により塩となった構造を有しているため、優れた水溶性を有し、特に水溶液の状態で好ましく使用できる。このため、成分[I-1]の塩を使用した場合には、上述の有機繊維に対する濡れ性、及び有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性の効果に加えて、有機繊維用サイジング剤の安定化効果も得られる傾向がある。そして、成分[I-1]の塩は、熱分解やその他の処理(例えば、強塩基による処理等)によって容易に塩基性基(特にアミノ基、-NH-基)へと変換でき、アミノ基や-NH-基を有する成分[I-1]へと転化できるため、エポキシ-アミン付加物が奏する有機繊維に対する濡れ性、及び有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性向上効果を発揮させることができる。なお、言うまでも無く、成分[I-1]の塩が、成分[I-1]が有する塩基性基の一部のみが塩となった構造を有するものである場合(即ち、アミノ基や-NH-基を有する場合)は、特に成分[I-1]へと転化しなくても、それ自体が塗膜の被塗物に対する密着性の向上効果を有する。
【0113】
なお、成分[I-1]の塩は、そのままの状態で使用することもできるし、溶液又は分散液等として使用することもできる。成分[I-1]の塩は、特に水溶液の濃度を低濃度とした場合であっても、溶解物の析出が生じにくいため、様々な態様での使用が可能である。
【0114】
2.成分[I-2]
成分[I-2]は、成分[I-1]にラクトン化合物(C)が開環付加した構造を有するラクトン変性エポキシ-アミン付加物である。より具体的には、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)との反応により得られる分子内に2個以上のアミノ基を有するエポキシ-アミン付加物(即ち、成分[I-1];分子内に活性水素原子を有する化合物)に、ラクトン化合物(C)を開環付加反応させて得られるラクトン変性エポキシ-アミン付加物(ラクトン付加物)である。詳しくは、成分[I-2]は、上記エポキシ-アミン付加物が分子内に有する活性水素原子を開始点として、ラクトン化合物(C)が開環付加反応することにより生成する、1分子の上記エポキシ-アミン付加物と1分子以上のラクトン化合物(C)の付加物である。なお、本明細書における「開環付加反応」には、1分子のラクトン化合物(C)による開環付加反応と、2分子以上のラクトン化合物(C)による開環付加重合の両方の意味が包含される。
【0115】
成分[I-2]の原料としての上記エポキシ-アミン付加物は、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)との反応により得られる分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物である。当該エポキシ-アミン付加物は、ヒドロキシ基と分子内に2個以上のアミノ基とを少なくとも有し、これらアミノ基及び/又はヒドロキシ基(アミノ基及びヒドロキシ基のいずれか一方又は両方)における水素原子が、ラクトン化合物(C)の開環付加反応のための活性水素原子として働く。即ち、成分[I-2]は、上記エポキシ-アミン付加物が分子内に有するアミノ基及び/又はヒドロキシ基を開始点として、ラクトン化合物(C)が開環付加反応することにより生成する、上記1分子のエポキシ-アミン付加物と1分子以上のラクトン化合物(C)の付加物である。
【0116】
2-1.エポキシ-アミン付加物
成分[I-2]の原料としての上記エポキシ-アミン付加物は、成分[I-1]である。成分[I-1]は、2個以上のアミノ基に加えて、上述の脂環式エポキシ基とアミノ基との反応により生成するヒドロキシ基を分子内に2個以上有する。
【0117】
2-2.ラクトン化合物(C)
成分[I-2]の原料としてのラクトン化合物(C)としては、公知乃至慣用のラクトンを使用することができ、特に限定されないが、例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-カプロラクトン、ζ-エナントラクトン、η-カプリロラクトン、これらのラクトンにメチル基等のアルキル基が1個以上置換したもの(例えば、4-メチルカプロラクトン等)等が挙げられる。なお、成分[I-2]の原料としてラクトン化合物(C)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。中でも、ラクトン化合物(C)としては、ε-カプロラクトンが好ましい。成分[I-2]は、ラクトン化合物(C)の開環付加反応により形成される構造を有することにより、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性により優れ、またサイジング剤塗布有機繊維は高い機械物性(特に、強靭性)を発揮する。
【0118】
2-3.成分[I-2](ラクトン変性エポキシ-アミン付加物)の製造方法
上述のように、成分[I-2]は、エポキシ-アミン付加物にラクトン化合物(C)を開環付加反応させることによって得られる。なお、エポキシ-アミン付加物中の-NH-基もラクトン化合物(C)の開環付加反応の開始点となり得るが、アミノ基やヒドロキシ基等に対して反応性が低いため、成分[I-2]には通常-NH-基が残存する。
【0119】
上記反応は、公知乃至慣用の方法(分子内にアミノ基及び/又はヒドロキシ基を有する化合物にラクトンを開環付加反応させる公知乃至慣用の方法)により進行させることができ、通常、エポキシ-アミン付加物とラクトン化合物(C)を加熱することによって進行させることができる。上記反応においては、必要に応じて助触媒等のその他の成分を使用することもできる。
【0120】
上記反応は、溶媒の存在下で進行させることもできるし、溶媒の非存在下で(即ち、無溶媒で)進行させることもできる。上記溶媒としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の反応において例示したものが使用できる。なお、溶媒は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、上記反応における溶媒の使用量は、特に限定されず、適宜設定可能である。上記反応を無溶媒で行う場合、エポキシ-アミン付加物が固体の場合であっても、通常、加熱することによって、ラクトン化合物(C)にエポキシ-アミン付加物を溶解させて効率的に反応を行うことができる。
【0121】
上記反応(エポキシ-アミン付加物とラクトン化合物(C)との反応)に付すエポキシ-アミン付加物とラクトン化合物(C)の割合は、特に限定されないが、エポキシ-アミン付加物が有するアミノ基1モル当たり、ラクトン化合物(C)を1~300モル使用することが好ましく、より好ましくは2~200モル、さらに好ましくは5~100モルである。重量比で表すと、ラクトン化合物(C)の使用量(総量)は、エポキシ-アミン付加物100重量部に対して、3~200重量部が好ましく、より好ましくは10~150重量部、さらに好ましくは20~100重量部である。上記反応に付すエポキシ-アミン付加物とラクトン化合物(C)との割合を上記範囲に制御することにより、成分[I-2]のガラス転移温度がある程度高い値に保持され、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性が保持されつつ、その靱性と柔軟性とが向上し、耐久性がより向上する傾向がある。
【0122】
上記反応を行うための操作は特に限定されず、例えば、エポキシ-アミン付加物とラクトン化合物(C)とを反応容器に一括で仕込んで反応させることもできるし、エポキシ-アミン付加物とラクトン化合物(C)のいずれか一方を反応容器に仕込んでおき、他方を添加(例えば、上述の逐次添加)して反応させることもできる。また、両者を反応容器に添加しながら反応させることもできる。
【0123】
上記反応における温度(反応温度)は特に限定されず、例えば、80~250℃(例えば、100~200℃)の範囲から適宜選択可能である。また、上記反応を実施する時間(反応時間)も特に限定されず、例えば、0.2~20時間(例えば、1~8時間)の範囲から適宜選択可能である。
【0124】
上記反応は、常圧下、加圧下、減圧下のいずれにおいても実施することができる。また、上記反応を実施する雰囲気も特に限定されず、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン等)中、空気中等のいずれの雰囲気においても実施することができる。
【0125】
上記反応は、特に限定されず、回分方式(バッチ式)、半回分方式、連続流通方式等のいずれの方式によっても実施することができる。
【0126】
上記反応により、成分[I-2]が生成する。上記反応の後、成分[I-2]は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知乃至慣用の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段等により分離精製することが可能である。
【0127】
