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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】溶融めっき鋼基材
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20220606BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220606BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20220606BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20220606BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220606BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220606BHJP
   C23C 2/02 20060101ALI20220606BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20220606BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
C23C28/00 A
C21D9/46 J
C22C18/04
C22C21/02
C22C38/00 301T
C22C38/58
C23C2/02
C23C2/06
C23C2/12
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020532808
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 IB2018058185
(87)【国際公開番号】W WO2019123033
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/058107
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボルディニョン,ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】シュタウテ,ジョナ
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0075046(KR,A)
【文献】特開2001-200351(JP,A)
【文献】特開2010-255106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
C21D 9/46
C22C 18/04
C22C 21/02
C22C 38/00
C22C 38/58
C23C 2/02
C23C 2/06
C23C 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系又はアルミニウム系の被膜で上面が直接覆われたSn層で被覆された、溶融めっき鋼基材であって、鋼基材は、重量パーセントで下記の化学組成を有し、
0.10≦C≦0.4%、
1.2≦Mn≦6.0%、
0.3≦Si≦2.5%、
Al≦2.0%、
純粋に任意に、例えば下記の元素を1種以上有し、
P<0.1%、
Nb≦0.5%、
B≦0.005%、
Cr≦1.0%、
Mo≦0.50%、
Ni≦1.0%、
Ti≦0.5%、
前記組成の残部は、鉄と、加工から生じる不可避の不純物とで構成され、前記鋼基材はさらに、前記鋼基材の表面から最大10μmに達する領域に、0.0001~0.01重量%のSnを含
鋼基材が0.5重量%以上の量のAlを含む、
溶融めっき鋼基材。
【請求項2】
鋼基材のAlの量が1.0%以上である場合、Mnの量が3.0%以上である、請求項1に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項3】
鋼基材が0.005重量%未満のSnを含む、請求項2に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項4】
Snの薄層が0.3~200mg.m-2の被膜重量を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項5】
Snの薄層が0.3~150mg.m-2の被膜重量を有する、請求項4に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項6】
亜鉛系の被膜が、0.01~8.0重量%のAlを含み、任意に0.2~8.0重量%のMgを含み、残部がZnである、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項7】
亜鉛系の被膜が、0.15~0.40重量%のAlを含み、残部がZnである、請求項6に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項8】
アルミニウム系の被膜が、15%未満のSiと、5.0%未満のFeとを含み、任意に0.1~8.0%のMgと、任意に0.1~30.0%のZnとを含み、残部はAlである、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項9】
