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特許7083723摺動材料組成物、摺動性成形物、および摺動性部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】摺動材料組成物、摺動性成形物、および摺動性部材
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20220606BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20220606BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20220606BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20220606BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220606BHJP
   C08J 5/16 20060101ALI20220606BHJP
   C10M 107/04 20060101ALN20220606BHJP
   C10M 143/00 20060101ALN20220606BHJP
   C10M 139/04 20060101ALN20220606BHJP
   C10M 155/02 20060101ALN20220606BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220606BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20220606BHJP
   C10N 50/08 20060101ALN20220606BHJP
【FI】
C10M169/04
C08K5/5415
C08L23/06
C08L53/00
C08L83/04
C08J5/16 CES
C10M107/04
C10M143/00
C10M139/04
C10M155/02
C10N30:00 Z
C10N40:02
C10N50:08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018148889
(22)【出願日】2018-08-07
(65)【公開番号】P2020023626
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】関根 義之
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-514244(JP,A)
【文献】特開2005-248077(JP,A)
【文献】特開2000-038513(JP,A)
【文献】特開2000-109702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
C08J 5/16
C08L 23/06
C08L 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)高密度ポリエチレン 65~85質量%と、
(B)オレフィンブロック共重合体 15~35質量%と、
からなるポリマー成分と、
(C)シランカップリング剤と、
を含む摺動材料組成物であって、
前記摺動材料組成物全体の質量に基づいて、0.1~15質量%のSi含有量を有する、
ことを特徴とする摺動材料組成物。
【請求項2】
前記(A)高密度ポリエチレンが、(A1)パウダー原料を含む、請求項1に記載の摺動材料組成物。
【請求項3】
(D)シリコーンパウダーを更に含む、請求項1又は2に記載の摺動材料組成物。
【請求項4】
(F)シラノール縮合触媒を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載の摺動材料組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の摺動材料組成物からなる摺動性成形物。
【請求項6】
請求項に記載の摺動性成形物からなる摺動性部材。
【請求項7】
自動車用部材または建築用部材である、請求項に記載の摺動性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動材料組成物に関し、より詳細には、高密度ポリエチレンおよびオレフィンブロック共重合体からなるポリマー成分とシランカップリング剤とを含む組成物に関する。また、本発明は、当該摺動材料組成物を溶融混練することによって得られる成形物、とりわけ、自動車用部材または建築用部材に好適に使用される摺動性部材にも関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のウェザーストリップやガラスランは、雨水や外気を防いだり、騒音を遮断したりするために、自動車のドアやボディの外枠に装着される、シール性を有する長尺状の自動車内装品である。
【0003】
このような機能を発揮させるために、ウェザーストリップやガラスランは一般に、ドアガラスと接する部分はエラストマーを含有する摺動材料で構成され、この場合に用いられる摺動材料として、ウレタン系塗装材などの塗布硬化型材料や、オレフィン樹脂などに各種の添加剤を加えた材料が挙げられる(特許文献1)。また、摺動性を更に向上させるために、架橋性の粒子を樹脂に添加することにより、成形体表面に凹凸を形成して摺動性を付与するものもある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-344472号公報
