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特許7083744導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20220606BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20220606BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20220606BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220606BHJP
   C08F 8/32 20060101ALI20220606BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20220606BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20220606BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220606BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20220606BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20220606BHJP
   C08J 3/11 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L65/00
C08L25/18
C08L83/04
C08F8/32
H01B1/20 A
H01B1/12 F
H01B13/00 Z
H01B13/00 503B
C08K5/17
C08K5/1515
C08J3/11 CEZ
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018236427
(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公開番号】P2020097680
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】市川 宗樹
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
H01B 1/00- 1/24
C08F 8/32
H01B 13/00
C08J 3/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、炭化水素系溶剤を含む有機溶剤とを含有し、 前記ポリアニオンが、前記ポリアニオンの一部のアニオン基と、エポキシ基含有化合物及びアミン化合物との反応物であり、
前記エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有し、
前記アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有する、導電性高分子含有液。
【請求項2】
前記炭化水素系溶剤の含有量が、前記有機溶剤の総質量に対し、50質量%以上である、請求項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項3】
前記炭化水素系溶剤が、ヘプタン及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項又はに記載の導電性高分子含有液。
【請求項4】
前記有機溶剤がメチルエチルケトンを含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項5】
前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項6】
前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、請求項1~のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項7】
前記エポキシ基含有化合物の炭素数が7以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項8】
バインダ成分をさらに含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項9】
前記バインダ成分が、シリコーン化合物である、請求項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項10】
前記シリコーン化合物が、付加硬化型シリコーンである、請求項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項11】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる水分散液に、エポキシ基含有化合物とアミン化合物を添加した後、析出物を回収する析出回収工程と、
前記析出物に有機溶剤を添加して調製液を得る有機溶剤添加工程と、を有し、
前記エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有し、
前記アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有する、導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項12】
前記析出回収工程と、前記有機溶剤添加工程との間に、洗浄用有機溶剤で、前記析出物を洗浄する洗浄工程をさらに有する、請求項11に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項13】
前記有機溶剤がメチルエチルケトン、ヘプタン、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項11又は12に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項14】
前記調製液にバインダ成分を添加するバインダ成分添加工程をさらに有する、請求項1113のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項15】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項1~10のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工する塗工工程と、塗工した導電性高分子含有液を乾燥する乾燥工程とを有する、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電層を形成するための塗料として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープした導電性高分子水分散液を使用することがある。