鋼基材が1.1~3.0重量%のSiを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項10】
鋼基材が0.5~1.1重量%のSiを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項11】
鋼基材が0.6重量%超のAlを含む、請求項10に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項12】
鋼基材の微細構造が、フェライトと残留オーステナイトとを含み、及び任意にマルテンサイト及び/又はベイナイトを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の溶融めっき鋼基材。
【請求項13】
加熱部、均熱化部、冷却部を含み、任意に均一化部を含む、溶融めっき鋼基材を製造する方法であって、以下のステップ:
A.請求項1、2又は9~11のいずれか一項に記載の化学組成を有する鋼基材の供給、
B.Snからなる被膜の堆積、
C.ステップBで得られた、Snからなる被膜でプレめっきされた鋼基材の再結晶化焼鈍であって、以下の下位ステップを含む再結晶化焼鈍、
i.8体積%未満のH と、露点DP1が-45℃以下である少なくとも1種の不活性ガスとを含む雰囲気A1を有する前記加熱部における、前記プレめっきされた鋼基材の加熱、
ii.30体積%未満のH と、露点が-45℃以下である少なくとも1種の不活性ガスとを含む雰囲気A2を有する前記均熱化部における、前記鋼基材の均熱化、
iii.前記冷却部における前記鋼基材の冷却、
iv.任意に実施される、前記均一化部における前記鋼基材の均一化、
D.亜鉛系又はアルミニウム系の被膜での溶融めっき
を含む、方法。
【請求項14】
ステップB)において、Snからなる被膜が、電気めっき、無電解めっき、セメンテーション、ロールコート又は真空蒸着により堆積される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップB)において、Snからなる被膜が0.6~300mg.m-2の膜厚被膜重量を有する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
Snからなる被膜が6~180mg.m-2の被膜重量を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
Snからなる被膜が6~150mg.m-2の被膜重量を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップC.i)において、前記プレめっきされた鋼基材が周囲温度から700~900℃の温度T1まで加熱される、請求項1317のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ステップC.i)において、H の量が7%以下の量である、請求項1318のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ステップC.i)において、H の量が3体積%未満である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ステップC.i)において、H の量が1体積%以下である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ステップC.i)において、加熱におけるH の量が0.1体積%以下である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ステップC.ii)において、前記プレめっきされた鋼基材が700~900℃の温度T2で均熱化される、請求項1322のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
ステップC.i)及びC.ii)において、DP1及びDP2が、互いに独立して-50℃以下である、請求項1323のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ステップC.i)及びC.ii)において、DP1及びDP2が、互いに独立して-60℃以下である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ステップC.i)及びC.ii)において、少なくとも1種の不活性ガスが、窒素、アルゴン及びヘリウムから選択される、請求項1325のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
自動車の部品の製造のための、請求項1~12のいずれか一項に記載の、又は請求項1326のいずれか一項により得られる、溶融めっき鋼基材の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき鋼基材及び当該溶融めっき鋼基材の製造方法に関する。本発明は、特に自動車産業に好適である。
【背景技術】
【0002】
