(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/2346 20110101AFI20220606BHJP
B60R 21/203 20060101ALI20220606BHJP
B60R 21/261 20110101ALI20220606BHJP
B60R 21/217 20110101ALI20220606BHJP
【FI】
B60R21/2346
B60R21/203
B60R21/261
B60R21/217
(21)【出願番号】P 2020540116
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2019026675
(87)【国際公開番号】W WO2020044793
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018159117
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】森田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】安部 和宏
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-154830(JP,A)
【文献】特開2009-113758(JP,A)
【文献】特開2000-177521(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0073139(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011052321(DE,A1)
【文献】特開2016-088173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/2346
B60R 21/203
B60R 21/261
B60R 21/217
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを噴出するインフレータと、
袋状であって巻回または折り畳まれて車両のステアリングホイールの中央部に収納され前記インフレータからのガスを利用して前記ステアリングホイールと乗員との間で膨張展開するクッションと、
前記クッション内でガスを案内する布製のディフューザとを備え、
前記ディフューザは、
前記インフレータ
を包み少なくともガス噴出孔を有する側面を囲うように設けられた第1基布と、
前記第1基布の
一方の表面上に折り返され重ねられた状態で保持され対向する少なくとも2つの辺によって形成される乗員側の面に設けられた開口部と、
前記第1基布を内包する袋状の第2基布であって、側部に少なくとも1つのガス案内口が設けられた第2基布とを有し、
前記第1基布の開口部の対向する2つの辺は、前記ガスが噴出したとき、引っ張られて乗員に向かって立ち上がり、前記開口部が当初の形状から広がった形状となり、
前記第2基布は、前記開口部からのガスを受けて乗員に向かって膨張展開し前記中央部を開裂させることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記第1基布の前記少なくとも2つの辺が延びる方向における端部は、第1縫製ラインで縫製されることにより、前記開口部が終端するように形成されていることを特徴とする請求項
1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記開口部は、前記対向する2辺によってスリット状に構成されることを特徴とする請求項
1に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
ガスを噴出するインフレータと、
袋状であって巻回または折り畳まれて車両のステアリングホイールの中央部に収納され前記インフレータからのガスを利用して前記ステアリングホイールと乗員との間で膨張展開するクッションと、
前記クッション内でガスを案内する布製のディフューザとを備え、
前記ディフューザは、
前記インフレータの少なくともガス噴出孔を有する側面を囲うように設けられた第1基布と、
前記第1基布の乗員側の面に設けられた開口部と、
前記第1基布を内包する袋状の第2基布であって、側部に少なくとも1つのガス案内口が設けられた第2基布とを有し、
前記第2基布は、前記開口部からのガスを受けて乗員に向かって膨張展開し前記中央部を開裂させ、
前記第1基布は、当該基布の一方の表面上に折り返され重ねられた状態で保持される少なくとも2つの辺を有し、前記開口部は前記少なくとも2つの辺によって形成され、
前記2つの辺は、対向する2辺であり、
前記対向する2辺で形成される開口部は、上下方向に設けられることを特徴とす
るエアバッグ装置。
【請求項5】
ガスを噴出するインフレータと、
袋状であって巻回または折り畳まれて車両のステアリングホイールの中央部に収納され前記インフレータからのガスを利用して前記ステアリングホイールと乗員との間で膨張展開するクッションと、
前記クッション内でガスを案内する布製のディフューザとを備え、
前記ディフューザは、
前記インフレータの少なくともガス噴出孔を有する側面を囲うように設けられた第1基布と、
前記第1基布の乗員側の面に設けられた開口部と、
前記第1基布を内包する袋状の第2基布であって、側部に少なくとも1つのガス案内口が設けられた第2基布とを有し、
前記第2基布は、前記開口部からのガスを受けて乗員に向かって膨張展開し前記中央部を開裂させ、
前記第1基布は、当該基布の一方の表面上に折り返され重ねられた状態で保持される少なくとも2つの辺を有し、前記開口部は前記少なくとも2つの辺によって形成され、
