(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】めっき材
(51)【国際特許分類】
C25D 5/12 20060101AFI20220606BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20220606BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20220606BHJP
H01H 1/023 20060101ALI20220606BHJP
H01H 1/04 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
C25D5/12
C25D7/00 H
H01R13/03 D
H01H1/023 A
H01H1/023 B
H01H1/04 E
(21)【出願番号】P 2018036264
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 圭介
(72)【発明者】
【氏名】荒井 健太郎
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1591989(CN,A)
【文献】特開2016-145413(JP,A)
【文献】特開2013-147696(JP,A)
【文献】国際公開第2013/069689(WO,A1)
【文献】特開2016-204719(JP,A)
【文献】特開2017-218663(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102443829(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107059081(CN,A)
【文献】特開昭62-199796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/10
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に
ニッケルめっき皮膜が形成され、このニッケルめっき皮膜上にAgめっき皮膜が形成され、このAgめっき皮膜上にAuめっき皮膜が形成されためっき材において、
ニッケルめっき皮膜の厚さが0.4~3μmであり、Agめっき皮膜の厚さが0.5~3μmであり且つAgめっき皮膜の優先配向面が{111}面
であり、Auめっき皮膜の厚さが0.01~0.3μmであることを特徴とする、めっき材。
【請求項2】
前記基材が銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項
1に記載のめっき材。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のめっき材を材料として用いたことを特徴とする、接点または端子部品。
【請求項4】
互いに当接する雄端子および雌端子の一方の端子の他方の端子との接点部が、請求項1
または2に記載のめっき材により形成されていることを特徴とする、接点または端子部品。
【請求項5】
基材上に厚さが0.4~3μmであるニッケルめっき皮膜を形成した後、このニッケルめっき皮膜上に、シアン化銀カリウム(KAg(CN)
2)とシアン化カリウム(KCN)とセレノシアン酸カリウム(KSeCN)の水溶液からなりSeが度55~70mg/LのAgめっき液中において、液温12~24℃、電流密度3~8A/dm
2で電気めっきを行うことによって、厚さが0.5~3μmであり且つ優先配向面が{111}面であるAgめっき皮膜
を形成し、このAgめっき皮膜上に
厚さが0.01~0.3μmであるAuめっき皮膜を形成することを特徴とする、めっき材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき材に関し、特に、車載用や民生用の電気配線に使用されるコネクタ、スイッチ、リレーなどの接点や端子部品の材料として使用されるめっき材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料として、銅または銅合金などの比較的安価で耐食性や機械的特性などに優れた基材に、電気特性や半田付け性などの必要な特性に応じて、Sn、Ag、Auなどのめっきを施しためっき材が使用されている。
