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特許7083846LED光を用いて植物を栽培する方法およびそれを利用したLED光システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】LED光を用いて植物を栽培する方法およびそれを利用したLED光システム
(51)【国際特許分類】
   H05B 47/105 20200101AFI20220606BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220606BHJP
   A01G 9/20 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
H05B47/105
A01G7/00 601C
A01G9/20 B
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019559306
(86)(22)【出願日】2018-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 CA2018050522
(87)【国際公開番号】W WO2018201250
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】62/500,096
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/586,315
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519339998
【氏名又は名称】10644137 カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】パレバニネジャド,マジド
(72)【発明者】
【氏名】シェルヴィッツ,サム
(72)【発明者】
【氏名】パレバニネジャド,ハミド
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/113330(WO,A1)
【文献】特表2010-521964(JP,A)
【文献】特開2011-120557(JP,A)
【文献】特表2016-507223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 47/00
A01G 7/00
A01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の成長を促進するための照明システムであって、
スペクトルおよび調整可能な照明パラメータのセットを有する、前記植物によって吸収可能な第1の光を発光するための照明源と、
前記植物から発光されたクロロフィル蛍光を備える前記植物からの第2の光を検出するための少なくとも1つの光検出器と、
前記照明源および前記少なくとも1つの光検出器に結合された制御構造と
を備え、前記制御構造は、
前記少なくとも1つの光検出器から、前記検出された第2の光を示す信号を受信し、
前記受信信号に基づいて前記植物の成長状態を決定し、
前記決定された成長状態に基づいて、前記調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定し、
前記植物の前記成長を促進するために、前記決定された値のセットを用いて前記調整可能な照明パラメータのセットを調整するように前記照明源を制御する
ために構成され
前記成長状態は、前記第1の光の下での前記植物の光合成効率であり、
前記決定された成長状態に基づいて前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定することは、
模擬アニーリング法または遺伝的アルゴリズムを用いて、前記光合成効率を最大化するために前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定すること
を備える、照明システム。
【請求項2】
前記調整可能な照明パラメータのセットは、前記第1の光の前記スペクトル、および前記スペクトルにわたる前記第1の光の強度分布の少なくとも1つを備える、請求項1に記載の照明システム。
【請求項3】
前記スペクトルは、紫外(UV)波長から可視波長範囲を経て赤外(IR)波長までにわたるスペクトルである、請求項2に記載の照明システム。
【請求項4】
前記スペクトルは、赤色光波長範囲、緑色光波長範囲、および青色光波長範囲の組み合わせを備える、請求項2に記載の照明システム。
【請求項5】
前記調整可能な照明パラメータのセットは、前記照明源と前記植物との間の距離および角度の少なくとも1つを更に備える、請求項2~4のいずれか1項に記載の照明システム。
【請求項6】
前記照明源に携わる少なくとも1つのモータを更に備え、
前記決定された成長状態に基づいて前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定することは、前記照明源と前記植物との間の距離値および角度値の少なくとも1つを決定することを備え、
前記決定された値のセットを用いて前記調整可能な照明パラメータのセットを調整するように前記照明源を制御することは、前記距離値および前記角度値の前記少なくとも1つを用いて前記距離および前記角度の前記少なくとも1つを調整するように前記少なくとも1つのモータを制御することを備える、請求項5に記載の照明システム。
【請求項7】
前記受信信号に基づいて前記植物の前記成長状態を決定することは、前記受信信号に基づいてクロロフィル蛍光測定値を決定することを備え、
模擬アニーリング法または遺伝的アルゴリズムを用いて、前記光合成効率を最大化するために前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定することは、
(1)前記植物の前記光合成効率を決定する、前記照明パラメータのセットに関する値のセットに各々が対応する複数の照明状態を定義することと、
(2)(i)前状態変数Sを初期照明状態Sに、(ii)対応する前状態光合成効率Eをゼロに、(iii)グローバル時間変化パラメータTを初期値に、および(iv)現在状態変数Sを、蛍光が確立される期間継続している前記複数の照明状態のランダム状態Sに設定することと、
(3)前記決定されたクロロフィル蛍光測定値を用いて、前記現在状態Sにおける前記植物の現在状態光合成効率Eを計算することと、
(4)前記現在状態光合成効率Eを前記前状態光合成効率Eと比較することと、
前記現在状態光合成効率Eが前記前状態光合成効率E以下である場合、(5)前記前状態Sを前記現在照明状態Sとして設定し、前記現在状態SをSからランダム変化ΔSだけ近隣の状態へ更新し、ステップ(3)へループすることと、
前記現在状態光合成効率Eが前記前状態光合成効率Eを上回る場合、(6)適合確率関数exp(-(E-E)/T)を計算し、前記適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Eminよりも小さいかを確認することと、
前記適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Emin以上である場合、(7)前記パラメータTを低減し、ステップ(5)へループすることと、
前記適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Eminよりも小さい場合、(8)前記状態Sに対応する前記照明パラメータのセットとして、前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定することと