成分[I-2]は、上記エポキシ-アミン付加物が有するアミノ基(-NH2;無置換アミノ基)及び/又はヒドロキシ基を出発点としてラクトン化合物(C)が開環付加することにより形成される構造を有し、通常、エポキシ-アミン付加物のアミノ基及び/又はヒドロキシ基部分に、ラクトン化合物(C)の開環付加により形成される分子鎖が結合した構造を有する。成分[I-2]は、エポキシ-アミン付加物が有するアミノ基及びヒドロキシ基の全部にラクトン化合物(C)が開環付加したものであってもよいし、一部のみにラクトン化合物(C)が開環付加したものであってもよい。成分[I-2]が有するラクトン化合物(C)の開環付加により形成される分子鎖の末端は、特に限定されないが、通常、ヒドロキシ基である。なお、このヒドロキシ基は、有機合成で慣用の技術により他の官能基へと変換されていてもよい。成分[I-2]は、アミノ基を有していてもよいし、有していなくてもよく、ヒドロキシ基についても同様である。
【0128】
成分[I-2]は、通常、エポキシ-アミン付加物由来の-NH-基(置換アミノ基)を分子内に少なくとも有する。成分[I-2]が分子内に有する-NH-基の数は、特に限定されないが、1~200個が好ましく、より好ましくは1~150個、さらに好ましくは2~100個である。成分[I-2]は反応性が高く、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性をより向上させることができる。なお、成分[I-2]における-NH-基の数は、上述の成分[I-1]における-NH-基の数の算出方法と同様の方法で算出することが可能である。成分[I-2]において-NH-基が未反応で(エポキシ化合物(A)と反応せずに)残存していることは、成分[I-2]が熱可塑性を有し、溶媒に対する溶解性(例えば、水溶性、水分散性)に優れ、他の成分に対する配合が容易という効果も与える。
【0129】
成分[I-2]の数平均分子量は、特に限定されないが、600~80000が好ましく、より好ましくは800~60000、さらに好ましくは1000~40000である。数平均分子量を600以上とすることにより、塗膜の靱性、柔軟性が向上し、また、ガラス転移温度がある程度高くなるため、加工機(ロール等)の汚染が抑制される傾向がある。また、サイジング剤塗布有機繊維に対して優れた風合いや取り扱い性を付与できる傾向がある。一方、数平均分子量を80000以下とすることにより、他の成分に対する配合が容易となり、溶媒に対する溶解性がいっそう向上する場合がある。なお、成分[I-2]の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の分子量を用いて算出することができる。
【0130】
成分[I-2]のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-50~150℃が好ましく、より好ましくは-40~120℃、さらに好ましくは-30~100℃、特に好ましくは20~80℃である。Tgを-50℃以上(特に20℃以上)とすることにより、サイジング剤塗布有機繊維の耐熱性や機械物性(強靭性等)がより向上する傾向がある。また、加工機(ロール等)の汚染が抑制され、また、サイジング剤塗布有機繊維に対して優れた風合いや取り扱い性を付与できる傾向がある。一方、Tgを150℃以下とすることにより、他の成分に対する配合が容易となる場合がある。なお、成分[I-2]のガラス転移温度は、上述の成分[I-1]のTgと同様の方法で測定される。
【0131】
成分[I-2]の5%重量減少温度(Td5)は、特に限定されないが、280℃以上が好ましく、より好ましくは290℃以上である。5%重量減少温度を280℃以上(特に290℃以上)とすることにより、いっそう高温での加工(例えば、サイジング剤塗布有機繊維の製造)に適用できる傾向がある。なお、成分[I-2]の5%重量減少温度は、上述の成分[I-1]のTd5と同様の方法で測定される。
【0132】
成分[I-2]は、そのままの状態で使用することもできるし、溶液(例えば、水溶液)又は分散液の状態で使用することもできる。例えば、成分[I-2]を、必要に応じて界面活性剤を使用した上で、水に分散させることにより、水分散液として使用してもよい。また、成分[I-2]は、分子内のアミノ基や-NH-基等の塩基性基の一部又は全部を酸によりプロトン化してアニオンとの塩(例えば、炭酸塩、カルボン酸塩等)として使用することもできる。塩とすることによって、水に対する溶解性向上効果等を得ることができる。成分[I-2]の水溶性を高めることにより、水溶液や水分散液の状態としやすくなる傾向がある。なお、成分[I-2]の塩を形成する方法は、特に限定されず、例えば、上述の成分[I-1]の塩を形成する方法に準じて実施することができる。
【0133】
3.成分[I-3]
成分[I-3]は、成分[I-1]に、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)が付加した構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート変性エポキシ-アミン付加物である。より具体的には、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)との反応により得られる分子内に2個以上のアミノ基を有するエポキシ-アミン付加物(成分[I-1])に、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)(単に「多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)」と称する場合がある)を付加反応(マイケル付加反応)させて得られる多官能ウレタン(メタ)アクリレート変性エポキシ-アミン付加物(単に「ウレタン変性エポキシ-アミン付加物」と称する場合がある)である。詳しくは、成分[I-3]は、上記エポキシ-アミン付加物が分子内に有するアミノ基と多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)が分子内に有する(メタ)アクリロイル基とがマイケル付加することにより生成する、1分子以上の上記エポキシ-アミン付加物と1分子以上の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)の付加物である。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」等も同様である。
【0134】
3-1.エポキシ-アミン付加物
成分[I-3]の原料としての上記エポキシ-アミン付加物は、成分[I-1]である。成分[I-1]は、上述のように、2個以上のアミノ基を分子内に2個以上有する。
【0135】
3-2.多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)
成分[I-3]の原料としての多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)は、上述のように、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートである。多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)としては、公知乃至慣用の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを使用することができ、特に限定されないが、例えば、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)は、アクリロイル基とメタクリロイル基のいずれか一方のみを有するものであってもよいし、アクリロイル基とメタクリロイル基の両方を有するものであってもよい。
【0136】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)が分子内に有する(メタ)アクリロイル基の数は、2個以上であればよく、特に限定されないが、2~6個が好ましく、より好ましくは2~4個、さらに好ましくは2個又は3個である。(メタ)アクリロイル基の数が2個以上であることにより、成分[I-3]の分子量が高くなる傾向があるため、成分[I-3]が優れた靱性を発揮できる。また、(メタ)アクリロイル基の数を6個以下とすることにより、成分[I-3]の水溶性又は水分散性がより向上したり、加熱によって溶解させやすくなり、他の成分に対する配合をより容易に行うことができる傾向がある。
【0137】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、500~10000が好ましく、より好ましくは500~7000、さらに好ましくは500~5000である。重量平均分子量を500以上とすることにより、成分[I-3]の柔軟性、靱性が向上する傾向がある。一方、重量平均分子量を10000以下とすることにより、成分[I-3]の他の成分に対する相溶性がより向上したり、耐熱性が向上する傾向がある。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の分子量より算出できる。
