(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】巻線装置及びそれを用いた巻線方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/088 20160101AFI20220606BHJP
【FI】
H01F41/088
(21)【出願番号】P 2018119519
(22)【出願日】2018-06-25
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000227537
【氏名又は名称】NITTOKU株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121234
【氏名又は名称】早川 利明
(72)【発明者】
【氏名】落合 洋平
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-252968(JP,A)
【文献】特開2012-146890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/088
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材(11)が巻回される巻芯(12)と、
前記巻芯(12)を軸方向から挟むように配置された一対のフライヤ(31,31)と、
前記一対のフライヤ(31,31)のいずれか一方又は双方を前記巻芯(12)の軸を回転中心として同期して又は別々に回転させるフライヤ回転手段(51)と、
前記一対のフライヤ(31,31)にそれぞれ着脱自在に設けられ前記巻芯(12)に巻回される前記線材(11)を蓄える蓄線具(61)と、
前記一対のフライヤ(31,31)にそれぞれ設けられ前記蓄線具(61)から繰り出されて前記巻芯(12)に導かれる前記線材(11)にテンションを付与するテンション装置(71)と
を備えた巻線装置。
【請求項2】
一対のフライヤ(31,31)のいずれか一方又は双方を巻芯(12)に対して軸方向に移動させるトラバース機構(41)を備えた請求項1記載の巻線装置。
【請求項3】
巻芯(12)を軸回りで回転させる巻芯回転手段(16)を備えた請求項1又は2記載の巻線装置。
【請求項4】
巻芯(12)は基端側が支持され、前記巻芯(12)の先端側を支持する支持具(21)を備えた請求項3記載の巻線装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項の巻線装置(10)を用いた巻線方法であって、
必要な長さの線材(11)を両側から一対の蓄線具(61)に巻きつける蓄線工程と、
線材(11)が両端から巻回された一対の蓄線具(61)を巻線装置(10)の一対のフライヤ(31,31)に取付ける蓄線具取付工程と、
前記一対のフライヤ(31,31)のいずれか一方又は双方を巻芯(12)の軸を回転中心として同期して又は別々に回転させて前記蓄線具(61)から繰り出される前記線材(11)を前記巻芯(12)に巻回し、巻始め端と巻終わり端が共に最外周層から導き出されたコイルを前記巻芯(12)の周囲に形成する巻線工程と
を有する巻線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルの巻始め端と巻終わり端が共にコイルの最外周層に来るように巻線する巻線装置およびそれを用いた巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの小型化に対応したコイルとして、線材が緊密に巻回されて巻層の間に無用の間隙を形成されないようにするとともに、線材の巻回始端と巻回終端とが同一の巻層に配線されるようにしたいわゆるアルファ巻(又は、「外外巻」ともいう。)からなるものが多用されるようになってきている。
【0003】
このアルファ巻のコイルとして、線材を渦巻き状に巻回した第一、第二コイルと、この第一、第二コイルの内周端部どうしを結ぶ内側渡り線とを有する二列渦巻きコイルが知られている。そして、このような二列渦巻きコイルの製造装置として、線材の2本分の隙間を隔てて対向して巻芯の周囲を相互に逆方向に回転する第一及び第二のホイールと、第一のホイールのガイド溝又は穴に向けて線材を繰出す巻線供給部と、線材を巻回状態で蓄えかつ第二のホイールのガイド溝又は穴に向けてその線材を繰出す蓄線部とを備える装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この製造装置では、巻線の前段階として、線材供給部から供給される線材を蓄線部に蓄え、その後に、線材供給部と蓄線部の間の線材の任意の位置を巻初めとし、第一及び第二のホイールを相互に逆方向に回転させ、これによりその巻初めの位置から両側に延びる線材を巻芯に同時に相互に逆方向に巻回して、その巻芯の軸方向に2層となる巻線部をその巻芯の外周に形成するとしている。
【0005】
このように、この製造装置では、各巻線部の外周から線材を導出することにより、線材の巻回始端と巻回終端とが最外周の同一の巻層から引出された二列渦巻きコイルを比較的容易に製造することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-154626号公報(段落番号「0010」、「0011」及び「0019」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1におけるコイルの製造装置では、線材供給部から供給される線材を蓄線部に蓄えた後に、第一及び第二のホイールを相互に逆方向に回転させ、それにより、それらの双方から繰り出される線材を巻芯に巻回するので、得られるコイルの大きさが蓄線部から供給しうる線材の長さのものに制限され、比較的長い線材を用いた比較的大きなコイルの製造は困難であった。