を備える、請求項に記載の照明システム。
【請求項8】
前記照明源は、前記第1の光を発光するための複数のLEDセットを備える、請求項1~のいずれか1項に記載の照明システム。
【請求項9】
前記複数のLEDセットは、1または複数の量子ドットLEDを備える、請求項に記載の照明システム。
【請求項10】
前記植物の前記成長を促進するために、前記決定された値のセットを用いて前記調整可能な照明パラメータのセットを調整するように前記照明源を制御することは、
前記植物に対する各LEDセットの距離および角度の少なくとも1つを調整すること
を備える、請求項8または9に記載の照明システム。
【請求項11】
各LEDセットは、
各々が、前記第1の光の前記スペクトルのサブセットを有する前記第1の光の一部である色光を発光するために構成された、1または複数のLEDサブセットと、
各々が1つのLEDサブセットを制御する1または複数の切換え部品と
を備える、請求項8~10のいずれか1項に記載の照明システム。
【請求項12】
前記1または複数の切換え部品の各々は、前記第1の光の前記一部としてパルス光を発光するために前記対応するLEDサブセットを制御するために構成される、請求項11のいずれか1項に記載の照明システム。
【請求項13】
前記第1の光はパルス幅変調光である、請求項12に記載の照明システム。
【請求項14】
前記決定された成長状態に基づいて前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定することは、前記決定された成長状態に基づいて前記1または複数の切換え部品の各々の設定を決定することを備え、
前記植物の前記成長を促進するために、前記決定された値のセットを用いて前記調整可能な照明パラメータのセットを調整するように前記照明源を制御することは、前記第1の光の前記スペクトルおよび前記スペクトルにわたる前記第1の光の強度の少なくとも1つを調整するために、前記決定された設定に基づいて前記切換え部品を制御することを備える、請求項12または13に記載の照明システム。
【請求項15】
少なくとも1つの照明および感知デバイスを更に備え、各照明および感知デバイスは、
ハウジングと、
前記ハウジング内に受容された前記少なくとも1つの光検出器の1つと、
前記ハウジングと前記少なくとも1つの光検出器の前記1つとの間の環状部に配置された前記LEDのグループと
を備える、請求項8~14のいずれか1項に記載の照明システム。
【請求項16】
前記少なくとも1つの光検出器は、レンズ、光フィルタ、および光感知部品を少なくとも備える、請求項1~15のいずれか1項に記載の照明システム。
【請求項17】
植物の成長を促進するための方法であって、
前記植物によって吸収可能なスペクトルおよび調整可能な照明パラメータのセットを有する第1の光を照明源から前記植物に向かって発光することと、
前記植物から発光されたクロロフィル蛍光である前記植物からの第2の光を検出することと、
前記検出された第2の光に基づいて、前記植物の成長状態を決定することと、
前記決定された成長状態に基づいて、前記調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定することと、
前記植物の前記成長を促進するために、前記決定された値のセットを用いて前記調整可能な照明パラメータのセットを調整するように前記照明源を制御することと
を備え
前記成長状態は、前記第1の光の下での前記植物の光合成効率であり、
前記決定された成長状態に基づいて、前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定することは、
模擬アニーリング法または遺伝的アルゴリズムを用いて、前記光合成効率を最大化するために前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定すること
を備える、方法。
【請求項18】
前記調整可能な照明パラメータのセットは、前記第1の光の前記スペクトル、および前記スペクトルにわたる前記第1の光の強度分布の少なくとも1つを備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記スペクトルは、紫外(UV)波長から可視波長範囲を経て赤外(IR)波長までにわたるスペクトルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記スペクトルは、赤色光波長範囲、緑色光波長範囲、および青色光波長範囲の組み合わせを備える、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記調整可能な照明パラメータのセットは、前記照明源と前記植物との間の距離および角度の少なくとも1つを更に備える、請求項18~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記決定された成長状態に基づいて前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定することは、前記照明源と前記植物との間の距離値および角度値の少なくとも1つを決定することを備え、
前記決定された値のセットを用いて前記調整可能な照明パラメータのセットを調整するように前記照明源を制御することは、前記距離値および前記角度値の前記少なくとも1つを用いて前記距離および前記角度の前記少なくとも1つを調整することを備える、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記受信信号に基づいて前記植物の前記成長状態を決定することは、前記受信信号に基づいてクロロフィル蛍光測定値を決定することを備え、
模擬アニーリング法または遺伝的アルゴリズムを用いて、前記光合成効率を最大化するために前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定することは、
(1)前記植物の前記光合成効率を決定する、前記照明パラメータのセットに関する値のセットに各々が対応する複数の照明状態を定義することと、
(2)(i)前状態変数Sを初期照明状態Sに、(ii)対応する前状態光合成効率Eをゼロに、(iii)グローバル時間変化パラメータTを初期値に、および(iv)現在状態変数Sを、蛍光が確立される期間継続している前記複数の照明状態のランダム状態Sに設定することと、
(3)前記決定されたクロロフィル蛍光測定値を用いて、前記現在状態Sにおける前記植物の現在状態光合成効率Eを計算することと、
(4)前記現在状態光合成効率Eを前記前状態光合成効率Eと比較することと、
前記現在状態光合成効率Eが前記前状態光合成効率E以下である場合、(5)前記前状態Sを前記現在照明状態Sとして設定し、前記現在状態SをSからランダム変化ΔSだけ近隣の状態へ更新し、ステップ(3)へループすることと、
前記現在状態光合成効率Eが前記前状態光合成効率Eを上回る場合、(6)適合確率関数exp(-(E-E)/T)を計算し、前記適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Eminよりも小さいかを確認することと、
前記適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Emin以上である場合、(7)前記パラメータTを低減し、ステップ(5)へループすることと、
前記適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Eminよりも小さい場合、(8)前記状態Sに対応する前記照明パラメータのセットとして、前記調整可能な照明パラメータのセットに関する前記値のセットを決定することと