通常、導電層が塗布されるフィルム基材は疎水性のプラスチックフィルムからなる。そのため、水系塗料である前記導電性高分子水分散液は、フィルム基材との密着性が低い傾向にあった。また、導電性高分子水分散液は乾燥時間が長くなるため、導電層形成の生産性が低くなる傾向にあった。
そこで、導電性高分子水分散液の分散媒である水を有機溶剤に置換した導電性高分子有機溶剤分散液を用いることがある。
導電性高分子有機溶剤分散液としては、π共役系導電性高分子及びポリアニオンからなる導電性複合体を含む導電性高分子水分散液を凍結乾燥して乾燥体を得た後、前記乾燥体に有機溶剤及びアミン化合物を添加して得たものが知られている(特許文献1)。
しかし、アミン化合物を含む導電性高分子有機溶剤分散液から形成される導電層は、導電性高分子水分散液から形成される導電層よりも導電性が低くなる、色調が変化するなどの問題を生じることがあった。また、導電層に離型性を発現させるために導電性高分子有機溶剤分散液に付加硬化型シリコーンを配合した場合、アミン化合物の存在によって付加硬化型シリコーンが硬化阻害を起こすことがあった。したがって、アミン化合物を用いた導電性高分子有機溶剤分散液では、付加硬化型シリコーンを配合した場合に導電性離型フィルムが硬化しにくいという問題があった。
【0003】
前記問題の対策として、π共役系導電性高分子及びポリアニオンからなる導電性複合体を含む導電性高分子水分散液に、オキシラン基及びオキセタン基の少なくとも一方を有する環状エーテル化合物を添加して、導電性高分子有機溶剤分散液を得ることが知られている(特許文献2)。特許文献2に記載の方法では、π共役系導電性高分子にドープしていないアニオン基に、環状エーテル化合物のオキシラン基又はオキセタン基を反応させて疎水化することにより、導電性複合体を有機溶剤分散性にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-032382号公報
【文献】国際公開第2014/125827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載の方法においても、シリコーン溶液に対する導電性複合体の分散性が不充分になることがあった。また、特許文献2に記載の導電性高分子有機溶剤分散液から形成した導電層においては、導電性が低くなることがあった。
そこで、本発明は、シリコーン溶液に対する分散性に優れ、導電性に優れた導電層を容易に形成できる導電性高分子含有液及びその製造方法を提供することを目的とする。また、導電性に優れた導電層を容易に形成できる導電性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、有機溶剤とを含有し、前記ポリアニオンが、前記ポリアニオンの一部のアニオン基と、エポキシ基含有化合物及びアミン化合物との反応物である、導電性高分子含有液。
[2] 前記有機溶剤が炭化水素系溶剤を含有する、[1]に記載の導電性高分子含有液。
[3] 前記炭化水素系溶剤の含有量が、前記有機溶剤の総質量に対し、50質量%以上である、[2]に記載の導電性高分子含有液。
[4] 前記炭化水素系溶剤が、ヘプタン及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である、[2]又は[3]に記載の導電性高分子含有液。
[5] 前記有機溶剤がメチルエチルケトンを含有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
[6] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
[7] 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
[8] 前記エポキシ基含有化合物の炭素数が7以上である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
[9] 前記アミン化合物が、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有する、[1]~[8]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
[10] バインダ成分をさらに含有する、[1]~[9]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液。
[11] 前記バインダ成分が、シリコーン化合物である、[10]に記載の導電性高分子含有液。
[12] 前記シリコーン化合物が、付加硬化型シリコーンである、[11]に記載の導電性高分子含有液。
[13] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる水分散液に、エポキシ基含有化合物とアミン化合物を添加した後、析出物を回収する析出回収工程と、
前記析出物に有機溶剤を添加して調製液を得る有機溶剤添加工程と、を有する導電性高分子含有液の製造方法。
[14] 前記析出回収工程と、前記有機溶剤添加工程との間に、洗浄用有機溶剤で、前記析出物を洗浄する洗浄工程をさらに有する、[13]に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[15] 前記有機溶剤がメチルエチルケトン、ヘプタン、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも1種である、[13]又は[14]に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[16] 前記調製液にバインダ成分を添加するバインダ成分添加工程をさらに有する、[13]~[15]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[17] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[12]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工する塗工工程と、塗工した導電性高分子含有液を乾燥する乾燥工程とを有する、導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子含有液は、シリコーン溶液に対する分散性に優れ、導電性に優れる導電層を容易に形成できる。
本発明の導電性高分子含有液の製造方法によれば、上記効果を有する導電性高分子含有液を容易に製造できる。
本発明の導電性フィルムの製造方法によれば、導電性に優れた導電層を容易に形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<導電性高分子含有液>
本発明の導電性高分子含有液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、有機溶剤とを含有する。
本発明の導電性高分子含有液において、導電性複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよい。
【0009】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0010】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0011】