【0008】
このように、比較的大きなコイルを得ようとすると、蓄線部に比較的多くの線材を蓄線させることも考えられるけれども、蓄線部に比較的多くの線材を蓄線させると、実際の巻線以前に行われる蓄線工程に費やす時間が拡大して、速やかなコイルの製造が困難となるという不具合を生じさせる。
【0009】
このため、上記特許文献1におけるコイルの製造装置において製造し得るコイルは、同一の巻数からなる第一及び第二コイルが内側渡り線により連結された二列渦巻きコイルのような、比較的小型のものに限定されるという不具合があった。
【0010】
本発明の目的は、巻数が比較的多い大型のコイルを製造し得る巻線装置及びそれを用いた巻線方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、比較的多くの線材を巻回するコイルであっても迅速に製造し得る巻線装置及びそれを用いた巻線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、線材が巻回される巻芯と、その巻芯を軸方向から挟むように配置された一対のフライヤと、一対のフライヤのいずれか一方又は双方を巻芯の軸を回転中心として同期して又は別々に回転させるフライヤ回転手段と、一対のフライヤにそれぞれ着脱自在に設けられ巻芯に巻回される線材を蓄える蓄線具と、一対のフライヤにそれぞれ設けられ蓄線具から繰り出されて巻芯に導かれる線材にテンションを付与するテンション装置とを備えた巻線装置である。
【0013】
この場合、一対のフライヤのいずれか一方又は双方を巻芯に対して軸方向に移動させるトラバース機構を備えることが好ましい。また、巻芯を軸回りで回転させる巻芯回転手段を備えることもでき、この場合、巻芯は基端側が支持され、巻芯の先端側を支持する先端側支持具を備えることが好ましい。
【0014】
また、別の本発明は、上記巻線装置を用いた巻線方法であって、必要な長さの線材を両側から一対の蓄線具に巻きつける蓄線工程と、線材が両端から巻回された一対の蓄線具を巻線装置の一対のフライヤに取付ける蓄線具取付工程と、一対のフライヤのいずれか一方又は双方を巻芯の軸を回転中心として同期して又は別々に回転させて蓄線具から繰り出される線材を巻芯に巻回し、巻始め端と巻終わり端が共に最外周層から導き出されたコイルを巻芯の周囲に形成する巻線工程とを有する巻線方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の巻線装置では、巻芯に巻回される線材を蓄える蓄線具を一対のフライヤにそれぞれ設けたので、それらの蓄線具に比較的多くの線材を蓄えさせて一対のフライヤを巻芯に対して回転させることにより、比較的長い線材を巻芯の周囲に巻回させることが可能となり、比較的大きなコイルの製造が可能となる。
【0016】
そして、トラバース機構や巻芯回転手段を備えることにより、線材の整列巻等も可能となり、巻線の多様性を図ることができる。
【0017】
また、蓄線具として、比較的多くの線材を蓄えることが可能なようなものを用いたとすると、その蓄線具に比較的多くの線材を蓄線させる蓄線工程が実際の巻線以前に行われることになる。
【0018】
けれども、蓄線具は一対のフライヤに着脱自在に設けられているので、フライヤから離脱させた蓄線具を用いて蓄線工程を行い、その後、蓄線具をフライヤに取付ける蓄線具取付工程を行い、その更に後に、蓄線具から繰り出される線材を巻芯に巻回する巻線工程を行う様にすれば、その巻線工程と別に、別の蓄線具を用いた蓄線工程を同時に行うことが可能となる。
【0019】
よって、本発明の巻線装置及び巻線方法では、複数の蓄線具を準備して、巻線工程と蓄線工程を同時に行うことにより、蓄線工程を巻線工程と別に行うことができずに、それらの工程を連続させることが必要な従来のものに比較して、速やかなコイルの製造が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明実施形態の巻線装置を示す正面図である。
【
図2】そのフライヤを示す
図1のA-A線断面図である。
【
図3】そのフライヤを示す
図2をB方向から見た図である。
【
図6】その先端側の支持具の構造を示す
図1のE部拡大断面図である。
【
図8】その蓄線具をフライヤに着脱自在に取付ける機構を示す
図4のF部拡大断面図である。
【
図9】そのフライヤに取付けられた蓄線具に線材を貯線する状態を示す図である。
【
図10】そのフライヤから取外された蓄線具に線材を貯線する状態を示す
図9に対応する図である。
【
図11】一対のフライヤを逆方向に回転させて双方の蓄線具から繰り出される線材を巻芯に同時に巻回させる状態を示す構想図である。
【
図12】一方のフライヤの蓄線具から繰り出される線材を巻芯に巻回させた後に他方のフライヤの蓄線具から繰り出される線材を巻芯に巻回させる状態を示す構想図である。
【