を備える、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記照明源は、前記第1の光を発光するための複数のLEDセットを備え、各LEDセットは、各々が、前記第1の光の前記スペクトルのサブセットを有する前記第1の光の一部である色光を発光するために構成された、1または複数のLEDサブセットを備え、
前記植物の前記成長を促進するために、前記決定された値のセットを用いて前記調整可能な照明パラメータのセットを調整するように前記照明源を制御することは、
前記第1の光の前記スペクトルおよび前記スペクトルにわたる前記第1の光の強度の少なくとも1つを調整するために、各LEDサブセットの設定を制御することを備える、請求項17~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記植物の前記成長を促進するために、前記決定された値のセットを用いて前記調整可能な照明パラメータのセットを調整するように前記照明源を制御することは、
前記植物に対する各LEDセットの距離および角度の少なくとも1つを調整すること
を備える、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、各々の内容が参照によってその全体が本願に組み込まれる、2017年5月2日に出願された米国仮特許出願第62/500,096号、および2017年11月15日に出願された米国仮特許出願第62/586,315号の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、発光ダイオード(LED)光を用いて植物を栽培するための方法およびシステムに関し、具体的には、植物の成長を促進および増進するためにLED光を制御するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
発光ダイオード(LED)は、主に低電力光表示器として、多くの産業において知られ、幅広く用いられている。近年、増加した電力出力および増加した光度を有するLEDが開発され、照明用に用いられている。たとえば、改善されたエネルギ効率、安全性、および信頼性により、LED光は、白熱灯、コンパクト蛍光ランプ(CFL)など、市場における他の種類の光に取って代わっている。日々の照明は、電力系統への負荷に大幅に寄与し、発電に関する全体要件を大幅に増加させるので、LEDのエネルギ効率は、未来のエネルギ節減において重要な役割を果たす。LEDは、優れたエネルギ効率により、照明市場の優位を占めると思われる。
【0004】
増加した電力出力および/または増加した光度を有するLEDは、植物を栽培するための光源などとしても用いられている。場合によってはLED栽培光と呼ばれるそのようなLEDは、たとえば光の精密な波長、高い強度、高効率などの様々な利点を提供する。LED栽培光は、リスクおよび他の不所望の屋外不確定要素が大幅に少ない制御された環境で植物を栽培するプロセスが行われ得るような屋内植物栽培にも有利である。
【0005】
植物の成長は、「光合成」プロセスの結果として起こる。当該技術において既知であるように、光合成プロセスは、光からのエネルギを用いて二酸化炭素(CO)を有機物に変換する。具体的には、光エネルギは、葉緑体と呼ばれる光合成細胞膜に存在する、クロロフィル色素を含有する特殊なタンパク質を通して吸収される。光合成細胞は主に、植物の葉にある。
【0006】
ただし、クロロフィルは、光スペクトルの特定の部分または色からのエネルギのみを吸収する。効果的なスペクトルは、青色および赤色スペクトルにわたる。光スペクトルの緑色部分は反射され、これが、植物の葉が多くの場合緑色である理由である。葉の中の光合成細胞が死滅し、クロロフィルが劣化すると、葉の中の他の色素分子が光反射を支配し、それらは、葉が茶色のみを呈する時点まで劣化する。
【0007】
したがって、葉緑体における様々な色素が、光合成に寄与する特定の波長の光を吸収し、光合成効率または速度は、照明のスペクトルとの強い相関性を有する(参照文献1および2を参照)ことが知られている。
【0008】
たとえば、青色および赤色照明の下で栽培された稲は、赤色照明のみの下で栽培されたものよりも高い光合成効率を有する(参照文献3を参照)。赤色LED光の下で栽培されたエンドウ豆の葉は、青色または白色LED光の下で栽培されたものよりも高いレベルのβカロテンを含有する(参照文献4を参照)。
【0009】
ストレス効果を低減する高い光強度に対する光合成有機体の反応により、光強度は、光合成における他の有力な要因である(参照文献2および5を参照)。赤色LED光の下で、コムギ幼植物は、500μmol m-2-1ではなく、100μmol m-2-1でクロロフィルを蓄積する(参照文献6を参照)。
【0010】
植物は通常、成長の初期において青色光スペクトルを吸収し、その後、成熟するに従い開花段階において赤色光を多く吸収するようになることが観察される。たとえば光源と植物との間の距離といった照明の幾何学もまた、植物によって吸収される光エネルギおよびそれに関連する光合成効率に影響を及ぼす。通常、利用可能なエネルギは、光と植物との間の距離の二乗に比例した比率で低下する。加えて、植物は、照明持続期間および時間を感知することができ、それに従って成長速度を変化させる。
【0011】
一定の照明を用いた植物栽培は、エネルギ効率が良くなく、光合成のために最適でもない。従来技術のLED栽培光は多くの場合、上述した要件を考慮せずに植物のための光を供給するので、植物を成長させる生理的プロセスを最適化するために適当な時間に適当な強度で適当な色スペクトルを供給することができない。また、様々な植物が、最適な成長パフォーマンスを実現するための様々な光特性(たとえば強度、スペクトル、時間など)を必要とする。しかし、従来技術のLED栽培光は、植物の要望に適応することができず、適当な光特性を供給することができない。
【0012】
図1は、典型的な従来技術のLED栽培光システム10のブロック図である。図示するように、LED栽培光システム10は、植物の成長を促進するために植物16に向かって光14を発光する複数のLED光源12を備える。LED光源12は、通常、たとえば部屋の天井に取り付けられるなど、固定の位置に配置される。
【0013】
図2は、従来技術のLED栽培光システム10の構成要素を示すブロック図である。図示するように、LED栽培光システム10は、たとえばACグリッドなどのAC電源24からのAC電力をDC電力に変換し、DC電力を用いてLEDアレイ12を駆動するための交流(AC)直流(DC)変換器(AC/DC変換器)22を備える。
【0014】
従来技術のLED栽培光システムに関する様々な問題点および難点が存在する。たとえば、植物は、それらの成長プロセスを通して特定の期間、特定の種類の光スペクトルを必要とする。しかし、従来技術のLED栽培光システムは、植物の成長に最も適した光構成を提供するものではない。
【0015】
他の例として、従来技術のLED栽培光システムの電力アーキテクチャは、通常、効果的な熱性能および安全な動作を実現するために大きなヒートシンクを必要とするので、高効率の動作のために最適ではない。
【0016】
また他の例として、従来技術のLED栽培光システムにおいて用いられるLEDアレイは、多くの場合、最適な植物成長パフォーマンスのために必要とされる十分な光強度の光スペクトルを供給することができない。したがってLED栽培光システムは多くの場合、エネルギ効率が低く、多くのエネルギが熱の形で浪費される。
【0017】
また他の例として、従来技術のLED栽培光システムにおいて、LED光源は多くの場合、固定の位置に取り付けられる。したがって、従来技術のLED栽培光システムは多くの場合、植物の成長の様々な段階においてLED光源と植物との間の距離を最適化する能力を有するものではない。