前記2つの辺は、対向する2辺であり、
前記第1基布の上下方向の両端部のそれぞれは、前記開口部を直線部とする矢印形状における先端部の山形の形状部分を描くように、2つの第2縫製ラインで前記第1基布が縫製され該開口部が終端することにより形成されていることを特徴とす
るエアバッグ装置。
【請求項6】
前記第2基布の乗員側の端部は、乗員側に向かって凸状に形成されていることを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記第2基布の乗員側の前記端部は、前記クッションの膨張展開時に前記中央部を開裂して該中央部の外に露出することを特徴とする請求項
6に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記ガス案内口は、上下方向または左右方向の少なくともいずれか一方の対向する2カ所に設けられている請求項1から
7のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記ガス案内口は、前記乗員側の端部よりも前方方向に寄せて設けられていることを特徴とする請求項
6から
8のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記ガス案内口は、ガスを前記ステアリングホイールのリム面側に向けて案内することを特徴とする請求項1から
9のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記ディフューザは、前記第2基布の左右両側に設けられたガス通過孔をそれぞれ有することを特徴とする請求項1から
10のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
前記ディフューザは、前記第2基布の左右両側に設けられた折り目をそれぞれ有することを特徴とする請求項1から
11のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
前記インフレータは、ディスク型であって外周側面に前記ガス噴出孔を有し、
当該エアバッグ装置はさらに、前記インフレータを保持するリテーナーを備え、
前記リテーナーは、
前記第1基布内に配置され前記中央部に固定された平板状のベース面であって、前記インフレータを通す孔部を有するベース面と、
前記ベース面の周囲に立設し、前記インフレータの前記ガス噴出孔よりも高さが低い縦壁とを有することを特徴とする請求項1から
12のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時での乗員保護を目的として膨張展開するクッションを備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、例えば袋状のクッションを備える。クッションは、緊急時にガスによって膨張展開して乗員を受け止め保護する。エアバッグ装置は、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。一例として、主に衝突の衝撃から前部座席の乗員を守るために、運転席にはステアリングの中央にフロントエアバッグが設けられていて、助手席の近傍にはインストルメントパネルやその周辺部位にパッセンジャエアバッグが設けられている。その他には、側面衝突やそれに続いて起こるロールオーバ(横転)から乗員を守るために、車両用シートの側部から乗員のすぐ脇へ膨張展開するサイドエアバッグや、車室内の車体側壁の天井付近からサイドウィンドウに沿って膨張展開するカーテンエアバッグなどが知られている。
【0003】
特許文献1には、助手席前方のインストルメントパネルの部位に搭載されるエアバッグ装置が記載されている。このエアバッグ装置は、エアバッグ(クッション)とディスク型のインフレータを収納保持するケースと、折り畳まれたエアバッグを覆うエアバッグカバーと、リテーナーとを備えている。インフレータは、円柱状の本体部の側面に設けられたガス吐出口から膨張用のガスを吐出する。
【0004】
ケースの底壁部には、インフレータの本体部が挿入される挿入孔が形成されている。リテーナーは、板金から形成されていて、基部とガイド壁部とを有する。基部には、ケースの底壁部の挿入孔に重ねられる略同形の他の挿入孔が形成されている。ガイド壁部は、基部の外周縁からエアバッグカバー側の上方に延びている。リテーナーは、エアバッグ内に配置された状態で挿入孔にインフレータの本体部を通して、エアバッグとインフレータをケースの底壁部に取り付ける。このとき、リテーナーのガイド壁部は、インフレータの本体部のガス吐出口よりも高い位置にあり、膨張展開時にガス吐出口からのガスを受け止めて上方に向ける。
【0005】
またエアバッグ内部には、エアバッグ内に流入するインフレータからのガスの流れを変える整流布(ディフューザ)が配置されている。エアバッグは、ガスを受けてエアバッグカバーを開裂して、インストルメントパネルの外に突出する。インストルメントパネルの外に突出しているエアバッグ内の位置で、整流布は、インストルメントパネルの内部から外部に向かうガスを受けて、ガスの流れを車両前後方向に変更する。
【0006】
特許文献1では、膨張展開時にエアバッグのうちインストルメントパネルの外に突出した部位で、整流布によってガスが一旦受け止められ車両前後方向に流れが変更される。このため、エアバッグの内周面にガスが直接当たらず、エアバッグの基布へのダメージを防止できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで車両に衝突の衝撃が生じ、運転席の乗員が車両前方に移動した場合、乗員の体の部位例えば腹部と頭部がステアリングホイールに衝突する可能性がある。このため、ステアリングホイールの中央に収納されたエアバッグ装置では、膨張展開するクッションによって乗員の特定の部位を保護することが重要となる。