図13】巻芯と一方のフライヤを同時に回転させて他方のフライヤの蓄線具から繰り出される線材を巻芯に巻回させた後に他方のフライヤを巻芯と共に回転させて、回転を停止させた一方のフライヤの蓄線具から繰り出される線材を巻芯に巻回させる状態を示す構想図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1に、本発明における巻線装置10を示す。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が略水平前後方向、Y軸が略水平横方向、Z軸が略垂直方向に延びるものとし、本発明の巻線装置10の構成を説明する。
【0023】
この巻線装置10は、線材11が巻回される巻芯12と、その巻芯12を軸回りで回転させる巻芯回転手段16を備える。
図1における巻芯12は断面が円形を成す円柱状の本体部12bと、その本体部12bの基端側に設けられて本体部12bよりも大径のフランジ部12cとを有するものを例示し、巻芯回転手段は巻芯用サーボモータ16である場合を示す。
図1では、巻芯用サーボモータ16の回転軸16aにジョイント16bを介して延長軸17が同軸に設けられ、この延長軸17の先端に巻芯12のフランジ12c側の基端が同軸に設けられるものとする。
【0024】
巻芯用サーボモータ16は、その回転軸16aをX軸方向に向けて、基台9に台座16cを介して直接取付けられる。このため、延長軸17を介して基端が取付けられた巻芯12は、巻芯用サーボモータ16が駆動すると、X軸を回転軸として回転可能に構成されることになる。
【0025】
この巻線装置10は、基端側が支持された巻芯12の先端側を支持する支持具21を備える。この支持具21は、支持用サーボモータ22と、その支持用サーボモータ22の回転軸22aにジョイント22bを介して同軸に設けられた押さえ軸23と、その押さえ軸23を支持用サーボモータ22とともにX軸方向に移動させる移動機構25とを備える。
【0026】
この実施の形態における移動機構25は、基台9上に巻芯12の回転軸(X軸)と平行に配置されたガイドレール27と、そのガイドレール27に案内される移動体26と、基台9に設けられてその回転軸28aをガイドレール27に平行にする移動用モータ28と、移動用モータ28の回転軸28aに連結されて巻芯12の回転軸方向に延在して移動体26に螺合するボールネジ29と、を備える。そして、押さえ軸23の先端が巻芯12の先端に対向するように、その押さえ軸23をX軸方向に向けて、支持用サーボモータ22が台座22cを介して移動体26に取付けられる。
【0027】
これにより、この移動機構25では、移動用モータ28が駆動すると、ボールネジ29が回転して、そのボールネジ29に螺合する移動体26はガイドレール27に案内されて移動することになる。すると、移動体26に搭載された支持用サーボモータ22も、その移動体26とともに、巻芯12の回転軸方向(X軸方向)に移動することになる。
【0028】
このように、移動用モータ28を駆動することによって、支持用サーボモータ22を巻芯12の回転軸方向に移動させると、巻芯12と同軸になるように支持用サーボモータ22に設けられた押さえ軸23は、巻芯12に接近し、その先端に設けられた押さえ具24が巻芯12の先端に接触可能に構成される(
図3)。
【0029】
図6に詳しく示すように、押さえ軸23の先端には、その先端縁から軸方向に孔23aが形成され、押さえ具24は、その孔23aに挿入される挿入部24aと、押さえ軸23より大径に形成されて巻芯12の先端に実際に接触する押さえ部24bとを有する。押さえ軸23の孔23aが形成された先端には、その周壁に軸方向に延びる長孔23bが押さえ軸23の外周から孔23aの内周に貫通して形成される。
【0030】
孔23aにはコイルスプリング23cが挿入され、そのコイルスプリング23cを圧縮するように挿入部24aが更に挿入される。長孔23bには雄ねじ23dが挿通されて、押さえ具24における挿入部24aに螺着される。これにより、押さえ軸23の先端には、長孔23bにおける雄ねじ23dの移動範囲内において、押さえ具24が軸方向に移動可能に設けられる。そして、コイルスプリング23cは伸長しようとする力により押さえ具24を孔23aから突出させる方向に付勢し、雄ねじ23dは長孔23bの孔縁に当接して、押さえ具24における挿入部24aの孔23aからの離脱を防止するように構成される。
【0031】
この実施の形態における巻芯12には、その先端から軸方向に向かうスリット12aが巻芯12を貫通して延長軸17にまで連続するように形成され、このスリット12aに進入してそのスリット12aの幅が狭まることを禁止する凸条24cが押さえ部24bに形成される。そして、押さえ軸23が巻芯12に接近し、その先端に設けられた押さえ具24が巻芯12の先端に接触すると、
図3に示すように、押さえ具24における凸条24cがスリット12aに進入してそのスリット12aの幅が狭まることを禁止し、その押さえ部24bは巻芯12の先端に当接して、巻芯12における線材11の巻回可能な巻幅を制限するように構成される。
【0032】
このようにして、押さえ具24は巻芯12の先端を支持することになり、支持用サーボモータ22(
図1)は、巻芯12の回転と同期して押さえ具24を回転させることにより、巻芯12との相対的な位置関係が変化しないように構成される。
【0033】
一方、
図1に戻って、移動用モータ28がボールネジ29を逆方向に回転させると、移動体26は巻芯12から離間し、巻芯12と押さえ軸23との間に隙間を生じさせる。すると、
図6に示すように、押さえ具24における凸条24cがスリット12aから離脱して、スリット12aの幅が狭まることにより巻芯12の外径の縮小を許容するように構成される。
【0034】