【0018】
上述した問題点により、従来技術のLED栽培光システムは、植物の成長を促進するための最適な解決策を提供することができない。植物の成長は比較的長いプロセスであるため、最適化されていない栽培光システムは、システムの動作費用および全体非効率性を著しく増加させる。
【0019】
光合成を最適化するためのシステムも知られている。しかしこれらのシステムは、光合成最適化における全ての照明パラメータを考慮に入れるものではない(参照文献2、5、10~12を参照)。光合成最適化システムのいくつかは、照明の波長のみに着目し(参照文献11を参照)、他は、照明の振幅のみに着目する(参照文献12を参照)。照明の複数の態様を考慮するいくつかの従来技術も存在する(参照文献2、5、および10を参照)。
【0020】
光合成効率は、全ての照明パラメータに強く依存する。また、照明パラメータの光合成効率への影響は、相関性がある(すなわち、それらは互いに独立したものではない)。しかし、従来技術の光合成最適化システムのいずれも、照明の全ての態様を考慮に入れるものではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
1つの態様によると、植物の成長を促進および最適化するための発光ダイオード(LED)および/または量子ドットLED(QLED)光源を用いる光システムが開示される。光システムは、少なくとも(i)植物によって吸収可能な様々な種類および範囲の強度の光スペクトルを発光するための1または複数のLEDを有する1つのLEDアレイと、(ii)植物から反射した光を検出するための光検出器と、(iii)少なくとも1つのLEDアレイに電気的に結合されたLED光ドライバとを備える。光検出器は、(i)電源からの電力を受け取り、受け取った電力を用いて少なくとも1つのLEDアレイを駆動し、(ii)反射光を示す光検出器からの信号を受信し、(iii)受信信号に基づいて、少なくとも1つのLEDアレイから発光される光の強度およびスペクトルの少なくとも1つを調整するように少なくとも1つのLEDアレイを制御する。
【0022】
いくつかの実施形態において、光システムは、少なくとも1つのLEDアレイの各々と植物との間の距離および/または角度を調整するための少なくとも1つのモータを更に備える。LED光ドライバは、受信信号に基づいて、少なくとも1つのLEDアレイの各々と植物との間の距離および/または角度を調整するための少なくとも1つのモータに電気的に結合される。
【0023】
他の態様によると、光合成を最適化するために人工知能を用いる装置、方法、およびシステムが開示される。
【0024】
他の態様によると、エネルギ効率も光合成効率も良い植物栽培を可能にし得るカスタマイズされた「照明レシピ」をどのように取得するかを学習することができるインテリジェントシステムが開示される。そのようなカスタマイズされた「照明レシピ」は、特定の植物の種類の栽培に関して照明の波長、レベル、幾何学、および持続期間をカスタマイズすることを含んでよい。
【0025】
クロロフィル蛍光測定は、光合成効率を確実に推定するために確立された技術である(参照文献7および9を参照)。周知のように、クロロフィルによって吸収される光エネルギは、植物によって光合成のために用いられるが、一方、その一部は、熱および励起波長のそれとは異なる波長の再発光蛍光に転換される。エネルギ保存は、これらのプロセスの産出量と結び付く。したがって、光合成効率を間接的に推定するため、および光合成効率を最適化するためのフィードバック信号を生成するために、クロロフィル蛍光が測定され得る。
【0026】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される装置、システム、および方法は、様々な植物の栽培における効率的な光合成のための照明プロファイルを最適化するために人工知能を利用する。クロロフィル蛍光測定は、最適化される標的である光合成効率を推定するために用いられる。
【0027】
周知のように、光合成効率または速度は、照明条件に強く依存する。一般に、スペクトル、レベル、幾何学、および持続期間を含む、照明に関与する4つのパラメータまたは変数が存在する。光合成システム構成要素は植物ごとに異なるので、植物の光合成効率の良い栽培のための照明条件は、それに適応すべきである。
【0028】
したがって、いくつかの実施形態において、本明細書に開示される装置、システム、および方法は、最も高効率の光合成速度をもたらし得る「照明レシピ」を決定するための学習プロセスを備える。
【0029】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される装置、システム、および方法は、光合成効率の最適化のために光合成測定に基づいて照明条件を変化させるための最適化アルゴリズムを備える。いくつかの実施形態において、クロロフィル蛍光測定は、光合成効率を確実に推定し、最適化アルゴリズムへの入力を生成するために用いられ得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、たとえば照明スペクトル、レベル、幾何学、持続期間などのパラメータの関数として光合成効率の最大値を求めるために、たとえば模擬アニーリングまたは遺伝的アルゴリズムなどの高度な最適化法が用いられる。たとえばLEDまたはQLEDなどの高効率光源のアレイは、可動ステージに取り付けられる。光源は、紫外光から赤外光までにわたるスペクトル範囲の光波を発光し、特定の「照明レシピ」を用いて光合成を引き起こすための最適化結果に従って制御される。
【0031】
本開示の1つの態様によると、植物の成長を促進するための照明システムが提供される。このシステムは、スペクトルおよび調整可能な照明パラメータのセットを有する、植物によって吸収可能な第1の光を発光するための照明源と、植物からの第2の光を検出するための少なくとも1つの光検出器と、照明源および少なくとも1つの光検出器に結合された制御構造とを備える。制御構造は、少なくとも1つの光検出器から、検出された第2の光を示す信号を受信し、受信信号に基づいて植物の成長状態を決定し、決定された成長状態に基づいて、調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定し、植物の成長を促進するために、決定された値のセットを用いて調整可能な照明パラメータのセットを調整するように照明源を制御するために構成される。
【0032】
いくつかの実施形態において、調整可能な照明パラメータのセットは、第1の光のスペクトル、およびスペクトルにわたる第1の光の強度分布の少なくとも1つを備える。
【0033】
いくつかの実施形態において、スペクトルは、紫外(UV)波長から可視波長範囲を経て赤外(IR)波長までにわたるスペクトルである。
【0034】
いくつかの実施形態において、スペクトルは、赤色光波長範囲、緑色光波長範囲、および青色光波長範囲からのスペクトルの組み合わせを備える。
【0035】
いくつかの実施形態において、調整可能な照明パラメータのセットは、照明源と植物との間の距離および角度の少なくとも1つを更に備える。
【0036】
いくつかの実施形態において、照明システムは、照明源に携わる少なくとも1つのモータを更に備え、上記決定された成長状態に基づいて調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定することは、照明源と植物との間の距離値および角度値の少なくとも1つを決定することを備え、上記決定された値のセットを用いて調整可能な照明パラメータのセットを調整するように照明源を制御することは、距離値および角度値の少なくとも1つを用いて距離および角度の少なくとも1つを調整するように少なくとも1つのモータを制御することを備える。