【0003】
銅または銅合金などの基材にSnめっきを施したSnめっき材は、安価であるが、高温環境下における耐食性に劣っている。また、これらの基材にAuめっきを施したAuめっき材は、耐食性に優れ、信頼性が高いが、コストが高くなる。一方、これらの基材にAgめっきを施したAgめっき材は、Auめっき材と比べて安価であり、Snめっき材と比べて耐食性に優れている。
【0004】
また、コネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料は、コネクタの挿抜やスイッチの摺動に伴う耐摩耗性も要求される。
【0005】
しかし、Agめっき材は、軟質で摩耗し易いため、接続端子などの材料として使用すると、挿抜により凝着して凝着摩耗が生じ易くなり、また、接続端子の挿入時に挿入力が高くなるという問題がある。特に、Agめっき材をワイヤーハーネスなどの挿抜可能なコネクタの材料として利用する場合に、繰り返しの挿抜によってAgめっき皮膜が削られて下地めっき皮膜や素地が露出すると、接触抵抗が増大して、発熱や発火に至るおそれがある。
【0006】
このような問題を解消するため、導電性基材上に下地層としてAgめっき皮膜を形成し、この下地層の表面にAuめっき皮膜を形成し、Agめっき皮膜の{200}方位の面積分率を15%以上にしためっき材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-181352号公報(段落番号0011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のめっき材は、コネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料として使用すると、端子部品などの挿入時に凝着摩耗が生じて挿入力が高くなり易く、また、端子部品などの摺動に伴う耐摩耗性が不十分な場合がある。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、基材上に形成されたAgめっき皮膜上にAuめっき皮膜が形成され、摩擦係数が低く且つ耐摩耗性に優れためっき材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、基材上にAgめっき皮膜が形成され、このAgめっき皮膜上にAuめっき皮膜が形成されためっき材において、Agめっき皮膜のビッカース硬さを110HV以上にすることにより、摩擦係数が低く且つ耐摩耗性に優れためっき材を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によるめっき材は、基材上にAgめっき皮膜が形成され、このAgめっき皮膜上にAuめっき皮膜が形成されためっき材において、Agめっき皮膜のビッカース硬さが110HV以上であることを特徴とする。
【0012】
このめっき材において、Agめっき皮膜の厚さが0.5~10μmであるのが好ましく、Auめっき皮膜の厚さが0.01~1μmであるのが好ましい。また、基材とAgめっき皮膜の間に、ニッケルめっき皮膜が形成されているのが好ましく、ニッケルめっき皮膜の厚さが0.1~5μmであるのが好ましい。また、基材が銅または銅合金からなるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による接点または端子部品は、上記のめっき材を材料として用いたことを特徴とする。また、互いに当接する雄端子および雌端子の一方の端子の他方の端子との接点部を、上記のめっき材により形成してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基材上に形成されたAgめっき皮膜上にAuめっき皮膜が形成され、摩擦係数が低く且つ耐摩耗性に優れためっき材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によるめっき材の実施の形態では、基材上にAgめっき皮膜が形成され、このAgめっき皮膜上にAuめっき皮膜が形成されためっき材において、Agめっき皮膜のビッカース硬さが110HV以上である。
【0016】