(ポリアニオン)
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。
【0012】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、後述するようにエポキシ基含有化合物やアミン化合物と反応させる前の状態では、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
ポリアニオン中の全てのアニオン基中、余剰のアニオン基は、ポリアニオン中の全てのアニオン基に対し、30~90モル%であることが好ましく、45~75モル%であることがより好ましい。
【0013】
本発明のポリアニオンは、ポリアニオンの余剰のアニオン基(以下、「一部のアニオン基」ともいう)と、エポキシ基含有化合物及びアミン化合物との反応物である。すなわち、本発明のポリアニオンは、エポキシ基含有化合物と一部のアニオン基の反応によって形成された置換基(A)と、アミン化合物と一部のアニオン基との反応によって形成された置換基(B)とを有する。
【0014】
(置換基A)
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(A)は下記式(A1)で示される基、又は下記式(A2)で表される基であると推測される。
【0015】
【化1】
【0016】
[式(A1)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0017】
【化2】
【0018】
[式(A2)中、mは2以上の整数であり、複数のR、複数のR、複数のR、及び複数のRはそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよい。]
【0019】
式(A1)及び(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、アニオン基のプロトンと置換していることを表す。置換されるプロトンを有するアニオン基として、例えば、「-SOH」のように酸素原子に結合した活性なプロトンを有するアニオン基が挙げられる。
【0020】
式(A1)において、R、R、R、及びRの任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。RとRとは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。例えば、RとRとが前記炭化水素基であり、Rの1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、Rの1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
式(A2)において、R、R、R、及びRの任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。RとRとは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。
mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0021】
エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物である。凝集又はゲル化を防止する点では、エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有する化合物が好ましい。
エポキシ基含有化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ基含有化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2,3-ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0023】
前記高級アルコールグリシジルエーテルとしては、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上が好ましく、炭素数12~14の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上がより好ましく、C12(炭素数12)高級アルコールグリシジルエーテル及びC13(炭素数13)高級アルコールグリシジルエーテルのうち少なくとも1種がさらに好ましく、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0024】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ基含有化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジルネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート等が挙げられる。
【0025】
エポキシ基含有化合物は、有機溶剤への分散性が高くなることから、分子量が50以上2,000以下であることが好ましい。また、低極性の有機溶剤への分散性が高くなることから、エポキシ基含有化合物は、炭素数が7以上100以下のものが好ましく、10以上80以下のものがより好ましく、15以上50以下のものがさらに好ましい。
【0026】
(置換基B)
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(B)は下記式(B)で表される基であると推測される。
【0027】
-HN111213 ・・・(B)
[式(B)中、R11~R13はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R11~R13のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0028】
置換基(B)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO 」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0029】
化学式(B)におけるR11~R13は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。化学式(B)におけるR11~R13は後述するアミン化合物に由来する置換基である。
化学式(B)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0030】
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、本態様の導電性高分子含有液を容易に製造できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0031】
低極性の有機溶剤への分散性が高くなることから、アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有することが好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがより好ましい。