【0037】
いくつかの実施形態において、第2の光は、植物から反射した光である。
【0038】
いくつかの実施形態において、第2の光は、植物から発光されるクロロフィル蛍光であり、成長状態は、第1の光の下での植物の光合成効率である。
【0039】
いくつかの実施形態において、上記決定された成長状態に基づいて調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定することは、模擬アニーリング法または遺伝的アルゴリズムを用いて、光合成効率を最大化するために調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定することを備える。
【0040】
いくつかの実施形態において、上記受信信号に基づいて植物の成長状態を決定することは、受信信号に基づいてクロロフィル蛍光測定値を決定することを備え、上記模擬アニーリング法または遺伝的アルゴリズムを用いて、光合成効率を最大化するために調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定することは、
(1)植物の光合成効率を決定する、照明パラメータのセットに関する値のセットに各々が対応する複数の照明状態を定義することと、
(2)(i)前状態変数Sを初期照明状態Sに、(ii)対応する前状態光合成効率Eをゼロに、(iii)グローバル時間変化パラメータTを初期値に、および(iv)現在状態変数Sを、蛍光が確立される期間継続している複数の照明状態のランダム状態Sに設定することと、
(3)決定されたクロロフィル蛍光測定値を用いて、現在状態Sにおける植物の現在状態光合成効率Eを計算することと、
(4)現在状態光合成効率Eを前状態光合成効率Eと比較することと、
現在状態光合成効率Eが前状態光合成効率E以下である場合、(5)前状態Sを現在照明状態Sとして設定し、現在状態SをSからランダム変化ΔSだけ近隣の状態へ更新し、ステップ(3)へループすることと、
現在状態光合成効率Eが前状態光合成効率Eを上回る場合、(6)適合確率関数exp(-(E-E)/T)を計算し、適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Eminよりも小さいかを確認することと、
適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Emin以上である場合、(7)パラメータTを低減し、ステップ(5)へループすることと、
適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Eminよりも小さい場合、(8)状態Sに対応する照明パラメータのセットとして、調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定することと
を備える。
【0041】
いくつかの実施形態において、照明源は、第1の光を発光するための複数のLEDセットを備える。
【0042】
いくつかの実施形態において、複数のLEDセットは、1または複数の量子ドットLEDを備える。
【0043】
いくつかの実施形態において、上記植物の成長を促進するために決定された値のセットを用いて調整可能な照明パラメータのセットを調整するように照明源を制御することは、植物に対する各LEDセットの距離および角度の少なくとも1つを調整することを備える。
【0044】
いくつかの実施形態において、各LEDセットは、各々が、第1の光のスペクトルのサブセットを有する第1の光の一部である色光を発光するために構成された、1または複数のLEDサブセットと、各々が1つのLEDサブセットのオン/オフを制御する1または複数の切換え部品とを備える。
【0045】
いくつかの実施形態において、各切換え部品は、第1の光の一部としてパルス光を発光するために対応するLEDサブセットを制御するために構成される。
【0046】
いくつかの実施形態において、第1の光はパルス幅変調光である。
【0047】
いくつかの実施形態において、上記決定された成長状態に基づいて調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定することは、決定された成長状態に基づいて各切換え部品のオン/オフ設定を決定することを備え、上記植物の成長を促進するために決定された値のセットを用いて調整可能な照明パラメータのセットを調整するように照明源を制御することは、第1の光のスペクトルおよびスペクトルにわたる第1の光の強度の少なくとも1つを調整するために、決定されたオン/オフ設定に基づいて切換え部品を制御することを備える。
【0048】
いくつかの実施形態において、発光システムは、少なくとも1つの照明および感知デバイスを更に備える。各照明および感知デバイスは、ハウジングと、ハウジング内に受容された少なくとも1つの光検出器の1つと、ハウジングと光学センサとの間の環状部に配置されたLEDのグループとを備える。
【0049】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの光検出器は、レンズ、光フィルタ、および光感知部品を少なくとも備える。
【0050】
本開示の他の態様によると、植物の成長を促進するための方法が提供される。この方法は、植物によって吸収可能なスペクトルおよび調整可能な照明パラメータのセットを有する第1の光を照明源から植物に向かって発光することと、植物からの第2の光を検出することと、検出された第2の光に基づいて、植物の成長状態を決定することと、決定された成長状態に基づいて、調整可能な照明パラメータのセットに関する値のセットを決定することと、植物の成長を促進するために、決定された値のセットを用いて調整可能な照明パラメータのセットを調整するように照明源を制御することとを備える。
【0051】
本開示の実施形態は、以下、異なる図における同一の参照番号が同一の要素を示す次の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】従来技術のLED栽培光システムの概略図である。
図2図1に示す従来技術のLED栽培光システムの構成要素を示すブロック図である。
図3】本開示のいくつかの実施形態に係る、LED栽培光システムの概略図である。
図4】3つの光合成色素の吸収スペクトルを示す。
図5図3に示すLED栽培光システムの細部を示す概略図である。
図6図3に示すLED栽培光システムの制御サブシステムの細部を示す概略図である。
図7】LED栽培光システムのLEDアレイと植物との間の距離および/または角度を調整するための機構を示す、図3に示すLED栽培光システムの概略図である。
図8図3に示すLED栽培光システムの光検出器がどのように植物からの反射光を受け取るかを示す。
図9】典型的な植物の葉の断面図、および図3に示すLED栽培光システムが反射光に基づいてどのように植物状態を識別するかを示す。
図10】本開示のいくつかの実施形態に係る、照明最適化を有するLED栽培光システムの概略図である。
図11図10に示すLED栽培光システムの照明および感知デバイスの略斜視図である。
図12図11に示す照明および感知デバイスの略正面図である。
図13図11に示す光学装置の構造を示す概略図である。