【0009】
特許文献1のエアバッグ装置は、リテーナーのガイド壁部がガスを受け止めて上方に向け、このガスを受けて膨張したエアバッグがインストルメントパネルの外に突出した後、整流布でガスの流れを変更し、エアバッグの基布を保護するものに過ぎない。つまり特許文献1に記載の技術は、膨張展開したエアバッグにより乗員の特定の部位を保護するという観点から、ガスの流れを変更するものではない。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み、衝突時に運転席の乗員が車両前方に移動した場合に、膨張展開するクッションによって乗員の各部位を保護できるエアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明にかかるエアバッグ装置の代表的な構成は、ガスを噴出するインフレータと、袋状であって巻回または折り畳まれて車両のステアリングホイールの中央部に収納されインフレータからのガスを利用してステアリングホイールと乗員との間で膨張展開するクッションと、クッション内でガスを案内する布製のディフューザとを備え、ディフューザは、インフレータの少なくともガス噴出孔を有する側面を囲うように設けられた第1基布と、第1基布の乗員側の面に設けられた開口部と、第1基布を内包する袋状の第2基布であって、側部に少なくとも1つのガス案内口が設けられた第2基布とを有し、第2基布は、開口部からのガスを受けて乗員に向かって膨張展開し中央部を開裂させることを特徴とする。
【0012】
車両に衝突の衝撃が生じ、運転席の乗員が車両前方に移動した場合、乗員の体の部位がステアリングホイールに衝突する可能性がある。そこで本発明では、膨張展開することによって乗員の各部位を保護することが可能なクッションを実現した。
【0013】
すなわち上記構成によれば、膨張展開時、インフレータの側面のガス噴出孔からガスが噴出されると、ディフューザの第1基布に設けられた開口部は、当初の形状から左右に広がった形状となる。これによって、第1基布の開口部の端部が引っ張られ、乗員に向かって立ち上がる。したがって、広がった開口部から噴き出すガスは、上記の端部によって、乗員に向かって案内される。
【0014】
一方、第2基布は、上記のように第1基布の端部によって案内されたガスを受けて膨張し、ステアリングホイールの中央部を開裂して、その外まで到達する。このように、第2基布がステアリングホイールの中央部を開裂して外に出るまでは、迅速にその挙動が実現されるよう、ガスは第1基布によって、乗員に向かって案内されることとなる。
【0015】
なお第2基布がステアリングホイールの中央部を開裂して外に出た後は、ガスは、第2基布の側部に設けられた少なくとも1つのガス案内口を通じて、側部から横方向に向かって案内され、クッション内に供給される。なお横方向とは、例えば上下方向あるいは左右方向などを含み、乗員から見てステアリングホイールを覆うようにクッションが広がる方向をいう。このように、クッションには、ディフューザによってインフレータのガスが最初に横方向に供給されることになる。したがってクッションは膨張展開時に乗員から見てまず横方向に迅速に展開する挙動となる。なおクッション内の位置について、本発明において上下方向、左右方向とは、ステアリングホイールにセットされた状態で、ステアリングホイールを時計に見立てたとき、6時-12時方向を「上下方向」と等価の意味とし、3時-9時方向を「左右方向」と等価の意味とする。
【0016】
上述のように、本発明によれば、車両に衝突の衝撃が生じた場合、一例としてクッションを横方向のうち下方向に優先的に展開させると、乗員の腹部とステアリングとの間にクッションが滑り込むように膨張展開させることができ、乗員の腹部を保護できる。また、クッションを上方向に優先的に展開させると、乗員の頭部とステアリングとの間にクッションが滑り込むように確実に膨張展開させることができ、乗員の頭部を保護できる。なおクッションを上下方向に優先的に展開させ、乗員の頭部と腹部とを保護することもできる。さらに、クッションを左右方向に優先的に展開させることも可能であり、この場合には、クッションは車幅方向に迅速に展開するため、乗員の他の部位を優先的に保護できる。したがって本発明によれば、衝突時に運転席の乗員が車両前方に移動した場合に、膨張展開するクッションによって乗員の各部位を保護することができる。
【0017】
上記の第1基布は、基布の一方の表面上に折り返され重ねられた状態で保持される少なくとも2つの辺を有し、開口部は少なくとも2つの辺によって形成されるとよい。このように、第1基布の少なくとも2辺を折り返して重ねて保持することで、開口部を確実に形成できる。なお第1基布の開口部は、少なくとも2辺を用いて形成できるのであれば、多角形状であってもよい。
【0018】
上記の第1基布の少なくとも2つの辺が延びる方向における端部は、第1縫製ラインで縫製されることにより、開口部が終端するように形成されているとよい。このように、第1基布の端部を縫製するという簡易な構成で開口部を形成できる。
【0019】
上記の2つの辺は、対向する2辺であるとよい。このように、第1基布の開口部は、2辺が接触するほど接近しなくても、対向する2辺を用いて容易に形成できる。
【0020】
上記の開口部は、対向する2辺によってスリット状に構成されるとよい。これにより、第1基布のスリット状の開口部は、インフレータの側面のガス噴出孔からのガスを受けて、当初の細長い形状から左右に広がった形状となる。そして第1基布では、スリット状の開口部の両端近傍が引っ張られ、乗員に向かって確実に立ち上がることができる。