【0032】
ポリアニオンにおいて、[置換基(A)]:[置換基(B)]で表される質量比(以下、A/B比ともいう)は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、25:75~75:25がさらに好ましい。A/B比が上記範囲内であると、分散性、導電性のバランスを取りやすくなる。なお、[置換基(A)]の質量は、[(エポキシ基含有化合物と導電性複合体とを反応させて得られる反応物Aの質量)-(エポキシ基含有化合物と反応させる前の導電性複合体の質量)]で算出することができる。また、[置換基(B)が結合したアニオン基]の質量は、[(前記反応物Aとアミン化合物とを反応させて得られる反応物Bの質量)-(エポキシ基含有化合物と導電性複合体とを反応させて得られる反応物Aの質量)]から算出することができる。
【0033】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ドープに関与しないアニオン基の量が適度に抑えられ、アニオン基にエポキシ基含有化合物を反応させる際に疎水性に容易に変換できる。
【0034】
導電性高分子含有液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0035】
(有機溶剤)
本態様で使用される有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
窒素原子含有化合物系溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0036】
上記有機溶剤のなかでも、プラスチックフィルム基材に対する導電性高分子含有液の濡れ性が高くなり、また、低極性のバインダ成分を容易に可溶化できる点では、炭化水素系溶剤が好ましい。また、炭化水素系溶剤のなかでも、汎用的であることから、トルエンが好ましい。また、バインダ成分としてシリコーン化合物を用いた場合には、シリコーン化合物の溶解性に優れることから、ヘプタン及びトルエンの少なくとも一方が好ましい。
本態様で使用される有機溶剤においては、導電性複合体の分散性がより高くなることから、メチルエチルケトンを含有することが好ましい。
【0037】
炭化水素系溶剤の含有量は、有機溶剤の総質量に対し、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。炭化水素系溶剤の含有量が上記範囲内であると、導電性高分子の分散性を高めることができる。
【0038】
(バインダ成分)
本態様の導電性高分子含有液は、得られる導電層の製膜性を向上させるために、バインダ成分を含有してもよい。
本態様の導電性高分子含有液は、分散媒として有機溶剤を使用しているため、バインダ成分として、低極性であるシリコーン化合物を好適に使用できる。
【0039】
シリコーン化合物としては、硬化型シリコーンが挙げられる。バインダ成分が硬化型シリコーンである場合、硬化型シリコーンを硬化させることにより、導電層に離型性を発現させることができる。
硬化型シリコーンは、付加硬化型シリコーン、縮合硬化型シリコーンのいずれであってもよい。本態様では、付加硬化型シリコーンを使用しても硬化阻害が生じにくいため、好適である。
付加硬化型シリコーンとしては、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサンと、ハイドロジェンシランとを有するものが挙げられる。このような付加硬化型シリコーンは、付加反応によって三次元架橋構造を形成して硬化する。硬化を促進させるために白金系硬化触媒を用いてもよい。
付加硬化型シリコーンの具体例としては、KS-3703T、KS-847T、KM-3951、X-52-151、X-52-6068、X-52-6069(信越化学工業社製)等が挙げられる。
付加硬化型シリコーンは有機溶剤に溶解又は分散しているものが好適に使用される。
【0040】
また、バインダ成分としては、シリコーン化合物以外の、熱可塑性樹脂(例えばポリエステル等)、熱硬化性化合物(例えば多官能エポキシ化合物等)、活性エネルギー線硬化性化合物(例えばアクリル化合物等)を使用してもよい。熱硬化性化合物を使用する場合には、熱重合開始剤をさらに含有することが好ましく、活性エネルギー線硬化性化合物を使用する場合には、光重合開始剤をさらに含有することが好ましい。
【0041】
バインダ成分の含有割合は、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、3000質量部以上50000質量部以下であることがより好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、得られる導電層の強度及び硬度を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、充分な導電性を確保できる。
【0042】
(高導電化剤)
導電性高分子含有液は、導電性をより向上させるために、高導電化剤を含んでもよい。
ここで、前述したπ共役系導電性高分子、有機溶剤、ポリアニオン、バインダ成分は、高導電化剤に分類されない。ただし、前記エポキシ基含有化合物、前記アミン化合物は、ここで説明する高導電化剤に該当していてもよい。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上の水酸基を有する化合物、1個以上の水酸基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
導電性高分子含有液に含有される高導電化剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
高導電化剤の含有割合は導電性複合体の100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。
高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0043】
(その他の添加剤)
導電性高分子含有液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、エポキシ基含有化合物、エステル形成性化合物、バインダ成分及び高導電化剤以外の化合物からなる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
導電性高分子含有液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0044】
(導電性高分子含有液の製造方法)
〔第1の製造方法〕
上記導電性高分子含有液を得るための本態様の導電性高分子含有液の第1の製造方法は、析出回収工程と有機溶剤添加工程とを有する。
また、本態様の導電性高分子含有液の第1の製造方法は、析出回収工程と有機溶剤添加工程との間に洗浄工程をさらに有してもよい。また、有機溶剤添加工程後に、バインダ成分添加工程をさらに有してもよい。
【0045】
[析出回収工程]