【0138】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-70~30℃が好ましく、より好ましくは-60~20℃、さらに好ましくは-55~0℃である。Tgを-70℃以上とすることにより、成分[I-3]の耐熱性が向上する傾向がある。一方、Tgを30℃以下とすることにより、成分[I-3]の靱性が向上する傾向がある。なお、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)のガラス転移温度は、上述の成分[I-1]のTgと同様の方法で測定される。
【0139】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)は、公知乃至慣用の方法により製造され、特に限定されないが、通常、ポリオール(X)と、ポリイソシアネート(Y)と、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)とを反応させることにより、又は、ポリイソシアネート(Y)と、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)とを反応させることによって、得られる。
【0140】
ポリオール(X)は、分子内に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物である。ポリオール(X)は、一種又は二種以上が使用される。ポリオール(X)としては、公知乃至慣用のポリオールが使用され、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリオキシC2-4アルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等)、ビスフェノールA及びそのアルキレンオキサイド付加体、ビスフェノールF及びそのアルキレンオキサイド付加体、水素化ビスフェノールA及びそのアルキレンオキサイド付加体、水素化ビスフェノールF及びそのアルキレンオキサイド付加体、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、イソソルバイド、キシレングリコール、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等のジオール;グリセリン、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパン、D-ソルビトール、キシリトール、D-マンニトール、D-マンニット、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオール、天然油ポリオール、シリコンポリオール、フッ素ポリオール、ポリオレフィンポリオール等の分子内に3個以上のヒドロキシ基を有するポリオール等が挙げられる。
【0141】
ポリイソシアネート(Y)は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネート(Y)は、一種又は二種以上が使用される。ポリイソシアネート(Y)としては、公知乃至慣用のポリイソシアネートが使用され、特に限定されないが、例えば、1,6-ヘキサンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート;ビウレット、アダクト、ヌレート化合物(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート化合物や2,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート化合物等)等のジイソシアネートの三量体等が挙げられる。
【0142】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)は、分子内に1個以上(特に1個)のヒドロキシ基を有し、かつ分子中に1個以上(特に1個)の(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)は、一種又は二種以上が使用される。ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)としては、公知乃至慣用のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートが使用され、特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノール(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルジアクリレート等のエポキシアクリレート及びそれらを水添したもの等が挙げられる。
【0143】
上述のポリオール(X)、ポリイソシアネート(Y)、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート(Z)の反応は、公知乃至慣用の方法によることができ、例えば、特開平7-157531号公報、特開2000-95837号公報、特開2002-145936号公報、特開2011-52227号公報等に記載の方法によることができる。
【0144】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)としては、中でも、成分[I-3]の靱性の観点で、ポリオール(X)に由来する構成単位として、ポリオキシC2-4アルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等)に由来する構成単位を少なくとも含むことが好ましい。このような多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)としては、例えば、商品名「EBECRYL 230」、「EBECRYL 270」(以上、ダイセル・オルネクス(株)製)等が使用できる。
【0145】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)としては市販品を使用することもでき、例えば、商品名「EBECRYL 210」、「EBECRYL 215」、「EBECRYL 6202」、「EBECRYL 230」、「EBECRYL 244」、「EBECRYL 245」、「EBECRYL 270」、「EBECRYL 280/15IB」、「EBECRYL 2002」、「EBECRYL 8307」、「EBECRYL 8411」、「EBECRYL 8804」、「EBECRYL 8807」、「EBECRYL 9227EA」、「KRM7735」、「EBECRYL 284」、「EBECRYL 285」、「EBECRYL 4835」、「EBECRYL 4858」、「EBECRYL 4883」、「EBECRYL 6700」、「EBECRYL 8402」、「EBECRYL 9270」(以上、ダイセル・オルネクス(株)製)、商品名「UX-2201」、「UX-8101」(以上、日本化薬(株)製)、商品名「UF-8001」、「UF-8003」、「UX-6101」、「UX-8101」(以上、共栄社化学(株)製)等の2官能ウレタン(メタ)アクリレート(ウレタンジ(メタ)アクリレート);商品名「EBECRYL 204」、「EBECRYL 205」、「EBECRYL 254」、「EBECRYL 264」、「EBECRYL 265」、「EBECRYL 1259」、「EBECRYL 9260」、「KRM8296」、「EBECRYL 294/25 HD」、「EBECRYL 4820」、「EBECRYL 8311」、「EBECRYL 8701」(以上、ダイセル・オルネクス(株)製)等の3官能ウレタン(メタ)アクリレート;商品名「EBECRYL 220」、「KRM8200」、「KRM8200AE」、「EBECRYL 5129」、「EBECRYL 8210」、「EBECRYL 8301」、「KRM8452」、「EBECRYL 8405」、「EBECRYL 1290k」、「KRM7804」(以上、ダイセル・オルネクス(株)製)等の4官能以上のウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0146】
3-3.成分[I-3](ウレタン変性エポキシ-アミン付加物)の製造方法
上述のように、成分[I-3]は、エポキシ-アミン付加物(成分[I-1])と多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)とを付加反応(マイケル付加反応)させることによって得られる。なお、エポキシ-アミン付加物中の-NH-基は、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)中の(メタ)アクリロイル基とは反応しない。
【0147】
上記反応は、溶媒の存在下で進行させることもできるし、溶媒の非存在下で(即ち、無溶媒で)進行させることもできる。上記溶媒としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化合物(A)とアミン化合物(B)の反応において例示したものが使用できる。中でも、アルコールが好ましい。なお、溶媒は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、上記反応における溶媒の使用量は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0148】
