(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】固液分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 21/28 20060101AFI20220606BHJP
B01D 21/00 20060101ALI20220606BHJP
B01D 21/06 20060101ALI20220606BHJP
B01D 21/18 20060101ALI20220606BHJP
B01D 21/24 20060101ALI20220606BHJP
C02F 11/12 20190101ALI20220606BHJP
【FI】
B01D21/28 Z ZAB
B01D21/00 C
B01D21/06 A
B01D21/18 A
B01D21/24 D
C02F11/12
(21)【出願番号】P 2018009679
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】391022418
【氏名又は名称】株式会社西原環境
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】荒生 靖大
(72)【発明者】
【氏名】中村 知弥
(72)【発明者】
【氏名】山本 正弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 篤
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】森井 萌子
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-029801(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1552506(KR,B1)
【文献】実公昭50-019327(JP,Y1)
【文献】国際公開第2015/146181(WO,A1)
【文献】特開昭53-110252(JP,A)
【文献】実開昭56-073503(JP,U)
【文献】特開2006-263670(JP,A)
【文献】特開平01-231910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00-21/34
C02F 1/52- 1/56
C02F 11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽と、
前記水槽に原水を供給する供給管と、
前記水槽内に配設され、円周上に複数枚の短冊状の分離羽根が間隔をもって設けられた筒状の回転体と、
前記回転体の中心に、軸線を鉛直方向に向けて配設された回転軸と、
前記水槽の底部に配設され、汚泥を前記水槽外に排出する汚泥排出管と
を有する固液分離装置において、
前記回転体の内側に、
側面に一以上の開孔を有する筒と、
前記供給管から供給された原水を鉛直方向または水平方向に分散させる部材と
を備えることを特徴とする固液分離装置。
【請求項2】
前記分散させる部材が、前記回転軸に連結されて回転駆動することを特徴とする請求項1に記載の固液分離装置。
【請求項3】
円周上に複数枚の短冊状の分離羽根が間隔をもって設けられた
、前記分散させる部材を内側に備える内回転体を有し、
前記内回転体は前記回転体の内径より小径である
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の固液分離装置。
【請求項4】
表面を水平方向および鉛直方向に対して傾斜させた
複数の板状の部材が
、前記回転体、前記回転軸、前記回転体と前記筒の間に設けられた内回転体、又は、前記水槽内で沈降した汚泥をかき寄せるかき寄せ機、の何れかに配設された支持体に設けられている
ことにより、回転するように設けられ、隣り合う前記板状の部材によって形成された間隙部において不規則な流れを形成させるように構成されていることを特徴とする請求項1
から3の何れかに記載の固液分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水、下水、産業排水、農業集落排水等の一次処理、生物処理による二次処理において発生した汚泥や水中の懸濁物を含む原水を、濃縮汚泥と分離液とに固液分離する固液分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汚泥の濃縮技術は、重力濃縮法と機械濃縮法の2つに大別される。
【0003】
重力濃縮法は、重力濃縮槽、凝集濃縮槽または沈殿槽等を用いて、汚泥を重力によって沈降させて濃縮するものである。また、固液分離性能や濃縮性の向上のため、このような沈殿槽等にかき寄せ機が設置されることもある。
重力濃縮法は、重力を利用するため、汚泥を濃縮する際のエネルギーを必要とせず、維持管理にかかるコストは安価となる。その反面、原水の性状変動によって濃縮後に得られる濃縮汚泥や分離液の性状が変動しやすく、処理性能が一定にならない。また、濃縮汚泥の濃縮濃度は比較的低く、汚泥発生量の増加によって汚泥処分費を増大させたり、分離液水質の悪化によって水処理系に悪影響を与えたりするおそれがある。
【0004】
機械濃縮法には、遠心式、常圧浮上式またはベルト式等がある。このうち遠心式は、高速で回転する遠心分離機によって、比重が1よりも大きい汚泥を分離するものである。
機械式濃縮法は、重力濃縮法と比較すると、原水の性状変動にもある程度対応することができ、濃縮汚泥濃度やSS(浮遊物質)回収率等の処理性能を安定させやすい。その反面、設備を運転するための操作が煩雑であることに加え、運転時のエネルギー消費量が多く、設備の状態を良好に維持するための定期的なメンテナンス作業を要するなど、運転や維持管理のためのコストは比較的高価になる。例えば遠心式では、高速回転によって汚泥の分離をするため、エネルギーの消費量が多く、音や振動等への対策が必要であり、安全を確保するための定期的なメンテナンスも要するため、その運転や維持管理のコストは高くなる。
【0005】
上記のような事情から、維持管理が容易で、設置コストが低く、処理性能が良好な固液分離装置の提供が望まれていたところ、本出願人はこれら課題を解決する固液分離装置を開発し、既に特許出願を行った(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-263670号公報
【文献】特開2007-29801号公報
【文献】特許第6165968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された固液分離装置では、水槽内に、円周に分離羽根を有し、流入管から供給される流入水を受け入れる筒状回転体を設けて、これを回転させることにより、流入水を回転させるが凝集した汚泥粒子である汚泥フロックを筒状回転体の外側に流出させないようにして内部へ汚泥フロックを多量に保持することを可能とし、汚泥濃縮効率を向上させている。