析出回収工程は、導電性高分子水分散液にエポキシ基含有化合物及びアミン化合物を添加し、導電性複合体を析出させて析出物を得た後、前記析出物を濾過により回収する工程である。
導電性高分子水分散液にエポキシ基含有化合物を添加すると、エポキシ基含有化合物のエポキシ基が、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。これにより置換基(A)が形成されて導電性複合体が疎水性になるため、水系分散液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。
エポキシ基含有化合物の添加の際には反応促進のために加熱してよい。加熱温度は、40℃以上100℃以下とすることが好ましい。
エポキシ基含有化合物の添加量は、ポリアニオンに対する質量比で0.1以上1000以下にすることが好ましく、1.0以上100以下にすることがより好ましい。エポキシ基含有化合物の添加量を前記下限値以上にすれば、導電性複合体の疎水性が充分に高くなり、前記上限値以下にすれば、未反応のエポキシ基含有化合物による導電性低下を防止できる。
導電性高分子水分散液にエポキシ基含有化合物を添加する前、添加と同時又は添加した後には、有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性有機溶剤とは、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g以上の有機溶剤である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤を含む場合、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
導電性高分子水分散液にアミン化合物を添加すると、アミン化合物がポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。これにより置換基(B)が形成されて導電性複合体が疎水性になるため、水系分散液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。
アミン化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50000質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上10000質量部以下であることがさらに好ましい。アミン化合物の添加量が前記下限値以上であれば、導電性複合体の疎水性を充分に向上させることができる。アミン化合物の添加量が前記上限値以下であれば、導電性高分子含有液から形成される導電層の導電性低下を防止できる。
【0047】
析出回収工程において、エポキシ基含有化合物とアミン化合物を添加する順序は特に限定されない。合成中間体の取り扱いが容易であることから、導電性高分子水分散液にエポキシ基含有化合物を添加して、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応させた後、アミン化合物を添加してポリアニオンの一部のアニオン基と反応させることが好ましい。
【0048】
前記導電性高分子水分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる分散液である。
ここで、水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%超であり、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0049】
導電性高分子水系分散液は、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。また、導電性高分子水系分散液は市販のものを使用してもよい。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0050】
析出回収工程によって得られる析出物の水分量はできるだけ少ないことが好ましく、水分を全く含まないことが最も好ましいが、実用の観点からは、水分を10質量%以下の範囲で含んでもよい。
水分量を少なくする方法としては、例えば、有機溶剤で析出物を洗い流す方法、析出物を乾燥する方法等が挙げられる。
【0051】
[洗浄工程]
析出回収工程と有機溶剤添加工程との間の洗浄工程は、洗浄用有機溶剤で前記析出物を洗浄する工程である。この洗浄工程によって、残留する水、未反応のエポキシ基含有化合物、未反応のアミン化合物、エポキシ基含有化合物とアミン化合物との反応物、及び、エポキシ基含有化合物の加水分解物を除去する。
洗浄用有機溶剤は、析出物を溶解せずに洗浄可能なものが好適に使用される。したがって、洗浄用有機溶剤としては、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤が好ましい。洗浄用有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
洗浄方法としては特に制限はなく、例えば、析出物の上から洗浄用有機溶剤をかけ流して析出物を洗浄してもよいし、洗浄用有機溶剤中で析出物を攪拌して析出物を洗浄してもよい。
【0052】
[有機溶剤添加工程]
有機溶剤添加工程は、前記析出物に有機溶剤を添加して調製液を得る工程である。
有機溶剤としては、上述した有機溶剤を使用できるが、なかでもメチルエチルケトン、ヘプタン、トルエンを使用することが好ましい。有機溶剤としてメチルエチルケトン、ヘプタン、トルエンを使用すると、調製液において析出物の分散性を高めることができる。
【0053】
析出物に有機溶剤を添加した後には調製液を攪拌して分散処理を施してもよい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高剪断力の分散機(ホモジナイザ等)を用いて攪拌してもよい。
【0054】
本態様の導電性高分子含有液の第1の製造方法が後述する[バインダ成分添加工程]を有さない場合には、有機溶剤添加工程において得られた調製液が導電性高分子含有液となる。
【0055】
[バインダ成分添加工程]
バインダ成分添加工程は、前記調製液にバインダ成分を添加する工程である。本工程においてバインダ成分とともに有機溶剤を添加してもよい。
調製液にバインダ成分を添加した後には攪拌してバインダ成分の分散性を高めることが好ましい。
バインダ成分が付加硬化型シリコーンである場合には、バインダ成分の添加と同時若しくは添加後に白金系硬化触媒を添加することが好ましい。
【0056】
[高導電化剤、添加剤の添加]
高導電化剤、添加剤等を導電性高分子含有液に含有させる場合には、有機溶剤添加工程、及びバインダ成分添加工程のいずれか1つ以上の工程において、高導電化剤、添加剤等を添加すればよい。
【0057】
〔第2の製造方法〕
上記導電性高分子含有液を得るための本態様の導電性高分子含有液の第2の製造方法は、乾燥工程と調製液調製工程とを有する。
また、本態様の導電性高分子含有液の第2の製造方法は、乾燥工程と調製液調製工程との間に洗浄工程をさらに有してもよい。また、調製液調製工程後に、バインダ成分添加工程の少なくとも一方をさらに有してもよい。第2の製造方法における洗浄工程、及びバインダ成分添加工程は、第1の製造方法における洗浄工程、及びバインダ成分添加工程と同様である。