Agめっき皮膜の厚さは、0.5~10μmであるのが好ましく、0.7~5μmであるのがさらに好ましく、0.8~3μmであるのが最も好ましい。このAgめっき皮膜のビッカース硬さは、110HV以上であり、120HV以上であるのが好ましく、125HV以上であるのがさらに好ましく、130HV以上であるのが最も好ましい。Agめっき皮膜のビッカース硬さが低過ぎると、めっき材をコネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料として使用した場合に、耐摩耗性に劣る。また、ビッカース硬さが110HV以上のAgめっき皮膜(好ましくは優先配向面が{111}面のAgめっき皮膜)上にAuめっき皮膜を形成すると、摩擦係数が低く且つ耐摩耗性に優れためっき材を得ることができる。このようなAgめっき皮膜は、シアン化銀カリウム(KAg(CN)2)とシアン化カリウム(KCN)とセレノシアン酸カリウム(KSeCN)の水溶液からなるAgめっき液(Se濃度55~70mg/L)中において、液温12~24℃、電流密度3~8A/dm2で電気めっき(Agめっき)を行うことによって形成することができる。
【0017】
Auめっき皮膜の厚さが薄過ぎると、めっき材をコネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料として使用した場合に端子部品などの挿入時に凝着摩耗が生じ易くなるため、Auめっき皮膜の厚さは、0.01μm以上であるのが好ましく、0.03μm以上であるのがさらに好ましく、0.04μm以上であるのが最も好ましい。一方、Auめっき皮膜の厚さが厚過ぎると、めっき材のコストが高くなるため、Auめっき皮膜の厚さは、1μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であるのがさらに好ましく、0.3μmであるのが最も好ましい。また、Auめっき皮膜の厚さは、0.1μm以下でもよい。
【0018】
また、めっき材の耐熱性(および耐摩耗性)向上させるために、基材とAgめっき皮膜の間に、ニッケルめっき皮膜が形成されているのが好ましい。このような効果を得るために、ニッケルめっき皮膜の厚さは、0.1μm以上であるのが好ましく、0.3μm以上であるのがさらに好ましく、0.4μm以上であるのが最も好ましい。一方、ニッケルめっき皮膜が厚過ぎると、めっき材の曲げ加工性が低下するため、ニッケルめっき皮膜の厚さは、5μm以下であるのが好ましく、3μm以下であるのがさらに好ましく、1μm以下であるのが最も好ましい。
【0019】
また、基材は、銅または銅合金からなる導電性基材であるのが好ましい。
【0020】
本発明によるめっき材の実施の形態は、基材上に形成されたAgめっき皮膜上にAuめっき皮膜が形成され、摩擦係数が低く且つ耐摩耗性に優れためっき材であり、このめっき材を接点または端子部品の材料として使用し、あるいは、このめっき材により、互いに当接する雄端子および雌端子の一方の端子の他方の端子との接点部を形成すれば、挿抜や摺動による凝着摩耗を低減し、端子部品などの挿入時の挿入力を低減することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明によるめっき材の実施例について詳細に説明する。
【0022】
[実施例1]
まず、基材(被めっき材)として67mm×50mm ×0.3mmの純銅からなる圧延板を用意し、この被めっき材とSUS板をアルカリ脱脂液に入れ、被めっき材を陰極とし、SUS板を陽極として、電圧5Vで30秒間電解脱脂を行い、15秒間水洗した後、3%硫酸中で15秒間酸洗し、15秒間水洗した。
【0023】
次に、25g/Lの塩化ニッケルと35g/Lのホウ酸と540g/Lのスルファミン酸ニッケル四水和物を含む水溶液からなる無光沢ニッケルめっき液中において、被めっき材を陰極とし、ニッケル電極板を陽極として、スターラにより500rpmで撹拌しながら電流密度5A/dm2で電気めっき(無光沢ニッケルめっき)を行って、厚さ0.5μmの無光沢ニッケルめっき皮膜を形成した後、15秒間水洗した。
【0024】
次に、3g/Lのシアン化銀カリウムと90g/Lのシアン化カリウムを含む水溶液からなる銀ストライクめっき液中において、被めっき材を陰極とし、白金で被覆したチタン電極板を陽極として、スターラにより500rpmで撹拌しながら電流密度2A/dm2で10秒間電気めっき(銀ストライクめっき)を行った後、15秒間水洗した。
【0025】