この方法においては、汚泥フロックを回転体の内部に保持することを容易にするために、流入管は、その開口部が回転体の内側に位置するように設置される。ここで、回転体内部の中間から上部付近に存在する汚泥フロックは形成途中のものであり、特に結合が不安定で破壊されやすいため、流入管の開口部は水流による形成途中の汚泥フロックの破壊を最小限とする位置に配設する必要がある。そのため、特許文献1に開示された固液分離装置における流入水の投入位置の水深は、回転体の中間から下部付近となるため従来のかき寄せ機を備えた沈殿槽等よりも深くなる。
しかし、流入水の投入位置が深くなると、流入管から供給される流入水量によっては流束が回転体の下端よりも深い位置に到達しやすくなり、流入水の一部が回転体の内部に保持されずに回転体の下端から流出することになる。回転体の下端から流出した流入水は、沈殿槽等の底部付近で乱流を発生させ、この乱流は、沈殿槽等の底部付近に形成される濃縮汚泥層を撹拌する。その結果、流入水や分離液と濃縮汚泥層を形成する汚泥とが混合し、濃縮汚泥濃度の低下や分離液水質の悪化が引き起こされるおそれがある。
【0008】
上記のような乱流の発生を抑制するため、流入管から供給される原水を水平方向に分散させる機構を設けることが考えられる。そのための構成として、例えば特許文献2に開示された固液分離装置では、流入管から供給された原液を回転筒の中央に誘導する漏斗状の誘導器を設け、その誘導器の直状管部の下端を閉塞させるとともに直状管部に多数の孔を形成することが開示されている。
ここで、誘導器はその下端が回転筒の上下方向のほぼ中央に位置するように設置されるため、誘導器の直状管部に形成された多数の孔から流出する原液は、回転筒内部の中間から上部付近に供給されることになる。前述の通り、回転筒内部には汚泥フロックが保持されているが、回転筒内部の中間から上部付近に存在する汚泥フロックは形成途中のものであり、特に結合が不安定で破壊されやすい。このように不安定な汚泥フロックを多く保持する回転筒の内部の中間から上部付近に対し、継続的に原液を供給すれば、形成途中の汚泥フロックが破壊され、汚泥の沈降性を悪化させるおそれがある。
さらに、誘導器は回転筒の内部に設置されるが、回転体の内部には汚泥フロックの形成と保持をするための十分な空間を確保する必要があるため、誘導器の直状管部の直径は回転筒よりも十分に小径である必要がある。このような直状管部に多数の孔を形成すると、それぞれの孔は小径となる。このような誘導器において、その直状管部の下端が閉塞されると、原液の流出箇所は上記のような小径の孔のみに限定されることになり、誘導器から回転筒に流出する際の原液の流速が上昇することになる。その結果、水平方向への流れが形成され、この水平方向への流れが、回転筒の内部に保持された汚泥フロックを破壊し、破壊された汚泥フロックがスリットから回転筒の外部へと流出することで、分離液水質の悪化を招くおそれがある。
【0009】
また、特許文献3では、流入管から供給される原水を水平方向に分散させる構成として、流入管の下方に複数のプレートからなる原水分配機構を設けることが開示されている。前記複数のプレートには、最下端に位置するプレートを除いて、前記流入管の軸を中心とした開口部が形成されており、当該開口部の大きさが上側のプレートから下側のプレートに向かうにつれて順次狭小化している。そして、プレートに衝突した原水は、外周側の水平方向に均等に分散され、各プレートで段階的に行われることで水平方向へ分散することになる。
しかし、この構成によると、供給される原水の流束が外周側から順番に各プレートに衝突することとなるため、原水の多くは最下段に位置するプレートから供給されることになる。したがって、上記構成を特許文献1や特許文献2のような固液分離装置に適用しても、原水が回転体の下部に多く供給されて回転体内部に汚泥フロックを保持することが難しくなるため、回転体内部への汚泥粒子や汚泥フロックの保持による、汚泥粒子や汚泥フロックと分離羽根の接触機会を確保して汚泥のフロック化を促進することができず、安定した濃縮性能を得るための効果的な対策とはいえない。
【0010】
さらに、汚泥のフロック化は汚泥粒子同士が接触することで進行するところ、特許文献1や特許文献2のような分離羽根を有する固液分離装置においては、分離羽根が回転体とともに回転する際に生み出す回転流が、回転体内部の分離羽根の表面付近に存在する汚泥粒子の接触頻度を高めることによって、汚泥のフロック化が一層促されることになる。したがって、回転体内部における汚泥のフロック化の効率は、分離羽根の表面に近いほど高く、回転体の中心に近いほど低くなる。
しかし、水槽に供給された原水が回転体内部に保持されないまま水槽底部に流出すると、汚泥粒子同士の接触頻度が減少するため、汚泥のフロック化の効率が低下することになる。
また、一般に水槽の水深は約4~5mである事から、施設計画上1日に処理すべき原水の量(処理量)が多くなるに従い、水面積負荷(処理量を水槽面積で除したもので、水槽内の上向流速を表す。重力による固液分装置の設計や管理に係る基本指標の一つ。)を一定の範囲に保つために水槽の口径(直径)も比例して大きくする必要がある。さらに、処理量が多くなった場合、回転体内部に汚泥フロックを保持するため、当該水槽に適用する回転体の口径も大型にする必要がある。しかし、回転体の口径が大型になると、原水が供給される位置と回転体の円周との水平距離が増加するため、原水に含まれる汚泥粒子の一部が分離羽根の表面付近まで到達する前に、通常の重力沈降により水槽底部に沈降してしまうことになる。すると、回転体内部の分離羽根の表面付近に到達する汚泥粒子が減少するため汚泥粒子の接触頻度を高めることができなくなり、汚泥のフロック化の効率が低下することになる。
このように、水槽の大型化に対応させるために回転体の口径を大型化すると、回転体内部の分離羽根の表面付近に存在する汚泥粒子の接触頻度を十分に高めることができず、汚泥のフロック化効率を高めることができなくなり、安定した濃縮性能を得にくくなる。
【0011】
上記に加え、回転体を設置した水槽では、回転体内部には、流入管によって水槽に供給された直後の原水に含まれる汚泥粒子や、汚泥粒子同士の接触により形成された汚泥フロックなどの汚泥が保持される一方で、回転体外部の水槽底部には、回転体内部に保持された汚泥が沈降し堆積して滞留時間の長い濃縮汚泥層が形成されている。