図示しないが、巻芯12に線材11が巻回されると、その線材11はコイルを形成することに成り、巻芯12と押さえ軸23との間に隙間を生じると、その隙間を介して、巻芯12に巻回された線材11から成るコイルを、外径が縮小した巻芯12から引き抜くことが可能に成る。従って、移動体26の移動距離は、巻芯12の巻幅、即ち、巻芯12の本体部12aの長さよりも長くなるように構成される。
【0035】
図1に示す様に、本発明の巻線装置10は、巻芯12を軸方向から挟むように配置された一対のフライヤ31,31を備える。具体的に、巻芯12の基端が先端に取付けられた延長軸17、及び巻芯12の先端を支持する押さえ軸23には、延長軸17や押さえ軸23に対して長手方向に移動可能に摺動筒32がそれぞれ嵌入され、それぞれの摺動筒32にはベアリング33を介して回転筒34が更に嵌入される。そして、それぞれの回転筒34の巻芯12に臨む端縁にフライヤ31がそれぞれ取付けられる。
【0036】
このように、一対のフライヤ31,31は、延長軸17や押さえ軸23に摺動筒32を介して嵌入された回転筒34に取付けられるので、それぞれが巻芯12の回転軸(X軸)を中心として回転可能であって、かつその回転軸方向に移動可能に設けられる。
【0037】
そして、このような一対のフライヤ31,31を有する本発明の巻線装置10は、その一対のフライヤ31,31のいずれか一方又は双方を巻芯12の軸を回転中心として同期して又は別々に回転させるフライヤ回転手段51と、一対のフライヤ31,31のいずれか一方又は双方を巻芯12に対して軸方向に移動させるトラバース機構41を備える。
【0038】
この実施の形態におけるトラバース機構41は、一対のフライヤ31,31を別々に移動させるものであり、フライヤ31が設けられたそれぞれの回転筒34を、ベアリング42を介して枢支する複数の支持壁43と、その複数の支持壁43が立設された一対の移動台44と、基台9上に巻芯12の回転軸と平行に配置され移動台44を案内する複数のガイドレール45と、基台9に設けられてその回転軸46aをガイドレール45に平行にする一対のトラバースモータ46と、トラバースモータ46の回転軸46aに連結され巻芯12の回転軸方向に延在して移動台44に螺合する一対のボールネジ47と、を備える。
【0039】
これにより、このトラバース機構41では、トラバースモータ46が駆動すると、ボールネジ47が回転して、そのボールネジ47に螺合する移動体44はガイドレール45に案内されて移動することになる。すると、移動台44に立設された支持壁43も同方向に移動して、その支持壁43に枢支された回転筒34をフライヤ31と共に巻芯12の軸方向(X軸方向)に移動させるように構成される。そして、これらのトラバースモータ46等が一対のフライヤ31,31毎に設けられることにより、この一対のフライヤ31,31を別々に移動可能に構成されるものである。
【0040】
また、一対のフライヤ31,31を回転させるフライヤ回転手段51にあっても、一対のフライヤ31,31を別々に回転させるものであり、この実施の形態におけるフライヤ回転手段は、それぞれの回転筒34に隣接してそれぞれの移動台44に設けられた一対の回転用サーボモータ51である。この回転用サーボモータ51の回転軸51aには駆動プーリ52がそれぞれ設けられ、回転筒34には、その駆動プーリ52に対応する位置に従動プーリ53が設けられる。そして、回転用サーボモータ51における駆動プーリ52と回転筒34におけるプーリ53に間にはベルト54が架設される。
【0041】
これにより、このフライヤ回転手段である回転用サーボモータ51が駆動してその回転軸51aが駆動プーリ52と共に回転すると、その回転はベルト54及び従動プーリ53を介して回転筒34に伝達され、回転筒34が回転すると、それに設けられたフライヤ31を巻芯12を回転中心として回転させるように構成される。そして、これらの回転用サーボモータ51を一対のフライヤ31,31毎に設けることにより、この巻線装置10では、一対のフライヤ31,31を別々に回転可能に構成される。
【0042】
図1及び
図2に詳しく示すように、一対の回転筒34の対向する側にそれぞれ設けられたフライヤ31,31は、巻芯12の回転軸に直行する面に沿う長方形状の板材であって、その中央に、延長軸17や押さえ軸23が挿通可能な丸穴31aが形成される。
【0043】
そして、長方形状を成す一対のフライヤ31,31の長辺方向の一方の端部には、巻芯12に巻回される線材11を蓄える蓄線具61と、その蓄線具61から繰り出されて巻芯12に導かれる線材11にテンションを付与するテンション装置71とがそれぞれ設けられる。また、長方形状を成す一対のフライヤ31,31の長辺方向の他方の端部には、後述する繰り出し速度制御手段である中央処理装置が内蔵されたハードケース77がそれぞれ取付けられる。
【0044】
一対のフライヤ31,31に設けられる蓄線具61及びテンション装置71はそれぞれ同一構造のものが用いられるので、丸穴31aに延長軸17が挿通されるフライヤ31に設けられる一方のものを説明し、丸穴31aに押さえ軸23が挿通されるフライヤ31に設けられる他方のものの説明を省略する。
【0045】
図7及び
図8に詳しく示すように、蓄線具61は、線材11が実際にその周囲に巻取られる有底筒状の巻取り材61aと、その巻取り材61aの周囲に軸方向に離間して形成された一対のフランジ部61b,61cとを有するプラスチック製のスプールであって、比較的長い線材11を巻回し得るように、比較的大径のものが用いられる。そして、蓄線具61には、その中心軸上にカップリング軸61dが突出して形成され、このカップリング軸61dの先端には、その周方向に環状溝61eが形成される。