次に、175g/Lのシアン化銀カリウム(KAg(CN)2)と95g/Lのシアン化カリウム(KCN)と100mg/Lのセレノシアン酸カリウム(KSeCN)の水溶液からなるAgめっき液(Ag濃度95g/L、KCN濃度95g/L、Se濃度55mg/L)中において、被めっき材を陰極とし、銀電極板を陽極として、スターラにより500rpmで撹拌しながら、液温18℃、電流密度5A/dm2で電気めっき(Agめっき)を行って、厚さ1μmのAgめっき皮膜を形成して、Agめっき材を作製した。
【0026】
このAgめっき材のAgめっき皮膜の結晶の配向を評価するために、X線回折(XRD)分析装置(理学電気株式会社製の全自動多目的水平型X線回折装置Smart Lab)により、Cu管球、Kβフィルタ法を用いて、走査範囲2θ/θを走査して、得られたX線回折パターンから、Agめっき皮膜の{111}面、{200}面、{220}面および{311}面の各々のX線回折ピーク強度(X線回折ピークの強度)をJCPDSカードNo.40783に記載された各々の相対強度比(粉末測定時の相対強度比)({111}:{200}:{220}:{311}=100:40:25:26)で割ることにより補正して得られた値(補正強度)が最も強いX線回折ピークの面方位をAgめっき皮膜の結晶の配向の方向(優先配向面)として評価した。その結果、Agめっき皮膜の結晶が{111}面に配向({111}面をAgめっき材の表面(板面)の方向に向けるように配向)し、すなわち、Agめっき皮膜の優先配向面は{111}面であった。
【0027】
また、本実施例で作製したAgめっき材は、Agめっき皮膜の厚さが1μmと薄過ぎて、そのままではAgめっき皮膜のビッカース硬さを正確に測定することができないため、Agめっき皮膜の厚さが20μmになるまで電気めっき(Agめっき)を行った以外は、上記と同様の方法により作製したAgめっき材について、微小硬さ試験機(株式会社ミツトヨ製のHM-221)により、測定荷重10gfを10秒間加えて、JIS Z2244に準じて、Agめっき皮膜のビッカース硬さを測定したところ、ビッカース硬さは138HVであった。なお、Agめっき皮膜の厚さ以外は同様の方法により作製したAgめっき材であるため、このビッカース硬さを本実施例で作製したAgめっき材のAgめっき皮膜のビッカース硬さとした。
【0028】
次に、10g/LのAuと0.2g/LのCoを含むシアンAuめっき浴中において、上記のAgめっき材(Agめっき済の被めっき材)を陰極とし、白金で被覆したチタン電極板を陽極として、スターラにより400rpmで攪拌しながら、液温50℃、電流密度5A/dm2で電気めっき(Auめっき)を行って、厚さ0.1μmのAuめっき皮膜を形成して、基材上に形成された下地層(Niめっき皮膜)上に中間層(Agめっき皮膜)を介して最表層(Auめっき皮膜)が形成されためっき材を得た。
【0029】
このようにして作製しためっき材から切り出した試験片を卓上プレス機によりインデント加工(R=1.5mmの半球状の打ち出し加工)してインデント付き試験片とするとともに、別途作製したAgめっき材(スターラーにより400rpmで攪拌しながら電流密度を2.5Adm2として銀ストライクめっきを行い、185g/Lのシアン化銀カリウムと120g/Lのシアン化カリウムと18mg/Lのセレノシアン酸カリウムの水溶液からなるAgめっき液(Se濃度10mg/L)のAgめっき液を使用して優先配向面が{200}面で厚さ2μmのAgめっき皮膜を形成した以外は、上記のめっき材のAuめっき前のAgめっき材の製造方法と同様の方法により作製したAgめっき材)から切り出した試験片を平板状試験片とし、この平板状試験片を横型荷重測定器(株式会社山崎精機研究所製の電気接点シミュレータと、ステージコントローラと、ロードセルと、ロードセルアンプとを組み合わせた装置)の水平台上に固定し、その平板状試験片にインデント付き試験片を接触させた後、それぞれ荷重2Nおよび5Nでインデント付き試験片を平板状試験片の表面に押し付けながら、平板状試験片を摺動速度1mm/秒で水平方向に摺動距離5mm摺動させ、1mmから4mmまでの間(測定距離3mm)に水平方向にかかる力を測定してその平均値Fを算出し、試験片同士間の動摩擦係数(μ)をμ=F/Nから算出した。その結果、荷重2Nおよび5Nの場合の動摩擦係数はそれぞれ0.42および0.47であった。
【0030】
[実施例2]