車両の軽量化の観点から、自動車の製造に高強度鋼を使用することが知られている。例えば、構造部品の製造では、このような鋼の機械的特性を向上させる必要がある。合金化元素を添加して鋼の機械的特性を向上させることが知られている。このように、TRIP(変態誘発塑性)鋼、DP(二相)鋼及びHSLA(高強度低合金鋼:High-Strength Low Allowed)を含む、高強度鋼又は超高強度鋼が生産及び使用されており、上記鋼板は高い機械的特性を有する。
【0003】
通常、これらの鋼は、耐食性、リン酸塩処理性等の特性を改善する金属被膜で被覆されている。金属被膜は、鋼板の焼鈍後、溶融めっきにより堆積させることができる。しかしながら、これらの鋼では、連続焼鈍ラインにおいて実施される焼鈍中、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、クロム(Cr)等の、(鉄と比較して)酸素に対する親和性が高い合金化元素が酸化して、表面に酸化物の層が形成される。例えば酸化マンガン(MnO)、酸化ケイ素(SiO)といった酸化物は、鋼板の表面に連続膜の形又は不連続な小塊若しくは小片の形で存在し得る。上記酸化物により、被覆する金属被膜が適切に密着できなくなり、結果として、最終製品に被膜が存在しない領域が生じたり、被膜の剥離に関連する問題が生じる可能性がある。
【0004】
特許出願JP2000212712では、0.02重量%以上のP及び/又は0.2重量%以上のMnを含む亜鉛めっき鋼板の製造方法を開示しており、上記方法は、非酸化性雰囲気下で鋼板を加熱焼鈍し、その後、Alを含む亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきを行うものであり、焼鈍前の鋼板表面に、Ni、Co、Sn及びCu系の金属化合物から選ばれた1種以上を含む被膜を、金属量に換算して1~200mg.m-2の範囲で付着させる。
【0005】
しかしながら、上記特許出願で引用された鋼板は、IF鋼すなわち極低炭素鋼や、BH鋼すなわち焼付硬化鋼を含む、従来型鋼板とも呼ばれる低炭素鋼板である。実際、実施例では、鋼板に被膜が密着するように、鋼板に含まれるC、Si及びAlはごく少量である。加えて、Ni、Co及びCuを含むプレめっきのみが試験されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-212712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、高強度鋼及び超高強度鋼、すなわち、ある一定量の合金化元素を含む鋼基材の濡れ性及び被膜密着性を向上させる方法を見出す必要がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、合金化元素を含む化学組成を有するめっき鋼基材を提供することである。ここで、濡れ性及び被膜密着性が大きく改善される。別の目的は、上記めっき金属基材を製造するための、容易に実施できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、請求項1~13のいずれか一項に記載のめっき金属基材を提供することによって達成される。
【0010】
別の目的は、請求項14~27のいずれか一項に記載の、上記めっき鋼基材を製造する方法を提供することによって達成される。
【0011】
最後に、上記目的は、請求項28に記載のめっき鋼基材の使用を提供することによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の他の特性及び利点は、本発明に関する下記の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0013】
下記の用語は次のように定義される。
-「wt.%」は重量パーセントを意味する。
【0014】
本発明は、亜鉛系又はアルミニウム系の被膜で上面が直接覆われたSn層で被覆された、溶融めっき鋼基材に関するものであり、上記鋼基材は、重量パーセントで下記の化学組成を有し、
0.10≦C≦0.4%、
1.2≦Mn≦6.0%、
0.3≦Si≦2.5%、
Al≦2.0%、
純粋に任意に、例えば下記の元素を1種以上有し、
P<0.1%、
Nb≦0.5%、
B≦0.005%、
Cr≦1.0%、
Mo≦0.50%、
Ni≦1.0%、
Ti≦0.5%、
上記組成の残部は、鉄と、加工から生じる不可避の不純物とで構成され、上記鋼基材はさらに、上記鋼基材の表面から最大10μmに達する領域に、0.0001~0.01重量%のSnを含む。
【0015】
いかなる理論にも束縛されるつもりはないが、上記特定の鋼基材は、特に再結晶化焼鈍中に、大幅に改変された表面を有するようである。特に、Snは、鋼基材の表面張力を低減させるギブズ機構により、鋼基材の表層内の10μm以内の領域に偏析すると考えられる。さらに、薄いSn単分子層が鋼基材上に依然として存在している。したがって、連続層になった選択的酸化物の代わりに、小塊の形で選択的酸化物が鋼基材表面に存在することにより、高い濡れ性と被膜密着性を可能にしているようである。
【0016】
上記鋼の化学組成に関して、炭素量は0.10~0.4重量%である。炭素含有量が0.10%未満の場合、引張強度が例えば900MPa未満と不充分になるおそれがある。さらに、鋼の微細構造に残留オーステナイトが含まれていると、充分な伸びを得るのに必要な安定性を得ることができない。Cが0.4%を超えると、熱影響域又はスポット溶接の溶融域に靭性の低い微細構造が形成されるので、溶接性が低下する。好ましい実施形態では、炭素含有量は、0.15~0.4%の範囲内、より好ましくは0.18~0.4%の範囲内にあり、これにより、1180MPaを超える引張強度を達成することが可能になる。