図14図10に示すLED栽培光システムの照明最適化プロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本明細書において、光システムの実施形態が開示される。いくつかの実施形態において、光システムは、発光ダイオード(LED)および/または量子ドットLED(QLED)光源を用いるシステムである。いくつかの実施形態において、光システムは、植物の成長を促進するためにLED/QLED光源から調光スペクトルを発光するLEDおよび/またはQLED栽培光システムである。
【0054】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される光システムは、LEDドライバによって給電および制御される1または複数のLEDおよび/またはQLEDを備える。また光システムは、植物の成長を測定および数量化するためのリアルタイム監視サブシステムも備える。リアルタイム監視サブシステムから得られたリアルタイム植物成長測定および数量化に基づいて、LEDドライバは、植物成長を促進するための光のスペクトルおよび強度を精密に制御する。したがって、本明細書に開示される光システムは、リアルタイム植物成長測定に基づいて光出力を最適化することが可能な閉ループフィードバックシステムである。更に、いくつかの実施形態において、LED光源と植物との間の距離は、リアルタイム監視サブシステムから得られたリアルタイム植物成長測定および数量化に基づいて自動的に調整され得る。
【0055】
このように、いくつかの実施形態において、本明細書に開示される光システムは、LED光を用いて植物の成長を促進するためのほぼ最適な解決策を提供する。
【0056】
ここで図3を参照すると、本開示のいくつかの実施形態におけるLED栽培光システムが示され、全体として参照番号100を用いて識別される。LED栽培光システム100は、電源102、インテリジェントLED栽培光ドライバ104、1または複数の光検出器の形式であるリアルタイム監視サブシステム106、およびそれぞれ植物116に向かって赤色、緑色、および青色の光スペクトル114R、114G、および114Bを発光するための3つのLEDアレイ108R、108G、および108Bを備える。赤色、緑色、および青色光の各々は、植物116に向かって発光される光の一部を形成し、そのスペクトルのサブセットを有する。以下、光スペクトルに関する参照番号は、赤色、緑色、または青色スペクトルを指す添え字「R」、「G」、または「B」とともに用いられ、あるいは、言及された構成要素を集合的に指すために任意の添え字なしで用いられ得る。たとえば、LEDアレイは、参照番号108R、108G、および108Bを用いて個別に参照されてよく、説明を容易にするために参照番号108を用いて集合的に参照されてもよい。
【0057】
これらの実施形態において、電源102は、たとえばACグリッドなどの交流(AC)電源である。LED栽培光ドライバ104は、電源102からのAC電力を受け取り、受け取ったAC電力を、それぞれの電力バス122を介してLEDアレイ108R、108G、および108Bを個別に駆動するためのDC電力に変換する。またLED栽培光ドライバ104は、信号線124のセットを介してLEDアレイ108R、108G、および108Bの光特性を制御する。
【0058】
各LEDアレイ108は1または複数の列を備え、各列は、直列に接続された、1または複数のカラーLED110およびたとえば半導体スイッチなどのスイッチ112を備える。各LEDアレイ108内のLED110は、特定のスペクトルの光を発光する。
【0059】
当該技術において既知であるように、光合成において、様々なスペクトルの光を吸収する、たとえばクロロフィルa、クロロフィルb、およびβカロテンなどの複数の重要な色素が存在する。図4は、3つの光合成色素の吸収スペクトルを示す。示されるように、クロロフィルaおよびクロロフィルbは主に青色および赤色スペクトルを吸収し、βカロテンは主に青色および緑色スペクトルを吸収する。
【0060】
再び図3を参照すると、各LEDアレイ108は、光合成色素の1または複数の光吸収ピークに関するスペクトルを有する色光を発光する。たとえばいくつかの実施形態において、LEDアレイ108RのLED110Rは、約400ナノメートル(nm)~約470nmの範囲内のスペクトルを有する赤色光を発光し、LEDアレイ108GのLED110Gは、約470nm~約520nmを有する緑色光を発光し、LEDアレイ108BのLED110Bは、約620nm~約680nmの範囲内のスペクトルを有する青色光を発光する。いくつかの実施形態において、植物によって必要とされる主な光スペクトルが多くの場合、赤色および青色スペクトルの周辺であるため、緑色光LEDアレイ108Gは、赤色光および青色光LEDアレイ108Rおよび108Bの各々よりも少ない数のLED110Gを備える。
【0061】
LED栽培光ドライバ104は、独立した電力バス122を通して各LEDアレイ108に給電する。各LEDアレイ108において、その各列内のスイッチ112は、光強度を調整するためにオンまたはオフに切り換わるようにLED栽培光ドライバ104によって制御され得る。光検出器106は、植物116から反射した光114Fを監視する。当該技術において既知であるように、反射光114Fのスペクトルは、植物116の成長およびその健康状態に関する情報を提供する。したがって、反射光114Fを監視することによって、光検出器106は、植物116の成長を測定し、それに従ってLEDアレイ108を制御するために、LED栽培光ドライバ104へフィードバック信号を提供することができる。
【0062】
図5は、LED栽培光システム100の機能構造を示す概略図である。図示するように、LED栽培光ドライバ104は、電力回路132、制御構造または制御サブシステム134、および光検出器106を備える。
【0063】
LED栽培光ドライバ104の電力回路132は、LEDアレイ108に電力を供給する。具体的には、電力回路132は、ACグリッド102から電力を受け取り、受け取ったAC電力を、LEDアレイ108のLED110を駆動するために適した1または複数のDC電圧のDC電力に変換する。
【0064】
LED栽培光ドライバ104の制御サブシステム134は、多数のタスクを実行する。特に、制御サブシステム134は、適当な電力変換が実行され、LED110が適切な電圧/電流を供給されるように、電力回路132を制御する。
【0065】
また制御サブシステム134は、植物の成長を促進するために、LEDアレイ108の構造に基づいて、光のスペクトルおよび強度を動的に調整する。特に、制御サブシステム134は、光検出器106から反射光スペクトルの情報を示す信号を受信し、受信情報およびLEDアレイ108の構造に基づいて、光スペクトルおよびそれらの強度を動的に調整するためにLEDアレイ108の各列内の半導体スイッチ112のオン/オフを制御する。
【0066】
これらの実施形態において、LED栽培光システム100は、光検出器106からの受信情報およびLEDアレイ108の構造に基づいて各LEDアレイ108と植物116との間の距離および/または角度(以下、「LED植物距離/角度」と記される)を動的に調整するために制御サブシステム134の命令の下でモータドライバ138によって制御される1または複数のモータ136も備える。
【0067】
図6は、制御サブシステム134の細部を示す。図示するように、制御サブシステム134は、植物識別サブシステム142、参照生成器144、電力変換器コントローラ146、およびモータドライブコントローラ148を備える。植物識別サブシステム142は、光検出器106からのフィードバック信号を受信し、そこから、植物116の成長プロセスに関連する様々な情報を取得する。特に、植物識別サブシステム142は、反射光スペクトルの情報を搬送する光検出器106からのフィードバック信号を受信し、植物116の成長に関連する情報を取得するためにフィードバック信号を処理する。このように植物識別サブシステム142は、反射光スペクトルの情報に基づいて植物の成長を数量化し、参照生成器144のための適当な信号を生成する。参照生成器144は、植物識別サブシステム142からの信号を受信し、電力変換器コントローラ146およびモータドライバコントローラ148を制御するために光強度、光波長、最適なLED植物距離/角度などに関する適当な参照信号を生成する。