一般に、水槽内における固形物滞留時間が長くなると、汚泥の腐敗により炭酸ガスや硫化水素ガスが発生し、これらのガスが気泡として汚泥に付着することにより汚泥の浮力が増加して沈降が阻害される結果、濃縮性能が低下する。このため、水槽の底部付近で発生した乱流により筒状回転体内部の汚泥を汚泥引抜口まで掻き寄せることが困難となると、固形物滞留時間の長期化による汚泥の腐敗が発生するおそれがあることになる。さらに、腐敗した汚泥が撹拌されて水槽内に存在し続けることになり、濃縮性能を低下させるおそれがある。
そして、前記固形物滞留時間の長期化および濃縮性の低下は、水槽の口径が大きくなるほど、すなわち水槽底部面積が増大するほど起こりやすくなる。
【0012】
本発明は上記のような課題を解決するためのものであり、処理量の多い大口径の水槽の底部付近における乱流の発生や回転体内部に保持された汚泥フロックの破壊を抑制するとともに、分離羽根の表面付近に存在する汚泥粒子の接触頻度を高めることや、濃縮汚泥の脱気を促進して汚泥の沈降性を回復させることにより、安定した濃縮性能を得ることができる固液分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(構成1)
水槽と、前記水槽に原水を供給する供給管と、前記水槽内に配設され、円周上に複数枚の短冊状の分離羽根が間隔をもって設けられた筒状の回転体と、前記回転体の中心に、軸線を鉛直方向に向けて配設された回転軸と、前記水槽の底部に配設され、汚泥を前記水槽外に排出する汚泥排出管とを有する固液分離装置において、前記回転体の内側に、側面に一以上の開孔を有する筒と、前記供給管から供給された原水を鉛直方向または水平方向に分散させる部材とを備えることを特徴とする固液分離装置。
(構成2)
円周上に複数枚の短冊状の分離羽根が間隔をもって設けられた内回転体を有し、前記内回転体は前記回転体の内径より小径であることを特徴とする構成1に記載の固液分離装置。
(構成3)
表面を水平方向および鉛直方向に対して傾斜させた一以上の板状の部材が設けられていることを特徴とする構成1又は2に記載の固液分離装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の固液分離装置によれば、処理量の多い大口径の固液分離装置であっても水槽の底部付近における乱流の発生や回転体内部に保持された汚泥フロックの破壊を抑制することが可能となるほか、回転体内部に保持された汚泥粒子や汚泥フロックと分離羽根の接触機会を確保して汚泥のフロック化を促進することや、濃縮汚泥の脱気を促進して汚泥の沈降性を回復させることが可能となり、安定した濃縮性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態1における固液分離装置を示す概略側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態2における固液分離装置を示す概略側面図である。
【
図3】本発明の実施の形態3における固液分離装置を示す概略側面図である。
【
図4】回転体の内部における分離羽根の設置状態を示す図である。
【
図6】回転体3の外部に形成された分離液層SP、汚泥層M、液層Lおよび分離羽根4の垂直断面を示す模式図である。
【
図7】実施例1の固液分離装置と従来の固液分離装置における、濃縮汚泥濃度と分離液SS濃度の経日変化を示す図である。
【
図8】実施例1の固液分離装置と従来の固液分離装置における、水槽内の汚泥濃度の分布を示す図である。
【
図9】実施例2の固液分離装置と実施例1の固液分離装置における濃縮汚泥濃度および分離液SS濃度の測定結果を比較した図である。
【
図10】実施例3の固液分離装置を適用した水槽と実施例2の固液分離装置を適用した水槽における分離液SS濃度の測定結果を比較したものである。
【
図11】実施例3の調査の調査期間中における流入汚泥の条件を示す表である。
【
図12】実施例3の固液分離装置を適用した水槽と実施例2の固液分離装置を適用した水槽における濃縮汚泥濃度を示す表である。
【
図13】内回転体10の外部に形成された分離液層SP2、汚泥層M2、液層L2および分離羽根10aの垂直断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施態様は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明を実施するための実施の形態1における固液分離装置を説明するための概略側面図である。
この固液分離装置は、水槽1と、水槽1に原水を供給する供給管2と、円周上に複数枚の短冊状の分離羽根4が間隔をもって設けられた筒状の回転体3と、回転体の中心に軸線を鉛直方向に向けて配設された回転軸5と、水槽1内で沈降した汚泥をかき寄せるかき寄せ機6と、水槽1の底部に配設され、汚泥を水槽1外に排出する汚泥排出管(図示せず)と、上端および下端が開口し、側面に一以上の開孔8aを有する筒8と、供給管2から供給された原水を鉛直方向または水平方向に分散させる部材9を備える。部材9は、回転体3と同軸上に配設され、凸部が前記水槽の底部とは反対の方向を向いた形状をしている。
【0018】
水槽の平面形状は、円形、四角形または多角形等に形成することができるが、実施の形態1では円形としている。水槽1の底部は、沈降または濃縮した汚泥を効率的に回収できるように、水槽1の底部の中心に向かって下降傾斜するテーパ状にすることが好ましい。なお、テーパ部の傾斜角度(勾配)は、例えば5/100とすることができる。
水槽1は、回転体3が位置する槽上部の反応部12と、反応部12の下方の沈殿部13とを備え、沈殿部13には沈降した汚泥を収容するようになっている。なお、回転体3の上端は、水槽1の水面WLとほぼ一致させてある。また、沈殿部13には、回転軸5と連結されたかき寄せ機6が設けられている。回転軸5は、図示しない駆動機と連結されており、この回転軸5が駆動機によって回転することにより、かき寄せ機6が低速度で回転し、沈殿部13に沈降した汚泥は、このかき寄せ機6によって反応部12に巻き上げられることなく水槽1の底の中央部に集められる。集められた汚泥は、沈殿部13の下部に接続された図示しない汚泥排出管から、自然流下方式で排出されるか、または図示しないポンプ等によって強制的に排出される。そして、水槽1の上部には図示しない越流堰が設けられ、この越流堰を越流した分離液は、図示しない分離液排出管から系外に排出される。
【0019】
供給管2は、その大部分を占める本体2aと、本体2aの端部において原水を鉛直下方に向けて供給する鉛直部2bを設けてあり、鉛直部2bの下端は開口させてある。この開口部分は、回転体3の内部に配設された筒8内に原水が供給されるように配置する。
さらに、供給管2は、図示のように水槽1の上方から導くことができるが、水槽1の壁面を貫通させて導くこともできる。
なお、原水は、間欠的または連続的に流入させることができる。
【0020】