【0046】
図2,
図3及び
図8に示す様に、フライヤ31の外周部には、枢支台62が巻芯12と平行に設けられ、その枢支台62には、フライヤ31の回転接線方向に延びる取付軸63が枢支される。そして、この取付軸63の先端部にはロック機構64(
図8)が設けられる。
【0047】
図8に詳しく示す様に、この実施の形態におけるロック機構64は、蓄線具61におけるカップリング軸61dが挿入可能なカップリング穴64bを有する筒体64aと、その筒体64aに設けられカップリング軸61dに形成された環状溝61eに係合するロック部材64cと、このロック部材64cを環状溝61eに押し付けるスプリング64d等を備える。
【0048】
筒体64aは取付軸63の先端に同軸に設けられ、筒体64aには、その端部から軸方向に伸びるスリット64eが形成され、そのスリット64eに進入可能な突起61kがそのカップリング軸61dに形成される。このため、スプリング64dの付勢力に抗してカップリング軸61dがこのカップリング穴64bに差し込まれると、ロック部材64cがスプリング64dの付勢力によって環状溝61eに押し付けられることにより、カップリング軸61dがこのカップリング穴64bから抜けないように構成される。
【0049】
そして、カップリング穴64bにカップリング軸61dが挿入状態でスリット64eに突起61kが進入するので、蓄線具61は取付軸63に回転不能に取付けられることになる。
【0050】
このため、蓄線具61は、ロック機構64を介して取付軸63に着脱自在に取付けられ、取付けられた状態でその取付軸63とともに回転し、取付軸63と別に独立した回転は禁止されるものとする。
【0051】
一方、枢支台62には、取付軸63の回転速度を制御可能な繰り出しモータ72が、その回転軸72aが取付軸63と平行になるように取付けられる。ロック機構64側の取付軸63には従動プーリ73aが設けられ、繰り出しモータ72の回転軸72aには駆動プーリ73bが設けられる。そして、従動プーリ73aと駆動プーリ73bの間にはベルト73cが架設され、繰り出しモータ72によりその回転軸72aを回転させると、取付軸63と共に蓄線具61も回転して線材11を巻き取り又は繰り出し、繰り出しモータ72がその回転軸72aの回転を停止させると、蓄線具61の回転も停止して、線材11の巻き取りや繰り出しを禁止するように構成される。
【0052】
図3~
図5に示すように、蓄線具61から繰り出される線材11にテンションを付与するテンション装置71は、この繰り出しモータ72と、線材ガイド74aが先端に設けられて基端が枢支されたテンションバー74と、そのテンションバー74の回動角度に応じた弾性力を及ぼす弾性部材75と、そのテンションバー74の回動角度を検出する検出手段76と、その検出手段76により検出された回動角度が所定の角度となるように線材11の繰り出し速度を制御する繰り出し速度制御手段77(
図3)とを備える。
【0053】
枢支台62の近傍のフライヤ31の外周部には、繰り出しモータ72に隣接して取付台78が枢支台62に平行に立設され、この取付台78の中間部分にテンションバー74の基端が枢支される。テンションバー74は取付台78と交差するように枢支され、テンションバー74の先端には線材ガイドとなる転向プーリ74aが枢支される。
【0054】
取付台78のテンションバー74を超えた先端側には、蓄線具61から巻解かれた線材11が掛け回される複数のプーリ79が枢支され、この複数のプーリ79により取付台78の基端側に向かうように案内された線材11を転向プーリ74aに折り返すように掛け回すことにより、その線材11を再び取付台78の先端側に向かわせるように構成される。
【0055】
また、取付台78の先端には、巻芯12に向かって延びる延長片80が取付けられ、この延長片80の巻芯12側の端部には線材11を巻芯12に案内する繰り出しプーリ81が設けられる。そして、取付台78及び延長片80には、転向プーリ74aにより折り返された線材11を繰り出しプーリ81にまで案内する複数の案内プーリ82が枢支される。
【0056】
図3及び
図4に示すように、弾性部材75は、転向プーリ74aを取付台78の基端側に向かうように付勢するコイルスプリングであって、そのコイルスプリング75の一端がテンションバー74の基端側に取付けられ、そのコイルスプリング75は取付台78に沿うように設けられ、そのコイルスプリング75の他端が取付台78の先端側に取付部材83を介して取付けられる。
【0057】
取付部材83を介して取付けられるコイルスプリング75の他端の固定位置は変更可能になっており、このコイルスプリング75は、テンションバー74の回動角度に応じた弾性力を及ぼす弾性部材75となる。
【0058】
図4に示すように、テンションバー74の回動角度を検出する検出手段76は、テンションバー74に取付けられテンションバー74の回動と共に移動するセンサロッド76aと、取付台78に設けられセンサロッド76aの位置に基づく電圧を出力可能なセンサヘッド76bとを備えるリニアセンサ76から成る。そして、このリニアセンサ76の検出出力は繰り出し速度制御手段77(
図3)に接続されるものとする。
【0059】
図2及び