【0068】
光強度および光波長に関する参照信号は、電力変換器コントローラ146によって受信され、電力変換器コントローラ146はその後、適切な光強度および的確な光スペクトルが植物116に適用されるように、LEDアレイ108の各列内の電力回路132およびスイッチ112を制御する。モータドライバコントローラ148は、計算されたLED植物距離/角度を受信し、それに従ってLEDアレイ108を調整する。このように制御サブシステム134は、発光されたLED光が、植物116の成長プロセスを最適化するために最適な光強度、光スペクトル、およびLED植物距離/角度であることを確実にする。
【0069】
図7は、LEDアレイ108と植物116との間の距離を調整するための機構を示す概略図である。図示するように、各LEDアレイ108は、モータ136に関連付けられる。LED栽培光ドライバ(不図示)は最終的に、それぞれのLEDアレイ108を前方/後方へ動かすため、および/または植物116に対するそれぞれのLEDアレイ108の角度を調整するために、各モータ136を制御する。所望の距離および/または角度は、必要な光強度、および植物識別サブシステム142(図6を参照)によって決定された植物116の状態に基づいて決定される。光強度は一般に、距離の二乗値の逆数に比例する。したがって距離は、植物116の成長に著しい影響を及ぼす。LED栽培光システム100は、植物116の成長を加速させるのみならず、成長プロセス中に必要な電力量を低減することによって運転コストを著しく低減する最適な値に、距離および/または角度を調整することができる。更に、様々な植物に関して様々な光強度が必要とされ得る場合、距離/角度を調整および最適化する能力は、LED栽培光システム100が、様々な種類の植物の成長を促進するための様々な植物栽培用途において用いられることを可能にする。
【0070】
図8は、光検出器106がどのように植物116からの反射光スペクトル114Fを受け取るかを示す。植物成長状態を決定するために、様々な光スペクトルの光スペクトル114R、114G、および114BがLED110R、110G、および110Bから植物116に向かって発光される。反射光114Fの光スペクトルに基づいて、植物識別サブシステム142は、たとえば植物の成長、健康状態などの植物116の状態を分析及び決定する。
【0071】
図9は、典型的な植物の葉の断面図、およびLED栽培光システム100が反射光114Fに基づいてどのように植物状態を決定するかを示す。図示するように、葉肉層152はクロロフィルが豊富であり、クロロフィルは、植物状態の良い指標である。クロロフィルは主に、スペクトルの青色および赤色部分を吸収し、緑色部分を反射する。クロロフィルの量が多い場合、赤色/青色部分のほとんどが吸収され、緑色スペクトルの大部分が反射される。一方、クロロフィルが死滅し、またはその量が減少した場合、葉肉層152は、スペクトルの他の部分も同様に反射する。このように植物状態は、LED栽培光ドライバ104の光検出器106によって検出された反射光から数量化され得る。
【0072】
上記実施形態において、LED栽培光システム100は、3つのLEDアレイ108を備える。いくつかの代替実施形態において、LED栽培光システム100は、1または2つのLEDアレイ108のみを備えてよい。いくつかの代替実施形態において、LED栽培光システム100は、より多い数のLEDアレイ108を備えてよい。
【0073】
図10は、本開示のいくつかの実施形態に係る、照明最適化を有するLED栽培光システム160の概略図である。
【0074】
既知であるように、光合成効果は、照明条件に強く依存する。植物の様々な光合成有機体成分により、同様の照明条件が必ずしもすべての種類の植物に光合成効率の良い栽培をもたらすわけではない。照明条件は、たとえば光スペクトル、強度、幾何学、持続期間などの様々なパラメータを含む。したがってLED栽培光システム160は、たとえば最も効率の良い光合成率をもたらし得る照明パラメータのセットなどの「照明レシピ」を決定するための学習プロセスを利用する。LED栽培光システム160は、光合成効率の最適化のために、光合成測定に基づいて照明条件を変化させるための最適化アルゴリズムを用いる。いくつかの実施形態において、光合成効率を確実に推定し、最適化アルゴリズムへの入力を生成するために、クロロフィル蛍光測定が用いられ得る。
【0075】
図10に示すように、LED栽培光システム160は、人工知能(AI)プロセッサ162、照明ドライバ164、照明源166、蛍光プロセッサ168、および検出デバイスまたはサブシステム170を備える。
【0076】
これらの実施形態におけるAIプロセッサ162は、蛍光プロセッサ168からのクロロフィル蛍光測定値を受信し、クロロフィル蛍光測定値を用いて光合成効率を推定し、光合成効率を最大化するための最適化照明パラメータのセットを決定し、決定された照明パラメータに従って照明光を調整するために照明ドライバ164を介して照明源166を制御するための、たとえば汎用コンピュータまたは専用コンピューティングデバイスなどのコンピューティングデバイスである。
【0077】
これらの実施形態における照明源166は、1または複数のLEDおよび/またはQLEDを備え、1または複数の植物116の成長を促進するためにそれらへ光172を発光するように照明ドライバ164によって駆動および制御される。照明源166の照明パラメータのセットは、調整可能である。たとえば、照明源166から発光される光は、紫外(UV)光から可視光を経て赤外(IR)光までにわたる調整可能なスペクトルを有する。そのスペクトルにわたる照明源166から発光される光の強度分布もまた、たとえば調整可能なパルス幅を有するパルス幅変調光などのパルス光を用いて調整可能である。
【0078】
これらの実施形態における検出デバイス170は、クロロフィル分子が励起状態から非励起状態へ変化すると植物116のクロロフィル分子から発光される蛍光または光174を検出するための光学センサである。検出された蛍光のデータは、検出デバイス170から蛍光プロセッサ168へ送信される。
【0079】
これらの実施形態における蛍光プロセッサ168は、照明源166の照明パラメータを最適化するためにAIプロセッサ162へ送信されるクロロフィル蛍光測定値を取得するために検出された蛍光のデータを処理するための、たとえば埋込型コンピューティングデバイスなどの専用コンピューティングデバイスであってよい。
【0080】
いくつかの実施形態において、照明ドライバ164、照明源166、および検出デバイス170は、照明および感知デバイスに組み込まれ得る。図11は、照明および感知デバイス200の略斜視図である。図12は、照明および感知デバイス200の略正面図である。
【0081】
図11および図12に示すように、照明および感知デバイス200は、同心上の光学センサ204と、ハウジング202と光学センサ204との間の環状部に配置された複数のLED206とを内部に受容する円筒形ハウジング202を備える。これらの実施形態において、LED206は、(UV LEDと示された)紫外(UV)スペクトルを発光する1または複数のLED、(R、G、および/またはB LEDと示された)赤色、緑色、および/または青色スペクトルを発光する1または複数のLED、およびUVスペクトルから可視スペクトルを経てIRスペクトルまでわたる調整可能なスペクトルを形成するための(IR LEDと示された)IRスペクトルを発光する1または複数のLEDを備える。