回転体3は、かき寄せ機6と連結されており、このかき寄せ機6は回転軸5と連結されている。回転軸5は図示しない駆動機と連結しており、この駆動機によって回転軸5が低速で回転駆動されることによって、回転体3は回転する。
そして、
図4で示されるように、回転体3には、複数枚の短冊状の分離羽根4が所定間隔をおいて同一円周上に隣接配置され、隣接する分離羽根4同士の間に形成された隙間は鉛直方向に細長いスリット3aとなっている。
【0021】
実施の形態1の分離羽根4は、短冊状であり、その水平断面形状は、
図4に示すように「く」の字状としてある。これらの分離羽根4は、それぞれ所定幅を有する一方の第1短辺4aと他方の第2短辺4bとが屈曲部4cにおいて折り曲げられている。これらの短辺同士の交差角度は鈍角であり、例えば
図4においては150度(接線に対して30度)としてある。
なお、第2短辺4bは、円形の回転体3内でその接線方向に沿って配置され、結果として、第1短辺4aは回転体3の内方に向けられている。そして、互いに隣接する分離羽根4は、一方の分離羽根4の第1短辺4aの端部と、他方の分離羽根4の屈曲部4cとの間隔Sを同一長さにするとともに、一方の分離羽根4の第1短辺4aの端部と、他方の分離羽根4の第2短辺4bの端部との間隔、すなわちスリット3aの幅が同じになるように配置してある。
図4の例では、これらの間隔Sおよびスリット3aは、すべての分離羽根4同士で一致させてあるが、これらは必ずしも等間隔で設けられる必要はない。これらは、ランダムの長さの間隔Sまたはスリット3aであっても、また、一つ置き、二つ置きに同一の間隔または長さとなるように設けてもよい。
【0022】
次に、実施の形態1における回転体3の作用を、
図4に基づいて説明する。
汚泥等の固形分と水分から構成される原水は供給管2から筒8を通って回転体3の内部に供給される。回転体3は低速度で回転(例えば
図4では時計回り方向に回転)しているので、回転体3の内部に供給された原水は、回転体3に配設された分離羽根4の移動に同伴して流動する。また、回転体3の内部の中間から上部付近に保持された形成途中の汚泥フロック3bは分離羽根4よりも遅い速度で分離羽根4と同じ方向に移動し、他の形成途中の汚泥フロックと接触を繰り返し、回転体3の中心方向に沈降しつつ安定した汚泥フロックとして集まり保持される。また、スリット3aから流出しようとする形成途中の汚泥フロック3bは、分離羽根4の表面に接触して回転体3の内側へと押し戻され、汚泥フロック形成を繰り返す。
このようにして固形分である汚泥フロック3bが回転体3の内部に保持される一方で、水分はスリット3aを通過して、水槽1の上方に分離液として上昇した後、越流堰を越流して系外に排出されることになる。このような回転体3によれば、スリット3aを介して原水中の水分が回転体3外へ流出し、汚泥等の固形分は回転体3内に保持されるので、汚泥の固液分離、濃縮、沈降が効率的に行われる。
【0023】
また、出願人は、回転体3の内部に保持される汚泥と分離羽根4との接触機会が多いほど、汚泥の固液分離性や濃縮の効率が良好になることを明らかにしている(例えば特許第5468316号)。
すなわち、原水に含まれる汚泥粒子や回転体3の内部に保持された汚泥フロックは、供給管2によって供給された原水が回転体3の内部に分散する際に生じる水流により、分離羽根4の表面付近まで到達する。そして、これらの汚泥粒子や汚泥フロックは、分離羽根4に接触して回転体3の内部に押し戻されつつ、分離羽根4の移動に同伴して回転体3の回転方向と同じ方向に低速で流動する。その結果、分離羽根4の表面付近には汚泥粒子や汚泥フロックが滞留しやすくなり、汚泥粒子や汚泥フロックが互いに接触する機会が増加するため、沈降性(固液分離性)や圧密性(濃縮の効率)の高い、安定した汚泥フロックが形成されやすくなる。
このように、回転体3の内部に保持される汚泥と分離羽根4との接触機会が多いほど、汚泥粒子や汚泥フロックが互いに接触する機会も増加する結果、汚泥の固液分離性や濃縮の効率は良好になる。
【0024】
また、回転体3が低速度で回転することにより、回転体3の外部に形成された汚泥層Mと分離羽根4とが接触するため、分離羽根4の外表面付近にある汚泥層Mが物理的にかき分けられて縦方向に筒状の液層Lが形成される。
図6は回転体3の外部に形成された分離液層SP、汚泥層M、液層Lおよび分離羽根4の垂直断面を示す模式図である。
図6中、上向きの矢印は水分の上向流を、横向きの矢印は汚泥層M中の水分が液層Lに向かう流れを、そして下向きの矢印は汚泥の沈降を表している。また、汚泥層M中の丸は沈降する汚泥を表しており、丸の密度で濃度分布を表している。なお、分離羽根4近傍については、水分および汚泥の移動する方向を示す矢印を見やすくするため便宜上薄く表記したものであり、濃度分布に関係するものではない。分離羽根4によって形成された筒状の液層Lによって周囲の汚泥層M中の水分が集まると、固液分離が促進されるとともに、汚泥の圧密工程への移行が早まるため、濃縮汚泥層Dの高濃度化が可能となる。
【0025】
筒8は、
図1に示されるように、筒状(上面と下面が開口)であり、その側面に一以上の開孔8aを有している。筒8は、その内部に供給管2から供給される原水を受け入れ、開孔8aを介して原水の一部を回転体3の内部に供給する。開孔8aの直径は、例えば、Φ100~200mmとすることができる。なお、開孔8aは、全ての開孔8aの面積を合計した面積と筒8の下端の開口の面積との比が1対1となるように形成することが好ましい。
筒8は、回転体3の内部に原水を供給できるのであればいかなる位置に設置しても良いが、実施形態においては、回転体3の内部に、回転体3と同軸上になるように配設するものを例としている。また、かき寄せ機6に設けた図示しない支持体によって筒8を支持させることにより、筒8は、駆動機を動力として回転駆動することができるようになる。
なお、筒8を回転体3の内部に設置するため、筒8の直径は、回転体3の内径よりも小径とする。
【0026】
前述のように、汚泥の固液分離性や濃縮の効率は、回転体3の内部に保持される汚泥と分離羽根4との接触機会が多いほど良好になる。ところが、供給管2から供給された原水の多くは下方向に流出するため下向流が発生し、この下向流が、回転体3の内部に汚泥を保持することを難しくさせたり、回転体3の内部に保持される汚泥と分離羽根4との接触機会を減少させたり、水槽1の底部で乱流を発生させたりするおそれがある。