本製造方法において、高導電化剤、添加剤等を導電性高分子含有液に含有させる場合には、調製液調製工程、及びバインダ成分添加工程のいずれか1つ以上の工程において、高導電化剤、添加剤等を添加すればよい。
【0058】
[乾燥工程]
乾燥工程は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる水分散液を乾燥して導電性複合体の乾燥物を得る工程である。
前記乾燥工程における乾燥方法としては、凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥、風乾、温風乾燥、加熱乾燥等の公知方法が適用できる。
凍結乾燥では、前記導電性高分子水分散液中の水分を凍結させ、真空乾燥する。
凍結乾燥の際の温度は、-60~60℃とすることが好ましく、-40~40℃とすることがより好ましい。凍結乾燥温度が前記下限値以上であれば、温度調整しやすく、前記上限値以下であれば、導電性高分子水分散液を容易に凍結乾燥できる。
真空乾燥の際には、水系分散媒を充分に揮発させるために、前記凍結乾燥温度にした後に、例えば40℃以上に加熱してもよい。
噴霧乾燥では、前記導電性高分子水分散液を真空容器中に噴霧することにより水分を蒸発させて乾燥する。
噴霧乾燥の際の温度は、-20~40℃とすることが好ましく、0~30℃とすることがより好ましい。噴霧乾燥温度が前記下限値以上であれば、導電性高分子水分散液を容易に乾燥でき、前記上限値以下であれば、導電性複合体の熱劣化を防止できる。
乾燥工程によって得られる乾燥物の水分量はできるだけ少ないことが好ましく、水分を全く含まないことが最も好ましいが、実用の観点からは、水分を10質量%以下の範囲で含んでもよい。
水分量を少なくするためには、例えば、乾燥時間を長く、乾燥温度を高く、真空度を高くすればよい。
【0059】
[調製液調製工程]
調製液調製工程は、前記乾燥物にエポキシ基含有化合物、アミン化合物、及び有機溶剤を添加して反応させ、調製液を得る工程である。
有機溶剤としては、上述した有機溶剤を特に制限なく使用できる。特に、本製造方法では、乾燥物に水分が殆ど含まれないから、有機溶剤として炭化水素系溶剤等の低極性溶剤を使用でき、ヘプタン及びトルエンの少なくとも一方を好適に使用できる。
前記工程では、乾燥物にエポキシ基含有化合物を添加することで、ポリアニオンの一部のアニオン基とエポキシ基含有化合物とを反応させて置換基(A)を形成することができる。エポキシ基含有化合物の添加の際には反応促進のために加熱してよい。加熱温度は、40℃以上100℃以下とすることが好ましい。
前記工程では、乾燥物にアミン化合物を添加することで、ポリアニオンの一部のアニオン基とアミン化合物とを反応させて置換基(B)を形成することができる。
調製液調製工程において、エポキシ基含有化合物とアミン化合物を添加する順序は特に限定されない。合成中間体の取り扱いが容易であることから、前記乾燥物にエポキシ基含有化合物を添加して、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応させた後、アミン化合物を添加してポリアニオンの一部のアニオン基と反応させることが好ましい。
【0060】
(作用効果)
本態様の導電性高分子含有液によれば、ポリアニオンが置換基(A)と置換基(B)とを有することにより、シリコーン溶液に対する導電性複合体の分散性を高め、導電性に優れた導電層を形成できる。
また、アミン化合物に由来する置換基(B)の割合を減らすことができるため、導電性高分子含有液が付加硬化型シリコーンを含む場合に、付加硬化型シリコーンの効果阻害を抑制できる。これにより、導電層形成時の導電性を向上することができる。
【0061】
<導電性フィルムの製造方法>
本態様の導電性フィルムの製造方法は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、上記導電性高分子含有液を塗工する塗工工程と、塗工した導電性高分子含有液からなる塗膜(導電層)を乾燥させる乾燥工程とを有する方法である。
【0062】
(導電性フィルム)
本態様の製造方法により得られる導電性フィルムは、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する。導電層に含まれるポリアニオンの一部のアニオン基の水素原子は前記置換基(A)、及び置換基(B)に置換されている。
導電性高分子含有液がバインダ成分を含む場合には、導電層にバインダ成分又はバインダ成分が硬化した硬化物が含まれる。
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
【0063】
本態様の製造方法において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルム、紙が挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレート、セルローストリアセテートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、導電性高分子含有液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0064】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書における部材の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0065】
(塗工工程)
前記塗工工程において導電性高分子含有液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
上記のうち、簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。バーコーターにおいては、種類によって塗工厚が異なり、市販のバーコーターでは、種類ごとに番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できるものとなっている。
前記導電性高分子含有液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、固形分として、0.1g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0066】
(乾燥工程)
前記乾燥工程において乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
前記導電性高分子含有液が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合には、前記乾燥工程後に、乾燥した導電性高分子の塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電層の形成速度を速くでき、導電性フィルムの生産性が向上する。