【0021】
上記の対向する2辺で形成される開口部は、上下方向に設けられるとよい。これにより、広がった開口部から噴き出すガスは、開口部の上下端部によって、乗員に向かって案内される。仮に、第2基布の側部に設けられた少なくとも1つのガス案内口も上下方向に設けられていた場合、開口部の上下端部は、このガス案内口を塞ぐように立ち上がるため、これらガス案内口からのガス漏れを軽減し、乗員側に向かって無駄なくガスを噴出する効果がある。
【0022】
上記の第1基布の上下方向の両端部は、対向する2辺に直交する2つの第1縫製ラインで第1基布が縫製され開口部が終端することにより形成されているとよい。これにより、第1基布の上下方向の両端部を簡易に形成することができる。そして第1基布では、ガス噴出孔からのガスを受けて開口部が広がると、上下方向の両端部が乗員に向かって確実に立ち上がることができる。
【0023】
上記の第1基布の上下方向の両端部のそれぞれは、開口部を直線部とする矢印形状における先端部の山形の形状部分を描くように、2つの第2縫製ラインで第1基布が縫製され開口部が終端することにより形成されているとよい。これにより、第1基布の上下方向の両端部では、広がった開口部から噴き出すガスを受けたとき、開口部の両端と第2縫製ラインの間の領域にガスが溜まらないため、乗員に向かって迅速に立ち上がることができる。
【0024】
上記の第2基布の乗員側の端部は、乗員側に向かって凸状に形成されているとよい。この第2基布の端部の凸状によって、第1基布の端部によって案内されたガスが受け止められて、インフレータ側に向かって跳ね返るような挙動を示すことになる。
【0025】
第2基布の乗員側の端部は、クッションの膨張展開時に中央部を開裂して中央部の外に露出するとよい。このようにすれば、第2基布の側部に設けられたガス案内口を、中央部の外に露出させることができ、クッションを横方向に迅速に展開させることができる。
【0026】
上記のガス案内口は、上下方向または左右方向の少なくともいずれか一方の対向する2カ所に設けられているとよい。このように、ガス案内口を上下方向に設けると、クッションを上下方向に優先的に展開させて、乗員の頭部と腹部とを保護できる。またガス案内口を左右方向に設けると、クッションを左右方向に優先的に展開させて、乗員の他の部位を保護できる。
【0027】
上記のガス案内口は、前記乗員側の端部よりも前方方向に寄せて設けられているとよい。これにより、第2基布の乗員側の端部で跳ね返ってきたガスが、ガス案内口によって車両前方方向に案内される。その結果、ガスの大部分は、ステアリングホイールのリム面方向に向かうという挙動を示すことになる。
【0028】
上記のガス案内口は、ガスをステアリングホイールのリム面側に向けて案内するとよい。このように、ディフューザからクッション内に案内されるガスは、中央部よりも高い位置からステアリングホイールのリム面側に向かっている。このため、膨張展開初期においてクッションをより横方向に展開させ、例えば上下方向に展開すると乗員の頭部および腹部とステアリングとの間にクッションを確実に滑り込ませることができる。
【0029】
上記のディフューザは、第2基布の左右両側に設けられたガス通過孔をそれぞれ有するとよい。これにより、膨張展開時に第2基布が受け止めたガスは、2つのガス通過孔から車幅方向にも案内されて、クッション内に供給される。このため、クッションは、ディフューザからのガスにより車幅方向にも展開可能となる。
【0030】
上記のディフューザは、第2基布の左右両側に設けられた折り目をそれぞれ有するとよい。これにより、第2基布は、膨張展開時にガスを受け止めると、左右両側に設けられた折り目が展開して車幅方向にも広がり、より立体的に立ち上がることができる。なお第2基布には、折り目に代えてプリーツを設けてもよい。
【0031】
上記のインフレータは、ディスク型であって外周側面にガス噴出孔を有し、エアバッグ装置はさらに、インフレータを保持するリテーナーを備え、リテーナーは、第1基布内に配置され中央部に固定された平板状のベース面であって、インフレータを通す孔部を有するベース面と、ベース面の周囲に立設し、インフレータのガス噴出孔よりも高さが低い縦壁とを有するとよい。
【0032】
このようにリテーナーは、平板状のベース面を中央部に固定し、ベース面の孔部にインフレータを通すことで、インフレータを保持できる。さらに、リテーナーの縦壁は、ガス噴出孔よりも高さが低い。このため、ガス噴出孔からのガスは、縦壁に遮られることなく、ディフューザの第1基布の上下端部に確実に受け止められる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、衝突時に運転席の乗員が車両前方に移動した場合に、膨張展開するクッションによって乗員の各部位を保護できるエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施形態におけるエアバッグ装置の概要を例示する図である。
【
図2】
図1(a)のエアバッグ装置のA-A断面図である。
【
図3】
図2のディフューザの第1基布を例示する図である。
【
図4】
図2のディフューザの第2基布を例示する図である。
【
図5】
図2のディフューザ全体を例示する図である。
【
図6】
図2に続くディフューザの挙動を例示する図である。
【
図7】
図2のクッションの膨張展開時での挙動を例示する図である。
【
図8】本発明のさらに他の実施形態におけるディフューザを例示する図である。
【
図9】
図8のディフューザの第1基布を例示する図である。
【
図10】
図8のディフューザの挙動を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0036】