上記反応に付すエポキシ-アミン付加物と多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)の割合は、特に限定されないが、上記反応における多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)が有する(メタ)アクリロイル基(アクリロイル基及びメタクリロイル基)とエポキシ-アミン付加物が有するアミノ基(-NH2)との割合[アクリロイル基及びメタクリロイル基/アミノ基](当量比)が、0.05~1.00(より好ましくは0.10~0.95、さらに好ましくは0.15~0.90)となるように制御することが好ましい。上記割合[アクリロイル基及びメタクリロイル基/アミノ基]を0.05(特に0.5)以上とすることにより、生成物中に未反応のエポキシ-アミン付加物が残存しにくい傾向がある。一方、上記割合[アクリロイル基及びメタクリロイル基/アミノ基]を1.00以下とすることにより、生成物中に未反応の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)が残存しにくい傾向がある。
【0149】
上記反応は、公知乃至慣用の方法により進行させることができ、特に限定されないが、例えば、エポキシ-アミン付加物と多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)とを反応容器に一括で仕込んで反応させることもできるし、エポキシ-アミン付加物と多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)のいずれか一方を反応容器に仕込んでおき、他方を添加(例えば、上述の逐次添加)して反応させることもできる。また、両者を反応容器に添加しながら反応させることもできる。中でも、より均一な組成の成分[I-3]を得る観点で、エポキシ-アミン付加物(好ましくはエポキシ-アミン付加物溶液)を反応容器に仕込んでおき、ここに多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)を逐次添加することで反応させることが好ましい。
【0150】
上記反応における温度(反応温度)は、特に限定されず、例えば、0~200℃(例えば、15~100℃)の範囲から適宜選択可能である。また、上記反応を実施する時間(反応時間)も、特に限定されず、例えば、0.2~20時間(例えば、1~8時間)の範囲から適宜選択可能である。
【0151】
上記反応は、常圧下、加圧下、減圧下のいずれにおいても実施することができる。また、上記反応を実施する雰囲気も特に限定されず、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン等)中、空気中等のいずれの雰囲気においても実施することができる。
【0152】
上記反応は、特に限定されず、回分方式(バッチ式)、半回分方式、連続流通方式等のいずれの方式によっても実施することができる。
【0153】
上記反応により、成分[I-3]が得られる。上記反応の後、成分[I-3]は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知乃至慣用の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段等により分離精製することが可能である。
【0154】
成分[I-3]は、上記エポキシ-アミン付加物と多官能ウレタン(メタ)アクリレートとが付加反応することにより形成される構造を有し、通常、上記エポキシ-アミン付加物に由来する構成単位と、多官能ウレタン(メタ)アクリレートに由来する構成単位とが交互に並んだ分子鎖を有する。成分[I-3]は、アミノ基(-NH2;無置換アミノ基)を有していてもよいし、有していなくてもよいが、例えば、2~10個(より好ましくは2~4個、さらに好ましくは2個又は3個)のアミノ基を有することが好ましい。
【0155】
成分[I-3]は、エポキシ-アミン付加物由来の-NH-基(置換アミノ基)を分子内に有する。成分[I-3]が分子内に有する-NH-基の数は、特に限定されないが、1~200個が好ましく、より好ましくは1~150個、さらに好ましくは2~100個である。成分[I-3]は、-NH-基を分子内に有することにより、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性をより向上させることができる。なお、成分[I-3]における-NH-基の数は、上述のエポキシ-アミン付加物における-NH-基の数の算出方法と同様の方法で算出することが可能である。成分[I-3]において-NH-基が未反応で残存していることは、ウレタン変性エポキシ-アミン付加物が熱可塑性を有し、溶媒に対する溶解性(例えば、水溶性、水分散性)に優れ、他の成分に対する配合が容易という効果を与える。
【0156】
成分[I-3]の数平均分子量は、特に限定されないが、600~80000が好ましく、より好ましくは800~60000、さらに好ましくは1000~40000である。数平均分子量を600以上とすることにより、成分[I-3]の靱性、柔軟性が向上し、また、ガラス転移温度がある程度高くなるため、加工機(ロール等)の汚染が抑制される傾向がある。また、サイジング剤塗布有機繊維に対して優れた風合いや取り扱い性を付与できる傾向がある。一方、数平均分子量を80000以下とすることにより、他の成分に対する配合が容易となり、溶媒に対する溶解性がいっそう向上する場合がある。なお、成分[I-3]の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の分子量を用いて算出することができる。
【0157】
成分[I-3]のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-50~150℃が好ましく、より好ましくは-40~120℃、さらに好ましくは-30~100℃、特に好ましくは20~80℃である。Tgを-50℃以上(特に20℃以上)とすることにより、塗膜や強化有機繊維の耐熱性や機械物性(強靭性等)がより向上する傾向がある。また、加工機(ロール等)の汚染が抑制され、また、サイジング剤塗布有機繊維に対して優れた風合いや取り扱い性を付与できる傾向がある。一方、Tgを150℃以下とすることにより、他の成分に対する配合が容易となる場合がある。なお、成分[I-3]のガラス転移温度は、上述の成分[I-1]のTgと同様の方法で測定される。成分[I-3]が複数のガラス転移温度を有する場合には、少なくとも1つ(より好ましくは全て)のガラス転移温度が上記範囲に制御されることが好ましい。
【0158】
成分[I-3]の5%重量減少温度(Td5)は、特に限定されないが、280℃以上が好ましく、より好ましくは300℃以上である。5%重量減少温度を280℃以上(特に300℃以上)とすることにより、いっそう高温での加工(例えば、サイジング剤塗布有機繊維の製造)に適用できる傾向がある。なお、成分[I-3]の5%重量減少温度は、上述の成分[I-1]のTd5と同様の方法で測定される。
【0159】
成分[I-3]は、そのままの状態で使用することもできるし、溶液(例えば、水溶液)又は分散液の状態で使用することもできる。例えば、成分[I-3]を、必要に応じて界面活性剤を使用した上で、水に分散させることにより、水分散液として使用してもよい。また、成分[I-3]は、分子内のアミノ基や-NH-基等の塩基性基の一部又は全部を酸によりプロトン化してアニオンとの塩(例えば、炭酸塩、カルボン酸塩等)として使用することもできる。塩とすることによって、水に対する溶解性向上効果等を得ることができる。成分[I-3]の水溶性を高めることにより、水溶液や水分散液の状態としやすくなる傾向がある。なお、成分[I-3]の塩を形成する方法は、特に限定されず、例えば、上述の成分[I-1]の塩を形成する方法に準じて実施することができる。
【0160】
本発明の有機繊維用サイジング剤において、エポキシ-アミン付加物誘導体[I]としての成分[I-1]、成分[I-2]、成分[I-3]はそれぞれ、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0161】
[成分[II]]
本発明の有機繊維用サイジング剤における成分[II]は、脂肪族エポキシ化合物(E)又はその誘導体である。
【0162】
4.脂肪族エポキシ化合物(E)
脂肪族エポキシ化合物(E)は、脂肪族炭化水素鎖を構成する隣接する2つの炭素原子と、酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物である。上記脂肪族エポキシ化合物(E)としては、例えば、w価の環状構造を有しないアルコール(wは自然数である)のグリシジルエーテル;一価又は多価カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸等]のグリシジルエステル;エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等の二重結合を有する油脂のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン等のポリオレフィン(ポリアルカジエンを含む)のエポキシ化物等が挙げられる。なお、上記w価の環状構造を有しないアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール等の一価のアルコール;エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の三価以上の多価アルコール等が挙げられる。また、w価のアルコールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等であってもよい。中でも、ポリオレフィンのエポキシ化物が好ましく、より好ましくはエポキシ化ポリブタジエンである。