【0082】
LED206は、駆動ケーブル208を介して照明ドライバ202に連結され、そこから給電および1または複数の植物116への発光210のために駆動信号を受信する。植物116から発光された蛍光212は、光学センサ204によって検出され、信号出力ケーブル214を介した蛍光プロセッサ168への伝送のために検出信号に変換される。
【0083】
図13に示すように、光学センサ204は、光224を受け取るための1または複数のレンズ222、受け取った光224を濾過するためのフィルタ224、および信号出力ケーブル214を介した伝送のために濾過した光を電気信号に変換するための、たとえば相補型金属酸化膜半導体(CMOS)または電荷結合素子(CCD)光センサ部品などの光検出器または光センサ部品226を備える。
【0084】
再び図10を参照すると、AIプロセッサ162は、植物116の光合成および成長を促進するための調整可能な強度およびスペクトルを有するパルス光172を発光するように照明源166を制御する。様々な波長のLED166をオンおよびオフに設定し、蛍光プロセッサ168の出力に基づいてオンにされたLED166から発光する光のパルス幅を調整すること(後述)によって、AIプロセッサ162は、植物116の光合成効率を最大化するために、発光される光172のたとえば強度およびスペクトルなどの照明パラメータを最適化することができる。
【0085】
上述したように、植物116は光172を吸収し、それを光化学プロセスのために用いる。吸収された光172の一部は、植物116によって熱および蛍光発光に変換される。
【0086】
検出デバイス170は、植物116から発光された蛍光を検出する。蛍光プロセッサ168は、検出デバイス170によって得られた蛍光データを用いて、クロロフィル蛍光測定値を決定し、クロロフィル蛍光測定値をAIプロセッサ162へ送信する。AIプロセッサ162はその後、光合成効率を推定する。光合成効率の推定の詳細は、参照文献7~9において開示され、それらの各々の内容は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。光合成効率の推定後、AIプロセッサ162は、光合成効率を最大化するための調整可能な照明パラメータのセットに関する最適化された値のセットを決定し、最適化された値のセットを用いて、たとえば発光される光172の強度およびスペクトルなど、照明源166の照明パラメータを調整する。
【0087】
いくつかの実施形態において、AIプロセッサ162は、植物116の光合成効率を最大化するために照明パラメータのセットを最適化するための模擬アニーリング法を用いる。このプロセスにおいて、植物116の光合成に関して複数の照明状態Sが定義される。各照明状態Sは、植物116の光合成効率を決定する照明パラメータのセットに対応する。
【0088】
プロセスは、光合成が完全に確立されるように十分な期間継続されているランダム照明状態Sで開始する。その後、蛍光プロセッサ206から得られたクロロフィル蛍光測定値を用いて光合成効率En+1が計算される。プロセスは、最大光合成効率に到達するまで、以前の状態からランダムな変化ΔSだけ変わった新たな照明状態によって反復され、新たな状態に対応する光合成効率が計算され、過去の状態のそれと比較される。
【0089】
そのような最大光合成効率は、極大であり得る。したがってプロセスは、極大に捕らわれることを避けるために、最適化空間を再び調査するように設計される。現在の状態から新たな状態への遷移は、状態の光合成効率の差およびグローバル時間変化パラメータTに依存する適合確率関数exp(-ΔE/T)に従って行われ、exp()は、指数関数およびΔE=E-En-1を表す。
【0090】
プロセスの進行とともに、パラメータTは、大きな初期値から最適化の最終段階におけるゼロまで減少する。具体的には、Tは、プロセスが探索空間における様々な領域を調査することができるように、プロセスの最初の反復において大きな値に設定される。最後の反復において、Tはゼロ(0)になる傾向があり、適合確率関数は1(1)になる傾向があるので、プロセスは、上りの遷移のみを行う「貪欲アルゴリズム」になる。適切なパラメータ選択により、プロセスは、最大値を発見し得る。
【0091】
図14は、模擬アニーリング法に基づく上述した最適化プロセス300の例のステップを示すフローチャートである。図示するように、プロセス300は初期化ステップ302によって開始し、ここでAIプロセッサ162は、前状態変数Sを初期状態Sに設定し、対応する前状態光合成効率Eをゼロに設定する。またAIプロセッサ162は、グローバル時間変化パラメータT(「温度」とも称される)を初期値に設定し、現在状態変数Sを、光合成が完全に確立される十分な期間継続しているランダム照明状態Sに設定する。プロセス300はその後、ランダム状態Sから最適化プロセスを開始する。
【0092】
ステップ304において、AIプロセッサ162は、蛍光プロセッサ168から得られたクロロフィル蛍光測定値を用いて、現在状態Sにおける植物116の現在状態光合成効率Eを計算する。その後、AIプロセッサ162は、現在状態光合成効率Eと前状態光合成効率Eとを比較する(ステップ308)。
【0093】
現在状態光合成効率Eが前状態光合成効率Eを超えない場合(ステップ308の「NO」分岐)、AIプロセッサ162は、前状態Sを現在の照明状態Sとして設定し(ステップ310)、現在状態SをSからランダム変化ΔSだけ近隣の状態へ更新する(ステップ312)。プロセス300はその後、植物116の現在状態光合成効率Eを計算するステップ304へループバックする。
【0094】
ステップ308において、現在状態光合成効率Eが前状態光合成効率Eを上回ることが決定された場合(ステップ308の「YES」分岐)、AIプロセッサ162は、適合確率関数exp(-(E-E)/T)を更に計算し、適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Eminよりも小さいかを確認する(ステップ314)。
【0095】
適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Emin以上である場合(ステップ314の「NO」分岐)、AIプロセッサ162は、温度Tを低減し(ステップ316)、プロセス300は、前状態Sおよび現在状態Sを更新するステップ310へループバックする。
【0096】
ステップ314において、適合確率関数exp(-(E-E)/T)が既定の閾値Eminよりも小さいことが決定された場合(ステップ314の「YES」分岐)、現在状態Sは最適状態Sであるとみなされ、最適状態Sに対応する照明パラメータのセットが、照明源166の設定を調整するために用いられる。
【0097】
当業者が理解するように、いくつかの代替実施形態において、植物116の光合成効率を最大化するように照明パラメータを最適化するために、たとえば遺伝的アルゴリズムなどの他の適当な最適化法が用いられ得る。
【0098】
実施形態は添付図面を参照して上述されたが、当業者が理解するように、添付の特許請求の範囲によって定義されたその範囲から逸脱することなく変形例および修正例が生み出され得る。
参考文献

【表1】
図1
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図8
図9
図10
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図14