活性エネルギー線照射工程を有する場合、使用される活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm以上が好ましい。照度が100mW/cm未満であると、活性エネルギー線硬化性のバインダ成分が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【0067】
(作用効果)
本態様の導電性高分子含有液は、有機溶剤中で導電性複合体が高分散に分散しているから、導電性高分子含有液から形成される導電層中においても導電性複合体を高分散に含有させることができる。そのため、導電層の導電性を充分に高くできる。さらに、分散性が良好であることから、導電性高分子含有液の保存安定性も向上できる。
また、エポキシ基含有化合物に由来する置換基(A)と、アミン化合物に由来する置換基(B)とを両方有することにより、アミン化合物によるシリコーン化合物の硬化阻害を抑制することができる。そのため、硬化性に優れるとともに、シリコーン化合物によって発現する導電層の離型性を充分に高くできる。
【実施例
【0068】
(製造例1)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で撹拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間撹拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0069】
(製造例2)
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、1.2%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS水分散液)溶液を得た。なお、PEDOT-PSS固形分に対するPSSの含有量は75質量%であった。
【0070】
(製造例3)
メタノール91.7gとイソプロピルアルコール183.3gの混合物に製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液100gを加えて80℃で5分撹拌した。続いて、エポキシ基含有化合物(共栄社化学株式会社製、エポライトM-1230、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)22.5gを添加し、メタノール8.3gとイソプロピルアルコール16.7gの混合液を加えて80℃で8時間撹拌した。その後、常温に戻してトリ-n-オクチルアミン10gを添加して10分間撹拌した。これにより、エポキシ基含有化合物に由来する置換基(A)及びアミン化合物に由来する置換基(B)を有する導電性複合体の析出物を得た。その析出物をろ取し、イソプロピルアルコール100gを添加して30分間撹拌後、再度ろ取することで洗浄した。この操作を1回繰り返した。続いて、へプタン100gをかけ流して洗浄し、1.6gの導電性複合体を得た。
【0071】
(製造例4)
メタノール91.7gとイソプロピルアルコール183.3gの混合物に製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液100gを加えて80℃で5分撹拌した。続いて、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン2.5gとエポキシ基含有化合物(共栄社化学株式会社製、エポライトM-1230、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)22.5gを添加し、メタノール8.3gとイソプロピルアルコール16.7gの混合液を加えて80℃で8時間撹拌した。その後、常温に戻してトリ-n-オクチルアミン10gを添加して10分間撹拌した。これにより、エポキシ基含有化合物に由来する置換基(A)及びアミン化合物に由来する置換基(B)を有する導電性複合体の析出物を得た。その析出物をろ取し、イソプロピルアルコール100gを添加して30分間撹拌後、再度ろ取することで洗浄した。この操作を1回繰り返した。続いて、へプタン100gをかけ流して洗浄し、1.8gの導電性複合体を得た。
【0072】
(製造例5)
付加硬化型シリコーン(信越化学工業株式会社製、KS-3703T、固形分濃度30質量%、トルエン溶液)1.5gとトルエン34.5g、メチルエチルケトン7.75g、へプタン42.75g、白金触媒(信越化学工業株式会社製、CAT-PL-50T)0.03gを混合して、シリコーン溶液(固形分濃度0.53%)を得た。
【0073】
(製造例6)
付加硬化型シリコーン(信越化学工業株式会社製、KS-3703T、固形分濃度30質量%、トルエン溶液)1.5gとトルエン34.5g、メチルエチルケトン7.65g、へプタン41.85g、白金触媒(信越化学工業株式会社製、CAT-PL-50T)0.03gを混合して、シリコーン溶液(固形分濃度0.53%)を得た。
【0074】
(製造例7)
付加硬化型シリコーン(信越化学工業株式会社製、KS-3703T、固形分濃度30質量%、トルエン溶液)1.5gとトルエン33.21g、メチルエチルケトン7.71g、へプタン43.28g、白金触媒(信越化学工業株式会社製、CAT-PL-50T)0.03gを混合して、シリコーン溶液(固形分濃度0.53%)を得た。
【0075】
(製造例8)
付加硬化型シリコーン(信越化学工業株式会社製、KS-3703T、固形分濃度30質量%、トルエン溶液)1.5gとトルエン34.5g、メチルエチルケトン4.5g、へプタン45g、白金触媒(信越化学工業株式会社製、CAT-PL-50T)0.03gを混合して、シリコーン溶液(固形分濃度0.53%)を得た。
【0076】
(実施例1)
製造例3で得た導電性複合体0.6gにメチルエチルケトン30gとへプタン70gを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行ない導電性高分子含有液を得た。
得られた導電性高分子含有液を、No.8のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、150℃、2分間乾燥させ、非離型性導電層を形成して、導電性フィルムを得た。
また、得られた導電性高分子含有液0.9gに製造例6で得たシリコーン溶液17.1gを混合して、シリコーン含有導電性高分子含有液を得た。
得られた導電性高分子含有液を、No.8のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、150℃、2分間乾燥させ、離型性導電層を形成して、導電性離型フィルムを得た。
【0077】
(実施例2)
製造例4で得た導電性複合体0.6gにメチルエチルケトン30gとへプタン70gを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行ない導電性高分子含有液を得た。
得られた導電性高分子含有液を、No.8のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、150℃、2分間乾燥させ、非離型性導電層を形成して、導電性フィルムを得た。
また、得られた導電性高分子含有液0.9gに製造例6で得たシリコーン溶液17.1gを混合して、シリコーン含有導電性高分子含有液を得た。