【文献】特開2003-213141公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら架橋性の粒子を添加する場合には、架橋反応のための温水処理等が必要となることから製造工程が複雑となる問題があった。また、そのような摺動材料で形成したウェザーストリップやガラスランは、繰り返し使用することによる折り曲げ等の外部刺激により、材質にクラックが入りやすく、さらにクラック部分が白化することから外観にも悪影響を及ぼすという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意検討した結果、ある特定の高密度ポリエチレンおよびオレフィンブロック共重合体からなるポリマー成分とシランカップリング剤とを所定割合で含む組成物を溶融混練することにより、シリコーン系パウダー等の粒子を加えた樹脂と同等レベルの摺動性を有する成形物を実現できることを見出した。そのような組成物は、高密度ポリエチレン、オレフィンブロック共重合体およびシランカップリング剤を所定の割合で含み、所定のSi含有量を有することを特徴する。さらに、本発明者らは、高密度ポリエチレンおよびオレフィンブロック共重合体からなるポリマー成分をシラングラフト化することが摺動性付与に有効であることを見出した。本発明は、係る知見に基づくものである。
【0007】
そして、本発明による摺動材料組成物は、
(A)高密度ポリエチレンと、
(B)オレフィンブロック共重合体と、
からなるポリマー成分と、
(C)シランカップリング剤と、
を含み、
上記摺動材料組成物全体の質量に基づいて、0.1~15質量%のSi含有量を有する、ことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の実施態様においては、上記ポリマー成分は、(A)高密度ポリエチレン65~85質量%と、(B)オレフィンブロック共重合体15~35質量%とからなることが好ましい。
【0009】
本発明の実施態様においては、上記(A)高密度ポリエチレンが、(A1)パウダー原料を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の実施態様においては、上記摺動材料組成物が、更に(D)シリコーンパウダーを含むことが好ましい。
【0011】
本発明の実施態様においては、上記摺動材料組成物が、更に(F)シラノール縮合触媒を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明の別の実施態様においては、上記摺動材料組成物からなる摺動性成形物も提供される。
【0013】
また、本発明の別実施態様においては、上記摺動性成形物からなる摺動性部材も提供される。
【0014】
また、本発明の別実施態様においては、上記摺動性部材は、自動車用部材または建築用部材である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定の高密度ポリエチレンおよびオレフィンブロック共重合体からなるポリマー成分とシランカップリング剤とを含む摺動材料組成物を溶融混練することにより、シリコーン系パウダー等の粒子を加えた樹脂と同等レベルの摺動性を有する摺動性成形物を実現することができる。また、本発明によれば、架橋反応が必要ではないことから、温水処理等の後処理が必要なく、製造工程が簡略化されるという効果を有する。そのため、本発明の摺動性成形物は、シリコーン系パウダー等の粒子を加えた樹脂を代替する材料として、自動車用ウェザーストリップやガラスランなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による摺動材料組成物は、(A)高密度ポリエチレンと(B)オレフィンブロック共重合体とからなるポリマー成分と、(C)シランカップリング剤とを必須成分として含む。以下、本発明による摺動材料組成物を構成する各成分について説明する。
【0017】
<(A)高密度ポリエチレン>
本発明による摺動材料組成物に使用される(A)高密度ポリエチレンは、チーグラー系触媒、クロム系触媒等の各種触媒を用い、中低圧化または高圧化において、気相法、溶液法、懸濁重合法等の各種の重合法により得られたエチレン重合体であり、本発明における高密度ポリエチレンは密度が0.940~0.967g/cmのものである。
【0018】
高密度ポリエチレンは、他のポリマーと比較して、極めてガラス転移温度(Tg)が低いことから、低温特性に優れている。また、3級炭素をほとんど含まないことから、ラジカルが発生しにくく、熱安定性に優れるとともに、成形加工時に劣化が起こりにくく、耐候性にも優れている。さらに、他のポリオレフィンと同様に無極性であることから、水蒸気の遮断性や耐水性に優れ、水中での物性変化がほとんど生じないという特性を有する。
【0019】
(A)高密度ポリエチレンとしては、本発明の効果を発揮し得る限りにおいては特に制限されるものではないが、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
また、本発明による高密度ポリエチレンのメルトインデックスは、通常0.05~1.0g/10分、好ましくは、0.1~1.0g/10分である。
【0021】
また、本発明における高密度ポリエチレンは、市販されているものも利用することができ、例えば、株式会社プライムポリマーから商品名ハイゼックス5000H、5305E、ハイゼックス6300E等として市販されている。
【0022】
(A)高密度ポリエチレンの配合量は、下記成分(B)との合計質量に基づき、通常65~85質量%、好ましくは70~85質量%、より好ましくは70~80質量%である。(A)高密度ポリエチレンの配合量が上記範囲にあれば、押出成形時の外観を良好に維持しながら、摺動性を向上することができる。
【0023】
また、摺動性をより良好にするために、上記した(A)高密度ポリエチレンは(A1)パウダー原料を含んでいてもよい。(A1)パウダー原料は、高密度ポリエチレンをパウダー状にしたものであり、通常のペレット状の高密度ポリエチレンと比較して、より効率的に摺動性を向上させることができる。また、そのようなパウダー原料は、完全に溶融させず、焼結させて用いてもよい。焼結させて用いることにより、成形物の表面に凹凸を形成することができることから摺動性、特に摺動耐久性を更に向上させることができる。
【0024】
任意成分である(A1)パウダー原料は、市販されているものも利用することができ、例えば、旭化成株式会社から、サンファインSH810、サンファインSH821等として市販されている。
【0025】