図3に示すように、蓄線具61やテンション装置71が設けられた側と反対側のフライヤ31の端部には蓄線具61やテンション装置71とのバランスを保つハードケース77が設けられ、このハードケース77には繰り出し速度制御手段を構成する中央処理装置が内蔵される。そして、このハードケース77に内蔵された中央処理装置は、リニアセンサ76の検出出力からテンションバー74の回動角度を入力し、その角度が所定角度になるように、繰り出しモータ72における回転軸72aの回転速度を制御し、蓄線具61の回転速度を調整して、その蓄線具61から解き放されて巻芯12に向かう線材11の繰り出し速度を、その巻芯12への線材11の巻き取り速度に一致させるように構成される。
【0060】
この時、テンション装置71におけるコイルスプリング75は、線材ガイド74aを巻芯12に向かって線材11が繰り出される取付台78の先端側から離間させる方向に付勢し、線材ガイド74aに掛け回された線材11を引き延ばすようにして、その線材11に所定のテンションを付与する。
【0061】
即ち、繰り出し速度制御手段77は、線材11の供給源となる蓄線具61から解かれて巻芯12に向かって繰り出される線材11の繰り出し速度(繰り出し量)を、巻芯12における線材11の巻き取り速度(巻き取り量)とバランスするように、繰り出しモータ72の回転速度を制御し、線材11が掛け回された線材ガイド74aを有しかつコイルスプリング75により付勢されるテンションバー74を、所定の回動角度に保持するように構成される。
【0062】
ここで、線材11にはテンションバー74の回動角度にしたがってコイルスプリング75のバネ力が作用し、このバネ力に基づく所定のテンションが付与されるので、線材11を巻芯12に巻回させる巻線作業において、巻芯12への線材11の巻き取り速度(巻き取り量)が変化すると、テンションバー74の回動角度が変化し、線材11にかかるテンションが変動する。
【0063】
換言すれば、テンション変動があると、コイルスプリング75のバネ力が作用するテンションバー74の回動角度が変化するので、テンションの変動は、テンションバー74の回動角度の変化によって吸収され、線材11に過大なテンションが加わることが防止される。
【0064】
一方、線材11に付与されるテンションが変化してテンションバー74が回動すると、その回動角度の変化はリニアセンサ76により検出され、繰り出し速度制御手段77にフィードバックされる。このようなフィードバックを受けた繰り出し速度制御手段77は、テンションバー74の回動角度が所定角度に戻るように、繰り出しモータ72の回転速度を制御し、蓄線具61の回転速度を調整して、その蓄線具61から解き放されて巻芯12に向かう線材11の繰り出し速度を、その巻芯12への巻き取り速度に一致させる。これにより、テンションバー74の回動角度は所定角度に復帰し、線材11にかかるテンションは所定の値に戻される。
【0065】
また、テンションバー74からの線材11に作用するテンションを変化させたい場合には、取付部材83の取付台78における取付位置を変化させる。これにより、テンションバー74を所定の回動角度としたときのコイルスプリング75の長さを変化させることができ、コイルスプリング75からテンションバー74に及ぼされるバネ力を調整できるので、線材11に作用するテンションを所望のものとすることになる。
【0066】
次に、上記巻線装置を用いた線材の巻線方法を説明する。
【0067】
上記巻線装置10は、巻芯12に巻回される線材11を蓄える蓄線具61が一対のフライヤ31,31にそれぞれ設けられているので、この巻線装置10を用いた線材の巻線方法にあっては、必要な長さの線材11を両側から一対の蓄線具61に巻きつける蓄線工程と、一対のフライヤ31,31のいずれか一方又は双方を巻芯12の軸を回転中心として同期して又は別々に回転させて蓄線具61から繰り出される線材11を巻芯12に巻回し、巻始め端と巻終わり端が共に最外周層から導き出されたコイルを巻芯12の周囲に形成する巻線工程とを有することになる。
【0068】
そして、上記巻線装置10は、一対のフライヤ31,31に蓄線具61がそれぞれ着脱自在に設けられているので、一対のフライヤ31,31から蓄線具61を離脱させた状態で上記蓄線工程を行うことも可能となる。このように、フライヤ31,31から離脱させた蓄線具61を用いて蓄線工程を行った場合、この蓄線工程と巻線工程の間に、線材11が両端から巻回された一対の蓄線具61を巻線装置10の一対のフライヤ31に取付ける蓄線具取付工程が行われることになる。
【0069】
この実施の形態では、巻芯12に線材11が直接巻回されて、いわゆる空芯コイルが形成されるものとし、以下に各工程を説明する。
【0070】
<蓄線工程>
この工程では、必要な長さの線材11を両側から一対の蓄線具61に巻きつける。このため、一対の蓄線具61を準備する。必要な長さの線材11とは、得ようとする単一のコイルを作成するために必要な長さを有する線材11のことであって、線材11がドラムに巻回されて貯線されている場合には、先ず必要な長さの線材11をドラムから解きほぐして、一方の蓄線具61に巻回する。
【0071】
図9に示すように、蓄線具61がフライヤ31に取付けられている場合には、ドラム8から解きほぐされた線材11の端部を蓄線具61に固定した後に、フライヤ31に取付けられている繰り出しモータ72を駆動して蓄線具61を回転させる。これにより、ドラム8から線材11を解きほぐして一方の蓄線具61に巻回する。
【0072】