得られた導電性高分子含有液を、No.8のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、150℃、2分間乾燥させ、離型性導電層を形成して、導電性離型フィルムを得た。
【0078】
(実施例3)
製造例4で得た導電性複合体1.8gにメチルエチルケトン90g、トルエン90gとへプタン120gを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行ない導電性高分子含有液を得た。
得られた導電性高分子含有液を、No.8のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、150℃、2分間乾燥させ、非離型性導電層を形成して、導電性フィルムを得た。
また、得られた導電性高分子含有液0.86gに製造例7で得たシリコーン溶液17.14gを混合して、シリコーン含有導電性高分子含有液を得た。
得られた導電性高分子含有液を、No.8のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、150℃、2分間乾燥させ、離型性導電層を形成して、導電性離型フィルムを得た。
【0079】
(比較例1)
トリ-n-オクチルアミンを添加しない以外は製造例3と同様にして得られた導電性複合体1.6gにメチルエチルケトン185gとへプタン185gを添加し、高圧ホモジナイザーで分散処理を行なって導電性高分子含有液を得た。
得られた導電性高分子含有液を用いて、実施例1と同様にして、非離型性導電層を形成した導電性フィルムを得た。
得られた導電性高分子含有液を製造例5で得たシリコーン溶液に添加したが、導電性高分子が分散せずに凝集した。凝集物を含む導電性高分子含有液を用いて、実施例1と同様にして、離型性導電層を形成した導電性離型フィルムを得た。
【0080】
(比較例2)
1.25gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと62.5gのポリスチレンスルホン酸水溶液(固形分濃度10%)から123.8mlの水を加えて30℃で10分間撹拌した。続いて、予め12.4mlの水に溶解させた0.075gの硫酸第二鉄と22.4mlの水に溶解させた2.75gの過硫酸アンモニウムを加え、30℃で6時間撹拌することでPEDOT-PSS含有反応液を得た。
得られたPEDOT-PSS含有反応液に75mlの水を加えて30℃で1時間撹拌した後、150gのイソプロピルアルコールに溶解させた10gのトリ-n-オクチルアミンを添加し、室温で16時間撹拌することでアミン化合物に由来する置換基(B)を有する導電性複合体の析出物を得た。
その析出物をろ取し、アセトン250gを添加して3時間撹拌後、再度ろ取することで洗浄した。この操作を2回繰り返すことで導電性複合体4.4gを得た。得られた導電性複合体0.74gにメチルエチルケトン140gを添加し、高圧ホモジナイザーで分散処理を行なって導電性高分子含有液130gを得た。
得られた導電性高分子含有液を使用して、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
得られた導電性高分子含有液を製造例8で得たシリコーン溶液に添加したが、導電性高分子が分散せずに凝集した。凝集物を含む導電性高分子含有液を用いて、実施例1と同様にして、離型性導電層を形成した導電性離型フィルムを得た。
【0081】
(比較例3)
トリ-n-オクチルアミンを添加しない以外は製造例4と同様にして得られた導電性複合体1.6gにメチルエチルケトン185gとへプタン185gを添加し、高圧ホモジナイザーで分散処理を行なって導電性高分子含有液を得た。得られた導電性高分子含有液を製造例6で得たシリコーン溶液に添加したが、導電性高分子が分散せずに凝集した。
【0082】
(比較例4)
1.25gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと62.5gのポリスチレンスルホン酸水溶液(固形分濃度10%)から123.8mlの水を加えて30℃で10分間撹拌した。続いて、予め12.4mlの水に溶解させた0.075gの硫酸第二鉄と22.4mlの水に溶解させた2.75gの過硫酸アンモニウムを加え、30℃で6時間撹拌することでPEDOT-PSS含有反応液を得た。
得られたPEDOT-PSS含有反応液に75mlの水を加えて30℃で1時間撹拌した後、150gのイソプロピルアルコールに溶解させた10gのトリ-n-オクチルアミンを添加し、室温で16時間撹拌することでアミン化合物に由来する置換基(B)を有する導電性複合体の析出物を得た。
その析出物をろ取し、アセトン250gを添加して3時間撹拌後、再度ろ取することで洗浄した。この操作を2回繰り返すことで導電性複合体4.4gを得た。得られた導電性複合体0.74gにメチルエチルケトン70gとへプタン70gを添加し、高圧ホモジナイザーで分散処理を行なって導電性高分子含有液130gを得た。
得られた導電性高分子含有液を製造例5で得たシリコーン溶液に添加したが、導電性高分子が分散せずに凝集した。
【0083】
<評価>
[表面抵抗値の測定]
各例の導電性フィルム及び導電性離型フィルムについて、導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリティック製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。測定結果を表1に示す。表1中、「NT」は未試験を意味する。
【0084】
[分散性]
各例の導電性高分子含有液にシリコーン溶液を加えた後のシリコーン含有導電性高分子含有液の状態を目視で観察し、以下の評価基準で評価した。評価結果を表1に示す。
〇:沈殿が確認されなかった。
×:沈殿が確認された。
【0085】
[剥離力の測定]
各例の導電性離型フィルムの導電層における下記の方法により剥離力を測定して離型性を評価した。
各例の導電性離型フィルムの導電層の表面に幅25mmポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製、No.31B)を載せ、その粘着テープの上に1976Paの荷重を載せて25℃で20時間加圧処理した。次に、JIS Z0237に従い、引張試験機を用いて、上記導電層に貼った上記粘着テープを180°の角度で剥離(剥離速度0.3m/分)して、剥離力(単位:N)を測定した。測定結果を表1に示す。剥離力が小さいほど、導電層の離型性が高いことを意味する。
【0086】
【表1】
【0087】
各実施例の導電性高分子含有液は、高い導電性を有する導電性フィルムを形成できた。また、各実施例の導電性高分子含有液は、シリコーン溶液に対して優れた分散性を示した。さらに、各実施例のシリコーン含有導電性高分子含有液は、導電性に優れる導電性離型フィルムを形成できた。
比較例1の導電性高分子含有液は、シリコーン溶液に対する分散性において劣っていた。また、比較例1の導電性離型フィルムは、導電性において劣っていた。
比較例2の導電性高分子含有液は、シリコーン溶液に対する分散性において劣っていた。また、比較例2の導電性離型フィルムは、導電性において劣っていた。
比較例3及び4の導電性高分子含有液は、シリコーン溶液に対する分散性において劣っていた。