【0163】
上記エポキシ化ポリブタジエンは、一般に市販されているポリブタジエンを過酸化水素水、過酸類によりエポキシ化することによって容易に得られる。用いられるポリブタジエンの数平均分子量は、特に限定されないが、約500~約15000の範囲であることが好ましい。ポリブタジエンの数平均分子量が上記範囲であると、得られるエポキシ化ポリブタジエンの数平均分子量が500~20000の範囲となりやすい傾向がある。上記ポリブタジエンは、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0164】
市販のポリブタジエンとしては、例えば、商品名「B-1000」、「B-3000」、「G-1000」、「G-3000」(以上、日本曹達(株)製)、商品名「B-1000」、「B-2000」、「B-3000」、「B-4000」(以上、新日本石油(株)製)、商品名「R-15HT」、「R-45HT」、「R-45M」(以上、出光興産(株)製)、商品名「エポリードPB3600」、「エポリードPB4700」(以上、(株)ダイセル製)等が挙げられる。
【0165】
エポキシ化ポリブタジエンのオキシラン酸素濃度としては、特に限定されないが、1~18重量%が好ましく、より好ましくは3~15重量%、さらに好ましくは6~12重量%である。オキシラン酸素濃度が1重量%以上(特に、3重量%以上)であると、他の成分との相溶性が向上する傾向がある。一方、18重量%以下であると、有機繊維用サイジング剤の塗布性が向上する傾向がある。
【0166】
成分[II]としての脂肪族エポキシ化合物誘導体としては、中でも、脂肪族エポキシ化合物(E)とエチレン性不飽和単量体(F)とが付加した構造を有する脂肪族エポキシ化合物誘導体(「成分[II-1]」と称する場合がある)であることが好ましい。即ち、成分[II]としての脂肪族エポキシ化合物誘導体は、脂肪族エポキシ化合物(E)とエチレン性不飽和単量体(F)との反応により得られる脂肪族エポキシ化合物誘導体であることが好ましい。
【0167】
5.エチレン性不飽和単量体(F)
エチレン性不飽和単量体(F)としては、例えば、アクリル系単量体、スチレン系単量体、オレフィン系単量体、ビニルエステル単量体等が挙げられる。エチレン性不飽和単量体としては、(a)親水性基を有しないエチレン性不飽和単量体(単に「単量体(a)」と称する場合がある)と、(b)前記単量体(a)と共重合可能な親水性基を有するエチレン性不飽和単量体(単に「単量体(b)」と称する場合がある)とを用いることができる。
【0168】
単量体(a)と単量体(b)の比率(重量比率)は、特に限定されないが、(a)/(b)として、70/30~99/1が好ましく、より好ましくは80/20~95/5、さらに好ましくは85/15~90/10である。このような比率とすることで、成分[II-1]の水分散性を向上させることができる。
【0169】
5-1.単量体(a)
単量体(a)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン、1-ブテン等のオレフィン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体等が挙げられる。上記単量体(a)は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0170】
エチレン性不飽和単量体中の単量体(a)の含有量は、特に限定されないが、エチレン性不飽和単量体(F)の総量(100重量%)に対して、70~99重量%が好ましく、より好ましくは80~99重量%、さらに好ましくは85~95重量%である。単量体(a)の含有量が上記範囲内にあると、有機繊維の織物と繊維強化複合材料の密着性がより向上する傾向がある。
【0171】
5-2.単量体(b)
単量体(b)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸等のカルボキシ基を有する単量体;ポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド等のアミド基を有する単量体;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシC2-8アルキルエステル;ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有の(メタ)アクリル酸エステル;N-ビニルピロリドン;ビニルピリジン等が挙げられる。
【0172】
また、単量体(b)としては、オキシラン環(エポキシ基)含有重合性不飽和化合物を使用してもよく、例えば、オキシラニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-エチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-オキシラニルエチル(メタ)アクリレート、2-グリシジルオキシエチル(メタ)アクリレート、3-グリシジルオキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジルオキシフェニル(メタ)アクリレート等のオキシラン環(単環)を含む重合性不飽和化合物((メタ)アクリル酸エステル誘導体等);3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート等の3,4-エポキシシクロヘキサン環等のエポキシ基含有脂環式炭素環を含む重合性不飽和化合物((メタ)アクリル酸エステル誘導体等);5,6-エポキシ-2-ビシクロ[2.2.1]ヘプチル(メタ)アクリレート等の5,6-エポキシ-2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環を含む重合性不飽和化合物((メタ)アクリル酸エステル誘導体等);エポキシ化ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート[3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-9-イル(メタ)アクリレート;3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル(メタ)アクリレート]、エポキシ化ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート[2-(3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-9-イルオキシ)エチル(メタ)アクリレート;2-(3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イルオキシ)エチル(メタ)アクリレート]、エポキシ化ジシクロペンテニルオキシブチル(メタ)アクリレート、エポキシ化ジシクロペンテニルオキシヘキシル(メタ)アクリレート等の3,4-エポキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を含む重合性不飽和化合物((メタ)アクリル酸エステル誘導体等)等が挙げられる。他のオキシラン環(エポキシ基)含有重合性不飽和化合物として、エポキシ基を含むビニルエーテル化合物、エポキシ基を含むアリルエーテル化合物等を用いることもできる。
【0173】
また、単量体(b)としては、オキセタン環(オキセタニル基)含有重合性不飽和化合物を使用してもよく、例えば、オキセタニル(メタ)アクリレート、3-メチル-3-オキセタニル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-オキセタニル(メタ)アクリレート、(3-メチル-3-オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチル-3-オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、2-(3-メチル-3-オキセタニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(3-エチル-3-オキセタニル)エチル(メタ)アクリレート、2-[(3-メチル-3-オキセタニル)メチルオキシ]エチル(メタ)アクリレート、2-[(3-エチル-3-オキセタニル)メチルオキシ]エチル(メタ)アクリレート、3-[(3-メチル-3-オキセタニル)メチルオキシ]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3-エチル-3-オキセタニル)メチルオキシ]プロピル(メタ)アクリレートや、オキセタニル基を含むビニルエーテル化合物、オキセタニル基を含むアリルエーテル化合物等を用いることもできる。