Auめっき皮膜の厚さを0.2μmとした以外は、実施例1と同様の方法により、めっき材を作製した。このめっき材について、実施例1と同様の方法により、Agめっき皮膜の結晶の配向を評価し、Agめっき皮膜のビッカース硬さを測定したところ、Agめっき皮膜の優先配向面は{111}面であり、ビッカース硬さは138HVであった。また、実施例1と同様の方法により、摺動試験を行って動摩擦係数を算出したところ、荷重2Nの場合の動摩擦係数は0.52であった。
【0031】
[実施例3]
Agめっき皮膜の厚さを2μmとした以外は、実施例2と同様の方法により、めっき材を作製した。このめっき材について、実施例1と同様の方法により、Agめっき皮膜の結晶の配向を評価し、Agめっき皮膜のビッカース硬さを測定したところ、Agめっき皮膜の優先配向面は{111}面であり、ビッカース硬さは138HVであった。また、実施例1と同様の方法により、摺動試験を行って動摩擦係数を算出したところ、荷重2Nおよび5Nの場合の動摩擦係数はそれぞれ0.50および0.46であった。
【0032】
[実施例4]
Auめっき皮膜の厚さを0.05μmとした以外は、実施例1と同様の方法により、めっき材を作製した。このめっき材について、実施例1と同様の方法により、Agめっき皮膜の結晶の配向を評価し、Agめっき皮膜のビッカース硬さを測定したところ、Agめっき皮膜の優先配向面は{111}面であり、ビッカース硬さは138HVであった。また、実施例1と同様の方法により、摺動試験を行って動摩擦係数を算出したところ、荷重2Nおよび5Nの場合の動摩擦係数はそれぞれ0.43および0.58であった。
【0033】
[実施例5]
Auめっき皮膜の厚さを1μmとした以外は、実施例1と同様の方法により、めっき材を作製した。このめっき材について、実施例1と同様の方法により、Agめっき皮膜の結晶の配向を評価し、Agめっき皮膜のビッカース硬さを測定したところ、Agめっき皮膜の優先配向面は{111}面であり、ビッカース硬さは138HVであった。また、平板状試験片のAgめっき皮膜の厚さを1μmとした以外は、実施例1と同様の方法により、摺動試験を行って動摩擦係数を算出したところ、荷重2Nの場合の動摩擦係数は0.38であった。
【0034】
[比較例1]
Auめっき皮膜を形成しなかった以外は、実施例3と同様の方法により、めっき材を作製した。このめっき材について、実施例1と同様の方法により、Agめっき皮膜の結晶の配向を評価し、Agめっき皮膜のビッカース硬さを測定したところ、Agめっき皮膜の優先配向面は{111}面であり、ビッカース硬さは138HVであった。また、実施例1と同様の方法により、摺動試験を行って動摩擦係数を算出したところ、荷重2Nおよび5Nの場合の動摩擦係数はそれぞれ1.56および1.47であった。
【0035】
[比較例2]
Agめっき皮膜の厚さを5μmとした以外は、比較例1と同様の方法により、めっき材を作製した。このめっき材について、実施例1と同様の方法により、Agめっき皮膜の結晶の配向を評価し、Agめっき皮膜のビッカース硬さを測定したところ、Agめっき皮膜の優先配向面は{111}面であり、ビッカース硬さは138HVであった。また、平板状試験片のAgめっき皮膜の厚さを5μmとした以外は、実施例1と同様の方法により、摺動試験を行って動摩擦係数を算出したところ、荷重2Nの場合の動摩擦係数は1.72であった。
【0036】
[比較例3]
Agめっき液として、185g/Lのシアン化銀カリウム(KAg(CN)2)と120g/Lのシアン化カリウム(KCN)と18mg/Lのセレノシアン酸カリウム(KSeCN)の水溶液からなるAgめっき液(Ag濃度100g/L、KCN濃度120g/L、Se濃度10mg/L)を使用した以外は、実施例3と同様の方法により、めっき材を作製した。このめっき材について、実施例1と同様の方法により、Agめっき皮膜の結晶の配向を評価し、Agめっき皮膜のビッカース硬さを測定したところ、Agめっき皮膜の優先配向面は{200}面であり、ビッカース硬さは82HVであった。また、実施例1と同様の方法により、摺動試験を行って動摩擦係数を算出したところ、荷重2Nの場合の動摩擦係数は0.51であった。
【0037】
これらの実施例および比較例のめっき材の製造封建および特性を表1~表2に示す。
【0038】
【0039】
【0040】
これらの結果から、実施例1~5のめっき材は、いずれも動摩擦係数が低く、また、Agめっき皮膜の優先配向面が{111}面であり、Agめっき皮膜のビッカース硬さが高いため、耐摩耗性も高いと考えられる。