なお本発明においては、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称し座標の軸を示すときは前後方向とする。また乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称し座標の軸を示すときは左右方向とする。更に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称し座標の軸を示すときは上下方向とする。そして、以下の説明において用いる図面では、必要に応じて、上述した乗員を基準とした前後左右上下方向を、Front、Back、Left、Right、Up、Downと示す。
【0037】
図1は、本発明の実施形態におけるエアバッグ装置100の概要を例示する図である。エアバッグ装置100は、
図1(a)に示すように、右ハンドル車における前列右側の座席102すなわち運転席用のフロンタルエアバッグとして実施されている。
図1(b)は、エアバッグ装置100のクッション104の膨張展開後での車両を例示した図である。
図2は、
図1(a)のエアバッグ装置100のA-A断面図である。
【0038】
クッション104は、
図1(b)に示すように、膨張展開時に座席102に向かって立体的に膨らむ袋として形成されている。袋状のクッション104は、巻回または折り畳まれて、ステアリングホイール106の中央に設けられた中央部(収納部108)に収納されている。クッション104は、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製または接着することや、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって形成されている。
【0039】
収納部108は、
図2に示すカバー110やその下のハウジング112などを含んで構成されている。収納部108には、クッション104の他に、インフレータ114およびディフューザ116も収納されている。なお
図2ではディフューザ116を概略的に示している。
【0040】
インフレータ114は、ガス発生装置であって、不図示のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して稼働し、クッション104にガスを供給する。インフレータ114は、ディスク型であって円柱状の本体部118と、本体部118の外周側面に設けられたガス噴出孔120とを有する。さらに本体部118の外周には、ハウジング112の底壁122に前方から重ねられるフランジ124が設けられている。
【0041】
図2に示すように収納部108には、クッション104内に配置されたリテーナー126も収納されている。リテーナー126は、インフレータ114を保持する板金製の部材であって、平板状のベース面128と縦壁130とを有する。ベース面128は、インフレータ114の本体部118を通す孔部132を有する。縦壁130は、ベース面128の周囲に立設し、その高さ位置がインフレータ114のガス噴出孔120よりも低くなっている。このため、ガス噴出孔120から噴出されるガスは、リテーナー126の縦壁130に遮られることがない。
【0042】
リテーナー126のベース面128には、ボルト134が取り付けられている。リテーナー126は、ボルト134がナット136と螺合することで、ベース面128とハウジング112の底壁122との間でクッション104およびディフューザ116を固定し、底壁122とナット136との間でインフレータ114のフランジ124を固定する。
【0043】
ハウジング112の底壁122には、インフレータ114を挿通する挿通孔138が形成されている。またハウジング112は、底壁122の周囲に立設した側壁140を有する。側壁140には、カバー110が取り付けられている。
【0044】
収納部108では、
図2に示すようにリテーナー126が底壁122に固定された状態で、孔部132と挿通孔138とが重ねられている。さらに、クッション104の開口部142、ディフューザ116の各貫通孔(後述)も重ねられている。そしてインフレータ114の本体部118は、これらの重ねられた孔部132、挿通孔138、開口部142および各貫通孔に通されてクッション104内に配置されている。
【0045】
ディフューザ116は、インフレータ114からのガスをクッション104内で案内する布製のものであって、第1基布144(
図3参照)と、第1基布144を内包する袋状の第2基布146(
図4参照)とを有する。
【0046】
図3は、
図2のディフューザ116の第1基布144を例示する図である。第1基布144は、乗員側から見た
図3(a)に示すようにリテーナー126を包む袋状であり、より具体的には、上下方向に長手の封筒状になっている。また車両前側から見た
図3(b)に示すように、第1基布144には、インフレータ114の本体部118を通す第1貫通孔148が形成され、第1貫通孔148の周囲にはリテーナー126のベース面128のボルト134が通されている。
【0047】
ベース面128の孔部132および第1基布144の第1貫通孔148には、インフレータ114の本体部118(
図2参照)が通される。このため、第1基布144は、インフレータ114の本体部118も包んだ袋状になっている。さらに第1基布144は、インフレータ114の本体部118の外周側面に設けられたガス噴出孔120を囲うようにも設けられている。
【0048】