【0174】
また、単量体(b)としては、オキソラン環(オキソラニル基)含有重合性不飽和化合物を使用してもよく、例えば、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートや、オキソラニル基を含むビニルエーテル化合物、オキソラニル基を含むアリルエーテル化合物等が挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸-1-メチル-2-ピロリドン、(メタ)アクリル酸-1-エチル-2-ピロリドン等の(メタ)アクリル酸のピロール環含有C1-24アルキルエステル;(メタ)アクリル酸-1-メチル-2-オキサゾリドン、(メタ)アクリル酸-1-エチル-2-オキサゾリドン等の(メタ)アクリル酸のオキサゾール環含有C1-24アルキルエステル;γ-メタクリルオキシトリメトキシシラン、γ-メタクリルオキシトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のラジカル重合可能なシラン化合物等を用いることもできる。上記単量体(b)は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0175】
エチレン性不飽和単量体中の単量体(b)の含有量は、特に限定されないが、エチレン性不飽和単量体(F)の総量(100重量%)に対して、0~30重量%が好ましく、より好ましくは3~20重量%、さらに好ましくは5~10重量%である。単量体(b)の含有量が上記範囲にあると、有機繊維用サイジング剤の水分散性が向上する傾向がある。
【0176】
成分[II-1]は、脂肪族エポキシ化合物(E)と少なくとも一種のエチレン性不飽和単量体(F)とを、界面活性剤及び水溶性ラジカル重合開始剤の存在下、水系媒質中での乳化共重合により得られることが好ましい。
【0177】
上記界面活性剤としては、通常のアニオン系界面活性剤や非イオン性界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキレンジスルホン酸塩等のスルホン酸塩型界面活性剤;ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアリールエーテル硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩型界面活性剤等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては硫酸エステル塩型界面活性剤が好ましく、具体的には、商品名「NEWCOL707SF」、「NEWCOL707SFC」、「NEWCOL707SN」(以上、日本乳化剤(株)製)等が使用できる。
【0178】
上記のほか、アニオン系界面活性剤としては、ラジカル重合可能な重合性官能基を有する反応性界面活性剤が挙げられる。反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル塩の分子中にラジカル重合性の不飽和二重結合が導入された界面活性剤、スルホコハク酸アルキルエステル塩の分子中にラジカル重合性の不飽和二重結合が導入された界面活性剤等が挙げられ、市販品としては、前者として、商品名「アクアロンKH-10」、「アクアロンHS-10」(以上、第一工業製薬(株)製)、「アデカリアソープSE-10N」((株)アデカ製)、後者として、商品名「エレミノールJS2」、「エレミノールRN-30」(以上、三洋化成工業(株)製)、商品名「ラテムルS-180」、「ラテムルS-180A」(以上、花王(株)製)等が挙げられる。
【0179】
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型、多環フェニルエーテル型等の非イオン系界面活性剤が挙げられる。中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン系界面活性剤が好ましく、市販品としては具体的には商品名「ノイゲンEA-197D」、「ノイゲンXL」、「ノイゲンET-B」、「ノイゲンTDS」(以上、第一工業製薬(株)製)等が使用できる。
【0180】
上記のほか、非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの分子中にラジカル重合性の不飽和二重結合が導入された界面活性剤、商品名「アクアロンRN-20」、「RN-50」(以上、第一工業製薬(株)製)、商品名「アデカリアソープNE-20」、「NE-40」(以上、(株)アデカ製)等が挙げられる。
【0181】
カチオン界面活性剤としては、塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩型;モノメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩等のアルキルアミン塩型;塩化ブチルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム等のピリジン環を有する物質等が挙げられる。
【0182】
上記界面活性剤は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。上記界面活性剤としては、中でも、アニオン系界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、アニオン系界面活性剤と非イオン性界面活性剤の使用量の比(重量比)は、特に限定されないが、アニオン系界面活性剤/非イオン性界面活性剤が、90/10~10/90であることが好ましく、より好ましくは70/30~30/70、さらに好ましくは60/40~30/70である。
【0183】
上記水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸塩、過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。具体的には、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-ジアミノプロパン)ハイドロクロライド等が挙げられる。上記水溶性ラジカル重合開始剤は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。上記水溶性ラジカル重合開始剤の使用量は、脂肪族エポキシ化合物(E)及びエチレン性不飽和単量体(F)の総量(100重量部)に対して、0.05~2重量部が好ましく、より好ましくは0.1~0.5重量部である。なお、重合速度の促進、低温での重合を望む時には、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合開始剤と組み合わせて使用することもできる。また、分子量の調節のため、ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を用いてもよい。
【0184】
上記水系媒質としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール等の脂肪族系の水溶性アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル等が挙げられる。上記溶媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0185】
上記乳化共重合の方法は、特に限定されないが、例えば、水系媒質、後述の水性化成分(G)(特に、界面活性剤)、上記水溶性ラジカル重合開始剤の存在下で、単量体(a)及び単量体(b)の混合物を滴下するモノマー滴下法;単量体(a)及び単量体(b)の混合物を水系媒質、水性化成分(G)の存在下で乳化しそれを滴下しながら重合を行うプレエマルション法;水系媒質、水性化成分(G)、水溶性ラジカル重合開始剤、単量体(a)、及び単量体(b)の混合物すべての存在下でラジカル重合を行う一浴重合法が挙げられる。また、モノマー滴下法、プレエマルション法については滴下量の総量に対して1~50重量%、好ましくは1~30重量%を重合開始前に添加することもできる。安全性の面からは、モノマー滴下法、プレエマルション法が好ましく、その中でもプレエマルション法が好ましい。
【0186】
[有機繊維用サイジング剤]
本発明の有機繊維用サイジング剤は、成分[I]又は成分[II]を少なくとも含むものであればよい。中でも、成分[I]又は成分[II]を含むもの、即ち、成分[I]及び成分[II]のうちのいずれか一方のみを含むものであることが好ましい。
【0187】
また、本発明の有機繊維用サイジング剤は、成分[I]及び成分[II]以外に、溶媒やその他の添加剤等を含むものであってもよいし、成分[I]及び/又は成分[II]のみから構成されたものであってもよい。
【0188】