任意成分である(A1)パウダー原料の配合量は、特に制限されるものではないが、押出成形時の外観を良好に維持しながら、摺動性を改良する観点からは、通常3~15質量%、好ましくは5~10質量%である。
【0026】
<(B)オレフィンブロック共重合体>
本発明による摺動材料組成物に使用される(B)オレフィンブロック共重合体は、エチレンを主体とする結晶性の重合体ブロック(ハードセグメント)と、炭素数3~30のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンおよびエチレンを含み、かつ、好ましくは後者のエチレンの割合がハードセグメントより少ない非晶性の重合体ブロック(ソフトセグメント)とを含むオレフィンブロック共重合体であり、各ブロックが交互に2以上、好ましくは3以上繋がったマルチブロック構造であることが望ましい。また直鎖状構造、ラジアル構造があるが特に直鎖状構造が好ましい。なお、本発明において、ブタジエン系共重合体を80%以上水素添加して得られるブロック共重合体は除外される。
【0027】
従来、メタロセン系触媒で合成されたエチレンとα-オレフィン共重合体は、エチレンとα-オレフィンがランダムに共重合したランダム共重合体であった。それに対して本発明において使用するオレフィンブロック共重合体は、上記のようにブロック共重合体という点で異なる。また、ブタジエンからなるブロック共重合体を80%以上水素添加して得られるブロック共重合体、例えばJSR株式会社製ダイナロンCEBC、即ち、C部分は1,4-ポリブタジエンブロックの水素添加物であるポリエチレンブロック(ハードセグメント)であり、EB部分は1,4-ブタジエンと1,2-ブタジエンのランダム構造からなる化合物を水素添加したエチレンとブチレンのランダム構造のブロック(ソフトセグメント)が挙げられるがこれは、摺動性、摺動耐久性、耐折り曲げ白化性、押出加工性に劣るため好ましくない。
【0028】
また、本発明におけるオレフィンブロック共重合体は、市販されているものも利用することができ、例えばダウ・ケミカル社から商品名INFUSE D9000、D9007、D9100、D9107、D9500、D9507、D9530、D9817、D9807 等として市販されている。
【0029】
本発明において使用する(B)オレフィンブロック共重合体は、特表2007-529617号公報に開示された方法にしたがって合成することもできる。例えば、第1のオレフィン重合触媒と、同等の重合条件下で、第1のオレフィン重合触媒によって調製されるポリマーとは化学的性質または物理的性質が異なるポリマーを調製可能な第2のオレフィン重合触媒と、鎖シャトリング剤と、を組み合わせて得られる混合物または反応生成物を含む組成物を準備し、上記エチレンとα-オレフィンとを、付加重合条件下で、該組成物と接触させる工程を経て製造することができる。
【0030】
上記した付加重合は、好ましくは連続溶液重合法が適用される。連続溶液重合法は、触媒成分、鎖シャトリング剤、モノマー類、場合により溶媒、補助剤、捕捉剤および重合助剤が反応ゾーンに連続的に供給され、ポリマー生成物はそこから連続的に取り出される。また、ブロックの長さは、前記触媒の比率および種類、鎖シャトリング剤の比率および種類、重合温度等を制御することによって変化させることができる。なお、当該(B)オレフィンブロック共重合体の合成方法において、その他の詳細な条件は、特表2007-529617号公報に開示されているので、適宜当該開示内容を採用することができる。
【0031】
本発明における(B)オレフィンブロック共重合体のソフトセグメントを構成するα-オレフィンとしては、炭素数3~30、好ましくは炭素数4~20、さらに好ましくは炭素数4~8の直鎖または分岐のα-オレフィンであり、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1- デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらのなかでも、1-オクテンを主体とする場合が相容性および摺動性、摺動耐久性、耐折り曲げ白化性、押出加工性の点で好ましい。
【0032】
本発明の効果の観点から、ハードセグメントがエチレンを主体とし1-オクテンを含む結晶性ブロックであり、ソフトセグメントがハードセグメントより1-オクテン含有比率が高い、1-オクテンとエチレンを主体とした非晶性ブロックであって、各ブロックが交互に2以上、好ましくは3以上繋がったマルチブロック構造である。
【0033】
エチレン含有量は、本発明の効果の観点から、好ましくは25~97% 、より好ましくは40~96% 、さらにより好ましくは55~95%である。
【0034】
(B)オレフィンブロック共重合体のメルトインデックス(ASTM D1238、190℃、2.16kg)は、好ましくは0.5~15g/10分であり、より好ましくは0.5~10g/10分である。
【0035】
また、(B)オレフィンブロック共重合体は、密度(ASTM D792)が、好ましくは0.860~0.930g/cmであり、より好ましくは0.865~0.890g/cmである。
【0036】
また、(B)オレフィンブロック共重合体は、硬度(ASTM D2240、ショアA)は、好ましくは50~98であり、より好ましくは50~90である。
【0037】
また、(B)オレフィンブロック共重合体は、測定温度100℃での圧縮永久歪み(JIS K6262)が75以下であることが好ましい。
【0038】
また、(B)オレフィンブロック共重合体は、DSCにより測定される融点は110~125℃であることが好ましく、より好ましくは115~123℃ であることが摺動性、摺動耐久性、耐折り曲げ白化性、押出加工性の点で好ましい。
【0039】
ここで、DSCにより測定される融点は、示差走査熱量計(DSC)によって得られるピークトップ融点であり、具体的には、DSCを用い、サンプル量10mgを計り採り、190℃で5分間保持した後、-10℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、-10℃ で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で200℃まで測定して求めた値である。
【0040】