【0017】
マンガンは、例えば900MPaを超える高い引張強度を得るのに寄与する固溶体硬化元素である。このような効果は、Mn含有量が少なくとも1.2重量%のときに得られる。しかしながら、6.0%を超えてMnを添加すると、過度に目立った分離領域を有する構造の形成に寄与することがあり、溶接部の機械的特性に悪影響を及ぼす可能性がある。上記効果を達成するには、好ましくは、マンガン含有量は2.0~5.1%の範囲内にあり、より好ましくは2.0~3.0%の範囲にある。
【0018】
要求される機械的特性と溶接性の組み合わせを実現するには、ケイ素は、重量パーセントで0.3~2.5%、好ましくは0.5~1.1又は1.1~3.0%、より好ましくは1.1~2.5%、有利には1.1~2.0%含まれる必要がある。ケイ素は、セメンタイトにおける溶解度が低く、オーステナイト中の炭素の活性を増加させるという事実があることから、鋼板の冷間圧延後の焼鈍時にカーバイドの析出を低減する。
【0019】
アルミニウムは、2.0%以下、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.6%以上でなければならない。残留オーステナイトの安定化に関して、アルミニウムは、ケイ素が有する影響と比較的類似した影響を有する。好ましくは、Alの量が1.0%以上である場合、Mnの量は3.0%以上である。
【0020】
鋼は、任意にP、Nb、B、Cr、Mo、Ni、Ti等の元素を含有することにより、析出硬化を達成できる。
【0021】
Pは、製鋼に起因する残留元素とみなされる。Pは、<0.1重量%の量で存在し得る。
【0022】
チタン及びニオブも、析出物の形成により硬化と補強を達成するために任意に使用してよい元素である。しかしながら、Nb又はTiの含有量が0.50%を超えると、過剰な析出により靭性が低下するおそれがあり、このことを回避する必要がある。好ましくは、Tiの量は、0.040~0.50重量%、又は0.030~0.130重量%である。好ましくは、チタン含有量は、0.060~0.40重量%、例えば0.060~0.110重量%である。好ましくは、Nbの量は、0.070~0.50重量%又は0.040~0.220%である。好ましくは、ニオブの含有量は0.090%~0.40%であり、有利には0.090~0.20重量%である。
【0023】
鋼は、任意に、0.005%以下の量のホウ素を含有してもよい。Bは、粒界で分離することにより粒界エネルギーを減少させるので、液体金属脆化に対する耐性を増加させる上で有益である。
【0024】
クロムは、焼鈍サイクル中、最大温度に維持した後の冷却工程時の初析フェライトの形成を遅延させることができ、より高い強度レベルの達成を可能にする。したがって、コスト上の理由及び過度の硬化を防止する目的で、クロムの含有量は1.0%以下である。
【0025】
モリブデンはオーステナイトの分解を遅延させるので、0.5%以下の量のモリブデンは、焼入れ性を高め残留オーステナイトを安定化させる上で有効である。
【0026】
靭性を向上させるために、鋼は、1.0%以下の量のニッケルを任意に含有してもよい。
【0027】
鋼基材は、鋼基材表面から最大10μmに達する領域に、好ましくは0.005重量%未満、有利には0.001重量%未満のSnを含む。
【0028】
Sn層の被膜重量は、好ましくは0.3~200mg.m-2、より好ましくは0.3~150mg.m-2、有利には0.3~100mg.m-2、例えば0.3~50mg.m-2である。
【0029】
好ましくは、鋼基材の微細構造は、フェライトと残留オーステナイトとを含み、及び任意にマルテンサイト及び/又はベイナイトを含む。
【0030】
好ましくは、鋼基材の引張応力は、500MPa超であり、好ましくは500~2000MPaである。有利には、伸びは5%超であり、好ましくは5~50%である。
【0031】
好ましい実施形態では、アルミニウム系被膜は、15%未満のSi、5.0%未満のFeを含み、任意に0.1~8.0%のMg及び任意に0.1~30.0%のZnを含み、残部はAlである。
【0032】
別の好ましい実施形態では、亜鉛系の被膜は、0.01~8.0%のAlを含み、任意に0.2~8.0%のMgを含み、残部はZnである。より好ましくは、亜鉛系の被膜は、0.15~0.40重量%のAlを含み、残部はZnである。
【0033】
また、溶融浴は、不可避の不純物と、インゴットの供給に由来する、又は溶融浴における鋼基材の通過に由来する残留元素とを含み得る。例えば、任意選択的に、上記不純物はSr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから選ばれ、各追加的元素の含有量は0.3重量%よりも小さい。インゴットの供給に由来する、又は溶融浴における鋼基材の通過に由来する上記残留元素は、含有量が最大で5.0重量%、好ましくは3.0重量%の鉄であり得る。
【0034】
本発明はまた、加熱部、均熱化部、冷却部を含み、任意に均一化部を含む、溶融めっき鋼基材を製造する方法に関するものでもあり、上記方法は以下のステップを含む。
【0035】
A.本発明に係る化学組成を有する鋼基材の供給、
B.Snからなる被膜の堆積、