本発明の有機繊維用サイジング剤が含んでいてもよい溶媒は、特に限定されないが、水;へキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。中でも、環境や作業環境に対する負荷が小さい点で、水、アルコール(特に、水)が好ましい。即ち、本発明の有機繊維用サイジング剤は、水及び/又はアルコール(水及びアルコールのいずれか一方又は両方)を含む成分[I]及び/又は成分[II]の溶液(特に、水溶液)又は分散液(特に、水分散液)であってもよい。成分[I]が成分[I-1]の塩、成分[I-2]の塩、又は成分[I-3]の塩である場合、本発明の有機繊維用サイジング剤は、特に、低濃度の水溶液として調製しやすい点でメリットが大きい。なお、溶媒は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0189】
本発明の有機繊維用サイジング剤は、その他、脂肪酸、アミド、エステル等の潤滑剤;シランカップリング剤やチタンカップリング剤等のカップリング剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0190】
上記成分[II]が脂肪族エポキシ化合物(E)である場合、本発明の有機繊維用サイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(E)に加えて、さらに、(iii)界面活性剤、(iv)高分子分散剤、及び(v)側鎖に重合性不飽和基を有しない水溶性又は水分散性ビニル重合体(「ビニル重合体(v)」と称する場合がある)からなる群より選択される一種以上の水性化成分(「水性化成分(G)」と称する場合がある)と、水系媒質(H)とを含むことが好ましい。
【0191】
上記(iii)界面活性剤としては、例えば、上記成分[II-1]の乳化共重合に用いる界面活性剤として例示したものが使用できる。上記界面活性剤は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。中でも、アニオン系界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0192】
(iii)界面活性剤としてのアニオン界面活性剤と非イオン性界面活性剤の使用量の比率[アニオン系界面活性剤/非イオン性界面活性剤](重量比)は、特に限定されないが、が90/10~10/90が好ましく、より好ましくは70/30~30/70、さらに好ましくは60/40~30/70である。
【0193】
(iv)高分子分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレンビニルエーテルマレイン酸共重合体の金属塩やアンモニウム塩、スチレンマレイン酸共重合体の金属塩やアンモニウム塩、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0194】
(v)ビニル重合体としては、例えば、アクリル系単量体、スチレン系単量体、オレフィン系単量体、ビニルエステル系単量体等のラジカル重合性単量体の重合体が挙げられる。上記ラジカル重合性単量体としては、例えば、上記単量体(a)及び単量体(b)等が挙げられる。中でも、上記ラジカル重合性単量体として上記単量体(b)を用いることが好ましく、これにより水溶性又は水分散性のビニル重合体を得やすくなる傾向がある。
【0195】
(v)ビニル重合体の合成に使用する単量体(a)と単量体(b)の比率[単量体(a)/単量体(b)](重量比)は、特に限定されないが、70/30~99/1が好ましく、より好ましくは80/20~95/5、さらに好ましくは85/15~95/5である。上記比率が上記範囲であると、脂肪族エポキシ化合物(E)の水溶性又は水分散性のビニル重合体を得やすくなる傾向がある。
【0196】
(v)ビニル重合体の合成方法としては、特に限定されないが、溶媒、開始剤の存在下でラジカル重合性モノマーの混合物を重合させる方法が好ましい。重合終了後、水を添加し、重合に使用した溶媒を除去することが好ましい。上記重合は、滴下重合であってもよいし、一括重合であってもよい。
【0197】
上記重合に用いる溶媒としては、特に限定されないが、常圧での沸点が200℃以下の水溶性溶媒が好ましい。上記水溶性溶媒としては、例えば、成分[II-1]の乳化共重合に用いる水系媒質として例示されたものが挙げられる。上記溶媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0198】
上記開始剤としては、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾ化合物等が使用できる。中でも、成分[II-1]の乳化共重合に用いる水溶性ラジカル重合開始剤として例示されたものが好ましい。上記開始剤は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。上記開始剤の使用量は、(v)ビニル重合体を形成するラジカル重合性モノマー全量(100重量部)に対して、0.05~2重量部が好ましく、より好ましくは0.1~0.5重量部である。なお、重合速度の促進、低温での重合を望む時には、上述の還元剤を開始剤と組み合わせて使用することもできる。また、分子量の調節のため、上述の連鎖移動剤を用いてもよい。
【0199】
本発明の有機繊維用サイジング剤中の水性化成分(G)の含有量は、特に限定されないが、有機繊維用サイジング剤の総量(100重量%)に対して、1~50重量%が好ましく、より好ましくは1~30重量%、さらに好ましくは1~10重量%である。水性化成分(G)の含有量が上記範囲であると、脂肪族エポキシ化合物(E)の水溶性又は水分散性がより向上する傾向がある。
【0200】
水性化成分(G)が(iii)界面活性剤である場合、(iii)界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、脂肪族エポキシ化合物(E)100重量部に対して、1~50重量部が好ましく、より好ましくは1~30重量部、さらに好ましくは5~15重量部である。水性化成分(G)が(v)ビニル重合体である場合、(v)ビニル重合体の含有量は、特に限定されないが、脂肪族エポキシ化合物(E)100重量部に対して、10~100重量部が好ましく、より好ましくは30~100重量部、さらに好ましくは50~100重量部である。水性化成分(G)の含有量が上記範囲であると、脂肪族エポキシ化合物(E)の水溶性又は水分散性がより向上する傾向がある。
【0201】
上記水系媒質(H)(脂肪族エポキシ化合物(E)及び水性化成分(G)を含む有機繊維用サイジング剤に含まれる水系媒質)としては、成分[II-1]の乳化共重合に用いる水系媒質として例示されたものが挙げられる。上記水系媒質は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0202】
本発明の有機繊維用サイジング剤中の成分[I]及び成分[II]の含有量(両方含む場合は成分[I]と成分[II]の総量)は、特に限定されないが、溶媒以外の有機繊維用サイジング剤の総量(100重量%)に対して、10重量%以上(例えば、10~100重量%)が好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0203】
本発明の有機繊維用サイジング剤を塗布する有機繊維には、上記強化繊維は含まれない。上記有機繊維を構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン等)、ビニル系重合体(例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン等)、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン61、ナイロン6T、ナイロン9T等)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、アリル樹脂(例えば、ジアリルフタレート樹脂等)、フェノール樹脂、ポリイミド、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等の硬化性樹脂(硬化性化合物)(例えば、熱硬化性樹脂(熱硬化性化合物)、光硬化性樹脂(光硬化性化合物)等)等が挙げられる。但し、上記「樹脂」には成分[I]及び成分[II]は含まれない。上記樹脂は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0204】
なお、上記有機繊維中の上記樹脂の含有量は、特に限定されないが、有機繊維の総量(100重量%)に対して、50重量%以上が好ましく、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。
【0205】
また、本明細書において、上記強化繊維は、公知乃至慣用の強化繊維をいうものであり、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、高強度ポリエチレン繊維、タングステンカーバイド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維(PBO繊維)が含まれる。上記炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維等が挙げられる。
【0206】
[サイジング剤塗布有機繊維]