(B)オレフィンブロック共重合体の配合量は、上記成分(A)との合計質量に基づき、通常15~35質量%、好ましくは15~30質量%、より好ましくは20~30質量%である。(B)オレフィンブロック共重合体の配合量が上記範囲にあれば、摺動性を向上することができる。
【0041】
<(C)シランカップリング剤>
(C)シランカップリング剤は、加水分解性基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;アセトキシ基等のアシルオキシ基;クロロ基等のハロゲン基など)、および有機官能基(例えば、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、イソシアネート基など)の少なくとも2種類の異なる反応性基を有するシラン化合物である。(C)シランカップリング剤は、(A)高密度ポリエチレンと(B)オレフィンブロック共重合体とからなるポリマー成分をシラングラフト化させて、良好な摺動性、摺動耐久性、耐折り曲げ白化性、押出加工性を実現させる働きをする。シラン架橋しなくても、シラングラフトによりシランの摺動特性を十分に発揮することができ、シラン架橋する場合に必要な後加工(水処理)が不要となることから、経済的・工業的に優れている。シラン架橋をしなくても十分に摺動特性を付与することができるが、その後に架橋することによって摺動性を更に向上させる場合には、(C)シランカップリング剤は、(A)高密度ポリエチレンと(B)オレフィンブロック共重合体からなるポリマー成分にグラフトし、温水による後処理、所謂水架橋処理の際の架橋点を形成する働きをする。
【0042】
したがって、本発明による(A)高密度ポリエチレン(B)オレフィンブロック共重合体、および(C)シランカップリング剤を含む摺動材料組成物を、溶融混練することによって、良好な摺動性、摺動耐久性、耐折り曲げ白化性、押出加工性を奏する成形物を提供することができる。
【0043】
(C)シランカップリング剤としては、例えば、ビニル系シランカップリング剤(ビニル基と加水分解性基を有するシラン化合物)、メタクリル系シランカップリング剤(メタクリロキシ基と加水分解性基を有するシラン化合物)、アクリル系シランカップリング剤(アクリロキシ基と加水分解性基を有するシラン化合物)、エポキシ系シランカップリング剤(エポキシ基と加水分解性基を有するシラン化合物)、アミノ系シランカップリング剤(アミノ基と加水分解性基を有するシラン化合物)、およびメルカプト系シランカップリング剤(メルカプト基と加水分解性基を有するシラン化合物)などを挙げられ、これらの1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、摺動性、摺動耐久性、耐折り曲げ白化性、押出加工性の観点から、ビニル系シランカップリング剤が好ましい。
【0044】
上記ビニル系シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニル-トリス(n-ブトキシ)シラン、ビニル-トリス(n-ペントキシ)シラン、ビニル-トリス(n-ヘキソキシ)シラン、ビニル-トリス(n-ヘプトキシ)シラン、ビニル-トリス(n-オクトキシ)シラン、ビニル-トリス(n-ドデシルオキソ)シラン、ビニル-ビス(n-ブトキシ)メチルシラン、ビニル-ビス(n-ペントキシ)メチルシラン、ビニル-ビス(n-ヘキソキシ)メチルシラン、ビニル-(n-ブトキシ)ジメチルシラン、およびビニル-(n-ペントキシ)ジメチルシランなどが挙げられる。
【0045】
(C)シランカップリング剤の配合量は、上記成分(A)高密度ポリエチレンおよび(B)オレフィンブロック共重合体の合計100質量部に対して、通常1~6質量部、好ましくは2.5~4.5質量部、より好ましくは2.0~4.0質量部である。(C)シランカップリング剤の配合量が上記範囲にあれば、(A)高密度ポリエチレンと(B)オレフィンブロック共重合体を十分にグラフト化させて摺動性、摺動耐久性、耐折り曲げ白化性、押出加工性を向上することができる。
【0046】
<その他の成分>
本発明による摺動材料組成物ないし摺動性成形物は、上記した成分以外にも発明の効果を損なわない範囲で任意の成分を含んでいてもよい。
【0047】
<(D)シリコーンパウダー>
本発明による摺動材料組成物は、上述のとおり、溶融混練して得られた成形物の摺動性が、従来のシリコーン系パウダーを含む摺動性部材と同等であるが、摺動性をより向上させるために、(D)シリコーンパウダーを更に含んでいてもよい。(D)シリコーンパウダーは、従来公知のものを制限なく使用することができ、市販されているものも利用することもできる。例えば、日興リカ株式会社から、NH-RASN06、MSP-TKN04等、日信化学工業株式会社から、シャリーヌR-175S、R-181S等として市販されているシリコーンパウダーを使用することができる。
【0048】
任意成分である(D)シリコーンパウダーの含有量は、特に制限されるものではないが、押出成形時の外観を良好に維持しながら、摺動性を改良する観点からは、(A)高密度ポリエチレン、(B)オレフィンブロック共重合体、および(C)シランカップリング剤からなる摺動材料組成物または摺動性成形物において、通常2~10質量%、好ましくは3~7質量%である。
【0049】
<(E)有機過酸化物>
また、例えば、本発明の(A)高密度ポリエチレンと(B)オレフィンブロック共重合からなるポリマー成分の(C)シランカップリング剤によるグラフト化を促進し、良好なグラフト形成を実現するために、(E)有機過酸化物を含んでいてもよい。有機過酸化物を加えることにより、摺動材料組成物を溶融混練した際にラジカルを発生させて、そのラジカルが連鎖的に反応し、上記したポリマー成分がグラフト化する。
【0050】
(E)有機過酸化物としては、ラジカルを発生させるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、およびt-ブチルクミルパーオキサイドなどが挙げられ、これらの1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