また第1基布144は、乗員側の面に設けられ上下方向に延びる開口部(ここではスリット150)を有する。さらに第1基布144は、第1縫製ライン152、154で結合して形成された上端部156、下端部158を有する。第1縫製ライン152、154は、車幅方向に直線状に延びている。すなわち、第1基布144の上下方向の両端部である上端部156、下端部158は、スリット150に直交する2つの第1縫製ライン152、154で第1基布144が縫製され、スリット150が終端することにより形成されている。このため、第1基布144では、スリット150の両端の近傍を含む上端部156、下端部158を簡易に形成できる。
【0049】
ここで
図2の矢印B、Cに示すようにインフレータ114のガス噴出孔120からガスが噴出されると、
図3(a)に示す第1基布144のスリット150は、当初の細長い形状から矢印D、Eに示すようにガスによって左右に広げられる。これによって、第1基布144の上端部156、下端部158は、
図3(a)の矢印F、Gに示すように引っ張られる。その結果、
図3(c)に示すように第1基布144の上端部156、下端部158は、乗員に向かって立ち上がる。したがって第1基布144では、広がったスリット150から噴き出すガスが上端部156、下端部158によって、
図2および
図3(c)の矢印H、Iに示すように乗員に向かって案内される。
【0050】
図4は、
図2のディフューザ116の第2基布146を例示する図である。
図5は、
図2のディフューザ116の全体を例示する図である。
【0051】
第2基布146は、
図4に示すように第2貫通孔160を有する。第2基布146は、第2貫通孔160と第1基布144の第1貫通孔148とを重ねた状態で、
図5(a)に点線で示す第1基布144を内包する袋状となっている。第2基布146は、
図4に示す左右の縁162、164を重ねて縫製することで、
図5(a)に示す頂部166が形成される。ここで頂部166は、乗員側の端部であって、乗員側に向かって凸状に形成されている。なお
図5(b)は、
図5(a)のディフューザ116のJ矢視図である。
【0052】
さらに第2基布146の側部には、横方向(ここでは上下)に所定の2つのガス案内口168、170が設けられている。なお横方向とは、例えば上下方向あるいは左右方向などを含み、
図1(b)に示すように乗員から見てステアリングホイール106を覆うようにクッション104が広がる方向をいう。また2つのガス案内口168、170は、乗員側の端部である頂部166よりも前方方向(すなわち第2基布146の根元側)に寄せて設けられている。
【0053】
図5(b)に示すように第1基布144の上端部156、下端部158は、2つのガス案内口168、170を塞ぐように立ち上がるため、これらガス案内口168、170からのガス漏れを軽減し、乗員に向かって無駄なくガスを噴出できる。これによって、第2基布146は、第1基布144の上端部156、下端部158によって案内されたガスを頂部166で受けて、
図2の矢印Kに示すように膨張する。
【0054】
図6は、
図2に続くディフューザ116の挙動を例示する図である。ディフューザ116では、図中矢印Lのように膨張する第2基布146のうち乗員側に向かって凸状に形成されている頂部166が収納部108のカバー110を開裂する。なおカバー110には、開裂し易いように断面を薄肉化したテアライン172(
図2参照)が設けられている。
【0055】
さらにディフューザ116は、テアライン172を起点にカバー110を開裂した後、収納部108の外すなわちステアリングホイール106のリム面173よりも乗員側に到達する(
図7(a)参照)。このようにディフューザ116では、第2基布146がカバー110を開裂して外に出るまでは、迅速にその挙動が実現されるよう、ガスが第1基布144によって、乗員に向かって案内される。
【0056】
第2基布146は、収納部108の外に出た後、2つのガス案内口168、170を収納部108の外に露出させる。これによりガスは、
図5(a)および
図6の矢印M、Nに示すように第2基布146の頂部166で受け止められた後、第2基布146の上下に設けられた2つのガス案内口168、170を通じて、上下方向に向かって案内され、クッション104内に供給される。
【0057】
図7は、
図2のクッション104の膨張展開時での挙動を例示する図である。クッション104には、
図7(a)に示すようにディフューザ116の第2基布146のガス案内口168、170によって、インフレータ114のガスが最初に上下方向に供給されることになる。さらにガスは、
図7(a)の矢印M、Nに示すように、ガス案内口168、170によって収納部108よりも乗員側の位置から上下方向さらには、ステアリングホイール106のリム面173の側に向かって案内される。
【0058】
このためクッション104は、
図7(a)および
図7(b)に二点鎖線で示すように、まず上下方向に展開し(矢印O、P参照)、その後、
図7(b)に実線で示すように車幅方向に展開することになる。なお
図7(b)は、膨張展開時に乗員から見たクッション104の挙動を例示している。
【0059】
そして、クッション104は、
図7(a)に示すようにラッパ状の回転体の形状となって、乗員の頭部174とステアリングホイール106との間、および腹部176とステアリングホイール106との間に滑り込むように膨張展開する。
【0060】
したがってエアバッグ装置100によれば、車両に衝突の衝撃が生じ、運転席の乗員が車両前方に移動した場合、クッション104が上下方向に優先的に展開するため、膨張展開するクッション104によって乗員の頭部174と腹部176とを保護できる。
【0061】