ここで、側面に一以上の開孔8aを有する筒8を回転体3の内部に設けることにより、供給管2から供給された原水の一部は、これらの開孔8aから流出できるようになる。開孔8aによって原水の一部が水平方向へと流出することにより、回転体3の内部に原水を保持しやすくなるため、供給管2の鉛直部2bの下端開口の位置は従来の固液分離装置と比較して浅い位置に設置することが可能となり、回転体3の内部において下向流の発生が抑制されるため水槽1の底部における乱流の発生を抑制することもできる。また、原水の一部が開孔8aから水平方向に分散流出する際に形成される水平方向の水流により、原水や回転体3内部に保持された汚泥が分離羽根4に到達しやすくなるため、汚泥と分離羽根4との接触機会が増加して、汚泥フロックが形成されやすくなる。このように、ある程度の大きさの“開孔8aから水平方向に分散流出する際に形成される水平方向の水流”が形成されることは、汚泥フロックの形成促進に有用であるが、その水流が強くなりすぎると、水流が汚泥フロックを破壊し、逆効果となるおそれがある。本実施形態の固液分離装置では、下端が開口している筒8を用いると共に、以下に説明するように、部材9を配することによって、“開孔8aから水平方向に分散流出する際に形成される水平方向の水流”を最適化することを可能としているものである。
【0027】
部材9は、鉛直方向に対して傾斜面を有しており、供給管2から筒8に供給された原水の一部を鉛直方向または水平方向に分散させる。部材9の形状は、供給管2から筒8に供給された原水の一部を鉛直方向または水平方向に分散させることができる形状であればいかなる形状でもよく、例えば、板状、円錐形や四角錐形などの錐形状、逆V字状または傘状や、中心部は鉛直に近く、外周部に行くに従い水平に近くなる傾斜面を有する形状等にできるが、錐形状とするのが好ましい。また、部材9は、回転体3の内部であればいかなる位置に配設しても良いが、開孔8aから流出する原水の流速を過度に大きくすることなく、供給管2から筒8に供給された原水の一部を鉛直方向または水平方向に効率よく分散させるには、部材9によって筒8を閉塞しないように配設することが好ましい。
例えば、筒8の内部または下端に部材9を配設する場合は、部材9によって筒8を閉塞しないようにするため、部材9は筒8の直径より小さくする。このようにすることで、供給管2から筒8に供給された原水は、筒8の下端の開口から流出するまでに部材9と接触し、その一部が水平方向に誘導され、残部は部材9の縁部から水槽の底部に向けて流出することになる。これにより、供給管2から原水が供給される際に形成された下向流の流速を緩和できるとともに、開孔8aから流出する原水の流速が過度に大きくなることを防ぐことも可能となる。
一方で、筒8の下方に部材9を配設する場合においては、供給管2から筒8に供給された原水のうち、一部は開孔8aから流出するが、残部は筒8の下端の開口から流出することになる。そこで、部材9を筒8の直径以上の大きさとし、筒8の下端の開口から流出する原水の全量を部材9と接触させる。これにより、供給管2から原水が供給される際に形成された下向流の流速を緩和することができる。
以上のように、部材9を筒8の下端を閉塞させないように配設することにより、供給管2から筒8に供給された原水が回転体3の下部に多く供給されることを抑制することができるので、回転体3の内部に汚泥フロックを保持することが容易となる。
【0028】
次に、実施の形態1における部材9の作用を、
図1に基づいて説明する。
筒8の下方に部材9を配設することにより、供給管2から筒8に供給された原水は、供給管2の開口から鉛直下方向に流下した後、その一部は開孔8aを通過することにより水平方向に分散して回転体3の内部に流出し、残部は筒8の内部を流下して部材9と接触することにより、水平方向に分散して回転体3の内部に流出する。
【0029】
このような作用を有する部材9は、供給管2から供給された原水が、筒8の内部を流下してそのまま水槽1の底部に向けて供給されることを抑制する。すなわち、部材9の配設により、原水の処理量が多く、大口径となる水槽においても底部における乱流の発生を抑制することができる。
【0030】
また、部材9を筒8の下端を閉塞させないように配設することで、供給管2から筒8に供給された原水は、供給管2の開口から鉛直下方向に流下した後、その一部は開孔8aから、残部は筒8の内部を流下して筒8の下端から、回転体3の内部へと流出するため、原水の全量が開孔8aから流出されることを抑制できる。つまり、部材9によって筒8の下端を閉塞させるように配設した場合、供給管2によって供給された原水は、その全量が開孔8aから流出することになるが、開孔8aの直径はΦ100~200mmと小径であるため、供給された原水が開孔8aから回転体3の内部に向けて流出する際の流速は大きくなる。
ここで、回転体3の内部には汚泥フロックが保持されているが、回転体3内部の中間から上部付近に存在する汚泥フロックは形成途中のものであり、沈降性が低く、圧密性も高くない。また、この汚泥フロックの結合は不安定であり破壊されやすい。開孔8aから流出した原水の流速が過度に大きければ、不安定な汚泥フロックの結合が破壊されて汚泥の沈降性を悪化させるおそれが高まるとともに、破壊されて小粒となった汚泥フロックをスリット3aから回転体3の外部へ押し出してしまうおそれも高まるため、分離液の水質を悪化させるおそれがある。そこで、部材9を筒8の下端を閉塞させないように配設することにより、汚泥フロックの結合を破壊することや、汚泥フロックがスリット3aから回転体3の外部へと流出することを抑制することができる。
【0031】
さらに、部材9を、
図1に示すような錐形状に形成した場合、供給管2から筒8に供給された原水は、その一部が開孔8aを通過することにより水平方向に分散して回転体3の内部に流出するため、筒8の内部の降下流速が徐々に減少し、さらに部材9と接触して部材9の傾斜面に沿って流下するにつれて、水平方向に分散する。そして、部材9は回転軸5と連結されて回転駆動しているため、部材9と接触した原水は、部材9の回転方向に押されながら部材9の傾斜面に沿って流下することになる。原水は、その流速が減少した状態で、回転駆動される部材9と接触することで、部材9の回転に同伴して部材9の回転方向と同じ方向に低速で流動しながら部材9の傾斜面に沿って流下して、部材9の縁部まで到達し、回転体3の内部へと供給される。原水は、部材9に接触してから部材9の縁部から流出するまでの間、部材9の回転方向と同じ方向に低速で流動しながら部材9の傾斜面に沿って流下することで、部材9の表面において徐々に分散した状態となり、その状態で部材9の縁部から回転体3の内部へと供給されることになる。すなわち、部材9の配設により、原水は、回転体3の内部に流出する際の流速が減少するとともに、より分散した状態で回転体3に供給されることになり、回転体3の内部に保持された汚泥フロックを破壊することを防ぐことができる。