本発明において好適に使用される(E)有機過酸化物としては、上記のなかでも、組成物の臭気性、着色性、スコーチ安全性の観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジクミルパーオキサイドが好ましい。
【0052】
(E)有機過酸化物の市販品としては、例えば、日本油脂株式会社の「パーヘキサ 25B(商品名)」「パーヘキシン 25B(商品名)」、および「パークミル D(商品名)」などを挙げることができる。
【0053】
(E)有機過酸化物の配合量は、上記成分(A)および(B)の合計100質量部に対して、通常0.02~0.20質量部、好ましくは0.04~0.12質量部である。
【0054】
<(F)シラノール縮合触媒>
また、上記したシラングラフト化した成形物を架橋させるために、(F)シラノール縮合触媒を含んでいてもよい。(F)シラノール縮合触媒は、シラングラフト化成形物の温水による後処理、所謂、水架橋処理の際に、(C)シランカップリング剤が(A)高密度ポリエチレンおよび(B)オレフィンブロック共重合体にグラフトすることにより形成された架橋点の架橋(シラノール間の脱水縮合反応)を促進・触媒し、シラン架橋を形成する。シラングラフト化した成形物は、(F)シラノール縮合触媒を適用しない場合であっても、グラフト化したシランのアルコキシ基が、湿気により加水分解することにより架橋するが、触媒を用いることによって架橋反応を促進し、効率的にシラン架橋化した成形物を製造することができる。
【0055】
本発明において使用される(F)シラノール縮合触媒としては、シラノール間の脱水縮合反応を促進・触媒できるものであれば特に制限なく使用することができ、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオレエート、ジオクチルスズラウレート、酢酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、カプリル酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸鉄、チタン酸エステル、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジイソプロピルチタン・エチルアミン錯体、ヘキシルアミン錯体、ジブチルアミン錯体、およびピリジン錯体などが挙げられ、これらの1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
(F)シラノール縮合触媒の適用量は、特に制限されるものではないが、摺動性、摺動耐久性、耐折り曲げ白化性、押出加工性の向上の観点から、上記成分(A)高密度ポリエチレンおよび(B)オレフィンブロック共重合体の合計100質量部に対して、通常0.005~0.3質量部、好ましくは0.008~0.2質量部であってよい。
【0057】
(F)シラノール縮合触媒の摺動材料組成物への適用手段としては、(F)シラノール縮合触媒を適当な液状物質、例えばパラフィンオイルなどのプロセスオイル、酢酸エチルやトルエンなどの有機溶剤、流動パラフィンなどとともに摺動材料組成物に配合してもよく、また、(F)シラノール縮合触媒を含むマスターバッチを準備しておき、摺動材料組成物に当該マスターバッチを配合してもよい。また、他の適用手段としては、摺動材料組成物を動的に熱処理することにより成形物を得て、当該成形物の表面に、(F)シラノール縮合触媒を適当な液状物質、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、トルエンなどの有機溶剤、パラフィンオイルなどのプロセスオイル等に含有させた溶液を塗布してもよい。
【0058】
上記マスターバッチに用いる任意の樹脂としては、特に制限されないが、本発明の摺動材料組成物との混和性の観点から、(A)高密度ポリエチレンおよび/または(B)オレフィンブロック共重合体が好ましい。上記マスターバッチには、所望により、軟化剤、可塑剤、顔料、フィラー、滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、離型剤、帯電防止剤、金属不活性剤、および界面活性剤などの添加剤を更に含ませることができる。マスターバッチのメルトフローレート(160℃、10kg)は、3g/10分以上であることが好ましく、25g/10分以上であることがより好ましい。また、マスターバッチのメルトフローレートを摺動材料組成物のメルトフローレートよりも高くすることが好ましい。
【0059】
上記した(A)高密度ポリエチレンおよび(B)オレフィンブロック共重合体は、市販のものを使用する場合、通常はペレット状として得ることができる。一方、(C)シランカップリング剤や、任意成分である(E)有機過酸化物は、しばしば常温において液状である。そのため本発明による摺動材料組成物を製造する際には、ペレット状の固体成分と液状成分との分離・不均一化を抑制・防止するため、液状成分は液体添加装置を使用して溶融混練装置に投入するのが通常である。液体添加装置を使用しない場合は、固体成分と液状成分との分離・不均一化を抑制・防止するため、フィラーや滑剤を添加してもよい。摺動材料組成物にフィラーや滑剤が含まれることにより、液状成分の一部または全部を、ペレット状の固体成分と共に溶融混練装置に投入することが可能になる。
【0060】
このようなフィラーや滑剤としては、特に制限されるものではなく、公知のものを使用することができ、例えば、エチレン・ビスステアリン酸アマイド、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、マイカ、クレーなどが挙げられ、これらの1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
これらのフィラーや滑剤の配合量は、任意成分であり特に制限されるものではないが、(A)高密度ポリエチレンおよび(B)オレフィンブロック共重合体の合計100質量部に対して通常0~100質量部、好ましくは1~90質量部である。
【0062】