本発明の有機繊維用サイジング剤を有機繊維に塗布(塗工)することによって、有機繊維が本発明の有機繊維用サイジング剤により被覆されたサイジング剤塗布有機繊維(「本発明のサイジング剤塗布有機繊維」と称する場合がある)が得られる。
【0207】
本発明の有機繊維用サイジング剤を有機繊維に塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、本発明の有機繊維用サイジング剤に有機繊維を浸漬する方法、本発明の有機繊維用サイジング剤が付着したローラに有機繊維を接触させる方法、本発明の有機繊維用サイジング剤を霧状にして有機繊維に吹き付ける方法等の公知乃至慣用の方法が挙げられる。なお、本発明の有機繊維用サイジング剤の塗布は、有機繊維の全面に対して行ってもよいし、一部の表面に対して行ってもよい。また、塗布厚みや塗布量も適宜調整可能であり、特に限定されない。
【0208】
本発明の有機繊維用サイジング剤を塗布した後、必要に応じて、熱処理を行ってもよい。上記熱処理の条件は、特に限定されないが、加熱温度は40~300℃が好ましく、より好ましくは60~250℃である。また、加熱時間は、加熱温度に応じて適宜調節可能であり、特に限定されないが、1秒~60分が好ましく、より好ましくは5秒~10分である。上記熱処理において、加熱温度は一定とすることもできるし、連続的又は段階的に変更することもできる。また、上記熱処理は一段階で連続的に行うものであってもよいし、2以上の段階に分けて断続的に行うものであってもよい。なお、上記熱処理は、一般に、サイジング剤の含浸を促進させるとともに、溶剤を乾燥させるために実施される。上記熱処理は、公知乃至慣用の方法(例えば、熱風オーブンを使用した加熱等)により行うことができる。また、本発明の有機繊維用サイジング剤が硬化性を有する場合、上記熱処理により又は別途硬化処理を行ってもよい。
【0209】
本発明のサイジング剤塗布有機繊維は本発明の有機繊維用サイジング剤中の成分[I]及び/又は成分[II]が塗布されているため、繊維強化複合材料に対する密着性に優れる。また、本発明の有機繊維用サイジング剤中の成分[I]として特に耐熱性に優れるエポキシ-アミン付加物を使用した場合、高温での加工(例えば、サイジング剤塗布有機繊維の製造)に適用可能であり、有機繊維の織物の生産性向上にも寄与し得る。さらに、本発明の有機繊維用サイジング剤中の成分[I]としてある程度高いガラス転移温度を有するエポキシ-アミン付加物を使用した場合、加工機(ロール等)の汚染が防止され、また、サイジング剤塗布有機繊維に対して優れた風合いや取り扱い性を付与することも可能である。さらに、本発明の有機繊維用サイジング剤は、有機繊維を収束させる機能や、有機繊維に対して柔軟性を付与する機能等の一般のサイジング剤としての優れた機能も備えるため、本発明のサイジング剤塗布有機繊維は取り扱い性が良好であり、高次加工性に優れる。
【0210】
本発明のサイジング剤塗布有機繊維は上記特性を有するため、該サイジング剤塗布有機繊維を用いて得られる織物(「本発明の織物」と称する場合がある)は、繊維強化複合材料に対して優れた密着性を有する。また、優れた耐熱性及び機械強度を有し、高い生産性を有する。なお、本発明の織物は、公知乃至慣用の方法によって製造できる。
【0211】
本発明のサイジング剤塗布有機繊維の織物は、強化繊維(特に、炭素繊維)を用いた繊維強化複合材料との密着性に優れる。上記繊維強化複合材料は、例えば、樹脂(例えば、上述の有機繊維を構成する樹脂)を含む樹脂組成物を強化繊維に含浸又は塗工して得られるプリプレグより形成される。上記繊維強化複合材料の製造方法は、特に限定されないが、公知乃至慣用の方法、例えば、ハンドレイアップ法、プリプレグ法、RTM法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法、スプレーアップ法、引抜成形法、溶融含浸法、パウダー法等によって製造できる。
【0212】
本発明の織物は、上記繊維強化複合材料と積層させることにより、本発明の織物と、強化繊維の繊維強化複合材料とが積層された積層物を得ることができる。上記積層物は、各種の構造物の材料として使用することができ、特に限定されないが、例えば、航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア等;宇宙機のモーターケース、主翼等;人工衛星の構体;自動車のシャシー等の自動車部品;鉄道車両の構体;自転車の構体;船舶の構体;風力発電のブレード;圧力容器;釣り竿;テニスラケット;ゴルフシャフト;ロボットアーム;ケーブル(例えば、ケーブルの芯材等)等の構造物の材料として好ましく使用することができる。
【実施例】
【0213】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0214】
実施例1
3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(商品名「セロキサイド2021P」、(株)ダイセル製)30.0重量部、及びアミン末端ポリプロピレングリコール(商品名「JEFFAMINE D-230」、HUNTSMAN社製)35.9重量部を混合し、その後、160℃で2時間攪拌しながら反応させることにより、エポキシ-アミン付加物を合成した。当該エポキシ-アミン付加物70重量部に対して、商品名「NEWCOL780SF」(界面活性剤、日本乳化剤(株)製、有効成分:30重量%)100重量部を仕込み、溶解させた。次いで、攪拌混合下でイオン交換水300重量部を約10分間かけて滴下し、滴下終了後にホモミキサーを用いて10000rpmで1時間強制乳化させ、エポキシ-アミン付加物水分散型樹脂組成物を得た。さらに、水分散型樹脂組成物に含まれる有機溶剤を減圧で除去し、固形分重量14%、粘度10mPa・s、pH9.0の、目的のエポキシ-アミン付加物水分散型樹脂組成物を得た。
【0215】
実施例2
エポキシ化ポリブタジエン(商品名「エポリードPB3600」、(株)ダイセル製)90重量部に対して、商品名「NEWCOL707SF」(界面活性剤、日本乳化剤(株)製、有効成分:30重量%)6重量部、商品名「ノイゲンEA-197D」(界面活性剤、第一工業製薬(株)製、有効成分:60重量%)6重量部を仕込み、混合した。次いで、攪拌混合下でイオン交換水180重量部を約2時間かけて滴下し、滴下終了後にホモミキサーを用いて10000rpmで1分間強制乳化させ、目的のエポキシ化ポリブタジエン水分散型樹脂組成物を得た。
【0216】
実施例3
ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル(商品名「jER828」、三菱化学(株)製)100重量部にイソホロンジアミン(商品名「ベスタミンIPD」、エボニックジャパン(株)製)23重量部を配合し、目的のエポキシ-アミン付加物水分散型樹脂組成物を得た。
【0217】
[評価]
実施例で得られた水分散型樹脂組成物を用いて以下の評価を行った。
【0218】
(1)ぬれ性
PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維(商品名「プロコン」、東洋紡(株)製)に実施例1で得られた水分散型樹脂組成物を含浸後、水を乾燥除去することで、PPS繊維にエポキシ-アミン付加物が塗布された繊維(「PPS繊維A」と称する)、及び、PPS繊維(商品名「プロコン」、東洋紡(株)製)に実施例2で得られたにエポキシ化ポリブタジエンが塗布された繊維(「PPS繊維B」と称する)を得た。なお、実施例1及び2で得られた水分散型樹脂組成物のPPS繊維に対する濡れ性は良好であった。
【0219】
(2)密着性
アラミド繊維(商品名「ケブラー」、東レ・デュポン(株)製)に実施例1で得られた水分散型樹脂組成物を含浸後、水を乾燥除去することで、アラミド繊維にエポキシ-アミン付加物が塗布された繊維(「アラミド繊維A」と称する)、及び、アラミド繊維(商品名「ケブラー」、東レ・デュポン(株)製)に実施例2で得られたエポキシ化ポリブタジエンが塗布された繊維(「アラミド繊維B」と称する)を得た。なお、実施例1及び2で得られた水分散型樹脂組成物のアラミド繊維に対する濡れ性は良好であった。次いで、上記PPS繊維A及びBを用いた織物をそれぞれ作成し、これらを上記アラミド繊維A及びBを用いた繊維強化複合材料に圧着して貼り合わせたところ、十分に密着しており、密着性に問題がないことを確認した。一方、PPS繊維(商品名「プロコン」、東洋紡(株)製)を用いて織物を作成し、これを上記アラミド繊維A及びBを用いた繊維強化複合材料に圧着して貼り合わせたところ、密着性が比較的不十分であった。
【0220】
(3)せん断応力
実施例3で得られた水分散型樹脂組成物を、上記PPS繊維A、PPS繊維B、アラミド繊維A、及びアラミド繊維Bの各1本に直径100μm程度の玉になるよう付着させ、80℃、2時間、更に120℃、2時間硬化させて、繊維に樹脂玉を結合させた。これらをマイクロドロップレッド試験と呼ばれる試験方法で、樹脂玉と繊維とのせん断応力を測定した。なお、比較例として、何も塗布していない繊維に同様に樹脂玉を結合させ、マイクロドロップレッド試験にて、樹脂玉と繊維とのせん断応力を測定した。測定結果を表1に記載する。表1に示すように、実施例3で得られた水分散型樹脂組成物は、有機繊維及び強化繊維のいずれに対しても繊維のせん断応力を向上させることができた。
【0221】