加えて、原水がより分散した状態で回転体3に供給されることは、回転体3の内部の特定の場所で汚泥が偏在すること、言い換えると分離羽根4の表面付近を除く回転体3の内部の特定の場所に汚泥粒子や汚泥フロックが偏って存在している状態になることを防ぐことも可能とする。この点、回転体3の内部の特定の場所に汚泥が偏在するようになると、回転体3に配設された分離羽根4に対する汚泥との接触頻度は、分離羽根4が汚泥が偏在している付近を移動する間は高く、分離羽根4が他の部分を移動する間は低くなることとなり、汚泥のフロック化の効率が悪くなることとなる。すなわち、部材9の配設により、原水がより分散した状態で回転体3に供給されることになり、回転体3の内部における汚泥の偏在を防ぐことができ、汚泥と分離羽根4との接触機会が万遍なく確保される結果、汚泥のフロック化を効率よく促進することができるようになる。
【0032】
以上のように、筒8の下方に部材9を配設することは、供給管2から供給された原水の流速を減じて水槽1の底部における乱流の発生を抑制したり汚泥フロックの破壊を防いだりするとともに、回転体3の内部における汚泥の偏在を防いで汚泥と分離羽根4との接触機会を確保することによって、汚泥のフロック化を促進することができる。
【0033】
(実施の形態2)
図2は、本発明を実施するための実施の形態2における固液分離装置を説明するための概略側面図である。なお、
図1に示すものと同一の構成要素に関しては同一の符号を用いて重複説明を省略する。
実施の形態2の固液分離装置は、実施の形態1の固液分離装置に対して、円周上に複数枚の短冊状の分離羽根が間隔をもって設けられた内回転体10が設けられている点が異なる。
【0034】
前述のように、回転体3の内部に保持される汚泥と分離羽根4との接触機会が多いほど、汚泥の固液分離性や濃縮の効率が良好になる。そして、汚泥と分離羽根4との接触機会は分離羽根4の表面積を増加させることで増加させることができる。
となると、回転体3の直径を大きくすれば、回転体3の外表面積が増加するため、回転体3の円周上に配設する分離羽根4の表面積の積算値も増加し、分離性能をさらに高めることができるとも考えられる。この点、原水の処理量が多くなれば、当該水槽に適用する回転体3の直径も、回転体内部に汚泥フロックを保持するため大きくする必要があり、その結果として上述のとおり分離性能が高まるため十分な汚泥のフロック化がなされるとも思える。しかし、回転体3の直径が大きくなると、回転体3の中心部から回転体3の円周上に配設された分離羽根4までの水平距離が長くなり、原水中の汚泥粒子や回転体3の内部に保持された汚泥フロックが分離羽根4に到達するまでに通常の重力沈降により水槽底部に沈降してしまい、その結果、原水中の汚泥粒子や回転体3の内部に保持された汚泥フロックの分離羽根4と接触する機会は減少してしまうことになる。
そこで、回転体3と筒8の間にさらに内回転体10を設けることにより、回転体3の内部に保持された汚泥と接触しうる分離羽根の表面積は、内回転体10の円周上に配設する分離羽根10aの表面積を積算した分だけ増加し、筒8と分離羽根10aの水平距離も筒8と分離羽根4の水平距離よりも短くなる(分離羽根10aは分離羽根4よりも筒8に近い位置にある。)ため、回転体3の内部に保持される汚泥と分離羽根との接触機会が減少することを防ぐことができる。
【0035】
内回転体10は、回転体3と筒8の間に設置される。また、内回転体10は、回転体3と同様にかき寄せ機6と連結されており、かき寄せ機6と連結する回転軸5が図示しない駆動機によって低速度で回転駆動されることによって回転する。
そして、
図2で示されるように、内回転体10には、複数枚の短冊状の分離羽根10aが所定間隔をおいて同一円周上に隣接配置され、隣接する分離羽根10a同士の間に形成された隙間は鉛直方向に細長いスリット(以下「分離羽根10aスリット」という)となっている。
【0036】
内回転体10は、その上端が筒8の上端より下方に位置するように設定する。
内回転体10の直径は回転体3の直径と比較して小径であり、分離羽根10aスリットの総面積は、スリット3aの総面積よりも狭くなるため、筒8を介して供給される原水の全量を受け入れた場合、分離羽根10aスリットの単位面積当たりの原水の通過水量はスリット3aの単位面積当たりの原水の通過水量よりも相対的に大きくなる。この結果、分離羽根10aスリットを介して流出する水分の流速も相対的に大きくなり、固液分離装置の分離性能に支障を来すおそれがある。
そこで、内回転体10の上端が筒8の上端よりも下方に位置するように設置することにより、内回転体10の内部には、筒8の下方に設けられた開孔8aおよび筒8の下端から流出する原水、またはそのいずれかのみが供給されることとなる。このような構成とすることにより、内回転体10の内部に筒8から流出する原水の全量が供給されることを回避できる結果、分離羽根10aスリットから流出する水分中に汚泥粒子が混入したり、分離羽根10aスリットを通過する水分の流速によって回転体3の内部に保持された汚泥フロックが破壊されてしまったりすることを防ぎ、内回転体10がなければ回転体3の分離羽根4に到達するまでに通常の重力沈降により水槽底部に沈降していた汚泥フロックが分離羽根10aと接触して沈降性や圧密性の高い、安定した汚泥フロックとして形成されるようになる。
例えば、内回転体10を、内回転体10の上端が筒8の上端より下方かつ筒8の下端より上方、かつ内回転体10の下端が回転体3の下端より上方に位置するように設置した場合にあっては、上述した汚泥フロックと分離羽根10aの接触という作用効果の他、分離羽根10aが、回転体3の内部の中間から上部付近に保持される汚泥粒子や汚泥フロックと接触しやすくなる。そして、回転体3の内部の中間から上部付近には、形成途中の汚泥フロック、すなわち沈降性が低く圧密性も高くない汚泥が多く保持されている。したがって、内回転体10の上端が筒8の上端より下方かつ筒8の下端より上方、かつ内回転体10の下端が回転体3の下端より上方に位置するように設置した場合、内回転体10が回転体3の内部の中間から上部付近に存在する形成途中の汚泥フロックと接触しやすくなり、その結果、沈降性や圧密性の高い、安定した汚泥フロックが形成されやすくなる。
【0037】
また、内回転体10を、内回転体10の上端が筒8の下端以下に位置するように設置した場合にあっては、内回転体10が低速度で回転することにより、内回転体10の外部に形成された汚泥層M2と分離羽根10aとが接触するため、分離羽根10aの外表面付近にある汚泥層M2が物理的にかき分けられて縦方向に筒状の液層L2が形成される。
図13は内回転体10の外部に形成された分離液層SP2、汚泥層M2、液層L2および分離羽根10aの垂直断面を示す模式図である。
図13中、上向きの矢印は水分の上向流を、横向きの矢印は汚泥層M2中の水分が液層L2に向かう流れを、そして下向きの矢印は汚泥の沈降を表している。また、汚泥層M2中の丸は沈降する汚泥を表しており、丸の密度で濃度分布を表している。なお、分離羽根10a近傍については、水分および汚泥の移動する方向を示す矢印を見やすくするため便宜上薄く表記したものであり、濃度分布に関係するものではない。分離羽根10aによって形成された筒状の液層L2によって周囲の汚泥層M2中の水分が集まると、固液分離が促進されるとともに、汚泥の圧密工程への移行が早まるため、濃縮汚泥層D2の高濃度化が可能となる。