また、本発明による摺動材料組成物は、本発明の効果に影響を与えない範囲内において、所望により、(A)高密度ポリエチレンおよび(B)オレフィンブロック共重合体以外の熱可塑性樹脂や、軟化剤、可塑剤、顔料、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、離型剤、帯電防止剤、金属不活性剤、および界面活性剤などの添加剤を更に含ませることができる。
【0063】
<摺動性成形物>
本発明による摺動性成形物は、本発明の(A)高密度ポリエチレンおよび(B)オレフィンブロック共重合体からなるポリマー成分に、(C)シランカップリング剤を適用したものである。(C)シランカップリング剤は、分子内に加水分解性基および有機官能基の少なくとも2種類の異なる反応性基を有する。したがって、有機材料と無機材料の両方と結合する官能基を合わせ持つことから効率的にベース成分をグラフト化することができる。即ち、後述するように、本発明の摺動材料組成物を、溶融混練機等を用いて動的に熱処理することにより、ポリマー成分にシランカップリング剤がグラフト化した成形体を得ることができる。なお、本発明において使用される(C)シランカップリング剤としては、上記具体例について、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
また、本発明においては、上記のシラングラフト化成形物を温水処理するか、またはシラングラフト化成形物に(F)シラノール縮合触媒を適用して、シラン架橋化させてもよい。(F)シラノール縮合触媒は、シラングラフト化成形物の温水による後処理、所謂、水架橋処理の際に、(C)シランカップリング剤が(A)高密度ポリエチレンおよび(B)オレフィンブロック共重合体にグラフトすることにより形成された架橋点の架橋(シラノール間の脱水縮合反応)を促進・触媒し、摺動性、摺動耐久性、耐折り曲げ白化性、押出加工性を更に向上せしめる働きをする。シラングラフト化成形物は、(F)シラノール縮合触媒を適用しない場合であっても、グラフト化したシランのアルコキシ基が、湿気により加水分解することにより架橋するが、これを用いることによって架橋反応を促進し、効率的にシラン架橋性組成物を製造することができる。
【0065】
<摺動性成形物の製造方法>
本発明の成形物は、上記成分(A)~(C)および所望により用いる任意成分を含む摺動材料組成物を、任意の溶融混練機を使用して動的に熱処理して、任意の形状にすることにより得ることができる。ここで「動的に熱処理」とは、上記成分(E)有機過酸化物の分解が有意に起こる温度条件において、溶融混練することを意味する。上記溶融混練機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ミキサー、各種のニーダー、およびこれらを組み合わせた装置をあげることができる。上記溶融混練の温度条件は、通常上記成分(E)の1分半減期温度以上の温度、好ましくは上記成分(E)の1分半減期温度よりも5℃高い温度以上の温度であってよい。上記溶融混練の時間条件は、通常30秒間以上、好ましくは2分間以上であってよい。
【0066】
上記した(F)シラノール縮合触媒を成形物に適用して架橋成形物とするには、上記した摺動材料組成物または当該摺動材料組成物を動的に熱処理することによりポリマー成分にシランカップリング剤がグラフト化した成形体を用い、任意の成形機を使用して、上記のようにして任意の形状に成形した後、温水による後処理、所謂水架橋処理を行うことにより架橋成形物を得ることができる。上記水架橋処理の温度条件は、通常常温(20℃)~150℃、好ましくは50~90℃であってよい。上記水架橋処理の時間条件は、通常10秒~1週間、好ましくは1分~3日間であってよい。また加圧下に水と接触させることもできる。更に成形物の濡れをよくするため、水は湿潤剤ないし界面活性剤、水溶性有機溶剤その他の添加剤を含むものであってよい。水は、液体の水に限定されず、気体(水蒸気や空気中の水分)などの状態であってもよい。上記成形機としては、例えば、押出成形機、射出成形機、およびブロー成形機などをあげることができる。
【0067】
本発明の摺動性成形物は、摺動性がシリコーン系パウダー等の粒子を含有する樹脂と同程度に良好であり、かつ柔軟性および成形加工性を有するものであるので、ブロー成形法、押出成形法、射出成形法、熱成形法、弾性溶接(elasto-welding)法、圧縮成形法等により所望の形状に成形することができる。また、成形条件についてもとくに制限されない。
【0068】
<ゲル分率の測定>
本発明による摺動性成形物において、本発明による摺動材料組成物が加熱混練されると、上記成分(C)の存在下で、上記成分(A)および(B)は、その一部が架橋される。また、本発明による摺動性成形物の架橋度は、目安として、成形物を構成する熱可塑性樹脂成分(即ち、(A)高密度ポリエチレンおよび(B)オレフィンブロック共重合体が架橋したもの)のゲル分率によって表すことができる。ゲル分率は、試料1gを100メッシュ金網に包み、ソックスレー抽出機を用い、沸騰キシレン中で10時間抽出した後、試料1gに対する残留固形分の質量の割合で表すことができる。本発明において、好ましい架橋度は、ゲル分率で、通常1~60質量%、好ましくは10~40質量%、より好ましくは15~30質量%である。この範囲内である場合、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0069】
<摺動材料組成物および摺動性成形物のSi含有量>
摺動材料組成物を動的に熱処理して得られたシラングラフト化成形物(摺動性成形物)は、成形物に対してSi単位を通常0.1~15質量%、好ましくは0.1~10質量%含むことを特徴とする。なお、本発明の摺動性成形物中のSi含有量は、以下の方法により測定される値を意味するものとする。
<Si含有量の測定方法>
Si含有量の測定する手法としては、摺動材料組成物および摺動性成形物の前処理工程として乾式分解法、湿式分解法、融解法あるいはこれらを組み合わせた分解法を用いて測定溶液を調製し、測定溶液を原子吸光法、ICP発光分析法、ICP質量分析法等を用い測定算出する分析法が挙げられる。本発明においては、マイクロウェーブ分解装置を用い検液を作製し、ICP発光分析装置を用い検量線法でSi含有量を算出することができる。具体的には、以下のようにして、摺動材料組成物や摺動性成形物中のSi含有量を測定する。