図9では、ドラム8から解きほぐされた線材11の曲がり癖を除去するための校正機90が用いられる場合を示し、この校正機90では、切断機91や線材把持機92とともに、縦方向の曲がり癖を除去するための複数の縦校正ローラ93と、横方向の曲がり癖を除去するための複数の縦校正ローラ94が設けられ、これら複数のローラ93,94の間を通過させて、曲がり癖が除去された線材11を蓄線具61に巻回する場合を示す。
【0073】
必要な長さの線材11が一方のフライヤ31に設けられた一方の蓄線具61に巻回された後には、線時把持機92によりドラム8から繰り出された線材11を把持した状態で切断機91によりその線材11を切断する。そして、
図1に示すように、その切断された側の端部を他方のフライヤ31に設けられた他方の蓄線具61に固定した後に、他方の蓄線具61が設けられているフライヤ31に取付けられている繰り出しモータ72を駆動し、その他方の蓄線具61を回転させる。それと共に、一方の蓄線具61が設けられているフライヤ31に取付けられている繰り出しモータ72にあっては、その一方の蓄線具61を逆方向に回転させて、他方の蓄線具61に巻回される量の線材11を一方の蓄線具61から解きほぐして繰り出す。
【0074】
このようにして、一方の蓄線具61に巻回された線材11の一部又は半分を他方の蓄線具61に巻戻す。これにより、必要な長さの線材11が両側から巻きつけられた一対の蓄線具61を得る。
【0075】
一方、一対のフライヤ31,31から蓄線具61を離脱させている場合には、
図10に示すように、別に設けられたスプール回転機95を用いて、蓄線具61に線材11を巻回させる。図に示すスプール回転機95は、蓄線具61が取付けられる回転体96と、その回転体96を回転させるモータ97とが台板98に設けられたものであって、
図10(a)に示すように、回転体96に蓄線具61を取付け、その蓄線具61にドラム8から解きほぐされた線材11の端部を固定した後にモータ97を駆動して、回転する蓄線具61にドラム8から解きほぐされた線材11を巻回させる。
【0076】
スプール回転機95は二台が隣接して用いられ、その一方のスプール回転機95の回転体96に一方の蓄線具61が取付けられ、その他方のスプール回転機95の回転体96に他方の蓄線具61が取付けられるものとする。必要な長さの線材11が一方の蓄線具61に巻回された後には、校正機90の線材把持機92によりドラム8から繰り出された線材11を把持した状態で切断機91によりその線材11を切断する。
【0077】
そして、
図10(b)に示すように、その切断された側の端部を他方のスプール回転機95における他方の蓄線具61に固定した後に、その他方の蓄線具61が設けられているスプール回転機95のモータ97を駆動し、その他方の蓄線具61を回転させる。それと共に、一方の蓄線具61が設けられているスプール回転機95のモータ97にあっては、その一方の蓄線具61を逆方向に回転させて、他方の蓄線具61に巻回される量の線材11を一方の蓄線具61から解きほぐして繰り出す。
【0078】
このようにして、一対のフライヤ31,31から離脱させている一方の蓄線具61に巻回された線材11の一部又は半分を他方の蓄線具61に巻戻す。これにより、必要な長さの線材11が両側から巻きつけられた一対の蓄線具61,61を得る。
【0079】
なお、上述したスプール回転機95や校正機90は一例であって、一対のフライヤ31,31から離脱させている蓄線具61に必要な長さの線材11を巻回可能である限り、どのような装置を用いてこの蓄線工程を行う様にしても良い。
【0080】
<蓄線具取付工程>
この工程は、一対のフライヤ31,31から蓄線具61を離脱させた状態で上記蓄線工程が行われた場合に必要な工程であって、この工程では、線材11が両端から巻回された一対の蓄線具61を巻線装置10の一対のフライヤ31に取付ける。
【0081】
この実施の形態では、
図8に示す様に、カップリング軸61dが設けられた蓄線具61を用い、フライヤ31における取付軸63の先端部にロック機構64を設けているので、そのロック機構64におけるスプリング64dの付勢力に抗して、カップリング軸61dをカップリング穴64bに差し込むことにより行われる。
【0082】
すると、ロック部材64cがスプリング64dの付勢力によって環状溝61eに押し付けられることにない、カップリング軸61dがこのカップリング穴64bから抜けないことになる。そして、このロック機構64では、カップリング穴64bにカップリング軸61dが挿入状態でスリット64eに突起61kが進入するので、蓄線具61は取付軸63に回転不能に取付けられることになる。
【0083】
<巻線工程>
この工程では、一対のフライヤ31,31のいずれか一方又は双方を巻芯12の中心軸を回転中心として同期して又は別々に回転させて蓄線具61から繰り出される線材11を巻芯12に巻回し、巻始め端と巻終わり端が共に最外周層から導き出されたコイルを巻芯12の周囲に形成する。
【0084】
ここで、巻芯12に巻回される線材11を蓄える蓄線具61を一対のフライヤ31にそれぞれ設けたので、それらの蓄線具61に比較的多くの線材11を蓄えさせることにより、比較的長い線材11を用いた比較的大きなコイルの製造が可能となる。
【0085】
一対のフライヤ31,31のいずれを回転させるかは、得ようとするコイルの仕様により異なり、例えば、
図11に示すように、巻芯12を回転させずに、双方のフライヤ31を巻芯12の回転軸を回転中心として同時に逆方向に回転させると、双方のフライヤ31に設けられた蓄線具61からそれぞれ線材11が繰り出されて巻芯12に同時に巻回される。この時、トラバース機構41により、一対のフライヤ31,31を巻芯12の軸方向に往復移動させれば、線材11を巻芯12に複数層に亘って整列巻きすることが可能となる。