【0038】
(実施の形態3)
図3は、本発明を実施するための実施の形態3における固液分離装置を説明するための概略側面図である。なお、
図1及び
図2に示すものと同一の構成要素に関しては同一の符号を用いて重複説明を省略する。
実施の形態3の固液分離装置は、実施の形態1の固液分離装置または実施の形態2の固液分離装置に対して、一以上の板状の部材11が設けられている点が異なる。
【0039】
図5に示されるように、部材11は、筒8の回転方向および鉛直方向に対して傾斜した状態で固定される一対の板状の部材である部材11bおよび部材11cを備える。部材11は、筒8の外周に固定された支持体11aに一以上配設される。また、部材11は、一対の部材11b、11cのそれぞれの中央部から伸びた部材と、支持体11aから鉛直上方向に伸びた部材11dとが接合されることによって形成され、その外形は略Y字状となる。なお、支持体11aは、部材11が回転体3の内部を周回することができるように固定するものであれば良く、筒8以外にも、例えばかき寄せ機6、回転軸5、回転体10または回転体3等に配設することができる。
また、部材11の形状は略Y字状に限定されるものではなく、回転体10の内部において、板状の部材を回転方向および鉛直方向に対して傾斜した状態で配設することができるのであれば、いかなる形状でもよい。
加えて、ここでは部材11が回転するものを例としているが、部材11が回転しないように固定されるものであっても構わない。汚泥は回転体3や10と共回りするため、部材11が回転しないように固定されるものであっても、以下で説明する作用効果を得られるものである。
【0040】
次に、実施の形態3における部材11の作用を説明する。
図3に示すように、実施例3においては、筒8の外周から伸びた支持体11aに部材11が固定されているため、部材11は、筒8が回転することにより、筒8の外部を周回する。そして、
図5に示すように、一対の部材11b、11cの間には、その形状が略V字状の間隙部11eが形成されており、間隙部11eは沈降性を悪化させる原因となる汚泥粒子や不安定な汚泥フロックを、部材11が周回する間に捕捉することができる。そして、略V字状の間隙部11eは、回転方向および鉛直方向に対して傾斜した部材11bおよび部材11cにより形成されているため、部材11が周回することにより、間隙部11eには不規則な流れが生じる。このような不規則な流れにより、間隙部11eに捕捉された汚泥粒子同士の接触機会は増加し、汚泥のフロック化が促進される。また、汚泥に付着する気泡は間隙部11eで生じる不規則な流れによって汚泥から分離して浮上し、その結果、汚泥は脱気されることになる。
以上のように、部材11は、間隙部11eにおいて汚泥粒子同士の接触機会を増加させることによって汚泥のフロック化を促すことで汚泥の沈降性を向上させるとともに、固形物滞留時間が長くなり、腐敗によって生じる汚泥に付着した気泡同士の接触機会を増加させることによって汚泥の脱気を促すことで汚泥の沈降性を回復させることができる。このような作用を有する部材11は、回転体3内部に保持された汚泥の沈降性が悪化して汚泥界面が上昇した場合においても、部材11は回転体3内部に保持された汚泥を横方向にかき分け、汚泥粒子や不安定な汚泥フロックの接触機会を増加させて、汚泥の沈降性を回復させることができる。
【実施例】
【0041】
<実施例1>
実施例1では、実施の形態1による固液分離装置を、下水処理施設における混合汚泥を対象に適用し、その性能を調査した。
実施例1の固液分離装置は、水槽直径17,000mm、水槽容積681m3、回転体3の直径が7,000mmであり、流入汚泥量2,800m3/日、かき寄せ機6先端の標準周速は2.4m/分とした。なお、かき寄せ機6先端の標準周速を2.4m/分とした場合、回転体3の周速は約1.0m/分、筒8の周速は約0.2m/分となる。流入汚泥濃度については、TSが平均1.0%程度、VTSが平均85%程度である。そして、実施例1の固液分離装置では、側面に直径150mmの開孔を有する筒8と、底部の直径を筒8の直径と同一とした部材9を配設した。なお、筒8の側面に形成した開孔8aの総面積と筒8の断面積(筒8の下端の開口面積)との面積比は1対1とした。
【0042】
上記のような構成の実施例1の固液分離装置と従来の固液分離装置(実施例1と同様の条件であるが、筒8および部材9を有さないもの。)について、濃縮汚泥濃度と分離液SS濃度を比較したところ、
図7に示す結果が得られた。
図7では縦軸のうち左側主軸に濃縮汚泥濃度(%)および右側第2軸に分離液濃度(mg/L)をとり、横軸に週間変動として日ごとの計測値を示した。
まず、濃縮汚泥濃度について比較したところ、実施例1の固液分離装置を適用した水槽から排出される汚泥の濃縮汚泥濃度は、従来の固液分離装置を適用した水槽から排出される汚泥の濃縮汚泥濃度よりも高い値で推移していた。また、分離液SS濃度について比較したところ、従来の固液分離装置を適用した水槽では、分離液のSS濃度が上昇し、分離液の水質が悪化する期間があった。一方で、これと同時期における実施例1の固液分離装置を適用した水槽では、分離液のSS濃度の上昇はなかった。
上記のように、濃縮汚泥が高濃度化し分離液の水質は安定したことから、実施例1の固液分離装置を適用した水槽は、従来の固液分離装置と比べて、汚泥の沈降性や圧密性を高くすることができる。すなわち、筒8および部材9を備え、部材9を、開孔8aを有する筒8の下部に設けることにより、回転体3の内部に保持された汚泥フロックが破壊されることを防ぐことができるようになり、汚泥の沈降性を悪化させにくくなった結果、分離液の水質が悪化することを防ぎつつ、安定した濃縮性能を得ることができる固液分離装置を提供することができる。
【0043】
さらに、実施例1の固液分離装置を適用した水槽および従来の固液分離装置を適用した水槽について、それぞれの水槽の回転体内外の濃度分布を確認したところ、
図8に示す結果が得られた。
図8では、側水深4.0mの水槽に対し、水深4.0mを起点として起点から水面にかけての汚泥濃度の分布を示している。これによると、実施例1では水槽底部にかけて濃縮汚泥濃度が増加している一方で、従来の固液分離装置を適用した水槽では水深1m付近に濃縮汚泥層が形成され、水槽底部の濃縮汚泥濃度は実施例1と比較して極めて低い傾向を示した。