【0070】
先ず、摺動材料組成物および/または摺動性成形物から採取した試料0.20gを分解容器(アステック株式会社 MARS5用 XP-1500Plus)に入れた後、超微量分析用硝酸5mlを加え30分室温放置する。次いでマイクロウェーブ分解装置(アステック株式会社 MARS5)にて試料を分解する。分解条件はマイクロウェーブ出力300Wで10分照射後5分静置し、さらにマイクロウェーブ出力300Wで10分照射する。この操作後室温で30分放置した後、20mlメスフラスコに分解液を移し、0.02ppmイットリウム溶液2mlを添加し、純水でメスアップして検液とする。測定はICP発光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス SPECTRO ARCOS)を用い、検量線法けい素標準液(富士フイルム和光純薬株式会社 原子吸光分析用1,000ppm)を用いた検量線法によりSi含有量を算出する。
【0071】
<摺動性成形物の用途>
得られた摺動部材用成形物の用途は特に限定されるものではないが、シリコーン系パウダー等の粒子を含む樹脂の代替用途として好適に使用することができる。例えば、自動車部材として、ウェザーストリップ、ガラスラン、ライティングガスケット、3Dエクスチェンジブロークリーンエアダクト、フーロシールヒンジカバー、ベリーパン(ロボテックエクストゥルージョンガスケット) 、カップホルダー、サイドブレーキグリップ、シフトノブカバー、シート調整ツマミ、IPスキン、フラッパードアシール、ワイヤーハーネスグロメット、ラックアンドピニオンブーツ、サスペンションカバーブーツ(ストラットカバーブーツ)、ガラスガイド、インナーベルトラインシール、ルーフガイド、トランクリッドシール、モールデッドクォーターウィンドガスケット、コーナーモールディング、グラスエンキャプシュレーション(ロボテックエクストゥルージョン)、フードシール、グラスエンキャプシュレーション(射出成形)、グラスランチャンネル、セカンダリーシール等が挙げられる。また、建築用部材として、高層ビルのカーテンウォールガスケット、窓枠シール、金属類/ 補強繊維類への接着、パーキングデッキシール、エキスパンションジョイント、地震対策用エキスパンションジョイント、住宅窓ドアシール(例えば共押出等)、住宅ドアシール、手すり表皮等が挙げられる。また、その他工業部品として、歩行用マット(シート) 、足ゴム、洗濯機排水ホース(PPとの二色成形等)、洗濯機フタのシール、エアコンモーターマウント、排水管シール(PPとの二色成形等)、ライザーチューブ(PVC等)、キャスターホイール、プリンタロール、ダクトホース、ワイヤー& ケーブル、注射器シュリンジガスケット等が挙げられる。さらに、日用品・部品として、スピーカーサラウンド、ヘアブラシグリップ、かみそりグリップ、化粧品グリップ・フット、歯ブラシグリップ、日用品ブラシグリップ、ほうきの毛先、台所用品グリップ、計量スプーングリップ、枝切りバサミグリップ、ガラス耐熱容器フタ、園芸用品グリップ、ハサミグリップ、ステイプラーグリップ、コンピュータマウス、ゴルフバッグ部品、壁塗りコテグリップ、チェーンソーグリップ、スクリュードライバーグリップ、ハンマーグリップ、電気ドリルグリップ、研磨機グリップ、目覚まし時計等に好ましく使用できる。
【実施例
【0072】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0073】
以下の材料を準備した。
(1)成分A:高密度ポリエチレン
ハイゼックス 5305E(株式会社プライムポリマー製、密度(JIS K 7112(ISO 1183)0.951g/cm、メルトインデックス(JIS K 7210(ISO 1133)、190℃、2.16kg)=0.8g/10分)
ハイゼックス 6300M(株式会社プライムポリマー製、密度(JIS K 7112(ISO 1183)0.951g/cm、メルトインデックス(JIS K 7210(ISO 1133)、190℃、2.16kg)=0.11g/10分)
(2)成分A1:パウダー原料(高密度ポリエチレンパウダー)
サンファインSH810(旭化成株式会社製、粉末状高密度ポリエチレン、密度(JIS K 7112(ISO 1183)0.958g/cm、メルトインデックス(JIS 7210(ISO 1133)、190℃、2.16kg)=0.08g/10分)
(3)成分B:オレフィンブロック共重合体
INFUSE D9100(ダウ・ケミカル社製、メルトインデックス(ASTM D1238、190℃、2.16kg)=1g/10分)、密度(ASTM D792)0.877g/cm、硬度(ASTM D2240、ショアA)75、融点(DSC法)120℃
INFUSE D9817(ダウ・ケミカル社製、メルトインデックス(ASTM D1238、190℃、2.16kg)=15g/10分)、密度(ASTM D792)0.877g/cm、硬度(ASTM D2240、ショアA)71、融点(DSC法)120℃
INFUSE D9530(ダウ・ケミカル社製、メルトインデックス(ASTM D1238、190℃、2.16kg)=5g/10分)、密度(ASTM D792)0.887g/cm、硬度(ASTM D2240、ショアA)83、融点(DSC法)119℃
(4)成分C:シランカップリング剤
KBM-1003(信越化学工業株式会社製、ビニルトリメトキシシラン)
(5)成分D:シリコーンパウダー
NH-RASN06(日興リカ株式会社製、メチルシロキサン網状重合体、金平糖状)
(6)成分E:有機過酸化物
パーヘキシン25B(日油株式会社製、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3)
(7)成分F:シラノール縮合触媒
ネオスタンU-810(日東化成工業株式会社製、ジオクチルスズジラウレート)
(8)その他の成分:
ネオゼックス 2015M(株式会社プライムポリマー製、低密度ポリエチレン、密度(JIS K 7112(ISO 1183)0.922g/cm、メルトインデックス(JIS K 7210(ISO 1133)、190℃、2.16kg)=1.2g/10分)