【0086】
よって、一方のフライヤ31のみを順次回転させて、全ての線材11を巻芯12に巻回させる場合に比較して、その巻線に係る時間を短縮させることができ、比較的短時間に巻始め端と巻終わり端が共に最外周層から導き出されたコイルを巻芯12の周囲に形成することが可能となる。
【0087】
一方、例えば、
図12(a)に示すように、巻芯12と他方のフライヤ31を回転させずに、一方のフライヤ31のみを巻芯12の軸を回転中心として回転させると、その一方のフライヤ31に設けられた蓄線具61から繰り出された線材11を巻芯12に巻回させることになる。そして、一方のフライヤ31における蓄線具61の線材11が巻芯12に巻回された後にその一方のフライヤ31の回転を停止させ、
図12(b)に示すように、その後に他方のフライヤ31を巻芯12の軸を回転中心として回転させることにより、その他方のフライヤ31に設けられた蓄線具61から繰り出された線材11を、先に巻回された線材11の上に更に巻回させることもできる。
【0088】
よって、一対のフライヤ31を別々に回転させることにより、線材11の巻芯12への巻回させる仕様を多様化することができ、巻始め端と巻終わり端が共に最外周層から導き出された複数種類のコイルを巻芯12の周囲に容易に形成することが可能となる。
【0089】
また、上記巻線装置10では、巻芯12を回転させる巻芯回転手段16を備えるので(
図1)、フライヤ31の回転と同時に巻芯12も同一方向に同一の速度で回転させれば、フライヤ31と巻芯12の相対的な位置関係が変化することは無い。
【0090】
すると、巻芯12と一緒に回転するフライヤ31の蓄線具61から線材11が巻芯12に巻回されることはなく、巻芯12と一緒に回転しないフライヤ31、例えば、停止状態のフライヤ31における蓄線具61から繰り出される線材11を回転する巻芯12が巻回することになる。
【0091】
従って、
図13(a)に示すように、巻芯回転手段16により巻芯12を回転させるとともに、その巻芯12の回転と同時に一方のフライヤ31を巻芯12の回転と同一方向に同一の速度で回転させて、巻芯12と一緒に回転しないフライヤ31、例えば、停止状態のフライヤ31における蓄線具61から繰り出される線材11を巻芯12に巻回させる。
【0092】
そして、他方のフライヤ31における蓄線具61の線材11が巻芯12に巻回された後に、その一方のフライヤ31の回転を停止し、代わって、
図13(b)に示すように、他方のフライヤ31を巻芯12の回転と同方向に同一の速度で回転させることにより、その一方のフライヤ31に設けられた蓄線具61から繰り出された線材11を、先に巻回された線材11の上に更に巻回させることができる。
【0093】
よって、巻芯12を回転させると共に、一対のフライヤ31を別々に回転させることにより、任意の巻数と任意の層数を有し、かつ巻始め端と巻終わり端が共に最外周層から導き出された複数種類のコイルを巻芯12の周囲に容易に形成することが可能となる。このため、線材11の巻芯12への巻回させる仕様を更に多様化させることが可能となる。
【0094】
そして、蓄線具61とともに、一対のフライヤ31,31にそれぞれテンション装置71を設けているので、巻芯12に線材11を所定のテンションで巻回することが可能となり、線材11の巻回においてテンションが異なることに起因する巻ムラが生じることを回避することができる。
【0095】
また、上述したように、巻線工程において蓄線具61を取付けたフライヤ31を回転させるので、その蓄線具61に線材11を蓄線させる蓄線工程が巻線工程の前に行われることになる。
【0096】
けれども、蓄線具61は一対のフライヤ31に着脱自在に設けられているので、
図10に示す様に、フライヤ31から離脱させた蓄線具61を用いて蓄線工程を行い、その後、蓄線具61をフライヤ31に取付ける蓄線具取付工程を行い、その更に後に、
図11~
図13に示すように、蓄線具61から繰り出される線材11を巻芯12に巻回する巻線工程を行う様にすれば、その巻線工程と同時に、別の蓄線具61を用いた蓄線工程を行うことが可能となる。
【0097】
よって、本発明の巻線装置及び巻線方法では、複数の蓄線具61を準備することにより、巻線工程と蓄線工程を同時に行うことが可能となる。すると、蓄線工程を巻線工程と別に行うことができずに、それらの工程を連続させることが必要な従来のものに比較して、速やかなコイルの製造が可能になるのである。
【0098】
なお、上述した実施の形態では、巻芯12に線材11が直接巻回されて、いわゆる空芯コイルが形成される場合を説明したが、巻芯12に図示しないボビンを嵌着させて、そのボビンに線材11を巻回させてコイルを形成するようにしても良い。
【0099】
また、上述した実施の形態では、カップリング軸61dが設けられた蓄線具61を用い、そのカップリング軸61dを取付けるロック機構64が設けられた取付軸63がフライヤ31に枢支される場合を説明した。けれども、これは一例であって、フライヤ31,31に蓄線具61を着脱自在に設けることができる限り、別の機構、例えば、ネジ止めにより蓄線具61をフライヤ31,31に着脱自在に取付けるようなものであっても良い。
【符号の説明】
【0100】
10 巻線装置
11 線材
12 巻芯
16 巻芯用サーボモータ(巻芯回転手段)
21 支持具
31 フライヤ
41 トラバース機構
51 回転用サーボモータ(フライヤ回転手段)
61 蓄線具
71 テンション装置