従来の固液分離装置を適用した水槽では、汚泥フロックを回転体の内部に保持することを容易にするため、供給管2をその開口部が回転体の内側に位置するように設置する。しかし、このような配置にした場合、原水の供給位置が深くなり、鉛直下方に向かう水流の到達位置が深くなるため、水槽底部で乱流が発生しやすくなる。従来の固液分離装置を適用した水槽で確認された槽全体における濃度分布の逆転は、乱流の発生によって沈殿槽の底部付近に形成された濃縮汚泥層が攪乱されて巻き上げられたことが要因である。濃度分布が逆転することで、濃縮汚泥を引抜口まで掻き寄せることが困難となり水槽中間に長期間にわたって濃縮汚泥が滞留し続けることとなる。その結果、汚泥の腐敗が進行して槽上部ではガスが付着し浮上した汚泥と分離液が混合され分離液の水質を悪化させる。
これに対し、実施例1の固液分離装置を適用した水槽では、筒8および部材9により、供給された原水が鉛直方向および水平方向に分散されたことで、水槽底部における濃縮汚泥層が攪乱されず、水槽底部にかけて濃縮汚泥濃度が増加することが可能となった。
図7において、実施例1の固液分離装置を適用した水槽における濃縮汚泥濃度が常に高い値で推移していたのは、部材9による乱流抑制作用が奏した効果によるものである。
【0044】
<実施例2>
実施例2では、実施の形態2による固液分離装置を、下水処理施設における混合汚泥を対象に適用し、その性能を調査した。
実施例2の固液分離装置は、水槽直径17,000mm、水槽容積681m3、回転体3の直径が7,000mmであり、流入汚泥量2,800m3/日、かき寄せ機6先端の標準周速は2.4m/分とした。なお、かき寄せ機6先端の標準周速を2.4m/分とした場合、回転体3の周速は約1.0m/分、筒8の周速は約0.2m/分となる。そして、実施例2の固液分離装置では、側面に直径150mmの開孔8aを有する筒8と、底部の直径を筒8の直径と同一とした部材9を配設し、さらに直径3,500mmの内回転体10を設けた。なお、内回転体10に配設した分離羽根同士の間に形成されたスリットの短手方向の幅については、当該スリットを通過する水分の流速が1000m/日以下となるように設定した。
【0045】
上記のような構成の実施例2の固液分離装置と実施例1の固液分離装置について、汚泥界面に対する濃縮汚泥濃度と分離液のSS濃度の関係を調査し、比較したところ、
図9に示す結果が得られた。
図9のグラフ中、縦軸のうち左側主軸は濃縮汚泥濃度、右側第2軸は分離液のSS濃度、横軸は汚泥界面の高さ(水深4.0mを起点として起点から汚泥界面にかけての距離)を示す。なお、原水は水槽前段の分配槽を経由して等配分され投入されているため、それぞれの固液分離装置に流入する流入汚泥量は等量である。
図9によると、実施例2の固液分離装置は実施例1の固液分離装置と比較して、汚泥界面が低い傾向を示した。また、実施例2の固液分離装置では、実施例1の固液分離装置よりも濃縮汚泥濃度が高く分離液の水質は良好であった。
前述の通り、水槽径が大型になると、汚泥の投入位置から回転体に配設された分離羽根までの水平距離が長くなり、原水中の汚泥粒子が分離羽根の表面付近まで到達することが困難となる。しかし、実施例2の固液分離装置では内回転体を有するため、実施例1と比較して汚泥と分離羽根との接触機会が増加する。したがって、汚泥のフロック化が促進され、実施例1の固液分離装置と比較して短時間で沈降してより高い濃縮汚泥濃度を得ることが可能となった。また、汚泥のフロック化の促進によって沈降性が向上するため、分離液のSS濃度もより低くすることが可能となった。
【0046】
<実施例3>
実施例3では、実施の形態3による固液分離装置を、下水処理施設における混合汚泥を対象に適用し、その性能を調査した。
実施例2の固液分離装置と同様の構成に、さらに部材11bおよび部材11cの面積を1部材あたり0.12m
2とした部材11を筒8の周囲上に均等に計16部材配設し(4部材/1方向×4方向),総面積3.84m
2とした構成とした。実施例3の固液分離装置と実施例2の固液分離装置とを比較したところ、以下のような結果が得られた。
まず、
図10は、実施例3の固液分離装置を適用した水槽と実施例2の固液分離装置を適用した水槽における分離液SS濃度の測定結果を比較したものである。
図10の縦軸には分離液SS濃度をとり、横軸に日ごとの計測値を示した。
図10によると、実施例2の固液分離装置を適用した水槽の分離液のSS濃度の平均は223mg/Lであった一方で、実施例3の固液分離装置を適用した水槽の分離液のSS濃度の平均は137mg/Lあった。よって、部材11を配設することにより分離液のSS濃度を下げることが可能となる。
さらに、調査3日目について見ると、実施例2の固液分離装置を適用した水槽の分離液のSS濃度が250mg/Lと高い状態にあっただけでなく、実施例3の固液分離装置を適用した水槽の分離液のSS濃度もまた150mg/Lを超える高い状態にあった。
図11には
図10の調査と同日の当該施設への流入汚泥の分析結果を、
図12には実施例3の固液分離装置を適用した水槽の濃縮汚泥濃度と、実施例2の固液分離装置を適用した水槽の濃縮汚泥濃度の比較を示した。
図12のグラフでは縦軸に濃縮汚泥濃度をとり、横軸に日ごとの計測値を示した。
図11に示す通り、調査期間中の流入汚泥量および濃度に大きな変化がなかった一方で、
図12に示す通り、比較を行った両水槽とも濃縮汚泥濃度が低下していた。つまり、調査期間中は汚泥の腐敗などを原因として汚泥の沈降性が悪化している状態であった。しかし、実施例3の固液分離装置に配設された部材11は、間隙部11eにおいて汚泥粒子同士の接触機会を増加させることによって汚泥のフロック化を促すことで汚泥の沈降性を向上させるとともに、汚泥に付着する気泡同士の接触機会を増加させることによって汚泥の脱気を促すことで汚泥の沈降性を回復させ、実施例2の固液分離装置の水槽の分離液のSS濃度よりも常に分離液のSS濃度を低く保つことを可能とした。
【0047】
なお、各実施形態では、回転体3、筒8、部材9が同軸上に設けられるものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、それぞれ若しくは何れかが同軸に設けられないものであっても構わない。同様に、内回転体10についても、回転体3、筒8、部材9の何れかに対して同軸でないものであっても構わない。
また、回転体3の内側に設けられる筒8、部材9や内回転体10について、それぞれ若しくは何れかが複数設けられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 水槽
2 供給管
2a 本体
2b 鉛直部
3 回転体
3a スリット
3b 汚泥フロック
4 分離羽根
4a 第1短辺
4b 第2短辺
4c 屈曲部
5 回転軸
6 かき寄せ機
8 筒
8a 開孔
9 部材
10 内回転体
10a 分離羽根
11 部材
11a 支持体
11b 部材
11c 部材
11d 部材
11e 間隙部
12 反応部
13 沈殿部
D,D2 濃縮汚泥層
L,L2 液層
S,S2 間隔
M,M2 汚泥層