カオーワックスEB-P(花王株式会社製、エチレン・ビスステアリン酸アマイド)
IRGANOX1010(BASF社製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
IRGAFOS168(BASF社製、燐系酸化防止剤)
【0074】
<シラノール縮合触媒マスターバッチの作製>
上記材料を用いて下記の表1に示した組成に従いブレンダーを使用してドライブレンドした後、押出機に供給し、ダイス出口樹脂温度160℃の条件で溶融混練してシラノール縮合触媒マスターバッチ(MB)を得た。なお、表中の数値は質量部を表す。シラノール縮合触媒MB中のシラノール縮合触媒含有率は4.7質量%である。
【0075】
【表1】
【0076】
<摺動材料組成物の作製>
上記した各成分を下記の表2および表3に示した組成に従いブレンダーを使用してドライブレンドした後、押出機のスクリュー根元に供給し、以下の条件で溶融混練して摺動性成形物1~21を得た。なお、表中の数値は質量部を表す。
<押出成形条件>
・機器:20mm押出機
・スクリュー:フルフライト
・ダイス:25×0.5mm厚ダイス
・温度:C1=200℃、C2=220℃、C3=220℃、D=210℃
・スクリュー回転数:20rpm
【0077】
<Si含有量の測定>
上記のとおりに調製した摺動性成形物1~21に含有されているSiの含有量を測定し、その結果を表2および表3に示した。なお、Si含有量の測定は、以下のとおりにして行った。
<Si含有量の測定方法>
マイクロウェーブ分解装置を用い検液を作成し、ICP発光分析装置を用い検量線法で算出した。
試料0.20gを分解容器(アステック株式会社 MARS5用 XP-1500Plus)に入れた後、超微量分析用硝酸5mlを加え30分室温放置する。マイクロウェーブ分解装置(アステック株式会社 MARS5)にて分解する。分解条件はマイクロウェーブ出力300Wで10分照射後5分静置しさらにマイクロウェーブ出力300Wで10分照射する。この操作後室温で30分放置した後、20mlメスフラスコに分解液を移し、0.02ppmイットリウム溶液2mlを添加した後純水でメスアップし検液とする。測定はICP発光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス SPECTRO ARCOS)を用い、検量線法けい素標準液(富士フイルム和光純薬株式会社 原子吸光分析用1,000ppm)を用いた検量線法でSi含有量を算出した。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
組成物20および21を温度80℃の温水中に12時間浸漬して反応を促進することにより、各試験片用の架橋成形物20および21を得た。
【0082】
<摺動性の測定>
上記のようにして得られた成形物1~21を、10×60×0.5mmの押出しテープに切り出して試験用サンプルを調製した。得られた試験用サンプルを、ASTM表面治具へ摩擦方向に平行に両面テープで張り付けて、以下の条件にて摺動性試験を実施した。得られた動摩擦係数の測定結果は、下記の表5および表6に示すとおりであった。
・試験機:新東科学株式会社製、HEIDONトライボギア摩擦測定機
・摩擦材:ガラス表面
・摩擦治具:ASTM平面治具
・垂直荷重:1000g
・摩擦速度:100mm/秒
・移動距離:60mm
【0083】
<摺動耐久性の測定>
上記のようにして得られた成形物1~21についての試験サンプルを、上記の摺動性の測定試験と同じ条件で、ガラス表面に1000回こすった後の動摩擦係数を測定することにより、摺動耐久性を測定した。得られた動摩擦係数の測定結果は、下記の表5および表6に示すとおりであった。
【0084】
<折り曲げ白化性の評価>
上記のようにして得られた成形物1~21は、0.5mmの厚さを有する押出テープである。折り曲げ白化性は、この押出テープを180度折りたたみ、戻したときの折り目を目視で確認することにより観測した。測定時の温度は常温(23℃)であり、折りたたんだ状態での保持時間は、約1秒間であった。また、白化が目視で分かりやすいように、カーボンブラックを2質量部添加したサンプルを用いて評価した。評価基準は以下のとおりとした。
◎:折り目の色が戻った。
○:折り目がうっすら白くなった。
×:折り目が白くなった。
評価結果は、下記の表5および表6に示すとおりであった。
【0085】
<押出表面粗さの測定>
上記のようにして得られた成形物1~21の押出表面粗さRzを、JIS B 0601に準拠して、表面粗さ測定機ハンディサーフ E-35B(社株式会社東京精密社製)により測定長さ4.0mmで測定した。測定結果は、下記の表5および表6に示すとおりであった。
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
表5および表6の評価結果からも明らかなように、本発明による摺動材料組成物は、摺動性、摺動耐久性、折り曲げ白化性、押出表面粗さの全てにおいて、優れていた。
【0089】
また、実施例を比較すると、摺動性、摺動耐久性、折り曲げ白化性、押出表面粗さを総合的に判断すると、実施例7が最も良好であることがわかる。実施例7は、必須成分である高密度ポリエチレン、オレフィンブロック共重合体、シランカップリング剤に加えて、高密度ポリエチレンパウダーおよびシリコーンパウダーを添加したものである。この結果から、高密度ポリエチレンパウダーおよびシリコーンパウダーを添加することによって、摺動耐久性が向上することが分かる。
【0090】
一方、比較例1は高密度ポリエチレンの含有量が規定値未満であることから摺動耐久性が不良であり、比較例2は高密度ポリエチレンの含有量が規定値超であることから折り曲げ白化性が不良であり、比較例3は高密度ポリエチレンが全く含有されていないため摺動性および摺動耐久性が不良であり、比較例4はシランカップリング剤の含有量が規定値未満であることから摺動耐久性が不良であり、比較例5はシランカップリング剤の含有量が規定値超であることから押出表面粗さが不良であり、比較例6はシランカップリング剤が全く含有されていないため摺動耐久性が不良である。