ここでエアバッグ装置100では、クッション104を上下方向に優先的に展開させるため、ディフューザ116の第2基布146の上下にガス案内口168、170を設けるようにしたが、これに限定されない。一例として、第2基布146にガス案内口170のみを設けると、クッション104を下方向に優先的に展開させて、乗員の腹部176を迅速に保護できる。また、第2基布146にガス案内口168のみを設けると、クッションを上方向に優先的に展開させて、乗員の頭部174を迅速に保護できる。さらに、第2基布146の左右にガス案内口を設けてもよく、この場合には、クッション104を左右方向に優先的に展開させて、乗員の他の部位を優先的に迅速に保護できる。このように、エアバッグ装置100では、ディフューザ116の第2基布146の側部に、少なくとも1つのガス案内口を設けてガスを横方向に案内することで、膨張展開するクッション104によって乗員の各部位を保護できる。
【0062】
図8は、本発明のさらに他の実施形態におけるディフューザ116Aを例示する図である。
図9は、
図8のディフューザ116Aの第1基布144Aを例示する図である。
図10は、
図8のディフューザ116Aの挙動を例示する図である。
【0063】
ディフューザ116Aは、第1基布144Aと、第1基布144Aを内包する第2基布146Aとを備える。第1基布114Aは、上端部156A、下端部158Aがジグザグ状の第2縫製ライン152A、154Aで結合され形成されている点で、ディフューザ116の第1基布144と異なる。
【0064】
第2縫製ライン152A、154Aは、
図9(a)および
図9(b)に示すように、開口部(ここではスリット150A)の両端178、180の左右方向(車幅方向)中央が最も両端178、180に接近していて、この両端178、180から遠ざかるほど末広がりに延びて左右方向の端部に到達している。すなわち、第1基布144Aの上下方向の両端部である上端部156A、下端部158Aのそれぞれは、スリット150Aを直線部とする矢印形状における先端部の山形の形状部分を描くように、2つの第2縫製ライン152A、154Aで第1基布144Aが縫製され、スリット150Aが終端することにより形成されている。
【0065】
このため、第1基布144Aの上端部156A、下端部158Aでは、
図9(c)に示すように広がったスリット150Aから噴き出すガスを受けたとき、スリット150Aの両端178、180と第2縫製ライン152A、154Aの間の各領域182a、182b、182c、182dにガスが溜まらない。このため、第1基布144Aの上端部156A、下端部158Aは、乗員に向かって迅速に立ち上がり、図中の矢印H、Iに示すようにガスを乗員に向かって案内できる。
【0066】
第2基布146Aは、
図8(a)に示すように、左右両側にガス通過孔184、186と、2つの折り目188、190および折り目192、194とが設けられている点で、ディフューザ116の第2基布146と異なる。なお第2基布146Aでは、これらの折り目に代えて、プリーツを設けてもよい。
【0067】
このため、膨張展開時に第2基布144Aが受け止めたガスは、
図8(a)の矢印M、Nに示すように上下方向の2つのガス案内口168、170から上下方向に向かって案内されるだけでなく、矢印S、Tに示すようにガス通過孔184、186から車幅方向にも案内されて、クッション104内に供給される。このため、クッション104は、
図10(b)の鎖線に示すように展開初期においてディフューザ116Aからのガスにより上下方向だけでなく車幅方向にも展開可能となる。
【0068】
また第2基布146Aは、膨張展開時にガスを受け止めると、左右両側に設けられた折り目188、190、192、194が展開して車幅方向にも広がる。このためディフューザ116Aは、
図10(a)に示すように、より立体的に立ち上がることができる。なお折り目188、190、192、194は、第2基布146Aに形成された位置合わせ部196、198を基準にして第2基布146Aを折り重ねて縫製することで容易に形成可能である。
【0069】
このようなディフューザ116Aをエアバッグ装置100に適用した場合であっても、クッション104は、
図10(b)の鎖線に示すように、まず上下方向に展開し(矢印O、P参照)、その後、車幅方向に展開することになる。したがって、ディフューザ116Aを適用したエアバッグ装置100によれば、衝突時に運転席の乗員が車両前方に移動した場合、クッション104が上下方向に優先的に展開するため、膨張展開するクッション104によって
図7に示す乗員の頭部174と腹部176とを保護できる。
【0070】
図11は、
図3および
図9の第1基布144、144Aの変形例を例示する図である。なお以下に示す各変形例の第1基布144B、144C、144Dでは、リテーナー126を省略して示しているため、第1貫通孔148が露出した状態となっている。
【0071】
図11(a)に示す第1基布144Bは、2つの辺202、204を有する。この2つの辺202、204は、第1基布144Bの一方の表面上に折り返され重ねられた状態で縫製によって保持されて、さらに互いに対向して開口部150Bを形成している。そして2つの辺202、204は、接触するほど接近していないため、開口部150Bがスリット状にはなっていない。
【0072】
2つの辺202、204が延びる方向(ここでは上下)における端部156B、157B、158B、159Bは、対向する2辺202、204に直交する縫製ライン152B、153B、154B、155Bで縫製されている。このような縫製により、開口部150Bが終端している。つまり第1基布144Bでは、端部156B、157B、158B、159Bを縫製するという簡易な構成で2辺からなる開口部150Bを形成できる。
【0073】
ここでインフレータ114のガス噴出孔120からガスが噴出されると(
図2参照)、