C.ステップBで得られた、上記プレめっきされた鋼基材の再結晶化焼鈍であって、以下の下位ステップを含む再結晶化焼鈍、
i.8体積%未満のH2と、露点DP1が-45℃以下である少なくとも1種の不活性ガスとを含む雰囲気A1を有する上記加熱部における、上記プレめっきされた鋼基材の加熱、
ii.30体積%未満のH2と、露点DP2が-45℃以下である少なくとも1種の不活性ガスとを含む雰囲気A2を有する上記均熱化部における、上記鋼基材の均熱化、
iii.上記冷却部における上記鋼基材の冷却、
iv.任意に実施される、上記均一化部における上記鋼基材の均一化
D.亜鉛系又はアルミニウム系の被膜での溶融めっき。
【0036】
いかなる理論にも束縛される意向はないが、雰囲気が8体積%超を含み、及び/又はDPが-45℃を超える場合、薄層部分の還元により再結晶化焼鈍中に水が形成されるように思われる。水が鋼の鉄と反応して、鋼基材を覆う酸化鉄を形成すると考えられる。したがって、選択的酸化を制御しないおそれがあり、ゆえに、選択的酸化物が鋼基材上に連続層の形で存在し、濡れ性を大幅に低下させるおそれがある。
【0037】
好ましくは、ステップB)において、Snからなる被膜は、電気めっき、無電解めっき、セメンテーション、ロールコート又は真空蒸着により堆積される。好ましくは、Sn被膜は電着により堆積される。
【0038】
好ましくは、ステップB)において、Snからなる被膜は、0.6~300mg.m-2の被膜重量を有し、好ましくは6~180mg.m-2、より好ましくは6~150mg.m-2の被膜重量を有する。例えば、Snからなる被膜は、120mg.m-2、より好ましくは30mg.m-2の被膜重量を有する。
【0039】
好ましくは、ステップC.i)において、プレめっきされた鋼基材は周囲温度から700~900℃の温度T1まで加熱される。
【0040】
有利には、ステップC.i)において、不活性ガスと、7%以下、より好ましくは3体積%未満、有利には1体積%以下、より好ましくは0.1体積%以下の量のHを含む雰囲気中で均熱化が行われる。
【0041】
好ましい実施形態では、上記加熱は予熱部を含む。
【0042】
好ましくは、ステップC.ii)において、プレめっきされた鋼基材は、700~900℃の温度T2で均熱化される。
【0043】
例えば、ステップC.ii)において、H2の量は20体積%以下、より好ましくは10体積%以下、有利には3体積%以下である。
【0044】
有利には、ステップC.i)及びC.ii)において、DP1及びDP2は、互いに独立して、-50℃以下であり、より好ましくは-60℃以下である。例えば、DP1とDP2は等しくても異なっていてもよい。
【0045】
好ましくは、ステップC.iii)において、プレめっきされた鋼基材は、T2から、浴温度である400~500℃の温度T3まで冷却される。
【0046】
有利には、上記冷却は、30体積%未満のH2と、露点DP3が-30℃以下である不活性ガスとを含む雰囲気A3において行われる。
【0047】
30体積%未満のH2と、露点DP4が-30℃以下である不活性ガスとを含む雰囲気A4を有する均一化部において、温度T3から400~700℃の温度T4まで、任意に、鋼基材の均一化を行う。
【0048】
好ましくは、ステップC.i)~C.iv)の全ステップにおいて、上記少なくとも1種の不活性ガスは、窒素、アルゴン及びヘリウムから選択される。例えば、再結晶化焼鈍は、直火炉(DFF)とラジアントチューブ炉(RTF)を含む炉、又はフルRTFにおいて行われる。好ましい実施形態では、再結晶化焼鈍はフルRTFにおいて行われる。
【0049】
さらに、本発明は、自動車部品の製造のための、本発明に係る溶融めっき鋼基材の使用に関する。
【0050】
以下、情報提供のみを目的として実施した試験により本発明を説明する。下記試験は限定的なものではない。
【実施例
【0051】
下記の組成を有する下記の鋼板を使用した。
【0052】
【表1】
【0053】
一部の試験材は、電気めっきによりスズ(Sn)をめっきした。次に、窒素を含み任意に水素を含む雰囲気中において、すべての試験材を、温度800℃のフルRTF炉内で1分間、焼鈍した。次に、試験材に亜鉛被膜を溶融亜鉛めっきした。
【0054】
濡れ性を肉眼と光学顕微鏡で分析した。0は、被膜が連続的に堆積していることを意味し、1は、むき出しの箇所が少数観察される場合でも、被膜が鋼板によく密着していることを意味し、2は、むき出しの箇所が多数観察されることを意味し、3は、被膜に大きな非めっき領域が観察されるか、鋼に被膜が存在しなかったことを意味する。
【0055】
そして、鋼材1と4は135°、鋼材6は90°、試験材5は180℃の角度に試料を曲げることにより、被膜密着性を分析した。次いで、粘着テープを試料に貼り付けてから除去して、被膜が剥がれるかどうかを判定した。0は、被膜が剥がれなかったこと、つまり粘着テープに被膜が存在しないことを意味し、1は、被膜の一部が剥がれたこと、つまり被膜の一部が粘着テープに存在することを意味し、2は、被膜の全部又はほぼ全部が粘着テープに存在することを意味する。濡れ性が3であり、鋼材に被膜が存在しない場合、被膜密着性は実施しなかった。
【0056】
結果を以下の表に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
本発明に係るすべての試験材は、高い濡れ性と高い被膜密着性を示している。