図11(a)の第1基布144Bの開口部150Bは、矢印D、Eに示すようにガスによって左右に広げられる。これによって、第1基布144Bの端部156B、157B、端部158B、159Bは、
図11(a)の矢印F、Gに示すように引っ張られ、乗員に向かって立ち上がる。したがって第1基布144Bでは、広がった開口部150Bから噴き出すガスを乗員側に向かって案内できる。
【0074】
図11(b)に示す第1基布144Cは、3つの辺206、208、210を有する。この3つの辺206、208、210は、第1基布144Cの一方の表面上に折り返され重ねられた状態で縫製によって保持されて、開口部150Cを形成している。
【0075】
3つの辺206、208、210が延びる方向で交差して形成される3つの端部156C、157C、158Cは、図示のように3辺のうち2辺を重ねて保持するように縫製ライン152C、153C、154Cで縫製されている。このような縫製により、開口部150Cが終端している。つまり第1基布144Cでは、3つの端部156C、157C、158Cを縫製するという簡易な構成で3辺からなる開口部150Cを形成できる。
【0076】
ここでインフレータ114のガス噴出孔120からガスが噴出されると、
図11(b)の第1基布144Cの開口部150Cは、矢印D、Ea、Ebに示すようにガスによって広げられる。これによって、第1基布144Cの3つの端部156C、157C、158Cは、
図11(b)の矢印F、G、Uに示すように引っ張られ、乗員に向かって立ち上がる。したがって第1基布144Cでは、広がった開口部150Cから噴き出すガスを乗員側に向かって案内できる。
【0077】
図11(c)に示す第1基布144Dは、4つの辺212、214、辺216、218を有する。この4つの辺212、214、辺216、218は、第1基布144Dの一方の表面上に折り返され重ねられた状態で縫製によって保持されて、さらに互いに対向して開口部150Dを形成している。そして4つの辺212、214、辺216、218は、接触するほど接近していないため、開口部150Dがスリット状にはなっていない。
【0078】
4つの辺212、214、辺216、218が延びる方向(ここでは上下左右)における端部156D、157D、158D、159Dは、図示のように4辺のうち2辺を重ねて保持するように縫製ライン152D、153D、154D、155Dで縫製されている。このような縫製により、開口部150Dが終端している。つまり第1基布144Dでは、端部156D、157D、158D、159Dを縫製するという簡易な構成で4辺からなる開口部150Dを形成できる。
【0079】
ここでインフレータ114のガス噴出孔120からガスが噴出されると、
図11(c)の第1基布144Dの開口部150Dは、矢印D、Eに示すようにガスによって左右に広げられる。これによって、第1基布144Dの端部156D、157D、158D、159Dは、
図11(c)の矢印F、Gに示すように引っ張られ、乗員に向かって立ち上がる。したがって第1基布144Dでは、広がった開口部150Dから噴き出すガスを乗員側に向かって案内できる。
【0080】
このように第1基布144B、144C、144Dの開口部150B、150C、150Dは、それぞれ2辺、3辺、4辺からなる形状を有している。しかしこれに限られず、インフレータ114のガス噴出孔120からのガスを乗員側に向かって案内できるのであれば、第1基布の開口部は、さらに他の多角形状を有してもよい。
【0081】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0082】
また、上記実施形態においては本発明にかかるエアバッグ装置を自動車に適用した例を説明したが、自動車以外にも航空機や船舶などに適用することも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、緊急時での乗員保護を目的として膨張展開するクッションを備えたエアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
100…エアバッグ装置、102…座席、104…クッション、106…ステアリングホイール、108…収納部、110…カバー、112…ハウジング、114…インフレータ、116、116A…ディフューザ、118…本体部、120…ガス噴出孔、122…ハウジングの底壁、124…インフレータのフランジ、126…リテーナー、128…ベース面、130…リテーナーの縦壁、132…ベース面の孔部、134…ボルト、136…ナット、140…ハウジングの側壁、142…クッションの開口部、144、144A144B、144C、144D…第1基布、146、146A…第2基布、148…第1貫通孔、150、150A…スリット、150B、150C、150D…開口部、152、154…第1縫製ライン、152A、154A…第2縫製ライン、156、156A…第1基布の上端部、158、158A…第1基布の下端部、152B、152C、152D、153B、153C、153D、154B、154C、154D、155B、155D…縫製ライン、156B、156C、156D、157B、157C、157D、158B、158C、158D、159B、159D…第1基布の各端部、160…第2貫通孔、162、164…第2基布の縁、166…頂部、168、170…ガス案内口、172…テアライン、173…リム面、174…頭部、176…腹部、178、180…スリットの両端、182a、182b、182c、182d…第1基布の領域、184、186…ガス通過孔、188、190、192、194…折り目、196、198…位置合わせ部、202、204、206、208、210、212、214、216、218…第1基布の各辺